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特許7304028抗原認識用レセプター、抗原測定キット及び抗原検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】抗原認識用レセプター、抗原測定キット及び抗原検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230629BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230629BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N33/543 525E
C07K16/18 ZNA
C07K7/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018209788
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020076634
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 立規
(72)【発明者】
【氏名】松田 智昌
(72)【発明者】
【氏名】江原 岳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美穂
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-167756(JP,A)
【文献】特表2017-508444(JP,A)
【文献】特表2006-521387(JP,A)
【文献】特開平11-341980(JP,A)
【文献】特開2002-350445(JP,A)
【文献】LO, Y. et al.,Oriented Immobilization of Antibody Fragments on Ni-Decorated Single-Walled Carbon Nanotube Devices,ACS Nano,2009年10月01日,Vol.3, No.11,pp.3649-3655
【文献】GARCIA-SUAREZ, M. et al.,Oriented Immobilization of Anti-Pneumolysin Tagged Recombinant Antibody Fragments,Curr Microbiol,2009年03月28日,Vol.59,pp.81-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C07K 16/18
C07K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子抗体及び親水性のペプチドAを含有し、疎水性の基板に固定化して用いられるための抗原認識用レセプターであって、
前記ペプチドAが、αへックス構造を有し、
前記ペプチドAが、前記低分子抗体のC末端側に位置する、
抗原認識用レセプター。
【請求項2】
前記ペプチドAが、αスタンド構造、及びジンクフィンガー構造の少なくとも1種の立体構造を有する、請求項1に記載の抗原認識用レセプター。
【請求項3】
前記ペプチドAが、αスタンド構造を有し、ミオグロビンA鎖(A1~A16)中の疎水性アミノ酸を親水性アミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の抗原認識用レセプター。
【請求項4】
前記ペプチドAが、配列番号1、及び配列番号2の少なくも1種のアミノ酸配列を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原認識用レセプター。
【請求項5】
前記低分子抗体が、scFv抗体、ラクダ科動物由来VHH抗体又はサメ由来IgNAR抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗原認識用レセプター。
【請求項6】
さらに、ペプチドタグを含有するものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗原認識用レセプター。
【請求項7】
低分子抗体含有部位、ペプチドA含有部位及びペプチドタグ含有部位の順に結合している、請求項6に記載の抗原認識用レセプター。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原認識用レセプターを有する抗原測定キット。
【請求項9】
抗原と、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原認識用レセプターとを接触させることを特徴とする抗原検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原認識用レセプター、抗原測定キット及び抗原検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗体などの抗原認識用レセプターを基板に固定し、診断用途、分析用途及びセンサ用途などに適用することが試みられている。抗原認識用レセプターがその機能を発揮するためには、抗原認識部位などの機能部位が露出された状態で固定化されている必要がある。露出された状態で固定化されていないと抗原認識レセプターが抗原などの標的分子と結合できず、検出感度及び検出精度が低下する。そこで、抗原認識用レセプターを、一定の方向に配向させて基板に固定化することが試みられている。
【0003】
基板との物理的吸着を利用して固定した例として、疎水性の高いドメインを導入した融合タンパク質を作成することにより疎水性の高いドメインと基板とを物理吸着させ、親水性の高いタンパク質を配向固定する方法が報告されている(特許文献1参照)。
また、基板との化学的結合を利用して固定した例として、タンパク質に遺伝子組み換えによりカルボキシル基を含有するアミノ酸を導入し、かつ基板表面にはポリリジンなどで処理して結合させ、タンパク質を配向固定する方法が報告されている(特許文献2参照)。
【0004】
基板との物理的吸着又は化学的結合を利用する固定方法により、抗原認識用レセプターを基板に配向固定することが可能となる。しかしながら、上記で示すような従来の固定方法の大部分は、抗原認識用レセプターとして、完全長抗体を対象としている。完全長抗体は、実験動物によって製造されているため、抗体の作製に時間と手間がかかり、極めて製造コストが高い。このため、抗原認識部位として完全長抗体ではなく、大腸菌や酵母などにより安価かつ大規模生産が可能な単鎖抗体などの低分子抗体を基板に配向固定することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-220028号公報
【文献】特開2004-347317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低分子抗体は、安価で大規模生産でき、さらにC末端側の断片であるFc領域や定常部などの影響を排除できるため、抗原抗体反応を調べるための抗原認識用レセプター側の物質としては好適な形態である。しかしながら、低分子抗体は完全長抗体と比較して分子量が小さく、抗原認識部位などの機能部位の占める割合が高い。このため、低分子抗体は基板への配向固定化には極めて不利な形態であり、基板などと結合する部位によっては構造変化や不活性化するという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、低分子抗体を含有し、基板に配向固定可能な抗原認識用レセプターを提供することを目的とする。さらに、この抗原認識用レセプターを用いた抗原測定キット及び抗原検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抗原認識用レセプターは、低分子抗体及びペプチドAを含有し、前記ペプチドAが、αへリックス構造を有するものであるであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低分子抗体を含有し、基板に配向固定可能な抗原認識用レセプターを提供することができる。さらに、この抗原認識用レセプターを用いた抗原測定キット及び抗原検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の抗原認識用レセプターの一例を基板に固定した場合の状態を示す模式図である。
図2】抗原を、本発明の抗原認識用レセプターの一例と反応させたときの濃度と蛍光強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0012】
(抗原認識用レセプター)
本発明の抗原認識用レセプターは、少なくとも低分子抗体及びペプチドAを含有していればよく、その他の具体的な構造、材料、形態などの構成は特に限定されるものではない。
【0013】
ここで、抗原認識用レセプターにおける「抗原」とは、低分子抗体を有する抗原認識用レセプターが結合可能な分子であればよい。例えば酵素、受容体、抗体、抗原、ウイルス、環境ホルモン、アレルゲン物質、微生物、残留農薬、がん関連分子、生理活性物質、転写因子、シグナル伝達因子、特定の配列に結合するペプチド、特定の配列に結合するタンパク質、核酸、脂質、糖及び低分子化合物などが挙げられる。
【0014】
<低分子抗体>
本発明における「低分子抗体」とは、完全長抗体(whole antibody)の一部分が欠損している抗体断片であって、少なくとも重鎖又は軽鎖の可変領域を含んでおり、抗原などの標的分子への結合能を有していればよい。従って、本発明で対象となる低分子抗体としては、安価で大規模生産が可能であり、基板に密に固定できる観点から、通常、大腸菌や酵母での生産が可能であるVHH抗体(VHH、variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)、1本鎖抗体(scFv、single chain Fv)、多価性1本鎖抗体(sc(Fv)n)、定常部融合1本鎖抗体(scFv-Fc)、Fab断片、F(ab’)断片、免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR、immunoglobulin new antigen receptor)及びこれらを連結させた抗体断片などが挙げられ、好ましくは、VHH抗体、scFv抗体、IgNAR抗体及びこれらを連結させた抗体断片である。
【0015】
VHH抗体は、重鎖抗体の可変領域のみからなる抗体であり、重鎖は、可変領域を有する限り、不変領域の一部を欠失又は置換した抗体又はそのフラグメントであってもよい。本発明に用いられるVHH抗体は、特に限定されるものではないが、ラクダ科動物由来(フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーニャ、グアナコなど)の抗体が好ましい。
【0016】
scFv抗体は、重鎖と軽鎖の各可変領域のみをリンカーで連結した抗体であり、重鎖及び軽鎖は可変領域を有する限り、不変領域の一部を欠失又は置換した抗体又はそのフラグメントであってもよい。scFv抗体の由来は特に限定されず、いずれの由来の抗体も好適に用いることができる。
【0017】
IgNAR抗体は、哺乳類由来の抗体とは異なり、重鎖ホモ2量体の抗体である。軟骨魚類由来の抗体であり、重鎖の可変領域のみで抗原などの標的分子と結合する。軟骨魚類由来における軟骨魚類としては、例えばサメ、エイなどが挙げられるが、本発明の低分子抗体としては、サメ由来のIgNAR抗体を用いるのが好ましい。IgNAR抗体の重鎖は、可変領域を有する限り、不変領域の一部を欠失又は置換した抗体又はそのフラグメントであってもよい。
【0018】
<ペプチドA>
本発明における「ペプチドA」とは、基板上に固定化した際の低分子抗体の配向性を保ち、検出感度向上及び安定した再現性を実現するための低分子抗体を支持するペプチドである。
【0019】
ここで、ペプチドとは、ペプチド結合によって2個以上のアミノ酸が結合したものであり、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ホモメリックペプチド及びヘテロメリックペプチドを含む。また、ペプチドは、電気的に中性の形態、又は塩の形態をとることがあり、配列表におけるアミノ酸配列のみからなる形態、特定のタンパク質の末端部又は内部にペプチドを融合させた融合タンパク質としての形態、糖質やポリエチレングリコール、ビオチン、蛍光色素などを付加して得られる複合体としての形態などであってもよい。
【0020】
本発明におけるペプチドAは、低分子抗体のC末端側に位置し、このペプチドAが溶液中で安定して基板から立ちあがり、抗原などの標的分子と結合したときにもその標的分子を支持する役割を有する。これにより、低分子抗体の提示性が高まり、少量の低分子抗体であっても検出感度及び検出精度を向上させることができる。
【0021】
このため本発明のペプチドAは、剛直で安定な領域を含む構造を有するのが好ましく、本発明のペプチドAはαへリックス構造を有するペプチドである。αヘリックス構造は、ヘモグロビンその他の様々なタンパク質で頻繁に見られる二次構造である。αヘリックス構造は、(i)右巻きのらせん状構造である、(ii)らせんが一巻きする中にアミノ酸残基が3.6個含まれるなどの特徴を有する、剛直で安定な領域を含む構造である。このため、低分子抗体の配向性を揃え、標的結合部位に標的分子が結合したときにも安定して標的分子を支えることができる。
【0022】
さらに本発明のペプチドAは、全体として親水性のペプチドであるのが好ましい。通常、基板の表面材料は疎水性の材料が用いられる。基板の表面材料が疎水性である場合、全体として親水性のペプチドが含有されていれば、抗原認識用レセプターを基板に固定化した際に、基板の表面材料との相互作用により安定して基板から立ち上がることができる。このため、低分子抗体の配向性を容易に揃えることができる。さらに、低分子抗体を作製する際、親水性のペプチドを有するため、低分子抗体が大腸菌内で安定して発現しやくなり、低分子抗体の発現量が向上する。また、発現した低分子抗体の封入体形成を抑制でき、抗原認識用レセプターの不溶化を抑制することができる。
【0023】
本発明のαへリックス構造を有するペプチドとしては、αへリックス構造を有する公知のペプチドが挙げられる。例えば、ジンクフィンガー構造、ロイシンジッパー構造、ヘリックスターンヘリックス構造、αスタンド構造などの構造を有するペプチドが挙げられる。これらの構造は、αへリックス部位のみであってもよいし、その他の構造(例えばβシートなど)を含んでいても構わない。
αへリックス構造を有するペプチドとしては、好ましくはαスタンド構造又はジンクフィンガー構造を有するペプチドであり、特に好ましいのはαスタンド構造を有するペプチドである。
【0024】
本発明におけるαスタンド構造とは、ミオグロビンに含有される8本のαヘリックス(A~H鎖)のA鎖のアミノ酸配列を基盤とし、その2次構造はαヘリックスを維持したまま、より親水性のアミノ酸で置換した配列である。ミオグロビンを用いるのは、ミオグロビンのαへリックス部分において、上記の置換を行うことにより、親水性のαヘリックス構造を有するペプチドとすることができるからである。親水性であり、かつ安定なαヘリックス構造を支持部として有しているため、当該ペプチドを有する抗原認識用レセプターは、基板に倒れ込むことなくレセプターを立ちあがらせることができると考えられる。これによって、抗原認識部位の配向性が揃い、効率よく標的分子を捕捉することができると考えられる。さらに、抗原認識用レセプターの高さがほぼ一定となるために、検出感度を向上させることも期待できる。また、固定化反応は低分子抗体とは離間した別の部位で起こるため、活性への影響も最小限に抑えることができ、低分子抗体の不活性化などを抑制することができる。
【0025】
具体的なαスタンド構造としては、例えば、ミオグロビンA鎖(A1~A16)中の疎水性アミノ酸をグルタミン(Gln)に置換した配列を挙げることができる。
ここで、αスタンド構造の一例を具体的に示す。以下は、ミオグロビンA鎖(A1~A16)中の疎水性アミノ酸をグルタミン(Gln)に置換した配列(配列表の配列番号1)である。
【0026】
配列表の配列番号1
配列(N→C):SEGEWQQQQHQWAHQE
【0027】
本発明におけるジンクフィンガー構造とは、多くの転写因子のDNA結合ドメインに存在するDNA結合モチーフの一つであり、2つの逆平行βシート構造と1つのαヘリックス構造とを有する構造である。例えばCクラスのジンクフィンガー構造は、1つのユニットあたりアミノ酸残基がおよそ30個含まれ、2つのCys残基及びHis残基が亜鉛イオンを介してループ状を形成する、という特徴を有する、剛直で安定な領域を含む構造である。このため標的結合部位である低分子抗体の配向性を揃え、標的結合部位に抗原などの標的分子が結合したときにも安定して標的分子を支えることができる。
本発明のペプチドAとして用いる場合、ジンクフィンガー構造のαへリックス部位のみで用いることが好ましい。
【0028】
ジンクフィンガー構造のαへリックス部位の一例としては、以下の配列が挙げられる。
配列表の配列番号2
配列(N→C):LAKHMASCRLRK
【0029】
本発明のペプチドAの導入位置としては、低分子抗体の立体構造を維持したまま固相に固定化させる必要があるため、低分子抗体のC末端側に導入されることが好ましい。
また、本発明のペプチドAは、基板上に固定化した際の低分子抗体の配向性を保ち、低分子抗体を支持するものであれば、1つ又は複数個導入することができる。複数の箇所に本アミノ酸配列を導入することにより、本ペプチドの立体構造をより正常な状態に維持することが可能となる場合がある。例えば、scFvの重鎖及び軽鎖のC末端側にそれぞれペプチドAを導入すれば、より固相表面に結合しやすくなるので、抗原結合部位が外側を向き、効率よく標的分子を捕捉することができると考えられる。
さらに、例えば配列表の配列番号1及び配列番号2を組み合わせて導入することもできる。
【0030】
本発明のペプチドAは、C末端側を基板上に固定することができるが、本発明の抗原認識用レセプターは、後述する「ペプチドタグ」をさらに含むのが好ましい。低分子抗体を発現する際にペプチドタグを付加しておけば、そこを基板や精製用担体への固定化に用いることで、基板や精製用担体上でのタンパクの向きを揃えることができる。さらに、固定化反応は低分子抗体とは離間した別の部位で起こるため、活性への影響も最小限に抑えることができ、低分子抗体の不活性化などをより抑制することができる。
【0031】
<ペプチドタグ>
本発明における「ペプチドタグ」とは、基板表面の材料と結合する機能を有するペプチドであればよく、その他の具体的なアミノ酸配列や長さなどについては特に限定されない。さらに本発明のペプチドタグは、抗原認識レセプターを容易に精製できる、アフィニティタグとしての機能も有するペプチドがより好ましい。なお、本発明において結合とは、ペプチドタグと基板とが、本発明の意図する用途に利用できる程度の強度で相互作用する意味であり、基板と親和性を有し吸着する場合を含むものである。
【0032】
ペプチドタグは、公知のタグを用いることができ、例えばアフィニティタグとしてはHisタグ、PAタグ、TARGETタグ、FLAGタグ、Mycタグ、HAタグ、GSTタグ、PSタグ、PCタグ、PMMAタグ、SiNタグ、V5タグなどを用いることができる。これらの中でも、精製効率や安定性などの観点から、ヒスチジン残基から構成されるHisタグを用いるのが好ましい。Hisタグを構成するヒスチジン残基は、特定の緩衝液条件下でニッケル、コバルト及び銅を含むいくつかの金属イオンをキレートするため、金属を固定化した疎水性の基板を用いることで、発現させたHisタグ融合の抗原認識レセプターを容易に精製することができる。また、基板に固定化する際には、市販のニッケル含有疎水性基板などを用いることにより、安定かつ容易に固定化することができる。
【0033】
本発明のペプチドタグの導入位置としては、低分子抗体の立体構造を維持したまま基板に固定化させる必要があるため、ペプチドAのC末端側にペプチドタグを導入することが好ましい。
【0034】
なお、基板は、抗原認識用レセプターを固定化できるものであればよく、材質に特に限定はない。材質としては、例えば樹脂、ナイロン、ニトロセルロース、多糖、ガラス及び金属、金属酸化物などが挙げられる。基板としては、一種類の材質からなる基板でもよいし、複数の材質を組み合わせた複合的な基板であっても構わない。
抗原認識用レセプターが、ペプチドタグとしてアフィニティタグを有する場合、アフィニティタグと親和性の高い基板を用いることが好ましい。例えばHisタグの場合、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅等を表面に有する基板などが挙げられる。
【0035】
基板の形態としては特に限定はなく、用途に応じて適切な形態の基板を用いればよい。例えば平板状、フィルム状、繊維状、粒状、球状、レンズ状などであってもよいし、表面の一部に三次元の形状を有するものであってもよい。
また、基板は様々な部材に応用することが可能であり、シャーレ状、バッグ状、チューブ状、マイクロチューブ状、ボトル状、フィルター状、多孔質体、カラム状としてもよい。
また、抗原認識を電気的・光学的に行うことを想定した場合、電極やセンサ上に、本発明の抗原認識部位を固定化した基板を配置してもよい。あるいは、電極やセンサ自体を基板として抗原認識部位を固定化してもよい。
【0036】
図1は、本発明の抗原認識用レセプターの一例を基板に固定した場合の状態を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の抗原認識用レセプター10は、αスタンド構造などの領域を含むペプチドA14が低分子抗体12を支持しているため、基板20に倒れ込むことなく立ちあがっている。これによって低分子抗体12の配向性が揃い、また基板20に密に固定できるため、効率よく抗原などの標的分子を捕捉することができる。さらに、低分子抗体12の基板20からの高さがほぼ一定となり機能部位の提示性がより高まるため、検出感度や検出精度をより向上させることができる。また、低分子抗体12とは離間した別の部位であるペプチドタグ16と基板20とが固定化しているため、低分子抗体12における活性への影響も最小限に抑えることができ、検出精度を向上させることができる。
【0037】
<抗原認識用レセプターの作製方法>
以下に、本発明の抗原認識用レセプター10の作製方法について説明する。
【0038】
本発明の抗原認識用レセプター10は、公知のクローン化技術や化学合成法によって作製することができる。例えば、クローン化技術を利用すれば、それぞれの融合タンパク質をコードするDNAを調製し、これを自律複製可能な発現ベクターに挿入して組換えDNAとし、これを適当な宿主細胞に導入して形質転換することにより、目的とする抗原認識用レセプター10を作製することができる。
【0039】
発現ベクターとしては、宿主細胞の種類、宿主細胞への組換え発現ベクターの導入方法、融合タンパク質発現効率などを考慮して、当業者が周知の発現ベクターから適宜選択することができる。例えばプラスミドベクターであっても、レトロウイルスやアデノウイルスに由来するウイルスベクターであってもよい。なお、発現ベクターは、導入したDNAを発現するのに適したプロモーターやターミネーターなどを予め含んでいることが好ましい。
【0040】
宿主細胞としては、組換え発現ベクターから所望の低分子抗体12を発現できる細胞であればよい。例えば大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられる。
【0041】
また、精製用のタグとして上述したペプチドタグ16を導入した場合においては、形質転換体からの生成物を含む溶液を担体表面に接触させることにより、担体表面に直接吸着させて、分離精製することができる。生成物を含む溶液とは、目的となる低分子抗体12を含み、かつ宿主に起因する不要な夾雑物が存在する溶液全般を指す。例えば、菌体破砕液、菌体破砕液を遠心分離して得られた可溶性画分、菌体破砕液を遠心分離して得られた不溶性画分を可溶化したもの、細胞膜画分、細胞壁画分、細胞から分泌生産された分泌物、体液、又はこれらの不完全な精製物などを含む。
【0042】
ペプチドA14は、αヘリックス構造を有するペプチドであればよく、上述したように公知のペプチドを用いることができる。ペプチドA14として配列表の配列番号1のペプチドを用いる場合には、上述したようにミオグロビンA鎖(A1~A16)の疎水性アミノ酸をグルタミン(Gln)に置換することにより作製することができる。
【0043】
ペプチドタグ16は、上述したように公知のタグを用いることができる。
また、低分子抗体12を含有する部位である低分子抗体12含有部位、ペプチドA14を含有するペプチドA14含有部位及びペプチドタグ16を含有するペプチドタグ16含有部位は、順次常法に従って基板20に設けることができる。低分子抗体12、ペプチドA14及びペプチドタグ16の結合は、それぞれ直接結合されていなくてもよく、例えばリンカー、スペーサ及び他のアミノ酸配列などを介して結合されていてもよい。低分子抗体12含有部位、ペプチドA14含有部位及びプチドタグ16含有部位の順に結合して基板20に固定されていれば、上述したように低分子抗体12含有部位が基板20に倒れ込むことなく立ちあがり、低分子抗体12の配向性が揃うため、好ましい。
【0044】
以下、本発明の抗原認識用レセプター10の作製方法の一例についてより具体的に説明する。
【0045】
<低分子抗体の発現ベクターの作製>
まず、低分子抗体12の発現ベクターを作製する。低分子抗体12の発現ベクターの作製方法としては、例えばインバースPCR法や遺伝子組み換え手法などを用いることができる。
【0046】
インバースPCR法は、既知のDNA配列領域から、当該領域に隣接する未知のDNA配列領域の方向に、伸長反応するように設計されたプライマーを用いて未知のDNA配列を増幅する、PCR法の一つである。まず、抗原認識用レセプター10の構成成分の遺伝情報をコードしたプラスミドDNAと、DNAポリメラーゼ、オリゴヌクレオチドおよび4種のdNTPを少なくとも含む系において、上記プラスミドDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドをプライマーとしてプライマー伸長反応をさせ、抗原認識用レセプター10の構成成分の遺伝情報をコードしたプラスミドDNAを増幅させる。このインバースPCR法は、市販の高効率、高正確性なPCR酵素を用いることができ、例えばKOD -Plus- Ver.2(KOD-211、東洋紡(株))などを好適に用いることができる。
【0047】
次に、インバースPCR法により増幅したDNAにT4 DNA Polymeraseなどを作用させてDNA末端の平滑化処理を行う。T4 DNA Polymeraseとしては、市販の酵素と緩衝液を使用することができる。例えばMO203S(New England Biolabs)などを好適に用いることができる。精製後、DNA末端のリン酸化後にDNA末端同士を連結し環状化することにより、低分子抗体12とペプチドA14とペプチドタグ16とが融合した低分子抗体融合タンパクの発現ベクターを作製する。
【0048】
また、遺伝子組み換え手法を用いる場合、低分子抗体12の遺伝子情報をコードするDNAと、ペプチドA14の遺伝子情報をコードするDNAと、ペプチドタグ16の遺伝子情報をコードするDNAとを、低分子抗体12の遺伝子情報をコードするDNAの3’末端側に連続して連結したDNAを作製する。タンパク質の高発現のために幅広く用いられるpETシステムのプラスミドで、例えばプラスミドpET-11d DNAのクローニング領域に挿入し、低分子抗体とペプチドA14とペプチドタグ16とが融合した低分子抗体融合タンパクの発現ベクターを作製する。
【0049】
<発現ベクタープラスミドDNA回収用大腸菌の形質転換>
次に、発現ベクタープラスミドDNA回収用の大腸菌の形質転換を行う。pETシステムが使用可能な大腸菌の菌株は特に限定されるものではなく、例えばDH5、DH5α、BL21、BL21(DE3)などが使用できる。また、宿主の大腸菌は市販のコンピテントセルを用いてもよいし、自前で調製してもよい。市販のコンピテントセルを用いる場合、特に限定されるものではないが、例えばCompetent Cell DH5α(DS220、(株)バイオダイナミクス研究所)や、Competent Cell BL21(DE3)(DS250、(株)バイオダイナミクス研究所)などを好適に用いることができる。大腸菌にプラスミドDNAを導入する手法はキット記載の手順に従えばよい。形質転換できた大腸菌はコロニーとなって培地上に現れる。使用するベクター種によっては、LB寒天培地中に例えばアンピシリンなどの種々の抗生物質を添加するのが好ましい。
【0050】
<コロニーPCRで形質転換体の確認>
次に、コロニーPCRで形質転換体の確認を行う。培地上にコロニーとなって出現した大腸菌を分取して、菌体内のプラスミドをPCR遺伝子増幅装置にて増幅する。コロニーPCR法には市販の増幅効率、伸長性に優れたPCR用酵素が使用できる。例えば、KOD Dash(LDP-101、東洋紡(株))などを好適に使用できる。増幅したDNAはPCR済の試料をアガロースゲル電気泳動法などにて、DNA断片の分子量から遺伝子増幅処理の良否を確認する。さらに、目的のプラスミドDNAを保有している形質転換体候補のコロニーを増殖させた後、プラスミドをコロニーより抽出する。抽出には市販のプラスミド抽出・精製キットが使用できる。例えば、Plasmid mini kit(12125、Qiagen)などが処理できるプラスミド量によって選択使用できるため好適に用いることができる。回収したプラスミドはそのDNA配列を解析して目的のプラスミドを有する形質転換体か否かを確認する。
【0051】
<タンパク発現用大腸菌の形質転換>
次に、タンパク発現用大腸菌の形質転換を行う。上述した、プラスミド回収用の大腸菌の形質転換方法と同様の方法を用いて、タンパク発現用大腸菌の形質転換を行うことができる。
【0052】
<形質転換体のタンパク質発現>
次に、形質転換体のタンパク質発現を行う。例えば、抗生物質入りの培地にタンパク発現用に形質転換した大腸菌コロニーを加え培養する。さらにタンパク誘導剤を添加して培養することにより、形質転換体のタンパク質発現を行う。
【0053】
<発現タンパク質の精製>
次に、発現タンパク質の精製を行う。上記の培養液を遠心処理にて集菌し、上澄液を取り除き、沈殿物を得る。この沈殿物に各種界面活性剤を用いた細胞溶解処理を行う。細胞溶解処理としては、界面活性剤を含む市販の細胞溶解液を用いることができ、例えばB-PER Bacterial Protein Extraction Reagent(78248、Thermo Scientific)やB-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(78260、Thermo Scientific)などを好適に用いることができる。細胞溶解処理後、遠心処理にて上澄液を回収する。これにより、可溶性、不溶性(封入体、ペレットとして回収)、両方の組換え体タンパク質を回収することができる。
【0054】
なお、ペプチドタグ16としてHisタグを用いると、融合した組み換えタンパク質を、ヒスチジンが中性付近のpHでニッケルなどの2価の陽イオンと結合する性質を利用して精製することができるため、好ましい。一度結合金属に結合したタンパク質は低いpH条件のバッファーやEDTAやイミダゾール存在下のバッファーで容易に乖離する原理が利用できる。精製は市販のHisタグ精製キットを用いることができ、例えばNi-NTA Agarose(30210、QIAGEN)やImidazole stock solution in QIAexpress(登録商標) Kits(32149、QIAGEN)などを好適に用いることができる。また、Ni-NTA アフィニティーカラムなどで直接精製・回収することもでき、好ましい。
【0055】
上記の工程により得られた本発明の抗原認識用レセプター10は、基板20と接触させることにより容易に固定化することができる。
【0056】
(抗原検出方法)
本発明の抗原認識用レセプター10は、例えばイムノアッセイにおける抗原の検出や測定に好適に用いることができる。具体的には、抗原と、本発明の抗原認識用レセプター10とを接触させ、酵素、蛍光色素、発光色素、放射性物質、磁性物質、導電性物質、量子ドットなどの標識物質を有する標識マーカーを検出系に組込むことにより、酵素活性や各種標識物質から得られる信号の強弱で目的物である抗原を検出することができる。
【0057】
標識物質は特に限定されるものではなく、通常、酵素、蛍光色素、発光色素、放射性物質、磁性物質、導電性物質及び量子ドットなどが用いられるが、これらの中でも量子ドット(QD:Quantum Dot)を用いるのが好ましい。量子ドットは、他の有機系蛍光色素などと比べるとはるかに明るく光退色しにくいため、蛍光イメージング用プローブとして特に優れているためである。Life Technologies社からは種々の官能基を表面に導入したポリマーコートQDが市販されており、これらと抗体を構成するタンパク分子内のアミノ基やカルボキシル基、ジスルフィド結合を還元したチオール基などに反応させることで、他の有機系色素や酵素同様に抗体にQDを標識できるため好ましい。標識は抗体の抗原認識性に影響しなければ、どのような手法を用いてもよく、市販の標識キットを用いることで簡便に標識することができる。例えば、CdSe/ZnS量子ドットでは、Qdot 605 ITK Carboxyl Quantum Dots(Q21301MP、Life Technologies)などを好適に用いることができる。
【0058】
標識物質を有する標識マーカーにおいて、抗原の検出に作用する機構としては、公知の方法を用いればよい。例えば、目的物である抗原を認識する抗体を含有し抗原抗体反応でマーキングしてもよいし、抗原の一部に吸着する構造を有する物質であってもよい。
または、抗原自体にアフィニティ部位を付与し、当該アフィニティ部位に親和性のある物質をマーカー部として用いてもよい。アフィニティ部位としては、金属、金属原子、硫黄原子、樹脂、各種官能基等、用途に応じて適切なものを選択すればよい。
【0059】
本発明の抗原認識用レセプター10は、特に制限されるものではないが、イムノアッセイの中でも酵素結合免疫吸着法であるELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)に好適に用いることができる。ELISAは特異性の高い抗原抗体反応を利用し、酵素反応に基づく発色や発光のシグナルを検出に用いることで、抗原の検出や測定を行う方法である。ELISAは、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法などの検出方法があるが、本発明の抗原検出方法としてはいずれの検出方法をも用いることができる。これらの中でも同一タンパク質を捕捉抗体と検出抗体の2種類の抗体でサンドイッチして検出するため、非常に高い特異性を備える観点から、サンドイッチ法を用いるのが好ましい。
【0060】
低分子抗体12を固定化する基板20としては、例えばポリスチレン製の96穴マイクロタイタープレートなどを用いることができる。マイクロプレートは、通常、ELISA用のプレートが用いられるが、中でもタンパク質を高結合できるように予め表面処理を施したものや、Hisタグを介して目的の融合タンパク質のみを選択的に固定化できるニッケルキレートコーティングプレートなどを好適に用いることができる。具体的には、マキシソープ(高結合能タイプ)Nuncイムノプレート(437111、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))や、イモビライザー(ニッケルキレート)Nuncイムノプレート(436024、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))などを好適に用いることができる。
【0061】
ブロッキング溶液は、タンパク質の非特異吸着による影響を抑制できる材料が用いられていればよい。中でも牛血清アルブミン(BSA)、スキムミルク、ゼラチン、合成高分子材料などを好適に用いることができる。具体的には、リン酸緩衝生理食塩水で1~5%(W/V)に希釈したスキムミルク溶液を好適に用いることができる。
【0062】
また、本発明の抗原認識用レセプター10は、表面プラズモン共鳴法(SPR法)や水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)用のセンサチップとしても利用でき、SPR法やQCM法の測定に好適に用いることができる。例えば、金の基板20上をNi-NTA(ニッケル-ニトリロ三酢酸)などでコーティングした膜を形成し、そこに抗原認識用レセプター10を固定化し、測定すればよい。
【0063】
(抗原測定キット)
本発明の抗原測定キットは、本発明の抗原認識用レセプター10を構成に含むものであれば、それ以外の構成は特に限定されない。本発明の抗原測定キットは、通常用いられる材料及び方法で製造することができる。本発明の抗原測定キットは、例えばサンプルチューブ、プレート、キット使用者に対する指示書、溶液、バッファー、試薬、標準化のために好適なサンプル又は対照サンプルなどを含んでもよい。より具体的には、例えばイムノアッセイ用試薬、アフィニティ精製用担体、抗原捕捉用フィルターやマスク、細胞イメージング用試薬などを含んでもよい。
【0064】
以上説明したように、本発明の抗原認識用レセプター10は、低分子抗体12を含有し、基板20に配向固定することができる。本発明の抗原認識用レセプター10を用いた抗原検出方法及び抗原測定キットは、診断用途、分析用途及びセンサ用途などに適するものである。
【0065】
本発明は、上記で説明した構成に限定されるものではなく、明細書に記載した範囲で種々の変更が可能であり、公知の技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0066】
以下、本発明について、さらに詳細に実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(抗原認識用レセプターの作製)
後述する手順に従い、以下の実施例1に示す構造を備えた抗原認識用レセプターを調製した。
実施例1は心筋由来のトロポニンT(Troponin T)を抗原として認識するVHH抗体に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドA(実施例1の配列を示す式においてはPepAと記載する)とペプチドタグとしてのヒスチジン残基を有するHisタグを連結させたものである。
実施例1:VHH-PepA-His
【0068】
<ペプチドAの作製>
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドAは、ミオグロビンA鎖(A1~A16)中の疎水性アミノ酸をグルタミン(Gln)に置換し、作製した。
配列表の配列番号1
配列(N→C):SEGEWQQQQHQWAHQE
【0069】
<低分子抗体の発現ベクターの作製>
トロポニンTを抗原として認識するVHHの遺伝子情報をコードするDNAとその3’末端側に6個の連続するヒスチジン残基を形成するタンパク質タグであるHisタグの遺伝子情報をコードするDNAを連続して配置したDNA配列を有するプラスミドDNAについて、このプラスミドDNAの2本鎖と各々相補的な配列を有する短いDNA鎖(以後、プライマーと呼ぶ)を2種類作製した(フォワードプライマーとリバースプライマー)。この2種類のプライマーの5’末端側には、あらかじめαスタンド構造を有するペプチドAの遺伝子情報を任意の位置で2分割したDNA断片を付加しておいた。
【0070】
次に、VHHとHisタグの遺伝子情報をコードしたプラスミドDNAと、あらかじめペプチドAの遺伝子情報を分割したDNA断片を各々付加したフォワードとリバースのプライマー2種類と、dATP、dCTP、dGTP、dTTPを混合したdNTP(デオキシリボヌクレオチド5’-3リン酸)と、DNAポリメラーゼと、DNAポリメラーゼが活性を示すために必要な酵素試薬に添付される専用緩衝液とを混ぜて、PCR遺伝子増幅装置にて、鋳型のプラスミドDNAをインバースPCR法にて増幅した。なお、PCR酵素としては、KOD -Plus- Ver.2(KOD-211、東洋紡(株))を用い、このPCR酵素試薬に添付されている専用試薬を使って、指定のPCR反応液を調製してPCRを行った。
【0071】
一方、あらかじめペプチドAの遺伝子情報をコードするDNA情報を付加しない2種類のプライマーを作製した(フォワードプライマーとリバースプライマー)。PCR遺伝子増幅装置にて、鋳型のプラスミドDNAをインバースPCR法にて増幅した。遺伝子増幅処理の良否は、PCR反応後の試料をアガロースゲル電気泳動法にて、DNA断片の分子量から確認した。
【0072】
インバースPCRで増幅したDNAは、2本鎖の直線状を示しており、このDNA鎖にT4 DNA Polymeraseを作用させてDNA末端の平滑化処理を行った。T4 DNA Polymeraseとしては、MO203S(New England Biolabs)を用いた。Polymerase処理したDNA試料をQIAquick PCR Purification Kit (28104、QIAGEN)で精製した。次に、T4 DNA Ligase(M0202S、New England Biolabs)と、T4 Polynucleotide Kinase(M0201S、New England Biolabs)を作用させて、DNA末端のリン酸化後にDNA末端同士を連結し環状化した。環状化したDNA試料をアガロースゲル電気泳動法にてDNAの分子量から確認した。
【0073】
<プラスミド回収用大腸菌の形質転換>
次に、氷中に置いたサンプルチューブ内の大腸菌DH5α株のコンピテントセル(DS220、(株)バイオダイナミクス研究所)に作製した発現ベクターのプラスミドDNA試料を入れ、混和した。氷中で30分間置いた後に、42℃の水浴上で30秒間熱による刺激をかけ、再び2分間氷中に置いた。処理したコンピテントセルに、事前に37℃に保温しておいたSOC培地を添加して、37℃で1時間培養した。1時間培養後の液を、LB寒天平板培地上に滴下し、コンラージ棒で塗り広げて、37℃で17時間静置培養した。
【0074】
<コロニーPCR法で形質転換体の確認>
次に、培地上にコロニーとなって出現した大腸菌をマイクロチューブに分取して、菌体内のプラスミドをPCR遺伝子増幅装置にて増幅した。PCR用酵素としては、KOD Dash(LDP-101、東洋紡(株))を用いた。形質転換体のプラスミドDNAと、pETシステムで使用するプラスミドと相補的なT7 Promoter Primer(69348、Novagen)、T7 Terminator Primer(69337、Novagen)と、dATP、dCTP、dGTP、dTTPを混合したdNTP(デオキシリボヌクレオチド5’-3リン酸)と、DNAポリメラーゼと、DNAポリメラーゼが活性を示すために必要な酵素試薬に添付される専用緩衝液を混ぜて、PCR遺伝子増幅装置にて、鋳型のプラスミドDNAを増幅した。増幅したDNAはPCR処理後の試料をアガロースゲル電気泳動法にて、DNA断片の分子量から遺伝子増幅処理の良否を確認した。さらに、目的のプラスミドDNAを保有している形質転換体候補のコロニーをアンピシリン入りの液体LB培地で37℃、一昼夜培養して、形質転換体を増殖させた後、アルカリ-SDS法を用いてプラスミドDNAを菌体より抽出した。抽出には、Plasmid mini kit(12125、Qiagen)を用いた。回収したプラスミドのDNA配列を解析して目的のプラスミドを有する形質転換体であることを確認した。
【0075】
<タンパク発現用大腸菌の形質転換>
次に、氷中に置いたサンプルチューブ内の大腸菌BL21(DE3)株のコンピテントセル(DS220250、(株)バイオダイナミクス研究所)に、作製し遺伝子配列を確認した発現ベクターのプラスミドDNA試料を入れ、混和した。氷中で30分間置いた後に、42℃の水浴上で30秒間熱による刺激をかけ、再び2分間氷中に置いた。処理したコンピテントセルに事前に37℃に保温しておいたSOC培地を添加して、37℃で1時間培養した。1時間培養後の液を、LB寒天平板培地上に滴下し、コンラージ棒で塗り広げて、37℃で17時間静置培養した。
【0076】
<形質転換体のタンパク質発現(前培養)>
抗生物質、例えばアンピシリン入りの液体のLB培地1mLを入れた15mL容カルチャーチューブに、タンパク発現用に形質転換した大腸菌のコロニーを入れ、37℃で17時間振とう培養した(前培養)。
【0077】
<形質転換体のタンパク質発現(本培養)>
前培養後、抗生物質、例えばアンピシリン入りの液体のLB培地4mLを入れた50mL容カルチャーチューブに前培養液を本培養用の培地液の約1/13量の前培養液を加え、29℃で約3時間振とう培養した。その後、タンパク誘導剤のイソプロピル-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)を添加して、さらに29℃で17時間振とう培養した(本培養)。
【0078】
<発現タンパク質の抽出>
本培養液を遠心処理にて集菌し、上澄液を取り除いた。この時の上澄液も細胞外分画成分含有液として集めておいた。沈殿物にpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水を加えて、再度、遠心処理にて沈殿物を回収し、上澄液を取り除いた。これを数回繰り返した。得られた沈殿物に界面活性剤を主成分とする細胞溶解液を添加して細胞溶解処理を行った。細胞溶解処理には市販の細胞溶解液が使用でき、B-PER溶液である、B-PER Bacterial Protein Extraction Reagent(78248、Thermo Scientific)を用いた。上記の沈殿物1gあたり2~4mLのB-PER溶液を加えて、容器を約3時間回転攪拌しながら細胞溶解処理した。遠心処理にて上澄液を回収した。この抽出処理により、可溶性,不溶性(封入体,ペレットとして回収),両方の組換え体タンパク質を回収した。
【0079】
<Ni-NTA樹脂およびゲルろ過カラムによる精製>
細胞溶解処理にて回収した上澄液にNi-NTAスラリー溶液を添加し、回転シェーカーにて回転攪拌した後、1000rpmで1分間遠心処理した。上澄液を取り除き、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水を加え、穏やかに反転攪拌した後、1000rpmで1分間遠心処理し、上澄液を取り除いて沈殿物を得た。これを3回繰り返した。次に、得られた沈殿物に20mMのイミダゾール溶液を添加し、穏やかに反転攪拌した後軽く遠心処理し、上澄液を取り除いた。これを3回繰り返した。さらに、沈殿物に250mMのイミダゾール溶液を添加し、回転シェーカーにて回転攪拌した後、1000rpmで1分間遠心処理した。上澄液を取り除き、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水を加え、穏やかに反転攪拌した後、1000rpmで1分間遠心処理し、上澄液を回収した。これを5回繰り返し、その都度、回収した上澄液を集めた。この上澄液をゲルろ過カラム(PD-10 Desalting Columns、GE Healthcare)にアプライして、カラムからの溶出液を回収した。
【0080】
<発現タンパク質の確認>
発現タンパク質の確認は、カラム溶出液中に含まれるタンパク分子をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法にてタンパク質の分子量から確認した。
【0081】
(抗原認識用レセプターの活性評価)
次に、実施例1の抗原認識用レセプターを、ニッケルを含有したプラスチック製の基板であるニッケルコーティングの96穴マイクロプレート(例えば、イモビライザー(ニッケルキレート)Nuncイムノプレート(436024、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)))と接触させることによって、Hisタグを介して基板上に固定した。固定化された抗原認識用レセプターがその活性を維持しているかどうかについて検討した。
具体的には、後述する手順に従い、実施例1に示す構造を備えた抗原認識用レセプターの活性を評価した。
【0082】
<量子ドット標識抗体の作製>
カルボキシル基が表面修飾されたCdSe/ZnS量子ドットである、Qdot 605 ITK Carboxyl Quantum Dots(Q21301MP、Life Technologies)に予めアミノ基を導入し、抗体を構成するジスルフィド結合を部分的に還元した抗トロポニンT抗体のチオール基とカップリングして、量子ドット(QD)標識抗トロポニンT抗体を作製した。
【0083】
<低分子抗体とQD標識抗体を用いた抗原検出>
96穴マイクロプレートに20μg/mLの精製したトロポニンTに対する低分子抗体を100μL/ウェルずつ滴下し、ウェルをプレートシール後に、室温で一晩静置した。その後、低分子抗体を固定化したウェルの溶液を除去し、ブロッキング溶液(pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で2%(W/V)に希釈したスキムミルク溶液)を300μL/ウェルで滴下して、ウェルをプレートシール後に、4℃で1時間、続いて室温で1時間静置した。
【0084】
次にウェル内のブロッキング溶液を除去し、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で4%(W/V)に希釈した牛血清アルブミン(BSA)溶液を用いて抗原のトロポニンTを各濃度に希釈したものを100μL/ウェルずつ加えて、ウェルをプレートシール後に、室温で1.5時間反応させた。希釈した抗原溶液を除去した後、0.05%(V/V)のツイーン20を含有するpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水を300μL/ウェルずつ加えて、合計3回ウェルを洗浄した。検出用にQD標識抗トロポニンT抗体を100μL/ウェルずつ加えて、ウェルをプレートシール後に、室温で1時間反応させた。続いて、QD標識抗体溶液を除去した後、0.05%(V/V)のツイーン20を含有するpH7.5のホウ酸塩緩衝液を300μL/ウェルずつ加えて、合計3回ウェルを洗浄した。一連の反応が終了したマイクロプレートを、蛍光測定が可能なマイクロプレートリーダーを用いて、励起光波長450nm、検出波長605nm、ゲイン135で測定した。各抗原濃度と得られた蛍光強度値から検量線を作成した。
【0085】
この測定結果を表1及び図2に示す。
【表1】
【0086】
本発明の抗原認識用レセプターを使用した場合、トロポニンT(TnT)濃度に依存的に蛍光強度が増加した。これにより、固定化された本発明の抗原認識用レセプターはその活性を維持していることが確認された。
以上より、本発明の抗原認識用レセプターを使用することによって、効率よく抗原を補足することができることが示された。
【符号の説明】
【0087】
10 抗原認識用レセプター
12 低分子抗体
14 ペプチドA
16 ペプチドタグ
20 基板
図1
図2
【配列表】
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