(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】珪化バリウム系膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20230630BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C23C14/06 E
C01B33/06
(21)【出願番号】P 2019133708
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(72)【発明者】
【氏名】末益 崇
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044326(JP,A)
【文献】特開2016-008316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C01B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量が1×10
18atms/cm
3以上5×10
22atms/cm
3以下であることを特徴とする珪化バリウム系膜。
【請求項2】
ラマンスペクトルにおいて、A
gピークに対するSi
TOフォノンのピーク強度比が10%未満である請求項1に記載の珪化バリウム系膜。
【請求項3】
酸素含有量が0.01atm%以上10atm%以下である請求項1又は2に記載の珪化バリウム系膜。
【請求項4】
水素含有量が1×10
18atms/cm
3以上1×10
21atms/cm
3以下ある請求項1~3のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜。
【請求項5】
XRD回折試験において斜方晶帰属するピークのみで構成される結晶構造を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜の製造方法であり、スパッタリング法により炭素の存在下に成膜する
珪化バリウム系膜の製造方法。
【請求項7】
珪化バリウム系のスパッタリングターゲット及び炭素を含むスパッタリングターゲットを併用する請求項6に記載の珪化バリウム系膜の製造方法。
【請求項8】
スパッタリング成膜時のガス圧が0.5Pa以上1.0Pa以下である請求項6又は7に記載の珪化バリウム系膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜とシリコン層とが積層されてなる珪化バリウム系積層膜。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜と基板とが積層されてなる珪化バリウム系膜を有する積層基板。
【請求項11】
前記基板がシリコン、アルカリフリーガラス、石英ガラス、ゲルマニウム、又はサファイアである請求項10に記載の積層基板。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の積層基板を用いる素子。
【請求項13】
請求項12に記載の素子を用いる電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光感度に優れた珪化バリウム系膜、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンを含有するワイドバンドギャップ半導体は、非常に特異的な特性を示すため、太陽電池材料や熱電変換材料等の環境・エネルギー分野で広く利用されている。
なかでも、バリウム(Ba)とシリコン(Si)からなる珪化バリウム系化合物は、BaSi2組成でバンドギャップが1.3eVであり、Siの1.1eVよりも大きく、注目されている(非特許文献1)。さらにSrを添加することでバンドギャップを1.4eVまで大きく調整することが可能である(特許文献1)。
珪化バリウム系化合物の使用形態としては、膜として使用することが有効であり、特許文献2にはn型とn+型珪化バリウム膜を積層した太陽電池がその例として挙げられている。
【0003】
このような珪化バリウム系膜の製造方法としては、MBE法(分子線エピタキシー法)により、シリコン(111)基板上に成膜する方法が知られている。この成膜方法によれば、各元素の組成を制御した成膜が可能であるが、未だ性能において更なる改善が必要であり、また、大面積への均一成膜が困難であり、工業的な量産には課題がある。そのため、大面積への均一成膜や各元素の精密制御が可能であり、かつ成膜速度が速いスパッタリング法での成膜技術が要求されている。
【0004】
スパッタリング法に関して、本発明者らは、特許文献3に高密度で割れのない珪化バリウム多結晶体及びそれを用いたスパッタリングターゲットを開示しているが、珪化バリウム系膜に関する検討は少なく、非特許文献2に挙げられるものもあるが、更なる太陽電池などの特性向上に関する検討は進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-294810号公報
【文献】特開2008-66719号公報
【文献】特開2012-214828号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Japanese Journal of Applied Physics Vol.49 04DP05-01-04DP05-05(2010)
【文献】Applied Physics Express 11 071401(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、分光感度に優れた珪化バリウム系膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような背景に鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、分光感度に優れた珪化バリウム系膜、及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の態様は以下の通りである。
(1)炭素含有量が1×1018atms/cm3以上5×1022atms/cm3以下であることを特徴とする珪化バリウム系膜。
(2)ラマンスペクトルにおいて、Agピークに対するSiTOフォノンのピーク強度比が10%未満である上記(1)に記載の珪化バリウム系膜
(3)酸素含有量が0.01atm%以上10atm%以下である上記(1)又は(2)に記載の珪化バリウム系膜。
【0009】
(4)水素含有量が1×1018atms/cm3以上1×1021atms/cm3以下ある上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜。
(5)XRD回折試験において斜方晶帰属するピークのみで構成される結晶構造を有する上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜の製造方法であり、スパッタリング法により炭素の存在下に成膜するバリウム系膜の製造方法。
(7)珪化バリウム系のスパッタリングターゲット及び炭素を含むスパッタリングターゲットを併用する上記(6)に記載の珪化バリウム系膜の製造方法。
(8)スパッタリング成膜時のガス圧が0.5Pa以上1.0Pa以下である上記(6)又は(7)に記載の珪化バリウム系膜。
【0010】
(9)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜と基板とが積層されてなる珪化バリウム系膜を有する積層基板。
(10)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の珪化バリウム系膜と基板とが積層されてなる珪化バリウム系膜を有する積層基板。
(11)前記基板がシリコン、アルカリフリーガラス、石英ガラス、ゲルマニウム、又はサファイアである上記(10)に記載の積層基板。
(12)上記(10)又は(11)に記載の積層基板を用いる素子。
(13)上記(12)に記載の素子を用いる電子機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、太陽電池の吸収層に適した分光感度に優れた珪化バリウム系膜、及びその効率的な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1,2及び比較例1で用いた2元同時スパッタリング装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の珪化バリウム系膜は炭素含有量が1×1018atms/cm3以上5×1022atms/cm3以下であり、好ましくは5×1018atms/cm3以上1×1022atms/cm3以下であり、更に好ましくは5×1019atms/cm3以上8×1021atms/cm3以下である。
【0014】
この範囲に炭素を含有することで、珪化バリウム系膜の結晶欠陥から生じる分光特性を大きく改善することができる。多量に炭素を含有すると結晶欠陥以外の部分に干渉し、膜の結晶性を悪化させ、膜の分光特性が悪化する。また、炭素含有量が少ないことで膜中に存在する格子欠陥に起因する分光感度の低下が発生する。
【0015】
本発明における膜珪化バリウム系膜中の炭素含有量は、SIMS(二次イオン質量分析法)により測定を行うことで求めることができる。炭素含有量は、膜厚300nmにおいて、膜の基板側と反対側から100nm厚の表層を除いた、厚さ200~300nmの間の層中に存在する炭素量と定義する。表層は表面酸化や、凹凸の影響を受けるため膜本体の炭素量を表していると必ずしも言えないためである。
【0016】
本発明の珪化バリウム系膜は多結晶膜であることが好ましい。多結晶膜とすることにより、単結晶と比較して膜の強度、膜内の分光特性の分布の低減などの膜特性の安定性が向上する。
本発明の珪化バリウム系膜はラマンスペクトルにおいて、Agピークに対するSiTOフォノンのピーク強度比が10%未満であることが好ましく、更に好ましくは2%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。ラマンスペクトルにおいて、SiTOフォノンを示すということは、珪化バリウムとして合金化していない独立元素として存在していることを表している。これは特に結晶欠陥が発生した際に起きると推測され、SiTOフォノンのピークが存在することで分光感度に悪影響を与えている。この原因であるSiTOフォノンを低減することで結晶欠陥を低減し、分光特性を向上させることができる。
【0017】
本発明の珪化バリウム系膜は、珪素とバリウムの原子量比Si/Baが1.8以上2.1以下であることが好ましく、特に好ましくは1.9以上2.0以下である。
さらに、珪化バリウム系膜は、酸素含有量が10atm%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5atm%以下であり、さらに好ましくは3atm%以下である。酸素を導入することで結晶欠陥の影響が低減するが、酸素が多く存在すると、膜中の酸素と水素が反応し、水分として珪化バリウム膜中に存在することで珪化バリウムが珪酸化物に変化し、膜特性が悪化する。酸素含有量は、0.01atm%以上であることが好ましく、更に好ましくは0.1atm%以上である。上記範囲に酸素量を調整することで、結晶性を維持しつつ好ましいバンドギャップにすることが可能となる。
【0018】
本発明における珪化バリウム系膜中の酸素含有量の測定は、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)を使用して測定することができる。さらに精度が必要な場合はSIMSを用いて測定し、atm%に換算する。酸素含有量は、膜厚300nmにおいて、膜の表層50nm厚の層を除いた、50nm以上300nm以下の間の層中に存在する酸素量と定義する。
【0019】
本発明の珪化バリウム系膜は、水素含有量が1×1018atms/cm3以上1×1021atms/cm3以下あることが好ましく、更に好ましくは3×1018atms/cm3以上1×1020atms/cm3以下、特に好ましくは5×1018atms/cm3以上5×1019atms/cm3以下である。
この範囲に水素を含有することで、珪化バリウム系膜の結晶欠陥から生じる分光特性を改善することができる。多量に水素を含有すると結晶欠陥以外の部分に干渉し、膜の結晶性を悪化させ、膜の分光特性が悪化する。また、水素含有量が少ないことで膜中に存在する格子欠陥に起因する分光感度の低下が発生する。
【0020】
本発明における珪化バリウム系膜中の水素含有量は、SIMS(二次イオン質量分析法)により測定を行うことで求めることができる。測定では、200nmの膜厚の場合、膜の基板側と反対側から100nm厚の表層を除いた、厚さ100~200nmの間の層中に存在する水素量を求める。なお、本発明の珪化バリウム系膜においては、炭素、水素及び酸素以外のマグネシム、カルシウム、ストロンチウム等の微量の不純物を含有しても良い。
【0021】
本発明の珪化バリウム系膜はXRD回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属されるピークのみで構成されていることが好ましい。このような結晶相を有する珪化バリウム系膜とすることにより、膜特性に優れ、安定性の高い膜を得ることが可能となる。
本発明におけるXRD回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属されるピークのみで構成されていることは以下のように確認することができる。すなわち、斜方晶系の結晶構造に帰属されるピークとは、Cuを線源とするXRDの2θ=20~80°の範囲内に検出される回折ピークが、JCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)カードのNo.01-071-2327に帰属されるピークパターンまたはそれに類似したピークパターン(シフトしたピークパターン)に指数付けできるものであることを指す。
【0022】
本発明の珪化バリウム系膜の厚みは50nm~2000nmであることが好ましく、さらに好ましくは100nm~1000nmであり、特に好ましくは100nm~800nmである。
本発明の珪化バリウム系膜は、その必要特性に応じて元素を含有しても構わない。例えばp型とするために、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)等の周期表13族の元素や、n型とするために、窒素(N)、リン(P)、アンチモン(Sb)などを含有しても良い。
【0023】
本発明の珪化バリウム系膜は、膜中の珪素の組成ずれが20%以下であることが好ましく、特に好ましくは10%以下である。組成ずれが20%以下であることで、均一な膜を得ることができる。その組成分布の測定はEPMA(電子線マイクロアナライザー)等、元素の面分布を測定可能な分析手法を用いることで測定することができる。測定視野としては45μm四方以上の視野について面分析をすることが望ましい。珪素の組成分布が均一であるということはすなわち、膜組織が均一であることを示し、それにより、不均一組織と比較し高い光学特性や電気特性を得られる。
【0024】
膜中の珪素の組成ずれの具体的な測定方法として下記の方法が挙げられる。
まず、EPMA等を用いて45μm四方の視野に対し、珪素に関する組成分布を測定する。その後3μm四方毎に珪素検出量の平均値を取ることで、45μm四方における、3μm四方の平均検出量が算出される。それぞれの平均算出量に対し、最大量A、最小量Bならびに225か所の全平均量Cから下記の計算により組成ずれ(%)を算出する。
組成ずれ(%)=(最大量A-最小量B)/全平均値C
【0025】
本発明の珪化バリウム系膜は、スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシー)法、化学蒸着法などの様々な方法で製造することできる。なかでも、MBE法、又はスパッタリング法により成膜された膜であることが好ましく、特にスパッタリング法により成膜される膜であることが好ましい。そして、スパッタリング法の中でも、ラマンスペクトルにおいて、Agピークに対するSiTOフォノンのピーク強度比が10%未満であり、スパッタリング法により成膜される膜であることが好ましい。
【0026】
スパッタリング法としては、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができる。これらの中、大面積に均一に、かつ高速成膜可能な点でDCマグネトロンスパッタリング法、又はRFマグネトロンスパッタリング法がより好ましく、特に、RFマグネトロンスパッタリング法であることが一層好ましい。
【0027】
スパッタリング時の温度は特に限定されるものではないが、結晶性を向上させるためには400℃以上が好ましく、さらに好ましくは500℃以上であり、800℃以下であることが特に好ましい。それ以上の温度では装置に用いる材質が高価となる。スパッタリング時の雰囲気ガスは、通常、不活性ガス、例えば、アルゴンガス、窒素ガスなどを用いる。
【0028】
珪化バリウム系膜中への炭素の導入は、珪化バリウム系膜の成膜時に行うことができる。炭素の導入については特に限定されないが、スパッタリングにおいて炭素を含むターゲットと珪化バリウムターゲットを併用することが好ましい。但し、不要な元素を避けるため、炭素を含むターゲットは、炭素、珪化炭素、炭化バリウム等の化合物のターゲットが好ましい。
珪化バリウム系膜中への酸素の導入は、良好な珪化バリウム系膜の成膜時、若しくは成膜後に酸素を導入する。
【0029】
水素の導入については特に限定されないが、より欠陥部分に作用させるためには活性水素を使用することが好ましく、RFプラズマガンによる活性水素の導入やスパッタリングガス中に水素を導入する方法などが挙げられる。RFプラズマガンを使用する場合、その照射時間によって、膜中水素量をコントロールすることが可能であり、照射時間として1分以上60分以下が好ましく、さらに好ましくは5分以上40分以下であり、特に好ましくは15分以上30分以下である。その範囲とすることで好ましい量の活性水素を膜中に導入することが可能となる。
また、成膜後に膜中に存在する水素を活性化することによっても同様の効果を及ぼすことができる。例えば、成膜後において珪化バリウム系膜をプラズマ中に晒しておくことで膜中の水素が活性化し、欠陥による分光特性低下を抑制することができる。
【0030】
なお、本発明の珪化バリウム系膜に用いられるスパッタリングターゲットとしては、BaSi2等の珪化バリウム系のスパッタリングターゲットが好ましい。該珪化バリウム系のスパッタリングターゲットを用いて前記スパッタリング法により本発明の珪化バリウム系膜が得られる。
ここで、珪化バリウム系のスパッタリングターゲットの製造方法は特に限定されるものではない。珪化バリウム系のスパッタリングターゲットを製造する際のスパッタリング法においては珪素-バリウム比について、珪化バリウムのスパッタリングターゲット上に珪素、もしくはバリウムを載せた状態で製膜することによっても珪素-バリウム比を変えることが可能となる。
【0031】
スパッタリング成膜時のガス圧力によっても珪素-バリウム比を調整することが可能である。
珪素-バリウム比は分光感度特性の良好なBaSi2斜方晶の原子量比が1:2であるため、膜の組成についても1:2に近いことが好ましく、スパッタリングガス圧を上げることで珪素:バリウム比を1:2に近づけることが可能である。しかし、ガス圧を高くするだけでは結晶性が悪化すると共に成膜速度が低下する傾向がある。
【0032】
スパッタリング成膜時のガス圧(絶対圧)の好ましい範囲は0.5Pa以上1.0Pa以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.6Pa以上0.8Pa以下である。そのガス圧力にすることで結晶性を向上させた珪化バリウム膜を得ることが可能となる。
【0033】
本発明の珪化バリウム系膜は、シリコン層を積層して珪化バリウム系積層膜とすることもできる。また、本発明の珪化バリウム系膜は、基板と構成される珪化バリウム系膜を含む積層基板とすることもできる。
基板の材質は特に限定はなく、例えば、シリコン、アルカリフリーガラス、石英ガラス、ゲルマニウム、サファイア等が挙げられる。その中でも、珪化バリウム膜を高結晶に成長させるためにはシリコン基板を用いることが好ましい。シリコン基板に単結晶シリコンを用いることで、基板と膜との間の格子不整合を低減し、膜の結晶性を向上させることが可能となる。また、シリコンの方位は(111)に配向したものを用いることが好ましい。
【0034】
さらに基板にシリコンを用いることで、バンドギャップ1.1eVのシリコン層と1.3の珪化バリウム層を利用したタンデム構造を構築することでさらなる太陽電池特性の向上を見込むことができる。
珪化バリウム系膜を含む積層基板の表層はキャップ層が存在することが好ましい。表層をキャップすることで表面からの酸化の進行を抑制することが可能となる。
キャップ層として用いる層の材質は特に限定はなく、例えばシリコン(結晶性、非晶質)、等が挙げられ、その中でも酸化を抑制するためには金属など酸素を含まない層であることが好ましい。
【0035】
これら珪化バリウム系積層膜、珪化バリウム系膜を含む積層基板の製造方法としては、例えば、太陽電池用吸収層を想定した場合、ドーパントを添加しない珪化バリウム膜、n型珪化バリウム系膜、p型珪化バリウム系膜、キャップ層を少なくとも二つ以上含む層を成膜する。成膜方法の限定はなく、物理蒸着、化学蒸着など各種成膜方法を利用することが可能である。
本発明の珪化バリウム系膜は分光感度に優れることから、珪化バリウム系膜を含む積層基板を用いた素子に好適であり、特に太陽電池光吸収層部分や熱電変換素子に好適である。また、該素子を用いることにより、電子機器に好適であり、特に太陽電池モジュールや熱電変換モジュールに好適である。
【0036】
分光感度はA(λ)/W(λ)(A:出力電流、W:照射強度)で表され、太陽電池特性を示す指標となる。また、バイアス電圧をかけることで、その電圧における出力電流を把握することが可能となる。ここでの評価として、下記の数式で分光感度(規格化)を定義した。
分光感度(規格化)=最大の分光感度(A/W)/バイアス電圧(V)
バイアス電圧(V):バイアス電圧の絶対値
【0037】
分光感度が高いほど、解放電圧以下の電圧値において、取り出し電流が高くなり、太陽電池変換効率が向上することが期待される。本発明の珪化バリウム系膜の分光感度(規格化)は2.0以上にでき、更には3.0以上にでき、特には4.0以上にすることもできる。
【実施例】
【0038】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、各特性の評価は、それぞれ、以下のようにして行った。
【0039】
(ラマンスペクトル)
ラマンスペクトルはラマン分光法(JASCO社製、NRS-5100)を用いて、励起波長532nmの条件で測定を実施し、480cm-1付近のピークをAgピークとし、520cm-1付近のピークをSTOフォノンに由来するピークとして、それぞれのピーク強度の比を算出した。
ピーク強度比(%)=SiTOピーク強度/Agピーク強度
なお、2本のピークは分離した上で強度を算出した。
【0040】
(炭素含有量)
SIMSを用いて測定を行い、基板から見て上面から深さ方向に測定し、膜厚300nmの膜を用い表層100nmを除いた厚み200nm~300nmにおける測定値の平均値を算出した。
【0041】
(X線回折試験)
珪化バリウム系膜の結晶相は、X線回折試験で同定した。測定条件は以下の通りである。
・X線源 :CuKα
・パワー :40kV、40mA
・走査速度 :1°/分
得られた回折パターンを解析し、(1)斜方晶系の結晶構造に帰属されるピークで構成されている相、及び(2)前記(1)以外の他の結晶相に分類し、これら(1)、(2)の結晶相のそれぞれにおいて同定された場合は「有」とし、同定されなかった場合は「無」とした。
【0042】
(分光感度)
珪化バリウム系膜の分光感度の測定は、表層側に直径1mm、厚さ80nmのITO電極、基板の裏面にAl電極を作製し、電極間に電圧を印加した上で、分光計器社製装置、SM-1700Aを用いて測定した。
【0043】
(実施例1、2)
図1に記載の2元同時スパッタリングが可能なスパッタ装置を用いた。
ターゲット1として、珪化バリウムのスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にてスパッタリング製膜試験を実施した。バリウムのチップを珪化バリウムのスパッタリングターゲット上に載せ、アルゴンを衝突させて、珪化バリウムからは珪素元素とバリウム元素(
図1のスパッタ粒子)が飛び出るようにし、また、チップのバリウムからはバリウム元素(
図1のスパッタ粒子)が飛び出るようにした。
ターゲット2として、炭化ケイ素のスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にて炭素及び珪素(
図1のスパッタ粒子)を飛び出るようにしてスパッタリング処理した。
【0044】
スパッタリング条件:
放電方式 :RFスパッタリング
製膜装置 :マグネトロンスパッタリング装置(2元同時成膜用)
ターゲット―基板間距離:200mm
製膜圧力(装置内ガス圧力):0.25~1Pa
導入ガス :アルゴン
基板 :(111)シリコン単結晶基板
(25mm角 0.5mm厚み)
基板温度 :600℃
膜厚 :200nm
ターゲット1:
スパッタリングターゲット:珪化バリウム(BaSi2)
ターゲットサイズ :50mmφ(円板状)
バリウムチップサイズ :5mm角(板状)
バリウムチップ数 :3個(エロージョン部に設置)
放電パワー :30W(1.5W/cm2)
ターゲット2:
スパッタリングターゲット:炭化ケイ素(SiC)
ターゲットサイズ :50mmφ(円板状)
放電パワー :100W(5.1W/cm2)
【0045】
上記のシリコン単結晶基板に200nmの珪化バリウム膜を成膜後、その珪化バリウム膜の上にキャップ層として非結晶シリコンをスパッタリング法により、180℃で3nmの膜厚になるように成膜した。
上記実施例1、2により、表1に示されるようなラマンスペクトル、炭素含有量、分光特性、及び結晶相を有する炭素含有珪化バリウム系膜が得られた。
【0046】
(比較例1)
炭素を用いず、珪化バリウムのスパッタリングターゲットを用いたのみである以外は実施例1と同じ条件にて製膜試験を実施した。
【0047】
その結果、表1に示されるように、ラマンスペクトル、炭素含有量、分光特性、及び結晶相を有するものであり、求める膜は得られなかった。
【0048】