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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20230623BHJP
   H04W 72/0453 20230101ALI20230623BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20230623BHJP
【FI】
H04L27/26 310
H04W72/0453
H04W72/0457
H04L27/26 410
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019156505
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021034993
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 衆太
(72)【発明者】
【氏名】立田 努
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正文
(72)【発明者】
【氏名】小野 優
(72)【発明者】
【氏名】前原 文明
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056796(WO,A1)
【文献】特開2009-152876(JP,A)
【文献】特開2014-140177(JP,A)
【文献】特開平08-274688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
H04W 72/0453
H04W 72/0457
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置がマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信装置が受信信号として受信する無線通信システムにおいて、
前記送信装置は、
送信信号を複数のサブキャリアに対して分離する分離部と、
前記分離部が分離した送信信号を前記サブキャリアごとに設定されたロールオフ率に応じて変調する複数の変調部と、
前記受信装置から前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを受信する設定値受信部と、
前記設定値受信部が受信したロールオフ率の設定値それぞれに応じて、複数の前記変調部それぞれに対してロールオフ率を設定する設定部と、
複数の前記変調部が前記サブキャリアごとに変調した送信信号それぞれを合成する合成部と、
前記合成部が合成した送信信号を前記受信装置に対して送信する送信部と
を有し、
前記受信装置は、
前記サブキャリアごとに、等化処理した後の残留誤差を計測する計測部と、
前記サブキャリアごとに、前記計測部が計測した残留誤差が所定の許容値を超えない範囲でロールオフ率を小さくするように更新し、許容される最小のロールオフ率の設定値を決定する制御を行う制御部と、
前記制御部の制御により決定された前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを前記送信装置に対して送信する設定値送信部と
を有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記受信装置が受信する所定の広帯域変調波の自己相関関数に基づく遅延プロファイルを用いて算出した受信信号の周波数特性に応じて、ノッチが大きい周波数区間に配置される前記サブキャリアのロールオフ率よりも、他の周波数区間に配置される前記サブキャリアのロールオフ率を小さくするように制御すること
を特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記送信装置は、
前記設定部が設定するロールオフ率に基づいて、複数の前記変調部が変調した送信信号それぞれに対し、送信周波数帯域における中心側のキャリアの振幅に比べて、送信周波数帯域における低周波側及び高周波側のキャリアの振幅が小さくなるように正規化する複数の正規化部
をさらに有し、
前記合成部は、
複数の前記正規化部を介して、複数の前記変調部が前記サブキャリアごとに変調した送信信号それぞれを合成すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記送信装置は、
送信信号に誤り訂正を行って符号化する誤り訂正符号化部と、
前記誤り訂正符号化部が符号化した送信信号の符号化系列に対し、スクランブルをかけるスクランブル部と
をさらに有し、
前記分離部は、
前記スクランブル部がスクランブルをかけた送信信号の符号化系列を複数の前記サブキャリアに対して分離し、
前記受信装置は、
前記送信装置から受信した受信信号にかけられたスクランブルをデスクランブルするデスクランブル部と、
前記デスクランブル部がデスクランブルした受信信号に誤り訂正を行って復号する誤り訂正復号部と
をさらに有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記変調部は、
前記サブキャリアごとに設定されたロールオフ率及び中心周波数に応じて変調し、
前記設定部は、
前記受信装置が前記サブキャリアごとに等化処理した後に計測した残留誤差に基づいて、複数の前記変調部それぞれに対して前記サブキャリアごとのロールオフ率及び中心周波数を設定すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
送信装置がマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信装置が受信信号として受信する無線通信方法において、
前記送信装置が、
送信信号を複数のサブキャリアに対して分離する分離工程と、
前記受信装置から前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを受信する設定値受信工程と、
前記設定値受信工程により受信したロールオフ率の設定値それぞれに応じて、前記サブキャリアごとにロールオフ率を設定する設定工程と、
前記分離工程により分離した送信信号を、前記設定工程により前記サブキャリアごとに設定したロールオフ率に応じて変調する変調工程と、
前記変調工程により前記サブキャリアごとに変調した送信信号それぞれを合成する合成工程と、
前記合成工程により合成した送信信号を前記受信装置に対して送信する送信工程と
を実行し、
前記受信装置が、
前記サブキャリアごとに、等化処理した後の残留誤差を計測する計測工程と、
前記サブキャリアごとに、前記計測工程により計測した残留誤差が所定の許容値を超えない範囲でロールオフ率を小さくするように更新し、許容される最小のロールオフ率の設定値を決定する制御を行う制御工程と、
前記制御工程により決定した前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを前記送信装置に対して送信する設定値送信工程と
を実行することを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、マルチキャリア伝送方式は、狭帯域にされた複数のサブキャリアを用いて信号を伝送するため、シングルキャリア伝送方式よりもマルチパス干渉(遅延波)に対する耐久性がある。
【0003】
例えば、非特許文献1には、シングルキャリア方式に用いる周波数帯域に対して、マルチキャリア数を4とした場合、サブキャリアの帯域幅が4分の1になることを例とするマルチキャリア伝送が開示されている。
【0004】
また、非特許文献2には、0と1の間の値をとるロールオフ率αが大きくなるほどパルス幅が細くなるコサインロールオフ伝送特性が開示されている。また、特許文献2には、フェージングにより伝送路の周波数特性の平坦性が損なわれ、受信点では大きな波形歪が発生することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】斉藤洋一著、「ディジタル無線通信の変復調」、初版、電子情報通信学会、平成8年2月10日、p.201-207
【文献】室谷正芳、外1名、「ディジタル無線通信」、初版、産業図書株式会社、昭和60年8月8日、p.16-17,p.69-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来は、最悪条件の遅延波環境を想定してサブキャリアの数や信号帯域幅が設計されていた。すなわち、実環境に合わせて最適化されることなく、必要以上に信号帯域幅が大きくなっていることがあった。
【0007】
本発明は、伝送速度及び伝送品質を維持しつつ、狭帯域化することができる無線通信システム及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる無線通信システムは、送信装置がマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信装置が受信信号として受信する無線通信システムにおいて、前記送信装置が、送信信号を複数のサブキャリアに対して分離する分離部と、前記分離部が分離した送信信号を前記サブキャリアごとに設定されたロールオフ率に応じて変調する複数の変調部と、前記受信装置から前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを受信する設定値受信部と、前記設定値受信部が受信したロールオフ率の設定値それぞれに応じて、複数の前記変調部それぞれに対してロールオフ率を設定する設定部と、複数の前記変調部が前記サブキャリアごとに変調した送信信号それぞれを合成する合成部と、前記合成部が合成した送信信号を前記受信装置に対して送信する送信部とを有し、前記受信装置は、前記サブキャリアごとに、等化処理した後の残留誤差を計測する計測部と、前記サブキャリアごとに、前記計測部が計測した残留誤差が所定の許容値を超えない範囲でロールオフ率を小さくするように更新し、許容される最小のロールオフ率の設定値を決定する制御を行う制御部と、前記制御部の制御により決定された前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを前記送信装置に対して送信する設定値送信部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様にかかる無線通信方法は、送信装置がマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信装置が受信信号として受信する無線通信方法において、前記送信装置が、送信信号を複数のサブキャリアに対して分離する分離工程と、前記受信装置から前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを受信する設定値受信工程と、前記設定値受信工程により受信したロールオフ率の設定値それぞれに応じて、前記サブキャリアごとにロールオフ率を設定する設定工程と、前記分離工程により分離した送信信号を、前記設定工程により前記サブキャリアごとに設定したロールオフ率に応じて変調する変調工程と、前記変調工程により前記サブキャリアごとに変調した送信信号それぞれを合成する合成工程と、前記合成工程により合成した送信信号を前記受信装置に対して送信する送信工程とを実行し、前記受信装置が、前記サブキャリアごとに、等化処理した後の残留誤差を計測する計測工程と、前記サブキャリアごとに、前記計測工程により計測した残留誤差が所定の許容値を超えない範囲でロールオフ率を小さくするように更新し、許容される最小のロールオフ率の設定値を決定する制御を行う制御工程と、前記制御工程により決定した前記サブキャリアごとのロールオフ率の設定値それぞれを前記送信装置に対して送信する設定値送信工程とを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、伝送速度及び伝送品質を維持しつつ、狭帯域化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】送信装置の構成例を示す図である。
図2】受信装置の構成例を示す図である。
図3】マルチキャリア伝送方式におけるサブキャリアに対するロールオフ率が相対的に大きい場合と小さい場合の伝送特性の差異を示す図である。
図4】(a)は、送信装置の送信スペクトラムを模式的に示す図である。(b)は、比較例の送信装置の送信スペクトラムを模式的に示す図である。
図5】受信装置がサブキャリアごとにロールオフ率及び中心周波数を決定する処理の第1例を示すフローチャートである。
図6】制御部がサブキャリアに対してトレーニングを行っている状態を模式的に示す図である。
図7】無線通信システムが備えるトレーニング信号送信装置及びトレーニング信号受信装置の構成を例示する図である。
図8】(a)は、チャネル帯域全体に対して無変調波を掃引させるトレーニング信号を示す図である。(b)は、受信信号の周波数特性に応じたサブキャリアを示す図である。
図9】送信装置の変形例の構成を示す図である。
図10】正規化部が正規化する送信周波数帯域における電力スペクトラムを概念的に示す図である。
図11】正規化部が正規化した周波数スペクトラム特性の具体例を示すグラフである。
図12】正規化部による正規化の標準偏差に対する通信路容量を例示するグラフである。
図13】他の送信装置の構成例を示す図である。
図14】他の受信装置の構成例を示す図である。
図15】マルチキャリア伝送方式によって信号を送信する送信装置の構成の概要を例示する図である。
図16】マルチキャリア伝送方式によって送信された信号を受信する受信装置の構成の概要を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明がなされるに至った背景について、図15,16を用いて説明する。図15は、マルチキャリア伝送方式によって信号を送信する送信装置1の構成の概要を例示する図である。送信装置1は、例えば分離部10、n個の変調部11-1~11-n、合成部12、送信部13、及び増幅部14を有する。
【0013】
分離部10は、送信信号を例えばn個のサブキャリアに対して分離し、分離したn個の送信信号を変調部11-1~11-nに対してそれぞれ出力する。
【0014】
変調部11-1~11-nは、分離部10が分離したn個の送信信号をそれぞれサブキャリアごとに変調し、変調したn個の送信信号を合成部12に対して出力する。
【0015】
合成部12は、変調部11-1~11-nが変調したn個の送信信号を合成し、合成した送信信号を送信部13に対して出力する。
【0016】
送信部13は、例えばHPA(High Power Amplifier)などを備える増幅部14を介して、送信部13が合成した送信信号をマルチキャリア伝送方式によって送信する。
【0017】
図16は、マルチキャリア伝送方式によって送信された信号を受信する受信装置2の構成の概要を例示する図である。受信装置2は、例えば受信部20、分離部21、n個の復調部22-1~22-n、n個の等化器23-1~23-n、及び合成部24を有する。
【0018】
受信部20は、送信装置1がマルチキャリア伝送方式によって送信した信号を受信し、受信信号を分離部21に対して出力する。
【0019】
分離部21は、受信部20から入力された受信信号をサブキャリアごとにn個に分離し、分離したn個の受信信号を復調部22-1~22-nに対してそれぞれ出力する。
【0020】
復調部22-1~22-nは、分離部21が分離したn個の受信信号をそれぞれサブキャリアごとに復調し、復調したn個の受信信号を等化器23-1~23-nに対してそれぞれ出力する。
【0021】
等化器23-1~23-nは、復調部22-1~22-nから入力された受信信号をそれぞれ補償し、補償したn個の受信信号を合成部24に対して出力する。
【0022】
合成部24は、等化器23-1~23-nから入力されたn個の受信信号を合成することにより、送信装置1が送信した送信信号を復元する。
【0023】
このように、送信装置1及び受信装置2は、送信装置1がマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信装置2が受信信号として受信する無線通信システムを構成する。
【0024】
次に、伝送速度及び伝送品質を維持しつつ、狭帯域化する送信装置についてさらに説明する。
【0025】
図1は、送信装置1aの構成例を示す図である。図1に示すように、送信装置1aは、例えば分離部10、n個の変調部11-1~11-n、合成部12、送信部13、増幅部14、設定値受信部15及び設定部16を有する。
【0026】
つまり、送信装置1aは、図15に示した送信装置1に対し、設定値受信部15及び設定部16が付加された構成となっている。なお、以下の説明において、実質的に同一の構成には同一の符号を付すこととする。
【0027】
設定値受信部15は、図2等を用いて後述する受信装置2aが送信するサブキャリアごとのロールオフ率(ロールオフ係数)αの設定値及び中心周波数を受信し、設定部16に対して出力する。つまり、送信装置1aは、受信装置2aに対して信号を送信する伝送路に加えて、他の伝送路(別回線)が受信装置2aとの間に設けられている。
【0028】
なお、別回線は、有線の伝送路又は無線の伝送路のいずれであってもよく、受信装置2aからロールオフ率αの設定値及び中心周波数を特定する情報を送信装置1aへ伝送可能であれば構成を限定されない。
【0029】
設定部16は、設定値受信部15が受信した設定値それぞれに応じて、変調部11-1~11-nそれぞれに対してロールオフ率αを設定する。また、設定部16は、設定値受信部15が受信したサブキャリアごとの中心周波数を変調部11-1~11-nに対して設定する。なお、設定部16は、設定値受信部15が受信するサブキャリアごとの中心周波数によらず、ロールオフ率αの設定値それぞれに基づいてサブキャリアごとの中心周波数を算出して、変調部11-1~11-nに対して中心周波数を設定するように構成されてもよい。
【0030】
そして、変調部11-1~11-nは、分離部10が分離した送信信号をサブキャリアごとに設定部16が設定したロールオフ率α及び中心周波数に応じて変調する。
【0031】
図2は、受信装置2aの構成例を示す図である。図2に示すように、受信装置2aは、例えば受信部20、分離部21、n個の復調部22-1~22-n、n個の等化器23-1~23-n、合成部24、制御部25、計測部26、更新部27及び設定値送信部28を有する。
【0032】
つまり、受信装置2aは、図16に示した受信装置2に対し、制御部25、計測部26、更新部27及び設定値送信部28が付加された構成となっている。
【0033】
制御部25は、CPU250及びメモリ252を備え、後述する演算・処理等を行い、計測部26、更新部27及び設定値送信部28を制御する。制御部25が行う具体的な制御については、図5等を用いて後述する。
【0034】
計測部26は、制御部25の制御に応じて、等化器23-1~23-nそれぞれが受信信号の波形歪を補償した後に残る残留誤差をサブキャリアごとに計測し、計測結果を制御部25及び更新部27に対して出力する。
【0035】
更新部27は、制御部25の制御に応じて、計測部26が計測した残留誤差に基づくロールオフ率αの設定値をサブキャリアごとに初期値から順次に更新し、更新したロールオフ率αの設定値を制御部25及び設定値送信部28に対して出力する。また、更新部27は、ロールオフ率αの設定値を更新するごとに、全体の信号帯域幅を狭帯域化するように、サブキャリアの中心周波数の算出及び更新を行う。
【0036】
設定値送信部28は、制御部25の制御に応じて、更新部27が更新したサブキャリアごとのロールオフ率αの設定値及び中心周波数を送信装置1aに対して他の伝送路(別回線)により送信する。
【0037】
このように、送信装置1a及び受信装置2aは、送信装置1aがマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信装置2aが受信信号として受信する無線通信システムを構成する。
【0038】
次に、送信装置1a及び受信装置2aを備えた無線通信システムが伝送速度及び伝送品質を維持しつつ、無線伝送路における信号帯域幅を狭帯域化する動作について説明する。
【0039】
図3は、マルチキャリア伝送方式におけるサブキャリアに対するロールオフ率(ロールオフ係数)αが相対的に大きい場合と小さい場合の伝送特性の差異(相対的傾向)を示す図である。
【0040】
サブキャリア帯域幅は、ロールオフ率αが大きい場合には広帯域になり、ロールオフ率αが小さい場合には狭帯域になる。サブキャリア間隔は、ロールオフ率αが大きい場合には広くなり、ロールオフ率αが小さい場合には狭くなる。
【0041】
振幅変動は、ロールオフ率αが大きい場合には小さくなり、ロールオフ率αが小さい場合には大きくなる。遅延波耐性は、ロールオフ率αが大きい場合には強くなり、ロールオフ率αが小さい場合には弱くなる。
【0042】
遅延時間が同じである場合の等化器への負担は、ロールオフ率αが大きい場合には小さくなり、ロールオフ率αが小さい場合には大きくなる。伝送速度は、ロールオフ率αが大きい場合、及びロールオフ率αが小さい場合のいずれも同じである。
【0043】
そこで、送信装置1aは、遅延波の影響が大きいサブキャリアに対してはロールオフ率αを大きくし、遅延波の影響が小さいサブキャリアに対してはロールオフ率αを小さくするように設定を行い、送信信号を受信装置2aに対して送信する。
【0044】
図4は、マルチキャリア伝送方式における送信スペクトラムを模式的に例示する図である。図4(a)は、送信装置1aの送信スペクトラムを模式的に示す図である。図4(b)は、比較例の送信装置の送信スペクトラムを模式的に示す図である。
【0045】
図4(a)に示すように、送信装置1aは、遅延波による波形歪が例えば所定の許容値を超えないサブキャリアに対して、ロールオフ率αを小さくし(α小)、信号帯域幅を狭帯域化する。また、送信装置1aは、遅延波による波形歪が例えば所定の許容値を超えるサブキャリアに対して、ロールオフ率αを相対的に大きくする(α大)。
【0046】
つまり、送信装置1aは、遅延波の影響に応じてサブキャリアごとにロールオフ率αを変更し、受信装置2aにおける等化器23-1~23-nの負担を均等化する。また、送信装置1aは、送信信号の信号帯域にロールオフ率αが小さいサブキャリアを含ませることにより、送信信号の全体の信号帯域を狭帯域化する。上述したように、ロールオフ率αを変更しても、伝送速度は変化しない。
【0047】
一方、図4(b)に示すように、比較例の送信装置は、サブキャリアそれぞれに対するロールオフ率αが同一であり、サブキャリアそれぞれの信号帯域幅が均等になるように設計されている。
【0048】
マルチキャリア伝送方式により信号を受信する受信装置は、等化器に用いられるトランスバーサルフィルタのタップ数をKとし、シンボル周期をTとした場合、タップ長K・Tを遅延時間差より長くされる必要がある。マルチキャリア伝送では、各サブキャリアのシンボル周期Tを長くすることにより、タップ数を減らすことができる。
【0049】
つまり、比較例の送信装置は、遅延時間差が最も長い場合を想定してサブキャリア数や信号帯域幅を設計されていので、実際の遅延波環境に応じて最適化することはされておらず、必要以上に信号帯域幅が大きくなることがあった。
【0050】
次に、受信装置2aがサブキャリアごとにロールオフ率α及び中心周波数を決定する処理について説明する。以下、サブキャリア数をNとし、サブキャリア番号をnとする。ただし、nは、1からNまでの整数とする。
【0051】
また、以下の説明において、mは、ロールオフ率αを変更するステップ番号を示す。Fsは、シンボルレートを示す。α(m)は、ステップ番号mのロールオフ率を示す。αmaxは、ロールオフ率の最大値(すなわち、1)を示す。αは、サブキャリア番号nのロールオフ率を示す。Δαは、ロールオフ率を変更するステップ幅を示す。f(n)は、サブキャリア番号nの中心周波数を示す。
【0052】
図5は、送信装置1aが送信するトレーニング用の信号に基づいて、受信装置2aがサブキャリアごとにロールオフ率α及び中心周波数を決定する処理の第1例を示すフローチャートである。
【0053】
まず、受信装置2aは、1からNまでのサブキャリアそれぞれに対して個別にロールオフ率α及び中心周波数を決定するために、制御部25がn=1,m=0を設定する(S100)。
【0054】
制御部25の設定に応じて、更新部27は、ステップ番号mのロールオフ率α(m)を下式(1)によって算出する更新を行う。このとき、更新部27は、例えばサブキャリア番号nの中心周波数f(n)を下式(2)によって算出する(S102)。
【0055】
【数1】
【数2】
【0056】
送信装置1aは、ロールオフ率α(m)及び中心周波数f(n)を受信装置2aから受信し、トレーニング用のサブキャリア番号nのサブキャリアを用いて既知データを、ロールオフ率α(m)及び中心周波数f(n)に応じて変調して受信装置2aへ送信する(S104)。
【0057】
送信装置1aが既知データをトレーニング用のサブキャリア番号nを用いて送信すると、受信装置2aは、計測部26がサブキャリア番号nの残留誤差を計測する(S106)。
【0058】
制御部25は、計測部26が計測した残留誤差が許容値より大きいか否かを判定し(S108)、残留誤差が許容値以下である場合にはS110の処理に進み(S108:No)、残留誤差が許容値よりも大きい場合にはS112の処理に進む(S108:yes)。このとき、制御部25は、残留誤差が許容値以下である場合には、等化器23-nによる遅延波補償が可能であると判断する。
【0059】
S110の処理において、受信装置2aは、制御部25がステップ番号mをm+1にインクリメントする。そして、受信装置2aは、更新部27がロールオフ率α(m+1)を算出して更新し、設定値送信部28がロールオフ率α(m+1)の設定値及び中心周波数を送信装置1aへ送信した後、S102の処理に戻る。
【0060】
S112の処理において、制御部25は、等化器23-nの残留誤差が許容値を超える1つ前のステップ番号のロールオフ率α(m-1)をロールオフ率αとする。すなわち、制御部25は、サブキャリア番号nのロールオフ率αの設定値及び中心周波数を決定することとなる。
【0061】
図6は、制御部25が2つのサブキャリアに対してロールオフ率α及び中心周波数を決定し、3つ目のサブキャリアに対してトレーニングを行っている状態を模式的に示す図である。図6に示すように、制御部25は、サブキャリアそれぞれに対して順次にロールオフ率αの設定値及び中心周波数を決定する。
【0062】
そして、制御部25は、n=Nとなっているか否かを判定し(図5:S114)、n=Nとなっていない場合にはS116の処理に進み(S114:No)、n=Nとなっている場合にはS118の処理に進む(S114:Yes)。
【0063】
S116の処理において、制御部25は、キャリア番号nをn+1にインクリメントし、ステップ番号mを初期値(m=0)にリセットして、S102の処理に戻る。
【0064】
受信装置2aは、全てのサブキャリアのロールオフ率α及び中心周波数を決定し、全てのサブキャリアのロールオフ率α及び中心周波数を示す情報を送信装置1aに対して送信したこととなる(S118)。
【0065】
次に、送信装置1aが送信するトレーニング用の信号に基づいて、受信装置2aがロールオフ率α及び中心周波数を決定する処理の他の例について説明する。
【0066】
図7は、周波数特性を計測するために無線通信システムが備えるトレーニング信号送信装置100及びトレーニング信号受信装置200の構成を例示する図である。
【0067】
トレーニング信号送信装置100は、発振器102及びアンテナ104を有する。なお、トレーニング信号送信装置100は、送信装置1aが備える上述した構成に含まれていてもよいし、上述した送信装置1aに対してさらに追加して設けられてもよい。
【0068】
トレーニング信号受信装置200は、アンテナ202、発振器204、ミキサ206及び検波器208を有する。なお、トレーニング信号受信装置200は、受信装置2aが備える上述した構成に含まれていてもよいし、上述した受信装置2aに対してさらに追加して設けられてもよい。
【0069】
図7に示したように、トレーニング信号送信装置100は、発振器102が周波数f(t)の信号をアンテナ104から送信する。トレーニング信号受信装置200は、トレーニング信号送信装置100が送信した信号をアンテナ202が受信し、発振器204が出力する周波数(f)の信号と受信信号とをミキサ206が混合し、混合した信号を検波器208によって検波する。
【0070】
例えば、トレーニング信号送信装置100を備えた送信装置1aが図8(a)に示したようにチャネル帯域全体に対して無変調波を掃引させるトレーニング信号を送信する。トレーニング信号受信装置200を備えた受信装置2aは、一度にチャネル帯域全体にわたって波形歪の周波数特性を計測する。
【0071】
つまり、無線通信システムは、サブキャリアそれぞれに対して個別にトレーニングを実施してロールオフ率α及び中心周波数を決定してもよいし、一度にチャネル帯域全体にわたってサブキャリアそれぞれのロールオフ率α及び中心周波数を決定してもよい。
【0072】
また、送信装置1aが既知パターンの広帯域変調波を送信し、受信装置2aが既知パターンに対して自己相関関数を用いて遅延プロファイルを推定(神谷幸弘著、「MATLABによるディジタル無線通信技術」、初版、コロナ社、2008年12月17日、p.78-81、相関関数計算のハードウェア表現参照)し、受信装置2aが遅延プロファイルを高速フーリエ変換して周波数特性を算出してもよい(唐沢好男著、「ディジタル移動通信の電波伝搬基礎」、初版、コロナ社、2003年3月17日、p.46-54、3.3.2遅延プロファイル参照)。
【0073】
そして、受信装置2aは、例えば図8(b)に示したように、受信する所定の広帯域変調波の自己相関関数に基づく遅延プロファイルを用いて算出した受信信号の周波数特性に応じて、ノッチが大きい周波数区間に配置されるサブキャリアのロールオフ率よりも、他の周波数区間(略フラットな周波数区間)に配置されるサブキャリアのロールオフ率を小さくするように、制御部25が制御を行ってもよい。
【0074】
このとき、制御部25は、できる限り全体の帯域が狭帯域となるように、ロールオフ率α及び中心周波数をサブキャリアごとに決定する。
【0075】
次に、送信装置1aの変形例について説明する。図9は、送信装置1aの変形例(送信装置1b)の構成を示す図である。図9に示すように、送信装置1bは、例えば分離部10、n個の変調部11-1~11-n、合成部12、送信部13、増幅部14、設定値受信部15、設定部16及び正規化部17-1~17-nを有する。
【0076】
つまり、送信装置1bは、図1に示した送信装置1aに対し、正規化部17-1~17-nが付加された構成となっている。
【0077】
正規化部17-1~17-nは、変調部11-1~11-nが変調したn個の送信信号を、サブキャリアごとに設定部16が設定したロールオフ率α及び中心周波数に応じてそれぞれ正規化し、正規化したn個の送信信号を合成部12に対して出力する。
【0078】
より具体的には、正規化部17-1~17-nは、例えば変調部11-1~11-nが変調した送信信号それぞれに対し、送信周波数帯域における中心側のキャリアの振幅に比べて、送信周波数帯域における低周波側及び高周波側のキャリアの振幅が小さくなるように正規化する。
【0079】
図10は、正規化部17-1~17-nが正規化する送信周波数帯域における電力スペクトラムを概念的に示す図である。図10に示すように、正規化部17-1~17-nは、変調部11-1~11-nが変調した送信信号の振幅に対し、それぞれ重みづけを行って正規化を行う。
【0080】
例えば、正規化部17-1~17-nは、合成信号のスペクトラムの総電力を一定にして、キャリアの振幅を標準偏差がσである正規分布p(x)にする。正規分布p(x)は、下式(3)によって表される。
【0081】
【数3】
【0082】
次に、正規化部17-1~17-nを備えた送信装置1bの動作の具体例について説明する。図11は、正規化部17-1~17-nが正規化した周波数スペクトラム特性の具体例を示すグラフである。図12は、正規化部17-1~17-nによる正規化の標準偏差に対する通信路容量を例示するグラフである。
【0083】
図11に示したように、標準偏差σが小さくなるほど、送信周波数帯域の中心側のキャリアに電力が集中し、帯域外漏洩電力が削減される。一方、図12に示したように、通信路容量は、標準偏差σが1.5よりも小さくなると、大きく減少する傾向がある。よって、正規化部17-1~17-nによる正規化の標準偏差σは、1.5程度に設定されることが好ましい。
【0084】
そして、合成部12は、正規化部17-1~17-nが正規化した送信信号それぞれを合成する。つまり、送信装置1bは、伝送速度及び伝送品質を維持しつつ、狭帯域化と帯域外漏洩電力の低減をする無線通信システムを構成可能にする。
【0085】
次に、他の送信装置の構成例について説明する。図13は、他の送信装置1cの構成例を示す図である。図13に示すように、送信装置1cは、例えば誤り訂正符号化部18、スクランブル部19、分離部10、n個の変調部11-1~11-n、合成部12、送信部13、増幅部14、設定値受信部15、設定部16及び正規化部17-1~17-nを有する。
【0086】
つまり、送信装置1cは、図9に示した送信装置1bに対し、分離部10の前段に誤り訂正符号化部18及びスクランブル部19が設けられた構成となっている。
【0087】
誤り訂正符号化部18は、送信信号に誤り訂正を行って符号化し、符号化した送信信号をスクランブル部19に対して出力する。スクランブル部19は、誤り訂正符号化部が符号化した送信信号の符号化系列に対してスクランブルをかけ、分離部10に対して出力する。
【0088】
上述したように、正規化部17-1~17-nが正規化を行った場合、送信周波数帯域における低周波側及び高周波側(両端側)のキャリアは、送信周波数帯域における中心側のキャリアよりも振幅が小さいため、誤りが発生しやすい。このため、スクランブル部19は、送信周波数帯域の両端側で発生する誤りを振幅が大きい中心側のキャリアの誤り訂正能力によって補償するために、発生する誤りをばらけさせるようにスクランブルをかけている。
【0089】
このように、誤り訂正符号化部18が全てのキャリアに対して施した誤り訂正がスクランブル部19によって全てのキャリアに分配されるように混ぜ合わされるので、送信装置1cは、正規化部17-1~17-nが正規化したキャリアの振幅の正規分布によるキャリア電力のアンバランスを補完することができる。
【0090】
そして、分離部10は、スクランブル部19がスクランブルをかけた送信信号の符号化系列を例えばn個のキャリアに対して分離し、分離したn個の送信信号を変調部11-1~11-nに対してそれぞれ出力する。
【0091】
次に、他の受信装置の構成例について説明する。図14は、他の受信装置2cの構成例を示す図である。図14に示すように、受信装置2cは、例えば受信部20、分離部21、n個の復調部22-1~22-n、n個の等化器23-1~23-n、合成部24、制御部25、計測部26、更新部27、設定値送信部28、デスクランブル部29及び誤り訂正復号部30を有する。
【0092】
つまり、受信装置2cは、図2に示した受信装置2aに対し、合成部24の後段にデスクランブル部29及び誤り訂正復号部30が設けられた構成となっている。そして、受信装置2cは、送信装置1cがマルチキャリア伝送方式によって送信した送信信号を受信する。
【0093】
デスクランブル部29は、合成部24が合成した受信信号に対し、スクランブル部19(図13)がかけたスクランブルに対応するデスクランブルを行い、デスクランブル後の受信信号を誤り訂正復号部30に対して出力する。
【0094】
誤り訂正復号部30は、デスクランブル部29がデスクランブルを行った受信信号に対し、誤り訂正符号化部18が行った誤り訂正と符号化に対応する誤り訂正と復号を行い、送信装置1bが送信した送信信号を復元する。
【0095】
つまり、送信装置1c及び受信装置2cは、伝送速度及び伝送品質を維持しつつ、狭帯域化と帯域外漏洩電力の低減を行う無線通信システムを構成する。
【0096】
なお、上述した送信装置1,1a,1b,1c、及び受信装置2,2a,2cを構成する各部は、一部又は全部が、ハードウェアによって構成されてもよいし、メモリ等に記憶されたプログラムをプロセッサに実行させることによって構成されてもよい。
【0097】
また、送信装置1,1a,1b,1c、及び受信装置2,2a,2cを構成する各部は、一部又は全部がプログラムをプロセッサに実行させることによって構成されている場合、当該プログラムが記録媒体に記録されて供給されてもよいし、ネットワークを介して供給されてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1,1a,1b,1c・・・送信装置、2,2a,2c・・・受信装置、10・・・分離部、11-1~11-n・・・変調部、12・・・合成部、13・・・送信部、14・・・増幅部、15・・・設定値受信部、16・・・設定部、17-1~17-n・・・正規化部、18・・・誤り訂正符号化部、19・・・スクランブル部、20・・・受信部、21・・・分離部、22-1~22-n・・・復調部、23-1~23-n・・・等化器、24・・・合成部、25・・・制御部、26・・・計測部、27・・・更新部、28・・・設定値送信部、29・・・デスクランブル部、30・・・誤り訂正復号部、100・・・トレーニング信号送信装置、200・・・トレーニング信号受信装置、250・・・CPU、252・・・メモリ
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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図15
図16