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特許7303738ポリビニルアルコール系繊維および繊維構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系繊維および繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/50 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
D01F6/50 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019234418
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102824
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】岩知道 直行
(72)【発明者】
【氏名】野中 寿
(72)【発明者】
【氏名】圖子 博之
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-100913(JP,A)
【文献】国際公開第96/025538(WO,A1)
【文献】特開平11-335449(JP,A)
【文献】特開平04-153309(JP,A)
【文献】特公昭54-017053(JP,B1)
【文献】特開平06-248511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
D01F9/00-9/04
C08L101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体を30から70質量%、デンプンを70から30質量%含み、結晶化度が30%以下であり、前記デンプンが変性アミロースコーンデンプン、エステル化ハイアミロースコーンデンプンおよび疎水化ワキシーデンプンから選択される少なくとも一種であり、水中溶断温度が40℃以下であるポリビニルアルコール系繊維。
【請求項2】
引張強度が3cN/dtex以上である請求項1に記載のポリビニルアルコール系繊維。
【請求項3】
前記ビニルアルコール系重合体のケン化度が80から96モル%である請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系繊維。
【請求項4】
前記ビニルアルコール系重合体の平均重合度が500から2450である請求項1から3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系繊維。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系繊維を含有する繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性を有するポリビニルアルコール系繊維、および該繊維を含有する繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成樹脂はその成形性と機械的強度に優れることから、合成樹脂からなる多種多様の成形品が広い分野で大量に使用されている。大量の合成樹脂製の成形品の廃棄は、環境汚染、海洋汚染を引き起すことから、その解決策として合成樹脂製の成形品の回収、再利用が行政指導のもと、積極的に取り組まれている。
【0003】
一方、合成樹脂製の成形品が不要となって廃棄処分された場合、水や紫外線により細かく粉砕される。しかしながら合成樹脂はその主成分が石油由来であるため、自然環境では完全に分解されずに微細化だけが進行し、この微細化されたマイクロプラスチックは回収が困難である。回収されなかったマイクロプラスチックは海洋を汚染し、生態系へ悪影響を及ぼすことが懸念されることから、いわゆるマイクロプラスチック問題も地球環境の観点から注目を集めている。
【0004】
マイクロプラスチック問題を解決すべく、土壌環境や水環境などの自然環境で分解される生分解性樹脂の研究開発に現在注目が集まっている。生分解性樹脂としては、様々な種類が知られている。例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などの脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂、およびデンプン、セルロースなどの天然高分子が知られている。
【0005】
なかでもデンプンは、トウモロコシ、ジャガイモ、コメ、およびコムギなどの種々の植物によって合成された完全生分解性多糖類であり、利用可能で最も豊富な再生可能資源の一つである。したがって生分解性樹脂であるデンプンを様々な用途に適用する試みがなされている。
【0006】
しかしながらデンプンは結晶性のため、成形加工性に劣り、得られる成形品の形状が限られる場合が多い。また得られた成形品は非常に脆弱で、一般に製品に求められる機械的性質を満たしていない場合が多い。
【0007】
したがって、デンプンの加工性および機械的強度を改良する目的で、生分解性樹脂であるポリビニルアルコールを添加する研究がこれまでなされてきている。例えば特許文献1にはケン化度が98モル%以上のポリビニルアルコールとデンプンとからなる生分解性繊維が開示されている。
【0008】
特許文献2にはポリビニルアルコールとデンプンの組成物を特定の条件で紡糸し、10μm以下の径を有するフィブリルとする製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平3-249208号公報
【文献】特開平8-296121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら特許文献1に記載の生分解性繊維は機械的強度が高いものの、生分解性は十分とはいえない。特許文献2に記載の方法で得られる繊維は、熱水溶解性には優れるものの、生分解性については記載がない。
【0011】
したがって、地球規模で問題となっているマイクロプラスチック問題の解決を可能とするような、土壌環境や水環境などの自然環境で分解される生分解性繊維という観点からは、機械的強度と生分解性のさらなる改良が求められている。
【0012】
本発明の目的は繊維としての強度を維持しつつ、自然環境で比較的速く分解される生分解性の繊維、および該繊維を含む繊維構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、
[1] ビニルアルコール系重合体を30から70質量%、デンプンを70から30質量%含み、結晶化度が30%以下であり、前記デンプンが変性アミロースコーンデンプン、エステル化ハイアミロースコーンデンプンおよび疎水化ワキシーデンプンから選択される少なくとも一種であり、水中溶断温度が40℃以下であるポリビニルアルコール系繊維、
[2] 引張強度が3cN/dtex以上である上記[1]に記載のポリビニルアルコール系繊維、
[3] 前記ビニルアルコール系重合体のケン化度が80から96モル%である上記[1]または[2]に記載のポリビニルアルコール系繊維、
および
[4] 前記ビニルアルコール系重合体の平均重合度が500から2450である上記[1]から[3]のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系繊維、
に関する。
【0014】
さらに本発明は、
] 前記[1]から[]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維を含有する繊維構造体
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繊維としての強度を維持しつつ、土壌環境や水環境などの自然環境で比較的速く分解される生分解性の繊維、および該繊維を含む繊維構造体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、繊維中にビニルアルコール系重合体を30から70質量%、デンプンを70から30質量%を含み、結晶化度が30%以下のポリビニルアルコール系繊維である。なお、繊維中のビニルアルコール系重合体とデンプンの合計量を100質量%とした。
【0017】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、土壌環境や水環境などの自然環境で分解される生分解性を有する繊維である。ここで、土壌環境で分解されるとは、土壌中に放置した場合、バクテリアや微生物の作用により分解されることであり、後述するような方法で評価した。
また水環境で分解するとは、真水または海水に室温以下で自然に溶解した後、バクテリアや微生物の作用により分解することである。後述する水中溶断温度が低ければ低いほど、バクテリアや微生物の作用により分解するまでの時間が短縮されるので、水環境で分解しやすいといえる。
【0018】
本発明で用いられるビニルアルコール系重合体はビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化したものである。ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
上記のビニルエステル重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルモノマーを用いたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルモノマーを用いて得られたものがより好ましい。ビニルエステル重合体は1種または2種以上のビニルエステルモノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0020】
ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0021】
上記のビニルエステル重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合は、得られる繊維の水環境中での生分解性や強度の観点から、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。上記他のモノマーの含有量は0でもよいが、ビニルエステル重合体が上記他のモノマーを含む場合、他のモノマーに由来する構造単位の割合は、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、0.02モル%以上が好ましく、0.1モル%以上がより好ましい。
【0022】
本発明のポリビニルアルコール系繊維に用いられるビニルアルコール系重合体は上述したビニルエステル重合体をケン化することで得られる。また本発明のポリビニルアルコール系繊維に用いられるビニルアルコール系重合体は、スルホン酸基、スルホネート基、マレイン酸基、イタコン酸基、アクリル酸基およびメタクリル酸基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するビニルアルコール系重合体であってもよい。
【0023】
本発明のポリビニルアルコール系繊維に用いられるデンプンは、とうもろこしデンプン、ジャガイモデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、サツマイモデンプン、サゴパームデンプン、大豆デンプン、クズウコンデンプン、ワラビデンプン、ハスデンプン、キャッサバデンプン、ワクシートウモロコシデンプン、高アミロースコーンスターチ、市販のアミロース粉末およびこれらを変性処理したものが挙げられる。変性処理したデンプンは、例えばカチオンデンプン、α化デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、酢化デンプン、変性アミロースコーンデンプン、エステル化ハイアミロースコーンデンプン、疎水化ワキシーデンプンなどである。
これらデンプンは1種または2種以上用いてもよい。
【0024】
上記デンプンの中では、成形性の観点から変性アミロースコーンデンプン、エステル化ハイアミロースコーンデンプン、疎水化ワキシーデンプンが好ましい。また生分解性の観点からはとうもろこしデンプン、ジャガイモデンプン、タピオカデンプンが好ましい
【0025】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、上記ビニルアルコール系重合体と上記デンプンの合計量を100質量%として、ビニルアルコール系重合体を30から70質量%、デンプンを70から30質量%含有する。
機械的強度と後述する生分解性の観点から、本発明のポリビニルアルコール系繊維はビニルアルコール系重合体を40から60質量%、デンプンを60から40質量%含有することがより好ましい。
【0026】
2種以上のビニルアルコール系重合体を用いる場合は、ビニルアルコール系重合体の合計量が上記範囲となればよい。また同様に2種以上のデンプンを用いる場合は、デンプンの合計量が上記範囲となればよい。
【0027】
なお、本発明のポリビニルアルコール系繊維は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、樹脂成分として、ビニルアルコール系重合体およびデンプン以外のポリマーを含んでいてもよい。また、必要に応じて、例えば、可塑剤、架橋剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤などの各種添加剤が配合されていてもよい。
【0028】
ポリビニルアルコール系繊維が上記樹脂成分や各種添加剤を含む場合、その含有量は上記ビニルアルコール系重合体とデンプンの合計量を100重量部として、20重量部以下が好ましい。
【0029】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、結晶化度が30%以下である。ポリビニルアルコール系繊維の水環境中での生分解性の観点から、結晶化度は28%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。また紡糸性および機械的強度の観点から、20%以上が好ましい。
ポリビニルアルコール系繊維の結晶化度は、後述するように示差走査熱量測定により、融解時の吸熱量から求めることができる。
【0030】
本発明のポリビニルアルコール系繊維の結晶化度は、ビニルアルコール系重合体の重合度、ケン化度、また後述する紡糸・延伸条件により制御することができる。
【0031】
得られるポリビニルアルコール系繊維の結晶化度を上記範囲に制御しやすいという観点から、ビニルアルコール系重合体のケン化度は80モル%以上96モル%以下が好ましい。また得られるポリビニルアルコール系繊維の機械的強度と水環境中での生分解性の観点から、ポリビニルアルコール系繊維のケン化度は、83モル%以上96モル%以下がより好ましく、88モル%以上96モル%以下がさらに好ましい。
【0032】
ビニルアルコール系重合体のケン化度は、通常、JIS K6726記載の方法により求めることができる。なお上述したように、本発明のポリビニルアルコール系繊維に用いられるビニルアルコール系重合体は1種でも2種以上でもよい。ビニルアルコール系重合体を2種以上用いる場合は、各ビニルアルコール系重合体のケン化度から全ビニルアルコール系重合体のケン化度を下記式により求め、得られた全ビニルアルコール系重合体のケン化度が上記範囲に入ることが好ましい。
【0033】
【数1】
【0034】
本発明に用いられるビニルアルコール系重合体の平均重合度(粘度平均重合度)は、特に制限はないが、機械的強度および水溶解時の収縮とゲル化による繊維の不溶解化抑制の観点から、2450以下が好ましく、1800以下がより好ましい。重合度が大きすぎると、水環境中での生分解性が劣る場合がある。また、紡糸性の低下や繊維間膠着を抑制し、繊維および繊維構造体の機械的性能・品位の維持の観点から、重合度は500以上が好ましく、700以上がより好ましく、1000以上が特に好ましい。
【0035】
本発明のポリビニルアルコール系繊維の水中溶断温度(以下、WTbと称する場合がある)は、水環境中での生分解性の観点から、40℃以下が好ましく、20℃以下がさらに好ましく、10℃以下が特に好ましい。ポリビニルアルコール系繊維のWTbは、使用するビニルアルコール系重合体の重合度、ケン化度、結晶化度などによりコントロールすることができる。また前記官能基を有するビニルアルコール系重合体を用いた場合、当該官能基の種類と含有率などによりコントロールすることができる。
【0036】
例えば、本発明のポリビニルアルコール系繊維が2種類以上のビニルアルコール系重合体を含有する場合、かかるビニルアルコール系重合体としては、
(1)スルホン酸基、スルホネート基、マレイン酸基、イタコン酸基、アクリル酸基およびメタクリル酸基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する2種以上のビニルアルコール系重合体、
(2)上記官能基を有するビニルアルコール系重合体と上記官能基を有さないビニルアルコール系重合体
等が挙げられる。
【0037】
またビニルアルコール系重合体以外のポリマーを含む場合、かかるビニルアルコール系重合体としては、例えば、
(3)上記官能基の少なくとも1種を有するビニルアルコール系重合体および上記官能基を有さないビニルアルコール系重合体とビニルアルコール系重合体以外のポリマー、または上記官能基の少なくとも1種を有するビニルアルコール系重合体とビニルアルコール系重合体以外のポリマー
等が挙げられる。
【0038】
上記(1)において、上記官能基の少なくとも1種を有するビニルアルコール系重合体が複数種の場合は、官能基の種類、含有率、ケン化度、重合度のうち少なくとも1種が互いに異なっている。また(2)において、上記官能基の少なくとも1種を有するビニルアルコール系重合体と上記官能基を有さないビニルアルコール系重合体のケン化度、重合度は異なっていても同じでもよい。
【0039】
またスルホン酸基、スルホネート基、マレイン酸基、イタコン酸基、アクリル酸基およびメタクリル酸基の少なくとも1種を有するビニルアルコール系重合体の場合、これら官能基を少なくとも0.1モル%有していることが好ましく、0.5モル%以上を含有することがさらに好ましい。また上記官能基の量は、通常、15モル%以下が好ましい。
【0040】
上記官能基の少なくとも1種を有するビニルアルコール系重合体を用いる場合、そのケン化度、重合度は、上記範囲が好ましい。
【0041】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、まず上記のビニルアルコール系重合体と、デンプンとを所定量含む紡糸原液を調製する。紡糸原液の溶媒は水また有機溶媒が用いられる。機械的性能および寸法安定性が高く断面が略円形で均質な繊維が得られる観点から、さらに水中溶解温度を低くできることから、紡糸原液の溶媒は有機溶媒が好ましい。
【0042】
有機溶媒は、例えばジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称する場合がある)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが例示される。なかでもDMSOが低温溶解性、低毒性、低腐食性などの点で最も好ましい。
【0043】
紡糸原液中のビニルアルコール系重合体の濃度は、組成、重合度、溶媒によって適宜選定されるが、一般的には8~40質量%の範囲である。紡糸原液の溶媒が有機溶媒の場合、溶解は窒素置換後減圧下で撹拌しながら行うのが、酸化、分解、架橋反応等の防止および発泡抑制の点で好ましい。紡糸原液の吐出時の液温としては50から150℃の範囲で、原液がゲル化したり分解・着色しない範囲とすることが好ましい。
【0044】
紡糸原液中のデンプンの濃度は、得られるポリビニルアルコール系繊維中のビニルアルコール系重合体とデンプンの量が、ビニルアルコール系重合体とデンプンとの合計量を100質量%として、ビニルアルコール系重合体が30から70質量%、デンプンが30から70質量%となるように設定される。一般的には、紡糸原液中のデンプンの濃度は2~30質量%の範囲である。
【0045】
上記のように調整した紡糸原液を紡糸することで、本発明のポリビニルアルコール系繊維を製造することができる。紡糸方法は特に限定されず、たとえば乾式紡糸法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法が例示される。なかでも生産性が高いことなどから湿式紡糸法により紡糸するのが好ましく、ビニルアルコール系重合体に対して固化能を有する固化液に吐出すればよい。特に多ホールから紡糸原液を吐出する場合には、吐出時の繊維同士の膠着を防ぐ点から乾湿式紡糸法よりも湿式紡糸法の方が好ましい。
【0046】
湿式紡糸法とは、紡糸口金から直接に固化浴に紡糸原液を吐出する方法であり、一方、乾湿式紡糸法とは、紡糸口金から一旦、空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、それから固化浴に導入する方法である。なお、本発明でいう固化とは、流動性のある紡糸原液が流動性のない固体に変化することをいい、原液組成が変化せずに固化するゲル化と原液組成が変化して固化する凝固の両方を包含する。
【0047】
紡糸原液の溶媒が水である場合には、たとえば飽和芒硝水溶液を固化液とすればよく、紡糸原液の溶媒が有機溶媒である場合には、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類やこれらの2種以上の混合物を固化液とすればよい。
【0048】
繊維内部まで十分に固化させるために、固化溶媒に紡糸原液の溶媒を混合したものを用いるのが好ましく、固化溶媒/原液溶媒の混合質量比は95/5から40/60が好ましく、90/10から50/50がさらに好ましく、85/15から55/45が最も好ましい。また固化浴に原液溶媒を混合することにより、固化能を調整すると共に原液溶媒と固化溶媒の分離回収コストの低下をはかることができる。
【0049】
固化浴の温度に限定はないが、紡糸原液の溶媒が有機溶媒の場合、固化は通常固化浴温度が-15から30℃の間で行う。均一固化および省エネルギーの観点からは、固化浴温度が-10から20℃が好ましく、-5から15℃がさらに好ましく、0から10℃が特に好ましい。固化浴の温度がこの温度範囲外の場合、得られる繊維の引張り強度が低下する場合がある。紡糸原液が高温に加熱されている場合には、固化浴温度を低く保つためには、固化浴を冷却するのが好ましい。
【0050】
次いで固化浴から離浴後の繊維を例えば湿延伸する。湿延伸の場合、得られるポリビニルアルコール系繊維の結晶化度を上記範囲内にしやすいという観点から、5倍以下が好ましく、機械的性能、膠着防止の点からは1.0から5倍が好ましく、2.0から4.0倍の湿延伸を施すのがより好ましい。糸篠の膠着抑制のため、毛羽の出ない範囲で湿延伸倍率を大きくすることが好ましい。湿延伸倍率を大きくするためには、抽出工程中において2段以上の多段に分けて湿延伸を行うことが有効である。
【0051】
なお紡糸原液の溶媒が有機溶媒の場合、固化溶媒を主体とする抽出浴に接触させて糸篠から原液溶媒を抽出除去するのが好ましい。また湿延伸と抽出を同工程で行ってもかまわない。この抽出処理は、純粋な固化溶媒を糸篠の走行方向に対して向流方向で連続的に流すことにより抽出浴での滞留時間を短縮できる。この抽出処理により、糸篠中に含まれている紡糸原液溶媒の量を糸篠質量の1%以下、特に0.1%以下にすることができることから、このような方法が好ましい。接触させる時間としては5秒以上、特に15秒以上が好ましい。
【0052】
抽出速度を高め、抽出を向上させるためには、抽出浴中で糸篠をばらけさせることが好ましい。また乾燥に先立って、ビニルアルコール系重合体に対して固化能の大きい溶剤、たとえばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類に糸篠中の紡糸原液の溶媒を置換したり、鉱物油系、酸化ポリエチレン系、シリコン系、フッ素系などの疎水性油剤を溶液状またはエマルジョン状で糸篠に付着させたり、乾燥時の収縮応力を緩和させるために乾燥前に収縮させることも膠着防止に有効である。
【0053】
次いで、繊維を乾燥する。得られるポリビニルアルコール系繊維の結晶化度を上記範囲内に制御しやすいという観点から、乾燥温度は150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。さらに乾熱延伸することにより繊維の機械的性能を高めることができる。
【0054】
乾熱処理条件は使用するビニルアルコール系重合体の性状、特に融点や、得られるポリビニルアルコール系繊維に求められる水中溶断温度に応じて適宜選定する。例えば、得られるポリビニルアルコール系繊維の結晶化度を上記範囲内にしやすいという観点から、乾熱延伸の延伸倍率は1.1から10倍程度とするのが好ましく、乾熱延伸温度は80から200℃とするのが好ましい。工程通過性と乾熱延伸性および/または乾熱処理の効果の点から、乾熱延伸温度は100から200℃、特に120から180℃であるとさらに好ましい。繊維間膠着を抑制して効率的に延伸を行う点からは、乾熱延伸を2倍以上の多段で行うのが好ましく、特に昇温での多段延伸を行うのが好ましい。
【0055】
得られるポリビニルアルコール系繊維の結晶化度の観点から、上記の乾燥、延伸、熱処理工程のいずれかの工程で、全延伸倍率を10倍以下とすることが好ましい。
【0056】
本発明のポリビニルアルコール系繊維の単繊維の繊度は特に限定されないが、通常、0.1から1000dtexであり、0.2から100dtex、さらに0.5から50dtex程度の繊度が広く使用できる。繊維の繊維長は用途に応じて適宜設定すればよいが、たとえば紙や紡績糸に加工する場合には、繊維長を1から80mm程度とするのが好ましい。また得られるポリビニルアルコール系繊維の横断面形状は特に限定はないが、複雑な形状よりもシンプルな実質的に円形の繊維が水分散性、製品の均質性などの点から好ましい。また、本発明のポリビニルアルコール系繊維の引張強度は3cN/dtex以上が好ましく、5cN/dtex以上がより好ましい。
【0057】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は土壌環境や水環境などの自然環境で分解される性質を有し、機械的性能等の諸性能に優れることから、該繊維を種々の繊維構造体として用いることができる。たとえば、カットファイバー、フィラメント、紡績糸、布帛(織編物、乾式不織布、湿式不織布)、ロープ、紐状物等の繊維構造体に加工できる。なかでも機械的性能、柔軟性などに優れていることから、布帛、特に不織布、なかでも乾式不織布とするのがより好ましい。かかる布帛は所望形状に成形して用いることができる。
【0058】
本発明のポリビニルアルコール系繊維を繊維構造体とする場合、水溶性繊維、非水溶性繊維、ポリビニルアルコール系繊維等の他の繊維と併用してもよい。併用する場合、自然環境での分解されやすさの観点から、繊維構造体中、本発明のポリビニルアルコール系繊維の含有量は40質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80から100質量%が特に好ましい。また金属、他の樹脂からなるフィルム等、他の材料と併用してもよい。
【0059】
また本発明の繊維構造体を包装材に用いる場合、機械的性能、柔軟性、水溶解性、包装性能等の観点から、少なくとも繊維布帛として使用するのが好ましい。特に製造工程性、コスト、水溶解性等の点からは不織布であるのがより好ましい。かかる布帛の目付は、機械的性能、包装性能の点からは10g/m以上、特に40g/m以上であるのが好ましく、生産効率、柔軟性の点からは80g/m以下、さらに60g/m以下であるのが好ましい。また機械的性能の点からは、布帛の裂断長は5N/25cm以上であるのが好ましい。
【0060】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は土壌環境や水環境などの自然環境で分解される性質を有しており、該繊維を含有する繊維構造体は、地球規模で問題となっているマイクロプラスチック問題を解決しうる成形品である。したがって、その用途は種々広範囲にわたる。
【0061】
例えば以下のような用途に好適に用いることができる。
空気、油および水用フィルタ;掃除機用フィルタ;炉用フィルタ;フェイスマスク;コーヒーフィルタ、ティーまたはコーヒーバッグ;断熱材および遮音材;おむつ、女性用パッド、および失禁物品のような使い捨て衛生製品;超微細繊維または通気性布地のような衣服の吸水性および柔軟性を改良するための生分解性織物布地;粉塵の回収および除去のための静電的に帯電した構造ウェブ;補強材および包装紙、筆記用紙、新聞印刷用紙、波形の板紙のような硬質紙用ウェブ、およびトイレットペーパー、ペーパータオル、ナプキンおよびティッシュペーパーのような薄葉紙類用ウェブ;外科的ドレープ、創傷包帯、包帯、または皮膚貼付剤および自己溶解性縫合糸などの医療用途;デンタルフロスおよび歯ブラシの毛のような歯科用途;ハウス、トンネル、防草用フィルム、等の農業用途;釣り糸、テグス、釣り餌、漁網等の漁業用途、プラスチックバッグ、梱包材、食品用トレイ、袋等の包装用途。
【0062】
また本発明のポリビニルアルコール系繊維は、臭気吸収剤、シロアリ忌避剤、殺虫剤、殺鼠剤等も含んでもよい。得られる製品は、水および油を吸収し、水および油の漏出物清掃、または農業若しくは園芸用の制御された保水および放水に用途を見出せる。
【0063】
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、のこぎりくず、木材パルプ、プラスチック、およびコンクリートのような他の材料に組み入れられて、壁、支持梁、プレス板、乾式壁体および裏材、並びに天井タイルのような建築材料に使用する複合物質としてもよい。ギプス、副木、および舌圧子のようなその他の医療用途、並びに暖炉の装飾用および/または燃焼用の丸太に組み入れられてもよい。
【0064】
上述のとおり、本発明のポリビニルアルコール系繊維およびそれを含有する繊維構造体は、種々の用途に用いることができる。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0066】
[重合度]
JIS K 6726に準拠し、30℃の水溶液の極限粘度[η]の測定値から、下記式(2)によって算出した。なお、Pはポリビニルアルコールの平均重合度である。
【数2】
【0067】
[ケン化度(モル%)]
JIS K 6726に準じて測定した。
【0068】
[ポリビニルアルコール系繊維の結晶化度]
メトラー社製示差走査熱量測定装置(DSC-20)を用い、繊維サンプル10mgを窒素雰囲気下20℃/minの速度で昇温した際の、吸熱ピークにおける吸熱量ΔH(J/g)を測定し、ポリビニルアルコールの完全結晶融解熱である174.5J/gに対する割合から、下記式(3)によって、結晶化度を算出した。
【数3】
【0069】
[水環境中での生分解性評価](水中溶断温度 WTb)
長さ10cmの繊維束に2.0mg/dtexの荷重をかけて0℃の水中に吊し、水温を2℃/分の速度で昇温し、繊維が溶解して荷重が落下した時点の温度を水中溶断温度(WTb)とした。
【0070】
[繊維の強度]
JIS L 1013に準じて、予め調湿されたヤーンを試長20cm、初荷重0.25cN/dtexおよび引張速度50%/分の条件で測定し、n=20の平均値を採用した。また繊維繊度(dtex)は質量法により求めた。
【0071】
[土壌環境中での生分解性評価](土中埋設重量減少率)
プラスチック製のタッパーに園芸用腐葉土(バーク入り、未抗菌)1kgと水200gを入れた。金属枠に巻いた繊維サンプルを園芸用腐葉土に埋め、タッパーの蓋を閉めて40℃の乾燥機に入れ、そのまま放置した。8か月後、サンプルを取り出して、園芸用腐葉土をメタノールで洗い流した後、80℃で2時間乾燥し、重量測定をし、重量減少率を下記式(4)で算出した。生分解性評価は重量減少率70%以上が○、50%以上70%未満が△、50%未満を×とした。○は生分解性が良、△は可、×が不良である。
【数4】
【0072】
[実施例1]
重合度1750、ケン化度96モル%のビニルアルコール系重合体(クラレ製「27-96」)と変性アミロースコーンデンプン(Ingredion製「Ecofilm」)とを重量比で50:50にてDMSOに加え、90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプンの濃度の合計量が23質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、5℃の固化浴中で乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で3.0倍の湿熱延伸を施した。なお固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。ついで、メタノールで糸篠中のDMSOを抽出し、糸篠に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥した。得られた乾燥原糸を160℃で乾熱延伸倍率を2.0倍の条件で乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造した。得られたポリビニルアルコール系繊維の全延伸倍率(以下、TDと称する場合がある)は6.0倍であり、紡糸性は良好であった。得られた繊維の結晶化度、強度、水中溶断温度、土中埋設重量減少率を測定した結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
重合度1750、ケン化度88モル%のビニルアルコール系重合体(クラレ製「22-88」)と変性アミロースコーンデンプン(Ingredion製「Ecofilm」)とを重量比で50:50にてDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプンの濃度の合計量が23質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、5℃の固化浴中で乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で3.0倍の湿熱延伸を施した。なお、固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。ついで、メタノールで糸篠中のDMSOを抽出し、糸篠に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥した。得られた乾燥原糸を160℃で乾熱延伸倍率を2.0倍の条件で乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造した。得られたポリビニルアルコール系繊維のTDは6.0倍であり、紡糸性は良好であった。得られた繊維の結晶化度、強度、水中溶断温度、土中埋設重量減少率を測定した結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(以下、AMPSと称する場合がある)を2.0モル%含有する重合度1700、ケン化度88モル%のビニルアルコール系重合体(クラレ製「S-2217」)と疎水化ワキシーデンプン(Ingredion製「FILMKOTE550」)とを重量比で70:30にてDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプンの濃度の合計量が24質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、0℃の固化浴中で乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で3.0倍の湿熱延伸を施した。なお、固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。ついでメタノールで糸篠中のDMSOを抽出し、糸篠に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥し、得られた乾燥原糸を160℃で乾熱延伸倍率2.0倍の条件で乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造した。得られたポリビニルアルコール系繊維のTDは6.0倍であり、紡糸性は良好であった。得られた繊維の結晶化度、強度、水中溶断温度、土中埋設重量減少率を測定した結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
重合度1750、ケン化度96モル%のビニルアルコール系重合体(クラレ製「27-96」)とエステル化ハイアミロースコーンデンプン(Ingredion製「National92065」)とを重量比で30:70にてDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプンの濃度の合計量が23質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、5℃の固化浴中で乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で3.0倍の湿熱延伸を施した。なお、固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。ついでメタノールで糸篠中のDMSOを抽出し、糸篠に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥し、得られた乾燥原糸を180℃で乾熱延伸倍率2.0倍の条件で乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造した。得られたポリビニルアルコール系繊維のTDは6.0倍であり、紡糸性は良好であった。得られた繊維の結晶化度、強度、水中溶断温度、土中埋設重量減少率を測定した結果を表1に示す。
【0076】
[比較例1]
重合度1750、ケン化度96モル%のビニルアルコール系重合体(クラレ製「27-96」)と疎水化ワキシーデンプン(Ingredion製「FILMKOTE550」)とを重量比で10:90にてDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプンの濃度の合計量が25質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、5℃の固化浴中に乾湿式紡糸したが、固化せず、紡糸不可であった。なお、固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。
【0077】
[比較例2]
重合度1750、ケン化度96モル%のビニルアルコール共重合体(クラレ製「27-96」)とエステル化ハイアミロースコーンデンプン(Ingredion製「National92065」)とを重量比で80:20にてDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプン濃度の合計量が23質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、5℃の固化浴中で乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で3.0倍の湿熱延伸を施した。なお、固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。ついで、メタノールで糸篠中のDMSOを抽出し、糸篠に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥し、得られた乾燥原糸を180℃で乾熱延伸倍率2.0倍の条件で乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造した。得られたポリビニルアルコール系繊維のTDは6.0倍であり、紡糸性は良好であった。得られた繊維の結晶化度、強度、水中溶断温度、土中埋設重量減少率を測定した結果を表1に示す。
【0078】
[比較例3]
重合度1750、ケン化度99.9モル%のビニルアルコール系重合体(クラレ製「25-100」)と変性アミロースコーンデンプン(Ingredion製「Ecofilm」)とを重量比で50:50にてDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ビニルアルコール系重合体とデンプンの濃度の合計量が20質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.1mmφのノズルを通して、固化液としてメタノールとDMSOの混合液を用い、5℃の固化浴中に乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で3.0倍の湿熱延伸を施した。なお、固化液のメタノールとDMSOの混合比は体積比で80:20であった。ついで、メタノールで糸篠中のDMSOを抽出し、糸篠に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥し、得られた乾燥原糸を180℃で乾熱延伸倍率2.0倍の条件で乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造した。得られたポリビニルアルコール系繊維のTDは6.0倍であり、紡糸性は良好であった。得られた繊維の結晶化度、強度、水中溶断温度、土中埋設重量減少率を測定した結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
上記の結果から明らかなように、本発明のポリビニルアルコール系繊維は水環境および土壌環境での分解性に優れることから自然環境での分解性に優れることがわかる。また繊維としての機械的強度も維持されている。本発明のポリビニルアルコール系繊維を含有する繊維構造体は、自然環境で効率的に分解し、近年問題となっているマイクロプラスチック問題の解決に貢献するものと思われる。