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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】研磨用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20230627BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230627BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230627BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019551093
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2018038982
(87)【国際公開番号】W WO2019087818
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017214204
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】丹所 久典
(72)【発明者】
【氏名】須賀 裕介
(72)【発明者】
【氏名】市坪 大輝
(72)【発明者】
【氏名】竹本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】河合 道広
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068672(WO,A1)
【文献】特開2015-078318(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053207(WO,A1)
【文献】特開2017-011220(JP,A)
【文献】特開2016-213216(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170179(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST5874/JST7580/JSTChina (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、水溶性高分子化合物と、塩基性化合物と、重合開始剤と重合禁止剤との反応物と、を含む研磨用組成物であって、
前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量が100,000以上であり、
前記重合開始剤と前記重合禁止剤との前記反応物の含有量が、重量基準で、前記研磨用組成物の0.1ppb以下であり、
前記重合開始剤は、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミドからなる群から選択される一種または二種以上であり、
前記重合禁止剤は、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、フェノチアジン系化合物、およびニトロソアミン系化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であり、
【化1】
(式中、R ~R は、それぞれ独立して、水素、水酸基、炭素数1~8のアルキル基および炭素数1~8のアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。)
【化2】
(式中、XはCH 、CH(CH OH(ただし、pは0~3の整数)、CHO(CH OH(ただし、qは0~3の整数)、CHO(CH CH (ただし、rは0~2の整数)、CHCOOH、またはC=Oを表し、R 4 、R 5 、R 6 およびR 7 は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基から選択される基を表す。)
前記反応物は、前記重合開始剤と前記重合禁止剤とが酸素を介してカップリングした反応物である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記重合開始剤は、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩および2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物からなる群から選択される一種または二種以上であり、
前記重合禁止剤は、前記一般式(1)で表される化合物を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物が、窒素原子を含有するモノマーに由来する構造単位を10mol%以上100mol%以下含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
シリコンウェーハの研磨に用いられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物を製造する方法であって、
前記水溶性高分子化合物および前記重合開始剤と前記重合禁止剤との前記反応物を含むポリマー組成物を用意すること、ここで、該ポリマー組成物における前記反応物の含有量は、重量基準で、前記研磨用組成物に対して0.1ppb以下となる量である、および、
前記ポリマー組成物と前記砥粒と前記塩基性化合物とを混合すること、を含む、研磨用組成物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物およびその製造方法に関する。本出願は、2017年11月6日に出願された日本国特許出願2017-214204号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ(以下、単に、ウェーハともいう。)の平滑化技術として、CMP(ケミカルメカニカルポリシング:化学機械研磨)と呼ばれる研磨プロセスが広く用いられている。CMPには、微細な砥粒と塩基性化合物を含有する研磨用組成物が使用される。CMPプロセスでは、砥粒によるメカニカル研磨と塩基性化合物によるケミカル研磨とが同時進行することにより、広範囲にわたりウェーハ表面を高精度に平滑化できる。
【0003】
一般に、CMPによるウェーハ研磨プロセスでは、3~4段階の研磨を行って、高精度の平滑化を実現している。研磨プロセスの前半では、粗研磨を主目的として高い研磨レートが要求される傾向がある。これに対して、プロセス後半の研磨は、ウェーハをより平滑性の高い高品位の表面に仕上げることを主目的とする。高平滑の表面を得る方法として、水溶性高分子化合物を含む研磨用組成物を用いる方法が知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許出願公開2004-128089号公報
【文献】国際公開第2014/148399号
【文献】国際公開第2014/196299号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体配線の一層の微細化に伴い、高平滑化とともに、一般にLPD(Light Point Defect;LPD)と称される微小欠陥の数をより低減することが望まれている。そこで本発明は、水溶性高分子化合物を含み、かつLPDの低減に適した研磨用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、かかる研磨用組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水溶性高分子化合物を含む研磨用組成物には、該化合物の原料であるモノマー等に由来する重合禁止剤と重合開始剤との反応生成物(以下、単に「反応物」ともいう。)が含まれ得ることに着目した。そして、上記反応物の含有量を所定以下に制限することがLPDの低減に有効であることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
この明細書により提供される研磨用組成物は、砥粒と、水溶性高分子化合物と、塩基性化合物とを含む。上記研磨用組成物は、重合開始剤と重合禁止剤との反応物の含有量が、重量基準で、上記研磨用組成物の0.1ppb以下である。このような反応物は、研磨対象物表面に吸着しやすく、LPDの発生原因となり得る。上記反応物の含有量を0.1ppb以下まで低減することにより、該反応物の吸着に起因するLPDの発生が防止され、全体としてLPDを低減することができる。
【0008】
また、この明細書によると、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を製造する方法が提供される。その方法は、上記水溶性高分子化合物を含むポリマー組成物を用意することを含む。ここで、該ポリマー組成物における上記反応物の含有量は、重量基準で、上記研磨用組成物に対して0.1ppb以下となる量である。上記方法は、上記ポリマー組成物と上記砥粒と上記塩基性化合物とを混合することをさらに含む。このように、上記反応物の含有量が所定以下に制限されたポリマー組成物を用いることにより、ここに開示される研磨用組成物を好適に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルを包括的に示す意味であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に示す意味である。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に示す意味である。
【0010】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒を含有する。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。
【0011】
砥粒としては、特に限定することなく、ウェーハ等の研磨対象物の研磨用組成物として用いられる公知の各種砥粒を用いることができる。かかる砥粒の例としては、シリカ粒子、シリカ以外の無機粒子、有機粒子、または有機無機複合粒子等が挙げられる。砥粒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
ここに開示される技術における砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。シリコン基板等のようにシリコンからなる表面を有する研磨対象物の研磨、例えば仕上げ研磨に用いられ得る研磨用組成物では、砥粒としてシリカ粒子を採用することが特に有意義である。ここに開示される技術は、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上がシリカ粒子であることをいい、100重量%がシリカ粒子であることを包含する意味である。
【0013】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。アルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカをいう。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
砥粒の平均一次粒子径は、特に限定されないが、研磨レート等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、上記BET径は、例えば、15nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、20nm超がより好ましい。また、平滑性向上の観点から、砥粒の平均一次粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。
【0015】
なお、本明細書において平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、平均一次粒子径[nm]=6000/(真密度[g/cm]×BET値[m/g])の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、平均一次粒子径[nm]=2727/BET値[m/g]により平均一次粒子径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0016】
砥粒の平均二次粒子径は特に限定されず、例えば10nm~500nm程度の範囲から適宜選択し得る。研磨レート等の観点から、砥粒の平均二次粒子径は、例えば15nm以上であってよく、20nm以上でもよく、30nm以上でもよい。より高い研磨効果を得る観点から、いくつかの態様において、砥粒の平均二次粒子径は、35nm以上でもよく、40nm以上でもよく、40nm超でもよい。また、平滑性向上の観点から、砥粒の平均二次粒子径は、通常、200nm以下が適当であり、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。より高品位の表面を得やすくする観点から、いくつかの態様において、砥粒の平均二次粒子径は、75nm以下でもよく、70nm以下でもよい。なお、本明細書において砥粒の平均二次粒子径とは、動的光散乱法に基づいて測定される平均粒子径をいう。上記平均粒子径の測定には、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA-UT151」を用いることができる。
【0017】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。上記ピーナッツ形状とは、すなわち、落花生の殻の形状である。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状または繭型形状 をした砥粒を好ましく採用し得る。
【0018】
特に限定するものではないが、砥粒の平均アスペクト比、すなわち砥粒の長径/短径比の平均値は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0019】
砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。上記所定個数とは、例えば200個である。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さを長径の値とし、短辺の長さを短径の値として、長径の値を短径の値で除した値を、各砥粒の長径/短径比、すなわちアスペクト比として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0020】
本組成物における砥粒の含有量は、砥粒の種類、研磨速度や分散安定性に応じて適宜選択されるが、例えば、本組成物の全重量に対して0.001重量%以上10重量%以下とすることができる。また、0.01重量%以上5重量%以下とすることもできる。さらに、0.1重量%以上1重量%以下とすることができる。例えば、砥粒の含有量を0.001重量%以上とすることで、メカニカル研磨の研磨速度を確保でき、10重量%以下であれば、砥粒の分散安定性が確保される。上記砥粒の含有量は、後述のように、研磨対象物に供給されるワーキングスラリーにおける含有量に好ましく適用され得る。
【0021】
<水溶性高分子化合物>
水溶性高分子化合物としては、特に限定されず、研磨用組成物に用いられ得る公知の水溶性高分子化合物を適宜選択して用いることができる。水溶性高分子化合物としては、例えば、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、アクリル酸系ポリマー、窒素原子を含有するポリマー等が挙げられる。セルロース誘導体の例としては、ニトロセルロース、アセチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。また、デンプン誘導体の例としては、デンプンのほか、アミロース、アミロペクチン、プルラン等が挙げられる。オキシアルキレン単位を含むポリマーの例としては、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリエチレングリコール等が挙げられる。ここで、ビニルアルコール系ポリマーとは、該ポリマーを構成する繰返し単位(以下、VA単位ともいう。)として、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分を含むポリマーをいう。VA単位は、例えば、酢酸ビニル等のようなビニルエステル系モノマーがビニル重合した構造の繰返し単位を加水分解(けん化ともいう。)することにより生成し得る。一般にポリビニルアルコールと称されるポリマーは、ここでいうビニルアルコール系ポリマーの概念に包含される。上記ポリビニルアルコールのけん化度は、例えば93%~99%程度であり得るが、特に限定されない。また、ここでいうビニルアルコール系ポリマーとしては、VA単位に加えて非ビニルアルコール単位(以下、非VA単位ともいう。)を含むポリマーを用いることができる。上記非VA単位は、例えば、アルキル基、アリルエーテル基、アリール基、アリールアルキル基、スチレン基等の炭化水素基;アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、オキシアルキレン基等のオキシ炭化水素基;カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、イミノ基、アミジノ基、イミダゾリノ基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩;からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む繰返し単位であり得る。VA単位:非VA単位のモル比は、例えば70:30~99:1程度であり得るが、特に限定されない。水溶性高分子化合物の他の例としては、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。水溶性高分子化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ここに開示される技術のいくつかの態様において、上記水溶性高分子化合物としては、窒素原子を含有するポリマーを好ましく用いることができる。窒素原子を含有するポリマーとしては、例えば、分子内に窒素原子を有するモノマーに由来する構造単位を有するポリマーが挙げられる。分子内に窒素原子を有するモノマー(以下、窒素含有モノマーともいう。)としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)(ジ)イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。窒素原子を含有するポリマーは、このような窒素含有モノマーに由来する構造単位の一種または二種以上を、例えば10mol%以上100mol%以下、または30mol%以上100mol%以下、または50mol%以上100mol%以下、または50mol%を超えて100mol%以下、または70mol%以上100mol%以下含むものであり得る。ここで、窒素原子を含有するポリマーが窒素含有モノマーに由来する構造単位をXmol%以上含むとは、窒素原子を含有するポリマーを構成する繰返し単位の総数のうち窒素含有モノマーに由来する構造単位の数がX%以上であることをいう。
【0023】
なかでも、N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を含むポリマー(以下、モルホリン系ポリマーともいう。)を好ましく用いることができる。かかる構造単位は、アルカリ条件下での加水分解性が十分に抑制されており、使用性に優れる。例えば、pH10.0、温度25℃で、少なくとも2ヶ月の間、加水分解がほぼ100%抑制されうる。また、かかる構造単位は、砥粒やウェーハに対して適度な吸着性を発揮する。したがって、上記構造単位を主体とする水溶性高分子化合物は、塩基性化合物等とともに研磨用組成物を形成した場合にも優れた耐アルカリ性を示し、また、良好な耐エッチング性を発揮する。さらに、かかる構造単位を有するポリマーは、高分子量(例えば、重量平均分子量が60万程度以上)であっても、砥粒(例えばシリカ粒子)を良好に分散できる。
【0024】
モルホリン系ポリマーは、N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を、10mol%以上100mol%以下有することが好ましい。モルホリン系ポリマーにおいて、N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位は、より好ましくは、例えば、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、または50mol%以上であり、さらに好ましくは、50mol%超、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、98mol%以上、99mol%以上、または100mol%である。いくつかの態様において、モルホリン系ポリマーとしては、N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を、例えば50mol%以上100mol%以下、好ましくは70mol%以上100mol%以下、より好ましくは90mol%以上100mol%以下の範囲で有するものを用いることができる。
【0025】
モルホリン系ポリマーは、当該構造単位以外に、N-(メタ)アクリロイルモルホリンと共重合可能なその他のモノマーに由来する構造単位を有することができる。上記その他のモノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸およびフマル酸等の不飽和酸ならびにこれらのアルキルエステル類;無水マレイン酸等の不飽和酸無水物;2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸およびその塩類等のスルホン酸基含有モノマー;メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、n-プロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、n-ブチル(メタ)アクリルアミドおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、エチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(ジ)アルキルアミノアルキルアミド類;メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(ジ)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;スチレン、ビニルトルエンおよびビニルキシレン等の芳香族ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-オクチルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテルおよびn-デシルビニルエーテル等の、炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピパリン酸ビニルおよびバーサチック酸ビニル等のビニルエステル化合物;エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類等が挙げられる。上記その他のモノマーとしては、これらのうち一種または二種以上を用いることができる。
【0026】
モルホリン系ポリマーにおける上記その他のモノマーの使用量は、例えば0mol%以上90mol%以下の範囲とすることができ、0mol%以上50mol%以下でもよく、0mol%以上30mol%以下でもよく、0mol%以上20mol%以下でもよく、0mol%以上10mol%以下の範囲でもよい。上記その他のモノマーの使用量が50mol%を超えると、N-(メタ)アクリロイルモルホリンの使用量が50mol%未満となるため、砥粒およびウェーハへの吸着性のバランスが崩れ、研磨対象物表面が平滑に仕上がらない場合がある。
【0027】
水溶性高分子化合物は、該水溶性高分子化合物がモルホリン系ポリマーである場合を含めて、公知の方法で取得するか、または商業的に入手することができる。例えば、水溶性高分子化合物は、すでに説明した態様のモノマーを重合することによって得ることができる。
【0028】
重合方法は特に制限されるものではないが、水溶性高分子化合物を均一な状態で得ることができる点で、溶液重合法が好ましい。溶液重合法でモノマーをラジカル重合させることにより水溶性高分子化合物を得ることが好ましい。溶液重合の際の重合溶媒としては、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合溶媒、のいずれも使用可能である。上記有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンおよびメチルエチルケトン等が挙げられる。これらは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。通常は、水、または、水と有機溶剤との混合溶媒を、好ましく用いることができる。なかでも、水を重合溶媒とする水溶液重合法を採用することが好ましい。
【0029】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、該化合物がモルホリン系ポリマーである場合を含めて、特に限定されず、例えば、10,000~2,000,000の範囲であり得る。いくつかの態様において、水溶性高分子化合物のMwは、例えば1,500,000以下であってよく、1,200,000以下でもよく、800,000以下でもよい。水溶性高分子化合物のMwが小さくなると、該水溶性高分子化合物の洗浄除去性が向上する傾向にある。また、保護性向上の観点から、いくつかの態様において、水溶性高分子化合物のMwは、例えば50,000以上であってよく、100,000以上でもよく、200,000以上でもよく、300,000以上でもよく、場合によっては400,000以上、さらには500,000以上であってもよい。ここに開示される技術を適用することによるLPD低減効果は、このように比較的Mwの高い水溶性高分子化合物を用いる場合においても有効に発揮され得る。また、水溶性高分子化合物の数平均分子量(Mn)は、該水溶性高分子化合物がモルホリン系ポリマーである場合を含めて、1,000~1,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは1,500~600,000の範囲であり、さらに好ましくは2,000~400,000の範囲である。数平均分子量(Mn)が1,000以上であれば、ウェーハの表面保護性が十分確保され、1,000,000以下であれば、研磨砥粒の分散性を確保することができる。なお、重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、例えば、HLC-8220、東ソー製)を用いて、ポリメタクリル酸メチル換算により測定できる。
【0030】
また、水溶性高分子化合物の分子量分布(PDI)は、該化合物がモルホリン系ポリマーである場合を含め、概して狭いほうが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値が4.0以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。分子量分布(PDI)が4.0以下であれば、十分な表面保護性を示し、かつ、高分子量体に起因して砥粒の分散性が悪化する事象を回避することができる。
【0031】
特に限定するものではないが、研磨用組成物における水溶性高分子の含有量(二種以上を含む場合にはそれらの合計量)は、砥粒100重量部に対して、例えば20重量部以下とすることができる。砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量は、洗浄性向上や研磨速度向上の観点から、例えば10重量部以下であってよく、7重量部以下でもよく、5重量部以下でもよく、4重量部以下でもよく、3重量部以下でもよく、2重量部以下でもよい。また、研磨対象物の表面保護性を高める観点から、砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量は、例えば0.01重量部以上であってよく、通常は0.05重量部以上が適当であり、0.1重量部以上でもよく、0.5重量部以上でもよく、1重量部以上でもよい。
【0032】
(重合禁止剤)
水溶性高分子化合物の合成に用いられるモノマーには、該モノマーの製造、輸送、保存等の際における非意図的な重合反応の進行を防止するために、重合禁止剤が添加されていることがある。重合禁止剤は、概して、光や熱等によってモノマー等に発生したラジカルによって、安定ラジカルを形成する化合物である。なお、本明細書における重合禁止剤の概念には、重合抑制剤と称される化合物も包含される。
【0033】
重合禁止剤は、公知の重合禁止剤から選択された一種または二種以上であり得る。例えば、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、フェノチアジン系化合物、およびニトロソアミン系化合物が挙げられる。下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、フェノチアジン系化合物、およびニトロソアミン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むモノマーを原料に用いて得られた水溶性高分子化合物を、ここに開示される研磨用組成物に含有される水溶性高分子化合物として好ましく採用し得る。このような研磨用組成物では、重合開始剤と重合禁止剤との反応物の含有量を上記研磨用組成物の0.1ppb以下に制限することが特に有意義である。
【0034】
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素、水酸基、炭素数1~8のアルキル基および炭素数1~8のアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。)
【0035】
【化2】
(式中、Xは、CH、CH(CHOH(ただし、pは0~3の整数)、CHO(CHOH(ただし、qは0~3の整数)、CHO(CHCH(ただし、rは0~2の整数)、CHCOOH、またはC=Oを表し、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基から選択される基を表す。)
【0036】
一般式(1)におけるR~Rがアルキル基またはアルコキシ基である場合、該アルキル基またはアルコキシ基に含まれるアルキル基は、直鎖であっても分枝状であってもよい。上記アルキル基またはアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1以上4以下程度であり、より好ましくは1以上3以下程度である。また、Rは、好ましくは、水酸基を表す。
【0037】
一般式(1)で表される化合物の例としては、メチルヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、ヒドロキノン、メトキシフェノール等、4-tert-ブチルピロカテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等が挙げられる。
【0038】
一般式(2)で表される化合物は、公知のピペリジン-1-オキシル類である。R、R、RおよびRとして選択し得る基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。一般式(2)で表される化合物の例としては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、2,2,6,6-テトラエチルピペリジン1-オキシル、2,2,6,6-テトラn-プロピルピペリジン1-オキシルおよびその誘導体が挙げられる。
【0039】
フェノチアジン系化合物としては、フェノチアジン等が挙げられる。また、ニトロソアミン系化合物としては、アンモニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が挙げられる。
【0040】
重合禁止剤の使用量は特に制限されないが、例えば、水溶性高分子化合物全体を構成する全モノマーの合計重量または水溶性高分子化合物の重量に対して0.005重量%(50ppm)以上0.5重量%(5000ppm)以下程度とすることができ、0.01重量%(100ppm)以上0.3重量%(3000ppm)以下が好ましい。
【0041】
(重合開始剤)
上記重合は、典型的には重合開始剤の存在下で行われる。重合開始剤としては、特に限定するものではないが、一般的に用いられる重合開始剤を用いることができる。なかでもラジカル重合開始剤の使用が好ましい。
【0042】
ラジカル重合開始剤は、公知のラジカル重合開始剤の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類等の油溶性の過酸化物、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]および4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸等の水溶性アゾ化合物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等の油溶性アゾ化合物等が挙げられる。
【0043】
こうした重合開始剤のなかでも、重合反応の制御が行い易い点から、過硫酸塩類や水溶性アゾ化合物などの水溶性の重合開始剤を好ましく用いることができる。水溶性アゾ化合物である重合開始剤が特に好ましい。ここに開示される技術は、重合開始剤として水溶性アゾ化合物を用いて得られた水溶性高分子化合物を含む研磨用組成物に好ましく適用され得る。このような研磨用組成物では、重合開始剤と重合禁止剤との反応物の含有量を上記研磨用組成物の0.1ppb以下に制限することが特に有意義である。
【0044】
重合開始剤の使用量は特に制限されないが、例えば、水溶性高分子化合物の合成に用いられるモノマーの合計重量または水溶性高分子化合物の重量に基づいて、0.1~10重量%の割合で使用することが好ましく、0.1~5重量%の割合がより好ましく、0.2~3重量%の割合がさらに好ましい。
【0045】
水溶性高分子化合物の合成にあたっては、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、水溶性高分子化合物の分子量を適度に調整することができる。連鎖移動剤は公知のものを使用することができ、例えば、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、1-ヘキサンチオール、2-ヘキサンチオール、2-メチルヘプタン-2-チオール、2-ブチルブタン-1-チオール、1,1-ジメチル-1-ペンタンチオール、1-オクタンチオール、2-オクタンチオール、1-デカンチオール、3-デカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-ドデカンチオール、2-ドデカンチオール、1-トリデカンチオール、1-テトラデカンチオール、3-メチル-3-ウンデカンチオール、5-エチル-5-デカンチオール、tert-テトラデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、1-ヘプタデカンチオールおよび1-オクタデカンチオール等の炭素数2~20のアルキル基を有するアルキルチオール化合物の他、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトエタノール等が挙げられる。これらは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
モノマーから水溶性高分子化合物を合成する際の反応温度(重合温度)としては、30~100℃が好ましく、40~90℃がより好ましく、50~80℃がさらに好ましい。水溶性高分子化合物の合成は、重合開始剤と重合禁止剤との反応物の生成を抑制する観点から、非酸素雰囲気下で行うことが好ましく、例えば窒素などの不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0047】
(重合開始剤と重合禁止剤との反応物)
ここに開示される研磨用組成物は、重合開始剤と重合禁止剤との反応物の含有量が研磨用組成物に対して0.1ppb以下であることによって特徴づけられる。
【0048】
重合開始剤と重合禁止剤とが併存する系においては、酸素存在下、重合開始剤に由来するラジカルから、重合開始剤と重合禁止剤との反応物が生成する。例えば、以下に1つの反応のスキームを示す。以下のスキーム1は、推論かつ例示であって本明細書の開示を拘束するものではないが、重合開始剤がラジカル重合開始剤の一種である2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物であり、重合禁止剤がMQ(ハイドロキノンモノメチルエーテル)である場合の例である。この重合開始剤と重合禁止剤との組合せによれば、酸素存在下において、例えば、以下に示す化合物aが本反応物として生成すると考えられる。
【0049】
【化3】
【0050】
上記スキーム1では、重合開始剤に由来するラジカルが生成する。例えば、酸素存在下においては、重合開始剤のラジカルが酸素と反応し、重合開始剤-酸素ラジカルを生成しうる。かかるラジカルは、重合禁止剤からプロトンを引き抜き、重合禁止剤ラジカルを生成することができる。重合禁止剤ラジカルは、重合開始剤-酸素ラジカルや重合開始剤ラジカルとカップリングして、モル比1:1でのカップリング反応物として化合物aを生成すると考えられる。
【0051】
重合開始剤のラジカルや、重合禁止剤のラジカルは、このほか、種々の反応を引き起こし得る。例えば、重合禁止剤ラジカルは、他の重合禁止剤と連鎖的に反応して、重合禁止剤の連鎖反応物も生成し得る。
【0052】
このように、本反応物は、重合開始剤と重合禁止剤のカップリング反応物や重合禁止剤の連鎖反応物など各種の反応物を含むことができる。したがって、本反応物は、多種多様な化合物の混合物でありうる。ここに開示される技術の一態様において、該化合物は、重合開始剤と重合禁止剤が酸素を介してカップリングした反応物でありうる。カップリングした反応物としては化応物aが例示される。ここに開示される技術の一態様において、本反応物の量の測定は、化合物aの量の測定で代替することができる。化合物aの量は、液体クロマトグラフィー(LC)等で測定することができる。また、開始剤と禁止剤の使用量および禁止剤の減少量からも算出することができる。
【0053】
本反応物は、重合開始剤および重合禁止剤に由来する上述のような反応物を含んでいると考えられる。このような反応物は、重合禁止剤由来の構造を含んでいる。このため、例えば、概して、重合禁止剤由来の芳香族環または複素環式アミン由来の疎水性部分を有する疎水性化合物であると考えられる。本反応物は、水や水溶性高分子化合物を含む研磨用組成物においては、相対的に高い疎水性を有する溶質部分を構成すると考えられる。疎水性に富む反応物は、表面が疎水性であるウェーハなどの研磨対象物の表面に吸着しやすい。したがって、本反応物は、研磨後の洗浄において除去されずに研磨対象物表面に留まりやすく、その結果、LPDとして検出され得る。
【0054】
ここに開示される技術によると、研磨用組成物に対する上記反応物の量を0.1ppb以下に抑制することにより、該反応物の研磨対象物表面への吸着に起因するLPDを効果的に低減することができる。より高いLPD低減効果を得る観点から、いくつかの態様において、上記反応物の量は、例えば0.05ppb以下であってよく、0.02ppb以下でもよく、0.01ppb以下でもよい。また、水溶性高分子化合物の原料として用いられるモノマーの取扱い性、水溶性高分子化合物の生産性や取扱い性、研磨用組成物の生産性等を考慮して、いくつかの態様において、研磨用組成物は上記反応物を含む。上記反応物の量は、0.001ppb以上であってもよく、0.005ppb以上であってもよい。
【0055】
研磨用組成物に含まれる上記反応物の量は、例えば、該研磨用組成物の調製に用いる水溶性高分子化合物の含有する上記反応物の量によって調節することができる。水溶性高分子化合物に対する上記反応物の量は、該水溶性高分子化合物の合成に使用するモノマーの含有する重合禁止剤の種類および量、重合開始剤の種類およびモノマーに対する使用量、重合禁止剤と重合開始剤とが併存する混合物における重合禁止剤および重合開始剤の濃度、上記併存状態の継続時間およびその間における上記混合物の温度、上記混合物中に含まれるかまたは該混合物に接触する酸素の量、等により異なり得る。例えば、重合開始剤の使用量の減少、より分解速度の高い重合開始剤の使用、より重合禁止剤含有量の少ないモノマーまたは使用直前に重合禁止剤の一部または全部を除去する精製処理を行ったモノマーの使用、より低濃度での(すなわち、より多い重合溶媒を用いての)水溶性高分子化合物の合成、酸素の含有および酸素との接触をより厳格に排除しての水溶性高分子化合物の合成、重合温度の低下、重合時間の短縮、重合後に残存する重合開始剤を加熱および/または経時により分解させる処理を行うこと、水溶性高分子化合物を再沈殿等により精製すること、等により、水溶性高分子化合物に対する上記反応物の量は低減する傾向にある。当業者であれば、これらの例示を含む一または二以上の手段を適宜採用することにより、水溶性高分子化合物に対する上記反応物の量を過度の負担なく低減することができる。そして、研磨用組成物に対する上記反応物の量が0.1ppb以下またはここに開示される好ましい範囲にある研磨用組成物を、過度の負担なく得ることができる。
【0056】
上記重合開始剤と重合禁止剤とのモル比1:1のカップリング反応物は、後述する重合禁止剤の液体クロマトグラフィーに準じて液体クロマトグラフィーを実施することで検出することができるほか、このカップリング反応物濃度を定量することができる。
【0057】
また、本カップリング反応物を含めて、本反応物の濃度は、反応前後の重合禁止剤の減少量、すなわち、反応前濃度からの反応後濃度の差分を利用して、推定量として取得することができる。より具体的には、重合禁止剤の減少分がすべて重合開始剤と重合禁止剤の1:1のカップリング反応により消費されたと推定することで、本反応物の生成量を推定する。例えば、重合開始剤との反応の前および後で水溶性高分子化合物に対して含まれる重合禁止剤の濃度から、水溶性高分子化合物に対する本反応物の濃度は以下のように推定される。
【0058】
水溶性高分子化合物に対する本反応物の濃度=(反応前の水溶性高分子化合物に対する重合禁止剤濃度-反応後の同重合禁止剤濃度)×推定される本カップリング反応物の分子量/重合禁止剤の分子量
【0059】
例えば、既述のスキーム1では、重合禁止剤の分子量が128であり、重合開始剤と重合禁止剤との1:1(モル比)の反応によるカップリング反応物の分子量が383である。これらの分子量情報と、重合禁止剤の減少分とから、生成した本反応物の濃度や量を推定できる。なお、当業者であれば、重合開始剤と重合禁止剤との1;1(モル比)のカップリング反応物は、重合開始剤と重合禁止剤とのそれぞれの構造から、スキーム1および技術常識に基づいて想定でき、その分子量も算出できる。
【0060】
また、例えば、重合開始剤としての過硫酸アンモニウムと、重合禁止剤としてのMQ(ハイドロキノンモノメチルエーテル)との組合せによれば、以下のスキーム2により、以下の1つのカップリング反応物が推定されることになる。
【0061】
【化4】
【0062】
また、例えば、重合開始剤としての2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物)と、重合禁止剤としてのフェノチアジンとの組合せによれば、以下の1つのカップリング反応物が推定されることになる。
【0063】
【化5】
【0064】
また、水溶性高分子化合物に対する本反応物の含有量に応じて、水溶性高分子化合物が淡黄色から黄褐色に着色することがわかっている。例えば、こうした着色程度を、YI(Yellowness Index)を測定して指標とすることで、本反応物の濃度を推測することができる。例えば、YIは、水溶性高分子化合物の固形分を20重量%に調製した水溶液を、OME-2000(日本電色工業社製)またはこれと同等の精度および正確性を有してYIを計測可能な装置で、JIS K7373に準拠して測定することで得ることができる。
【0065】
<塩基性化合物>
塩基性化合物としては、特に限定することなく、ウェーハ等の研磨対象物の研磨用組成物として用いられる公知の各種塩基性化合物を用いることができる。かかる塩基性化合物としては、水溶性の塩基性化合物であればよく、公知の無機塩基性化合物および有機塩基性化合物からから選択される一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0066】
無機塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0067】
有機塩基性化合物としては、例えば、アミン類、アンモニア若しくは4級水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルペンタミンおよびテトラエチルペンタミン等が挙げられる。4級水酸化アンモニウム塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムおよび水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。例えば、半導体基板に対する汚染が少ないという点から、アンモニアおよび/または4級水酸化アンモニウム塩を好ましく用いることができる。本組成物における塩基性化合物の含有量は、適宜設定される。なお、本組成物は、こうした塩基性化合物の添加等により、少なくとも研磨プロセスに供されるとき、例えば、そのpHが8~13であることが好ましい。pHの範囲は8.5~12に調整するのがより好ましく、9.5~11.0に調整するのがさらに好ましい。
【0068】
<水>
本組成物における水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。なお、本組成物は、必要に応じて、後述するように、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0069】
<その他の成分> 本組成物は、このほか、任意成分として、上述したように有機溶剤のほか、各種キレート剤、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を適宜含むことができる。キレート剤は、研磨用組成物中に含まれ得る金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉することにより、金属不純物による研磨対象物の汚染を抑制する働きをする。キレート剤としては、公知のキレート剤を、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。また、界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、公知のアニオン性またはノニオン性の界面活性剤から選択される一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0070】
本組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。酸化剤が含まれていると、例えばウェーハ等の研磨対象物に本組成物が供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨能率が低下してしまうことがあり得るためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、本組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。
【0071】
本組成物の形態は特に限定されない。本組成物は、例えば、研磨プロセスにおいて研磨対象物にまさに供給される研磨液(ワーキングスラリー)の形態を採ることができる。また、本組成物は、使用時に、概して水または水と有機溶媒の混液等によって希釈されるような研磨用原液の形態を採ることができる。上記研磨用原液は、ワーキングスラリーの濃縮液としても把握され得る。また、本組成物は、該組成物の構成成分を使用時に混合するキットの形態であってもよい。すなわち、本組成物は、水溶性高分子化合物、反応物、砥粒および塩基性化合物のうち一種または二種以上の成分を含有する複数の剤を組み合わせたキットの形態とすることができる。上記複数の剤のうち一つの剤は、後述するように、水溶性高分子化合物を含むポリマー組成物であり得る。キットは、さらに、水のほか、任意成分を1または2以上含むこともできる。
【0072】
研磨液は、例えば、pH8以上13以下程度に調節されていることが好ましい。例えば、pH8.5以上またはpH9.0以上であることが好ましく、より好ましくはpH9.5以上またはpH10.0以上である。また、例えばpH12.5以下またはpH12.0以下であることが好ましく、より好ましくはpH11.5以下またはpH11.0以下である。
【0073】
本組成物は、例えば、上記水溶性高分子化合物を含み上記反応物の含有量が該研磨用組成物の0.1ppb以下となるポリマー組成物を用意することと、上記ポリマー組成物と上記砥粒と上記塩基性化合物とを混合することと、を含む方法によって製造することができる。上記ポリマー組成物は、水溶性高分子化合物が水に溶解した形態の組成物、すなわち水溶性高分子化合物の水溶液であり得る。上記ポリマー組成物としては、例えば、水溶性高分子化合物の合成に係る重合反応液や、該重合反応液に希釈、濃縮、乾燥、中和、任意の成分の添加、等の処理を単独でまたは組み合わせて適用したものを利用することができる。あるいは、上記重合反応液に含まれる水溶性高分子化合物を、濾過、吸着、再沈殿等の公知の手段により精製したものを、上記ポリマー組成物として使用してもよい。
【0074】
本組成物を得るために各成分を混合するにあたり、混合順序や混合方法は特に限定されない。各成分は、任意の順序で、それぞれ独立して混合してもよいし、適宜2以上をあらかじめ混合した後に全体を混合してもよい。混合方法としては、特に限定するものではないが、公知の混合装置、例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いることができる。
【0075】
<用途>
本組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。
【0076】
本組成物は、例えばシリコン基板等の、シリコンからなる表面の研磨に特に好ましく使用され得る。ここでいうシリコン基板の典型例は単結晶シリコンウェーハであり、例えば、単結晶シリコンのインゴットをスライスして得られた単結晶シリコンウェーハである。
【0077】
本組成物は、研磨対象物のポリシング工程、例えばシリコンウェーハのポリシング工程に好ましく適用することができる。研磨対象物には、本組成物によるポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程において研磨対象物に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0078】
本組成物は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.01nm~100nmの表面状態に調製された研磨対象物、例えばウェーハのポリシングにおいて、好ましく用いられ得る。研磨対象物の表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ファイナルポリシング(仕上げ研磨)またはその直前のポリシングでの使用が効果的であり、ファイナルポリシングにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程、すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程を指す。
【0079】
<研磨>
本組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。以下、本組成物を用いて研磨対象物、例えばシリコンウェーハを研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に希釈等の濃度調整や、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0080】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウェーハの仕上げ研磨を行う場合、典型的には、ラッピング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動、例えば回転移動させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0081】
上記研磨工程に使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まない研磨パッドが好ましく用いられる。
【0082】
この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
〔1〕 砥粒と、水溶性高分子化合物と、塩基性化合物と、を含む研磨用組成物であって、
重合開始剤と重合禁止剤との反応物の含有量が、重量基準で、上記研磨用組成物の0.1ppb以下である、研磨用組成物。
〔2〕 上記重合禁止剤が、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、フェノチアジン系化合物、およびニトロソアミン系化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、上記〔1〕に記載の研磨用組成物。
【化6】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素、水酸基、炭素数1~8のアルキル基および炭素数1~8のアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。)
【化7】
(式中、XはCH、CH(CHOH(ただし、pは0~3の整数)、CHO(CHOH(ただし、qは0~3の整数)、CHO(CHCH(ただし、rは0~2の整数)、CHCOOH、またはC=Oを表し、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基から選択される基を表す。)
〔3〕 上記水溶性高分子化合物が、窒素原子を含有するモノマーに由来する構造単位を10mol%以上100mol%以下含む、上記〔1〕または〔2〕に記載の研磨用組成物。
〔4〕 シリコンウェーハの研磨に用いられる、上記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔5〕 上記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の研磨用組成物を製造する方法であって、
上記水溶性高分子化合物を含むポリマー原料を用意すること、ここで、該ポリマー原料における上記反応物の含有量は、重量基準で、上記研磨用組成物に対して0.1ppb以下となる量である、および、
上記ポリマー原料と上記砥粒と上記塩基性化合物とを混合すること、を含む、研磨用組成物製造方法。
【実施例
【0083】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下において「部」および「%」は、特に断りのない限り、重量部および重量%を意味する。製造例で得られた水溶性高分子化合物の分析方法、ならびに、実施例および比較例における水溶性高分子化合物(以下、単に重合体ともいう。)および研磨用組成物の評価方法について以下に記載する。
【0084】
(1)分子量の測定
各重合体の分子量は、以下に記載の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による重量平均分子量(Mw)として求めた。
[測定条件]
装置:東ソー製HLC-8320GPC
カラム:東ソー製TSKgel SuperHM-M×3本
溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(10mM LiBr含有)
温度:40℃
検出器:RI
流速:300μL/min
【0085】
(2)重合禁止剤量の測定および反応物量の推定
2mLのマイクロチューブに、製造例で得た重合体15mgを採取し、メタノール1mLを添加して振とう機で30min攪拌した。その後、遠心分離機(12,000×5min)にかけて上澄み液を採取し、以下の条件で液体クロマトグラフィー(LC)測定を行った。重合禁止剤由来のピーク面積から、重合体中に含まれる重合禁止剤量を算出した。
[測定条件]
装置:島津社製LC-20AC + SPD-M20A
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inertsil ODS―3
溶媒:水/メタノール=45/55wt%(グラジエント一定)
温度:40℃
検出波長:290nm
流速:300μL/min
【0086】
なお、各製造例において使用したN-アクリロイルモルホリンは、重合禁止剤としてのMQ(メトキシフェノール、分子量128)を、モノマーに対して1,000ppm含有していた。また、重合開始剤としての2.2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物(和光純薬株式会社製、VA-046B)のラジカルとMQのラジカルとの1/1ラジカルカップリング反応物を以下のように推定し、その分子量を383として反応物量を計算した。
【0087】
【化8】
【0088】
<重合体の製造>
(製造例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素(または5%酸素(体積基準))導入管を備えた1Lフラスコに、純水(390g)を仕込んだ。上記窒素導入管から上記純水中に窒素を吹き込んで(100ml/min)バブリングしつつ、系を90℃まで加熱して同温度にて30分間攪拌した。これにより上記純水中の溶存酸素を追い出した。次いで、引き続き窒素バブリングを行いつつ、系を60℃まで降温し、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物(VA-046B、和光純薬工業社製、0.35g)を加えた。ここに3時間かけてN-アクリロイルモルホリン(ACMO、KJケミカルズ社製、100g)を滴下して重合させた。滴下終了後、さらに1時間、窒素バブリングを継続しつつ60℃で攪拌を行った。さらに、窒素バブリングを行いつつ系を80℃に昇温して2.5時間攪拌し、残存する重合開始剤を非酸素雰囲気下で分解させることによりその量を低減した。その後、窒素バブリングを停止して系を開放し、室温まで冷却した。その後、5%酸素バブリング(50ml/min)に切り替え、内温を40℃に調節して30日間撹拌する開始剤処理を行った。このようにして、重合体Aの水溶液である重合反応液Aを得た。
なお、ACMOの滴下開始から4時間後(すなわち、系を80℃に昇温する直前で)、反応液の一部を抜き出して分析したところ、この時点でACMOの重合率は約100%であることが確認された。また、この反応液において、ACMOの使用量に対して、重合禁止剤の量は、開始剤処理前が1000ppmであり、開始剤処理後が999.90ppmであり、重合禁止剤減少量(0.10ppm)から推定される化合物aの量は、ACMOの使用量に対して、0.30ppmであった。
【0089】
(製造例2)
製造例1において、重合開始剤の使用量を0.15gに変更した。その他の点は製造例1と同様にして、重合体Bの水溶液である重合反応液Bを得た。重合禁止剤減少量は0.04ppmであり、重合禁止剤減少量から推定される化合物aの量は、ACMOの使用量に対して、0.13ppmであった。
【0090】
製造例1における、重合後、窒素バブリング下で80℃、2.5時間撹拌した直後の液(開始剤処理前の液)を200g、重合開始剤(VA-046B)を0.24g、重合禁止剤(MQ)を0.392g、および水10gを混合し、50℃で3日間加熱攪拌した。上記操作により得られた液を「ストック液」とした。
ACMOに対するストック液中の重合禁止剤量は、加熱攪拌前が9607.2ppmであり加熱攪拌後が8080.4ppmであり、重合禁止剤減少量から推定される化合物aの量は、ACMOの使用量に対して、4700ppmであった。
【0091】
<研磨液の調製>
(実施例1)
重合反応液Aを、砥粒、アンモニア水(濃度29%)および脱イオン水と混合して、研磨用組成物の濃縮液を得た。この濃縮液を脱イオン水で20倍に希釈して研磨液(ワーキングスラリー)を調製した。
ここで、砥粒としては、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものである。上記平均二次粒子径は、日機装株式会社製の型式「UPA-UT151」を用いて測定された、動的光散乱法に基づく体積平均粒子径である。
また、砥粒、重合反応液Aおよびアンモニア水の使用量は、研磨液中における砥粒の含有量が0.46%となり、重合体Aの含有量が0.0075%となり、アンモニアの含有量が0.01%となる量とした。
【0092】
(実施例2)
実施例1において、重合反応液Aに代えて、重合反応液Bを使用した。その他の点は実施例1と同様にして、実施例2に係る研磨液を調製した。
【0093】
(比較例1,2)
実施例1において、重合反応液Aに代えて、表1に示す割合で重合反応液Aおよびストック液を混合した液を使用した。その他の点は実施例1と同様にして、比較例1および2に係る研磨液を調製した。
【0094】
<研磨試験>
(シリコンウェーハの研磨)
各例に係る研磨液を用いて、下記の条件でシリコンウェーハを研磨した。シリコンウェーハとしては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径200mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満、COPフリー)を予備研磨して表面粗さ0.1nm~10nmに調整したものを使用した。上記予備研磨には、平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカ0.95%および水酸化カリウム0.065%を水中に含む予備研磨用スラリーを使用した。
【0095】
[研磨条件]
研磨機:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨テーブル:上記研磨機の有する3テーブルのうち後段の2テーブルを用いて、予備研磨後のファイナル研磨1段目および2段目を実施した。
(以下の条件は各テーブル同一である。)
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:30rpm
研磨時間:2分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)
【0096】
(洗浄)
研磨後のシリコンウェーハを、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分、その後超純水と超音波によるリンス槽を経て、第2の洗浄槽に6分、それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。
【0097】
(LPDの評価)
ウェーハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、商品名「Surfscan SP2XP」)を使用して、洗浄後のシリコンウェーハ表面に存在する61nm以上の大きさの欠陥の個数をカウントした。その結果を、比較例1を100%とする相対値に換算して、以下の3段階で評価した。結果を表1に示した。
I:比較例1に対する相対値が90%以下
II:比較例1に対する相対値が90%超120%以下
III:比較例1に対する相対値が120%超
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示されるように、研磨用組成物に対する反応物量が0.1ppbを超える比較例1,2に比べて、該反応物量が0.1ppb以下である実施例1,2によるとLPDが有意に低減されることが確認された。
【0100】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。