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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】栄養組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/20 20060101AFI20230622BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20230622BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20230622BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20230622BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20230622BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20230622BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20230622BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20230622BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20230622BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20230622BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230622BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230622BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61K35/20
A23L33/12
A23L33/16
A23L33/175
A23L33/19
A61K31/198
A61K31/202
A61K31/7016
A61K33/30
A61K38/01
A61P3/02
A61P11/00
A61P29/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017553844
(86)(22)【出願日】2016-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2016085204
(87)【国際公開番号】W WO2017094669
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2015236300
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】粂 久枝
(72)【発明者】
【氏名】磯部 大志
(72)【発明者】
【氏名】前川 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】大力 一雄
(72)【発明者】
【氏名】芦田 欣也
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】星 功介
【審判官】岡崎 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505640(JP,A)
【文献】特表2012-533627(JP,A)
【文献】特表2013-534133(JP,A)
【文献】特表2004-506437(JP,A)
【文献】特表2002-528797(JP,A)
【文献】特開2008-247848(JP,A)
【文献】Respiratory Medicine,2012年,Vol.106,pp.1526-1534
【文献】BMC Pulmonary Medicine,2015年6月10日,Vol.15,No.64,pp.1-7
【文献】「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,[online],2013年6月9日,[2021年5月17日検索],インターネット<URLhttps://web.archive.org/web/20130609013322/http://www.peg.or.jp/lecture/enteral_nutrition/product/meiji_mein/index.html>
【文献】「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,[online],2015年10月22日,[2021年5月14日検索],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20151022050957/http://www.happy-at-home.org/6_5.cfm>
【文献】臨床栄養,2014年,第125巻,第4号,p.421-426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
A61K 35/00-35/768
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性の栄養組成物であって、
ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含むタンパク質源を含有し、
前記タンパク質源の総重量に対する前記ホエイタンパク質の重量と前記ホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上であり、
前記ホエイタンパク質の重量と前記ホエイペプチドの重量との比率は、2.5:2.3~1:10であり、
タンパク質エネルギー比が16%以上かつ50%未満であり、
100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、
EPAを1~100mg/100kcalで含有し、DHAを1~100mg/100kcalで含有し、
酸性である、栄養組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の栄養組成物であって、
当該栄養組成物のpHは、3以上5以下である、栄養組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の栄養組成物であって、
亜鉛をさらに含有する、栄養組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の栄養組成物であって、
前記タンパク質源は、ロイシンをさらに含む、栄養組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の栄養組成物であって、
リハビリテーション栄養用の栄養組成物である、栄養組成物。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の栄養組成物であって、
慢性閉塞性肺疾患の予防及び/又は改善用の栄養組成物である、栄養組成物。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の栄養組成物であって、
抗炎症用の栄養組成物である、栄養組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の栄養組成物であって、
糖質としてパラチノースをさらに含有する、栄養組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の栄養組成物であって、
前記パラチノースを10~16g/100kcal含有する、栄養組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の栄養組成物であって、
前記パラチノースを糖質全体の20重量%以上含有する、栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、栄養組成物に関し、より詳細には、流動性の栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、患者等に投与するための様々な栄養組成物が知られている。栄養組成物は、例えば、患者等に不足している栄養成分を補い、病気の予防や改善に寄与する。
【0003】
特表2013-515718号公報には、筋退縮を伴う疾患の予防又は処置に用いられる栄養組成物が開示されている。当該栄養組成物は、100kcal当たり、少なくとも約12gのタンパク質様物質を含有する。タンパク質様物質には、約80重量%のホエイタンパク質が含まれる。
【0004】
特表2013-515718号公報の栄養組成物は、低カロリー且つ高タンパク質に構成されている。特表2013-515718号公報によれば、低カロリー組成物中に食物性タンパク質を与えると、高カロリー組成物中に食物性タンパク質を与えた場合と比較して、アミノ酸がより早く循環血液に達し、アミノ酸の血中レベルが高くなる。これにより、筋タンパク質の合成が刺激される。
【発明の開示】
【0005】
リハビリテーション中の患者(リハビリ患者)は、一般に、低栄養の状態であることが多い。リハビリ患者が低栄養の状態のまま、十分な栄養を摂取しないと、身体機能を改善することができず、身体機能を悪化することさえある。したがって、リハビリ患者が適切な栄養の状態を維持すること(リハビリテーション栄養(リハビリ栄養))が重要である。
【0006】
リハビリ栄養が必要な疾患として、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝不全、関節リウマチ、慢性心不全、慢性腎不全、下肢切断、大腿骨頸部骨折、糖尿病、脳卒中、癌、廃用症候群、パーキンソン病、誤嚥性肺炎、褥瘡などが挙げられる。これらの疾患では、炎症を伴うことがある。そして、炎症が起こると、筋タンパク質の異化を亢進して、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や、体重の減少を伴う悪液質を引き起こす原因となる。また、炎症が持続すると、食欲が低下して、十分な栄養を摂取しにくくなる。したがって、リハビリ栄養を成功させるためには、栄養療法とともに、炎症のコントロールも必要である。
【0007】
リハビリ患者の栄養の状態を適切に維持するために、栄養組成物がリハビリ患者に投与される。このとき、リハビリ患者が継続的に摂取しやすいように、栄養組成物が良好な風味を有することが好ましい。また、栄養組成物が安定した物性を有し、保存期間中にも良好な風味を維持することが好ましい。さらに、食欲不振に陥りがちなリハビリ患者が少量で必要な栄養成分を摂取できるように、栄養組成物が高カロリー(高エネルギー)な液状であることが好ましい。従来、このような用途には、脂質を高濃度で配合した栄養組成物や、タンパク質源として遊離のアミノ酸を配合した栄養組成物が用いられてきた。しかし、これらの栄養組成物には、風味が悪くて、継続的な摂取が困難である、あるいは摂取に伴い、下痢が起こるといった問題点があった。また、筋タンパク質の合成促進・異化抑制のためには、液状の組成物のタンパク質の含量を高めておくことが望ましいが、タンパク質の含量を高めると、液状の組成物の調製時の物性変化が起こりやすいといった問題点があった。
【0008】
本開示は、良好な風味及び安定した物性を有し、高カロリーであり、かつ炎症をコントロールすることができる栄養組成物を提供することを課題とする。
【0009】
本開示に係る栄養組成物は、タンパク質源を含有する。タンパク質源は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドを含む。タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、80重量%以上である。栄養組成物のタンパク質エネルギー比は、16%以上かつ50%未満である。栄養組成物は、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有する。栄養組成物は、酸性である。
【0010】
本開示に係る栄養組成物は、酸性であるため、良好な風味を有する。すなわち、患者は、栄養組成物に対して、爽やかな風味を感じることができ、栄養組成物を抵抗なく摂取することができる。
【0011】
本開示に係る栄養組成物において、タンパク質源の総重量のうち80重量%以上は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドである。ホエイタンパク質及びホエイペプチドは、カゼインと比較して、酸性下で固化しにくい。このため、栄養組成物において、沈殿の発生等が抑制や防止され、物性を安定させることができる。また、ホエイタンパク質及びホエイペプチドは、抗炎症作用を有する。このため、栄養組成物により、リハビリ患者等の炎症をコントロールすることができる。
【0012】
本開示に係る栄養組成物は、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、一般的な栄養組成物よりも高カロリーに構成されている。このため、本開示に係る栄養組成物によれば、比較的に少量の摂取で、患者に必要な栄養成分を補うことができる。
【0013】
本開示に係る栄養組成物において、ホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との比率は、5:1~1:10であってもよい。
【0014】
ホエイペプチドは高い抗炎症作用を有する。しかし、ペプチドを増やしすぎると、浸透圧が高くなり、下痢を引き起こす恐れがある。しかし、上記構成によれば、ホエイタンパク質とホエイペプチドとの重量比が5:1~1:10の範囲であるため、ホエイペプチドの含有量が多くなり過ぎない。よって、栄養組成物の浸透圧が高くなって、下痢等を引き起こすことを防止しながら、高い抗炎症作用をもたせることができる。
【0015】
本開示に係る栄養組成物において、pHは、3以上5以下であってもよい。
【0016】
上記構成によれば、栄養組成物を摂取する患者に対して、好ましい酸味を感じさせることができる。よって、患者が栄養組成物を継続的に摂取しやすくなる。
【0017】
本開示に係る栄養組成物は、さらに、脂質源を含有していてもよい。脂質源は、n-3系脂肪酸を含むことができる。
【0018】
上記構成によれば、n-3系脂肪酸によって、患者の疾患に伴う炎症を抑制することができる。よって、炎症が引き起こす筋タンパク質の異化の亢進を防止することができ、その結果、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や、体重の減少を伴う悪液質等を防止することができる。また、炎症の持続による食欲減退を防止することもできる。
【0019】
本開示に係る栄養組成物は、亜鉛をさらに含有していてもよい。
【0020】
本開示に係る栄養組成物において、タンパク質源は、ロイシンをさらに含んでいてもよい。
【0021】
本開示に係る栄養組成物は、リハビリテーション栄養のために用いることができる。
【0022】
本開示に係る栄養組成物は、慢性閉塞性肺疾患の予防及び/又は改善のために用いることができる。
【0023】
本開示に係る栄養組成物は、抗炎症のために用いることができる。
【0024】
本開示によれば、良好な風味及び安定した物性を有し、高カロリーの栄養組成物を得ることができ、かつ炎症をコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のMCP-1濃度を示すグラフである。
図2】実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のKC濃度を示すグラフである。
図3】実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のMMP-9濃度を示すグラフである。
図4】実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のNE濃度を示すグラフである。
図5】実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液の好中球数を示すグラフである。
図6】実施例2-1~実施例2-3、比較例2、及び対照例2における肺胞の洗浄液のKC濃度を示すグラフである。
図7】実施例2-1~実施例2-3、比較例2、及び対照例2における肺胞の洗浄液のMMP-9濃度を示すグラフである。
図8】実施例2-1~実施例2-3、比較例2、及び対照例2における肺胞の洗浄液の好中球数を示すグラフである。
図9】実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿AST活性を示すグラフである。
図10】実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿ALT活性を示すグラフである。
図11】実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿TNF-αの濃度を示すグラフである。
図12】実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿IL-6の濃度を示すグラフである。
図13】実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿MCP-1の濃度を示すグラフである。
図14】実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿AST活性を示すグラフである。
図15】実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿ALT活性を示すグラフである。
図16】実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿TNF-αの濃度を示すグラフである。
図17】実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿IL-6の濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
例えば、リハビリテーション中の患者(リハビリ患者)は、一般に、低栄養の状態であることが多い。リハビリ患者が十分な栄養を摂取しない場合、身体機能を改善することができず、身体機能を悪化する場合がある。したがって、リハビリ患者等のように、低栄養の状態に陥りやすい患者について、栄養の状態に留意し、栄養の状態を適切に維持することが重要である。
【0027】
栄養の状態に留意すべき疾患として、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝不全、関節リウマチ、慢性心不全、慢性腎不全、下肢切断、大腿骨頸部骨折、糖尿病、脳卒中、癌、廃用症候群、パーキンソン病、誤嚥性肺炎、及び褥瘡等を挙げることができる。これらの疾患は、炎症を伴うことがある。そして、炎症が起こると、筋タンパク質の異化を亢進し、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や、体重の減少を伴う悪液質等を引き起こす。また、炎症が持続すると、食欲が減退し、十分な栄養を摂取しにくくなる。
【0028】
[栄養組成物の構成]
本実施形態に係る栄養組成物は、患者の栄養の状態を適切に維持するために使用される。本実施形態に係る栄養組成物は、主として、リハビリ栄養、あるいはリハビリ栄養のサポートのために用いられる。すなわち、この栄養組成物は、リハビリ患者に用いられ、低栄養の予防及び/又は改善に寄与し得る。この栄養組成物は、上述の疾患を有する患者等のように、適切な栄養の状態を維持すべき患者に投与することができる。この栄養組成物は、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防及び/又は改善のために使用される。この栄養組成物は、筋タンパク質の合成を促進し、筋タンパク質の分解を抑制するためにも使用される。この栄養組成物は、炎症の抑制にも寄与し得る。以下、この栄養組成物の構成について説明する。
【0029】
本実施形態に係る栄養組成物は、流動性である。この栄養組成物は、例えば、液状である。この栄養組成物は、酸性を有する。この栄養組成物において、好ましくは、pHが3~5である。
【0030】
本実施形態に係る栄養組成物において、pHが3~5であれば、この栄養組成物を摂取する患者に対して、適度な酸味を感じさせることができる。このため、この栄養組成物を患者が継続的に摂取しやすくなり、患者の栄養の状態を適切に維持することができる。
【0031】
本実施形態に係る栄養組成物は、比較的に高カロリーである。すなわち、この栄養組成物は、好ましくは、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、より好ましくは、125kcal/100ml以上、さらに好ましくは150kcal/100ml以上のカロリー密度を有する。
【0032】
本実施形態に係る栄養組成物は、タンパク質源と脂質源とを含有する。この栄養組成物は、好ましくは、タンパク質源を2~8g/100kcalで含有し、より好ましくは、タンパク質源を3~6/100kcal、さらに好ましくは4~6g/100kcalで含有することができる。この栄養組成物は、好ましくは、脂質源を1~4g/100kcalで含有し、より好ましくは、脂質源を2~3.5g/100kcal、さらに好ましくは脂質源を2~3g/100kcalで含有することができる。前記のタンパク質源や脂質源の量となることで、高カロリー(カロリー密度が高く)かつ保存後の物性がより良好である。
【0033】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源は、筋タンパク質の合成の促進に寄与する。このタンパク質源は、ホエイタンパク質とホエイペプチドとを含む。この栄養組成物において、タンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との合計の比率は、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。この栄養組成物において、ホエイタンパク質の重量とホエイペプチドの重量との比率は、好ましくは5:1~1:10であり、より好ましくは3:1~1:7である。
【0034】
本実施形態に係る栄養組成物は、ホエイタンパク質とホエイペプチドとの重量比を5:1~1:10の範囲に設定することにより、この栄養組成物において、浸透圧を増加させるホエイペプチドの含有量が多くなり過ぎるのを防止することができる。よって、この栄養組成物において、浸透圧が高くなって、下痢等を引き起こすことを防止しつつ、抗炎症作用をもたせることができる。
【0035】
本実施形態に係るホエイとは、例えば牛乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分である。ホエイは一般的に、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に、副産物として得られるチーズホエイやレンネットホエイ(またはスイートホエイともいう)、脱脂乳から酸カゼイン、発酵乳やクワルクなどを製造した際に得られるカゼインホエイ、酸ホエイ、クワルクホエイである。ホエイタンパク質とは、例えば牛乳中で、カゼインを除くタンパク質の総称である。ホエイタンパク質は、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリンなどの複数の成分から構成されており、乳糖、ビタミン、ミネラルなどは含まれない。牛乳などの乳原料を酸性に調整した際に、沈殿するタンパク質がカゼイン、沈殿しないタンパク質がホエイタンパク質となる。
【0036】
なお、本実施形態に係るホエイには、ホエイを濃縮処理した濃縮ホエイ、ホエイを乾燥処理したホエイパウダー、ホエイの主要なタンパク質などを限外濾過(Ultrafiltration:UF)法などで濃縮処理した後に乾燥処理したホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate:以下、「WPC」ともいう)、ホエイを精密濾過(Microfiltration:MF)法や遠心分離法などで脂肪を除去してからUF法で濃縮処理した後に乾燥処理した脱脂WPC(低脂肪・高タンパク質)、ホエイの主要なタンパク質などをイオン交換樹脂法やゲル濾過法などで選択的に分画処理した後に乾燥処理したホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate:以下、「WPI」ともいう)、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)法や電気透析法などで脱塩処理した後に乾燥処理した脱塩ホエイ、ホエイ由来のミネラル成分を沈殿処理してから遠心分離法などで濃縮処理したミネラル濃縮ホエイなども包含される。
【0037】
本実施形態に係るホエイペプチドは、例えば、ホエイやホエイタンパク質を以下の酵素などで加水分解して製造できる。ホエイの加水分解に用いる酵素は、ペプシン、トリプシンおよびキモトリプシンであるが、植物起源のパパイン、バクテリアや菌類由来のプロテアーゼを用いた研究報告(Food Technol.,48:68-71,1994;Trends Food Sci.Technol.,7:120-125,1996;Food Proteins and Their Applications,pp.443-472,1997)もある。ホエイタンパク質を加水分解する酵素活性は大きく変動する。ペプシンはα-Laおよび変性したα-Laを分解するが、未変性の(native)β-Lgを分解しない(Neth.Milk dairy J.,47:15-22,1993)。トリプシンはα-Laをゆっくり加水分解するがβ-Lgはほとんど未分解のままである(Neth.Milk dairy J.,45:225-240,1991)。キモトリプシンはα-Laを速く分解するが、β-Lgはゆっくり分解される。パパインはウシ血清アルブミン(BSA)およびβ-Lgを加水分解するが、α-Laは抵抗性がある(Int.Dairy Journal 6:13-31,1996a)。しかしながら、Caを結合していないα-Laは酸性のpHでパパインにより完全に分解される(J.Dairy Sci.,76:311-320,1993)。
【0038】
ペプチド結合の加水分解は、荷電基の数および疎水性の増加、低分子量化、および分子の立体配置の修飾をもたらす(J.Dairy Sci.,76:311-320,1993)。機能的特性の変化は加水分解度に大きく依存する。ホエイタンパク質の機能性に共通してみられる最も大きな変化は溶解性の増加と粘度の低下である。加水分解度が高い場合、しばしば、加水分解物は加熱しても沈澱せず、pH3.5~4.2で溶解性が高い。加水分解物は、また、無処置の(intact)タンパク質よりもはるかに粘度が低い。この差異はとくにタンパク質濃度が高い場合に顕著である。その他の影響は、ゲル特性の変化、熱安定性を高める、乳化および起泡性の増強、乳化および泡の安定性の低下である。
【0039】
本実施形態で用いられるホエイペプチドは、抗炎症作用を有することが好ましい。例えばin vivoにおけるLPS誘導性TNF-αおよびIL-6産生を抑制する作用を確認する。LPS誘導性TNF-αおよびIL-6産生を抑制する作用を有するかどうかは、公知のアッセイ系(例えば、実験医学別冊、「バイオマニュアルUP実験シリーズ」、サイトカイン実験法、宮島篤、山本雅 編、(株)羊土社、1997)で確認できる。LPS誘導性TNF-α及び/又はIL-6産生の抑制効果を指標にホエインパク質の加水分解条件(変性温度、pH、温度、加水分解時間および酵素/基質の比)の最適化を上記文献(International Dairy Journal 12:813-820,2002)を参考に試みることができる。なお、本実施形態で用いられるホエイペプチドは、ホエイペプチドそのもの、限外濾過膜処理後の保持液、あるいは透過液(パーミエイト)を包含する。
【0040】
本実施形態に用いることのできるホエイタンパク加水分解物としては、例えば、以下のものがあげられる。特許第3183945号公報は、加熱変性したホエイタンパク質分離物(WPI)を、エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼで加水分解後、この加水分解物中の芳香族アミノ酸をイオン交換樹脂で吸着処理することにより得られる、Fischer比が10以上、分岐鎖アミノ酸が15%以上、芳香族アミノ酸が2%未満のホエイタンパク加水分解物(分子量200~3,000のペプチド混合物)を開示している。
【0041】
特表平6-50756号公報は、タンパク質含量が少なくとも65%のホエイタンパク濃縮物(WPC)の12%水溶液を、60℃を超える温度で熱処理後、B.licheniformis由来のアルカラーゼおよびB.subtilis由来のニュートラーゼで15~35%のDHまで加水分解し、この加水分解物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)後、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)で濃縮し、このNF保持液を噴霧乾燥して得られる、無臭で苦味の少ないホエイペプチドを開示している。
【0042】
本実施形態で用いられる乳タンパク質加水分解物は、市販されているものとしては、例えばPeptigen IF-3080、Peptigen IF-3090、Peptigen IF-3091およびLacprodan DI-3065(Arla Foods)、WE80BG(DMV)、Hyprol 3301、Hyprol 8361およびHyprol 8034(Kerry)、Tatua2016、HMP406(Tatua)、Whey Hydrolysate 7050(Fonterra)、Biozate3(Davisco)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。タンパク質加水分解物の調整方法としては、例えば、以下の1)~5)の工程を含む、ホエイペプチドの製法が挙げられる。
【0043】
1)乾燥物として計算された少なくとも65%の蛋白質を含むホエイ蛋白と水を混合して、20%までの蛋白質含量をもつスラリーを作り、
2)60℃を超える温度までの熱処理を行い、
3)工程2)からの混合物を、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)により作られることができるプロテアーゼにより、そして/又はバチルス・サブチリス(B.subtilis)により作られることができるプロテアーゼにより、非-pH-スタット法により、15と35%との間のDHまで蛋白分解性加水分解し、
4)工程3)からの混合物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過/マイクロフィルトレーション装置上で、その透過物が蛋白質加水分解産物(ホエイペプチド)を構成するように分離し、そして
5)その加水分解を、上記酵素の失活により終了させる。
【0044】
好ましくは、上記工程1)におけるスラリーは7~12%の蛋白質含量をもつ。好ましくは、上記工程2)における熱処理は70と90℃の間で行われる。好ましくは、上記工程3)における加水分解は20~30%の間のDHまで行われる。 好ましくは、上記前記限外濾過/マイクロフィルトレーション装置のカットオフ値は、50,000を超える。
【0045】
好ましくは、上記工程3)又は工程5)の終わりにおける混合物は、乾燥物含量に関して計算された、1と5%の間の炭素に対応する量で、好ましくは50と70℃の間の温度において、5分間より長い間、活性炭により処理され、そしてその活性炭が除去される。好ましくは、上記工程5)の後、濃縮が、好ましくは50と70℃の間の温度において、ナノフィルトレーション/ハイパーフィルトレーション/逆浸透、及び/又は蒸発により行われ、その後、その保持物がその蛋白質加水分解産物(ホエイペプチド)溶液として回収される。
【0046】
好ましくは、上記工程5)からの蛋白質加水分解産物(ホエイペプチド)溶液は、6.5%より低い水分含量までスプレードライされる。
【0047】
従って、ホエイ蛋白加水分解産物の製造のための方法は、
1)乾燥物として計算された少なくとも65%の蛋白質を含むホエイ蛋白と水とを混合し、約20%までの、好ましくは12%までの蛋白質含有量をもつスラリーを作り、
2)60℃を超える温度までの熱処理を行い、
3)段階2)からの混合物を、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)により作られることができるプロテアーゼ、好ましくはAlcalase(登録商標)により、及び/又はバチルス・サブチリス(B.subtilis)により作られることができるプロテアーゼ、好ましくはNeutrase(登録商標)により、非-pH-スタット法により、15と35%との間のDHまで蛋白分解性加水分解し、
4)段階3)からの混合物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過/マイクロフィルトレーション装置上で、その透過物が上記蛋白質加水分解産物を構成するように分離し、そして、
5)その加水分解を、上記酵素の不活性化により終了させること、
を特徴とする。
【0048】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源は、ホエイタンパク質以外のタンパク質、ホエイペプチド以外のペプチド、及び/又はアミノ酸を含有することができる。この栄養組成物において、タンパク質源は、例えば、ロイシンを含有していてもよい。この栄養組成物は、好ましくは、ロイシンを0.01~1.0g/100kcalで含有し、より好ましくは、ロイシンを0.05~0.5g/100kcalで含有することができる。
【0049】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源は、カゼインを実質的に含有しない。カゼインは、ホエイタンパク質及びホエイペプチドと比較して、固化しやすい。カゼインは、特に酸性下で、固化しやすい。この栄養組成物において、タンパク質源は、カゼインを実質的に含有しないことにより、栄養組成物において、沈殿の発生等が抑制や防止され、物性を安定させることができる。
【0050】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質エネルギー比は、好ましくは16%以上50%未満であり、より好ましくは20%以上30%未満である。すなわち、この栄養組成物は、高タンパク質であり、患者の体内において、筋タンパク質の合成を促進する。
【0051】
本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源は、n-3系脂肪酸を含有する。この栄養組成物は、好ましくは、n-3系脂肪酸を10~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、n-3系脂肪酸を30~80mg/100kcalで含有することができる。
【0052】
本実施形態に係る栄養組成物において、n-3系脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)及び/又はドコサヘキサエン酸(DHA)を含有することが好ましい。EPAとDHAは、抗炎症作用を有する。本実施形態に係る栄養組成物において、n-3系脂肪酸がEPAを含有する場合、この栄養組成物の風味の観点からは、好ましくは、EPAを1~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、EPAを10~30mg/100kcalで含有することができる。この栄養組成物において、n-3系脂肪酸がDHAを含有する場合、この栄養組成物の風味の観点からは、好ましくは、DHAを1~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、DHAを10~50mg/100kcalで含有することができる。
【0053】
本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源の少なくとも一部に、魚油を使用してもよい。魚油は、EPAとDHAを豊富に含有している。この栄養組成物において、脂質源に魚油を使用する場合、この栄養組成物は、好ましくは、魚油を0.05~0.5g/100kcalで含有し、風味の観点からより好ましくは、魚油を0.1~0.3g/100kcalで含有することができる。
【0054】
炎症が起こると、筋タンパク質の異化を亢進し、筋肉量の減少(二次性サルコペニア)や体重の減少を伴う悪液質等を引き起こす。また、炎症が持続すると、患者の食欲を減退させる。しかしながら、本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源がn-3系脂肪酸、特にEPA及び/又はDHAを含有する場合、患者の疾患に伴う炎症を抑制することができる。よって、炎症によって生じる上記のような弊害を軽減することができる。
【0055】
本実施形態に係る栄養組成物において、脂質源は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有していてもよい。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、消化吸収が一般的な長鎖脂肪酸トリグリセリドよりも速い。この栄養組成物は、好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドを0.2~2.0g/100kcalで含有し、より好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドを0.4~0.8g/100kcalで含有することができる。
【0056】
本実施形態に係る栄養組成物は、ビタミンC及び/又はビタミンEを含有することが好ましい。ビタミンCとビタミンEは、抗酸化作用を有する。この栄養組成物は、好ましくは、ビタミンCを1~1000mg/100kcalで含有し、より好ましくは、ビタミンCを10~100mg/100kcalで含有することができる。この栄養組成物は、好ましくは、ビタミンEを0.1~100mg/100kcalで含有し、より好ましくは、ビタミンEを1~10mg/100kcalで含有することができる。
【0057】
本実施形態に係る栄養組成物は、ビタミンCとビタミンE以外のビタミン類を含有することができる。この栄養組成物は、例えば、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸等のうち1種又は2種以上を含有することができる。
【0058】
本実施形態に係る栄養組成物は、亜鉛を含有することが好ましい。亜鉛は、抗炎症作用や筋肉の合成を高める作用を有する。この栄養組成物は、好ましくは、亜鉛を0.1~10mg/100kcalで含有し、より好ましくは、亜鉛を0.5~5mg/100kcalで含有することができる。
【0059】
本実施形態に係る栄養組成物は、亜鉛以外のミネラル類を含有することができる。この栄養組成物は、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等のうち1種又は2種以上を含有することができる。
【0060】
本実施形態に係る栄養組成物において、カリウムの含有量は、好ましくは20~500mg/100kcal、より好ましくは20~300mg/100kcalである。ナトリウムの含有量は、好ましくは20~500mg/100kcal、より好ましくは20~300mg/100kcalである。カルシウムの含有量は、好ましくは20~300mg/100kcal、より好ましくは20~250mg/100kcal、さらに好ましくは20~150mg/100kcalである。マグネシウムの含有量は、5~300mg/100kcal、より好ましくは10~200mg/100kcal、さらに好ましくは10~100mg/100kcalである。各ミネラル類の含有量を上記の範囲とすることにより、リハビリ患者等に対して適切な量のミネラル類を補充することができる。また、本実施形態に係る栄養組成物の製造時の適性(分散)を向上させるとともに、保存時において流動性の当該栄養組成物の沈殿を抑制できる。
【0061】
本実施形態に係る栄養組成物は、上述の成分以外の成分を含有していてもよい。この栄養組成物は、患者の疾患や栄養の状態等に応じた成分を必要な濃度で含有することができる。
【0062】
本実施形態に係る栄養組成物は、糖質や食物繊維等の炭水化物を含有していてもよい。この栄養組成物は、糖質として、例えばパラチノース及び/又はデキストリンを含有することができる。パラチノース及び/又はデキストリン等の糖質の含有量は、好ましくは10~16g/100kcal、より好ましくは12~14g/100kcalである。リハビリ栄養を必要とする疾患を有する患者では、糖尿病も併発している患者が少なくない。そこで、本実施形態に係る栄養組成物では、糖の吸収が緩やかなパラチノースを糖質全体の20重量%以上使用することが好ましい。より好ましくは、パラチノースの使用量は糖質全体の50重量%以上である。
【0063】
本実施形態に係る栄養組成物では、食物繊維として、食後の血糖上昇を抑制する効果があり、製造時において過度な粘度を生じさせにくい難消化性デキストリンを用いることが好ましい。難消化性デキストリン等の食物繊維の含有量は、好ましくは0.5~3.0g/100kcal、より好ましくは1.0~2.0g/100kcalである。
【0064】
[栄養組成物の製造方法]
次に、本実施形態に係る栄養組成物の製造方法の例を説明する。ただし、この栄養組成物の製造方法は、以下で説明する製造方法に限定されるものではない。
【0065】
まず、栄養組成物の原料を調合する。具体的には、調合タンク(ミキサー)に、溶解水:22,000gを添加(投入)する。この溶解水は、例えば、水道水、精製水、イオン交換水、逆浸透(RO)膜によって不純物が除去されたRO水等である。この溶解水は、温度を40~80℃程度に設定することができる。そして、調合タンクに、デキストリン(75重量%のデキストリン溶液):169gを添加して、溶解水及びデキストリンを混合(撹拌)する。
【0066】
次に、調合タンクに、硫酸第一鉄:0.08g、pH調整剤:26gを添加して混合してから、油脂調整液:2,328g(例えば、植物油脂:2,200g、動物油脂:128g等)を添加して混合する。さらに、ホエイペプチド(ホエイタンパク質分解物):2,640g、ホエイタンパク質濃縮物:3,000g、食物繊維:750g、パラチノース:3,360g、乳化剤:780g、分岐鎖アミノ酸:240g、安定剤:3,360gを添加して混合してから、カルシウム製剤:630g、リン酸マグネシウム:90g、セレン酵母:2g、グルコン酸亜鉛:7g、グルコン酸銅:0.36g、食塩:96g、塩化カリウム:42gを添加して混合する。
【0067】
pH調整剤は、食用に供することができれば、特に制限されるものではなく、pH調整剤には、有機酸類、無機酸類を単独で又は2種以上で混合して使用することができる。有機酸類には、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、フマール酸及びそれらの塩等を使用することができる。無機酸類には、例えば、塩酸、リン酸及びその塩等を使用することができる。また、有機酸には、食品添加物を使用することができるが、天然由来の有機酸、例えば、レモン果汁やリンゴ果汁等も使用することができる。油脂調整液は、食用に供することができれば、特に制限されるものではなく、油脂調整液には、例えば、なたね油、パーム油、パーム分別油、米油、コーン油、魚油等を単独で又は2種以上で混合して使用することができる。油脂調整液は、温度を50~60℃程度に設定することができる。
【0068】
調合タンクで上述の成分を混合(撹拌)しながら、例えば、50~60℃、15分間以上(15~60分間)で保持する。これにより、栄養組成物の原料の調合が完了する。
【0069】
次に、調合タンクで調合された調合液(原料)を予備加熱処理及び加熱殺菌処理する。予備加熱処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、調合液を75~85℃に加熱する。加熱殺菌処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器、スチームインジェクション加熱器、スチームインフュージョン加熱器等を使用し、予備加熱処理後の調合液を例えば、120~145℃、1~10秒間で加熱する。
【0070】
次に、加熱殺菌処理された調合液を予備冷却処理及び予備均質化処理する。予備冷却処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、調合液を70~80℃に冷却する。予備均質化処理では、例えば、ホモゲナイザーを使用し、調合液を例えば、70~80℃、40~60MPaで均質化(微細化)する。そして、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、予備均質化処理された調合液を例えば、5~25℃に冷却して、中間貯液タンクに貯留する。
【0071】
中間貯液タンクで調合液を混合(撹拌)しながら、例えば、5~25℃で保持する。調合液が貯留された中間貯液タンクに、ビタミン類(例えば、ビタミンC:87g、ビタミンE:9g等)を添加して混合する。そして、中間貯液タンクに、香料:258g、甘味料:18gを添加して混合する。
【0072】
次に、ビタミン類等が添加された調合液を予備加熱処理及び本均質化処理する。予備加熱処理では、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、調合液を70~80℃に加熱する。本均質化処理では、例えば、ホモゲナイザーを使用し、予備加熱処理後の調合液を例えば、70~80℃、40~60MPaで均質化(微細化)する。そして、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器等を使用し、本均質化処理された調合液を例えば、5~25℃に冷却して、最終貯液タンクに貯留する。
【0073】
最終貯液タンクで調合液(栄養組成物、中間製品)を混合(撹拌)しながら、例えば、5~25℃で保持する。調合液が貯留された最終貯液タンクから、調合液を適当な容器に充填される。これにより、本実施形態に係る栄養組成物(最終製品)が完成する。
【0074】
[効果]
本実施形態に係る栄養組成物は、酸性であるため、爽やかで良好な風味を有する。すなわち、患者等が栄養組成物に爽やかで良好な風味を感じることができ、この栄養組成物を抵抗なく摂取することができる。よって、例えば、低栄養の状態になりやすいリハビリ患者等が栄養組成物を継続して摂取することが容易になり、リハビリ患者等の栄養の状態を適切に維持することが可能となる。
【0075】
本実施形態に係る栄養組成物において、タンパク質源の総重量のうち80重量%以上は、ホエイタンパク質及びホエイペプチドである。ホエイタンパク質及びホエイペプチドは、カゼインと比較して、酸性下で固化しにくい。このため、栄養組成物において、沈殿の発生等が抑制や防止され、物性を安定させることができる。
【0076】
本実施形態に係る栄養組成物は、100kcal/100ml以上のカロリー密度を有し、一般的な栄養組成物と比較して、高カロリーに構成されている。このため、患者等が栄養組成物を少量でしか摂取しなくても、患者等の栄養の状態を適切に維持することが可能となる。そして、食欲不振の患者等の栄養の状態を効果的に改善することが可能となる。
【0077】
本実施形態に係る栄養組成物は、高カロリーであるため、患者等の体内で、この栄養組成物に含まれるタンパク質源がエネルギー源として使用されることを抑制することができる。よって、より確実にタンパク質源を筋タンパク質の合成に寄与させることができると共に、筋タンパク質の分解を抑制することができる。このため、例えば、本実施形態に係る栄養組成物をリハビリ患者等に使用すれば、効果的にリハビリテーションを行うことが可能となる。このとき、リハビリ患者のQOL(Quolity Of Life)が向上し、介護の増加の予防や、要介護度の悪化の防止等を期待することができる。
【0078】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例
【0079】
以下、各実施例について説明する。ただし、本開示は、下記の各実施例に限定されるものではない。
【0080】
[実験1.慢性閉塞性肺疾患(COPD)のモデル動物を用いた栄養組成物の評価試験]
(COPDのモデル動物の作製方法)
24匹のC57BL/6J系の雄性マウス(3週齢)を用いた。マウスに一般飼料(標準精製飼料(AIN93G))を7日間(1週間)で給餌して馴化させた後、体重を指標に3つに群分けし、被験飼料を14日間(2週間)で給餌して飼育した。
【0081】
タバコ煙曝露群(Smoke)
マウスに被験飼料を14日間(2週間)で給餌して飼育した後に、マウスに10日間で連続して、タバコ煙を曝露させた。マウスにタバコ煙を曝露した期間中にも、被験飼料を給餌した。なお、タバコ煙の曝露方法は、次の通りである。
【0082】
曝露用のチャンバ内にマウスを入れ、煙草主流煙発生装置(INH06-CIGR02A、株式会社M・I・P・S製)を用いて、タバコ(ピース、日本たばこ産業株式会社製、タール:28mg/本、ニコチン:2.3mg/本)の主流煙(タバコ煙:空気=1:5、流速:1.05L/min)を発生させて、タバコの主流煙をチャンバ内に送り込んだ。このとき、1日当たり、約1.5時間を掛けて、マウスに20本のタバコ煙を曝露させた。
【0083】
非タバコ煙曝露群(空気暴露群)(Air)
マウスに被験飼料を14日間(2週間)で給餌して飼育した後に、マウスに10日間で連続して、空気を曝露させた。マウスに空気を曝露した期間中にも、被験飼料を給餌した。なお、空気の曝露方法は、空気曝露用のチャンバ内にマウスを入れ、エアーポンプを用いて、空気をチャンバ内に送り込んだ。
【0084】
(試験方法)
実施例1
8匹のタバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、本開示に係る流動性の栄養組成物と一般の流動食(メイバランスHP、株式会社明治製)との混合物(栄養組成物:流動食=70:30(重量比))の凍結乾燥粉末を24日間(飼育期間:14日間、及びタバコ煙曝露期間:10日間)で連続して自由摂取させた。実施例1で用いた栄養組成物の組成を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示す栄養組成物のpHは、4.1である。この栄養組成物のカロリー密度は、160kcal/100mlである。この栄養組成物のタンパク質エネルギー比は、20%である。この栄養組成物のタンパク質源は、2.5g/100kcalのホエイタンパク質と、2.3g/100kcalのホエイペプチドとを含んでいる。この栄養組成物のタンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質とホエイペプチドとの合計重量の比率は、96重量%である。EPAは、0.10g/100kcalである。DHAは0.04g/100kcalである。
【0087】
比較例1
8匹のタバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、一般の流動食(メイバランスHP、株式会社明治製)の凍結乾燥粉末を24日間(飼育期間:14日間、及びタバコ煙曝露期間:10日間)で連続して自由摂取させた。
【0088】
対照例1
8匹の非タバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、一般の流動食(メイバランスHP、株式会社明治製)の凍結乾燥粉末を24日間(飼育期間:14日間、及び空気曝露期間:10日間)で連続して自由摂取させた。
【0089】
(評価)
肺胞の炎症の指標として、単球走化性因子(Monocyte Chemoattractant Protein-1(MCP-1))濃度、好中球ケモカインであるKeratinocyte-derived chemokine(KC)濃度、マトリックス・メタロプロテアーゼ9(Matrix metalloproteinase 9(MMP-9))濃度、好中球エラスターゼ(NE)濃度、及び好中球数を用いた。ここで、各指標の測定値では、平均値±標準誤差で評価した。そして、統計解析では、比較例1を対照群として、Dunnett検定又はSteel検定を用いた。
【0090】
比較例1において、対照例1と比べて、各指標の測定値が高い場合、比較例1では、炎症が惹起されたこととなる。一方、実施例1において、比較例1と比べて、各指標の測定値が低い場合、実施例1では、炎症が抑制されたこととなる。
【0091】
各指標の測定に際し、タバコ煙又は空気の曝露を終了してから24時間後に、各マウスを全採血して失血死させた。ここで、肺胞をPBSで3回(各1mL)に亘って洗浄し、肺胞の洗浄液を回収した。そして、MCP-1濃度、KC濃度、MMP-9濃度、及びNE濃度の測定には、これら回収した肺胞の洗浄液を遠心分離し、この肺胞の洗浄液の上清を用いた。一方、好中球数の測定には、この肺胞の洗浄液の沈殿をPBSで懸濁し、この洗浄液の沈殿の懸濁液を用いた。
【0092】
MCP-1濃度の測定には、日本ベクトン・ディッキンソン社製のCytometric Bead Array(CBA) Mouse Inflammation kitを用いた。KC濃度の測定には、R&D社製のMouse KC Quantikine ELISA Kitを用いた。MMP-9濃度の測定には、R&D社製のMouse Total MMP-9 Quantikine ELISA Kitを用いた。NE濃度の測定には、Cusabio社製のNeutrophil Elastase ELISA Kitを用いた。
【0093】
実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のMCP-1濃度を図1に示す。図1から分かるように、比較例1において、対照例1と比べて、MCP-1濃度は有意に高値であった。実施例1において、比較例1と比べて、MCP-1濃度は有意に低値であった。
【0094】
実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のKC濃度を図2に示す。図2から分かるように、比較例1において、対照例1と比べて、KC濃度は有意に高値であった。実施例1において、比較例1と比べて、KC濃度は低値の傾向であった。
【0095】
実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のMMP-9濃度を図3に示す。図3から分かるように、比較例1において、対照例1と比べて、MMP-9濃度は有意に高値であった。実施例1において、比較例1と比べて、MMP-9濃度は有意に低値であった。
【0096】
実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液のNE濃度を図4に示す。図4から分かるように、比較例1において、対照例1と比べて、NE濃度は有意に高値であった。実施例1において、比較例1と比べて、NE濃度は有意に低値であった。
【0097】
実施例1、比較例1、及び対照例1における肺胞の洗浄液の好中球数を図5に示す。図5から分かるように、比較例1において、対照例1と比べて、好中球数は有意に高値であった。実施例1において、比較例1と比べて、好中球数は有意に低値であった。
【0098】
(考察)
比較例1において、対照例1と比べて、各指標の測定値は高値であった。このことから、タバコ煙の曝露によって、炎症が惹起されることが分かる。一方、実施例1において、比較例1と比べて、各指標の測定値は低値であった。すなわち、マウスが表1に示す栄養組成物を摂取すると、マウスがタバコ煙に曝露されたにも拘わらず、各指標値が低値を示した。このことから、本開示に係る栄養組成物は、COPDで惹起される各種の炎症メディエーターの濃度を低下させ、炎症細胞(好中球数)の増加を抑制することが分かる。さらに、本開示に係る栄養組成物は、肺胞組織の損傷の原因となる各種酵素の分泌量を抑えることが分かる。つまり、本開示に係る栄養組成物には、炎症改善(抗炎症)効果があることを確認できた。
【0099】
[実験2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)のモデル動物を用いた ホエイタンパク質、ホエイペプチド、魚油の評価試験]
(COPDのモデル動物の作製方法)
30匹のC57BL/6J系の雌性マウス(6週齢)を用いた。マウスに一般飼料(標準精製飼料(AIN93G))を7日間(1週間)で給餌して馴化させた後、体重を指標に4つに群分けし、被験飼料を14日間(2週間)で給餌して飼育した。
【0100】
タバコ煙曝露群(Smoke)
マウスに被験飼料を14日間(2週間)で給餌して飼育した後に、マウスに3日間で連続して、タバコ煙を曝露させた。マウスにタバコ煙を曝露した期間中にも、被験飼料を給餌した。なお、タバコ煙の曝露方法は、次の通りである。
【0101】
曝露用のチャンバ内にタバコ煙曝露群(Smoke)のマウスを入れ、ペリスタルティックポンプを用いて、タバコ(ピース、日本たばこ産業株式会社製、タール:28mg/本、ニコチン:2.3mg/本)の主流煙(タバコ煙:空気=1:5、流速:600mL/min)を発生させて、タバコの主流煙をチャンバ内に送り込んだ。このとき、1日目には3時間を掛けて、2日目及び3日目には4時間を掛けて、マウスにタバコ煙を曝露させた。
【0102】
非タバコ煙曝露群(空気暴露群)(Air)
マウスに被験飼料を14日間(2週間)で給餌して飼育した後に、マウスに3日間で連続して、空気を曝露させた。マウスに空気を曝露した期間中にも、被験飼料を給餌した。なお、空気の曝露方法は、空気曝露用のチャンバ内にマウスを入れ、エアーポンプを用いて、空気をチャンバ内に送り込んだ。
【0103】
(試験方法)
実施例2-1
標準精製飼料(AIN93G)のタンパク質源の全量をホエイタンパク質及びホエイペプチド(ホエイタンパク質:ホエイペプチド=1:1(重量比))に置換し、ホエイ食を調製した。6匹のタバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、ホエイ食を17日間(ホエイ食に切り替えた後の飼育期間:14日間、及びタバコ煙曝露期間:3日間)で連続して自由摂取させた。
【0104】
実施例2-2
標準精製飼料(AIN93G)の脂質源の半分量(50重量%)を魚油に置換し、魚油食を調製した。6匹のタバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、魚油食を17日間(魚油食に切り替えた後の飼育期間:14日間、及びタバコ煙曝露期間:3日間)で連続して自由摂取させた。
【0105】
実施例2-3
標準精製飼料(AIN93G)のタンパク質源の全量をホエイタンパク質及びホエイペプチド(ホエイタンパク質:ホエイペプチド=1:1(重量比))に置換すると共に、脂質源の半分量(50重量%)を魚油に置換し、ホエイ・魚油食を調製した。6匹のタバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、ホエイ・魚油食を17日間(ホエイ・魚油食に切り替えた後の飼育期間:14日間、及びタバコ煙曝露期間:3日間)で連続して自由摂取させた。
【0106】
比較例2
6匹のタバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、標準精製飼料(AIN93G)を17日間(標準精製飼料の飼育期間:14日間、及びタバコ煙曝露期間:3日間)で連続して自由摂取させた。
【0107】
対照例2
6匹の非タバコ煙曝露群のマウスに、被験飼料として、標準精製飼料(AIN93G)を17日間(標準精製飼料の飼育期間:14日間、及び空気曝露期間:3日間)で連続して自由摂取させた。
【0108】
(評価)
肺胞の炎症の指標として、好中球ケモカイン(KC)濃度、マトリックス・メタロプロテアーゼ9(MMP-9)濃度、及び好中球数を用いた。ここで、各指標の測定値では、平均値±標準誤差で評価した。そして、統計解析では、比較例2を対照群として、Dunnett検定又はSteel検定を用いた。
【0109】
比較例2において、対照例2と比べて、各指標の測定値が高い場合、比較例2では、炎症が惹起されたこととなる。一方、実施例2-1~実施例2-3において、比較例2と比べて、各指標の測定値が低い場合、実施例2-1~実施例2-3では、炎症が抑制されたこととなる。なお、各指標の測定には、実験1と同様の方法を用いた。
【0110】
実施例2-1~実施例2-3、比較例2、及び対照例2における肺胞の洗浄液のKC濃度を図6に示す。図6から分かるように、比較例2において、対照例2と比べて、KC濃度は有意に高値であった。実施例2-1において、比較例2と比べて、KC濃度は低値の傾向であった。実施例2-2において、比較例2と比べて、KC濃度は有意に低値であった。実施例2-3において、比較例2と比べて、KC濃度は低値の傾向であった。また、実施例2-3において、実施例2-2と比べて、KC濃度は同程度の数値であった。
【0111】
実施例2-1~実施例2-3、比較例2、及び対照例2における肺胞の洗浄液のMMP-9濃度を図7に示す。図7から分かるように、比較例2において、対照例2と比べて、MMP-9濃度は有意に高値であった。実施例2-1において、比較例2と比べて、MMP-9濃度は低値の傾向であった。実施例2-2において、比較例2と比べて、MMP-9濃度は有意に低値であった。実施例2-3において、比較例2と比べて、MMP-9濃度は有意に低値であった。
【0112】
実施例2-1~実施例2-3、比較例2、及び対照例2における肺胞の洗浄液の好中球数を図8に示す。図8から分かるように、比較例2において、対照例2と比べて、好中球数は有意に高値であった。実施例2-1において、比較例2と比べて、好中球数は低値の傾向であった。実施例2-2において、比較例2と比べて、好中球数は有意に低値であった。実施例2-3において、比較例2と比べて、好中球数は有意に低値であった。
【0113】
(考察)
比較例2において、対照例2と比べて、各指標の測定値は高値であった。このことから、タバコ煙の曝露によって、炎症が惹起されることが分かる。一方、実施例2-1~実施例2-3において、比較例2と比べて、各指標の測定値は低値であった。すなわち、マウスがホエイタンパク質及びホエイペプチドを強化した栄養組成物、並びに魚油を強化した栄養組成物を摂取すると、マウスがタバコ煙に曝露されたにも拘わらず、各指標値が低値を示した。このことから、本開示に係る栄養組成物は、COPDで惹起される好中球ケモカインの濃度を低下させ、炎症細胞(好中球数)の増加を抑制することが分かる。さらに、本開示に係る栄養組成物は、炎症細胞から放出され、組織損傷の原因となる酵素の分泌を抑制することが分かる。つまり、本開示に係る栄養組成物、ホエイタンパク質、ホエイペプチド、及び魚油には、炎症改善(抗炎症)効果があることを確認できた。
【0114】
[実験3.肝炎のモデル動物を用いた栄養組成物の評価試験(1)]
(肝炎のモデル動物の作製方法)
17匹のC57BL/6J系の雄性マウス(6週齢)を用いた。
【0115】
(試験方法)
実施例3
8匹のマウスに、被験飼料として、実験1と同じ栄養組成物(表1)を14日間(2週間)で連続して自由摂取させた。そして、マウスの尾静脈にコンカナバリンA(ConA)を11mg/kg-体重(マウスの体重1kg当たり11mg)で投与して、肝炎を誘発させた。
【0116】
比較例3
9匹のマウスに、被験飼料として、一般の流動食(メイバランスHP、株式会社明治製)を14日間(2週間)で連続して自由摂取させた。そして、マウスの尾静脈にコンカナバリンA(ConA)を11mg/kg-体重(マウスの体重1kg当たり11mg)で投与して、肝炎を誘発させた。
【0117】
(評価)
肝炎の指標として、血漿アスパラギン酸アミノトランスフェラーセ(AST)活性、及び血漿アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)活性を用いた。栄養の状態の指標として、血漿アルブミン、及び血漿総タンパク質を用いた。炎症の指標として、血漿TNF-α 、血漿IL-6、及び血漿MCP-1を用いた。肝炎、栄養の状態、及び炎症の各指標の測定値では、平均値±標準偏差で評価した。統計解析では、比較例3を対照群として、分散が等しい場合、Student-t検定を用い、分散が等しくない場合、Mann-Whitney検定を用いた。
【0118】
実施例3において、比較例3と比べて、肝炎の各指標の測定値が低い場合、実施例3では、肝炎が抑制されたこととなる。一方、実施例3において、比較例3と比べて、栄養の状態の各指標の測定値が高い場合、実施例3では、栄養の状態の悪化が予防及び/又は軽減されたことになる。実施例3において、比較例3に比べて、炎症の各指標の測定値が低い場合、炎症が抑制されたこととなる。
【0119】
血漿TNF-α、血漿IL-6、及び血漿MCP-1の測定には、各マウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後に、各マウスの尾静脈から採血し、この血液を用いた。一方、血漿AST活性、血漿ALT活性、血漿アルブミン、及び血漿総タンパク質の測定には、各マウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後に、エーテルの麻酔下で、各マウスの腹部の大静脈から採血し、この血液を用いた。
【0120】
血漿AST活性、血漿ALT活性、血漿アルブミン、及び血漿総タンパク質の測定には、専用のスライド・チップ(富士ドライケム NX500、富士フィルム株式会社製)を用いた。血漿TNF-α、血漿IL-6、及び血漿MCP-1の測定には、日本ベクトン・ディッキンソン社製のCytometric Bead Array(CBA) Mouse Inflammation kit(日本ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0121】
肝炎の評価結果
実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿AST活性を図9に示す。図9から分かるように、実施例3において、比較例3と比べて、血漿AST活性は有意に低値であった。
【0122】
実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿ALT活性を図10に示す。図10から分かるように、実施例3において、比較例3と比べて、血漿ALT活性は有意に低値であった。
【0123】
栄養の状態の評価結果
実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿アルブミンの濃度及び血漿総タンパク質の濃度を表2に示す。表2から分かるように、実施例3において、比較例3と比べて、血漿アルブミンの濃度及び血漿タンパク質の濃度は高値の傾向であった。
【0124】
【表2】
【0125】
なお、マウスの尾静脈にConAを投与してマウスに肺炎を誘発させると、一般的に、血漿アルブミンの濃度は低下すると考えられている。
【0126】
炎症の評価結果
実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿TNF-αの濃度を図11に示す。図11から分かるように、実施例3において、比較例3と比べて、血漿TNF-αの濃度は有意に低値であった。
【0127】
実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿IL-6の濃度を図12に示す。図12から分かるように、実施例3において、比較例3と比べて、血漿IL-6の濃度は有意に低値であった。
【0128】
実施例3及び比較例3におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿MCP-1の濃度を図13に示す。図13から分かるように、実施例3において、比較例3と比べて、血漿MCP-1の濃度は有意に低値であった。
【0129】
(考察)
実施例3(表1に示す栄養組成物を経口摂取したマウス)において、比較例3(表1に示す栄養組成物を経口摂取しなかったマウス)と比べて、各指標の測定値は低値であった。このことから、本開示に係る栄養組成物は、肝炎、肝炎によって惹起される栄養の状態、炎症の悪化を経時的に予防及び/又は軽減することが分かる。つまり、本開示に係る栄養組成物には、炎症改善(抗炎症)効果があることを確認できた。
【0130】
[実験4.肝炎のモデル動物を用いた栄養組成物の評価試験(2)]
19匹のC57BL/6J系の雄性マウス(6週齢)を用いた。
【0131】
(試験方法)
実施例4-1
7匹のマウスに、被験飼料として、本開示に係る流動性の栄養組成物と一般の流動食(メイバランスHP、株式会社明治製)との混合物(栄養組成物:流動食=50:50(重量比))を14日間で連続して自由摂取させた。そして、マウスの尾静脈にコンカナバリンA(ConA)を12mg/kg-体重(マウスの体重1kg当たり12mg)で投与して、肝炎を誘発させた。実施例4-1と実施例4-2で用いた栄養組成物の組成を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
表3に示す栄養組成物のpHは、4.1である。この栄養組成物のカロリー密度は、159kcal/100mlである。この栄養組成物のタンパク質エネルギー比は、20%である。この栄養組成物のタンパク質源は、4.2g/100kcalのホエイタンパク質と、0.6g/100kcalのホエイペプチドとを含んでいる。この栄養組成物のタンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質とホエイペプチドとの合計重量の比率は、96重量%である。EPAは、0.098g/100kcalである。DHAは、0.035g/100kcalである。
【0134】
実施例4-2
6匹の肝炎のマウスに、被験飼料として、実施例4-1と同じ栄養組成物(表3)を14日間で連続して自由摂取させた。
【0135】
比較例4
6匹の肝炎のマウスに、被験飼料として、一般の流動食(メイバランスHP、株式会社明治製)を14日間で連続して自由摂取させた。
【0136】
(評価)
肝炎の指標として、血漿AST活性、及び血漿ALT活性を用いた。栄養の状態の指標として、血漿アルブミン、及び血漿総タンパク質を用いた。炎症の指標として、血漿TNF-α、及び血漿IL-6を用いた。ここで、肝炎、栄養の状態、及び炎症の各指標の測定値では、平均値±標準偏差で評価した。統計解析では、比較例4を対照群として、分散が等しい場合、Student-t検定を用い、分散が等しくない場合、Mann-Whitney検定を用いた。なお、各指標の測定には、実験3と同様の方法を用いた。
【0137】
肝炎の評価結果
実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿AST活性を図14に示す。図14から分かるように、実施例4-1及び実施例4-2において、比較例4と比べて、血漿AST活性は有意に低値であった。
【0138】
実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿ALT活性を図15に示す。図15から分かるように、実施例4-1及び実施例4-2において、比較例4と比べて、血漿ALT活性は有意に低値であった。
【0139】
栄養の状態の評価結果
実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから24時間後の血漿アルブミンの濃度及び血漿総タンパク質の濃度を表4に示す。表4から分かるように、実施例4-1において、比較例4と比べて、血漿アルブミンの濃度は高値の傾向であった。実施例4-2において、比較例4と比べて、血漿アルブミンの濃度は有意に高値であった。実施例4-1~実施例4-2において、比較例4と比べて、血漿総タンパク質の濃度は高値の傾向であった。
【0140】
【表4】
【0141】
炎症の評価結果
実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿TNF-αの濃度を図16に示す。図16から分かるように、実施例4-1~実施例4-2において、比較例4と比べて、血漿TNF-αの濃度は有意に低値であった。
【0142】
実施例4-1~実施例4-2及び比較例4におけるマウスの尾静脈にConAを投与してから2時間後及び4時間後の各血漿IL-6の濃度を図17に示す。図17から分かるように、実施例4-1~実施例4-2において、比較例4と比べて、血漿IL-6の濃度は有意に低値であった。
【0143】
(考察)
実施例4-1~実施例4-2(表3に示す栄養組成物を経口摂取したマウス)において、比較例4(表3に示す栄養組成物を経口摂取しなかったマウス)と比べて、各指標の測定値は低であった。このことから、本開示に係る栄養組成物は、肝炎、肝炎によって惹起される栄養の状態、炎症の悪化を経時的に予防及び/又は軽減することが分かる。つまり、本開示に係る栄養組成物には、炎症改善(抗炎症)効果があることを確認できた。
【0144】
[実験5.栄養組成物の新鮮物及び保存品の風味及び物性の評価試験]
表5に示す栄養組成物の新鮮物及び保存品の風味及び物性を評価した。
【0145】
【表5】
【0146】
表5に示す栄養組成物のpHは、4.1である。この栄養組成物のカロリー密度は、151kcal/100mlである。この栄養組成物のタンパク質エネルギー比は、21%である。この栄養組成物のタンパク質源は、2.4g/100kcalのホエイタンパク質と、2.5g/100kcalのホエイペプチドとを含んでいる。この栄養組成物のタンパク質源の総重量に対するホエイタンパク質とホエイペプチドとの合計重量の比率は、96重量%である。EPAは、0.157g/100mlである。DHAは、0.056g/100mlである。
【0147】
表5に示す栄養組成物の製造条件は、調合液(原料)の溶解温度:50~60℃(目標:55℃)、調合液の殺菌温度及び時間:124℃、5秒間、殺菌液の均質化圧力:40MPa(予備均質化)、25MPa(本均質化)、容器の形状及び容量:ブリック紙容器(テトラ社製)、125mlである。なお、表1及び表3に示す各栄養組成物も、同様の製造条件で製造した。
【0148】
(試験方法)
表5に示す栄養組成物の新鮮物及び保存物(3ヶ月間の保管、6ヵ月間の保管)の風味及び物性を評価した。
【0149】
風味
【0150】
栄養組成物の新鮮物及び保存品の風味について、専門パネルの10名によって、5段階(5:大変に良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良)で官能評価した。
【0151】
物性
栄養組成物の新鮮物及び保存品の物性について、比重、pH、粘度、粒度分布、遠心沈殿量、及びクリーム浮上率で評価した。
【0152】
栄養組成物の新鮮物及び保存品の比重の測定では、試料を20℃に調整した後に、密度比重計(DA-130N、京都電子工業社製)を用いた。
【0153】
栄養組成物の新鮮物及び保存品のpHの測定では、試料を20℃に調整した後に、pH計(F-53、堀場製作所製)を用いた。
【0154】
栄養組成物の新鮮物及び保存品の粘度の測定では、試料を20℃に調整した後に、B型回転粘度計(TVB10、東機産業社製)を用いた。なお、この操作条件は、回転数:60rpm、保持時間:60秒とした。
【0155】
栄養組成物の新鮮物及び保存品の粒度分布の測定では、レーザ屈折式粒子径分布測定装置(SALD-2200、島津製作所製)を用いた。なお、この指標は、メディアン径(中央値)とした。
【0156】
栄養組成物の新鮮物及び保存品の遠心沈殿量の測定では、次のような方法を用いた。まず、ガラス遠沈管(50ml、丸底、中央部(全高の1/2で上から5cmの位置)に横線が引かれた透明な遠沈管)の重量を測定すると共に、各試料の50g(試料量)を精秤する。続いて、ガラス遠沈管(試料入り)を遠心分離(1800g、30分間)した後に、デカンテーションで、液面を静かに捨てる。さらに、ガラス遠沈管(沈殿入り)を倒置して30分間で静置してから、ガラス遠沈管の上側から横線まで内壁面をキムワイプで拭き取った後に、ガラス遠沈管(残渣入り)の重量を測定する。そして、以下の数式(1)によって、遠心沈殿量を算出する。
【0157】
遠心沈殿量[重量%]=(遠沈管(残渣入り)の重量[g]-遠沈管(風袋)の重量[g])÷試料の重量[g]×100 ・・・(1)
栄養組成物の新鮮物及び保存品のクリーム浮上率の測定では、次のような方法を用いた。まず、ガラス遠沈管(50ml、丸底、中央部(全高の1/2で上から5cmの位置)に横線が引かれた透明な遠沈管)の重量を測定すると共に、各試料の50g(試料量)を精秤する。続いて、ガラス遠沈管(試料入り)を遠心分離(1800g、30分間)した後に、スパーテルで、クリーム層(上部)を別のガラス遠沈管に取り出す。さらに、ガラス遠沈管(クリーム層入り)を倒置して30分間で静置してから、ガラス遠沈管の上側から横線まで内壁面をキムワイプで拭き取った後に、ガラス遠沈管(残渣入り)の重量を測定する。そして、以下の数式(2)によって、クリーム浮上率を算出する。
【0158】
クリーム浮上率[重量%]=(遠沈管(残渣入り)の重量[g]- 遠沈管(風袋)の重量[g])÷ 試料の重量[g]×100 ・・・(2)
(評価)
風味及び物性の評価基準、並びに、実験5で用いた栄養組成物(表5)の新鮮物及び保存物(3ヶ月間の保管、6ヵ月間の保管)の評価値を表6に示す。栄養組成物の新鮮物及び保存物の評価値が各評価基準を満たす場合、栄養組成物の風味及び物性が良好であることを意味する。
【0159】
【表6】
【0160】
栄養組成物の比重は、栄養組成物を少量で喫飲して、エネルギーを多量に摂取できる観点から、好ましくは1.1~1.2g/cmである。栄養組成物のpHは、殺菌条件を緩やかに設定することができると共に、適度な酸味(風味)が得られる観点から、好ましくは3~5である。栄養組成物の粘度は、製造設備における焦げ付き等を抑制や防止することができると共に、流動性が良好である観点から、好ましくは10~100mPs・sである。栄養組成物の粒度分布(メディアン径)は、乳化安定性が向上する観点から、好ましくは10μm以下である。栄養組成物の遠心沈殿量は、乳化安定性が向上する観点から、好ましくは3重量%以下である。栄養組成物のクリーム浮上率は、物性や品質を良好に維持する観点から、好ましくは5重量%以下である。
【0161】
風味
【0162】
表6に示すように、栄養組成物の新鮮物及び保存品(保存条件:25℃、3ヶ月間の保管)の風味は、大変に良好であると評価された。栄養組成物の保存品(保存条件:25℃、6ヶ月間の保管)の風味は、良好であると評価された。
【0163】
物性
表6に示すように、栄養組成物の新鮮物及び保存品(保存条件:25℃、3ヶ月間、並びに、保存条件:25℃、6ヶ月間)の比重、pH、粘度、粒度分布、遠心沈殿量、クリーム浮上率は、評価基準を満たしていた。つまり、本開示に係る栄養組成物では、常温で長期間に亘って保存しても、栄養組成物の物性は、ほとんど変化しなかった。
【0164】
(考察)
表5に示す栄養組成物では、新鮮物だけでなく、保存品(保存条件:25℃、3ヶ月間、並びに、保存条件:25℃、6ヶ月間)であっても、風味及び物性が良好であることを確認できた。すなわち、本開示に係る栄養組成物では、魚油(DHA及びEPA)等のように、風味及び物性に影響する成分を含んでいるにも拘わらず、常温で長期間に亘って保存しても、風味が良好であり、物性が安定していることを確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17