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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
H05H1/46 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022506208
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2021002037
(87)【国際公開番号】W WO2022157883
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】スー チェンピン
(72)【発明者】
【氏名】田村 仁
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-134926(JP,A)
【文献】特開2005-050776(JP,A)
【文献】特開2012-178380(JP,A)
【文献】特開2019-110028(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104205(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
H01J 37/32
H01P 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理される処理室と、プラズマを生成するためのマイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、前記マイクロ波を伝送する矩形導波管と、前記矩形導波管に接続され前記処理室へマイクロ波を伝送する円形導波管と、前記試料が載置される試料台とを備えるプラズマ処理装置において、
前記矩形導波管は、前記円形導波管が延びる方向を上下方向とした場合、上下に仕切られて形成された上部矩形導波管および下部矩形導波管と、前記高周波電源から供給されたマイクロ波の高周波電力を遮断し誘電体が配置された遮断部とを具備し、
前記円形導波管は、前記上部矩形導波管に接続され内部に形成された内側導波管と、前記下部矩形導波管に接続され前記内側導波管の外側に形成された外側導波管とを具備し、
前記遮断部は、前記円形導波管との接続部と前記高周波電源の間に配置され、
前記矩形導波管の延びる方向に対して垂直方向の前記遮断部の寸法は、前記遮断部以外の前記矩形導波管における前記垂直方向の寸法より狭いことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記矩形導波管は、第1の矩形導波管と、前記上下方向に対して垂直な面にて前記第1の矩形導波管と直交する第2の矩形導波管と、を具備し、
前記第1の矩形導波管は、マグネトロンからマイクロ波が伝送されるとともに前記遮断部を具備することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記内側導波管は、誘電体導波路を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載のプラズマ処理装置において、
平面図における前記誘電体導波路の中心軸は、前記平面図における前記第1の矩形導波管の中心軸および前記第2の矩形導波管の中心軸と一致しないことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記誘電体は、前記上部矩形導波管に配置されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項3に記載のプラズマ処理装置において、
前記誘電体は、前記上部矩形導波管に配置されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記上下方向に対して垂直な方向へ前記誘電体を移動させる移動機構をさらに備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波によりプラズマを発生させるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積度化により、高アスペクト比のエッチング加工技術の開発が進められてきた。半導体分野の微細化エッチング技術の一つはドライエッチング技術であり、その中に特にプラズマを用いたドライエッチング加工がよく使われている。プラズマは電子及び処理ガスの分子または原子との衝突を利用して処理ガスの分子または原子を励起し、イオンおよびラジカルを生成する。プラズマエッチング処理装置(以下、プラズマ処理装置ともいう)はイオンによって異方性エッチング、ラジカルによって等方性エッチングを実現している。プラズマ源としては、電子サイクロトロン共鳴ECR(ECR: Electron Cyclotron Resonance)がある。ECRは高密度プラズマを生成できるため、半導体デバイスのDRAMの耐電圧を上げたり、高容量コンデンサの作成したりなどに用いられている。
【0003】
図1に比較例に係るECRプラズマエッチング処理装置100rの構成を示す。単一のマイクロ波源であるマグネトロンから発せられた2.45GHzのマイクロ波は矩形導波管14、円矩形変換機141及び円形導波管142内を伝播し、外側に電磁コイル12が設置されている処理室13の上部にある石英窓15を通して処理室13に導入される。マイクロ波による電界とそれに対して垂直方向に形成されている磁界により、電子サイクロトロン運動を行うようになる。マイクロ波の周波数が2.45GHzの場合、磁場に垂直する電子がローレンツ力による進行方向が曲げられるため、次第に電子が周回運動を行うようになる。その時の磁束密度Bは式fc=eB/2πme(eは電子電荷量1.6×10-19C、meは電子質量9.1×10-31Kg、fcは2.45GHz)により、875Gとすると電子サイクロトロン共鳴が起こり、電子と処理室内のガス分子の衝突確率が増えるため、低圧力下でも高密度なプラズマを生成することができる。動作圧力は1Pa前後であり、この圧力領域で1011cm-3以上の密度プラズマが得られる。また下部電極16に印加するRF電源17によりプラズマ形成と独立イオンエネルギーを制御できるようになっているため、精密な形状制御が可能である。更に被処理基板11の面内均一性を高めるため、誘電体材料で構成された円偏波発生器19を用いて、処理室13内に円偏波を投入している。これにより、処理室13の内部にも円偏波が形成され、より均一なプラズマ分布が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-134926号公報
【文献】特開2005-050776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ処理装置の処理室壁面のプラズマ密度は固体表面の反応の損失によって処理室の中心部よりも低くなっていることが一般的に知られている。このようなプラズマ密度分布の不均一性によって被処理基板上のエッチングレートが不均一になっている。
【0006】
特許文献1においては、大口径基板用の処理室のプラズマ分布の不均一性を改善するために、単一マイクロ波源を2分岐した矩形導波管を用いて処理室に導入するが、処理室内の壁面の固体表面反応によるイオン及びラジカルの消滅への対策は依然と施していない。
【0007】
特許文献2においては、処理基板上のエッチングレート分布をよくするために、2つの矩形導波管を直交に配置し、直交している2つの矩形導波管の長さを調節することで投入されたマイクロ波の位相を操作し、円偏波を形成してから処理室に導入するものの、処理室にとって従来装置が抱えている処理室壁面のイオンおよびラジカルの消滅を対処できず、必然的に処理室中央のプラズマ密度が高くなる課題が残されている。
【0008】
そして半導体素子の製造プロセス工程においては、被処理基板のエッチングレートは必ずしもプラズマ密度に依存しているとは限らない。そのため、例えば熱分布のようなプロセス条件を優先にした場合、均一性を得るためには一つのプロセスサイクルの中でプラズマ密度を周囲高、中心高、均一といった順番に調整できれば最終的に被処理基板上のエッチング面内均一性が得られる。
【0009】
また、半導体素子の薄膜のエッチング処理の場合は、被処理基板上の薄膜分布が成膜装置の排気コンダクタンス、処理室の対称性等の特性によって、形成された膜厚が不均一になることが多い。例えば膜厚が中心高から周囲低のような凸分布の場合、被処理基板の中心上のマイクロ波の投入電力を多く求められる。一方で、膜厚が中心低から周囲高のような凹分布の場合、被処理基板の中心上のマイクロ波投入電力を減らす必要がある。上記に示したように、面内均一性を得るためにはさまざまな要因があるため、プラズマを用いたエッチング装置には自由度の高いプラズマ密度分布制御が求められている。
【0010】
図1のECRプラズマエッチング処理装置100rにおいて、誘電体ブロックからなる円偏波発生器19を装置100rの内部に備えている。ECRプラズマエッチング装置100rの処理室13内のプラズマ密度をプロセス条件によって変化させる際、インピーダンスを整合するため、円偏波発生器19の位置を調節する必要がある。しかしながら、円偏波発生器19は電磁コイル12に覆われているため、その位置の調整が困難であるという課題がある。
【0011】
本発明の課題は、処理室内のプラズマの分布の不均一を低減し、所望のエッチングプロセスに合わせて処理室内のプラズマ分布を中高、周囲高または平坦分布に調節できるプラズマ処理装置を提供することにある。
【0012】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0014】
一実施の形態に係るプラズマ処理装置は、試料がプラズマ処理される処理室と、プラズマを生成するためのマイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、マイクロ波を伝送する矩形導波管と、矩形導波管に接続され処理室へマイクロ波を伝送する円形導波管と、試料が載置される試料台とを備えるプラズマ処理装置であって、矩形導波管は、上下に仕切られて形成された上部矩形導波管および下部矩形導波管と、高周波電源から供給されたマイクロ波の高周波電力を遮断し誘電体が配置された遮断部とを具備する。円形導波管は、上部矩形導波管に接続され内部に形成された内側導波管と、下部矩形導波管に接続され内側導波管の外側に形成された外側導波管とを具備する。遮断部の幅は、遮断部以外の矩形導波管の幅より狭い。
【発明の効果】
【0015】
一実施の形態に係るプラズマ処理装置によれば、処理室内のプラズマの分布の不均一を低減し、所望のエッチングプロセスに合わせて処理室内のプラズマ分布を中高、周囲高または平坦分布に調節できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は比較例に係るECRプラズマエッチング処理装置の概略縦断面図である。
図2図2は本発明に係るECRプラズマエッチング処理装置の全体構成を示す概略縦断面図である。
図3図3は本発明のマイクロ波電力を調節するための導波管構成の上面図である。
図4図4図3のA-A線に沿う導波管構成の断面図である。
図5A図5A図3の電力ゲートの外形を説明する上面図である。
図5B図5Bは変形例に係る電力ゲートの外形を説明する上面図である。
図6図6は本発明の電力ゲート駆動機構の構成概要図である。
図7図7は本発明の有限要素法(HFSS)のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【実施例1】
【0018】
以下、図面を用いて本発明に係るマイクロ波プラズマエッチング処理装置を説明する。図2は、本発明に係るECRプラズマエッチング装置の全体構成を示す概略縦断面図である。図3は、本発明のマイクロ波電力を調節するための導波管構成の上面図である。図4は、図3のA-A線に沿う導波管構成の断面図である。図5Aは、図3の電力ゲートの上面図を示す。図5Bは、変形例に係る電力ゲートの上面図である。
【0019】
図2に示すように、本発明に係るマイクロ波プラズマエッチング処理装置100は、処理室23の上部に、単一のマイクロ波源(高周波電源)101であるマグネトロンからの2.45GHzのマイクロ波電力を円形の内側導波管29a、円形の外側導波管29bにそれぞれマイクロ波を導入するマイクロ波電力分割器21を有する。円形の内側導波管29aと円形の外側導波管29bとは円形導波管ということができる。内側導波管29aは内側放射部217に接続している。外側導波管29bはリング状外側放射部218に接続している。マイクロ波源(高周波電源)101であるマグネトロンは、プラズマを生成するためのマイクロ波の高周波電力を供給する。
【0020】
処理室23と二放射部217、218の間に石英窓25が設けられる。処理室23の外周は電磁コイル22に覆われている。処理室23の中心底面には、半導体ウエハなどの被処理基板(試料)20を置くための試料台とされる下部電極26が設けられる。下部電極26はプラズマ中のイオンを加速させるためのRF電源27と接続している。RF電源27の電圧変動により、プラズマ中に電離されている処理ガスのイオンが被処理基板20に向かって加速され、被処理基板上20の薄膜を除去できる。
【0021】
マイクロ波電力分割器21によって、内側導波管29a及び外側導波管29bにそれぞれ円偏波が導入され、内側放射部217およびリング状外側放射部218を経由し、処理室23に円偏波となったマイクロ波電力を投入する。外側導波管29b(同軸部)の出力端においてはTEMモードが混入し、外側導波管29bの放射端において、円偏波の軸比が低下するが、リング状外側放射部218の空洞共振効果を利用して混入したTEMモードのマイクロ波を除去している。従って外側導波管29bのTEMモードはリング状外側放射部218で除去可能なため、外側導波管29bの軸比をTE11モードのSパラメータを用いて評価している。
【0022】
内側放射部217に関しては内側導波管29aより径の大きい空間にすることで、この中ではTE11以外のモードを立てることができる。この電界は時間的に回転させることができるので、TE11モードとして反射してくる波の影響を小さくすることができる。ここに示した内側放射部217の例は円筒状空間とするが、直方体でも六面体、八面体のような多角形でもよく、TE11モードより高次モードが立てられる形状であればよい。続いて図3及び図4を用いてマイクロ波電力分割器21の詳細を説明する。
【0023】
図3には、図2のマイクロ波電力分割器21の上面図が示される。図3に示すように、マイクロ波電力分割器21は、上面視または平面視において、長矩形導波管a(第1の矩形導波管)33とそれと直交(または、交差)する短矩形導波管b(第2の矩形導波管)34とを含む。矩形導波管a33と矩形導波管b34は共にEIAJ規格のWRI-22導波管(幅109.2mm、高54.6mm)を使用して構成することができる。図4には、図3のA-A線に沿う断面図が示される。図4に示すように、断面視において、矩形導波管a33と矩形導波管b34とは仕切板49によって上部矩形導波管42及び下部矩形導波管43に分割されている。つまり、マイクロ波電力分割器21は、単一のマイクロ波源101と接続された矩形導波管(33,34)と、矩形導波管(33、34)に接続された円形導波管(29a、29b)と、円形導波管(29a、29b)と処理室23との間に接続された放射部(217、218)と、を備えている。矩形導波管a33は第1矩形導波管と、矩形導波管b34は第2矩形導波管ということもできる。
【0024】
マグネトロン101からのマイクロ波電力は仕切板49によって上部矩形導波管42及び下部矩形導波管43に分割される。上部矩形導波管42には、さらに、上部矩形導波管42を通過するマイクロ波電力を調節するための誘電体からなる電力ゲート31を有する。誘電体の比誘電率が4前後のものが良いため、本実施例において、電力ゲート31は石英ガラス(比誘電率εr=3.78)のものを使用する。上部矩形導波管42の通過電力を遮断するため、図3に示すように、台形からなる一対のくびれ部30が対向配置するように、上部矩形導波管42の側壁に設けられている。一対のくびれ部30は、上部矩形導波管42の通過電力を遮断するための遮断部ということができる。遮断部である一対のくびれ部30の間の幅は、平面視または上面視において、一対のくびれ部30以外の矩形導波管(33)の幅より狭い構成とされている。
【0025】
電力ゲート31が一対のくびれ部30の間に挿入されると、上部矩形導波管42のくびれ部30にて遮断されたマイクロ波が通過できるようになる。電力ゲート31の挿入長さ700を調節することで、上部矩形導波管42から円形内側導波管29aに入るマイクロ波電力を調節できる。図3に示すように、くびれ部30は基本的に両側の斜辺301、302が非対称になっている特徴を有する。これにより、マイクロ波源101への反射を低減できること、および、直交する矩形導波管a33と矩形導波管b34にて円偏波を合成するため、インピーダンスを滑らかに変化させられる効果を持っている。
【0026】
円偏波の軸比を高めるため及びマイクロ波源101への反射を低減させるため、図3図4に示すように、円柱状の誘電体導波路36が上部矩形導波管42と内側導波管29aの間に設けられている。誘電体導波路36は、上部矩形導波管42に配置されている。誘電体導波路36は、石英ガラスで構成することができる。図3に示すように、誘電体導波路36の中心軸は矩形導波管a33の中心軸及び矩形導波管b34の中心軸の一致しない構成(ずらされている構成)とされており、さらに、図4に示すように、誘電体導波路36の上面と上部矩形導波管42の上面との間に、リアクタンス調節するための一定距離の隙間47が設けられている。図3に示した長さL1、L2、L3はそれぞれ0.5λd、1.125λd、1.0λdとすれば、お互いに直交する矩形導波管a33と矩形導波管b34とによって、TE11モードの円偏波を合成できる。λdは2.45GHz、WRI-22規格矩形導波管の場合は148mmとなる。長さL1は誘電体導波路36の中心軸と矩形導波管b34の第1側壁34aとの間の長さを示す。長さL2は誘電体導波路36の中心軸と矩形導波管b34の第1側壁34aと対向する第2側壁34bとの間の長さを示す。長さL3は誘電体導波路36の中心軸と矩形導波管a33の第1側壁33aとの間の長さを示す。長さL4は誘電体導波路36の中心軸と矩形導波管a33の第1側壁33aと対向する端部33bとの間の長さを示す。この例では、短矩形導波管b34の長さ(L1+L2)<長矩形導波管a33の長さ(L3+L4)の関係にある。矩形導波管b34の第1側壁34aと第2側壁34bとは矩形導波管b34の長手方向の一対の側壁であり、矩形導波管a33の第1側壁33aと端部33bは矩形導波管a33の長手方向の側壁及び端部である。
【0027】
電力ゲート31を上部矩形導波管42のくびれ部30に挿入する長さ700によって、上部矩形導波管42を通過するマイクロ波電力を調節できる。さらに、直交配置している矩形導波管a33と矩形導波管b34との交差部35によって円偏波が合成され、処理室23内の内側と外側とに電力比が異なるマイクロ波の円偏波を投入できる。処理室23内のプラズマ密度分布はこの異なるマイクロ波の内外電力比によって、中央高、周囲高、平坦分布に連続的に制御することができる。
【0028】
図5Aに示すように、電力ゲート31は、上底57aと下底57bとを含む台形形状の台形部57と、台形部57の上底57aに接続された矩形形状の挿入部58とを有する。挿入部58は、上部矩形導波管42のくびれ部30に挿入されるように構成されている。台形部57の上底57aまたは下底57bに対して水平なまたは平行な端面58bを有する。
【0029】
図5Bに示すように、変形例に係る電力ゲート31aは、上底57aと下底57bとを含む台形形状の台形部57と、台形部57の上底57aに接続された挿入部58aとを有する。挿入部58aは、台形部57の上底57aまたは下底57bに対して一定の角度59を有する端面58cを有する。端面58cによって、マイクロ波源101へマイクロ波の反射を低減できる効果を有する。
【0030】
図7は、本発明の有限要素法(HFSS)のシミュレーション結果を示す図である。図7には、マイクロ波電力分割器21が2.45GHzマイクロ波をマイクロ波源101から入力される場合であり、電力ゲート31の挿入長さ700を変化させた場合における有限要素法シミュレーション結果が示される。図7には、内側導波管29aから放射される円偏波の軸比変化を示すグラフ71、外側導波管29bから放射される円偏波の軸比を示すグラフ72、マイクロ波源101への反射を示すグラフ73、内側導波管29aおよび外側導波管29bの内外電力比を示すグラフ74が示される。電力ゲート31の挿入長さ700によって、内外電力比を0.18~0.078の線形範囲内で制御できる上、内側導波管29aと外側導波管29bの軸比は0.9以上を維持できながら、反射も0.2以下を達成していることを確認できた。
【0031】
本発明のECRプラズマエッチング装置100は、以下の構成とされている。
【0032】
図2に示すように、マイクロ波電力分割器21は円偏波発生器の機能を備えながら、比較例の円偏波発生器19による円偏波を形成させられる導波管構成をECRプラズマエッチング装置100のマイクロ波導入部の導波管として装置100外部に実装されている。これにより、柔軟にプロセス条件による処理室23内のプラズマ密度分布変化に対応できる。
【0033】
マイクロ波電力分割器21は、単一のマイクロ波源101であるマグネトロンに接続している長矩形導波管33と、長矩形導波管33と直交配置(または交差配置)された短矩形導波管34とを用いて構成される。この2つの矩形導波管33、34の長さを調節し、矩形導波管33、34に進入するTE01モードのマイクロ波の位相を操作することで、矩形導波管33、34と垂直に接続している内側導波管29aと外側導波管29bそれぞれの内部に円偏波を形成する。更に、2つの直交配置された矩形導波管33、34に仕切板49を設けてあり、矩形導波管33、34が上下分割され、単一のマイクロ波源101の電力を2分割できる。仕切板49によって上下に分割された矩形導波管の上の部分を上部矩形導波管42とし、下の部分を下部矩形導波管43とする。また、仕切板49の高さを変更すれば、2分割されたマイクロ波電力比を調節可能である。
【0034】
仕切板49によって上下に分割された上部矩形導波管42と下部矩形導波管43はそれぞれ円形内側導波管29a、円形外側導波管29bに接続する二重導波管構造になる。この二重導波管構造の直径が大きくなるため、上部矩形導波管42と円形内側導波管29aの間に円柱状の誘電体導波路36、例としては、石英ガラスで構成された誘電体導波路36を装荷することで、マイクロ波の波長を圧縮でき、二重導波管部の直径を小さく設計できるメリットがある。また、石英導波路としての誘電体導波路36の中心軸を矩形導波管33、34の中心軸線上から少しずらすことで、マイクロ波源101への反射を低減できる効果をもたらすこともできると共に、円形外側導波管29bにも円偏波を形成することができる。
【0035】
内側導波管29aのマイクロ波の伝播を制限するときには、内側導波管29aの半径aを式(1)によって設計すれば、マイクロ波を通過または遮断できるようになる。
【0036】
a=(1.841C)/(2πfc)[m]・・・(1)
ここで、fcはマイクロ波周波数2.45GHz、Cは真空中光速度2.99×10m/sである。
【0037】
例えばTE11モードのマイクロ波の伝播において、媒質が空気または真空の場合は、その比誘電率εrの値が1になるため、式(1)によると内側導波管29aの半径が0.0375mになる。内側導波管29a内の誘電体導波路36の材質を石英とし、その比誘電率εrの値が3.78の場合は、マイクロ波の伝播速度が1/√εr分に遅くなるため、式(1)によると内側導波管29aの半径が0.018mになる。
【0038】
外側導波管29bは内側導波管29aと同軸となるように構成されている。また、誘電体導波路36の中心軸は、外側導波管29b及び内側導波管29aと同軸となるように構成されている。このため、外側導波管29bは内側導波管29aとは同軸導波管としてマイクロ波を伝播する。同軸導波管は基本モードであるTEMモードには遮蔽が存在しないが、その高次モードであるTE11の遮蔽時の外側導波管29bの半径bは下記の式(2)を用いて決めることができる。
【0039】
kc≒2/(a+b)・・・(2)
ここで、kは遮断波数[rad/m]、aは内側導波管29aの半径[m]、bは外側導波管29bの半径[m]である。
【0040】
2つの直交配置している矩形導波管33、34の長さによる位相操作により、仕切板49によって二重導波管となった内側導波管29aと外側導波管29bにそれぞれ円偏波を形成できる。外側導波管29bは同軸導波管のため、最低次モードはTEMモードであるが、外側導波管29bと接続しているリング状放射部218によってTEMモードを除去できるため、TE11モードのSパラメータを用いて内側導波管29a及び外側導波管29bにてそれぞれ形成された円偏波の軸比を評価した(図7のグラフ71、72を参照)。なお、円偏波の軸比=1のものが完全な円偏波を示し、軸比=0のものが直線偏波を示す。
【0041】
内側導波管(円形部)29aと外側導波管(同軸部)29bから放射されるマイクロ波電力を調節するため、内側導波管29aに接続している上部矩形導波管42のマイクロ波入射波方面にマイクロ波を遮断できる一対のくびれ部30を設ける。一対のくびれ部30により上部矩形導波管42の幅が狭くなり、マイクロ波源101からのマイクロ波が遮断され、電力を伝送できなくなるが、この一対のくびれ部30の間に、さらに、前後にスライド移動できる石英ブロック(電力ゲート)31を設ける。この電力ゲート31が前後移動することで、上部矩形導波管42を通過するマイクロ波電力を調節できる。
【0042】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
【0043】
電力ゲート31を水平に前後にスライド移動させることによって、上部矩形導波管42を通過する電力を調節することができ、さらに、2つの矩形導波管33、34が直交配置されているため、2つの矩形導波管33、34の長さを調節することで、矩形導波管33、34に接続されている内側導波管29aおよび外側導波管29bに円偏波を形成できる。
【0044】
内側導波管29aの電力は内側放射部217から処理室23に導入される一方、外側導波管29bの電力は一旦リング状外側放射部218といった空洞に導入されてから処理室内23に放射される。外側導波管29bは同軸導波管のため、その最低次モードはTEMモードである。そのため、外側導波管(同軸部)29bの出力端においてはTEMモードの混入し、外側導波管29bの放射端において、円偏波の軸比が低下するが、リング状外側放射部218の空洞共振効果を利用して混入したTEMモードのマイクロ波を除去している。従って、外側導波管29bのTEMモードはリング状外側放射部218で除去可能なため、外側導波管29bの軸比をTE11モードのSパラメータを用いて評価している。
【0045】
内側放射部217に関しては、内側導波管29aより径の大きい空間にすることで、この内側放射部217も中ではTE11以外のモードを立てることができる。この電界は時間的に回転させることができるので、TE11モードとして反射してくる波の影響を小さくすることができる。ここに示した内側放射部217の例は円筒状空間とするが、直方体でも六面体、八面体のような多角形でもよく、TE11モードより高次モードが立てられる形状であればよい。
【0046】
以上の構成により、単一のマイクロ波源101でも処理室23に導入する際にマイクロ波電力が2分割され、さらに、内側導波管29aの電力は電力ゲート31の挿入長700によって制御される。このため、半導体デバイスのエッチングプロセス中には電力ゲート31の挿入長700の調整によって、処理室内23のプラズマ分布を所望のエッチングレートに合わせることができる。したがって、プラズマ処理装置100の処理室23内のプラズマの分布の不均一を低減し、所望のエッチングプロセスに合わせて処理室23内のプラズマ密度分布を中央高、周囲高、または平坦分布に調節することが可能になる。
【実施例2】
【0047】
図3図4に示す実施例1の電力ゲート31は、2.45GHzのマイクロ波源101に合わせて、石英ガラスから構成する構成例である。異なる周波数のマイクロ波源101であれば、その周波数に合わせて電力ゲート31の材料および形状を変更しても良い。2.45GHzマイクロ波の場合、電力ゲート31の比誘電率(εr)が4前後のものであれば、アルミナ、MCナイロン樹脂、フッ素樹脂等を利用しても良い。
【0048】
実施例1では、電力ゲート31およびくびれ部30を上部矩形導波管42に設け例構成例を説明したが、これに限定されない。電力ゲート31およびくびれ部30は、上部矩形導波管42ではなく、下部矩形導波管43のみに設けることができる。また、上部矩形導波管42および下部矩形導波管43の双方に電力ゲート31およびくびれ部30を設けることも可能である。
【0049】
図4に示す隙間47は、処理室23内のプラズマ密度によって反射波の電力による円偏波の軸比を調節するために設けられている。隙間47は、誘電体導波路36の高さ位置を変更することで、隙間47の間隔または大きさを調節可能とすることもできる。
【実施例3】
【0050】
図4に示した上部矩形導波管42および下部矩形導波管43において、図2の処理室23のプラズマ密度によるインピーダンス変化によって、上部および下部矩形導波管(42,43)内の円偏波の軸比が低下する場合がある。そのため、上部および下部矩形導波管42、43の適切な箇所に直径φ3~5mm、長さ5~18mmの金属製または誘電体製の円柱または突起部を1か所または複数か所に設置し、インピーダンス整合を取ることで、上部矩形導波管42と下部矩形導波管43の円偏波の軸比を微調整することができる。
【実施例4】
【0051】
図6は、本発明の電力ゲート駆動機構の構成概要図である。電力ゲート31の位置を上部矩形導波管42内、すなわち、図3のくびれ部30の間にスライド移動させるのが好ましい。このため、図6に示すように、電力ゲート31をくびれ部30の間にスライド移動させる移動機構としてのアクチュエータ627を設けるのが好ましいい。アクチュエータ627をプロセス制御用PC(Personal Computer、図示無し)乃至WS(work station、図示無し)に接続し、アクチュエータ627が電力ゲート31をくびれ部30の間に移動させるように構成する。これにより、電力ゲート31が図3のくびれ部30に挿入する長さ700が所望に変更できるので、処理室23内に電力が異なる所望のマイクロ波を投入できる。その結果、ECRプラズマ処理装置100の処理室23内のプラズマ密度分布を所望に調節することが可能である。
【0052】
実施例のプラズマ処理装置の好ましい態様は以下のようにまとめることができる。
【0053】
1)プラズマ処理装置(100)は、試料(20)がプラズマ処理される処理室(23)と、プラズマを生成するためのマイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源(101)と、前記マイクロ波を伝送する矩形導波管(33、34)と、前記矩形導波管に接続され前記処理室へマイクロ波を伝送する円形導波管(29a、29b)と、前記試料が載置される試料台(26)とを備える。
前記矩形導波管(33,34)は、上下に仕切られて形成された上部矩形導波管(42)および下部矩形導波管(43)と、前記高周波電源から供給されたマイクロ波の高周波電力を遮断し誘電体(31)が配置された遮断部(30)とを具備する。
前記円形導波管(29a、29b)は、前記上部矩形導波管(42)に接続され内部に形成された内側導波管(29a)と、前記下部矩形導波管(43)に接続され前記内側導波管の外側に形成された外側導波管(29b)とを具備する。
前記遮断部(30)の幅は、前記遮断部(30)以外の前記矩形導波管(33)の幅より狭い。
【0054】
2)上記1)において、前記矩形導波管(33、34)は、第1の矩形導波管(33)と、前記第1の矩形導波管と直交する第2の矩形導波管(34)と、を具備する。
【0055】
3)上記2)において、前記内側導波管(29a)は、誘電体導波路(36)を有する。
【0056】
4)上記3)において、平面図における前記誘電体導波路(36)の中心軸は、前記平面図における前記第1の矩形導波管(33)の中心軸および前記第2の矩形導波管(34)の中心軸と一致しない。
【0057】
5)上記1)において、前記誘電体(31)は、前記上部矩形導波管に配置されている。
【0058】
6)上記3)において、前記誘電体(31)は、前記上部矩形導波管に配置されている。
【0059】
7)上記1)において、前記誘電体(31)を移動させる移動機構(627)をさらに備える。
【0060】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
20:被処理基板
21:マイクロ波電力分割器
22:電磁コイル
23:処理室
25:石英窓
26:下部電極
27:RF電源
101:マグネトロン(マイクロ波源、高周波電源)
217:内側放射部
218:リング状外側放射部
29a:円形内側導波管
29b:円形外側導波管
30:くびれ部
31:石英ゲート(電力ゲート)
33:矩形導波管a
34:矩形導波管b
36:誘電体導波路
42:上部矩形導波管
43:下部矩形導波管
47:隙間
49:仕切板
57:台形部
58:挿入部
627:アクチュエータ(移動機構)
700:挿入長
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7