(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】SOIウェーハの製造方法およびボート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20230627BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20230627BHJP
H01L 21/22 20060101ALI20230627BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20230627BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/22 501G
H01L21/324 Q
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2019226190
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】岡部 秀光
(72)【発明者】
【氏名】廣重 毅
(72)【発明者】
【氏名】池田 安伸
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-060025(JP,U)
【文献】特開平04-179145(JP,A)
【文献】特開平09-167763(JP,A)
【文献】実開昭62-201928(JP,U)
【文献】特開2003-031779(JP,A)
【文献】特開2006-165062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/22
H01L 21/324
H01L 21/683
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板となる支持側ウェーハおよび、半導体デバイスを作り込む活性側ウェーハのどちらか一方、もしくは両方に酸化膜を形成し、該酸化膜を介して前記支持側ウェーハと前記活性側ウェーハとを貼合わせ、該貼合わせウェーハをその径方向に立つ姿勢にてボートに装填して熱処理を施し、前記支持側ウェーハと前記活性側ウェーハとを結合する、SOIウェーハの製造方法であって、
前記貼合わせウェーハを、前記ボートの同一円弧上において、最下点に位置する主係止溝および、前記主係止溝を挟んで対向する副係止溝の少なくとも3点にて支持し、かつ前記ボートの主係止溝の底面と前記活性側ウェーハの周縁部との接触部を支点として、該支点を通る鉛直線に対して前記活性側ウェーハの側に前記貼合わせウェーハの重心が位置する姿勢にて、前記ボートに装填して前記熱処理を行うことを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
SOIウェーハの製造において、支持側ウェーハと活性側ウェーハとを酸化膜を介して貼合わせた、貼合わせウェーハに熱処理を施す際に、該貼合わせウェーハを装填するためのボートであって、
同一円弧上において、最下点に位置する主係止溝および、前記主係止溝を挟んで対向する副係止溝の少なくとも3点の、前記貼合わせウェーハの支持部を有し、前記主係止溝および副係止溝が、前記主係止溝を通る鉛直線に対して前記副係止溝が離間する相互配置を有
し、
前記主係止溝の底面が水平面に対して傾斜し、
前記傾斜は、前記副係止溝が離間する側の溝側壁から前記副係止溝が離間する側と逆側の溝側壁へ下る向きである、ボート。
【請求項3】
前記鉛直線に対して前記副係止溝が離間する最短距離が0.18mm以上である請求項2に記載のボート。
【請求項4】
前記主係止溝の底面が水平面に対して
1°以上の傾斜角度を有する請求項2または3に記載のボート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の基板として使用されるSOI(Silicon On Insulator)ウェーハの製造方法およびこの製造における熱処理工程に供するボートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
SOIウェーハは、支持側基板上に、酸化シリコン(SiO2)等の絶縁膜、およびデバイス活性層として使用される単結晶シリコン層が順次形成された構造を有する。SOIウェーハの代表的な製造方法の一つに、貼合せ法がある。この貼合せ法は、支持基板となる支持側ウェーハおよび活性層用基板となる活性側ウェーハの少なくとも一方に酸化膜(BOX(Buried Oxide)層)を形成し、次いでこれらのウェーハを、酸化膜を介して貼合わせて貼合わせウェーハとした後、該貼合わせウェーハを1200℃程度の高温にて接合するための熱処理を施すことにより、SOIウェーハを製造するものである。
【0003】
前記熱処理は、例えば、特許文献1の
図34に記載されるように、複数枚の前記貼合わせウェーハが装填されたボートを、横型拡散炉に導入し、この炉内において貼合わせウェーハを加熱して行われる。各貼合わせウェーハをボートへ装填するには、特許文献1の
図36に示されるように、ボートに形成された複数の支持部(158)内に貼合わせウェーハの周縁部を収容することによって、ボートに貼合わせウェーハがその径方向に立つ姿勢にて装填されている。かように、貼合わせウェーハを装填したボートを横型拡散炉に導入して加熱処理を行った場合に、貼合わせウェーハの支持側ウェーハに欠陥が生じることがあり、その改善が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、貼合わせウェーハをボートへ装填するには、上記した特許文献1の
図37に示される、支持部(158)として凹部(160)を用いているのが一般的である。具体的に
図1を参照して説明すると、ボート10に形成された複数の凹部11内に貼合わせウェーハ12の周縁部を収容することによって、ボート10に貼合わせウェーハ12をその径方向に直立する姿勢にて装填されるのが一般的である。凹部11は、各貼合わせウェーハ12に対して、例えば同一円弧上の離間する複数点に設けられ、複数点支持によって各貼合わせウェーハ12が直立姿勢にて装填されることになる。
【0006】
この凹部11内に収容された貼合わせウェーハ12は、凹部11の底面に該ウェーハ周縁部が部分的に強く当接することになる。すると、加熱後の貼合わせウェーハ12を凹部11から取り出す際に、
図1(b)に示すように、貼合わせウェーハ12を覆っている酸化膜13が前記当接部にて凹部11の底面に固着されて部分的に剥離する。次いで、ボート10から取り出した貼合わせウェーハ12は、
図2(a)に示すように、支持側ウェーハ12aに貼り付けた活性側ウェーハ12bの周辺部の面取りを行った後に、エッチング加工を施してから、活性側ウェーハ12bを研削する薄膜化工程に供することになる。前記した熱処理後において、酸化膜13の剥離が生じると、
図2(b)に示すように、エッチング加工において剥離部14からエッチングが優先して進行する結果、ここを起点としてピット状の欠陥が拡大することが判明した。
【0007】
ここで、特許文献1には、上記した酸化膜剥離に起因した課題ではないが、凹部と貼合わせウェーハの周縁部との接触による同周縁部の傷付きを問題として掲げ、その解決手段として、同文献1の
図4に示されるように、貼合わせウェーハの活性側ウェーハの周縁部が凹部の底面に接触し、支持側ウェーハの周縁部が凹部の底面に接触しない状態にて、貼合わせウェーハをボートに装填することが記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に提案された貼合わせウェーハの装填手法は、活性側ウェーハの周縁部のみを凹部の底面に接触させて貼合わせウェーハを支持するため、貼合わせウェーハの重心が支持側ウェーハの側にあって支持側ウェーハの側に傾くモーメントが発生する。これを支持側ウェーハの表面が凹部の側壁に当接することによって解消する必要があり、当接部分が傷付くことになる。支持側ウェーハは切削加工を施さないのが基本であり、この傷は製品においても残ることになる。
【0009】
そこで、本発明は、貼合わせウェーハをボートに装填して行う熱処理において、ボートに対して、活性側ウェーハの周縁部を接触させる一方で、支持側ウェーハの周縁部並びに表面のいずれも接触させない、貼合わせウェーハの装填が実現される方途について提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決するため、ボートにおける貼合わせウェーハの装填姿勢について鋭意検討したところ、貼合わせウェーハをボートに直立させる際の該貼合わせウェーハの重心が支持側ウェーハより活性側ウェーハ寄りになる、装填姿勢とすることが有効であるとの知見を得て、本発明を完成するに到った。
本発明は、以上の知見にさらに検討を加えてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)支持基板となる支持側ウェーハおよび、半導体デバイスを作り込む活性側ウェーハのどちらか一方、もしくは両方に酸化膜を形成し、該酸化膜を介して前記支持側ウェーハと前記活性側ウェーハとを貼合わせ、該貼合わせウェーハをその径方向に立つ姿勢にてボートに装填して熱処理を施し、前記支持側ウェーハと前記活性側ウェーハとを結合する、SOIウェーハの製造方法であって、
前記貼合わせウェーハを、前記ボートの同一円弧上において、最下点に位置する主係止溝および、前記主係止溝を挟んで対向する副係止溝の少なくとも3点にて支持し、かつ前記ボートの主係止溝の底面と前記活性側ウェーハの周縁部との接触部を支点として、該支点を通る鉛直線に対して前記活性側ウェーハの側に前記貼合わせウェーハの重心が位置する姿勢にて、前記ボートに装填する、SOIウェーハの製造方法。
【0012】
(2)SOIウェーハの製造において、支持側ウェーハと活性側ウェーハとを酸化膜を介して貼合わせた、貼合わせウェーハに熱処理を施す際に、該貼合わせウェーハを装填するためのボートであって、
同一円弧上において、最下点に位置する主係止溝および、前記主係止溝を挟んで対向する副係止溝の少なくとも3点の、前記貼合わせウェーハの支持部を有し、前記主係止溝および副係止溝が、前記主係止溝を通る鉛直線に対して前記副係止溝が離間する相互配置を有する、ボート。
【0013】
(3)前記鉛直線に対して前記副係止溝が離間する最短距離が0.18mm以上である前記(2)に記載のボート。
【0014】
(4)前記主係止溝の底面が水平面に対して傾斜する前記(2)または(3)に記載のボート。
【0015】
(5)前記主係止溝の底面が水平面に対して1°以上の傾斜角度を有する前記(4)に記載のボート。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、ボートにおいて、活性側ウェーハの周縁部を接触させる一方で、支持側ウェーハの周縁部並びに表面のいずれも接触させない、貼合わせウェーハの装填姿勢を実現できる。従って、この貼合わせウェーハ装填後のボートを例えば横型拡散炉に導入して熱処理を行う際に、貼合わせウェーハの支持側ウェーハがボートと接触することが未然に防がれるため、接合強度が高くかつ欠陥のないSOIウェーハを提供することができる。また、本発明のボートによれば、上記した貼合わせウェーハの装填姿勢を容易かつ確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は従来のウェーハを装着したボートの側面図および(b)は従来のボートの凹溝に対するウェーハの着脱を示す図である。
【
図2】熱処理後のウェーハに施す処理の説明図である。
【
図3】(a)はボートの上面図および(b)は側面図である。
【
図4】
図3(a)におけるIV-IV線断面図である。
【
図6】係止溝のボート本体の長手方向に沿う断面形状を示す図である。
【
図7】主係止溝および副係止溝への貼合わせウェーハの装入状態を示す図である。
【
図8】主係止溝および副係止溝への貼合わせウェーハの装入状態を示す図である。
【
図9】主係止溝および副係止溝への貼合わせウェーハの装入状態を示す図である。
【
図10】副係止溝への貼合わせウェーハの装入状態を示す図である。
【
図11】主係止溝への貼合わせウェーハの装入状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に従うSOIウェーハの製造方法を具体的に説明する。
なお、本発明は、貼合わせウェーハをボートに装填して熱処理を施す工程に特徴があり、この熱処理工程の前後の工程は通例に従って行うことができる。すなわち、本発明では、先に
図1および2に示した、支持基板となる支持側ウェーハ12aおよび、半導体デバイスを作り込む活性側ウェーハ12bを予め準備し、両者のどちらか一方、もしくは両方に酸化膜13を形成し、該酸化膜13を介して支持側ウェーハ12aと活性側ウェーハ12bとを貼合わせて貼合わせウェーハ12を作製し、該貼合わせウェーハ12を径方向に立てた姿勢にてボートに装填して熱処理を施し、支持側ウェーハ12aと活性側ウェーハ12bとを結合して、SOIウェーハを製造する。その際、以下に説明するボートを用いて、該ボートに貼合わせウェーハを所定の態様で装填することが肝要である。
【0019】
まず、本発明の方法に用いるボートについて、
図3から
図5を参照して詳しく説明する。なお、
図3(a)はボートの上面図および同図(b)は側面図であり、
図4は
図3(a)におけるIV-IV線断面図、
図5は
図3(a)におけるV-V線断面図である。
【0020】
図3に示すボート1は、例えば同図(b)に示す断面形状を有する、ボート本体2に、該ボート本体2に沿う同一円弧上において、
図4に示すように、最下点に位置する主係止溝3と、該主係止溝3を挟んで対向する副係止溝4aおよび4bとの少なくとも3点の、貼合わせウェーハの支持部を有する。これら主係止溝3、副係止溝4aおよび4bを1つの組とし、複数組がボート本体2の長手方向へ等間隔で並ぶ配置の下に、主係止溝3、副係止溝4aおよび4bを設けてある(
図3(a)および
図5参照)。主係止溝3、副係止溝4aおよび4bの1組宛て1枚の貼合わせウェーハを装填し、ボート1全体では多数枚の貼合わせウェーハが装填可能になる。なお、
図3(a)および
図5では、ボート本体2の長手方向中間域における主係止溝3、副係止溝4aおよび4bを省略して示してあるが、これら中間域にも等間隔で並ぶ配置の下に主係止溝3、副係止溝4aおよび4bを設けてある。
【0021】
主係止溝3、副係止溝4aおよび4bは、ボート本体2の長手方向に沿う断面形状を
図6に示すように、貼合わせウェーハ12の周縁部を含む径方向端部が収容される凹溝であり、主係止溝3と副係止溝4aおよび4bとは開口方向が異なる以外は同じ断面形状の溝である。すなわち、
図6には、
図3(a)のV-V線断面における主係止溝3の形状、並びに後述の
図8に示す矢視における副係止溝4aおよび4bの形状が示されている。
【0022】
ここで、主係止溝3と副係止溝4aおよび4bとは、両者の相対位置がボート本体2の長手方向にずれて設けることが重要である。すなわち、
図5に部分拡大図として示すように、主係止溝3を通る鉛直線Lに対して副係止溝4aおよび4bが距離tにて離間する相互配置を有する、ことが重要である。なお、副係止溝4aと4bとをずらす必要はなく、副係止溝4aと4bは主係止溝3に対して同じ位置関係を有する。この離間距離tはボード1における、主係止溝3、副係止溝4aおよび4bの全ての組毎に設ける。
【0023】
かような配置関係にある主係止溝3と副係止溝4aおよび4bを支持部として貼合わせウェーハ12を装填するに際し、
図7及び
図8に示すように、主係止溝3に対して副係止溝4aおよび4bが離間する方向へ貼合わせウェーハ12の活性側ウェーハ12bが向くように、主係止溝3、副係止溝4aおよび4bのそれぞれに貼合わせウェーハ12を装入する。貼合わせウェーハ12を装入すると、ウェーハ12の周縁部の最下点が主係止溝3の底面と接触してウェーハ12の支点となる一方、副係止溝4aおよび4bに貼合わせウェーハ12の周縁部の前記最下点から離間した2点で保持されることになる。
【0024】
ここで、主係止溝3と副係止溝4aおよび4bとは上記した相互配置を有し、主係止溝3における支点と副係止溝4aおよび4bにおける保持点が離間しているために、
図9に示すように、貼合わせウェーハ12は主係止溝3を起点として副係止溝4aおよび4b側に傾くことを強いられる。その結果、主係止溝3の前記支点Sを通る鉛直線L1に対して活性側ウェーハ12bの側に貼合わせウェーハ12の重心Wが位置する装填姿勢が実現する。この装填姿勢では、
図9に示すように、貼合わせウェーハ12の活性側ウェーハ12bの周縁部が主係止溝3の底面に当接して支点となり、支持側ウェーハ12aの周端部は底面との接触は回避される。
【0025】
このことは、副係止溝4aおよび4bにおいても同様であり、貼合わせウェーハ12の重心が活性側ウェーハ12b側にあるため、
図10に示すように、副係止溝4aおよび4bの溝壁面に接触するのは活性側ウェーハ12bであり、支持側ウェーハ12aは溝壁面との接触は回避される。
【0026】
以上説明したとおり、貼合わせウェーハをボートに装填して行う熱処理において、ボートに対して、活性側ウェーハ12bの周縁部を接触させる一方で、支持側ウェーハ12aの周縁部並びに表面のいずれも接触させない、貼合わせウェーハの装填が実現される。従って、このボートを用いて熱処理を行うことによって、該熱処理における酸化膜の部分剥離は抑制される結果、欠陥のないSOIウェーハを製造することができる。
【0027】
貼合わせウェーハ12の重心が活性側ウェーハ12b側にするには、上記のとおり、主係止溝3を通る鉛直線Lに対して副係止溝4aおよび4bが距離tにて離間する相互配置とすればよい。この距離tは特に限定する必要はないが、距離tを0.18mm以上とすることが好ましい。すなわち、距離tが0.18mm未満では、係止溝3の支点Sを通る鉛直線L1に対して重心Wの離間距離が小さくなって、例えばボート1のハンドリング時などに貼合わせウェーハ12が支持側ウェーハ12a側へ倒れる、おそれがあるため、0.18mm以上とすることが好ましい。より好ましくは、1.00mm以上である。
【0028】
一方、上限は、距離tが大きくなり過ぎると、貼合わせウェーハをボートに装填する作業に支障を来すことになり、またボードに設けられる主係止溝3、副係止溝4aおよび4bの組数が減少することになるため、これらに現場環境やウェーハ径を加味して総合的に判断すればよい。例えば、ウェーハ径が200mmの場合では、距離tは7mm以下とすることが好ましい。
【0029】
なお、距離tは、
図5に示したように、ボートの側面視において、主係止溝3の開口幅中心を通る鉛直線Lから、副係止溝4aおよび4bの開口幅中心までの最短距離である。
【0030】
前記距離tは、主係止溝3と副係止溝4aおよび4bとの関係において規定しているが、係止溝は4箇所以上に設けることも可能である。その場合は、同一円弧上において、最下点に位置する主係止溝を挟んで対向する2つの副係止溝は主係止溝に隣接する係止溝とする。
【0031】
上記のとおり、主係止溝3を通る鉛直線Lに対して副係止溝4aおよび4bが距離tにて離間する相互配置とすれば、支持側ウェーハ12aの周縁部並びに表面のいずれも接触させない、貼合わせウェーハの装填が実現される。この装填状態では、支持側ウェーハ12aの周縁部は主係止溝3の底面と離間し、底面が水平であっても僅かの隙間が形成され、底面との接触が回避されている。支持側ウェーハ12aの周縁部と底面との隙間は大きいことが好ましく、そのためには、
図11に示すように、主係止溝3の底面3aを水平面Hに対して傾斜させることが好ましい。この傾斜は、主係止溝3内に貼合わせウェーハ12を装入した際に活性側ウェーハ12bが面する溝側壁3bから逆側の溝側壁3c側へ下る向きに付与する。底面3aに与える傾斜角度αは、1°以上であることが好ましい。すなわち、傾斜角度αが1°以上であれば、例え支持側ウェーハ12aの径にばらつきがある場合にも支持側ウェーハ12aの周縁部と底面3aとの接触を確実に回避することができる。より好ましくは、αが14°以上である。
【0032】
一方、傾斜角度αの上限は、20°とすることが好ましい。すなわち、傾斜角度αが大きくなって急傾斜になると活性側ウェーハ12bと底面3aとの接触部が溝側壁3c側へずれて支持側ウェーハ12aが溝側壁3cと接触する、おそれがあるため、20°以下とすることが好ましい。
【0033】
また、主係止溝3の溝側壁3bおよび3cには、貼合わせウェーハ装入時の作業性を考慮して溝底面3aから開口端へ向かって開口幅が拡大する向きの傾斜が付与されるのが通例である。本発明のボ-トにおいても同様の傾斜を与えることが好ましく、支持側ウェーハ12aと対向する溝側壁3cは従前の傾斜角度βとして差し支えない。一方、溝側壁3bに与える傾斜角度γは、従前の傾斜角度βに、上記した距離tによって貼合わせウェーハが傾く分σを加えればよい。例えば、傾斜角度βが7.5°であり、距離t:1mmのときのσが1°である場合のγは、8.5°となる。なお、傾斜角度γの上限は、隣り合う主係止溝3相互間におけるウェーハ相互の干渉がないように、隣り合う主係止溝3の間隔を考慮して決定すればよい。例えば、一般的な仕様のボートにおいては、傾斜角度γを42°以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0034】
径が75mm、100mmおよび150mm、厚みが675mmおよび725mmの貼合わせウェーハを作製し、これら貼合わせウェーハを、表1に仕様を示す、従来ボートおよび本発明に従うボートに装填し、熱処理(1200℃、9時間、水素および酸素の混合ガス雰囲気)に供した。熱処理後に加熱炉からボートを取り出し、さらにボート10から取り出した貼合わせウェーハ12を、
図2(a)に示すように、支持側ウェーハ12aに貼り付けた活性側ウェーハ12bの周辺部の面取りを行った後に、エッチング加工(アルカリ(TMAH)中で140分)を施した。
【0035】
【0036】
かくして得られたエッチング加工後の貼合わせウェーハ12について、支持側ウェーハの周縁部におけるピットの有無を観察したところ、従前のボートを用いて熱処理が施された貼合わせウェーハには、エッチング処理後に支持側ウェーハの周縁部に10~20μm深さのピットがみとめられた。一方、本発明に従うボートを用いて熱処理が施された貼合わせウェーハには、エッチング処理後の支持側ウェーハの周縁部にピットが全くみとめられなかった。
【符号の説明】
【0037】
1 ボート
2 ボート本体
3 主係止溝
3a 底面
4a、4b 副係止溝
12 貼合わせウェーハ
12a 支持側ウェーハ
12b 活性側ウェーハ