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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】アルカポリエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/213 20060101AFI20230629BHJP
   C07C 11/21 20060101ALI20230629BHJP
   C07C 7/04 20060101ALI20230629BHJP
   C07C 7/10 20060101ALI20230629BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C07C1/213
C07C11/21
C07C7/04
C07C7/10
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019072228
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2020169148
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須永 修一
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 康貴
(72)【発明者】
【氏名】辻 智啓
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216385(JP,A)
【文献】特開2000-191591(JP,A)
【文献】特公昭46-034691(JP,B1)
【文献】特開昭47-017703(JP,A)
【文献】特開2006-327960(JP,A)
【文献】特公昭48-023061(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/157403(WO,A1)
【文献】特開平11-349523(JP,A)
【文献】特開平11-010173(JP,A)
【文献】特開平03-127757(JP,A)
【文献】第4版 実験化学講座22 有機合成IV,丸善株式会社,1992年11月30日,pp.43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00- 1/36
C07C 7/00- 7/20
C07C 11/00-11/30
C07C 67/00-67/62
C07C 69/00-69/96
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(5)を含む、アルカポリエンの製造方法。
(1)アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸とを、副生する水を留去しながら反応せしめることによってアシルオキシアルカポリエンを得る、エステル化工程。
(2)前記エステル化工程で得たアシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化して、アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の混合物を含有する留出物を得る、脱アシルオキシ化工程。
(3)前記脱アシルオキシ化工程で得た留出物に水を接触せしめて、アルカポリエンを含有する有機相と水溶性モノカルボン酸を含有する水相の2相に相分離させた後、前記有機相と前記水相とをそれぞれ分離取得する、分離工程。
(4)前記分離工程で分離取得した有機相から、前記水溶性モノカルボン酸の混入率が0.10質量%以下のアルカポリエンを蒸留によって単離する工程。
(5)前記分離工程で分離取得した水相からアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物によって水溶性モノカルボン酸を抽出し、こうして得られるアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸を含有する混合液(X)を、前記エステル化工程における前記アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物および前記水溶性モノカルボン酸の供給源として使用する、回収再使用工程。
【請求項2】
前記エステル化工程で高沸点化合物が副生し、該高沸点化合物と共に前記アシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化工程に供する、請求項1に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項3】
前記エステル化工程において、アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物からアシルオキシアルカポリエンへの転化率が90モル%以上である、請求項1または2に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項4】
前記脱アシルオキシ化工程をパラジウム化合物および第3級リン化合物の存在下で実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項5】
前記脱アシルオキシ化工程に供するアシルオキシアルカポリエンからアルカポリエンへの転化率が70モル%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項6】
前記分離工程において、分離取得した有機相中の前記水溶性モノカルボン酸の含有量が、前記脱アシルオキシ化工程で得た留出物中の水溶性モノカルボン酸の量の0~0.10モル%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項7】
前記脱アシルオキシ化工程で得た留出物中の水溶性モノカルボン酸の40モル%以上が前記回収再使用工程で使用する前記混合液(X)に含まれる、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項8】
前記工程(4)において、前記有機相をアルカリ性水溶液で洗浄した後に蒸留する、請求項1~7のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項9】
前記工程(4)で単離されるアルカポリエンの純度が98.0%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項10】
前記アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物が2,7-オクタジエン-1-オールおよび1,7-オクタジエン-3-オールからなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ、前記アルカポリエンが1,3,7-オクタトリエンである、請求項1~のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項11】
前記水溶性モノカルボン酸の炭素数が2~5である、請求項1~10のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【請求項12】
前記水溶性モノカルボン酸が酢酸またはプロピオン酸である、請求項1~11のいずれか1項に記載のアルカポリエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカポリエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3,7-オクタトリエンなどのアルカポリエンは、各種の汎用または特殊用途の有機化合物の合成原料として有用であり、且つ、ポリマー合成原料としても有用な化合物である。
有機化合物の合成原料の具体例としては、共役ジエン構造と加水分解性シリル基とを有するシランカップリング剤の合成原料などが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。ポリマー合成原料の具体例としては、アルカリ金属化合物または有機アルカリ金属化合物の存在下で製造される1,3,7-オクタトリエン重合体の合成原料などが挙げられる(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
アルカポリエンの中でも、特にその有用性が注目される1,3,7-オクタトリエンの製造方法としては、2,7-オクタジエン-1-オールアセタート(以下、1-アセトキシ-2,7-オクタジエンと称する)から1,3,7-オクタトリエンおよび酢酸を含む生成物を得る工程1;および前記工程1で得られた生成物を水と接触させる工程2-A;または前記工程2-Aで得られた生成物を水と共に蒸留する工程2-Bを有する、1,3,7-オクタトリエンの製造方法が開示されている(特許文献3参照)。なお、前記工程1で用いる原料の1-アセトキシ-2,7-オクタジエンは、例えば、2,7-オクタジエン-1-オールと無水酢酸を反応させることによって製造できることが記載されている(特許文献3の段落[0010]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-152128号公報
【文献】特公昭49-16269号公報
【文献】特開2016-216385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、1-アセトキシ-2,7-オクタジエンの脱アシルオキシ化により、1,3,7-オクタトリエンと沸点が近くて蒸留分離が困難な酢酸が該1,3,7-オクタトリエンと等モル量副生するため、これらの混合物に水を接触させて酢酸の除去を試みたところで、大量に副生した酢酸の水溶液の処分の問題が残る。また、大量に副生した酢酸の水溶液から無水酢酸を製造し、1-アセトキシ-2,7-オクタジエンの原料としての再利用を試みたとしても、酢酸の水溶液から酢酸と水を分離する装置および分離した酢酸から無水酢酸を製造する装置が必要となるため、製造コストを低く抑えることが困難である。
ところで、酢酸は、例えば1,3,7-オクタトリエンの重合反応を行なう際に使用する重合開始剤を失活させるなどの問題を生じるため、目的生成物である1,3,7-オクタトリエン中には実質的に含まれないことが望まれる。特許文献3の工程2-Bを経ること、つまり1,3,7-オクタトリエンと酢酸の留出液に水を接触させた混合液を蒸留することにより、確かに1,3,7-オクタトリエン中の酢酸の混入量を効率良く低減することができる。しかし、本発明者らのさらなる検討の結果、酢酸と共に1,3,7-オクタトリエンを蒸留すると高沸点化合物が生じてしまい、蒸留中に1,3,7-オクタトリエンの収率が低減することが判明すること、および工程2-Bを経る方法によっても1,3,7-オクタトリエン中にごく少量の酢酸が残存しており、1,3,7-オクタトリエンの純度にさらなる改善の余地があることが判明した。
【0006】
しかして、本発明の課題は、製造工程中で副生する水溶性モノカルボン酸のアルカポリエンへの混入量が少なく、高純度のアルカポリエンを高収率で製造する方法であって、副生する水溶性モノカルボン酸を有効利用できる効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、後述の製造方法であれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]~[11]に関する。
[1]下記工程(1)~(5)を含む、アルカポリエンの製造方法。
(1)アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸とを、副生する水を留去しながら反応せしめることによってアシルオキシアルカポリエンを得る、エステル化工程。
(2)前記エステル化工程で得たアシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化して、アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の混合物を含有する留出物を得る、脱アシルオキシ化工程。
(3)前記脱アシルオキシ化工程で得た留出物に水を接触せしめて、アルカポリエンを含有する有機相と水溶性モノカルボン酸を含有する水相の2相に相分離させた後、前記有機相と前記水相とをそれぞれ分離取得する、分離工程。
(4)前記分離工程で分離取得した有機相から、前記水溶性モノカルボン酸の混入率が0.10質量%以下のアルカポリエンを単離する工程。
(5)前記分離工程で分離取得した水相からアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物によって水溶性モノカルボン酸を抽出し、こうして得られるアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸を含有する混合液(X)の少なくとも1部を、前記エステル化工程における前記アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物および前記水溶性モノカルボン酸の供給源として使用する、回収再使用工程。
[2]前記エステル化工程で高沸点化合物が副生し、該高沸点化合物と共に前記アシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化工程に供する、上記[1]に記載のアルカポリエンの製造方法。
[3]前記エステル化工程において、アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物からアシルオキシアルカポリエンへの転化率が90モル%以上である、上記[1]または[2]に記載のアルカポリエンの製造方法。
[4]前記脱アシルオキシ化工程をパラジウム化合物および第3級リン化合物の存在下で実施する、上記[1]~[3]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[5]前記脱アシルオキシ化工程に供するアシルオキシアルカポリエンからアルカポリエンへの転化率が70モル%以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[6]前記分離工程において、分離取得した有機相中の前記水溶性モノカルボン酸の含有量が、前記脱アシルオキシ化工程で得た留出物中の水溶性モノカルボン酸の量の0~0.10モル%である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[7]前記脱アシルオキシ化工程で得た留出物中の水溶性モノカルボン酸の40モル%以上が前記回収再使用工程で使用する前記混合液(X)に含まれる、上記[1]~[6]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[8]前記工程(4)で単離されるアルカポリエンの純度が98.0%以上である、上記[1]~[7]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[9]前記アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物が2,7-オクタジエン-1-オールおよび1,7-オクタジエン-3-オールからなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ、前記アルカポリエンが1,3,7-オクタトリエンである、上記[1]~[8]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[10]前記水溶性モノカルボン酸の炭素数が2~5である、上記[1]~[9]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
[11]前記水溶性モノカルボン酸が酢酸またはプロピオン酸である、上記[1]~[10]のいずれかに記載のアルカポリエンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造工程中で副生する水溶性モノカルボン酸のアルカポリエンへの混入量が少なく、高純度のアルカポリエンを高収率で製造する方法であって、副生する水溶性モノカルボン酸を有効利用できる効率的な製造方法を提供することができる。そのため、本発明のアルカポリエンの製造方法は製造コストを低く抑えることができるため、工業的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も全て本発明に含まれる。また、数値範囲の下限値および上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値または上限値と任意に組み合わせられる。
【0011】
[アルカポリエンの製造方法]
本発明は、下記工程(1)~(5)を含む、アルカポリエンの製造方法である。
(1)アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸とを、副生する水を留去しながら反応せしめることによってアシルオキシアルカポリエンを得る、エステル化工程[以下、エステル化工程(1)と称することがある]。
(2)前記エステル化工程(1)で得たアシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化して、アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の混合物を含有する留出物を得る、脱アシルオキシ化工程[以下、脱アシルオキシ化工程(2)と称することがある]。
(3)前記脱アシルオキシ化工程(2)で得た留出物に水を接触せしめて、アルカポリエンを含有する有機相と水溶性モノカルボン酸を含有する水相の2相に相分離させた後、前記有機相と前記水相とをそれぞれ分離取得する、分離工程[以下、分離工程(3)と称することがある]。
(4)前記分離工程(3)で分離取得した有機相から、前記水溶性モノカルボン酸の混入率が0.10質量%以下のアルカポリエンを単離する工程[以下、単離工程(4)と称することがある]。
(5)前記分離工程(3)で分離取得した水相からアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物によって水溶性モノカルボン酸を抽出し、こうして得られるアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸を含有する混合液(X)[以下、単に混合液(X)と称することがある]の少なくとも1部を、前記エステル化工程(1)における前記アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物および前記水溶性モノカルボン酸の供給源として使用する、回収再使用工程[以下、回収再使用工程(5)と称することがある]。
【0012】
まず、本発明で使用する各試薬について順に詳述する。
(アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物)
本発明で使用するアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物(以下、単にアリルアルコール化合物と称することがある)としては、アリルアルコールにアルケニル基が置換した化合物であれば特に制限されるものではないが、「炭素-炭素二重結合を1~3つ有するアルケニル基」が置換したアリルアルコール化合物が好ましく、「炭素-炭素二重結合を1つ有するアルケニル基」が置換したアリルアルコール化合物がより好ましい。また、該アルケニル基としては、炭素数2~15のアルケニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニル基がより好ましく、炭素数3~7のアルケニル基がさらに好ましく、炭素数4~6のアルケニル基が特に好ましく、炭素数5のアルケニル基が最も好ましい。
アルケニル基は、アリルアルコールの1位または3位に置換していることが好ましい。また、アルケニル基が有する炭素-炭素二重結合のうちの少なくとも1つが、アリルアルコール化合物の分子末端にあることが好ましい。
前記アリルアルコール化合物としては、例えば、2,5-ヘキサジエン-1-オール、1,5-ヘキサジエン-3-オール、2,7-オクタジエン-1-オール、1,7-オクタジエン-3-オール、2,9-デカジエン-1-オール、1,9-デカジエン-3-オール、2,11-ドデカジエン-1-オール、1,11-ドデカジエン-3-オールなどが挙げられる。これらの中でも、得られるアルカポリエンの有用性の観点などから、2,7-オクタジエン-1-オールおよび1,7-オクタジエン-3-オールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記アリルアルコール化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
(水溶性モノカルボン酸)
水溶性モノカルボン酸は、水に溶解し得るモノカルボン酸であればよいが、分離工程(3)において十分に水相へ溶解させる観点から、水に任意の割合で溶解するモノカルボン酸が好ましい。また、水溶性モノカルボン酸としては、脱アシルオキシ化工程(2)にて好ましく使用されるパラジウム化合物などによって分解し難い水溶性モノカルボン酸が好ましい。さらに、脱アシルオキシ化工程(2)において水溶性モノカルボン酸が1,3,7-オクタトリエンと同時に留去できる水溶性モノカルボン酸であり、且つ、分離工程(3)での水の使用量を低減できる水溶性モノカルボン酸であることが好ましい。以上の観点から、水溶性モノカルボン酸としては、水溶性の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、且つ、水溶性モノカルボン酸(例えば水溶性の脂肪族モノカルボン酸)の炭素数は2~5であることが好ましく、2または3であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。また、炭素数3~5の水溶性モノカルボン酸を選択してもよい。
水溶性モノカルボン酸としては、例えば、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、ブチル酸(ブタン酸)、バレル酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナンチン酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)などが挙げられる。これらの中でも、酢酸、プロピオン酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
水溶性モノカルボン酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、脱アシルオキシ化工程(2)において複数のアシルオキシアルカポリエンが生成することおよびそれらのうちの一部が留出せずに反応系内に残ることを避ける観点からは、1種を単独で使用することが好ましい。
【0014】
(アシルオキシアルカポリエン)
エステル化工程(1)で得られるアシルオキシアルカポリエンは、前記アリルアルコール化合物のヒドロキシル基と、水溶性モノカルボン酸のカルボキシル基との脱水縮合反応により得られる化合物である。ゆえに、アシルオキシアルカポリエンの構造は、前記アリルアルコール化合物の種類と、前記水溶性モノカルボン酸の種類に依存し、それらに対応した構造となる。
例えば、前記アリルアルコール化合物が2,7-オクタジエン-1-オールまたは1,7-オクタジエン-3-オールであり、水溶性モノカルボン酸が酢酸である場合、アシルオキシアルカポリエンは、1-アセトキシ-2,7-オクタジエンまたは3-アセトキシ-1,7-オクタジエンである。
【0015】
(アルカポリエン)
脱アシルオキシ化工程(2)で得られるアルカポリエンは、エステル化工程(1)で得られるアシルオキシアルカポリエンから、アシルオキシアニオンとプロトンとが脱離(脱アシルオキシ化)することにより得られる化合物である。ゆえに、アルカポリエンの構造はアシルオキシアルカポリエンの種類に依存し、ひいては、前記アリルアルコール化合物の種類と、前記水溶性モノカルボン酸の種類に依存し、それらに対応した構造となる。前記アリルアルコール化合物が2,7-オクタジエン-1-オールまたは1,7-オクタジエン-3-オールであり、水溶性モノカルボン酸が酢酸である場合、アルカポリエンは主に1,3,7-オクタトリエンであるが、異性体を含む場合には、1,3,6-オクタトリエンおよび2,4,6-オクタトリエンなどが含まれることがある。
本発明で製造するアルカポリエンとしては、特に制限されるものではないが、有用性の観点から、1,3,7-オクタトリエン、1,3,9-デカトリエンが好ましく、1,3,7-オクタトリエンがより好ましい。1,3,7-オクタトリエンの異性体としては、1,3,6-オクタトリエン、2,4,6-オクタトリエンなどが挙げられ、これらが1,3,7-オクタトリエンと共に副生する可能性があるが、これらの沸点が1,3,7-オクタトリエンの沸点と近いことに起因して、それぞれの蒸留分離が困難であるため、これらの異性体の副生量は少ないことが好ましい。この点、本発明の製造方法によれば、異性体も含めた全オクタトリエンに対する1,3,7-オクタトリエンの比率(以下、1,3,7-オクタトリエンの純度と称する)を極めて高くすることができ、1,3,7-オクタトリエンの純度を95%以上とすることができ、98.0%以上とすることもでき、98.5%以上とすることもでき、99.0%以上とすることもできる。
-1,3,7-オクタトリエンの純度の測定方法-
なお、1,3,7-オクタトリエンの純度は、次の方法に従って求めたものである。ガスクロマトグラフィーによる分析によって全オクタトリエンに帰属されるピーク面積の総和を算出し、該総和に対する1,3,7-オクタトリエンのピーク面積の百分率を求め、その値を1,3,7-オクタトリエンの純度とする。ガスクロマトグラフィーの測定条件など、より具体的な求め方は実施例に記載の通りである。ここで全オクタトリエンとは、1,3,7-オクタトリエンと、該1,3,7-オクタトリエンの二重結合異性体(例えば1,3,6-オクタトリエン、2,4,6-オクタトリエンおよび1,4,6-オクタトリエンなど)の全てのオクタトリエンを意味する。
【0016】
以下、本発明の製造方法が含む各工程の一態様について詳述する。
<エステル化工程(1)>
エステル化工程(1)は、前記アリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸とをエステル化反応させてアシルオキシアルカポリエンを得る工程であり、副生する水を反応系外に留出させながら反応を行なうことで、エステル化反応が効率良く進行する。特に、本エステル化工程(1)では、水溶性モノカルボン酸そのものを使用するのみならず、後述する回収再使用工程(5)によって、水が混入している「アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸を含有する混合液(X)」の少なくとも1部を原料(アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物および水溶性モノカルボン酸)の供給源として利用することにもなるため、工業的にも十分な反応効率を得るためには、エステル化反応において反応系内から水を留去しながら反応を行なうことが重要である。
なお、本明細書では、エステル化工程(1)において反応系外に留出する全留出物を指して、エステル化留去液と称することがある。一方、エステル化工程(1)において反応系内に残存している全溶液を指して、エステル化反応液と称することがある。
【0017】
(原料の使用量)
エステル化工程(1)では、前記アリルアルコール化合物に由来するヒドロキシル基1つと、水溶性モノカルボン酸のカルボキシル基1つとが反応する。そのため、原料の使用量は、そのことを考慮して適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。例えば、エステル化工程(1)に供する水溶性モノカルボン酸の使用量は、水溶性モノカルボン酸のカルボキシル基換算で、前記アリルアルコール化合物のヒドロキシル基1モルに対して0.5~100モルが好ましく、1~100モルがより好ましく、容積効率を高める観点から、1.5~10モルがさらに好ましく、1.5~5モルが特に好ましい。
【0018】
(エステル化工程(1)で使用し得る有機溶媒)
エステル化工程(1)は、有機溶媒の存在下または非存在下で実施するが、反応系内からの水の留去の促進および反応温度の制御容易性の観点から、有機溶媒の存在下で実施することが好ましい。
該有機溶媒は前記エステル化反応に不活性であれば特に制限はなく、公知のエステル化反応に使用し得る公知の有機溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、例えば、ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、ヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン、2-シクロヘキセン-1-オンなどのケトン化合物;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、エチル-n-プロピルエーテル、ジn-プロピルエーテル、n-ブチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジn-ブチルエーテル、ジn-オクチルエーテル、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテルなどの非環状モノエーテル;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジイソプロポキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、1,2-ジフェノキシエタン、1,2-ジメトキシプロパン、1,2-ジエトキシプロパン、1,2-ジフェノキシプロパン、1,3-ジメトキシプロパン、1,3-ジエトキシプロパン、1,3-ジイソプロポキシプロパン、1,3-ジブトキシプロパン、1,3-ジフェノキシプロパン、シクロペンチルメチルエーテルなどの非環状ジエーテル;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリブチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリブチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラブチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラブチレングリコールジエチルエーテルなどの非環状ポリエーテル;等を使用できる。
有機溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、有機溶媒の回収操作を簡便にする観点からは、1種を単独で用いることが好ましい。
【0019】
有機溶媒としては、エステル化工程(1)後に反応器から有機溶媒を留去するのに要するエネルギーを低減する観点から、沸点90~150℃の有機溶媒を用いることがより好ましい。沸点90~150℃の有機溶媒としては、例えば、2,2,4-トリメチルペンタン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素;メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタンなどの脂環式炭化水素;トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンなどの芳香族炭化水素;メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン、2-シクロヘキセン-1-オンなどのケトン化合物;等が挙げられる。
【0020】
有機溶媒としては、水への溶解度が低いほど、エステル化工程(1)にて有機溶媒と共に留去される水の排水処理(有機溶媒との分離操作も含まれる。)が簡便になるという観点から、ケトン化合物がより好ましく、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン、2-シクロヘキセン-1-オンがさらに好ましい。
有機溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、エステル化工程(1)に仕込む原料液の総質量に対して1~75質量%が好ましく、容積効率を高める観点からは、10~50質量%がより好ましい。
【0021】
(エステル化反応装置)
エステル化工程(1)は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方式でも実施でき、これらの中でも、回分式で実施することが好ましい。エステル化工程(1)で使用する反応器の形式に特に制限はなく、完全混合槽型反応器、管型反応器などを使用でき、また、これらの反応器を2基以上直列または並列に連結してもよい。これらの中でも、完全混合槽型反応器を好ましく使用することができる。
【0022】
完全混合槽型反応器の一態様としては、還流凝縮器と静置槽とを備えた完全混合槽型反応器が好ましい。還流凝縮器と静置槽とを備えた完全混合槽型反応器を用いた好ましい実施態様の一例としては、特に制限されるものではないが、例えば、(a)エステル化反応を促進するために水を(好ましくは有機溶媒と共に)気化させながらエステル化反応を行い、(b)前記(a)工程で得られたガス成分を凝縮せしめて得られるエステル化留去液を静置槽へ移送し、有機溶媒とアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸とを含む有機相と、エステル化反応で副生する水および回収再使用工程(5)で使用する前記混合液(X)に混入している水を含む水相とに相分離させ、(c)前記(b)工程で得られた有機相を分離取得してから再び反応器に循環する一方で、(d)前記(b)工程で得られた水相を分離取得してから必要に応じて水溶性モノカルボン酸をエステル化反応に再使用する、という各工程を実施しながら、前記アリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸とのエステル化反応を行い、反応終了後、反応器に残存するエステル化反応液(アシルオキシアルカポリエンを含む生成物)を得る方法が挙げられる。
【0023】
前記アリルアルコール化合物の転化率を高める観点および反応時間を短縮する観点から、前記(b)工程で得られた有機相を分離取得してから再び反応器に循環するラインの途中に、モレキュラーシーブスなどの水吸着材を充填してなる吸着塔を付設してもよい。
また、反応系内からの水の留去を促進する観点から、還流凝縮器および静置槽からなる群から選択される少なくとも一方などに、反応器内圧力を低下せしめるための排気ポンプを付設することもできる。
【0024】
(エステル化反応条件)
エステル化工程(1)は、特に制限されるものではないが、原料を不必要に浪費しないようにする観点および前記アリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸との反応が阻害されることを抑制する観点から、前記アリルアルコール化合物または水溶性モノカルボン酸と反応し得る他の物質の非存在下で実施することが好ましい。
エステル化工程(1)で使用する各原料および有機溶媒は、特に制限されるものではないが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス(以下、単に不活性ガスと称する)によるバブリングなどの手法によって、酸素ガスが十分に除去されていることが好ましい。
なお、特に制限されるものではないが、エステル化工程(1)における全ての操作は、反応系内への酸素ガスの流入による各種化合物の酸化を抑制する観点から、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。本発明において使用し得る不活性ガスは、酸素ガスが十分に除去されていることが好ましく、以下同様である。
【0025】
エステル化工程(1)は、特に制限されるものではないが、エステル化反応を促進する観点から、反応系内からの水の留去を十分に行うことが好ましく、そのためには有機溶媒と水とが気化してなる気体の還流凝縮器への導入量を多くすることが好ましく、例えば、完全混合槽型反応器の下部から還流凝縮器へ不活性ガスを通気することなどによってその目的を達成することができる。
エステル化反応圧力は、特に制限されるものではないが、反応系内からの水の留去を促進する観点から、エステル化反応を実施する反応温度において、前記アリルアルコール化合物、水溶性モノカルボン酸、水、有機溶媒およびアシルオキシアルカポリエンからなる混合物の蒸気圧以下であることが好ましい。エステル化反応圧力としては、前記同様の観点から、1~300kPaAがより好ましく、10~200kPaAがさらに好ましい。なお、kPaAのAは絶対圧であることを示し、以下同様である。
エステル化反応温度は、反応系内からの水の留去を促進する観点から、反応圧力下における水の沸点以上であることが好ましく、一方、未反応の前記アリルアルコール化合物の還流凝縮器への滞留を抑制する観点から、反応圧力下における前記アリルアルコール化合物の沸点以下であることが好ましい。反応温度としては、70~200℃であることが好ましく、90~150℃であることがより好ましい。
エステル化反応時間に特に制限はないが、エステル化反応における前記アリルアルコール化合物からアシルオキシアルカポリエンへの転化率(以下、エステル化率と称することがある)が90モル%以上となるようにすることが好ましく、95モル%以上となるようにすることがより好ましい。エステル化反応時間としては、具体的には、1~200時間が好ましく、2~100時間がより好ましい。この範囲の反応時間であれば、アシルオキシアルカポリエンの収率が高くなる傾向にある。
【0026】
エステル化工程(1)によって、反応器から、アシルオキシアルカポリエン、未反応の水溶性モノカルボン酸および有機溶媒を主成分とするエステル化反応液を取得できる。
脱アシルオキシ化工程(2)における容積効率の向上および分離工程(3)での水溶性モノカルボン酸回収の負荷低減の観点から、エステル化反応液を蒸留することによって水溶性モノカルボン酸および有機溶媒の含有量を十分に低減することが好ましい。具体的にはエステル化反応液の蒸留精製によってアシルオキシアルカポリエンを単離してからこれを脱アシルオキシ化工程(2)に用いてもよいし、エステル化反応液から水溶性モノカルボン酸および有機溶媒のみを除去した混合液を脱アシルオキシ化工程(2)に用いてもよい。後者の場合、エステル化工程(1)で高沸点化合物が副生したとき、該高沸点化合物と共に前記アシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化工程(2)に供することとなる。エステル化工程(1)で副生し得る高沸点化合物には、カルボキシル基を有する高沸点化合物が含まれている傾向にある。本発明の製造方法であれば、エステル化工程(1)で副生し得る高沸点化合物が脱アシルオキシ化工程(2)の反応系内に存在していても、反応成績に大きな悪影響を与えることはなく、工業的に実施することが可能である。なお、本発明において高沸点化合物とは、例えば実施例に記載のガスクロマトグラフィー分析条件で検出されない程度の沸点を有する化合物のことであり、つまりその沸点は200℃以上であり、250℃超である可能性もあり、280℃超である可能性もある。
なお、これらの操作によって取得できる水溶性モノカルボン酸および有機溶媒は、回収後、エステル化工程(1)に再使用できる。
【0027】
<脱アシルオキシ化工程(2)>
脱アシルオキシ化工程(2)は、前記エステル化工程(1)で得たアシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化して、アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の混合物を含有する留出物を得る工程である。本明細書では、脱アシルオキシ化工程(2)における該留出物を脱アシルオキシ化反応液と称することがある。
脱アシルオキシ化工程(2)は、アシルオキシアルカポリエンの脱アシルオキシ化を促進する観点から、触媒の存在下で実施することが好ましい。該触媒としては、金属1原子当たりの反応活性の高い金属を含有する化合物が好ましく、パラジウム化合物がより好ましい。なお、触媒活性の観点から、脱アシルオキシ化工程(2)はパラジウム化合物および第3級リン化合物の存在下で実施することが好ましい。
脱アシルオキシ化工程(2)の好ましい実施態様の一例としては、例えば、パラジウム化合物および第3級リン化合物を反応器内に滞留させ、アシルオキシアルカポリエンを反応器へ供給しながら、生成するアルカポリエンと水溶性モノカルボン酸とを反応系外に留去する方法が挙げられる。
【0028】
(パラジウム化合物)
脱アシルオキシ化工程(2)において使用し得る触媒としてのパラジウム化合物の形態および原子価の状態は特に限定されるものではない。パラジウム化合物としては、0価パラジウム化合物、2価パラジウム化合物が挙げられる。
0価パラジウム化合物としては、例えば、ビス(tert-ブチルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(tert-アミルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(シクロヘキシルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(フェニルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(p-トリルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(2,6-ジメチルフェニルイソニトリル)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、(1,5-シクロオクタジエン)(無水マレイン酸)パラジウム(0)、ビス(ノルボルネン)(無水マレイン酸)パラジウム(0)、ビス(無水マレイン酸)(ノルボルネン)パラジウム(0)、(ジベンジリデンアセトン)(ビピリジル)パラジウム(0)、(p-ベンゾキノン)(o-フェナントロリン)パラジウム(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリトリルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリキシリルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリメシチルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリテトラメチルフェニル)パラジウム(0)、ビス(トリメチルメトキシフェニルホスフィン)パラジウム(0)などが挙げられる。
2価パラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、テトラアンミンジクロロパラジウム(II)、ジナトリウムテトラクロロパラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、安息香酸パラジウム(II)、α-ピコリン酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトン)パラジウム(II)、ビス(8-オキシキノリン)パラジウム(II)、ビス(アリル)パラジウム(II)、(η-アリル)(η-シクロペンタジエニル)パラジウム(II)、(η-シクロペンタジエニル)(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)酢酸塩、ジ-μ-クロロ-ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)二パラジウム(II)、ビス(トリ-n-ブチルホスフィン)パラジウム(II)酢酸塩、2,2’-ビピリジルパラジウム(II)酢酸塩などが挙げられる。
これらの中でも、工業入手性および価格の点から、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトン)パラジウム(II)が好ましく、価格および入手容易性の観点からは、酢酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトン)パラジウム(II)がより好ましい。
【0029】
パラジウム化合物を使用する場合、パラジウム化合物は、アシルオキシアルカポリエンの転化率を高め、且つアルカポリエンの異性化を抑制する観点から、パラジウム原子換算で、アシルオキシアルカポリエンの供給量1kg/hrに対して、反応器内に10~2,000mmol存在していることが好ましく、50~500mmol存在していることがより好ましい。
なお、アシルオキシアルカポリエンの転化率の低下が観測される場合には、パラジウム化合物を反応系へさらに追加してもよい。その場合のパラジウム化合物の使用量は、特に制限されるものではないが、パラジウム原子換算で、アシルオキシアルカポリエンの供給量1kg/hrに対して10~2,000mmol/hrが好ましく、50~500mmol/hrがより好ましい。
【0030】
(第3級リン化合物)
前記パラジウム化合物と共に第3級リン化合物を反応系に存在させることにより、パラジウム金属1原子当たりの反応活性を長く維持することができる傾向にあり、長時間の反応においてアシルオキシアルカポリエンの高い転化率を維持し易い。
第3級リン化合物としては、例えば、第3級ホスフィン、第3級ホスファイト等が挙げられる。
第3級ホスフィンとしては、例えば、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p-N,N-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィン、トリ-o-トルイルホスフィン、トリ-m-トルイルホスフィン、トリ-p-トルイルホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン、ジフェニル(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、2-フリルジフェニルホスフィン、2-ピリジルジフェニルホスフィン、4-ピリジルジフェニルホスフィン、m-ジフェニルホスフィノベンゼンスルホン酸またはその金属塩、p-ジフェニルホスフィノ安息香酸またはその金属塩、p-ジフェニルホスフィノフェニルホスホン酸またはその金属塩などが挙げられる。
第3級ホスファイトとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(p-メトキシフェニル)ホスファイト、トリス(o-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(m-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(p-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(o-エチルフェニル)ホスファイト、トリス(m-エチルフェニル)ホスファイト、トリス(p-エチルフェニル)ホスファイト、トリス(o-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(m-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(p-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(o-イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(m-イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(p-イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(o-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(p-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(p-トリフルオロメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
これらの中でも、第3級リン化合物としては第3級ホスフィンが好ましく、工業的な入手容易性および価格の観点からは、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トルイルホスフィン、トリ-m-トルイルホスフィン、トリ-p-トルイルホスフィンがより好ましい。
【0031】
第3級リン化合物を使用する場合、その使用量としては、特に制限されるものではないが、パラジウム金属1原子当たりの反応活性を維持する観点から、パラジウム原子1モルに対して、リン原子換算で1~1,000モルが好ましく、1~500モルがより好ましく、1~150モルがさらに好ましく、2~50モルが特に好ましく、2~15モルが最も好ましい。第3級リン化合物の使用量が多過ぎても効果は頭打ちになるため、上記範囲内で適宜調整することが好ましい。
なお、アシルオキシアルカポリエンの転化率の低下が観測される場合には、第3級リン化合物を反応系へさらに追加してもよい。
【0032】
脱アシルオキシ化工程(2)は、前述の通り、エステル化工程(1)で高沸点化合物が副生した場合であっても、該高沸点化合物の存在下で前記アシルオキシアルカポリエンを脱アシルオキシ化させられることが本発明者らの検討によって判明した。
但し、該高沸点化合物はカルボキシル基を有する高沸点化合物を含む傾向にあるため、脱アシルオキシ化工程(2)にて高沸点化合物が反応器内に滞留すると、反応系内の酸性度が高まってアシルオキシアルカポリエンの転化率が経時的に低下していくおそれが生じることも考え得る。そこで、脱アシルオキシ化工程(2)を含窒素化合物の存在下で実施することによって、反応系内の酸性度が高まるのを抑制してもよい。
【0033】
(含窒素化合物)
前記含窒素化合物としては、例えば、第3級アミン化合物、含窒素ヘテロ芳香族化合物等が挙げられる。第3級アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,2-ジアミノエタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N-ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、N-メチルモルホリンなどが挙げられる。含窒素ヘテロ芳香族化合物としては、例えば、ピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン、キノリンなどが挙げられる。これらの中でも、含窒素化合物としては第3級アミン化合物が好ましく、工業的な入手容易性および価格の観点からは、トリエチルアミン、トリブチルアミンがより好ましい。
【0034】
含窒素化合物を使用する場合、その使用量は、アシルオキシアルカポリエンと共に脱アシルオキシ化工程(2)に供給され得る高沸点化合物が有するカルボキシル基の量によって適宜調整すればよい。目安として、含窒素化合物の使用量は、第3級リン化合物のリン原子1モルに対して、窒素原子換算で、1モル以下でよく、0.1モル以下であってもよい。この範囲であれば、長時間の反応においてアシルオキシアルカポリエンの高い転化率を維持できる傾向にある。
なお、アシルオキシアルカポリエンの転化率の低下が観測される場合には、含窒素化合物を反応系へさらに追加してもよい。
【0035】
(脱アシルオキシ化工程(2)で使用し得る有機溶媒)
脱アシルオキシ化工程(2)は、有機溶媒の存在下または非存在下で実施するが、有機溶媒の存在下で実施することが好ましい。有機溶媒を使用することにより、反応器へのアシルオキシアルカポリエンの供給と、アルカポリエンおよび水溶性モノカルボン酸を共に留去することを同時進行する際に、反応系内のパラジウム原子の濃度を一定に保つことが容易となり、反応を制御し易くなる傾向にある。
有機溶媒としては、脱アシルオキシ化反応に不活性であり、且つアルカポリエンおよび水溶性モノカルボン酸よりも沸点が高いものが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、ノナン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素;エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘプタンなどの脂環式炭化水素;エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンなどの芳香族炭化水素;ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのケトン化合物;ジn-ブチルエーテル、ジn-オクチルエーテル、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテルなどの非環状モノエーテル;1,2-ジブトキシエタン、1,2-ジフェノキシエタン、1,2-ジエトキシプロパン、1,2-ジフェノキシプロパン、1,3-ジエトキシプロパン、1,3-ジイソプロポキシプロパン、1,3-ジブトキシプロパン、1,3-ジフェノキシプロパン、シクロペンチルメチルエーテルなどの非環状ジエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリブチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリブチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラブチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラブチレングリコールジエチルエーテルなどの非環状ポリエーテル;等が挙げられる。有機溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、有機溶媒の回収操作を簡便にする観点からは、1種を単独で用いることが好ましい。
【0036】
有機溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、アシルオキシアルカポリエンの転化率を高め、且つ、アルカポリエンの反応系内における滞留を抑制してアルカポリエンの異性化を抑制する観点、並びに反応系内のパラジウム原子濃度を高める観点から、適宜調整することが好ましい。目安として、有機溶媒の使用量は、例えば、アシルオキシアルカポリエンの供給量1kg/hrに対して、0~1kg/hrが好ましく、0~500g/hrがより好ましい。
【0037】
(脱アシルオキシ化反応装置)
脱アシルオキシ化工程(2)では、反応系内にアルカポリエンが長く滞留する場合、反応系内のパラジウム原子によってアルカポリエンが蒸留分離困難な化合物(例えば、目的生成物が1,3,7-オクタトリエンの場合には、1,3,6-オクタトリエンおよび2,4,6-オクタトリエンなど)に異性化され得るため、目的生成物として生成したアルカポリエンは速やかに反応系外に留出させることが好ましい。この観点から、脱アシルオキシ化工程(2)は、完全混合槽型反応器を用いて連続式で実施することが好ましい。なお、反応装置は、反応系外へ留出した留出物(脱アシルオキシ化反応液)(アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の混合物を含有する。)を凝縮するための還流凝縮器を備えていることが好ましい。また、アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の混合物を速やかに留出させて且つ凝縮するために、反応装置には、好ましくは還流凝縮器に排気ポンプを付設することが好ましい。
【0038】
(脱アシルオキシ化反応条件)
脱アシルオキシ化工程(2)は、特に制限されるものではないが、好ましい態様において使用される前記触媒を消費、分解または不活性化させ得る物質の非存在下で実施することが好ましい。さらに、特に制限されるものではないが、脱アシルオキシ化工程(2)における全ての操作は不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。また、特に制限されるものではないが、脱アシルオキシ化工程(2)で使用する原料および有機溶媒は、特に制限されるものではないが、不活性ガスによるバブリングなどの手法によって、酸素ガスが十分に除去されていることが好ましい。こうすることで、例えば前記パラジウム化合物のパラジウム原子の酸化を抑制し易く、触媒活性を長期間維持できる傾向にある。
【0039】
脱アシルオキシ化工程(2)では、アシルオキシアルカポリエンからアルカポリエンへの転化率(以下、脱アシルオキシ化率と称することがある)を70モル%以上にすることが好ましく、容積効率を高める観点から、80モル%以上にすることがより好ましい。本発明における脱アシルオキシ化工程(2)では、脱アシルオキシ化率を90モル%以上に高めることも可能であり、95モル%以上に高めることも可能であり、98モル%以上に高めることも可能である。
さらに、アルカポリエンの異性化(例えば1,3,7-オクタトリエンであれば、1,3,6-オクタトリエンおよび2,4,6-オクタトリエンへの異性化)を抑制するために、反応系内での目的生成物であるアルカポリエン(例えば1,3,7-オクタトリエン)の滞留を抑制することが好ましい。この観点から、生成したアルカポリエンを速やかに反応系外に留出させることが好ましい。反応系から生じた気体の還流凝縮器への導入量を多くすることによって、生成したアルカポリエンの留出を促進できることから、完全混合槽型反応器の下部から還流凝縮器へ不活性ガスを通気してもよい。
【0040】
脱アシルオキシ化反応圧力は、水溶性モノカルボン酸の種類によって適宜調整すればよい。例えば、水溶性モノカルボン酸が酢酸である場合、0.5kPaA~大気圧が好ましく、1kPaA~大気圧がより好ましい。また、水溶性モノカルボン酸が例えば炭素数3~5の水溶性モノカルボン酸である場合、0.02kPaA~大気圧が好ましく、0.10~60kPaAがより好ましい。水溶性モノカルボン酸が炭素数4以上の水溶性モノカルボン酸である場合、反応圧力を必要に応じて下げることによって、水溶性モノカルボン酸が留去し易い条件を適宜選択すればよい。以上を考慮して、脱アシルオキシ化反応圧力は、特に制限されるものではないが、0.001kPaA~大気圧であることが好ましく、0.01kPaA~大気圧であることがより好ましい。
脱アシルオキシ化工程(2)において高い容積効率および高い転化率を維持するためには、反応器内からアルカポリエンと水溶性モノカルボン酸を速やかに留去することが好ましく、反応温度と水溶性モノカルボン酸の種類などを考慮しながら、適切な反応圧力を設定すればよい。
【0041】
脱アシルオキシ化反応温度は50~150℃が好ましく、高い脱アシルオキシ化率を長時間維持する観点からは、70~120℃がより好ましい。反応温度を高めることによって脱アシルオキシ化率は向上する傾向にあるが、反応温度が高過ぎるとパラジウム原子のメタル化の進行に伴って経時的に脱アシルオキシ化率が低下する傾向およびアルカポリエンの異性化(例えば、1,3,7-オクタトリエンから1,3,6-オクタトリエンへの異性化)が進行する傾向にある。これらの観点から、脱アシルオキシ化反応温度は前記範囲が好ましい。
【0042】
前述の通り、異性化を抑制する観点から、脱アシルオキシ化反応によって生じるアルカポリエンと水溶性モノカルボン酸を速やかに反応系外へ留去することが好ましいが、同時に、反応系内の内在液量を維持する観点から、アシルオキシアルカポリエンの反応器への供給量と同量程度のアルカポリエンおよび水溶性モノカルボン酸を連続的に反応系外へ留去することが好ましい。
脱アシルオキシ化工程(2)を連続式で実施する場合、反応時間としての滞留時間は、特に制限されるものではないが、アシルオキシアルカポリエンの脱アシルオキシ化率が70モル%以上となるようにすることが好ましい。滞留時間は、触媒の使用量、有機溶媒の使用量、反応温度などによって適宜調整すればよいが、脱アシルオキシ化率を70モル%以上とする観点から、0.1~20時間が好ましく、0.5~10時間がより好ましい。
【0043】
脱アシルオキシ化工程(2)によって得られる留出物(脱アシルオキシ化反応液)には、アルカポリエンと水溶性モノカルボン酸の他に、未反応原料(アシルオキシアルカポリエン)と副生成物[原料として用いたアシルオキシアルカポリエンの異性体(例えば、原料として1-アセトキシ-2,7-オクタジエンを用いた場合には、3-アセトキシ-1,7-オクタジエン)]が含まれることもある。この未反応原料(アシルオキシアルカポリエン)は、後述する分離工程(3)でアルカポリエンと共に有機相側へ分離した後、必要に応じて、適宜蒸留などの有機化合物の公知の分離精製手段によってアルカポリエンから分離し、脱アシルオキシ化工程(2)における原料として再使用することもできる。
【0044】
<分離工程(3)>
分離工程(3)は、前記脱アシルオキシ化工程(2)で得た留出物(脱アシルオキシ化反応液)に水を接触せしめて、アルカポリエンを含有する「有機相」と水溶性モノカルボン酸を含有する「水相」の2相に相分離させた後、前記有機相と前記水相とをそれぞれ分離取得する工程である。
脱アシルオキシ化反応液と水との接触のさせ方に特に制限はないが、例えば、脱アシルオキシ化反応液を後述する分離装置へ移送し、そこへ水を供給することで両者を接触させることができる。
【0045】
脱アシルオキシ化反応液に接触せしめる水としては、pHが6.5~7.5であることが好ましく、6.8~7.2であることがより好ましく、実質的に中性の水を使用することがより好ましい。水としては、特に制限されるものではないが、例えば、蒸留水、脱イオン水、精製水、RO(Reverse Osmosis)水などを使用することができる。このような水を使用することによって、回収再使用工程(5)にて前記混合液(X)の少なくとも1部を前記エステル化工程(1)における原料の供給源として使用したときに、エステル化反応を問題(例えば、前記混合液(X)に混入している水がアルカリ金属イオンを含有していると水溶性モノカルボン酸に作用するという問題)なく進行させることができ、工業的に有利である。
【0046】
水の使用量は、脱アシルオキシ化反応液中の水溶性モノカルボン酸を十分に回収し得る量とすることが好ましく、脱アシルオキシ化反応液中の水溶性モノカルボン酸の90モル%以上を回収し得る量とすることがより好ましく、95モル%以上を回収し得る量とすることがさらに好ましく、98モル%以上を回収し得る量とすることが特に好ましく、99.0モル%以上を回収し得る量とすることが最も好ましい。
水の使用量としては、水溶性モノカルボン酸の種類、分離操作の方法、水溶性モノカルボン酸の目的とする回収率などに応じて適宜調整すればよいが、具体的には、水溶性モノカルボン酸の前記回収率を達成する観点からは、脱アシルオキシ化反応液に対する質量比(水/留出物)が0.1~4であることが好ましく、0.2~2であることがより好ましく、0.2~1.0であることがさらに好ましく、0.3~0.8であることが特に好ましい。
【0047】
分離工程(3)で得られる水相は、前記エステル化工程(1)の原料である水溶性モノカルボン酸を含有するため、後述する回収再使用工程(5)にて利用される。分離工程(3)で得られる水相の全てを回収再使用工程(5)にて利用してもよいし、分離工程(3)で得られる水相の一部を回収再使用工程(5)にて利用してもよい。いずれの場合であっても、脱アシルオキシ化反応液中の水溶性モノカルボン酸の40モル%以上(より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上)が回収再使用工程(5)で使用する混合液(X)に含まれるようにすることが好ましい。そのためには、例えば、脱アシルオキシ化反応液に接触せしめる水の量を、前記水/留出物の比率の範囲内で調整し、得られる水相の全てを回収再使用工程(5)に供する方法が簡便であり好ましい。
回収再使用工程(5)に利用しない水相がある場合、その水相は、[i]分離工程(3)において、脱アシルオキシ化反応液に接触せしめる水と混合して利用してもよいし、[ii]水溶性モノカルボン酸と水とを公知の方法で分離して水溶性モノカルボン酸を単離した後、必要に応じて、単離した水溶性モノカルボン酸を保管してもよいし、エステル化工程(1)の原料として再使用してもよいし、[iii]濃縮した後、エステル化工程(1)の原料として回収再使用してもよいし、[iv]廃棄してもよいし、[v]前記以外の別の用途に用いてもよい。
【0048】
分離工程(3)で得られる有機相には目的生成物であるアルカポリエンが含まれるが、それ以外に、脱アシルオキシ化工程(2)で未反応であったアシルオキシアルカポリエンと副生成物[原料として用いたアシルオキシアルカポリエンの異性体(例えば、原料として1-アセトキシ-2,7-オクタジエンを用いた場合には、3-アセトキシ-1,7-オクタジエン)]が混入していてもよい。但し、有機相には水溶性モノカルボン酸が混入していないことが好ましく、具体的には、分離取得した有機相中の前記水溶性モノカルボン酸の含有量は、脱アシルオキシ化反応液中の水溶性モノカルボン酸の0~0.10モル%であることが好ましく、0~0.05モル%であることがより好ましく、0~0.01モル%であることがさらに好ましく、実質的に0モル%であることが特に好ましい。この条件であると、有機相の蒸留の際に高沸点化合物が生成するのを避けることができ、且つ、アルカポリエンへの水溶性モノカルボン酸の混入を防ぐことができるため、高純度のアルカポリエンを高収率で得られる傾向にある。
【0049】
(分離装置)
分離工程(3)の実施態様に特に制限はなく、例えば、回分式、半回分式および連続式のいずれでもよい。また、脱アシルオキシ化反応液と水との接触は、1段回で行ってもよいし、多段回で行ってもよい。さらに、脱アシルオキシ化反応液と水とを接触させる際、容器中の前記留出物へ水を供給する方法でもよいし、容器中の水へ前記留出物を供給する方法でもよいし、接触方法は並流式であってもよいし、向流式であってもよい。また、前記留出物の流れおよび水の流れは、それぞれ、層流であってもよいし、乱流であってもよい。
【0050】
分離工程(3)で使用し得る分離装置としては、目的とする水相と有機相とに分離し、且つそれぞれを分離取得し得る装置であれば特に制限はないが、例えば、攪拌翼を備えた完全混合槽;スタティックミキサー(静止型混合器);非攪拌式段型抽出器;攪拌式段型抽出器などが挙げられる。分離装置は1種を単独で使用してもよいし、同種の分離装置または2種以上の分離装置を、直列または並列で連結して使用してもよい。
少ない水の使用量で水溶性モノカルボン酸を効率良く水相へ含有させる観点から、向流の多段抽出器を使用してもよい。また、本発明では、分離操作後の有機相中の水溶性モノカルボン酸の質量濃度に対する水相中の水溶性モノカルボン酸の質量濃度の比(以下、分配係数と称することがある)が十分に高いため、完全混合槽または静止型混合器に静置槽を設置してなるミキサセトラを直列で繰り返して連結してなる多段ミキサセトラも使用できる。所望の水溶性モノカルボン酸濃度の水相をエステル化工程(1)および分離工程(3)に分別して使用することができるという観点から、分離装置として、多段ミキサセトラを使用することが好ましい。
【0051】
(分離条件)
アルカポリエンおよび水溶性モノカルボン酸の酸化を抑制する観点から、水および脱アシルオキシ化工程(2)で得た留出物は、不活性ガスによるバブリングなどの手法によって酸素ガスが除去されていることが好ましい。分離工程(3)における全ての操作は、特に制限されるものではないが、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
分離工程(3)における一連の操作を通して、言うまでもなく、温度は水の凝固点以上から水の沸騰温度以下で実施するが、5~95℃が好ましく、分配係数を高めて水相中の水溶性モノカルボン酸濃度を高める観点からは、10~50℃がより好ましく、15~35℃がさらに好ましい。
分離工程(3)における一連の操作を通して、圧力に特に制限はないが、大気圧下で実施するのが簡便であり好ましいが、不活性ガスの導入によって大気圧より高い圧力下で実施することもできる。水および水溶性モノカルボン酸の揮発を抑制し、且つ外部からの大気の流入を抑制する観点から、大気圧~700kPaAで実施するのが好ましく、110~500kPaAで実施することがより好ましい。
脱アシルオキシ化工程(2)で得た留出物と水との接触時間に特に制限はないが、水溶性モノカルボン酸の水相への分離回収率を高め、且つ水溶性モノカルボン酸の分配組成を一定に保つ観点から、0.1~10時間が好ましく、0.2~5時間がより好ましい。
【0052】
<単離工程(4)>
単離工程(4)は、前記分離工程(3)で分離取得した有機相から、前記水溶性モノカルボン酸の混入率が0.10質量%以下のアルカポリエンを単離する工程である。
アルカポリエンの単離方法としては、有機化合物の公知の単離方法を採用することができ、特に制限されるものではないが、蒸留によって単離する方法が簡便であり好ましい。以下、蒸留によってアルカポリエンを単離する方法について詳述する。
【0053】
前記分離工程(3)で分離取得する有機相には水溶性モノカルボン酸が含まれていないか、またはほとんど含まれていないため、該有機相を蒸留したとしても、高沸点副生成物が生成し難く、アルカポリエンの収率を高く維持することができる。さらに、得られるアルカポリエン中の水溶性モノカルボン酸の混入率も低くなり、0.10質量%以下となる傾向にある。なお、蒸留する前に、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液で洗浄することによって、わずかに混入する水溶性モノカルボン酸を十分に除去しておくことが好ましく、こうすることで、アルカポリエン中の水溶性モノカルボン酸の混入量を効率良く低減することができ、蒸留塔の理論段数を低減することにも繋がる。
蒸留操作自体は、例えば米国特許第3,338,801号または特開2016-216385号公報などに記載の方法を参照して実施することができる。
【0054】
蒸留中にアルカポリエンが重合することを抑制するために、有機相に重合禁止剤を添加してから蒸留してもよい。重合禁止剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ヒドロキノン、ベンゾキノンなどのキノン類;4-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、p-tert-ブチルカテコールなどのアルキルフェノール系化合物;フェノチアジンなどのアミン系化合物;等が挙げられる。重合禁止剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、工業的な入手容易性の観点から、4-メトキシフェノールまたは2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを用いることが好ましい。
重合禁止剤を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、有機相中のアルカポリエンに対して10モル%以下でよく、1モル%以下でも効果が得られる。なお、重合禁止剤を有機相中のアルカポリエンに対して10モル%以上添加したとしても、効果は頭打ちになる傾向にあり、有益とは言えない。
【0055】
また、有機相に溶媒を添加してから蒸留することで、アルカポリエンの純度をより一層高めることができる。
かかる溶媒としては、例えば、ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、ヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタンなどの脂環式炭化水素;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、エチル-n-プロピルエーテル、ジn-プロピルエーテル、n-ブチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジn-ブチルエーテル、ジn-オクチルエーテル、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテルなどの非環状モノエーテル;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジイソプロポキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、1,2-ジフェノキシエタン、1,2-ジメトキシプロパン、1,2-ジエトキシプロパン、1,2-ジフェノキシプロパン、1,3-ジメトキシプロパン、1,3-ジエトキシプロパン、1,3-ジイソプロポキシプロパン、1,3-ジブトキシプロパン、1,3-ジフェノキシプロパン、シクロペンチルメチルエーテルなどの非環状ジエーテル;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;等が挙げられる。溶媒は、アルカポリエン留分に混入しない溶媒であるか、または混入したとしても用途としての重合に影響を及ぼさない溶媒であれば使用できる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、溶媒の回収操作を簡便にする観点から、1種を単独で使用することが好ましい。
溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、アルカポリエンの純度を効果的に上昇させる観点から、有機相中のアルカポリエンの含有量に対して50質量%以下であることが好ましく、容積効率を高める観点からは、25質量%以下であることがより好ましい。
他にも、水、アセトニトリルなどのニトリル化合物を有機相に添加した場合も、アルカポリエンの純度をより一層高める効果が得られる。
【0056】
(単離装置-蒸留装置)
単離工程(4)において蒸留操作の形式に特に制限はなく、例えば、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。蒸留装置としては、例えば、棚段棟、充填塔などが挙げられる。蒸留装置は1種を単独で使用してもよいし、同種の蒸留装置または2種以上の蒸留装置を、直列もしくは並列で連結して使用してもよい。
蒸留装置は、留出したガス成分を凝縮させる還流凝縮器と、凝縮した溶液を受け入れる静置槽も備える。アルカポリエンの留出を促進する観点から、還流凝縮器または静置槽などに反応器内の圧力を低下させるための排気ポンプを付設してもよい。
蒸留に供する有機相中のアルカポリエンの純度が高いことに起因して、充填塔または棚段塔などの蒸留塔を1つ単独で使用することでも十分にアルカポリエンを分離精製できる。蒸留塔の理論段数は2~100段が好ましく、4~50段がより好ましい。還流比は1~100が好ましく、5~50がより好ましい。このような蒸留塔であれば、高純度のアルカポリエンを、重合抑制しながら高い蒸留収率で取得できる。
【0057】
(蒸留条件)
取得すべきアルカポリエンの酸化を抑制する観点から、蒸留に供する有機相は、不活性ガスによるバブリングなどの手法によって酸素ガスが除去されていることが好ましい。
アルカポリエンの蒸留塔内での滞留による重合を抑制する観点から、アルカポリエンを速やかに蒸留塔外へ排出することが好ましい。蒸留塔から留出した気体の還流凝縮器への導入量を多くすることによってアルカポリエンの排出を促進できることから、蒸留塔の底部から還流凝縮器または静置槽へ不活性ガスを通気してもよい。
アルカポリエン、例えば1,3,7-オクタトリエンの大気圧における沸点は125℃であり、不活性ガスを通じる場合においては液温を150℃未満にしても蒸留は可能であるが、不活性ガスの使用量削減および蒸留収率を向上させるという観点から、大気圧未満で蒸留することが好ましい。蒸留温度は50~130℃が好ましく、70~120℃がより好ましい。蒸留圧力は5~100kPaAが好ましく、10~80kPaAがより好ましい。この蒸留条件であれば、不活性ガスの使用量が少ないまま、アルカポリエンの重合抑制が可能であり、且つ、目的とするアルカポリエンの蒸留収率を90モル%以上、さらには94モル%以上にできる。
【0058】
<回収再使用工程(5)>
回収再使用工程(5)は、まず、前記分離工程(3)で分離取得した水相から、アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物によって水溶性モノカルボン酸を抽出する。そして、こうして得られるアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と水溶性モノカルボン酸を含有する混合液(X)の少なくとも1部(好ましくは該混合液(X)の50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは実質的に100質量%)を、前記エステル化工程(1)における前記アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物および前記水溶性モノカルボン酸の供給源として使用する工程である。
本発明のアルカポリエンの製造方法は、前記エステル化工程(1)を回分式、半回分式または連続式のいずれの方式で実施する際にも本回収再使用工程(5)を実施することが可能であり、特に前記エステル化工程(1)を連続式で実施すると、前記分離工程(3)で分離取得した水相または前記混合液(X)を保管しておく必要がなくなるという観点から、工業的に好ましい。
【0059】
本発明では、脱アシルオキシ化工程(2)で副生する水溶性モノカルボン酸を本回収再使用工程(5)によりアルカポリエンの製造に再使用することができるため、製造コストを抑えながらアルカポリエンを工業的に製造できる点で有利である。また、本回収再使用工程(5)により再使用に利用する前記混合液(X)には25質量%以下の水が混入している傾向があるものの、その含有量は前記分離工程(3)で分離取得した水相よりも大幅に少ないため、前記分離工程(3)で分離取得した水相を前記エステル化工程(1)における前記水溶性モノカルボン酸の供給源とするよりも、エステル化工程(1)を効率良く実施することができる。この観点から、前記混合液(X)中の水の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、13質量%以下がさらに好ましい。混合物(X)中の水の含有量の下限値に特に制限はないが、3質量%以上となる傾向にあり、場合によっては、5質量%以上または8質量%以上である。
なお、前記混合液(X)にはアルカポリエンが混入していることもあるが、その含有量は、通常、3質量%以下となる傾向にあり、1質量%以下となることが多い。
前記分離工程(3)で分離取得した水相は、必要に応じて、単蒸留、減圧蒸留などの蒸留手段によって濃縮してから、アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物と接触させてもよい。
【0060】
前記混合液(X)中のアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、前記エステル化工程(1)の運転制御容易性の観点から、前記混合液(X)中の水溶性モノカルボン酸1モルに対して0.5~3.5モルであることが好ましく、0.8~2.5モルであることがより好ましく、1.2~2.2モルであることがさらに好ましい。
混合液(X)中のアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物の含有量を上記範囲に調整するには、特に制限されるものではないが、前記分離工程(3)で分離取得した水相に接触させるアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物の量を、該水相100質量部に対して50~350質量部とすることが好ましく、80~300質量部とすることがより好ましく、100~250質量部とすることがさらに好ましく、100~200質量部とすることが最も好ましい。
【0061】
なお、前記分離工程(3)で分離取得した水相からアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物によって水溶性モノカルボン酸を抽出する操作において、水相には水溶性モノカルボン酸が残存し得る。水溶性モノカルボン酸が残存した該水相は、[i]分離工程(3)において、脱アシルオキシ化反応液に接触せしめる水と混合して利用してもよいし、[ii]水溶性モノカルボン酸と水とを公知の方法で分離して水溶性モノカルボン酸を単離した後、必要に応じて、単離した水溶性モノカルボン酸を保管してもよいし、エステル化工程(1)の原料として再使用してもよいし、[iii]濃縮した後、エステル化工程(1)の原料として回収再使用してもよいし、[iv]廃棄してもよいし、[v]前記以外の別の用途に用いてもよい。
【0062】
前記分離工程(3)で分離取得した水相とアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物との接触は、1段回で行ってもよいし、多段回で行ってもよい。さらに、容器中の前記水相へアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物を供給する方法でもよいし、容器中のアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物へ前記水相を供給する方法でもよいし、接触方法は並流式であってもよいし、向流式であってもよい。また、前記水相の流れおよびアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物の流れは、それぞれ、層流であってもよいし、乱流であってもよい。
【0063】
前記分離工程(3)で分離取得した水相とアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物との接触後、好ましくは攪拌してから静置することにより、水相と、アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物を含有する有機相(該有機相は混合液(X)に相当する。)に分かれる。該有機相(混合液(X))には前述の通り、水溶性モノカルボン酸が含まれる。該水相と該有機相とを分離装置などによって分離し、有機相(混合液(X))の少なくとも1部を前記エステル化工程(1)の原料の供給源として利用する。
ここで使用し得る分離装置としては、水相と有機相とに分離した上でそれぞれを分離取得し得る装置であれば特に制限はないが、例えば、攪拌翼を備えた完全混合槽;スタティックミキサー(静止型混合器);非攪拌式段型抽出器;攪拌式段型抽出器などが挙げられる。分離装置は1種を単独で使用してもよいし、同種の分離装置または2種以上の分離装置を、直列または並列で連結して使用してもよい。
また、本発明では、所望の水溶性モノカルボン酸の質量濃度の混合液(X)を、エステル化工程(1)および分離工程(3)に分別して使用することができるという観点から、分離装置として、多段ミキサセトラを使用することが好ましい。
【0064】
前記分離工程(3)で分離取得した水相とアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物との接触並びに水相と有機相への分離における一連の操作を通して、言うまでもなく、温度は水の凝固点以上から水の沸騰温度以下で実施するが、5~95℃が好ましく、分配係数を高めて有機相中の水溶性モノカルボン酸濃度を高める観点からは、10~50℃がより好ましく、15~35℃がさらに好ましい。
分離における一連の操作を通して、圧力に特に制限はないが、大気圧下で実施するのが簡便であり好ましいが、不活性ガスの導入によって大気圧より高い圧力下で実施することもできる。水、アルケニル基が置換したアリルアルコール化合物および水溶性モノカルボン酸の揮発を抑制し、且つ外部からの大気の流入を抑制する観点から、大気圧~700kPaAで実施するのが好ましく、110~500kPaAで実施することがより好ましい。
前記分離工程(3)で分離取得した水相とアルケニル基が置換したアリルアルコール化合物(有機相)との接触時間に特に制限はないが、水溶性モノカルボン酸の有機相への抽出率を高める観点から、0.1~10時間が好ましく、0.2~5時間がより好ましい。
【0065】
(アルカポリエンが含有し得る不純物)
ところで、本発明者らの調査により、従来の製造方法によって得られたアルカポリエンには、過酸化物およびその分解物からなる群から選択される少なくとも1種の不純物が含まれ得ることが判明した。本発明の製造方法により得られるアルカポリエンは、過酸化物およびその分解物からなる群から選択される少なくとも1種の不純物の含有量が少ない。具体的には、本発明の製造方法により得られるアルカポリエン中の不純物の合計含有量は、0.30mmol/kg以下にすることができ、0.15mmol/kg以下にすることもでき、0.10mmol/kg以下にすることもできる(但し、過酸化物およびその分解物のうちの一方が0mmol/kgである場合も含まれる。)。
【0066】
例えば、アルカポリエンが1,3,7-オクタトリエンである場合、過酸化物としては、5-ヒドロペルオキシ-1,3,7-オクタトリエン、6-ヒドロペルオキシ-1,3,7-オクタトリエンなどが挙げられる。また、該過酸化物の分解物としては、5-ヒドロペルオキシ-1,3,7-オクタトリエンまたは6-ヒドロペルオキシ-1,3,7-オクタトリエンが分解して生成し得る化合物が挙げられ、具体的には、5-ヒドロキシ-1,3,7-オクタトリエン、6-ヒドロキシ-1,3,7-オクタトリエンなどが挙げられる。これらは、1,3,7-オクタトリエンの酸素酸化によって生成し得る化合物である。これらの中でも、過酸化物およびその分解物としては、特に、5-ヒドロペルオキシ-1,3,7-オクタトリエン、6-ヒドロペルオキシ-1,3,7-オクタトリエン、5-ヒドロキシ-1,3,7-オクタトリエン、6-ヒドロキシ-1,3,7-オクタトリエンが重要な化合物である。このような不純物を含有していると、アルカポリエンの用途によっては悪影響を与えることがあるため、該不純物の含有量は少ないことが好ましい。例えば、1,3,7-オクタトリエンなどのアルカポリエンを重合反応に供する際に、上記不純物は重合反応を阻害するなどの悪影響を及ぼし得る。
ここで、アルカポリエン中の上記不純物の合計含有量は、アルカポリエンにヨウ化カリウムを作用させることによって発生するヨウ素(I)をチオ硫酸ナトリウムで滴定して求めた値である。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。薬液は、特に断りのない限りは、溶存ガスを不活性ガスで置換し、且つ酸化防止剤および水を除去したものを使用した。
なお、2,7-オクタジエン-1-オールは、株式会社クラレ製のものを用いた。
【0068】
後述する各例に記載の以下の略称は、以下の化合物を示す。
ODA:2,7-オクタジエン-1-オール
MIPK:メチルイソプロピルケトン
ODAAc:1-アセトキシ-2,7-オクタジエン
IODAAc:3-アセトキシ-1,7-オクタジエン
【0069】
以下に、各例で使用した分析方法および算出方法について詳述する。
<[1]エステル化反応液A、A’、エステル化留去液A、A’、または脱アシルオキシ化反応液Aに含まれる成分の分析>
各例で得たエステル化反応液A、A’、エステル化留去液A、A’、または脱アシルオキシ化反応液Aが含有する成分の分析は、以下の方法に従って行った。
エステル化反応液A、A’、エステル化留去液A、A’、または脱アシルオキシ化反応液A 0.50gに対して、トリエチレングリコールジメチルエーテル0.50gおよびジエチレングリコールジメチルエーテル0.20gを加えて混合液を得た。該混合液を用いて、エステル化反応液A、A’およびエステル化留去液A、A’に関しては下記ガスクロマトグラフィー測定条件Iに従い、脱アシルオキシ化反応液Aに関しては下記ガスクロマトグラフィー測定条件IIに従ってガスクロマトグラフィーにより分析し、各成分の濃度を内部標準物質であるジエチレングリコールジメチルエーテルに対する面積比から下記式1に従って算出した。
なお、エステル化反応液A、A’およびエステル化留去液A、A’の分析では、保持時間約2.2分にMIPK、保持時間約5.0分に酢酸、保持時間約7.5分と約8.3分にODAAc、保持時間約10.3分にODA、約3.7分にジエチレングリコールジメチルエーテル、約11.9分にトリエチレングリコールジメチルエーテルのピークが観測できる。
また、脱アシルオキシ化反応液Aの分析では、保持時間約2.3~3.0分に全オクタトリエン、保持時間約10.7分にIODAAc、保持時間約11.7分に酢酸、保持時間約16.7分と17.5分にODAAc、保持時間約6.9分にジエチレングリコールジメチルエーテル、保持時間約20.6分にトリエチレングリコールジメチルエーテルのピークが観測できる。
また、含水量を後述の測定条件にてカールフィッシャー水分計により測定した。
【0070】
【数1】
【0071】
(ガスクロマトグラフィー測定条件I)
装置:株式会社島津製作所製のGC-2025
カラム:アジレント・テクノロジー株式会社製のDB-Wax(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(100kPaG)を流量0.91mL/分で流通させた。
サンプル注入量:薬液0.1μLをスプリット比20/1で注入した。
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
検出器温度:250℃
気化室温度:250℃
昇温条件:120℃で8分保持して10℃/分で220℃まで昇温して3分保持した。
なお、上記kPaGのGはゲージ圧であることを示し、以下同様である。
【0072】
(ガスクロマトグラフィー測定条件II)
装置:株式会社島津製作所製のGC-2025
カラム:アジレント・テクノロジー株式会社製のDB-Wax(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(100kPaG)を流量1.04mL/分で流通させた。
サンプル注入量:薬液0.1μLをスプリット比50/1で注入した。
検出器:FID
検出器温度:250℃
気化室温度:250℃
昇温条件:90℃で13分保持して10℃/分で220℃まで昇温して3分保持した。
【0073】
(含水量の測定条件)
装置:株式会社三菱ケミカルアナリテック製のカールフィッシャー水分計、CA-200型(卓上型電量法水分計)
陽極液:三菱ケミカル株式会社製のアクアミクロンAKX
陰極液:三菱ケミカル株式会社製のアクアミクロンCXU
サンプル注入量:薬液1gを注入した。
【0074】
<[2]1,3,7-オクタトリエンの純度>
1,3,7-オクタトリエンの純度は、下記ガスクロマトグラフィー測定条件IIIに従ってガスクロマトグラフィーにより分析し、全オクタトリエンのピーク面積に対する1,3,7-オクタトリエンのピーク面積の百分率を求め、この値を1,3,7-オクタトリエンの純度とした。
なお、保持時間約5.0~14.0分に全オクタトリエン、保持時間約9.2分と9.4分に1,3,7-オクタトリエンのピークを観測できる。
(ガスクロマトグラフィー測定条件III)
装置:株式会社島津製作所製のGC-2010Plus
カラム:Restek Corporation製のRxi-5ms(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(100kPaG)を流量1.33mL/分で流通させた。
サンプル注入量:薬液0.1μLをスプリット比100/1で注入した。
検出器:FID
検出器温度:280℃
気化室温度:280℃
昇温条件:40℃で10分保持して20℃/分で250℃まで昇温して5分保持した。
【0075】
<[3]有機相A、蒸留原料A、蒸留精製物A、回収液Aに含まれる成分の分析>
後述の分離工程(3A)で得た有機相A、後述の単離工程(4A)にて前記有機相Aを水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して得られた蒸留原料A、該蒸留原料Aを蒸留して得られた蒸留精製物Aおよび後述の回収再利用工程(5A)で得た回収液Aについて、前記ガスクロマトグラフィー測定条件IIおよびIIIに従ってガスクロマトグラフィーにより分析した。1,3,7-オクタトリエンの純度は前記[2]に記載の通りにして求め、また、含まれる成分の組成については、前記[1]に記載の通りにして求めた。
【0076】
<[4]水相Aに含まれる成分の分析>
後述の分離工程(3A)で得た水相Aについて、前記ガスクロマトグラフィー測定条件Iに従ってガスクロマトグラフィーにより分析した。含まれる成分の組成については、前記[1]に記載の通りにして求めた。
【0077】
<[5]エステル化工程(1A)におけるエステル化率>
後述のエステル化工程(1A)におけるエステル化率は、下記式2に従って算出した。
【数2】
【0078】
<[6]エステル化工程(1A)における酢酸の回収率>
後述のエステル化工程(1A)において、反応に使われなかった酢酸をどの程度回収できたかを調査した。エステル化工程(1A)におけるエステル化留去液A、A’中の酢酸の含有量から、下記式3に従って酢酸の回収率を求めた。
なお、下記式3中の未反応の酢酸のモル数は、エステル化工程(1A)で使用した「酢酸のモル数」から「生成したODAAcのモル数」を引いたものに相当する。
【数3】
【0079】
<[7]エステル化工程(1A)における有機溶媒の回収率>
エステル化工程(1A)において、有機溶媒をどの程度回収できたかを調査するため、下記式4に従って有機溶媒の回収率を求めた。
【数4】
【0080】
<[8]脱アシルオキシ化工程(2A)における脱アシルオキシ化率>
脱アシルオキシ化工程(2A)における脱アシルオキシ化率は、下記式5に従って算出した。
【数5】
【0081】
<[9]分離工程(3A)で酢酸の分離回収のために使用した水の使用率>
分離工程(3A)において酢酸の分離回収のために使用した水(以下、分離水と称することがある)の使用率を下記式6に従って算出した。
【数6】
【0082】
<[10]分離工程(3A)における全オクタトリエンの分離回収率>
分離工程(3A)における全オクタトリエンの分離回収率を下記式7に従って算出した。
【数7】
【0083】
<[11]分離工程(3A)における酢酸の分離回収率>
分離工程(3A)における酢酸の分離回収率を下記式8に従って算出した。
【数8】
【0084】
<[12]単離工程(4A)における水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後の全オクタトリエンの分離回収率>
単離工程(4A)において、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄した後の有機相について、全オクタトリエンの分離回収率を下記式9に従って算出した。
【数9】
【0085】
<[13]単離工程(4A)における全オクタトリエンの蒸留収率>
単離工程(4A)における全オクタトリエンの蒸留収率を下記式10に従って算出した。
【数10】
【0086】
<[14]回収再使用工程(5A)における酢酸の分離回収率>
回収再使用工程(5A)におけるODAによる酢酸の回収率を下記式11に従って算出した。
【数11】
【0087】
[実施例1]
(エステル化工程(1A))
【化1】
【0088】
温度計、電気ヒーター、電磁誘導攪拌装置、薬液仕込み口、ガス導入口、および、還流凝縮器を有するディーンスターク装置を備えた容量2Lのガラス製反応器の内部をアルゴンで置換した後、該反応器へODA542.60g(4.300mol)、酢酸516.60g(8.603mol)およびMIPK309.20g(3.590mol)を仕込んだ。
系内をアルゴン置換した後に大気圧になるように調整しながらアルゴンを6L/hr(ntp;normal temperature pressure)で通じ、100rpmで攪拌しながら30分かけて液温が122℃になるまで加熱した。所望液温に達した時点を0時間として、液温が122±5℃となるように温度制御して36時間反応した。その後、内在液を30℃に冷却して反応を終了した。なお、反応中は、ディーンスターク装置を用いて水およびMIPKを留去しながら行い、合計で水77.10g(4.283mol)を反応器から除去した。
次に系内を12.5kPaAに減圧してから、内在液が65℃になるまで加熱した。その後、留出温度50±10℃となるように液温を上げていきながら10時間かけて酢酸およびMIPKなどを留去した。
反応器に残った溶液(以下、これを「エステル化反応液A」と称することがある)716.17gおよび留去した溶液(以下、これを「エステル化留去液A」と称することがある)546.98gを取得した。
前記分析方法に従って分析したエステル化反応液Aおよびエステル化留去液Aが含有する各成分は下記表1の通りであった。また、前記算出方法に従って求めたエステル化率、酢酸の回収率および有機溶媒の回収率を表1に併せて示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(脱アシルオキシ化工程(2A))
【化2】
【0091】
マクマホンパッキンで充填してなる内径25.4mmおよび高さ240mmの充填塔、分留頭還流冷却器を介して接続した受器、磁気回転子および温度計を備えた、300mLガラス製減圧蒸留装置を準備した。
該減圧蒸留装置の内部を窒素で置換した後、前記エステル化反応液A90.00g(ODAAc質量は88.17g、0.524mol)、酢酸パラジウム0.610g(2.72mmol)およびトリフェニルホスフィン2.900g(11.06mmol)を仕込んだ。
200rpmで攪拌しながら系内を2.7kPaAに減圧し、内在液が95℃になるまで加熱した。続いて前記エステル化反応液Aを25.00g/hr(ODAAc換算では、24.49g/hr、0.146mol/hr)で供給すると同時に、脱アシルオキシ化反応で得られた反応液を24.50g/hrで留去した。該供給および留去を開始後、1時間経つまでの留分(初留)は廃棄した。初留廃棄の時点を0時間として、液温が95±2℃となるように温度制御して、さらに24時間反応した。24時間反応させる間に、エステル化反応液A600.0g(ODAAc換算では、587.82g、3.494mol)を供給した一方で、587.88gの留分(以下、これを「脱アシルオキシ化反応液A」と称することがある)を取得した。
前記分析方法に従って分析した脱アシルオキシ化反応液Aが含有する各成分は下記表2の通りであった。また、前記算出方法に従って求めた脱アシルオキシ化率および1,3,7-オクタトリエンの純度を表2に併せて示す。
【0092】
【表2】
【0093】
(分離工程(3A))
温度計、ウォーターバス、電磁誘導攪拌装置、薬液仕込み口およびガス導入口を備える1Lガラス容器の内部を窒素で置換した後、該容器へ前記脱アシルオキシ化反応液A587.88gおよび水176.36gを仕込んだ。
系内を大気圧になるように調整しながらアルゴンを6L/hr(ntp)で通じ、100rpmで攪拌しながら30分かけて液温が40℃になるまで加熱した。次いで、液温が40±2℃となるように温度制御して1時間攪拌した。その後、内在液を室温(20~25℃)で静置し、有機相(有機相Aと称することがある)と水相(水相Aと称することがある)とに相分離させた。酢酸の回収に使用した分離水の使用率は、前記算出方法に従って求めると0.30であった。
こうして、有機相A397.22gおよび水相A367.00gを取得した。前記分析方法に従って分析した有機相Aおよび水相Aが含有する各成分は下記表3の通りであった。また、前記算出方法に従って求めた全オクタトリエンの分離回収率および1,3,7-オクタトリエンの純度、並びに酢酸の分離回収率を表3に併せて示す。
【0094】
【表3】
【0095】
(単離工程(4A))
-アルカリ性水溶液による洗浄-
前記有機相A397.22gに10質量%の水酸化ナトリウム水溶液200gを接触せしめ、水相のみを廃棄した。有機相にモレキュラーシーブス15gを加えて脱水し、蒸留用の原料(以下、これを「蒸留原料A」と称することがある)371.26gを取得した。前記分析方法に従って、蒸留原料Aについて分析した。酢酸の混入率は0質量%であった。結果を表4に示す。
また、前記方法に従って、全オクタトリエンの分離回収率および1,3,7-オクタトリエンの純度を求めた。その結果を表4に併せて示す。
【0096】
-蒸留-
マクマホンパッキンで充填してなる内径25.4mmおよび高さ240mmの充填塔、分留頭還流冷却器を介して接続した受器、磁気回転子および温度計を備える1,000mLガラス製減圧蒸留装置を用いて、下記方法に従って前記蒸留原料Aの蒸留を行った。
まず、蒸留装置内部を窒素で置換して371.26gの蒸留原料Aを仕込んだ。次いで、100rpmで攪拌しながら系内を25±2kPaAに減圧し、内在液が85±2℃になるまで加熱して留分(以下、これを「蒸留精製物A」と称することがある)357.35gを取得した。前記分析方法に従って、蒸留精製物Aについて分析した。結果を表4に示す。
また、前記方法に従って、蒸留収率を求めた。その結果を表4に併せて示す。
【0097】
【表4】
【0098】
(回収再使用工程(5A))
・回収再使用工程(5A);酢酸の回収
以下のようにして、前記分離工程(3A)で取得した水相からODAによって酢酸を抽出した回収液Aを得、該回収液Aを前記エステル化工程(1A)における原料(ODAおよび酢酸)の供給源として使用した。
具体的には、温度計、ウォーターバス、電磁誘導攪拌装置、薬液仕込み口およびガス導入口を備える1Lガラス容器の内部を窒素で置換した後、該容器へ前記水相A367.00gおよびODA542.60gを仕込んだ。
系内を大気圧になるように調整しながらアルゴンを6L/hr(ntp)で通じ、100rpmで攪拌しながら30分かけて液温が40℃になるまで加熱した。その後、液温を40±2℃に制御しながら1時間攪拌した。次に、内在液を室温(20~25℃)に冷却してから静置し、有機相(回収液A;前述の混合液(X)に相当する。)と水相とに相分離させ、該回収液A794.13gを取得した。
前記分析方法に従って分析した回収液Aが含有する各成分は下記表5の通りであった。また、前記算出方法に従って求めた酢酸の回収率を表5に併せて示す。
【0099】
【表5】
【0100】
・回収再使用工程(5A);エステル化工程(1A)における再使用
前記エステル化工程(1A)において、反応器へ「ODA542.60g(4.300mol)、酢酸516.60g(8.603mol)およびMIPK309.20g(3.590mol)」を仕込む代わりに、上記で得た回収液A794.13g、酢酸100.64g、MIPK16.45gおよびエステル化留去液A546.98gを仕込んだ。その結果、仕込み薬液組成は、ODA541.53g(4.291mol、37.14質量%)、酢酸514.73g(8.572mol、35.30質量%)、MIPK304.12g(3.531mol、20.86質量%)、全オクタトリエン3.216g(0.030mol、0.22質量%)および水94.60g(6.49質量%)であった。
次いで、反応45時間の間にディーンスターク装置を用いて水171.30gを反応器から除去したこと以外は前記エステル化工程(1A)と同様の操作を行った。
反応器に残った溶液(以下、これを「エステル化反応液A’」と称することがある)715.51gおよび留去した溶液(以下、これを「エステル化留去液A’」と称することがある)536.24gを取得した。
前記分析方法に従って分析したエステル化反応液A’およびエステル化留去液A’が含有する各成分は下記表6の通りであった。また、前記算出方法に従って求めたエステル化率、酢酸の回収率および有機溶媒の回収率を表6に併せて示す。
【0101】
【表6】
【0102】
続いて、前記同様の操作で、脱アシルオキシ化工程(2A)、分離工程(3A)および単離工程(4A)を経て、純度99.41%の1,3,7-オクタトリエンを得た。
【0103】
実施例1によれば、エステル化工程(1A)および脱アシルオキシ化工程(2A)を経て脱アシルオキシ化反応液を取得し、当該反応液を分離工程(3A)にて分離水の使用率0.30で水と接触せしめることによって脱アシルオキシ化反応で生じる酢酸の89.73モル%を水相に回収できた。一方、分離工程(3A)で得た有機相を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄してから単蒸留すること(単離工程(4A))によって、高沸点化合物の生成も確認されずに、純度99.41%の1,3,7-オクタトリエンを蒸留収率96.98モル%で取得できた。
さらに、分離工程(3A)で回収した前記水相からODAによって酢酸を抽出し、得られた回収液Aを再びエステル化反応工程(1A)に用いた(回収再使用工程(5A))ところ、原料に水を含有しない場合と同様の反応成績を達成でき、分離工程(3A)で回収した酢酸水溶液を含有する水相を廃棄する必要がなく、本反応に有効利用できた。
【0104】
[比較例1]酢酸の存在下で全オクタトリエンを蒸留した場合
(全オクタトリエンと酢酸の等モル混合物の蒸留)
全オクタトリエンとして純度98.7%の1,3,7-オクタトリエンを用いた。該全オクタトリエン773.49g(7.150mol、64.30質量%)および酢酸429.36g(7.150mol、35.70質量%)からなる蒸留原料1202.85gを調製し、スルザーラボラトリーパッキンEXを充填してなる蒸留装置(内径22.00mm、高さ1,200mm、理論段数60段)に仕込んだ。大気圧下で液温が113±2℃になるように加熱しながら還流比10で5時間蒸留して、全オクタトリエン35.50g(0.328mol、43.49質量%)と酢酸46.13g(1.292mol、56.51質量%)からなる留分(留出温度97~110℃)を81.63g取得した。続いて、還流比を50に変更して5時間蒸留して、全オクタトリエン10.00g(0.092mol、42.78質量%)と酢酸13.38g(0.223mol、57.22質量%)からなる留分(留出温度97~110℃)を23.38g取得した。合計で全オクタトリエン45.50g(0.421mol、43.33質量%)と酢酸59.50g(1.515mol、56.67質量%)からなる留分105.00gを取得した。
一方、蒸留装置に残存した未留出物は、全オクタトリエン656.63g(6.070mol、59.81質量%)と酢酸369.86g(6.159mol、33.69質量%)と高沸点化合物71.36g(6.50質量%)であった。該高沸点化合物の生成量は、蒸留操作に仕込んだ全オクタトリエン773.49gに対して9.23質量%であった。
このように、酢酸と全オクタトリエンとを分離するために蒸留を行うと、きれいに両者を分離し切れないばかりでなく、高沸点化合物が生成してしまい、全オクタトリエンの収率が低下することが分かった。
【0105】
[参考例1]特許文献3に記載された方法の追試および調査
(全オクタトリエンと酢酸の等モル混合物に水を添加した上での蒸留)
全オクタトリエンとして純度98.7%の1,3,7-オクタトリエンを用いた。該全オクタトリエン530.08g(4.900mol、50.34質量%)、酢酸294.25g(4.900mol、27.94質量%)および水228.79g(12.70mol、21.73質量%)からなる蒸留原料1053.12gを調製し、スルザーラボラトリーパッキンEXを充填してなる蒸留装置(内径22.00mm、高さ1,200mm、理論段数60段)に仕込んだ。系内を50±2kPaAにした後に液温が78±2℃になるように加熱しながら還流比3で10時間蒸留して、有機相513.86gと水相158.00gに相分離してなる留分(留出温度71±2℃)を671.86g取得した。ここで、有機相513.86gは、全オクタトリエン512.54g(4.738mol、99.74質量%)と酢酸1.32g(0.022mol、0.26質量%)であった。水相158.00gは、酢酸14.90g(0.248mol、9.43質量%)と水143.10g(7.943mol、90.57質量%)であった。
一方、蒸留装置には、酢酸278.03g(4.630mol、72.92質量%)、水85.69g(4.757mol、22.48質量%)、さらに高沸点化合物17.54g(4.60質量%)からなる液381.26gが残存した。該高沸点化合物の生成量は、蒸留操作に仕込んだ全オクタトリエン530.08gに対して3.31質量%であった。
このように、酢酸と全オクタトリエンとを分離する際に水を混合することで全オクタトリエンと酢酸とを分離し易くなったが、わずかながら酢酸が全オクタトリエンに混入しており、1,3,7-オクタトリエンの純度にはさらなる改善の余地があるといえる。また、比較例1と比べて少なくはなっているものの、高沸点化合物の生成も確認されたため、1,3,7-オクタトリエンの収率においても改善の余地があるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、1,3,7-オクタトリエンなどのアルカポリエンの製造方法として有用である。本発明により得られる1,3,7-オクタトリエンなどのアルカポリエンは、接着剤および潤滑剤の原料として、並びに、各種機能性材料(例えば、各種ゴム用の滑剤および改質剤など)の原料などとして有用である。