(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】高精度測位用基準局の全球測位衛星システムアンテナの取付具
(51)【国際特許分類】
G01S 19/35 20100101AFI20230703BHJP
G01C 15/02 20060101ALI20230703BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20230703BHJP
H01Q 1/18 20060101ALI20230703BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20230703BHJP
H01Q 1/48 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G01S19/35
G01C15/02
G01C15/00 102C
H01Q1/18
H01Q1/52
H01Q1/48
(21)【出願番号】P 2020008673
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100133547
【氏名又は名称】木戸 基文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 利弘
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-018982(JP,A)
【文献】特開2004-187209(JP,A)
【文献】特開2018-115950(JP,A)
【文献】実開平02-130109(JP,U)
【文献】特開平09-196677(JP,A)
【文献】特開平10-274528(JP,A)
【文献】特開平10-260039(JP,A)
【文献】特開2002-262166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高精度測位用基準局の全球測位衛星システムアンテナを、地球に固定する全球測位衛星システムアンテナの取付具であって、
前記全球測位衛星システムアンテナの取付具が、嵌合(かんごう)台と雲台とからなり、
前記嵌合台が、その底面に地球に固定された突起物の先端と嵌(は)め合う受け穴を有し、その天面に前記雲台の雌ねじと噛(か)み合う雄ねじを備えていることを特徴とする高精度測位用基準局の全球測位衛星システムアンテナの取付具。
【請求項2】
前記受け穴が、境界杭(くい)の杭頭と嵌め合うことを特徴とする請求項1に記載の高精度測位用基準局の全球測位衛星システムアンテナの取付具。
【請求項3】
前記全球測位衛星システムアンテナの取付具が、嵌合台と雲台のほかに、前記雲台にねじで留(と)めるマルチパス遮蔽盤を加えてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高精度測位用基準局の全球測位衛星システムアンテナの取付具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キネマティック測位などの高精度な測位を行うときに、位置(緯度、経度)や高さ(より正しくは、楕円(だえん)体高のことをいう。楕円体高とは、地球楕円体からの高さのことである。)が既に与えられている既知の点(以下、既知点という。)に据え付けられる高精度測位用基準局の全球測位衛星システム(以下、GNSSという。)アンテナを、地球に固定するGNSSアンテナの取付具に関する。特に、この発明は、自前の基準局を設定するためのGNSSアンテナを、作物を栽培する田畑(以下、ほ場という。)などのように、平らではなく凹凸がある(以下、不陸という。)場所にも水平に載置できることは言うまでもなく、セッティングのたびに同じ高さに載置できるGNSSアンテナの取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
GNSSアンテナの取付具としては、測量機器用の三脚が実際に使われている。この測量機器用の三脚では、脚の長さや開き具合を調整したり、脚頭を昇降したりできるようになっている。そして、この測量機器用の三脚では、脚頭に取り付けられた雲台を調整して、GNSSアンテナを水平に載置できるようになっている。
【0003】
別のGNSSアンテナの取付具としては、上端が開口した柱状のベース部材と、記憶部と、送信部とを備える基準局ベースが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この基準局ベースでは、その一部が地中に埋め込まれたベース部材に、GNSSアンテナを備えるGNSS基準局装置を挿入することで、GNSSアンテナを容易に動かないように固定できるようになっている。
【0004】
GNSSアンテナの取付具ではないものの、上面を地表に露出させた状態で、地面に埋設する杭(くい)状の標識に、情報の書き込みや読み取りが可能な非接触記憶媒体を内蔵したものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この標識では、記憶させた情報を読み取ることで、地面に埋設された標識に関する属性情報を収集できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-169285号公報(段落0053、
図2)
【文献】特開2004-251859号公報(段落0007,0023、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記実際に使われている測量機器用の三脚では、脚の長さや開き具合を調整したり、脚頭を昇降したりできるようになっているところ、GNSSアンテナをセッティングのたびに同じ高さに置こうとすると、脚の長さや開き具合などの調整が煩雑になる。
【0007】
そこで、前記実際に使われている測量機器用の三脚では、GNSSアンテナをセッティングのたびに同じ高さにするのではなく、セッティングのたびに測量し直している。具体的には、前記実際に使われている測量機器用の三脚では、既知点が地表面にあることから、GNSSアンテナを三脚に載置した後に、言い換えるとGNSSアンテナを既知点の直上の空中に固定した後に、地表面からGNSSアンテナまでの高さを測り、この地表面からGNSSアンテナまでの高さを既知の楕円体高に加えて、GNSSアンテナの楕円体高を求めている。そのため、前記実際に使われている測量機器用の三脚では、既知点のうち緯度と経度はそのままGNSSアンテナの位置座標に使えるものの、楕円体高についてはセッティングのたびに測量して求め直さなくてはならない。そこで、前記実際に使われている測量機器用の三脚を利用して自前の基準局を設定しようとすると、以前に求めた楕円体高が使えないために、自前基準局の設定が煩雑になる。加えて、前記実際に使われている測量機器用の三脚を利用して自前の基準局を設定しようとすると、測量の知識が求められるために、誰でも基準局を設定できるものでもない。
【0008】
前記特許文献1に係る基準局ベースでは、その一部が地中に埋め込まれたベース部材に、GNSSアンテナを備えるGNSS基準局装置を挿入しているところ、GNSS基準局装置を挿入できるほどの大きさのベース部材を地中に埋め込むためには、ある程度の広さの土地がいる。
【0009】
ここで、GNSSアンテナは、測位の誤差を最小限に抑えるために、水平に固定しなくてはならないところ、前記特許文献1に係る基準局ベースでは、GNSSアンテナが水平になるように固定するためには、ベース部材を垂直に埋め込まなくてはならない。そこで、前記特許文献1に係る基準局ベースでは、ベース部材よりも一回り大きな穴を掘ってから、ベース部材を垂直に保ちながら埋め戻さなくてはならず、ベース部材の設置が容易ではない。
【0010】
また、前記特許文献1に係る基準局ベースでは、上端が開口したベース部材を地中に埋め込んでいるために、ベース部材の内部に虫や土ぼこりなどの異物が入るおそれがある。そのため、前記特許文献1に係る基準局ベースでは、次にGNSSアンテナを挿入したとき、異物がつかえてアンテナが所定の位置まで挿入されず、GNSSアンテナが当初の高さからずれてしまうおそれがある。
【0011】
さらに、前記特許文献1に係る基準局ベースでは、GNSS基準局装置がベース部材に挿入されたときに、記憶部が記憶するベース部材の設置場所を示す位置座標をGNSS基準局装置に送信できるようにしているために、基準局ベースの構造が複雑になる。特に、前記特許文献1に係る基準局ベースでは、電気的な手段で位置座標を伝えるようにしているために、水や湿気によって電気的な故障を生じるおそれもある。
【0012】
前記特許文献2に係る標識では、標識にアンテナを載置できないために、標識の近くにGNSSアンテナを置くことになる。そのため、前記特許文献2に係る標識では、仮に標識に関する位置座標を収集できても、標識に関する位置座標と、標識の近くに置いたGNSSアンテナの位置が一致しないので、改めてGNSSアンテナを置いた位置の位置座標を測位しなければ自前の基準局として利用できない。
【0013】
また、前記特許文献2に係る標識では、仮に標識の上面にGNSSアンテナを置くことができても、標識の上面が水平になるように埋設されているとは限らず、標識の上面を水平に保つ機構もないために、GNSSアンテナを水平にすることができない。
【0014】
そこで、この発明では、前記した課題を解決し、キネマティック測位などの高精度な測位を行うときに役立つ、自前の基準局を設定するためのGNSSアンテナを、ほ場のような不陸の場所でも水平に、セッティングのたびに同じ高さに載置できるGNSSアンテナの取付具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具を、嵌合(かんごう)台と雲台とで構成した。そして、嵌合台の底面に、地球に固定された突起物の先端と嵌(は)め合う受け穴を設けて、嵌合台を突起物に取り外せるように嵌められるようにした。また、嵌合台の天面に、雲台の雌ねじと噛(か)み合う雄ねじを備えて、嵌合台に雲台を取り外せるように留(と)められるようにした。
【0016】
請求項2に係る発明では、嵌合台の底面に設けた受け穴が、境界杭(くい)の杭頭と嵌め合うようにして、嵌合台を境界杭に取り外せるように嵌められるようにした。
【0017】
請求項3に係る発明では、高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具を、嵌合台と雲台のほかに、雲台にねじで留めるマルチパス遮蔽盤を加えて構成して、雲台にマルチパス遮蔽盤を取り外せるように留められるようにした。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、嵌合台の底面に、地球に固定された突起物の先端と嵌め合う受け穴を設けたので、嵌合台を突起物に嵌めることができる。そのため、請求項1に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具を地球に固定された突起物に嵌めて、GNSSアンテナの取付具を地球に固定することができる。そこで、請求項1に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具にキネマティック測位などの高精度測位用基準局のGNSSアンテナを載置して、自前の基準局を設定することができる。
【0019】
また、請求項1に係る発明によれば、嵌合台を突起物に取り外せるように嵌めることができるので、突起物からGNSSアンテナの取付具を抜いて、別の突起物にGNSSアンテナの取付具を嵌めることもできる。そこで、請求項1に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具を別の突起物に移して、別の場所に自前の基準局を設定することもできる。
【0020】
ここで、請求項1に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具を地球に固定された突起物に嵌めて、GNSSアンテナの取付具を地球に固定するので、GNSSアンテナの取付具を突起物に嵌め直しても、嵌めるたびに同じ緯度と経度にGNSSアンテナの取付具を取り付けられることは言うまでもなく、嵌めるたびに同じ高さ、より正しくは嵌めるたびに同じ楕円体高にGNSSアンテナの取付具を取り付けることができる。そのため、請求項1に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具を突起物に嵌め直しても、嵌めるたびに同じ緯度と経度、楕円体高にGNSSアンテナを載置することもできる。このように、請求項1に係る発明によれば、一度測位した位置座標、より詳しくは緯度と経度のほかに楕円体高も、次からそのまま使うことができる。そこで、請求項1に係る発明によれば、実際に使われている測量機器用の三脚のようにセッティングのたびに測量して楕円体高を求め直す必要がなくなり、測量の知識がなくても自前の基準局を設定できる。
【0021】
さらに、請求項1に係る発明によれば、嵌合台の天面に、雲台の雌ねじと噛み合う雄ねじを設けたので、嵌合台に雲台をねじで留めることができる。そこで、請求項1に係る発明によれば、雲台のカメラ台が水平になるように調整して、簡単にGNSSアンテナを水平に載置することができる。このように、請求項1に係る発明によれば、雲台のカメラ台が水平になるように調整して、簡単にGNSSアンテナを水平に載置することができるので、GNSSアンテナの取付具を嵌める突起物は垂直でなくてもかまわない。そのため、請求項1に係る発明によれば、ほ場のような不陸の場所でも、GNSSアンテナの取付具を嵌める突起物さえあれば、簡単にGNSSアンテナを水平に載置することができる。
【0022】
請求項2に係る発明によれば、嵌合台の底面に設けた受け穴が、境界杭の杭頭と嵌め合うようにしたので、嵌合台を境界杭に嵌めることができる。そのため、請求項2に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具を地面に打ち込んだ境界杭に嵌めて、GNSSアンテナの取付具を地球に固定することができる。なお、前述したように、GNSSアンテナの取付具は、雲台のカメラ台が水平になるように調整して、簡単にGNSSアンテナを水平に載置することができるので、境界杭を垂直に打ち込まなくてもかまわない。そのため、請求項2に係る発明によれば、境界杭を地面に打ち込むのに特別な道具や技術がいらない。
【0023】
ここで、境界杭は、農業資材販売店やホームセンターなどで容易に入手できるので、請求項2に係る発明によれば、嵌合台を容易に入手できる境界杭に嵌めて、手軽にGNSSアンテナの取付具を地球に固定することができる。また、境界杭は、ほ場のような地面が土のままになっているような場所に容易に打ち込めるので、請求項2に係る発明によれば、嵌合台を容易に打ち込める境界杭に嵌めて、手軽にGNSSアンテナの取付具を地球に固定することもできる。
【0024】
さらに、境界杭は、もともと野外に放置されるものなので、請求項2に係る発明によれば、自前の基準局として利用しない間、GNSSアンテナの取付具を境界杭から外し、境界杭を野外に放置しても、境界杭が農作業などの邪魔になることもなく、境界杭のメンテナンスもいらない。そこで、請求項2に係る発明によれば、自前の基準局として利用しない間、GNSSアンテナの取付具を境界杭から外し、境界杭のみを野外に放置しておくことができる。
【0025】
加えて、境界杭は、杭頭の大きさや形が数タイプに規格化されているので、請求項2に係る発明によれば、嵌合台の受け穴を、杭頭の規格に合うように数タイプほど揃えると、ほとんどの境界杭に対応させることもできる。
【0026】
請求項3に係る発明によれば、GNSSアンテナの取付具を、嵌合台と雲台のほかに、雲台にねじで留めるマルチパス遮蔽盤を加えて構成したので、マルチパス遮蔽盤によって、GNSS信号が地面に反射するなどの影響で複数の異なる経路を通じてGNSSアンテナに届き、GNSS信号を乱してしまうマルチパス(多重波伝播ともいう。)を遮蔽することができる。そのため、請求項3に係る発明によれば、地面に反射するなどして乱れたGNSS信号を遮れるので、測位の精度を高めることができる。
【0027】
以上、請求項1から請求項3に係る発明に分けてこの発明の効果について説明したところ、この発明によれば、一度測位した位置座標を次からそのまま使うことができるので、次からは位置座標を入力するだけで、簡便に自前の基準局を設定できる。そのため、この発明によれば、簡便に自前の基準局を設定できるので、自前の基準局を観測点(移動局ともいう。)の近くに設定し、基線距離を短くして測位の精度を高めることができる。
【0028】
特に、この発明によれば、簡便に自前の基準局を設定できるので、半径10km以内に電子基準点がない、例えば農山村地域であっても、自前の基準局を集落内に設定して、ほ場を高精度に測位することができる。また、半径10km以内に電子基準点がある場合には、より近くに自前の基準局を設定して、ほ場をより高精度に測位することもできる。
【0029】
また、この発明によれば、簡便に自前の基準局を設定できるので、電子基準点では使用していない中華人民共和国が独自に開発した衛星測位システム(北斗衛星導航系統という。)の信号も使用して、測位の精度を高めることもできる。
【0030】
さらに、この発明によれば、簡便に自前の基準局を設定できるので、民間のGNSS補正情報配信サービスを利用しなくても、自前基準局のGNSS観測データを使って高精度な測位を行うこともできる。
【0031】
このように、この発明によれば、簡便に自前の基準局を設定できるので、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化や高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業という。)のために不可欠な、高精度な測位といった空間情報のインフラ整備に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の分解斜視図である。
【
図2】実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の使用状態を示す説明図である。
【
図3】実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の適用例を示す説明図である。
【
図4】実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の他の適用例を示す説明図である。
【
図5】実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の他の使用状態を示す説明図である。
【
図6】実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の他の用途を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
まず、この発明の創作の基礎となる事項について簡単に説明する。出願人は、我が国の農業と食品産業の発展のため、基礎から応用まで幅広い分野で研究開発を行う独立行政法人で、この分野における我が国最大の研究機関である。その中で、発明者の所属する農業環境変動研究センターは、環境変動に柔軟に対応するための応用技術や環境保全を重視した持続可能な農業生産に資する技術を開発し発信している。
【0034】
発明者の研究ユニットでは、人工衛星、航空機、ドローンなどのリモートセンシング情報と地図を利用した研究を行っている。その中で、発明者は、人工衛星などの画像データを解析して、作物の生育状態などを時系列で比較することに取り組んできた。
【0035】
発明者は、画像データを解析する中で、画像データを農業に活用するには、作物の生育経過を観察したり、作物の生育状態を過去のものと比較したりできるように、言い換えると画像データを時系列に重ねられるように、対空標識の位置座標を計測しておく必要があることに注目した。そこで、発明者は、先の発明において、ほ場のような不陸の場所でも簡単に設置でき、1台や2台の少ない台数のGNSS受信機搭載の対空標識でも、一人でも、誰でも正確な位置情報を測位できるGNSS受信機搭載の対空標識を創作した。その創作に合わせて、発明者は、「ドローンを用いたほ場計測マニュアル」と「小型GNSS受信機を用いた高精度測位マニュアル」を公開して、手軽に誤差数cmの「高精度位置情報付きほ場マップ」の作成を可能にした。
【0036】
発明者は、高精度位置情報付きほ場マップの普及に取り組む中で、これまでの研究成果では「パソコンの中でのみ、誤差数cmでほ場の観察ができるようになった」に過ぎず、研究をさらに進めて、位置情報をほ場での作業に生かせるようにしたいと考えるようになった。
【0037】
そして、発明者は、高精度位置情報付きほ場マップを参照して、実際のほ場で異常に生育した株を確認したり、その場所の土壌を採取したりするために、ほ場のような比較的狭い範囲を高精度かつ簡便に測位する技術が求められていることに着目し、ほ場の半径10km以内に自前の基準局を設定できれば、ほ場を高精度に測位できるようになると考えた。
【0038】
そこで、発明者は、一度測位した位置座標を次からそのまま使うことができれば、簡便に自前の基準局を設定できることを見いだし、この発明を創作するに至ったものである。
【0039】
次に、この発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具の分解斜視図である。
図1に示すように、高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1は、嵌合台2と、雲台3と、マルチパス遮蔽盤4とで構成されている。そして、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2の底面に設けられた受け穴2aを、地面に打ち込んだ境界杭Pに嵌めて、高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1を地球に固定するようになっている。また、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、マルチパス遮蔽盤のアンテナ載置枠4bに、図示しないGNSSアンテナを載置するようになっている。
【0040】
ここで、GNSSとは、全球測位衛星システム略語で、米国のGPSの他に、日本のみちびき、欧州のGalileo、中国の北斗衛星導航系統などがあり、複数の衛星を用いる測位システムのことである。
【0041】
嵌合台2は、先端にかぶせる物で、その底面に地球に固定された突起物の先端、ここでは地面に打ち込んだ境界杭Pと嵌め合う受け穴2aを有している。また、嵌合台2は、その天面に雲台の雌ねじ3aと噛み合う雄ねじ2bを備えている。
【0042】
雲台3は、三脚の上に取り付けて、カメラなどを上下左右に方向を変えられるように固定する装置で、ここでは、球体状の調節機構を内蔵した自由雲台である。
【0043】
マルチパス遮蔽盤(グランドプレーンともいう。)4は、GNSS信号が地面に反射するなどの影響で複数の異なる経路を通じてGNSSアンテナに届き、GNSS信号を乱してしまうマルチパス(多重波伝播ともいう。)を遮蔽するものである。マルチパス遮蔽盤4は、ここでは円盤状のもので、その下面に雲台の雄ねじ3bと噛み合う雌ねじ4aを有している。また、マルチパス遮蔽盤4は、その上面の中央にGNSSアンテナを置く位置を示すアンテナ載置枠4bが付されている。
【0044】
図1に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2の底面に、境界杭Pの杭頭と嵌め合う受け穴2aを有しているために、受け穴2aを境界杭Pの杭頭に嵌め合わせて、嵌合台2を境界杭Pに取り付けられる。また、受け穴2aを境界杭Pの杭頭から抜いて、嵌合台2を境界杭Pから取り外せる。このように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2を境界杭Pに取り外せるように嵌めているために、測位が終われば、境界杭Pから高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1を取り外して持ち帰られる。また、別のほ場を測位するときには、別のほ場に打ち込んだ境界杭Pに高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1を取り付けられる。
【0045】
また、
図1に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2の天面に、雲台の雌ねじ3aと噛み合う雄ねじ2bを備えているために、ねじを締めて、嵌合台2に雲台3を取り付けられる。また、ねじを緩めて、嵌合台2から雲台3を取り外せる。
【0046】
さらに、
図1に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、マルチパス遮蔽盤4の下面に、雲台の雄ねじ3bと噛み合う雌ねじ4aを有しているために、ねじを締めて、雲台3にマルチパス遮蔽盤4を取り付けられる。また、ねじを緩めて、雲台3からマルチパス遮蔽盤4を取り外せる。
【0047】
図2は、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1の使用状態を示す説明図である。
図2に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2を境界杭Pに取り付けられるように構成されているために、嵌合台2を地面に打ち込んだ境界杭Pに取り付けて、高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1を地球に固定できる。
【0048】
図2に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2と雲台3とマルチパス遮蔽盤4とで構成されているところ、これらには、実際に使われている測量機器用の三脚とは異なり、高さを調整する機構がないために、嵌合台2からマルチパス遮蔽盤4までの高さは常に一定である。そのため、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、境界杭Pから取り外して、再び境界杭Pに取り付けても、嵌合台2からマルチパス遮蔽盤4までの高さが変わらないために、GNSSアンテナAを前回と同じ高さに載置できる。このように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、GNSSアンテナAを前回と同じ高さに載置できるために、一度測位した位置座標、より詳しくは緯度と経度のほかに楕円体高も、次からそのまま使える。
【0049】
また、
図2に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、雲台3を有して構成されているために、雲台3を調整してマルチパス遮蔽盤4を水平にできる。そのため、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、境界杭Pが垂直に打ち込まれていなくても、雲台3を調整してGNSSアンテナを水平に置ける。
【0050】
ここで、
図2に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、境界杭Pに一度測位した位置座標を記録した2次元バーコードBを貼り付ているために、誰でも2次元バーコードBを読み取るだけで、自前の基準局を作れる。
【0051】
図3は、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1の適用例を示す説明図である。
図3に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、ねじを締めて嵌合台2に雲台3を取り付け、ねじを緩めて嵌合台2から雲台3を取り外せるように構成されているために、嵌合台2を境界杭(大)P′の杭頭と嵌め合う嵌合台(大)2′に置き換えて、嵌合台(大)2′に雲台3を取り付けて、境界杭(大)P′にも対応させられる。
【0052】
図4は、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1の他の適用例を示す説明図である。
図4に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、ねじを締めて嵌合台2に雲台3を取り付け、ねじを緩めて嵌合台2から雲台3を取り外せるように構成されているために、嵌合台2をパイプ杭P″の杭頭と嵌め合う嵌合台2″に置き換えて、嵌合台2″に雲台3を取り付けて、パイプ杭P″にも対応させられる。
【0053】
図5は、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1の他の使用状態を示す説明図である。
図5に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、橋の中央にある欄干の天面に設けられた突起物Pの先端と嵌め合うように構成されている。このように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、上空に建物や樹木などGNSS信号を妨げるものがない場所にGNSSアンテナAを置けるために、GNSS信号を受信しやすい。また、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、公有地に突起物Pを設けているために、誰でも突起物Pに高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1を取り付けて、自前の基準局を作れる。
【0054】
図6は、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1の他の用途を示す説明図である。
図6に示すように、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、マルチパス遮蔽盤4に対空標示マグネットシートSを貼り付けて、対空標示の取付具としても使える。
【0055】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は前記実施形態には限定されない。例えば、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、嵌合台2を角柱や円柱と図示したところ、突起物の先端にかぶせるように嵌め合わせられれば、嵌合台2はどのような形でもかまわない。
【0056】
また、実施形態に係る高精度測位用基準局のGNSSアンテナの取付具1では、マルチパス遮蔽盤4の上にGNSSアンテナAを載置すると説明したところ、その底面に雲台の雄ねじ3bと噛み合う雌ねじを有するGNSSアンテナAを用いて、GNSSアンテナAを雲台3に直接ねじで留めるようにしてもかまわない。
【符号の説明】
【0057】
1 高精度測位用基準局のGNSS(全球測位衛星システム)アンテナの取付具
2 嵌合台
2a 受け穴
2b 雄ねじ
3 雲台
3a 雌ねじ
3b 雄ねじ
4 マルチパス遮蔽盤(グランドプレーン)
4a 雌ねじ
4b アンテナ載置枠
P 境界杭