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特許7301952包装容器およびそれを用いた蒸気殺菌製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】包装容器およびそれを用いた蒸気殺菌製品
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/24 20060101AFI20230626BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20230626BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230626BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B65D81/24 L
B32B3/24 Z
B32B27/00 H
B32B27/28 102
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021504102
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008842
(87)【国際公開番号】W WO2020179771
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2019038957
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】000152480
【氏名又は名称】株式会社日阪製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野中 康弘
(72)【発明者】
【氏名】星加 里奈
(72)【発明者】
【氏名】尾下 竜也
(72)【発明者】
【氏名】堤 隆一
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 宏太
(72)【発明者】
【氏名】御船 和徳
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-020782(JP,A)
【文献】特開2014-043276(JP,A)
【文献】特開2012-143215(JP,A)
【文献】特開2017-105540(JP,A)
【文献】特開平09-076339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/24
B32B 3/24
B32B 27/00
B32B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部、および内容物を収容可能な内表面を含む容器本体(A)と、該容器本体(A)の該開口部を覆う蓋材(B)とを備える包装容器であって、該容器本体(A)が、該内表面上に、該内容物と該内表面との間を蒸気が流通可能な蒸気流通部を備え、容器底部に複数の突起部を有し、かつ少なくとも1層の酸素バリア層(a)を含む多層構造体(A’)から構成されており、該蓋材(B)が、少なくとも2個の穿孔を有する層構造体(b-1)と、該層構造体(b-1)の外表面に配置されておりかつ該穿孔を封鎖する層構造体(b-2)とを備え、該層構造体(b-1)および該層構造体(b-2)のうちの少なくとも1つが酸素バリア層(b)を含み、
該蒸気流通部が、1つの該突起部とそれに隣接する他の該突起部との間に形成されており、該突起部の高さが該容器本体(A)の深さの10%以上40%以下でありかつ4mm以上15mm以下である、包装容器。
【請求項2】
前記蓋材(B)における前記酸素バリア層(b)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、および金属箔からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の包装容器。
【請求項3】
前記蓋材(B)の内側を構成する面における、JIS R3257に準拠して測定される水接触角が70°以下である、請求項1または2に記載の包装容器。
【請求項4】
前記蓋材(B)における前記層構造体(b-1)の前記穿孔が1mm以上20mm以下の直径を有する、請求項1~3のいずれかに記載の包装容器。
【請求項5】
前記蓋材(B)が、前記層構造体(b-1)と前記層構造体(b-2)との間に粘着層を備える、請求項1~4のいずれかに記載の包装容器。
【請求項6】
前記容器本体(A)における前記酸素バリア層(a)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、および金属箔からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の包装容器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の包装容器に用いられる容器本体(A)であって、開口部、および内容物を収容可能な内表面を含み、該内表面上に、該内容物と該内表面との間を蒸気が流通可能な蒸気流通部を備え、かつ少なくとも1層の酸素バリア層(a)を含む多層構造体(A’)から構成されており、該内表面が、容器底部(a1)および該容器底部(a1)の周縁から上方に延びる容器側壁部(a2)により構成されており、該蒸気流通部が該開口部と連通する、容器本体(A)。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の包装容器に用いられる多層構造体(A’)であって、酸素バリア層(a)がエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、および加工デンプンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、多層構造体(A’)。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の包装容器と蒸気殺菌された内容物とを備える、蒸気殺菌製品であって、該包装容器を構成する容器本体(A)の内表面に該内容物が収容されており、該容器本体(A)と該包装容器を構成する蓋材(B)とが密閉されている、蒸気殺菌製品。
【請求項10】
前記容器本体(A)と前記蓋材(B)とで包囲される領域の酸素濃度が5体積%以下である、請求項に記載の蒸気殺菌製品。
【請求項11】
前記容器本体(A)と前記蓋材(B)とで包囲される領域の二酸化炭素濃度が0.5体積%以上40体積%以下である、請求項または10に記載の蒸気殺菌製品。
【請求項12】
前記蒸気殺菌された内容物が食品である、請求項11のいずれかに記載の蒸気殺菌製品。
【請求項13】
前記内容物が食品であり、該内容物を蒸気殺菌するために用いられる、請求項1~6のいずれかに記載の包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装容器およびそれを用いた蒸気殺菌製品に関し、より詳細には、惣菜などの食品を包装することのできる包装容器およびそれを用いた蒸気殺菌製品に関する。
【背景技術】
【0002】
日配惣菜あるいは日配食品と称される食品(以下、これらを総称して単に日配食品ともいう)は、食品工場等で調理・加工された食品が成形容器内に収容され、当該容器にトップシートやかぶせ蓋を配置した状態で流通されている。
【0003】
中でも、食品を包装容器に載置した状態で殺菌釜に収容し、当該殺菌釜を真空にした後に高温高圧の蒸気を容器本体内に導入して食品を高温高圧の蒸気で殺菌し、当該殺菌釜を減圧して食品を冷却し、当該殺菌釜から取り出した包装容器に汁または水を充填した後に開口部を蓋体でシールしてレトルト殺菌する方法が提案されている(特許文献1)。このような方法によれば、包装容器に収容した食品をリテーナに移し替えることなく、そのまま殺菌し、殺菌後には包装容器の開口部に蓋をするだけでそのまま流通することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-009937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような高温高圧の蒸気を用いた食品の殺菌にはいくつかの問題が指摘されている。
【0006】
こうした問題の1つの例としては、包装容器内に収容した食品の殺菌が不均一となり、結果として食味の劣化を招き、消費期限の実質的な延長が困難となる場合がある点が挙げられる。
【0007】
これは、包装容器内に導入された蒸気が収容された食品の周囲に均等に行き渡らないことにより、殺菌処理のムラが発生することに起因する。例えば、食品が惣菜である場合、その外形が常に一定とは言い難い場合がある。この点で、食品の種類や外形の相違によらず、より均一な殺菌を可能とする包装容器の開発が所望されている。
【0008】
上記問題の他の例としては、包装容器を構成する材料自体が未だ上記用途に十分に適しているとは言い難い点が挙げられる。
【0009】
例えば、包装容器を構成する材料が、容器内部を外気から適切に遮断する能力を有していないことにより、蒸気殺菌の効果を十分に維持することができないことが指摘されている。これらの点で、上記高温高圧の蒸気殺菌に適した材料で構成される包装容器の開発が所望されている。
【0010】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、高温高圧の蒸気による均一な殺菌を可能とし、かつ内容物の殺菌状態を長期に亘って維持することができる、包装容器およびそれを用いた蒸気殺菌製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]開口部、および内容物を収容可能な内表面を含む容器本体(A)と、該容器本体(A)の該開口部を覆う蓋材(B)とを備える包装容器であって、該容器本体(A)が、該内表面上に、該内容物と該内表面との間を蒸気が流通可能な蒸気流通部を備え、かつ少なくとも1層の酸素バリア層(a)を含む多層構造体(A’)から構成されており、該蓋材(B)が、少なくとも2個の穿孔を有する層構造体(b-1)と、該層構造体(b-1)の外表面に配置されておりかつ該穿孔を封鎖する層構造体(b-2)とを備え、該層構造体(b-1)および該層構造体(b-2)のうちの少なくとも1つが酸素バリア層(b)を含む、包装容器;
[2]前記蓋材(B)における前記酸素バリア層(b)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、および金属箔からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]の包装容器;
[3]前記蓋材(B)の内側を構成する面における、JIS R3257に準拠して測定される水接触角が70°以下である、[1]または[2]の包装容器;
[4]前記蓋材(B)における前記層構造体(b-1)の前記穿孔が1mm以上20mm以下の直径を有する、[1]~[3]のいずれかの包装容器;
[5]前記蓋材(B)が、前記層構造体(b-1)と前記層構造体(b-2)との間に粘着層を備える、[1]~[4]のいずれかの包装容器;
[6]前記容器本体(A)における前記酸素バリア層(a)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、および金属箔からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、[1]~[5]のいずれかの包装容器;
[7][1]~[6]のいずれかの包装容器に用いられる容器本体(A)であって、開口部、および内容物を収容可能な内表面を含み、該内表面上に、該内容物と該内表面との間を蒸気が流通可能な蒸気流通部を備え、かつ少なくとも1層の酸素バリア層(a)を含む多層構造体(A’)から構成されており、該内表面が、容器底部(a1)および該容器底部(a1)の周縁から上方に延びる容器側壁部(a2)により構成されており、該蒸気流通部が該開口部と連通する、容器本体(A);
[8][1]~[6]のいずれかに記載の包装容器に用いられる多層構造体(A’)であって、酸素バリア層(a)がエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、および加工デンプンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、多層構造体(A’);
[9][1]~[6]のいずれかの包装容器を構成する層構造体(b-1)に用いられる層構造体(B’)であって、少なくとも1層の酸素バリア層(b)を備え、少なくとも一方の最外層に180℃以下の融点を有するシーラント層を備える、層構造体(B’);
[10]20℃かつ65%RHにおける酸素バリア性が10cc/(m・day・atm)以下である[9]の層構造体(B’);
[11]突き刺し強度が10Nから40Nである、[9]または[10]の層構造体(B’);
[12]前記酸素バリア層(b)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、および金属箔からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[9]~[11]のいずれかの層構造体(B’);
[13][9]~[12]のいずれかに記載の層構造体(B’)に少なくとも2個の穿孔を備える、層構造体(b-1);
[14]前記酸素バリア層(b)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、および金属箔からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[13]の層構造体(b-1);
[15][1]~[6]のいずれかに記載の包装容器と蒸気殺菌された内容物とを備える、蒸気殺菌製品であって、該包装容器を構成する容器本体(A)の内表面に該内容物が収容されており、該容器本体(A)と該包装容器を構成する蓋材(B)とが密閉されている、蒸気殺菌製品;
[16]前記容器本体(A)と前記蓋材(B)とで包囲される領域の酸素濃度が5体積%以下である、[15]の蒸気殺菌製品;
[17]前記容器本体(A)と前記蓋材(B)とで包囲される領域の二酸化炭素濃度が0.5体積%以上40体積%以下である、[15]または[16]の蒸気殺菌製品;
[18]前記蒸気殺菌された内容物が食品である、[15]~[17]のいずれかの蒸気殺菌製品;
[19]前記内容物が食品であり、該内容物を蒸気殺菌するために用いられる、[1]~[6]のいずれかの包装容器;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、収容された内容物への殺菌をより均一に行うことができるとともに、内容物の殺菌状態を長期に亘って維持することができる。これにより、内容物の変質や腐敗を一層遅延させ、消費者に対して内容物の品質に伴う安心を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の包装容器の一例を説明するための模式図であって、(a)は当該包装容器の側面図であり、そして(b)は当該包装容器の上面図である。
図2図1に示す包装容器の断面図であって、(a)は当該包装容器の縦方向断面図であり、(b)は当該包装容器の縦方向一部拡大断面図である。
図3】本発明の包装容器の他の例を説明するための縦方向断面図である。
図4】本発明の包装容器を構成する容器本体(A)の上面図であって、(a)は図2に示す容器本体(A)の上面図であり、(b)は本発明の包装容器を構成し得る容器本体(A)の他の例を説明するための当該容器本体(A)の上面図であり、(c)は本発明の包装容器を構成し得る容器本体(A)の別の例を説明するための当該容器本体(A)の上面図である。
図5】本発明の蒸気殺菌製品の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図6】本発明の蒸気殺菌製品の製造方法において採用され得る容器本体(A)内の内容物Fを減圧環境下に曝した後に殺菌する手順を説明するための模式図であって、(a)は、減圧環境下にて層構造体(b-1)の穿孔132を通じて容器本体(A)からの脱気が行われている状態を示す図であり、(b)は、減圧状態を解除した後に、層構造体(b-1)の穿孔132を通じて容器本体(A)内に蒸気が導入されている状態を示す図である。
図7】本発明の蒸気殺菌製品の製造方法の他の例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
【0015】
(包装容器)
まず、本発明の包装容器の外観的特徴について図面を用いて説明する。
【0016】
図1の(a)に示すように、本発明の包装容器100は、容器本体(A)110および蓋材(B)130を備える。蓋材(B)130は、容器本体(A)110の上方に配置されており、開口部(図示せず)を覆い、当該開口部の外周部で密着されている。これにより、蓋材(B)130と容器本体(A)110との密着部分では通気が遮断されている。
【0017】
図1の(b)に示すように、蓋材(B)130には、少なくとも2個の穿孔132が設けられた層構造体(b-1)134を含み、そして当該穿孔132を封鎖するように、層構造体(b-2)136が配置されている。
【0018】
(容器本体(A))
図2は、図1に示す包装容器を構成する容器本体(A)110の断面図である。
【0019】
図2の(a)に示すように、容器本体(A)110は、上方に開口する開口部112を通じて所望の内容物を収容可能な内表面114を有する。内表面114は、容器底部(a1)118および当該容器底部(a1)118の周縁から上方に延びる容器側壁部(a2)116で構成されている。なお、図2の(a)において、容器本体(A)110の内表面114を構成する容器側壁部(a2)116は、開口部112から容器底部(a1)118に向かって傾斜しているが、本発明はこのような形態に必ずしも限定されない。
【0020】
容器本体(A)110には、開口部112の周囲に沿ってフランジ部120が設けられていてもよい。フランジ部120は、図1の(a)に示すような蓋材(B)130の辺縁部分と、例えば、ヒートシール、接着剤等の周知の手段を用いて密着可能な部分を有する。また、フランジ部120には、図2の(b)に示すように、開口方向に向かって膨出した膨出部121がフランジ部120に沿って例えば連続的に設けられていてもよい。なお、膨出部121は、図1の(b)に示すように、例えば容器本体(A)110を構成する四隅のうちの少なくとも1つにおいて、膨出部121を構成する稜線が鋭く折れ曲がることによって構成される尖端部分123を有していてもよい。このような尖端部分123では応力が集中するため、容器本体(A)110に密着した蓋材(B)130を容器本体(A)110からより少ない力で引き剥がすことができる。
【0021】
再び図2の(a)を参照すると、本発明において、容器本体(A)110は内表面114上に蒸気流通部122を備える。蒸気流通部122は容器本体(A)110の開口部112と連通する。容器本体(A)110が当該蒸気流通部122を備えることにより、内容物(図示せず)と内表面114との間を蒸気が流通することができる。例えば、蒸気流通部122は、容器本体(A)110の容器底部(a1)118に複数個設けられている。具体的には、図2の(a)に示す容器本体(A)110の容器底部(a1)118には、略均等または不均等の間隔に配置された複数の突起部124が設けられており、蒸気流通部122は、1つの突起部124と、それに隣接する他の突起部124との間に形成されている。突起部124は、容器本体(A)110内に収容される内容物と、例えば点接触または線接触の様式で支持し、突起部124と内容物との間の接触面積が可能な限り低減されるように設計されている。
【0022】
図2の(a)に示す実施形態では、容器本体(A)110の容器底部(a1)118において、複数の蒸気流通部122は略均等の間隔で配置されている。このような構成の容器本体(A)110によれば、容器本体(A)110に収容された内容物(例えば、食品)を蒸気で殺菌する際、容器底部(a1)118に形成された蒸気流通路122を通って、内容物の上面および側面だけでなく、当該内容物の下面からより多くの蒸気を流入させることができる。これにより、蒸気による内容物のより均等かつ効率的な殺菌が可能となる。
【0023】
図2の(a)に示す実施形態において、突起部124の高さは、必ずしも限定されないが、容器底部(a1)118の内側最下面(すなわち、容器本体(A)110の内表面114における最も下方の高さ)を基準にして、例えば2mm以上、3mm以上、または4mm以上である。そして突起部124の高さは、必ずしも限定されないが、容器底部(a1)118の内側最下面を基準にして、例えば、15mm以下、13mm以下、または10mm以下である。突起部124の高さがこのような範囲内にあることにより、蒸気流通路122に蒸気がより一層流入し易くなり、内容物の下面側の蒸気殺菌をより効果的に行うことができる。
【0024】
突起部124の高さは、容器本体(A)110の深さ(すなわち、容器本体(A)110の開口部112から鉛直方向における内表面114の最も下方の部分までの距離)Lの10%以上40%以下であることが好ましい。当該構成によれば、蒸気流通路122の断面積(すなわち、図2の(a)における1つの突起部124の頂点とそれに隣接する他の突起部124の頂点を結ぶ直線とこれら2つの突起部124の間の稜線とで構成される図形の面積に相当する)が増加するため蒸気流通路122に蒸気がより一層流入しやすくなり、内容物の下面側の蒸気殺菌をより効果的に行うことができる。
【0025】
本発明の包装容器について、上記図2の(a)では、容器本体(A)110(具体的にはフランジ部120)に対して、層構造体(b-1)134および層構造体(b-2)136で構成される略平坦な蓋材(B)が密着している例について説明したが、本発明において容器本体(A)および蓋材(B)は、このような形態の組み合わせのみに限定されない。
【0026】
例えば、本発明の包装容器は、図3の(a)~(d)に示すような容器本体(A)および蓋材(B)から構成されていてもよい。
【0027】
図3の(a)に示す包装容器100aは、フランジ部120aを有する容器本体(A)110aと、蓋側フランジ部131aを有する層構造体(b-1)134aおよび層構造体(b-2)136から構成される蓋材130aとを備える。図3の(a)に示すように、包装容器100aは、蓋材130aの蓋側フランジ部131aが、容器本体(A)110aのフランジ部120aを覆って嵌合する形態(外嵌合型)を有する。蓋側フランジ部131aとフランジ部120aとの接触部分は、ヒートシール、接着剤等の周知の手段を用いて密着されている。
【0028】
図3の(b)に示す包装容器100bは、容器本体(A)110bと、層構造体(b-1)134bおよび層構造体(b-2)136から構成される蓋材130bとを備える。容器本体(A)110bは、上方に突出した凸部を含むフランジ部120bを有し、層構造体(b-1)134bは凹部を含む蓋側フランジ部131bを有する。図3の(b)に示すように、包装容器100bは、蓋材130bの蓋側フランジ部131bの凹部が、容器本体(A)110bのフランジ部120bにおける凸部を収容して嵌合する形態(内外嵌合型)を有する。蓋側フランジ部131bとフランジ部120bとの接触部分は、ヒートシール、接着剤等の周知の手段を用いて密着されている。
【0029】
図3の(c)に示す包装容器100cは、フランジ部120cを有する容器本体(A)110cと、蓋側フランジ部131cを有する層構造体(b-1)134cおよび層構造体(b-2)136から構成される蓋材130cとを備える。図3の(c)に示すように、包装容器100cは、容器本体(A)110cのフランジ部120cが、蓋材130cの蓋側フランジ部131cを覆って嵌合する形態(内嵌合型)を有する。蓋側フランジ部131cとフランジ部120cとの接触部分は、ヒートシール、接着剤等の周知の手段を用いて密着されている。
【0030】
図3の(d)に示す包装容器100dは、フランジ部120dを有する容器本体(A)110dと、蓋側フランジ部131dを有する層構造体(b-1)134dおよび層構造体(b-2)136から構成される蓋材130dとを備える。図3の(d)に示すように、包装容器100dは、蓋材130dの蓋側フランジ部131dが、容器本体(A)110dのフランジ部120dを覆い重なる形態(のせ型)を有する。蓋側フランジ部131dとフランジ部120dとの接触部分は、ヒートシール、接着剤等の周知の手段を用いて密着されている。
【0031】
本発明の包装容器を構成する容器本体(A)の具体的な例について、より詳細に説明する。
【0032】
図4の(a)は、図2の(a)に示す容器本体(A)の上面図である。
【0033】
容器本体(A)110において、突起部124は、容器底部(a1)118上に略均等に配置されており、各突起部124の間に、縦方向および横方向のそれぞれに真っ直ぐに延びる、複数の蒸気流通路122が設けられている。
【0034】
なお、本発明の包装容器において、上記容器本体(A)110の形態は、これに限定されず、例えば、図4の(b)および(c)に示すような形態を有していてもよい。
【0035】
例えば、図4の(b)に示すように、容器本体(A)110’は、容器底部(a1)118において、複数の半円筒状の突起を同一の方向(図4の(b)においては上下方向)に配置し、これを1つに繋げた突起部124’を有するものであってもよい(なお、図4の(b)において、図4の(a)と共通する部分には同一の参照番号を付している)。この場合、突起部124’を構成する半円筒状の突起の間には、複数の蒸気流通路122’が同一方向(図4の(b)においては上下方向)に並んで形成されている。
【0036】
図4の(b)に示す容器本体(A)110’において、突起部124’は、図4の(a)に示す、突起部124が点接触の様式で内容物を支持する容器本体(A)110と比較して、内容物を線接触の様式で支持することができる。例えば、内容物が非常に柔らかな食品(例えば、煮魚のような、比較的形状が崩れ易い惣菜)の場合でも、内容物と容器本体(A)110’との接触を可能な限り低減して、内容物の下方面側の蒸気殺菌を行うことができる。
【0037】
あるいは、図4の(c)に示すように、容器本体(A)110”は、容器底部(a1)118において複数の半円筒状の突起部124”を有し、当該突起部124”の数個(図4の(c)においては3個)が一組となって互いに略平行となるように整列したブロック126を構成し、当該ブロック126が図4の(c)に示すように、上下方向および横方向に配置した他のブロックと比較して90°回転して配置されたものであってもよい(なお、図4の(c)において、図4の(a)と共通する部分には同一の参照番号を付している)。この場合、1つのブロック126内の突起部124”とそれに隣接する他の突起部124”との間には蒸気流通路122”が、当該ブロック126内で同一方向に並んで形成されている。
【0038】
図4の(c)に示す容器本体(A)110”において、突起部124”は、図4の(a)に示す、突起部124が点接触の様式で内容物を支持する容器本体(A)110と比較して、内容物を線接触の様式で支持することができる。また、図4の(b)に示す、容器本体(A)110’と比較して、蒸気流通路122”が少なくとも2方向(図4の(c)においては上下方向および横方向)に設けられている。これにより、例えば、内容物が非常に柔らかな食品の場合でも、内容物と容器本体(A)110”との接触を可能な限り低減するとともに、底部118において、複数の方向から内容物の下方面側の蒸気殺菌を行うことができる。仮に、上下方向または横方向のいずれかを指向する蒸気流通路122”が内容物によって塞がれた場合であっても、他方向からの蒸気の流入が可能となり、内容物の蒸気殺菌をより確実に行うことができる。
【0039】
(多層構造体(A’))
再び図1の(a)を参照すると、本発明の包装容器100において、容器本体(A)110は複数の層が積層してなる多層構造体(A’)から構成されている。
【0040】
本発明において、多層構造体(A’)は酸素バリア層(a)を含む。
【0041】
多層構造体(A’)における酸素バリア層(a)の層数は、酸素バリア性をより向上させる観点から複数層有していてもよく、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
酸素バリア層(a)は、気体の透過を防止する機能を有する層であり、例えば、20℃、65%RH条件下にて、JIS-K7126-2(2006年)第2部(等圧法)に準拠して測定した酸素透過度が100cc・20μm/(m・day・atm)以下の層であり、好ましくは50cc・20μm/(m・day・atm)以下、より好ましくは10cc・20μm/(m・day・atm)以下の層である。ここで、「10cc・20μm/(m・day・atm)」の酸素透過度とは、20μmのバリア材(酸素バリア層(a)単独で構成される場合をいう)において、酸素1気圧下での1日の酸素透過量が10ccであることを言う。
【0043】
上記酸素バリア層(a)は、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、加工デンプン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機層状化合物、無機蒸着層、金属箔等のガスバリア材を含む。特に、良好な酸素バリア性および溶融成形性を有するという理由から、上記酸素バリア層(a)は、EVOH、ポリアミド、および加工デンプン、またはそれらの組み合わせを含むことが好ましく、特に優れた溶融成形性を有しているとの理由から、EVOHを含むことがより好ましい。
【0044】
(EVOH)
EVOHは、例えば、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することにより得ることができる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法により行うことができる。当該方法に用いることができるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0045】
本発明において、EVOHのエチレン単位含有量は、例えば、20モル%以上、22モル%以上、または24モル%以上であることが好ましい。また、EVOHのエチレン単位含有量は、例えば、60モル%以下、55モル%以下、または50モル%以下であることが好ましい。エチレン単位含有量が20モル%以下であると、その溶融形成性および高温下での酸素バリア性が向上する傾向にある。エチレン単位含有量が60モル%以下であると、酸素バリア性が向上する傾向にある。このようなEVOHにおけるエチレン単位含有量は、例えば、核磁気共鳴(NMR)法によって測定することができる。
【0046】
本発明において、EVOHのビニルエステル成分のケン化度の下限は、例えば、80モル%以上、90モル%以上、または99モル%以上であることが好ましい。ケン化度を80モル%以上とすることによって、例えば、上記酸素バリア層(a)の酸素バリア性を高めることができる。他方、EVOHのビニルエステル成分のケン化度の上限は、例えば、100%以下、99.99%以下であってもよい。EVOHのケン化度は、H-NMR測定によってビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出され得る。EVOHのケン化度が上記範囲内にあることにより、上記容器本体(A)を構成する酸素バリア層(a)に良好な酸素バリア性を提供することができる。
【0047】
EVOHはまた、本発明の目的が阻害されない範囲において。エチレンならびにビニルエステルおよびそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOHがこのような他の単量体単位を有する場合、EVOHの全構造単位に対する当該他の単量体単位の含有量の上限は、例えば、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下または5モル%以下である。さらに、EVOHが当該他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量の下限は、例えば、0.05モル%以上または0.1モル%以上である。
【0048】
こうしたEVOHが有していてもよい他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0049】
EVOHは、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法を経て変性されたEVOHであってもよい。このように変性されたEVOHは上記酸素バリア層(a)の溶融成形性を向上させる傾向にある。
【0050】
EVOHとして、エチレン単位含有量、ケン化度、共重合体成分、変性の有無または変性の種類等が異なるEVOHを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
EVOHは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で得ることができる。1つの実施形態では、無溶媒またはアルコールなどの溶液中で重合が進行可能な塊状重合法または溶液重合法が用いられる。
【0052】
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールである。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とするEVOHの粘度平均重合度や溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は例えば、0.01~10であり、好ましくは0.05~3である。
【0053】
そして、上記重合に用いられる触媒としては、例えば、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(2-シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾ系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などが挙げられる。
【0054】
重合温度は20℃~90℃が好ましく、40℃~70℃がより好ましい。重合時間は2時間~15時間が好ましく、3時間~11時間がより好ましい。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10%~90%が好ましく、30%~80%がより好ましい。重合後の溶液中の樹脂含有率は5%~85%が好ましく、20%~70%がより好ましい。
【0055】
上記重合では、所定時間の重合後または所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤が添加され、未反応のエチレンガスを蒸発除去して、未反応のビニルエステルが取り除かれ得る。
【0056】
次いで、上記共重合体溶液にアルカリ触媒が添加され、上記共重合体がケン化される。ケン化の方法には、連続式および回分式のいずれも採用されてもよい。添加可能なアルカリ触媒の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが挙げられる。
【0057】
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有する。このため、必要に応じて中和や洗浄することにこれらを除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、所定のイオン(例えば、金属イオン、塩化物イオン)をほとんど含まない水(例えば、イオン交換水)で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の副生塩類を完全に除去せず、一部を残存させてもよい。
【0058】
EVOHは他の熱可塑性樹脂、金属塩、酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、各種繊維などの補強材、他の成分を含有していてもよい。上記酸素バリア層(a)の熱安定性や他樹脂との接着性が良好であるという理由から、金属塩および酸を含むことが好ましい。
【0059】
上記金属塩は、層間接着性を向上させるという点でアルカリ金属塩を用いることが好ましく、熱安定性を向上させるという点ではアルカリ土類金属塩を用いることが好ましい。EVOHが金属塩を含有する場合、その含有量の下限は、EVOHに対して当該金属塩の金属原子換算で、例えば、1ppm以上、5ppm以上、10ppm以上、または20ppm以上である。そして、EVOHが金属塩を含有する場合、その含有量の上限は、EVOHに対して当該金属塩の金属原子換算で、例えば、10000ppm以下、5000ppm以下、1000ppm以下、または500ppm以下である。金属塩の含有量が上記下限および上限で構成される範囲内にあることにより、上記酸素バリア層(a)の層間接着性を良好に保持しつつ、容器本体(A)をリサイクルする際のEVOHの熱安定性を良好に保つ傾向がある。
【0060】
上記酸としては、例えば、カルボン酸化合物、リン酸化合物などが挙げられる。これらの酸は、EVOHを溶融成形する際の熱安定性を高めることができる点で有用である。EVOHがカルボン酸化合物を含有する場合、カルボン酸の含有量(すなわち、EVOHを含む酸素バリア層(a)の乾燥組成物中のカルボン酸の含有量)の下限は、例えば、1ppm以上、10ppm以上、または50ppm以上である。そして、カルボン酸化合物の含有量の上限は、例えば、10000ppm以下、1000ppm以下、または500ppm以下である。EVOHがリン酸化合物を含有する場合、リン酸の含有量(すなわち、EVOHを含む酸素バリア層(a)のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)の下限は、例えば、1ppm以上、10ppm以上、または30ppm以上である。そして、リン酸化合物の含有量の上限は、例えば、10000ppm以下、1000ppm以下、または300ppm以下である。EVOHがカルボン酸化合物またはリン酸化合物を上記範囲内で含有することにより、EVOHの溶融成形時の熱安定性が良好になる傾向がある。
【0061】
EVOHが上記ホウ素化合物を含有する場合、その含有量(すなわち、EVOHを含む酸素バリア層(a)の乾燥組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)の下限は、例えば、1ppm以上、10ppm以上、または50ppm以上である。そして、ホウ素化合物の上限は、例えば、2000ppm以下、1000ppm以下、または500ppm以下である。EVOHがホウ素化合物またはリン酸化合物を上記範囲内で含有することにより、EVOHの溶融成形時の熱安定性が良好になる傾向がある。
【0062】
上記カルボン酸化合物、リン酸化合物、またはホウ素化合物を、EVOHを含む酸素バリア層(a)に含有させるための方法は特に限定されず、例えばEVOHを含む組成物のペレット化の際にこれらを添加して混練してもよい。上記カルボン酸化合物、リン酸化合物、またはホウ素化合物の添加方法は特に限定されず、乾燥粉末として添加する方法、所定の溶媒を含浸させたペーストの状態で添加する方法、所定の液体に懸濁させた状態で添加する方法、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法、所定の溶液に浸漬させる方法などが挙げられる。特に、これらの化合物をEVOH中に均質に分散させることができるという理由から、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法および所定の溶液に浸漬させる方法を採用することが好ましい。このような方法で使用する溶媒は特に限定されないが、添加剤として添加されるこれら化合物の溶解性、コスト、取り扱いの容易さ、作業環境の安全性等を考慮すると、水であることが好ましい。
【0063】
多層構造体(A’)における酸素バリア層(a)がEVOHを主成分として含有する場合、当該酸素バリア層(a)におけるEVOHの割合は、例えば、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、または100質量%である。ここで、本明細書中に用いられる用語「酸素バリア層(a)の主成分」とは、酸素バリア層(a)を構成する成分の中で最も大きな質量%を有する成分を指して言う。
【0064】
多層構造体(A’)における酸素バリア層(a)がEVOHを主成分として含有する場合、当該酸素バリア層(a)の平均厚みの下限は、例えば、3μm以上、5μm以上、または10μm以上である、そして、当該酸素バリア層(a)の平均厚みの上限は、例えば、100μm以下、または50μm以下である。ここで、本明細書中に用いられる用語「酸素バリア層(a)の平均厚み」とは、多層構造体(A’)に含まれる上記EVOHを主成分として含有する酸素バリア層(a)の全体の厚みの合計を当該酸素バリア層(a)の層数で除した値を指して言う。酸素バリア層(a)の平均厚みが上記範囲内にあることにより、本発明の包装容器を構成する容器本体(A)の耐久性や柔軟性、外観特性が良好となる傾向がある。
【0065】
(リンおよび多価金属元素を含む複合構造体)
リンおよび多価金属元素を含む複合構造体は、リン化合物と多価金属の化合物とが反応することにより形成されるバリア層を有する。この構造体は、リン化合物を含む溶液と多価金属の化合物を含む溶液または分散液とを混合してコーティング剤を調製し、当該コーティング剤を基材上に塗布し、多価金属の化合物とリン化合物とを反応させることにより形成され得る。ここで、上記多価金属原子をMで表すと、多価金属原子Mとリン原子との間にはM-O-Pで表される結合が形成される。M-O-P結合は赤外吸収スペクトルにおける特性吸収帯が1080cm-1~1130cm-1の領域に観察することができ、当該複合構造体の赤外吸収スペクトルにおいて、800cm-1~1400cm-1の領域における最大吸収波数は1080cm-1~1130cm-1の範囲にあることが好ましい。複合構造体の最大吸収波数が上記範囲内にあると、当該複合構造体は優れた酸素バリア性を有する傾向にある。
【0066】
コーティング剤を塗布する基材としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス等が挙げられる。特に、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材の形態は特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材としては、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなるものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムがさらに好ましい。熱可塑性樹脂フィルムとしてはポリエステルが好ましく、複合構造体に良好な機械強度を付与することができるという理由からポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0067】
多価金属元素としては、2分子以上のリン化合物が反応可能な多価金属元素であれば特に限定されず、任意の元素が使用され得る。半多価金属元素であってもよい。多価金属元素の例としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、珪素、チタン、ジルコニウムなどの元素が挙げられる。特にアルミニウムが好ましい。
【0068】
多価金属元素の化合物としては、リン化合物と反応して複合構造体を形成することができるものであれば特に限定されず、任意の化合物が使用され得る。また、多価金属化合物は溶剤に溶解した溶液として用いても、多価金属化合物の微粒子を溶剤に分散した分散液として用いてもよく、例えば、硝酸アルミニウムを多価金属化合物として含有する水溶液を用いることができる。
【0069】
さらに、多価金属化合物の微粒子を水または水性溶剤中に分散させて、分散液として用いてもよい。このような分散液としては、酸化アルミニウム微粒子の分散液が好ましい。一般に、多価金属酸化物の微粒子はその表面に水酸基を有しており、水酸基の存在によって上記リン化合物と反応して上記結合を形成することができる。多価金属酸化物の微粒子は、例えば、加水分解可能な特性基が金属原子に結合した化合物を原料として、これを加水分解し、この加水分解生成物を縮合させることで合成することができる。原料の例としては、塩化アルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、およびアルミニウムイソプロポキシドが挙げられる。上記加水分解生成物を縮合させる方法としては、例えば、ゾルゲル法などの液相合成法が挙げられる。多価金属酸化物の微粒子はまた、例えば、球状、扁平状、多面体状、繊維状、または針状の形態を有することが好ましく、酸素バリア性を高めることができるという理由から、繊維状または針状の形態を有することが好ましい。さらに、多価金属酸化物微粒子の平均粒径は、酸素バリア性および透明性を高めるために、1nm以上100nmであることが好ましい。
【0070】
リン化合物としては、多価金属の化合物と反応して上記結合を形成し得るものであれば特に限定されず、任意のリン化合物を使用することができる。リン化合物としては、例えば、リン酸系化合物およびその誘導体が挙げられる。具体的な例としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸が挙げられる。上記ポリリン酸としては、ピロリン酸、三リン酸、または4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸が挙げられる。また、リン酸系化合物の誘導体としては、リン酸塩、エステル(例えば、リン酸トリメチル)、ハロゲン化物、脱水物(例えば、五酸化リン)が挙げられる。
【0071】
このリン化合物は溶液として用いることができ、例えば、水を溶剤とする水溶液や低級アルコール溶液のような親水性の有機溶剤を含む溶液として用いることができる。
【0072】
コーティング剤は、多価金属化合物の溶液または分散液と、リン化合物の溶液とを混合することにより得ることができる。上記コーティング剤には、その他の成分が添加されていてもよい。その他の成分の例としては、高分子化合物、金属錯体、粘度化合物、架橋剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などが挙げられる。高分子化合物の例としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、多糖類(例えば、デンプン)、アクリル系ポリマー(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体)、およびそれらの塩、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体のケン化物などが挙げられる。
【0073】
上記コーティング剤を塗布し、溶剤を除去乾燥して得られた塗布膜を、例えば、加熱処理することにより、多価金属化合物とリン化合物とを反応させて上記結合を形成して、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体を形成することができる。加熱処理に採用される温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃であることがさらに好ましく、170℃以上であることが特に好ましい。加熱処理に採用される温度が低い場合、十分な結合を形成するためには、より多くの時間を要することとなり生産性を低下させる場合がある。加熱処理に採用される温度の上限は、基材フィルムの種類によって異なり、例えば、240℃以下、または220℃以下である。また、加熱処理に要する時間の下限は、例えば、0.1秒以上、1秒以上、または5秒以上である。加熱処理に要する時間の上限は、例えば、1時間以下、15分以下、または5分以下である。なお、こうした加熱処理は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下のいずれで行われてもよい。
【0074】
リンおよび多価金属元素を含む複合構造体を主成分として含有する酸素バリア層(a)の一層の平均厚みの下限は、例えば、0.05μm以上、または0.1μm以上である。リンおよび多価金属元素を含む複合構造体を主成分として含有する酸素バリア層(a)の一層の平均厚みの上限は、例えば、4μm以下、または2μm以下である。なお、本明細書中に用いられる用語「リンおよび多価金属元素を含む複合構造体を主成分として含有する酸素バリア層(a)の一層の平均厚み」とは、多層構造体(A’)に含まれる上記複合構造体を主成分として含有する酸素バリア層(a)全体の厚みの合計を当該酸素バリア層(a)の層数で除した値を指して言う。上記酸素バリア層(a)の一層の平均厚みが上記下限よりも小さいと、均一な厚みの層を成形することが困難となり、得られる多層構造体の耐久性を低下させる場合がある。上記酸素バリア層(a)の一層の平均厚みが上記上限を上回ると、得られる多層構造体の柔軟性、延伸性、熱性形成等が低下する場合がある。
【0075】
(加工デンプン)
加工デンプンの原料となるデンプンとしては特に限定されず、例えば、コムギ、トウモロコシ、タピオカ、ジャガイモ、コメ、エンバク、アロールート、およびエンドウ原料に由来するものが挙げられる。デンプンとしては、ハイアミロースデンプンが好ましく、ハイアミローストウモロコシデンプン、およびハイアミロースタピオカデンプンがより好ましい。
【0076】
加工デンプンは、上記デンプンをエーテル、エステルまたはこれらの組み合わせである官能基でヒドロキシ基が置換されるように化学的に改質したものであることが好ましい。加工デンプンとしては、上記デンプンを炭素数2~6のヒドロキシアルキル基を含むように改質したものであるか、または上記デンプンをカルボン酸無水物と反応させることにより改質したものであることが好ましい。加工デンプンが、上記デンプンを炭素数2~6のヒドロキシアルキル基を含むように改質したものである場合、上記加工デンプンの置換基としては、炭素数2~4の官能基を有していることが好ましく、例えば、ヒドロキシエーテル置換基を生成可能なヒドロキシエチル基またはヒドロキシブチル基を有していることが好ましい、また、加工デンプンが上記デンプンをカルボン酸無水物と反応させることにより改質されたものである場合、官能基としては、ブタン酸エステルまたはより低級の同族体が好ましく、酢酸エステルがさらに好ましい。エステル誘導体を製造するために、マレイン酸、フタル酸またはオクテニルコハク酸無水物などのジカルボン酸無水物を使用することもできる。
【0077】
加工デンプンとしては、ヒドロキシプロピル基を含むヒドロキシプロピル化アミロースデンプンが好ましく、ヒドロキシプロピル化ハイアミロースデンプンがより好ましい。
【0078】
加工デンプンの置換度は、無水グルコース単位あたりの置換基の平均数で表され、通常、最大値は3である、上記加工デンプンの置換度としては、0.05以上1.5未満が好ましい。
【0079】
加工デンプンは、その他のデンプンを含んでいてもよい。その他のデンプンとしては、例えば、ハイアミロースデンプンとローアミロースデンプンとの混合物が挙げられる。
【0080】
加工デンプンは水を含有していてもよい。加工デンプンに対し、水は可塑剤として機能し得る。水の含有率の上限は、例えば、20質量%以下、または12質量%以下である。加工デンプンを主成分とする酸素バリア層(a)の水分含有率は、一般に、使用環境下の相対湿度における平衡水分含有率である。
【0081】
加工デンプンは、1または複数の水溶性ポリマーを含んでいてもよい。水溶性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、またはこれらの組み合わせが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールが好ましい。1または複数の水溶性ポリマーの含有率の上限は、例えば、20質量%以下、または12質量%以下である。1または複数の水溶性ポリマーの含有率の下限は、例えば、1質量%以上、または4質量%以上である。
【0082】
加工デンプンは、1または複数の可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤としては、特に限定されないがポリオールが好ましい、ポリオールの例としては、ソルビトール、グリセロール、マルチトール、およびキシリトール、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。加工デンプンにおける1または複数の可塑剤の含有率の上限は、例えば、20質量%以下、または12質量%以下である。
【0083】
加工デンプンは、潤滑剤を含んでいてもよい。潤滑剤の例としては、炭素数12~22の脂肪酸、および炭素数12~22の脂肪酸塩、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。加工デンプンにおける潤滑剤の含有量は、例えば5質量%以下である。
【0084】
加工デンプンを主成分として含有する酸素バリア層(a)の一層の平均厚みの下限は、例えば、10μm以上、または100μm以上である。加工デンプンを主成分として含有する酸素バリア層(a)の一層の平均厚みの上限は、例えば、1000μm以下、または800μm以下である。なお、本明細書中に用いられる用語「加工デンプンを主成分として含有する酸素バリア層(a)の一層の平均厚み」とは、多層構造体(A’)に含まれる上記加工デンプンを主成分として含有する酸素バリア層(a)全体の厚みの合計を当該酸素バリア層(a)の層数で除した値を指して言う。上記酸素バリア層(a)の一層の平均厚みが上記下限よりも小さいと、均一な厚みの層を成形することが困難となり、得られる多層構造体の耐久性を低下させる場合がある。上記酸素バリア層(a)の一層の平均厚みが上記上限を上回ると、得られる多層構造体の柔軟性、延伸性、熱性形成等が低下する場合がある。
【0085】
(無機層状化合物)
無機層状化合物を含むバリア層は、例えば熱可塑性樹脂中に無機層状化合物が分散していると無機層状化合物に起因するバリア性を発現する層である。無機層状化合物を含むバリア層に用いられる熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えばポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
【0086】
無機層状化合物としては、膨潤性雲母、クレイ、モンモリロナイト、スメクタイト、ハイドロタルサイトなどの無機層状化合物が挙げられる。また、無機層状化合物は有機処理された有機変性無機層状化合物であってもよい。
【0087】
無機層状化合物は、例えば板状結晶で構成されており、円形、非円形、楕円形、略長円形、略繭形等の任意の外観を有する。無機層状化合物は、電子顕微鏡により測定可能な板状結晶の長辺の平均長さが所定の範囲を満たすものであることが好ましい。
【0088】
無機層状化合物の長辺の平均長さは70nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましく、90nm以上がさらに好ましい。無機層状化合物は延伸時に発生した応力によりフィルム面内に配向するが、無機層状化合物の長辺の平均長さが70nm未満であると、配向の程度が不十分であり、十分な酸素透過性能が得られない場合がある。一方、無機層状化合物の長辺の平均長さは2000nm以下であってもよい。
【0089】
無機層状化合物はまた、厚みが2μmを超える粗大物を含んでいないことが好ましい。無機層状化合物が2μmを超える粗大物を含む場合、透明性や延伸性が低下する場合がある。
【0090】
無機層状化合物を含むバリア層における、無機層状化合物の含有量は当該バリア層の質量を基準として0.3~20質量%であることが好ましい。
【0091】
(無機蒸着層)
無機蒸着層は、例えば基材上に無機物を蒸着して得られるバリア層である。無機蒸着層を構成し得る基材としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス等が挙げられる。熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材が上記樹脂で構成される場合、その形態は、フィルムまたはシート等の層状を有していることが好ましい。
【0092】
基材に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン-6、およびナイロン-66からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0093】
熱可塑性樹脂からなるフィルムを基材として用いる場合、基材は延伸フィルムまたは無延伸フィルムのいずれであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(印刷、ラミネート等)が優れることから、延伸フィルムであることが好ましく、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0094】
基材に用いられ得る紙類としては、例えばクラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙等が挙げられる。
【0095】
基材の形態が層状である場合、その厚さは、得られる多層構造体の機械的強度および加工性が良好になることから、1~1,000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、9~200μmがさらに好ましい。
【0096】
無機物としては、例えばアルミニウム、スズ、インジウム、ニッケル、チタン、クロム等の金属;酸化ケイ素、酸価アルミニウム等の金属酸化物;窒化ケイ素等の金属窒化物;酸窒化ケイ素等の金属窒化酸化物;炭窒化ケイ素等の金属炭化窒化物等が挙げられる。酸素あるいは水蒸気に対するバリア性が優れることから、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、および窒化ケイ素等のいずれか、またはそれらの組み合わせから形成される無機蒸着層であることが好ましい。
【0097】
無機蒸着層の形成方法は、特に限定されず、例えば真空蒸着法(例えば抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法等)、イオンプレーティング法、スパッタリング法(デュアルマグネトロンスパッタリング等)等の物理気相成長法;熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ法、誘導結合プラズマ法、表面波プラズマ法、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法等)、原子層堆積法、有機金属気相成長法等の化学気相成長法が挙げられる。
【0098】
無機蒸着層の厚みは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性および機械的物性が良好になる厚さを選択できる。無機蒸着層の厚さが0.002μm未満であると、酸素および水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。
【0099】
(金属箔)
金属箔は、展延性に優れた金属から構成される単層または複層の構造体である。金属箔に含まれる金属としては、例えばアルミニウムが挙げられる。当該金属箔は、例えばアルミ箔またはアルミテープの形態を有する。
【0100】
(熱可塑性樹脂層)
本発明において、多層構造体(A’)は少なくとも1層の熱可塑性樹脂層を含んでいてもよい。
【0101】
多層構造体(A’)における熱可塑性樹脂層の層数は、耐衝撃性を向上させる観点から1層以上であることが好ましく、2層以上であることがより好ましい。なお、多層構造体(A’)において熱可塑性樹脂層が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0102】
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を主成分として含有する。熱可塑性樹脂層は、単一の熱可塑性樹脂、または複数の熱可塑性樹脂の混合物のいずれを主成分として含有するものであってもよい。本発明における多層構造体(A’)は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を主成分とする熱可塑性樹脂層を積層することにより、延伸性および熱成形性を向上させることができる。
【0103】
熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みの下限は、例えば、100μm以上、または200μm以上である。また、熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みの上限は、例えば、1000μm以下、500μm以下、または400μm以下である。ここで、本明細書中に用いられる用語「熱可塑性樹脂層の一層の平均厚み」とは、多層構造体(A’)に含まれる上記熱可塑性樹脂の全体の厚みの合計を当該熱可塑性樹脂層の層数で除した値を指して言う。熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みが100μm以上であると、積層する際の厚みの調整が容易であり、上記多層構造体(A’)の耐久性をより高めることができる。熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みが500μm以下であると、熱成形性が良好となる傾向にある。
【0104】
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度または融点まで加熱することにより軟化して塑性を示す樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン樹脂、ハロゲン化ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、アイオノマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、芳香族又は脂肪族ポリケトン等が挙げられる。特に機械的強度や成形加工性が良好であるとの理由からポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂がより好ましい。
【0105】
(添加剤)
上記熱可塑性樹脂層は、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、上記熱可塑性樹脂以外の樹脂、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー等が挙げられる。熱可塑性樹脂層が添加剤を含む場合、添加剤の含有率は熱可塑性樹脂層の総量に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0106】
(接着層)
本発明において、多層構造体(A’)は少なくとも1層の接着層(以下、「Ad」と略記する場合がある。)を含んでいてもよい。
【0107】
多層構造体(A’)における接着層は、例えば、上記酸素バリア層(a)および熱可塑性樹脂層の間に配置される。多層構造体(A’)に含まれる接着層の層数は特に限定されない。なお、多層構造体(A’)において接着層が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0108】
接着層を構成する材料としては公知の接着性樹脂を使用することができる。また、接着層を構成する材料は、多層構造体(A’)の製造方法に合わせて当業者によって適宜選択され得る。
【0109】
例えば、ラミネート法により、上記多層構造体(A’)を製造する場合、接着層には、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤を用いることが好ましい。また、接着層に公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を向上させることも可能である。
【0110】
あるいは、共押出成形法により上記多層構造体(A’)を製造する場合、接着層には、酸素バリア層(a)および熱可塑性樹脂層に対して接着性を有するものであれば特に限定されないが、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する接着性樹脂を用いることが好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物を化学的(例えば付加反応、グラフト反応等)に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を好適に使用することができる。ここで、オレフィン系重合体の例としては、ポリエチレン(例えば、低圧ポリエチレン、中圧ポリエチレン、高圧ポリエチレン)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテン等のポリオレフィン、オレフィンと他のモノマー(例えば、ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチルエステル共重合体等)が挙げられる。直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5~55質量%)、エチレン-アクリル酸エチルエステル共重合体(アクリル酸エチルエステルの含有量8~35質量%)が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレンおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸、またはそのエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、またはそのモノもしくはジエステル、あるいはその無水物が挙げられ、中でもエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が好ましい。具体的な例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられ、特に、無水マレイン酸が好ましい。
【0111】
エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物のオレフィン系重合体への付加量またはグラフト量(変性度)は、オレフィン系重合体に対して、例えば、0.0001質量%~15質量%、好ましくは0.001質量%~10質量%である。エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物のオレフィン系重合体への付加反応、グラフト反応は、例えば、溶媒(キシレンなど)、触媒(過酸化物など)の存在下でラジカル重合法などにより行うことができる。このようにして得られたカルボン酸変性ポリオレフィンの210℃で測定したメルトフローレート(MFR)は0.2g/10分~30g/10分であることが好ましく、0.5g/10分~10g/10分であることがさらに好ましい。これらの接着性樹脂は単独で用いてもよいし、また二種以上を混合して用いることもできる。
【0112】
本発明において、上記多層構造体(A’)の平均厚みの下限は、例えば、100μm以上、または200μm以上である。また、当該多層構造体(A’)の平均厚みの上限は、例えば、2000μm以下、1000μm以下、または800μm以下である。多層構造体の平均厚みが100μm以上であると、耐衝撃性に優れる傾向にある。また、上記多層構造体の平均厚みが2000μm以下であると、製造コストが低下し、良好な熱成形性が得られる傾向にある。
【0113】
本発明において、多層構造体(A’)の層構造は特に限定されず、酸素バリア層(a)をE、接着層をAd、熱可塑性樹脂層をTで表した場合、例えばT/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等の構造を有していてもよい。多層構造体(A’)を構成する各層は、単層または多層のいずれであってもよい。耐衝撃性を高める観点から、多層構造体(A’)は、最外層に熱可塑性樹脂層を有していることが好ましい。
【0114】
上記多層構造体(A’)は、共押出成形法、共射出成形法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等公知の方法によって製造することができる。共押出成形法としては、例えば、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法、および共押出ブロー成形法が挙げられる。
【0115】
(蓋材(B))
再び図1の(b)を参照すると、本発明の包装容器100の蓋材(B)130を構成する層構造体(b-1)134と層構造体(b-2)136とは、当該層構造体(b-2)136が層構造体(b-1)134に設けられた穿孔132のすべてを封鎖するように配置されている。本発明において、層構造体(b-1)134および層構造体(b-2)136のうちのいずれかまたは両方は酸素バリア層(b)を含む。
【0116】
蓋材(B)の内側を構成する面における、JIS R3257(1999年「基盤ガラス表面のぬれ性試験方法」)に準拠して測定される水接触角は、70°以下が好ましく、65°以下がより好ましく、60°以下がさらに好ましい。当該水接触角が70°以下であることで、例えば、本発明の包装容器が水分を多く含有する内容物(例えば、食品)を収容していたとしても、(例えば、蒸気殺菌製品として店頭に陳列されることにより)時間の経過とともに、包装容器の内部に曇りが発生せず、内容物を容易に視認することができる。また、冷蔵庫のような低温下での保管によっても、曇りの発生を抑制でき、この点で蓋材(B)の外観性が向上する。当該水接触角を70°以下に調整する手段としては、蓋材(B)の内側を構成する材料に適切なものを使用したり、蓋材(B)の内側を構成する材料に後述する防曇剤を添加すること等が挙げられる。
【0117】
(層構造体(b-1))
層構造体(b-1)に設けられた穿孔は、層構造体(b-1)の表裏を貫通し、層構造体(b-1)上に好ましくは2個以上、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは6個以上設けられている。本発明において、穿孔は、後述の蒸気殺菌の際の容器本体(A)内部の空気を排出し、さらに蒸気を流入かつ排出して効率的な殺菌を行うために設けられている。穿孔はまた、殺菌後に包装容器内の酸素を窒素置換するためにも使用され得る。
【0118】
穿孔は円形、楕円形、矩形、多角形等の任意の形状を有する。穿孔の直径の下限は、例えば、1mm以上、1.5mm以上または2mm以上である。穿孔の直径の直径が1mm以上であることにより、蒸気殺菌時に蒸気を層構造体(b-1)から容器本体(A)内に流入させることが容易となり、内容物を効率的に殺菌することができる。また、容器本体(A)内の酸素を窒素置換する際にも効率的な当該置換が可能となる。また、穿孔の直径の上限は、例えば20mm以下、15mm以下、または10mm以下である。穿孔の直径がこれらよりも大きい場合は、蒸気殺菌後に、落下菌により内容物の汚染が促されるおそれがある。
【0119】
層構造体(b-1)は、以下の層構造体(B’)に上記穿孔を設けることにより製造される。
【0120】
(層構造体(B’))
層構造体(B’)は、上記層構造体(b-1)に対して穿孔を設ける前の単層または多層の構造体である。層構造体(B’)はまた、容器本体(A)内に収容された内容物を容易に視認することができるという点で透明または半透明であることが好ましい。
【0121】
層構造体(B’)を構成し得る層の例としては、例えば、酸素バリア層(b)、熱可塑性樹脂層、接着剤層、およびシーラント層が挙げられる。
【0122】
層構造体(B’)が酸素バリア層(b)を含む場合、当該酸素バリア層(b)は、層構造体(B’)内において1層以上であることが好ましい。なお、層構造体(B’)において酸素バリア層(b)が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0123】
酸素バリア層(b)の一層の平均厚みの下限および上限は、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る酸素バリア層(a)の一層の平均厚みの下限および上限のそれぞれと同様の範囲内に設定され得る。ここで、本明細書中に用いられる用語「酸素バリア層(b)の一層の平均厚み」とは、層構造体(B’)に含まれ得る上記酸素バリア層(b)の全体の厚みの合計を当該酸素バリア層(b)の層数で除した値を指して言う。
【0124】
酸素バリア層(b)を構成し得る材料の例としては、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る酸素バリア層(a)と同様の材料が挙げられる。また、そのような材料の好ましい例としては、EVOH、ポリアミド、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、無機層状化合物、無機蒸着層、および加工デンプン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。酸素バリア層(b)は、EVOHを含む材料から構成されていることが好ましい。
【0125】
層構造体(B’)が熱可塑性樹脂層および/または接着剤層を含む場合、当該熱可塑性樹脂層および接着剤層は、層構造体(B’)内においてそれぞれ1層以上であることが好ましい。なお、層構造体(B’)において熱可塑性樹脂層および/または接着剤層が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0126】
層構造体(B’)における熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みの下限および上限は、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みの下限および上限のそれぞれと同様の範囲内に設定され得る。ここで、本明細書中に用いられる用語「層構造体(B’)における熱可塑性樹脂層の一層の平均厚み」とは、層構造体(B’)に含まれ得る上記熱可塑性樹脂層の全体の厚みの合計を当該熱可塑性樹脂層の層数で除した値を指して言う。
【0127】
層構造体(B’)における熱可塑性樹脂層および接着剤層を構成し得る材料の例としては、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る熱可塑性樹脂層および接着剤層と同様の材料が挙げられる。
【0128】
層構造体(B’)がシーラント層を含む場合、当該シーラント層は、層構造体(B’)の少なくとも一方の最外層を構成する。
【0129】
シーラント層は、例えば180℃以下、好ましくは110℃以上175℃以下、より好ましくは120℃以上170℃以下の融点を有する。シーラント層がこのような融点を有することにより、層構造体(B’)は容器本体(A)を構成する多層構造体(A’)とのシール性を高め、本発明の包装容器において、容器本体(A)と蓋材(B)(すなわち層構造体(B’))との密着性を向上させることができる。
【0130】
このようなシーラント層を構成する材料としては、例えばポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン樹脂、ハロゲン化ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、アイオノマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、芳香族または脂肪族ポリケトン等が挙げられる。蒸気殺菌における耐久性が良好であり(蒸気殺菌前後で変形しにくい、層間のデラミネーションがおこりにくいなど)、および穿孔を作製し易いことから、ポリオレフィン樹脂が好ましく、110℃を超える蒸気殺菌に対しても耐久性を有することから、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0131】
層構造体(B’)はまた、防曇性を付与するために、防曇剤を含有していることが好ましい。層構造体(B’)が多層の構造体である場合、防曇剤は、例えば、蓋材(B)として使用する際に容器本体(A)に対向する側の層に含有されていることが好ましい。
【0132】
層構造体(B’)に使用可能な防曇剤には、一般に「防曇剤」あるいは「帯電防止剤」などとして市販されている、防曇効果を有するものの全てが包含される。防曇剤の例としては、多価アルコールの脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミンのエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0133】
層構造体(B’)に含有させることが可能な防曇剤の量は、必ずしも限定されないが、例えば、添加する層構造体(B’)の層を構成する材料に対して、15000ppm~30000ppmが好ましく、17000ppm~25000ppmがより好ましい。防曇剤の含有量がこのような範囲内にあることにより、層構造体(B’)(すなわち、蓋材(B))は、即効性に優れた防曇効果を発揮することができるとともに、層構造体(B’)自体の成形性を低下させることなく、さらに防曇剤がブリードアウトするという問題からも開放され得る。
【0134】
上記防曇剤は、添加された層構造体(B’)の層内で、親水基部分を層外に、親油基部分を層内に配向するため、当該層の外表面における濡れ性が向上する。この結果、当該層表面で凝集した水分が水滴を形成することなく薄膜状に広がるので、当該層表面の曇りを防止することができる。
【0135】
防曇剤を含む層構造体(B’)を構成する層には、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤などの添加剤が含有されていてもよい。これらの含有量は、当該添加剤の種類等によって当業者により適宜選択され得るが、防曇剤が添加された層構造体(B’)の層内の材料(ただし、防曇剤を除く)100重量部に対して10重量部までとすることが好ましい。このような添加剤の含有量が10重量部を越えると、防曇剤が提供する防曇効果が低減する場合がある。
【0136】
本発明において、上記層構造体(B’)の平均厚みの下限は、例えば40μm以上、または50μm以上である。また、当該層構造体(B’)の平均厚みの上限は、例えば400μm以下、350μm以下、または300μm以下である。層構造体(B’)の平均厚みが40μm以上であると、耐衝撃性に優れる傾向にある。また、層構造体(B’)の平均厚みが400μm以下であると、製造コストが低下し、良好な熱成形性が得られる傾向にある。
【0137】
なお、層構造体(B’)が多層である場合、層構造体(B’)の層構造は(ここで酸素バリア層(b)をE、接着層をAd、熱可塑性樹脂層をTで表すと)、例えばT/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T、T/E/Ad/T等の構造を有していてもよい。層構造体(B’)が多層である場合、層構造体(B’)は、共押出成形法、共射出成形法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等公知の方法によって製造することができる。
【0138】
本発明において、層構造体(B’)は、単層または多層のいずれであるかに関わらず、全体として、20℃、65%RH条件下にて、JIS-K7126-2(2006年)第2部(等圧法)に準拠して測定した酸素透過度が例えば、100cc・20μm/(m・day・atm)以下、好ましくは50cc・20μm/(m・day・atm)以下、より好ましくは10cc・20μm/(m・day・atm)以下であるように設計されている。層構造体(B’)が全体としてこのような範囲の酸素透過度を有していることにより、容器本体(A)と蓋材(B)(すなわち、層構造体(B’))との間のガスバリア性は、内容物を収容した際においても十分に保持され得る。
【0139】
本発明において、層構造体(B’)は、単層または多層のいずれであるかに関わらず、全体として、例えば、10N~40N、好ましくは13N~35Nの突き刺し強度を有する。層構造体(B’)が全体としてこのような範囲の突き刺し強度を有していることにより、上記層構造体(b-1)を作製する際に、層構造体(B’)に対して効率よく穿孔を設けることができる。
【0140】
(層構造体(b-2))
層構造体(b-2)は、単層または多層の構造体である。層構造体(b-2)はまた、容器本体(A)内に収容された内容物を容易に視認することができるという点で透明または半透明であってもよい。
【0141】
層構造体(b-2)を構成し得る層の例としては、例えば、酸素バリア層(b)、熱可塑性樹脂層、および接着剤層が挙げられる。
【0142】
層構造体(b-2)が酸素バリア層(b)を含む場合、当該酸素バリア層(b)は、層構造体(b-2)内において1層以上であることが好ましい。なお、層構造体(b-2)において酸素バリア層(b)が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0143】
酸素バリア層(b)の一層の平均厚みの下限および上限は、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る酸素バリア層(a)の一層の平均厚みの下限および上限のそれぞれと同様の範囲内に設定され得る。酸素バリア層(b)を構成し得る材料の例としては、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る酸素バリア層(a)と同様の材料が挙げられ、EVOH、ポリアミド、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体、無機層状化合物、無機蒸着層、金属箔、および加工デンプン、ならびにそれらの組み合わせが好ましく、金属箔であることがより好ましい。
【0144】
層構造体(b-2)が熱可塑性樹脂層および/または接着剤層を含む場合、当該熱可塑性樹脂層および接着剤層は、層構造体(b-2)内においてそれぞれ1層以上であることが好ましい。なお、層構造体(b-2)において熱可塑性樹脂層および/または接着剤層が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0145】
層構造体(b-2)における熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みの下限および上限は、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みの下限および上限のそれぞれと同様の範囲内に設定され得る。ここで、本明細書中に用いられる用語「層構造体(b-2)における熱可塑性樹脂層の一層の平均厚み」とは、層構造体(b-2)に含まれ得る上記熱可塑性樹脂層の全体の厚みの合計を当該熱可塑性樹脂層の層数で除した値を指して言う。
【0146】
層構造体(b-2)における熱可塑性樹脂層および接着剤層を構成し得る材料の例としては、例えば、上記多層構造体(A’)に含まれ得る熱可塑性樹脂層および接着剤層と同様の材料が挙げられる。
【0147】
層構造体(b-2)はまた、防曇性を付与するために、上記層構造体(B’)と同様の防曇剤を含有していてもよい。層構造体(b-2)における防曇剤の含有量は、必ずしも限定されないが、例えば、上記層構造体(B’)と同様の含有量が当業者によって選択され得る。さらに、防曇剤を含む層構造体(b-2)を構成する層には、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤などの添加剤が含有されていてもよい。これらの含有量もまた当業者により適宜選択され得る。
【0148】
本発明において、上記層構造体(b-2)の平均厚みの下限は、例えば40μm以上、または50μm以上である。また、当該層構造体(b-2)の平均厚みの上限は、例えば400μm以下、350μm以下、または300μm以下である。層構造体(b-2)の平均厚みが40μm以上であると、耐衝撃性に優れる傾向にある。また、層構造体(b-2)の平均厚みが400μm以下であると、製造コストが低下し、良好な熱成形性が得られる傾向にある。
【0149】
なお、層構造体(b-2)が多層である場合、層構造体(b-2)の層構造は(ここで酸素バリア層(b)をE、接着層をAd、熱可塑性樹脂層をTで表すと)、例えばT/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T、T/E/Ad/T、等の構造を有していてもよい。層構造体(b-2)が多層である場合、層構造体(b-2)は、共押出成形法、共射出成形法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等公知の方法によって製造することができる。
【0150】
本発明において、蓋材(B)は、上述したような層構造体(b-1)および層構造体(b-2)を備える。ここで、蓋材(B)において、層構造体(b-2)は、層構造体(b-1)上の穿孔を完全に封鎖している。なお、蓋材(B)は、層構造体(b-1)と層構造体(b-2)との間の密着性を高めるために、これらの間に粘着層が設けられていてもよい。粘着層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えばアクリル系重合体、および水酸基を有する粘着付与樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。
【0151】
粘着層を構成する材料として用いられ得るアクリル系重合体は、例えば(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単独重合体もしくは共重合体を使用することができ、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。また、架橋性単量体として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等を併用できる。さらに、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の粘着特性を損なわない程度に他の共重合可能な単量体、例えば、酢酸ビニル、スチレン等を併用できる。
【0152】
アクリル系重合体は公知の方法で製造でき、例えば(メタ)アクリル酸エステルを単独で、もしくは共重合可能な他の単量体と併用して酢酸エチル等の溶媒に溶解し、アゾ系、過酸化物系の各種公知の重合開始剤を加えて加熱する溶液重合法によって、容易に製造できる。
【0153】
粘着層を構成する材料として用いられ得る粘着付与樹脂は、樹脂酸および多価アルコールを反応させて得られる、水酸基価が10~25の樹脂酸エステルを用いることが好ましい。樹脂酸としては、ロジン類等の樹脂酸モノマーが挙げられ、ロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が挙げられる。また、高温時の粘着性が特に優れることから、樹脂酸は樹脂酸ダイマーを5重量%以上含むことが好ましく、10重量%以上含むことがより好ましい。なお、樹脂酸ダイマーとは通常重合ロジンと称されるものであり、ロジン類等の樹脂酸モノマーの二量化物をいう。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン等の三価アルコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリン等の四価以上のアルコール等が挙げられる。
【0154】
本発明の包装容器は、細菌、塵埃等の汚染物や酸素の侵入を防止し、収容された殺菌後の内容物の品質を長期に亘って保持することができる。また、本発明の包装容器はまた、冷蔵庫または冷凍庫に保管した際の包装容器の曇りが低減または解消され、内容物の視認性を高めることもできる。このため、本発明の包装容器は、殺菌された内容物を収容した蒸気殺菌製品として有用である。
【0155】
(蒸気殺菌製品)
本発明の蒸気殺菌製品は、上記包装容器および蒸気殺菌された内容物を備える。具体的には、本発明の蒸気殺菌製品において、上記包装容器を構成する容器本体(A)の内表面に殺菌された内容物が収容されており、容器本体(A)の開口部が、当該包装容器を構成する蓋材(B)で密閉されている。
【0156】
本発明の蒸気殺菌製品では、容器本体(A)と蓋材(B)とで包囲される領域(容器本体(A)と蓋材(B)とで構成される密閉空間)と、外部との空気(例えば、酸素)の移動は、容器本体(A)および蓋材(B)によって完全に遮断されている。これにより蒸気殺菌製品内の密閉空間は、所定のガス濃度が保持されていることが好ましい。
【0157】
1つの実施形態では、本発明の蒸気殺菌製品における容器本体(A)と蓋材(B)とで包囲される領域(密閉空間)の酸素濃度は、例えば5体積%以下、好ましくは3体積%以下である。密閉空間内がこのような酸素濃度に設定されていることにより、蒸気殺菌製品が長期に亘って保存されたとしても、密閉空間内の酸素濃度を比較的低く保持することができる。これにより内容物の腐敗や酸化に伴う当該製品の劣化または変質の進行を抑え、実質的に内容物の保存期間を延長することが可能となる。
【0158】
1つの実施形態では、本発明の蒸気殺菌製品における容器本体(A)と蓋材(B)とで包囲される領域(密閉空間)の二酸化炭素濃度は、例えば、0.5体積%以上40体積%以下、好ましくは5体積%以上35体積%以下である。密閉空間内がこのような二酸化炭素濃度に設定されていることにより、一般生菌の増加を抑制するとともに、内容物の食味の変化を抑制することができる。
【0159】
さらに、本発明の蒸気殺菌製品の密封空間には、内容物の腐敗や酸化を防止する目的で、除菌されたガス(例えば酸素ガス、空気等)や不活性ガス(例えば窒素ガス、炭酸ガス)が充填されていてもよい。
【0160】
本発明の蒸気殺菌製品は種々の内容物を収容することができる。内容物は、例えば、保存または輸送にあたり、細菌、塵埃等の汚染物や酸素との接触を所望しない物品であり、食品、化粧品、医薬品などが包含される。食品が好ましく、特に高温高圧下での蒸気殺菌において外観および品質を保持し得る食品(例えば、収容の際に固形である食品)が好ましい。
【0161】
本発明の蒸気殺菌製品として収容可能な食品としては、必ずしも限定されないが、例えば、ハンバーグ、ミートボール、唐揚げ、蒲鉾、焼魚、きんぴらごぼう、餃子などの惣菜類;ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉製品;うどん、蕎麦、パスタ、中華麺などの麺類;調理済みおよび/または半調理済みの固形の冷蔵または冷凍用食品;などが挙げられる。
【0162】
(蒸気殺菌製品の製造方法)
本発明の蒸気殺菌製品の製造方法は、(S1)開口部、および内容物を収容可能な内表面を含む容器本体(A)内に内容物を配置する工程;(S2)該容器本体(A)の該開口部に少なくとも2個の穿孔を有する層構造体(b-1)を配置して、該開口部を該層構造体(b-1)で封鎖する工程;(S3)該層構造体(b-1)の該穿孔を通じて該容器本体(A)の該内表面に蒸気を流通させて、該内容物を殺菌する工程;(S4)該層構造体(b-1)の該穿孔を、層構造体(b-2)で封鎖する工程をこの順で包含することが好ましい。
【0163】
また、本発明の蒸気殺菌製品の製造方法は、別の態様として(S1)開口部、および内容物を収容可能な内表面を含む容器本体(A)内に内容物を配置する工程;(S2’(a))該容器本体(A)の該開口部に層構造体(B’)を配置して、該開口部を該層構造体(B’)で封鎖する工程;(S2’(b))該層構造体(B’)に少なくとも2個の穿孔を設け、層構造体(b-1)を得る工程;(S3)該層構造体(b-1)の該穿孔を通じて該容器本体(A)の該内表面に蒸気を流通させて、該内容物を殺菌する工程;(S4)該層構造体(b-1)の該穿孔を、層構造体(b-2)で封鎖する工程をこの順で包含することが好ましい。
【0164】
前記工程(S3)と前記工程(S4)との間に、(S3(b))前記容器本体(A)内を減圧して該容器本体(A)内の前記蒸気を排出することにより、前記内容物を冷却する工程を包含することが好ましい。また、前記工程(S3(b))と前記工程(S4)との間に、(S3(c))該容器本体(A)内に除菌されたガスを充填する工程を包含することが好ましい。また、前記工程(S3(c))と前記工程(S4)との間に、(S3(d))前記穿孔の少なくとも1つから前記容器本体(A)内に不活性ガスを供給し、かつ該穿孔の残りから該不活性ガスを排出することにより包装容器内のガスを不活性ガスに置換する工程を包含することが好ましい。工程(S3)と工程(S4)との間に、工程(S3(b))、工程(S3(c))及び/または工程(S3(d))を備えることで、内容物の劣化を抑えつつ、長期に亘って内容物の品質を維持できる蒸気殺菌製品を効率的に製造できる傾向となる。
【0165】
以下、本発明の蒸気殺菌製品の製造方法のいくつかの例を、図面を用いて説明する。
【0166】
本発明の第1の製造方法では、以下のようにして蒸気殺菌製品が製造される。図5を用いて説明する。
【0167】
まず、開口部112を有する容器本体(A)110の内表面114上に内容物Fが配置される(図5の(S1))。図5の(S1)において、内容物Fは、容器本体(A)110の容器底部に設けられた複数の突起部124の頂部によって支持されている。これにより、複数の突起部124と内容物Fとの間には複数の蒸気流通部122に相当する空洞が形成される。ここで、内容物Fは、その上端が容器本体(A)110の開口部よりも下に位置ように、配置されることが好ましい。その後導入される蒸気が内容物Fの上端も通過して殺菌可能とするためである。
【0168】
次いで、容器本体(A)110の開口部112に、予め少なくとも2個の穿孔132が設けられた層構造体(b-1)134が配置され、開口部112が層構造体(b-1)134で封鎖される(図5の(S2))。具体的には、層構造体(b-1)134は、開口部112の外周部(例えば、容器本体(A)110のフランジ部120)と、ヒートシールまたは接着剤などの当業者に公知の手段によって密着される。この状態においては、容器本体(A)110内は、層構造体(b-1)に設けられた穿孔132によって外部と連通している。
【0169】
その後、層構造体(b-1)134の穿孔132を通じて容器本体(A)110の内表面114に蒸気が通過され、内容物Fの殺菌が行われる。ここで、この内容物Fの殺菌は、内容物Fを含む容器本体(A)110を常圧の状態を保持したまま行われてもよく、あるいは内容物Fを含む容器本体(A)110を一旦減圧環境下に曝した後に行われてもよい。減圧環境下に曝した後に行われた場合は、内容物Fが酸化劣化して品質が劣化することを防止できる傾向となる。
【0170】
内容物Fを含む容器本体(A)110を常圧の状態を保持したまま内容物Fの殺菌が行われる場合、図5の(S3)に示すように、層構造体(b-1)に設けられた少なくとも2個の穿孔132のうちの一部から容器本体(A)110内に蒸気が導入され、残りの穿孔から脱気が行われる。
【0171】
内容物Fを含む容器本体(A)110を一旦減圧環境下に曝した後に殺菌が行われる場合では、まず、層構造体(b-1)134を配置した容器本体(A)110は、例えば、減圧環境下に置かれ、穿孔132を通じて容器本体(A)110内の空気が外部に排出(脱気)される(図6の(a))。この場合、内容物Fを含む容器本体110および層構造体(b-1)は、例えば、一旦密閉可能な容器202内に配置される。密閉可能な容器202には、バルブ204を備えかつ下流に真空ポンプなどの減圧装置208に接続された管206、ならびにバルブ205を備えかつバルブ205の開放によって図示しない手段を通じて蒸気が導入される管207が設けられている。バルブ205を閉じた状態で、バルブ205を開放しかつ減圧装置208を稼動させると、管206を介して密閉可能な容器202内は減圧され、これにより、穿孔132を通じて容器本体(A)110内の空気が管206を通じて外部に排出される。その後、例えばバルブ204が閉じられた状態で、バルブ205が開放することにより、密閉可能な容器202内の減圧状態が解除され、管207を通じて密閉可能な容器202内に蒸気が導入される。密閉可能な容器202に導入された蒸気は、さらに層構造体(b-1)に設けられた穿孔132の全てを通じて容器本体(A)110内に導入され、内容物Fが直接蒸気に接することができる。
【0172】
このようにして、図5の(S3)および図6の(b)のいずれも場合も層構造体(b-1)134と容器本体(A)110との間の領域に蒸気が導入される。この内容物Fの殺菌において、導入された蒸気は当該領域を均一に広がり、特に蒸気流通部122の空洞内も通過する。このことから、内容物Fの外表面のより多くの部分で蒸気と直接接触し、内容物Fの殺菌をより均一かつ効率的に行うことができる。
【0173】
内容物Fの殺菌のために導入される蒸気の温度は、内容物Fの種類や大きさ、容器本体(A)の内容量等によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば、100℃~145℃、好ましくは115℃~135℃である。導入される蒸気の温度が100℃を下回ると、内容物Fに対して十分な殺菌効果を付与することができないか、あるいは上記の導入を長時間行う必要が生じる傾向がある。導入される蒸気の温度が145℃を超えると、内容物Fに対する殺菌だけでなくそれ自体の品質を損なう場合がある。
【0174】
さらに、この蒸気の導入時間もまた、内容物Fの種類や大きさ、容器本体(A)の内容量等によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば、1秒間~5分間、好ましくは1秒間~1分間である。蒸気の導入時間が1秒未満であると、蒸気を通じて内容物Fに付与されるエネルギー量が十分とはいえず、所望の殺菌効果が得られにくい傾向がある。蒸気の導入時間が1分を越えると、内容物Fに対する殺菌だけでなくそれ自体の品質を損なう場合がある。内容物Fの殺菌はこのようにして行われる。
【0175】
上記の蒸気導入の後、殺菌された内容物Fを含む容器本体(A)110は、例えば、減圧環境下に置かれ、穿孔132を通じて容器本体(A)110内の蒸気を外部に排出して内容物Fを冷却すること(以下、工程S3(b)ともいう)が好ましい。工程S3(b)を経ることで、内容物Fへの温度負荷や内容物Fと水蒸気(水)との接触機会を低減し、内容物Fの品質の劣化を防止できる傾向となる。工程S3(b)の後は除菌されたガス(例えば空気、窒素、炭酸ガス等)を充填すること(以下、工程S3(c)ともいう)により、容器本体(A)内を常圧または陽圧にすることが好ましい。
【0176】
工程S3(c)の際に不活性ガス(例えば窒素ガス、炭酸ガス等)を充填しなかった場合は、その後容器本体(A)のガスを当該不活性ガスに置換すること(以下、工程S3(d)ともいう)が行われることが好ましい。これらの除菌されたガスや不活性ガスは、例えば、層構造体(b-1)に設けられた少なくとも2個の穿孔132のうちの一部から容器本体(A)110内に導入し、かつ残りの穿孔から排出することにより、効率的なガス置換を行うことができる。
【0177】
なお、上記のような蒸気導入前の脱気から、蒸気の導入による殺菌、殺菌後の減圧、および除菌されたガスの充填は、短時間調理殺菌装置RIC(株式会社日阪製作所製)のような公知の装置を用いることにより、一括して行うことができる。
【0178】
再び図5を参照すると、本発明の第1の製造方法では、例えば工程S3(d)の直後に層構造体(b-1)134の穿孔132が層構造体(b-2)136によって封鎖される(図5の(S4))。図5の(S4)において、複数の穿孔132は、1つの層構造体(b-2)によって封鎖されているが、複数の穿孔132のそれぞれが異なる層構造体(b-2)で封鎖されてもよい。このような封鎖は、例えば、当業者に公知のラベラーやシール機を用いて行うことができる。
【0179】
このようにして、本発明の第1の製造方法を通じて蒸気殺菌製品を製造することができる。
【0180】
あるいは、本発明の蒸気殺菌製品は、以下の第2の製造方法を用いて製造することもできる。図7を用いて説明する。
【0181】
まず、開口部112を有する容器本体(A)110の内表面114上に内容物Fが配置される(図7の(S1))。これは上記図5の(S1)に示したものと同様である。
【0182】
次いで、容器本体(A)110の開口部112に、層構造体(B’)135が配置され、開口部112が層構造体(B’)135で封鎖される(図7の(S2’(a)))。具体的には、層構造体(B’)135は、開口部112の外周部(例えば、容器本体(A)110のフランジ部120)と、ヒートシールまたは接着剤などの当業者に公知の手段によって密着される。この状態においては、容器本体(A)110の内部は、層構造体(B’)によって外部と遮断されている。
【0183】
その後、層構造体(B’)135に少なくとも2個の穿孔132が設けられる(図7の(S2’(b)))。具体的には、アーム139に設けられた複数の穿孔治具140で層構造体(B’)135を穿設することにより、容器本体(A)110の内部を外部と通気可能にすることができる。層構造体(B’)への穿孔治具140による穿設は、単に突き刺して設けるものであってもよく、あるいは穿孔治具140に予め設けられた任意の加熱手段(図示せず)を通じて層構造体(B’)を溶融して設けるものであってもよい。このようにして、容器本体(A)に予め配置された状態で層構造体(b-1)134を作製することができる。
【0184】
なお、本発明の第2の製造方法においても、層構造体(b-1)134を配置した容器本体(A)110は、例えば、減圧環境下に置かれ、穿孔132を通じて容器本体(A)110内の空気を外部に排出(脱気)してもよい。これにより、内容物Fが酸化劣化して品質が劣化することを防止できる傾向となる。
【0185】
その後、層構造体(b-1)134の穿孔132を通じて容器本体(A)110の内表面114に蒸気が通過され、上記第1の製造方法で行われた内容物Fの殺菌(図5の(S3)または図6の(b))と同様にして内容物Fの殺菌が行われる(図7の(S3)または図6の(b))。上記の蒸気導入の後、本発明の第2の製造方法においても、殺菌された内容物Fを含む容器本体(A)110は、例えば、減圧環境下に置かれ、穿孔132を通じて容器本体(A)110内の蒸気を外部に排出してもよい。また、穿孔132を通じて容器本体(A)110の内部には、除菌されたガス(例えば酸素ガス、空気等)や不活性ガス(例えば窒素ガス、炭酸ガス等)が充填されてもよい。
【0186】
なお、本発明の第2の製造方法においても、上記のような蒸気導入前の脱気から、蒸気の導入による殺菌、殺菌後の減圧、およびガス置換は、短時間調理殺菌装置RIC(株式会社日阪製作所製)のような公知の装置を用いることにより、一括して行うことができる。
【0187】
最終的に層構造体(b-1)134の穿孔132が層構造体(b-2)136によって封鎖される(図7の(S4))。これは上記図5の(S4)に示したものと同様である。
【0188】
このようにして、本発明の第2の製造方法を通じて蒸気殺菌製品を製造することができる。
【0189】
本発明の蒸気殺菌製品の製造方法によれば、内容物Fが配置された容器本体(A)110において、内容物Fの下方に複数の蒸気流通路122が形成される。これにより、内容物Fは上方、側方、下方を問わず、あらゆる方向において殺菌のために導入される蒸気と接触することができる。その結果、内容物Fはより均一かつ効率的に殺菌され得る。そして、本発明の製造方法によれば、このようにして殺菌された内容物はガスバリア性に優れた容器本体(A)および蓋材(B)(層構造体(b-1)および(b-2))内に収容された状態で、長期に亘る品質有効期限(例えば、賞味期限または消費期限)を有する製品として市場に流通させることができる。
【実施例
【0190】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0191】
以下の実施例および比較例において使用した材料には以下の通りであった:
(1)EVOH
・「エバール(商標)J171B」:株式会社クラレ製、エチレン単位含有量32モル%
・「エバール(商標)E105B」:株式会社クラレ製、エチレン単位含有量44モル%
・「エバール(商標)G156B」:株式会社クラレ製、エチレン単位含有量48モル%
・「エバール(商標)フィルム EF-XL」:株式会社クラレ製、二軸延伸EVOHフィルム、厚み12μm
(2)加工でんぷん
・「Plantic(商標) E」:株式会社クラレ製(PE/Ad/バリア/Ad/PEの層構成を有するフィルム)
(3)ナイロン
・「MXナイロン S6007」:三菱ガス化学株式会社
(4)リンおよび多価金属元素を含む複合構造体
・以下の製造例1で作製したものを使用した
(5)その他の材料
・「ノバテック(商標)PP EA7AD」:日本ポリプロ株式会社製、ポリプロピレン(以下、「PP」と略記する場合がある。)
・「アドマー(商標)QF500」:三井化学社製、接着性ポリオレフィン(以下「Ad」と略記する場合がある。)
・「パイレン(商標)フィルムP5562」:東洋紡株式会社製、防曇性を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルム、厚み20μm(以下「OPP1」と略記する場合がある。)
・「OP U-1」:三井化学東セロ株式会社製、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、厚み20μm(以下、「OPP2」と略記する場合がある。)
・「タケラック(商標)A-385」:武田薬品工業株式会社製、二液系接着剤
・「タケネート(商標)A-10」:武田薬品工業株式会社製、二液系接着剤
・「エンブレム(商標)ONBC-15」:ユニチカ株式会社製、延伸ナイロンフィルム、厚み15μm(以下、「ONY」と略記する場合がある。)
【0192】
(製造例1:リンおよび多価金属元素を含む複合構造体の製造)
(コーティング液(S-1)の調製)
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮した。こうして得られた分散液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を添加し、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。次いで、液温を15℃に維持した状態で分散液を撹拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下による添加し、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で撹拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。
【0193】
(有機リン化合物(BO-1)の合成)
窒素雰囲気下にて、ビニルホスホン酸10gおよび2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩0.025gを水5gに溶解させ、80℃で3時間撹拌した。冷却後、重合溶液に水15gを添加して希釈し、セルロース膜(スペクトラムラボラトリーズ社製Spectra/Por(登録商標))を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥して、有機リン化合物(BO-1;ポリ(ビニルスルホン酸))を得た。GPC分析の結果によれば、有機リン化合物(BO-1)の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で10,000であった。
【0194】
(コーティング液(T-1)の製造)
上記で得られた有機リン化合物(BO-1)67質量%と、重量平均分子量60,000のポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製「アルコックス(登録商標) L-6」)33質量%とを含む混合物を調製した。この混合物を、水とメタノールとの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T-1)を得た。
【0195】
(多層構造体(B1)(リンおよび多価金属元素を含む複合構造体)の作製)
まず、基材である延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー(登録商標) P60;厚さ12μm)上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いて、上記で調製したコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、110℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱処理することによって、基材上に層の前駆体層を形成した。次いで、無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOとの比WBO/WBI=1.10/98.90となるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、110℃で3分間乾燥させた。その後、220℃で1分間熱処理することによって層(Y1-1)を形成した。このようにして、リンおよび多価金属元素を含む複合構造体(多層構造体(B1))を得た。
【0196】
実施例および比較例において採用した評価方法は以下の通りであった。
【0197】
(1)酸素透過度測定
MOCON INC.製酸素透過度測定装置OX-TRAN2/20型(検出限界値0.0005cc/pck・day・atm、および0.1cc/m・day・atm)を用いて、得られた多層容器および多層フィルムの酸素透過度を、20℃、65%RHの条件下でJIS-K7126-2(2006年)第2部(等圧法)に準拠してそれぞれ測定した。包装容器の酸素透過度を容器本体(A)の酸素透過度(cc/pck・day・atm)と蓋材(B)の酸素透過度(cc/m・day・atm)に蓋材面積を掛け合わせたものの合計から算出し、包装容器内側の体積で割ることにより包装容器単位当たりの酸素透過度(cc/cm・day・atm)を算出した。結果を表4に示す。
【0198】
(2)容器内ガス組成の測定
MOCON Europe社製 CheckPoint3を用いて包装容器内の酸素濃度を測定した。
【0199】
(3)一般細菌数(好気性菌数)
得られたサンプルについて、10℃、50%RHにて15日間保管した後の食品衛生検査指針・微生物編(2015年)を準用し、標準寒天培地法(35℃±1℃、48±3時間)にて測定を行なった。
【0200】
(4)水接触角
協和界面科学社製 接触角測定試験機 DropMaster500を用いて、JIS R3257に準拠して、得られた層構造体(b-1)の容器内面側の水接触角を測定した。
【0201】
(5)外観特性
得られたサンプルを、10℃、50%RHにて15日間保管した後、23℃下に1分保持して外観を目視にて確認し、以下の基準にしたがって判断した。
A :蓋材内側に曇りがない。
B :蓋材内側に曇りがある。
【0202】
(6)食品の色
得られたサンプルを、10℃、50%RHにて15日間保管し、その後開封して内部の食品(焼鮭)の着色状況をパネラー5名により目視で確認し、合議により以下の基準にしたがって判断した。
A :保管前とほとんど変わらない。
B :わずかに退色している。
C :かなり退色している。
【0203】
(7)食品の匂い
得られたサンプルを、10℃、50%RHにて15日間保管し、その後開封して内部の食品(焼鮭)の匂いをパネラー5名により確認し、合議により以下の基準にしたがって判断した。
A :保管前とほとんど変わらない。
B :わずかに匂いがしなくなった。
C :ほとんど匂いがしなくなった。
【0204】
(8)食品の味
得られたサンプルを、10℃、50%RHにて15日間保管し、その後開封して内部の食品(焼鮭)の味をパネラー5名により確認し、合議により以下の基準にしたがって判断した。
A :保管前とほとんど変わらない。
B :わずかに味がしなくなった。
C :ほとんど味がしなかった。
【0205】
(実施例1)
(多層構造体(A’)の作製)
酸素バリア層としてEVOH「エバール(商標)J171B」、熱可塑性樹脂層としてポリプロピレン「ノバテック(商標)PP EA7AD」(PP)および接着層として接着性ポリオレフィン「アドマー(商標)QF500」(Ad)を用いて、以下の表1に記載の方法/条件にて3種5層(PP/Ad/EVOH/Ad/PP=270μm/15μm/30μm/15μm/270μm)の多層構造体を作製した。なお、製膜にあたっては、製膜ダイを有する押出機の下流に温度制御が可能な引き取りロールを配置し、巻き取り機にて巻き取ることにより目的の多層構造体(A’)を得た。
【0206】
【表1】
【0207】
(容器本体(A)の作製)
上記で得られた多層構造体(A’)を熱成形機(株式会社浅野製作所製)を用い、シート温度150℃にて容器形状(縦12cm×横9cm×高さ3cm)に熱成形(圧空:5kg/cm、プラグ温度:150℃、金型温度:70℃を使用)することにより、図3の(b)に示す外観を有する容器本体(A)を得た。なお、この容器本体(A)の容器底部に設けられた突起部の高さ(外側底部から突起部の頂部までの高さ)は5.0mmであった。本実施例で採用した多層構造体(A’)および本体容器(A)の特徴を表2に示す。
【0208】
(層構造体(b-1)の作製)
防曇性を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルム「パイレン(商標)フィルムP5562」(OPP1)の片面に、二液系接着剤(「タケラック(商標)A-385」/「タケネートA-10」)を固形分2.5g/mの目付で塗布した後、酸素バリア層として用いる二軸延伸EVOHフィルム「エバール(商標)EF-XL」をドライラミネート法により積層した。次いで、延伸ナイロンフィルム「エンブレム(商標)ONBC-15」を同様の方法で積層し、OPP1/EF-XL/ONYの構成を有する層構造体(b-1)を47μmの厚みで得た。本実施例で採用した層構造体(b-1)の特徴を表3に示す。
【0209】
(蒸気殺菌サンプルの作製)
エーシンパック社製パックシーラーを用いて、上記で得られた容器本体(A)の内側底部に食品として70gの焼鮭を配置した。その後、容器本体(A)の開口部に上記で得られた層構造体(b-1)のOPP1側を被せ、両者をヒートシールにより密閉した。
【0210】
次いで、容器本体(A)上の層構造体(b-1)に、孔径4mmの穿孔を所定の間隔を空けて6個穿設した。その後、この穿設した容器を、株式会社日阪製作所製『短時間調理殺菌装置RIC』(以下、単にRICともいう)の処理槽内に配置し、当該RICを稼動させて処理槽内を減圧することにより穿孔を通じて容器本体(A)内の脱気を行った。次いで、穿孔を通じて容器本体(A)内に125℃の蒸気を導入して食品の殺菌を10秒間かけて行った。なお、食品下部に温度センサーを設置してこの蒸気による殺菌の際の食品の表面温度を測定したところ、125℃であった。引き続きRICの処理槽内を減圧することにより、穿孔を通じて容器本体(A)内の蒸気を排出し、さらに処理槽内の減圧を維持して食品を冷却した。その後、処理槽内を常圧に戻し、処理槽の蓋をあけて、殺菌された食品を含む容器本体(A)を、層構造体(b-1)を有する状態のまま取り出し、穿孔を通じて容器本体(A)内に1.0kg/cmの圧力で15秒間かけて窒素を封入した。
【0211】
最終的に、層構造体(b-2)として、マクセル株式会社製アルミテープ「No.8063」(アルミ層50μm、接着層50μm(以下「アルミ」と略記する場合がある。))を用いて、層構造体(b-1)上の穿孔をすべて封鎖することにより、蒸気殺菌サンプルを得た。
【0212】
こうした得られた蒸気殺菌サンプルについて、上述した評価方法に従い、サンプル容器内のガス組成の測定、一般細菌数(好気性菌数)、水接触角、外観特性、食品の色、食品の匂い、食品の味をそれぞれ評価した。得られた結果を表4に示す。
【0213】
(実施例2~16、18および19)
実施例1で作製した多層構造体(A’)、容器本体(A)、層構造体(b-1)および層構造体(b-2)に対し、それぞれ表2および3に記載したような内容物、層構成の種類および厚み、酸素バリア層の種類、容器本体(A)の外観および突起部の高さ、ならびに穿孔の孔径および孔数のうちの1つまたはそれ以上を変更したこと以外は、実施例1と同様にして蒸気殺菌サンプルを得た。
【0214】
当該サンプルについて、上述した評価方法に従い、サンプル容器内のガス組成の測定、一般細菌数(好気性菌数)、水接触角、外観特性、食品の色、食品の匂い、食品の味をそれぞれ評価した。得られた結果を表4に示す。
【0215】
(実施例17)
表3に記載した層構造体(b-1)および層構造体(b-2)を用い、層構造体(b-1)の穿孔を層構造体(b-2)で封鎖する際に、層構造体(b-1)の全体を覆うように層構造体(b-2)のOPP2側でヒートシールした以外は、実施例1と同様にして蒸気殺菌サンプルを得た。なお、層構造体(b-2)としては、実施例1の層構造体(b-1)と同様のものを用いた。
【0216】
当該サンプルについて、上述した評価方法に従い、サンプル容器内のガス組成の測定、一般細菌数(好気性菌数)、水接触角、外観特性、食品の色、食品の匂い、食品の味をそれぞれ評価した。得られた結果を表4に示す。
【0217】
(比較例1)
実施例1で作製した容器本体(A)の代わりに、突起部のない平坦な容器底部を有する容器本体(その他の寸法は、実施例1で使用した容器本体(A)と同様である)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして蒸気殺菌サンプルを得た。当該サンプルについて、上述した評価方法に従い、サンプル容器内のガス組成の測定、一般細菌数(好気性菌数)、水接触角、外観特性、食品の色、食品の匂い、食品の味をそれぞれ評価した。得られた結果を表4に示す。
【0218】
(比較例2)
実施例1で作製した層構造体(b-1)の代わりに、穿孔の孔数を1個に減らした層構造体(b-1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして蒸気殺菌サンプルを得た。当該サンプルについて、上述した評価方法に従い、サンプル容器内のガス組成の測定、一般細菌数(好気性菌数)、水接触角、外観特性、食品の色、食品の匂い、食品の味をそれぞれ評価した。得られた結果を表4に示す。
【0219】
(比較例3)
実施例1で作製した多層構造体(A’)および容器本体(A)、ならびに層構造体(b-1)の代わりに、PPのみで構成される多層構造体(A’)および容器本体(A)、ならびに層構造体(b-1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして蒸気殺菌サンプルを得た。当該サンプルについて、上述した評価方法に従い、サンプル容器内のガス組成の測定、一般細菌数(好気性菌数)、水接触角、外観特性、食品の色、食品の匂い、食品の味をそれぞれ評価した。得られた結果を表4に示す。
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
【表4】
【0223】
表2~4に示すように、実施例1~19で作製された蒸気殺菌サンプルに用いた包装容器はいずれも優れた酸素透過度を有しており、包装容器に対して適切なガスバリア性を付与することができていた。また、実施例1~19で作製された蒸気殺菌サンプルは、突起部(すなわち、蒸気流通部)を有していない容器本体(A)を用いた比較例1のサンプルと比較して、15日後の好気性菌の発生を著しく低減させており、内容物である食品に対してより長期間に亘って殺菌状態を維持することができるものであった。
【0224】
さらに、実施例1~19で作製された蒸気殺菌サンプルに収容された食品は、例えば比較例1~3に記載のものと比べ、色、匂い、および味の全てにおいて良好または優れた品質を保持することができたことがわかる。また、防曇性フィルムを用いた実施例1~13、15、16、18、19では、低温(10℃)で15日間保管した後でも蓋材内部に曇りが生じず、良好な外観を保つことができていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0225】
本発明によれば、内容物の殺菌をより均一に行うことができるとともに、内容物の殺菌状態がより長期に亘って維持される。本発明の包装容器は、内容物の殺菌および保存期間の向上が所望されている、例えば、食品分野、化粧品分野、医薬品分野において有用である。
【符号の説明】
【0226】
100 包装容器
110,110’,110” 容器本体(A)
112 開口部
114 内表面
116 容器側壁部(a2)
118 容器底部(a1)
120 フランジ部
121 膨出部
122,122’,122” 蒸気流通部
123 尖端部分
124,124’,124” 突起部
126 ブロック
130 蓋材(B)
132 穿孔
134 層構造体(b-1)
135 層構造体(B’)
136 層構造体(b-2)
139 アーム
140 穿孔治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7