(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20230627BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20230627BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C23C14/56 G
C23C14/04 A
H01L21/68 A
(21)【出願番号】P 2019144898
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】西口 昌男
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤一郎
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532888(JP,A)
【文献】特表2020-502778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 14/04
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアにセットした被処理基板をその処理面が水平方向を向く垂直姿勢で移送しながら、この被処理基板に対して所定の真空処理を施す真空処理装置において、
水平面内で互いに直交する二方向をX軸方向及びY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、被処理基板の処理面をZ軸方向に向けた水平姿勢で被処理基板が搬出入される第1及び第2の各ロードロックチャンバと、
第1及び第2の各ロードロックチャンバのY軸方向一方にゲートバルブを介して夫々連設され、真空搬送ロボットが配置される第1及び第2の各搬送チャンバと、
第1及び第2の各搬送チャンバのY軸方向一方に連設され、キャリアが設置されて水平姿勢と垂直姿勢との間で被処理基板がセットされたキャリアの姿勢変更を可能とする姿勢変更手段を有する姿勢変更チャンバと、
姿勢変更チャンバのX軸方向一方に連設され、キャリアにセットされた垂直姿勢の被処理基板の処理面に対しその処理範囲を規制するマスクの装着または脱離を可能とするマスク着脱手段を備えるマスク着脱チャンバと、
マスク着脱チャンバのX軸方向一方に連設されて、キャリアにセットされて垂直姿勢で移送される被処理基板に対してマスク越しに所定の真空処理を施す処理手段を有する少なくとも一つの処理チャンバと、を備え、
姿勢変更手段が、X軸方向に並設された、キャリアを保持するX軸回りに回転自在な少なくとも2個の保持ステージを有し、各保持ステージ相互の間でキャリアをX軸方向に移動可能な移動手段が姿勢変更チャンバ内に設けられ、
処理チャンバ内が、X軸方向にのびる仕切壁で処理空間と搬送空間との2室に分離され、姿勢変更チャンバからマスク着脱チャンバを経て処理チャンバの処理空間へと線状にのびて垂直姿勢のキャリアのX軸方向一方への移送を可能とする第1搬送路と、処理チャンバの搬送空間からマスク着脱チャンバを経て姿勢変更チャンバへと線状にのびて垂直姿勢のキャリアのX軸方向他方への移送を可能とする第2搬送路とを更に有
し、
マスク着脱チャンバにて処理前の被処理基板の処理面にマスクが装着された状態のキャリアが第1搬送路に沿ってX軸方向一方に移送されて被処理基板の処理面に対してマスク越しに所定の真空処理が施され、その後に第1搬送路のキャリアが第2搬送路へと受け渡されて第2搬送路に沿ってX軸方向他方に移送され、マスク着脱チャンバにて成膜済み被処理基板からマスクを取り外し、この取り外したマスクを処理前の被処理基板に再度装着するように構成したことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
X軸方向最下流側に位置する
前記処理チャンバに連設され
るレーンチェンジチャンバを更に備え、レーンチェンジチャンバ内に、
前記第1搬送路を移送されてきたキャリアを受け取り、被処理基板の姿勢を維持した状態でキャリアを
前記第2搬送路に受け渡すレーンチェンジ手段
を設けたことを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアにセットした被処理基板をその処理面が水平方向を向く垂直姿勢で移送しながら、この被処理基板に対して、成膜処理、熱処理、エッチング処理といった各種の真空処理を施す真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程においては、ガラスなどの板状の被処理基板(以下、「基板」という)の一方の面(処理面)に、下部電極、単層又は多層の有機膜(有機発光層)、上部電極や保護層を形成する工程がある。これらの工程は、製品歩留まりを可及的に高めるために真空雰囲気で一貫して実施することが一般であり、例えば特許文献1で知られている真空処理装置が利用される(例えば、
図10に示す従来例のものを参照)。このものは、基板がその処理面を鉛直上方に向けた水平姿勢で搬入される第1のロードロックチャンバを備え、第1のロードロックチャンバには、ゲートバルブを介して真空搬送ロボットを配置する搬送チャンバが連設されている。搬送チャンバには、ゲートバルブを介して準備チャンバが設けられ、準備チャンバにて、真空搬送ロボットにより真空雰囲気の第1のロードロックチャンバから搬送チャンバを経て搬送されてくる基板が、基板の処理面に対しその処理範囲を規制するマスクを備えるキャリア(パレット)に位置決めした状態でセットされるようになっている。
【0003】
準備チャンバには、各種の真空処理(例えば、蒸着による成膜処理)を施す複数個の処理チャンバが連設され、各処理チャンバを移送される間に、基板に対してマスク越しに各種の真空処理が施される。最下流側に位置する処理チャンバには、キャリアと基板との分離を可能とする分離チャンバが連設され、分離チャンバには、各ゲートバルブを介して真空搬送ロボットを配置する搬送チャンバと、第2のロードロックチャンバとが連設されている。そして、真空搬送ロボットにより処理済みの基板のみを搬出し、適宜他の真空処理を施した後、第2のロードロックチャンバに搬送されて大気雰囲気の第2のロードロックチャンバから処理済みの基板が回収されるようになっている。分離チャンバにはまた、移送チャンバが連設され、移送チャンバが準備チャンバに連設されて、基板が分離されたキャリアのみを準備チャンバに戻すことができるようにしている。
【0004】
上記従来例のものでは、少なくとも一つの処理チャンバの両側に、夫々が第1及び第2の各ロードロックチャンバに連設される準備チャンバと分離チャンバとを設けているため、基板が分離されたキャリアのみを準備チャンバに戻すための搬送経路が長くなる。このため、第1のロードロックチャンバに順次搬入される基板を効率よく処理チャンバに搬送して所定の真空処理をするには、基板より多い数のキャリアが必要となるという問題がある。
【0005】
ところで、基板に対して真空雰囲気で一貫して各種の真空処理を施すとき、より一層製品歩留まりを高めるために、ロードロックチャンバから処理チャンバに移送される経路にて、基板を水平姿勢からその処理面を水平方向に向けた垂直姿勢に姿勢変更することが一般に知られている。上記従来例のものに適用する場合、準備チャンバにてキャリアに基板をセットした後、垂直姿勢に変更し、準備チャンバにマスク装着チャンバを連設してこのマスク装着チャンバにて垂直姿勢の基板の処理面にマスクを装着することになる。そして、分離チャンバにてキャリアと共にマスクも回収することになるが、回収したマスクをマスク装着チャンバに移送するための他の移送チャンバが必要になり、これでは、装置コストがアップし、しかも、上記同様、使用するマスクの数も多くなるという問題を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、キャリアやマスクの使用枚数を可及的に少なくでき、効率よく(即ち、短いタクトタイムで)被処理基板に対して各種の真空処理を施すことができる真空処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、キャリアにセットした被処理基板をその処理面が水平方向を向く垂直姿勢で移送しながら、この被処理基板に対して所定の真空処理を施す本発明の真空処理装置は、水平面内で互いに直交する二方向をX軸方向及びY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、被処理基板の処理面をZ軸方向に向けた水平姿勢で被処理基板が搬出入される第1及び第2の各ロードロックチャンバと、第1及び第2の各ロードロックチャンバのY軸方向一方にゲートバルブを介して夫々連設され、真空搬送ロボットが配置される第1及び第2の各搬送チャンバと、第1及び第2の各搬送チャンバのY軸方向一方に連設され、キャリアが設置されて水平姿勢と垂直姿勢との間で被処理基板がセットされたキャリアの姿勢変更を可能とする姿勢変更手段を有する姿勢変更チャンバと、姿勢変更チャンバのX軸方向一方に連設され、キャリアにセットされた垂直姿勢の被処理基板の処理面に対しその処理範囲を規制するマスクの装着または脱離を可能とするマスク着脱手段を備えるマスク着脱チャンバと、マスク着脱チャンバのX軸方向一方に連設されて、キャリアにセットされて垂直姿勢で移送される被処理基板に対してマスク越しに所定の真空処理を施す処理手段を有する少なくとも一つの処理チャンバと、を備え、姿勢変更手段が、X軸方向に並設された、キャリアを保持するX軸回りに回転自在な少なくとも2個の保持ステージを有し、各保持ステージ相互の間でキャリアをX軸方向に移動可能な移動手段が姿勢変更チャンバ内に設けられ、処理チャンバ内が、X軸方向にのびる仕切壁で処理空間と搬送空間との2室に分離され、姿勢変更チャンバからマスク着脱チャンバを経て処理チャンバの処理空間へと線状にのびて垂直姿勢のキャリアのX軸方向一方への移送を可能とする第1搬送路と、処理チャンバの搬送空間からマスク着脱チャンバを経て姿勢変更チャンバへと線状にのびて垂直姿勢のキャリアのX軸方向他方への移送を可能とする第2搬送路とを更に有し、マスク着脱チャンバにて処理前の被処理基板の処理面にマスクが装着された状態のキャリアが第1搬送路に沿ってX軸方向一方に移送されて被処理基板の処理面に対してマスク越しに所定の真空処理が施され、その後に第1搬送路のキャリアが第2搬送路へと受け渡されて第2搬送路に沿ってX軸方向他方に移送され、マスク着脱チャンバにて成膜済み被処理基板からマスクを取り外し、この取り外したマスクを処理前の被処理基板に再度装着するように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明においては、X軸方向最下流側に位置する前記処理チャンバに連設されるレーンチェンジチャンバを更に備え、レーンチェンジチャンバ内に、前記第1搬送路を移送されてきたキャリアを受け取り、被処理基板の姿勢を維持した状態でキャリアを前記第2搬送路に受け渡すレーンチェンジ手段を設けた構成を採用できる。
【0010】
以上によれば、大気雰囲気の第1のロードロックチャンバに、処理前の被処理基板が水平姿勢で搬入される。第1のロードロックチャンバを真空排気した後、真空搬送ロボットにより水平姿勢の被処理基板が第1の搬送チャンバを経て姿勢変更チャンバに搬送される。このとき、一方の保持ステージは水平姿勢とされ、その上面にはキャリアが予め位置決め設置され、キャリアに、真空搬送ロボットにより搬送されてきた被処理基板がその処理面を上方に向けた姿勢でセットされる。その後、姿勢変更手段としての保持ステージがX軸回りに例えば90度回転されて、被処理基板がセットされたキャリアが水平姿勢から垂直姿勢に変更される。本発明において「垂直姿勢」には、被処理基板の処理面が厳密に鉛直方向に沿っている場合だけでなく、鉛直方向に対して所定角度で傾いているような場合も含む。
【0011】
次に、被処理基板がセットされた垂直姿勢のキャリアが第1搬送路に受け渡された後、第1搬送路によりマスク着脱チャンバに移送される。マスク着脱チャンバ内では、マスク着脱手段によって被処理基板の処理面に対してマスクが装着される。この状態では、被処理基板がY軸方向一方を向く姿勢となる。第1搬送路により被処理基板及びマスクがセットされた垂直姿勢のキャリアが処理チャンバの処理空間へと移送され、少なくとも一つの処理チャンバの処理空間を通過する間で所定の真空処理がマスク越しに施され、レーンチェンジチャンバに到達する。レーンチェンジチャンバでは、処理済みの被処理基板がY軸方向一方を向く姿勢を維持したまま第2搬送路へと受け渡される。そして、X軸方向他方で処理チャンバの搬送空間を通ってマスク着脱チャンバに移送される。マスク着脱チャンバでは、マスク着脱手段によって処理済みの被処理基板の処理面からマスクが脱離される。この脱離されたマスクは、第1搬送路により次に搬送されてくる被処理基板に装着される。
【0012】
第2搬送路により処理済みの被処理基板がセットされたキャリアが姿勢変更チャンバ内の所定位置に移送されたとき、姿勢変更チャンバでは他方の保持ステージが垂直姿勢で待機しており、この保持ステージに垂直姿勢のキャリアが受け渡されて保持される。その後、保持ステージがX軸回りに例えば90度回転されて、キャリアが垂直姿勢から水平姿勢に戻される。この状態で、真空搬送ロボットにより処理済みの被処理基板のみが例えば第2の搬送チャンバを経て第2のロードロックチャンバに戻され、大気雰囲気の第2のロードロックチャンバから回収される。これに併せて、被処理基板が取り除かれた水平姿勢で空のキャリアは移動手段により他方の保持ステージから一方の保持ステージへと移動される。このとき、他の処理前の被処理基板が大気雰囲気の第1のロードロックチャンバに搬入された後、第1のロードロックチャンバが真空排気した状態で待機しており、以降、上記手順を繰り返して、複数枚の被処理基板に対して真空処理が施される。
【0013】
このように本発明では、姿勢変更チャンバ内に、キャリアを保持する少なくとも2個の保持ステージをX軸方向に並設すると共に、各保持ステージ相互の間でキャリアを移動自在としたため、例えば、一方の保持ステージで保持されたキャリアから処理済みの被処理基板を搬出した後、空のキャリアを他方の保持ステージに移動させれば、第1のロードロック室への処理済みの被処理基板の搬出と、第2のロードロック室からの処理前の被処理基板の搬入とを同時に実施できて効率的であり、しかも、空のキャリアには、処理前の被処理基板を速やかにセットできる。この場合、キャリアは、真空処理装置内を移送される被処理基板と同一の数だけあれば済み、上記従来例のように余分のキャリアは必要ない。また、処理チャンバのX軸方向の延長線上に位置する一箇所のマスク着脱チャンバで被処理基板に対するマスクの着脱を行う構成を採用しているため、処理チャンバ(レーンチェンジチャンバを含む)を移送されている被処理基板の数だけマスクがあれば済み、上記従来例のように余分のマスクも必要なく、このとき、回収したマスクを再度利用するために、搬送するといったことを不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の真空処理装置の模式横断面図。
【
図2】姿勢変更チャンバの模式縦断面図であり、(a)及び(b)は、水平姿勢から垂直姿勢にして第1搬送路へ受け渡す場合を説明する図。
【
図4】本発明の他の実施形態の真空処理装置の模式横断面図。
【
図5】本発明の他の実施形態の真空処理装置の模式横断面図。
【
図6】本発明の他の実施形態の真空処理装置の模式横断面図。
【
図7】本発明の他の実施形態の真空処理装置の模式横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、被処理基板を矩形の輪郭を持つガラス基板(以下、「基板Sw」という)、所定の真空処理を基板Swの一方の面(処理面)にマスクMs越しに所定薄膜を成膜する成膜処理とし、3個の処理チャンバを通過させて所定の薄膜を順次積層する場合を例に本発明の真空処理装置の実施形態を説明する。以下においては、水平面内で互いに直交する2方向をX軸方向及びY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向とする。
【0016】
図1及び
図2を参照して、本実施形態の真空処理装置VMは、基板Swの処理面をZ軸方向上方に向けた水平姿勢で基板Swが搬出入される第1及び第2の各ロードロックチャンバLc1,Lc2を備える。各ロードロックチャンバLc1,Lc2には、特に図示して説明しないが、真空ポンプからの排気管とベントガスを導入するベントガスラインとが夫々接続され、各ロードロックチャンバLc1,Lc2内を真空雰囲気と大気雰囲気とに適宜切り換えることができるようにしている。そして、各ロードロックチャンバLc1,Lc2では、その内部を大気雰囲気とした状態で、図外の大気搬送ロボットにより処理面をZ軸方向上方に向けた水平姿勢で基板Swが搬出入される(以下において、「基板Sw1」という場合は処理前のものを、「基板Sw2」という場合は処理済みのものを指すものとする)。
【0017】
各ロードロックチャンバLc1,Lc2のY軸方向一側(
図1中、上側)には、ゲートバルブGvを介して、平面視略正方形の輪郭を持つ第1及び第2の各搬送チャンバTc1,Tc2が夫々連設されている。各搬送チャンバTc1,Tc2には、図外の真空ポンプからの排気管が夫々接続され、それらの内部を所定圧力の真空雰囲気に維持できるようにしている。各搬送チャンバTc1,Tc2にはまた、フォーク状のロボットハンドRhを持つ公知の真空搬送ロボット(図示せず)が配置され、真空搬送ロボットにより真空雰囲気の各ロードロックチャンバLc1,Lc2と、後述の姿勢変更チャンバAcとの間で基板Sw1,Sw2を搬送できるようにしている。
【0018】
各搬送チャンバTc1,Tc2のY軸方向一側(
図1中、上側)には、基板Swの姿勢を変更する単一の姿勢変更チャンバAcが連設されている。姿勢変更チャンバAcには、図外の真空ポンプからの排気管が夫々接続され、その内部を所定圧力の真空雰囲気に維持できるようにしている。この場合、各搬送チャンバTc1,Tc2と姿勢変更チャンバAcとの間にはゲートバルブを設けるようにしてもよい。姿勢変更チャンバAcには、一対の姿勢変更手段1a,1bが設けられている。各姿勢変更手段1a,1bは、同一の形態を有し、X軸方向に間隔を置いて立設した2本のフレーム11と、各フレーム11間に軸架された回転軸12と、回転軸12に(X軸回りに)回転自在に取り付けられた保持ステージ13とを備え(
図2参照)、各姿勢変更手段1a,1bの保持ステージ13,13が、X軸方向に並設されるようにしている。
【0019】
一方の姿勢変更手段1a(1b)の保持ステージ13には、基板Swをその一方の面(処理面)を開放した状態で保持する金属製で矩形の輪郭を持つキャリアCaが保持されている。上記真空搬送ロボットにより水平姿勢の保持ステージ13上に設置されているキャリアCaに基板Sw1がセットされると、図外のモータにより回転軸12を回転させて保持ステージ13が90度回転されて、キャリアCaが、基板Sw1の処理面がX軸方向前方を向く垂直姿勢となる。なお、保持ステージ13の回転時、キャリアCaの保持ステージ13からの脱落を防止する保持方法としては、電磁石を用いたもの等、公知のものが利用でき、また、キャリアCaの形態やキャリアCaに対する基板Sw1のセット方法は、クランプを利用したもの等、公知のものが利用できるため、ここでは説明を省略する。以下において、「キャリアCa1」という場合、基板Sw1がセットされたものを、「キャリアCa2」という場合、基板Sw2がセットされたものを指すものとする。
【0020】
また、姿勢変更チャンバAcには、単軸ロボット14aとそのスライダ14bとから構成される移動手段14が設けられている。各姿勢変更手段1a,1bのフレーム11は各スライダ14bで夫々支持され、Y軸方向前後(
図1中、上下方向)に保持ステージ13,13で保持されたキャリアCaが往復動自在となっている。姿勢変更チャンバAcにはまた、単軸ロボット15aとそのスライダ15bとから構成される他の移動手段15が設けられている。キャリアCaが設置される保持ステージ13の面は、キャリアCaの面積より小さく設定され、保持ステージ13からY軸方向に夫々突出したキャリアCaの裏面にスライダ15bが設けられ、キャリアCaが、X軸方向にて両姿勢変更手段1a,1bの保持ステージ13,13相互の間で往復動自在となっている。
【0021】
姿勢変更チャンバAcのX軸方向一側(
図1中、右側)には、単一のマスク着脱チャンバMcが連設されている。マスク着脱チャンバMcには、図外の真空ポンプからの排気管が夫々接続され、その内部を所定圧力の真空雰囲気に維持できるようにしている。マスク着脱チャンバMc内には、キャリアCa1にセットされた垂直姿勢の基板Sw1の処理面にマスクMsを装着し、または、キャリアCa2にセットされた垂直姿勢の基板Sw2の処理面からマスクMsを脱離するマスク着脱手段2が設けられている。マスク着脱手段2は、マスク着脱チャンバMcのY軸方向の一側内面に設けられる電磁石21と、電磁石21への通電時に発生する磁力より弱く設定した永久磁石22とを備える。マスクMsとしては、インバー、アルミやステンレス等の金属製のものが用いられ、基板Sw1の処理面に成膜しようとするパターンに応じて板厚方向に貫通する開口(図示せず)が形成されている。
【0022】
マスク着脱手段2の待機状態では、電磁石21に図外の電源から通電されて電磁石21に永久磁石22が吸着され、永久磁石22がマスクMsの外周縁部に吸着されることでマスクMsが保持された状態となっている。基板Sw1の処理面に対してマスクMsを装着する場合、キャリアCa1をY軸方向一方(
図1中、上方)に移動させてマスクMsの外周縁部をキャリアCa1の外周縁に当接させる。この状態で、永久磁石22の磁力によってマスクMsがキャリアCa1に吸着される。そして、電磁石21への通電を停止した後、キャリアCa1をY軸方向他方(
図1中、下方)に移動させると、電磁石21と永久磁石22との吸着が解除され、永久磁石22によってマスクMsがキャリアCa1に吸着保持された状態となる。一方、基板Sw2の処理面からマスクMsを脱離する場合は、マスクMsの外周縁部をキャリアCa2の外周縁に当接させた後、電磁石21への通電を開始すればよい。なお、特に図示して説明しないが、マスク着脱チャンバMcにはCCDカメラなどの撮像手段が設けられ、撮像手段で撮像した画像データを基に基板Sw1の処理面に対するマスクMsの位置を相対移動させてアライメントされるようになっている。
【0023】
マスク着脱チャンバMcのX軸方向一側(
図1中、右側)には、3個の処理チャンバPc1~Pc3が順次連設されている。通過開口Poを介して互いに連通する各処理チャンバPc1~Pc3は、X軸方向にのびる仕切壁31によってY軸方向(
図1中、上下方向)で2室に夫々分離され、各処理チャンバPc1~Pc3のY軸方向一方(
図1中、上方)の室が処理空間32を、また、そのY軸方向他方(
図1中、下方)の室が搬送空間33を区画するようになっている。そして、マスクMsが装着された基板Sw1の処理面がY軸方向一方(
図1中、上方)を向く垂直姿勢にてキャリアCa1が各処理チャンバPc1~Pc3の処理空間32を通過する間で、基板Sw1の処理面に対してマスクMs越しに成膜処理されるようになっている。成膜処理としては、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等の公知のものが利用でき、その成膜法に応じて、蒸着源、スパッタリングカソードやプロセスガス導入手段といった各種の装備が各処理空間32内に成膜手段(処理手段)4として設けられる。なお、これらの成膜処理及びそれに必要は装備については公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0024】
最下流側に位置する処理チャンバPc3のX軸方向一側には、レーンチェンジチャンバRcが連設されている。レーンチェンジチャンバRcには、Y軸方向に移動自在なレーンチェンジ手段としての移動ステージ5が設けられ、後述の第1搬送路61を移送されてきたキャリアCa2を受け取り、基板Sw2の姿勢を維持した状態でキャリアCa2を後述の第2搬送路62に受け渡すようになっている。また、真空処理装置VMは、姿勢変更チャンバAcから、マスク着脱チャンバMcと各処理チャンバPc1~Pc3とを通って、レーンチェンジチャンバRcまで線状にのびるように、Y軸方向に間隔をおいて2本の第1搬送路61と第2搬送路62とが設けられ、垂直姿勢のキャリアCa1,Ca2を順次移送できるようになっている。第1搬送路61及び第2搬送路62としては、例えば、非接触給電によりキャリアCa1,Ca2を磁気浮上させ、搬送路61,62に沿ってキャリアCa1,Ca2を移送する公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。以下に、上記真空処理装置VMを用いた基板Swに対する成膜処理の手順を説明する。
【0025】
先ず、大気雰囲気の第1のロードロックチャンバLc1に、基板Sw1がその処理面がZ軸方向上方を向く水平姿勢で搬入されると、ロードロックチャンバLc1内が真空排気される。このとき、両搬送チャンバTc1,Tc2、姿勢変更チャンバAc、各処理チャンバPc1~Pc3並びに、レーンチェンジチャンバRcもまた所定圧力まで真空排気された状態となっている。以下においては、各処理チャンバPc1~Pc3の処理空間32及び搬送空間33に夫々キャリアCa1,Ca2が事前に仕込まれ、マスク着脱チャンバMc内には、第2搬送路62上に位置してマスクMsが脱離された処理済みの基板Sw2を保持するキャリアCa2があるものとする。また、姿勢変更チャンバAc内の一方の姿勢変更手段1aの保持ステージ13が水平姿勢であり、その上面(設置面)にキャリアCaが位置決め保持され、他方の姿勢変更手段1bの保持ステージ13が垂直姿勢であり、キャリアCaを保持していないものとする。
【0026】
第1のロードロックチャンバLc1内が所定圧力に達すると、ゲートバルブGvを開けて、第1の搬送チャンバTc1、第1のロードロックチャンバLc1(及び姿勢変更チャンバAc)を互いに連通した状態とし、ロボットハンドRhを持つ真空搬送ロボットにより水平姿勢の基板Sw1を姿勢変更チャンバAcの一方の姿勢変更手段1aの保持ステージ13上に存するキャリアCaへと搬送する。基板Sw1のキャリアCa1への搬送が終了すると、ゲートバルブGvを閉じて、第1の搬送チャンバTcと第1のロードロックチャンバLc1とを互いに隔絶する。
【0027】
次に、図外のモータにより回転軸12を介して保持ステージ13を所定方向に90度回転させ、キャリアCa1を基板Sw1がY軸方向一方(
図1中、上方)を向く垂直姿勢にする(
図2(a)中、仮想線で示すもの参照)。なお、「垂直姿勢」には、基板Swの処理面が厳密に鉛直方向に沿っている場合だけでなく、鉛直方向に対して所定角度で傾いているような場合も含む。そして、キャリアCa1を保持した保持ステージ13が一方の移動手段14によりY軸方向一方(
図1中、上方)に移送され(
図2(b)参照)、キャリアCa1の保持を解消してキャリアCa1が保持ステージ13から第1搬送路61に受け渡され、第1搬送路61によりキャリアCa1がマスク着脱チャンバMcへと移送される。これに同期させて、第2搬送路62によりキャリアCa2がマスク着脱チャンバMcから姿勢変更チャンバAc内の他方の姿勢変更手段1bの保持ステージ13に対峙する位置へと移送される。
【0028】
マスク着脱チャンバMcの所定位置にキャリアCa1が移送されると(
図3参照)、キャリアCa1がY軸方向一方(
図1中、上方)に移動され、マスクMsの外周縁部をキャリアCa1の外周縁に当接させる。この状態で、電磁石21への通電を停止した後、キャリアCa1をY軸方向他方(
図1中、下方)に移動して第1搬送路61の所定位置に戻す。この状態では、永久磁石22によってマスクMsがキャリアCa1に吸着保持された状態となる。マスクMsが装着されると、キャリアCa1が、第1搬送路61に沿って処理チャンバPc1の処理空間32から処理チャンバPc3の処理空間32へと連続して移送され、各処理チャンバPc1~Pc3の処理空間32を通過する間で成膜手段4によりマスクMs越しに成膜処理が施される。その後、処理済みの基板Sw2を保持するキャリアCa2が、最下流側の処理チャンバPc3から、レーンチェンジチャンバRc内の移動ステージ5に受け渡される。
【0029】
次に、移動ステージ5がY軸方向他方に移動された後、キャリアCa2が、レーンチェンジチャンバRc内の移動ステージ5から最下流側の処理チャンバPc3の第2搬送路62へと受け渡され、第2搬送路62により各処理チャンバPc1~Pc3の処理空間32を経てマスク着脱チャンバMcへと連続して移送される。マスク着脱チャンバMcに移送されると、キャリアCa2がY軸方向一方(
図1中、上方)に移動され、マスクMsの外周縁部をキャリアCa1の外周縁に当接させる。この状態で、電磁石21への通電を開始した後、キャリアCa1をY軸方向他方(
図1中、下方)に移動して第2搬送路62の所定位置に戻す。この状態では、電磁石21に永久磁石22を介してマスクMsが吸着された状態となる。
【0030】
一方、他方の姿勢変更手段1bの保持ステージ13に対峙する位置へと移送されたキャリアCa2は、移動手段14によりY軸方向他方(
図1中、下方)に移動されている保持ステージ13に受け渡され、保持ステージ13で保持される。この状態で、図外のモータにより回転軸12を介して保持ステージ13を所定方向に90度回転させて、キャリアCa2を基板Sw2がZ軸方向一方を向く水平姿勢に戻した後、保持ステージ13が移動手段14によりY軸方向一方に移動される。そして、ゲートバルブGvを開けて、第2の搬送チャンバTc2、第2のロードロックチャンバLc2及び姿勢変更チャンバAcを互いに連通した状態とし、ロボットハンドRhを持つ真空搬送ロボットにより水平姿勢の基板Sw2を第2のロードロックチャンバLc2に搬送し、ロードロックチャンバLc2を大気開放した後、基板Sw2が回収される。基板Sw2が取り除かれた空のキャリアCaは、他の移動手段15により姿勢変更チャンバAcに移動される。このとき、第1のロードロックチャンバLc1には基板Sw1が搬入された後、真空排気されて待機状態となっており、以降、上記手順を繰り返して、複数枚の基板Sw1に対して真空処理が施される。
【0031】
以上の実施形態によれば、姿勢変更チャンバAc内に、キャリアCaを保持する2個の保持ステージ13,13をX軸方向に並設すると共に、各保持ステージ13,13相互の間でキャリアCaを移動自在としたため、例えば、他方の姿勢変更手段1bの保持ステージ13で保持されたキャリアCaから処理済みの基板Sw2を搬出した後、空のキャリアCaを一方の姿勢変更手段1aの保持ステージ13に移動させれば、第2のロードロック室Lc2への処理済みの基板Sw2の搬出と第1のロードロック室Lc1からの次の処理前の基板Sw1の搬入とを同時に実施できて効率的であり、しかも、空のキャリアCaには基板Sw1を速やかにセットできる。このため、キャリアCaは、真空処理装置VM内を移送される基板Swと同一の数だけあれば済み、上記従来例のように余分のキャリアは必要ない。また、処理チャンバPc1~Pc3のX軸方向の延長線上に位置する一箇所のマスク着脱チャンバMcで基板Sw1,Sw2に対するマスクMsの着脱を行う構成を採用しているため、処理チャンバPc1~Pc3(レーンチェンジチャンバRcを含む)を移送されている基板Sw1,Sw2の数だけマスクMsがあれば済み、上記従来例のように余分のマスクも必要なく、このとき、回収したマスクを再度利用するために、搬送するといったことを不要にできる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、所定の真空処理を成膜処理としたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、熱処理やエッチング処理など真空雰囲気で実施されるものであれば、その処理内容は問わず、また、連設される処理チャンバPc1~Pc3の数も上記に限定されるものではない。
【0033】
上記実施形態では、2個の搬送チャンバTc1,Tc1と2個のロードロックチャンバLc1,Lc2とを備えるものを例に説明したが、各ロードロックチャンバLc1,Lc2に真空搬送ロボットを配置して1個の搬送チャンバを兼用するようにしたものでもよい。また、上記実施形態では、マスク着脱チャンバMcに処理チャンバPc1~Pc3を順次連設したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、バッファチャンバ(図示せず)を介設してもよく、更に、上記実施形態では、電磁石21と永久磁石22とでマスク着脱手段2を構成したものを例に説明したが、マスクMsの基板Swへの着脱ができるものであれば、上記のものに限定されるものではない。
【0034】
上記実施形態では、第1及び第2の各搬送チャンバTc1,Tc2に単一の姿勢変更チャンバAcを連設し、姿勢変更チャンバAcに一対の姿勢変更手段1a,1bを設けたものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図4に示す真空処理装置VM2のように、各搬送チャンバTc1,Tc2に連設される姿勢変更チャンバAcにおいて、一対の(2個の)姿勢変更手段10a,10dの間に、キャリアCa2から基板Sw2を脱離させる(これにより空のキャリアCa1が得られる)基板脱離手段10cと、空のキャリアCa1に処理前の基板Sw1をセット(装着)する基板装着手段10bとしての保持ステージ13とを設けて、基板処理のタクトタイムがより短くなるように構成することもできる。また、
図5に示す真空処理装置VM3のように、姿勢変更チャンバAcのX軸方向他側(
図5中、左側)にレーンチャンバRcを連設し、姿勢変更チャンバAcから第2搬送路62で搬送されてきた垂直姿勢のキャリアCa1を受け取り、基板Sw1の姿勢を維持した状態でキャリアCa1を第1搬送路61に受け渡すように構成してもよい。
【0035】
また、前後工程の中間に本発明の真空処理装置を接続する場合、同一の部材または要素を同一の符号を用いる
図6に示すように、真空処理装置VM4を構成することもできる。変形例に係る真空処理装置VM4では、処理チャンバPc1~Pc3のX軸方向両側にマスク着脱チャンバMc1,Mc1が夫々連設されると共に、マスク着脱チャンバMcに姿勢変更チャンバAc1,Ac2が夫々連設されている。そして、一方の姿勢変更チャンバAc1において、一対(2個)の姿勢変更手段10a,10dの間に基板装着手段10bを設けると共に、他方の姿勢変更チャンバAc2において、一対(2個)の姿勢変更手段10a,10dの間に基板脱離手段10cを設けることで、基板処理のタクトタイムがより短くなるように構成することもできる。また、
図7に示すように、姿勢変更チャンバAc1のX軸方向他側(
図7中、左側)にレーンチャンバRc1を連設し、姿勢変更チャンバAc1から第2搬送路62で搬送されてきた垂直姿勢のキャリアCa1を受け取り、基板Sw1の姿勢を維持した状態でキャリアCa1を第1搬送路61に受け渡し、姿勢変更チャンバAc2のX軸方向一側(
図7中、右側)にレーンチャンバRc2を連設し、姿勢変更チャンバAc2から第1搬送路61で搬送されてきた垂直姿勢のキャリアCa2を受け取り、基板Sw2の姿勢を維持した状態でキャリアCa2を第2搬送路62に受け渡すように構成してもよい。
【符号の説明】
【0036】
Ca…キャリア、Gv…ゲートバルブ、Lc1,Lc2…ロードロックチャンバ、Mc…マスク着脱チャンバ、Ms…マスク、Pc1~Pc3…処理チャンバ、Rc…レーンチェンジチャンバ、Sw,Sw1,Sw2…基板(被処理基板)、Tc1,Tc2…搬送チャンバ、VM,VM2…真空処理装置、1a,1b…姿勢変更手段、2…マスク着脱手段、4…成膜手段(処理手段)、5…移動ステージ(レーンチェンジ手段)、13…保持ステージ、14…移動手段、31…仕切壁、32…処理空間、33…搬送空間、61…第1搬送路、62…第2搬送路。