(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20230703BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230703BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 B
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2021070590
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】橋本 良知
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公彦
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 崇之
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0166270(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0163725(US,A1)
【文献】特開2020-188279(JP,A)
【文献】特開2020-056104(JP,A)
【文献】特開2019-192793(JP,A)
【文献】特開2019-121777(JP,A)
【文献】特表2022-500867(JP,A)
【文献】特表2020-534683(JP,A)
【文献】特表2020-515082(JP,A)
【文献】特表2019-500756(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199570(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する工程と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる工程と、
(c)(a)を行う前に、前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する工程と、
(d)(c)を行った後、(a)を行う前に、前記第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する工程と、
を有する基板処理方法。
【請求項2】
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する工程と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる工程と、
(c)(a)を行う前に、前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する工程と、
(e)(c)を行う前に、前記第1材料および前記第2材料の表面における自然酸化膜を除去する工程
と、
を有す
る基板処理方法。
【請求項3】
(a)を行う前の前記第1材料の表面における水酸基終端の量は、(a)を行う前の前記第2材料の表面における水酸基終端の量よりも多い
請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
(a)を行う前の前記第2材料の表面には水酸基終端が形成されていない
請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項5】
(c)では、前記基板に対して反応物質を供給し、前記第1材料の表面を酸化させて前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する
請求項1~4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
(c)では、前記第2材料の表面が酸化されて前記第2材料の表面に水酸基終端が形成され、
(d)では、前記基板を加熱し、前記第2材料の表面に形成された酸化物を昇華させることで、前記第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する
請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項7】
(d)では、前記第1材料の表面に形成された水酸基終端を残留させつつ、前記第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する
請求項1または6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
(e)(c)を行う前に、前記第1材料および前記第2材料の表面における自然酸化膜を除去する工程を、さらに有する請求項1、6、7のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
(b)では、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させることで、前記凹部内に前記膜をボトムアップ成長させて、前記凹部内を前記膜により埋め込む請求項1~
8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
(b)では、
(b1)前記基板に対して前記成膜物質として原料を供給する工程と、
(b2)前記基板に対して前記成膜物質として反応体を供給する工程と、
を
含むサイクルを所定回数行う請求項1~
9のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(b1)および(b2)のうち少なくもともいずれかでは、前記基板に対して前記成膜物質として、さらに、触媒を供給する
請求項10に記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記第2材料は、さらに、前記第1元素を含む請求項1~
11のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記第1元素はシリコンであり、前記第2元素はゲルマニウムである請求項1~
12のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記第1材料はシリコンであり、前記第2材料はシリコンゲルマニウムである請求項1~
13のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
(b)では、前記膜として、シリコン、酸素、および炭素を含む膜を成長させる請求項1~
14のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する工程と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる工程と、
(c)(a)を行う前に、前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する工程と、
(d)(c)を行った後、(a)を行う前に、前記第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項17】
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する工程と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる工程と、
(c)(a)を行う前に、前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する工程と、
(e)(c)を行う前に、前記第1材料および前記第2材料の表面における自然酸化膜を除去する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項18】
基板
に対して前駆物質を供給する前駆物質供給系と、
基板に対して成膜物質を供給する成膜物質供給系と、
基板に対して反応物質を供給する反応物質供給系と、
基板を加熱するヒータと、
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前記前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する処理と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、前記成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる処理と、
(c)(a)を行う前に、前記基板に対して前記反応物質を供給して前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する処理と、
(d)(c)を行った後、(a)を行う前に、前記基板を加熱して前記第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する処理と、
を行わせるように、前記前駆物質供給系
、前記成膜物質供給系
、前記反応物質供給系、および前記ヒータを制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項19】
基板に対して前駆物質を供給する前駆物質供給系と、
基板に対して成膜物質を供給する成膜物質供給系と、
基板に対して反応物質を供給する反応物質供給系と、
基板に対してエッチング剤を供給するエッチング剤供給系と、
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前記前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する処理と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、前記成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる処理と、
(c)(a)を行う前に、前記基板に対して前記反応物質を供給して前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する処理と、
(e)(c)を行う前に、前記基板に対して前記エッチング剤を供給して前記第1材料および前記第2材料の表面における自然酸化膜を除去する処理と、
を行わせるように、前記前駆物質供給系、前記成膜物質供給系、前記反応物質供給系、および前記エッチング剤供給系を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項20】
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する手順と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる手順と、
(c)(a)を行う前に、前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する手順と、
(d)(c)を行った後、(a)を行う前に、前記第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項21】
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する手順と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる手順と、
(c)(a)を行う前に、前記第1材料の表面に水酸基終端を形成する手順と、
(e)(c)を行う前に、前記第1材料および前記第2材料の表面における自然酸化膜を除去する手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板の表面上に膜を形成する処理が行われることがある。この場合において、基板の表面に設けられた凹部内を埋め込むように膜を形成することがある(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-183218号公報
【文献】特開2017-069407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、凹部内を膜で埋め込む際の埋め込み特性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
(a)上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が前記第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられた基板に対して、前駆物質を供給することで、前記凹部の前記第1材料の表面に前記前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、前記第1材料の表面に成膜抑制層を形成する工程と、
(b)前記第1材料の表面に前記成膜抑制層が形成された前記基板に対して、成膜物質を供給することで、前記凹部の前記第2材料の表面上に膜を成長させる工程と、
を行う技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、凹部内を膜で埋め込む際の埋め込み特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を
図1のA-A線断面図で示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラ121の概略構成図であり、コントローラ121の制御系をブロック図で示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一態様における処理シーケンスを示す図である。
【
図5】
図5(a)は、表面に、第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造が設けられ、その上に絶縁膜が設けられ、積層構造の側壁のうち第2材料(SiGe)により構成された部分の一部が除去されることで、積層構造の側壁に、深さ方向が基板の表面と平行な方向(横方向)となる凹部が設けられた基板の表面における断面部分拡大図である。
図5(b)は、
図5(a)における構成を表面に有する基板に対して、本態様における処理シーケンスにより、シリコン酸炭化膜(SiOC)を形成する処理を行っている途中の基板の表面における断面部分拡大図である。
図5(c)は、
図5(a)における構成を表面に有する基板に対して、本態様における処理シーケンスにより、シリコン酸炭化膜(SiOC)を形成する処理を行った後の基板の表面における断面部分拡大図である。
図5(d)は、
図5(a)における構成を表面に有する基板に対して、本態様における処理シーケンスにより、シリコン酸炭化膜(SiOC)を形成する処理を行った後に、アニールを行った後の基板の表面における断面部分拡大図である。
【
図6】
図6(a)は、表面に、第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造が設けられ、その上に絶縁膜が設けられ、積層構造の側壁のうち第2材料(SiGe)により構成された部分の一部が除去されることで、積層構造の側壁に、深さ方向が基板の表面と平行な方向(横方向)となる凹部が設けられた基板の表面における断面部分拡大図である。
図6(b)は、
図6(a)における構成を表面に有する基板に対して、従来のコンベンショナルな成膜手法により、シリコン酸炭化膜(SiOC)を形成する処理を行った後の基板の表面における断面部分拡大図である。
図6(c)は、
図6(b)における構成を表面に有する基板に対して、エッチング処理を行うことで、凹部の上面等に形成された余分な膜を除去した後の基板の表面における断面部分拡大図である。
【
図7】
図7は、実施例における評価サンプル1の断面TEM画像である。
【
図8】
図8は、実施例における評価サンプル2の断面TEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、
図1~
図4、
図5(a)~
図5(d)を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0009】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は温度調整器(加熱部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0010】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO2)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の下方には、反応管203と同心円状に、マニホールド209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により構成され、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部は、反応管203の下端部に係合しており、反応管203を支持するように構成されている。マニホールド209と反応管203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。反応管203はヒータ207と同様に垂直に据え付けられている。主に、反応管203とマニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成される。処理容器の筒中空部には処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0011】
処理室201内には、第1~第3供給部としてのノズル249a~249cが、マニホールド209の側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a~249cを、それぞれ第1~第3ノズルとも称する。ノズル249a~249cは、例えば石英またはSiC等の耐熱性材料により構成されている。ノズル249a~249cには、ガス供給管232a~232cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cはそれぞれ異なるノズルであり、ノズル249a,249cのそれぞれは、ノズル249bに隣接して設けられている。
【0012】
ガス供給管232a~232cには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a~241cおよび開閉弁であるバルブ243a~243cがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232d,232fがそれぞれ接続されている。ガス供給管232bのバルブ243bよりも下流側には、ガス供給管232e,232gがそれぞれ接続されている。ガス供給管232cのバルブ243cよりも下流側には、ガス供給管232hが接続されている。ガス供給管232d~232hには、ガス流の上流側から順に、MFC241d~241hおよびバルブ243d~243hがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232hは、例えば、SUS等の金属材料により構成されている。
【0013】
図2に示すように、ノズル249a~249cは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a~249cは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。平面視において、ノズル249bは、処理室201内に搬入されるウエハ200の中心を挟んで後述する排気口231aと一直線上に対向するように配置されている。ノズル249a,249cは、ノズル249bと排気口231aの中心とを通る直線Lを、反応管203の内壁(ウエハ200の外周部)に沿って両側から挟み込むように配置されている。直線Lは、ノズル249bとウエハ200の中心とを通る直線でもある。すなわち、ノズル249cは、直線Lを挟んでノズル249aと反対側に設けられているということもできる。ノズル249a,249cは、直線Lを対称軸として線対称に配置されている。ノズル249a~249cの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a~250cがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a~250cは、それぞれが、平面視において排気口231aと対向(対面)するように開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a~250cは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0014】
ガス供給管232aからは、前駆物質(前駆物質ガス)が、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0015】
ガス供給管232bからは、成膜物質(成膜ガス)の1つである原料(原料ガス)が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0016】
ガス供給管232cからは、成膜物質(成膜ガス)の1つであり、反応物質の1つでもある反応体(反応ガス)が、MFC241c、バルブ243c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給される。
【0017】
ガス供給管232dからは、成膜物質(成膜ガス)の1つであり、反応物質の1つでもある触媒(触媒ガス)が、MFC241d、バルブ243d、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0018】
ガス供給管232eからは、エッチング剤(エッチングガス)が、MFC241e、バルブ243e、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0019】
ガス供給管232f~232hからは、不活性ガスが、それぞれMFC241f~241h、バルブ243f~243h、ガス供給管232a~232c、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ供給される。不活性ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0020】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、前駆物質供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232c、MFC241c、バルブ243cにより、反応体供給系が構成される。主に、ガス供給管232d、MFC241d、バルブ243dにより、触媒供給系が構成される。主に、ガス供給管232e、MFC241e、バルブ243eにより、エッチング剤供給系が構成される。主に、ガス供給管232f~232h、MFC241f~241h、バルブ243f~243hにより、不活性ガス供給系が構成される。原料供給系、反応体供給系のそれぞれ或いは全てを成膜物質供給系とも称する。原料供給系、反応体供給系、触媒供給系のそれぞれ或いは全てを成膜物質供給系とも称する。反応体供給系、触媒供給系のそれぞれ或いは全てを反応物質供給系とも称する。
【0021】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243hやMFC241a~241h等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232hのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232h内への各種物質(各種ガス)の供給動作、すなわち、バルブ243a~243hの開閉動作やMFC241a~241hによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232h等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0022】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気口231aが設けられている。
図2に示すように、排気口231aは、平面視において、ウエハ200を挟んでノズル249a~249c(ガス供給孔250a~250c)と対向(対面)する位置に設けられている。排気口231aは、反応管203の側壁の下部より上部に沿って、すなわち、ウエハ配列領域に沿って設けられていてもよい。排気口231aには排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、APCバルブ244、圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0023】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0024】
マニホールド209の下方には、シールキャップ219を降下させボート217を処理室201内から搬出した状態で、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシャッタ219sが設けられている。シャッタ219sは、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シャッタ219sの上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220cが設けられている。シャッタ219sの開閉動作(昇降動作や回動動作等)は、シャッタ開閉機構115sにより制御される。
【0025】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が多段に支持されている。
【0026】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0027】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。また、コントローラ121には、外部記憶装置123を接続することが可能となっている。
【0028】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理における各手順をコントローラ121によって、基板処理装置に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0029】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241h、バルブ243a~243h、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115、シャッタ開閉機構115s等に接続されている。
【0030】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すことが可能なように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241hによる各種物質(各種ガス)の流量調整動作、バルブ243a~243hの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、シャッタ開閉機構115sによるシャッタ219sの開閉動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0031】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやSSD等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0032】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200の表面に設けられた凹部内を埋め込むように、凹部内に膜を形成する処理シーケンス例について、主に、
図4、
図5(a)~
図5(d)を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0033】
なお、
図5(a)に示すように、ウエハ200の表面には、上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された、深さ方向がウエハ200の表面と平行な方向(横方向)となる凹部が設けられている。
図5(a)では、第1元素がシリコン(Si)であり、第2元素がゲルマニウム(Ge)であり、第1材料がシリコン(Si)であり、第2材料がシリコンゲルマニウム(SiGe)である例を示している。すなわち、この例では、第2材料は、第1元素の他、さらに第2元素を含む。また、ウエハ200は単結晶Siにより構成される。すなわち、ウエハ200は第1元素を含む。
【0034】
より具体的には、ウエハ200の表面には、第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造が設けられ、その上に絶縁膜(Insulator)が設けられている。すなわち、ウエハ200の表面には、シリコンゲルマニウム(SiGe)膜とシリコン(Si)膜とが交互に積層されてなる積層構造が設けられ、その上に絶縁膜(Insulator)が設けられている。SiGe膜とSi膜との積層構造の側壁のうちSiGe膜により構成された部分の一部が除去されることで、その積層構造の側壁に、上面および側面が第1材料(Si)により構成され、底面が第2材料(SiGe)により構成された、深さ方向がウエハ200の表面と平行な方向(横方向)となる凹部が設けられている。なお、本明細書では、
図5(a)に示すように、凹部のうち第2材料(SiGe)により構成された部分を底面と称し、それを基準として、凹部のうち第1材料(Si)により構成され、底面と接し、その底面に対して垂直に設けられる部分を側面と称し、凹部のうち第1材料(Si)により構成され、底面と接することなく、その底面と平行に設けられる部分を上面と称する。
【0035】
図4に示す処理シーケンスは、
上面および側面が第1元素を含む第1材料により構成され、底面が第1元素とは異なる第2元素を含む第2材料により構成された凹部が表面に設けられたウエハ200に対して、前駆物質を供給することで、凹部の第1材料の表面に前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、第1材料の表面に成膜抑制層を形成するステップAと、
第1材料の表面に成膜抑制層が形成されたウエハ200に対して、成膜物質を供給することで、凹部の第2材料の表面上に膜を成長させるステップBと、を有する。
【0036】
図4に示すように、ステップBでは、
ウエハ200に対して成膜物質として原料を供給するステップB1と、
ウエハ200に対して成膜物質として反応体として酸化剤を供給するステップB2と、
を非同時に行うサイクルを所定回数行う。これにより、凹部の底面を起点として膜を成長させ、凹部内に膜をボトムアップ成長させて、凹部内を膜により埋め込む。
【0037】
このとき、ステップB1およびステップB2のうち少なくもともいずれかでは、ウエハ200に対して成膜物質として、さらに、触媒を供給するようにしてもよい。
図4では、ステップB1およびステップB2のそれぞれにおいて、ウエハ200に対して成膜物質として、さらに、触媒を供給する例を示している。
【0038】
また、
図4に示す処理シーケンスは、ステップAを行う前に、ウエハ200に対して反応物質として酸化剤を供給し、第1材料の表面を酸化させて第1材料の表面に水酸基終端を形成するステップCを、さらに有する。このとき、第2材料の表面も酸化されて第2材料の表面にも水酸基終端が形成される。
【0039】
また、
図4に示す処理シーケンスは、ステップCを行った後、ステップAを行う前に、ウエハ200を加熱し、アニール(以下、ANLとも称する)を行うことで、第2材料の表面に形成された酸化物を昇華させることで、第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去するステップDを、さらに有する。このとき、第1材料の表面に形成された水酸基終端を残留させつつ、第2材料の表面に形成された水酸基終端を除去する。これにより、ステップAを行う前の第1材料の表面には水酸基終端が形成され、ステップAを行う前の第2材料の表面には、水酸基終端が形成されていないか、もしくは、第1材料の表面における水酸基終端の量よりも遥かに少ない量の水酸基終端が形成されることとなる。以下、水酸基終端をOH終端とも称する。
【0040】
また、
図4に示す処理シーケンスは、ステップCを行う前に、ウエハ200に対してエッチング剤を供給し、第1材料および第2材料の表面における自然酸化膜を除去するステップEを、さらに有する。
【0041】
また、
図4に示す処理シーケンスは、ステップBを行った後に、ウエハ200を加熱し、熱処理を行うことで、凹部内を埋め込むように形成された膜に対して後処理、すなわち、ポストトリートメント(以下、PTとも称する)を行うステップFを、さらに有する。
【0042】
なお、本態様では、第1元素がSiであり、第2元素がGeであり、第1材料がSiであり、第2材料がSiGeであり、ステップBにおいて、膜として、シリコン(Si)、酸素(O)、および炭素(C)を含む膜の一つであるシリコン酸炭化膜(SiOC膜)、または、シリコン(Si)および酸素(O)を含む膜の一つであるシリコン酸化膜(SiO膜)を成長させる例について説明する。
【0043】
本明細書では、上述の処理シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の変形例や他の態様等の説明においても、同様の表記を用いる。
【0044】
エッチング剤→酸化剤→ANL→前駆物質→(原料+触媒→酸化剤+触媒)×n→PT
【0045】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0046】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、シャッタ開閉機構115sによりシャッタ219sが移動させられて、マニホールド209の下端開口が開放される(シャッタオープン)。その後、
図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。
【0047】
(圧力調整および温度調整)
処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。処理室201内の排気、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0048】
(ステップE:自然酸化膜除去)
その後、ウエハ200に対してエッチング剤を供給する。
【0049】
具体的には、バルブ243eを開き、ガス供給管232e内へエッチング剤(エッチングガス)を流す。エッチング剤は、MFC241eにより流量調整され、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対してエッチング剤が供給される(エッチング剤供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0050】
後述する処理条件下でウエハ200に対してエッチング剤を供給することにより、ウエハ200の表面に形成された自然酸化膜を除去することができる。すなわち、ウエハ200の表面の第1材料および第2材料の表面における自然酸化膜を除去することができる。具体的には、ウエハ200の表面に設けられた上面および側面が第1材料(Si)により構成され、底面が第2材料(SiGe)により構成された、深さ方向がウエハ200の表面と平行な方向(横方向)となる凹部の表面おける自然酸化膜を除去することができる。
【0051】
ウエハ200の表面に形成された自然酸化膜を除去した後、バルブ243eを閉じ、処理室201内へのエッチング剤の供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。ノズル249a~249cより供給される不活性ガスは、パージガスとして作用し、これにより、処理室201内がパージされる(パージ)。
【0052】
エッチング剤供給における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~200℃、好ましくは50~150℃
処理圧力:10~13332Pa、20~1333Pa
エッチング剤供給流量:0.5~5slm、好ましくは0.5~2slm
エッチング剤供給時間:1~120分、好ましくは1~60分
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0053】
パージにおける処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~500℃
処理圧力:1~30Pa
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0.5~20slm
不活性ガス供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
が例示される。
【0054】
なお、本明細書における「25~200℃」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「25~200℃」とは「25℃以上200℃以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。また、本明細書における処理温度とはウエハ200の温度または処理室201内の温度のことを意味し、処理圧力とは処理室201内の圧力のことを意味する。また、ガス供給流量:0slmとは、そのガスを供給しないケースを意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0055】
エッチング剤としては、例えば、フッ素(F)含有ガスを用いることができる。F含有ガスとしては、例えば、フッ化水素(HF)ガス、フッ素(F2)ガス等を用いることができる。エッチング剤としては、これらの他、例えば、HF水溶液等を用いることもできる。すなわち、エッチング剤は、ガス状物質であってもよく、液体状物質であってもよい。また、エッチング剤は、ミスト状物質等の液体状物質であってもよい。エッチング剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0056】
不活性ガスとしては、窒素(N2)ガスや、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。この点は、後述する各ステップにおいても同様である。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0057】
(ステップC:酸化)
その後、ウエハ200に対して、反応物質として酸化剤(酸化ガス)を供給する。
【0058】
具体的には、バルブ243cを開き、ガス供給管232c内へ反応物質として反応体の1つである酸化剤を流す。酸化剤は、MFC241cにより流量調整され、ノズル249cを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して酸化剤が供給される(酸化剤供給)。このとき、バルブ243dを開き、ガス供給管232d内へ触媒を流すようにしてもよい。この場合、触媒は、MFC241dにより流量調整され、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、処理室201内で酸化剤と混合されて、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して触媒と酸化剤との混合物(混合ガス)が供給される。また、このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0059】
後述する処理条件下でウエハ200に対して酸化剤、または、酸化剤と触媒との混合物を供給することにより、自然酸化膜を除去した後のウエハ200の表面における第1材料(Si)の表面を酸化させて第1材料(Si)の表面にOH終端を形成することができる。第1材料(Si)の表面には、シリコン酸化膜(SiO膜)等の酸化膜(酸化物)が形成され、その表面にOH終端が形成されることとなる。なお、ウエハ200に対して酸化剤と触媒との混合物を供給することで、低温下において酸化レートを高めることができる。しかしながら、酸化レートを低下させる必要がある場合や、温度によって酸化レートを調整する場合等においては、触媒の供給を省略することができる。
【0060】
このとき、ウエハ200の表面における第2材料(SiGe)の表面も酸化されて第2材料(SiGe)の表面にもOH終端が形成される。第2材料(SiGe)の表面には、ゲルマニウム酸化膜(GeO膜)やシリコンゲルマニウム酸化膜(SiGeO膜)等の酸化膜(酸化物)が形成され、その表面にOH終端が形成されることとなる。
【0061】
ウエハ200の表面における第1材料(Si)の表面にOH終端を形成した後、バルブ243dを閉じ、処理室201内への酸化剤の供給を停止する。このとき、同時に触媒を供給していた場合は、バルブ243dを閉じ、処理室201内への触媒の供給も停止する。そして、ステップEにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0062】
酸化剤供給における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは室温~300℃
処理圧力:1~101325Pa、好ましくは1~13332Pa
酸化剤供給流量:0.1~10slm、好ましくは0.5~5slm
酸化剤供給時間:1~120分、好ましくは1~60分
触媒供給流量:0~10000sccm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0063】
酸化剤としては、例えば、酸素(O)含有ガスや、酸素(O)及び水素(H)含有ガスを用いることができる。O含有ガスとしては、例えば、酸素(O2)ガス、オゾン(O3)ガス、亜酸化窒素(N2O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO2)ガス、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO2)ガス等を用いることができる。O及びH含有ガスとしては、例えば、水蒸気(H2Oガス)、過酸化水素(H2O2)、水素(H2)ガス+酸素(O2)ガス、H2ガス+オゾン(O3)ガス等を用いることもできる。なお、O及びH含有ガスは、O含有ガスでもある。酸化剤としては、これらの他、洗浄液、例えば、アンモニア水と過酸化水素水と純水を含む洗浄液を用いるようにしてもよい。すなわち、APM洗浄により酸化を行うようにしてもよい。この場合、ウエハ200を洗浄液に暴露することで酸化を行うことができる。これらのように、酸化剤は、ガス状物質であってもよく、液体状物質であってもよい。また、酸化剤は、ミスト状物質等の液体状物質であってもよい。酸化剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0064】
触媒としては、例えば、炭素(C)、窒素(N)、および水素(H)を含むアミン系ガスを用いることができる。アミン系ガスとしては、例えば、ピリジン(C5H5N)ガス、アミノピリジン(C5H6N2)ガス、ピコリン(C6H7N)ガス、ルチジン(C7H9N)ガス、ピペラジン(C4H10N2)ガス、ピペリジン(C5H11N)ガス等の環状アミン系ガスや、トリエチルアミン((C2H5)3N、略称:TEA)ガス、ジエチルアミン((C2H5)2NH、略称:DEA)ガス等の鎖状アミン系ガスを用いることができる。この点は、後述するステップBにおいても同様である。
【0065】
(ステップD:ANL)
第1材料(Si)の表面にOH終端を形成した後、上述のように処理室201内のパージを行う。このパージと並行してウエハ200を加熱し、アニールを行う。なお、上述のように、ウエハ200の加熱は、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われることから、酸化剤や触媒の供給を停止すると、アニールが開始されることとなる。
【0066】
後述する処理条件下でウエハ200に対してアニールを行うことで、第2材料(SiGe)の表面に形成されたGeO等の酸化物を昇華させることができ、これにより、第2材料(SiGe)の表面に形成されたOH終端を除去することができる。
【0067】
このとき、第2材料(SiGe)だけでなく、第1材料(Si)も同様に加熱されるが、第1材料(Si)の表面に形成されたSiO膜等の酸化膜は強固なSi-O結合を有することから、後述する処理条件下では昇華することはない。すなわち、アニールを行っても、第1材料(Si)の表面に形成されたOH終端を除去することなく維持(保持)することができる。
【0068】
このように、ステップDにおけるアニール処理では、第1材料(Si)の表面に形成されたSiO膜等の酸化膜を残留(維持)させつつ、第2材料(SiGe)の表面に形成されたGeO等の酸化物を除去することができる。すなわち、ステップDにおけるアニール処理では、第1材料(Si)の表面に形成されたOH終端を残留(維持)させつつ、第2材料(SiGe)の表面に形成されたOH終端を除去することができる。なお、第2材料(SiGe)の表面に形成されたOH終端の全てが除去されず、そのごく一部が残留する場合もある。
【0069】
これらにより、ステップAを行う前の第1材料(Si)の表面は、その表面にOH終端が形成された状態となる。また、ステップAを行う前の第2材料(SiGe)の表面は、その表面にOH終端が形成されていない状態となるか、もしくは、その表面に第1材料(Si)の表面におけるOH終端の量よりも遥かに少ない量のOH終端が形成された状態となる。すなわち、ステップAを行う前の第1材料(Si)の表面におけるOH終端の量(密度、濃度)は、第2材料(SiGe)の表面におけるOH終端の量(密度、濃度)よりも多く(高く)なる。
【0070】
アニール(ANL)における処理条件としては、
処理温度:100~500℃、好ましくは100~300℃
処理圧力:1~13332Pa、好ましくは1~1333Pa
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
アニール時間:1~120分、好ましくは1~60分
が例示される。
【0071】
(ステップA:成膜抑制層形成)
その後、ウエハ200に対して、前駆物質を供給する。
【0072】
具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へ前駆物質を流す。前駆物質は、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して前駆物質が供給される(前駆物質供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0073】
後述する処理条件下でウエハ200に対して前駆物質を供給することにより、ウエハ200の表面における凹部の第1材料(Si)および第2材料(SiGe)のうち第1材料(Si)の表面に、選択的に(優先的に)、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、第1材料(Si)の表面に、選択的に(優先的に)、成膜抑制層を形成することができる。具体的には、第2材料(SiGe)の表面への前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の吸着を抑制しつつ、第1材料(Si)の表面を終端するOH基と前駆物質とを反応させて、第1材料(Si)の表面に、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を、選択的に吸着させることが可能となる。これにより、第1材料(Si)の表面を、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部により終端させることが可能となる。前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部としては、例えば、トリメチルシリル基(Si-Me3)やトリエチルシリル基(Si-Et3)等のトリアルキルシリル基を例示することができる。これらの場合、トリメチルシリル基やトリエチルシリル基のSiが第1材料(Si)の表面に吸着し、第1材料(Si)の最表面が、メチル基やエチル基などのアルキル基により終端されることとなる。第1材料(Si)の表面を終端した前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部、例えば、メチル基(トリメチルシリル基)やエチル基(トリエチルシリル基)等のアルキル基(アルキルシリル基)は、後述する成膜処理(選択成長)において、第1材料(Si)の表面への原料の吸着を防ぎ、第1材料(Si)の表面上での成膜反応の進行を阻害する成膜阻害層(成膜抑制層)、すなわち、インヒビターとして作用する。
【0074】
なお、本ステップでは、第2材料(SiGe)の表面の一部に、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が吸着することもあるが、その吸着量は僅かであり、第1材料(Si)の表面への吸着量の方が圧倒的に多くなる。このような選択的(優先的)な吸着が可能となるのは、本ステップにおける処理条件を処理室201内において前駆物質が気相分解しない条件としているためである。また、第1材料(Si)の表面が、その全域にわたりOH終端されているのに対し、第2材料(SiGe)の表面の多くの領域がOH終端されていないためである。本ステップでは、処理室201内において前駆物質が気相分解しないことから、第1材料(Si)の表面および第2材料(SiGe)の表面には、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が多重堆積することはなく、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部は、第1材料(Si)の表面に選択的に吸着し、これにより第1材料(Si)の表面が選択的に、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部により終端されることとなる。
【0075】
第1材料(Si)の表面に、選択的に、成膜抑制層を形成した後、バルブ243aを閉じ、処理室201内への前駆物質の供給を停止する。そして、ステップEにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0076】
前駆物質供給における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは室温~250℃
処理圧力:5~1000Pa
前駆物質供給流量:1~3000sccm、好ましくは1~500sccm
前駆物質供給時間:1秒~120分、好ましくは30秒~60分
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0077】
前駆物質としては、例えば、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む物質を用いることができる。前駆物質における第1官能基は、第1材料(Si)の表面における吸着サイト(例えば、OH終端)への前駆物質の化学吸着を可能とする官能基であることが好ましい。第1官能基としては、アミノ基を含むことが好ましく、置換アミノ基を含むことが好ましい。前駆物質が、アミノ基(好ましくは置換アミノ基)を含む場合、第1材料(Si)の表面への前駆物質の化学吸着量を多くすることができる。特に、第1材料(Si)の表面への吸着性の観点から、前駆物質が有する第1官能基は、全て、置換アミノ基であることが好ましい。
【0078】
置換アミノ基が有する置換基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。置換アミノ基が有するアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。置換アミノ基が有するアルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。置換アミノ基が有する置換基の数は、1又は2であるが、2であることが好ましい。置換アミノ基が有する置換基の数が2である場合、2つの置換基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0079】
前駆物質における第1官能基の数は、2以下であることが好ましく、1であることがより好ましい。なお、前駆物質が複数の第1官能基を有する場合、それぞれが同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0080】
前駆物質における第2官能基は、第1材料(Si)の最表面を成膜阻害領域に改質することが可能な官能基であることが好ましい。第2官能基は、化学的に安定な官能基であることが好ましく、炭化水素基であることがより好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。中でも、炭化水素基としてはアルキル基が好ましい。特に、化学的な安定性が高い観点から、前駆物質が有する第2官能基は、全て、アルキル基であることが好ましい。
【0081】
第2官能基としてのアルキル基は、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。置換アミノ基が有するアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。置換アミノ基が有するアルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0082】
前駆物質における第2官能基の数は1以上の整数であればよい。前駆物質における第1官能基の数が1である場合、前駆物質における第2官能基の数は3であることが好ましい。また、前駆物質における第1官能基の数が2である場合、前駆物質における第2官能基の数は2であることが好ましい。前駆物質が有する複数の第2官能基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0083】
前駆物質において、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としては、炭素(C)原子、シリコン(Si)原子、ゲルマニウム(Ge)原子、4価の金属原子等が挙げられる。ここで、4価の金属原子としては、チタン(Ti)原子、ジルコニウム(Zr)原子、ハフニウム(Hf)原子、モリブデン(Mo)原子、タングステン(W)原子等が挙げられる。なお、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子は、4価の金属原子の他、4つ以上の配位子と結合可能な金属原子であってもよい。この場合、第2官能基の数を増やすことができ、インヒビターとして強い効果を発揮することもできる。
【0084】
これらの中でも、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としては、C原子、Si原子、Ge原子が好ましい。これは、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子として、C原子、Si原子、Ge原子のいずれかを用いる場合、第1材料(Si)の表面への前駆物質の高い吸着性、および、第1材料(Si)の表面への吸着後の前駆物質すなわち前駆物質由来の残基の高い化学的安定性のうち、少なくともいずれかの特性を得ることができるからである。これらの中でも、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としては、Si原子がより好ましい。これは、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としてSi原子を用いる場合、第1材料(Si)の表面への前駆物質の高い吸着性、および、第1材料(Si)の表面への吸着後の前駆物質すなわち前駆物質由来の残基の高い化学的安定性の両方の特性をバランスよく得ることができるからである。第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子には、上述のように、第1官能基及び第2官能基が直接結合しているが、これら以外に、水素(H)原子、または、第3官能基が結合していてもよい。
【0085】
第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子に結合する第3官能基としては、第1官能基及び第2官能基として上述された官能基以外の官能基であればよい。第3官能基としては、例えば、C原子、Si原子、Ge原子、4価の金属原子、4つ以上の配位子と結合可能な金属原子、O原子、窒素(N)原子、およびH原子のうち2つ以上を適宜組み合わせて構成される官能基が挙げられる。
【0086】
前駆物質は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含むが、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を2つ以上含んでいてもよい。以降、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を、便宜上、原子Xとも称する。
【0087】
前駆物質は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した4価の原子を含む構造を有することが好ましい。中でも、前駆物質は、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合した4価の原子を含む構造を有することがより好ましい。その中でも、前駆物質は、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合したSiを1つ含む構造を有することが特に好ましい。すなわち、前駆物質は、中心原子としてのSiに、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合した構造を有することが特に好ましい。
【0088】
前駆物質は、1分子中に1つのアミノ基を含む構造を有することが好ましい。中でも、前駆物質は、1分子中に1つのアミノ基と少なくとも1つのアルキル基とを含む構造を有することがより好ましい。その中でも、前駆物質は、1分子中に1つのアミノ基と3つのアルキル基とを含む構造を有することが更に好ましい。また、前駆物質は、中心原子であるSiに1つのアミノ基が結合した構造を有することが好ましい。中でも、前駆物質は、中心原子であるSiに1つのアミノ基と少なくとも1つのアルキル基とが結合した構造を有することがより好ましい。その中でも、前駆物質は、中心原子であるSiに1つのアミノ基と3つのアルキル基とが結合した構造を有することが更に好ましい。なお、アミノ基は、上述の通り、置換アミノ基であることが好ましい。置換アミノ基が有する置換基については上述の通りである。
【0089】
前駆物質としては、例えば、下記式1で表される化合物を用いることが好ましい。
【0090】
式1 : [R1]n1-(X)-[R2]m1
式1中、R1はXに直接結合する第1官能基を表し、R2はXに直接結合する第2官能基又はH原子を表し、Xは、C原子、Si原子、Ge原子、及び4価の金属原子からなる群より選択される4価の原子を表し、n1は1又は2を表し、m1は2又は3を表す。
【0091】
R1で表される第1官能基は、上述の第1官能基と同義であり、好ましい例も同様である。n1が2である場合、2つあるR1は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。R2で表される第2官能基は、上述の第2官能基と同義であり、好ましい例も同様である。m1が2又は3である場合、2つ又は3つあるR2は、1つ又は2つがH原子であり、残りが第2官能基であってもよく、全てが第2官能基であってもよい。2つ又は3つあるR2の全てが第2官能基である場合、全ての第2官能基は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。Xで表される4価の原子としては、Si原子が好ましい。n2としては、1が好ましい。m2としては、3が好ましい。
【0092】
前駆物質としては、例えば、(ジメチルアミノ)トリメチルシラン((CH3)2NSi(CH3)3、略称:DMATMS)、(ジエチルアミノ)トリエチルシラン((C2H5)2NSi(C2H5)3、略称:DEATES)、(ジメチルアミノ)トリエチルシラン((CH3)2NSi(C2H5)3、略称:DMATES)、(ジエチルアミノ)トリメチルシラン((C2H5)2NSi(CH3)3、略称:DEATMS)、(トリメチルシリル)アミン((CH3)3SiNH2、略称:TMSA)、(トリエチルシリル)アミン((C2H5)3SiNH2、略称:TESA)、(ジメチルアミノ)シラン((CH3)2NSiH3、略称:DMAS)、(ジエチルアミノ)シラン((C2H5)2NSiH3、略称:DEAS)等を用いることができる。
【0093】
また、前駆物質としては、例えば、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン([(CH3)2N]2Si(CH3)2、略称:BDMADMS)、ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン([(C2H5)2N]2Si(C2H5)2、略称:BDEADES)、ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン([(CH3)2N]2Si(C2H5)2、略称:BDMADES)、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン([(C2H5)2N]2Si(CH3)2、略称:BDEADMS)、ビス(ジメチルアミノ)シラン([(CH3)2N]2SiH2、略称:BDMAS)、ビス(ジメチルアミノジメチルシリル)エタン([(CH3)2N(CH3)2Si] 2C2H6、略称:BDMADMSE)、ビス(ジプロピルアミノ)シラン([(C3H7)2N]2SiH2、略称:BDPAS)、ビス(ジプロピルアミノ)ジメチルシラン([(C3H7)2N]2Si(CH3)2、略称:BDPADMS)、ビス(ジプロピルアミノ)ジエチルシラン([(C3H7)2N]2Si(C2H5)2、略称:BDPADES)、(ジメチルシリル)ジアミン((CH3)2Si(NH2)2、略称:DMSDA)、(ジエチルシリル)ジアミン((C2H5)2Si(NH2)2、略称:DESDA)、(ジプロピルシリル)ジアミン((C3H7)2Si(NH2)2、略称:DESDA)、ビス(ジメチルアミノジメチルシリル)メタン([(CH3)2N(CH3)2Si]2CH2、略称:BDMADMSM)、ビス(ジメチルアミノ)テトラメチルジシラン([(CH3)2N]2(CH3)4Si2、略称:BDMATMDS)等を用いることもできる。
【0094】
これらは、いずれも、Siにアミノ基とアルキル基とが直接結合した構造を有する有機系化合物である。これらの化合物を、アミノアルキル化合物またはアルキルアミノ化合物と称することもできる。なお、前駆物質は、ガス状物質であってもよく、液体状物質であってもよい。また、前駆物質は、ミスト状物質等の液体状物質であってもよい。前駆物質としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0095】
(ステップB:成膜処理(選択成長))
その後、次のステップB1,B2を順次実行する。なお、これらのステップでは、ヒータ207の出力を調整し、ウエハ200の温度を、ステップAにおけるウエハ200の温度以下とした状態、好ましくは、ステップAにおけるウエハ200の温度よりも低くした状態を維持する。
【0096】
[ステップB1]
このステップでは、処理室201内のウエハ200、すなわち、第1材料(Si)の表面に、選択的に、成膜抑制層を形成した後のウエハ200に対して、成膜物質として、原料(原料ガス)および触媒(触媒ガス)を供給する。
【0097】
具体的には、バルブ243b,243dを開き、ガス供給管232b内へ原料を、ガス供給管232d内へ触媒をそれぞれ流す。原料、触媒は、それぞれ、MFC241b,241dにより流量調整され、ノズル249b,249aを介して処理室201内へ供給され、処理室201内で混合されて、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して原料および触媒が供給される(原料+触媒供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0098】
後述する処理条件下でウエハ200に対して原料と触媒とを供給することにより、原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の第1材料(Si)の表面への化学吸着を抑制しつつ、原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を第2材料(SiGe)の表面に、選択的(優先的)に、化学吸着させることが可能となる。これにより、第2材料(SiGe)の表面に、選択的に(優先的に)、第1層が形成される。第1層は、原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を含む。すなわち、第1層は、原料を構成する原子の少なくとも一部を含む。
【0099】
本ステップでは、触媒を原料とともに供給することにより、上述の反応を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で進行させることが可能となる。このように、第1層の形成を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で行うことにより、第1材料(Si)の表面に形成された成膜抑制層を構成する分子や原子を、第1材料(Si)の表面から消滅(脱離)させることなく維持することが可能となる。
【0100】
また、第1層の形成を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で行うことにより、処理室201内において原料が熱分解(気相分解)、すなわち、自己分解しないようにすることができ、第1材料(Si)および第2材料(SiGe)の表面に、原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が多重堆積することを抑制することができ、原料を第2材料(SiGe)の表面に選択的に吸着させることが可能となる。
【0101】
第2材料(SiGe)の表面に第1層を選択的に形成した後、バルブ243b,243dを閉じ、処理室201内への原料、触媒の供給をそれぞれ停止する。そして、ステップEにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにおいてパージを行う際の処理温度は、原料および触媒を供給する際の処理温度と同様とすることが好ましい。
【0102】
原料+触媒供給における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~120℃、好ましくは室温~90℃
処理圧力:133~1333Pa
原料供給流量:1~2000sccm
触媒供給流量:1~2000sccm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
各ガス供給時間:1~60秒
が例示される。
【0103】
なお、本ステップでは、第1層を形成する際、第1材料(Si)の表面の一部に原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が吸着することもあるが、その吸着量は、ごく僅かであり、第2材料(SiGe)の表面への原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の吸着量よりも遥かに少量となる。このような選択的(優先的)な吸着が可能となるのは、本ステップにおける処理条件を、上記のように低い温度条件であって、処理室201内において原料が気相分解しない条件としているためである。また、第1材料(Si)の表面の全域にわたり成膜抑制層が形成されているのに対し、第2材料(SiGe)の表面の多くの領域に成膜抑制層が形成されていないためである。
【0104】
原料としては、例えば、Si及びハロゲン含有ガスを用いることができる。ハロゲンには、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が含まれる。Si及びハロゲン含有ガスは、ハロゲンを、Siとハロゲンとの化学結合の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスは、更に、Cを含んでいてもよく、その場合、CをSi-C結合の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、例えば、Si、Clおよびアルキレン基を含み、Si-C結合を有するシラン系ガス、すなわち、アルキレンクロロシラン系ガスを用いることができる。アルキレン基には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が含まれる。アルキレンクロロシラン系ガスは、ClをSi-Cl結合の形で含み、CをSi-C結合の形で含むことが好ましい。
【0105】
Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、ビス(トリクロロシリル)メタン((SiCl3)2CH2、略称:BTCSM)ガス、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン((SiCl3)2C2H4、略称:BTCSE)ガス等のアルキレンクロロシラン系ガスや、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン((CH3)2Si2Cl4、略称:TCDMDS)ガス、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラメチルジシラン((CH3)4Si2Cl2、略称:DCTMDS)ガス等のアルキルクロロシラン系ガスや、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロブタン(C2H4Cl4Si2、略称:TCDSCB)ガス等のSiとCとで構成される環状構造およびハロゲンを含むガスを用いることができる。また、Si及びハロゲン含有ガスとしては、テトラクロロシラン(SiCl4、略称:STC)ガス、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6、略称:HCDS)ガス、オクタクロロトリシラン(Si3Cl8、略称:OCTS)ガス等の無機クロロシラン系ガスを用いることもできる。原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。なお、原料は、ガス状物質であってもよく、液体状物質であってもよい。また、原料は、ミスト状物質等の液体状物質であってもよい。
【0106】
また、原料としては、Siおよびハロゲン含有ガスの代わりに、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]4、略称:4DMAS)ガス、トリス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]3H、略称:3DMAS)ガス、ビス(ジエチルアミノ)シラン(Si[N(C2H5)2]2H2、略称:BDEAS)ガス、ビス(ターシャリーブチルアミノ)シラン(SiH2[NH(C4H9)]2、略称:BTBAS)ガス、(ジイソプロピルアミノ)シラン(SiH3[N(C3H7)2]、略称:DIPAS)ガス等のアミノシラン系ガスを用いることもできる。原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0107】
触媒としては、例えば、上述のステップCで例示した各種触媒と同様の触媒を用いることができる。
【0108】
[ステップB2]
ステップB1が終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、第2材料(SiGe)の表面に、選択的に、第1層を形成した後のウエハ200に対して、成膜物質として、酸化剤(酸化ガス)および触媒(触媒ガス)を供給する。
【0109】
具体的には、バルブ243c,243dを開き、ガス供給管232c内へ酸化剤を、ガス供給管232d内へ触媒をそれぞれ流す。酸化剤、触媒は、それぞれ、MFC241c,241dにより流量調整され、ノズル249c,249aを介して処理室201内へ供給され、処理室201内で混合されて、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して酸化剤および触媒が供給される(酸化剤+触媒供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0110】
後述する処理条件下でウエハ200に対して酸化剤と触媒とを供給することにより、ステップB1で第2材料(SiGe)の表面に形成された第1層の少なくとも一部を酸化させることが可能となる。これにより、第2材料(SiGe)の表面に、第1層が酸化されてなる第2層が形成される。
【0111】
本ステップでは、触媒を酸化剤とともに供給することにより、上述の反応を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で進行させることが可能となる。このように、第2層の形成を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で行うことにより、第1材料(Si)の表面に形成された成膜抑制層を構成する分子や原子を、第1材料(Si)の表面から消滅(脱離)させることなく維持することが可能となる。
【0112】
第2材料(SiGe)の表面に形成された第1層を酸化させて第2層へ変化(変換)させた後、バルブ243c,243dを閉じ、処理室201内への酸化剤、触媒の供給をそれぞれ停止する。そして、ステップEにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにおいてパージを行う際の処理温度は、酸化剤および触媒を供給する際の処理温度と同様とすることが好ましい。
【0113】
酸化剤+触媒供給における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~120℃、好ましくは室温~100℃
処理圧力:133~1333Pa
酸化剤供給流量:1~2000sccm
触媒供給流量:1~2000sccm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
各ガス供給時間:1~60秒
が例示される。
【0114】
酸化剤としては、例えば、上述のステップCで例示した各種酸化剤と同様の酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、上述のステップCで例示した各種触媒と同様の触媒を用いることができる。
【0115】
[所定回数実施]
上述のステップB1,B2を非同時に、すなわち、同期させることなく行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、
図5(b)に示すように、ウエハ200の表面における凹部の第1材料(Si)および第2材料(SiGe)のうち第2材料(SiGe)の表面に、選択的に(優先的に)、膜を成長させることができる。例えば、上述の原料、酸化剤、触媒を用いる場合、第2材料(SiGe)の表面に、膜として、SiOC膜またはSiO膜を、選択的に、成長させることができる。上述のサイクルは、複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成される第2層の厚さを所望の膜厚よりも薄くし、第2層を積層することで形成される膜の膜厚が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すことが好ましい。
【0116】
上述のサイクルを複数回繰り返すことで、ウエハ200の表面における凹部の底面を構成する第2材料(SiGe)の表面を起点として、凹部の開口部側に向かって、膜を成長させることができる。このとき、凹部の上面および側面を構成する第1材料(Si)の表面には、成膜抑制層が形成されていることから、第1材料(Si)の表面を起点とした膜の成長を抑制することができる。すなわち、上述のサイクルを複数回繰り返すことで、凹部の上面および側面を起点とした膜の成長を抑制しつつ、凹部の底面を起点とした膜の成長を促進させることができ、凹部内に膜をボトムアップ成長させて、
図5(c)に示すように、凹部内を膜(SiOC)により埋め込むことが可能となる。
【0117】
なお、ステップB1,B2を実施する際、
図5(b)および
図5(c)に示すように、第1材料(Si)の表面に形成された成膜抑制層は、上述のように第1材料(Si)の表面に維持されることから、第1材料(Si)の表面を起点とした膜の成長を抑制することができる。ただし、何らかの要因により、第1材料(Si)の表面への成膜抑制層の形成が不十分となる場合等においては、第1材料(Si)の表面を起点とした膜の成長が、ごく僅かに生じる場合もある。ただし、この場合であっても、第1材料(Si)の表面を起点として形成される膜の厚さは、第2材料(SiGe)の表面を起点として形成される膜の厚さに比べて、遥かに薄くなる。よって、その場合であっても、上述のボトムアップ成長による凹部内の埋め込みを適正に行うことができる。
【0118】
(ステップF:PT)
成膜処理が終了した後、ウエハ200を加熱し、熱処理を行うことで、凹部内を埋め込むように形成された膜に対して、ポストトリートメント(PT)を行う。このとき、処理室201内の温度、すなわち、凹部内を埋め込むように膜が形成された後のウエハ200の温度を、ステップAやステップBにおけるウエハ200の温度以上とするように、好ましくは、ステップAやステップBにおけるウエハ200の温度よりも高くするように、ヒータ207の出力を調整する。PTを行うことにより、凹部内を埋め込むように形成された膜に含まれる不純物の除去や、欠陥の修復を行うことができる。また、PTにより、
図5(d)に示すように、第1材料(Si)の表面、すなわち、凹部の上面や、凹部の側面と膜(SiOC)との界面における成膜抑制層の残基や残渣を脱離させることができる。なお、このステップを、処理室201内へ不活性ガスを供給した状態で行ってもよく、酸化剤(酸化ガス)等の反応性物質を供給した状態で行ってもよい。酸化剤等の反応性物質を供給する場合、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面における成膜抑制層の残基や残渣を脱離させる効果を高めることが可能となる。この場合の不活性ガスや酸化剤(酸化ガス)等の反応性物質をアシスト物質とも称する。
【0119】
ポストトリートメント(PT)における処理条件としては、
処理温度:120~1000℃、好ましくは400~700℃
処理圧力:1~120000Pa
処理時間:1~18000秒
アシスト物質供給流量:0~50slm
が例示される。
【0120】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
成膜処理が終了し、PTが完了した後、ノズル249a~249cのそれぞれからパージガスとしての不活性ガスを処理室201内へ供給し、排気口231aより排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0121】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、マニホールド209の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態でマニホールド209の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。ボートアンロードの後は、シャッタ219sが移動させられ、マニホールド209の下端開口がOリング220cを介してシャッタ219sによりシールされる(シャッタクローズ)。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0122】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0123】
(a)ウエハ200に対して前駆物質を供給し、ウエハ200の表面における凹部の第1材料(Si)の表面に成膜抑制層を形成するステップAと、第1材料の表面に成膜抑制層が形成されたウエハ200に対して成膜物質を供給し、凹部の第2材料(SiGe)の表面上に膜を成長させるステップBと、を行うことにより、凹部の上面および側面を起点とした膜の成長を抑制しつつ、凹部の底面を起点とした膜の成長を促進させることができる。これにより、凹部内に膜をボトムアップ成長させることができ、膜中にボイドやシームを生じさせることなく、凹部内を膜により埋め込むことが可能となる。すなわち、凹部内にボイドフリーかつシームレスな膜を形成することが可能となり、埋め込み特性を向上させることが可能となる。
【0124】
(b)凹部の上面および側面を起点とした膜の成長を抑制しつつ、凹部の底面を起点とした膜の成長を促進させることにより、凹部の上面に膜を成長させることなく、凹部内を膜により埋め込むことができる。これにより、
図5(c)に示すように、成膜処理が終了した時点において、凹部の上面に膜(SiOC)が形成されていない状態を作り出すことができる。すなわち、成膜処理が終了した時点で、ウエハ200の表面における第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造の側壁における凹部内を膜(SiOC)により埋め込み、その側壁をフラットにすることができる。これにより、従来必要であった、成膜処理後に、凹部の上面等に形成された余分な膜をエッチングにより除去する工程を省略することが可能となる。
【0125】
なお、上述のように、第1材料の表面に成膜抑制層を形成したにもかかわらず、何らかの要因により、第1材料の表面を起点とした膜の成長が、ごく僅かに生じる場合もある。この場合においては、凹部の上面等に形成された余分な膜をエッチングする工程が必要となる場合もある。しかしながら、その場合であっても、凹部の上面等に形成される余分な膜は、上述のように、ごく僅かであり、余分な膜をエッチングする工程における負荷を大幅に低減させ、エッチングに要する時間を大幅に短縮させることが可能となる。
【0126】
一方、ステップBだけを行うような従来のコンベンショナルな成膜手法により、凹部内をSiOC膜等の膜により埋め込む場合、
図6(b)に示すように、ウエハ200の表面における第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造の側壁の全体に膜(SiOC)が形成される。その際、
図6(b)に示すように、凹部の形状に起因して、形成される膜中にボイドまたはシーム(以下、ボイド)が形成されることがある。この場合において、第2材料と第1材料とが交互に積層されてなる積層構造の側壁における凹部内を膜により埋め込み、その側壁をフラットにするには、凹部の上面等に形成された余分な膜をエッチングする工程を行う必要がある。例えば、
図6(b)における構成を表面に有する基板に対して、凹部の上面等に形成された余分な膜をエッチングする工程を行うと、
図6(c)に示すように、凹部の上面に膜が形成されていない状態を作り出すことができる。しかしながら、この場合、
図6(c)に示すように、成膜の際に膜中に形成されたボイドが維持され、場合によってはエッチングによりボイドがより深くなり、第2材料と第1材料とが交互に積層されてなる積層構造の側壁をフラットにすることができないことがある。また、従来のコンベンショナルな成膜手法を用いる場合、余分な膜をエッチングする工程を行うことが必須となり、トータルでの処理時間が長期化し、生産性が低下することとなる。
【0127】
これに対して、本態様によれば、凹部の上面への膜の成長を抑制しつつ、凹部内にボイドフリーかつシームレスな膜を形成することができ、さらに、成膜処理が終了した時点で、第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造の側壁における凹部内を膜(SiOC)により埋め込んだ状態とすることができ、その側壁をフラットにすることができる。これにより、従来のコンベンショナルな成膜手法において必須であった、成膜処理後に、凹部の上面等に形成された余分な膜をエッチングにより除去する工程を省略することが可能となる。仮に、第1材料の表面に成膜抑制層を形成したにもかかわらず、何らかの要因により、第1材料の表面を起点とした膜の成長が、ごく僅かに生じる場合であっても、凹部の上面等に形成される余分な膜は、ごく僅かであり、余分な膜をエッチングする工程における負荷を大幅に低減させ、エッチングに要する時間を大幅に短縮させることが可能となる。すなわち、本態様によれば、ボイドフリーかつシームレスな埋め込みが可能となり、埋め込み特性を向上させることが可能となるだけでなく、余分な膜をエッチングする工程の省略、もしくは、余分な膜をエッチングする工程の負荷低減により、トータルでの処理時間を短縮させることができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0128】
(c)ステップAを行う前のウエハ200の表面における凹部の第1材料の表面にOH終端が形成されている状態とすることで、凹部の第1材料の表面への前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の吸着を促進させることができ、第1材料の表面に成膜抑制層を適正に形成することが可能となる。また、その場合において、ステップAを行う前の第1材料(Si)の表面におけるOH終端の量(密度、濃度)が、第2材料(SiGe)の表面におけるOH終端の量(密度、濃度)よりも多く(高く)なる状態とすることで、凹部の第1材料および第2材料のうち第1材料の表面に、選択的に(優先的に)、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、第1材料の表面に、選択的に(優先的に)、成膜抑制層を形成することができる。なお、ステップAを行う前の第2材料の表面にOH終端が形成されていない状態とすることもでき、その場合、第1材料の表面への前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の選択的な吸着や、第1材料の表面への成膜抑制層の選択的な形成における選択性を高めることが可能となる。
【0129】
(d)ステップAを行う前に、ウエハ200の表面における凹部の第1材料の表面にOH終端を形成するステップCを行うようにすることで、凹部の第1材料の表面への前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の吸着を促進させることができ、第1材料の表面に成膜抑制層を適正に形成することが可能となる。ステップCでは、ウエハ200に対して反応物質として、例えば酸化剤を供給し、第1材料の表面を酸化させることで、第1材料の表面へのOH終端の形成を効率的に制御性よく行うことが可能となる。この場合、ステップCでは、第2材料の表面にもOH終端が形成されるが、ステップCを行った後、ステップAを行う前に、第2材料の表面に形成されたOH終端を除去するステップDを行うことで、第2材料の表面にOH終端が形成されていない状態を作り出すことができる。なお、ステップDでは、ウエハ200を加熱してアニールすることで、第1材料(Si)の表面に形成されたSiO等の酸化膜を残留(維持)させつつ、第2材料(SiGe)の表面に形成されたGeO等の酸化物を、選択的に、昇華させて除去することができる。すなわち、ステップDでは、ウエハ200を加熱するだけで、第1材料(Si)の表面に形成されたOH終端を残留(維持)させつつ、第2材料(SiGe)の表面に形成されたOH終端を、選択的に、除去することができる。
【0130】
これにより、ステップAを行う前の第1材料(Si)の表面におけるOH終端の量(密度、濃度)を、第2材料(SiGe)の表面におけるOH終端の量(密度、濃度)よりも多く(高く)することができ、凹部の第1材料および第2材料のうち第1材料の表面に、選択的に(優先的に)、前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を吸着させて、第1材料の表面に、選択的に(優先的に)、成膜抑制層を形成することができる。なお、ステップDにおけるアニールを十分に行うことで、ステップAを行う前の第2材料の表面にOH終端が形成されていない状態とすることもでき、その場合、第1材料の表面への前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の選択的な吸着や、第1材料の表面への成膜抑制層の選択的な形成における選択性を高めることが可能となる。
【0131】
(e)ステップCを行う前に、ウエハ200の表面の凹部の第1材料および第2材料の表面における自然酸化膜を除去するステップEを行うことで、第1材料および第2材料の表面に不均一に形成される可能性のある酸化膜を除去することができ、それにより、第1材料および第2材料の表面に不均一に形成される可能性のあるOH終端を除去することができる。その後、ステップCを行うことで、第1材料の表面を均一に酸化させることができ、第1材料の表面に均一に酸化膜を形成することができる。結果として、第1材料の表面に、OH終端を均一に形成することができる。これにより、ステップAにおいて、凹部の第1材料の表面への前駆物質を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を、より均一に吸着させることができ、第1材料の表面に成膜抑制層を、より均一に形成することが可能となる。
【0132】
(f)ステップBが終了した後、ウエハ200の温度を、ステップAやステップBにおけるウエハ200の温度以上として、好ましくは、ステップAやステップBにおけるウエハ200の温度よりも高くして、凹部内を埋め込むように形成された膜に対して、ポストトリートメント(PT)を行うことにより、凹部内を埋め込むように形成された膜に含まれる不純物の除去や、欠陥の修復を行うことができる。さらに、第1材料の表面、すなわち、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面における成膜抑制層の残基や残渣を脱離させることができる。このとき、処理室201内へ不活性ガスを供給した状態で行ってもよく、酸化剤(酸化ガス)等の反応性物質を供給した状態で行ってもよい。酸化剤等の反応性物質を供給する場合、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面における成膜抑制層の残基や残渣を脱離させる効果を高めることが可能となる。
【0133】
(g)各ステップにおける各反応をノンプラズマの雰囲気下で進行させることができ、各ステップにおいて、過剰な反応を抑制し、反応の制御性を高めることができる。また、各ステップを、ノンプラズマの雰囲気下で行うことから、ウエハ200へのプラズマダメージを回避することができ、本手法のプラズマダメージを懸念する工程への適用も可能となる。
【0134】
(4)変形例
本態様における基板処理シーケンスは、以下に示す変形例のように変更することができる。これらの変形例は、任意に組み合わせることができる。特に説明がない限り、各変形例の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の基板処理シーケンスの各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0135】
(変形例1)
以下に示す処理シーケンスのように、ウエハ200の表面状態によっては、ステップE(自然酸化膜除去)を省略するようにしてもよい。例えば、ウエハ200の表面に、
図5(a)における第2材料(SiGe)と第1材料(Si)とが交互に積層されてなる積層構造を形成した後、ウエハ200の表面を、大気暴露しない場合や、大気暴露量が少ない場合や、大気暴露時間が短い場合等においては、第1材料の表面や第2材料の表面が適正な表面状態にある場合がある。このような場合は、ステップEを省略することができ、処理シーケンスを、ステップC(酸化)から開始することが可能となる。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、ステップEを省略することで、トータルでの処理時間を短縮させることができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0136】
酸化剤→ANL→前駆物質→(原料+触媒→酸化剤+触媒)×n→PT
【0137】
(変形例2)
以下に示す処理シーケンスのように、ウエハ200の表面状態によっては、ステップE(自然酸化膜除去)およびステップC(酸化)を省略するようにしてもよい。例えば、ウエハ200の表面における第1材料(Si)と第2材料(SiGe)との表面に酸化膜が均一に形成されている場合は、ステップE,Cを省略することができ、処理シーケンスを、ステップD(ANL)から開始することが可能となる。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、ステップE,Cを省略することで、トータルでの処理時間を短縮させることができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0138】
ANL→前駆物質→(原料+触媒→酸化剤+触媒)×n→PT
【0139】
(変形例3)
以下に示す処理シーケンスのように、ウエハ200の表面状態によっては、ステップE(自然酸化膜除去)、ステップC(酸化)、およびステップD(ANL)を省略するようにしてもよい。例えば、ウエハ200の表面における第1材料と第2材料との表面に酸化膜が均一に形成されている場合であって、ステップA(成膜抑制層形成)において、ウエハ200を、例えば100℃以上の温度となるように加熱する場合は、ステップAにおいて、第1材料の表面に形成されたSiO膜等の酸化膜を残留(維持)させつつ、第2材料の表面に形成されたGeO等の酸化物を昇華させて除去することができる。すなわち、ステップAにおいて、第1材料の表面に形成されたOH終端を残留(維持)させつつ、第2材料の表面に形成されたOH終端を除去することができる。この場合、ステップE,C,Dを省略することができ、処理シーケンスを、ステップAから開始することが可能となる。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、ステップE,C,Dを省略することで、トータルでの処理時間を短縮させることができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0140】
前駆物質→(原料+触媒→酸化剤+触媒)×n→PT
【0141】
(変形例4)
以下に示す処理シーケンスのように、ステップB1では、ウエハ200に対して触媒を供給することなく、原料を単独で供給するようにしてもよい。また、ステップB2では、ウエハ200に対して触媒を供給することなく、酸化剤を単独で供給するようにしてもよい。ウエハ200に対して原料と触媒とを供給することで、低温下において、原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の第2材料の表面への化学吸着を促進させることができる。また、ウエハ200に対して酸化剤と触媒とを供給することで、低温下において酸化レートを高めることができる。しかしながら、原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の第2材料の表面への化学吸着や、酸化レートを、温度によって調整する場合等においては、触媒の供給を省略することができる。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0142】
エッチング剤→酸化剤→ANL→前駆物質→(原料→酸化剤+触媒)×n→PT
エッチング剤→酸化剤→ANL→前駆物質→(原料+触媒→酸化剤)×n→PT
エッチング剤→酸化剤→ANL→前駆物質→(原料→酸化剤)×n→PT
【0143】
(変形例5)
以下に示す処理シーケンスのように、ステップF(PT)を省略するようにしてもよい。例えば、凹部内を埋め込むように形成された膜に含まれる不純物等の量が許容範囲内である場合は、ステップFを省略することができる。また、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面への成膜抑制層等の残留が許容される場合や、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面における成膜抑制層の残基や残渣等の量が許容範囲内である場合も、ステップFを省略することができる。また、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面における成膜抑制層等が成膜処理の各ステップにおける反応により除去される場合は、ステップFを省略することができる。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、ステップFを省略することで、トータルでの処理時間を短縮させることができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0144】
エッチング剤→酸化剤→ANL→前駆物質→(原料+触媒→酸化剤+触媒)×n
【0145】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0146】
例えば、ステップEでは、ウエハ200に対してエッチング剤をプラズマ励起させて供給するようにしてもよい。これにより、自然酸化膜をエッチングする際のエッチングレートを高めることができる。また、ステップCでは、ウエハ200に対して酸化剤等の反応物質をプラズマ励起させて供給するようにしてもよい。これにより、酸化レートを高めることができる。また、ステップDでは、不活性ガスをプラズマ励起させて供給するようにしてもよい。これにより、第2材料の表面に形成されたGeO等の酸化物の昇華による除去と同時に、酸化物が除去された後の第2材料の表面のトリートメントを行うことが可能となる。また、ステップDでは、アシスト物質をプラズマ励起させて供給するようにしてもよい。これにより、凹部の上面や、凹部の側面と膜との界面における成膜抑制層の残基や残渣を脱離させる効果をより高めることが可能となる。
【0147】
また例えば、ステップBでは、SiOC膜やSiO膜だけでなく、例えば、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、シリコン硼酸窒化膜(SiBON膜)、シリコン硼酸炭窒化膜(SiBOCN膜)等のシリコン系酸化膜を形成するようにしてもよい。またステップBでは、例えば、アルミニウム酸化膜(AlO膜)、チタニウム酸化膜(TiO膜)、ハフニウム酸化膜(HfO膜)、ジルコニウム酸化膜(ZrO膜)等の金属系酸化膜を形成するようにしてもよい。
【0148】
各処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、各処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、各処理を迅速に開始できるようになる。
【0149】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更してもよい。
【0150】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。
【0151】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0152】
上述の態様は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【実施例】
【0153】
上述の基板処理装置を用い、
図5(a)に示すような、表面に、SiGe膜とSi膜とが交互に積層されてなる積層構造を有し、上面および側面がSi膜により構成され、底面がSiGe膜により構成された深さ方向がウエハの表面と平行な方向(横方向)となる凹部を有するウエハに対して、上述の態様の処理シーケンスを行うことで、凹部内を埋め込むようにSiOC膜を形成し、評価サンプル1を作製した。その後、評価サンプル1の断面TEM画像を撮影した。
図7に評価サンプル1の断面TEM画像を示す。
【0154】
上述の基板処理装置を用い、評価サンプル1を作製する際に用いたウエハと同様な構成のウエハに対して、上述の変形例3の処理シーケンスを行うことで、凹部内を埋め込むようにSiOC膜を形成し、評価サンプル2を作製した。その後、評価サンプル2の断面TEM画像を撮影した。
図8に評価サンプル2の断面TEM画像を示す。
【0155】
図7に示すように、評価サンプル1においては、SiOC膜が、凹部の上面に形成されることなく、凹部内にのみ、選択的に形成されていることが分かる。また、凹部内に形成されたSiOC膜には、ボイドやシームが生じていないことが分かる。なお、評価サンプル1を作製する際に、ステップBにおけるサイクル数を制御する(増加させる)ことで、凹部の上面へのSiOC膜の成長を抑制しつつ、凹部内にSiOC膜をさらに選択成長させることができ、SiGe膜とSi膜とが交互に積層されてなる積層構造の側壁における凹部内をSiOC膜により埋め込み、その側壁をフラットにすることが可能であることが分かる。
【0156】
図8に示すように、評価サンプル2においては、凹部内を埋め込むように、ボイドフリーかつシームレスなSiOC膜が形成されていることが分かる。なお、評価サンプル2においては、SiOC膜が、凹部の上面にも僅かに形成されているものの、SiGe膜とSi膜とが交互に積層されてなる積層構造の側壁においては、SiOC膜はフラットなプロファイルを有することが分かる。なお、この場合、SiGe膜とSi膜とが交互に積層されてなる積層構造の側壁に形成されたSiOC膜を、凹部の上面に形成されたSiOC膜の厚さ分だけエッチングすることで、その積層構造の側壁をフラットに維持しつつ、その側壁におけるSi膜、すなわち、凹部の上面(Si)を露出させることができる。なお、評価サンプル2を作製する際に、ステップBにおけるサイクル数を制御して(減少させて)、凹部内をSiOC膜により埋め込んだ時点で、成膜を停止させることで、凹部の上面にSiOC膜を形成することなく、SiGe膜とSi膜とが交互に積層されてなる積層構造の側壁をフラットにすることが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0157】
200 ウエハ(基板)