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特許7303518オレフィン系樹脂複合材、及び、自動車用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】オレフィン系樹脂複合材、及び、自動車用部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20230628BHJP
   C08F 216/04 20060101ALI20230628BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20230628BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20230628BHJP
   C08L 29/02 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C08L23/00
C08F216/04
C08K7/14
C08L23/10
C08L29/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019001689
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020111642
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「極性基含有ポリプロピレン:触媒開発と樹脂設計」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303061270
【氏名又は名称】日本ポリケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横溝 勝行
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智彦
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】田谷野 孝夫
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-145947(JP,A)
【文献】特開2006-002072(JP,A)
【文献】特開2007-262335(JP,A)
【文献】特開2017-193613(JP,A)
【文献】特開平07-207073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 216/
C08L 23/
C08L 29/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系ランダム共重合体(A)と、前記無機フィラーとしてのガラス繊維と、前記オレフィン系ランダム共重合体(A)以外のオレフィン系樹脂(C)と、を含有するオレフィン系樹脂複合材であって、
前記オレフィン系ランダム共重合体(A)は、
炭素数以上5以下のα-オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する構造単位(U1)と、
ω位置に水酸基を有する炭素数5以上20以下のα-オレフィンコモノマーから選択される1種以上のモノマーに由来する構造単位(U2)と、を含み、
構造単位の合計100mol%に対し、前記構造単位(U2)の含有量が0.5mol%以上10mol%以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が40,000以上500,000以下であり、
前記オレフィン系ランダム共重合体(A)は、前記オレフィン系樹脂複合材全体を100質量%とした場合に1質量%以上20質量%以下含有され、
前記無機フィラーは、前記オレフィン系樹脂複合材全体を100質量%とした場合に5質量%以上40質量%以下含有され、
前記オレフィン系樹脂(C)は、前記オレフィン系樹脂複合材全体を100質量%とした場合に40質量%以上94質量%以下含有されることを特徴とする、オレフィン系樹脂複合材。
【請求項2】
前記オレフィン系ランダム共重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が110,000以上500,000以下であることを特徴とする、請求項1に記載のオレフィン系樹脂複合材。
【請求項3】
前記α-オレフィンコモノマーが、直鎖状のα-オレフィンコモノマーであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のオレフィン系樹脂複合材。
【請求項4】
GPCで測定される分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂複合材。
【請求項5】
前記構造単位(U1)が、プロピレンに由来する構造単位を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂複合材。
【請求項6】
前記オレフィン系樹脂(C)が、プロピレン単独重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選ばれるプロピレン系樹脂であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂複合材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂複合材を用いた成形体であることを特徴とする、自動車用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系ランダム共重合体、オレフィン系樹脂組成物、オレフィン系樹脂複合材、及び、自動車用部材に関する。さらに詳しくは、無機フィラー含有樹脂系複合材における無機フィラーとマトリクス樹脂の間の親和性を改良するためのオレフィン系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
無機フィラーで強化された熱可塑性樹脂からなる成形材料は、軽量で優れた力学特性を有することから、スポーツ用品用途、航空宇宙産業用途、及び、その他の一般産業用途に広く用いられている。近年、母材となる熱可塑性樹脂としては、軽量性、経済性が求められるようになり、軽量なオレフィン系樹脂、とりわけポリプロピレンが使用されるようになってきた。ポリプロピレンは、熱可塑性樹脂の中でも比重が軽いことから、高強度、高弾性率の無機フィラーと組み合わせることで、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得ることが期待できる。例えば、ガラス繊維を用いて、機械的強度が強化されたポリプロピレン樹脂組成物が記載されている(非特許文献1)。しかしながら、ポリプロピレンは無機フィラーとの界面接着性に乏しいため、力学特性に優れた成形品を得ることが困難である。特に、ガラスフィラーのような表面の反応性が乏しい強化材を用いる場合には、力学特性に優れた成形品を得ることが極めて困難であった。
これまでに、無機フィラー強化オレフィン系樹脂の強度を向上させる手段として、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂を用いたポリオレフィン系ガラス繊維強化樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記開示をもってしても、十分な力学特性を有する無機フィラー強化オレフィン系樹脂が得られないという問題がある。この問題を解決するために、電子線等の放射線やオゾン等でポリオレフィンを処理する方法、或いは、有機過酸化物等のラジカル発生剤存在下、エチレン性不飽和化合物、例えば、ビニル化合物あるいは不飽和カルボン酸等をグラフト変性させる方法がある。
グラフト反応の方法は、大別して、溶剤を使用して反応させる、いわゆる溶液法と、混練押出機を使用して溶融状態で反応させる、いわゆる溶融法とがある。溶液法は、大量の溶剤を使用するのでコスト高となり、しかも、地球環境問題からも好ましくない。一方、溶融法は、そのような溶剤の使用がないので簡便的な方法として注目されている。
しかし、溶融法で製造した変性ポリオレフィンには、大量の未反応物(即ちグラフト反応しなかったビニル化合物あるいは不飽和カルボン酸等のエチレン性不飽和化合物)、オリゴマー(即ち、ビニル化合物あるいは不飽和カルボン酸等のエチレン性不飽和化合物の低分子量体)及びその他の副生物が存在しており、接着性、塗装性、印刷性の阻害因子となり、しかも、シート、フィルム等の成形体としたときに気泡を発生するという欠点があった(非特許文献2)。
【0004】
そのため、溶融法で製造した変性ポリオレフィンから未反応物を除去する方法として、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸またはその酸無水物を触媒の存在下に溶融混練してグラフト重合して得られた変性ポリオレフィンを、未変性のポリオレフィンおよび未反応の不飽和カルボン酸またはその酸無水物の良溶媒にて該変性ポリオレフィンが実質的に溶解しない状態で処理する変性ポリオレフィンの製造方法(溶解再沈法;特許文献2)や、ポリプロピレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体および有機過酸化物からなる混合物を溶融混練して得られた変性ポリプロピレンを60℃以上の温度で加熱乾燥する変性ポリプロピレンの製造方法(加熱乾燥法;特許文献3)、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸またはその酸無水物を触媒の存在下に溶融混練してグラフト重合させて得られた変性ポリオレフィンを、該ポリオレフィンのピカット軟化温度乃至この軟化温度より25℃低い温度の範囲で、温・熱風または温・熱水にて処理する変性ポリオレフィンの製造方法(温・熱水中で撹拌する方法;特許文献4)等が提案されている。
しかし、溶解再沈法は、アセトン等の大量の溶剤を使用し操作が煩雑であるので、コスト高になるという欠点がある。また、加熱乾燥法は、未反応物の除去、特に上記不飽和化合物のオリゴマーの除去が不十分で、しかも、加熱乾燥する際に変性ポリオレフィン樹脂が着色するという欠点があった。また、温・熱水中で撹拌する方法においても、未反応物及びオリゴマーの除去や着色防止が未だ十分ではない。
一方、酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂を用いた例では、ポリプロピレンに極性基である水酸基を導入する技術が開発され、プロピレンと、水酸基含有オレフィンからなるプロピレン系重合体であって、(i) 該重合体中の水酸基含有オレフィン量が10mol%以下であり、(ii) 該重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られた重量平均分子量(Mw)が5000以上であり、(iii)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比の値(Mw/Mn)が、1.0~3.5の範囲にあり、(iv)該重合体のDSCで測定した融点([Tm];℃)と核磁気共鳴(NMR)で測定した水酸基含有オレフィン量([-OH];mol%)とが、特定の関係式を満たすプロピレン系重合体が、特許文献5、6に開示されている。しかしながら、これら特許文献には、水酸基を有するポリプロピレン系重合体の製造のための触媒成分や重合方法については詳細が述べられているものの、その特性や用途については、塗装性材料と記載があるのみで他に何らの示唆もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-121146号公報
【文献】特開昭54-99193号公報
【文献】特開昭56-95914号公報
【文献】特開昭56-118411号公報
【文献】特開2006-2072号公報
【文献】特開2009-84578号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】井出文雄著「界面制御と複合材料設計」シグマ出版、1995年発行、第6章
【文献】「高分子論文集」第49巻2号(1992)第87~95頁および第97~104頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように従来技術を俯瞰してみると、ポリプロピレン系樹脂と無機フィラーとの複合材を製造するにあたって、より優れた物性を得るためのオレフィン系樹脂の開発は現在でも精力的に行われている状況であり、未だ改良の余地は残されている。
本発明の目的は、無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材中で、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂との間の親和性を改良することができ、かつ、上記従来の変性技術の欠点を解決することもできるオレフィン系ランダム共重合体、及び、当該オレフィン系ランダム共重合体を含む無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、高分子主鎖上に無機フィラーとの親和性に優れた特定の構造を特定量有するオレフィン系ランダム共重合体は、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の両方に対し親和性を有しており、従来の変性技術とは異なる技術的アプローチにより無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂との間の親和性を改良することができることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、下記のごときオレフィン系ランダム共重合体、オレフィン系樹脂組成物、オレフィン系樹脂複合材、及び、自動車用部材が提供される。
【0009】
[1]
無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系ランダム共重合体であって、
エチレン、及び炭素数3以上5以下のα-オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する構造単位(U1)と、
水酸基を有する炭素数5以上20以下のα-オレフィンコモノマーから選択される1種以上のモノマーに由来する構造単位(U2)と、を含み、
構造単位の合計100mol%に対し、前記構造単位(U2)の含有量が0.5mol%以上10mol%以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が40,000以上500,000以下であることを特徴とする、オレフィン系ランダム共重合体。
【0010】
[2]
前記α-オレフィンコモノマーが、直鎖状のα-オレフィンコモノマーであることを特徴とする[1]に記載のオレフィン系ランダム共重合体。
【0011】
[3]
GPCで測定される分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のオレフィン系ランダム共重合体。
【0012】
[4]
前記構造単位(U1)が、プロピレンに由来する構造単位を含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載のオレフィン系ランダム共重合体。
【0013】
[5]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のオレフィン系ランダム共重合体(A)と、無機フィラー(B)と、を含有することを特徴とする、オレフィン系樹脂組成物。
【0014】
[6]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のオレフィン系ランダム共重合体(A)と、無機フィラー(B)と、[1]~[4]のいずれか1項に記載のオレフィン系ランダム共重合体以外のオレフィン系ランダム共重合体(C)と、を含有することを特徴とするオレフィン系樹脂複合材。
【0015】
[7]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のオレフィン系ランダム共重合体以外のオレフィン系ランダム共重合体(C)が、プロピレン単独重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選ばれるプロピレン系樹脂であることを特徴とする、[6]に記載のオレフィン系樹脂複合材。
【0016】
[8]
[6]又は[7]に記載のオレフィン系樹脂複合材を用いた成形体であることを特徴とする、自動車用部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の両方に対し親和性を有しているので、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の間の親和性を改良することができ、しかも、オレフィン系樹脂の無機フィラーに対する界面接着性を高めるために従来知られていた変性技術に関わる欠点も生じないオレフィン系ランダム共重合体が得られる。また、当該オレフィン系ランダム共重合体を用いて、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の間の接着性に優れた無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材が得られ、さらに当該複合材を用いて、軽量でかつ力学特性に優れた成形体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.オレフィン系ランダム共重合体
本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられる、無機フィラー-オレフィン系樹脂複合材用オレフィン系共重合体である。上記オレフィン系ランダム共重合体は、エチレン、及び炭素数3以上5以下のα-オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する構造単位(U1)と、水酸基を有する炭素数5以上20以下のα-オレフィンコモノマーから選択される1種以上のモノマーに由来する構造単位(U2)と、を含み、構造単位の合計100mol%に対し、構造単位(U2)の含有量が0.5mol%以上10mol%以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が40,000以上500,000以下である。
すなわち、本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、構造単位の大部分を主要なエチレンおよびα-オレフィンモノマーに由来する構造単位(U1)が占めており、水酸基を含有するα-オレフィンコモノマーに由来する構造単位(U2)の含有量は構造単位全体の0.5mol%以上10mol%以下であり、これらの構造単位が連結したポリマー構造を有している。
【0019】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、当該オレフィン系共重合体の高分子主鎖上に存在する水酸基の部分が無機フィラーに対する優れた界面接着性を有している。
また、本発明の上記オレフィン系ランダム共重合体は、オレフィン系マトリクス樹脂のポリマー骨格と共通又は類似するポリオレフィン系ポリマーの骨格を有しているので、オレフィン系マトリクス樹脂との親和性にも優れている。
従って、本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、水酸基の部分が無機フィラーに対する優れた界面接着性を発現し、ポリオレフィン系ポリマーの骨格部分がオレフィン系マトリクス樹脂に対する優れた親和性を有するので、オレフィン系マトリクス樹脂に無機フィラーを含有させた複合材中で、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の間の親和性を改良することができると考える。すなわち本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の間の親和性向上剤として好適に用いることができると考えられる。
また本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、それ自体を無機フィラーを含んだ複合材のマトリクス樹脂として用いてもよい。
さらに本発明の上記オレフィン系ランダム共重合体は、主要なα-オレフィンモノマーと水酸基を有するα-オレフィンコモノマーを共重合することにより合成できる。この共重合反応は、上述した従来の変性技術とは全く異なる反応スキームなので、本発明の上記オレフィン系ランダム共重合体を合成する際に、上記従来の変性技術に関わる欠点は生じない。
【0020】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体において、水酸基を有するα-オレフィンコモノマー、すなわち水酸基を有する炭素数5以上20以下のα-オレフィンコモノマーに由来する構造単位は、本発明のオレフィン系ランダム共重合体に無機フィラーとの界面接着性を付与するために必要な成分である。
【0021】
水酸基は、α-オレフィンコモノマーの炭化水素鎖の、どの位置の炭素に結合していてもよいが、ω位置すなわち二重結合の位置から見て末端の炭素に位置していることが好ましい。また、水酸基が、α-オレフィンコモノマーの炭化水素鎖の途中、すなわちω位置以外の位置に結合する場合、水酸基がα-オレフィンコモノマーの炭化水素鎖に直接結合していても良いし、炭化水素鎖等のリンカーを介して結合していても良い。
また、α-オレフィンコモノマーの炭化水素鎖上に、2つ以上の水酸基が結合していても良い。例えば、α-オレフィンコモノマーの炭化水素鎖上のω位置に水酸基が直接結合し、かつ、同じ炭化水素鎖上のα位置付近に炭化水素鎖等のリンカーを介して、もう一つ水酸基が結合していても良い。
【0022】
本発明において、水酸基を有するα-オレフィンコモノマーに由来する構造単位の、α-オレフィン部分の構造は特に制限されないが、無機フィラーとの接着性を付与するためには、炭素数が5以上であることが好ましい。また、上記α-オレフィンコモノマーの炭化水素鎖は、直鎖状であることが好ましい。本発明の上記オレフィン系ランダム共重合体は、後述の実施例に示したように、無機フィラーに対する優れた界面接着性を有している。その理由は、次のように推測される。
上記オレフィン系ランダム共重合体中の水酸基を有するα-オレフィンコモノマーの炭素数が5より小さい場合、水酸基と当該水酸基が結合するポリオレフィン主鎖との相互作用が強くなることで、水酸基の運動性が拘束され、水酸基と無機フィラー表面とが最適な配置をとりにくくなり、結果として水酸基と無機フィラー表面との強い相互作用が生じにくくなると考えられる。一方、上記オレフィン系ランダム共重合体中の水酸基を有するα-オレフィンコモノマーの炭素数が5以上になると、水酸基の運動性の拘束が緩和し、水酸基の運動性が向上し、水酸基と無機フィラー表面との強い相互作用が生じやすくなると考えられる。すなわち、水酸基の運動をポリオレフィン主鎖から独立させ、水酸基の運動性を高めることが、無機フィラー表面との相互作用を最大限に高める有効な機構と推測する。水酸基をポリオレフィン主鎖自体の運動から独立させ、水酸基の運動性を高めるには、水酸基が直接結合するα-オレフィンの末端近傍の炭素原子の運動性を高める必要がある。この末端近傍の炭素原子がポリオレフィン主鎖から受ける直接的な拘束力としては、原子間結合伸縮(2原子間相互作用)、結合変角(3原子間相互作用)、結合2面角(4原子間相互作用)が公知のものとして知られている(例えば、J.Phys.Chem.Vol.94,p8897,1990参照)。
したがって、α-オレフィンの末端近傍の炭素原子がポリオレフィン主鎖からの上記直接的な拘束力から解放されるためには、最低でも上記結合2面角の相互作用が及ばないようにすることが好ましく、すなわち炭素原子数で5個以上のα-オレフィンを用いることが好ましいものと推測する。
一方で、オレフィン系ランダム共重合体に含まれる構造単位の大部分を占める主要なモノマーは、多くの場合、プロピレン、エチレンなどの炭素数が少ないモノマーであるため、水酸基を有するα-オレフィンコモノマーの炭素数が大きくなると、オレフィン系ランダム共重合体に含まれる異種構造単位間の炭素数の差が大きくなり、オレフィン系ランダム共重合体のガラス転移温度の低下を招く(高分子と複合材料の力学的性質 L.E.Nielsen著 (株)化学同人 1984年 第1章)ことで、複合材の耐熱性の悪化や樹脂自体の軟化により接着界面における応力伝達材としての役割が果たせなくなり、複合材の剛性の低下を招く恐れが懸念される。
従って、耐熱性、剛性を保持しつつ接着性を改良できる水酸基を有するα-オレフィンコモノマーの炭素数として5以上20以下が好ましく、より好ましくは5以上12以下である。
【0023】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体に含まれる構造単位の大部分を占める主要なオレフィンモノマーとしては、複合材のオレフィン系マトリクス樹脂の構造単位と同じ構造単位とするために、通常、炭素数が少ないオレフィンモノマー、より具体的には、プロピレン、エチレン等の炭素数が5以下のオレフィンモノマーが用いられる。
主要なオレフィンモノマーは、本発明のオレフィン系樹脂と組み合わせる複合材のマトリクス樹脂との親和性の高いものを選ぶことが好ましい。かかる観点から、複合材のマトリクス樹脂に含まれる主要な構造単位と同じ構造単位を生じさせるモノマーを用いることが好ましい。例えば、複合材のマトリクス樹脂がプロピレン系樹脂である場合には、主要なα-オレフィンモノマーとしてプロピレンを用いることが好ましい。
【0024】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が40,000以上500,000以下であり、より好ましくは50,000以上300,000以下である。
本発明のオレフィン系ランダム共重合体の分子量が前記範囲の上限値よりも大きいと、複合材としての流動性が不足し、薄肉成形品を成形する際に大きな型締め力のある成形機を必要とするか、或いは、成形温度を高くする必要性が生じるので、生産性に悪影響を及ぼす。一方、分子量が前記範囲の下限値未満であると、耐衝撃性等の機械特性が劣る。
【0025】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、共重合体の主要モノマーであるα-オレフィンモノマー、及び、共重合体中での構造単位の含有割合が0.5mol%以上10mol%以下となる量の水酸基を有するα-オレフィンコモノマーを仕込み、ポリプロピレン等の合成に用いられる各種公知の触媒、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、又は、メタロセン触媒を使用し、共重合することにより製造することができる。
一般にチーグラー・ナッタ触媒では活性点の不均一性から製造されるランダム共重合体中のモノマー組成分布が広くなりやすいため、剛性低下や、また広い分子量分布に起因した衝撃強度の低下が懸念される。好ましい水酸基を有するα-オレフィンコモノマーが共重合体中での構成単位の含有割合は、0.55mol%以上7.5mol%以下であり、より好ましくは0.6mol%以上6mol%以下であり、さらに好ましくは0.6mol%以上5mol%以下である。
本発明のオレフィン系ランダム共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。メタロセン触媒を使用することで、分子量分布の狭いオレフィン系ランダム共重合体を容易に得ることができる。なお、分子量分布(Mw/Mn)は1.0以上とされる。
ここでいうメタロセン触媒とは、(i)シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、(ii)アルミニウムオキシ化合物、上記遷移金属化合物と反応してカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸、固体酸微粒子、およびイオン交換性層状珪酸塩から成る化合物群の中から選ばれる少なくとも一種の助触媒と、必要により、(iii)有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、プロピレン系樹脂の製造が可能である公知の触媒は、いずれも使用できる。
【0026】
<オレフィン系ランダム共重合体の製造方法>
無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系ランダム共重合体は、主要モノマーである炭素数3以上5以下のα-オレフィンモノマー及び、水酸基を有する炭素数5以上20以下の脂α-オレフィンコモノマーに加えて、必要により有機アルミニウム化合物を添加し、α-オレフィン特にポリプロピレン重合に各種公知である触媒を使用して製造することが可能である。
【0027】
本発明に用いられる、水酸基を有する炭素数5以上20以下のα-オレフィンコモノマーは、好ましくは、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、2-ペンテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ペンテン-2-オール、4-ペンテン-2-オール、1-ペンテン-3-オール、4-メチル-3-ペンテン-1-オール、3-メチル-1-ペンテン-3-オール、2-ヘキセン-1-オール、3-ヘキセン-1-オール、4-ヘキセン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、1-ヘキセン-3-オール、1-ヘプテン-3-オール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オール、1-オクテン-3-オール、シトロネロール、ジヒドロミルセノール、3-ノネン-1-オール、5-デセン-1-オール、9-デセン-1-オール、10-ウンデセン-1-オール、オレイルアルコール、2-メチレン-1,3-プロパンジオール、7-オクテン-1,2-ジオール、1,4-ペンタジエン-3-オール、2,4-ヘキサジエン-1-オール、1,5-ヘキサジエン-3-オール、2,4-ジメチル-2,6-ヘプタジエン-1-オール、ジヒドロカルベオール、イソプレゴオール、5-ノルボルネン-2-オール、5-ノルボルネン-2-メタノール、5-ノルボルネン-2,2-ジメタノール等が挙げられる。
さらに好ましくは、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、シトロネロール、ジヒドロミルセノール、10-ウンデセン-1-オール、7-オクテン-1,2-ジオール、5-ノルボルネン-2-オール、5-ノルボルネン-2-メタノールが挙げられる。
特に好ましくは、5-ヘキセン-1-オール、10-ウンデセン-1-オールが挙げられる。
【0028】
本発明に用いられる有機アルミニウム化合物としては、好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムセスキハライド、アルキルアルミニウムジハライド、アルキルアルミニウムハイドライド、メチルアルモキサンやブチルアルモキサンなどのアルミニウムオキシ化合物等が挙げられ、さらに好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルモキサンが挙げられ、特に好ましくは、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルモキサンが挙げられる。
【0029】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体の製造に用いられる重合触媒は、(i)周期表第4~10族の遷移金属化合物と、必要により(ii)アルミニウムオキシ化合物、上記遷移金属化合物と反応してカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸、固体酸微粒子、およびイオン交換性層状珪酸塩から成る化合物群の中から選ばれる少なくとも一種の助触媒と、必要により(iii)有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、オレフィン系樹脂の製造が可能である公知の触媒は、いずれも使用可能である。
【0030】
周期表第4~10族の遷移金属化合物としては、4族メタロセン化合物、10族ホスフィンフェノラート化合物、10族ホスフィンスルホナート化合物等が例示され、特に好ましくは、4族メタロセン化合物が挙げられる。
4族メタロセン化合物は、プロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能なメタロセン化合物である。
例えば、特開平2-131488号、特開平2-76887号、特開平4-211694号、特開平4-300887号、特開平5-43616号、特開平6-100579号、特開平5-209013号、特開平6-239914号、特開平11-240909号、特開平6-184179号、特表2003-533550号等に記載されたメタロセン化合物が挙げられる。
【0031】
4族メタロセン化合物としては、具体的には、以下の例示ができる。
ジメチルシリレンビス[1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレンビス[1-(2-エチル-4-フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレンビス[1-(2-メチル-4-(1-ナフチル)-インデニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレンビス[1-(2-メチル-4,5-ベンゾインデニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレン[1-(2-メチル-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル)][1-(2-i-プロピル-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレンビス[1-(2-メチル-4-フェニル-4H-アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレンビス[1-(2-エチル-4-(4-クロロフェニル)-4H-アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルシリレンビス[1-(2-エチル-4-(2-フルオロビフェニリル)-4H-アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルゲルミレンビス[1-(2-エチル-4-(4-クロロフェニル)-4H-アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、 ジメチルゲルミレンビス[1-(2-エチル-4-フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリドなどのジルコニウム化合物が例示できる。
【0032】
上記メタロセン化合物において、ジルコニウムをハフニウムに置き換えた化合物も同様に使用できる。また、2種以上の錯体を使用することもできる。さらに、クロリドは他のハロゲン化合物、メチル、ベンジル等の炭化水素基、ジメチルアミド、ジエチルアミド等のアミド基、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシド基、ヒドリド基等に置き換えることが出来る。これらの内、2位と4位に置換基を有し、珪素あるいはゲルミル基で架橋したビスインデニル基あるいはアズレニル基を配位子とするメタロセン化合物が好ましい。
上記の錯体は、単離抽出して触媒に用いてもよいし、単離せずに触媒に用いてもよい。また、一種類を単独で用いてもよいし、複数種の触媒組成物を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の触媒組成物の併用は有用である。
【0033】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体として用いられる炭素数3以上5以下のα-オレフィンおよび水酸基を有する炭素数5以上20以下のα-オレフィンコモノマー共重合体を製造する重合において、その重合形式は、特に制限されない。
重合形式としては、媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、及び、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合等が挙げられる。また、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。
媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合においては、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒や、液化α-オレフィンなどの液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のような極性溶媒の存在下あるいは非存在下で行われる。
また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。
なお、高い重合活性や高い分子量を得る上では、上述の炭化水素溶媒がより好ましい。また、共重合に際して、公知の添加剤の存在下又は非存在下で共重合を行うことができる。
【0034】
添加剤としては、ラジカル重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。好ましい添加剤としては、例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体等が挙げられる。具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6-ジ-t-ブチル4-メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物等が使用可能である。
また、添加剤として、無機及び/又は有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行ってもよい。
【0035】
重合温度、重合圧力及び重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。
重合温度は、通常、-20℃から290℃、好ましくは0℃から250℃であり、より好ましくは20℃から200℃であり、さらに好ましくは25℃から150℃であり、特に好ましくは30℃から100℃である。
重合圧力は、通常、0.1MPaから100MPa、好ましくは、0.3MPaから90MPaであり、より好ましくは0.35MPaから10MPaであり、さらに好ましくは0.4MPaから5MPaである。
重合時間は、通常、0.1分から10時間、好ましくは、0.5分から7時間、更に好ましくは1分から6時間である。
【0036】
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給方法を採用することができる。
例えばバッチ重合の場合、予め所定量のモノマーを共重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を共重合反応器に供給してもよい。
また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を共重合反応器に連続的に、又は間歇的に供給し、共重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。即ち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、及び、触媒の配位子構造の制御により分子量を制御する方法等が挙げられる。
【0037】
重合体の組成制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。
その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法等が挙げられる。
【0038】
2.オレフィン系樹脂組成物
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、必須成分として、前記本発明のオレフィン系ランダム共重合体(A)と、無機フィラー(B)と、を含有する組成物である。
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系の成形用樹脂を無機フィラー強化するための添加剤として好適に用いられる。オレフィン系樹脂組成物は、無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられる、無機フィラー-オレフィン系樹脂複合材用オレフィン系樹脂組成物であってもよい。
本発明のオレフィン系樹脂組成物に用いられる無機フィラーとしては、ガラス、タルク、マイカ、クレー、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ウォラスナイトなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイトなどの炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸カルシウムなどの水酸化物、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化マグネシウムなどの酸化物などを用いたフィラーが挙げられる。
その中でも,一般的に、熱可塑性樹脂などの補強を目的として用いられるもので、鱗片状、繊維状、粉末状、ビーズ状などの形態を有するガラスフィラーが好適に用いられる。ガラスフィラーを構成するガラスとしては、Eガラスのような無アルカリ珪酸塩ガラス、Cガラスのような含アルカリ珪酸塩ガラスまたは通常のソーダライムガラスが用いられる。
【0039】
ガラスフィラーのなかでもガラス繊維は、比強度、比弾性率などの力学的特性に優れるばかりではなく、熱的安定性、化学的安定性、電磁波特性など機能的特性にも特徴を有し、複合用フィラーとしての広い応用分野が期待できることから好ましい。
ガラス繊維のサイズは特に制限されないが、平均繊維径は、通常3μm以上30μm以下、好ましくは8μm以上20μm以下であり、平均繊維長は、通常0.05mm以上200mm以下、好ましくは0.2mm以上50mm以下、より好ましくは2mm以上20mm以下である。
また、ガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、通常5以上6000以下、好ましくは10以上2000以下である。
【0040】
ガラスフィラー以外の無機フィラーとしては、アルミナ繊維も好適に用いられる。アルミナ繊維のサイズは特に制限されないが、平均繊維径は、通常0.5μm以上30μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下であり、平均繊維長は、通常0.05mm以上200mm以下、好ましくは0.2mm以上50mm以下、より好ましくは2mm以上20mm以下である。
【0041】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、希釈用樹脂として、本発明のオレフィン系ランダム共重合体以外のオレフィン系(共)重合体を含有していてもよい。希釈用樹脂としてのオレフィン系(共)重合体は、成形用のオレフィン系樹脂、すなわち無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系マトリクス樹脂との親和性の高いものを用いることが望ましい。かかる観点から、希釈用のオレフィン系(共)重合体は、オレフィン系マトリクス樹脂であるポリマーの主要な構造単位を生じさせるモノマーを含む単独重合体または共重合体であることが好ましい。また希釈用のオレフィン系(共)重合体は、オレフィン系マトリクス樹脂であるポリマーの主要な構造単位を50mol%以上含んでいることが好ましい。
例えば、オレフィン系マトリクス樹脂がプロピレン系樹脂である場合には、希釈用のオレフィン系(共)重合体は、プロピレン単独重合体またはプロピレン共重合体であることが好ましく、プロピレン単位の含有量は50mol%以上であることが好ましい。
【0042】
無機フィラー、及び、オレフィン系ランダム共重合体の含有量は特に制約されないが、無機フィラーは、通常、本発明のオレフィン系樹脂組成物全体を100質量%とした場合に5質量%以上40質量%以下、好ましくは10質量%以上40質量%以下含有される。オレフィン系ランダム共重合体は、通常、本発明のオレフィン系樹脂組成物全体を100質量%とした場合に60質量%以上95質量%以下、好ましくは60質量%以上90質量%以下含有される。
【0043】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、無機フィラー、オレフィン系ランダム共重合体、及び、必要に応じて希釈用オレフィン系(共)重合体、その他の添加剤を溶融混練することにより得られ、ペレット状、パウダー状、フレーク状等の形状とすることができる。
溶融混練の工程は、例えばロールミル、バンバリーミキサー、ニーダー等で行うことができる。また、タンブラー式ブレンダー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー等で混合した後、一軸押出機、二軸押出機等で混練を行ってもよい。
ガラス繊維として長ガラス繊維を用いる場合には、長ガラス繊維モノフィラメントの束を含浸ダイスに導入し、ダイス内で溶融状態の樹脂成分を含浸させた後、必要な長さに切断することにより、ペレット状の組成物が得られる。
【0044】
3.本発明の無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材
本発明の無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材は、必須成分として、前記本発明のオレフィン系ランダム共重合体(A)、無機フィラー(B)、及び、前記本発明のオレフィン系ランダム共重合体以外のオレフィン系樹脂(C)を含有する組成物である。
本発明の複合材は、軽量で優れた力学特性を有する無機フィラー強化樹脂成形体の成形用樹脂材料として好適に用いられる。
なお、前記本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、無機フィラーとの界面接着性に優れたオレフィン系樹脂であるから、それ自体を複合材のマトリクス樹脂として用いてもよい。その場合には、必須成分として無機フィラー、及び、前記本発明のオレフィン系ランダム共重合体を含有する無機フィラー強化複合材を用いて成形体を製造することができる。
本発明のオレフィン系樹脂複合材は、複合材のオレフィン系マトリクス樹脂として、前記本発明のオレフィン系樹脂以外のオレフィン系樹脂を用いる。マトリクス樹脂としては、従来から成形用樹脂として用いられているオレフィン系樹脂を用いることができる。軽量性、経済性の観点では、プロピレン系樹脂がマトリクス樹脂として好適に用いられる。プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、及び、プロピレン共重合体のいずれも用いてもよいが、プロピレン系樹脂の力学特性を十分に引き出す観点から、プロピレンモノマーの重合割合が大きいことが好ましく、具体的には、通常は、重合体中の構造単位の合計100mol%に対しプロピレンモノマーに由来する構造単位の含有割合が50mol%以上のプロピレン系樹脂が用いられる。
【0045】
本発明の複合材は、必要に応じて様々な添加剤を含有していてもよい。例えば、分散剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化促進剤(増核剤)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤、顔料、染料等の着色剤、カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、アゾ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー等の粒子状充填剤、ワラストナイト等の短繊維状充填剤、チタン酸カリウム等のウィスカー等が挙げられる。
【0046】
オレフィン系樹脂複合材における、無機フィラー、及び、オレフィン系ランダム共重合体、及び、オレフィン系マトリクス樹脂の含有量は特に制約されないが、無機フィラーは、通常、オレフィン系樹脂複合材全体を100質量%とした場合に5質量%以上40質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下含有される。オレフィン系ランダム共重合体は、通常、オレフィン系樹脂複合材全体を100質量%とした場合に1質量%以上20質量%以下、好ましくは3質量%以上10質量%以下含有される。オレフィン系マトリクス樹脂は、通常、オレフィン系樹脂複合材全体を100質量%とした場合に40質量%以上94質量%以下、好ましくは60質量%以上87質量%以下含有される。
【0047】
本発明のオレフィン系樹脂複合材は、無機フィラー、前記本発明のオレフィン系ランダム共重合体、オレフィン系マトリクス樹脂、及び、その他の添加剤を溶融混練することにより得られ、ペレット状、パウダー状、フレーク状等の形状とすることができる。溶融混練のための方法、装置は、上記した本発明のオレフィン系樹脂組成物を製造する場合と同じものを用いることができる。
また、オレフィン系マトリクス樹脂と上記した本発明のオレフィン系樹脂組成物を混合することにより、本発明のオレフィン系樹脂複合材を製造してもよい。この場合、オレフィン系マトリクス樹脂のペレットと、本発明のオレフィン系樹脂組成物のペレットを混合することにより、本発明のオレフィン系樹脂複合材を製造してもよい。
【0048】
本発明のオレフィン系樹脂複合材を用いて、軽量でかつ曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、剛性などの力学特性にも優れた成形体を製造することができる。成形方法としては、射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、ガス注入射出成形法、発泡射出成形法等の公知の成形法を適用できる。
本発明のオレフィン系樹脂複合材を用いて様々な分野の成形体を製造することができる。例えば、自動車用部材、自動車用部品、自動車用材料、家具、住宅関連内装・外装材、工具その他の機械部品等を成形することができる。
自動車用部材としては、インストゥルメントパネル、ドアパネル、コンソールボックス等の内装部品、ラジエータグリル、スポイラー、サイドガーニッシュ、ランプカバー等の外装部品が挙げられる。自転車用部品としては、フレーム、ホイール等が挙げられる。家具としては椅子やテーブルの脚部、収納容器等が挙げられる。住宅関連内装・外装材としては、浴室部品、水回りのバルブ、トイレの便座等が挙げられる。工具その他の機械部品としては、電動工具部品、ホースジョイント、樹脂ボルト等が挙げられる。
特に、マトリクス樹脂としてプロピレン系樹脂を用いた複合材においては、水酸基含有コモノマー由来の構造単位を含む本発明のオレフィン系樹脂により無機フィラーとプロピレン系マトリクス樹脂との間に優れた接着性が付与されるため、プロピレン系マトリクス樹脂が本来備えている剛性、耐熱性、成形性などの物性を損なわず、且つ、複合材で通常問題となる接合界面の剥離による耐久性の低下が改良され、高度な物性バランスを持つことが期待できる。
とりわけ製品の大型化、薄肉軽量化、形状の多様化、リサイクル性、経済性等、高度な物性バランスが要求される自動車用材料の分野において、好適に用いることができる。
【実施例
【0049】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。
【0050】
1.評価方法
(1)分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めた。具体的な測定手法は以下の通りである。また、分子量分布パラメーター(Mw/Mn)は、GPCによって、更に数平均分子量(Mn)を求め、MwとMnの比、Mw/Mnを算出した。
[測定条件]
・装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
・検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
・カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
・移動相溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
・測定温度:140℃
・流速:1.0ml/min
・注入量:0.2ml
[試料の調製]
試料はODCB(0.5mg/mLの2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させた。
[分子量の算出]
GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレン(PS)による検量線を用いて行った。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成した。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いた。
なお、分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いた。
PS : K=1.38×10-4、α=0.7
PP : K=1.03×10-4、α=0.78
すなわち、上述の手法により、ポリプロピレン換算した分子量から無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)を求めた。Mwの定義は「高分子化学の基礎」(高分子学会編、東京化学同人、1978)等に記載されている。
【0051】
(2)水酸基含有コモノマー含有量(mol%)
1H-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、水酸基を有するα-オレフィンコモノマーの含有量(mol%)を求めた。
[試料の調製]
試料200mgをO-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(C6D5Br)=4/1(体積比)2.4ml、および化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンとともに内径10mmφのNMR試料管に入れ、窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定に供した。
[測定条件]
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカーバイオスピン(株)のNMR装置AVANCE(III)400を用いた。1H-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回として測定をした。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのプロトンシグナルを0.09ppmとして設定し、他のプロトンによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。コモノマー含量は、1H-NMRスペクトルのコモノマーシグナルを帰属し、そのシグナル強度に基づいて算出した。
【0052】
2.オレフィン系樹脂の製造
無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系樹脂としては、以下に示すA-1~A-15を使用した。
【0053】
<A-1の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、2μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、10-ウンデセン-1-オール60mmol、トリイソブチルアルミニウム66mmolを導入し、水素200mL、プロピレン圧0.5MPa、80℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
15分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は36.7g、Mw110,000、Mw/Mn2.4、10-ウンデセン-1-オール含量4.30mol%であった。
【0054】
<A-2の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、7μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として1.8mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、10-ウンデセン-1-オール60mmol、トリイソブチルアルミニウム80mmolを導入し、水素22mL、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
20分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は28.9g、Mw254,000、Mw/Mn3.0、10-ウンデセン-1-オール含量3.00mol%であった。
【0055】
<A-3の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、22μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として5.8mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、10-ウンデセン-1-オール60mmol、トリイソブチルアルミニウム80mmolを導入し、水素242mL、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
20分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は40.2g、Mw64,000、Mw/Mn2.6、10-ウンデセン-1-オール含量3.70mol%であった。
【0056】
<A-4の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、11μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として2.5mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、10-ウンデセン-1-オール60mmol、トリイソブチルアルミニウム80mmolを導入し、水素66mL、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
20分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は7.6g、Mw111,000、Mw/Mn2.2、10-ウンデセン-1-オール含量3.10mol%であった。
【0057】
<A-5の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、2μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン900mL、10-ウンデセン-1-オール25mmol、トリイソブチルアルミニウム28mmolを導入し、水素400mL、プロピレン圧0.5MPa、100℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
15分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は78.9g、Mw65,000、Mw/Mn3.5、10-ウンデセン-1-オール含量1.10mol%であった。
【0058】
<A-6の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、0.5μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として10mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン900mL、10-ウンデセン-1-オール20mmol、トリイソブチルアルミニウム22mmolを導入し、水素400mL、プロピレン圧0.5MPa、80℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
26分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は79.0g、Mw88,000、Mw/Mn2.9、10-ウンデセン-1-オール含量0.80mol%であった。
【0059】
<A-7の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、1.7μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として0.4mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、10-ウンデセン-1-オール10mmol、トリイソブチルアルミニウム13mmolを導入し、水素22mL、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
20分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は12.6g、Mw170,000、Mw/Mn2.5、10-ウンデセン-1-オール含量0.60mol%であった。
【0060】
<A-8の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、5μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として1.2mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン750mL、10-ウンデセン-1-オール30mmol、トリイソブチルアルミニウム40mmolを導入し、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
40分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は37.1g、Mw295,000、Mw/Mn2.4、10-ウンデセン-1-オール含量0.90mol%であった。
【0061】
<A-9の製造>
プロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、1μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン900mL、10-ウンデセン-1-オール10mmol、トリイソブチルアルミニウム11mmolを導入し、水素800mL、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
30分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合体を回収した。収量は115.7g、Mw39,000、Mw/Mn2.2、10-ウンデセン-1-オール含量0.30mol%であった。
【0062】
<A-10の製造>
プロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、1μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン900mL、3-ブテン-1-オール60mmol、トリイソブチルアルミニウム66mmolを導入し、水素200mL、プロピレン圧0.5MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
60分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を回収した。収量は13.9g、Mw192,000、Mw/Mn1.9、3-ブテン-1-オール含量0.10mol%であった。
【0063】
<A-11の製造>
プロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、5μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、3-ブテン-1-オール60mmol、トリイソブチルアルミニウム66mmolを導入し、水素100mL、プロピレン圧0.2MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
60分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を回収した。収量は9.8g、Mw78,000、Mw/Mn2.1、3-ブテン-1-オール含量0.50mol%であった。
【0064】
<A-12の製造>
プロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、40μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン500mL、3-ブテン-1-オール40mmol、トリイソブチルアルミニウム44mmolを導入し、水素100mL、プロピレン圧0.2MPa、75℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
15分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を回収した。収量は38.6g、Mw43,000、Mw/Mn2.5、3-ブテン-1-オール含量1.10mol%であった。
【0065】
<A-13の製造>
プロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を以下の方法で製造した。
充分に窒素置換した30mLフラスコに、20μmolのrac-ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドを秤量し、脱水ヘプタン(10mL)を加えた。このヘプタン溶液に、日本アルキルアルミ(株)製のメチルアルミノキサントルエン溶液(メチルアルミノキサン(MAO)として20mmol)を加えて触媒溶液を調製した。
次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内に精製窒素雰囲気下で、精製ヘプタン400mL、3-ブテン-1-オール120mmol、トリイソブチルアルミニウム132mmolを導入し、水素100mL、プロピレン圧0.1MPa、70℃で安定化させた。
その後、上記オートクレーブ内に、先に調製した触媒溶液を添加し、重合を開始した。
30分間の重合終了後、エタノール(10mL)を加え、圧力を開放し、窒素置換し、オートクレーブを室温まで冷却した。
回収した重合スラリー液から、エタノール(1L)を用いて共重合体を再沈し、ろ過により共重合体を得た。
共重合体を塩酸(2N、200mL)/エタノール(1L)溶液で洗浄した後、さらにエタノール(1L)を用いて洗浄した。
70℃で6時間減圧乾燥後、最終的にプロピレン/3-ブテン-1-オール共重合体を回収した。収量は13.2g、Mw35,000、Mw/Mn2.2、3-ブテン-1-オール含量1.80mol%であった。
【0066】
<A-14>
市販の無水マレイン酸(MAH)変性ポリプロピレン樹脂(三洋化成社製 商品名:ユーメックス1001)を使用した。
【0067】
<A-15>
三菱化学社製の無水マレイン酸(MAH)変性ポリプロピレン樹脂(商品名:CMPP2)を使用した。
【0068】
3.ガラス材との接着性評価
無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系樹脂とガラス材との接着性は、フィルム状に熱プレス成形した試料を、松浪硝子工業(株)製スライドガラス「S2215」(幅21mm×長さ76mm×厚み1mm)2枚の間に挟み込む形で溶融圧着し、以下の方法で評価した。
(a)カプトンシートで共重合体樹脂を挟み、さらに鏡面処理した厚さ5mmのステンレス製のプレス板ではさみ、試料を溶融プレスし、50μmのフィルムに成形する。成形条件は210℃で3分間予熱後、10MPaの圧力で3分間加圧した後、10MPaの圧力にて常温で冷却加圧する。
(b)成形されたフィルムを幅1mm×長さ21mmにカットしスライドガラスの片端面へ配置し、その上にもう1枚のスライドガラスの片端面を載せてダブルクリップで固定する。ヒートガンで10秒間加熱し試料をスライドガラスに熱融着させる
(c)ダブルクリップを外し、試料が融着された1対のスライドガラスの片側部位(幅21mm×長さ74mm)を実験台に固定する。
(d)固定されたスライドガラスの別の一端に鉛直下向きの負荷を断続的にかけ続け、融着部の破壊が生じた時点の荷重を測定し、その大きさで接着性を以下のように評価した。
×(不良):融着部の破壊が生じた時点の荷重が100g未満であり、スライドガラスとの接着性を示さない。
△(やや不良):融着部の破壊が生じた時点の荷重が100gを超えるが、150gを超えることはない。
〇(良好):融着部の破壊が生じた時点の荷重が150gを超えるが、200gを超えることはない。
◎(優秀):付着の程度が上記を超え、スライドガラスとの優れた接着性を示す。
【0069】
A-1~A-15とガラス材との接着性について、表1に評価結果を示す。
【表1】

【0070】
4.アルミ材との接着性評価
無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材に用いられるオレフィン系樹脂とアルミ材との接着性は、複合材用オレフィン系樹脂を短冊状の2枚のアルミシート(幅15mm、長さ100mm、厚み0.1mm)の片端面間に挟み込む形で溶融圧着した試験片を用いて引っ張り試験にて評価した。溶融圧着部は幅15mm、長さ20mmとした。引っ張り試験機には複合材用オレフィン系樹脂で溶融圧着されていない試験片の片一方を試験機の把持部でしっかりと掴み、一直線上に引っ張り溶融圧着部を剥離することができるように設置する。その後、試験機の把持部を所定の試験速度で溶融圧着部を引き剥がす方向に移動させる。把持部の移動した距離に対して、溶融圧着部が剥離するときに加えられた荷重を記録する。接着性は溶融圧着部が完全に剥離するまでの間に記録された最大の荷重をもって評価した。
[測定条件]
・試験機:島津社製 オートグラフAG-X plus
・試験片の作成方法:プレス成型(210℃にて3分間余熱し、同温度で5MPaにて1分間加圧。その後、水冷にて冷却固化。)
・試験片の数:n=5
・試験速度:500mm/min
・評価項目:最大剥離荷重
【0071】
A-1、A-5、A-7、A-9、A-11、A-12、A-14、A-15とアルミ材との接着性について、表2に評価結果を示す。
【表2】

【0072】
5.ガラス繊維複合材の力学物性の評価
表3に記載の割合で、ポリオレフィン系樹脂、ガラス繊維、複合材用オレフィン系樹脂をドライブレンドにて混合し、樹脂組成物を得た。
[使用材料]
ポリオレフィン系樹脂として、日本ポリプロ社製ホモポリプロピレン(グレード名MA3)を使用した。MFRは10g/10分、融点は161℃であった。
ガラス繊維には日本電気硝子社製T480H(平均繊維長3mm、平均繊維径13μm)を用いた。
複合材用オレフィン系樹脂として、上述の製造で得られるA-2、A-8を使用した。得られる樹脂組成物100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤であるテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]メタン(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部、フォスファイト系酸化防止剤であるトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト(商品名:IRGAFOS 168、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部、ステアリン酸カルシウム0.05質量部を添加した。
これらを、二軸押出機(テクノベル社製KZW-15)を用い、スクリュー回転数は400RPM、混練温度は、ホッパ下から120℃、200℃、240℃(以降、ダイス出口まで同温度)の設定条件で溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。
上記樹脂組成物ペレットを、東芝機械社製EC20型射出成形機にて射出成型を行い、10×80×4t(mm)サイズの試験片を成形した。
射出成形の条件は、成形温度240℃、金型温度40℃、射出速度52mm/秒、射出時間8秒、冷却時間12秒である。
【0073】
この試験片を用いて曲げ弾性率、曲げ強さ、シャルピー衝撃強度の評価を行った。
[曲げ弾性率、曲げ強さの測定条件]
・規格番号:JIS K-7171(ISO 178)に準拠
・試験機:東洋精機社製 ベンドグラフII
・試験片の形状:厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm
・試験片の作成方法:射出成型
・状態の調節:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室内に24h以上放置
・試験室:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室
・試験片の数:n=3
・支点間距離:64mm
・試験速度:2.0mm/min
・評価項目:曲げ弾性率、及び、曲げ強さ(最大曲げ応力)
[シャルピー衝撃強度の測定条件]
・規格番号:JIS K-7111(ISO 179/1eA)準拠
・試験機:東洋精機社製 全自動シャルピー衝撃試験機(恒温槽付き)
・試験片の形状:シングルノッチ付き試験片、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm
・ノッチ形状:タイプAノッチ(ノッチ半径0.25mm)
・衝撃速度:2.9m/s
・公称振り子エネルギー:4J
・試験片の作成方法:射出成型試験片にノッチを切削(ISO 2818に準拠)
・状態の調節:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室内に24h以上放置
・試験室:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室
・試験片の数:n=5
・試験温度:23℃
・評価項目:吸収エネルギー
【0074】
ガラス繊維複合材の力学物性の評価について、表3に評価結果を示す。
【表3】
【0075】
6.結果及び考察
ガラス材との接着性評価試験において、実施例1~実施例8では融着部の破壊が生じた時点の荷重が150gを超えるが、比較例1~比較例7では150g以下であった。この結果から、本実施例とガラス材との接着性が良好であることが確認できた。
アルミ材との接着性評価試験において、実施例1,5,7の剥離荷重は比較例1,3,4,6,7の剥離荷重より大きかった。詳細には、各比較例の剥離荷重はいずれも10Nに満たないが、実施例1,5の剥離荷重は20Nに近く、また実施例7の剥離荷重は30Nを超えており、実施例と比較例の剥離荷重に大きな差がみられた。この結果から、本実施例とアルミ材との接着性が良好であることが確認できた。
ガラス繊維複合材の力学物性評価試験において、実施例9は比較例8に比較して曲げ弾性率及び曲げ強さが高かった。また、実施例10は比較例8に比較して曲げ強さ及びシャルピー衝撃強度が高かった。この結果から、本実施例のガラス繊維複合材は、比較例より力学物性に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のオレフィン系ランダム共重合体は、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の間の親和性を改良することができ、しかも、オレフィン系樹脂の無機フィラーに対する界面接着性を高めるために従来知られていた変性技術に関わる欠点も生じないので、無機フィラーとオレフィン系マトリクス樹脂の間の親和性向上剤として好適に用いることができる。
本発明の無機フィラー含有のオレフィン系樹脂複合材は、軽量でかつ力学特性に優れた成形体を製造するために好適に利用できるので、広い分野で利用される。
特に、本発明のオレフィン系樹脂複合材から製造された成形体は、剛性、耐熱性、耐久性、成形性のバランスが良いため、自動車用部材として好適に用いることができる。