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  • 特許-ゴムクローラ走行装置に用いる転輪 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ゴムクローラ走行装置に用いる転輪
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/14 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
B62D55/14 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019116146
(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公開番号】P2021000934
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391038224
【氏名又は名称】株式会社タグチ工業
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】川崎 翔大
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康弘
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-105488(JP,A)
【文献】特開昭56-159156(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015003999(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪及び遊動輪に掛け回されたゴムクローラに内接させるゴムクローラ走行装置の転輪において、
ゴムクローラのガイド突起を挟む左右のフランジ部を有する合成樹脂製の転輪基体と、前記フランジ部に装着された保護リングとから構成され、
転輪基体は、フランジ部に挟まれた中間部分である本体部分が回転軸孔と同心に繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板が巻かれ、フランジ部が前記本体部分の繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板を曲げ, 繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板をフランジ部の外周面に被せた状態で形成され、前記繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板の表面に保護リングを装着させて形成される繊維強化された合成樹脂製である
ことを特徴とするゴムクローラ走行装置の転輪。
【請求項2】
保護リングは、ゴム製である請求項1記載のゴムクローラ走行装置の転輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や作業車両のゴムクローラ走行装置に用いる転輪に関する。
【背景技術】
【0002】
不整地で移動する建設機械や作業車両は、移動手段としてゴムクローラ走行装置が用いられる。ゴムクローラ走行装置は、駆動輪及び遊動輪に掛け回されたゴムクローラに、前記駆動輪及び遊動輪の間に配置された転輪を内接させて構成される。転輪は、ゴムクローラを接地させる下部転輪や、周回するゴムクローラの弛みを抑える上部転輪がある。金属クローラに用いられる転輪は、安価に多数用意できるように、鋳造による金属製が多い。しかし、ゴムクローラに用いられる転輪は、軽量化を目的として、合成樹脂製が用いられることもある(特許文献1)。
【0003】
特許文献1が開示する転輪(「調節転輪」とあることから、実際は遊動輪と思われる)は、合成樹脂製で、可動枠側に対応する側面の補強リブをなくして平面とし、残る他側面に補強リブを設けている(特許文献1・実用新案登録請求の範囲)。これにより、ゴムクローラ(無限軌道帯)に連れて運ばれてくる小石等が補強リブに噛み込んで、転輪だけでなく、ゴムクローラや可動枠等の破損する事態をなくすことができるとされている(特許文献2・第4頁17行~第5頁3行)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実全昭53-076433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転輪の軽量化には、合成樹脂製の転輪が望ましいが、特許文献2も指摘しているように、ゴムクローラと転輪との間に小石等を噛み込むことによる転輪の破損が問題となる。また、前記小石等の噛み込みを除いても、周回するゴムクローラと長期にわたり擦れ合うことで、合成樹脂製の転輪の磨耗が避け難いと考えられる。そこで、軽量化のため、転輪を合成樹脂製としつつ、ゴムクローラと転輪との間に小石等を噛み込むことによる転輪の破損を回避しつつ、更に転輪の摩耗による劣化を防止するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検討の結果開発したものが、駆動輪及び遊動輪に掛け回されたゴムクローラに内接させるゴムクローラ走行装置の転輪において、ゴムクローラのガイド突起を挟む左右のフランジ部を有する合成樹脂製の転輪基体と、前記フランジ部に装着された保護リングとから構成されることを特徴とするゴムクローラ走行装置の転輪である。本発明の転輪は、転輪基体を合成樹脂製として軽量化を図りながら、転輪基体が小石等を噛み込んだり、ゴムクローラと擦れ合うことで摩耗したりするフランジ部を、保護リングにより保護する。
【0007】
保護リングは、フランジ部に装着する手段を問わず、フランジ部に対する装着状態が保持できればよく、転写関係にある嵌合構造による装着や、接着又は融着による装着を例示できる。また、保護リングは、転輪基体に代わって小石やゴムクローラに接触する部位であればよく、素材を問わず、金属製、セラミックス製、合成樹脂製、ゴム製が考えられる。金属製やセラミックス製の保護リングは、転輪の軽量化を鑑み、中空が好ましい。合成樹脂製やゴム製の保護リングは、耐摩耗性を有するが、転輪基体に代わって摩耗するので、例えば表面に耐摩耗皮膜を形成しせたり、交換可能にしたりできれば好ましい。
【0008】
転輪基体は、繊維強化された合成樹脂製とすれば、構造強度が高められる。合成樹脂は、熱硬化性樹脂としてポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等や、熱可塑性樹脂としてポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルテフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等を例示できる。繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー等の短繊維又は長繊維を例示され、均一に分散させて合成樹脂に混ぜ合わせたり、繊維の方向性を揃えて合成樹脂を浸潤させたりする。
【0009】
転輪基体は、繊維強化樹脂シート(プリプレグ)又は繊維強化樹脂板を回転軸の延在方向に積層して固めることにより形成される繊維強化された合成樹脂製であると、繊維の方向性を揃えることができて、好ましい。繊維の方向性は、フランジ部の張り出し方向と平行に揃えるとよい。この場合、フランジ部は、繊維の層が積層された構造を有し、前記繊維の層が互いに分離する(層間剥離する)可能性がある。フランジ部に接着又は融着された保護リングは、方向性をもって繊維を合成樹脂に浸潤させて成形された転輪基体において、フランジ部を構成する繊維の層が層間剥離することを防止する働きもある。
【0010】
転輪基体は、繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板をフランジ部の外周面に被せた状態で形成され、前記繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板の表面に保護リングを嵌着させると、フランジ部の一体性が強化される。繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板は、1枚又は数枚を重ねて用いる。転輪基体が繊維の方向性をフランジ部の張り出し方向と平行に揃えた構成の場合、フランジ部における繊維の層の層間剥離が、フランジ部の外周面に被せた繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板により防止される。また、フランジ部の外周面に被せた繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板がフランジ部の側面にまで被さると、前記側面の摩耗が防止される。
【0011】
保護リングは、フランジ部を保護できれば、素材及び構成を問わない。しかし、保護リングは、ゴム製であると、保護リングの弾性変形により転輪に加わる衝撃を吸収できる。ゴムは、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタンジエンゴム(BR)、ウレタンゴム等の硬質ゴムが例示できる。これら硬質ゴムは、自動車のタイヤに利用されており、入手が容易で、安価である。ゴム製の保護リングの弾性変形を抑制したい場合、ゴムの硬度を調整するほか、上述した各種繊維を混入させるとよい。この場合、繊維の方向性をフランジ部の張り出し方向と平行に揃えておくと、弾性変形が前記張り出し方向の直交方向に抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のクローラ走行装置に用いる転輪は、転輪の軽量化と破損又は摩耗による劣化の防止とを両立させる効果がある。転輪の軽量化は、転輪基体を合成樹脂製としたことによる効果である。そして、合成樹脂製の転輪の破損又は摩耗による劣化の抑制又は防止は、前記転輪基体のフランジ部に装着した保護リングの耐摩耗性による効果である。この保護リングの耐摩耗性による効果があることから、繊維強化された合成樹脂製の転輪基体を用いると、転輪の構造強度を向上させながら、転輪の軽量化と破損又は摩耗による劣化の防止とを両立させることができる。
【0013】
フランジ部の外周面に被せた繊維強化樹脂シート又は繊維強化樹脂板等は、フランジ部の一体性を高める効果がある。フランジ部の一体性を高める効果は、特に繊維強化された合成樹脂製の転輪基体において、繊維の層がフランジ部の張り出し方向に揃えた場合、前記繊維の層の層間剥離が防止する働き、すなわち耐剥離性を実現する。これにより、転輪基体のフランジ部の耐久性が向上、ひいては転輪自体の耐久性を向上させることができる。
【0014】
ゴム製の保護リングは、耐摩耗性に優れ、弾性変形による衝撃吸収性も得られることから、転輪基体の破損や摩耗をよりよく防止する効果をもたらす。また、ゴム製の保護リングは、合成樹脂製又は繊維強化された合成樹脂製とした転輪基体と密度がほぼ同じであり、仮に半径方向の厚みを増やしても、転輪の重量増加を招くことがなく、合成樹脂製として転輪基体の軽量化の効果を妨げない利点がある。このほか、ゴム製の保護リングは、転輪基体と同時に成形でき、初めから転輪基体のフランジ部に装着した状態にできる利点があり、製造コスト等の低減といった副次的効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の転輪を用いた建設機械の一例を表す側面図である。
図2】本例のゴムクローラ走行装置を抜粋して表した斜視図である。
図3】本例の転輪の斜視図である。
図4】本例の転輪の断面図である。
図5図4中A矢視部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明の転輪3は、例えば図1に見られるように、小型の建設機械1に多用されるゴムクローラ走行装置2に用いられる。本例のゴムクローラ走行装置2は、前方の誘導輪23と後方の駆動輪22とにゴムクローラ21を掛け回し、支持フレーム24に支持される回転軸241に軸着させた3基の転輪3により、前記ゴムクローラ21の下の周回面を接地させる構成である。
【0017】
転輪3は、図2(説明の便宜上、駆動輪22、誘導輪23及び支持フレーム24を図示略)に見られるように、従来同様、ゴムクローラ21の内周面に左右一対で設けられたフランジ状のガイド突起211を、左右一対のフランジ部33に挟んで回転し、ゴムクローラ21の周回軌道を整える。本例の転輪3は、下部転輪であるが、上部転輪にも適用される。また、本例の転輪3は、3基であるが、もっと多数が配置されることもある。本発明の転輪3は、軽量化されているので、設置基数が増えると軽量化の効果が増す。
【0018】
本例の転輪3は、図3及び図4に見られるように、ゴムクローラ21のガイド突起211を挟む左右のフランジ部33を有する転輪基体31と、前記フランジ部33に装着された保護リング32とから構成される。転輪基体31は、左右のフランジ部33を含めて左右に貫通する回転軸孔313を有し、前記回転軸孔313に回転軸241を挿通して、回転自在な状態で支持フレーム24に軸着される(図1参照)。保護リング32は、フランジ部33の外周面331に被せた繊維強化樹脂シート312の表面に、接着されている。
【0019】
本例の転輪基体31は、繊維強化樹脂シート311を積層して構成されている(図4中、各繊維強化樹脂シート311の繊維の層の向きを太線で図示している)。転輪基体31の本体部分(フランジ部33に挟まれた中間部分)は、回転軸孔313と同心に繊維強化樹脂シート311が巻かれている。フランジ部33は、前記本体部分の繊維強化樹脂シート311を曲げると共に、別途繊維強化樹脂シート312を外周面331に重ねて、繊維の方向性をフランジ部33の張り出し方向と平行に揃えている。
【0020】
繊維強化樹脂シート311が、例えばカーボン繊維に、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含浸させたカーボンプリプレグの場合、転輪基体31は、上述した繊維の層の方向にカーボンプリプレグを揃えて重ね、カーボンプリプレグ相互を接着した上で加熱して固化し、構成する。繊維強化樹脂シート311により構成される転輪基体31は、本例のプリプレグ成形のほか、RTM成形、スタンピング成形、射出成形等、既存の各種成形方法を用いて構成したり、樹脂が熱可塑性であれば、加熱状態で一体化した後、冷却して固化して成形したりすることができる。
【0021】
本例の転輪基体31は、フランジ部33の側面を跨いで外周面331に繊維強化樹脂シート312を被せ、前記繊維強化樹脂シート312の表面に保護リング32の内周面321を接着している。繊維強化樹脂シート312は、フランジ部33の側面を保護するほか、フランジ部33を構成する繊維の層を束ね、層間剥離を防止する。繊維強化樹脂シート312は、転輪基体31を製造した後、接着によりフランジ部33に取り付けてもよいし、転輪基体31の製造に際して、転輪基体31を構成する繊維強化樹脂シート311と共に積層して、フランジ部33に取り付けてもよい。
【0022】
保護リング32は、フランジ部33を保護できれば材質が限定されないが、本例の場合、エステル系又はエーテル系のウレタンゴム製である。ウレタンゴムは、耐摩耗性、耐薬品性、耐油性に優れているほか、機械的強度や耐荷重性が大きいほか、高弾性でエネルギー吸収性が高い利点があり、保護リング32に好適である。ウレタンゴム製の保護リング32は、弾性変形を抑制したり、弾性変形に方向性を与えたりしたい場合、カーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー等の短繊維又は長繊維や、カーボンブラック、シリカ、ナノクレイ等の粒子を適量混合させるとよい。
【0023】
本例の保護リング32の内周面321や、繊維強化樹脂シート312を被せるフランジ部33の外周面331は、いずれも平坦面である。保護リング32は、フランジ部33の外周面331(本例は外周面331に被せた繊維強化樹脂シート312の表面)に接着されることにより、フランジ部33を構成する繊維強化樹脂シート311の繊維の層の層間剥離を防止している。このことから、保護リング32の内周面321やフランジ部33の外周面331は、接着できれば面形状を問わない。しかし、接着強度を高める観点から、例えば内周面321や外周面331を転写構造の湾曲面として、前記内周面321及び外周面331(本例は外周面331に被せた繊維強化樹脂シート312の表面)の接着面積を大きくしてもよい。
【0024】
ゴム製の保護リング32は、図5に見られるように、例えばゴムクローラ21から転輪3に加えられる負荷F1により左右方向へわずかに膨らむ弾性変形をして、転輪基体31(特にフランジ部33)に加わる負荷F2を小さくし、結果として転輪基体31の摩耗を抑制又は低減する。また、ゴム製の保護リング32は、繊維強化すると弾性変形が抑制できるほか、耐熱性、放熱性、耐摩耗性を向上させることができる。耐熱性及び放熱性は、ゴム製の保護リング32の寿命を長くする。
【符号の説明】
【0025】
1 建設機械
2 ゴムクローラ走行装置
21 ゴムクローラ
211 ガイド突起
22 駆動輪
23 誘導輪
24 支持フレーム
241 回転軸
3 転輪
31 転輪基体
311 転輪基体を構成する繊維強化樹脂シート
312 フランジ部の外周面に被せた繊維強化樹脂シート
313 回転軸孔
32 保護リング
321 内周面
33 フランジ部
331 外周面
F1 転輪に加わる負荷
F2 転輪基体に加わる負荷

図1
図2
図3
図4
図5