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▶ ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェンの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】電子部品用含浸シーラント
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20230628BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C08F290/06
C09K3/10 D
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020533706
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2018086026
(87)【国際公開番号】W WO2019122042
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】62/607,452
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/776,147
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】ロベル、 ピーター ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】クラーク、 グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】オドワイヤー、 パトリック
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-020282(JP,A)
【文献】特表2012-525481(JP,A)
【文献】米国特許第04216134(US,A)
【文献】特開2003-301020(JP,A)
【文献】特表2008-539108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10- 3/12
C08F283/01-299/08
C08F251/00-297/08
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気硬化性含浸シーラント組成物であって、
(a)疎水性部分を含む少なくとも種の(メタ)アクリル単官能性モノマーを組成物 の総重量に基づいて25~55重量%
(b)ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマーを組 成物の総重量に基づいて5~40重量%
(c)8000~18000g/molの重量平均分子量および-20℃未満のガラス 転移温度を有する少なくとも1種の変性ポリエステルウレタンメタクリレート樹脂を組成 物の総重量に基づいて10~30重量%;および
(d)トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、もしくはそれらの誘導体、またはそれらの組み合わせを組成物の総重量に基づいて5~15重量%
を含む、組成物。
【請求項4】
(a)疎水性部分を含む少なくとも2種の(メタ)アクリル単官能性モノマーが、C -C 20 アルキル基を含む疎水性部分を含む(メタ)アクリル単官能性モノマーを少なく とも2種含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
(a)疎水性部分を含む少なくとも2種の(メタ)アクリル単官能性モノマーが、C -C 20 直鎖または分岐アルキル基を含む疎水性部分を含む少なくとも1種の(メタ)ア クリル単官能性モノマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
(a)疎水性部分を含む少なくとも2種の(メタ)アクリル単官能性モノマーが、ラウ リル(メタ)アクリレートおよびトリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートを含む 、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
未硬化粘度が100mPa・sを超えない、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
嫌気硬化性組成物を製造する方法であって、
a)(a)組成物の総重量に基づいて25~55重量%の疎水性部分を含む少なくとも種の(メタ)アクリル単官能性モノマー、および(b)組成物の総重量に基づいて5~ 40重量%のヒドロキシル基を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマーを提供する工程;および
b)前記モノマーを(c)組成物の総重量に基づいて10~30重量%の8000~18000g/molの重量平均分子量および-20℃未満のガラス転移温度を有する少なくとも1種の変性ポリエステルウレタンメタクリレート樹脂、および(d)組成物の総重 量に基づいて5~15重量%のトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、もしくはそれらの誘導体、または組み合わせと組み合わせる工程
を含む、方法。
【請求項25】
(b)が、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項 に記載の方法。
【請求項28】
前記物品が電子部品である、請求項27に記載の物品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、実質的に酸素が存在しないことにより硬化するのに適合した、硬化性アクリルモノマーおよび樹脂を含む、電子部品用の含浸シーラント組成物およびその方法に関する。より具体的には、本発明は、熱衝撃および熱サイクルに対する優れた耐性を有しながら、金属とプラスチックなどの2つの異種の基材の間を封止するための含浸シーラント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質基材の含浸封止(impregnation sealing)は、多くの場合、よく知られた技術により、圧力差の下でシーラント組成物を孔中に導入することによって、または含浸シーラントを多孔質部品の表面に流し、選択した時間、毛管作用によってその孔中に流入させるウィッキング法によって行われる。
【0003】
このような含浸封止は、典型的には、腐食などの問題を回避するために、多孔質金属部品やその他の多孔質材料の製造に使用される。封止しようとする一般的な金属には、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、真ちゅう、およびさまざまなその他の合金がある。このような問題としては、空気、ガスおよび流体の漏れ易さがあり、これらは加工または仕上げの問題、ならびに多孔質部材の最終使用における困難性を引き起こし得る。細孔の封止は、部品に防漏性を付与し、腐食のリスクを最小限に抑えるために採用される。
【0004】
従来の含浸シーラント組成物は、自己硬化性嫌気性シーラント、熱硬化シーラント、および嫌気性硬化メカニズムと熱硬化メカニズムの両方によって硬化するシーラントであり得る。
【0005】
嫌気性含浸シーラントにとって、(メタ)アクリル樹脂は、その非常に有利な粘度特性および迅速な硬化性のために特に有用である。基材にいったん含浸されると、空気の不在化では嫌気性シーラントは自動的に自己硬化して完全に重合した状態となる。外側の部品の表面に残っているシーラントは空気に暴露されており、洗い流されるまで液体のままとなる。
【0006】
電子部品にとって、嫌気性含浸はいくつかの理由により有利である。成分は室温で硬化できるため、温浴などにおける高温硬化は不要となる。嫌気性シーラントでは、封止剤のブリードアウトが最小限であり、部品のひどい汚れが生じず、封止性能が常に高い。
【0007】
市販の嫌気性含浸シーリング組成物は、プラスチックと金属などの異種表面間で熱サイクルおよび熱衝撃に耐えることができない。熱サイクルとは、硬化した配合物を、-40℃と+150℃の間など、高温と低温の間でサイクルさせる場合のことである。熱衝撃とは、熱サイクルが、高温と低温の間で、30秒間隔など迅速な場合のことである。
【0008】
電子部品が金属部品の製造により不可欠になるにつれて、熱サイクルおよび熱衝撃に耐えるために、異種基材間の封止のための改善された液体含浸シーラント(LIS:liquid impregnation sealant)が必要となる。例えば、金属部品がエンジントランスミッションの電子制御ユニットなどの電子用途に含まれる場合、そのようなユニットには、トランスミッション、作動油、温度変化への暴露に耐えるために封止が必要とされる金属部品の上に成形されるプラスチックが含まれる。
【0009】
異種基材、および、十分な接着力を維持しながら金属基材とプラスチック基材の間に含浸するためのその能力には、さらなる問題が存在する。
【0010】
したがって、熱サイクルおよび熱衝撃を経ても結合を維持しながら、プラスチック基材および金属基材への優れた接着性を有する硬化性嫌気性シーラント組成物を提供することは、当技術分野における著しい進歩であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、プラスチック基材および金属基材への優れた接着性を有する硬化性嫌気性シーラント組成物を提供できる、そのような含浸シーラントを提供する。本発明はまた、熱サイクルおよび熱衝撃への優れた耐性を提供する。
【0012】
本発明の一態様では、
(a)C-C20疎水性部分を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー;
(b)ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー;
(c)約8000~約18000g/molの重量平均分子量を有する少なくとも1種の変性ポリエステルウレタンメタクリレート樹脂;および
(d)トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、もしくはそれらの誘導体、またはそれらの組み合わせ
を含む嫌気硬化性含浸シーラント組成物を少なくとも含む嫌気硬化性組成物が提供される。
【0013】
別の態様によれば、本発明は、嫌気硬化性組成物を製造する方法であって、
a)(a)疎水性部分を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー、および(b)ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマーを用意する工程;および
b)前記モノマーを、(c)約8000~約18000g/molの重量平均分子量を有する少なくとも1種の変性ポリエステルウレタンメタクリレート樹脂、および(d)トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、もしくはそれらの誘導体、またはそれらの組み合わせと組み合わせる工程
を含む方法を提供する。
【0014】
別の態様によれば、本発明は、
(a)C-C20疎水性部分を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー
(b)ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー;および
(c)約8000~約18000g/molの重量平均分子量を有する少なくとも1種の変性ポリエステルウレタンメタクリレート樹脂
を含む嫌気硬化性含浸シーラント組成物を少なくとも含む嫌気硬化性組成物を提供する。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、もしくはそれらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む嫌気硬化性含浸シーラント組成物を提供する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、上記による熱硬化性組成物を含浸させた製品を提供し、ここで該物品は多孔質金属表面およびプラスチック表面である。
【0017】
主題の他の特徴および態様は、以下により詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、従来の電子部品用シーラント組成物の欠点を克服する嫌気硬化性組成物を提供する。具体的には、本発明のシーラント組成物は、金属上に成形されたプラスチックのギャップ中に含浸する硬化性嫌気性液体含浸シーラント組成物を提供する。本発明の組成物は、プラスチックおよび金属基材に塗布された場合、プラスチックおよび金属基材への十分な接着性をも保持しながら、硬化したシーラントにおいて熱サイクルおよび熱衝撃に耐える十分な可撓性を有することにより、他の液体含浸シーラントの問題を回避する。本発明は、優れた封止剤特性を依然として保持しながら、これらの利点を提供する。
【0019】
本発明の組成物は、C-C20疎水性部分を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー;ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の(メタ)アクリル単官能性モノマー;約8000~約18000g/molの重量平均分子量を有する少なくとも1種の変性ポリエステルウレタンメタクリレート樹脂;および少なくとも1種のトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、もしくはそれらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0020】
また他の成分を組成物に添加してもよく、限定されるものではないが、組成物のフリーラジカル硬化を開始することが可能な触媒、他のコモノマー種、反応性希釈剤、顔料、界面活性剤、充填剤、重合阻害剤、安定剤、抗酸化剤、防食添加剤、熱硬化開始剤、可塑剤、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリレートモノマー
本発明のシーラント組成物は、C-C20疎水性部分を含む(メタ)アクリレートモノマーとヒドロキシル基を含む(メタ)アクリレートモノマーとの混合物を含む。シーラントはまた、多官能性(メタ)アクリルモノマーおよび低粘度の反応性希釈剤を含む。
【0022】
疎水性部分を含む(メタ)アクリレート単官能性モノマー
疎水性部分としては、C-C20アルキル基を含むモノマーが挙げられる。C-C20アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、4~20個の炭素原子のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートモノマーを指す。「アルキル」という用語は、直鎖、分岐、環状、および非環式基を含めた飽和脂肪族基を指す。追加の疎水性部分としては、1つ以上の芳香環を含むものが挙げられる。このような疎水性部分は、プラスチックの含浸を促進するマトリックス中の成分として機能する。
【0023】
-C20直鎖アルキル基の例としては、これらに限定されるものではないが、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(すなわち、ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
-C20分岐アルキル基の例としては、これらに限定されるものではないが、イソブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、1-メチルブチル(メタ)アクリレート、および1-エチルプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
-C20環状基の例としては、これらに限定されるものではないが、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、およびそれらの異性体が挙げられる。
【0026】
飽和脂環式基を有する単官能性(メタ)アクリレートの例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、およびジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。不飽和脂環式基を有する単官能性(メタ)アクリレートの例としては、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
単官能性(メタ)アクリレート疎水性部分はまた、芳香環を有する部分も含むことができる。芳香環を有する単官能性(メタ)アクリレートの例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレートおよび2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0028】
一実施形態では、特に有用な疎水性部分を含む(メタ)アクリレートモノマーは、C-C12アルキルおよび/または芳香環を有する部分の組み合わせである。さらにより好ましくは、特に有用な疎水性部分を含む(メタ)アクリレートモノマーは、1つ以上のC-C12アルキルの組み合わせ、さらにより好ましくは1つ以上のC-C12アルキルの組み合わせである。
【0029】
一実施形態では、疎水性部分を含む(メタ)アクリレートモノマーは、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0030】
一実施形態では、疎水性部分を含む(メタ)アクリレートモノマーの未硬化シーラント組成物の重量は、シーラント組成物の総重量に基づいて、約10~約20重量%、好ましくは約20~約60重量%、さらにより好ましくは約25~約55重量%である。
【0031】
ヒドロキシル基を含む単官能性(メタ)アクリルモノマー
少なくとも1つのヒドロキシル基を含む(メタ)アクリレートモノマーは、本発明において、硬化したポリマーに分子間引力をもたらし、金属基材とのより耐久性のあるシールを生成するために用いられる。そのようなモノマーとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、それらのエトキシル化および/またはプロポキシル化誘導体、それらのラクトンとの付加物、ポリアルコキシモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。特に好ましいのは、C~C10の炭素原子をアルキル基中に有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、それらのエトキシル化および/またはプロポキシル化誘導体、それらのラクトンとの付加物、およびそれらのポリアルコキシモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートである。
【0032】
そのようなモノマーの例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシノニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、それらの位置異性体、そのエトキシル化および/またはプロポキシル化誘導体、それらのラクトンとの付加物、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0033】
一実施形態では、ヒドロキシル基を含む(メタ)アクリルモノマーは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0034】
本発明によれば、ヒドロキシル基を含む(メタ)アクリレートモノマーの量は、シーラント組成物の総重量を基準として、約3~約45重量%、好ましくは約5~約40重量%、さらにより好ましくは約8~約35重量%である。
【0035】
本発明による好ましい組成物は、ヒドロキシル基を含む(メタ)アクリレートモノマーと疎水性部分を含む(メタ)アクリレートモノマーの当量の反応重量比が、一般に約1:1~約1:6であることをさらに特徴とする。望ましくは、好ましい反応比は1:1~約1:2である。
【0036】
多官能性(メタ)アクリルモノマー
シーラント組成物はまた、多官能性(メタ)アクリレートモノマーを含むことができる。これらの多官能性(メタ)アクリレートモノマーは架橋ポリマーを生成し、これは、ポリマーの靭性、弾性率、封止剤耐久性を向上させる。
【0037】
例としては、二官能性または三官能性(メタ)アクリレート、例えばポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフラン(メタ)アクリレートおよびジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート(「HPMA」)、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート(「TMPTMA」)、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(「TRIEGMA」)、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジ-(ペンタメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンジグリコールジ(メタ)アクリレート、ジグリセロールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチレンジ(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、およびビスフェノールAモノおよびジ(メタ)アクリレート、例えばエトキシル化ビスフェノールA(メタ)アクリレート(「EBIPMA」)、およびビスフェノールFモノおよびジ(メタ)アクリレート、例えばエトキシル化ビスフェノールA(メタ)アクリレートが挙げられる。特に好ましいのは、トリエチレングリコールジメタクリレートである。
【0038】
本発明によれば、多官能性(メタ)アクリレートモノマーの量は、シーラント組成物の総重量に基づいて、約0~約20重量%、好ましくは約0~約10重量%、さらにより好ましくは約0~約5重量%である。
【0039】
変性ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂
本発明は、ポリエステルまたはポリエーテルの骨格を有する1種以上の変性ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂を含む。このようなポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂を使用すると、金属基材とプラスチック基材の異なる熱膨張によって生じる動きが可能となる高い可撓性を与えることにより、2つの異種基材間の硬化したシーラント配合物の接着性を顕著に改善することが見出されている。
【0040】
本組成物の変性ポリエステルウレタンアクリレート樹脂は、ポリエステルジオールをトルエンジイソシアネートと反応させて樹脂を形成し、さらにその生成物を上記の重合性メタクリル酸エステルと反応させることにより形成される。一実施形態では、変性ポリエステルウレタン(メタ)アクリレートは、ポリエステルジオールとトルエンジイソシアネート(TDI)との反応で形成され、さらにその生成物をHEMAまたはHPMAと反応させる。
【0041】
一実施形態では、ポリエステルジオールは、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタンジオールアジペート)である。有用な他のポリエステルジオールは、ネオペンチルグリコールと炭素数が3を超えるジオールアジペート、例えば1,4-ブタンジオールアジペートとの反応によって形成される。
【0042】
TDIに対するポリエステルジオールの当重量(equivalent weight)の反応比は、一般に、約1.0~4.0部のポリエステルジオール 対 約1.0~約4.0部のトルエンジイソシアネートの範囲であるべきである。好ましい反応比は、約2部のTDI 対 約1部のポリエステルジオールである。この比は、高度の可撓性および安定性を有する化学構造を有する組成物をもたらす。
【0043】
本発明の変性ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂成分として利用することができる材料はまた、公開された米国出願第4,380,613号にも記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。市販の樹脂としては、EBECRYL 230(Allnex,ベルギー)が挙げられる。
【0044】
シーラント組成物は、可撓性の骨格をもたらすのに十分に高い分子量を有するのに十分な(メタ)アクリレート官能化樹脂および/またはモノマーを含むべきである。樹脂はまた、含浸に許容される粘度を可能にするのに十分低いレベルで存在するべきである。
【0045】
本発明によれば、ポリエステル樹脂の骨格を有するポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、約8000~約18000、より好ましくは約10000~約17000、そして最も好ましくは約12000~約16000の重量平均分子量(MW)を有する。
【0046】
一実施形態では、樹脂はまた、-20℃未満、好ましくは-30℃未満、より好ましくは-40℃未満のガラス転移温度を有する。
【0047】
シーラント組成物において、ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂の量は、選択された特定のポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂に応じて変化するが、典型的には、シーラント組成物の総重量に基づいて、約5~約40重量%、好ましくは約10~約30重量%、さらにより好ましくは約15~約25重量%である。
【0048】
ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂と、疎水性部分を含む(メタ)アクリルモノマーおよびヒドロキシル基を含む(メタ)アクリル単官能性モノマーとの重量当量の反応比は、約1:0.5~約1:6である。望ましくは、好ましい比は1:3~約1:5の範囲である。
【0049】
イソシアヌレート
本発明は、1種以上のイソシアヌレートまたはそれらの誘導体を含む。そのようなイソシアヌレートの使用により、可撓性、温度耐性、熱衝撃および熱サイクル性能、ならびに組成物の結合強度が変化する。イソシアヌレートは、重合反応に参加し得る。
【0050】
イソシアヌレートの中で、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、またはそれらの誘導体が特に望ましい。
【0051】
トリアリルシアヌレートは下記式で表される:
【0052】
【化1】
【0053】
トリアリルイソシアヌレートは下記式で表される:
【0054】
【化2】
【0055】
本明細書に記載の組成物において、イソシアヌレートの量は、可撓性、温度耐性、熱衝撃および熱サイクル性能、ならびに組成物の結合強度を調整するために変更することができる。例えば、イソシアヌレートは、シーラント組成物の総重量に基づいて、約1~約20重量%、好ましくは約5~15重量%、より好ましくは約10重量%の量で組成物中に含まれる。
【0056】
開始剤/促進剤
本発明のシーラントは、その中に存在する開始剤、またはレドックス重合開始剤(すなわち、酸化還元反応を生じる成分または成分の組み合わせであり、結果としてフリーラジカルが生成する)を含む開始剤系によって、フリーラジカルメカニズムによって嫌気硬化性であり得る。
【0057】
好適な開始剤としては、例えば、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド、およびペルエステルなどのペルオキシ材料が挙げられ、これらは、酸素が実質的に存在しない場合にシーラント組成物の重合を誘導することができるが、酸素が存在する限り重合を誘導しない。有機ヒドロペルオキシドは望ましいペルオキシ材料であり、t-ブチルヒドロペルオキシドおよびクメンヒドロペルオキシドが嫌気硬化性組成物に特に有用である。好ましい実施形態では、シーラント組成物は、室温硬化開始剤を含む。
【0058】
シーラント材料においてヒドロペルオキシドが硬化開始剤として使用される場合、開始剤成分に加えて、本発明で有用なシーラントは、例えばヒドロペルオキシド分解促進剤のようなさまざまな開始剤促進剤を含み得る。適切な促進剤候補の典型的な例としては:トリブチルアミンなどの第三級アミン;安息香酸スルフィミド(またはサッカリン)などのスルフィミド;ホルムアミド;およびオクタン酸銅などの遷移金属を含む化合物が挙げられる。
【0059】
ペルオキシ重合開始剤が含浸シーラント組成物に用いられる場合、そのような開始剤は、典型的には、組成物の約10重量%を超えず、好ましくは組成物の約5重量%を超えない。最も好ましくは、本発明の組成物に使用されるペルオキシ重合開始剤は、シーラント組成物の総重量を基準として、約0.1~約5重量%、好ましくは約0.5~約3重量%、さらにより好ましくは約1~約2.5重量%を占める。ペルオキシ重合開始剤の重量パーセントは、その比率を下回ると硬化速度が不適切に低くなるため、典型的には約0.1%を下回らない。
【0060】
組成物は、他の反応性希釈剤、顔料、接着促進剤、蛍光剤、界面活性剤、充填剤、重合阻害剤、安定剤、酸化防止剤、防食添加剤、熱硬化開始剤、可塑剤などの従来の添加剤を含むことができる。このような添加剤は、シーラント組成物生成物の重量に基づいて約0.1から約20重量パーセント、好ましくは20%以下を占め得る。
【0061】
本発明のシーラントは、その中に存在する開始剤、または熱活性化レドックス重合開始剤(すなわち、高温にさらされると酸化還元反応を起こし、結果としてフリーラジカルを生成する成分または成分の組み合わせ)を含む開始剤系により、熱開始フリーラジカルメカニズムによって嫌気硬化性であり得る。
【0062】
調製手順
本発明の組成物の調製では、(メタ)アクリル単官能性モノマーおよびポリエステルウレタンメタクリレート樹脂およびシアヌレートを、フリーラジカル硬化を開始することができる触媒とブレンドまたは混合する。
【0063】
続いて、シーラント組成物を、封止しようとする部品の細孔中に、乾式真空圧、内圧、湿式真空圧および湿式真空のいずれかによって含浸する。
【0064】
真空加圧プロセスでは、材料をオートクレーブに入れ、真空を引いて細孔内の空気を排出する。液体シーラント組成物は、部品がまだ真空下にある間に導入する。液体は重合して、細孔を永久的に封止する靭性の熱硬化性ポリマーを形成する。含浸サイクルの後、材料をオートクレーブから取り出し、次いで、材料の表面に含浸材料の跡や膜を残さずに表面を水でリンスする。
【0065】
熱サイクル/封止性能
異種基材に含浸するシーラント組成物は、理想的には、各温度で30分、温度間の移行時間が1分以下で、1000時間を超える熱サイクルに耐えるべきである。
【0066】
熱サイクル前の組成物の硬化特性は、好ましくは、含浸部品に対して2barの空気圧の封止能を示す。各温度で30分、温度間の移行時間が1分未満で、-40~+150℃の1000回の熱サイクルの後、含浸部品に対して2barの空気圧の封止能が維持されるべきである。
【0067】
粘度
未硬化の本発明の含浸シーラント組成物の粘度は、適切には約100mPa・sを超えず、好ましくはそのような粘度は50mPa・s未満、さらにより好ましくは約5mPa・s~35mPa・sである。(メタ)アクリル単官能性モノマー単独の組み合わせの粘度は、30mPa・sを超えるべきではなく、さらにより好ましくは約1mPa・s~25mPa・s、さらにより好ましくは2mPa・s~15mPa・sである。
【0068】
本明細書で使用される場合、粘度値は、Haake Rotovisco 1で、C60 1 Ti Lコーンを使用して、25℃において1000s-1の測定速度で測定した値である。
【0069】
異種材料
シーラント組成物は、金属とプラスチックなどの異種材料間を封止することができる。組成物は、異種材料が約10ppm/K~約50ppm/Kの熱膨張係数(CTE)の不一致を有する場合に特に有用である。
【0070】
金属としては、銅、鉄、青銅、真ちゅう、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、鋼、ニッケル、焼結金属、ならびに他の金属およびそれらの合金が挙げられる。
【0071】
プラスチック材料としては、ポリアセタール(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド-イミド(PAI)、またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および繊維充填同等物が挙げられる。
【0072】
そのような異種材料は、ダイキャスティング、サンドキャスティング、インベストメントキャスティング、圧力鋳造、粉末金属部品、射出成形、ならびに鍛造品または溶接物で製造することができる。
【0073】
電子用途
可能性のある電子用途としては、コネクタ、ワイヤ、キャパシタ、ケーブルハーネス、センサー、ソレノイド、コイル、および異種材料が界面リークパスを生成するその他の部品が挙げられる。
【0074】
シーラント組成物の用途としては、自動車駆動系、ステアリング系、空調およびその他の部品における、冷却剤、潤滑剤、燃料、油圧作動油、空気およびその他の流体の漏れに対する封止が挙げられる。
【0075】
多孔質の封止はまた、メッキおよびコーティング操作の予備工程として、およびプラスチック部品と粉末金属部品などの異種部品の機械加工性を改善するために使用することができる。
【0076】
定義
本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリルコポリマー」という用語は、メタクリルコポリマーおよびアクリルコポリマーの両方を指す。本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレートおよびアクリレートの両方を指す。
【0077】
本明細書で使用される場合、「Tg」という用語は、ポリマーのガラス転移温度を指す。これは、ポリマーのアモルファスドメインがガラス状態の特性である脆性、剛性(stiffness)、および剛直性(rigidity)を帯びる温度として定義される。ポリマーの場合、この温度は、典型的には、DSC(示差走査熱量測定)によって決定される。
【0078】
本明細書で使用される場合、「重量平均分子量」という用語は、ポリマーの分子量の特定の測定値を指す。重量平均分子量は以下のように算出される:多数のポリマー分子の分子量を決定し;これらの重量の二乗を加算し;次いで分子の総重量で除算する。重量平均分子量は、較正にポリスチレン標準を使用して、EN ISO 13885に準拠してゲル浸透クロマトグラフィーで測定することができる。
【0079】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解することができる。特記がない限り、重量パーセントは組成物全体に対するものである。
【実施例
【0080】
比較例
この例では、MWが4000g/mol、Tgが-31.2℃のポリエステルウレタンメタクリレートであるFLEXSEAL 5100(LOCTITE)を、ニッケルメッキ真ちゅうピン/ガラス強化ポリフェニレンサルファイドボディマルチプラグアセンブリ内に塗布し硬化した。硬化後、組成物を、-40~+150℃、各温度で30分、温度間の移行時間が1分未満の熱サイクルにかけた。マルチプラグのリーク耐性を、熱サイクルの前後に2barの空気圧を適用することにより試験した。
【0081】
例1
この例では、ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート樹脂を、メタクリレートモノマー、接着促進剤、および下記表に記載されているその他の成分と組み合わせる。リーク耐性を、ニッケルメッキ真ちゅうピン/ガラス強化ポリフェニレンサルファイドボディマルチプラグで測定する。
【0082】
【表1】
【0083】
硬化後、組成物を、-40~+150℃、各温度30分、温度間の転移時間が1分未満の熱サイクルにかけた。ニッケルメッキ真ちゅうピン/ガラス強化ポリフェニレンサルファイドボディマルチプラグにおいて、2barの空気圧を適用することによりリーク耐性を測定した。1000サイクル後、アセンブリは2barでリークし、封止不良を示した。
【0084】
例2
この例では、樹脂の量を減らして、粘度を一般的な含浸プロセスにより好適な粘度とした。プラスチックの濡れを改善し、材料の相溶性を改善するために、ラウリルメタクリレートおよびトリメチルシクロヘキシルメタクリレートを添加して、モノマー系を補てんした。配合物の粘度は25~30mPa・sであり、これは、含浸プロセスに理想的に適している。
【0085】
【表2】
【0086】
硬化後、組成物を-40~+150℃、各温度30分、温度間の転移時間が1分未満の熱サイクルにかけた。ニッケルメッキ真ちゅうピン/ガラス強化ポリフェニレンサルファイドボディマルチプラグにおいて、2barの空気圧を適用することにより、リーク耐性を測定した。1000サイクル後、アセンブリは2barでリークし、封止不良を示した。
【0087】
例3
この例では、性能を向上させるためにトリアリルシアヌレートを添加した。配合物は25~30mPa・sの粘度を有し、これは、含浸プロセスに理想的に適している。
【0088】
【表3】
【0089】
硬化後、組成物を-40~+150℃、各温度30分、温度間の移行時間が1分未満の熱サイクルにかけた。ニッケルメッキ真ちゅうピン/ガラス強化ポリフェニレンサルファイドボディマルチプラグにおいて、2barの空気圧を適用することにより、リーク耐性を測定した。1000サイクル後、アセンブリは2barでリークせず、これは、熱サイクル後のシーラントの性能が良好であったことを示す。