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特許7301829ポリビニルアルコールフィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020525790
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024446
(87)【国際公開番号】W WO2019244968
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018117541
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 高廣
(72)【発明者】
【氏名】田中 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/182010(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/076169(WO,A1)
【文献】特開2011-237580(JP,A)
【文献】特開2009-067010(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204271(WO,A1)
【文献】特開2006-199927(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111702(WO,A1)
【文献】特開2016-222834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムの幅方向をTD方向とし、機械流れ方向をMD方向とし、MD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.15μm以上のスジ状欠陥がフィルム全幅で5本以下であり、かつMD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.50μm以上のスジ状欠陥がフィルム全幅において存在せず、かつ
TD方向中央部の厚みをMD方向に0.5mm間隔で1.0mにわたり測定した際の最大値をtMAX、最小値をtMIN及び平均値をtAVEとした場合に、tAVEが35μm以下であり、かつ下記式(1)により規定される厚み斑率が%以下である、ポリビニルアルコールフィルム。
厚み斑率=(tMAX-tMIN)/tAVE×100(%) (1)
【請求項2】
幅が2.0m以上7.0m以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜面欠陥が少なく、厚みが均一なポリビニルアルコールフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。LCDは、電卓および腕時計などの小型機器、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器などの広範囲において用いられるようになっている。これらLCDの適用分野のうち液晶テレビや液晶モニターなどでは薄型化が進んでおり、薄膜フィルムの需要が高まっている。
【0003】
通常の偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸し、染色することにより製造した偏光フィルムに、三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護フィルムを貼り合わせた構成を有する。
【0004】
厚みが均一なポリビニルアルコールフィルムを製造する方法として、例えば、特許文献1には、ポリビニルアルコールを水などの溶媒に溶解して原液を調製した後、ドラム(ロール)上に前記原液を流涎して製膜し、ドラム上のフィルムを加熱乾燥する製造方法において、ドラムの速度と原液吐出速度との速度比を1~5とする製造方法が記載されている。特許文献1には、このような速度比とすることによって、大面積であっても厚みが均一で平滑性に優れたポリビニルアルコールフィルムを製造可能であると記載されている。
【0005】
特許文献2には厚み5~60μm、幅2m以上、長さ2km以上であるポリビニルアルコールフィルムであって、フィルム全面における厚みの変動係数が1%以下であるポリビニルアルコールフィルムが開示されている。特許文献2には、該変動係数を1%以下とするために、ポリビニルアルコールの水溶液がキャストドラム(ロール)に接地するタッチラインを、エアナイフにより安定化させることでMD方向(フィルムの流れ方向)の厚み斑を低減する手法が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、ポリビニルアルコールにノニオン系界面活性剤を含有させてなるポリビニルアルコールフィルムは、ダイラインの発生や異物の発生がなく、特に長期の製膜性に優れており、厚み120μmのポリビニルアルコールフィルムを作製し、次いで2軸延伸する製膜工程を60日間連続して行った場合でもダイラインやゲルの発生がなかったと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-79530号公報
【文献】特開2016-172851号公報
【文献】特開2001-253993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたドラム速度と原液吐出速度との速度比を調整する方法で得られたフィルムの最大厚みと最少厚みの差は1.6μm以上であった。従来の偏光板に用いられるポリビニルアルコールフィルム(以下、ポリビニルアルコールをPVAと称することがある)の厚み(例えば45μm~70μm)では、PVAフィルムの機械流れ方向(以下、機械流れ方向をMD方向と称することがある)に生じる厚み斑は大きな問題とならなかった。しかしながら、近年のPVAフィルムの薄膜化によって、特に厚みが35μm以下の場合に、厚み斑率(平均厚みに対する厚み斑の割合)が悪化する問題が顕在化している。
【0009】
特許文献2に記載された手法では、Tダイから吐出されたポリビニルアルコール水溶液(製膜原液)をエアナイフで物理的にドラムロールに押し付けるため、Tダイのリップ先端が吐出された製膜原液に接触することによってMD方向に連続的にスジ状欠陥が生じる場合があった。
【0010】
特許文献3にはポリビニルアルコールフィルムの厚みが35μm以下である場合に特に厚み斑率が悪化するとの記載がなく、その解決手段の記載も示唆もない。
【0011】
本発明の目的は、MD方向の厚み斑が低減され、かつ、MD方向に連続的に生じるスジ状欠陥が少ない、厚みが35μm以下のPVAフィルムおよび該フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、以下に記載の本発明によって達成される。
【0013】
すなわち本発明は、
[1]PVAフィルムの幅方向をTD方向とし、機械流れ方向をMD方向とし、MD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.15μm以上のスジ状欠陥がフィルム全幅で5本以下であり、かつMD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.50μm以上のスジ状欠陥がフィルム全幅において存在せず、かつTD方向中央部の厚みをMD方向に0.5mm間隔で1.0mにわたり測定した際の最大値をtMAX、最小値をtMIN及び平均値をtAVEとした場合に、tAVEが35μm以下であり、かつ下記式(1)により規定される厚み斑率が5.5%以下である、ポリビニルアルコールフィルム;
厚み斑率 =(tMAX-tMIN)/tAVE×100(%) (1)
[2]幅が2.0m以上7.0m以下である、上記[1]のPVAフィルム;
[3]ポリビニルアルコールを含有する94~98℃の製膜原液を、88~92℃のロール上に流涎することにより製膜する、上記[1]または[2]に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法;
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィルムの厚みが35μm以下と薄くとも、MD方向に連続的に生じるスジ状欠陥が少なく、かつ、MD方向の厚み斑が低減されたPVAフィルム及び該PVAフィルムの製造方法が提供される。また、本発明のPVAフィルムを用いることで、シワの発生が抑制された偏光フィルムを得ることができる。さらに、偏光フィルムのシワが抑制されているため、この偏光フィルムに保護フィルムを貼り合わせて偏光板に加工する際に、偏光フィルムと保護フィルムの間の気泡の噛み込みが発生せず、得られる偏光板の品質が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のPVAフィルムは、平均厚みtAVEが35μm以下であり、かつMD方向における厚み斑率が5.5%以内である点に特徴がある。なお本発明における厚み斑率とは、フィルムの幅方向をTD方向とし、フィルムの機械流れ方向をMD方向とし、該フィルムのTD方向中央部の厚みをMD方向に0.5mm間隔で1.0mにわたり測定した際のフィルム厚みの最大値をtMAX、フィルム厚みの最小値をtMIN、フィルム厚みの平均値をtAVEとした場合、下記式(1)で規定される。
厚み斑率 =(tMAX-tMIN)/tAVE×100(%) (1)
【0016】
35μmより厚いPVAフィルムでは、上記厚み斑率の値に関わらずMD方向に連続的に生じるスジ状欠陥の問題が顕在化することが極めて少ない。厚みの平均値tAVEの下限は特に制限されないが、あまりに薄すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸時に延伸切れが発生しやすくなる。このため平均値tAVEは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が特に好ましい。
【0017】
本発明のPVAフィルムを構成するPVAとしては、ビニルエステルモノマーを重合して得られたビニルエステル重合体をけん化し、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位としたものを用いることができる。該ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルを用いるのが好ましい。
【0018】
ビニルエステルモノマーを重合させる際に、必要に応じ、ビニルエステルモノマーと共重合可能なモノマーを、本発明の趣旨を損なわない範囲内(PVA中の全単量体単位に対して、好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下)で共重合させてもよい。このようなモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N-メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N-メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド類などが挙げられる。
【0019】
本発明のPVAフィルムを構成するPVAの平均重合度は、PVAフィルムの強度の点からは500以上が好ましく、偏光性能の点からは1000以上がより好ましく、2000以上がさらに好ましく、3500以上が特に好ましい。一方、PVAの重合度の上限は、本発明のPVAフィルムの製膜性の点から10000以下が好ましい。
【0020】
本発明のPVAフィルムを構成するPVAのけん化度は、フィルムを一軸延伸して得られる偏光フィルムの耐水性の点から、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位(-CH-CH(OH)-)に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して、当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。
【0021】
本発明のPVAフィルムを製造する際には、PVAに、可塑剤として多価アルコールを添加することが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等が挙げられ、これらの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、延伸性の向上効果からエチレングリコールまたはグリセリンが好適に使用される。
【0022】
多価アルコールの添加量は、PVA100質量部に対して1~30質量部が好ましく、3~25質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましい。前記添加量が1質量部より少ないと染色性や延伸性が低下する場合があり、30質量部より多いとPVAフィルムが柔軟になりすぎて取り扱い性が低下する場合がある。
【0023】
また、本発明のPVAフィルムを製造する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤は特に限定されないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、アルカノールアミド型のノニオン性界面活性剤が好ましく、ラウリン酸ジエタノールアミドがより好ましい。これらの界面活性剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
界面活性剤を添加する場合、その添加量は、PVA100質量部に対して0.01~1質量部が好ましく、0.02~0.5質量部がより好ましく、0.05~0.3質量部が特に好ましい。前記添加量が0.01質量部より少ないと、延伸性向上や染色性向上の効果が現れにくく、1質量部より多いと、PVAフィルム表面に界面活性剤が溶出してPVAフィルムどうしのブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0025】
本発明のPVAフィルムにおいて、上記式(1)で規定される厚み斑率が5.5%以下であることが重要である。PVAフィルムの厚み斑率がこれより大きいと、得られる偏光フィルムにシワが発生してしまう。厚み斑率はより好ましくは4%以下である。厚み斑率を3%未満にするためには乾燥ロール温度をさらに上昇させる必要があるが、乾燥ロール温度を例えば96℃以上とするとロール表面のメッキ層にクラックが生じやすくなる。また厚み斑率を3%未満としても、スジ状欠陥は大幅には改善しないため、厚み斑率は3%以上とすることが好ましい。
【0026】
本発明において、MD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.15μm以上のスジ状欠陥がPVAフィルム全幅で5本以下であり、かつMD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.50μm以上のスジ状欠陥がPVAフィルム全幅において存在しない必要がある。スジ状欠陥はMD方向に伸びる1.5m以上の連続した1本線として見える欠陥であり、周辺との厚みの高低差により生じる。高低差が0.15μm以上になると染色後の色斑が濃くなり、このような高低差のスジ状欠陥がフィルム全幅で5本より多くなると実用上問題が生じる。また高低差が0.5μm以上になると染色後の色斑がさらに濃くなり、このような高低差のスジ状欠陥が1本でも存在すると実用上問題が生じる。スジ状欠陥は実施例に記載する方法で評価する。
【0027】
本発明のPVAフィルムの幅に特に制限はなく、例えば0.5m以上とすることができる。近年、幅広の偏光フィルムが求められていることから、当該幅は2.0m以上であることが好ましく、2.5m以上であることがより好ましく、3.5m以上であることがさらに好ましい。一方で、幅があまりに広いPVAフィルムは、製膜装置の製造費用が増加したり、実用化されている製造装置で光学フィルムを製造する場合に均一に延伸することが困難となったりする場合があることから、PVAフィルムの幅は7.0m以下であることが好ましく、6.5m以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明では、PVAフィルムを製造するために、1個以上の回転するロールと、乾燥装置、調湿装置及び巻き取り装置などを備えたロール製膜機が使用される。それぞれの装置の駆動にはモータや変速機などが使用されて、搬送速度が調整される。前記PVAフィルムの乾燥温度は、50~150℃が一般的である。製膜方式としては、例えばPVAを溶剤に溶解した溶液状態の製膜原液を用いるキャスト製膜法や、含水ポリビニルアルコールからなる製膜原液を押出し、ロール上に流涎するロール製膜法などが採用され、なかでも後者が好ましい。前記含水ポリビニルアルコールからなる製膜原液は有機溶剤を含んでいても良い。
【0029】
本発明のPVAフィルムを製造する際、ロール上に供給されるPVAを含有する製膜原液がダイス入口で94~98℃であることが好ましく、94.5~96.5℃であることがより好ましい。製膜原液の温度が94℃未満ではロール上に供給された製膜原液のレベリング性が低下し厚み斑が大きくなりやすい。一方、前記温度が98℃を超える場合、製膜原液の粘度が低下しリップ先端と吐出された製膜原液とが干渉するため、MD方向のスジ状欠陥が生じやすくなる。
【0030】
前記PVAフィルムを製造する際に使用されるPVAを含有する製膜原液の揮発分率は50~90質量%が好ましく、55~80質量%がより好ましい。揮発分率が50質量%より小さいと、粘度が高くなるため製膜が困難となる場合がある。揮発分率が90質量%より大きいと、粘度が低くなりすぎてPVAフィルムの厚み均一性が損なわれる場合がある。
【0031】
PVAフィルムを製造するときには、フレキシブルリップからなるダイを用い、前記ダイから製膜原液をロール製膜機のロール上に供給することが好ましい。上記ダイとしては、例えばT-ダイ、I-ダイ、リップコーターダイなどが挙げられる。次いで、前記ロール上で製膜原液に含有される水分や有機溶剤等の揮発分を蒸発させる。
【0032】
前記PVAフィルムを製造するには、製膜原液が供給されるロールの温度は88℃~92℃が好ましく、89℃~90℃がより好ましい。88℃未満では乾燥不良によってロールからの剥離性が悪くなり厚み斑が大きくなる場合がある。また、92℃を超える場合、フィルムのロールに接触する面でPVAの結晶化が進行し、他方の面との結晶性の差が生じる場合がある。フィルムの一方の面と他方の面とで結晶性に差が生じると、吸水特性に差が生じるため、水中に浸漬させる加工工程においてフィルムがカールしやすくなり、工程通過性が悪化する。
【0033】
ロールの周速度は10.0~50.0m/minの範囲が好ましい。周速度が上記下限未満の場合、生産性が悪い。周速度が上記上限を超える場合、ロールに接している時間が短くなるため、PVAフィルムの乾燥が不十分になりやすい。
【0034】
ロールから剥離したPVAフィルムの乾燥および調湿を行って適切なPVAフィルムに調整した後、当該PVAフィルムを巻き取る。
【0035】
本発明のPVAフィルムから偏光フィルムを製造するには、例えばPVAフィルムを染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理し、さらに必要に応じて熱処理する。各工程の順序は特に限定されず、染色と一軸延伸などの二つの工程を同時に実施しても構わない。また、各工程を複数回繰り返しても良い。なお、染色は一軸延伸前、一軸延伸中、一軸延伸後のいずれにおいても行うことが可能であるが、PVAは一軸延伸により結晶化度が上がりやすく、染色性が低下することがあるため、一軸延伸に先立つ任意の工程で行うか、一軸延伸中に行うのが好ましい。
【0036】
染色に用いる染料としては、ヨウ素-ヨウ化カリウム;ダイレクトブラック17、19、154;ダイレクトブラウン44、106、195、210、223;ダイレクトレッド2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット9、12、51、98;ダイレクトグリーン1、85;ダイレクトイエロー8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ26、39、106、107などの二色性染料などを、1種単独で、または2種以上の混合物として使用できる。染色は、前記染料を含有する溶液中にPVAフィルムを浸漬させることにより行うのが一般的だが、PVAを含有する製膜原液に前記染料を混ぜて製膜するなど、その処理条件や処理方法は特に制限されない。
【0037】
前記PVAフィルムの長さ方向に行う一軸延伸法としては、溶液に浸漬中に延伸する湿式延伸法、またはPVAフィルムを吸水させた後、空気中で延伸する乾熱延伸法を採用できる。前記染料を含有する溶液中や後記する固定処理浴中でPVAフィルムの一軸延伸を行っても良い。延伸はPVAフィルムが切断されない範囲で、できるだけ高い延伸倍率で延伸することが好ましく、具体的には4倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、6倍以上が特に好ましい。延伸倍率が4倍より小さいと、実用的に十分な偏光性能や耐久性能が得られにくい。延伸温度は特に限定されないが、PVAフィルムを水中で延伸(湿式延伸)する場合は30~90℃が、乾熱延伸する場合は50~180℃が好適である。延伸後のフィルムの厚みは、2~25μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。
【0038】
前記PVAフィルムへの前記染料の吸着を強固にすることを目的に、固定処理を行うことができる。固定処理に使用する処理浴には、通常、ホウ酸およびホウ素化合物が添加される。また、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0039】
PVAフィルムの乾燥処理(熱処理)は30~150℃で行うのが好ましく、50~150℃で行うのがより好ましい。
【0040】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有した保護フィルムを貼り合わせて偏光板として使用される。保護フィルムとしては、通常、セルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等が使用される。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。実施例及び比較例における分析、測定及び評価は以下に示す方法で行った。
【0042】
(スジ状欠陥の評価)
スジ状欠陥は製膜時の機械流れ方向(MD方向)に伸びる1.5m以上の連続した1本線として見られる欠陥であり、光源を用いて光をフィルムに照射し、フィルムを透過した光を白い壁に投影させた際に、MD方向に伸びる連続した明模様もしくは暗模様として確認される。スジ状欠陥があるフィルムは表面の凹部分もしくは凸部分の高低差が0.15μm以上あり、前記明模様もしくは暗模様として観察可能である。具体的には、以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムからMD方向に1.5m、全幅で切り出したサンプル片をMD方向が上下になるように吊り下げ、フィルム面から350cm離れた位置に、約550Luxの光度を持つ株式会社エスワン製ハロゲンランプ光源を設置し、フィルム面に対し垂直に光を投射した。次いでフィルムを透過した光をフィルムから10cm離れた白い壁に投影させたときに観察されたスジ状の明模様もしくは暗模様をスジ状欠陥と判定した。そしてスジ状欠陥に対応するフィルムのそれぞれの箇所を、アンリツ株式会社製接触式厚み計「KG601A」にて欠陥部分とその周囲の部分とのフィルム厚み方向の高低差をスジ状欠陥の全数について測定した。こうして、PVAフィルム全幅における、MD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の本数及びMD方向に1.5m以上連続して直線状に伸びる高低差0.5μm以上のスジ状欠陥の有無を求めて、以下の基準で評価した。なお、高低差が0.50μmを超える場合には、スジ状欠陥が1本でも実用上問題となる。
A:PVAフィルム全幅で、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥が5本以下であり、高低差0.5μm以上のスジ状欠陥が存在しない
B:PVAフィルム全幅で、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥が5本より多い、または高低差0.5μm以上のスジ状欠陥が存在する
【0043】
(PVAフィルムの厚み測定及び厚み斑率の算出)
PVAフィルムのTD方向(幅方向)中央部の厚みを、MD方向に0.5mmピッチで1.0mにわたり測定した。測定はアンリツ株式会社製接触式厚み計「KG601A」を用いて行った。前記測定値の最大値をtMAX(μm)、最小値をtMIN(μm)、平均値をtAVE(μm)とした。得られた値を用いて下記の式(1)にて厚み斑率を求めた。
厚み斑率 =(tMAX-tMIN)/tAVE×100(%)・・・(1)
【0044】
(偏光フィルムのシワ評価)
PVAフィルムを連続延伸機にてMD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいるシワの発生有無を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:シワが生じなかったか、あるいは極めて軽微なシワが生じた。
B:顕著なシワが生じた。
【0045】
[実施例1]
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を96℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度91.7℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE21.1μm、幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が3.79%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で2本であり、高低差0.5μm以上のスジ状欠陥は存在しなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいるシワは生じなかった。
【0046】
比較例5
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を94℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度89.7℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.7μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が4.55%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で1本であり、高低差0.5μm以上のスジ状欠陥は存在しなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいる極めて軽微なシワが発生した。
【0047】
比較例6
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を97℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度89.7℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.4μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が5.11%であり、スジ状欠陥は全幅で生じなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいる極めて軽微なシワが発生した。
【0048】
比較例7
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を96℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度88.0℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.1μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が5.22%であり、スジ状欠陥は全幅で生じなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいる極めて軽微なシワが発生した。
【0049】
[比較例1]
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を96.0℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度92.3℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.1μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が4.13%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で12本であった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいる顕著なシワが生じた。
【0050】
[比較例2]
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を98.5℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度89.7℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.4μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が7.13%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で50本以上であった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいる顕著なシワが生じた。
【0051】
[比較例3]
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を93.5℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度88.0℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.3μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が5.95%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で2本であり、高低差0.5μm以上のスジ状欠陥は存在しなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後にTD方向に並んでいる顕著なシワが生じた。
【0052】
[比較例4]
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率70質量%の製膜原液を96.0℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度86.7℃、周速度24.8m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE20.6μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が7.22%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で1本であり、高低差0.5μm以上のスジ状欠陥は存在しなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいる顕著なシワが生じた。
【0053】
[参考例1]
ロール製膜機を使用して、ケン化度99.9モル%、平均重合度2400のPVA100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部、および水からなる揮発分率67質量%の製膜原液を99.6℃でTダイから第1乾燥ロール(表面温度90.0℃、周速度17.5m/min)に吐出し、その後第2乾燥ロールで剥離し、第2乾燥ロール以降、平均85℃で乾燥を行った。最後に巻き取り装置で巻き取ることによりPVAフィルム(厚みtAVE44.7μm、膜幅3000mm)を得た。得られたフィルムは厚み斑率が6.71%であり、高低差が0.15~0.50μmの範囲のスジ状欠陥の数は全幅で1本であり、高低差0.5μm以上のスジ状欠陥は存在しなかった。また、MD方向に2.6倍に延伸後に、TD方向に並んでいるシワは生じなかった。
【0054】
実施例、比較例、参考例におけるPVAフィルムの製造条件および得られたPVAフィルムの評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
本発明によれば薄くてもスジ状欠陥が抑制され、延伸時にもシワが生じないポリビニルアルコールフィルムを製造できる。