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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
C23C14/24 C
C23C14/24 U
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019066014
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164920
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 正浩
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-198861(JP,A)
【文献】特開2005-351756(JP,A)
【文献】特開2004-018903(JP,A)
【文献】特開2012-169168(JP,A)
【文献】特開2004-176126(JP,A)
【文献】特開平06-065722(JP,A)
【文献】特開2014-152365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内において、成膜対象物を、その被成膜面を下方に向けた状態で前記被成膜面に垂直な回転軸周りに回転可能に支持する回転支持部と、
前記チャンバ内において、成膜材料を収容し、前記成膜対象物の下方に配置され、上方に開口する噴射口を有する蒸発源容器と、
前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料が付着する水晶振動子を有し、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料の前記成膜対象物に対する成膜レートを取得する成膜モニタと、
前記蒸発源容器を加熱する加熱源を有し、前記成膜モニタが取得する前記成膜レートに基づいて、前記加熱源へ供給する電力を制御する加熱制御部と、
を備える成膜装置において、
前記蒸発源容器と、前記水晶振動子が備えられたモニタユニットと、を一体的に支持し、かつ前記チャンバ内を移動させる可動支持機構をさらに備え、
前記可動支持機構は、前記チャンバ内において前記成膜対象物の回転軸と平行な第2の回転軸を支点に揺動することが可能な、前記第2の回転軸と直交する方向に延びるアーム部を有し、
前記アーム部の前記第2の回転軸に対して一方の側に、前記蒸発源容器が配置され、他方の側に、前記モニタユニットが配置されており、
前記蒸発源容器は、前記回転軸と直交する方向において、前記回転軸から離れた離間位置から前記回転軸に近接する近接位置へ移動し、再び前記離間位置へ戻る往復移動を行い、
前記水晶振動子は、前記往復移動を行う前記蒸発源容器との対向状態が維持されるように移動することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記離間位置は、前記回転軸の方向に見たときに、前記蒸発源容器が前記成膜対象物と重ならない位置であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記蒸発源容器が前記離間位置にあるときに、前記噴射口を覆う閉位置と、覆わない開位置とに移動可能に構成されたシャッタをさらに備えることを特徴とする請求項1または
に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記シャッタは、前記閉位置にあるときに、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料の前記水晶振動子への付着を許容する切り欠き部を有することを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記蒸発源容器及び前記成膜モニタをそれぞれ複数備えることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
チャンバと、前記チャンバ内において、成膜対象物を、その被成膜面を下方に向けた状態で前記被成膜面に垂直な回転軸周りに回転可能に支持する回転支持部と、前記チャンバ内において、成膜材料を収容し、前記成膜対象物の下方に配置され、上方に開口する噴射口を有する蒸発源容器と、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料が付着する水晶振動子を有し、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料の前記成膜対象物に対する成膜レートを取得する成膜モニタと、前記蒸発源容器を加熱する加熱源を有し、前記成膜モニタが取得する前記成膜レートに基づいて、前記加熱源へ供給する電力を制御する加熱制御部と、を備える成膜装置による成膜方法であって、
前記成膜装置は、前記蒸発源容器と、前記水晶振動子が備えられたモニタユニットと、を一体的に支持し、かつ前記チャンバ内を移動させる可動支持機構をさらに備え、
前記可動支持機構は、前記チャンバ内において前記成膜対象物の回転軸と平行な第2の回転軸を支点に揺動することが可能な、前記第2の回転軸と直交する方向に延びるアーム部を有し、
前記アーム部の前記第2の回転軸に対して一方の側に、前記蒸発源容器が配置され、他方の側に、前記モニタユニットが配置されており、
前記蒸発源容器を、前記回転軸の方向に見たときに、前記蒸発源容器が前記成膜対象物と重ならない離間位置に位置させる第1のステップと、
前記蒸発源容器を、前記離間位置から、前記回転軸と直交する方向に、前記回転軸に近接する近接位置へ移動させる第2のステップと、
前記蒸発源容器を、前記近接位置から前記離間位置へ移動させる第3のステップと、
を有し、
記水晶振動子と前記蒸発源容器との対向状態を、前記第1のステップから前記第3のステップの間、維持するように、前記水晶振動子を移動させることを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着方式により成膜対象物に薄膜を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜対象物としての基板上に薄膜を形成する成膜装置として、真空チャンバ内において、成膜材料を収容した容器(坩堝)を加熱し、成膜材料を蒸発(昇華又は気化)させて容器外へ噴射させ、基板の表面に付着・堆積させる真空蒸着方式の成膜装置がある。被成膜面を下方に向けて配置され回転する基板に対し、蒸発源として成膜材料の噴射口が上方に開口した坩堝を用いて成膜する構成においては、基板に対する蒸発源の配置によって、膜厚分布が変化する。蒸発源の上方に配置された水平面に対する成膜材料の単位時間当たりの付着量(成膜レート)は、噴射口の真上でピークとなり、ピーク中心から径方向外向きに徐々に勾配をなだらかにしながら減少する、山型の分布を形成する。
【0003】
従来の装置設計では、膜厚分布の均一性を重視しており、基板の被成膜面が蒸発源(噴射口)の真上の位置から外れた位置になるように蒸発源を配置する構成が主流であった。すなわち、上述した山型の膜厚分布において成膜レートの変化の勾配がなだらかな領域で成膜を行う配置構成である。しかしながら、噴射口から真上に吐き出された成膜材料の多くが成膜に用いられず無駄になるため、材料収率がよくない配置構成となる。
近年では、高性能材料(すなわち、高コスト)の蒸着材料が使用されるようになり、材料収率が重要視されている。すなわち、基板の真下に蒸発源を配置する(鉛直方向に投影したときに蒸発源が基板に重なる(含まれる)位置に配置される)構成が採用される傾向にある。しかしながら、成膜レートがピークとなる坩堝の噴射口の真上近傍は、成膜レートの変化の勾配が急峻となる(ピーク中心からの距離に対する単位時間当たりの付着量の変化が大きい)ため、均一な膜厚分布の形成が難しい領域となる。すなわち、膜厚分布が悪化しやすく、生産品質を低下させる懸念が常に付きまとう配置構成となる。
【0004】
特許文献1、2には、基板の真下に配置した蒸発源の位置を変えることで、膜厚の均一化を図る装置構成が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の装置は、チャンバ内に固定された成膜レートモニタ(水晶振動子)に対して、蒸発源の相対位置が変化するため、蒸発源を移動させる度にモニタ条件がリセットされてしまう。また、特許文献2に記載の装置は、成膜レートモニタについて記載されておらず、成膜レートのモニタ環境に関して考慮された構成とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-224354号公報
【文献】特開2004-307880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、膜厚分布の均一化と材料収率の向上とを両立することができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の成膜装置は、
チャンバと、
前記チャンバ内において、成膜対象物を、その被成膜面を下方に向けた状態で前記被成膜面に垂直な回転軸周りに回転可能に支持する回転支持部と、
前記チャンバ内において、成膜材料を収容し、前記成膜対象物の下方に配置され、上方に開口する噴射口を有する蒸発源容器と、
前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料が付着する水晶振動子を有し、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料の前記成膜対象物に対する成膜レートを取得する成膜モニタと、
前記蒸発源容器を加熱する加熱源を有し、前記成膜モニタが取得する前記成膜レートに基づいて、前記加熱源へ供給する電力を制御する加熱制御部と、
を備える成膜装置において、
前記蒸発源容器と、前記水晶振動子が備えられたモニタユニットと、を一体的に支持し、かつ前記チャンバ内を移動させる可動支持機構をさらに備え、
前記可動支持機構は、前記チャンバ内において前記成膜対象物の回転軸と平行な第2の回転軸を支点に揺動することが可能な、前記第2の回転軸と直交する方向に延びるアーム部を有し、
前記アーム部の前記第2の回転軸に対して一方の側に、前記蒸発源容器が配置され、他方の側に、前記モニタユニットが配置されており、
前記蒸発源容器は、前記回転軸と直交する方向において、前記回転軸から離れた離間位置から前記回転軸に近接する近接位置へ移動し、再び前記離間位置へ戻る往復移動を行い、
前記水晶振動子は、前記往復移動を行う前記蒸発源容器との対向状態が維持されるように移動することを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の成膜方法は、
チャンバと、前記チャンバ内において、成膜対象物を、その被成膜面を下方に向けた状態で前記被成膜面に垂直な回転軸周りに回転可能に支持する回転支持部と、前記チャンバ内において、成膜材料を収容し、前記成膜対象物の下方に配置され、上方に開口する噴射口を有する蒸発源容器と、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料が付着する水晶振動子を有し、前記蒸発源容器から蒸発した前記成膜材料の前記成膜対象物に対する成膜レートを取得する成膜モニタと、前記蒸発源容器を加熱する加熱源を有し、前記成膜モニタが取得する前記成膜レートに基づいて、前記加熱源へ供給する電力を制御する加熱制御部と、を備える成膜装置による成膜方法であって、
前記成膜装置は、前記蒸発源容器と、前記水晶振動子が備えられたモニタユニットと、を一体的に支持し、かつ前記チャンバ内を移動させる可動支持機構をさらに備え、
前記可動支持機構は、前記チャンバ内において前記成膜対象物の回転軸と平行な第2の回転軸を支点に揺動することが可能な、前記第2の回転軸と直交する方向に延びるアーム部を有し、
前記アーム部の前記第2の回転軸に対して一方の側に、前記蒸発源容器が配置され、他方の側に、前記モニタユニットが配置されており、
前記蒸発源容器を、前記回転軸の方向に見たときに、前記蒸発源容器が前記成膜対象物と重ならない離間位置に位置させる第1のステップと、
前記蒸発源容器を、前記離間位置から、前記回転軸と直交する方向に、前記回転軸に近接する近接位置へ移動させる第2のステップと、
前記蒸発源容器を、前記近接位置から前記離間位置へ移動させる第3のステップと、
を有し、
記水晶振動子と前記蒸発源容器との対向状態を、前記第1のステップから前記第3のステップの間、維持するように、前記水晶振動子を移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜厚分布の均一化と材料収率の向上とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る成膜装置の模式的断面図
図2】本発明の実施例における成膜レートモニタ装置の構成を示す模式図
図3】本発明の実施例における水晶モニタヘッドと遮蔽部材の構成を示す模式図
図4】本発明の実施例における蒸発源装置の可動支持機構の説明図
図5】基板と蒸発源装置の配置の違いによる膜厚分布と材料収率の違いの説明図
図6】本発明の実施例に係る成膜装置の成膜処理による膜厚分布を示す図
図7】本発明の実施例において蒸発源装置を複数設けた場合の構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
[実施例1]
図1図4を参照して、本発明の実施例に係る成膜装置について説明する。本実施例に係る成膜装置は、真空蒸着により基板に薄膜を成膜する成膜装置である。
【0012】
本実施例に係る成膜装置は、各種半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造において基板(基板上に積層体が形成されているものも含む)上に薄膜を堆積形成するために用いられる。より具体的には、本実施例に係る成膜装置は、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどの電子デバイスの製造において好ましく用いられる。なかでも、本実施例に係る成膜装置は、有機EL(Erectro
Luminescence)素子などの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造において特に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。本実施例に係る成膜装置は、スパッタ装置等を含む成膜システムの一部として用いることができる。
【0013】
<成膜装置の概略構成>
図1は、本発明の実施例に係る成膜装置1の構成を示す模式図である。成膜装置1は、排気装置24、ガス供給装置25により、内部が真空雰囲気か窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空チャンバ(成膜室、蒸着室)200を有する。なお、本明細書において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態をいう。
【0014】
成膜対象物である基板100は、搬送ロボット(不図示)によって真空チャンバ200内部に搬送されると真空チャンバ200内に設けられた基板保持ユニット210によって保持される。基板保持ユニット210は、基板100を、水平に、かつ基板100の被処理面である被成膜面100aが下方を向くように保持する。基板保持ユニット210は、回転軸220を介して真空チャンバ200の内部上方に吊るされる形で支持されている。回転軸220は、真空チャンバ200の天井を略垂直に貫通するように設けられており、真空チャンバ200の天井の軸孔に対してベアリング等により軸支され、軸孔との隙間が磁性流体シールで封止されている。回転軸220は、真空チャンバ200の外部に設けられたモータ等を備える回転駆動部230の駆動力により回転し、基板保持ユニット210を回転させる。回転支持部としての基板保持ユニット210が回転することで、基板100は真空チャンバ200内部において所定の回転中心軸(回転軸線Y1)周りに回転する。
なお、基板保持ユニット210による具体的な基板100の保持構成としては、基板100の端部を把持することで保持する構成や、基板100の裏面を吸着することで保持する構成など、従来既知の構成を適宜採用することができる。また、基板100の被成膜面100aを、被成膜面100aに形成する薄膜パターンに対応した開口パターンを有するマスクで覆う(マスクの上面に基板100を載置する)態様で、基板100を保持する構成が採用される場合もある。
【0015】
真空チャンバ200内部における基板100の下方には、蒸発源装置300が設けられている。蒸発源装置300は、概略、成膜材料(蒸着材料)304を収容する蒸発源容器(坩堝)301(以下、容器301)と、容器301に収容された成膜材料304を加熱する加熱手段(加熱源)としてのヒータ302と、を備える。容器301内の成膜材料304は、ヒータ302の加熱によって容器301内で蒸発し、容器301上部に設けられた成膜材料304の噴射口を形成するノズル303を介して容器301外へ噴出される。容器301外へ噴射した成膜材料304は、装置300上方において、所定の回転速度で回転させられている基板100の被成膜面100aに蒸着する。
なお、容器301の構成としては、ノズル303は必須の構成ではなく、ノズル303
が無く噴射口のみが開口した構成であってもよい。
【0016】
ヒータ302は、通電により発熱する一本の線状(ワイヤ状)の発熱体を容器301の筒状部外周に複数回巻き回した構成となっている。なお、複数本の発熱体を巻き回す構成であってもよい。ヒータ302としては、発熱体としてステンレス鋼等の金属発熱抵抗体を用いたものでもよいし、カーボンヒータ等でもよい。
蒸発源装置300は、その他、図示は省略しているが、ヒータ302による加熱効率を高めるためのリフレクタや伝熱部材、それらを含む蒸発源装置300の各構成全体を収容する枠体、シャッタなどが備えられる場合がある。
【0017】
本実施例に係る成膜装置1は、容器301から噴出する成膜材料304の蒸気量、あるいは基板100に成膜される薄膜の膜厚を検知するための手段として、成膜レートモニタ装置4を備えている。成膜レートモニタ装置4は、容器301から噴出する成膜材料304の一部を、回転体としての遮蔽部材42が間欠的に遮蔽状態と非遮蔽状態とを繰り返しながら、水晶モニタヘッド41に備えられた水晶振動子に付着させる。成膜材料304が堆積することによる水晶振動子の共振周波数(固有振動数)の変化量(減少量)を検知することで、所定の制御目標温度に対応した成膜レート(蒸着レート)として、単位時間当たりの成膜材料304の付着量(堆積量)を取得することができる。この成膜レートをヒータ302の加熱制御における制御目標温度の設定にフィードバックすることで、成膜レートを任意に制御することができる。したがって、成膜レートモニタ装置4によって成膜処理中に常時、成膜材料304の吐出量あるいは基板100上の膜厚をモニタすることで、精度の高い成膜が可能となる。
【0018】
本実施例に係る成膜装置1の制御部(演算処理装置)20は、モニタユニット40の動作の制御、成膜レートの測定、取得を行うモニタ制御部21と、蒸発源装置300の加熱制御を行う加熱制御部22と、を有する。また、制御部20は、回転駆動部230による基板100の回転のほか、後述する、可動支持機構50による蒸発源装置300の往復移動動作、シャッタ60の開閉移動動作などの制御も行う。
【0019】
<成膜レートモニタ装置>
図2は、本実施例に係る成膜レートモニタ装置4の概略構成を示す模式図である。図2に示すように、本実施例に係る成膜レートモニタ装置4は、モニタヘッド41や遮蔽部材(チョッパ)42などを備えるモニタユニット40と、モニタ制御部21と、を備える。モニタユニット40は、モニタヘッド41と、遮蔽部材42と、モニタヘッド41に組み込まれた水晶ホルダ(回転支持体)44の回転駆動源としてのサーボモータ46と、遮蔽部材42の回転駆動源としてのサーボモータ45と、を備える。モニタ制御部21は、遮蔽部材42の回転駆動を制御する遮蔽部材制御部(回転制御部)212と、水晶振動子43の共振周波数(の変化量)の取得を行う成膜レート取得部213と、水晶ホルダ44の回転駆動を制御するホルダ制御部214と、を有する。
【0020】
図3は、モニタヘッド41(水晶ホルダ44)と遮蔽部材42をそれぞれの回転軸線方向に沿って見たときの両者の配置関係を示す模式図である。図3に示すように、モニタヘッド41の内部には、複数の水晶振動子43(43a、43b)を円周方向に等間隔で配置して支持する水晶ホルダ44が組み込まれている。モニタヘッド41には、水晶振動子43よりも僅かに大きいモニタ開口41aが一つ設けられており、水晶ホルダ44は、支持する水晶振動子43のうちの1つを、モニタ開口41aを介して外部(蒸発源装置300)に暴露される位置(回転位相)で支持する。
【0021】
図2及び図3に示すように、水晶ホルダ44は、その中心がサーボモータ46のモータ軸46aに連結されており、サーボモータ46によって回転駆動される。これにより、モ
ニタ開口41aを介して外部に暴露される水晶振動子43を順次切り替えることができるように構成されている。すなわち、水晶ホルダ44に支持された複数の水晶振動子43のうち、1つの水晶振動子43aがモニタ開口41aと位相が重なる位置にあり、他の水晶振動子43bは、使用済み又は交換用の水晶振動子として、モニタヘッド41の内部に隠れた位置にある。モニタ開口41aを介して外部に暴露されている水晶振動子43が、成膜材料304の付着量が所定量を超えて寿命に到達すると、水晶ホルダ44が回転して、新しい水晶振動子43を、モニタ開口41aと重なる暴露位置に移動させる。
ホルダ制御部214によるサーボモータ46の回転制御は、検出部48aと被検出部48bとからなる位相位置検出手段48が検出する水晶ホルダ44の回転位置(回転位相)に基づいて行われる。なお、位置(位相)検知手段としては、ロータリーエンコーダ等の既知の位置センサを用いてもよい。
【0022】
図3に示すように、遮蔽部材42は、略円盤状の部材であり、その中心がサーボモータ45のモータ軸45aに連結されており、サーボモータ45によって回転駆動される。遮蔽部材42は、扇型の開口スリット(開口部、非遮蔽部)42aが、回転中心から離れた位置であって、その回転軌道が、モニタヘッド41のモニタ開口41aと重なる位置に設けられている。
【0023】
図2及び図3に示すように、遮蔽部材42が回転することで、モニタ開口41aに対する開口スリット42aの相対位置(相対位相)が、モニタ開口41aと重なる位置(開口位置、非遮蔽位置)と、重ならない位置(非開口位置、遮蔽位置)と、に変化する。これにより、遮蔽部材42において開口スリット42aを除いた領域部分が遮蔽部42bとなり、これがモニタ開口41aと重なる(覆う)位置(位相)にあるとき、水晶振動子43aへの成膜材料304の付着が妨げられる遮蔽状態(非開口状態)となる。また、開口スリット42aがモニタ開口41aと重なる位置(位相)にあるとき、水晶振動子43aへの成膜材料304の付着が許容される非遮蔽状態(開口状態)となる。
遮蔽部材制御部212によるサーボモータ45の回転制御は、検出部47aと被検出部47bとからなる位相位置検出手段47が検出する遮蔽部材42の回転位置(回転位相)に基づいて行われる。なお、位置(位相)検知手段としては、ロータリーエンコーダ等の既知の位置センサを用いてもよい。
【0024】
開口スリット42aは、本実施例では、閉じた孔となっているが、遮蔽部材42の周端で開放された切り欠き状になっていてもよい。また、設ける個数も2個以上でもよいし、スリット形状も、本実施例で示した扇型に限定されず種々の形状を採用し得るものであり。開口スリット42aを複数設ける場合には、個々に異なる形状としてもよい。
【0025】
水晶振動子43aは、電極、同軸ケーブル等を介して外部共振器49に接続されている。水晶振動子43a表面に堆積した成膜材料304の薄膜と、裏面の電極との間に電圧を印加することで生成される発信信号が、水晶振動子43の共振周波数(の変化量)として、共振器49から成膜レート取得部213に伝達され、取得される。
【0026】
図示を省略するが、モニタユニット40には、熱源となるモータ45、46の熱を冷却するための冷却水を流すための流路が備えられている。
なお、ここで示した成膜レートモニタ装置の構成はあくまで一例であり、これに限定されるものではなく、既知の種々の構成を適宜採用してよい。
【0027】
<ヒータの電力供給制御>
ヒータ302の発熱量は、ヒータ302に供給される電力量(電流値)が電源回路を含む加熱制御部22により制御されることで制御される。電力供給量は、例えば、不図示の温度検出手段により検出される温度が、所望の成膜レートを得るのに適した所定の制御目
標温度に維持されるようにPID制御にて調整される。所定の成膜レートを維持できるヒータ302の発熱量(ヒータ302への供給電力)を、所定の時間維持することで、基板100の被成膜面100aに所望の膜厚の薄膜を成膜することができる(膜厚=成膜レート[Å/S]×時間[t])。
【0028】
本実施例に係る成膜装置1は、ヒータ302の加熱制御における供給電力の制御方法として、レート制御と平均パワー制御とを切り替えて実行可能に構成されている。なお、電力制御方法はこれらに限定されるものではない。
レート制御では、成膜レートモニタ装置4により取得される成膜レートのモニタ値(実測値)が所望の目標レート(理論値)と一致するように制御目標温度が適時変更され、設定される制御目標温度に応じてヒータ302への供給電力量が制御される。
本実施例では、成膜レートモニタ装置4により取得される成膜レートのモニタ値(実測値)に依らずにヒータ302への供給電力量を決定する電力制御として、平均パワー制御を用いている。平均パワー制御では、供給電力の過去数サンプリングの移動平均を目標電力量として、かかる目標電力量を維持するようにヒータ302への電力供給を制御する制御方法である。なお、予め設定された電力量(目標電力量)を維持するようにヒータ302に電力供給するパワー制御を用いてもよい。これらの電力制御では、成膜レートを、成膜材料の種類や基板と蒸発源との相対速度等の成膜条件に基づいて設定される理論値を用いて膜厚を制御する。
【0029】
<本実施例の特徴>
本実施例に係る成膜装置1は、回転する基板100に対して蒸発源装置300を相対移動させながら成膜処理を行うこと、その際、蒸発源装置300とモニタユニット40との相対位置を変化させないことを特徴とする。また、基板100に対する蒸発源装置300の相対移動のさせ方においても特徴がある。蒸発源装置300は、基板100の回転軸線から離間した離間位置と、回転軸線に近接した近接位置と、の間を往復移動するように構成されている。上記離間位置は、基板100の被成膜面100aに垂直な方向(基板1000の回転軸線Y1の方向)に見たときに、蒸発源装置300(ノズル303の開口)が基板100の真下から外れた位置である。上記近接位置は、同方向に見たときに、蒸発源装置300が基板100の真下に隠れた位置であって、かつ基板100の回転中心(回転軸線Y1)に近接する位置である。成膜工程の間、蒸発源装置300は、離間位置から近接位置、近接位置から再び離間位置への往復移動を、少なくとも1回行う。その間、蒸発源装置300とモニタユニット40との相対位置(蒸発源装置300と水晶振動子43との対向方向や対向距離などの対向状態)は維持される。
【0030】
図1図4図5図6を参照して、本実施例に係る成膜装置1の特徴的構成について説明する。
【0031】
図4は、本実施例に係る成膜装置1における蒸発源装置300の可動支持機構50の構成を説明する模式図であり、(a)は可動支持機構50の模式的斜視図、(b)は可動支持機構50による蒸発源装置300の変位の様子を説明する模式的平面図であり、基板100の回転軸方向に沿って見たときの図である。
本実施例に係る成膜装置1は、蒸発源装置300とモニタユニット40を支持するアーム(アーム部)51と、アーム51を支持する回転軸52と、回転軸52を回転させる回転駆動部53と、を備える可動支持機構50を備える。
【0032】
図4(a)に示すように、アーム51は、真空チャンバ200内において略水平方向に延びており、一端側に蒸発源装置300が配置され、他端側にモニタユニット40が配置されている。モニタユニット40は、水晶振動子43が蒸発源装置300に対して所定の相対位置で向き合うように、アーム51に支持されている。回転軸52は、真空チャンバ
200の底部を略垂直に貫通するように設けられ、真空チャンバ200内部の上端部においてアーム51を支持し、真空チャンバ200外部の下端部が回転駆動部53に連結されている。回転軸52は、真空チャンバ200の底部軸孔に対してベアリング等により軸支され、軸孔との隙間が磁性流体シールで封止されている。真空チャンバ200の外部に配置された回転駆動部53は、制御部20の制御により、モータ等の動力源から得られる回転駆動力によって回転軸52を回転させる。回転軸52の回転により、アーム51に支持される蒸発源装置300とモニタユニット40は、真空チャンバ200内部において一体的に回転する。回転軸52の回転軸線(第2の回転軸)Y2は、基板100の回転軸線Y1と平行である。蒸発源装置300は、回転軸52の回転により、回転軸線Y2を中心とする円弧状の軌跡を描いて、基板100の回転軸線Y1に対し水平方向に進退する移動(回転軸線Y2を支点とした揺動)を行う。アーム51の揺動支点である回転軸線Y2は、蒸発源装置300が配置された一端と、モニタユニット40が配置された他端との間に位置している。
【0033】
図4(b)の実線は、蒸発源装置300が基板100の回転軸線(回転軸)Y1に近接した近接位置にあるときの各部の配置構成を示している。回転軸線Y1の方向に見たときに、蒸発源装置300は、基板100の真下にあり、その全体が基板100に隠れ、回転軸線Y1に近接した配置となっている。
図4(b)の破線は、蒸発源装置300が基板100の回転軸線Y1から離間した離間位置にあるときの各部の配置構成を示している。回転軸線Y1の方向に見たときに、蒸発源装置300は、その全体が基板100の外にあり、回転軸線Y1から大きく離れた配置となっている。
【0034】
図4(b)に示すように、本実施例に係る成膜装置1は、蒸発源装置300から蒸発した成膜材料4の基板100への付着を規制するための遮蔽手段としてのシャッタ60を備えている。シャッタ60は、真空チャンバ200内部を水平に延びるアーム61の一端に取り付けられており、アーム61の他端に連結された回転軸62の回転により、真空チャンバ200内において水平方向に位置を変化させることができる。回転軸62を回転させための機構は、可動支持機構50と同様であり、説明は省略する。シャッタ60は、制御部20が制御する回転軸62の回転によって、上記離間位置にある蒸発源装置300に対し、ノズル303の開口(噴射口)を覆う(塞ぐ)遮蔽位置(閉位置)と、覆わない非遮蔽位置(開位置)とに移動可能に構成されている。
【0035】
成膜処理の開始前に成膜材料304の蒸発状態を安定させる準備加熱時や、成膜処理の終了後など、蒸発源装置300から蒸発する成膜材料304が基板100へ飛翔、付着することを規制したいときに、シャッタ60を遮蔽位置に移動させる。一度開始した坩堝301の加熱は、成膜材料304の蒸発状態を蒸着に好適な状態で維持すべく、例えば成膜材料304の補充が必要になるときまで継続することが好ましい。すなわち、基板100の入れ替えの最中も、坩堝301の加熱が継続されることがある。このような非成膜工程中における成膜材料304の飛散を規制すべく、シャッタ60を遮蔽位置に移動させる。
【0036】
シャッタ60には切り欠き(切り欠き部)60aが設けられており、シャッタ60が遮蔽位置にあるときでも、蒸発源装置300に対する水晶振動子43の対向状態が、切り欠き60aを介して維持されるように構成されている。すなわち、非成膜工程中においてもモニタユニット40による蒸発源装置300の成膜レートの取得を継続できるように構成されている。
【0037】
図5は、基板100と蒸発源装置300の配置の違いによる膜厚分布と材料収率の違いの説明する模式図である。図5(a)は、蒸発源装置300が基板100の回転軸線Y1から離間した位置にあるときの、図4(b)と同様の模式的平面図である。図5(b)は
、蒸発源装置300が基板100の回転軸線Y1に近接した位置にあるときの、図4(b)と同様の模式的平面図である。図5(c)は、蒸発源装置300が基板100の回転軸線Y1から離間した位置にあるときの配置関係を示す模式的斜視図である。図5(d)は、蒸発源装置300が基板100の回転軸線Y1に近接した位置にあるときの配置関係を示す模式的斜視図である。
【0038】
本実施例に係る成膜装置1では、成膜処理を、図5(a)、図5(c)に示す、蒸発源装置300と基板100の相対配置から開始する。すなわち、蒸発源装置300が、原点位置である離間位置にあり、かつシャッタ60が遮蔽位置にある状態で、制御部20の制御により、坩堝301の加熱を開始し、成膜レートモニタ装置4により成膜材料304の加熱状態(蒸発状態)をモニタする。坩堝301の加熱状態(成膜材料304の蒸発状態)が整うと、制御部20は、基板100を所定の回転速度で回転させるとともに、シャッタ60を遮蔽位置から非遮蔽位置へ移動させ、図5(a)、図5(c)に示す離間位置において成膜処理を開始する(第1のステップ)。
【0039】
そして、制御部20の制御により可動支持機構50がアーム51の回転を開始し、図5(a)、図5(c)に示す離間位置から図5(b)、図5(d)に示す近接位置に向かう、蒸発源装置300の基板100に対する相対移動が開始される(第2のステップ)。この間も、成膜材料304の成膜レートは成膜レートモニタ装置4によってモニタされる。そして、蒸発源装置300は、図5(b)、図5(d)に示す近接位置、基板100の回転中心(回転軸線Y1)に対して所定の近接距離となる位置に到達する。
【0040】
蒸発源装置300が図5(b)、図5(d)に示す近接位置に到達すると、可動支持機構50は、アーム51の回転方向(揺動方向)を逆方向に反転させ、蒸発源装置300の相対移動の方向を、図5(a)、図5(c)に示す離間位置に向かう方向に反転させる(第3のステップ)。蒸発源装置300が図5(a)、図5(c)に示す離間位置に戻る移動中も、成膜材料304の成膜レートは成膜レートモニタ装置4によってモニタされる。そして、蒸発源装置300が図5(a)、図5(c)に示す離間位置に戻ってきたら、シャッタ60を非遮蔽位置から遮蔽位置へ移動させ、成膜処理が終了する。
以上のように成膜処理が終了した後も、次の成膜処理に備えるべく、坩堝301の加熱と、成膜レートモニタ装置4による成膜レートのモニタは継続される。
【0041】
図6は、本実施例に係る成膜装置1の成膜処理による膜厚分布の一例として、本出願の発明者による実験結果を示すグラフである。図6の横軸は、回転軸線Y1が通る位置を原点とする基板100の被成膜面100aの径方向位置を示しており、縦軸は、ピークの膜厚を基準(“1”)とし、ピークとの比で膜厚を示したものである。
φ300mmのSiウェハ基板100を10~30rpmで回転させ、ノズル303(噴射口)から基板100までの高さhを300mm、離間位置におけるノズル303と回転軸線Y1との水平方向の距離d1を300mm、近接位置におけるノズル303と回転軸線Y1との水平方向の距離d2を50mmとした。
全体的として中心(回転軸線Y1)から離れるにしたがって右肩下がりの分布を示しているが、離間位置から近接位置への往路(片道)の成膜で形成される中心と外周端との膜厚の差は、近接位置から離間位置への復路の成膜が加わることで低減されていることがわかる。具体的には、膜厚分布は、片道のときに±6.5%だったのが、往復によって±5.0%に低減された。また、往復の成膜による材料収率は2.5%という結果が得られた。
【0042】
ここで、本実施例の実験結果を、本実施例のように蒸発源装置300を基板100に対して移動させずに、所定の位置で固定して成膜を行う場合の比較例と対比して説明する。基板100に対する蒸発源装置300の相対位置を、図5(a)、図5(c)に示す離間
位置で固定して成膜を行った場合を比較例1とし、図5(b)、図5(d)に示す近接位置で固定して成膜を行った場合を比較例2とした。比較例1は、上述の材料収率を重視した先行技術文献と類似した装置構成となる。また、比較例2は、上述の膜厚分布の均一性を重視した従来技術と類似した装置構成となる。
比較例1では、蒸発源装置300の真上が基板100の外周端よりも外側になるため、中心から外周端にかけてなだらかにピークに到達する分布が形成され、膜厚分布は±3.7%と、本実施例よりも良好な結果が得られた。しかしながら、成膜材料304の噴出し量が相対的に多くなる蒸発源装置300の真上の領域が、基板100の被成膜面100aが外れているため、成膜に寄与せずに消費される成膜材料304の量が多くなり、材料収率は1.1%と、本実施例よりも低い結果となった。
比較例2では、蒸発源装置300が回転軸線Y1に近接した位置にあり、蒸発源300の真上を被成膜面100aが覆う配置となるため、基板100の回転中心がピークとなり、外周端に向かって急峻な勾配で膜厚が低下する分布が形成された。成膜に寄与しない成膜材料304が少なくなるため、材料収率は4.2%と、本実施例よりも良好な結果が得られたが、膜厚分布は±10.9%と、本実施例よりも低い結果となった。
【0043】
<本実施例の優れた点>
本実施例によれば、比較例1、2との対比で説明したように、膜厚分布と材料収率の観点においてバランスの良い成膜が可能となる。すなわち、離間位置と近接位置との間の往復移動により、成膜処理中に蒸発源装置300が基板100の下方に位置する(垂直方向に見て両者が重なる)時間が長くなり、比較例1と比べて、成膜に寄与しない成膜材料304の量を減らすことができる。一方で、成膜処理中に蒸発源装置300が基板100の回転中心(回転軸線Y1近傍)に留まる時間が短くなるため、成膜材料304の局所的な付着量の偏りが低減され、比較例2と比べて、膜厚分布の変動が抑制される。したがって、本実施例によれば、膜厚分布の均一化と材料収率の向上の両立を図ることができる。
【0044】
また、本実施例によれば、蒸発源装置300が基板100に対して相対移動する間、モニタユニット40も、蒸発源装置300との相対位置(蒸発源装置300に対する水晶振動子43の対向状態)を維持するように移動する構成となっている。これにより、成膜レートのモニタ環境を一定の状態に維持することができ、精度の高いレート制御が可能となる。さらに、本実施例では、シャッタ60に切り欠き60aを設けて、非成膜処理中においても、成膜レートをモニタすることができるように構成されている。これにより、非成膜処理中も成膜レートの取得を継続することができ、より精度の高いレート制御が可能となる。例えば、坩堝301内の成膜材料304の収容量の変化などによる経時的な蒸発状態の変化や、突沸等の発生による一時的な蒸発状態の変化などにも対応した、精度の高い成膜レートの取得が可能となる。
【0045】
<その他>
本実施例では、離間位置と近接位置との間の往復移動の回数を一往復としていたが、往復回数は限定させるものではない。例えば、一往復させる場合の移動速度よりも早い移動速度で蒸発源装置300を移動させ、二往復以上の往復移動としてもよい。
また、蒸発源装置300の往復移動における移動速度は、往路と復路それぞれで同じ速度でもよいし異ならせてもよい。また、往復の間中、一定の速度でもよいし、途中で変化させてもよい。すなわち、上述したレート制御、平均パワー制御などにおける成膜条件に適宜組み込み、制御内容に応じて適宜に設定してよい。
【0046】
本実施例では、可動支持機構50が、蒸発源装置300(及びモニタユニット40)を円弧軌道上で往復移動させる構成となっているが、かかる構成に限定されるものではない。例えば、伸縮動作が可能なアーム機構の先端に蒸発源装置300とモニタユニット40を対向距離一定で支持し、アームの伸縮動作によって蒸発源装置300の基板100に対
する相対位置を直線軌道で変化させるような構成でもよい。
【0047】
本実施例では、蒸発源装置300とモニタユニット40が、単一の可動支持機構50によって一体的に真空チャンバ200内を移動することができるように構成されているが、かかる構成に限定されるものではない。すなわち、蒸発源装置300を移動させる機構と、モニタユニット40を移動させる機構とが、別々の機構で、両者が連動して、蒸発源装置300とモニタユニット40との相対配置を維持するように構成してもよい。
【0048】
蒸発源装置300からの成膜材料304の噴射を規制する規制手段の構成としては、本実施例で示したシャッタ60の構成に限定されるものではない。少なくとも坩堝301の噴射口から噴射された成膜材料304が成膜対象物に付着することを防ぐことができるように構成されたものであればよい。すなわち、噴射口を完全に塞ぐ構成でなくても、例えば、成膜材料の飛翔を規制したい方向にのみ局所的に成膜材料の飛翔を妨げる壁を形成するような構成でもよい。
【0049】
図7に示すように、本発明は、蒸発源装置300を複数備えた成膜装置に対しても適用することができる。図7(a)は、3つの蒸発源装置300がそれぞれ離間位置(原点位置)にあり、かつ3つのシャッタ60がそれぞれ遮蔽位置にある状態、すなわち、成膜処理を行っていないスタンバイ状態を示している。図7(b)は、3つの蒸発源装置300がそれぞれ離間位置(原点位置)にあり、かつ3つのシャッタ60がそれぞれ非遮蔽位置にある状態、すなわち、成膜処理が開始された状態を示している。図7(b)は、3つの蒸発源装置300がそれぞれ近接位置にあり、成膜処理の往復移動における折り返し地点に位置している状態を示している。
なお、図7に示す構成例は、蒸発源装置300が3つ備えたものになっているが、蒸発源装置300を2つ備えた構成や、4つ以上備えた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…成膜装置、100…基板、20…制御部、200…真空チャンバ(成膜室)、300…蒸発源装置、301…蒸発源容器(坩堝)、302…ヒータ(加熱源)、303…ノズル、40…モニタユニット、50…可動支持機構、51…アーム、52…回転軸、53…回転駆動部、60…シャッタ、60a…切り欠き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7