(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】カカオ製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/32 20060101AFI20230620BHJP
A23G 9/32 20060101ALI20230620BHJP
A23G 1/02 20060101ALI20230620BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20230620BHJP
C11B 1/10 20060101ALI20230620BHJP
C11B 9/02 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
A23G1/32
A23G9/32
A23G1/02
C11B9/00 S
C11B9/00 W
C11B1/10
C11B9/02
(21)【出願番号】P 2022026158
(22)【出願日】2022-02-22
【審査請求日】2022-04-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】溝田 年伸
(72)【発明者】
【氏名】飯原 美穂
(72)【発明者】
【氏名】河本 政人
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201588(JP,A)
【文献】特開平07-079749(JP,A)
【文献】特開2003-274875(JP,A)
【文献】特表2021-511777(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150409(WO,A1)
【文献】特表2002-541831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23G、C11B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱済みカカオ原料から得られるカカオ抽出分と、
加熱済みカカオ原料に含まれる不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分と、を含み、
カカオ製品中の全固形分に対する前記不溶性食物繊維の含有量が、10~35質量%であ
り、
前記カカオ抽出分中の可溶性固形分と、前記不溶性食物繊維の質量比が、2:1~8:1である、カカオ製品。
【請求項2】
加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの含有比率が、2~10質量%である、請求項1に記載のカカオ製品。
【請求項3】
加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量が、400~2300ppbである、請求項1又は2に記載のカカオ製品。
【請求項4】
加熱済みカカオ原料由来の香気成分における、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量と、ピラジン類の含有量の含有比率が、7:1~1:3である、請求項1~3の何れか一項に記載のカカオ製品。
【請求項5】
加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対するピラジン類の含有比率が、15%質量以下である、請求項1~4の何れか一項に記載のカカオ製品。
【請求項6】
以下に示す条件でのGC-MSによる測定において、リテンションタイムの後半として65%以上の間にある香気成分の合計量の割合が、前記GC-MS測定のトータルピーク面積に対して20%以上である、請求項1~5の何れか一項に記載のカカオ製品。
<GC-MS測定条件>
機器: Agilent 7890B & 5977A
カラム: DB-Wax (0.25 mm i.d. ×60 m, film th
ickness 0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/分)
温度:80℃‐230℃、3℃/分
インレット:250℃、スプリット比30:1
インジェクション量:1μL
検出器:MS
【請求項7】
水分量が60質量%以下である、請求項1~
6の何れか一項に記載のカカオ製品。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか一項に記載のカカオ製品を、他の食品原料とあわせて加工し食品を製造することを含む、食品の製造方法。
【請求項9】
加熱済みカカオ原料から
第1のカカオ抽出分を得る
第1の抽出工程と、
前記第1の抽出工程の抽出残渣又は、前記第1の抽出工程で用いたものとは異なる加熱済みカカオ原料を、前記第1の抽出工程で用いた抽出溶媒とは異なる抽出溶媒により抽出し、第2のカカオ抽出分を得る第2の抽出工程と、
不溶性食物繊維を含み、前記第1の抽出工程で得られた抽出残渣及び前記第2の抽出工程で得られた抽出残渣の少なくとも何れかであるカカオ非抽出分を得るカカオ非抽出分準備工程と、
前記第1のカカオ抽出分と、前記第2のカカオ抽出分と、前記カカオ非抽出分を含む、カカオ製品を得ることを含む、カカオ製品の製造方法。
【請求項10】
前記
第1の抽出工程及び前記
第2の抽出工程は、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程又は熱水を抽出溶媒とする抽出工程である、請求項
9に記載のカカオ製品の製造方法。
【請求項11】
加熱済みカカオ原料から
第1のカカオ抽出分を得る
第1の抽出工程と、
前記第1の抽出工程の抽出残渣又は、前記第1の抽出工程で用いたものとは異なる加熱済みカカオ原料を、前記第1の抽出工程で用いた抽出溶媒とは異なる抽出溶媒により抽出し、第2のカカオ抽出分を得る第2の抽出工程と、
前記第1の抽出工程及び前記第2の抽出工程で用いたものとは異なる加熱済みカカオ原料から不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を得る非抽出分準備工程と、
前記第1のカカオ抽出分と、前記第2のカカオ抽出分と、前記カカオ非抽出分と、を含むカカオ製品を得ることを含む、カカオ製品の製造方法。
【請求項12】
前記非抽出分準備工程は、不溶性食物繊維を軟化処理し、軟化した不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を得る軟化処理工程を含む、請求項
9~11の何れか一項に記載のカカオ製品の製造方法。
【請求項13】
前記軟化処理工程は、加圧処理及び/又は水の存在下での加熱処理を含む、請求項
12に記載のカカオ製品の製造方法。
【請求項14】
前記
第1の抽出工程は、加熱済みカカオ原料としてカカオニブを用いて、アルコールによる抽出を行い、アルコールカカオ抽出分を得ることを含み、
前記
第2の抽出工程は、前記
第1の抽出工程で得られた抽出残渣に対して熱水による抽出を行い、熱水カカオ抽出分を得ることを含み、
前記非抽出分準備工程は、前記
第1の抽出工程及び
第2の抽出工程でそれぞれ得られたアルコールカカオ抽出分及び熱水カカオ抽出分に、さらに加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを混合して得られた混合物を加圧処理する軟化処理工程を含む、請求項
9~11の何れか一項に記載のカカオ製品の製造方法。
【請求項15】
前記
第1の抽出工程は、加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを用いて、熱水を用いて抽出を行い、熱水カカオ抽出分と抽出残渣の共存物を得ることを含み、
前記
第2の抽出工程は、前記第1の抽出工程で得られた熱水カカオ抽出分と抽出残渣の共存物に対してアルコールによる抽出を行い、熱水カカオ抽出分とアルコールカカオ抽出分と抽出残渣の共存物を得ることを含み、
前記非抽出分準備工程は、加熱済みカカオ原料を水の存在下で加熱処理する軟化処理工程を含み、
前記
第1の抽出工程は、前記非抽出分準備工程を兼ねる、請求項
9~11の何れか一項に記載のカカオ製品の製造方法。
【請求項16】
前記非抽出分準備工程は、前記熱水カカオ抽出分とアルコールカカオ抽出分と抽出残渣の混合物を、加圧処理及び/又は水の存在下で加熱処理する軟化処理工程をさらに含む、請求項
15に記載のカカオ製品の製造方法。
【請求項17】
前記抽出工程で得られた前記カカオ抽出分と前記非抽出分準備工程で得られた前記カカオ非抽出分の共存物を加熱し濃縮する、加熱濃縮工程を含む、請求項
9~16の何れか一項に記載のカカオ製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱済みカカオ原料を加工して得られるカカオ製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製菓分野において、カカオ風味を付与するためのカカオ原料として、ココアパウダーが利用されている。
【0003】
また、少量でカカオ風味を付与するために、加熱済みカカオ原料を抽出して得られるカカオ由来香料(カカオエキス)も広く利用されている。
例えば、特許文献1には、エチルアルコール又はエチルアルコール水溶液を含む、超臨界状態の炭酸ガスを用いてカカオ香味成分を抽出する方法が記載されている。
また特許文献2には、カカオ原料にエチルアルコール水溶液または水を添加した後、液化炭酸ガスを用いて抽出し、次に抽出物を凍結して水相を分離することを特徴とする、カカオ原料から水溶性香味成分を抽出する方法が記載されている。
【0004】
また、栄養成分を強化したカカオ抽出物も知られている。例えば特許文献3には、カカオ豆を凍結乾燥し、脱パルプ化、脱穀及び粉砕する工程を経て得たカカオ豆粉末を脱脂し、脱脂されたカカオ豆粉末からカカオポリフェノール類を抽出することにより得られる、プロシアニジンが強化されたカカオ抽出物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-112965号公報
【文献】特開平10-179078号公報
【文献】米国特許公報第5,554,645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、消費者の高級志向・本物志向の高まりから、カカオ風味を存分に味わえるアイスクリームやケーキなどの洋菓子、ドリンク類などの食品が人気である。
【0007】
このような背景で、カカオ感を増強するために、ココアパウダーの使用量を増やしたり、ココアパウダーに加え香料を使用したりすることが一般的に行われてきた。
【0008】
ところで、良好なカカオ感には、カカオらしい華やかな甘い香りを呈する香気成分のみならず、複雑味、コクを呈する脂質、糖類、アミノ酸、渋み成分、苦み成分、酸味成分等他の成分もまた重要である。
従来のココアパウダーは、加熱済みカカオ豆に含まれる香気成分や呈味成分を包含するものであるが、これを食品原料として使用した場合には、カカオらしい香気が十分に際立ちにくく、使用量を増やすと、酸味、渋み、苦みの原因となることがある。
また、香料は、華やかな甘い香りを増強するためには有用であるが、加熱済みカカオ原料が有する他の呈味成分の調整には使用しにくい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カカオ感を食品に付与できる新規なカカオ製品及びその製造方法、並びに当該カカオ製品を含む食品を提供することを、課題とする。
具体的には、加熱済みカカオ原料に本来含まれる成分を余すことなく包含しつつ、カカオらしい香気が際立つカカオ製品及びその製造方法、並びに当該カカオ製品を含む食品を提供することを、課題とする。
【0010】
上記課題を解決する本発明は、加熱済みカカオ原料から得られるカカオ抽出分と、加熱済みカカオ原料に含まれる不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分と、を含む、カカオ製品である。
本発明のカカオ製品は、加熱済みカカオ原料に含まれる不溶性食物繊維の組織から、香気成分、呈味成分が抽出された状態(組織の外に存在していて、風味を感じやすい状態)で含まれている。そして、同時に、前記抽出された香気成分、呈味成分以外の成分は、不溶性食物繊維の組織に保持された状態で含まれている。
そのため、本発明のカカオ製品は、全体として、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含しつつ、香り高い新規なカカオ製品を提供することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記カカオ製品中の全固形分に対する前記不溶性食物繊維の含有量は、10~35質量%である。
本発明によれば、カカオ感を食品に付与できる、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの含有比率が、2~10質量%である。
また本発明の好ましい形態では、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量が、400~2300ppbである。
本発明によれば、濃厚なカカオ感を食品に付与できる、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、加熱済みカカオ原料由来の香気成分におけるエチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計と、ピラジン類との含有比率が、7:1~1:3である。
また本発明の好ましい形態では、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対するピラジン類の含有比率が、15質量%以下である。
本発明によれば、ピラジン類特有の焦げ感や苦味が目立ちすぎることなく適度なロースト香りを生み、全体として濃厚なカカオ感を付与できる、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、以下に示す条件でのGC-MSによる測定において、リテンションタイムの後半として65%以上の間にある香気成分の合計量の割合が、前記GC-MS測定のトータルピーク面積に対して20%以上である。
<GC-MS測定条件>
機器: Agilent 7890B & 5977A
カラム: DB-Wax (0.25 mm i.d. ×60 m, film thickness 0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/分)
温度:80℃‐230℃、3℃/分
インレット:250℃、スプリット比30:1
インジェクション量:1μL
検出器:MS
本発明によれば、カカオ感や、カカオの好ましい呈味や香気を食品に付与することができる新規なカカオ製品を提供することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、カカオ抽出分中の可溶性固形分と、前記不溶性食物繊維の質量比が、1:1~10:1である。
本発明によれば、カカオ感や、カカオの好ましい呈味や香気を食品に付与することができる、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、水分量が60質量%以下である。
カカオ製品中の水分が多いと、カカオ感を得るために多くのカカオ製品を添加する必要がある。
一方で本発明によれば、少量の使用でもカカオ感を食品に付与することができる、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0017】
上記課題を解決する本発明は、上記した何れかのカカオ製品を含む、食品である。
本発明によれば、濃厚なカカオ感や、好ましいカカオの呈味や香気を感じることができる食品を提供することができる。
【0018】
上記課題を解決する本発明は、加熱済みカカオ原料からカカオ抽出分を得る抽出工程と、加熱済みカカオ原料から不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を得る非抽出分準備工程と、を行うことにより、前記カカオ抽出分と前記カカオ非抽出分と、を含むカカオ製品を得ることを含む、カカオ製品の製造方法である。
本発明のカカオ製品の製造方法によれば、加熱済みカカオ原料に含まれる不溶性食物繊維の組織から、香気成分、呈味成分などを抽出することができ、不溶性食物繊維の組織外に存在する状態でカカオ製品に含ませることができる。同時に、抽出されない香気成分、呈味成分も不溶性食物繊維の組織に保持された状態でカカオ製品に含ませることができる。
そのため、本発明のカカオ製品の製造方法によれば、全体として、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含し、香り高い、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記抽出工程は、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程と、熱水を抽出溶媒とする抽出工程とを含み、先の前記抽出工程で得た前記加熱済みカカオ原料の抽出残渣を、前記先の抽出工程で用いた抽出溶媒とは異なる抽出溶媒による後の前記抽出工程に供する。
異なる抽出溶媒を用いて、抽出残渣に対して抽出操作を行うことにより、先の抽出工程では加熱済みカカオ原料から抽出しきれなかった成分を、後の抽出工程において抽出することができる。よって本発明によれば、カカオ感を食品に付与することができる新規なカカオ製品を製造することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記非抽出分準備工程は、不溶性食物繊維を軟化し、軟化した不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を得る軟化処理工程を含む。
本発明のより好ましい形態では、前記軟化処理工程は、加熱済みカカオ原料の組織を加圧処理する工程及び/又は水の存在下で加熱処理する工程を含む。
軟化処理工程を含むことにより、不溶性食物繊維の組織中に存在する香気成分、呈味成分に起因するカカオの呈味を感じやすい状態にすることができる。よって本発明によれば、カカオ感を食品に付与することができる新規なカカオ製品を製造することができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、カカオ非抽出分は、前記抽出工程の抽出残渣として得られ、前記カカオ製品は、前記カカオ抽出分と前記カカオ非抽出分の共存物として得られる。
本発明によれば、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含しつつも、香り高い、新規なカカオ製品を提供することができる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記先の抽出工程は、加熱済みカカオ原料としてカカオニブを用いて、アルコールによる抽出を行い、アルコールカカオ抽出分を得ることを含み、前記後の抽出工程は、前記先の抽出工程で得られた抽出残渣に対して熱水による抽出を行い、熱水カカオ抽出分を得ることを含み、前記非抽出分準備工程は、前記先の抽出工程及び後の抽出工程でそれぞれ得られたアルコールカカオ抽出分及び熱水カカオ抽出分に、さらに加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを混合して得られた混合物を加圧処理する軟化処理工程を含む。
【0023】
本発明の別の好ましい形態では、前記先の抽出工程は、加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを用いて、熱水を用いて抽出を行い、熱水カカオ抽出分と抽出残渣の共存物を得ることを含み、前記後の抽出工程は、前記先の抽出工程で得られた熱水カカオ抽出分と抽出残渣の共存物に対してアルコールによる抽出を行い、熱水カカオ抽出分とアルコールカカオ抽出分と抽出残渣の共存物を得ることを含み、前記非抽出分準備工程は、加熱済みカカオ原料を水の存在下で加熱処理する工程を含み、前記先の抽出工程は、前記非抽出分準備工程を兼ねる。
より好ましい形態では、前記非抽出分準備工程は、前記熱水カカオ抽出分とアルコールカカオ抽出分と抽出残渣の混合物を、加圧処理及び/又は水の存在下で加熱処理する軟化処理工程をさらに含む。
本発明によれば、加熱済みカカオ原料から溶媒抽出可能な香気成分、呈味成分等を含み、かつ、不溶性食物繊維の組織中に存在する香気成分、呈味成分等をも含むことにより、全体として良好なカカオ感を食品に付与することができるカカオ製品を製造することができる。すなわち本発明によれば、良好なカカオ感を食品に付与することができる新規なカカオ製品を製造することができる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、さらに、前記抽出工程で得られたカカオ抽出分と前記非抽出分準備工程で得られた前記カカオ非抽出分の共存物を加熱し含有成分を濃縮する、濃縮工程を含む。
本発明によれば、少量の使用でもカカオ感やカカオの呈味を食品に付与できるカカオ製品を製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、カカオ感を食品に付与できる新規なカカオ製品及びその製造方法、並びに当該カカオ製品を含む食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の製造方法において、加熱済みカカオ原料としてカカオニブを使用する場合の形態を表す図である。
【
図2】本発明の製造方法において、加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを使用する場合の形態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明において、「加熱済みカカオ原料」とは、カカオ豆から得られる食品原料であって、実質的にカカオ由来の成分からなる、加熱済みの食品原料をいう。
具体的には、加熱済みカカオ原料は、カカオ豆に対し、ロースト(焙煎)及び、粉砕又は脱脂のうち少なくとも一つの加工を行って得られる食品原料を含み、焙煎済みカカオ豆、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダー、ココアバターを含む。
カカオ抽出分の原料となる加熱済みカカオ原料としては、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダー又はココアバターから選ばれる。
また、カカオ非抽出分の原料となる加熱済みカカオ原料としては、カカオニブ、カカオマス又はココアパウダーから選ばれる。
【0028】
本発明に係るカカオ製品は、チョコレート風味やカカオ風味の食品の製造時に添加するためのものである。ただし、それ自体を食しても問題はない。また本発明に係るカカオ製品は、希釈せずに食品に添加することもできるし、希釈して食品に添加することもできる。
また本発明に係るカカオ製品の性状は特に限定されず、ペースト状、液体(又は懸濁液)状、シロップ状、フレーク状、粉末状等、適当な性状とすることができる。
【0029】
1.カカオ製品及びこれを含む食品
本発明に係るカカオ製品は、加熱済みカカオ原料から得られるカカオ抽出分と、加熱済みカカオ原料に含まれる不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を含む。
本発明は、他の食品原料とあわせて加工し食品を製造することで、カカオ感を食品に付与することができる。
【0030】
カカオ抽出分は、抽出操作によって、加熱済みカカオ原料から抽出される部分、すなわち、抽出溶媒に溶出する部分をいう。例えば、カカオ抽出分としては、加熱済みカカオ原料を水(好ましくは熱水)抽出して得られる抽出分(水カカオ抽出分)や、加熱済みカカオ原料をアルコール抽出して得られる抽出分(アルコールカカオ抽出分)を例示することができる。
【0031】
好ましくは、カカオ抽出分は、水カカオ抽出分及びアルコールカカオ抽出分を含む。
抽出溶媒の異なるカカオ抽出分を含むことによって、水により抽出される成分とアルコールにより抽出される成分の両方を含むカカオ製品とすることができる。すなわち本発明によれば、多種類の加熱済みカカオ原料由来の成分を含むカカオ製品とすることができる。
アルコールカカオ抽出分は、食品原料の抽出操作に用いることができるアルコール類又はこれらと水の混合物によって抽出されたカカオ抽出分である。アルコールによるカカオ抽出分は、アルコールは含水量が低い(すなわち、アルコール濃度の高い)ものを使用して得たものであることが好ましい。具体的には、アルコール濃度が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることがさらにより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
例えばアルコールカカオ抽出分は、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の低級アルコール又はこれらと水の混合物によって抽出されたカカオ抽出分である。
なお本発明において、低級アルコールとは、炭素数が5以下のアルコールを指し、一価アルコールでも多価アルコールでもよい。
【0032】
カカオ抽出分が水カカオ抽出分とアルコールカカオ抽出分を含む場合、両者は別の加熱済みカカオ原料から抽出されてもよく、一方を得た後の抽出残渣から他方を得てもよい。
ここで、「別の加熱済みカカオ原料から抽出される」とは、加熱済みカカオ原料から水カカオ抽出分を得るとともに、これとは異なる(水カカオ抽出分の抽出残渣でない)加熱済みカカオ原料からアルコールカカオ抽出分を得ることをいう。
「一方を得た後の抽出残渣から他方を得る」とは、水カカオ抽出分を得た後の抽出残渣をアルコール抽出して、アルコールカカオ抽出分を得ること(又はその逆)を言う。この場合、後に抽出する抽出分は、先に抽出する抽出分とは異なる抽出溶媒を使用して抽出することが、食品に濃厚なカカオ感を付与する観点で好ましい。
さらに、加熱済みカカオ原料の一方の抽出溶媒による抽出分と、加熱済みカカオ原料の抽出残渣の共存物を、他方の抽出溶媒を用いてさらに抽出して得られた抽出分の両方を含んでいてもよい。
前記「共存物」は、前記抽出分を得るための抽出操作の後、抽出分と抽出残渣を分離せずに得てもよいし、これらを分離した後混合して得てもよい。
【0033】
水カカオ抽出分は、熱水カカオ抽出分である。ここで「熱水」とは、75℃以上の水、好ましくは80℃以上の水、より好ましくは85℃以上の水、さらに好ましくは90℃以上の水であり、熱水カカオ抽出分は、水を抽出溶媒として得られる水カカオ抽出分のうち、特に熱水を抽出溶媒として得られるカカオ抽出分である。
【0034】
カカオ製品中のカカオ抽出分の含有量は、全固形分に対して20~100質量であることが好ましく、30~80質量%であることが好ましく、35~70質量%であることがさらに好ましく、37.5~62.5%であることがさらにより好ましい。
カカオ製品中のカカオ抽出分の含有量を上記数値範囲とすることで、後述する、不溶性食物繊維を含む加熱済みカカオ原料の組織に存在する不溶性の呈味成分とのバランスがとれ、好ましいカカオ感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
なお本発明においては、カカオ製品のブリックスを、カカオ製品中の可溶性固形分の含有量とみなす。カカオ製品のブリックス(°Bx)の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
また、カカオ製品中に、水カカオ抽出分とアルコールカカオ抽出分を含む場合、両者の合計が上記した数値範囲内にあればよい。
【0035】
カカオ非抽出分は、抽出操作によっては加熱済みカカオ原料から抽出されない部分をいい、カカオ豆の組織を構成する不溶性食物繊維や、不溶性食物繊維に保持されている、カカオ感やカカオの香気や呈味に寄与する各種成分、例えば、脂質、タンパク質、灰分等が含まれる。
上記の通り、不溶性食物繊維の組織には、抽出操作によって抽出されないカカオ感やカカオの呈味に寄与する香気成分、呈味成分が存在する。
よって本発明によれば、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を含むことにより、カカオ組織に存在する香気成分、呈味成分に由来するカカオ感やカカオの呈味を十分に感じることができ、濃厚なカカオ感を食品に付与できる。
カカオ非抽出分としては、カカオ抽出分を得たのちに得られる抽出残渣を用いることが好ましい形態として挙げられるが、これに限定されず、抽出に供する加熱済みカカオ原料とは別の加熱済みカカオ原料から得られるものであってもよい。
【0036】
カカオ製品中の全固形分に対する不溶性食物繊維の含有量は、10~35質量%であることが好ましく、12~32質量%であることが好ましく、12~30質量%であることがより好ましく、15~27質量%であることがより好ましく、18~25質量%であることがより好ましい。
上記の通り、カカオ非抽出分は、不溶性食物繊維やこれに保持されたカカオ感やカカオの呈味に寄与する香気成分、呈味成分を含む。したがって、不溶性食物繊維の含有量を上記数値範囲内にすることにより、カカオ組織に存在する香気成分、呈味成分に由来するカカオ感やカカオの呈味を十分に感じることができ、濃厚なカカオ感を食品に付与できる。また、ざらつきがない、良好な口残りのカカオ製品とすることができる。
【0037】
なお本発明において、不溶性食物繊維の含有量は、プロスキー変法により測定した量(質量%)である。
【0038】
従来知られていたカカオエキス(香料)中の不溶性食物繊維の含有量は、カカオエキス中の全固形分に対して、10質量%以下である。
そのため、従来知られていたカカオエキスは、香気成分以外の呈味成分から形成される良好なカカオ風味を総合的に付与することは難しかった。
また、従来のココアパウダーは、カカオ原料に含まれる食物繊維の組織から、香気成分や呈味成分を抽出した状態で製品化されていないことから、これを食品に添加したとしても、カカオらしい香気が十分に際立ちにくく、また使用量を増やすと好ましくない酸味、渋味、苦味の原因となることがあった。
これに対し本発明は、カカオ抽出分と、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分の両方を含むため、カカオ抽出分に含まれる香気成分、呈味成分と、カカオ非抽出分に含まれる香気成分、呈味成分の両方を含む。これにより本発明のカカオ製品は、全体として、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含しつつ、香り高い新規なカカオ製品となる。
したがって本発明によれば、酸味や渋味を抑えつつ、濃厚なカカオ感を食品に付与することができる。
【0039】
本発明の好ましい形態では、カカオ抽出分中の可溶性固形分の含有量と、前記食物繊維の含有量(質量%)の比は、1:1~10:1であり、好ましくは2:1~8:1であり、より好ましくは2:1~7:1であり、さらに好ましくは、4:1~6:1である。
カカオ抽出分と、不溶性食物繊維の比率を上記数値範囲内にすることで、カカオ抽出分と不溶性食物繊維の量的なバランスがよく、好ましいカカオ感と呈味を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0040】
本発明のカカオ製品の性状がペースト状、液体(懸濁液)状、又はシロップ状である場合、本発明の好ましい形態では、カカオ製品の水分活性は、0.50以上0.96以下であることが好ましく、より好ましい形態では、0.55以上0.9以下である。
本発明によれば、全体として水分活性の値が小さい食品にも、全体として水分活性の値が大きい食品にも、使用することができる。
【0041】
本発明の好ましい形態では、カカオ製品全体の水分量は、60質量%以下であり、より好ましい形態では、55質量%以下であることが好ましい。
本発明によれば、少量でも十分なカカオ感を付与できるカカオ製品とすることができる。
なお、水分量の下限値は、所望する物性や添加する食品、製造工程、食品への添加量によって、適宜調整可能である。
【0042】
本発明において、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの含有比率が、2~10質量%であることが好ましく、2~9%質量であることがより好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましく、2~7質量%であることがさらにより好ましい。
エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートは、カカオ製品において、呈味に寄与する成分である。よって、これら2成分の合計含有比率を上記数値範囲内とすることで、食品にカカオ感を付与できるカカオ製品とすることができる。
なお本発明において、カカオ製品中の、加熱済みカカオ原料に由来する香気成分全体の含有量及び各香気成分の含有量は、ガスクロマトグラフィーによって測定した測定値である。具体的には、後述するGC-MS測定条件で測定したときの測定値である。
【0043】
本発明において、加熱済みカカオ原料由来の香気成分における、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量は、400~2300ppbであることが好ましく、410~2200ppbであることが好ましく、420~2050ppbであることがより好ましい。
上記の通り、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートはカオ製品において、呈味に寄与する成分である。よって、これら2成分の合計含有比率を上記数値範囲内とすることで、食品にカカオ感を付与できるカカオ製品とすることができる。
【0044】
本発明においては、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対するフェニルアセトアルデヒド及びフェニル酢酸の含有比率が1~10質量%であることが好ましく、2~9質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることがさらに好ましく、4~8質量%であることさらにより好ましい。
フェニルアセトアルデヒドとフェニル酢酸は、本発明に係るカカオ製品を添加した食品の喫食時に感じる、フローラルなカカオ感に寄与する成分である。よって、これら2成分の含有比率を上記数値範囲内とすることによって、カカオ感、特にフローラルなカカオ感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0045】
本発明においては、加熱済みカカオ原料由来の香気成分におけるフェニルアセトアルデヒド及びフェニル酢酸の合計含有量が300~1000ppbであることが好ましく、400~900ppbであることがより好ましく、500~800ppbであることがさらに好ましく、600~800ppbであることがさらにより好ましい。
上記の通りこれら2成分は、フローラルなカカオ感に寄与する成分であるから、本発明によれば、カカオ感、特にフローラルなカカオ感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0046】
本発明においては、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する3-メチルー1,2-シクロペンタジオン及び4-ヒドロキシ-2,5―ジメチル-3(2H)-フラノンの合計含有量が3~5質量%であることが好ましく、3.2~3.5質量%であることがより好ましい。
3-メチルー1,2-シクロペンタジオン及び4-ヒドロキシ-2,5―ジメチル-3(2H)-フラノンは、本発明に係るカカオ製品を添加した食品の喫食時に感じる、スイート感に寄与する成分である。よってこれら2成分の含有比率を上記数値範囲内とすることによって、カカオ感とスイート感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0047】
本発明においては、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する3-メチルー1,2-シクロペンタジオン及び4-ヒドロキシ-2,5―ジメチル-3(2H)-フラノンの合計含有量が、250~400ppbであることが好ましく、300~350ppbであることがより好ましい。
上記の通りこれら2成分は、スイート感に寄与する成分であるから、本発明によれば、カカオ感とスイート感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0048】
本発明においては、加熱済みカカオ原料由来の香気成分における、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計と、ピラジン類との含有比率が7:1~1:3であることが好ましく、7:1~1:2であることがより好ましく、7:1~1:1.5であることがさらに好ましい。
ピラジン類は、カカオ風味の主要な要素であるロースト風味を示すが、多すぎると渋味や苦味が目立つ。
よって、加熱済みカカオ原料由来の香気成分における、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計と、ピラジン類との含有比率を上記数値範囲とすることで、ピラジン類由来の渋味や苦味を抑え、好ましいカカオ感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
なお本発明において、ピラジン類とは、ピラジン構造を分子内に含む化合物を指す。ピラジン類としては、ジメチルピラジン、エチルメチルピラジン、トリメチルピラジン、エチルジメチルピラジン、テトラメチルピラジンが挙げられる。
【0049】
本発明において、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対するピラジン類の含有比率は、15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることがさらに好ましく、12.5%質量以下であることがさらにより好ましい。
加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対するピラジン類の含有比率を上記数値範囲とすることで、ピラジン類に由来する渋味や苦味が過度に目立ちすぎないため、程よい渋味や苦味も含むカカオ感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0050】
加熱済みカカオ原料由来の香気成分中の上記各成分の含有量(質量%、ppb)は、加熱済みカカオ原料からのカカオ抽出分の抽出の際の抽出温度が高ければ高いほど、又は長時間であればあるほど、増加する。また、加熱済みカカオ原料からのカカオ抽出分の抽出の際に、圧力を加える場合、その圧力が大きければ大きいほど、加熱済みカカオ原料由来の香気成分中の各成分の含有量が増加する。
したがって、加熱済みカカオ原料由来の香気成分全体に対して、上記各成分の含有量又は含有比率となるように、後述する製造方法における製造条件を調整することができる。
【0051】
本発明においては、以下に示す条件でのGC-MSによる測定において、リテンションタイムの後半として65%以上の間にある香気成分の合計量の割合が、前記GC-MS測定のトータルピーク面積に対して15%以上であり、好ましくは18%以上であり、より好ましくは20%以上である。
またリテンションタイムの後半として65%以上の間にある香気成分の合計量の割合が、前記GC-MS測定のトータルピーク面積に対して40%以下であり、好ましくは35%以下である。
GC-MS測定のトータルピーク面積に対する、リテンションタイムの後半として65%以上の間にある香気成分の合計量の割合を、上記数値範囲内とすることで、本発明に係るカカオ製品を含む食品を喫食した際に、カカオ感を食品に付与できるカカオ製品とすることができる。
【0052】
GC-MS測定に供する試料は、以下の方法で調製する。
<試料調製方法>
(1)測定対象のカカオ製品(10g、固形分を50質量%含むペースト状)を50mLの蒸留水に分散する。
(2)上記(1)で得たカカオ製品の分散液を遠心分離後(3000rpm×20分、5℃)に綿栓ろ過して得た上澄みの香気成分を、吸着樹脂(SP-700、5m)を詰めたカラムに通液し、吸着させる。
(3)上記(2)で吸着した香気成分をジエチルエーテル(20mL)で脱着する。
(4)上記(3)で得たジエチル溶液に対して、内部標準物質として、1.0%2-オクタノール溶液を5μL添加する。
(5)上記(4)で得たジエチルエーテル溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶剤支援フレーバー蒸発装置(Solvent Assisted Flavor Evaporation;SAFE)で不揮発性成分を除去する(<5.0×10―3Pa、40℃)。
(6)上記(5)で得た留分を約100μLまで濃縮し、GC-MS測定に供する試料を得る。
【0053】
本発明において、GC-MS測定条件は、以下の通りである。
<GC-MS測定条件>
機器: Agilent 7890B & 5977A
カラム: DB-Wax (0.25 mm i.d. ×60 m, film thickness 0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/分)
温度:80℃‐230℃、3℃/分
インレット:250℃、スプリット比30:1
インジェクション量:1μL
検出器:MS
【0054】
本発明に係るカカオ製品は、上記した成分以外に、防腐剤、pH調整剤、矯味剤等、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の成分を含んでいてもよい。
本発明に係るカカオ製品が、上記した成分以外の公知の他の成分を含む場合、水分を除いたカカオ製品全体に対する加熱済みカカオ原料由来の成分の含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
また本発明に係るカカオ製品は、後述する製造方法で製造することができる。
【0055】
本発明に係るカカオ製品を添加する食品は特に制限されないが、特に、水中油型(O/W型)の乳化食品に適用することが好ましい。
上記の通り、従来のカカオエキスやカカオ香料、ココアパウダー等では、十分にカカオ感を感じることができないという問題があったが、特に水中油型の乳化食品に添加した場合、その問題が顕著であった。
これに対し本発明は、カカオ抽出分と、カカオ非抽出分の両方を含むことにより、十分にカカオ感を感じることができるO/W型の乳化食品を提供できる。
O/W型の乳化食品としては、飲料や冷菓を例示することができるが、これらに限定されない。
【0056】
食品におけるカカオ製品の添加量は、所望するカカオ感に応じて適宜調整できるが、カカオ製品の固形分換算で、好ましくは1~20質量%である。
また、食品(特にO/W型食品)のpHは、3.5~7.4、好ましくは5.0~7.0である。
また、O/W型食品の20℃での水分活性は、0.55~0.99であり、好ましくは0.73~0.97である。
【0057】
2.カカオ製品の製造方法
本発明に係るカカオ製品の製造方法は、加熱済みカカオ原料からカカオ抽出分を得る抽出工程と、加熱済みカカオ原料から不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を得る非抽出分準備工程と、を行うことにより、前記カカオ抽出分と前記カカオ非抽出分と、を含むカカオ製品を得ることを含む。
本発明によれば、カカオ感やカカオの呈味を食品に付与できる新規なカカオ製品を製造することができる。
【0058】
抽出工程においては、加熱済みカカオ原料からカカオ抽出分を得る。
抽出溶媒としては特に制限されず、水(熱水)を抽出溶媒とすることもできるし、アルコール(又はアルコールと水の混合物)を抽出溶媒とすることもできる。また抽出方法も特に制限されず、公知の方法及び機器を用いてすることができる。
【0059】
本発明の好ましい形態では、抽出工程は、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程と、熱水を抽出溶媒とする抽出工程の両方を含み、先の抽出工程で得た加熱済みカカオ原料の抽出残渣を、先の抽出工程で得た加熱済みカカオ原料の抽出溶媒とは異なる抽出溶媒による後の抽出工程に供する。
本発明によれば、先の抽出工程で抽出しきれなかった、カカオ感に寄与する成分を、後の抽出工程で抽出することができる。
なお、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程と、熱水を抽出溶媒とする抽出工程の順番は問わない。また、後の抽出工程に移る際に、新たな加熱済みカカオ原料を用いてもよい。
【0060】
アルコールを抽出溶媒とする抽出工程においては、抽出溶媒としては上記の通り低級アルコールを使用することが好ましく、エタノールを使用することがより好ましい。さらに好ましい形態では、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程においては、抽出溶媒として低級アルコールと水の混合物を使用することが好ましく、エタノールと水の混合物を使用することがより好ましく、またエタノールと水の混合物におけるエタノールの濃度は50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることがさらにより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
また、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程における抽出時間は、抽出温度によって適宜設定することができるが、常温(25℃)で抽出する場合は、20時間以上とすることができる。抽出温度を上げれば、抽出時間は短くすることができる。
抽出時間を長くするほど、又は抽出温度が高ければ高いほど、加熱済みカカオ原料由来の溶媒抽出可能な成分を多く抽出することができるので、所望するカカオ感によって、抽出時間を適宜調整することができる。
【0061】
熱水を抽出溶媒とする抽出工程においては、熱水の温度は75℃以上であり、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは85℃以上であり、さらに好ましくは90℃以上であり、さらにより好ましくは100℃である。
また、熱水を抽出溶媒とする抽出工程における抽出時間は、例えば熱水として100℃の水を使用する場合には、10~20分とすることができ、好ましくは10~15分である。熱水の温度によって、抽出時間は調整することができる。
抽出時間を長くするほど、又は抽出温度が高ければ高いほど、加熱済みカカオ原料由来の溶媒抽出可能な成分を多く抽出することができるので、所望するカカオ感によって、抽出時間を適宜調整することができる。
【0062】
アルコールを抽出溶媒とする抽出工程と、熱水を抽出溶媒とする抽出工程の順番は、使用する加熱済みカカオ原料により、何れを先の抽出工程とするか決定することができる。
【0063】
非抽出分準備工程では、加熱済みカカオ原料から、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を取得する。
カカオ豆は食物繊維等により構成される硬い組織構造を有しており、この組織には、カカオ感やカカオの呈味に寄与する香気成分、呈味成分が存在する。従来、これら成分を含み、カカオの呈味を十分に食品に付与できるカカオ香料を製造することは、困難であった。
しかし、本発明によれば、抽出工程で得たカカオ抽出分と、非抽出分準備工程で得たカカオ非抽出分とを含むカカオ製品を得ることで、カカオ抽出分に含まれる成分と、カカオ非抽出分に含まれる成分の両方を含むカカオ製品とすることができるので、全体として、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含しつつ、香り高い新規なカカオ製品を提供することができる。
【0064】
非抽出分準備工程におけるカカオ非抽出分の取得方法は特に問わない。例えば、加熱済みカカオ原料に対して粉砕処理、加熱処理、加圧処理等の物理的な処理を施すことにより、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を取得することができる。また例えば、酵素処理等の化学的な処理を加熱済みカカオ原料に施すことにより、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を取得することができる。
また、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分は、抽出工程における抽出残渣として得てもよい。この場合、抽出工程と非抽出分準備工程は単一の工程(すなわち、一方の工程が他方の工程を兼ねる)である。
【0065】
本発明においては、非抽出分準備工程は、不溶性食物繊維を含む加熱済みカカオ原料の組織を軟化処理し、軟化した不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を得る、軟化処理工程を含むことが好ましい。ここで、軟化処理には、加熱済みカカオ原料に対して、物理処理(例えば加熱処理、加圧処理等)及び化学処理(例えば酵素処理等)を施して、加熱済みカカオ原料の組織を軟化させる処理全般が含まれる。
軟化処理工程を含むことで、加熱済みカカオ原料中の不溶性食物繊維を軟化し、不溶性食物繊維中に存在する、カカオ感やカカオの呈味に寄与する香気成分や呈味成分を感じやすくすることができる。
本発明においては、軟化処理工程は、加熱済みカカオ原料の不溶性食物繊維に対して加圧処理をする工程及び/又は水の存在下で加熱処理する工程を含むことが好ましい。加圧処理をする工程と水の存在下で加熱処理する工程を行う順番は特に問わず、また同時に行ってもよい。
【0066】
非抽出分準備工程には、新たな(上記抽出工程の抽出残渣でない)加熱済みカカオ原料を供してもよく、上記抽出工程で得られたカカオ抽出分と抽出残渣の共存物を供してもよい。また、上記抽出工程で得られたカカオ抽出分と抽出残渣の共存物に新たな(上記抽出工程の抽出残渣でない)加熱済みカカオ原料を添加した混合物を、非抽出分準備工程に供してもよい。また非抽出分準備工程は、加熱済みカカオ原料を抽出工程に供した後の抽出残渣そのものを得る工程であってもよい。この場合、抽出工程と非抽出分準備工程は、単一の工程(一方が他方を兼ねる)である。
カカオ抽出分を加熱済みカカオ原料から抽出するとともに、加熱済みカカオ原料から不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を取得することにより、不溶性食物繊維に存在する、カカオ感やカカオの呈味に寄与する香気成分や呈味成分を感じられる状態にすることができる。よって本発明によれば、全体として、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含しつつ、香り高い新規なカカオ製品を提供することができる。
【0067】
新たな加熱済みカカオ原料と、カカオ抽出分と抽出残渣の共存物と、カカオ抽出分と抽出残渣と新たな加熱済みカカオ原料の混合物のうち、何れを非抽出分準備工程に供するかは、上記抽出工程に供した加熱済みカカオ原料の種類によって決定することができる。
なお、抽出工程と非抽出分準備工程が、単一の工程である場合には、抽出工程に供する加熱済みカカオ原料が、同時に非抽出分準備工程に供されることとなる。
【0068】
本発明の好ましい形態では、カカオ非抽出分は、抽出工程の抽出残渣として得られ、カカオ製品は、カカオ抽出分とカカオ非抽出分の共存物として得られる。
本発明によれば、加熱済みカカオ原料に含まれる様々な成分を包含し、香り高い、新規なカカオ製品を提供することができる。
本形態においては、抽出工程後、カカオ抽出分とカカオ非抽出分とをろ過等により分離した後、再度これらを混合してカカオ製品を得ても良く、抽出工程で得られるカカオ抽出分と、抽出工程で得られる抽出残渣としてのカカオ非抽出分を分離しないことによってカカオ製品を得てもよい。
【0069】
本発明の好ましい形態では、上記各工程により得られた、カカオ抽出分とカカオ非抽出分を含むカカオ製品を濃縮する濃縮工程を含む。
カカオ製品に含まれる、カカオ感に寄与する成分が濃縮され、少量の添加でもカカオ感を食品に付与できるカカオ製品を製造することができる。
【0070】
濃縮の程度は、製造適性や食品への添加時の取り扱いによって適宜設定することができるが、カカオ製品中の水分量が60質量%以下となるように濃縮することが好ましく、カカオ製品中の水分量が55質量%以下となるように濃縮することがより好ましい。
本発明によれば、少量の添加でもカカオ感やカカオの呈味を食品に付与できるカカオ製品を製造することができる。
なお、濃縮工程は、適宜公知の機器を使用してすることができるが、直火釜を使用して煮詰めることで、香ばしい風味をカカオ製品に付与することができる。
【0071】
加熱済みカカオ原料としてカカオニブを使用する場合の実施形態を、
図1を参照して説明する。
まず、先の抽出工程として、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程を行い、アルコールカカオ抽出分と抽出残渣の共存物を得る(
図1S1)。
次に、アルコール抽出分と抽出残渣をろ過により分離し(S2)、得られた抽出残渣に対して、後の抽出工程として、熱水を抽出溶媒とする抽出工程を行い、熱水カカオ抽出分を得る(S3)。ろ過は、例えば20メッシュのフィルターを用いてすることができる。
次に、上記抽出工程で得たアルコールカカオ抽出分及び熱水カカオ抽出分に、さらに加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを添加して(S4、S5)、得られた混合物を、非抽出分準備工程に供する(S6)。
この場合、非抽出分準備工程は、アルコールカカオ抽出分、熱水カカオ抽出分及びカカオマス又はココアパウダーの混合物を加圧処理する軟化処理工程を含むことが好ましい。
最後に、カカオ抽出分とカカオ非抽出分を含むカカオ製品を濃縮する濃縮工程を行い(S7)、カカオ製品を得る。
本発明によれば、異なる種類の溶媒を用いて抽出することで、カカオニブからより多くの溶媒抽出可能な成分を抽出することができ、食品にカカオ感やカカオの呈味を付与することができるカカオ製品を製造することができる。また、カカオニブから得られるカカオ抽出分と、カカオニブとカカオマス又はココアパウダーから得られるカカオ非抽出分とを含むことにより、濃厚なカカオ感を食品に付与できるカカオ製品を製造することができる。
【0072】
また、加熱済みカカオ原料としてカカオマス又はココアパウダーを使用する場合を、
図2を参照して説明する。
まず、先の抽出工程として、熱水を抽出溶媒とする抽出工程を行い、熱水カカオ抽出分を得る(
図2(S8-1))。本工程は、加熱済みカカオ原料を水の存在下で加熱処理をする軟化処理工程にも該当する。すなわち本形態において、先の抽出工程は、非抽出分準備工程を兼ねる(S8-2)。
次に、先の抽出工程で得られたカカオマス又はココアパウダーの抽出残渣に対して、後の抽出工程として、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程を行い、アルコールカカオ抽出分を得る(S9)。
この場合、より好ましい形態では、先の抽出工程で得られた熱水カカオ抽出分と、カカオマス又はココアパウダーの抽出残渣の共存物に対して、後の抽出工程として、アルコールを抽出溶媒とする抽出工程を行い、熱水カカオ抽出分と、アルコールカカオ抽出分と、抽出残渣の共存物を得る(S9)。
また、後の抽出工程も、非抽出分準備工程を兼ねていてもよい。
最後に、カカオ抽出分とカカオ非抽出分を含むカカオ製品を濃縮する濃縮工程を行い(S10)、カカオ製品を得る。
本発明によれば、異なる種類の溶媒を用いて抽出することで、カカオマス又はココアパウダーからより多くの溶媒抽出可能な成分を抽出することができ、食品にカカオ感やカカオの呈味を付与することができるカカオ製品を製造することができる。また本発明によれば、カカオマス又はココアパウダーから得られるカカオ抽出分と、中の溶媒抽出可能な成分と不溶性の呈味成分を含む、濃厚なカカオ感を食品に付与できるカカオ製品を製造することができる。さらに、先の抽出工程が不溶性食物繊維取得工程を兼ねるので、製造効率を上昇させることができる。
【0073】
本発明に係る製造方法は、上記した工程の他、公知の工程を含むことができる。例えば加熱済みカカオ原料を洗浄する洗浄工程、カカオ抽出分と抽出残渣をろ過するろ過工程、製造したカカオ製品を容器に充填する充填工程等を含んでいても良い。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を参照して、本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0075】
<試験例1>カカオ製品の製造と評価(食品添加時のカカオ感の評価)
<1>カカオ製品(実施例1~3)の製造
[抽出工程]
以下の手順にて、本発明に係るカカオ製品(実施例1~3)を製造した(
図1参照)。
(1)加熱済みカカオ原料であるカカオニブを、70%アルコールで20時間以上、常温(25℃)で抽出し、アルコール抽出分を得た(アルコール抽出工程)。
(2)上記(1)で得たカカオニブのアルコール抽出分と抽出残渣の共存物をろ過し、アルコールカカオ抽出分と抽出残渣とに分離した。
(3)上記(2)で得た抽出残渣に対して、100℃の熱水を投入し、30~50分加熱し、熱水カカオ抽出分と抽出残渣の共存物を得た(熱水抽出工程)。
(4)上記(3)で得た熱水カカオ抽出分と抽出残渣をろ過し、熱水カカオ抽出分と抽出残渣とに分離した。
[非抽出分準備工程]
(5)上記(4)で得た熱水カカオ抽出分と、上記(1)で得たアルコールカカオ抽出分と、加熱済みカカオ原料であるココアパウダーを混合し、混合物を得た。
(6)上記(5)で得た混合物に対して水とアルコールを加え加熱、混錬し、上記混合物を含むペーストを得た。当該ペーストは、全固形分に対する不溶性食物繊維の含有量が、25質量%だった。
(7)上記(6)で得たペーストに、さらに加水及び加熱を行い、不溶性食物繊維を軟化させてから容器に缶へ投入した。当該混合物に対して、110~130℃で20~60分間、加熱加圧処理による軟化処理を行った(軟化処理工程)。
[濃縮工程]
(8)上記(7)で軟化処理した、ペーストを直火鍋に移し、撹拌しながら120℃で20分加熱し、水分量が55~60質量%になるまで濃縮した(濃縮工程)。
(9)上記(8)で得た濃縮物に水及びアルコールを添加し、本発明に係るカカオ製品(実施例1~3)を得た。
【0076】
実施例1~3のカカオ製品において、プロスキー変法により測定した、全固形分に対する不溶性食物繊維の含有量は、10~35質量%であった。
【0077】
また、実施例1~3のカカオ製品の水分活性は、0.5~0.96であった。
さらに、実施例1~3のカカオ製品のカカオ抽出分中の可溶性固形分と食物繊維の含有量の質量比は、2:1~8:1であった。
【0078】
上記の通り製造したカカオ製品について、デジタル屈折計RX-5000(株式会社アタゴ)を用いて、ブリックスを測定し、ブリックスの測定値を、カカオ製品中の可溶性固形分の含有量(質量%)とみなした。ブリックス測定のための試料の調製及びブリックスの測定方法は、RX-5000のマニュアルに従った。
【0079】
<3>成分の測定
実施例1~3に係るカカオ製品について、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、ヘチルヘキサデカノエート、エチルオクタデカノエート、ピラジン類及び酢酸の含有量(ppb)の含有量をガスクロマトグラフィーで以下に示すGC-MS測定条件で測定した。また得られた結果から、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエートの含有比率(質量%)、エチルオクタデカノエートの含有比率(質量%)、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量(ppb)、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量とピラジン類の含有量の比率を算出した。
【0080】
GC-MS測定に供する試料は、以下の方法で調製した。
<試料調製方法>
(1)測定対象のカカオ製品(10g、固形分を50質量%含むペースト状)を50mLの蒸留水に分散した。
(2)上記(1)で得たカカオ製品の分散液を遠心分離後(3000rpm×20分、5℃)に綿栓ろ過して得た上澄みの香気成分を、吸着樹脂(SP-700、5m)を詰めたカラムに通液し、吸着させた。
(3)上記(2)で吸着した香気成分をジエチルエーテル(20mL)で脱着した。
(4)上記(3)で得たジエチル溶液に対して、内部標準物質として、1.0%2-オクタノール溶液を5μL添加した。
(5)上記(4)で得たジエチルエーテル溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶剤支援フレーバー蒸発装置(Solvent Assisted Flavor Evaporation;SAFE)で不揮発性成分を除去した(<5.0×10―3Pa、40℃)。
(6)上記(5)で得た留分を約100μLまで濃縮し、GC-MS測定に供する試料を得た。
【0081】
<GC-MS測定条件>
機器: Agilent 7890B & 5977A
カラム: DB-Wax (0.25 mm i.d. ×60 m, film thickness 0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/分)
温度:80℃‐230℃、3℃/分
インレット:250℃、スプリット比30:1
インジェクション量:1μL
検出器:MS
【0082】
<4>カカオ製品又はカカオエキスを添加した食品におけるカカオ感の評価
実施例1~3のカカオ製品を全量に対して1.0質量%含むチョコレートアイス(アイスミルク規格)を一般的な製造方法により製造し、喫食時のカカオ感を、熟練した評価者5名により評価した。
【0083】
上記<3>及び<4>の測定結果及び評価結果を、下記表1に示す。
【0084】
【0085】
表1に記載の通り、加熱済みカカオ原料から得られるカカオ抽出分と、不溶性食物繊維を含むカカオ非抽出分を含む実施例1~3は、食品に添加した際のカカオ風味の呈味が強く、またカカオ感を食品に付与することができていた。
なお、従来市販されているカカオ香料は、全固形分に対し不溶性食物繊維が10質量%以下であるため、香り、コク、渋みを含む全体のカカオ感の付与には有効ではない。
【0086】
また、本実施例により、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの含有比率が2~10質量%であるカカオ製品は、カカオ感を食品に付与できることが明らかになった。
また、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対する、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量が400~2300ppbであるカカオ製品は、カカオ感を食品に付与できることが明らかになった。
【0087】
また、エチルヘキサデカノエート及びエチルオクタデカノエートの合計含有量と、ピラジン類の含有量の含有比率が7:1~1:3であるカカオ製品は、カカオ感を食品に付与できることが明らかになった。
さらに、加熱済みカカオ原料由来の香気成分に対するピラジン類の含有比率が15質量%以下であるカカオ製品は、ピラジン類に由来する渋味や苦味が過度に目立ちすぎないため、程よい渋味や苦味も含むカカオ感を食品に付与できることが明らかになった。
【0088】
さらに、上記条件でのGC-MS測定において、リテンションタイムの後半として65%以上の間にある香気成分の合計量の割合が、GC-MS測定のトータルピーク面積に対して20%以上であるカカオ製品は、カカオ感を食品に付与できることが明らかになった。
【0089】
また、上記した製造方法であれば、カカオ感を食品に付与できるカカオ製品を製造できることが明らかになった。
【0090】
<試験例2>可溶性固形分と不溶性食物繊維の質量比が異なるカカオ製品のカカオ感の評価(原料としてのカカオ感の評価)
上記試験例1と同様にして、実施例4~10に係るカカオ製品を製造した。試験例1と同様に各カカオ製品のブリックスを測定し、ブリックスの測定値を各カカオ製品中の可溶性固形分の含有量(質量%)とみなした。また、プロスキー変法により、各カカオ製品中の不溶性固形分の含有量(質量%)を測定した。これらの測定値から、各実施例に係るカカオ製品中の可溶性固形分と不溶性食物繊維の質量比を算出した。
【0091】
各実施例に係るカカオ製品を80℃のお湯で溶解・分散し、カカオ製品を3.0質量%含む評価サンプルを調製した。調製したサンプルのカカオ感を、熟練した評価者3名により評価した。
【0092】
本試験例における評価基準は、以下の通りである。
<カカオの香気の評価基準>
〇+ カカオの好ましい香りを充分に有する
〇 カカオの好ましい香りを有する
<カカオの濃厚感の評価基準>
〇+ カカオ感が充分に感じられる
〇 カカオ感が口内に感じられる
<カカオのコクの評価基準>
〇+ カカオの呈味が充分に感じられる
〇 カカオの呈味が感じられる
<総合評価>
◎ カカオの濃厚さ・後味が強くあり、カカオ本来の強い香味がある。
〇+ カカオの程よい濃さと適度な口残りと、好ましいカカオ感やカカオの香味がある。
〇 適度なカカオのコクと後味があり、好ましい香味を有する。
【0093】
可溶性固形分と不溶性食物繊維の質量比及び評価サンプルの評価結果を、下記表2に示す。
なお、各評価サンプルに対する評価者の評価は一致していたため、代表者の評価を表2に示す。
【0094】
【0095】
上記した通り、従来のカカオエキスは、不溶性食物繊維の含有量が少なく、香気成分以外の呈味成分から生成される良好なカカオ風味を総合的に付与することが難しかった。また従来のココアパウダーは、カカオ原料に含まれる食物繊維の組織から、香気成分や呈味成分を抽出した状態で製品化されていないことから、カカオらしい香気が十分に際立ちにくく、またカカオの濃厚感やコクを感じにくいものであった。
これに対し、実施例4~10は、表2に示された通り、カカオの香気、濃厚感、コクの評価が何れも○又は○+であり、総合評価も全ての実施例で○以上であった。換言すれば、実施例4~10に係るカカオ製品は、カカオ本来の呈味や香気、コク(濃厚さ)、口残りを感じられる、好ましいカカオ感、濃厚なカカオ感を有する原料であった。
以上より、本発明に係るカカオ製品は、好ましいカカオ感を呈する原料であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、カカオ感を食品に付与できる新規なカカオ製品及びその製造方法、並びに当該カカオ製品を含む食品を提供することができる。
【要約】
【課題】
カカオ感を食品に付与できる新規なカカオ製品及びその製造方法、並びに当該カカオ製品を含む食品を提供することを、課題とする。
【解決手段】
加熱済みカカオ原料から得られるカカオ抽出分と、加熱済みカカオ原料に含まれる不溶性食物繊維を含む、カカオ製品。
【選択図】 なし