(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】選鉱方法
(51)【国際特許分類】
B03D 1/012 20060101AFI20230621BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20230621BHJP
C22B 1/11 20060101ALI20230621BHJP
B03D 101/02 20060101ALN20230621BHJP
B03D 103/02 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
B03D1/012
C22B15/00
C22B1/11
B03D101:02
B03D103:02
(21)【出願番号】P 2019200384
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-06-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、「銅原料中の不純物低減技術開発事業」/実際の銅鉱石に適した高ヒ素含有鉱石分離プロセスおよび高ヒ素含有銅鉱石処理プロセスの開発に関する委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平島 剛
(72)【発明者】
【氏名】三木 一
(72)【発明者】
【氏名】グディ パンディ ウイスヌ スーヤンタラ
(72)【発明者】
【氏名】折居 優太
(72)【発明者】
【氏名】笹木 圭子
(72)【発明者】
【氏名】青木 悠二
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 樹人
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-077803(JP,A)
【文献】特開昭63-100961(JP,A)
【文献】特開2018-135279(JP,A)
【文献】特開2006-307293(JP,A)
【文献】特開2012-241249(JP,A)
【文献】特開2010-133004(JP,A)
【文献】特開2017-202481(JP,A)
【文献】特開2020-104095(JP,A)
【文献】米国特許第5772042(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03D1/00-3/06
C22B1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素を含まない硫化鉱物である砒素非含有硫化鉱物と、砒素を含む硫化銅鉱物である砒素含有硫化鉱物とを含む原料を用いた選鉱方法であって、
前記原料を含む鉱物スラリーに酸化剤およびアルキルメルカプタンを添加して浮遊選鉱を行ない、前記原料を前記原料よりも前記砒素非含有硫化鉱物の品位が高い沈鉱と前記原料よりも前記砒素含有硫化鉱物の品位が高い浮鉱とに分離する浮遊選鉱工程を備える
ことを特徴とする選鉱方法。
【請求項2】
前記アルキルメルカプタンのアルキル基の炭素数が10~16である
ことを特徴とする請求項1記載の選鉱方法。
【請求項3】
前記アルキルメルカプタンはデシルメルカプタンである
ことを特徴とする請求項1記載の選鉱方法。
【請求項4】
前記酸化剤は過酸化水素または次亜塩素酸ナトリウムである
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の選鉱方法。
【請求項5】
前記アルキルメルカプタンの添加量を、前記鉱物スラリー中の鉱物の重量に対して、10g/ton以上とする
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の選鉱方法。
【請求項6】
前記浮遊選鉱工程において、前記鉱物スラリーの液相のpHを8~11とする
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の選鉱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選鉱方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、砒素品位の高い原料から砒素品位の低い精鉱を得るための選鉱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬の分野では、銅を含有する銅鉱石、銅精鉱などの原料から銅を回収する様々な方法が提案されている。例えば、銅鉱石から銅を回収するには以下の処理が行なわれる。
【0003】
(1)選鉱工程
選鉱工程では、鉱山で採掘された銅鉱石を粉砕した後、水を加えてスラリーとし、浮遊選鉱を行なう。浮遊選鉱では、スラリーに捕収剤、起泡剤などで構成される浮選剤を添加し、空気を吹き込んで銅鉱物を浮遊させつつ、脈石を沈降させて分離を行なう。これにより銅品位30%前後の銅精鉱が得られる。
【0004】
(2)乾式製錬工程
乾式製錬工程では、選鉱工程で得られた銅精鉱を自溶炉などの炉を用いて熔解し、転炉および精製炉を経て銅品位99%程度の粗銅にまで精製する。粗銅は次工程の電解工程で用いられるアノードに鋳造される。ここで、銅精鉱に含まれる砒素は、スラグ、ダストおよび粗銅に分配される。
【0005】
(3)電解工程
電解工程では、硫酸酸性溶液(電解液)で満たされた電解槽に前記アノードを挿入し、カソードとの間に通電して電解精製を行なう。電解精製によって、アノードの銅は溶解し、カソード上に純度99.99%の電気銅として析出する。
【0006】
電解精製により生じるアノードスライムには、アノードから溶出した貴金属、砒素などが含まれている。アノードスライムは貴金属回収工程で処理されて貴金属が回収される。貴金属回収工程から排出される残渣には砒素が含まれている。
【0007】
乾式製錬工程から排出されるスラグには、砒素が安定した形態で固定されている。スラグは水砕して埋立て材などに利用される。一方、乾式製錬工程から排出されるダストおよび貴金属回収工程から排出される残渣に含まれる砒素は不安定な形態である。ダストおよび残渣は、そのままの状態で系外に払い出すことは好ましくないため、炉に繰り返し装入される。こうして、銅精鉱に含まれる大部分の砒素は最終的にスラグに分配され、安定した形態で固定化される。
【0008】
ところで、近年では原料事情が変化している。砒素品位の低い銅鉱石を産出する銅鉱山は枯渇の一途を辿っており、得られる銅鉱石の砒素品位が年々増加している。これに伴い、銅精鉱の砒素品位も徐々に高くなっている。そのため、銅精鉱の処理量が以前と同じであっても、砒素の処理量が多くなっており、砒素をスラグに固定化する処理が追いつかない場合がある。そこで、砒素品位の高い銅鉱石から砒素品位の低い銅精鉱を得ることが求められている。
【0009】
特許文献1には、抑制剤としてキレート剤を用いた浮遊選鉱により、高砒素品位の含銅物から砒素鉱物を分離し、低砒素品位の銅精鉱が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、砒素品位の高い原料から砒素品位の低い精鉱を得ることができる選鉱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明の選鉱方法は、砒素を含まない硫化鉱物である砒素非含有硫化鉱物と、砒素を含む硫化銅鉱物である砒素含有硫化鉱物とを含む原料を用いた選鉱方法であって、前記原料を含む鉱物スラリーに酸化剤およびアルキルメルカプタンを添加して浮遊選鉱を行ない、前記原料を前記原料よりも前記砒素非含有硫化鉱物の品位が高い沈鉱と前記原料よりも前記砒素含有硫化鉱物の品位が高い浮鉱とに分離する浮遊選鉱工程を備えることを特徴とする。
第2発明の選鉱方法は、第1発明において、前記アルキルメルカプタンのアルキル基の炭素数が10~16であることを特徴とする。
第3発明の選鉱方法は、第1発明において、前記アルキルメルカプタンはデシルメルカプタンであることを特徴とする。
第4発明の選鉱方法は、第1~第3発明のいずれかにおいて、前記酸化剤は過酸化水素または次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする。
第5発明の選鉱方法は、第1~第4発明のいずれかにおいて、前記アルキルメルカプタンの添加量を、前記鉱物スラリー中の鉱物の重量に対して、10g/ton以上とすることを特徴とする。
第6発明の選鉱方法は、第1~第5発明のいずれかにおいて、前記浮遊選鉱工程において、前記鉱物スラリーの液相のpHを8~11とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、砒素品位の高い原料から砒素含有硫化鉱物を除去することで、砒素品位の低い精鉱を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る選鉱方法は、砒素を含む原料を用いた浮遊選鉱により、原料から砒素を除去して、砒素品位の低い精鉱を得る方法である。
【0015】
原料として、鉱山から採掘された鉱石のほか、他の選鉱方法により鉱石から脈石を除去して得た精鉱などが用いられる。原料には複数種類の鉱物が含まれる。原料に含まれる鉱物として、黄銅鉱(chalcopyrite:CuFeS2)、斑銅鉱(bornite:Cu5FeS4)、輝銅鉱(chalcocite:Cu2S)、ゲール鉱(geerite:Cu8S5)、黄鉄鉱(pyrite:FeS2)、硫砒銅鉱(enargite:Cu3AsS4)、砒四面銅鉱(tennantite:(Cu,Fe,Zn)12(Sb,As)4S13)が挙げられる。
【0016】
本明細書では、砒素を含まない硫化鉱物を「砒素非含有硫化鉱物」と称する。また、砒素を含む硫化銅鉱物を「砒素含有硫化鉱物」と称する。原料には少なくとも砒素非含有硫化鉱物と砒素含有硫化鉱物とが含まれる。
【0017】
砒素非含有硫化鉱物として、砒素を含まない硫化銅鉱物および砒素を含まない硫化鉄鉱物が挙げられる。原料には、砒素を含まない硫化銅鉱物および砒素を含まない硫化鉄鉱物の一方が含まれてもよいし両方が含まれてもよい。
【0018】
砒素を含まない硫化銅鉱物として黄銅鉱、斑銅鉱、輝銅鉱およびゲール鉱などが挙げられる。また、砒素を含まない硫化鉄鉱物として黄銅鉱、斑銅鉱および黄鉄鉱などが挙げられる。なお、黄銅鉱および斑銅鉱は硫化銅鉱物であるとともに硫化鉄鉱物でもある。原料には、黄銅鉱、斑銅鉱、輝銅鉱、ゲール鉱および黄鉄鉱のいずれか一種が含まれてもよいし二種以上が含まれてもよい。
【0019】
砒素含有硫化鉱物として硫砒銅鉱および砒四面銅鉱などが挙げられる。原料には、硫砒銅鉱および砒四面銅鉱の一方が含まれてもよいし両方が含まれてもよい。
【0020】
原料は予め粉砕され、単体分離された鉱物粒子が混合された状態となっている。鉱物粒子の粒度は、鉱石に含まれる鉱物の大きさに合わせて、単独鉱物が得られるように調整される。例えば、黄銅鉱の場合篩下100μm程度に調整することが一般的である。種々の鉱物を含む鉱石を原料とする実操業では、篩下100μm程度に粉砕した後で、浮選成績などを勘案して鉱石の粒度を最適な条件に合わせることが一般的である。
【0021】
なお、粉砕後、鉱物粒子を長時間保管すると、付着物などにより鉱物の表面状態が変化する場合がある。この場合、鉱物粒子を次工程に装入する前に、鉱物表面の付着物を除去することが好ましい。付着物の除去方法は特に限定されないが、例えば、シェアアジテーション、硝酸洗浄、摩擦粉砕(アトリッション)などが挙げられる。これらの中でも、シェアアジテーションが好ましい。シェアアジテーションとは、対象となる鉱物スラリー中の鉱物粒子に剪断力を及ぼすほどの強度で撹拌することである。シェアアジテーションの具体的な方法として、回転数の高い撹拌装置を使用する方法がある。撹拌装置の回転数に上限があるものの、動力が十分な場合には、鉱物スラリーの固形分濃度を高くして、相対的に撹拌力を高くしてもよい。
【0022】
鉱物粒子からなる原料に水を加えて鉱物スラリーを製造する。鉱物スラリーの液相にカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンが含まれていると浮遊選鉱に悪影響を与えることが知られている。そこで、鉱物粒子に添加する水は不純物イオンを含まない純水であることが好ましい。工業的にはイオン交換水を用いてもよい。
【0023】
鉱物スラリーの固形分濃度は特に限定されないが、0.3~30重量%が好ましい。実験室レベルの固形分濃度(0.3重量%)でも、実操業レベルの固形分濃度(30重量%)でも、砒素非含有硫化鉱物と砒素含有硫化鉱物とを分離できる。
【0024】
つぎに、原料を含む鉱物スラリーを用いて浮遊選鉱を行なう(浮遊選鉱工程)。浮遊選鉱に用いる装置および方式は特に限定されず、一般的な多段式浮遊選鉱装置を用いればよい。
【0025】
浮遊選鉱に際して鉱物スラリーに酸化剤およびアルキルメルカプタンを添加する。鉱物スラリーに酸化剤を添加することで、鉱物粒子の表面を酸化する。酸化剤として、過酸化水素(H2O2)、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などを用いることができる。
【0026】
アルキルメルカプタンは砒素含有硫化鉱物に対して捕収剤として作用する。アルキルメルカプタンは化学式R・SHで表される。ここで、Rはアルキル基を示す。式中のアルキル基Rは疎水性である。式中のSHが液中で水素Hを放出すると、S-となって親水性を示す。浮遊選鉱中に、鉱物中のCuが電子を放出すると、S-と結びつく。これにより、鉱物粒子の表面にアルキル基Rが現れる。そのため、鉱物粒子が疎水性となる。
【0027】
アルキルメルカプタンのアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、10~16が好ましい。アルキル基の炭素数が10以上であれば、安定した液体であるため、鉱物スラリーへの添加が容易である。アルキル基の炭素数が16以下であれば、市販品として入手が容易である。アルキルメルカプタンの一例として、デシルメルカプタンがある。デシルメルカプタンはデカンチオールとも称され、化学式はC10H22Sである。デシルメルカプタンは浮選剤として知られており、浮遊選鉱に対する目的外の悪影響がないことが知られている。
【0028】
アルキルメルカプタンの添加量は、特定に限定されないが、鉱物スラリー中の鉱物の重量に対して10g/ton(鉱物1tonに対してアルキルメルカプタン10g)以上が好ましい。アルキルメルカプタンの添加量が10g/ton以上であれば、砒素含有硫化鉱物に対する捕収剤として効果が十分に発揮される。
【0029】
鉱物スラリーには、酸化剤およびアルキルメルカプタンのほか、捕収剤、起泡剤などで構成される浮選剤が添加されてもよい。
【0030】
浮遊選鉱工程における鉱物スラリーの液相のpHは、特に限定されないが、8~11が好ましい。pH調整は鉱物スラリーにpH調整剤を添加することにより行なわれる。pH調整剤は特に限定されないが、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)などを用いることができる。酸として硫酸(H2SO4)、塩酸(HCl)などを用いることができる。pH調整剤を水溶液の形態で用いる場合には、その濃度は特に限定されず、鉱物スラリーを目的のpHに調整することが困難とならない濃度であればよい。
【0031】
上記の浮遊選鉱により、砒素非含有硫化鉱物を沈鉱として、砒素含有硫化鉱物を浮鉱として分離できる。より正確にいうなれば、原料を、原料よりも砒素非含有硫化鉱物の品位が高い沈鉱と、原料よりも砒素含有硫化鉱物の品位が高い浮鉱とに分離できる。
【0032】
なお、上記の浮遊選鉱を繰り返し行なうことにより、沈鉱の砒素品位をより低減できる。そのため、砒素品位が高い原料であっても、砒素品位が十分に低い精鉱を得ることができる。
【0033】
砒素品位の高い原料から砒素含有硫化鉱物を除去することで、砒素品位の低い精鉱を得ることができる。例えば、銅製錬において、砒素品位の高い銅鉱石を用いた場合であっても、予め銅精鉱の砒素品位を低減できる。そのため、砒素をスラグに固定化する処理を問題なく行なうことができる。
【0034】
以上のように、砒素非含有硫化鉱物と砒素含有硫化鉱物とを含む原料を用いた浮遊選鉱において、鉱物スラリーに酸化剤およびアルキルメルカプタンを添加すると、砒素非含有硫化鉱物を沈鉱として、砒素含有硫化鉱物を浮鉱として分離できる。
【0035】
一般に、アルキルメルカプタンは硫化物を浮鉱として回収するための捕収剤として機能する。したがって、鉱物スラリーにアルキルメルカプタンを添加すると、砒素非含有硫化鉱物も砒素含有硫化鉱物も浮鉱として回収されることが予想される。実際に、砒素非含有硫化鉱物である黄銅鉱、砒素含有硫化鉱物である硫砒銅鉱、砒四面銅鉱を、それぞれ単独で用いた浮遊選鉱において、鉱物スラリーにアルキルメルカプタンを添加すると、いずれの鉱物もその大部分が浮鉱として回収されることが確認されている。
【0036】
しかし、砒素非含有硫化鉱物と砒素含有硫化鉱物とが混在する場合において、鉱物スラリーにアルキルメルカプタンとともに酸化剤を添加すると、砒素含有硫化鉱物の大部分は浮鉱として回収される一方、砒素非含有硫化鉱物の大部分は沈鉱として回収される。したがって、酸化剤を添加すると、アルキルメルカプタンは砒素含有硫化鉱物に対しては捕収剤としての機能を維持する一方、砒素非含有硫化鉱物に対しては捕収剤としての機能が抑制されると考えられる。
【0037】
その理由は、必ずしも明らかではないが、本願発明者は酸化後の鉱物表面の析出物の分析結果に基づき、以下のように推測している。
砒素含有硫化鉱物が酸化されると、鉱物表面にFeOOH、Fe2(SO4)3、CuOなどが析出するとともに、CuSO4が析出する。砒素含有硫化鉱物の表面に析出したCuSO4中の銅イオンとアルキルメルカプタンとが化学吸着し、鉱物表面が疎水性となる。そのため、浮遊選鉱において砒素含有硫化鉱物は浮鉱となる。
【0038】
一方、砒素非含有硫化鉱物が酸化されると、鉱物表面にFeOOH、Fe2(SO4)3、CuOなどの親水性の物質が析出する。なお、輝銅鉱は鉄を含まないため、鉄の酸化物は析出しない。輝銅鉱が酸化されると、CuO、Cu(OH)2が析出するが、CuSO4は析出しない。砒素非含有硫化鉱物は表面が親水性となる。また、砒素非含有硫化鉱物にはCuSO4が析出しないため、アルキルメルカプタンが吸着しない。そのため、浮遊選鉱において砒素非含有硫化鉱物は沈鉱となる。
【0039】
以上のことから、アルキルメルカプタンは酸化後の砒素含有硫化鉱物に対しては捕収剤としての機能を維持する一方、酸化後の砒素非含有硫化鉱物に対しては捕収剤としての機能が抑制されると考えられる。
【実施例】
【0040】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
銅精鉱を用意した。MLA分析法により銅精鉱の鉱物組成を分析した結果、銅精鉱には砒素非含有硫化鉱物である黄銅鉱、斑銅鉱、輝銅鉱、ゲール鉱および黄鉄鉱が合計80.3%含まれることが確認された。また、銅精鉱には砒素含有硫化鉱物である硫砒銅鉱および砒四面銅鉱が合計7.2%含まれることが確認された。銅精鉱の組成を、XRF(蛍光X線分析装置、Rigaku、ZSX Primus II、以下同じ。)を用いて分析したところ、銅が34.8重量%、鉄が20.8重量%、砒素が1.72重量%であった。
【0041】
ファーレンワルド型浮遊選鉱機に銅精鉱220gと純水370gとを装入し、撹拌して鉱物スラリーを得た。鉱物スラリーの固形分濃度は約37重量%である。前処理としてシェアアジテーションを60分間行なった。シェアアジテーションは浮遊選鉱機で、空気を導入せずにインペラー回転数2,200rpmで撹拌することにより行なった。その後、鉱物スラリーの固形分濃度が約25重量%となるように純水300gを添加した。
【0042】
以下の試験中、インペラー回転数2,200rpmで撹拌しながら、鉱物スラリーの液相のpHを8に維持した。ここで、アルカリとして水酸化カリウムを用い、酸として塩酸を用いた。
【0043】
鉱物スラリーに過酸化水素を添加して、60分間撹拌した。ここで、鉱物スラリーの液相における過酸化水素の濃度を0.1Mとした。その後、鉱物スラリーにデシルメルカプタンを添加し、3分間撹拌した。ここで、デシルメルカプタンの添加量を、銅精鉱の重量を基準として27g/tonとした。
【0044】
つぎに、鉱石スラリーに起泡剤としてパインオイルを添加し、2分間撹拌した。ここで、パインオイルの添加量を、銅精鉱の重量を基準として51.5g/tonとした。
【0045】
つぎに、浮遊選鉱機に窒素ガスを導入して浮遊選鉱を行なった。浮選時間を30分とした。得られた浮鉱および沈鉱のそれぞれについて、重量を測定し、元素組成および鉱物組成を分析した。元素組成の分析には、XRFを用いた。鉱物組成の分析には、MLA分析法を用いた。また、分析結果から、浮遊選鉱による砒素非含有硫化銅鉱物と砒素含有硫化銅鉱物との分離効率を示すニュートン効率を求めた。その結果、ニュートン効率は61.22%であった。
【0046】
なお、ニュートン効率は以下の手順で求められる。
砒素非含有硫化銅鉱物の浮鉱率RN-Asは式(1)により求められる。
[式(1)]
RN-As=R×Gr(CuN-As)/(R×Gr(CuN-As)+L×Gl(CuN-As))
ここで、Rは浮鉱率であり、浮鉱および沈鉱として回収された鉱物のうちの浮鉱の重量割合を意味する。Lは沈鉱率であり、浮鉱および沈鉱として回収された鉱物のうちの沈鉱の重量割合を意味する。Gr(CuN-As)は浮鉱の砒素非含有硫化銅鉱物に含まれる銅の品位である。Gl(CuN-As)は沈鉱の砒素非含有硫化銅鉱物に含まれる銅の品位である。Gr(CuN-As)およびGl(CuN-As)は、浮鉱および沈鉱の銅品位および鉱物組成から求められる。砒素非含有硫化銅鉱物の浮鉱率RN-Asは、浮鉱および沈鉱として回収された砒素非含有硫化銅鉱物のうちの浮鉱の重量割合を意味する。
【0047】
砒素含有硫化銅鉱物の浮鉱率RAsは式(2)により求められる。
[式(2)]
RAs=R×Gr(CuAs)/(R×Gr(CuAs)+L×Gl(CuAs))
ここで、Gr(CuAs)は浮鉱の砒素含有硫化銅鉱物に含まれる銅の品位である。Gl(CuAs)は沈鉱の砒素含有硫化銅鉱物に含まれる銅の品位である。Gr(CuAs)およびGl(CuAs)は、浮鉱および沈鉱の銅品位および鉱物組成から求められる。砒素含有硫化銅鉱物の浮鉱率RAsは、浮鉱および沈鉱として回収された砒素含有硫化銅鉱物のうちの浮鉱の重量割合を意味する。
【0048】
ニュートン効率ηNは、砒素非含有硫化銅鉱物の浮鉱率RN-Asおよび砒素含有硫化銅鉱物の浮鉱率RAsを用いた式(3)により求められる。
[式(3)]
ηN=RAs-RN-As
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーに過酸化水素を添加しなかった。その結果、ニュートン効率は3.08%であった。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーの液相のpHを9に維持した。その結果、ニュートン効率は58.57%であった。
【0051】
(比較例2)
実施例2と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーに過酸化水素を添加しなかった。その結果、ニュートン効率は3.00%であった。
【0052】
(実施例3)
実施例1と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーの液相のpHを10に維持した。その結果、ニュートン効率は56.26%であった。
【0053】
(比較例3)
実施例3と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーに過酸化水素を添加しなかった。その結果、ニュートン効率は2.99%であった。
【0054】
(実施例4)
実施例1と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーの液相のpHを11に維持した。その結果、ニュートン効率は63.89%であった。
【0055】
(比較例4)
実施例4と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーに過酸化水素を添加しなかった。その結果、ニュートン効率は13.18%であった。
【0056】
(比較例5)
実施例2と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーにデシルメルカプタンを添加しなかった。その結果、ニュートン効率は32.81%であった。
【0057】
(比較例6)
実施例2と同様の試験を行なった。ただし、鉱物スラリーに過酸化水素およびデシルメルカプタンを添加しなかった。その結果、ニュートン効率は3.87%であった。
【0058】
【0059】
鉱物スラリーに過酸化水素およびデシルメルカプタンを添加した実施例1~4では、ニュートン効率が56~63%であり、砒素を効率よく分離できている。一方、鉱物スラリーに過酸化水素を添加していない比較例1~4、デシルメルカプタンを添加していない比較例5、過酸化水素およびデシルメルカプタンの両方を添加していない比較例6では、ニュートン効率が2~32%であり、砒素の分離効率が低いことが分かる。
【0060】
これより、鉱物スラリーに酸化剤およびアルキルメルカプタンを添加することで、砒素を効率よく分離できることが確認された。これを利用すれば、砒素品位の高い原料から砒素品位の低い精鉱を得ることができる。
【0061】
また、実施例1~4より、少なくとも鉱物スラリーの液相のpHが8~11の範囲において、砒素を効率よく分離できることが確認された。