(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】米飯用液状品質改良剤及び米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230703BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20230703BHJP
A23L 3/3571 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A23L7/10 A
A23L3/3508
A23L3/3571
(21)【出願番号】P 2019124778
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591112371
【氏名又は名称】キユーピー醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】三 上 晃 史
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525564(JP,A)
【文献】日本調理科学会誌,2011年,vol.44, no.6,pp.359-366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23L 3/3463-3/3571
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食酢を含有し、
酢酸含有量が3.0質量%超であり、
炊飯後の米飯を以下の測定方法で測定したときのpHが6.20以下となるように添加される、
米飯用液状品質改良剤において、
酵素及び有機酸塩を含み、
前記酵素が、αアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼを含み、
Brix値が45.0%以上75.0%以下であることを特徴とする、
米飯用液状品質改良剤。
<米飯のpH測定方法>
米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえで、1気圧、品温20℃とした時にpH測定器を用いて測定した値。
【請求項2】
前記液状品質改良剤が、食塩を2質量%以上含有することを特徴とする、
請求項1に記載の液状品質改良剤。
【請求項3】
前記液状品質改良剤の酢酸含有量が、7.0質量%以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の液状品質改良剤。
【請求項4】
前記液状品質改良剤が、炊飯後の米飯の酢酸含有量が0.03質量%以上となるように添加されるものであることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の液状品質改良剤。
【請求項5】
前記食酢の酢酸含有量が10質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の液状品質改良剤。
【請求項6】
前記有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の液状品質改良剤。
【請求項7】
前記有機酸塩を2種以上含むことを特徴とする、
請求項1~6のいずれか一項に記載の液状品質改良剤。
【請求項8】
前記有機酸塩が、酢酸塩及びクエン酸塩を含むことを特徴とする、
請求項1~7のいずれか一項に記載の液状品質改良剤。
【請求項9】
米飯の製造方法であって、
米飯原料に請求項1~8のいずれか一項に記載の液状品質改良剤を添加する工程を含み、
以下の測定方法で測定したときのpHが6.20以下であることを特徴とする、
米飯の製造方法。
<米飯のpH測定方法>
米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえで、1気圧、品温20℃とした時にpH測定器を用いて測定した値。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯用液状品質改良剤に関する。また、本発明は、当該液状品質改良剤を用いる米飯の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットやコンビニエンスストア等では、様々な形態で米飯が販売されている。例えば、市販弁当の主食として容器詰めされた形態で販売されたり、当日消費用にそれだけを透明プラスチック容器に詰めた形態で販売されたりしている。これらの米飯の多くは、必要に応じて電子レンジで加熱後、そのまま食されているが、チャーハン、オムライス、雑炊等の他の米料理に手軽に応用できるため、近年、その販売量が家庭用・業務用共に増加傾向にある。
【0003】
ところで、これらの米飯は、一般的に、スーパーマーケットのバックヤードや惣菜工場等において、機械設備によって大量に製造されている。そのため、米飯の製造適性が重要になり、米飯に油を多量に添加する必要がある。また、コスト面からも歩留り向上のために炊飯時の加水を増やすため、食感が損なわれる恐れがある。また、米飯は、チルド温度帯又は常温で店頭販売されたり、流通したりしており、チルド温度帯又は常温に長時間保持された米飯においては、細菌数の増加、食感や風味の劣化といった問題の発生が懸念される。
【0004】
上記の課題を解決するために、米飯原料に、グルコースオキシダーゼ等の酸化還元酵素と、鉄含有酵母や鉄塩等の金属含有物とを添加した後に炊飯することで、炊飯米のもちもち感を増強することが提案されている(特許文献1参照)。また、米飯原料に、枝作り酵素を特定量で添加した後に炊飯することで、米飯の品質を改良することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/105112号
【文献】特開2018-117553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術は、いずれも粉末状の製剤や酵素を添加するものであり、取り扱いが煩雑であった。また、これらの技術は、米飯の微生物増殖を抑制できる日持ち機能を有するものではなかった。
【0007】
また、単に粉末状の酵素を液体に添加して、液状の米飯用品質改良剤を調整しようとしても、活性を十分に維持した状態で流通させることが難しかった。さらに、この傾向は、米飯の微生物増殖を抑制するために、前記改良剤に酢酸を多量に加えた場合には特に顕著であった。
【0008】
したがって、取り扱い易い液状でありながら、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持しつつ、同時に添加した米飯の微生物増殖も抑制できる米飯用品質改良剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して誠意検討した結果、意外にも、食酢を含み、酢酸含有量が特定量超であり、米飯のpHが一定以下となるように添加される米飯用液状品質改良剤において、酵素及び有機酸塩を含み、酵素としてαアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼを用い、液状品質改良剤のBrix値を特定の範囲内に調節することにより、上記の課題を解決できることを知見した。本発明者らは、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、
食酢を含有し、
酢酸含有量が3.0質量%超であり、
炊飯後の米飯を以下の測定方法で測定したときのpHが6.20以下となるように添加される、
米飯用液状品質改良剤において、
酵素及び有機酸塩を含み、
前記酵素が、αアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼを含み、
Brix値が45.0%以上75.0%以下であることを特徴とする、
米飯用液状品質改良剤が提供される。
<米飯のpH測定方法>
米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえで、1気圧、品温20℃とした時にpH測定器を用いて測定した値。
【0011】
本発明の態様においては、前記液状品質改良剤が、食塩を2質量%以上含有することが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記液状品質改良剤の酢酸含有量が、7.0質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記液状品質改良剤が、炊飯後の米飯の酢酸含有量が0.03質量%以上となるように添加されるものであることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記食酢の酢酸含有量が10質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、前記有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明の態様においては、前記有機酸塩を2種以上含むことが好ましい。
【0017】
本発明の態様においては、前記有機酸塩が、酢酸塩及びクエン酸塩を含むことが好ましい。
【0018】
また、本発明の別の態様によれば、
米飯の製造方法であって、
米飯原料に上記の液状品質改良剤を添加する工程を含み、
以下の測定方法で測定したときのpHが6.20以下であることを特徴とする、
米飯の製造方法が提供される。
<米飯のpH測定方法>
米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえで、1気圧、品温20℃とした時にpH測定器を用いて測定した値。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液状でありながら、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持しつつ、同時に添加した米飯の微生物増殖も抑制できる米飯用品質改良剤を提供することができる。また、本発明によれば、当該米飯用品質改良剤を用いる米飯の製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<米飯用液状品質改良剤>
本発明の液状品質改良剤は、少なくとも、特定の酵素、食酢、及び有機酸塩を含むものであり、液状でありながら、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持しつつ、同時に添加した米飯の微生物増殖も抑制することができる。本発明において、米飯の品質とは、米飯の食感、風味、または日持ち等を指すものであり、これらの少なくともいずれか一つが改善されればよい。
【0021】
(米飯)
本発明において、米飯とは、白飯や玄米を炊飯して得た米飯だけでなく、白米と大麦とを一緒に炊飯して得た麦飯、精米したもち米を炊飯又は蒸して得たおこわ等も含まれる。また、米飯には、各種炊き込みご飯、茶飯、酢飯、赤飯、栗又は豆等の具材入りご飯等の調理加工米飯も含まれる。
【0022】
(米飯のpH)
本発明において、米飯のpHとは、米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえ、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いて測定した値である。
本発明における米飯の、上記方法で測定したpHは6.20以下である。下限は好ましくは5.40以上であると、風味の面で好ましい。
【0023】
(液状品質改良剤及び米飯の酢酸含有量)
米飯用液状品質改良剤の酢酸含有量は、3.0質量%超であり、上限値は例えば、7.0質量%以下であり、下限値は好ましくは3.2質量%以上であり、より好ましくは3.5質量%以上であり、上限値は好ましくは6.8質量%以下であり、より好ましくは6.7質量%以下である。液状品質改良剤の酢酸含有量は、下記の食酢や酢酸を添加することにより調節することができる。液状品質改良剤の酢酸含有量が上記数値範囲内であれば、米飯のpHを所望の範囲内に調節し易く、米飯の微生物増殖を抑制することができる。液状品質改良剤の酢酸含有量が上記範囲を下回ると、米飯の微生物増殖を抑えるために多量に添加する必要があるため、コストの面で好ましくない。
なお、液状品質改良剤及び米飯の酢酸含有量の測定方法は、以下の方法(中和滴定法:定量式)により算出することができる。なお、米飯の酢酸含有量は、米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕し、以下の方法で算出された数値を3で乗ずればよい。
まず、液状品質改良剤または米飯粉砕物を正確に採り、イオン交換水で10倍に希釈し、その希釈液(100g)に、指示薬として3.1%フェノールフタレイン溶液を2滴加え、力価既知の0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定して、下記式により、液状品質改良剤の酢酸含有量を求める。
液状品質改良剤の酢酸含有量(質量%)={(60.05×0.1×F×V)×100}/{サンプル採取量(10g)×1000}
60.05:酢酸の分子量
0.1:水酸化ナトリウム溶液のモル濃度(mol/L)
F:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価
V:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)
【0024】
(液状品質改良剤のBrix値)
液状品質改良剤のBrix値は、45.0%以上75.0%以下であり、下限値は好ましくは48.0%以上であり、より好ましくは50.0%以上であり、さらに好ましくは55%以上であり、また上限値は好ましくは73.0%以下であり、より好ましくは70.0%以下であり、さらに好ましくは67.0%以下である。液状品質改良剤のBrix値が上記範囲を下回ると、酵素活性を十分に維持することができない。液状品質改良剤のBrix値が上記範囲を超えると、極端に高粘度となり、米飯原料と混合しづらく好ましくない。液状品質改良剤中のBrix値の調製は一般的に食品に使用されているものを配合することで調製でき、マルトース等の糖類を使用することが、風味の面で好ましい。
なお、液状品質改良剤のBrix値は、20℃で、屈折計を用いて測定した値であり、20℃のショ糖水溶液の質量百分率に相当する値である。
【0025】
(酵素)
本発明においては、酵素として、少なくとも、αアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼを用いる。米飯の添加酵素としてαアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼの2種を併用することで、米飯表面の粘り及び粒感の両方を改善することができ、舌触りが滑らかで、かつ程よい硬さを持つ、非常に好ましい品質の米飯となる。αアミラーゼのみを用いると、米飯表面の粘りを改善させることはできるが、粒感が損なわれた米飯となってしまう。一方、グルコースオキシダーゼのみを用いると、米飯の粒感を改善することはできるが、全体としてざらざらとした舌触りの悪い米飯となってしまう。
【0026】
α-アミラーゼとは、澱粉のα-1,4-結合を不規則に切断し、多糖、マルトース、オリゴ糖に分解する酵素である。米飯にα-アミラーゼを添加することで、澱粉であるアミロースを分解することにより、米飯表面の粘りを改善させることができる。なお、本発明において用いるα-アミラーゼは市販品であってもよく、酵素活性は例えば500000~10000000U/gのものを用いることができる。
【0027】
液状品質改良剤中のα-アミラーゼの含有量は、液状品質改良剤全体に対して、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。α-アミラーゼの含有量が上記数値範囲内であれば、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持することができる。
【0028】
グルコースオキシダーゼとは、グルコース、酸素、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する活性を有する酵素である。当該反応により生成された過酸化水素は、タンパク質中のSH基を酸化することでS-S結合(ジスルフィド結合)生成を促進し、タンパク質中に架橋構造を形成するものと推定している。グルコースオキシダーゼは、微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、本発明において用いるグルコースオキシダーゼは、上述の活性を有すればその起源は特に制限されず、いかなる起源のグルコースオキシダーゼであっても使用でき、また組み換え酵素を使用してもよい。米飯にグルコースオキシダーゼを添加することで、米飯の粒感を改良することができる。なお、本発明において用いるグルコースオキシダーゼは市販品であってもよく、酵素活性は例えば500~5000U/gのものを用いることができる。
【0029】
液状品質改良剤中のグルコースオキシダーゼの含有量は、液状品質改良剤全体に対して、好ましくは0.001質量%以上1質量%以下であり、より好ましくは0.003質量%以上0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上0.1質量%以下である。グルコースオキシダーゼの含有量が上記数値範囲内であれば、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持することができる。
【0030】
(食酢)
本発明の液状品質改良剤は、食酢を含むものである。酢酸を含有する原料として食品由来の食酢を使用することで、米飯本来の風味を損なうことなく、微生物の増殖を抑えることができる。食酢としては、米、麦芽、酒粕等の穀類、ブドウ、リンゴ等の果実、タマネギ、ニンジン、トマト等の野菜、その他農産物、アルコール等を酢酸発酵させたものである。このような食酢としては、例えば、米酢、黒酢、五穀酢、ワインビネガー、リンゴ酢、及びトマト酢等が挙げられる。これらの食酢は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
食酢の酢酸含有量は特に限定されないが、例えば、10質量%以上20質量%以下であり、下限値は好ましくは13質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、また、上限値は好ましくは19質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下である。なお、本発明において用いる食酢は市販品であってもよい。なお、食酢の酢酸含有量は、上述の液状品質改良剤の酢酸含有量の測定方法と同様にして測定することができる。
【0032】
液状品質改良剤中の食酢の含有量は、液状品質改良剤全体に対して、好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上45質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上40質量%以下である。食酢の含有量が上記数値範囲内であれば、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持しつつ、同時に添加した米飯の微生物増殖も抑制することができる。
【0033】
(有機酸塩)
本発明の液状品質改良剤は、有機酸塩を含むものである。有機酸塩としては、酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、及びグルコン酸塩等の有機酸の塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等)が挙げられる。これらの中でも、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等を用いることが好ましく、さらに酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムを用いると米飯の品質改良の点で好ましい。これらの有機酸塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
液状品質改良剤中の有機酸塩の含有量は、液状品質改良剤全体に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上12質量%以下である。有機酸塩の含有量が上記数値範囲内であれば、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持しつつ、同時に添加した米飯の微生物増殖も抑制することができる。
【0035】
(他の原料)
液状品質改良剤は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で液状品質改良剤に通常用いられている各種原料を適宜選択して配合することができる。他の原料としては、例えば、酢酸、アミノ酸、食塩、甘味料、増粘剤等が挙げられる。これらの中でも、液状品質改良剤は、液状品質改良剤全体の質量に対して、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上10質量%以下、より好ましくは4質量%以上8質量%以下の食塩を含むことが好ましい。食塩の含有量が上記数値範囲内であれば、米飯の品質を改善する酵素活性を十分に維持することができる。
【0036】
(液状品質改良剤の調製方法)
液状品質改良剤の調製方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。例えば、攪拌タンクに、清水、酵素、食酢、有機酸塩、及び食塩や甘味料等の他の原料を投入して、ミキサーを用いて均一に混合することにより、液状品質改良剤を調製することができる。
【0037】
(製造装置)
本発明の液状品質改良剤の調製には、通常の食品製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な攪拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー等が挙げられる。攪拌機の攪拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【0038】
<米飯の製造方法>
本発明の米飯の製造方法は、米飯原料に上記の液状品質改良剤を添加する工程を含むものである。得られる米飯の、上記方法で測定したpHが6.20以下となるように、上記の液状品質改良剤の添加量を適宜調節すればよい。また、液状品質改良剤は、炊飯後の米飯の酢酸含有量が0.03質量%以上となるように添加されることが好ましい。
【0039】
続いて、液状品質改良剤を添加した米飯原料を炊飯する工程を行うことで、米飯を得ることができる。炊飯の方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。さらに、得られた米飯を容器や包装材に収容または包装する工程を行ってもよい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0041】
<米飯用液状品質改良剤の調製>
表1及び2に記載の配合割合に準じて、米飯用液状品質改良剤を調製した。具体的には、攪拌タンクに、マルトース、食酢(酢酸含有量15質量%)、食塩、有機酸塩としてクエン酸ナトリウム及び/又は酢酸ナトリウム及び/又はリンゴ酸ナトリウム及び/又は乳酸ナトリウム、酵素としてαアミラーゼ(500000~5000000U/g)及び/又はグルコースオキシダーゼ(1000~2000U/g)、50%酢酸、清水を投入して、ミキサーを用いて均一に混合することにより、液状品質改良剤を調製した。得られた各米飯用液状品質改良剤について、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いてpHを測定したところ、pHはいずれも3.5~5.5であった。
また、それぞれの液状品質改良剤について、αアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼの酵素活性を表1及び2に示した。
【0042】
(酢酸含有量の測定)
液状品質改良剤の酢酸含有量の測定方法は、以下の方法(中和滴定法:定量式)により算出した。まず、液状品質改良剤を正確に採り、イオン交換水で10倍に希釈し、その希釈液(100g)に、指示薬として3.1%フェノールフタレイン溶液を2滴加え、力価既知の0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定して、下記式により、液状品質改良剤の酢酸含有量を求めた。結果を表1及び2に示した。
液状品質改良剤の酢酸含有量(質量%)={(60.05×0.1×F×V)×100}/{サンプル採取量(10g)×1000}
60.05:酢酸の分子量
0.1:水酸化ナトリウム溶液のモル濃度(mol/L)
F:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価
V:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)
【0043】
(Brix値の測定)
液状品質改良剤のBrix値は、デジタル屈折計(株式会社アタゴ製デジタル屈折計RX-7000i)を用い、20℃に温度調整して測定した。結果を表1及び2に示した。
【0044】
【0045】
【0046】
<米飯の製造>
市販の生米を洗米、水切りした後、生米の質量に対して1.5倍量の清水を加えて、常温で1時間浸漬した。その後、上記で調製し、4℃、21日間保存した液状品質改良剤を、生米の質量に対して2.0質量%の割合となるように加え、全体が均一になるように十分に混合した。続いて、炊飯ジャーにより、常法に従い炊飯を行った。
【0047】
実施例1の液状品質改良剤については、別途、生米の質量に対して5.0質量%の割合となるように加えた以外は同様にして炊飯を行った(実施例1-2)。
実施例5の液状品質改良剤については、別途、生米の質量に対して1.0質量%、及び1.3質量%の割合となるように加えた以外は同様にして炊飯を行った(実施例5-2、5-3)。
【0048】
<米飯のpH、酢酸含有量測定>
米飯1質量部に対しイオン交換水を2質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえで、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いてpHを測定した。結果を表3及び4に示した。
また、米飯の酢酸含有量は、比較例1を除き0.03質量%以上であった。
【0049】
<米飯の官能評価>
上記で炊飯した米飯の食感について、訓練されたパネルにより、下記の基準で官能評価を行った。評価結果を表3及び4に示した。なお、下記の評価は、評価が3点以上であれば、良好な結果であるといえる。なお対照区とは、液状品質改良剤を加えることなく、上記と同様の方法で炊飯した米飯を指す。
[米飯の食感の評価基準]
4:対照区と比較し、米飯表面の粘り及び米飯の粒感のどちらも著しく改善されており、食感が非常に好ましかった。
3:対照区と比較し、米飯表面の粘り及び米飯の粒感のどちらも改善されており、食感が好ましかった。
2:対照区と比較し、米飯表面の粘りまたは米飯の粒感のどちらかが改善されておらず、食感改善が十分ではなかった。
1:対照区と比較し、米飯表面の粘り及び米飯の粒感のどちらも改善されておらず、食感が同等であった。
【0050】
<米飯の日持ち評価>
上記で炊飯した米飯の質量に対し、添加菌(バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis))を約10個/gとなるように、培養液を希釈したものを加えた後、25℃で48時間の培養を行った。その後、標準寒天培地に接種し、さらに35℃で48時間培養した後のコロニー数を測定した。評価結果を表3及び4に示した。
○:菌添加試験後の菌数が105cfu以下であった。
×:菌添加試験後の菌数が105cfu超であった。
【0051】
<酵素活性残存率評価>
[α‐アミラーゼ]
(使用試薬及び試液)
1)0.2mol/L酢酸緩衝液:
酢酸ナトリウム(3水和物)13.6gを水に溶かして500mLとし、0.2mol/L酢酸溶液を用いてpH5.7に調整した。
2)ヨウ素試液:
水に0.05Mヨウ素溶液5mL、25%ヨウ化カリウム溶液0.4mLを加え、20mLとした。このヨウ素・ヨウ化カリウム溶液5mLに6N塩酸を5.8mL加え、水で250mLにした。
3)1.0%溶性デンプン溶液:
溶性デンプン(メルク社製、分析用特級試薬)2gを精密に量り、105℃で4時間加熱し、あらかじめ乾燥減量を測定した。乾燥物2gに相当する溶性デンプンを精密に量り、約20mLの水に懸濁した。この懸濁液を沸騰水約100mL中に徐々に加え溶かした後、30秒間穏やかに煮沸した。放冷後、上記で調製した0.5mol/L酢酸緩衝液(pH6.0)40mLを加え、水で200mLとした。
4)基質液:
上記で調製した1.0%溶性デンプン溶液10mLに水1mLを加えて混和し、その液0.1mLをとり、上記で調製したヨウ素試液10mL中に入れ、直ちに混和して得られた空試験溶液の吸光度を波長620nmで測定し、吸光度0.9~1.0を示した1.0%溶性デンプン溶液を選び、基質液として用いた。
【0052】
(活性測定法)
基質液10mLを正確にとり、40℃の振とう恒温槽で10分間振とうした後、これに質量で20倍、イオン交換水を用い希釈した液状品質改良剤1mLを正確に加え、直ちに振りまぜた後、40℃で振とうした。反応開始より1分間経過ごとに、0.1mLを分取し、あらかじめ用意したヨウ素試液10mL中に入 れ、直ちに混和して試験溶液とした。試験溶液の青色が消失し、赤色に変色したときの吸光度Atを波長620nmで測定した。空試験溶液は試料溶液の代わりに水1mLを用い、試験溶液と同様に操作して吸光度Abを測定した。Ab及びAtを用い、次式より酵素活性を求めた。単位は、酵素1gが基質液(溶性デンプン)のヨウ素による青色を1分間に10%減少させる酵素活性を1U/gとした。
酵素活性(U/g)=(Ab-At)/Ab × 100/10 × 1/t × 1/w
t:反応時間(分)
w:20倍希釈した液状品質改良剤1mL中の酵素の量(g)
【0053】
[グルコースオキシダーゼ]
グルコースを基質として、酸素存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることで過酸化水素を生成させ、生成した過酸化水素にアミノアンチピリン及びフェノール存在下でペルオキシダーゼを作用させることで生成したキノンイミン色素が呈する色調を、波長500nmで測定し定量する。1分間に1μmolのグルコースを酸化するのに必要な酵素量を1U(ユニット)と定義した。これを、酵素の量(g)で除した数字を、酵素活性(U/g)とした。
【0054】
液状品質改良剤調整直後及び保存後(4℃、21日間)のものについて、上記方法を用いて、α‐アミラーゼ及びグルコースオキシダーゼそれぞれの酵素活性を算出し、保存後の酵素活性を調整直後の酵素活性で除したものを、酵素活性残存率とし、以下の基準で評価した。評価結果を表3及び4に示した。
【0055】
[酵素活性残存率の評価基準]
○:α‐アミラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、両方の酵素活性残存率が80%以上100%以下であった。
△:α‐アミラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、両方の酵素活性残存率が50%以上であり、どちらか、または両方の酵素活性残存率が80%未満であった。
×:α‐アミラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、どちらかの酵素の残存率が50%未満であった。
【0056】
実施例1~16の米飯用液状品質改良剤はいずれも、炊飯後米飯の食感の評価基準が4点であり、米飯の日持ち評価、及び酵素活性残存率評価についても良好な結果となった。
比較例1の米飯用液状品質改良剤は、酢酸含有量が3.0質量%であり、また、炊飯後の米飯のpHが6.2を上回っており、炊飯後米飯の日持ち評価が悪かった。
比較例2の米飯用液状品質改良剤は、αアミラーゼの酵素活性残存率は80%以上100%以下であったが、グルコースオキシダーゼを全く配合していないため、炊飯後米飯は、対照区と比較すると表面の粘りは改善されたが粒感が損なわれたものとなり、好ましくなかった。
比較例3の米飯用液状品質改良剤は、グルコースオキシダーゼの酵素活性残存率は80%以上100%以下であったが、αアミラーゼを全く配合していないため、炊飯後米飯は、対照区と比較すると粒感が改善したが、全体としてざらざらとした舌触りが悪いものとなり、好ましくなかった。
比較例4の米飯用液状品質改良剤は、Brix値が45%を下回るため、αアミラーゼ及びグルコースオキシダーゼの酵素活性を十分に維持することができなかった。
【0057】
【0058】