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特許7304997油脂組成物、油脂組成物の製造方法、風味増強剤、及び食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】油脂組成物、油脂組成物の製造方法、風味増強剤、及び食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20230630BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20230630BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20230630BHJP
   A23L 27/60 20160101ALN20230630BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20230630BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20230630BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20230630BHJP
   A23L 15/00 20160101ALN20230630BHJP
【FI】
A23D9/007
A23L29/00
A23L5/00 J
A23L27/60 A
A23L23/00
A23L27/50 A
A23L9/20
A23L15/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022057404
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2022-04-05
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591112371
【氏名又は名称】キユーピー醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】八木 理穂
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】小林 英明
(72)【発明者】
【氏名】三上 晃史
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-204740(JP,A)
【文献】特開2006-199626(JP,A)
【文献】国際公開第2008/087705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/CABA/CAplus/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸菌の食用植物油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が1質量%以下であることを特徴とする、
油脂組成物。
【請求項2】
酢酸菌の食用植物油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が1質量%以下であることを特徴とする、
油脂組成物(但し、酢酸菌の極性有機溶媒抽出物を含むものを除く)。
【請求項3】
前記酢酸菌が、グルコンアセトバクター属、アセトバクター属、及びコマガタエイバクター属からなる群から選択される少なくとも1種の酢酸菌であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
食用植物油脂をさらに含むことを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
食品用であることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の油脂組成物を含有することを特徴とする、
食品風味増強剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の油脂組成物または請求項6に記載の食品風味増強剤を含有することを特徴とする、
食品。
【請求項8】
酢酸菌の食用油脂抽出物を含有する油脂組成物の製造方法であって、
酢酸菌含有液を加熱する工程と、
前記加熱済みの酢酸菌含有液と、食用油脂とを混合して、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出する工程と、
を含むことを特徴とする、
油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
酢酸菌の食用油脂抽出物を含有する油脂組成物の製造方法であって、
酢酸菌含有液または酢酸菌体乾燥物と、食用油脂とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液を加熱して、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出する工程と、
を含むことを特徴とする、
油脂組成物の製造方法。
【請求項10】
加熱温度が、40℃以上130℃以下であることを特徴とする、
請求項8または9に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記酢酸菌含有液のpHが、2.0以上7.0以下であることを特徴とする、
請求項8~10のいずれか一項に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記酢酸菌体乾燥物の量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることを特徴とする、
請求項~11のいずれか一項に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物及びその製造方法に関する。特に、本発明は、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有する油脂組成物及びその製造方法に関する。また、本発明は、当該油脂組成物を含有する風味増強剤にも関する。さらに、本発明は、当該油脂組成物を含有する食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物の菌体は、各種生理作用を有するため、各種食品に利用されてきた。例えば、乳酸菌は、ヨーグルトやチーズ等の発酵食品に含まれており、乳酸菌が腸内環境改善等の健康改善・増進に役立つことが知られている。
【0003】
一方、酢酸菌は食酢の製造に使用されていることは周知であるが、酢酸菌体には特有の臭いがあり、食品の風味に悪影響を及ぼす恐れがあった。そのため、酢酸菌体自体を用いた食品は乳酸菌に比べて少なく、十分に活用されているとは言えなかった。しかし、近年では、酢酸菌の食品への利用が検討されている。例えば、特許文献1では、食品の風味調整剤として、スターバー抽出加熱脱着-ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合における特定の香気成分(ノナナール、メチルヘプテノン、ジメチルトリスルフィド、及び2-トリデカノン)のピーク面積比を調節することで酢酸菌の菌体臭が抑制された酢酸菌含有組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6755606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるような酢酸菌体を含有する組成物は、依然として風味の点で改善の余地があった。したがって、本発明の目的は、食品に添加することで、食品の風味に悪影響を及ぼさずに食品の風味を増強することができる油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して誠意検討した結果、油脂組成物に酢酸菌の食用油脂抽出物を含有させ、かつ、酢酸菌自体を除去することにより、上記の課題を解決できることを知見した。本発明者らは、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様によれば、
酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が1質量%以下であることを特徴とする、油脂組成物が提供される。
【0008】
本発明の第1の態様においては、前記酢酸菌が、グルコンアセトバクター属、アセトバクター属、及びコマガタエイバクター属からなる群から選択される少なくとも1種の酢酸菌であることが好ましい。
【0009】
本発明の第1の態様においては、前記油脂組成物が食品用であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の第2の態様によれば、
前記油脂組成物を含有することを特徴とする、食品風味増強剤が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の態様によれば、
前記油脂組成物を含有することを特徴とする、食品が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の態様によれば、
酢酸菌の食用油脂抽出物を含有する油脂組成物の製造方法であって、
酢酸菌含有液を加熱する工程と、
前記加熱済みの酢酸菌含有液と、食用油脂とを混合して、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出する工程と、
を含むことを特徴とする、油脂組成物の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第5の態様によれば、
酢酸菌の食用油脂抽出物を含有する油脂組成物の製造方法であって、
酢酸菌含有液または酢酸菌体乾燥物と、食用油脂とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液を加熱して、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出する工程と、
を含むことを特徴とする、油脂組成物の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第4または第5の態様においては、加熱温度が40℃以上130℃以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の第4または第5の態様においては、酢酸菌含有液のpHが2.0以上7.0以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の第4または第5の態様においては、前記酢酸菌体乾燥物の量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、食品に添加することで、食品の風味に悪影響を及ぼさずに食品の風味を増強することができる油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が1質量%以下であることを特徴とするものである。1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物の含有量は、油脂組成物の総量に対して、好ましくは0.5%質量以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。本発明の油脂組成物は、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物を含有しないことがさらに好ましい。また、本発明の油脂組成物は、食品用として好適である。特に、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物の含有量が少ない油脂組成物を食品に添加することで、食品の風味に悪影響を及ぼさずに食品の風味を増強することができる。ここで、1μmメッシュオンとは、目開き1μmのフィルターを用いてろ過した際に通過しないという意味である。なお、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物の含有量は、下記実施例の<1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物の含有量の測定方法>で詳述する方法により測定することができる。
【0019】
(酢酸菌)
酢酸菌としては、特に限定されず従来公知の酢酸菌を用いることができる。具体的には、酢酸菌としては、例えば、グルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属、アセトバクター(Acetobacter)属、コマガタエイバクター(Komagataeibacter)属、及びグルコノバクター(Gluconobacter)属、等が挙げられる。これらの中でも、グルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属、アセトバクター(Acetobacter)属、及びコマガタエイバクター(Komagataeibacter)属からなる群から選択される少なくとも1種の酢酸菌を用いることが好ましい。
【0020】
グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)の酢酸菌としては、グルコンアセトバクター・スウィングシ(Gluconacetobacter swingsii)、グルコンアセトバクター・キシリヌス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、グルコンアセトバクター・インタメデイウス(Gluconacetobacter intermedius)、グルコンアセトバクター・サッカリ(Gluconacetobacter sacchari)、グルコンアセトバクター・マルタセティ(Gluconacetobacter maltaceti)、グルコンアセトバクター・コンブチャ(Gluconacetobacter kombuchae)、及びグルコンアセトバクター・リックウェフェシエンス(Gluconacetobacter liquefaciens)等が挙げられる。
【0021】
アセトバクター(Acetobacter)属の酢酸菌としては、アセトバクター属(Acetobacter)の酢酸菌としては、アセトバクター・ポリオキソゲネス(Acetobacter polyoxogenes)、アセトバクター・トロピカリス(Acetobacter tropicalis)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)、アセトバクター・シジギイ(Acetobacter syzygii)、アセトバクター・シビノンゲンシス(Acetobacter cibinongensis)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・オルレアネンシス(Acetobacter orleanensis)、アセトバクター・ロバニエンシス(Acetobacter lovaniensis)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・ポモラム(Acetobacter pomorum)、アセトバクター・マローラム(Acetobacter malorum)等が挙げられる。
【0022】
コマガタエイバクター(Komagataeibacter)属の酢酸菌としては、コマガタエイバクター・ハンゼニイ(Komagataeibacter hansenii)、コマガタエイバクター・ザイリナス(Komagataeibacter xylinus)、コマガタエイバクター・ユーロペウスヨーロッパエウス(Komagataeibacter europaeus)、コマガタエイバクター・オボエディエンス(Komagataeibacter oboediens)等が挙げられる。
【0023】
グルコノバクター(Gluconobacter)属の酢酸菌としては、グルコノバクター・フラトウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)等が挙げられる。
【0024】
(食用油脂)
食用油脂としては、特に限定されず従来公知の食用油脂を用いることができる。具体的には、食用油脂として、例えば、菜種油、大豆油、白胡麻油、コーン油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等の植物油脂、およびMCT(中鎖脂肪酸含有油脂)等を用いることができる。これらの中でも、菜種油、大豆油、白胡麻油、及び米油から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0025】
(酢酸菌の食用油脂抽出物)
酢酸菌の食用油脂抽出物とは、酢酸菌の加熱によって菌体外に放出された各種の有効成分であって、食用油脂で抽出することができたもの(酢酸菌体由来の油溶性成分)を言う。酢酸菌の食用油脂抽出物の具体的な成分は特に限定されないが、例えば、油溶性香気成分、脂肪酸、及びステロール等の油溶性成分が挙げられる。
【0026】
(他の原料)
本発明の油脂組成物には、上述の酢酸菌の食用油脂抽出物以外にも、抽出に用いた食用油脂が含まれてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で他の原料が含まれてもよい。他の原料としては、食品用途に通常用いられている各種原料を適宜選択して配合することができる。他の原料としては、例えば、水、酸材、pH調整剤、食塩、増粘剤、着色料、香料、保存料等が挙げられる。
【0027】
(油脂組成物の製造方法)
本発明の油脂組成物の製造方法は、(1)酢酸菌含有液を加熱する工程と、前記加熱済みの酢酸菌含有液と、食用油脂とを混合して、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出する工程とを含むものである。酢酸菌含有液の加熱により酢酸菌由来の有効成分が菌体外に放出され、その後の食用油脂との混合により、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出することができる。
【0028】
あるいは、本発明の油脂組成物の製造方法は、(2)酢酸菌含有液または酢酸菌体乾燥物と、食用油脂とを混合して、混合液を得る工程と、前記混合液を加熱して、食用油脂中に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出する工程とを含むものである。酢酸菌含有液または酢酸菌体乾燥物と食用油脂の混合液を加熱することで、酢酸菌由来の有効成分の菌体外への放出と食用油脂への酢酸菌体由来の油溶性成分の抽出を同時に行うことができる。
なお、酢酸菌乾燥物は、酢酸菌含有液を常法により乾燥させて得ることができる。
【0029】
上記の通り、本発明の油脂組成物の製造方法において、酢酸菌の加熱は、酢酸菌含有液の状態(食用油脂との混合前の状態)で行ってもよいし、酢酸菌含有液または酢酸菌体乾燥物と食用油脂とを混合した後に行っても良い。なお、上記の加熱や抽出は、従来公知の装置を用いて、常法により行うことができる。
【0030】
酢酸菌含有液とは、水中に酢酸菌体が含まれるものであり、例えば、酢酸菌体の分散液ないし懸濁液であってもよい。酢酸菌含有液中の酢酸菌体乾燥物量は特に限定されないが、抽出効率の観点から、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上12質量%以下である。
【0031】
酢酸菌含有液の加熱温度または酢酸菌と食用油脂の混合液の加熱温度は、好ましくは40℃以上130℃以下であり、より好ましくは45℃以上125℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上120℃以下である。加熱温度が上記範囲内であれば、菌体外への有効成分の放出量が増加し、抽出効率を向上させることができる。
【0032】
酢酸菌体由来の油溶性成分の抽出温度は、(1)加熱済みの酢酸菌含有液と食用油脂とを混合して、油溶性成分の抽出を行う場合には、特に限定されず、上記の加熱温度よりも低い温度でもよく、好ましくは10℃以上50℃以下であり、より好ましくは15℃以上45℃以下である。(2)酢酸菌と食用油脂の混合液の状態で加熱と抽出を同時に行う場合には、抽出温度は、上記の加熱温度と同様である。
【0033】
酢酸菌含有液の加熱時間または酢酸菌と食用油脂の混合液の加熱時間は、酢酸菌体から有効成分を抽出できる状態にできれば特に限定されないが、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上であり、さらに好ましくは10分以上である。
【0034】
酢酸菌含有液のpHは、抽出効率の観点から、好ましくは2.0以上7.0以下であり、より好ましくは3.0以上6.5以下であり、さらに好ましくは4.0以上6.0以下である。酢酸菌含有液のpHは、水酸化ナトリウム水溶液や塩酸等のpH調整剤を用いて調節することができる。
【0035】
酢酸菌体由来の油溶性成分を食用油脂で抽出する際には、抽出効率の観点から、酢酸菌体乾燥物量を食用油脂100質量部に対して1質量部以上100質量部以下に調節することが好ましく、5質量部以上70質量部以下に調節することがより好ましく、10質量部以上50質量部以下に調節することがさらに好ましい。
【0036】
上記(1)または(2)の方法により、食用油脂に酢酸菌体由来の油溶性成分を抽出した後、遠心分離、デカンテーション、及びろ過等によって酢酸菌体を除去する工程を実施する。続いて、油相と水相を分離し、油相部分を回収することで、酢酸菌の食用油脂抽出物を得ることができる。
【0037】
(食品)
油脂組成物を添加する食品は特に限定されず、従来公知の食品であってよい。食品としては、例えば、タマゴスプレッド、卵焼き、オムレツ、親子丼、及びプリン等の卵加工品、マヨネーズ、ドレッシング、醤油、ソース、及びタレ等の調味料、和だしスープ、コンソメスープ、及び中華スープ等のスープ、クリーム等を挙げることができる。
【0038】
油脂組成物の食品への添加方法は特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。例えば、本発明の油脂組成物は、食品の製造工程中に添加してもよいし、食品の製造後に添加してもよい。
【0039】
油脂組成物の食品への添加量は、油脂組成物中の酢酸菌の食用油脂抽出物の濃度に応じて適宜調節することができる。例えば、油脂組成物の食品への添加量は、食品100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは0.2質量部以上7質量部以下であり、さらに好ましくは0.5質量部以上5質量部以下である。油脂組成物の食品への添加量が上記範囲内であれば、食品の風味に悪影響を及ぼさずに食品の風味増強効果を得られ易い。
【0040】
<食品風味増強剤、食品>
本発明の食品風味増強剤は、上記の油脂組成物を含むものである。また、本発明の食品風味は、上記の油脂組成物を含むものである。本発明の食品風味増強剤を食品に添加することで、食品の風味に悪影響を及ぼさずに食品の風味を増強することができる。風味を増強できる食品としては、特に限定されず、従来公知の食品であってよい。食品としては、上述の油脂組成物を添加する食品と同様である。
【実施例
【0041】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0042】
<油脂組成物の製造例1>
[実施例1]
<酢酸菌含有液の調製>
エタノール4質量部、酵母エキス0.2質量部、及び清水95.7質量部に酢酸菌(グルコンアセトバクター属、アセトバクター属、及びコマガタエイバクター属の混合菌体)0.1質量部を添加し、品温30℃、培養液あたりの通気量を0.4L/分の条件で、24時間培養を行った。得られた酢酸菌溶液に遠心濃縮処理を施し、清水で数回洗浄後、酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:5質量%)を調製した。なお、酢酸菌含有液のpHは、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いて測定した結果、5.0であった。
【0043】
<油脂組成物の調製>
上記で調製した酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:5質量%)300質量部(酢酸菌体乾燥物量:15質量部)と食用油脂(菜種油)100質量部とを混合した。その後、混合物を撹拌しながら90℃に加熱して、10分間抽出した。次に、加熱済みの混合物を遠心分離によって油相と水相とに分離し、油相を採取して、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有する油脂組成物を得た。
【0044】
<1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物の含有量の測定方法>
続いて、得られた油脂組成物について、下記の方法により、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物の含有量を測定した。測定の結果、油脂組成物中の酢酸菌体由来の不溶物の含有量は、0質量%であった。
(測定条件)
・加圧式ろ過
・メンブレンフィルター使用(PTFE(油脂用)/ITEM T100A293D/LOT:81212430/PORE SIZE 1.0μm、ADVANTEC社製)
・下記工程I~Vの実施:
I:ろ過前のフィルター質量の測定
II:油脂組成物2g+アセトン20gの混合
III:混合物の加圧式ろ過
IV:混合物の乾燥(アセトンの除去)
V:ろ過後のフィルター質量の測定
「不溶物の含有量」=「ろ過後のフィルター質量」-「ろ過前のフィルター質量」
【0045】
[実施例2~5]
混合物の加熱温度を表1に記載の温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。
【0046】
[実施例6~8]
混合物の抽出時間を表1に記載の時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。
【0047】
[実施例9]
上記の<酢酸菌含有液の調製>において、得られた酢酸菌溶液に遠心濃縮処理を施し、清水で数回洗浄後、酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:10質量%)を調製した。続いて、酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:10質量%)300質量部(酢酸菌体乾燥物量:30質量部)と食用油脂(菜種油)100質量部とを混合したした以外は、実施例1と同様にして、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。
【0048】
[比較例1]
上記で調製した酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:5質量%)自体を加熱して、酢酸菌の水抽出物および酢酸菌を含有する組成物を得た。
【0049】
[比較例2]
上記で調製した酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:5質量%)と食用油脂(菜種油)とを混合した。その後、混合物を撹拌しながら常温(25℃)のままで、15分間抽出した。次に、混合物を遠心分離によって油相と水相とに分離し、油相を採取して、油脂組成物を得た。
【0050】
<官能評価1(風味)>
焙煎胡麻ドレッシング100質量部に対して、上記で得られた油脂組成物1質量部を添加して、均一になるまで撹拌した。続いて、胡麻ドレッシングの風味について、下記の基準に従って官能評価を行った。なお、油脂組成物を未添加の胡麻ドレッシングを対照品とした。官能評価の結果は表1に示す通りであった。下記の評価基準において「2」以上であれば、良好な結果である。
[評価基準]
4:対照品と比較して、胡麻の風味がかなり増強されていた。
3:対照品と比較して、胡麻の風味が増強されていた。
2:対照品と比較して、胡麻の風味がやや増強されていた。
1:対照品と比較して、胡麻の風味が増強されていなかった。
【0051】
<官能評価2(風味)>
表2に記載の食品100質量部に対して、実施例1で得られた油脂組成物を表2に記載の割合で添加して、均一になるまで撹拌した。続いて、各食品の風味について、下記の基準に従って官能評価を行った。なお、油脂組成物を未添加の各食品を対照品とした。官能評価の結果は表2に示す通りであった。
[評価基準](マヨネーズ、タマゴスプレッド、カスタードクリーム、カルボナーラソース)
4:対照品と比較して、卵の風味がかなり増強されていた。
3:対照品と比較して、卵の風味が増強されていた。
2:対照品と比較して、卵の風味がやや増強されていた。
1:対照品と比較して、卵の風味が増強されていなかった。
[評価基準](醤油)
4:対照品と比較して、塩味・旨味・醤油の香りがかなり増強されていた。
3:対照品と比較して、塩味・旨味・醤油の香りが増強されていた。
2:対照品と比較して、塩味・旨味・醤油の香りがやや増強されていた。
1:対照品と比較して、塩味・旨味・醤油の香りが増強されていなかった。
[評価基準](和だしスープ)
4:対照品と比較して、塩味・旨味・カツオの香りがかなり増強されていた。
3:対照品と比較して、塩味・旨味・カツオの香りが増強されていた。
2:対照品と比較して、塩味・旨味・カツオの香りがやや増強されていた。
1:対照品と比較して、塩味・旨味・カツオの香りが増強されていなかった。
[評価基準](コンソメスープ)
4:対照品と比較して、塩味・旨味・野菜の香りがかなり増強されていた。
3:対照品と比較して、塩味・旨味・野菜の香りが増強されていた。
2:対照品と比較して、塩味・旨味・野菜の香りがやや増強されていた。
1:対照品と比較して、塩味・旨味・野菜の香りが増強されていなかった。
[評価基準](中華スープ)
4:対照品と比較して、塩味・旨味・鶏ガラの香りがかなり増強されていた。
3:対照品と比較して、塩味・旨味・鶏ガラの香りが増強されていた。
2:対照品と比較して、塩味・旨味・鶏ガラの香りがやや増強されていた。
1:対照品と比較して、塩味・旨味・鶏ガラの香りが増強されていなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
<油脂組成物の製造例2>
[実施例10~12]
上記の<酢酸菌含有液の調製>において、酢酸菌含有液に水酸化ナトリウム水溶液または塩酸を添加して、酢酸菌含有液のpHを表3に記載の値に調節した。得られた酢酸菌含有液を用いた以外は、実施例1と同様にして、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。
【0055】
続いて、得られた油脂組成物を用いた以外は、<官能評価1(風味)>と同様にして、官能評価を行った。官能評価の結果は表3に示す通りであった。
【0056】
【表3】
【0057】
<油脂組成物の製造例3>
[実施例13、14]
上記の<油脂組成物の調製>において、食用油脂の種類を表4に記載の食用油脂に変更した以外は、実施例1と同様にして、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。
【0058】
続いて、得られた油脂組成物を用いた以外は、<官能評価1(風味)>と同様にして、官能評価を行った。官能評価の結果は表4に示す通りであった。
【表4】
【0059】
<油脂組成物の製造例4>
[実施例15]
上記の<油脂組成物の調製>において、酢酸菌含有液に代えて、酢酸菌含有液を噴霧乾燥した酢酸菌体乾燥物を使用した以外は、実施例1と同様にして、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。なお、食用油脂100質量部に対する酢酸菌体乾燥物量は、15質量部になるように製造した。
【0060】
続いて、得られた油脂組成物を用いた以外は、<官能評価1(風味)>と同様にして、官能評価を行った。その結果、対照品と比較して、胡麻の風味がかなり増強されていた。
【0061】
<油脂組成物の製造例5>
[実施例16]
上記の<酢酸菌含有液の調製>において調製した酢酸菌含有液(酢酸菌体乾燥物量:5質量%)自体を加熱した後に、酢酸菌含有液300質量部(酢酸菌体乾燥物量:15質量部)と食用油脂(菜種油)100質量部とを混合し、10分間抽出した。次に、混合物を遠心分離によって油相と水相とに分離し、油相を採取して、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が0質量%である油脂組成物を得た。
【0062】
続いて、得られた油脂組成物を用いた以外は、<官能評価1(風味)>と同様にして、官能評価を行った。その結果、対照品と比較して、胡麻の風味がかなり増強されていた。
【要約】
【課題】食品に添加することで、食品の風味に悪影響を及ぼさずに食品の風味を増強することができる油脂組成物の提供。
【解決手段】本発明の油脂組成物は、酢酸菌の食用油脂抽出物を含有し、かつ、1μmメッシュオンの酢酸菌体由来の不溶物が1質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし