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7304555間葉系幹細胞または骨髄細胞の増殖促進組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞または骨髄細胞の増殖促進組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/20 20060101AFI20230630BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230630BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20230630BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230630BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230630BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20230630BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20230630BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20230630BHJP
【FI】
A61K38/20 ZNA
A61K48/00
A61K35/15
A61P35/00
A61P43/00 107
C12N5/0775
C12N5/078
C07K14/54
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019068549
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164484
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】506364400
【氏名又は名称】株式会社ステムリム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】玉井 克人
(72)【発明者】
【氏名】新保 敬史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 尊彦
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】Cytokine,2018年,111,317-324
【文献】日本臨床免疫学会会誌,36巻5号,2013年,p.413a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 38/20
A61K 48/00
A61K 35/15
A61P
C12N 5/0775
C12N 5/078
C07K 14/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において、CD45陽性細胞が存在する組織内の間葉系幹細胞の増殖を促進するための、IL-33を含む組成物。
【請求項2】
対象において、CD45陽性細胞が存在する組織内の間葉系幹細胞の減少を抑制するための、IL-33を含む組成物。
【請求項3】
前記CD45陽性細胞が存在する組織が、骨髄、血液またはリンパ節である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記CD45陽性細胞が存在する組織が、骨髄である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
対象において骨髄細胞の増殖を促進するための、IL-33を含む組成物。
【請求項6】
骨髄内の間葉系幹細胞またはCD45陽性細胞の増殖を促進する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
対象において骨髄細胞の減少を抑制するための、IL-33を含む組成物。
【請求項8】
対象において骨髄抑制を予防および/または治療するための、IL-33を含む組成物。
【請求項9】
前記骨髄抑制が、抗がん剤投与に起因する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約90%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド
からなる群から選択される、請求項~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するための、IL-33およびCD45陽性細胞を含む組成物。
【請求項14】
対象において間葉系幹細胞の減少を抑制するための、IL-33およびCD45陽性細胞を含む組成物。
【請求項15】
前記間葉系幹細胞が、骨髄内の間葉系幹細胞である、請求項13または14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、間葉系幹細胞または骨髄細胞の増殖を促進する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤治療や放射線治療は、骨髄細胞が減少する副作用(骨髄抑制)を引き起こすことが知られている。このような骨髄細胞の減少は、患者の免疫機能や造血機能を低下させ、場合によっては治療の継続を困難にしたり、患者の全身状態を著しく悪化させたりする。しかしながら、骨髄抑制の回復については、好中球に対するG-CSF製剤が認められる程度であり、多くの場合、自然回復に任せている状況にある。
【0003】
発明者らは、損傷組織から放出されるHMGB1(High mobility group box 1:高移動性グループ1タンパク質)が骨髄中に存在するPDGFRα(platelet-derived growth factor receptor alpha)陽性細胞(間葉系幹細胞)を刺激して骨髄から循環系へと動員し、当該動員された細胞が損傷部位へ集積して組織の再生を誘導していることを発見した(特許文献1,2)。しかし、何らかの要因により骨髄内の間葉系幹細胞が減少している場合には、組織の再生が遅延し又は不十分となるおそれがある。つまり、間葉系幹細胞を介した生体内の組織再生メカニズムが有効に機能するためには、骨髄内に必要量の間葉系幹細胞が存在していることが重要となる。
【0004】
このようなことから、骨髄内の細胞について、その量を維持、回復、増殖させることが望まれており、かかる作用を有する新たな薬の開発が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO/2008/053892
【文献】WO/2009/133939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的の1つは、間葉系幹細胞、特に骨髄内の間葉系幹細胞、およびその他の骨髄内の細胞の増殖を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様において、本開示は、対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するため、または減少を抑制するための、CD45陽性細胞を活性化させる物質を含む組成物を提供する。
ある態様において、本開示は、対象において骨髄細胞の増殖を促進するため、または減少を抑制するための、IL-33を含む組成物を提供する。
ある態様において、本開示は、対象において骨髄抑制を予防および/または治療するための、IL-33を含む組成物を提供する。
ある態様において、本開示は、対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するため、または減少を抑制するための、CD45陽性細胞を含む組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、間葉系幹細胞、特に骨髄内の間葉系幹細胞、および骨髄細胞の増殖の促進または減少の抑制が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マウスの大腿骨および椎骨から採取した骨髄細胞を、成熟IL-33タンパク質を含有する培地で固相培養した結果を示す写真である(培養開始後10日目)。
図2】培養開始8日目における骨髄由来付着性細胞の数を示すグラフである。
図3】培養開始8日目における骨髄由来付着性細胞のFACS解析結果を示す図である。横軸はPDGFRαの発現量(GFPの蛍光で検出)、縦軸はCD45の発現量(APC(Allophycocyanin)標識された抗CD45抗体で検出)をそれぞれ表す。4つの象限に記されている数値は、解析した細胞全体の細胞数に占める、各象限に対応する細胞のパーセンテージを示す。
図4】培養開始8日目における骨髄由来付着性細胞のうち、PDGFRαCD45の細胞と、PDGFRαCD45の細胞の数を示すグラフである。
図5】IL-33添加培地で骨髄細胞を10日間培養したときの培養プレートの1ウェルあたりの細胞数(a)、PDGFRαCD45細胞数(b)、CD45細胞数(c)およびコロニーアッセイの結果(d)を示す。
図6】PDGFRα細胞を分取しIL-33添加培地で培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
図7図7aは、PDGFRα細胞(Pα)を分取した後、骨髄細胞とIL-33添加培地で共培養するか、または、Transwell上に骨髄細胞を分取し、IL-33添加培地で培養し、コロニーアッセイを行った結果を示す。図7bは、PDGFRα細胞とCD45細胞またはCD45細胞をIL-33添加培地での共培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
図8図8aは、MyD88KOマウスの骨髄細胞をIL-33添加培地で培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。図8bは、MyD88KOマウスの骨髄細胞をIL-33添加培地で10日間培養したときのFACSでの解析結果を示す。
図9】骨髄細胞をIL-33/p38MAPK阻害剤またはIL-33/NF-κB阻害剤添加培地で培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
図10】骨髄細胞をIL-33/DAPT添加培地で培養したときの、コロニーアッセイの結果(a)を示す。骨髄細胞をIL-33/DAPTを添加培地で10日間培養したときの、FACSで解析したPDGFRαCD45細胞数(b)と、CD45細胞数(c)を示す。
図11】血清および骨髄液中のIL-33の濃度を示す。N.D.;検出せず。
図12】5-FU投与時の実験方法の概要を(a)に示す。5-FU投与後、5、7、10、14日後に骨髄細胞を回収し解析を行った。5-FU投与後の骨髄細胞数(b)およびPDGFRαCD45TER119細胞数(c)の継時的変化を示す。
図13】マウス骨髄抑制モデルにおける、5-FU/ST2中和抗体(ST2-Ab)投与時の実験方法の概要を(a)に示す。5-FU投与後、1、3、5日後にST2-Abを投与し、7日後に骨髄細胞を回収して解析を行った。5-FU/ST2-Ab投与後の骨髄細胞数の変化(b)、5-FU/ST2-Ab投与後の骨髄細胞のコロニーアッセイの結果(c)を示す。
図14】マウス骨髄抑制モデルにおける、5-FU/IL-33投与後の骨髄細胞のコロニーアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0011】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0012】
本開示において、「細胞」は、文脈に応じて1個の細胞または複数の細胞を意味する。複数の細胞を「細胞集団」と呼ぶ場合もあり、細胞集団は、文脈に応じて一種類の細胞からなる細胞集団または複数種の細胞を含む細胞集団であり得る。
【0013】
本開示の組成物は、対象に投与され、その生体内で、細胞の増殖を促進し、または減少を抑制する。本開示において、細胞の増殖の促進には、対象における細胞数を増加することが含まれ、細胞の減少の抑制には、対象における細胞数の低下を予防すること、および細胞数の低下を低減することが含まれる。細胞の増殖または減少は、例えば、細胞マーカーを指標とするセルソーティング(FACS、MACS等)により評価することができる。
【0014】
対象としては、ヒト、および非ヒト動物、例えばマウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態において、対象はヒトである。
【0015】
ある態様において、本開示の組成物は、間葉系幹細胞の増殖を促進、または減少を抑制する。本開示において、「間葉系幹細胞」は、「間葉系間質細胞」と区別なく用いられ、「MSC」と略記される場合もある。間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系組織への分化能を有する細胞を意味する。間葉系幹細胞は、さらに上皮系組織や神経組織への分化能を有してもよい。間葉系幹細胞は、骨髄、血液、例えば末梢血または臍帯血、皮膚、脂肪、歯髄等に存在する。ある実施形態において、間葉系幹細胞は、骨髄内の間葉系幹細胞である。
【0016】
ヒト間葉系幹細胞のマーカーとしては、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、Lin陰性、CD45陰性、CD44陽性、CD90陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD105陽性、CD73陽性、CD90陽性、CD71陽性、Stro-1陽性、CD106陽性、CD166陽性、CD31陰性、CD271陽性、CD11b陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。ある実施形態では、ヒト間葉系幹細胞は、PDGFRα陽性である。ある実施形態では、ヒト間葉系幹細胞は、PDGFRα陽性且つCD45陰性である。
【0017】
マウス間葉系幹細胞のマーカーとしては、CD44陽性、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、CD45陰性、Lin陰性、Sca-1陽性、c-kit陰性、CD90陽性、CD105陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD271陽性、CD11b陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。ある実施形態では、マウス間葉系幹細胞は、PDGFRα陽性である。ある実施形態では、マウス間葉系幹細胞は、PDGFRα陽性且つCD45陰性である。
【0018】
ある実施形態において、間葉系幹細胞の増殖または減少は、PDGFRα陽性(PDGFRα)細胞、またはPDGFRα陽性且つCD45陰性の(PDGFRαCD45)細胞の変化により評価される。
【0019】
ある態様において、本開示の組成物は、骨髄細胞の増殖を促進、または減少を抑制する。本開示において、「骨髄細胞」とは、骨髄内に存在する細胞集団を意味する。骨髄細胞には、CD45を発現している細胞(本明細書中、CD45陽性細胞またはCD45細胞と記載する)と、発現していない細胞(本明細書中、CD45陰性細胞またはCD45細胞と記載する)が存在する。CD45は、間葉系幹細胞の陰性選択(ネガティブセレクション)マーカーの一つであり、CD45陰性細胞には間葉系幹細胞が含まれる。ある実施形態において、本開示の組成物は、骨髄細胞中のCD45陽性細胞および/または間葉系幹細胞の増殖を促進、または減少を抑制する。
【0020】
CD45は、白血球共通抗原としても知られている180-240kDの単鎖I型膜糖タンパク質であり、赤血球および血小板を除く造血系細胞の細胞膜上に発現するチロシンホスファターゼである。CD45は、細胞増殖、分化、細胞周期、悪性質転換等の様々な細胞プロセスを調節するシグナル伝達分子として知られている。様々な動物種におけるCD45のアミノ酸配列は公知である。
【0021】
本開示の組成物は、骨髄細胞の増殖を促進または減少を抑制することにより、骨髄抑制を治療/または予防しうる。骨髄抑制とは、骨髄の機能が低下した状態を意味し、白血球や好中球などの血球成分の減少が観察される。骨髄抑制の治療/または予防には、白血球減少症または好中球減少症の治療および/または予防が含まれる。骨髄細胞の減少または骨髄抑制は、限定はされないが、例えば、薬剤投与、放射線治療等に起因しうる。骨髄細胞の減少または骨髄抑制を生じうる薬剤としては、限定はされないが、いわゆる抗がん剤が挙げられる。抗がん剤としては、限定はされないが、メトトレキセートを含む葉酸代謝拮抗薬;クラドリビン、6-メルカプトプリン、ネララビン、ペントスタチンを含むプリンアンタゴニスト;カペシタビン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビンを含むピリミジンアンタゴニスト;インターフェロン-アルファを含む生物学的応答修飾因子;カルムスチンを含むDNAアルキル化剤;ベンダムスチン、イホスファミド、メルファラン、ダカルバジン、テモゾロミド、プロカルバジンを含むDNA架橋薬およびアルキル化剤;カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチンを含む白金錯体;ボルテゾミブを含むプロテアソーム阻害剤;タキサン(ドセタキセル、パクリタキセル(アブラキサン(登録商標))を含む)、ビンクリスチン、ビノレルビンを含む紡錘体毒;アントラサイクリン(ダウノルビシン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシンを含む)、カンプトテシン(イリノテカンを含む)、エトポシド、ミトキサントロンを含むトポイソメラーゼ阻害剤;エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、パゾパニブ、ソラフェニブ、スニチニブを含むチロシンキナーゼ阻害剤が挙げられる。
【0022】
本開示において、「CD45陽性細胞を活性化させる物質」とは、CD45陽性細胞から他の細胞へのシグナル伝達を亢進する物質を意味し、ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物などであり得る。シグナル伝達の亢進は、シグナル伝達に関する反応、例えば、p38MAPKシグナル経路における反応の増加によるものであってもよく、CD45陽性細胞の増加によるシグナル伝達の増加によるものであってもよい。即ち、CD45陽性細胞を活性化させる物質には、CD45陽性細胞を増殖させる物質が含まれる。シグナル伝達の亢進には、シグナル伝達の惹起および促進が含まれる。CD45陽性細胞を活性化させる物質として、CD45陽性細胞を増殖させる物質、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、リポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS)またはIL-33を使用し得るが、これらに限定されない。本開示において、「CD45陽性細胞を活性化させる」と「CD45陽性細胞を活性化する」は同義で用いられる。
【0023】
IL-33は、IL-1ファミリーのメンバーとして同定されたサイトカインであり、生物種により異なるが全長270残基前後のアミノ酸配列からなる核タンパク質である。IL-33は、細胞の傷害または壊死が起こると細胞外に放出され、免疫細胞を活性化してTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)および/または炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6、IFN-γ)の分泌を誘発する。全長のIL-33タンパク質も活性を有するが、全長IL-33タンパク質が生体内でプロテアーゼ(例えばカテプシンG(Accession No. P08311等)や好中球エラスターゼ(Accession No. P08246等))によって切断されて生じるC末端側のポリペプチド断片が成熟IL-33タンパク質として機能することが知られている。
【0024】
本開示において、「IL-33」は、全長IL-33タンパク質、成熟IL-33タンパク質またはそれらと機能的に同等なポリペプチドであり得る。
【0025】
本開示において、IL-33の起源となる生物種としては、ヒト、および非ヒト動物、例えばマウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
全長IL-33タンパク質とは、IL-33をコードするmRNAから翻訳された後、プロテアーゼによるプロセシングを受ける前のIL-33タンパク質を意味する。本開示において、全長IL-33タンパク質としては、全長マウスIL-33タンパク質(配列番号1、Accession No. Q8BVZ5)、全長ヒトIL-33タンパク質(配列番号4、Accession No. O95760)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
成熟IL-33タンパク質とは、全長IL-33タンパク質がプロテアーゼによるプロセシングを受けて生じることが確認または示唆されているC末端側のポリペプチドであって、生物学的活性を有するものを意味する。
【0028】
成熟IL-33タンパク質の例としては、全長マウスIL-33タンパク質の102番目から266番目のアミノ酸配列(配列番号2)からなるポリペプチド、全長マウスIL-33タンパク質の109番目から266番目のアミノ酸配列(配列番号3)からなるポリペプチド、全長ヒトIL-33タンパク質の95番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号5)からなるポリペプチド、全長ヒトIL-33タンパク質の99番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号6)からなるポリペプチド、全長ヒトIL-33タンパク質の109番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号7)からなるポリペプチド、および全長ヒトIL-33タンパク質の112番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号8)からなるポリペプチドが知られている。これらのタンパク質はいずれも、本開示の組成物等において用い得る。ある実施形態では、成熟IL-33タンパク質は配列番号3または8のアミノ酸配列を有する。
【0029】
例えば、全長マウスIL-33タンパク質の109番目から266番目のアミノ酸配列(配列番号3)からなるポリペプチドは、TNF-αの産生を誘導する活性を有することが確認されている(Bae et al, J Biol Chem. 2012 Mar 9;287(11):8205-13)。また、全長ヒトIL-33タンパク質の112番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号8)からなるポリペプチドは、全長ヒトIL-33タンパク質と同等の生物学的活性(例えばST2との結合を介したNF-κBシグナル伝達経路の活性化)を有することが知られている(Cayrol and Girard, PNAS 2009 Jun 2;106(22):9021-6)。
【0030】
全長もしくは成熟IL-33タンパク質と「機能的に同等」とは、当該タンパク質と同質の生物学的活性を有することをいい、ここにいう「同質」とは定性的評価において同じであることを意味する。本開示における全長もしくは成熟IL-33タンパク質の生物学的活性としては、例えば、p38MAPKシグナル経路の活性化、免疫細胞からのTh2サイトカインおよび/または炎症性サイトカイン分泌の誘発、ST2(IL-33の受容体)との結合を介したNF-κBシグナル伝達経路の活性化、CD45陽性細胞の活性化の促進等が挙げられる。一つの実施形態において、全長もしくは成熟IL-33タンパク質の生物学的活性は、CD45陽性細胞を活性化することである。
【0031】
例えば、IL-33は、以下のa)~g)から選択されるポリペプチドであり得る:
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個、例えば、1~10個、1~5個、1~3個または1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約70%以上、例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド。
【0032】
本開示において、アミノ酸配列または核酸配列の同一性とは、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド間の配列の一致の程度を意味し、比較対象の配列の領域にわたって最適な状態(アミノ酸またはヌクレオチドの一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一のアミノ酸またはヌクレオチドを決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸またはヌクレオチドの総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定され得る。
【0033】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983) 等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%ホルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)、および、それと同等のストリンジェンシーをもたらす条件を挙げることができる。
【0034】
全長もしくは成熟IL-33タンパク質またはそれらと機能的に同等なポリペプチドの入手方法は特に限定されず、例えば組換え発現(哺乳類細胞、酵母、大腸菌、昆虫細胞等)、無細胞系を用いた合成等によって製造できるほか、市販品を購入することも可能である。
【0035】
ある態様において、本開示の組成物は、CD45陽性細胞を含む。CD45陽性細胞は、骨髄、血液、リンパ節等に存在し、これらの組織から取得し得る。CD45陽性細胞は、通常、浮遊細胞として培養・増殖可能であるが、これに限られるものではなく、一部のCD45陽性細胞は付着性細胞として培養・増殖可能である。CD45陽性細胞を含む組織、例えば骨髄から、CD45を指標とするセルソーティング(FACS、MACS等)により、CD45陽性細胞を分離してもよい。あるいは、多能性幹細胞から分化誘導されたCD45陽性細胞、または、樹立されたCD45陽性細胞株を使用してもよい。
【0036】
ある実施形態において、本開示の組成物は、実質的にCD45陽性細胞以外の細胞を含まない。「実質的にCD45陽性細胞以外の細胞を含まない」とは、CD45陽性細胞の取得方法と通常当業者に理解される方法により得られた細胞のみを含むことを意味する。例えば、本開示の組成物において、CD45陽性細胞が、組成物に含まれる細胞の、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98または99%以上を占める。本開示の組成物に含まれる細胞の数は、限定されないが、例えば、1細胞~1×1010細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、または1×10細胞~1×10細胞である。
【0037】
ある態様において、本開示の組成物は、Notch活性化剤を含む。Notch活性化剤としては公知のものが適宜使用できる。
【0038】
本開示の組成物は、対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜決定される量で投与される。例えば、IL-33の場合、1回の投与につき、体重1kgあたり0.0000001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.00001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、これらの投与量に制限されるものではない。CD45陽性細胞の場合、1回で投与される細胞の数は、限定はされないが、例えば、1細胞~1×1010細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、または1×10細胞~1×10細胞である。また、体重1kgあたり、例えば、1細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、1×10細胞~1×10細胞、または1×10細胞~1×10細胞となるよう投与され得る。本開示の組成物は、1日1回で、または複数回(例えば2、3または4回)に分けて投与してもよく、1日または数日(例えば2、3、4、5または6日)、1週間または数週間(例えば2、3、4、5または6週間)、1ヶ月または数ヶ月(例えば2、3、4、5または6ヶ月)の間隔をあけて投与してもよい。投与を継続する期間も特に限定されず、1日または数日(例えば2、3、4、5または6日)、1週間または数週間(例えば2、3、4、5または6週間)、1ヶ月または数ヶ月(例えば2、3、4、5または6ヶ月)でありうる。
【0039】
本開示の組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、有効成分に加え、医薬上許容される担体を含んでもよい。医薬上許容される担体としては、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。例えば、医薬上許容される担体は、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などであってよい。組成物が細胞を含む場合、医薬上許容される担体は、水、培地、生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、またはD-マンニトールなどを含む等張液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などであってもよい。組成物の剤形は、限定されないが、経口または非経口投与製剤、例えば注射剤である。注射剤には、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤が含まれる。組成物は、凍結されていてもよく、DMSO、グリセロール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、アルブミン、デキストラン、スクロースなどの凍結保護剤を含んでもよい。
【0040】
本開示の組成物は、全身に、または局所的に投与されうる。投与方法としては、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、髄腔内投与などが挙げられる。ある実施形態において、本開示の組成物は、髄腔内投与される。
【0041】
本発明の例示的な実施形態を以下に記載する。

[1]
対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するための、CD45陽性細胞を活性化させる物質を含む組成物。
[2]
対象において間葉系幹細胞の減少を抑制するための、CD45陽性細胞を活性化させる物質を含む組成物。
[3]
前記間葉系幹細胞が、骨髄内の間葉系幹細胞である、第1項または第2項に記載の組成物。
[4]
前記CD45陽性細胞を活性化させる物質が、IL-33である、第1項~第3項のいずれかに記載の組成物。
[5]
前記間葉系幹細胞の減少が、抗がん剤投与に起因する、第2項~第4項のいずれかに記載の組成物。
[6]
対象において骨髄細胞の増殖を促進するための、IL-33を含む組成物。
[7]
骨髄内の間葉系幹細胞またはCD45陽性細胞の増殖を促進する、第6項に記載の組成物。
[8]
対象において骨髄細胞の減少を抑制するための、IL-33を含む組成物。
[9]
前記骨髄細胞の減少が、抗がん剤投与に起因する、第8項に記載の組成物。
[10]
対象において骨髄抑制を予防および/または治療するための、IL-33を含む組成物。
[11]
前記骨髄抑制が、抗がん剤投与に起因する、第10項に記載の組成物。
[12]
IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個、例えば、1~10個、1~5個、1~3個または1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約70%以上、例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチドからなる群から選択される、第4項~第11項のいずれかに記載の組成物。
[13]
IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約90%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、CD45陽性細胞を活性化するポリペプチド
からなる群から選択される、第4項~第12項のいずれかに記載の組成物。
[14]
IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第4項~第13項のいずれかに記載の組成物。
[15]
IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第4項~第14項のいずれかに記載の組成物。
[16]
IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第4項~第15項に記載の組成物。
[17]
IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第4項~第16項のいずれかに記載の組成物。
[18]
IL-33をコードする核酸配列が、配列番号9~16のいずれかの核酸配列を含む、第4項~第17項のいずれかに記載の組成物。
[19]
IL-33が、配列番号3または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第4項~第18項のいずれかに記載の組成物。
[20]
IL-33が、配列番号3または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第4項~第19項のいずれかに記載の組成物。
[21]
IL-33をコードする核酸配列が、配列番号11または16の核酸配列を含む、第4項~第20項のいずれかに記載の組成物。
[22]
IL-33が、配列番号3のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第4項~第21項のいずれかに記載の組成物。
[23]
IL-33が、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第4項~第22項のいずれかに記載の組成物。
[24]
IL-33をコードする核酸配列が、配列番号11の核酸配列を含む、第4項~第23項のいずれかに記載の組成物。
【0042】
[25]
対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するための、CD45陽性細胞を含む組成物。
[26]
対象において間葉系幹細胞の減少を抑制するための、CD45陽性細胞を含む組成物。
[27]
前記間葉系幹細胞が、骨髄内の間葉系幹細胞である、第25項または第26項に記載の組成物。
[28]
前記間葉系幹細胞の減少が、抗がん剤投与に起因する、第26項または第27項に記載の組成物。
[29]
実質的にCD45陽性細胞以外の細胞を含まない、第25項~第28項のいずれかに記載の組成物。
【0043】
[30]
間葉系幹細胞の増殖を促進する方法であって、CD45陽性細胞を活性化させる物質を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
[31]
間葉系幹細胞の減少を抑制する方法であって、CD45陽性細胞を活性化させる物質を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
[32]
前記CD45陽性細胞を活性化させる物質が、IL-33である、第30項または第31項に記載の方法。
[33]
骨髄細胞の増殖を促進する方法であって、IL-33を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
[34]
骨髄細胞の減少を抑制する方法であって、IL-33を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
[35]
骨髄抑制を予防および/または治療するための方法であって、IL-33を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【0044】
[36]
間葉系幹細胞の増殖を促進する方法であって、CD45陽性細胞を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
[37]
間葉系幹細胞の減少を抑制する方法であって、CD45陽性細胞を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【0045】
[38]
対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するための医薬の製造のための、CD45陽性細胞を活性化させる物質の使用。
[39]
対象において間葉系幹細胞の減少を抑制するための医薬の製造のための、CD45陽性細胞を活性化させる物質の使用。
[40]
前記CD45陽性細胞を活性化させる物質が、IL-33である、第38項または第39項に記載の使用。
[41]
対象において骨髄細胞の増殖を促進するための医薬の製造のための、IL-33の使用。
[42]
対象において骨髄細胞の減少を抑制するための医薬の製造のための、IL-33の使用。
[43]
対象において骨髄抑制を予防および/または治療するための医薬の製造のための、IL-33の使用。
【0046】
[44]
対象において間葉系幹細胞の増殖を促進するための医薬の製造のための、CD45陽性細胞の使用。
[45]
対象において間葉系幹細胞の減少を抑制するための医薬の製造のための、CD45陽性細胞の使用。
【0047】
本開示で引用するすべての文献は、出典明示により本開示の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例
【0048】
実施例1
IL-33含有培地による間葉系幹細胞の増殖促進
(1)材料および方法
C57BL/6マウス(6~7週齢、メス)から大腿骨および椎骨を切り出し、周囲に付着した他の組織を取り除いた後、乳鉢内で骨を細かく破砕し、PBS(2%FBS含有)を加えて細胞を回収した。次いで40μmナイロンメッシュに通し、細胞塊や筋組織を除去した。300gで5分間遠心し、上清を捨て、沈殿した細胞をRBC Lysis buffer(Biolegend)に懸濁し、室温で5分間反応させて赤血球を溶解(溶血)させた。RBC Lysis bufferと等量のPBS(2%FBS含有)を加えて反応を停止させた後、300gで5分間遠心した。上清を捨て、沈殿した細胞を下記の培地AまたはBに懸濁し、コラーゲンIでコートされたプラスチック製の6ウェルプレート(Corning Inc., Cat No.356400)に1×10細胞/ウェルの密度で播種して37℃、5%O、5%COの条件下で10日間培養した(培養4または5日目に一度、同じ組成の新鮮な培地に交換した)。
【0049】
・培地A(対照):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、下記培地Bに添加される成熟マウスIL-33タンパク質溶液と同容量のPBSを添加したもの)
・培地B(IL-33含有):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、成熟マウスIL-33タンパク質(配列番号3)を終濃度2ng/mLになるよう添加したもの)
培養開始10日目に培地を除去し、プレート上に付着している細胞をディフ・クイック(シスメックス)を用いて染色し、観察した。
【0050】
(2)結果
大腿骨および椎骨のいずれから採取した骨髄細胞についても、IL-33を含む培地を用いて培養することにより、プレート上にコロニーとして得られる細胞の数が著しく増大した(図1)。また、骨髄細胞の培養にコラーゲンIコーティングなしの6ウェルプレート(costar, Cat No.3516)を用いた点を除いて上記と同じ方法および条件で実験を行った場合でも、同様の結果が得られた。
【0051】
骨髄由来細胞を固相上で培養すると、間葉系幹細胞を含む付着性の細胞が固相に付着してコロニーを形成することが良く知られている。従って、当該実施例における実験結果は、IL-33存在下での培養によって間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖が促進されることを示すものである。
【0052】
実施例2
IL-33含有培地を用いて培養した骨髄由来細胞の解析
(1)材料および方法
PDGFRαプロモーターの下流にH2B-GFP融合タンパク質の遺伝子(cDNA)がノックインされたマウス(Hamilton TG, Mol Cell Biol. 2003 Jun;23(11):4013-25)から大腿骨および椎骨を切り出し、周囲に付着した他の組織を取り除いた後、乳鉢内で骨を細かく破砕し、PBS(2%FBS含有)を加えて細胞を回収した。次いで40μmナイロンメッシュに通し、細胞塊や筋組織を除去した。300gで5分間遠心し、上清を捨て、沈殿した細胞をRBC Lysis buffer(Biolegend)に懸濁し、室温で5分間反応させて赤血球を溶解(溶血)させた。RBC Lysis bufferと等量のPBS(2%FBS含有)を加えて溶血反応を停止させた後、300gで5分間遠心した。上清を捨て、沈殿した細胞を下記の培地C(対照)または培地D(IL-33含有)に懸濁し、コラーゲンIでコートされたプラスチック製の6ウェルプレート(Corning Inc., Cat No.356400)に1×10細胞/ウェルの密度で播種して37℃、5%O、5%COの条件下で8日間培養した(培養4または5日目に一度、同じ組成の新鮮な培地に交換した)。
【0053】
・培地C(対照):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、下記培地Dに添加される成熟マウスIL-33タンパク質溶液と同容量のPBSを添加したもの)
・培地D(IL-33含有):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、成熟マウスIL-33タンパク質(配列番号3)を終濃度1ng/mLになるよう添加したもの)
【0054】
培養開始8日目に、プレートに付着している細胞をトリプシン処理により剥がして回収し、間葉系幹細胞の代表的なポジティブマーカーであるPDGFRαと代表的なネガティブマーカーであるCD45の発現をFACSで解析した。
【0055】
(2)結果
大腿骨および椎骨のいずれから採取した骨髄細胞についても、IL-33を含む培地を用いて培養することにより、プレート上でコロニーを形成する付着性細胞の数が著しく増大した(図2)。また、表面マーカーの発現パターン別に細胞数を調べたところ、PDGFRαCD45細胞と、PDGFRαCD45細胞が有意に増加していた(図3および4)。IL-33存在下での培養により、間葉系幹細胞の代表的なマーカー発現パターンである「PDGFRαCD45」の付着性細胞が顕著に増えていることから、この実験結果は、IL-33の作用によって間葉系幹細胞の増殖が促進されたことを示すものと考えられる。
【0056】
実施例3
材料と方法
マウス
本実施例では、野生型マウスとしてC57BL/6jjcl(CLEA Japan)を使用した。PDGFRαGFPノックインマウスとしてB6.129S4-Pdgfratm11(EGFP)Sor (Jackson Laboratory, 007669)、GFPトランスジェニックマウスとしてC57BL/6-Tg(CAG-EGFP)1310sb/LeySopJ(Jackson Laboratory, 006567)を使用した。MyD88ノックアウトマウス(C57BL/6)(Adachi, O. et al. Targeted Disruption of the MyD88 Gene Results in Loss of IL-1- and IL-18-Mediated Function. Immunity 9, 143-150, doi:10.1016/S1074-7613(00)80596-8 (1998))はオリエンタルバイオサービスから購入した。マウスは、自動給水下に固形飼料を用いて明暗各12時間に維持された動物飼育室で飼育した。
【0057】
骨髄細胞の単離
マウスから大腿骨を採取し、2%ウシ胎児血清(FBS)を添加したPBS(PBS/2%FBS)中で、乳鉢・乳棒を用いて骨髄細胞を取り出した。細胞懸濁液は40-μM cells strainer(Falcon)に通し、骨などの凝集塊を取り除いた。遠心後、RBC lysis buffer(Biolegend)で溶血し赤血球を取り除いた。
【0058】
骨髄細胞の培養
骨髄細胞は、コラーゲン被覆6ウェルプレート(Corning Inc.)で15%FBS、1×GlutaMAXTM Supplement(Gibco, Cat No. 35050061)、1×MEM非必須アミノ酸溶液(Nacalai Tesque)、10mM HEPES緩衝液(Nacalai Tesque)、1×モノチオグリセロール溶液(Wako)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液を添加したαMEMで低酸素インキュベーターを用いて培養した。分取をせず全骨髄細胞を培養するときには、5×10個/ウェルで培養した。FACSを用いて間葉系間質細胞(MSC)を単離するときには、PDGFRα細胞を800個/ウェルで分取した。共培養実験においては、さらに骨髄細胞を5×10個/ウェル、CD45細胞を4.75×10個/ウェル、CD45細胞を2.5×10個/ウェルで分取し、MSCと共培養した。Transwell(Corning Inc.)を用いた培養時には、コラーゲン被覆6ウェルプレート上にPDGFRα細胞を800個、Transwell上に骨髄細胞を5×10個分取し培養した。IL-33(Biolegend)(配列番号3)は1ng/mlで添加し、コントロールには等量のPBSを添加した。DAPT(TCI)は終濃度1μMまたは10μMを添加し、コントロールには等量のDMSOを添加した。p38MAPK阻害剤(SB203580, AdipoGen)、NK-κB阻害剤(BAY-11-7082, Cayman Chemical)は終濃度5μMで添加し、コントロールには等量のDMSOを添加した。培地は4日毎に交換した。分取操作をしていない細胞は10日間、FACSにて分取した細胞は12日間培養し、FACSでの解析または Diff-Quick溶液(Sysmex)で染色しコロニー数の解析を行った。
【0059】
FACSによる細胞の解析、細胞分取
FACSによる細胞の解析、細胞分取は、FACSAriaTMIIIμ(BD Bioscience)またはFACSCantoTMII(BD Bioscience)を、データ解析はFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて行った。PDGFRαの発現解析にはPDGFRαGFPノックインマウスを用いた。培養細胞の解析時における培養プレートからの細胞剥離には、AccutaseTM(Nacalai Tesque)を用いた。抗体添加時には、Fc受容体への非特異な結合を阻害するため細胞懸濁液にTrustain FcXTM(Biolegend)を添加し5分間4℃でインキュベートした後、APC-結合CD45抗体(Biolegend, 103112)、PerCP/cy5.5-結合CD45抗体(Biolegend, 103132)、PerCP/cy5.5-結合TER119抗体(Biolegend, 116228)を添加し20分間4℃でインキュベートした。解析前に、死細胞を取り除くためSYTOXTM Blue Dead Cell Stain(Thermo Fisher Scientific)で染色し、FACSで解析を行った。細胞分取時には、15%FBS、1×GlutaMAXTM、1×MEM非必須アミノ酸溶液、10mM HEPES緩衝液、1×モノチオグリセロール溶液、1%ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液を添加したαMEMへ分取した。
【0060】
ELISA
末梢血はマウスの心臓から採血し、キャピジェクト(Terumo Corporation)をマニュアルに従って使用し血清を回収した。サンプルは使用時まで-80℃で保存した。骨髄液は、骨を20ゲージの針で穴をあけた0.6mlマイクロチューブ上で砕き、下に1.5mlマイクロチューブを置いた状態で遠心し(1000g、5分間)、1.5mlマイクロチューブに回収できた骨髄液を回収した。さらに、PBSで骨髄液を1/100希釈後再び遠心し(20,000g、5分間)、上清のみを回収して細胞を取り除いた。サンプルは使用時まで-80度で保存した。IL-33の定量には、Mouse IL-33 DuoSet ELISA(R&D Systems)をマニュアルに従って使用し、450nmの吸光度をTriStar 2 LB 942 Multimode Readerで測定した。
【0061】
インビボ実験
5-フルオロウラシル(5-FU)投与時には、5-FU(Kyowa Hakko Kirin Co.)をPBSで希釈し、150mg/kgでマウスに腹腔内投与した。IL-33シグナル経路の阻害には、5-FU投与後1、3、5日目に50μg/ショット Ultra-LEAFTM Purified anti-mouse IL-33Rα(ST2) Antibody(Biolegend)を腹腔内投与した。コントロールには、等量のUltra-LEAFTM Purified Rat IgG1, κIsotype Ctrl Antibody(Biolegend)を腹腔内投与した。IL-33の投与では、マウス(n=6)に5-FUを投与し、5-FU投与から1、3、5日目に、3匹のマウス(n=3)に、IL-33(Recombinant Mouse IL-33、BioLegend)1μgを100μlのPBSで希釈したものを腹腔内投与し、比較のため、別の3匹のマウス(n=3)に、IL-33を含まないPBS100μlを腹腔内投与した。
【0062】
そして、5-FU投与後7日目に、各マウスから大腿骨を採取し、各マウス毎に細胞培養を行った。具体的には、乳鉢に1ml PBS(2%FBS)を入れた後、採取した大腿骨を乳鉢に投入して、すりつぶした。続いて、乳鉢上で乳棒を2ml PBS(2%FBS)で洗浄してから、乳鉢内で十分ピペッティングし、得られた懸濁液をメッシュサイズ40μmのセルストレーナー(cellstrainer)を用いてろ過し、ろ液をチューブに回収した。乳鉢に2ml PBS(2%FBS)を入れ、よくピペッティングし、同様にセルストレーナーを介してろ過し、更に、骨をセルストレーナー上へ移して、5ml PBS(2%FBS)で骨とセルストレーナーを洗浄すると共にろ液を回収した。チューブに貯留されたろ液を、遠心分離(300g、4℃、5分間)してから、沈殿物に溶血試薬(1xRBC lysis buffer)を加えて、室温で5分間、溶血処理を行った。そして、等量のPBS(2%FBS)を加えた後、遠心操作によって沈殿した細胞を回収した。回収した細胞を10ml PBS(2%FBS)で洗浄し、細胞数をTC20 Automated cell counter(BioRad)によってカウントした。2×10個の細胞を取り出し、1mlのaMEM(2%FBS、SIGMA)で懸濁した後、遠心操作にて細胞を回収した。回収した細胞を3mlの培地で懸濁し、2×10個の全細胞をプレート(Collagen coated 6-well dish、Corning)に播種した。細胞を播種したプレートを37℃、5%O、5%COの条件下で10日間培養した。発生したコロニーの数を集計した。
【0063】
実施例3-1:IL-33は骨髄MSCのコロニー形成活性を増強する
PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄細胞を5×10細胞ずつ6ウェルプレートに播種し、10日間IL-33添加培地で培養した細胞をフローサイトメトリー(FACS)により解析したところ、IL-33添加による有意な骨髄細胞の増加が確認できた(図5a)。MSCは幹細胞マーカーであるPDGFRαを発現し、血球系のマーカーであるCD45を発現しないことが知られるため、本実施例においてはPDGFRαCD45細胞をMSC分画とした。FACSにより、IL-33がMSCを有意に増加させることが明らかになった(図5b)。また同時に、IL-33はMSCのみでなくCD45細胞も有意に増加させており、IL-33は骨髄内の複数の細胞集団に作用している可能性が示唆された(図5c)。骨髄MSCは、培養において線維芽細胞様のコロニーを形成するため、線維芽細胞様コロニー形成単位(Colony forming unit-fibroblast; CFU-F)を測定することによりMSCの存在率、増殖率を評価できる。IL-33添加培地で10日間培養後にコロニーアッセイを施行したところ、IL-33添加によりコロニー数が約7倍有意に増加し(図5d)、IL-33が骨髄CFU-F活性を増強することが明らかとなった。即ち、IL-33は骨髄内MSCのコロニー形成活性を増強することが示された。
【0064】
実施例3-2:IL-33はCD45 細胞とMSCの細胞間接触を介して骨髄MSCのCFU-F活性を増強する
IL-33による骨髄MSCのCFU-F活性増強メカニズムを検討した。IL-33が直接MSCに作用しMSCのCFU-F活性を増強させるか、あるいは他の細胞のシグナルを介しているのかを検討した。PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄細胞から、FACSによりMSC(PDGFRα細胞)を分取し、IL-33添加培地で培養した。しかし、MSC単独の培養条件下では、IL-33によってCFU-F活性は変化しなかった(図6)。このことから、IL-33による骨髄MSCのCFU-F活性増強は、骨髄中に存在するMSC以外の細胞によって間接的に制御されている可能性が示唆された。
【0065】
IL-33による骨髄MSCのCFU-F活性増強がMSCと骨髄細胞の細胞間接触に依存しているか調べた。Transwellを用いることで骨髄細胞とMSCを培地は共有するが細胞同士の接触は起こらない培養条件を作り出し、CFU-F活性を調査した。MSCと骨髄細胞を共培養(Co-culture)するとIL-33によりCFU-F活性が増加したが、MSCと骨髄細胞の細胞間接触を抑制した条件下(Transwell)ではIL-33によるCFU-F活性に変化は見られず、IL-33によるMSCのCFU-F活性増強には細胞間接触が必須であることが示された(図7a)。なお、図示を省略しているが、IL-33存在下で骨髄細胞を培養すると、液性因子としてCCL2、CCL22、オステオポンチンの分泌が促進されることが明らかとなったため、これらの物質を、それぞれ培地に添加して骨髄細胞を培養したところ、いずれの物質の添加によってもCFU-F活性は変化しなかった。
【0066】
さらに骨髄中に存在するどの細胞との接触がMSCのCFU-F活性を増強させるのか検討した。IL-33は骨髄中のCD45陽性(CD45)細胞を増加させることから(図5c)、CD45陽性細胞との細胞間接触が必要なのではないかと予想し、CD45陽性細胞とCD45陰性(CD45)細胞をそれぞれFACSにより分取し、IL-33存在下でMSCと共培養した。CD45細胞にはPDGFRα細胞が含まれたが、無視できる量であった。CD45細胞との共培養でのみCFU-F活性の増強が確認でき、IL-33によるMSCのCFU-F活性増強はCD45細胞との細胞間接触によって誘導されることが示された(図7b)。
【0067】
実施例3-3:IL-33による骨髄MSCのCFU-F活性増強はMyD88シグナル経路依存的である
IL-33による骨髄MSCのCFU-F活性増強の分子メカニズムをさらに詳細に検討した。IL-33が細胞膜受容体であるST2/IL-1受容体アクセサリータンパク質(IL-1RAP)複合体に結合すると、この受容体にアダプタータンパク質であるミエロイド系分化因子(Myeloid differentiation primary response)88(MyD88)が誘導される。MyD88はNF-κB、p38、ERKやJNKの活性化を介して、目的遺伝子の活性を制御することが知られている。そこで、IL-33による骨髄MSCのCFU-F活性増強におけるMyD88シグナル経路の影響を調べるために、MyD88ノックアウト(KO)マウス大腿骨から調製した骨髄細胞をIL-33添加培地で培養した。MyD88KOマウスの骨髄細胞ではIL-33添加によるCFU-F活性に変化は認められず、IL-33によるMSCのCFU-F活性増強にはMyD88シグナル経路が必須であるがことが示された(図8a)。さらに、MyD88KOマウスの骨髄細胞では、IL-33によるCD45細胞の増加も認められず(図8b)、IL-33によるCFU-F活性増強はCD45細胞におけるMyD88シグナル経路に依存する可能性が示唆された。
【0068】
さらに、MyD88の下流で働くことが知られるp38MAPK経路やNF-κB経路の関与を検討した。PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄細胞において、DMSO添加コントロール群とNF-κB阻害剤(BAY-11-7082)添加群ではIL-33によるCFU-F活性の増強が見られたが、p38MAPK阻害剤(SB203580)添加群ではIL-33によるCFU-F活性の変化は認められなかった(図9)。これらの結果によりIL-33によるMSCのCFU-F活性増強は、MyD88シグナル経路依存的であり、さらにp38MAPK経路を介することが明らかになった。
【0069】
IL-33によってMyD88シグナル経路依存的に活性化されたCD45細胞が、MSCのCFU-F活性増強を誘導する分子メカニズムを検討すべく、MSCの増殖や維持において重要であることが報告されているNotchシグナル経路の影響を調べた。具体的には、PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄細胞において、Notchシグナル経路の一部であるγ-セクレターゼを阻害するDAPT((3,5-ジフルオロフェニルアセチル)-L-アラニル-L-2-フェニルグリシンtert-ブチルエステル)を用い、IL-33添加によるMSC増殖に与えるDAPTの影響を検討した。DAPT存在下ではIL-33によるCFU-F活性の増強が抑制された(図10a)。さらにDAPT/IL-33添加培地で培養した骨髄細胞をFACSで解析すると、DAPTの濃度依存的にMSC数が減少した(図10b)。一方で、DAPT/IL-33添加によってもCD45細胞数の増加は抑制されなかった(図10c)。
【0070】
実施例3-4:IL-33は生体内において骨髄細胞の恒常性維持に関与する
生体内におけるIL-33の機能、役割を検討した。まず末梢血、骨髄液中のIL-33の濃度をELISAにより測定した(図11)。その結果、骨髄液には末梢血と比較して著しく高濃度でIL-33が含まれていることが明らかとなり、IL-33が生体骨髄内でも機能していることが示唆された。そこで、抗癌剤である5-FUによって誘導される可逆的なマウス骨髄抑制モデルを用いて、IL-33による骨髄細胞の増殖(回復)に対する影響を検討した(図12a)。5-FU投与後5日目に骨髄細胞が急激に減少し、その後14日目には骨髄細胞数が正常時のレベルに回復することを確認し、骨髄抑制モデルが作製できたことを確認した(図12b)。骨髄MSCを含むPDGFRαCD45TER119細胞(Morikawa, S. et al. Prospective identification, isolation, and systemic transplantation of multipotent mesenchymal stem cells in murine bone marrow. Journal of Experimental Medicine 206, 2483-2496, doi:10.1084/jem.20091046 (2009))は5-FU投与後減少したが、10日後には回復した(図12c)。
【0071】
骨髄抑制回復におけるIL-33の関与を調べるため、5-FU投与後1、3、5日目にIL-33受容体であるST2の中和抗体(ST2-Ab)を投与した(図13a)。5-FU投与後7日目において、ST2-Ab投与群ではコントロール群に比べて骨髄細胞数の減少傾向がみられ、IL-33シグナル経路は骨髄抑制の回復に寄与している可能性が示された(図13b)。さらに5-FU/ST2-Ab投与後の骨髄細胞を培養したところST2-Ab投与群においてCFU-F活性の低下が示されたことから(図13c)、IL-33シグナルが骨髄抑制時のMSC機能の回復に重要であることが明らかとなった。
【0072】
さらに、骨髄抑制回復におけるIL-33の効果を調べた。マウス(n=6)に5-FUを投与し、投与後1、3、5日目に、3匹のマウス(n=3)にIL-33を含むPBSを投与し、比較のため、別の3匹のマウス(n=3)にIL-33を含まないPBSを投与した。5-FU投与後7日目に採取した骨髄細胞を培養し、CFU-F活性を測定した。結果を図14に示す。CFU-F活性はIL-33投与群において高かった。この結果は、IL-33が骨髄抑制時のMSC機能を回復すること、また、骨髄抑制の治療または予防に有効であることを示す。
図1
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【配列表】
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