(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】半導体製造装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
(21)【出願番号】P 2021542308
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036949
(87)【国際公開番号】W WO2022070264
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2021-07-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 将貴
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-521814(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129719(WO,A1)
【文献】特開2006-270017(JP,A)
【文献】特表2012-514337(JP,A)
【文献】特開2016-031955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器と、
前記処理容器内部の処理室に、フッ化水素およびアルコールのそれぞれの蒸気を含む処理用のガスを導入する導入口と、
前記処理室に配置され、処理対象のウエハがその上面
に載せられる試料台と、
前記試料台の内部に配置され、前記ウエハの前記上面に形成された第1膜をプラズマを用いずにエッチング処理する際、前記処理用のガスにより前記ウエハの前記上面上に形成される第1層に電界を形成する直流電力が印加される電極と、
前記直流電力を供給する電源が出力する電圧の値または極性を切り替える第1制御部と、
を有する、半導体製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体製造装置において、
前記第1膜は、酸化シリコンを含み、
前記処理用のガスを構成する前記フッ化水素および前記アルコールのそれぞれの蒸気により形成された、前記第1膜の上面上の液相の前記第1層には、前記電極に供給される直流電力により、前記電界が形成される、半導体製造装置。
【請求項3】
請求項1記載の半導体製造装置において、
前記電極は、平面視で前記試料台の中心側の領域に配置された内側電極と、前記内側電極の外周側で前記内側電極を囲む外側電極とを含む複数の電極を備え、
前記複数の電極のうちの1つが接地電極と接続されて接地電位にされる、半導体製造装置。
【請求項4】
請求項1記載の半導体製造装置において、
前記電極に供給される前記直流電力の電圧の大きさまたは極性を、前記ウエハの処理中の時間の経過に応じて変化させる第2制御部を備えた、半導体製造装置。
【請求項5】
処理容器内部の処理室に配置された試料台の上面上に処理対象のウエハを配置し、前記処理室内にフッ化水素およびアルコールのそれぞれの蒸気を含む処理用のガスを供給して前記ウエハ
の上面に予め形成された第1膜をプラズマを用いずにエッチング処理する半導体装置の製造方法であって、
前記エッチング処理中に、前記試料台内部に配置された電極に直流電力を印加して、前記処理用のガスにより前記ウエハの上面上に形成された第1層に電界を形成する
ものであって、前記電極に印加される前記直流電力の電圧の値または極性を切り替える、半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記ウエハの前記上面上には、酸化シリコンを含む処理対象の
前記第1膜が形成され、
前記エッチング処理中に、前記電極に前記直流電力を印加して、前記処理用のガスにより前記第1膜の表面上に形成された液相の前記第1層に電界を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記電極は、平面視で前記試料台の中心側の領域に配置された内側電極と、前記内側電極の外周側で前記内側電極を囲む外側電極とを含む複数の電極を備え、
前記複数の電極のうちの1つが接地電極と接続されて接地電位にされる、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記電極に供給される前記直流電力の電圧の大きさまたは極性を、前記ウエハの処理中の時間の経過に応じて変化させる、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造装置および半導体装置の製造方法に関し、特に、プラズマを用いないベーパーエッチング装置およびこれを用いた製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの試料上に設けられた膜(例えば酸化シリコン(SiO2)膜)を処理して回路用の構造を形成する工程を有する半導体デバイスの製造においては、半導体デバイスの微細化に伴って、より高精度な加工技術のニーズが高まっている。近年では、SiO2膜を加工する処理装置として、プラズマを用いず、処理用のガスとして特定の物質の蒸気をSiO2膜の表面に供給して、当該物質の原子または分子とSiO2膜とを反応させる、所謂ベーパーエッチング装置の開発が進んでいる。
【0003】
例えば、SiO2膜向けのベーパーエッチングにおいては、非特許文献1で記載されている様に、フッ酸(HF)とアルコールとの混合ガスを用いたエッチングが提案されている。また、特許文献1(特開2015-161493号公報)においても、HFとアルコールとの混合ガスを用いたベーパーエッチング装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chun Su Lee et al., “Modeling and Characterization of Gas-Phase Ethihng of Thermal Oxide and TEOS Oxide Using Anthdrous HF and CH3OH”, J. Electrochem. Soc., vol. 143, No.3 pp.1099-1103 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HFとアルコールとの混合ガスのベーパーを用いたエッチングにおいては、エッチングの速度(レート)を所望の範囲内のものにするために、エッチング中にウエハの温度を適切な範囲に維持することが効果的であることが判っている。また、エッチングのレートに影響する他のパラメータとしては、処理室内の圧力が挙げられる。しかし、処理室内の温度および圧力などのパラメータは、高い速度で変更することが一般的に困難である。このため、従来では、混合ガスを蒸気として供給し、SiO2を対象としてエッチングを行うベーパーエッチングでは、エッチング量は時間の経過に伴って単調に増大する、所謂連続エッチングを適用していた。
【0007】
一方で、近年の半導体デバイスの加工においては、高精度のエッチングが求められており、例えば、SiO2を原子層レベルでエッチングする、所謂、ALE(Atomic Layer Etching)のニ-ズが高まっている。このようなSiO2を対象とするALEの課題に対して、特許文献1に記載されている技術では、高い精度で単位時間あたりのエッチング量(エッチングレート)を所望の範囲内の値に調節できず、処理の歩留まりが損なわれるという問題が生じ得る。
【0008】
本発明の目的は、SiO2を含む膜を高い精度でエッチングでき、特に原子層レベルのエッチングにおいて、処理の歩留まりを向上させた半導体製造装置および半導体装置の製造方法を提供することにある。
【0009】
その他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
代表的な実施の形態による半導体製造装置は、処理容器と、前記処理容器内部の処理室に、フッ化水素およびアルコールのそれぞれの蒸気を含む処理用のガスを導入する導入口と、前記処理室に配置され、処理対象のウエハがその上面に載せられる試料台と、前記試料台の内部に配置され、前記ウエハの前記上面に形成された第1膜をプラズマを用いずにエッチング処理する際、前記処理用のガスにより前記ウエハの前記上面上に形成される第1層に電界を形成する直流電力が印加される電極と、前記直流電力を供給する電源が出力する電圧の値または極性を切り替える第1制御部と、を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
代表的な実施の形態によれば、半導体製造装置の性能を向上できる。特に、SiO2の高精度なエッチングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示すエッチング装置の全体の構成をそれぞれが機能を示すブロック同士が接続された図として模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図1に示すエッチング装置を用いたエッチング処理中のウエハ上面とその上方の処理室内の構成を示す模式図である。
【
図4】
図1に示すエッチング装置を用いたエッチング処理中のウエハ上面とその上方の処理室内の構成を示す模式図である。
【
図5】エッチング処理における時間とエッチング量との関係を示すグラフである。
【
図6】
図1に示すエッチング装置を用いたエッチング処理における時間とエッチング量との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態の変形例1に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図8】
図7に示すエッチング装置を構成する試料台を示す平面図である。
【
図9】
図7に示す変形例に係る半導体製造装置であるエッチング装置を用いて処理されたウエハ上面のSiO
2膜のエッチングレートのウエハの半径方向の位置に対する変化を模式的に示すグラフである。
【
図10】本発明の実施の形態の変形例1に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図11】
図10に示すエッチング装置を構成する試料台を示す平面図である。
【
図12】
図10に示す変形例に係る半導体製造装置であるエッチング装置を用いて処理されたウエハ上面のSiO
2膜のエッチングレートのウエハの半径方向の位置に対する変化を模式的に示すグラフである。
【
図13】本発明の実施の形態の変形例3に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図14】本発明の実施の形態の変形例3に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図15】比較例のエッチング装置を用いたエッチング処理中のウエハ上面とその上方の処理室内の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0015】
(実施の形態)
以下では、半導体デバイスを製造する工程として、半導体ウエハ(以下、単にウエハという)の上面上に予め形成された処理対象の膜であるSiO2膜に対して、エッチング処理を行うエッチング装置およびエッチング方法について説明する。このエッチング装置およびエッチング方法は、処理用の混合ガスを構成する物質としてフッ化水素(HF、フッ酸)およびアルコールX(CxHyOH)を含む蒸気を供給してエッチング処理を行う、所謂ベーパーエッチングを実施するものである。本実施の形態は、SiO2のエッチングの速度(レート)を高い精度で調節することが可能な半導体製造装置または半導体装置の製造方法を提供するものである。
【0016】
<改善の余地の詳細>
SiO2膜を加工する処理としては、プラズマを用いずに処理用のガスとして特定の物質の蒸気をSiO2膜表面に供給して、当該物質の原子または分子とSiO2とを反応させる、所謂ベーパーエッチング法がある。
【0017】
例えば、SiO2向けのベーパーエッチングにおいては、HFとアルコールとの混合ガスを用いたエッチングを行うことが考えられる。HFとアルコールとのベーパーエッチングでは、気相中で混合されたHFとアルコールXとがウエハ表面で液化する。ウエハ表面の液相では、以下の式1で示される様に、HFとアルコールXは、負イオンHF2
-と正イオンXH+にそれぞれイオン化する。
【0018】
2HF+X→HF2
-+XH+ ・・・(1)
【0019】
一方で、当該液相とエッチング対象であるSiO2膜との界面においては、負イオンであるHF2
-がSiO2のシリコン原子(Si)と酸素原子(O)とのボンドを切断し、四フッ化シリコン(SiF4)と水(H2O)とを生成する。なお、この化学反応には、プロトン(H+)が必要であるが、プロトンは当該液相中のXH+から供給される。結果として、当該界面では、以下の式2に示される反応が進む。
【0020】
SiO2+2HF2
-+2XH+→SiF4+2H2O+2X ・・・(2)
【0021】
本反応を纏めると、下記の式3の反応式となる。
【0022】
SiO2+4HF+2X→SiF4+H2O+2X ・・・(3)
【0023】
仮に、真空ポンプ等で反応生成物であるSiF4およびH2Oなどを排気し続ければ、式3の左辺から右辺への反応が一方向に進み、結果としてSiO2のエッチングが進行する。本反応を真空容器中で実施するためには、SiF4またはH2Oなどの飽和蒸気圧力以下でエッチングを実施する必要がある。ただし、式1の反応を効率的に進めるために、処理室内の圧力は、HFまたはアルコールXの飽和蒸気付近の圧力であることが好ましい。例えば、数十~数百Paの圧力下でエッチングを実施した場合、効率的なエッチングが可能となる。
【0024】
HFとアルコールXとの混合ガスのベーパーを用いたエッチングにおいて、エッチングの速度(レート)を所望の範囲内とするためには、エッチング中にウエハの温度を適切な範囲に維持することが効果的である。例えば、処理室内に配置された試料台上にウエハを載せた状態で、試料台の温度を適切に低い値にすることで、HFまたはアルコールXなどの蒸気の粒子がウエハへ付着する割合(付着係数)が上昇する。これにより、ウエハ表面上方の室内に供給された物質の蒸気のうち、ウエハ表面に付着した一部は相互に結びついて液滴を形成し、さらに、ウエハの表面上に上記の成分から構成された液(液相)の層が形成される。
【0025】
このような状態を、
図15に示す。
図15は、比較例のエッチング装置を用いたエッチング処理中のウエハ上面とその上方の処理室内の構成を示す模式図である。
図15では、気相状態のフッ化水素(HF)を白い三角で示し、気相状態のアルコールXを白い四角で示し、液相状態の負のイオンHF
2
-をハッチングを付した三角で示し、液相状態の正のイオンXH
+をハッチングを付した四角で示している。
【0026】
図15に示すように、領域1Aでは、ウエハ表面に酸化シリコン(SiO
2)の膜が予め形成されている。また、当該SiO
2膜4a上の室内には、フッ化水素(HF)およびアルコールXからなる蒸気が供給され、SiO
2膜4aの上面上の領域1Bに、これらの物質(フッ化水素およびアルコール)が液相として層を構成した液相層と、当該液相層上の室内の領域1Cに、これらの物質(フッ化水素およびアルコール)が気相状態の蒸気となっている気相層とが存在している。この状態において、SiO
2膜4aに接した液相層でエッチャントである負のイオンHF
2
-の総数が気相層よりも増大し、結果としてSiO
2のエッチングされる速度(レート)が増大する。
【0027】
このような状態で、エッチングのレートに影響を与える他のパラメータとしては、処理室内の圧力が挙げられる。HFの蒸気が供給される処理室内の圧力を増大させる事でHF2
-の生成率を上げることが可能となる。しかし、温度および圧力などのパラメータは、処理の条件が変化する場合に短い時間でこれに対応して値を変化させること、つまり高い速度で応答させることが困難である。このため、混合ガスを蒸気として供給し、SiO2を対象としてエッチングを行うベーパーエッチングでは、エッチング量は時間の経過に伴って単調に増大させる、所謂、連続エッチングを適用することが考えられる。
【0028】
一方で、SiO2を原子層レベルでエッチングする、所謂ALE(Atomic Layer Etching)において、特許文献1に記載されているようなHFとアルコールとの混合ガスを用いてエッチングを行うと、単位時間あたりのエッチング量(エッチングレート)を高い精度で所望の範囲内の値に調節できず、処理の歩留まりが損なわれる。
【0029】
このように、プラズマを用いないベーパーエッチングでは、SiO2を含んで構成された膜を高い精度でエッチングできず、特に原子層レベルのエッチングにおいて、処理の歩留まりを向上させることが困難であるという改善の余地が存在する。
【0030】
<本実施の形態のエッチング装置の構造>
以下に、本実施の形態について、
図1~
図6を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。特に、
図1では、ウエハに直流電界を印加してSiO
2をエッチング処理するエッチング装置が示されている。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態のエッチング装置100は、真空容器(処理容器)1内部に減圧される空間である処理室30と、処理室30内に配置されてウエハ4が上面の上方に載せられる試料台(ステージ)である電極5とを備えている。電極5上にウエハ4が設置された際、電極5とウエハ4とは物理的に接触する。少なくとも一部に円筒形状を有した真空容器1はその上部で内部を気密に封止する蓋部材である円形の天板1aと、その下方で処理室の上方の箇所にガス導入部2とを備えている。天板1aとガス導入部2とを上下方向に貫通したガスの経路であるガス導入孔32を含むガス導入部2を備えている。ここでいう真空容器1の少なくとも一部とは、真空容器1のうち、電極5よりも上方の処理室30を平面視で囲む部分である。
【0032】
処理室30内部には、処理用ガスとしてHFとアルコールXとを含む混合ガスが導入される。本願でいうアルコールXは、イソプロパノール、エタノール、メタノールなどに代表される炭化水素の水素原子をヒドロキシ基で置き換えた、化学式CxHyOHで表される物質一般を指す。
【0033】
さらに、真空容器1の下部には処理室30内のガスまたは反応生成物などの粒子を処理室30外部に排出するための貫通孔である排気口31が、処理室30の内外を連通して配置されている。排気口31の下方には、排気口31の出口と配管により連通されたターボ分子ポンプまたはロータリーポンプなどの真空排気ポンプが備えられている。真空排気ポンプの動作により処理室30内部が排気されて減圧される。
【0034】
少なくとも一部に円筒形状を有した処理室30の下部において、上方から見て中央部に配置された電極5は円筒形状を有している。電極5は、その内部に、円板または円筒形の金属等の導電体製の部材を備えている。当該導電性を有する部材には、直流電圧源6が電気的に接続されている。直流電圧源6は、備えられた端子における直流電圧の極性を切替ることが可能な機能または極性の切替器を内蔵した、所謂バイポーラ電源が望ましいがその限りではない。
【0035】
また、ここでは真空容器1の内部に、処理室30の上方であってガス導入部2の外周側でガス導入部2を囲んでリング状に配置された少なくとも1つの赤外線ランプ(IRランプ)ユニット3が備えられている。赤外線ランプユニット3は、真空容器1の上方から見て、ガス導入孔32および電極5の中心部を囲んで配置されたリング状の空間を備えている。また、赤外線ランプユニット3は、当該空間内部でガス導入孔32または円筒形状を有した電極5の上下方向の軸の周りに同心状または螺旋状に多重に配置された少なくとも1つの赤外線ランプ3aを備えている。また、赤外線ランプユニット3は、赤外線ランプ3aと処理室30との間に配置されて処理室30の天井面を構成し、赤外線ランプ3aから放射される赤外線が透過する石英等の部材から構成された、リング状の窓部材3bを備えている。また、赤外線ランプユニット3は、窓部材3bの内周縁部の上方でガス導入部2を囲む円筒形の仕切りと、図示していないがリング状の上記空間の内部で赤外線ランプ3aの上方に配置され、下方の赤外線ランプ3aから放射される赤外光を下方の処理室30内部に向けて反射する反射板を備えている。
【0036】
赤外線ランプ3aは図示しない直流電源と電気的に接続されて電力が供給され、これにより赤外線ランプ3aから放射した赤外線がウエハ4に照射されることにより、ウエハ4上の残渣および反応生成物が輻射による加熱によって除去される。つまり、赤外線ランプ3aは、ウエハ4に対しエッチング装置100によりエッチングを行った後、ウエハ4上の残渣および反応生成物を除去するために用いられる。
【0037】
なお、被エッチング材であるSiO2からなる膜は、ウエハ4の上面に接して形成されている。また、本実施の形態のSiO2のエッチングでは、反応生成物を除去する目的で、赤外線ランプ3aによりウエハ4への照射をするが、ここでのエッチング方法において赤外線ランプは必須の構成ではない。
【0038】
本実施の形態のエッチング装置100は、処理用のガスとして特定の物質の蒸気をSiO2膜の表面に供給して、当該物質の原子または分子とSiO2膜とを反応させる、ベーパーエッチング装置であり、エッチングの際にはプラズマを用いない。すなわち、エッチング装置100は、プラズマエッチングを行わない。言い換えれば、エッチング装置100は、プラズマ発生装置(プラズマ発生部)を備えていない。
【0039】
次に、
図1で示したエッチング装置100が、上面に予めSiO
2を含む膜が形成されたウエハ4をエッチング処理する工程について説明する。本実施の形態では、処理室30内に、処理用のガスとしてフッ化水素(HF)およびメタノール(CH
3OH)の蒸気を含む混合ガスが供給される。HFおよびCH
3OHの流量は、それぞれ500mL/minおよび250mL/minに調節される。さらに、処理室30内に導入されるガス導入部2からの処理用のガスの導入の量または速度と、真空排気ポンプの動作により調節される処理室30からの排気の量または速度とのバランスにより、処理室30内の圧力は10Pa~1000Paの値となるように調節される。
【0040】
電極5は、内部に図示しない冷媒の温度調節用のチラーと接続された冷媒流路を備えている。ウエハ4の処理前および処理中には、チラーから冷媒流路内部を供給されて循環する冷媒の作用により、電極5とその上面上方に保持されたウエハ4の温度は、-50~-10℃の値に調節される。なお、ウエハ4の最適な処理温度は、処理室30内の圧力値に依存している。上記の通り電極5内部にはバイポーラ電源である直流電圧源6と接続された導電性の部材が電極として配置され、ウエハ4の処理中に当該導電性の部材に電圧VDC=±200Vの電圧が印加される。
【0041】
シリコン(Si)製のウエハ4の上面には、処理対象の膜(被エッチング材)として、SiO2を含んで構成された膜が500nmを含む所定の誤差の範囲の値の厚さで形成されている。当該膜は、熱酸化膜である。本発明者は、このようなウエハ4を用いて、処理室30内部にHFとCH3OHとの蒸気を含む混合ガスを供給してSiO2膜をエッチング処理した際のエッチングの速度(レート)を検出した。本発明者は、ウエハ4のエッチングレートの当該検出において、SiO2膜のエッチングレートを、ウエハ4の中心とその近傍の5箇所で検出した値の平均値として算出した。
【0042】
検出されたSiO2のエッチングレートは、VDC=0Vの場合で60nm/minとなった。一方で、VDC=+200Vとした場合のSiO2のエッチングレートは、80nm/min程度まで増大したのに対し、VDC=-200Vにした場合、SiO2のエッチングレートが50nm/min程度に減少した。また、バイアス電圧をさらに増大させることが出来れば、エッチングレートの増大と抑制の効果は大きくなると予想される。
【0043】
図2を用いて、本実施の形態のエッチング装置100の処理用ガスを供給および排気する構成を含めた全体の構成を説明する。
図2は、
図1に示すエッチング装置の全体の構成をそれぞれが機能を示すブロック同士が接続された図として模式的に示すブロック図である。なお、
図2では
図1等に示された構成の一部は図示が省略されている。
【0044】
図2に示すように、本実施の形態のエッチング装置は、処理用のガスとして蒸気を供給するフッ化水素(HF)の供給器20とその流量調節器21とを備えている。HFの供給器20はHFが内部の貯留されたタンク等の貯留部および一般的に用いられるシリンダによる高圧ガス状態でHFを供給する構成を有している。流量調節器21には、気体用のマスフロー制御器が広く用いられている。
【0045】
また、本実施の形態のエッチング装置は、アルコールXの供給器22と流量調節器23を有している。アルコールXの供給器22としては、アルコールXの貯留部とともに強制気化方式による供給または液状態での供給を行うものが用いられる。また、流量調節器23には、例えば流量調節器21と同様の構成を備えたものが用いられる。
【0046】
処理用ガスは、HFおよびアルコールXのそれぞれが通流する経路で供給器20、22からのガスが流量調節器21、23で流量が調節された後、これらの経路が合流して1つの流路として真空容器1に接続されて内部の処理室30内に蒸気として供給される。ただし、上記の処理用ガスを供給する構成は、
図2を用いて上記した構成に限られない。
【0047】
本実施の形態のエッチング装置は、真空容器24と排気口31に連結され連通した真空排気ポンプ25とを有している。真空容器24は、
図1に示す真空容器1に相当する。供給器20は、流量調節器21を介して真空容器24に接続され、供給器22は、流量調節器23を介して真空容器24に接続され、真空容器24は真空排気ポンプ25に接続されている。
【0048】
真空容器24は、電極5の内部に配置された冷媒流路に所定の範囲内の温度にされた冷媒を供給して循環させるチラー26に接続されている。ここでは、ウエハ4が電極5上面上に乗せられ保持された状態、または、ウエハ4の処理中において、冷媒流路にチラー26からの冷媒が供給される。これにより、電極5およびその上に保持されたウエハ4のそれぞれの温度が、処理に適した範囲内の温度に冷却される。このように冷却を行うことで、混合ガスの付着率を増加させることができる。
【0049】
また、真空容器24内に設けられた電極5には、制御器(直流電源制御器、制御部)27を介して、極性判定回路付き直流電源28が接続されている。制御器27により、直流電源28から電極5に印加される電圧の極性を制御できる。
【0050】
上記の処理用ガスの供給器、流量調節器、排気ポンプ、または、ウエハ4を支持する試料台の温度の調節器等の構成は、後述する各変形例の装置にも備えられている。
【0051】
次に、
図3および
図4を用いて、本実施の形態で実施されるSiO
2膜のエッチング処理中におけるウエハ4上面の構成を説明する。
図3および
図4は、
図1に示すエッチング装置を用いたエッチング処理中のウエハ上面とその上方の処理室内の構成を示す模式図である。
図15を用いて説明したように、処理室30内に蒸気として供給されたHFとアルコールXとは、ウエハ4のSiO
2膜の上面上で液相層を形成し、当該液相層内部においてHFとアルコールXはそれぞれ正イオンと負イオンとに電離し、SiO
2に対するエッチャントである負のイオンHF
2
-が形成される。
【0052】
図3では、電極5内の導電性の部材と電気的に接続された直流電圧源6の端子の極性を、当該部材および電極5の極性が正となるようにした場合のウエハ4上面の状態を示している。
図3の右側には、電界の向きを大きい矢印で示している。
図3において、電極5内の導電性の部材に電圧が印加されて形成された正の電界(電極5側のものが高くウエハ4上方の処理室30内部のものが低い電位の差の分布)により、負のイオンHF
2
-には下方の電極5に向かう引力が働いて、ウエハ4のSiO
2膜4aの上面に近づくように負イオンHF
2
-が液相層内で下方に移動する。
【0053】
一方、正のイオンXH+には電極5から遠ざける斥力が働いて、正イオンXH+はウエハ4上のSiO2膜4aの上面から離れる方向に液相層内部を上方に移動する。つまり、ウエハ4に供給する電界を正の方向に印加した場合(相対的に電極5内の導電性部材の電位が高い正の電界を形成した場合)、ウエハ4上のSiO2膜4aとその上方の液相層との間の界面では、エッチャントである負のイオンHF2
-が偏析する。結果として、SiO2のエッチングレートは、電界を印加しない場合と比較し増大する。
【0054】
図4は、
図3の例とは逆に、電極5内の導電性の部材と電気的に接続された直流電圧源6の端子の極性を、当該部材および電極5の極性が負となるようにした場合のウエハ4上面の状態を示している。
図4の右側には、電界の向きを大きい矢印で示している。
図4に示すように、ウエハ4の上面に形成される電界が負の向きに形成された場合には、負イオンHF
2
-には電極5との間で斥力が働き、XH
+には電極5との間で引力が働く。つまり、電界を負の方向に印加した場合は、ウエハ4上のSiO
2膜4aの上面と液相層下面との界面では、エッチングには直接寄与しない正イオンXH
+が偏析し、結果としてSiO
2のエッチングレートは、電界を印加しない場合と比較し減少すると想定される。
【0055】
<本実施の形態の効果>
以下に、
図5および
図6を用いて、本実施の形態の効果について説明する。
【0056】
図5および
図6は、エッチング処理における時間とエッチング量との関係を示すグラフである。
図5に示すように、電極5にかかる電圧(バイアス電圧)V
DCが正の場合(V
DC>0)、V
DC=0の場合と比較して、エッチングレートが増大することが判る。これに対し、バイアス電圧が負の場合(V
DC<0)は、エッチングレートが減少することが判る。ここで、エッチングレートの大きさは、印加する正のバイアス電圧の大きさに対応して増大している。
【0057】
一方、
図6には、バイアス電圧の大きさを時間の経過に伴って変動させた場合のSiO
2膜のエッチング量の変化を示している。例えば、0<t<t1の時間でバイアス電圧をV
DC=-V0(負の一定値)とした場合は、前述の通りSiO
2のエッチングの進行は抑制される。次に、t1<t<t2の時間でV
DC=+V0(正の一定値)とした場合、SiO
2のエッチングは進行する。このように、バイアス電圧を時間的に変動させる事で、エッチングの進行と抑止を変化させる事が可能となる。この効果を利用すると、SiO
2に対する高精度なエッチング制御が可能となる。したがって、本実施の形態のエッチング装置100は、電極5に供給される直流電力の電圧の大きさまたは極性を、ウエハ4の処理中の時間の経過に応じて変化させる制御部を有していてもよい。
【0058】
このように、本実施の形態では、プラズマを使用しないエッチング装置において、ウエハを設置する試料台内の電極に印加される電圧を制御することで、エッチングの進行を制御することができる。よって、ベーパーエッチングにおいて、SiO2を含む膜を高い精度でエッチングすることができる。すなわち、半導体製造装置の性能を向上させることができる。また、特に原子層レベルのエッチングにおいて、処理の歩留まりを向上させることができる。すなわち、上記改善の余地を解消できる。
【0059】
<変形例1>
図7を用いて、本実施の形態の変形例1を説明する。
図7は、本変形例のエッチング装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
図8は、
図7に示すエッチング装置を構成する試料台を示す平面図である。本変形例のエッチング装置600は、ウエハ4をその上面に保持する試料台が、その円筒形状の半径方向について同心状に配置された複数の導電体製の部材である電極を備えている点で、
図1に示すエッチング装置100とは異なる。以下の説明において、
図1~
図6で説明した実施の形態と同じ符号が付された構成については、必要がない限り説明を省略する。
【0060】
本変形例のエッチング装置600は、エッチング装置100と同様に、真空容器1、処理室30、ガス導入孔32を有するガス導入部2、赤外線ランプユニット3、および、真空容器1の底面に配置された排気口31を備えている。本変形例では、ガス導入孔32の下方で処理室30の下部に配置され円筒形状または円板形状を有した第1マルチ電極10を備えている。第1マルチ電極10は、その半径方向において異なる半径位置の箇所または領域に配置された複数の導電体製の部材を備えている。複数の導電体製の部材のそれぞれは、直流電圧源6と電気的に接続されている。
【0061】
第1マルチ電極10を構成する複数の導電体製の部材は、
図8にその平面図が示されている。
図8は、
図7の第1マルチ電極10の上面、または、特定の上下方向の高さの横断面を上方から見た構成を模式的に示した図であり、特に複数の導電体製の部材の配置が示されている。
図8に示される通り、第1マルチ電極10は、その円筒または円板形状の半径方向の中心部に配置された円板または円筒形を有した導電体製の内側電極7と、この内側電極7の外周側で内側電極7と距離を開けて内側電極7を囲み、リング状の形状を有した導電体製の外側電極8と、半径方向に距離を開けて配置されたこれら2つの電極同士の間に配置され、これらの電極を電気的に絶縁する誘電体材料から構成されたリング形状の絶縁体9とを備えている。
【0062】
第1マルチ電極10においては、絶縁体9が、内側電極7と外側電極8との間に挟まれて嵌め込まれて配置されて、両者に接続している。さらに、本例の直流電圧源6は、その端子の一方が、内側電極7に電気的に接続されており、内側電極7に直流電圧を印加することができる。また、直流電圧源6の他方の端子は、図示しない接地電極と共に外側電極8に電気的に接続されており、接地電位にされている。これにより、バイポーラ電源である直流電圧源6の一方の端子に接続された内側電極7の電位を正と負とに変化させることが可能である。加えて、内側電極7の電位の、外側電極8に対する相対的な大小を変化させることができる。
【0063】
本変形例において、内側電極7、外側電極8および絶縁体9の形状としては、円形または円筒形が好ましく、また、これらが同心状に配置されていることが好ましい。ただし、内側電極7、外側電極8および絶縁体9の形状およびこれらから構成される第1マルチ電極10の形状は、円板、円筒形状に限られない。
【0064】
次に、
図7および
図8で示したエッチング装置600が、上面に予めSiO
2を含む膜が形成されたウエハ4をエッチング処理する工程について説明する。本変形例のエッチング装置600では、ウエハ4を処理する際の条件は、
図1~
図6に示した実施の形態に係る半導体製造装置であるエッチング装置100において用いられた条件と同一にされている。
【0065】
本変形例のエッチング装置600の処理室30内にHFおよびアルコールXの蒸気を含む混合ガスを供給し、処理室30内の第1マルチ電極10上面上にウエハ4が配置され保持された状態で、バイポーラ電源である直流電圧源6から内側電極7に、電圧VDC=+200Vまたは-200∨が印加しつつ、ウエハ4上面のSiO2膜のエッチング処理を行った。その際のエッチングレートを300mmウエハ上の13点において測定した結果について説明する。
【0066】
なお、本変形例では、
図8に示すように、第1マルチ電極10の上方から見た中心から円形の内側電極7の半径をr1=100mm、リング形状を有した絶縁体9の外周縁の半径をr2=150mm、および外側電極8の外周縁までの半径をr3=200mmとした。
【0067】
内側電極7に印加される電圧VDC=+200Vとした場合、SiO2膜のエッチングレートは、第1マルチ電極10上面上に載せられて保持されたウエハ4の中心部がおよそ80nm/minであったのに対し、ウエハ4の外周縁(エッジ)部分ではエッチングレートはおよそ65nm/minであった。一方、VDC=-200Vにした場合には、当該エッチングレートはウエハ4の中心部でおよそ50nm/min、エッジ部分ではおよそ55nm/minとなった。上記実施の形態と同様に、第1マルチ電極10に供給され形成されるバイアス電圧をさらに増大させることでウエハ4上面のSiO2膜のエッチングレートをより増大させる、または抑制させることが可能である。
【0068】
図9は、
図7に示す変形例に係る半導体製造装置であるエッチング装置を用いて処理されたウエハ上面のSiO
2膜のエッチングレートのウエハの半径方向の位置に対する変化を模式的に示すグラフである。ここで、
図9において、ウエハ4の中心の位置はOと表されており、内側電極7、絶縁体9および外側電極8のそれぞれの外周縁の半径方向の位置は、r2、r2´およびrGと表されている。
【0069】
内側電極7に供給されるバイアス電圧がV
DC>0の場合、横軸に示された半径方向の位置の-r2<r<+r2の範囲に配置された内側電極7上のSiO
2膜上の混合ガスの粒子から構成された液相層内では、HF
2
-の偏析量が多くなる。このため、エッチングレートは、V
DC≦0の場合と比べて、相対的に大きくなる。一方で、接地電位にされている半径方向の位置r2´<r<rG、-rG<r<-r2´に配置されている外側電極8の上方のSiO
2膜上面では、直流のバイアス電圧=0であるため、エッチングレートは、内側電極7上のエッチングレートと比較して小さくなる。その結果、
図9に実線で示されるグラフのように、ウエハ4上のSiO
2膜のエッチングレートの分布は、横軸の座標Oを中心とするウエハ4の中心部で大きく周縁部で小さい、所謂山型の分布となる。
【0070】
一方、バイアス電圧がV
DC<0の場合のエッチングレートの分布は、
図9に一点鎖線で示されるグラフのように、上記のV
DC>0の場合とは逆に、外側電極8上のSiO
2膜上でのエッチングレートと比較して、中心部のエッチングレートが低い谷型のレート分布を示す。このことから、本変形例によれば、内側電極7に印加される電圧の値を、その極性を正と負との間の複数の値で可変に調節することで、エッチングレートを山型の形状と谷型の形状との間の自在な形状で実現することができる。また、ウエハ4の半径が内側電極7のそれより大きい場合には、特にウエハ4の外周端(エッジ)部においてエッチングレートの大きさと中央部でのレートの値に対する比率とを含む分布の調節を効果的に行うことができる。
【0071】
<変形例2>
図10および
図11を用いて、本実施の形態の変形例2を説明する。
図10は、本変形例のエッチング装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
図11は、
図10に示すエッチング装置を構成する試料台を示す平面図である。
図10および
図11に示すように、本変形例のエッチング装置800は、ウエハ4をその上面に保持する試料台が、その円筒形状の半径方向について同心状に配置された3個以上の導電体製の部材である電極を備えている点で、
図1および
図7に示すエッチング装置と異なる。以下の説明において、
図1~
図6で説明した実施の形態と同じ符号が付された構成については、必要がない限り説明を省略する。
【0072】
本変形例のエッチング装置800は、
図1に示すエッチング装置100または
図7に示すエッチング装置600と同様、真空容器1、ガス導入部2、赤外線ランプユニット3、および、真空容器1の底面に配置された排気口31を備えている。さらに、本変形例では、
図7の第1マルチ電極10に換えて、第2マルチ電極14を備えている。第2マルチ電極14は、リング状の複数の絶縁体9によって相互に電気的に絶縁された円板または円筒形の中心電極11を備えている。また、第2マルチ電極14は、中心電極11の中心軸に同心状に中心電極11の外周側に2重に配置され、それぞれリング形状を有する第1中間電極12および第2中間電極13を備えている。また、第2マルチ電極14は、第1中間電極12および第2中間電極13の外周側でこれらを囲んでリング状に配置され、電気的に接地された外側電極8を備えている。
【0073】
中心電極11、第1中間電極12および第2中間電極13は、それぞれが異なる直流電圧源15、16および17に電気的に接続されている。つまり、中心電極11は直流電圧源15の端子に接続され、第1中間電極12は直流電圧源16の端子に接続され、第2中間電極13は直流電圧源17の端子に接続されている。中心電極11、第1中間電極12および第2中間電極13のそれぞれには、直流電圧源15、16、17から相互に独立して調節された電圧が印加される。ここでは、
図10に示す第2マルチ電極14は相互に絶縁された同心状に多重に配置された4つの電極を備えている。ただし、電極の個数は本変形例のものに限られず、3以上の何れの個数の電極で構成されていても、本変形例と同様の作用・効果が得られる。また、これらの電極は円板、円筒形状またはリング状の形状を有しているが、電極の形状は本変形例のものに限られない。
【0074】
図12は、
図10に示す変形例に係る半導体製造装置であるエッチング装置を用いて処理されたウエハ上面のSiO
2膜のエッチングレートのウエハの半径方向の位置に対する変化を模式的に示すグラフである。
図12において、横軸の変数として示された半径方向の位置(position)rは、下記のように表されている。すなわち、
図12では、中心電極11、第1中間電極12、第2中間電極13および外側電極8の外周縁の半径方向の位置rを、それぞれr4、r5、r6およびrGとし、上方から見てリング形状を有する第1中間電極12、第2中間電極13および外側電極8のそれぞれの内周縁(絶縁体9の外周縁)の半径における位置を、それぞれr4´、r5´およびr6´とする。
【0075】
本変形例において、例えば、中心電極11、第1中間電極12および第2中間電極13に、直流電圧源15、16および17からV
DC=+V4、V
DC=-V5およびV
DC=+V6の値の電圧がそれぞれ印加された場合、ウエハ4上のSiO
2膜上面上の液相層におけるエッチャントHF
2
-の偏析量は、印加されたバイアス電圧により形成される電界の大きさ(電位差)に応じて増減する。このことから、電圧0である(電位が0にされる)外側電極8の場合と比較して、位置rがr4より小さい箇所で大きく、位置rがr4´~r5の箇所で小さく、さらに位置rがr5´~r6の箇所で大きい値をとる。さらに、これらの半径方向の位置rの範囲同士の間の箇所は絶縁体9の上方であって、当該箇所での上記電圧は絶縁体9を構成する材料の誘電率と絶縁体9を挟む電極間の電位差に実質的に比例したものとなる。このため、
図2においても偏析量が中心である座標Oを挟んだ正負それぞれの側でrがr4とr4´との間、r5とr5´との間、および、r6とr6´との間において1次関数的に増加または減少する。
【0076】
また、|V4|>|V6|の場合には、第2中間電極13上の箇所よりも、中心電極11上の箇所でのHF2
-の偏析量が大きいため、ウエハ4の中心部の方がよりエッチングレートは大きくなる。このように、本変形例によれば、第2マルチ電極14が半径方向の複数の範囲に分割されそれぞれが絶縁された複数の電極を有する場合、ウエハ4の面内でエッチレートの分布を、これらの電極に供給する電圧および当該電圧により形成される電位を調節することで、所望のものにすることができる。ただし、上記複数の電極の数を増大させて、これらの電極が半径方向の箇所を占める範囲を過度に細分化すると、負イオンHF2
-の濃度の分布を精度よく実現する事が難しくなるため、電極の数としては多くとも数十個程度以内が適当である。本変形例を用いることで、例えば、ウエハ面での内周部と外周部とのエッチングレート分布に差異が生じている場合でも、ウエハ面内の均一性を制御する事が可能となる。
【0077】
<変形例3>
次に、本発明の別の変形例3について、
図13を用いて説明する。
図13は、本変形例に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。本変形例において、
図1~
図12に示した実の形態、変形例と同じ符号が付されている構成については、特に必要のない限り説明を省略する。
【0078】
図13は、本変形例に係る半導体製造装置であるエッチング装置1000の構成上の特徴として、
図1に示す実施例のエッチング装置100、
図7に示す変形例1のエッチング装置600および
図10に示す変形例2のエッチング装置800と異なり、処理室30内の電極5または第1マルチ電極10、第2マルチ電極14などの、ウエハ4が載せられる試料台の上面上に、当該上面に対向して実質的に平行となるように配置された別の電極板を備えている、所謂1対の平行平板型の電極を備えている点にある。すなわち、本実施例では、円板または円筒形状を有してそれぞれの上下方向の中心軸が上方から見て実質的に合致している位置で上下に所定の隙間を開けて、下面および上面が平行またはこれと見なせる程度に近似した位置に配置された上部平板電極18と下部平板電極19とを処理室30内に備えている。
【0079】
本変形例では、これらの電極は直流電圧源6の別の極性が付与される異なる端子に電気的に接続されて電極同士の間に電位差が形成されるように構成されている。なお、本変形例では上下の電極はこれらの間に電位差が形成される電位が形成されることが必要であり、そのための電位または極性は上記説明した例に限られない。
【0080】
処理室30内には、下部平板電極19と、下部平板電極19上の上部平板電極18とが設置されている。上部平板電極18と下部平板電極19とは、平面視で互いに重なる箇所に位置している。
【0081】
下部平板電極19の平坦な上面上にはウエハ4が配置され、上部平板電極18に供給される直流電力によりその下面形成される電位が下部平板電極19上面の電位よりも高い場合は、両者の間に形成される電界は正の荷電粒子を下方のウエハ4上面に誘引するように下向きとなり、ウエハ4表面に形成されたSiO2膜のエッチングが進行する。一方、逆に上部平板電極18下面の電位が下部平板電極19上面のものより低い場合は電界が上向きとなり、ウエハ4のSiO2膜のエッチングが抑制される。このように、本変形例によれば、ウエハが一方の表面に保持される平行平板電極の組に供給する電力により形成される電位若しくは極性、または、これら平行平板電極同士の間の電位差の大きさを調節することで、ウエハ4表面のSiO2膜のエッチングの速度を所望の範囲内のものに調節することができる。
【0082】
処理室30内に配置される平行平板型の電極の対は、
図13に示すような1つのみに限られない。例えば、真空容器1内の1つの処理室30内に上下方向または水平方向に複数個が配置されていてもよい。例えば、
図14に示すエッチング装置1100のように、真空容器1内部に上下方向にそれぞれの間に隙間をあけて、複数の対(
図14では3つ)の上部平板電極18および下部平板電極19とこれらに電気的に接続された直流電圧源6とを有する平行平板型の電極の対が設けられていてもよい。
【0083】
図14は、本発明の実施の形態の変形例3に係る半導体製造装置であるエッチング装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
図14に示す変形例では、処理室30内に複数枚のウエハ4を格納し複数の下部平板電極19それぞれの上面上に保持した状態で、並行してこれら複数枚のウエハ4上面のSiO
2膜のエッチングを行う、所謂バッチ式でウエハ4をエッチングすることができる。複数のウエハ4で異なる回路パターンまたはSiO
2膜などの仕様に応じて、これらの平行平板型の電極の対に接続された直流電圧源6のそれぞれから供給される電力を可変に調節することができる。これにより、ウエハ4の処理中に形成される電界または下部平板電極19上に形成されるバイアス電位等の条件を異ならせて、バッチ式において異なるウエハ4それぞれで異なるエッチングレートを実現できる。ここでは、適切な処理の条件によりウエハ4それぞれに求められる最適な処理後の加工の形状を得られるようにしてもよい。
【0084】
以上、本発明者らによってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、半導体製造装置および半導体装置の製造方法に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 真空容器
2 ガス導入部
3 赤外線ランプ
4 ウエハ
5 電極
6 直流電圧源