IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許7305982凹凸形状付きガラス基体およびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】凹凸形状付きガラス基体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20230704BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20230704BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20230704BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C03C15/00 B
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/085
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019032761
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020132508
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】赤間 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】留野 暁
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-040091(JP,A)
【文献】特開平06-087680(JP,A)
【文献】特開2003-073145(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131527(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010050(WO,A1)
【文献】特表2013-544226(JP,A)
【文献】特開2018-158879(JP,A)
【文献】特表2017-538150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 - 23/00
C03C 1/00 - 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基体を、フッ化水素を1.8質量%以上含み、かつフッ化カリウムを含み、前記フッ化水素の質量%濃度の、前記フッ化カリウムの質量%濃度に対する比が0.5以上0.86以下であるフロスト処理液に1分以上接触させるフロスト処理を行い、
前記ガラス基体が、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを50~75質量%、
Alを10~25質量%、および、
LiOを2~6質量%含む、
凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項2】
前記フロスト処理の後に、前記フロスト処理液に接触させた前記ガラス基体を、3.0質量%以上6.0質量%以下のフッ化水素を含む形状調整液に1分以上接触させる形状調整処理をさらに行う、請求項1に記載の凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で表示した前記ガラス基体のLiO含有量に対する前記フロスト処理液の前記フッ化カリウムの質量%濃度の比が0.3以上3.5以下であり、かつ、酸化物基準の質量%で表示した前記ガラス基体のLiO含有量に対する前記フロスト処理液の前記フッ化水素の質量%濃度の比が0.3以上2.5以下である、請求項1または2に記載の凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項4】
前記形状調整液は、5.0質量%以上15.0質量%以下の塩化水素をさらに含む、請求項2に記載の凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項5】
前記形状調整処理の後に、前記形状調整液に接触させた前記ガラス基体を、硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムの少なくとも一方を含む無機塩に接触させてイオン交換する化学強化処理をさらに行う、請求項2または4に記載の凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項6】
前記化学強化処理は、2回以上行われる、請求項5に記載の凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス基体が、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを50~75質量%、
Alを10~25質量%、
LiOを2~6質量%、
NaOを0~18質量%、
Oを0~10質量%、
MgOを0~10質量%、
CaOを0~5質量%、
を0~15質量%、
を0~5質量%、および、
ZrOを0~5質量%含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の凹凸形状付きガラス基体の製造方法。
【請求項8】
一方の主面と他方の主面とを有し、少なくとも一つの主面には凹凸形状が形成されてあり、
酸化物基準の質量%表示で、
SiOを50~75質量%、
Alを10~25質量%、および、
LiOを2~6質量%含み、
へイズが62.1%以上、かつ、グロスが25以下である、凹凸形状付きガラス基体。
【請求項9】
前記へイズが90%以下であり、前記グロスが5以上である、請求項8に記載の凹凸形状付きガラス基体。
【請求項10】
表面粗さRaが0.1~4.0μmである、請求項8または9に記載の凹凸形状付きガラス基体。
【請求項11】
表面圧縮応力値が300MPa以上、かつ圧縮応力層深さが10μm以上の化学強化ガラスである、請求項8~10のいずれか1項に記載の凹凸形状付きガラス基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸形状付きガラス基体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置の表示面に配置されるカバーガラスの耐衝撃性を向上させる方法として、ガラス基体を無機塩に接触させてイオン交換する、化学強化処理がよく知られている。
さらに最近、耐衝撃性をより向上させる方法として、LiOを含むガラス基体に対して、2回のイオン交換を施す化学強化処理が提案されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、近年、携帯電話、タブレット型端末といった画像表示装置を備えたモバイル機器の普及に伴い、画像表示装置の表示面のみでなく、この表示面に対し裏面に配置するバックカバーガラスの研究開発が進められている。
画像表示装置の裏面側に配置されるバックカバーガラスは、耐衝撃性などの機械的強度以外の要求特性として、美観に優れることが求められる場合がある。そのため、バックカバーガラスとして用いられるガラス基体には、使用時に露出面となる側の主面に加飾処理が施されることがある。加飾処理としては、特に、ガラスの光沢感を軽減しマットな表面にする、防眩処理が要望されている。
【0004】
防眩処理として、ガラス基体の表面に凹凸形状を形成して光を乱反射させるエッチングアンチグレア(エッチングAG)処理が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-523110号公報
【文献】国際公開第2016/010050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のカバーガラスは、ガラス組成として、LiOを含有していない。したがって、LiOを含有したガラスに対しても、特許文献2に記載されたエッチングAG処理を適用できるかどうかは、明らかではなかった。
【0007】
本発明者らは、耐衝撃性に優れ、かつ美観に優れたバックカバーガラスを作成するため、LiOを含有するガラス基体に、特許文献2に記載されたエッチングAG処理を適用した。その結果、高ヘイズにならなかったり、低グロスにならなかったりして、美観に優れない場合があることを本発明者らは見出した。
【0008】
したがって、本発明は、LiOを含有する美観に優れた凹凸形状付きガラス基体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の態様は、ガラス基体を、フッ化水素を1.8質量%以上含み、かつフッ化カリウムを含み、上記フッ化水素の質量%濃度の、上記フッ化カリウムの質量%濃度に対する比が0.5以上1.5以下であるフロスト処理液に1分以上接触させるフロスト処理を行い、上記ガラス基体が、酸化物基準の質量%表示で、SiOを50~75質量%、Alを10~25質量%、および、LiOを2~6質量%含む、凹凸形状付きガラス基体の製造方法である。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、ガラス基体を、フッ化水素を15.0質量%以上含み、かつフッ化アンモニウムを含み、上記フッ化水素の質量%濃度の、上記フッ化アンモニウムの質量%濃度に対する比が1.0以下であるフロスト処理液に1分以上接触させるフロスト処理を行い、上記フロスト処理の後に、上記フロスト処理液に接触させた上記ガラス基体を、3.0質量%以上6.0質量%以下のフッ化水素を含む形状調整液に1分以上接触させる形状調整処理を行い、上記ガラス基体が、酸化物基準の質量%表示で、SiOを50~75質量%、Alを10~25質量%、および、LiOを2~6質量%含む、凹凸形状付きガラス基体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、LiOを含有する美観に優れた凹凸形状付きガラス基体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の態様]
本発明の第1の態様は、ガラス基体を、フッ化水素を1.8質量%以上含み、かつフッ化カリウムを含み、上記フッ化水素の質量%濃度の、上記フッ化カリウムの質量%濃度に対する比が0.5以上1.5以下であるフロスト処理液に1分以上接触させるフロスト処理を行い、上記ガラス基体が、酸化物基準の質量%表示で、SiOを50~75質量%、Alを10~25質量%、および、LiOを2~6質量%含む、凹凸形状付きガラス基体の製造方法である。
【0013】
上記方法によれば、以下のメカニズムによって、LiOを含有するガラス基体であっても、高ヘイズおよび低グロス(以下、まとめて、単に「高ヘイズ」ともいう)なガラス基体となると推測される。
まず、フッ化水素は、ガラス基体をエッチングし、SiFイオンを発生する機能を有するが、上記濃度以上あることで、十分なSiFイオンの量を発生させることができる。フッ化カリウムは、上記SiFイオンと反応して、析出塩であるKSiFを発生させる機能を持つ。上記範囲にあることで、フッ化水素によって生じたSiFイオンと過不足なく反応でき、ガラス基体の面内での析出塩の核生成密度が適度であり、かつ均一に析出塩を形成できる。
【0014】
上記フロスト処理の後に、上記フロスト処理液に接触させた上記ガラス基体を、3.0質量%以上6.0質量%以下のフッ化水素を含む形状調整液に1分以上接触させる形状調整処理をさらに行うことが好ましい。この処理を行うことでガラス基体の表面形状を調整し、ヘイズおよびグロスを適度な値にしやすいという効果が得られる。
【0015】
さらに、酸化物基準の質量%で表示した上記ガラス基体のLiO含有量に対する上記フロスト処理液の上記フッ化カリウムの質量%濃度の比が0.3以上3.5以下であり、かつ、酸化物基準の質量%で表示した上記ガラス基体のLiO含有量に対する上記フロスト処理液の上記フッ化水素の質量%濃度の比が0.3以上2.5以下であることが好ましい。この範囲に設定することで以下のメカニズムにより、より効率的に高ヘイズの凹凸形状が得られるという効果が得られる。
すなわち、LiOを含有するガラス基体においては、上記フッ化水素と上記フッ化カリウムで生じる析出塩KSiFのほかに、LiFが析出してくる。このLiFのLiイオンは、ガラス基体から生じる点が、上記KSiFと異なる。そうすると、発生原因の異なる二つの析出物が、並行して、ガラス基体の面内に析出してくることになる。
したがって、上記フッ化カリウム、上記フッ化水素およびガラス基体中のLiOの量の関係によって、析出塩の割合、生成密度が変わってくる。上記3者の割合が上記した範囲にあることで、析出塩の生成密度が適度であり、均一になることで、高ヘイズなガラス基体が得られる。
【0016】
上記形状調整液は、5.0質量%以上15.0質量%以下の塩化水素をさらに含むことが好ましい。このようにすることで、ガラス基体表面に析出する塩を溶解し、エッチングスピードが上昇することに加え、上記形状調整液の液ライフが向上する効果が得られる。
【0017】
上記形状調整処理の後に、上記形状調整液に接触させた上記ガラス基体を、硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムの少なくとも一方を含む無機塩に接触させてイオン交換する化学強化処理をさらに行うことが好ましい。化学強化処理を行うことで、高強度なガラス基体を得られる。
【0018】
上記化学強化処理は、2回以上行われることが好ましい。2回以上行うことで、より耐衝撃性に優れたガラス基体を得られる。
【0019】
上記ガラス基体は、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを50~75質量%、
Alを10~25質量%、
LiOを2~6質量%、
NaOを0~18質量%、
Oを0~10質量%、
MgOを0~10質量%、
CaOを0~5質量%、
を0~15質量%、
を0~5質量%、および、
ZrOを0~5質量%含むことが好ましい。
【0020】
[第2の態様]
本発明の第2の態様は、ガラス基体を、フッ化水素を15.0質量%以上含み、かつフッ化アンモニウムを含み、上記フッ化水素の質量%濃度の、上記フッ化アンモニウムの質量%濃度に対する比が1.0以下であるフロスト処理液に1分以上接触させるフロスト処理を行い、上記フロスト処理の後に、上記フロスト処理液に接触させた上記ガラス基体を、3.0質量%以上6.0質量%以下のフッ化水素を含む形状調整液に1分以上接触させる形状調整処理を行い、上記ガラス基体が、酸化物基準の質量%表示で、SiOを50~75質量%、Alを10~25質量%、および、LiOを2~6質量%含む、凹凸形状付きガラス基体の製造方法である。
【0021】
上記方法によれば、おそらく以下のメカニズムによって、LiOを含有するガラス基体であっても高ヘイズなガラス基体となると推測される。
まず、フッ化アンモニウムは、フッ酸とガラス基体とが反応して生じたSiFイオンと反応し、析出塩(NHSiFをガラス基体上に発生させる。この析出塩の溶解度が比較的高いため、エッチング反応よりも塩の析出反応を優位にさせる必要がある。上記範囲にあることで、フッ化水素によって生じたSiFイオンと過不足なく反応でき、ガラス基体の面内での析出塩の核生成密度が適度であり、かつ均一に析出塩を形成できる。
さらに、上記形状調整処理を行うことで、凹凸形状の高さ方向の分布が抑制され、面内均質性が高まる。
【0022】
酸化物基準の質量%で表示した上記ガラス基体のLiO含有量に対する上記フロスト処理液の上記フッ化アンモニウムの質量%濃度の比が4.0以上5.5以下であり、かつ、酸化物基準の質量%で表示した上記ガラス基体のLiO含有量に対する上記フロスト処理液の上記フッ化水素の質量%濃度の比が3.5以上5.0以下であることが好ましい。この範囲に設定することで以下のメカニズムにより、より効率的に高ヘイズのガラス基体が得られる。
すなわち、LiOを含有するガラス基体においては、上記フッ化水素と上記フッ化アンモニウムで生じる析出塩(NHSiFのほかに、LiFが析出してくる。このLiFのLiイオンは、ガラス基体から生じる点が、上記(NHSiFと異なる。そうすると、発生原因の異なる二つの析出物が、並行して、ガラス基体の面内に析出してくることになる。
したがって、上記フッ化アンモニウム、上記フッ化水素およびガラス基体中のLiOの量の関係によって、析出塩の割合、生成密度が変わってくる。上記3者の割合が上記した範囲にあることで、析出塩の生成密度が適度であり、均一になることで、上記形状調整液に接触させた後に、高ヘイズなガラス基体が得られる。
【0023】
上記形状調整液は、5.0質量%以上15.0質量%以下の塩化水素をさらに含むことが好ましい。このようにすることで、ガラス基体表面に析出する塩を溶解し、エッチングスピードが上昇することに加え、上記形状調整液の液ライフが向上する効果が得られる。
【0024】
上記形状調整処理の後に、上記形状調整液に接触させた上記ガラス基体を、硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムの少なくとも一方を含む無機塩に接触させてイオン交換する化学強化処理をさらに行うことが好ましい。化学強化処理を行うことで、高強度なガラス基体を得られる。
【0025】
上記化学強化処理は、2回以上行われることが好ましい。2回以上行うことで、より耐衝撃性に優れたガラス基体を得られる。
【0026】
上記ガラス基体は、酸化物基準の質量%表示で、
SiOを50~75質量%、
Alを10~25質量%、
LiOを2~6質量%、
NaOを0~18質量%、
Oを0~10質量%、
MgOを0~10質量%、
CaOを0~5質量%、
を0~15質量%、
を0~5質量%、および、
ZrOを0~5質量%含むことが好ましい。
【0027】
次に、上述した第1の態様および第2の態様を含む本発明の実施形態(以下、「本実施形態」ともいう)について詳細に説明する。以下では、まずガラス基体について説明し、その後、製造方法について、各処理順に説明する。
【0028】
[ガラス基体]
本実施形態のガラス基体は、酸化物基準の質量%表示で、SiOを50~75質量%、Alを10~25質量%、およびLiOを2~6質量%含む。このようにすることで、後述の化学強化処理を施すことによって高強度なガラスを得られる。
【0029】
上記ガラス基体は、酸化物基準の質量%表示で、SiOを50~75質量%、Alを10~25質量%、LiOを2~6質量%、NaOを0~18質量%、KOを0~10質量%、MgOを0~10質量%、CaOを0~5質量%、Pを0~15質量%、Yを0~5質量%およびZrOを0~5質量%含むことが好ましい。
【0030】
上記ガラス基体の製造方法は特に制限されない。例えば、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500~1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを成形し、徐冷することにより製造できる。
具体的な製造方法の例として、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等)、フロート法、ロールアウト法およびプレス法等が挙げられる。フロート法では、溶かしたガラス素地を錫等の溶融金属上に浮かべ、厳密な温度操作で厚さ、板幅が略均一な平板状のガラス基体を成形できる。
【0031】
上記ガラス基体は、屈曲部を有していてもよい。
【0032】
上記ガラス基体の縁部の形状は特に制限されないが、たとえば2.5D形状や3D形状にできる。このようにすることで、端面の強度を向上するという効果を得られる。
【0033】
[フロスト処理]
フロスト処理は、上記ガラス基体の表面にフロスト処理液を接触させることで、上記ガラス基体の表面に析出塩を形成しながら上記ガラス基体の表面をエッチングする処理である。このようにすることで、上記ガラス基体の表面に凹凸形状を形成できる。上記ガラス基体の表面の凹凸形状は、主に析出塩の生成速度および生成密度と、エッチングの速さによって決定される。したがって、上記ガラス基体の組成と上記フロスト処理液の組成との関係は、光の散乱特性、すなわちマット性を決定する上で重要である。
【0034】
上記フロスト処理液は、第1の態様では、フッ化水素(HF)を1.8質量%以上含み、かつフッ化カリウム(KF)を含み、上記フッ化水素の質量%濃度の、上記フッ化カリウムの質量%濃度に対する比(HF/KF)が0.5以上1.5以下である。
【0035】
第1の態様において、上記フロスト処理液における上記フッ化水素(HF)の濃度は、1.9質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましい。この範囲に設定することで、カチオンソースのカウンターイオンであるSiFイオンが十分依供給され、ガラス基材表面に均質に析出塩が生成しやすい。
上限は特に限定されないが、13.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましい。
【0036】
第1の態様において、上記フロスト処理液における上記比(HF/KF)は、0.6以上1.4以下が好ましく、0.7以上1.3以下がより好ましい。この範囲に設定することで、析出塩の生成密度が適度となり、面内の均一な高へイズ処理がしやすくなる。
【0037】
上記フロスト処理液は、第2の態様では、フッ化水素(HF)を15.0質量%以上含み、かつフッ化アンモニウム(NHF)を含み、上記フッ化水素の質量%濃度の、上記フッ化アンモニウムの質量%濃度に対する比(HF/NHF)が1.0以下である。
【0038】
第2の態様において、上記フロスト処理液における上記フッ化水素(HF)の濃度は、16.5質量%以上が好ましく、18.0質量%以上がより好ましい。この範囲に設定することで、析出塩のソースであるSiFイオンがガラス基体表面に十分生成する効果が得られる。
上限は特に限定されないが、30.0質量%以下が好ましく、28.0質量%以下がより好ましい。
【0039】
第2の態様において、上記フロスト処理液における上記比(HF/NHF)は、0.95以下が好ましく、0.9以下がより好ましい。この範囲にあることで、析出塩のソースであるNHイオンがガラス基体表面に十分生成するという効果が得られる。
下限は特に限定されないが、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
【0040】
上記フロスト処理液とガラス基体の接触時間は1分以上であり、好ましくは2分、より好ましくは3分である。この範囲とすることで、ガラス基体表面が均質化する効果が得られる。上限は特に限定されないが、15分以下が好ましく、10分以下がより好ましい。
【0041】
本発明の第1の態様の場合、上記フロスト処理液の成分と上記ガラス基体内のLiOとが特定の関係を示すことが好ましい。
具体的には、フッ化カリウムの質量%濃度の、上記ガラス基体内のLiO含有量に対する比(KF/LiO)は、0.3以上3.5以下が好ましく、0.35以上3.4以下がより好ましく、0.4以上3.3以下がさらに好ましい。
また、フッ化水素の質量%濃度の、上記ガラス基体内のLiO含有量に対する比(HF/LiO)は、0.3以上2.5以下が好ましく、0.35以上2.4以下がより好ましく、0.4以上2.3以下がさらに好ましい。
【0042】
本発明の第2の態様の場合、上記フロスト処理液の成分と上記ガラス基体内のLiOとが特定の関係を示すことが好ましい。
具体的には、フッ化アンモニウムの質量%濃度の、上記ガラス基体内のLiO含有量に対する比(NHF/LiO)は、4.0以上5.5以下が好ましく、4.2以上5.45以下がより好ましく、4.4以上5.4以下がさらに好ましい。
また、フッ化水素の質量%濃度の、上記ガラス基体内のLiO含有量に対する比(HF/LiO)は、3.5以上5.0以下が好ましく、3.6以上4.9以下がより好ましく、3.7以上4.8以下がさらに好ましい。
【0043】
上記フロスト処理液には、上記の成分のほかに、必要に応じて、フッ化物イオン源、鉱酸若しくは緩衝液、またはそれらの組合せを加えてもよい。
【0044】
フッ化物イオン源は、例えば、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウムおよびフッ化水素カリウム並びに類似の塩、またはそれらの組合せから選択される塩である。
【0045】
鉱酸は、例えば、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、硝酸およびリン酸並びに類似の酸、またはそれらの組合せである。また、さらに、グリコール、グリセロール、アルコール、ケトン若しくは界面活性剤、またはそれらの組合せを加えてもよい。
【0046】
上記フロスト処理液に接触させた後、上記ガラス基体は洗浄することが好ましい。洗浄することで、析出した塩が上記ガラス基体表面から除去され、後段の形状調整処理を上記ガラス基体の表面全体にわたって均一に進行させやすい。
【0047】
洗浄で使用する洗浄液は純水が好ましい。また、ブラシ洗浄が好ましい。このようにすることで析出塩をより確実に除去できる。
【0048】
[形状調整処理]
形状調整処理は、上記フロスト処理された上記ガラス基体を形状調整液に接触させることで、上記ガラス基体表面の凹凸形状を調整する処理である。上記形状調整液は、少なくともフッ化水素を含むことが好ましい。
【0049】
上記形状調整液における上記フッ化水素の濃度は、3.0質量%以上6.0質量%以下が好ましく、3.5重量%以上5.5重量%以下がより好ましく、4.0重量%以上5.0重量%以下がさらに好ましい。このようにすることで、プロセス制御が簡便となる。
【0050】
上記形状調整液とガラス基体の接触時間は1分以上であり、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上である。この範囲とすることで、ガラス基体表面の処理ムラが低減するという効果が得られる。上限は特に限定されないが、15分以下が好ましく、10分以下がより好ましい。
【0051】
上記形状調整液は、上述したように、塩化水素を含むことが好ましい。
上記形状調整液における塩化水素(HCl)の濃度は、5.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以上12.0質量%以下がより好ましい。
【0052】
上記形状調整液は、上記成分のほかに、硫酸、硝酸、リン酸並びに類似の酸をさらに含んでいてもよい。
【0053】
上記形状調整処理によって、上記ガラス基体のヘイズを45%以上、かつ、グロスを25以下に調整することが好ましい。グロスは20以下がより好ましい。この範囲に調整することで、マット調の、美観に優れたバックカバーを得られる。
すなわち、美観に優れるとは、ヘイズが高く(裏面からの透過光を確実に曇らせ)、かつ、グロスが低い(反射光も拡散させる)ことを意味する。
具体的には、例えばヘイズを上昇させたり、グロスを低下させたりするためには、表面凹凸の高さを大きくすればよい。
ヘイズは、上限は特に限定されないが、例えば、90%以下が好ましい。
グロスは、下限は特に限定されないが、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。
なお、ヘイズはJIS K 7136で規定される透過ヘイズである。グロスはJIS Z 8741:1997で規定される60°で入射する反射グロス(グロス60)である。
【0054】
上記ガラス基体の表面は、表面粗さRaが0.1~4.0μmが好ましく、0.15~3.0μmがより好ましい。また、表面凹凸のピッチRSmは、5.0~50μmが好ましく、10~40μmがより好ましい。この範囲にあることで、凹凸の傾斜が適切な領域となり散乱が大きくなるという効果を得られる。
なお、表面粗さRa(μm)および粗さ曲線の要素の平均長さRSmは、JIS B 0601(2001)で規定される方法に準拠した方法により測定できる。
【0055】
[化学強化処理]
本実施形態においては、上記形状調整処理の後に、化学強化処理を実施することが好ましい。
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(例えば、Kイオン)を含む無機塩組成物(例えば硝酸カリウム)の溶液に、ガラスをガラス転移温度以下の温度で接触させ、ガラス表面にイオン交換により形成された圧縮応力層を形成する処理である。例えば、ガラス中のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンおよび/またはNaイオン)をイオン半径のより大きい他のアルカリイオン(例えば、Naイオンおよび/またはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力層が形成される。
【0056】
上記無機塩組成物は、硝酸塩および硫酸塩の少なくとも一方を含有することが好ましい。硝酸塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、ナトリウム硫酸塩が挙げられるが、硝酸塩が好ましい。
【0057】
無機塩組成物にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩組成物をガラスに塗布する方法、無機塩組成物の水溶液をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱した無機塩組成物の溶融塩の塩浴にガラスを浸漬させる方法などが挙げられる。これらの中では無機塩組成物の溶融塩にガラスを浸漬させる方法が好ましい。
【0058】
無機塩組成物の溶融塩にガラスを浸漬させる化学強化処理は、例えば、次の手順で行う。まず、ガラスを予熱し、上記溶融塩を、化学強化処理を行う温度に調整する。次いで、予熱したガラスを溶融塩中に所定の時間浸漬した後、ガラスを溶融塩中から引き上げ、放冷する。ガラスの予熱温度は、化学強化処理温度に依存するが、一般に100℃以上が好ましい。化学強化処理は1回以上であればよく、同じ条件または異なる条件で2回以上実施してもよい。
【0059】
化学強化処理を行う温度は、被強化ガラスの歪点(通常500~600℃)以下が好ましく、より高い圧縮応力層の深さ(DOL;Depth of Layer)を得るためには特に350℃以上が好ましく、380℃以上がより好ましく、400℃以上がさらに好ましい。また、化学強化処理を行う温度は、溶融塩の劣化および分解を抑制する点から、500℃以下が好ましく、480℃以下がより好ましく、450℃以下がさらに好ましい。なお、化学強化処理を行う時間として、ガラスの無機塩組成物への接触時間は1~24時間が好ましく、2~20時間がより好ましい。
【0060】
本実施形態の上記ガラス基体は、LiOを含有しているため、化学強化処理を2回以上施すことで、さらに強度を向上させることができる。
具体的には、例えば、1回目の処理では、例えば硝酸ナトリウムを主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、NaとLiのイオン交換を行う。次いで2回目の処理で、例えば硝酸カリウムを主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、KとNaのイオン交換を行う。このようにすることで、DOLが深く、表面応力の高い圧縮応力層を形成でき、好ましい。
【0061】
表面の圧縮応力の表面圧縮応力値は300MPa以上が好ましく、圧縮応力層深さ(DOL)は10μm以上が好ましい。このようにすることで、誤って落下した際に、砂などの角度の小さい衝突部分を有する鋭角衝突物に対する加傷強度が向上する。
【0062】
第1段目の化学強化処理の後に、第1段目の条件(塩の種類、時間等)とは異なる条件で第2段目の化学強化処理を行う。このような2段階の化学強化処理(以下、2段階強化ともいう)により得られる化学強化ガラスは、ガラス表面側の応力分布パターンaと、ガラス内部側の応力分布パターンbとの2段階の応力分布パターンを有する。
【0063】
ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルにおいて、ガラス表面側の応力分布パターンaは、下記関数(a)で近似できる。ガラス内部側の応力分布パターンbは、下記関数(b)で近似できる。このとき、圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義する。
【0064】
A1erfc(x/B1)+C1…(a)
A2erfc(x/B2)+C2…(b)
[関数(a)および(b)において、erfcは補誤差関数であり、A1>A2かつB1<B2である。]
【0065】
C1とC2の和は、内部の引っ張り応力の大きさに、A1、A2、C1、C2の和は最表面の圧縮応力(CS)に対応する。
【0066】
上記関数(a)および(b)の和を用いて、A1、A2、B1、B2、C1およびC2の値を求める。このとき、厚さt[μm]を有し、ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルにおける0<x<3t/8の領域において、誤差最小二乗法により、近似する。圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義する。下記(1)~(6)の条件を全て満たす場合、高い表面圧縮応力と深い圧縮応力層深さを併せ持ち特に好ましい。
【0067】
(1)A1[MPa]が600以上
(2)A2[MPa]が50以上
(3)B1[μm]が6以下
(4)B2[μm]がt[μm]の10%以上
(5)C1+C2が[MPa]が-30以下
(6)A1/B1[MPa/μm]が100以上
【0068】
[その他の処理]
(保護処理)
本実施形態の製造方法は、フロスト処理の前に、保護処理をさらに実施してもよい。
保護処理は、上記ガラス基体の表面における防眩処理せずにガラス光沢を残しておきたい領域に、保護層を配置する処理である。例えば、上記ガラス基体の一方の主面にエッチングAG処理を施し、他方の主面にはエッチングAG処理を施したくない場合は、他方の主面上に保護層を配置する。その後、フロスト処理と形状調整処理を実施し、上記保護層を剥離する。このようにすることで、上記保護層を配置した他方の主面にはエッチングAG処理が施されていない凹凸形状付きガラス基体を得られる。
【0069】
上記保護層としては、フロスト処理や形状調整処理時に、配置された領域を保護できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、硬化性樹脂や樹脂フィルムなどが挙げられる。上記保護層を配置する方法も特に限定されず、硬化性樹脂をバーコーターなどで塗布し硬化する方法や、樹脂フィルムをラミネートする方法などが使用できる。その中でも、フロスト上記および形状調整上記の処理液への耐性、または易剥離性の観点から硬化型樹脂を塗布形成する方法が好ましい。
【0070】
硬化性樹脂は、例えばUV硬化型樹脂や熱硬化型樹脂が挙げられる。UV硬化型樹脂としては、例えばアクリレート系ラジカル重合樹脂やエポキシ系カチオン重合樹脂が挙げられる。熱硬化型樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂が挙げられる。硬化速度が速く、タクトが短縮できるという観点から、UV硬化樹脂が好ましい。
【0071】
(前処理)
本実施形態においては、上記フロスト処理の前に、前処理をさらに実施してもよい。上記保護処理を実施する場合は、上記前処理は、上記保護処理と上記フロスト処理との間に実施することが好ましい。
上記前処理は、上記フロスト処理前の上記ガラス基体を前処理液に接触させることで、上記ガラス基体の表面を清浄にする。それによって、後段の上記フロスト処理および上記形状調整処理が上記ガラス基体表面の全体にわたって均一に進みやすい。
【0072】
上記前処理液は、フッ化水素を含むことが好ましい。
また、上記前処理液と上記ガラス基体との接触時間は、1分以上5分以下が好ましい。この範囲に調整することで、プロセス制御が簡便となる。
【0073】
(防汚処理)
本実施形態においては、上記形状調整処理の後に防汚処理を実施していてもよい。上記化学強化処理を実施する場合は、防汚処理は、上記化学強化処理の後に実施するのが好ましい。
防汚処理を実施することにより、上記ガラス基体の表面上に、防汚処理層を形成する。防汚処理層とは表面への有機物、無機物の付着を抑制する層、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす層のことである。防汚処理層が防汚膜として形成される場合、上記ガラス基体の、上記フロスト処理および上記形状調整処理を施した表面上に形成することが好ましい。
【0074】
上記防汚処理層としては、防汚性を付与できれば特に限定されない。中でも含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応により得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が好ましい。防汚処理層は、上記ガラス基体の上記フロスト処理した表面の一部に形成してもよい。
【0075】
上記防汚処理層の形成方法は特に限定されない。例えば、ディップコートやスプレーコートのような湿式法や、蒸着法などの乾式法が好適に用いられる。
【0076】
(印刷処理)
本実施形態においては、上記形状調整処理の後に印刷処理を実施してもよい。印刷処理は、上記ガラス基体の表面に印刷層を配置する処理である。これにより、上記ガラス基体の意匠性をより高めることができる。
【0077】
上記印刷層の形成方法は、特に限定されず、用途に応じて種々の印刷方法、インキ(印刷材料)により形成されてよい。印刷方法としては、例えば、スプレー印刷、インクジェット印刷やスクリーン印刷が挙げられる。これらの方法により、面積の広い板状ガラスでも良好に印刷できる。特に、スプレー印刷では、屈曲部を有するガラスに印刷しやすく、印刷面の表面粗さを調整しやすい。一方、スクリーン印刷では、広い板状ガラスに平均厚さが均一になるように所望の印刷パターンを形成しやすい。また、インキは、複数使用してよいが、印刷層の密着性の観点から同一のインキであるのが好ましい。印刷層を形成するインキは、無機系でも有機系であってもよい。印刷層の厚さは隠蔽性の観点から5μm以上が好ましく、設計の観点から50μm以下が好ましい。
【実施例
【0078】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0079】
以下、例1~例7は実施例であり、例8~例10は比較例であり、例11~例17は参考例である。
また、例21~例23は実施例であり、例24~例29は比較例である。
【0080】
まず、各例で用いたガラス基体の組成を下記表1にまとめて示す。なお、各ガラス基体の組成は酸化物基準の質量%で表示してある。
ガラスA~CはLiOを含有するアルミノシリケートガラスであり、ガラスDはソーダライムガラスであり、ガラスEおよびFはLiOを含有しないアルミノシリケートガラスである。ガラスA~Cは実施例および比較例として、ガラスD~Fは参考例としてそれぞれ用いた。
なお、ガラス基体の大きさはすべて100mm×100mmとし、厚みはすべて0.7mmとした。
【0081】
【表1】
【0082】
以下で、まず第1の態様に対応する例1~例7について、製造方法と評価結果を説明する。次いで、第2の態様に対応する例21~例23について、製造方法と評価結果を説明する。
【0083】
(例1)
ガラスAを用いて、以下の処理を順に実施した。
まず、ガラスAの一方の主面を保護する耐酸性易接着フィルムを貼付した。
次に、前処理として、ガラス基体を4.94質量%のフッ化水素溶液に30秒間浸漬し、ガラス基体をエッチングすることでガラス基体表面に付着した汚れを除去した。
次に、フロスト処理として、ガラス基体を1.96質量%フッ化水素、2.28質量%フッ化カリウム混合溶液に3分間浸漬し、ガラス基体の表面に凹凸形状を形成した。その後、ガラス基体の表面を温純水中に浸漬し、超音波を重畳することで、表面の析出塩を除去した。
次に、形状調整処理として、ガラス基体を4.94質量%フッ化水素溶液に3分間浸漬し、表面の凹凸形状を調整した。
最後に、ガラス基体裏面の保護フィルムを剥離して、一方の主面に凹凸形状が形成されたガラス基体を得た。
【0084】
(例2)
フロスト処理として、ガラス基体を1.96質量%フッ化水素、2.83質量%フッ化カリウム混合溶液に3分間浸漬した以外は、例1と同様にして凹凸形状が形成されたガラス基体を得た。
【0085】
(例3~例7)
下記表2の例3~例7の欄にまとめて示すガラス種、フロスト処理の条件および形状調整処理の条件以外は例1と同様にして、凹凸形状付きガラス基体を得た。
なお、例4および例5では、形状調整処理において、ガラス基体を4.72質量%フッ化水素、10.3質量%塩化水素混合溶液に3分間浸漬した。
【0086】
(例8~例10)
下記表2の例8~例10の欄にまとめて示すガラス種、フロスト処理の条件および形状調整処理の条件以外は例1と同様にして、凹凸形状付きガラス基体を得た。
【0087】
(例11~例17)
下記表2の例11~例17の欄にまとめて示すガラス種、フロスト処理の条件および形状調整処理の条件以外は例1と同様にして、凹凸形状付きガラス基体を得た。
【0088】
上記手順で作成した凹凸形状付きガラス基体に対して、以下の評価を実施した。
【0089】
(ヘイズ測定)
JIS K 7136で規定される方法に準拠してヘイズ(HAZE)を測定した。
具体的には、ヘイズメーター(スガ試験機社製、商品名:HZ-V3)を用いて測定を行った。ヘイズの値が大きいほど、美観に優れると評価できる。
【0090】
(グロス測定)
JIS Z 8741:1997で規定される方法に準拠して測定を行った。
具体的には、測定装置(KONICA MINOLTA社製、商品名:Rhopoint IQ)を用いて、ガラス基体のエッチングAG処理を施した面に対して、60°の角度から入射した光(光源:タングステンランプ)の鏡面反射光束を測定し、60°のグロス(グロス60)とした。グロス60の値が小さいほど、美観に優れると評価できる。
同様に、20°の角度から入射した光の鏡面反射光束をグロス20とし、85°の角度から入射した光の鏡面反射光束を、グロス85とした。
【0091】
(表面形状測定)
レーザー顕微鏡(KEYENCE社製、商品名:VK-X250)を用いて、50倍の倍率で平面プロファイルを測定した。そして、得られた平面プロファイルから、JIS B 0601(2001)に基づいて表面粗さRaおよび粗さ曲線要素の平均長さRSmの値を得た。
【0092】
上記各例の評価結果を、下記表2にまとめて示す。
なお、下記表2の「フロスト処理」の「HF/KF」は、フロスト処理液における、フッ化カリウム(KF)の質量%濃度に対するフッ化水素(HF)の質量%濃度の比(HF/KF)を表す。
また、下記表2の「フロスト処理」の「HF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対するフロスト処理液のフッ化水素の質量%濃度の比(HF/LiO)を表す。なお、ガラス基体がLiOを含有しないため値が存在しない場合は、下記表2に「-」を記載した(以下、同様)。
また、下記表2の「フロスト処理」の「KF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対するフロスト処理液のフッ化カリウムの質量%濃度の比(KF/LiO)を表す。
また、下記表2の「フロスト処理」の「NHF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対するフロスト処理液のフッ化アンモニウムの質量%濃度の比(NHF/LiO)を表す。
また、下記表2の「形状調整処理」の「HF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対する形状調整液のフッ化水素の質量%濃度の比(HF/LiO)を表す。
また、下記表2の「形状調整処理」の「HCl/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対する形状調整液の塩化水素の質量%濃度の比(HCl/LiO)を表す。
【0093】
【表2】
【0094】
上記表2に示すように、例1~例7は、フッ化水素(HF)の濃度が1.96質量%以上であり、フッ化カリウム(KF)の質量%濃度に対するフッ化水素(HF)の質量%濃度の比(HF/KF)が0.69~1.04である。このような例1~例7は、ヘイズが61.1~87.1%と高く、グロス60が11.0~17.4であり、美観に優れていた。
これに対して、比(HF/KF)が0.34または2.37である例8~例10は、ヘイズが17.2~28.2%であり、グロス60が52.4~82.5であり、美観が不十分であった。
【0095】
(例21~例29)
例21~例29では、フロスト処理で使用するフロスト処理液を、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に変更し、下記表3に示す条件で処理した以外は、例1と同様にして凹凸形状付きガラス基体を得た。
例28~例29では、形状調整処理を実施しなかった。この場合、下記表3における「形状調整処理」の欄には「-」を記載した。なお、例28~例29のフロスト処理液は、特許文献2に具体的に開示されている処理液に相当する。
【0096】
例21~例29で得られた凹凸形状付きガラス基体に対して、例1と同様の評価を実施した。それらもまとめて下記表3に示している。
なお、下記表3の「フロスト処理」の「HF/NHF」は、フロスト処理液における、フッ化アンモニウム(NHF)の質量%濃度に対するフッ化水素(HF)の質量%濃度の比(HF/NHF)を表す。
また、下記表3の「フロスト処理」の「HF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対するフロスト処理液のフッ化水素の質量%濃度の比(HF/LiO)を表す。
また、下記表3の「フロスト処理」の「KF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対するフロスト処理液のフッ化カリウムの質量%濃度の比(KF/LiO)を表す。
また、下記表3の「フロスト処理」の「NHF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対するフロスト処理液のフッ化アンモニウムの質量%濃度の比(NHF/LiO)を表す。
また、下記表3の「形状調整処理」の「HF/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対する形状調整液のフッ化水素の質量%濃度の比(HF/LiO)を表す。
また、下記表3の「形状調整処理」の「HCl/LiO」は、ガラス基体のLiO含有量[質量%]に対する形状調整液の塩化水素の質量%濃度の比(HCl/LiO)を表す。
【0097】
【表3】
【0098】
上記表3に示すように、例21~例23は、フッ化水素(HF)の濃度が18.9質量%以上であり、フッ化アンモニウム(NHF)の質量%濃度に対するフッ化水素(HF)の質量%濃度の比(HF/NHF)が0.72~0.90である。このような例21~例23は、ヘイズが82.7~84.4%と高く、グロス60が9.3~11.6であり、美観に優れていた。
これに対して、フッ化水素(HF)の濃度が9.7~14.4質量%である例25~例26は、ヘイズが0.7~1.9%であり、グロス60が127.1~127.4であり、美観が不十分であった。
また、比(HF/NHF)が1.09~1.35である例24および例27は、ヘイズが14.2~37.1%であり、グロス60が34.7~64.2であり、美観が不十分であった。
また、形状調整処理を施さなかった例28は、ガラス基体の表面に凹凸形状がまだらに形成されていた。この場合、部分的に、ヘイズおよびグロス60の値が要求を満たさず、美観に優れないことが明らかであったことから、ヘイズおよびグロス60等は測定せず、上記表3には「-」を記載した。
同様に形状調整処理を施さなかった例29は、ヘイズが64.4%であり、グロス60が30.6であり、美観が不十分であった。すなわち、例29は、ヘイズは実施例と同等に近い値であったが、グロス60の値が高く、反射光の映り込みが生じるものであった。
【0099】
(化学強化処理の実施)
次に、上記例1によって得た凹凸形状付きガラス基体に対して、以下に示す条件で、化学強化処理を実施した。
【0100】
まず、硝酸ナトリウム(NaNO)を450℃に加熱して溶解させた溶融塩に、ガラス基体を2.5時間浸漬した。その後、ガラス基体を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷した。
次に、硝酸カリウム(KNO)を425℃に加熱して溶解させた溶融塩に、ガラス基体を1.5時間浸漬した。その後、ガラス基体を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷した。
このようにして、2段階に化学強化された凹凸形状付きガラス基体を得た。
【0101】
また、上記例14によって得た凹凸形状付きガラス基体に対して、化学強化処理を実施した。具体的には、硝酸カリウム(KNO)を450℃に加熱して溶解させた溶融塩に、ガラス基体を2.5時間浸漬した。その後、ガラス基体を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷することで、化学強化された凹凸形状付きガラス基体を得た。
【0102】
上記手順で作成した、化学強化された凹凸形状付きガラス基体に対して、散乱光光弾性応力計(折原製作所社製、商品名:SLP-1000)を用いて、表面圧縮応力の厚さ方向の分布を算出した。さらに、上記関数(a)および(b)の和を用いて、各パラメータA1、A2、B1、B2およびC1+C2の値を求めた。このとき、ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルにおける0<x<87.5μmの領域において、誤差最小二乗法により、近似した。圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義した。結果を下記表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
例1を2段階強化したものは、上記(1)~(6)の条件をすべて満たすため、CSが高く、DOLが深く高強度なガラス基体となっている。対して例4を強化したものは、CSが比較的低く、DOLが比較的低いものとなっている。したがって、LiO含有ガラス基体を2段階強化することで、高強度なガラス基体が得られることがわかる。