(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】リチウム電池正極用の前駆体化合物を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230627BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230627BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230627BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20230627BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230627BHJP
C22B 5/02 20060101ALI20230627BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20230627BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C01G53/00 A
C01G53/00 B
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B3/06
C22B3/44 101Z
C22B3/44 101A
C22B5/02
C22B23/00 102
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2021561982
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2020060806
(87)【国際公開番号】W WO2020212546
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-17
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド・オウステルホフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・スコイヤー
(72)【発明者】
【氏名】レナート・ショーニス
(72)【発明者】
【氏名】バルト・クラーセン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィレム・カレボー
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107768763(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108439438(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0077564(US,A1)
【文献】Pratima MESHRAM et al.,“Extraction of lithium from primary and secondary sources by pre-treatment, leaching and separation: A comprehensive review”,Hydrometallurgy,2014年12月,Vol. 150,p.192-208,DOI: 10.1016/j.hydromet.2014.10.012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C01G 25/00 - 47/00
C01G 49/10 - 99/00
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式リチウム電池用の正極材料の合成のための前駆体化合物を調製する方法であって、
- Ni、Co、Al、Li、F、
並びに、Cu及びFeのいずれか1つ若しくは両方を含有する使用済み充電式リチウム電池又はそれらのスクラップ、並びに融剤を含む冶金装入物を還元精錬し、それによりNi、Co、及びCuの大部分、Feの少なくとも一部を含み、Al、Li、及びFが低減された合金を製造する工程と;
- 合金を鉱酸中で浸出させ、それによりCu及びFeのいずれか1つ又は両方も含有するNi-及びCo-保有溶液を得る工程と;
- 含有するCu及びFeを除去することによりNi-及びCo-保有溶液を精製し、それにより精製済みNi-及びCo-保有溶液を得る工程と;
- 熱処理、結晶化、又は水酸化物若しくは炭酸塩の添加により、精製済みNi-及びCo-保有溶液からNi及びCoを水酸化物又は塩として同時析出させ、それにより充電式リチウム電池用の正極材料の合成に適した固体を得る工程と
を含む方法。
【請求項2】
Ni及び/又はCoがNi-及びCo-保有溶液から抽出される溶媒抽出又はイオン交換の工程を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
合金が浸出工程の前に粒状化、噴霧、又は粉砕される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
鉱酸がH
2SO
4である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
浸出の工程が酸化条件下で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
浸出の工程が、O
2又はH
2O
2を酸化剤として使用して酸化条件下で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
精製工程におけるCuの除去が析出により行われる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
精製工程におけるCuの除去が、合金によるセメンテーションを使用した析出により行われる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
浸出の工程において、浸出の際のpH及び酸化還元電位の制御によって、CoがCuに対して選択的に浸出される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
精製工程におけるFeの除去が、Fe
3+化合物の析出を生じさせる酸化条件下で行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
精製工程におけるFeの除去が、O
2又はH
2O
2を酸化剤として使用してFe
3+化合物の析出を生じさせる酸化条件下で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
浸出工程と析出の工程との間で、精製済みNi-及びCo保有溶液中のNi対Co対Mnの元素の比が、これらの元素のいずれか1つを可溶性化合物として添加することにより規定値に調整される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体化合物が固体Ni-及びCo-含有生成物であり、充電式リチウム電池用の正極材料の合成に適した前記固体が同じ固体Ni-及びCo-含有生成物である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Ni-及びCo-含有生成物がMnも含有し、精製済みNi-及びCo保有溶液からNi及びCoを同時析出させる際、熱処理、結晶化、又は水酸化物イオン源若しくは炭酸イオン源の添加により、Mn-酸化物、及び/又はMn-水酸化物、及び/又はMn-塩も析出し、それによりMnも含有する前記Ni-及びCo-含有生成物が得られる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はリチウムイオン充電式電池に関する。一般的な電池化学物質の1つは、金属リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルト(NMC)の酸化物から本質的に成る正極粉末を含む。別の多用される化学物質は、やはり酸化物の形態である、リチウム、ニッケル、コバルト、及びアルミニウム(NCA)から本質的に構成される正極粉末を利用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のライフサイクルの間、環境規制及び環境の法律に従うようにリサイクルされる必要がある様々な廃材が生じる。
【0003】
既に電池の製造プロセスにおいて、品質規格を満たす難しさに起因して製造廃棄物が発生している。したがって規格外の中間製品に対処しなければならない。そのような材料は、正極粉末、電極箔、セパレーター箔から、充電されており電解質を含有する、完成した電池セル又はモジュールまで様々である。
【0004】
製造廃棄物に加えて、寿命に達した電池もリサイクルされる必要がある。これは、電気部品又は電子部品と共にあらゆる成分を含むリチウム電池を主に含むが、場合によりニッケル-カドミウム電池、ニッケル-金属-水素化物電池、及び亜鉛電池等の少量の非リチウム電池も含む、更により複雑な廃棄物の流れをもたらす。
【0005】
これらの製造廃棄物及び寿命に達した電池の派生物も、機械的処理及び/又は熱による前処理の結果である粉末分又は黒い塊の形態でリサイクルに利用可能である。
【0006】
成分がますます製品に加えられるにつれて、スクラップ材の化学的な複雑さは製造プロセスの終わりに向かって増していく。そのため、電池セル及びモジュールは、周期表の元素の大部分、例えば正極ではNi、Co、Mn、Li、Fe、Al、V、P、F、C、Ti、及びMg、負極ではLi、Ti、Si、C、Al、及びCu、電解質ではLi、F、P、及び揮発性有機化合物、ケーシングではAl、Fe、Cu、Ni、Cr、並びにCl及びBrを含むプラスチックを含有する。
【0007】
使用済み電池の量は、現在進んでいる自動車産業の電化に主に起因して、今後10年間で毎年100,000トンを超えると予測される。電池リサイクルビジネスはそれにしたがって成長することになる。
【0008】
本開示は、リチウム電池正極用の前駆体化合物の製造に関する。正極製造への従来の取り組みは、純粋な別々のニッケル、マンガン、及びコバルトの前駆体化合物を製造することで構成され、これらは正確な比にしたがって混合され、次いでリチウム化合物と共に焼成される。
【0009】
使用済み電池から出発し、その中に存在するニッケル、マンガン、及びコバルトである必須の元素から利益を得る、修正された製造スキームが提案されている。これらの金属は分離され個々に精製される代わりに、一緒に精製される。適切に精製された混合物は実際に、新しい正極の調製に再使用するのに適した比で3種の必須の元素を含有し得る。
【0010】
そのようなスキームは米国特許第9834827号に示される。このスキームは使用済み電池セルから回収された正極材料の湿式精錬処理に基づく。理論上は有望であるにもかかわらず、これは実用上の課題をもたらす。この方法は実際には、正極材料をケーシング及び他の電池部材から単離するための予備的な分離工程を必要とする。これは、ニッケル、マンガン、及びコバルトのいずれの化学的精製が行われる前にも、機械的(破砕による)及び物理的(磁気分離による)処理、PVDFの除去(溶媒を使用)、並びにCu及びAlの除去(析出及びろ過による)を伴う。欠点は以下の通りである。
- 電池は破砕及び細断され、これは毒性の揮発性化合物及び/又は微粒子が排出される可能性がある危険な工程である。特に電池が適切に放電されていない場合、破砕及び細断の際に発火又は爆発が起こることがある;
- 電解質は、通常はLiPF6をベースとしており、蒸気圧が高いために危険であるポリカーボネート溶媒を必要とする;
- PVDFバインダーを溶解させるのにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が使用され、NMPの発がん性による健康リスクを伴う。NMPは、NMP-PVDF混合物の非開示で恐らく複雑な処理の後に初めて回収されることになる;
- ニッケル、マンガン、及びコバルトの精製は、浸出操作が選択的ではないため複雑な工程を必要とし、母液中の多くの望ましくない不純物の存在を生じさせる。
【0011】
上記の精製工程には例えば、酸性媒体中でHFを生成させることがあるFの存在、いくらかのNi-Cd電池を含有することがある供給物中のCd、アルカリ電池を含有することがある供給物中のZnの問題がある。Al及びSiは存在する可能性が高く、典型的には極度に遅いろ過速度の原因である。
【0012】
Meshramら[Hydrometallurgy、150巻、192~208頁、2014年]は、Ni及びCoの湿式精錬の間にNi及びCoが浸出溶液から溶媒抽出により抽出される方法を記載している。
【0013】
中国特許第108439438号は、焼成済みのリチウム含有電池廃棄物を酸浸出させ、Li、Co、Ni、Mn、Al、Fe及びCuを含有する溶液を生成させ、ここから最初にCu、Fe、及びAlを除去し、その後Liを抽出剤を使用した溶媒抽出により除去し、続いてNi、Co、Mn混合硫酸塩を結晶化させる方法を記載している。そのような方法は中国特許第107768763号でも知られており、ここでは電池廃棄物を酸中で浸出させ、その後得られる溶液からCu、Fe、及びAlを析出により除去し、その後LiをLiFとして除去し、続いてNi、Co、Mn混合硫酸塩を結晶化させる。これらの方法の主な欠点は、Li、Al、及びその他などの不純物が浸出溶液中に存在し、Co及びNiの結晶化の前にいくつかの工程で除去する必要があることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第9834827号
【文献】中国特許第108439438号
【文献】中国特許第107768763号
【非特許文献】
【0015】
【文献】MeshramらHydrometallurgy、150巻、192~208頁、2014年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明による方法はこれらの制限を克服する。正極前駆体の一貫した品質を依然として保証しながら様々な不純物に対処できるという点で、はるかに堅固な代替法も提供する。本発明は、より詳細には充電式リチウム電池用の正極材料の合成のための前駆体化合物を調製する方法であって、
- Ni、Co、Al、Li、F、Cu及びFeのいずれか1つ若しくは両方を含有する使用済み充電式リチウム電池又はそれらのスクラップ、並びに融剤を含む冶金装入物を還元精錬し、それによりNi、Co、及びCuの大部分、Feの少なくとも一部を含み、Al、Li、及びFが低減された合金を製造する工程と;
- 合金を鉱酸中で浸出させ、それによりCu及びFeのいずれか1つ又は両方も含有するNi-及びCo-保有溶液を得る工程と;
- 含有するCu及びFeを除去することによりニッケル-及びコバルト-保有溶液を精製し、それにより精製済みNi-及びCo-保有溶液を得る工程と;
- 熱処理、結晶化、又は水酸化物若しくは炭酸塩の添加により、精製済みNi-及びCo-保有溶液からNi及びCoを酸化物、水酸化物、又は塩として同時析出させ、それにより充電式リチウム電池用の正極材料の合成に適した固体を得る工程と
を含む方法に関する。
【0017】
使用済み充電式リチウム電池又はそれらのスクラップとは、黒い塊、正極粉末、電極箔、セパレーター箔、完成した電池セル又はモジュール等の、電池産業からのリサイクルされた材料を意味する。電池に関連する電子機器、並びにNiCd、NiMH、又はZn等の他の化学物質による電池も存在することがある。
【0018】
供給物である合金、したがってまたNi-及びCo-保有溶液も、最も実用的なケースではFe及びCuの両方を含有することになる。しかし、特定の供給物はそれらの元素の1つのみをかなりの量で保有する場合がある。そのような状況では、Fe及びCuの1つのみを精製工程で除去する必要があることは明らかである。Co及びNiの浸出が制御されたpH及び酸化還元電位のもとで行われ、それによりCuの溶解が避けられる場合、Ni-及びCo-保有溶液はCuも低減させることができる。
【0019】
精製工程は具体的には、不純物を溶液から除去することを定める。このスキームの利点は、所望の元素であるCo及びNiを溶液から抽出することになる精製法と比較して、少量の化学物質しか必要としないことである。
【0020】
Ni及びCoの同時析出とは、好ましくは均質な混合物の形態で、両方の元素が同じ工程で本質的に完全に析出することを意味する。場合により、Mnの少なくとも一部をNi及びCoと共に共沈させる。析出とは、固相が形成されることを意味し、これは水の蒸発及び/若しくは結晶化等の物理的手段によって、又は水酸化物及び/若しくは炭酸塩を加えること等による化学的手段によって得ることができる。
【0021】
合金は、浸出工程の前に好ましくは粒状化、噴霧、又は粉砕される。これはより速い浸出の反応速度を可能にする。浸出工程で使用される鉱酸は有利にはH2SO4であり、なぜならこれは充電式リチウム電池用の正極材料の合成のための前駆体化合物の調製において最も一般的に使用される酸であるからである。しかしHCl、HNO3、及びH3PO4も適切である。
【0022】
浸出率は、O2又はH2O2を酸化剤として使用すること等により、酸化条件下で行われる場合に最適化することができる。
【0023】
銅を除去する操作は、有利には合金自体をセメンテーション剤として使用して行うことができる。Ni等の、Cuよりも容易に酸化される他の金属を使用できる。他の適切な銅の除去法は、硫化物析出、溶媒交換、及び電解採取である。
【0024】
Co及びNiの浸出は、制御されたpH及び酸化還元電位のもとで行うことができ、それによりCuの溶解が避けられる。この選択肢は、浸出の工程を行い、例えば浸出工程の直後にセメンテーションを行うことにより同じ反応器中でCuを除去することと等価である。
【0025】
Feの除去は、好ましくはO2又はH2O2を酸化剤として使用してFe3+化合物を析出させるように、溶液に酸化条件を与えることにより対処できる。
【0026】
Ni-及びCo-析出物を正極材料の調製のために直接再使用することを容易にするために、適切なNi対Co、又はNi対Co対Mnの比を有する析出物を得るようにNi-及びCo-保有溶液中のNi、Co、及び場合によりMn濃度を調整することが有利である。この目的は、これらの元素のいずれか1つ又は複数を水溶液中であるか又は水溶液中ではない可溶性化合物として添加することにより、容易に実現できる。
【0027】
電池材料を直接浸出させる方法と対照的に、本発明による精錬による前処理は、供給物中に存在することが予測できる他の元素のバルクからNi、Co、及びMnを効率的に単離する。Al、Li、F、Ti、Pb、Zn、Cd、Cl、Br、Mg、Ca、V、C、Si、S、及びPのような元素は酸化スラグ相及び/又は煙じんへ向かうことになる。この前もって行われる精製工程は、以下のような問題を避けることによりその後の湿式精錬による精製工程を著しく単純化する:
- 溶解したAl及びSiのゲル形成によって生じるろ過の問題;
- 浸出工程の酸性環境中のF、Cl、Br、及びSによって形成される毒性で有害な酸性ガスの排出;
- Ni及びCoの析出の工程におけるLiの共沈;
- 最終的な正極材料の電気化学的性能に影響を与える、Pb、Zn、Cd等の不純物によるNi及びCoの汚染。
【0028】
電池材料を直接浸出させる既知の方法とは対照的に、本発明による、精錬による前処理は、浸出前に電池を放電させる、及び破砕又は細断する必要性を回避する。そのような方法は有害なガス及び微粒子状物質を生じる。前もって行われる精製のおかげで、精製工程は毒性溶媒を使用した溶媒抽出を必要とする代わりに不純物の除去によって行うことができる。Liは既知の手段を使用してスラグから回収できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の実施例は本発明を例証する。
【0030】
Table 1(表1)に示される組成を有する寿命に達した電池を60リットルのアルミナるつぼ中でリサイクルする。誘導炉を使用して出発スラグを1450℃の温度まで溶融する。この温度に達したら、寿命に達した電池及び融剤の混合物を2時間にわたって液体スラグへ徐々に加える。この時間の間、10kgの石灰石及び5kgの砂と共に50kgの電池を加えて適切な組成を有するスラグ組成物を確保する。供給物を装入する間にO2を220L/hの速度で浴の上方へ吹きつけて電池中の金属Al及び炭素をいずれも燃焼させる。最後の添加を行ったら、浴を通してCOを300L/hの速度で1時間吹きつけて所望の還元度を得る。試料をスラグから取り出し、冷却後に合金及び複数の相を分離させる。得られる相の組成をTable 2(表2)に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
精錬操作から生じる合金相の部分は不活性雰囲気下で再溶融されウォータージェット中で噴霧される。これにより浸出及びその後の湿式精錬加工のために十分に微細である粉末分が得られる。
【0034】
噴霧した粉末の600gを、5Lの水が入ったガラスビーカーへ加える。粉末を懸濁させるため及びビーカーの底に注入される酸素ガスの散布のために撹拌機を使用する。酸素は浸出の間に酸化剤として作用する。混合物を加熱し80℃で維持する。濃硫酸をゆっくりと供給して粉末を溶解させる。1を超えるpHを維持するように酸の流れを制御する。化学量論量に近い量の酸を加えた後、追加の酸を供給せずにpH1を維持することができる。これは浸出工程の終点であり、この段階で本質的にすべての金属が溶解する。ビーカーを冷却し、内容物をろ過する。溶液の組成をTable 3(表3)に示す。
【0035】
【0036】
次に、Ni粉末を用いたセメンテーションによりCuをこの溶液から選択的に除去する。これは、浸出溶液を別の加熱及び撹拌されたビーカーへゆっくりとポンプで注入しながら同時に化学量論的に過剰量のNi粉末を同じビーカーへ加えることにより行われる。このプロセスの間、溶液中でNiがCuと交換される。ろ過後、Cu-Ni混合セメント、及び銅が除去された溶液が得られる。
【0037】
次の工程において、Feは加水分解により除去される。これは、銅が除去された溶液を80℃まで再加熱することにより行われる。酸素ガスを撹拌されたビーカーへ注入し、pH4に達するまでNa2C03溶液をゆっくりと加える。これらの条件下で、鉄を析出させる。ろ過後、鉄ケーキ及びろ液が得られる。ろ液の組成をTable 4(表4)に示す。
【0038】
【0039】
次いで、NMC水酸化物生成物の最終的な析出の前に所望のNi対Co対Mnの比を得るように、Co、Mn、及びNiの濃度を補正する。この実施例では発明者らは6:2:2のNi:Co:Mnのモル比を目標とする。これは、撹拌されたビーカー中の溶液を80℃で再加熱し、適切な量の硫酸コバルト及び硫酸マンガンの結晶を加えることにより、実現される。また一定量の水をこの工程で加えてTable 5(表5)に示される濃度を得る。
【0040】
【0041】
最後に、pH 10に達するまで濃NaOH溶液をゆっくりと加えることにより、NMC金属を析出させる。冷却後、NMC水酸化物生成物をろ過により分離し洗浄する。Table 6(表6)は乾燥ベースの最終製品の組成を示し、これは新しい電池前駆体化合物の合成に適している。
【0042】