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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】銀粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20230623BHJP
   B22F 1/0655 20220101ALI20230623BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230623BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20230623BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/0655
H01B1/22 A
B22F9/04 Z
B22F9/24 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022098184
(22)【出願日】2022-06-17
(62)【分割の表示】P 2022035699の分割
【原出願日】2022-03-08
(65)【公開番号】P2022151882
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2021054209
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】東 優磨
(72)【発明者】
【氏名】寺川 真悟
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101905330(CN,A)
【文献】国際公開第2020/067282(WO,A1)
【文献】特開2019-108609(JP,A)
【文献】特開2015-155576(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空隙を有し、500nm×500nm範囲の面粗さ測定における表面の算術平均粗さと体積基準のメジアン径との積が、12000nm以下であり、見かけの密度が9.8g/cm 以下であり、かつ体積基準のメジアン径が1.0μm以上4.0μm以下である、銀粉。
【請求項2】
体積基準のメジアン径が1.μm以上.0μm以下である請求項1に記載の銀粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀粉は、例えば、太陽電池や半導体やコンデンサなど種々の電子部品の、配線、電極などの電気接点等に使用される導電性ペーストの材料(フィラー)として用いられる。特許文献1には銀粉及びその製造方法が記載されている。特許文献1に記載の銀粉は、湿式還元法により製造した銀粉に、粒子同士を機械的に衝突させる表面平滑化処理を施した後、分級により凝集体を除去して製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-240092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性ペースト(以下では単にペーストと記載する場合がある)を塗布して製造される電子部品の配線や接点は、ペーストを印刷などにより塗布した後、これを加熱(典型的には焼成)して得られる。導電性ペーストとして好ましい特性は、要求するパターンの通りに塗布又は印刷がしやすいことである。また、導電性ペーストとして好ましい特性は、加熱後において、電気伝導性が良いこと、断線がないこと、剥がれにくいこと、である。
【0005】
近年は、導電性ペーストの特性として更に、電極を得る際に低温焼成が可能なことが求められている。すなわち、低温で焼成しても、電気伝導性が良く、断線がなく、剥がれにくいという特性を有する導電性ペーストが望まれる。近年は、配線の細線化が行われているため、特に細線化可能であり(印刷性が高く)、且つ、断線が生じにくいことが望まれる。
【0006】
ここで、導電性ペーストに用いる銀微粒子に空隙が含まれると、銀微粒子が中実に近い構造である(銀微粒子の内部が詰まっている)場合に比べて、加熱時(焼成時)の収縮開始温度が早くなる。内部に空隙が含まれる銀微粒子のこのような熱に対する挙動は、低温焼成を可能とする点で有利である。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、低温焼成に有利で細線化しても配線に断線が生じにくい導電性ペーストを提供できる銀粉であって、内部に空隙が含まれる銀微粒子を含む銀粉の製造方法及び当該銀粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る銀粉の製造方法は、
内部に空隙を有する銀微粒子同士を機械的に衝突させる第一表面平滑化工程と、
前記第一表面平滑化工程後の銀微粒子を高圧空気流で分散しながら微粉を除去する微粉除去工程と、
前記微粉除去工程後の銀微粒子同士を機械的に衝突させる第二表面平滑化工程と、を含む。
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る銀粉は、
内部に空隙を有し、線粗さ測定における表面の算術平均粗さが3nm以下である銀微粒子を含む。また、表面の状態の測定方法を、線粗さ測定ではなく走査型プローブ顕微鏡を用いての面粗さ測定に代えた場合において、内部に空隙を有し、500nm×500nm範囲の面粗さ測定における表面の算術平均粗さが4.9nm以下である銀微粒子を含む。
【0010】
本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、配線を細線化しても印刷性を高くし、断線を生じにくくする、すなわち、細線化可能とするためには、フィラーである銀微粒子の表面がより平滑であることが好ましいことが分かった。しかし、低温焼成が可能な内部に空隙を含む銀微粒子は、その製造過程(例えば、湿式還元法)において表面に凹凸ができやすいことも分かった。
【0011】
そして、特許文献1に記載の従来技術においては、内部に空隙を有し、表面が凹凸な銀微粒子を含む銀粉に対し、撹拌機(ミキサー、ミルなど)を使用して粒子同士を機械的に衝突させる表面平滑化処理方法を行う場合、その処理条件を種々変更しても、一定以上に平滑な粒子表面を得ることは困難であることが分かった。
【0012】
なお、上記のような粒子同士を機械的に衝突させる表面平滑化処理方法以外の方法では、銀微粒子に加熱処理を行って表面が平滑な銀微粒子とする方法や、湿式還元法によって製造した状態で表面が平滑な銀微粒子を得る方法が想定される。しかし、これらの方法では中実に近い銀微粒子が製造されてしまう。
【0013】
そこで、本発明者らは、機械的な平滑化処理を複数回に分けて行い、この平滑化処理のインターバル間に銀微粒子を高圧空気流で分散しながら微粉を除去するという概念を包含する本発明に想到した。本発明によれば、内部に空隙を有する銀粉であっても銀微粒子の平滑性を十分に向上させることができる。これにより、低温焼成に有利で細線化しても配線に断線が生じにくい導電性ペーストを提供できる銀粉の提供が可能となる。
【0014】
上記のような平滑性向上は、例えば以下の理由で生ずるものと考えられる。銀微粒子同士の衝突の際に生じた削りカス(微粉)が粒子同士を機械的に衝突させる処理空間内に滞留していると、削りカスが銀微粒子表面に再付着して表面の凹凸を形成したり、銀微粒子同士を連結ないし架橋させる糊剤のよう機能して、銀微粒子の凝集体形成を促したりする場合があると考えられる。したがって、衝突の際に生じた削りカスが処理空間内に滞留したままでは、処理時間を延ばすなどの条件変更を行っても、一定以上に平滑な粒子表面を得ることは困難となると考えられる。
【0015】
そこで、上記第一表面平滑化工程を実行してから、上記微粉除去工程を実行して微粉を銀粉から除去し、更に第二表面平滑化工程を実行する。これにより、第二表面平滑化工程の実行中には、超微粉による凹凸の形成や凝集体の生成を抑制することができ、平滑化処理における、銀微粒子の表面粗さの低減を促進する効果が得られるのである。その結果、本発明の銀微粒子の製造方法では、低温焼成に有利で細線化しても配線に断線が生じにくい導電性ペーストを提供できる銀粉であって、内部に空隙が含まれる銀微粒子を含む銀粉の提供を実現できる。
【0016】
そして、上記のように第一表面平滑化工程を実行してから微粉除去工程を実行して微粉を銀粉から除去し、更に第二表面平滑化工程を実行する場合に、表面は平滑化するものの、体積基準のメジアン径が大きく比表面積が小さい銀粉は、体積基準のメジアン径が小さく比表面積が大きい銀粉に比べて、その面粗さの変化量は小さい傾向があることから、500nm×500nm範囲の面粗さ測定における表面の算術平均粗さと体積基準のメジアン径との積の値を計算し、その積が12000nm以下である銀粉とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る銀粉の製造方法を実現する製造プロセスの模式図である。
図2】第一表面平滑化工程における削りカスの再付着を説明する模式図である。
図3】微粉除去工程における削りカスの分離を説明する模式図である。
図4】実施例2の銀粉の銀微粒子のSEM像(拡大倍率は5万倍)である。
図5】実施例2の銀粉の銀微粒子のSEM像(拡大倍率は1万倍)である。
図6】実施例2の銀粉における銀微粒子の断面のSEM像である。
図7】実施例2の銀粉における銀微粒子の2次元データである。
図8】比較例1の銀粉の銀微粒子のSEM像(拡大倍率は1万倍)である。
図9】比較例1の銀粉における銀微粒子の2次元データである。
図10】細線評価を行うための電極パターンの形状を示す図である。
図11】実施例1、2及び比較例1、2、3の細線評価時の電極の通電状態を示す写真画像の表である。
図12】実施例3、4及び比較例4、5の細線評価時の電極の通電状態を示す写真画像の表である。
図13】実施例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における誤差信号像である。
図14】実施例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における形状像である。
図15】実施例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における500nm×500nm範囲の表面粗さ像である。
図16】比較例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における誤差信号像である。
図17】比較例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における形状像である。
図18】比較例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における500nm×500nm範囲の表面粗さ像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る銀粉及びその製造方法について説明する。
【0019】
(全体構成の説明)
本実施形態に係る銀粉は、内部に空隙を有し、表面の算術平均粗さが3nm以下である銀微粒子を含む。このような銀粉は、本実施形態に係る銀粉の製造方法によって実現される。
【0020】
本実施形態に係る銀粉の製造方法は、内部に空隙を有する銀微粒子同士を機械的に衝突させる第一表面平滑化工程と、第一表面平滑化工程後の銀微粒子を高圧空気流で分散しながら微粉を除去する微粉除去工程と、微粉除去工程後の銀微粒子同士を機械的に衝突させる第二表面平滑化工程と、を含む。なお、本実施形態にいう表面平滑化とは、銀微粒子の表面の凹凸を滑らかにすることをいう。粒子の球形化という概念や、比表面積を小さくするという概念は、表面平滑化の概念に包含される。以下の説明では、銀微粒子の表面を平滑化する操作や処理を、単に平滑化などと記載する場合がある。また、特に第一表面平滑化工程で行う平滑化を第一表面平滑化処理と記載し、第二表面平滑化工程で行う平滑化を第二表面平滑化処理と記載する場合がある。内部に空隙を有する銀微粒子を含む銀粉(原料銀粉L)の見かけの密度は9.8g/cm以下であることが好ましく、本実施形態に係る銀粉の製造方法によって得られる銀粉も内部に空隙を有し、見かけの密度は9.8g/cm以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る銀粉の製造方法は、第二表面平滑化工程後に、篩又は遠心分級機によって粗粉を除去する粗粉分級工程を更に含んでもよい。
【0022】
図1には、本実施形態に係る銀粉の製造方法を実現する製造プロセス100の模式図を示している。製造プロセス100は、一例として、第一表面平滑化工程を実現する第一平滑化装置11、微粉除去工程を実現する微粉除去システム2、第二表面平滑化工程を実現する第二平滑化装置12、及び粗粉分級工程を実現する粗粉分級装置22を備えている。
【0023】
第一平滑化装置11には、内部に空隙を有する銀微粒子を含む銀粉(原料銀粉L)が供される。第一平滑化装置11で粒子表面が平滑化された銀粉は、更に微粉除去システム2に供される。微粉除去システム2では、第一平滑化装置11で生じた削りカスを含む微粉Fが除かれる。微粉除去システム2では、高圧空気流により、第一平滑化装置11で生じた銀微粒子の凝集物の分散(凝集物を解す操作)が進行する。
【0024】
微粉除去システム2で処理された銀粉は、第二平滑化装置12に供される。第二平滑化装置では、銀微粒子の表面の算術平均粗さが3nm以下に平滑化可能である。
【0025】
このように、本実施形態に係る銀粉の製造方法によれば、本実施形態にかかる銀粉、すなわち、内部に空隙を有し、表面の算術平均粗さが3nm以下である銀微粒子を含む銀粉を製造できるのである。
【0026】
第二平滑化装置12で処理された銀粉は、更に、粗粉分級装置22に供してもよい。粗粉分級装置では、原料銀粉Lに含まれていた粗大粒子、及び、第一表面平滑化工程で生じた凝集物であって、微粉除去工程で分散しきれなかった凝集物及び第二表面平滑化工程で生じた凝集物が粗粉Cとして除去され、粒度分布のコントロールされた銀粉(一例として製品銀粉P)が製造される。この銀粉は、必要に応じて他の必要な処理を(表面処理や他の原料と混合)された後、導電性ペーストのフィラーとして供される。なお、本実施形態の銀粉の体積基準のメジアン径は、通常、1.0μm以上4.0μm以下に製造する。銀粉の体積基準のメジアン径は、好ましくは1.3μm以上3.0μm以下に製造するとよい。
【0027】
本実施形態に係る銀粉をフィラーとして含む導電性ペーストは、内部に空隙を有することから、低温焼成に有利な(低温焼成が可能な)ものとなる。また、銀微粒子の表面が平滑化されているため、細線化しても配線に断線が生じにくい。
【0028】
(詳細説明)
本実施形態に係る銀粉は、内部に空隙を有し、表面の算術平均粗さRaが3nm以下である銀微粒子を含む。このような銀粉は、上述のごとく低温焼成に有利で、断線しにくいものとなる。
【0029】
本実施形態に係る銀粉に含まれる銀微粒子は、球状粒子であることが好ましい。これにより、ペーストを焼成後の体積抵抗率を低減し、配線として好ましいものとなる。
【0030】
銀微粒子表面の算術平均粗さRaの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子画像に基づいて行うことができる。本実施形態では、日本電子製のSEM(JSM-7900F)を使用し、付属の計測ソフト(3次元構築ソフト)を用いて算出した値を用いることができる。この場合、銀微粒子のSEM像を4方向から撮像する。撮像時の拡大倍率は5万倍とする。そして、付属の計測ソフト(SMILE VIEW)を用いて3次元再構築データ(3次元の形状データ)を行い、これに基づいて測定(算出)することができる。詳述すると、上記の3次元再構築データに基づいて、粒子を切断した場合に対応する粒子の外形(輪郭)に係る情報(以下、2次元データと称する)を求め、ガウシアンフィルターを所定値に設定して荒さ曲線を計測する。この荒さ曲線について、JISB0601に基づいた算術平均粗さ(Ra)を算出する。ガウシアンフィルターの所定値は、一例として、250nmとしてよい。
【0031】
銀粒子表面の算術平均粗さSaの測定は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)による形状像に基づいて行うことができる。本実施形態では、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSPM(Nano Cute)を使用し、形状像の取得、およびSaを算出することができる。詳述すると、SPMで取得した形状像に対し、粗さを解析したい範囲を指定したうえで、3次の傾き補正とフラット処理をして粒子の曲面に由来する成分を除去することで、粒子表面の算術平均粗さSaを算出する。解析する範囲は、一例として、一辺が500nmの正方形の範囲としてよい。
【0032】
銀微粒子に関し、球状とは、銀微粒子の長径と短径のアスペクト比(長径を短径で除した値)が2未満であることをいう。球状の銀粉とは、銀粉に含まれる銀微粒子のアスペクト比の平均が2未満であることをいう。
【0033】
銀微粒子のアスペクト比に関し、長径と短径とは、SEM像から求めてよい。長径と短径とは、粒子の外周の形状が確認できる銀微粒子の画像に基づいて算出する。なお、長径とは、粒子の画像を平行線で挟み込んだ場合に、平行線間の距離が最大となる位置の当該平行線間の距離に等しい。短径とは、粒子の画像を平行線で挟み込んだ場合に、平行線間の距離が最小となる位置の当該平行線間の距離に等しい。
【0034】
本実施形態に係る銀粉の製造には、空隙を有する銀微粒子を含む銀粉を用いる。このような銀粉は、一例として、後述する湿式還元法により製造することができる。以下では、本実施形態に係る銀粉を製造するための原料となり得る銀粉を単に原料銀粉と記載する場合がある。また、原料銀粉中の、空隙を有する銀微粒子を、単に原料粒子と記載する場合がある。
【0035】
原料銀粉は、上述のごとく、一例として以下の湿式還元法により製造される。湿式還元法は、銀塩含有水溶液にアルカリ又は錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリー又は銀錯塩含有水溶液を生成した後、ホルマリンなどの還元剤を加えて銀粉を還元析出させる方法である。以下では、この方法を単に湿式還元法と記載する。また、銀微粒子のことを単に粒子と称する場合がある。なお、銀粉とは銀の粉体のことであり、銀微粒子の集合体である。以下では、単に銀粉と記載する場合、銀微粒子の集合体としての意味合いと、銀微粒子の意味合いとを含む場合がある。
【0036】
湿式還元法では、還元析出時に超音波等を加えても良く、還元析出の状態を調整することによって、内部に空隙を持つ銀微粒子を含む銀粉を得ることができる。
【0037】
湿式還元法では、銀微粒子の凝集を防止して、単分散した銀微粒子を得ることを要する。湿式還元法は、単分散した銀微粒子を得るため、還元析出した銀スラリーに対して分散剤を添加する処理、又は銀微粒子を還元析出させる前の銀塩と酸化銀の少なくとも一方を含む水性反応系に対して分散剤を添加する処理を含むことができる。分散剤としては、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、アミノ酸などの有機酸、有機金属、キレート形成剤及び保護コロイドのいずれか1種以上を選択して使用することができる。
【0038】
以下では、原料銀粉ないし原料粒子が後述する湿式還元法により製造されたものである場合を説明する。原料粒子には粒子の外部と連通する空隙(いわゆる細孔)と、粒子の外部と連通しておらず、閉じた空間となっている内部空隙とがある。
【0039】
なお、後述する表面平滑化が行われた後に、銀微粒子の表面に細孔が存在している必要は無い。表面平滑化が行われると、銀微粒子の表面に細孔は観察さなくなる場合がある。表面平滑化が行われても、内部空隙は残存する。なお、内部空隙の大きさや形状は任意である。
【0040】
銀微粒子ないし原料粒子の内部空隙の確認は、これら粒子を樹脂で包埋、切断、研磨及び粒子断面のSEM観察をすることにより行える。詳述すると、これら粒子を樹脂に包埋する。そして、包埋された粒子を、包埋した樹脂ごと切断し、粒子断面を露出させる。更に、当該切断面を研磨する。そして、研磨された銀微粒子の断面をSEM観察する。SEM観察時の倍率は、1万倍以上とするとよい。
【0041】
銀微粒子ないし原料粒子の密度について説明する。銀の密度は10.49g/cm3である。いわゆるピクノメーター法によれば、計測される密度は、計測上の見かけの密度である。すなわち、同法による計測時には、粒子の体積として粒子の細孔や内部空隙を除外しない見かけの体積が測定の基準となる。そのため、銀微粒子が内部空隙を有していると、同法での密度計測時の基準となる粒子の体積として、真の体積(細孔や内部空隙の体積を除外した体積)より大きい見かけの体積を用いることになる。そのため、ピクノメーター法で計測できる銀微粒子ないし原料粒子の密度は、10.49g/cmよりも小さくなる。
【0042】
第一表面平滑化工程について説明する。第一表面平滑化工程は、銀微粒子同士を機械的に衝突させて銀微粒子の表面を平滑化する表面平滑化処理を行う。これにより、銀微粒子の表面がある程度平滑化される。第一表面平滑化工程には、一例として湿式還元法で製造された銀粉が供される。第一表面平滑化工程には、あらかじめ乾燥処理して適度な流動性を確保した銀粉を供するとよい。
【0043】
第一表面平滑化工程を実現する第一平滑化装置11は、銀粉を機械的に流動化させることができる装置であればよい。
【0044】
第一平滑化装置11の一例は、高速に回転する回転撹拌翼(以下、単に回転翼と記載する)や回転ロータ(回転翼の一例)によって銀粉を強く流動化させる、高速撹拌型混合器、表面改質型混合機、粉体の粉砕にも使用可能な粉砕機ないし当該粉砕機と同様の機能を有する粒子表面処理装置を用いることができる。第一平滑化装置11は、銀粉を流動化させ、銀微粒子同士を衝突させ、また、銀微粒子同士をこすりつける(せん断力を与える)ことにより、銀微粒子の表面を滑らかな形状へ加工する(平滑化する)ことができる。第一平滑化装置11の一例は、回転翼を底部に有する筒型混合機、サンプルミル(協立理工(株)製SK-10型)のようなものが挙げられる。銀粉を流動化する回転翼を有し、当該回転翼を高速回転させ、且つ、高せん断力を加えながら銀微粒子同士の衝突を実現する。
【0045】
第一平滑化装置11における平滑化処理は、銀粉1kg当たりに加えられた累積動力が、10Wh/kg以上300Wh/kg以下になるように処理することが好ましい。より好ましくは、50Wh/kg以上200Wh/kg以下となるように処理することが望ましい。銀粉に加わる動力及び銀粉に加わる累積動力については後述する。銀粉に対して上記のように動力が加えられるように、第一平滑化装置11における回転翼の回転数、処理時間は任意に設定してよい。銀粉に加えられた累積動力が大きくなりすぎると、発生した削りカスによって十分な平滑化が得られない場合がある。また、銀粉が凝集する場合がある。
【0046】
銀粉に加わる動力とは、第一平滑化装置11を用いた平滑化処理時における第一平滑化装置11の出力から、銀粉を投入していない状態で、平滑化処理時と同様に回転翼を回転させた場合における第一平滑化装置11の消費エネルギーを差し引いたものである。本実施形態では、平滑化処理時における第一平滑化装置11のモータの動力から銀粉を投入していない状態で平滑化処理時と同様に回転翼を回転させた場合(いわゆるから運転時)における第一平滑化装置11のモータの動力を差し引いた値を銀粉に加わる動力として用いてよい。
【0047】
銀粉に加わる累積動力とは、銀粉に加わる動力を時間で積分した値である。すなわち、銀粉1kgあたりに加えられる累積動力(Wh/kg)とは、第一平滑化装置11に投入された銀粉に加えられた累積動力(Wh)を、第一平滑化装置11に投入された銀粉の投入量(kg)で除した値である。
【0048】
本実施形態においで、第一平滑化装置11のモータの動力は、モータの消費電力を用いてよい。モータの消費電力は、モータを駆動する操作盤やインバータに内蔵の電力計により計測して得た値を用いてよい。また、第一平滑化装置11のモータの消費電力は、モータに供給される電流の電流値、電圧及び力率を計測機で計測し、これら電流値などに基づいて算出した値を用いてもよい。例えば、モータに供給される電流が三相交流電流の場合、モータの消費電力(W)は、電流値(A)に電圧(V)及び力率(‐)を乗じ、更に√3を乗じて算出することができる。モータに供給される電流が単相の場合のモータの消費電力(W)は、電流値(A)に電圧(V)及び力率(‐)を乗じて算出することができる。
【0049】
第一平滑化装置11の装置内における粉体濃度は、100kg/m以上500kg/m以下とするのが好ましい。このような粉体濃度とすることで、凝集を抑制しつつ、効率よく平滑化を進行させることができる。なお、第一平滑化装置11の装置内における粉体濃度とは、第一平滑化装置11の装置内(銀粉の処理槽、装置内の処理空間)に投入された銀粉の質量(kg)を、第一平滑化装置11の装置内の有効容積(m、回転翼などの容積を差し引いた容積)で除した値である。
【0050】
微粉除去工程について説明する。微粉除去工程には、第一表面平滑化工程後の銀粉が供される。微粉除去工程は、銀微粒子を高圧空気流で分散しながら微粉を除去する工程である。これにより、銀微粒子の平滑化が進行し、また、後述する第二表面平滑化工程での平滑化を促進することができる。
【0051】
微粉除去工程は、銀微粒子を流動させながら連続的に高圧空気流で分散し、微粉を微粒子から分離する分離分散工程と、分離分散工程を経た銀微粒子を分級して微粉を除去する微粉分級工程と、を含んでよい。
【0052】
微粉除去工程を実現する微粉除去システム2は、銀微粒子を流動させながら連続的に高圧空気流で分散し、微粉を微粒子から分離する分離分散機構と、銀粉から微粉を除去する分級機構を備えた装置又は2台以上の装置を連結したシステムであってよい。
【0053】
微粉除去システム2は、一例として、銀微粒子を流動させながら連続的に高圧空気流で分散し、微粉を微粒子から分離する分離分散機構を備えた分離分散装置20と、銀粉から微粉を除去する分級機構を備えた微粉除去装置21とを含んで構成されてよい。
【0054】
図1では、微粉除去システム2が、分離分散装置20によって微粉を銀微粒子から分離し、微粉除去装置21によって、銀微粒子から分離した微粉Fを銀粉から除去する場合を示している。
【0055】
分離分散装置20の具体例としては、銀微粒子を流動させながら連続的に高圧空気流(通常は圧縮空気を用いる)を供給し、これによって生じさせた旋回流中で銀微粒子同士の衝突操作を実現するシングルトラックジェットミル(株式会社セイシン企業製)、スーパージェットミル(日清エンジニアリング株式会社製)やスパイラルジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製)、分級ロータを内蔵し、流動化した銀微粒子の流動層中に複数の供給孔から供給される高速空気流を互いに衝突するように供給して銀微粒子同士の衝突操作を実現するカウンタージェットミル(ホソカワミクロン株式会社製)やクロスジェットミル(株式会社栗本鉄工所製)が挙げられる。
【0056】
分離分散装置20では、銀粉への圧縮空気の供給により、銀微粒子同士の衝突や摩擦が生ずる。これにより、第一表面平滑化処理で生じた削りカス(微粉)や、微粉除去システム2内での銀微粒子同士の衝突や摩擦によって新たに生じた削りカス(微粉)が、銀微粒子の表面から分離される。また、分離分散装置20では、銀粉への圧縮空気の供給により、銀微粒子の凝集体を解すこともできる。以下では、銀微粒子の表面が削れて生じた微粉を包括して削りカスと記載する場合がある。削りカスとの概念には、第一表面平滑化処理で生じた微粉が含まれる。
【0057】
分離分散装置20では、銀粉1kgの処理に当たりに供給される圧縮空気の供給量(風量)が1m以上(ノルマル換算での供給量)となる条件で処理することが好ましい。また、高圧空気流の供給圧力(粉砕ノズルに印加される圧力)は、0.2MPa以上1.0MPa以下、好ましくは0.5MPa以上0.9MPa以下とであるとよい。
【0058】
分級機構の一例は、風力分級機である。風力分級機構の具体例は、気流中での遠心力や慣性力を利用した機構である。具体的には、気流の供給によって生じさせた旋回流による遠心力と遠心力に逆らう方向に流れる気流の力とのバランスで分級する分級機構を例示できる。また、回転ロータによって生じさせた遠心力と遠心力に逆らう方向に流れる気流の力とのバランスで分級する分級機構を例示できる。また、飛翔する粒子の慣性力と、屈曲する気流によって生じる力とのバランスで分級する分級機構を例示できる。
【0059】
微粉除去装置21の具体例としては、高速空気流の供給により生じさせた自由渦ないし半自由渦による遠心力を利用した分級を実現するエアロファインクラシファイア(日清エンジニアリング株式会社製)やサイクロン、高速空気流により加速した粒子の慣性力を利用したエルボージェット(株式会社マツボー製)、回転ロータによって生じさせた遠心力を利用したティープレックス(ホソカワミクロン株式会社製)などを例示できる。
【0060】
ここで、図2図3を参照しつつ、第一表面平滑化工程から微粉除去工程までの処理、及び微粉除去工程と後述する第二表面平滑化工程との関係について補足説明する。
【0061】
原料粒子LP1は、表面に大きな凹凸を有する粒子である(図2の(a)参照)。原料粒子LP1は、第一表面平滑化工程での原料粒子LP1の粒子同士の衝突により、表面がある程度平滑化された中間体粒子LP2となり、衝突の際に生じた微粉としての削りカスFPを生ずる(図2の(b)参照)。しかし、削りカスFPが衝突の処理空間内に滞留していると、削りカスFPが中間体粒子LP2に再付着して凝集体粒子CPを生ずる場合がある。そこで、第一表面平滑化工程と第二表面平滑化工程との間に、微粉除去工程を採用し、銀粉から削りカスを除去して第二表面平滑化工程に供するのである。
【0062】
微粉除去工程では、分離分散工程により、高圧空気流Jで凝集体粒子CPに分散力を与えて(図3の(a))、凝集体粒子CPから削りカスFPを分離する(図3の(b))。この際、凝集体粒子CPは、高圧空気流Jの分散力で、更に表面が平滑化される(削りカスを生ずる)場合がある。削りカスFPを分離後の中間体粒子LP3(銀粉)は、後述する第二表面平滑化工程に供される。
【0063】
第二表面平滑化工程について説明する。第二表面平滑化工程には、微粉除去工程後の銀粉が供される。第二表面平滑化工程では、銀微粒子同士を機械的に衝突させる表面平滑化処理を引き続いて行う。これにより、銀微粒子の表面が更に平滑化される。
【0064】
第二表面平滑化工程を実現する第二平滑化装置12は、銀粉を機械的に流動化させることができる装置であればよい。第二平滑化装置12は、第一平滑化装置11と同一の装置又は同じ形式ないし型式の装置であってもよい。なお、第二平滑化装置12が第一平滑化装置11と同一の装置であるとは、微粉除去工程後の銀粉を、第一表面平滑化工程で使用した第一平滑化装置11に再投入するという意味である。
【0065】
第二平滑化装置12は、第一表面平滑化工程では、第一表面平滑化処理で生じた削りカス(微粉)が存在することにより平滑化の進行が比較的短時間で頭打ち(平滑化が進行しなくなる状態)となる。これに対し第二表面平滑化工程では、あらかじめ微粉除去工程により削りカスが除去されている。また、銀微粒子表面からも、平滑化の進行を阻害するような削りカスとなり得る凹凸が第一表面平滑化処理により概ね除去されている。これらにより、第二表面平滑化工程では、削りカスによる平滑化処理の阻害が抑制され、平滑化を進行させることができるのである。
【0066】
第二平滑化装置12は、銀粉1kg当たりに加わる累積動力が60Wh/kg以上になるように処理することが好ましい。
【0067】
粗粉分級工程は、第二表面平滑化工程において生じた粗大粒子を除去するという分級を行う工程である。粗粉分級工程で用いる粗粉分級装置22は、表面の平滑性を損ねることなく粗大粒子を除去することができる分級方法を実現するものが好ましい。
【0068】
粗粉分級装置22は、微粉除去システム2のように粒子同士の衝突や摩擦といった処理を行う必要はない。粗粉分級装置22は、例えば、重力、慣性、遠心力などの原理に基づく各種の分級装置の中から、所望の分級特性を有する装置を適宜選択できる。所望の分級特性の一例は、除去可能な粒子の大きさ、処理速度、及び収率である。
【0069】
粗粉分級装置22は、一例として、乾式の振動篩や面内篩い装置、風力分級機を用いることができる。なお、乾式の振動篩や面内篩い装置の場合は、一定の大きさの網(一例として、目開き10μmから45μm)を通過させる構造の篩機構の採用が望ましい。風力分級機を用いる場合は、10μmから45μmを粗粉のカットポイントとすることに適した装置を用いればよい。
【0070】
本実施形態に係る銀粉は、以上のようにして得ることができる。
【0071】
以下では、本実施形態に係る銀粉の実施例について説明する。
【0072】
(実施例1)
実施例1にかかる銀粉は、以下のようにして製造した。
【0073】
銀イオンとして10g/Lの硝酸銀溶液70Lに、工業用のアンモニア3.8Lを加えて、銀のアンミン錯体溶液を生成した。この銀のアンミン錯体溶液に水酸化ナトリウム100gを加えてpH調整した後、還元剤として工業用のホルマリン5Lを加えた。その直後に、ステアリン酸2gを含むステアリン酸エマルションを100g加えて銀のスラリーを得た。この銀のスラリーをろ過、水洗した後、真空乾燥機で500分乾燥して銀粉(原料銀粉)を得た。得られた銀粉の銀微粒子(原料粒子)は、内部に空隙を有していた。
【0074】
原料銀粉は、第一表面平滑化工程に供した。第一表面平滑化工程では、原料銀粉を第一平滑化装置としてのサンプルミル(協立理工(株)製SK-10型)に投入して装置内の粉体濃度を300kg/mとし、銀粉1kg当たりに加わった累積動力が156Wh/kgになるまで8分間処理を行った。
【0075】
第一表面平滑化工程後の銀粉を、更に微粉除去工程に供した。微粉除去工程のうち、分離分散工程は、銀粉1kgあたりに供給される圧縮空気(0.6MPa)の供給量を8mとする条件で、分離分散装置(日清エンジニアリング製ジェットミルCJ-25)を用いて行った。なお、この条件では、削りカスとしての微粒子の分離に加えて、8μmより大きい銀微粒子の凝集体を解砕する効果も得られることが分かっている。
【0076】
微粉除去工程のうち、微粉分級工程は、銀粉1kgあたりの空気輸送に使用される空気量を18mとして、微粉除去装置(一般的なサイクロン)を用いて行った。この条件では、0.1μmより小さい微粒子(削りカス)は、銀粉から除去されてサイクロンの排気口から系外へ排出される。
【0077】
微粉除去工程後の銀粉は、第二表面平滑化工程に供した。第二表面平滑化工程は、第一表面平滑化工程と同じ条件で第二表面平滑化処理を行った。
【0078】
第二表面平滑化工程後の銀粉は、粗粉分級工程に供した。粗粉分級工程では、篩を用いて粗大粒子を除去し、実施例1の銀粉の製造を完了した。
【0079】
(実施例2)
実施例2に係る銀粉は、実施例1における第一表面平滑化工程の処理条件のうち銀粉1kgあたりに加わった累積動力が75Wh/kgになるまで4分間処理し、また、微粉除去工程のうち、分離分散工程における銀粉1kgあたりに供給される圧縮空気の供給量を2.5m、微粉分級工程における銀粉1kgあたりの空気輸送に使用される空気量を6m3とした以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0080】
実施例2の銀粉中の銀微粒子(算術平均粗さの測定対象とする銀微粒子)のSEM像を図4から図6に示す。図4に示すSEM像の拡大倍率は5万倍である。図5に示すSEM像の拡大倍率は1万倍である。図6は、実施例2の銀粉中の銀微粒子の断面を示すSEM像であり、拡大倍率は2万倍である。また、図4の5万倍のSEM像から求めた2次元データの例を図7に示す。図7のグラフにおける横軸は、2次元データの抽出対象とした粒子の上面視における平面上の距離であって、2次元データの抽出対象とした断面に沿う方向の距離である。また、図7のグラフにおける縦軸は2次元データの抽出対象とした断面部分の粒子表面の、基準点から高低距離(高さないし深さ)である。なお、図5のSEM像によれば、実施例2の銀粉中の銀微粒子のアスペクト比は、全体を平均すれば2未満であることが一見して把握できる。
【0081】
実施例3に係る銀粉は、実施例1における原料銀粉の製造条件のうち水酸化ナトリウムの量を360gに変更してpH調整したことと、ステアリン酸エマルションの量を220gに変更して加えたこと、第一表面平滑化工程の処理条件のうち銀粉1kgあたりに加わった累積動力を75Wh/kgになるまで4分間処理したこと、第二表面平滑化工程の処理条件のうち銀粉1kgあたりに加わった累積動力が187Wh/kgになるまで10分間処理したこと以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0082】
実施例4に係る銀粉は、実施例1における原料銀粉の製造条件のうち水酸化ナトリウムの量を60gに変更してpH調整したことと、第一表面平滑化工程の処理条件のうち銀粉1kgあたりに加わった累積動力を190Wh/kgになるまで10分間処理したこと、第二表面平滑化工程の処理条件のうち銀粉1kgあたりに加わった累積動力が190Wh/kgになるまで10分間処理したこと以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0083】
(比較例1)
比較例1の銀粉は、実施例1における第一表面平滑化工程の処理条件のうち、銀粉1kg当たりに加わった累積動力が75Wh/kgになるまで4分間処理し、また、微粉除去工程のうち、分離分散工程における銀粉1kgあたりに供給される圧縮空気の供給量を2.5m、微粉分級工程における銀粉1kgあたりの空気輸送に使用される空気量を6m3とし、また、第二表面平滑化工程を行わなかった以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0084】
比較例1の銀粉中の銀微粒子のSEM像を図8に示す。図8に示すSEM像の拡大倍率は1万倍である。5万倍にしたSEM像から求めた2次元データの例を図9に示す。
【0085】
(比較例2)
比較例2の銀粉は、実施例1における第一表面平滑化工程の処理条件のうち、銀粉1kg当たりに加わった累積動力が315Wh/kgになるまで17分間処理をし、また、微粉除去工程のうち、分離分散工程における銀粉1kgあたりに供給される圧縮空気の供給量を8m、微粉分級工程における銀粉1kgあたりの空気輸送に使用される空気量を18mとしとし、また、第二表面平滑化工程を行わなかった以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0086】
(比較例3)
比較例3の銀粉は、実施例1における第一表面平滑化工程の処理条件のうち、銀粉1kg当たりに加わった累積動力が75Wh/kgになるまで4分間処理をし、また、微粉除去工程及び第二表面平滑化工程を行わなかった以外は実施例1と同じ条件で製造した。
【0087】
(比較例4)
比較例4の銀粉は、第二表面平滑化工程を行わなかった以外は実施例3に係る銀粉と同じ条件で製造した。
【0088】
(比較例5)
比較例5の銀粉は、第二表面平滑化工程を行わなかった以外は実施例4に係る銀粉と同じ条件で製造した。
【0089】
上記実施例等の銀粉及び銀微粒子の物性の評価方法を説明する。
【0090】
<比表面積の測定方法>
銀粉の比表面積は、BET法で求めたBET比表面積を採用した。BET比表面積は、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210)を使用して、測定装置内に60℃で10分間Ne-N2混合ガス(窒素30%)を流して脱気した後、BET1点法により測定した。
【0091】
<強熱減量の測定方法>
銀粉の強熱減量(Ig‐Loss)は、以下のようにして求めた値を採用した。まず、銀粉試料2gを秤量して磁性るつぼに入れ、800℃まで加熱する。そして恒量となるのに十分な加熱をするために800℃で30分間加熱する。その後、銀粉試料を冷却し、秤量して加熱後の質量(w)を求める。強熱減量(%)は、次式1により求めた。
【0092】
強熱減量(%)=(2-w)/2×100 (式1)
【0093】
<タップ密度測定方法>
銀粉のタップ密度(TAP)は、タップ密度測定装置(柴山科学社製のカサ比重測定装置SS-DA-2)を使用して求めた値を採用した。タップ密度の測定は、以下のようにして行った。銀粉試料30gを秤量して20mLの試験管に入れ、落差20mmで1000回タッピングした。そして、タッピング後の試料容積(cm)を求めた。タップ密度(g/cm)は、次式により求める。
【0094】
タップ密度(g/cm)=30/タッピング後の試料容積 (式2)
【0095】
<粒度分布測定方法>
銀粉の粒度分布は、レーザー回折・散乱法により求めたものを採用した。本実施形態では、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクトロラックMT-3300 EXII)で測定できる粒度分布を銀粉の粒度分布として採用した。
【0096】
体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)は、上記粒度分布から求めた値を用いた。なお、体積基準における累積50%粒子径(D50)とはメジアン径のことである。
【0097】
上記レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置での粒度分布の測定は、以下のようにして行った。まず、銀粉0.1gをイソプロピルアルコール(IPA)40mLに加えて分散した。分散には、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、装置名:US-150T;19.5kHz、チップ先端直径18mm)を用いた。分散時間は、2分間とした。そして、分散後の試料を上記レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置に供し、付属の解析ソフトにより粒度分布を求めた。
【0098】
<線粗さ測定における算術平均粗さRa等の測定方法>
算術平均粗さRa等は、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子画像に基づいて求めた。具体的には、日本電子製のSEM(JSM-7900F)を使用し、付属の計測ソフト(3次元構築ソフト)を用いで算出した値を用いた。詳述すると、まず、銀微粒子のSEM像を、斜め上方から同じ粒子に対しステージを回転させて4方向から撮像した。撮像時の拡大倍率は5万倍とした。そして、付属の計測ソフト(SMILE VIEW)を用いて3次元再構築データ(三次元の形状データ)を行い、これに基づいて算術平均粗さRa等を測定(算出)した。すなわち、3次元再構築データに基づいて、粒子を切断した2次元データを抽出して粒子の外形に係る情報を求め、ガウシアンフィルターを250nmに設定して荒さ曲線を計測した。そして、この荒さ曲線について、JISB0601に基づいて、算術平均粗さ(Ra)を算出した。本実施例の評価においては、算術平均粗さ(Ra)以外に、JISB0601に規定されるRp、Rv、Rz、Rc、Rt、Rq、Rsk、Rkuの値も算出した。算術平均粗さ(Ra)などの各算出値は、それぞれ切断面の異なる2次元データに基づく3本の荒さ曲線から求めた値の平均値である。
【0099】
<面粗さ測定における算術平均粗さSa等の測定方法>
銀粒子表面の面粗さ測定における算術平均粗さSaは、走査型プローブ顕微鏡(SPM)による形状像に基づいて求めた。具体的には、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSPM(Nano Cute)を使用し、カンチレバーには株式会社日立ハイテクフィールディング製SI-DF40P2を使用した。測定モードはタッピングモード(DFM)を選択した。詳述すると、まず、Qカーブ測定を行いカンチレバーの調整を行った。このとき、共振周波数が200Hzから500Hzの範囲であることと、Q値が100から1000の範囲であることを確認した。カンチレバーの目標振動振幅は1Vとした。次に、SPMで視野範囲5μmの銀微粒子の形状像および誤差信号像を取得した。このとき、振幅減衰率は-0.1から-0.2の範囲に自動で設定される。また、走査周波数は0.6Hzから1Hzの範囲になるように設定した。フィードバック制御のパラメータは自動設定とした。形状像取得時の画素数は256×256とした。そして、形状像にて粗さを解析したい範囲を指定したうえで、3次の傾き補正とフラット処理を実行して粒子の曲面に由来する成分を除去することで、ISO25178に規定される粒子表面の算術平均粗さSaおよびSz、Sp、Sv、Sqの各値を自動算出した。このとき、カットオフ処理は行わなかった。解析する範囲は、一辺が500nmの正方形の範囲(以下、500nm×500nm範囲と記載する)とした。解析する際には、10個の粒子を無作為に選択して解析を行い、それらの平均値を算出した。
【0100】
<密度の測定方法>
密度は、ピクノメーター法により求めた。密度の計測条件は以下のとおりである。浸液としてイソプロピルアルコールを用いた。ピクノメーターは、容積50mLのものを使用した。銀粉は、10gを秤量して計測に供した。
【0101】
<ペーストの調製>
導電性ペースト(ペースト)は以下のようにして調製した。実施例ないし比較例の銀粉を89.6質量%、有機バインダとして高速印刷用ビヒクル(テルピネオールとテキサノールとブチルカルピトールアセテートの混合物)を6.2質量%、ワックス(ヒマシ油)を1.0質量%、ジメチルポリシロキサン100csを0.4質量%、トリエタノールアミンを0.2質量%、オレイン酸を0.2質量%、更に、Pb-Te-Bi系ガラスフリットを2.0質量%及び溶剤(ターピネオールとテキサノールの混合)を0.4質量%とし、プロペラレス自公転式撹拌脱泡装置(株式会社シンキ―製のAR250)を用いて1400rpmで30秒撹拌し混合した後、3本ロール(EXAKT社製の80S)を用いて、ロールギャップを100μmから20μmまで通過させて混錬し、ペーストを得た。
【0102】
<ペーストの粘度の測定方法>
ペーストの粘度は、BROOKFIELD社製の粘度計5XHBDV-IIIUCを用いて計測した。計測条件は以下のようにした。コーンスピンドルは、CP-52を用いた。ペースト温度は25℃とした。回転数及び計測時間は、1rpm(ずり速度2sec-1)で5分間及び10rpm(ずり速度20sec-1)で1分間とした。
【0103】
<細線評価方法>
細線評価(EL)は、導電パターンを形成して評価した。導電パターンの形成は以下のように行った。まず、太陽電池用シリコン基板(100Ω/□)上に、スクリーン印刷機(マイクロテック社製、MT-320TV)を用いて、基板裏面にアルミニウムペースト(東洋アルミニウム株式会社製、アルソーラー14-7021)を用いて154mmのベタパターンを形成した。次に、上記導電性ペーストを500メッシュにてろ過した後、基板表面側に、図10に示すパターンで、18μmから30μmの線幅の電極(フィンガー電極)と幅1mmの電極(バスバー電極)をスキージ速度350mm/secにて印刷(塗布)を行った。200℃で10分間の熱風乾燥を行った後、高速焼成炉IR炉(日本ガイシ株式会社、高速焼成試験4室炉)を用いて、ピーク温度770℃、インアウト時間41秒の焼成を行い、導電パターンを得た。ピーク温度770℃、インアウト時間41秒という焼成条件は、いわゆる低温焼成である。
【0104】
導電パターンを得た後、EL/PL評価装置(株式会社アイテス製 PVX330+POPLI-3C)を用いて、電極の断線有無の確認を行った。なお、EL/PL評価装置では、バスバー電極に電流を流してEL(エレクトロルミネッセンス)評価を行った。バスバー電極間の電極(フィンガー電極)に断線があった場合に、断線がある位置での発光がなく黒色に見える。
【0105】
実施例及び比較例の銀粉に関する評価結果を表1に示す。図11に示す写真は、実施例1、2、比較例1から3における細線評価時の電極の通電状態を示す写真画像である。図12に示す写真は、実施例3、4、比較例4、5における細線評価時の電極の通電状態を示す写真画像である。図13から図15には、それぞれこの順に、実施例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における誤差信号像、形状像および500nm×500nm範囲(図14の領域A)の表面粗さ像を示す。また、図16から図18には、それぞれこの順に、比較例1の銀粉の銀微粒子の面粗さ測定における誤差信号像、形状像および500nm×500nm範囲(図17の領域B)の表面粗さ像を示す。実施例2と比較例1における表面粗さの各データを表2に示す。また、実施例1、3、4及び比較例1、4、5における面粗さ測定の各データを表3に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
図11図12に示す表より、比較例の銀粉を用いたペーストはいずれも、実施例の銀粉を用いたペーストと比べて、細線評価(EL)において断線が多いことがわかる。すなわち、比較例の銀粉を用いたペーストでは、描いた線幅が細いほど断線によって発光していない黒色部分が多くみられている。これに対し、実施例の銀粉を用いたペーストでは、断線が有意に改善している。すなわち、実施例の銀粉を用いれば、低温焼成し、且つ、細線化しても配線に断線が生じにくい導電性ペーストを提供できるのである。
【0110】
実施例の銀粉が、上記のように、低温焼成し、且つ、細線化しても配線に断線が生じにくいという効果ないし特性(以下、単に本件効果と記載する)を示すのは、表1に示されるように、実施例の銀粉における銀微粒子表面の算術平均粗さRaが3nm以下であり、塗布時の充填性が高いためであると考えられる。これは、実施例1、2のタップ密度が比較例1から3のタップ密度よりも高いことからも裏付けられる。
【0111】
なお、実施例及び比較例において、密度には有意差が無く、また、実施例1、2の銀粉の比表面積が、比較例1から3の銀粉の比表面積と同じかそれ以下であることから、本件効果は、第二平滑化処理に起因して得られたものであると判断できる。実施例及び比較例においてD10、D50及びD90に有意差が無いことも、本件効果が第二平滑化処理に起因して得られたものであることを裏付けている。
【0112】
また、実施例の銀粉を用いたペーストの粘度は、比較例の銀粉を用いたペーストの粘度よりも有意に低く、実施例の銀粉を用いたペーストは、塗布性においても良好であることがわかる。このような塗布性の向上も、平滑化処理に起因して、ペースト中の粒子間の相互作用力が低下したためと考えらえる。
【0113】
表1の算術平均粗さ(Ra)以外のRp、Rv、Rz、Rc、Rt、Rq、Rsk、Rkuの値を見ても、実施例の銀粉が、比較例の銀粉に比べて、よく平滑化されていることがわかる。
【0114】
表1のSaおよび表3の面粗さ測定の各データの値をみても、比較例の銀粉に比べて、第二平滑化処理によって実施例の銀粉が平滑化されていることが分かる。実施例の銀粉における500nm×500nm範囲の面粗さ測定における表面の算術平均粗さが4.9nm以下であることで、図11の表に示されるように細線化しても配線に断線が生じにくい導電性ペーストを提供できることが分かる。
【0115】
また、体積基準のメジアン径が小さい銀粉は、体積基準のメジアン径が大きい銀粉に比べて第二平滑化処理による平滑化の効果が大きく、その面粗さの変化量は大きいことが分かる。そのため、面粗さの値と体積基準のメジアン径との積が12000nm以下である銀粉となるように平滑化を実現することがより好ましい。
【0116】
以上のようにして、銀粉及びその製造方法を提供することができる。
【0117】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、第一表面平滑化工程と微粉除去工程と第二表面平滑化工程とをこの順で行う場合を説明した。また、第二表面平滑化工程後には粗粉分級工程を行う場合を説明した。しかし、粗粉分級工程は必ずしも必要な工程ではない。
【0118】
(2)上記実施形態では、第一表面平滑化工程と微粉除去工程と第二表面平滑化工程とをこの順で行う場合を説明した。また、第二表面平滑化工程後には粗粉分級工程を行う場合を説明した。しかし、第二表面平滑化工程後に、更に微粉除去工程と同様の工程と、第一表面平滑化工程や第二表面平滑化工程と同様の表面平滑化工程を1回ないし複数回繰り返してもよい。すなわち、機械的な平滑化処理を複数回に分けて行い、この平滑化処理のインターバル間に銀微粒子を高圧空気流で分散しながら削りカスを除去することを繰り返してもよい。この繰り返しによって、平滑化が更に進行する。
【0119】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、銀粉及びその製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0121】
2 :微粉除去システム
11 :第一平滑化装置
12 :第二平滑化装置
20 :分離分散装置
21 :微粉除去装置
22 :粗粉分級装置
100 :製造プロセス
C :粗粉
CP :凝集体粒子
F :微粉
FP :削りカス(微粉)
J :高圧空気流
L :原料銀粉
LP1 :原料粒子
LP2 :中間体粒子
LP3 :中間体粒子
P :製品銀粉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17
図18