(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】繊維強化ポリアミド樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20230623BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230623BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20230623BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230623BHJP
E03C 1/02 20060101ALI20230623BHJP
E03C 1/12 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C08L77/00
C08J5/04 CFG
C08K5/544
C08K7/02
E03C1/02
E03C1/12 D
(21)【出願番号】P 2019022883
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 延弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英昭
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106554617(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104829815(CN,A)
【文献】特開2002-265631(JP,A)
【文献】特開2003-176408(JP,A)
【文献】特開2012-001646(JP,A)
【文献】特開平06-065371(JP,A)
【文献】特開2014-111753(JP,A)
【文献】特開2018-009157(JP,A)
【文献】特開平08-059984(JP,A)
【文献】特開2014-136745(JP,A)
【文献】特開2016-153672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08J 5/04
C08K 5/544
C08K 7/02
E03C 1/02
E03C 1/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)10~140質量部およびシランカップリング剤(C)0.4~3.0質量部の割合で含む混合物を溶融混錬することで得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、
前記シランカップリング剤(C)が前記ポリアミド(A)の末端と反応するビス(2-トリメトキシシリルエチル)アミンまたはビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミンであり、
前記ポリアミド(A)が半芳香族ポリアミドであり、
前記無機充填剤(B)が繊維状充填剤であ
る、繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤(C)がビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミンである請求項1に記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項4】
請求項3に記載の成形品の自動車部品用への使用。
【請求項5】
請求項3に記載の成形品の水道部品用への使用。
【請求項6】
請求項3に記載の成形品の電子部品用への使用。
【請求項7】
前記ポリアミド(A)および無機充填剤(B)の溶融混練時に前記シランカップリング剤(C)を配合する請求項1または2に記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリアミド樹脂組成物及び当該繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドに無機充填剤を含む材料は、その優れた特性と溶融成形の容易さから、自動車エンジンルームの部品や電気電子部品などの材料として幅広く用いられている。近年では、電気自動車に関連する部品への適用が進んでいるが、従来のガソリン車よりも各部品の環境温度が低く、湿度がある高温高湿環境下での材料の強度維持(耐熱水性)が求められている。また、水栓や水道用途の部品でも、成形の容易性や成形品の優れた強度の観点から、他の熱可塑性樹脂からポリアミドへの置き換えが進んでいる。水栓や水道用途では、材料が熱水に触れうる環境下であるため、耐熱水性が必要となる。しかし、ポリアミドは高温高湿環境下もしくは熱水に晒されると強度低下が大きいという問題を抱えている。これは、吸水による材料の軟化の他に、無機充填剤とポリアミドの密着性低下が影響している。そのため、強度および耐熱水性に優れたポリアミドが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、不飽和ポリエステル樹脂、これと共重合可能なビニル系単量体、熱可塑性重合体、シランカプッリング剤、及びバインダーを1~3重量%含有する繊維補強材からなる不飽和ポリエステル樹脂組成物で耐熱水性を改善した例が開示されている。また、特許文献2には、不飽和モノカルボン酸或いは不飽和ジカルボン酸と1種類以上の不飽和単量体との共重合及びシラン系カップリング剤からなる処理剤により表面処理を施したガラス繊維束に、ポリアミド樹脂を溶融して含浸させてなる長繊維強化材が開示されている。さらに、特許文献3には、ポリアミド樹脂40~20重量部、偏平度1.5~8の偏平断面ガラス繊維60~80重量部、ならびに溶融混錬時にポリアミド反応性シランカップリング剤をガラス繊維束の0.1~1.0重量%添加するガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-43518号公報
【文献】特開平8-157610号公報
【文献】国際公開第2010/87192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、シランカプッリング剤によって繊維補強材と不飽和ポリエステル樹脂との密着性を上げることで耐熱水性を向上させている。しかし、特許文献1は不飽和ポリエステル樹脂に関する技術であり、耐熱水性向上のためのポリアミド向けの最適なシランカップリング剤に関する言及はない。また、特許文献2の長繊維強化材では、耐熱性、耐水性、耐溶剤性を向上させているが、特定の表面処理がされたガラス繊維束の技術であり、汎用的なガラス繊維に適用できる技術ではない。さらに、特許文献3のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物では、溶融混錬時にシランカップリング剤を添加し、密着性を上げているが、ガラス高充填の系に限定している上、耐熱水性に関する言及はない。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、強度及び耐熱水性により優れた繊維強化ポリアミド樹脂組成物及び当該繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリアミド(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)を10~140質量部および前記ポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上およびトリアルコキシシリル基を2つ以上1分子中に有するシランカップリング剤(C)を0.4~3.0質量部の割合で含む混合物を溶融混錬することで得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、次の[1]~[9]を提供するものである。
[1]ポリアミド(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)10~140質量部およびシランカップリング剤(C)0.4~3.0質量部の割合で含む混合物を溶融混錬することで得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、前記シランカップリング剤(C)が前記ポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上およびトリアルコキシシリル基を2つ以上1分子中に有する繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
[2]前記ポリアミド(A)が半芳香族ポリアミドである上記[1]に記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
[3]前記シランカップリング剤(C)がビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミンである上記[1]または[2]に記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
[4]前記無機充填剤(B)が繊維状充填剤である上記[1]~[3]のいずれかに記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
[6]上記[5]に記載の成形品の自動車部品用への使用。
[7]上記[5]に記載の成形品の水道部品用への使用。
[8]上記[5]に記載の成形品の電子部品用への使用。
[9]前記ポリアミド(A)および無機充填剤(B)の溶融混練時に前記シランカップリング剤(C)を配合する上記[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度及び耐熱水性により優れた繊維強化ポリアミド樹脂組成物及び当該繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0012】
<繊維強化ポリアミド樹脂組成物>
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物(以下、単にポリアミド樹脂組成物ともいう)は、ポリアミド(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)10~140質量部およびシランカップリング剤(C)0.4~3.0質量部の割合で含む混合物を溶融混錬することで得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、前記シランカップリング剤(C)が前記ポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上およびトリアルコキシシリル基を2つ以上1分子中に有することを特徴とする。
本発明によれば、特定構造のシランカップリング剤(C)を用いることにより、無機充填剤(B)とポリアミド(A)との密着性が向上するとともに撥水性が向上し、優れた耐熱水性が発現すると考えられる。
【0013】
[ポリアミド(A)]
本発明において用いるポリアミド(A)は、特に制限はないが、ポリアミドの繰り返し単位中におけるアミド基1個当たりの炭素数が6~13であるポリアミドが好ましい。ポリアミドの繰り返し単位中におけるアミド基1個当たりの炭素数が前記範囲内であると、成形体が低吸水性になり、吸水による寸法変化などを抑えることができる。これらの観点から、繰り返し単位中におけるアミド基1個当たりの炭素数は7~13がより好ましく、8~13がさらに好ましい。
なお、「アミド基1個当たりの炭素数」は、アミド基1個当たりの各繰り返し単位中に含まれる全炭素数(アミド基の炭素も含む)の平均値である。
【0014】
本発明において用いるポリアミド(A)は、例えばアミノカルボン酸、ラクタム、ジアミン、及びジカルボン酸を主たる原料とすることにより製造することができる。
前記原料としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノカルボン酸;ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等のラクタム;1,6-ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、2-エチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂環族ジアミン;メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、及びシュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、スペリン酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
本発明では、これらの原料から誘導されるホモポリマー又はコポリマーの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ポリアミド(A)の具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ナイロン4T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T/4T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリテトラメチレンテレフタルアミド/ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン66/6T/4T/46)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM8T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンドデカンアミドコポリマー(ナイロン10T/612)、ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T/6T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン10T/66)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンメチレンアジパミド(ナイロン66/6T/10T/106)、ポリデカメチレンテレフタルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ナイロン10T/11)、ポリノナメチレンナフトアミド(ナイロン9N)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフタレンアミド(ナイロンM8N)、ポリノナメチレンナフトアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフトアミドコポリマー(ナイロン9N/M8N)、ポリヘキサメチレンシクロヘキサンカルボアミド(ナイロン6C)、ポリヘキサメチレンシクロヘキサンカルボアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)シクロヘキサンカルボアミドコポリマー(ナイロン6C/M5C)、ポリノナメチレンシクロヘキサンカルボアミド(ナイロン9C)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)シクロヘキサンカルボアミド(ナイロンM8C)、ポリノナメチレンシクロヘキサンカルボアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)シクロヘキサンカルボアミドコポリマー(ナイロン9C/M8C)及びこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、成形体の強度向上および低吸水性の観点から、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリノナメチレンナフトアミド(ナイロン9N)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフタレンアミド(ナイロンM8N)、ポリノナメチレンナフトアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフトアミドコポリマー(ナイロン9N/M8N)、ポリノナメチレンシクロヘキサンカルボアミド(ナイロン9C)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)シクロヘキサンカルボアミド(ナイロンM8C)、ポリノナメチレンシクロヘキサンカルボアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)シクロヘキサンカルボアミドコポリマー(ナイロン9C/M8C)が好ましい。
【0017】
本発明において用いるポリアミド樹脂(A)は、成形体の強度向上および低吸水性の観点から、繰り返し構造単位中に芳香環を含む半芳香族ポリアミドが好ましく、中でも、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを原料とする半芳香族ポリアミドがより好ましい。
ここで、本発明において半芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミド、又は、脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドをいう。ここで「主成分とする」とは、全単位中の50~100モル%、好ましくは60~100モル%を構成することをいう。
【0018】
半芳香族ポリアミドを構成する脂肪族ジアミンとしては、成形体の優れた強度および低吸水性の観点から、炭素数4~18の脂肪族ジアミンが好ましい。
なお、半芳香族ポリアミドを構成する脂肪族ジアミンとしては、炭素数4~18の脂肪族ジアミンとそれ以外の脂肪族ジアミンとを併用してもよく、その場合の脂肪族ジアミン全量中の炭素数4~18の脂肪族ジアミンの含有量は、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、75~100モル%が更に好ましく、90~100モル%が特に好ましい。
【0019】
炭素数が4~18の脂肪族ジアミンとしては、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとの少なくとも一方を使用することが好ましく、両者を併用することがより好ましい。1,9-ノナンジアミン及び2-メチル-1,8-オクタンジアミンを併用する場合、1,9-ノナンジアミン:2-メチル-1,8-オクタンジアミンのモル比は、99:1~1:99が好ましく、95:5~50:50がより好ましく、90:10~75:25が更に好ましい。1,9-ノナンジアミン及び2-メチル-1,8-オクタンジアミンのモル比が前記範囲内であると、成形体の強度が高くなり、低吸水性も実現できる。
【0020】
半芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸もしくはナフタレンジカルボン酸が好ましく、半芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸の全量中のテレフタル酸もしくはナフタレンジカルボン酸の含有量は、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、75~100モル%が更に好ましく、90~100モル%がより更に好ましい。芳香族ジカルボン酸の全量中のテレフタル酸もしくはナフタレンジカルボン酸の含有量が前記範囲内であると成形体の強度が高くなり、かつ吸水率が低くなる。
【0021】
また、半芳香族ポリアミドを構成するモノマー全量における、前記炭素数4~18の脂肪族ジアミンの含有量は30~55モル%が好ましく、40~55モル%がより好ましく、芳香族ジカルボン酸の含有量は30~55モル%が好ましく、40~55モル%がより好ましい。
【0022】
ポリアミド(A)は、その分子鎖の末端が末端封止剤により封止されていることが好ましい。末端が封止されていると、得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物の溶融成形性等がより優れたものとなる。
【0023】
ポリアミド(A)の末端を封止するための末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基又はカルボキシ基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性及び封止末端の安定性等の観点から、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましく、取扱いの容易さ等の観点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、及びモノアルコール類等を使用することもできる。
【0024】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、及びイソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、及びフェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、及び製造コスト等の観点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び安息香酸が好ましい。
【0025】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、及びジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、及びジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、及びナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、及び製造コストの観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアニリンが好ましい。
【0026】
本発明で使用するポリアミド(A)は、公知の方法を用いて製造できる。例えば、アミノカルボン酸やラクタム、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法等の方法が挙げられる。
ポリアミド(A)の製造方法としては、例えば最初にジカルボン酸単位となるジカルボン酸成分と、ジアミン単位となるジアミン成分と、触媒と、必要に応じて末端封止剤とをそれぞれ所定量一括して混合し、200~250℃に加熱して、プレポリマーとし、更に固相重合するか、又は溶融押出機を用いて重合させる方法が挙げられる。
なお、重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、重合温度が200~280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができる。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合、重合温度は370℃以下であることが好ましく、分解がほとんどなく、劣化の無いポリアミド(A)が得られる。
【0027】
ポリアミド(A)の製造において使用できる触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩又はエステル等が挙げられる。
前記塩又はエステルとしては、リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸とカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、及びアンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、及びフェニルエステル等が挙げられる。
【0028】
[無機充填剤(B)]
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、無機充填剤(B)を含有する。無機充填剤(B)を含有することにより、強度に優れ、低吸水性のポリアミド樹脂組成物となる。
【0029】
無機充填剤(B)に特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲において、公知のものを使用することができる。
無機充填剤(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維等の繊維状充填剤;ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、窒化珪素、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化チタン、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト等が挙げられる。これらの無機充填剤(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記無機充填剤(B)の中でも、剛性等に優れる観点から、繊維状充填剤、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、及びアパタイトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、繊維状充填剤、ウォラストナイト、及びマイカからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、繊維状充填剤がさらに好ましい。また、繊維状充填剤の中でも、ガラス繊維及び炭素繊維が好ましい。
【0031】
使用する繊維状充填剤の平均繊維径は、通常0.5~250μm程度であるが、ポリアミド(A)との接触面積が良好となり、成形品の機械的強度を高める観点から、3~100μmが好ましく、3~30μmがより好ましい。また、使用する繊維状充填剤の平均繊維長は、通常0.1~10mm程度であるが、ポリアミド樹脂組成物の高温強度、耐熱性、及び機械的強度を高める観点から、0.2~5mmが好ましく、1~5mmがより好ましい。上記平均繊維長と平均繊維径とのアスペクト比(L/D)は、好ましくは10~500である。
これらの平均繊維径、平均繊維長、及びアスペクト比のいずれか2つ以上の好ましい態様の組み合わせを有する繊維状充填剤が、ポリアミド樹脂組成物の高温強度、耐熱性、及び機械的強度等に優れる観点からさらに好ましい。
なお、繊維状充填剤の平均繊維径及び平均繊維長は、光学顕微鏡により観察、測定することができる。
また、繊維状充填剤の断面形状に特に制限はなく、正方形又は円形でもよいし、扁平でもよい。断面形状が扁平のものとしては、例えば、長方形、長方形に近い長円形、楕円形、繭型、長手方向の中央部がくびれた繭型等が挙げられる。断面の長径と短径の比率である扁平度は1以上1.5未満が好ましく、1であることが更に好ましい。
【0032】
無機充填剤は、必要に応じ、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などにより表面処理が施されていてもよい。前記シランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン系カップリング剤;エポキシシラン系カップリング剤;ビニルシラン系カップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記シランカップリング剤の中でも、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0033】
無機充填剤、好ましくは繊維状充填剤は、必要に応じ、集束剤による処理が施されていてもよい。集束剤としては、例えばカルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体単位と当該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体単位とを構成単位として含む共重合体、エポキシ化合物、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマー、これらの第1級、第2級又は第3級アミンとの塩などが挙げられる。これらの集束剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド(A)100質量部に対する、無機充填剤(B)の配合量は、10質量部以上140質量部以下である。無機充填剤(B)の配合量が10質量部未満であるとポリアミド(A)が有する耐薬品性効果が得られにくく、強度および耐熱水性向上の効果が小さくなるおそれがある。また、無機充填剤(B)の配合量が140質量部を超えると繊維強化ポリアミド樹脂組成物の成形性や表面性が低下するおそれがある。このような観点から、無機充填剤(B)の配合量は、15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上がよりさらに好ましく、45質量部以上がよりさらに好ましく、そして、120質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、60質量部以下がよりさらに好ましい。
【0035】
[シランカップリング剤(C)]
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物を作るにあたっては、ポリアミド(A)と無機充填剤(B)からなる混合物の溶融混練時にシランカップリング剤(C)をポリアミド(A)100質量部に対して0.4~3.0質量部の割合で配合することが必要である。シランカップリング剤(C)の配合量が、0.4質量部を下回ると、溶融混錬中にシランカップリング剤(C)が揮発して量が減ることにより、強度および耐熱水性向上の効果が小さくなる。また、シランカップリング剤(C)の配合量が3.0質量部を上回ると、溶融混錬中のガス発生や増粘により、溶融混錬が困難となる。優れた強度と耐熱水性が両立できるという観点から、シランカップリング剤(C)の配合量は1.0~3.0質量部が好ましい。
【0036】
また、無機充填剤(B)としてのガラス繊維は一般に、集束剤によって束ねられ一定長にカットされたチョップドストランドの形態でポリアミドの強化剤として使用される。ポリアミド用チョップドストランドの集束剤にはマトリクス樹脂との密着性の向上のために、予めシランカップリング剤が繊維束に少量含まれている。しかし、予め繊維束に付着させることのできるシランカップリング剤の量は、繊維束が押出時に解繊不良を起こさないように上限があり、ガラス繊維100質量部に対して好ましくは0.05~0.2質量部であり、この程度のシランカップリング剤の量では、本発明のように無機充填剤(B)とポリアミド(A)との密着を充分に保持できず、優れた強度や耐熱水性は得られない。
【0037】
優れた強度および耐熱水性を発現させるためには、シランカップリング剤(C)を新たに溶融混練時に配合することが必要である。本発明においては、無機充填剤(B)に予め少量付着しているカップリング剤とは別に、新たにシランカップリング剤(C)をポリアミド(A)および無機充填剤(B)の溶融混練時に直接配合する。これによって、従来得られなかった優れた強度および耐熱水性を達成でき、しかも安定して押出できる。
なお、ポリアミド(A)、無機充填剤(B)、及びシランカップリング剤(C)を配合する順序は特に制限されないが、ポリアミド(A)にシランカップリング剤(C)を配合し、次いで、無機充填剤(B)を配合してもよく、ポリアミド(A)に無機充填剤(B)を配合し、次いで、シランカップリング剤(C)を配合してもよい。
【0038】
シランカップリング剤(C)は、ポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上およびトリアルコキシシリル基を2つ以上1分子中に有する。
シランカップリング剤(C)が1分子中にポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上有することにより、ポリアミド(A)の末端基である、カルボキシル基とアミド反応及び/又はアミノ基とN-アルキル化反応が起こり、ポリアミド(A)と無機充填剤(B)とを強固に密着させることができる。シランカップリング剤(C)1分子中に有するアミノ基の数は、架橋の制御および溶融混錬性の観点から、1~3個が好ましく、1~2個がより好ましい。
【0039】
シランカップリング剤(C)が1分子中に2つ以上有するトリアルコキシシリル基は、無機充填剤(B)との反応に寄与する。1分子中に複数のトリアルコキシシリル基を有することで、1分子中に1つしかトリアルコキシシリル基を有さないシランカプッリング剤よりも無機充填剤(B)とポリアミド(A)とを強く結合させることができる。また、トリアルコキシシリル基を複数有するとトリアルコキシシリル基同士が脱水縮合することで容易に架橋が進み、ポリアミド樹脂組成物に撥水性を持たせることができ、これにより耐熱水性が向上すると考えられる。1分子中のトリアルコキシシリル基の数は、架橋の制御および溶融混錬性の観点から、2~6個が好ましく、2~4個がより好ましい。
【0040】
シランカップリング剤(C)としては、ポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上およびトリアルコキシシリル基を2つ以上1分子中に有すれば特に制限はないが、下記一般式(1)または(2)で表されるシランカップリング剤が好ましく、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤がより好ましい。
【0041】
【0042】
一般式(1)および(2)中、R1、R2、R4、R5、R6はそれぞれ独立して、炭素数1~18の直鎖または分岐アルキレン基、フェニレン基であり、R3、R7は炭素数1~6のアルキル基である。R2、R3、R5、R6、R7が複数存在する場合、複数のR2、R3、R5、R6、R7は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m、n、oはいずれも1~3の整数である。
【0043】
R1、R2、R4、R5、R6の炭素数1~18の直鎖または分岐アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられる。
フェニレン基は置換基を有していてもよく、置換基としては炭素数1~12の直鎖または分岐アルキル基が挙げられ、炭素数1~12の直鎖または分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0044】
それらの中でも、反応性の観点から、R1、R2、R4、R5、R6は炭素数1~8の直鎖または分岐アルキレン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基がより好ましい。
【0045】
R3およびR7の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
【0046】
それらの中でも、加水分解しやすさと安定性の観点から、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0047】
m、n、oはいずれも1~3の整数であり、好ましくは1である。
【0048】
上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤(C)としては、例えば、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)アミン、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン等が挙げられる。中でも、溶融混錬時の増粘防止やポリアミドとの反応性の観点から、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミンが好ましく、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミンがより好ましい。
【0049】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物中、上記ポリアミド(A)、無機充填剤(B)及びシランカップリング剤(C)の配合量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
【0050】
[その他の添加剤]
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、上記ポリアミド(A)、無機充填剤(B)及びシランカップリング剤(C)以外にその他の添加剤を必要に応じて含んでもよい。
その他の添加剤としては、例えば、銅化合物等の安定剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤等の酸化防止剤;着色剤;顔料;流動性改善剤;紫外線吸収剤;光安定化剤;熱安定剤;帯電防止剤;臭素化ポリマー、酸化アンチモン、金属水酸化物、ホスフィン酸塩等の難燃剤;難燃助剤;結晶核剤;可塑剤;滑剤;分散剤;酸素吸収剤;硫化水素吸着剤;超高分子量ポリエチレンやPTFE等の潤滑剤;全芳香族ポリアミド繊維等の有機繊維状充填剤;α-オレフィン系共重合体、ゴム等の衝撃改質剤などが挙げられる。
上記その他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.02~200質量部が好ましく、0.03~100質量部がより好ましい。
【0051】
[繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、ポリアミド(A)、無機充填剤(B)、シランカップリング剤(C)及び必要に応じて用いられる上記その他の添加剤等を均一に混合することのできる方法を好ましく採用することができる。混合は、通常、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して溶融混練する方法が好ましく採用される。溶融混練条件は特に限定されないが、例えば、ポリアミド(A)の融点よりも10~50℃程度高い温度範囲で、約1~30分間溶融混練する方法が挙げられる。
【0052】
<成形品>
本発明の成形品は、上述の繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる。具体的には、本発明の成形品は、上述の繊維強化ポリアミド樹脂組成物を用いて、射出成形法、ブロー成形法、押出成形法、圧縮成形法、延伸成形法、真空成形法、発泡成形法、回転成形法、含浸法、レーザー焼結法、熱溶解積層法等の各種成形方法で成形することにより得ることができる。さらに、上述の繊維強化ポリアミド樹脂組成物と他のポリマー等とを複合成形して成形品を得ることもできる。
【0053】
(用途)
前記成形品としては、例えば、フィルム、シート、チューブ、パイプ、ギア、カム、各種ハウジング、ローラー、インペラー、ベアリングリテーナー、スプリングホルダー、クラッチパーツ、チェインテンショナー、タンク、ホイール、コンデンサー、ジャック、LEDリフレクタ、などが挙げられる。
特に、本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、高温高湿もしくは熱水に触れる環境下が想定される成形部材に最適であり、自動車部品用途の成形品、例えば、自動車の内外装部品、エンジンルーム内の部品、冷却系部品、摺動部品、電装部品、センサー類などに好適に使用することができる。加えて、本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は高温高湿もしくは熱水に触れる環境下である水栓および水道部品用途や医療器具用途や調理器具用途の部品とすることができる。このような成形品は、ハウジング、サーモユニット、カートリッジ、配管、スピンドル、フィルター、フィン、バルブ、プロペラシャフトなどに好適に使用することができる。さらに、本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、高温高湿もしくは熱水に触れる環境下が想定される電気部品・電子部品とすることができる。このような成形品は、表面実装型のコネクタ、ソケット、カメラモジュール、電源部品、スイッチ、センサー、コンデンサー座板、ハードディスク部品、リレー、抵抗器、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICハウジングなどに好適に使用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
製造例、実施例、及び比較例における各評価は、以下に示す方法に従って行った。
【0056】
(試験片の作製)
住友重機械工業株式会社製の射出成形機(型締力:100トン、スクリュー径:φ32mm)を使用し、シリンダー温度を320℃とし、実金型温度140℃の条件下で、Tランナー金型を用いて、実施例及び比較例で得られた繊維強化ポリアミド樹脂組成物(ペレット)から、ISO多目的試験片A型ダンベル(4mm厚、全長170mm、平行部長さ80mm、平行部幅10mm)を作製して評価用試験片とした。
【0057】
<引張強度>
上記の方法で作製した評価用試験片を用いて、ISO527-1に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における引張強度(引張降伏強度)を測定した。
【0058】
<引張り強度保持率>
上記の方法で作製した評価用試験片を80℃の熱水に500時間浸漬した後に引張強度をISO527-1に従って測定し、熱水処理前の試験片の引張強度に対する80℃の熱水に500時間浸漬した後の引張強度の割合(引張強度保持率)(%)を算出した。
【0059】
実施例及び比較例におけるポリアミド組成物を調製するために用いた各成分を示す。
【0060】
(ポリアミド(A))
[製造例1:ポリアミド9T(ナイロン9T、繰り返し単位中のアミド基1個当たりの炭素数:8.5)の製造]
7917gの1,9-ノナンジアミン、1979gの2-メチル-1,8-オクタンジアミン(1,9-ノナンジアミン:2-メチル-1,8-オクタンジアミン=80:20(モル比))、10031gのテレフタル酸、149gの安息香酸、20gの次亜塩素酸ナトリウム一水和物、5000gの水を反応装置に入れ、窒素置換した。3時間かけて内部温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後4時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥した。これを200℃、13.3Paの条件で2時間、続いて235℃、13.3Paの条件で固相重合し、融点が300℃のポリアミド9T(PA9T)を得た。
【0061】
(無機充填剤(B))
・B-1:日本電気硝子株式会社製 T-251H(ガラス繊維)、平均繊維径10.5μm、平均繊維長3mm、扁平度1
・B-2:日本電気硝子株式会社製 T-262H(ガラス繊維)、平均繊維径10.5μm、平均繊維長3mm、扁平度1
・B-3:日東紡績株式会社製 CS-459(ガラス繊維)、平均繊維径11μm、平均繊維長3mm、扁平度1
【0062】
(シランカップリング剤(C))
・C-1:ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン(Dynasylan(登録商標)1124、エボニック製)
【0063】
(その他のシランカップリング剤)
・C-2:3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン
・C-3:1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン
【0064】
(熱安定剤)
・熱安定剤:住友化学株式会社製 スミライザー(登録商標)GA-80
【0065】
(実施例1)
ポリアミド(A)として製造例1で製造したポリアミド9T(PA9T)65質量部、シランカップリング剤(C-1)としてビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン1.95質量部、及び熱安定剤としてスミライザー(登録商標)GA-80 0.13質量部を予め混合して、二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」)の上流部ホッパーからフィードするとともに、押出機下流側のサイドフィード口から無機充填剤(B-1)としてT-251H(ガラス繊維)35質量部をフィードした。シリンダー温度320℃の条件で溶融混練して押出し、冷却及び切断してペレット状の繊維強化ポリアミド樹脂組成物を製造した。
【0066】
(実施例2~6、及び比較例1~4)
表1に記載の種類及び配合量の各成分を配合することにより実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を製造した。
【0067】
上記実施例及び比較例において得られたポリアミド樹脂組成物を用いて評価用試験片を作製し、前述の各種物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1から、実施例1~6のポリアミド(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)を10~140質量部およびポリアミド(A)の末端と反応するアミノ基を1つ以上およびトリアルコキシシリル基を2つ以上1分子中に有するシランカップリング剤(C)を0.4~3.0質量部の割合で含む混合物を溶融混錬することで得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、強度および熱水浸漬後の引張強度保持率が高くなっていることが分かる。
【0070】
比較例1のポリアミド樹脂組成物は、シランカップリング剤(C)が配合されていないため強度が低く、熱水浸漬後の引張強度保持率も低い。比較例2及び3のポリアミド樹脂組成物は、シランカップリング剤(C)以外のシランカップリング剤を配合したことにより強度は高くなるが、シランカップリング剤が所定の構造を満たしていないため熱水浸漬後の引張強度保持率が低い。また、比較例4のポリアミド樹脂組成物は、シランカップリング剤(C)の配合量が少ないため、熱水浸漬後の引張強度保持率が低い。
【0071】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物を用いた成形体は、特に強度および耐熱水性に優れるため、ハウジング、サーモユニット、センサー、配管部品、冷却部品等に好適であり、自動車部品用途、水道部品用途及び電気電子部品用途等に利用できる。