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特許7299597レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性の判定方法及びレーザ加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性の判定方法及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20230621BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/00 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018244267
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020104136
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 COIプログラム COI拠点「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 治之
(72)【発明者】
【氏名】田丸 博晴
(72)【発明者】
【氏名】小西 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】湯本 潤司
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-523537(JP,A)
【文献】特開2007-029989(JP,A)
【文献】特表2018-506489(JP,A)
【文献】特開2015-190934(JP,A)
【文献】特開2008-50219(JP,A)
【文献】特開2017-159319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工におけるレーザ光強度への相関性を判定する方法であって、
工作物の加工位置における、前記レーザ加工による加工状態を示す加工状態情報を取得するステップと、
ーザ光の強度分布を示す強度分布情報を取得する強度分布取得部を前記加工位置に設置し、その状態で、前記強度分布取得部に前記レーザ光を照射することによって、前記加工位置における前記強度分布情報を取得するステップと、
前記工作物の特定位置における前記加工状態情報と前記強度分布情報とに基づいて、前記工作物のレーザ加工における前記レーザ光強度への相関性を判定するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記加工状態情報及び前記強度分布情報の一方又は両方は、前記工作物の加工位置を示すためのn次元方向での情報となっており、
ここでnは2又は3である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工作物の加工状態とは、前記工作物の形状が加工により変化した状態である
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工作物の加工状態とは、前記工作物の物性が加工により変化した状態である
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記加工状態情報における加工位置と、前記強度分布情報における加工位置とを整合させるステップをさらに備えており、
前記判定は、前記加工位置が整合させられた状態における前記加工状態情報と前記強度分布情報との重ね合わせに基づいて行われるものとなっている
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
レーザ光を工作物に照射してレーザ加工を行うための光源と、
前記工作物の加工位置における、前記レーザ加工による加工状態を示す加工状態情報を取得する加工状態取得部と、
前記加工位置に設置され、前記加工位置において、照射された前記レーザ光の強度分布を示す強度分布情報を取得する強度分布取得部と、
前記工作物の特定位置における前記加工状態情報と前記強度分布情報とに基づいて、前記工作物の前記レーザ加工におけるレーザ光強度への相関性を判定する判定部と
を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ加工装置を用いたレーザ加工方法であって、
前記光源からレーザ光を前記工作物に照射するステップと、
前記加工状態取得部により、前記工作物の加工位置における加工状態を示す加工状態情報を取得するステップと、
前記強度分布取得部を前記加工位置に設置した状態で、前記強度分布取得部に前記レーザ光を照射することによって、前記加工位置における前記強度分布情報を取得するステップと、
前記判定部により、前記工作物の特定位置における前記加工状態情報と前記強度分布情報とに基づいて、前記工作物のレーザ加工におけるレーザ光強度への相関性を判定し、この判定の結果に応じて加工状態を調整することにより、レーザ加工された工作物を得るステップと
を備えることを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を判定する方法、及び、この方法を応用したレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び2には、いわゆるビームプロファイラを用いて、レーザ光強度の分布を求める技術が記載されている。しかしながら、これらの技術は、レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を判定する技術ではない。
【0003】
特に、レーザ加工において、どのくらいのレーザ強度で物質が壊れるかという破壊閾値の測定は非常に重要なパラメータである。しかしながら、従来、破壊閾値を実験的に求めるためには、レーザ光強度を変えながら実験を繰り返してその結果を顕微鏡等で観察する必要があった(下記非特許文献1参照)。このため、この閾値の測定は非常に煩雑であるという問題があった。しかも、この測定では、レーザ光の強度分布がガウス分布であることを前提にしている。したがって、実際のレーザ光の強度分布がガウス分布ではない場合には、得られた破壊閾値の信頼性が低いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-190934号公報
【文献】特開2017-159319号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】"Simple technique for measurements of pulsed Gaussian-beam spot sizes", J. M. Liu, Optics Letters 7, 196 (1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的の一つは、レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を、簡便な手法により、高精度に判定することができる技術を提供することである。また、本発明の他の目的は、この判定に基づいてレーザ加工を行うことができる加工装置及び加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0008】
(項目1)
レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を判定する方法であって、
工作物の加工位置における、前記レーザ加工による加工状態を示す加工状態情報を取得するステップと、
前記加工位置におけるレーザ光の強度分布を示す強度分布情報を取得するステップと、
前記加工状態情報と前記強度分布情報とに基づいて、前記工作物のレーザ加工における前記レーザ光強度への依存性を判定するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【0009】
(項目2)
前記加工状態情報及び前記強度分布情報の一方又は両方は、前記工作物の加工位置を示すためのn次元方向での情報となっており、
ここでnは2以上の整数である
項目1に記載の方法。
【0010】
(項目3)
前記工作物の加工状態とは、前記工作物の形状が加工により変化した状態である
項目1又は2に記載の方法。
【0011】
(項目4)
前記工作物の加工状態とは、前記工作物の物性が加工により変化した状態である
項目1又は2に記載の方法。
【0012】
(項目5)
前記加工状態情報における加工位置と、前記強度分布情報における加工位置とを整合させるステップをさらに備えており、
前記判定は、前記加工位置が整合させられた状態における前記加工状態情報と前記強度分布情報との重ね合わせに基づいて行われるものとなっている
項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0013】
(項目6)
レーザ光を工作物に照射してレーザ加工を行うための光源と、
前記工作物の加工位置における、前記レーザ加工による加工状態を示す加工状態情報を取得する加工状態取得部と、
前記加工位置における前記レーザ光の強度分布を示す強度分布情報を取得する強度分布取得部と、
前記加工状態情報と前記強度分布情報とに基づいて、前記工作物の前記レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を判定する判定部と
を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【0014】
(項目7)
項目6に記載のレーザ加工装置を用いたレーザ加工方法であって、
前記光源からレーザ光を前記工作物に照射するステップと、
前記加工状態取得部により、前記工作物の加工位置における加工状態を示す加工状態情報を取得するステップと、
前記強度分布取得部により、前記加工位置におけるレーザ光の強度分布を示す強度分布情報を取得するステップと、
前記判定部により、前記加工状態情報と前記強度分布情報とに基づいて、前記工作物のレーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を判定し、この判定の結果に応じて加工状態を調整することにより、レーザ加工された工作物を得るステップと
を備えることを特徴とするレーザ加工方法。
【0015】
(項目8)
項目7に記載のレーザ加工方法によりレーザ加工された工作物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を、簡便な手法により、高精度に判定することが可能になる。また、この判定に基づいてレーザ加工を行うことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態におけるレーザ加工方法において使用する測定装置の構成要素を示すブロック図である。
図2図1の測定装置の概略的な説明図である。
図3図1の装置を用いて行われるレーザ加工方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図4】強度分布情報の一例を示す図であって、縦軸及び横軸は、XY方向を示し、レーザ光の強度情報をグレイスケールで示している。
図5】加工状態情報の一例を示す図であって、縦軸及び横軸は、XY方向を示し、深さ情報をグレイスケールで示している。
図6】座標を一致させた後の加工状態情報と強度分布情報とを重ね合わせた状態を模式的に示す説明図である。
図7】サファイア基板におけるレーザ光強度(横軸)と加工深さ(縦軸)との関係を示すグラフである。
図8】加工深さと破壊閾値との関係を説明するための説明図である。
図9】本発明の一実施形態において用いられるレーザ加工装置の構成要素を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る判定方法を、添付の図面を参照しながら説明する。
【0019】
(測定装置)
まず、この判定方法に用いる測定装置の概要を、図1及び図2に基づいて説明する。
【0020】
この測定装置は、光源1と、光学系2と、加工状態取得部3と、強度分布取得部4と、ホルダ5と、ステージ6(図2参照)とを備えている。
【0021】
(光源)
光源1は、レーザ光11(図2参照)を工作物10に照射してレーザ加工を行うものである。ここで、レーザ光11は、図2において図中左から右に進むように設定されている。また、図2においては、レーザ光11の光軸方向を一点鎖線で示している。
【0022】
(光学系)
光学系2は、光源1から発せられたレーザ光11を、ホルダ5により保持された工作物10に向けて転送するものであり、適宜なレンズ、フィルタ、あるいは波長変換器(図示せず)を必要に応じて備えている。
【0023】
(加工状態取得部)
加工状態取得部3は、工作物10の加工位置における、レーザ加工による加工状態を示す加工状態情報を取得する構成となっている。ここで、本実施形態における加工とは、工作物10の形状を変化させる操作、又は、工作物10の物性を変化させる操作をいうものとする。またここで、工作物10の形状の変化とは、工作物の部分的除去(いわゆる除去加工)、又は、工作物10への物質の付加(いわゆる付加加工)をいうものとする。したがって、本実施形態における加工には、いわゆる光造形法による工作物(造形物)の形成を含む。
【0024】
加工状態取得部3としては、工作物10の形状あるいは物性の変化を、位置情報と併せて取得可能な検査装置を用いることが好ましい。例えば、加工目的が工作物10の除去加工(すなわち部分的破壊)又は付加加工である場合は、工作物10の形状を取得可能な各種の顕微鏡を用いることができる。また、顕微鏡としては、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)のような電子顕微鏡を用いることができるが、用途によっては、光学顕微鏡を用いることも可能である。
【0025】
また、加工目的が工作物10の物性の変化(すなわち変性)である場合は、加工状態取得部3としては、この変性を、位置情報と併せて取得可能な機器を用いることができる。例えばSEMは、対象物に照射された電子線により対象物から放射される二次電子などを検出するので、これを用いて、形状の変化を伴わないある種の変性を検出することもできる。
【0026】
いずれにせよ、本実施形態の加工状態取得部3としては、工作物10の形状又は変性に関する必要な加工状態情報を取得できるものであれば、その具体的構成は特に制約されない。
【0027】
(強度分布取得部)
強度分布取得部4は、加工位置におけるレーザ光の強度分布を示す強度分布情報を取得する構成となっている。強度分布取得部4としては、本実施形態では、2次元面内でのレーザ光の強度分布を取得可能な、いわゆるビームプロファイラが用いられている。ここで、レーザ光の強度分布の分解能としては、必要な程度に高性能であることが好ましい。例えば、レーザ光がレンズにより集光されているときは、集光面内において十分な解像度を持つことが好ましい。より具体的な一例としては、ピクセルサイズが1.12μm×1.12μmであり、量子化ビット数が10bitのCMOSセンサをビームプロファイラとして用いることができる。
【0028】
(ホルダ)
ホルダ5は、工作物10を保持する構成となっている。このようなホルダ5としては、適宜な構成を採用できるので、これについての詳しい説明は省略する。
【0029】
(ステージ)
ステージ6は、ホルダ5の三次元的な(つまりXYZ軸上での)位置を調整できるようになっており、これによって、ホルダ5を介して工作物10の位置を調整できるようになっている。また、ステージ6は、ホルダ5と同じ位置に強度分布取得部4を配置できるようになっており、同様に強度分布取得部4の位置を調整できるようになっている。このステージ6としては、必要な方向において、必要な精度で位置調整が可能なものであればよい。
【0030】
(本実施形態の判定方法)
以上の説明を前提として、本実施形態に係る判定方法を、図3をさらに参照しながら説明する。以下の例では、基本的に、工作物10に対する除去加工を行う場合について説明する。
【0031】
図3のSA-1及びSA-2)
まず、ステージ6に強度分布取得部4を配置する。強度分布取得部4の位置は、工作物10が加工のために配置される位置と同じ位置とされる。この状態で、光源1からレーザ光11を照射する。照射されたレーザ光11は、光学系2を介して強度分布取得部4に到達する。これにより、強度分布取得部4は、工作物の加工位置におけるレーザ光11の強度分布情報を取得することができる。図4に、このようにして得られた強度分布情報の一例を示す。図4の例では、2次元座標(つまりピクセル位置)に対応するレーザ光の強度情報が示されている。
【0032】
図3のSA-3)
前記したステップの後又は前に、ホルダ5をステージ6に配置することによって、工作物10の加工位置に、工作物10を設置する。その後、前記したステップSA-1と同様にレーザ光の照射を行い、工作物に対する加工(この例では除去加工)を行う。
【0033】
図3のSA-4)
ついで、加工状態取得部3により、工作物10における加工状態情報を取得する。取得された加工状態情報の一例を図5に示す。この例では、除去加工により形成された穴の深さを、工作物表面に対応する2次元座標に対応して示している。
【0034】
図3のステップSA-5)
ついで、本実施形態では、強度分布情報を表す画像を滑らかにするための画像処理、例えば画素補間やスムージングを行う。これらの処理については従来から知られた手法を利用できるので、詳しい説明は省略する。
【0035】
ついで、座標系が整合された強度分布情報と加工状態情報とを重ね合わせる。重ね合わせた状態を図6に示す。重ね合わせの際には、得られた強度分布情報(図4参照)における2次元座標と加工状態情報(図5参照)における2次元座標とを整合させる。例えば、加工された穴の端の点(図6の黒点)のレーザ強度が、X軸及びY軸上のそれぞれにおいて最も等しくなるように、図4図5の原点の相対位置と相対的な面内回転角を調整することで、整合させることが可能である。つまり、同じレーザ光強度であれば同じ加工量であることを前提として、ばらつきが最小になるように調整する。この重ね合わせにより、特定の位置(すなわち座標)におけるレーザ光強度と深さとの関係を知ることができる。
【0036】
図6では、同じレーザ光強度である位置を楕円状の破線で示している。つまり、一つの楕円状の破線は、同じレーザ光強度となる位置を示している。ただし、図6は、概念を説明するための模式的な説明図であり、このように重ね合わせた図を実際に作成しなくともよい。要するに、工作物10の特定位置における強度分布情報と加工状態情報とを取得できればよい。
【0037】
レーザ光強度と加工深さとの関係を図7に示す。一つのレーザ光強度に対応する加工深さ(縦軸)は、図6に示す一つの破線を辿りながら取得した深さと同じ意味である。この深さに分散があるのは、同じレーザ光強度であっても、深さが若干ばらついていることを示す。図7において実線は、それぞれのレーザ光強度における深さの平均値を示す。
【0038】
図3のステップSA-6)
ついで、本実施形態では、図7のような解析結果を参照して、工作物10の破壊閾値を判定する。
【0039】
ここで、本実施形態における破壊閾値の判定の概念を、図8を参照して説明する。図8では、工作物10に形成された凹部101の断面を模式的に示している。また、凹部101の上方には、照射されたレーザ光の強度分布を示している。この強度分布の横軸(位置)は、工作物10の位置と整合させられているものとする。
【0040】
この状態で、凹部101の開口端位置(すなわち破壊開始位置)におけるレーザ光強度Fを破壊閾値Fthとすることができる。なお、この図においてFはレーザ光強度のピークを示している。
【0041】
ここで図7を参照すると、図7において符号Aで示す三角の先端が、工作物10の破壊閾値を示している。また、同図において符号Bでおよび符号Cで示す三角の先端は、別の破壊閾値を示していると考えられる。
【0042】
図8では、レーザ光の強度分布がガウス分布である例を示しているが、本実施形態の手法によれば、ガウス分布以外の波形、例えば二峰性の分布においても、破壊閾値を精度よく判定することができる。
【0043】
また、レーザ加工においては、レンズにより加工点にレーザ光を集光することが一般的である。この場合、レーザ光の強度分布は理想的なガウス分布とはならない。しかしながら、このような場合でも、従来は、ガウス分布を前提として破壊閾値を推定する手法が採られており、推定の信頼性が低いという問題があった。これに対して、本実施形態の手法によれば、特定の強度分布波形を前提とせずに、実際の強度分布から破壊閾値を判定することができるので、破壊閾値の判定精度を向上させることができるという利点がある。
【0044】
さらに、本例の手法では、図7に示すような複数の閾値を判定することも可能になる。
【0045】
(レーザ加工装置)
次に、前記した手法を応用したレーザ加工装置の実施形態を、図9を参照しながら説明する。この加工装置の説明においては、前記した測定装置における各要素と基本的に同様の要素については、同一符号を付することにより、説明の重複を避ける。
【0046】
この加工装置は、図1の装置構成に加えて、さらに、判定部7を備えている。この判定部7は、加工状態取得部3で得られた加工状態情報と、強度分布取得部4で得られた強度分布情報とに基づいて、工作物10のレーザ加工におけるレーザ光強度への依存性を判定する構成となっている。
【0047】
具体的には、この判定部7は、図7に示すような形状情報を抽出し、その変化量(例えば微分値)に基づいて、変化量の極大点におけるレーザ光強度を破壊閾値とすることができる。このような判定部7は、コンピュータハードウエア若しくはコンピュータソフトウエア、又はそれらの組み合わせにより構成することができる。また、このような判定結果に基づいて、例えば光源1におけるレーザ光出力値や光学系2を調整し、工作物10の加工状態を最適化することができる。これにより、最適条件で加工された工作物10を得ることができる。
【0048】
なお、本発明の内容は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0049】
例えば、前記した実施形態の説明においては、レーザ加工として主に除去加工について説明したが、除去加工以外の加工、例えば付加加工に本実施形態の手法を適用することができる。この場合も、工作物の形状情報を図7に示すように取得し、この形状情報とレーザ光の強度分布情報とを用いて加工閾値を判定することができる。
【0050】
また、レーザ加工としては、工作物の変形を伴わずに、その物性のみが変化する変性を生じさせる加工であってもよい。この場合でも、変性位置を可視化することにより、例えば図5に示すような二次元座標上での変性位置の情報を取得することができる。この変性位置情報と、図4に示すような強度分布情報との対比により、変性の閾値を判定することができる。何らかの手段により変性の深さ情報を取得することができれば、図7に示すような深さ方向での変性位置情報を用いて変性の閾値を判定することもできる。判定部7により変性閾値を自動的に取得することも可能である。
【0051】
さらに、図5及び図7に示される加工状態情報は、工作物の表面におけるXY方向と深さ方向でのZ方向という3次元の形状情報となっているが、これに限らず、用途によっては2次元的な情報により閾値を判定することもできる。つまり、非加工位置と加工位置との境界を加工開始位置と推定し、この位置におけるレーザ光強度を加工閾値と判定することができる。
【0052】
また、前記した実施形態では、加工状態情報と強度分布情報とがいずれも静止画により表されているが(図4及び図5参照)、いずれか又は両方が動画像であってもよい。動画像は、時間方向において離散的に順次取得された静止画として観念できるので、動画像の一部を適宜に利用して本実施形態の手法を適用することができる。
【0053】
さらに、前記した実施形態では、工作物のレーザ加工におけるレーザ光強度への依存性として、閾値を例示したが、閾値に限らず、レーザ加工におけるレーザ光強度とレーザ光による加工状態との間の何らかの依存性あるいは相関であれば、前記した本発明の手法を適用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 光源
11 レーザ光
2 光学系
3 加工状態取得部
4 強度分布取得部
5 ホルダ
6 ステージ
7 判定部
10 工作物
101 工作物の凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9