(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】イオン交換膜および乾燥イオン交換膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/22 20060101AFI20230704BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20230704BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20230704BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20230704BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20230704BHJP
H01M 8/1069 20160101ALI20230704BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230704BHJP
【FI】
C08J5/22 101
C08J5/22 CEW
C25B13/08 303
H01M8/1039
H01M8/1023
H01M8/1016
H01M8/1069
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020525695
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023744
(87)【国際公開番号】W WO2019240278
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018114511
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019016153
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】早部 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】本間 脩
(72)【発明者】
【氏名】山木 泰
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 達也
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓久央
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-035510(JP,A)
【文献】特開昭58-119348(JP,A)
【文献】特開2014-232663(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/22
C25B 13/08
H01M 8/1039
H01M 8/1023
H01M 8/1016
H01M 8/1069
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-SO
3M(Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)で表される基および主鎖に-CF
2-で表される基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜であって、
前記含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、1.25ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上であり、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm
-1のピーク面積a1に対する、ラマンシフト680~760cm
-1のピーク面積a2の比をA1として、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm
-1のピーク面積b1に対する、ラマンシフト680~760cm
-1のピーク面積b2の比をB1とした場合において、
前記A1に対する前記B1の比が、1.05以上であ
り、
前記含フッ素ポリマーが、さらに、側鎖にエーテル結合部位を有し、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm
-1
の範囲内の最も高いピークの高さh1に対する、ラマンシフト920~1025cm
-1
の範囲内の最も高いピークの高さh2の比をH1とし、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm
-1
の範囲内の最も高いピークの高さh3に対する、ラマンシフト920~1025cm
-1
の範囲内の最も高いピークの高さh4の比をH2として、
前記H1に対する前記H2の比が、1.15以上である、イオン交換膜。
【請求項2】
前記含フッ素ポリマーが、さらに、側鎖にエーテル結合部位を有し、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm
-1のピーク面積a1に対する、ラマンシフト920~1025cm
-1のピーク面積a3の比をA2とし、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm
-1のピーク面積b1に対する、ラマンシフト920~1025cm
-1のピーク面積b3の比をB2とした場合において、
前記A2に対する前記B2の比が、1.05よりも大きい、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
前記含フッ素ポリマーが、式(1)で表される単位を有する、請求項1
又は2に記載のイオン交換膜。
式(1) -[CF
2-CF(-L-(SO
3M)
n)]-
式(1)中、Lは、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、nは、1または2である。
【請求項4】
前記側鎖のエーテル結合部位が、下記のモノマー(A)~(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られる単位に含まれる部位である、請求項
3に記載のイオン交換膜。
【化1】
【請求項5】
前記イオン交換膜が液状媒体を含み、前記イオン交換膜中の前記液状媒体の含有量が、前記イオン交換膜の全質量に対して15質量%以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
前記液状媒体が、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方である、請求項
5に記載のイオン交換膜。
【請求項7】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜が液状媒体で湿潤した湿潤イオン交換膜を乾燥させて前記液状媒体を除去し、乾燥したイオン交換膜を得る乾燥イオン交換膜の製造方法であって、
前記含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、1.25ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上であり、
乾燥温度が、前記含フッ素ポリマーの軟化点以上であり、
乾燥の際の前記乾燥イオン交換膜の前記湿潤イオン交換膜からの寸法変化が、MD方向およびTD方向でそれぞれ-5%以上であることを特徴とする、乾燥イオン交換膜の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥イオン交換膜中の前記液状媒体の含有量が、前記乾燥イオン交換膜の全質量に対して15質量%以下である、請求項
7に記載の乾燥イオン交換膜の製造方法。
【請求項9】
乾燥の際の前記乾燥イオン交換膜の前記湿潤イオン交換膜からの寸法変化が、MD方向およびTD方向でそれぞれ50%以下である、請求項
7又は8に記載の乾燥イオン交換膜の製造方法。
【請求項10】
前記湿潤イオン交換膜の前記液状媒体の含有量が、前記湿潤イオン交換膜の全質量に対して、20質量%以上である、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の乾燥イオン交換膜の製造方法。
【請求項11】
前記湿潤イオン交換膜が、前記含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜と前記液状媒体とを60℃以上で接触させて得られる、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の乾燥イオン交換膜の製造方法。
【請求項12】
前記湿潤イオン交換膜の内部または表面に補強材が含まれる、請求項
7~
11のいずれか1項に記載の乾燥イオン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜および乾燥イオン交換膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電池、電解プロセスおよびイオン等の分離プロセスにおいて、イオン交換膜が使用されている。
特許文献1には、酸型のイオン交換基(-SO3H基)を有する含フッ素ポリマーを含む膜を乾燥して、-SO3H基を有する含フッ素ポリマーを含む乾燥状態のイオン交換膜を得る方法が示されている。
また、特許文献2には、金属塩型のイオン交換基(-SO3Na基)を有する含フッ素ポリマーを含む膜を水とともに容器に封入した後、加熱および乾燥を経て、-SO3Na基を有する含フッ素ポリマーを含む乾燥状態のイオン交換膜を得る方法が示されている。 乾燥状態で市場に流通するイオン交換膜は、湿潤状態で市場に流通するイオン交換膜と比較して、輸送効率に優れる、保管時にカビ等の発生を抑制できる等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本特開2005-060516号公報
【文献】国際公開第2005/058980
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種装置の槽内に設置したイオン交換膜は、イオン交換を行うイオン種に応じて食塩水、塩酸水、水などの電解液に浸漬した状態で使用する。上記特許文献1、2に記載されているような乾燥状態のイオン交換膜を槽内に設置して、電解液に浸漬させると、イオン交換膜の膨潤などにより面内方向の寸法が大きくなって、イオン交換膜にシワが生じる場合や、槽内の治具に接触してイオン交換膜にクラックが発生する場合がある。
本発明は、上記実情に鑑みて、電解液に浸漬したときにイオン交換膜の面内方向の寸法安定性に優れるイオン交換膜および乾燥イオン交換膜の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、-SO3Mで表される基および主鎖に-CF2-で表される基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜において、ラマン分光法によって、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と直交する偏光を照射して得られるスペクトルチャートから算出される値と、厚み方向と平行な偏光を照射して得られるスペクトルチャートから算出される値と、が所定の関係を満たせば、電解液に浸漬したときにイオン交換膜の面内方向の寸法安定性に優れることを見出し、本発明に至った。
また、本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜が液状媒体に膨潤した湿潤イオン交換膜を乾燥する際に、特定の条件で乾燥させることにより、電解液に浸漬したときにイオン交換膜の面内方向の寸法安定性に優れるのを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明者らは、以下の態様により上記課題を達成できるのを見出した。
[1] -SO3M(Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)で表される基および主鎖に-CF2-で表される基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜であって、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1のピーク面積a1に対する、ラマンシフト680~760cm-1のピーク面積a2の比をA1として、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1のピーク面積b1に対する、ラマンシフト680~760cm-1のピーク面積b2の比をB1とした場合において、
前記A1に対する前記B1の比が、1.05以上である、イオン交換膜。
【0007】
[2] 前記含フッ素ポリマーが、さらに、側鎖にエーテル結合部位を有し、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1のピーク面積a1に対する、ラマンシフト920~1025cm-1のピーク面積a3の比をA2とし、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1のピーク面積b1に対する、ラマンシフト920~1025cm-1のピーク面積b3の比をB2とした場合において、
前記A2に対する前記B2の比が、1.05よりも大きい、[1]のイオン交換膜。
【0008】
[3] 前記含フッ素ポリマーが、さらに、側鎖にエーテル結合部位を有し、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲内の最も高いピークの高さh1に対する、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲内の最も高いピークの高さh2の比をH1とし、
ラマン分光法によって、前記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、前記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲内の最も高いピークの高さh3に対する、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲内の最も高いピークの高さh4の比をH2として、
前記H1に対する前記H2の比が、1.05以上である、[1]のイオン交換膜。
【0009】
[4] 前記含フッ素ポリマーが、式(1)で表される単位を有する、[1]~[3]のいずれかのイオン交換膜。
式(1) -[CF
2-CF(-L-(SO
3M)
n)]-
式(1)中、Lは、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、nは、1または2である。
[5] 前記側鎖のエーテル結合部位が、下記のモノマー(A)~(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られる単位に含まれる部位である、[4]のイオン交換膜。
【化1】
【0010】
[6] 前記含フッ素ポリマーのイオン交換容量が、0.90ミリ当量/グラム乾燥樹脂よりも大きい、[1]~[5]のいずれかのイオン交換膜。
[7] 前記イオン交換膜が液状媒体を含み、前記イオン交換膜中の前記液状媒体の含有量が、前記イオン交換膜の全質量に対して15質量%以下である、[1]~[6]のいずれかのイオン交換膜。
[8] 前記液状媒体が、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方である、[7]のイオン交換膜。
【0011】
[9] スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜が液状媒体で湿潤した湿潤イオン交換膜を乾燥させて前記液状媒体を除去し、乾燥したイオン交換膜を得る乾燥イオン交換膜の製造方法であって、
乾燥の際の前記乾燥イオン交換膜の前記湿潤イオン交換膜からの寸法変化が、MD方向およびTD方向でそれぞれ-5%以上であることを特徴とする、乾燥イオン交換膜の製造方法。
【0012】
[10] 前記乾燥イオン交換膜中の前記液状媒体の含有量が、前記乾燥イオン交換膜の全質量に対して15質量%以下である、[9]の乾燥イオン交換膜の製造方法。
[11] 乾燥温度が、前記含フッ素ポリマーの軟化点以上である、[9]または[10]の乾燥イオン交換膜の製造方法。
[12] 乾燥の際の前記乾燥イオン交換膜の前記湿潤イオン交換膜からの寸法変化が、MD方向およびTD方向でそれぞれ50%以下である、[9]~[11]のいずれかの乾燥イオン交換膜の製造方法。
[13] 前記湿潤イオン交換膜の前記液状媒体の含有量が、前記湿潤イオン交換膜の全質量に対して、20質量%以上である、[9]~[12]のいずれかの乾燥イオン交換膜の製造方法。
【0013】
[14] 前記湿潤イオン交換膜が、前記含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜と前記液状媒体とを60℃以上で接触させて得られる、[9]~[13]のいずれかの乾燥イオン交換膜の製造方法。
[15]前記湿潤イオン交換膜の内部または表面に補強材が含まれる、[9]~[14]のいずれかの乾燥イオン交換膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解液に浸漬したときにイオン交換膜の面内方向の寸法安定性に優れるイオン交換膜および乾燥イオン交換膜の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ラマン分光法による偏光の照射方向と含フッ素ポリマーの配向方向との関係を説明するための図である。
【
図2】ラマン分光法による測定方法を説明するための図である。
【
図3】イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と直交する方向に偏光を照射した場合に得られるスペクトルチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書における下記の用語の意味は、以下の通りである。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(-SO3H)、またはスルホン酸塩基(-SO3M2。ただし、M2はアルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)を意味する。
「前駆体膜」とは、スルホン酸型官能基に変換できる基を有するポリマーを含む膜である。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
【0017】
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合して形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理して該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。
【0018】
「補強材」は、イオン交換膜の強度を向上させるために用いられる部材を意味する。
「補強布」は、イオン交換膜の強度を向上させるための補強材の元となる部材として用いられる布を意味する。
「補強糸」は、補強布を構成する糸であり、イオン交換膜の使用条件にて溶出しない糸である。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。下限値および上限値の単位が同じの場合には、簡潔化のため、下限値の単位を省略することがある。
「MD方向」は、乾燥イオン交換膜の製造時における湿潤イオン交換膜の搬送方向を意味し、長尺の湿潤イオン交換膜を用いて乾燥イオン交換膜を製造する場合には、長尺方向を意味する。
「TD方向」は、湿潤イオン交換膜の面内におけるMD方向と交差する方向(湿潤イオン交換膜の幅方向)を意味する。
【0019】
[乾燥イオン交換膜の製造方法]
本発明の乾燥イオン交換膜の製造方法(以下、本製造方法ともいう。)は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、フッ素ポリマー(S)ともいう。)を含むイオン交換膜が液状媒体で膨潤した湿潤イオン交換膜を乾燥させて、乾燥したイオン交換膜を得る方法であって、乾燥の際の乾燥イオン交換膜の湿潤イオン交換膜からの寸法変化が、MD方向およびTD方向でそれぞれ-5%以上、好ましくは-3%以上、換言すれば、収縮率が5%以内、好ましくは3%以内になるようにする方法である。これを達成するのは、湿潤イオン交換膜を延伸倍率が0%以上、好ましくは5%以上になるように延伸しながら乾燥してもよい。
【0020】
このようにして得られた乾燥イオン交換膜を使用下で槽内に設置して電解液に浸漬した場合において、面内方向の寸法安定性に優れる。なお、本明細書において、「イオン交換膜の面内方向の寸法安定性に優れる」とは、電解液(具体的には、食塩水、塩酸水、水など)に乾燥イオン交換膜を浸漬したときのイオン交換膜の面内方向の寸法変化が小さいことを意味する。
通常、湿潤イオン交換膜を乾燥すると、液状媒体が取り除かれることによりイオン交換膜は収縮する。この際、TDおよびMD方向の収縮を抑制して収縮率を一定の値以内または延伸倍率を0%以上に保つことにより、乾燥イオン交換膜中に乾燥による内部応力が残存せず、電解液に浸漬してイオン交換膜が膨潤した際に、面内方向の寸法安定性に優れるものと推測される。
【0021】
また、本製造方法で得られた乾燥イオン交換膜は、使用に際して槽内に設置して電解液に浸漬したときに、イオン交換膜の厚み方向の寸法が大きくなるという性質をもつ。これはTD、MD方向の収縮が抑制されたことにより、厚み方向の収縮がより大きくなり、電解液に浸漬してイオン交換膜が膨潤した際に、厚み方向の膨張がより大きくなると推測される。
本製造方法で得られた乾燥イオン交換膜は、槽内に設置して電解液に浸漬した際に厚み方向の寸法が大きくなることにより、パッキンとの密着性がより高くなり、シール性に優れるという効果も併せ有する。
【0022】
本発明の製造方法で得られた乾燥イオン交換膜は、液状媒体の含有量が、乾燥イオン交換膜の全質量に対して、15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。下限としては、1質量%が挙げられる。
一方、湿潤イオン交換膜の乾燥は、得られる乾燥イオン交換膜中の液状媒体の含有量が、乾燥イオン交換膜の全質量に対して、10質量%以下になるまで実施するのが好ましく、7質量%以下になるまで実施するのがより好ましく、5質量%以下になるまで実施するのが特に好ましい。下限としては、1質量%が挙げられる。
なお、製造工程でイオン交換膜を十分に乾燥させても、乾燥イオン交換膜を放置しておくと、空気中の湿気を吸収してイオン交換膜の液状媒体の含有量は上昇する傾向がある。 本発明の製造方法で得られた乾燥イオン交換膜の厚さは、一定の強度を保つ点から、20μm以上が好ましく、40μm以上が特に好ましく、電流効率および電圧効率を高める点から、300μm以下が好ましく、200μm以下が特に好ましい。
【0023】
以下において、本製造方法で使用する各材料について説明した後に、製造方法について詳述する。
【0024】
<湿潤イオン交換膜>
本製造方法で用いる湿潤イオン交換膜は、液状媒体によって湿潤したイオン交換膜である。湿潤イオン交換膜に含まれる含フッ素ポリマー(S)は液状媒体を含み、膨潤した状態となっている。
湿潤イオン交換膜の液状媒体の含有量は、イオン交換膜の面内方向の寸法安定性がより優れる点から、湿潤イオン交換膜の全質量に対して、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。該液状媒体の含有量は、乾燥効率に優れる点から、150質量%以下が好ましく、140質量%以下がより好ましく、130質量%以下がさらに好ましい。
湿潤イオン交換膜の膜厚は、一定の強度を保つ点から、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、電流効率および電圧効率を高める点から、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、180μm以下がさらに好ましい。
【0025】
(液状媒体)
液状媒体としては、含フッ素ポリマー(S)を膨潤できる媒体であればよく、有機溶剤および水が挙げられる。液状媒体としては、有機溶剤と水のいずれか一方でもよく、両者の混合物でもよい。また、有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
含フッ素ポリマー(S)を膨潤できる有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が挙げられる。本明細書において、水溶性有機溶剤とは、水に容易に溶解する有機溶剤であり、具体的には、水1000ml(20℃)に対する溶解性が、好ましくは0.1g以上、特には、0.5g以上の有機溶剤がより好ましい。水溶性有機溶剤は、非プロトン性有機溶剤、アルコール類およびアミノアルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むのが好ましく、非プロトン性有機溶剤を含むのがより好ましい。
水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
非プロトン性有機溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンが挙げられ、ジメチルスルホキシドが好ましい。
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエトキシエタノール、ブトキシエタノール、ブチルカルビトール、ヘキシルオキシエタノール、オクタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールが挙げられる。
アミノアルコール類の具体例としては、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1-アミノ-3-プロパノール、2-アミノエトキシエタノール、2-アミノチオエトキシエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが挙げられる。
【0027】
(含フッ素ポリマー(S))
含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、電圧効率が優れる点から、0.90ミリ当量/グラム乾燥樹脂(meq/gともいう。)以上が好ましく、1.00meq/g以上がより好ましく、1.05meq/gよりも大きいことがさらに好ましく、1.10meq/g以上が特に好ましい。
なお、電流効率と電圧効率のバランスの点から、含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、2.05meq/g以下が好ましく、1.50meq/g以下がより好ましく、1.25meq/g以下が特に好ましい。
【0028】
湿潤イオン交換膜に使用される含フッ素ポリマー(S)は1種でもよく、2種以上を積層または混合して使用してもよい。
また、湿潤イオン交換膜は、含フッ素ポリマー(S)以外のポリマーを含んでいてもよいが、実質的に含フッ素ポリマー(S)からなるのが好ましい。実質的に含フッ素ポリマー(S)からなるとは、湿潤イオン交換膜中のポリマーの合計質量に対して、含フッ素ポリマー(S)の含有量が90質量%以上であることを意味する。含フッ素ポリマー(S)の含有量の上限としては、湿潤イン交換膜中のポリマーの合計質量に対して、100質量%が挙げられる。
【0029】
湿潤イオン交換膜が含フッ素ポリマー(S)以外のポリマーを含む場合としては、例えばカルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、含フッ素ポリマー(C)ともいう。)を含む場合が挙げられる。その態様としては、含フッ素ポリマー(S)と含フッ素ポリマー(C)とが層状に積層されたイオン交換膜が挙げられる。なお、カルボン酸型官能基とは、カルボキシ基、またはカルボン酸塩基を意味する。
【0030】
含フッ素ポリマー(S)が有するスルホン酸型官能基は、得られる乾燥イオン交換膜の取り扱い性が優れる点から、スルホン酸塩基(-SO3M2)が好ましく、スルホン酸ナトリウム基がより好ましい。なお、M2の定義は前記の通りである。また、種々の用途への汎用性が高いことからスルホン酸基も好ましい。
【0031】
含フッ素ポリマー(S)は、主鎖に-CF2-で表される基を有することが好ましく、より具体的には、含フッ素オレフィンに基づく単位ならびにスルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位を含むのが好ましい。
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2または3のフルオロオレフィンが挙げられる。その具体例としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。なかでも、製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S)の特性に優れる点から、TFEが好ましい。含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位としては、式(1)で表される単位が好ましい。
式(1) : -[CF2-CF(-L-(SO3M)n)]-
但し、Lは、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基である。酸素原子は、ペルフルオロ炭化水素基中の末端に位置していても、炭素原子-炭素原子間に位置していてもよい。
n+1価のペルフルオロ炭化水素基中に炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0033】
Lとしては、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基が好ましく、n=1の態様である、酸素原子を含んでいてもよい2価のペルフルオロアルキレン基、または、n=2の態様である、酸素原子を含んでいてもよい3価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基がより好ましい。上記2価のペルフルオロアルキレン基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。nは、1または2である。
【0034】
式(1)で表される単位としては、式(1-1)で表される単位、式(1-2)で表される単位、式(1-3)で表される単位または式(1-4)で表される単位が好ましい。
式(1-1) -[CF2-CF(-O-Rf1-SO3M)]-
式(1-2): -[CF2-CF(-Rf1-SO3M)]-
【0035】
【0036】
【0037】
Rf1は、炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0038】
Rf2は、単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
rは0または1である。
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
【0039】
式(1-1)で表される単位および式(1-2)で表される単位としては、式(1-5)で表される単位がより好ましい。
式(1-5): -[CF2-CF(-(CF2)x-(OCF2CFY)y-O-(CF2)z-SO3M)]-
xは0または1であり、yは0~2の整数であり、zは1~4の整数であり、YはFまたはCF3である。Mは、上述した通りである。
【0040】
式(1-1)で表される単位の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF2-CF(-O-(CF2)w-SO3M)]-
-[CF2-CF(-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2)w-SO3M)]-
-[CF2-CF(-(O-CF2CF(CF3))x-SO3M)]-
【0041】
式(1-2)で表される単位の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF2-CF(-(CF2)w-SO3M)]-
-[CF2-CF(-CF2-O-(CF2)w-SO3M)]-
【0042】
式(1-3)で表される単位としては、式(1-3-1)で表される単位が好ましい。式中のMの定義は、上述した通りである。
【0043】
【0044】
Rf3は炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、Rf4は単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。rおよびMの定義は、上述した通りである。
【0045】
式(1-3)で表される単位の具体例としては、以下が挙げられる。
【0046】
【0047】
式(1-4)で表される単位の具体例としては、以下が挙げられる。
【0048】
【0049】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
含フッ素ポリマー(S)は、側鎖にエーテル結合部位を有することが好ましく、上記のようにスルホン酸型官能基を有する側鎖中に含まれるエーテル結合であることが特に好ましい。
含フッ素ポリマー(S)が側鎖にエーテル結合部位を有する場合、該エーテル結合部位をもたらすモノマーは、含フッ素ポリマー(S)の側鎖中にエーテル結合を介してスルホン酸型官能基有するモノマーが好ましい。なかでも、下記のモノマー(A)~(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであるのが好ましい。
【化7】
【0050】
含フッ素ポリマー(S)は、含フッ素オレフィンに基づく単位、並びに、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位以外の、他のモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
他のモノマーの具体例としては、CF2=CFRf5(ただし、Rf5は炭素数2~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF2=CF-ORf6(ただし、Rf6は炭素数1~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF2=CFO(CF2)vCF=CF2(ただし、vは1~3の整数である。)が挙げられる。
他のモノマーに基づく単位の含有量は、イオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマー(S)中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
【0051】
湿潤イオン交換膜は、単層構造であっても、多層構造であってもよい。多層構造である場合、例えば、含フッ素ポリマー(S)を含み、イオン交換容量や単位が互いに異なる層を複数積層させる態様が挙げられる。また、前述のとおり、含フッ素ポリマー(C)の層を積層させていてもよい。
【0052】
また、湿潤イオン交換膜は、その内部または表面に補強材を含んでいてもよい。つまり、湿潤イオン交換膜は、液状媒体によって膨潤した含フッ素ポリマー(S)と補強材とを含む態様であってもよい。
補強材は、補強布(好ましくは、織布)に由来する部材が好ましい。補強布以外にも、フィブリル、多孔体が補強材として挙げられる。
補強布は、経糸と緯糸とからなり、経糸と緯糸とが直交しているのが好ましい。また、補強布は、補強糸と犠牲糸とからなるのが好ましい。
【0053】
補強糸としては、補強布をアルカリ性水溶液(例えば、濃度が32質量%の水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬しても溶出しない材料からなる糸が好ましい。具体的には、補強糸としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEともいう。)からなる補強糸、テトラフルオロエチレン-パーフルオロエーテル共重合体(以下、PFAともいう。パーフルオロエーテルとしては、パーフルロアルキルビニルエーテルが好ましい。)からなる補強糸、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSともいう。)からなる補強糸、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKともいう。)からなる補強糸、ナイロンからなる補強糸およびポリプロピレンからなる補強糸からなる群から選ばれる少なくとも1種の補強糸が好ましい。
【0054】
犠牲糸は、イオン交換膜を含む装置の運転環境下でその少なくとも一部が溶出する糸であり、補強布をアルカリ性水溶液に浸漬したときに、アルカリ性水溶液に溶出する材料からなる糸が好ましい。犠牲糸は、1本のフィラメントからなるモノフィラメントであっても、2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントであってもよい。
湿潤イオン交換膜の製造時およびイオン交換膜の電池への装着時などのハンドリング中は、犠牲糸によってイオン交換膜の強度が保たれるが、電池の運転環境下で犠牲糸が溶解するため膜の抵抗が低下する。
【0055】
また、湿潤イオン交換膜の表面には、無機物粒子とバインダーとを含む無機物粒子層が設けられていてもよい。無機物粒子層は、湿潤イオン交換膜の少なくとも一方の表面に設けられるのが好ましく、両表面に設けられるのがより好ましい。
湿潤イオン交換膜が無機物粒子層を有すると、イオン交換膜の親水性が向上し、イオン伝導度が向上する。
【0056】
(湿潤イオン交換膜の製造方法)
湿潤イオン交換膜は、例えば国際公開第2018/070444号に記載の公知の方法によって得られる。すなわち、スルホン酸型官能基に変換できる基を有するモノマーを重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを得る。該含フッ素ポリマーを製膜してスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの膜(以下、「前駆体膜」ともいう。)を製造し、次に、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解してスルホン酸型官能基に変換して製造する。加水分解後に、用途等に応じてスルホン酸型官能基の対イオンを水素、ナトリウム、カリウムなどに対イオン変換してもよい。
湿潤イオン交換膜が積層体の場合には、複数の前駆体膜を作製して積層後に加水分解すればよい。また、湿潤イオン交換膜が補強材を含む場合は、前駆体膜を積層する際に、補強材も前駆体膜間に積層するなどすればよい。
【0057】
加水分解または対イオン交換後のイオン交換膜は通常、上記含フッ素ポリマーが加水分解や対イオン交換に用いた媒体やその後の水洗の水などにより湿潤している。この湿潤状態のイオン交換膜をそのまま湿潤イオン交換膜として用いて乾燥を行ってもよい。
【0058】
本発明の製造方法においては湿潤イオン交換膜の液状媒体の含有量がより高いのが好ましい。含フッ素ポリマー(S)の液状媒体による膨潤度がより高い程、イオン交換膜の面内方向の寸法安定性がより高くなる。含フッ素ポリマー(S)の液状媒体による膨潤度は、含フッ素ポリマー(S)のポリマー構造、イオン交換容量、スルホン酸型官能基の対イオンの種類、湿潤イオン交換膜の膜構成などに影響を受け、例えばイオン交換容量が高い程、含フッ素ポリマー(S)の膨潤度は高くなりやすい傾向にある。これらの条件にも影響を受けるが、このようなより高い効果を得るには、湿潤イオン交換膜の液状媒体の含有量が、湿潤イオン交換膜の全質量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
これは、含フッ素ポリマー(S)の膨潤度をより高めて内部応力をより緩和させた状態から乾燥することにより、乾燥イオン交換膜中の乾燥による残存する内部応力がより一層小さくなったためと推測される。
【0059】
上記のように加水分解や対イオン交換後の湿潤状態のイオン交換膜を湿潤イオン交換膜としてそのまま用いてもよいが、液状媒体の含有量が高い湿潤イオン交換膜が得やすくなる点から、液状媒体の含有量をより高くする操作を行うことが好ましい。このような操作は、例えば、液状媒体に接触させながら加熱する方法、含フッ素ポリマー(S)とより親和性の高い液状媒体に一定時間浸漬する方法、などの方法が挙げられるが、操作が簡便であることから、液状媒体に接触させながら加熱する方法(以下、「接触加熱処理」ともいう。)が好ましい。
【0060】
接触加熱処理に用いるイオン交換膜(以下、「未処理膜」とも記す。)は、加水分解や対イオン交換後の湿潤状態のイオン交換膜でもよく、乾燥済みのイオン交換膜であってもよい。
未処理膜と液状媒体の接触方法としては、例えば、液状媒体中に未処理膜を浸漬する方法、未処理膜に液状媒体を塗布する方法が挙げられる。
接触加熱処理における加熱温度は、液状媒体がより未処理膜に浸透しやすいことから、60℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱温度は、液状媒体の揮発温度(沸点)以下が好ましい。
接触加熱処理の時間は、例えば、未処理膜の液状媒体の含有量が上記の範囲内になるように適宜調整すればよい。
【0061】
<湿潤イオン交換膜の乾燥方法>
(乾燥工程)
本製造方法において湿潤イオン交換膜を乾燥させて液状媒体を除去し、乾燥イオン交換膜を得る工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)においては、乾燥イオン交換膜の湿潤イオン交換膜からの寸法変化がMD方向およびTD方向でそれぞれ-5%以上となるように行う。なお、以下において、「乾燥工程の際の乾燥イオン交換膜の湿潤イオン交換膜からの寸法変化」を、「乾燥前後の湿潤イオン交換膜の寸法変化」と略記する場合がある。
【0062】
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化は、具体的には、それぞれの方向について下式よって算出できる。
湿潤イオン交換膜の寸法変化(%)=100×{(乾燥イオン交換膜の長さ)-(湿潤イオン交換膜の長さ)}/(湿潤イオン交換膜の長さ) 式1
【0063】
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化はそれぞれ、-5%以上であり、収縮が少ないのが好ましいが、寸法変化がない場合や、乾燥しながら膜を延伸した場合でも面内方向の寸法変化に優れたイオン交換膜が得られる。具体的な好ましい寸法変化としては、0%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましく、20%以上が最も好ましい。
寸法変化が0%を超える場合、すなわち延伸する場合の寸法変化の上限は、イオン交換膜が破れるなど損傷しなければ特に制限はないが、膜厚が薄くなりすぎると強度が低下することから、乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化がそれぞれ、250%以下が好ましく、200%以下がより好ましく、150%以下がさらに好ましく、50%以下が特に好ましい。
【0064】
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化を上記範囲内にする方法としては、例えば、湿潤イオン交換膜の周囲を拘束しながら乾燥する方法(例えば、湿潤イオン交換膜の周囲を金属枠で挟んで固定する方法、湿潤イオン交換膜の周囲に針を刺して固定する方法)、および、湿潤イオン交換膜の周囲に荷重をかける方法等が挙げられる。
ここで、乾燥イオン交換膜の製造は、ロール・トゥ・ロールで実施してもよい。この場合、長尺のロール状の湿潤イオン交換膜を巻き出して、本製造方法の各工程の実施した後、乾燥イオン交換膜がロール状に巻き取られる。このとき、湿潤イオン交換膜の乾燥中のMD方向の寸法変化は、例えば、乾燥イオン交換膜の巻き取り速度を調節することによっても制御できる。
【0065】
湿潤イオン交換膜の乾燥は、自然乾燥であってもよいし、公知の乾燥装置を用いて行ってもよいが、乾燥効率の点から、加熱による乾燥が好ましい。
湿潤イオン交換膜の乾燥時に加熱を行う場合、湿潤イオン交換膜の加熱温度は、50~300℃が好ましく、90~280℃がより好ましい。
特に、湿潤イオン交換膜の加熱温度は、乾燥時の内部応力の残存が少ない点から、含フッ素ポリマー(S)の軟化点以上の温度が好ましく、含フッ素ポリマーの軟化点よりも10℃以上高い温度がより好ましく、含フッ素ポリマー(S)の軟化点よりも20℃以上高い温度が特に好ましい。
含フッ素ポリマー(S)の軟化点は、後述の実施例欄に記載の方法で測定される。
【0066】
[イオン交換膜]
本発明のイオン交換膜は、-SO3Mで表される基および主鎖に-CF2-で表される基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜である。
また、ラマン分光法によって、上記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、上記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1のピーク面積a1に対する、ラマンシフト680~760cm-1のピーク面積a2の比をA1として、
ラマン分光法によって、上記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、上記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1のピーク面積b1に対する、ラマンシフト680~760cm-1のピーク面積b2の比をB1とした場合において、
上記A1に対する上記B1の比が、1.05以上である。
なお、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲に存在するピークは、上記-SO3Mで表される基に由来するピークと考えられ、ラマンシフト680~760cm-1の範囲に存在するピークは、上記主鎖に存在する-CF2-で表される基に由来するピークと考えられる。また、-SO3Mで表される基におけるMは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンを表し、なかでも、水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子が好ましい。
【0067】
本発明のイオン交換膜は、槽内に設置して電解液に浸漬した場合において、面内方向の寸法安定性に優れる。この理由の詳細は不明だが、以下のように推測される。
-CF
2-で表される基は、含フッ素ポリマーの主鎖を構成する基である。-CF
2-で表される基のC-F結合は、含フッ素ポリマーの主鎖が配向する方向に対して、直交する方向に位置する。ラマン分光法によって測定される-CF
2-に由来するピークは、C-Fの伸縮振動によるものである。
ここで、
図1を用いて、ラマン分光法による照射方向と、含フッ素ポリマーの配向方法との関係を具体的に説明する。
図1の例では、含フッ素ポリマーの主鎖M1は、イオン交換膜10の厚み方向Tと直交する方向12Aに沿って配向している。この場合、厚み方向Tと直交する方向12Aに沿った偏光PAよりも、厚みTと平行な方向12Bに沿った偏光PBで測定した方が、主鎖に存在する-CF
2-で表される基に由来するピークの散乱効率が高くなると考えられる。
つまり、上記A1に対する上記B1の比が1.05以上であるということは、含フッ素ポリマーの主鎖がイオン交換膜の厚み方向と直交する方向に沿って配向している傾向にある。これにより、イオン交換膜を電解液に浸漬させた場合に、主鎖の配向方向(イオン交換膜の面内方向)の伸縮が小さくなるので、面内方向の寸法安定性が優れると考えられる。
【0068】
本発明のイオン交換膜において、A1に対するB1の比(B1/A1)は、1.05以上であり、イオン交換膜の面内方向の寸法安定性がより優れる点から、1.10以上が好ましく、1.13以上がより好ましく、1.25以上が特に好ましい。
上記比(B1/A1)は、特に限定されないが、通常、3.00以下が好ましく、2.00以下がより好ましい。
【0069】
本発明のイオン交換膜は、例えば、上述の本発明の乾燥イオン交換膜の製造方法によって製造できる。
本発明のイオン交換膜は、液状媒体の含有量が、イオン交換膜の全質量に対して、15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。下限としては、1質量%が挙げられる。 液状媒体の含有量がこの範囲であれば、イオン交換膜のハンドリング性に優れる。
本発明のイオン交換膜の膜厚は、一定の強度を保つ点から、20μm以上が好ましく、40μm以上が特に好ましく、電流効率および電圧効率を高める点から、300μm以下が好ましく、200μm以下が特に好ましい。
【0070】
本発明のイオン交換膜に含まれる含フッ素ポリマーの具体例としては、上述の乾燥イオン交換膜の製造方法で挙げた含フッ素ポリマー(S)が挙げられる。含フッ素ポリマーの具体例および好適態様は、上述の乾燥イオン交換膜の製造方法で挙げた含フッ素ポリマー(S)と同様である。
【0071】
本発明のイオン交換膜は、単層構造でも多層構造でもよく、補強材を含んでいてもよく、表面に無機微粒子層を有していてもよい。これらの構成および好ましい態様は、乾燥イオン交換膜の製造方法における湿潤膜と同様である。
【0072】
<イオン交換膜の特性>
本発明のイオン交換膜の特性の一つである、ラマン分光法によって得られるスペクトルチャートに基づいて算出される上記A1の算出方法について、
図2および
図3を用いて詳述する。
図2は、ラマン分光法による測定方法を説明するための図である。また、
図3は、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と直交する方向に偏光を照射した場合に得られるスペクトルチャートの一例である。
【0073】
上記A1の算出にあたって、まず、イオン交換膜10の厚み方向Tに平行な軸方向に沿ってイオン交換膜10を切断して、イオン交換膜10の断面12を露出させる。イオン交換膜の断面を露出させる方法としては、例えば、剃刀等を用いる切断方法が挙げられる。 次に、断面12に対して、厚み方向Tと直交する方向12Aに偏光を照射して、ラマン分光分析によって、
図3に示すスペクトルチャートを得る。イオン交換膜10に照射する光は、波長532nmのレーザー光である。イオン交換膜10に照射する光は、直線偏光であり、具体的には偏光子を用いて得られる。
ラマン分光法による測定には、例えば、ラマン分光装置(製品名「LabRAM HR-800」、堀場製作所社製)が用いられる。
【0074】
図3に示すスペクトルチャートは、縦軸が強度(ラマン散乱強度)を表し、横軸がラマンシフト(cm
-1)を表す。
本発明では、ラマンシフト1025~1095cm
-1の範囲のピーク面積a1を使用する。
図3の例では、ラマンシフト1060cm
-1の位置にピークが存在するが、ピーク面積は、
図3に示すように、1025cm
-1における強度を表す点(座標)と、1095cm
-1における強度を表す点(座標)との2点を結ぶベースラインを作製し、ラマンシフト1025~1095cm
-1の範囲の中の、ベースラインとスペクトルで囲まれた領域の面積を算出して求めた。
本発明では、ラマンシフト680~760cm
-1の範囲のピーク面積a2を使用する。
図3の例では、ラマンシフト730cm
-1の位置にピークが存在するが、ピーク面積は、
図3に示すように、680cm
-1における強度を表す点(座標)と、760cm
-1における強度を表す点(座標)との2点を結ぶベースラインを作製し、ラマンシフト680~760cm
-1の範囲の中の、ベースラインとスペクトルで囲まれた領域の面積を算出して求めた。
このようにして得られた値に基づいて、ピーク面積a1に対するピーク面積a2の比であるA1(a2/a1)を算出する。
【0075】
上記のように、A1は、イオン交換膜10の厚み方向Tの断面12に対して、厚み方向Tと直交する方向12Aに偏光を照射して測定したスペクトルから算出される値である。そのため、A1は、主鎖に存在する-CF
2-で表される基のC-F結合がイオン交換膜10の厚み方向Tと直交する方向12Aに沿って配向しており、主鎖(C-C結合)がイオン交換膜10の厚み方向Tに沿って配向していることを示す指標となると考えられる。つまり、主鎖がイオン交換膜10の厚み方向Tに沿って配向している場合、A1の値が大きくなると考えられる。
一方で、上記B1(b2/b1)は、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と平行な偏光を照射して得られたスペクトルチャートを用いる以外は、上記A1と同様にして算出される。具体的には、
図2の例では、B1は、断面12に対して、厚み方向Tと平行な方向12Bに偏光を照射して測定したスペクトルから算出される値である。そのため、B1は、主鎖に存在する-CF
2-で表される基のC-F結合がイオン交換膜10の厚み方向Tと平行な方向12Bに沿って配向しており、主鎖(C-C結合)がイオン交換膜10の厚み方向Tと直交する方向12Aに沿って配向していることを示す指標となると考えられる。つまり、主鎖がイオン交換膜10の厚み方向Tと直交する方向12Aに沿って配向している場合、B1の値が大きくなると考えられる。
したがって、A1に対するB1の比(B1/A1)が高いほど、含フッ素ポリマーの主鎖がイオン交換膜の厚み方向と直交する方向に配向している傾向にあると考えられる。そのため、イオン交換膜を電解液に浸漬させた場合に、主鎖の配向方向(イオン交換膜の面内方向)の伸縮が小さくなるので、面内方向の寸法安定性が優れると考えられる。
配向性パラメーターにピーク面積を用いることにより、スペクトルのノイズによるばらつきの影響を低減することができる。
【0076】
本発明のイオン交換膜に含まれる含フッ素ポリマーは、さらに、側鎖にエーテル結合部位(具体的には、C-O-Cで表される部分結合)を有するのが好ましい。この場合、本発明のイオン交換膜は、次の特性を満たすのが好ましい。
すなわち、上記ピーク面積a1に対する、ラマンシフト920~1025cm-1のピーク面積a3の比をA2とし、上記ピーク面積b1に対する、ラマンシフト920~1025cm-1のピーク面積b3の比をB2とした場合において、A2に対するB2の比(B2/A2)は、1.05よりも大きいことが好ましく、1.10以上がより好ましく、1.15以上が特に好ましい。
比(B2/A2)が1.05よりも大きければ、イオン交換膜の面内方向の寸法安定性がより優れる。
比(B2/A2)は、特に限定されないが、通常、3.00以下が好ましく、2.00以下がより好ましい。
なお、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲に存在するピークは、側鎖に存在するエーテル結合部位に由来するピークであると考えられる。
【0077】
本発明のイオン交換膜に含まれる含フッ素ポリマーが側鎖にエーテル結合部位を有する場合、ラマンシフト920~1025cm
-1の範囲のピーク面積a3を使用するのが好ましい。
図3の例では、ラマンシフト975cm
-1の位置にピークが存在するが、ピーク面積は、
図3に示すように、920cm
-1における強度を表す点(座標)と、1025cm
-1における強度を表す点(座標)との2点を結ぶベースラインを作製し、ラマンシフト920cm
-1および1025cm
-1の範囲の中の、ベースラインとスペクトルで囲まれた領域の面積を算出して求めた。
ピーク面積a3は、ラマン分光法によって、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と直交する偏光を照射して得られるスペクトルチャートに基づいて算出される。 このようにして得られた値に基づいて、ピーク面積a3に対するピーク面積a1の比であるA2(a3/a1)を算出する。
【0078】
ピーク面積b3は、ラマン分光法によって、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と平行な偏光を照射して得られるスペクトルチャートに基づいて算出される。
このようにして得られた値に基づいて、ピーク面積b3に対するピーク面積b1の比であるB2(b3/b1)を算出する。
本発明のイオン交換膜に含まれる含フッ素ポリマーが側鎖にエーテル結合部位を有する場合、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲のピーク面積b3を使用するのが好ましい。
【0079】
上記のように、A2は、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と直交する偏光を照射することによって算出される値であるので、エーテル結合部位が含フッ素ポリマーの側鎖に存在する場合、含フッ素ポリマーの主鎖が厚み方向と平行な方向に沿って配向していることを示す指標である。より具体的には、含フッ素ポリマーがエーテル結合部位を含む側鎖を有する場合は、側鎖は主鎖に対して直交する方向に沿って配向しやすい(特に、式(1)で表される単位は、この傾向を示しやすい。)。そのため、含フッ素ポリマーの側鎖に直交する方向に存在する主鎖が、イオン交換膜の厚み方向と平行な方向に配向している場合、A2の値が大きくなると考えられる。
一方で、B2は、イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、厚み方向と平行な方向に偏光を照射することによって算出される値であるので、エーテル結合部位が含フッ素ポリマーの側鎖に存在する場合、含フッ素ポリマーの主鎖が厚み方向と直交する方向に沿って配向していることを示す指標である。そのため、含フッ素ポリマーの側鎖に直交する方向に存在する主鎖が、イオン交換膜の厚み方向と直交する方向に配向している場合、B2の値が大きくなると考えられる。
つまり、A2に対するB2の比(B2/A2)が1.05よりも大きいほど、含フッ素ポリマーの主鎖がイオン交換膜の厚み方向と直交する方向に配向している傾向が強くなると考えられる。そのため、イオン交換膜を電解液に浸漬させた場合に、主鎖の配向方向(イオン交換膜の面内方向)の伸縮が小さくなるので、面内方向の寸法安定性が優れると考えられる。
【0080】
本発明のイオン交換膜に含まれる含フッ素ポリマーが側鎖にエーテル結合部位を有する場合、本発明のイオン交換膜は、次の特性を満たすのが好ましい。
また、ラマン分光法によって、上記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、上記厚み方向と直交する偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲に存在する最も高いピークの高さh1に対する、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲に存在する最も高いピークの高さh2の比をH1として、
ラマン分光法によって、上記イオン交換膜の厚み方向の断面に対して、上記厚み方向と平行な偏光を照射してスペクトルチャートを得て、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲に存在する最も高いピークの高さh3に対する、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲にある最も高いピークの高さh4の比をH2とした場合において、
上記H1に対する上記H2の比(H2/H1)が、1.05以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.15以上が特に好ましい。
比(H2/H1)が1.05以上にすることにより、イオン交換膜の面内方向の寸法安定性がより優れる。比(H2/H1)は、特に限定されないが、通常、3.00以下が好ましく、2.00がより好ましい。
【0081】
なお、前述のとおり、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲に存在するピークは、上記-SO3Mで表される基に由来するピークと考えられ、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲に存在するピークは、上記側鎖に存在するエーテル結合部位に由来するピークと考えられる。
H1、H2も、A2、B2と同様にポリマー主鎖及び側鎖の配向を反映していると考えられ、H1に対するH2の比(H2/H1)の値が大きい程、含フッ素ポリマーの主鎖がイオン交換膜の厚み方向と直交する方向に配向している傾向にあると考えられる。そのため、イオン交換膜を電解液に浸漬させた場合に、主鎖の配向方向(イオン交換膜の面内方向)の伸縮が小さくなるので、面内方向の寸法安定性が優れると考えられる。
【0082】
ピークの高さの求め方は、前記のピーク面積を求める際と同様の手順でベースラインを作成し、高さを求めたいピークの頂点からベースラインに向けて垂線を引き、垂線のベースラインからピークの頂点までの長さをピークの高さとする。具体的には、
図3の例ではh1、h2がピークの高さに該当する。このようにして得られた値に基づいて、ピークの高さh1に対するピークの高さh2の比であるH1(h2/h1)を算出する。h3、h4、H2についても同様にして求める。
配向性パラメーターにピークの高さを用いることにより、側鎖の構造によってピークが分裂したりブロードになったりした場合の影響を低減することができる。
【0083】
本発明のイオン交換膜および本製造方法で得られた乾燥イオン交換膜は、各種電池、電解プロセスおよび分離プロセスにおいて使用できる。
用途の具体例としては、固体高分子型燃料電池、メタノール直接型燃料電池、レドックスフロー電池、空気電池等の各種電池用途、固体高分子型水電解、アルカリ型水電解、オゾン水電解、食塩電解、有機物電解や、塩化物または酸化物等の各種電気分解装置が挙げられる。上記用途以外にも様々なタイプの電気化学セルでのセパレーターや固体電極として、セルの結合部分での選択的なカチオン輸送に用いられる。また、電気化学関連の用途以外にも、センサー用途として各種ガスセンサー、バイオセンサー、発光デバイス、光学デバイス、有機物センサー、および、カーボンナノチューブの可溶化、アクチュエーター、触媒用途等に用いられる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0085】
[各膜の膜厚]
各膜の膜厚は、各膜の断面を光学顕微鏡にて観察し、画像解析ソフトを用いて求めた。
【0086】
[含フッ素ポリマーのイオン交換容量]
乾燥窒素を流したグローブボックス中に含フッ素ポリマーを24時間おき、含フッ素ポリマーの乾燥質量を測定した。その後、含フッ素ポリマーを2モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に60℃で1時間浸漬した。含フッ素ポリマーを超純水で洗浄した後、取り出し、含フッ素ポリマーを浸漬していた液を0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定して、含フッ素ポリマーのイオン交換容量(AR)を求めた。
【0087】
[含フッ素ポリマーの軟化点]
含フッ素ポリマーの軟化点は、動的粘弾性測定装置を用いて以下の手順で測定した。まず、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-225)を用いて試料幅:5.0mm、つかみ間長:15mm、測定周波数:1Hz、昇温速度:2℃/分、引張モードの条件にて、動的粘弾性測定を行った。次に、損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比(E’’/E’)からtanδ(損失正接)を算出し、tanδ-温度曲線を作成した。作成したtanδ-温度曲線から-100~300℃の間のピーク温度を読み取り、その値を軟化点とした。
【0088】
[湿潤イオン交換膜中の液状媒体の含有量]
湿潤イオン交換膜に含まれる液状媒体の含有量は、0.6~0.7gの湿潤イオン交換膜を90℃で16時間乾燥した後の膜の質量と、乾燥前の湿潤イオン交換膜の質量と、に基づいて、以下の式により算出した。
湿潤イオン交換膜に含まれる液状媒体の含有量(質量%)=100×{(乾燥前の湿潤イオン交換膜の質量)-(乾燥後の膜の質量)}/(乾燥後の膜の質量)
【0089】
[乾燥前後の湿潤イオン交換膜の寸法変化]
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化は、上述した式1により算出した。
ここで、湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の長さ、および、乾燥イオン交換膜のMD方向およびTD方向の長さは、次の値を意味する。
湿潤イオン交換膜(MD方向20cm×TD方向20cmの正方形)の面内における中心点を通過するように、湿潤イオン交換膜のMD方向に平行な線A(長さ16cm)を引き、線Aに直交するTD方向に平行な線B(長さ16cm)を引いた。このときの線Aの長さを、湿潤イオン交換膜のMD方向の長さとし、線Bの長さを、湿潤イオン交換膜のTD方向の長さとした。
また、湿潤イオン交換膜の乾燥を終了した後の線Aの長さを、乾燥イオン交換膜のMD方向の長さとし、湿潤イオン交換膜の乾燥を終了した後の線Bの長さを、乾燥イオン交換膜のTD方向の長さとした。
【0090】
[水に浸漬する前後の乾燥イオン交換膜の膜面積の変化率]
乾燥イオン交換膜を水に浸漬する前後の膜面積の変化率(%)は、下式2により算出した。なお、浸漬する水の温度を室温(23℃)または100℃に設定し、それぞれの場合についての膜面積の変化率を測定した。また、水への浸漬時間は1時間とした。
水に浸漬する前後の膜面積の変化率(%)=100×{(浸漬後のイオン交換膜の面積)-(乾燥イオン交換膜の面積)}/(乾燥イオン交換膜の面積) 式2
ここで、乾燥イオン交換膜の面積とは、次のようにして算出される値を意味する。乾燥イオン交換膜(縦20cm×横20cmの正方形)の面内における中心点を通過するように、乾燥イオン交換膜の縦方向(MD方向)に平行な線E(長さ16cm)を引き、線Eに直交する横方向(TD方向)と平行な線F(長さ16cm)を引く。そして、線Eの長さと線Fの長さとの積を算出し、この値を乾燥イオン交換膜の面積とする。
また、浸漬後のイオン交換膜の面積とは、水に浸漬後の線Eの長さと線Fの長さとの積を意味する。
ただし、スルホン酸型官能基の末端が水素原子(以下、「H型」ともいう。)以外の乾燥イオン交換膜については、1M硫酸に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端を水素原子に変換した。続いて、浸漬する水の温度を室温(23℃)または100℃に設定して、上記膜面積の変化率を測定した。
【0091】
[乾燥イオン交換膜の水に浸漬前後の膜厚の変化率]
乾燥イオン交換膜の膜厚に対する水に浸漬後のイオン交換膜の膜厚の変化率(水に浸漬後のイオン交換膜の膜厚/乾燥イオン交換膜の膜厚)を上述した方法にしたがって測定した。なお、水への浸漬時間は1時間とした。
ただし、スルホン酸型官能基の末端が水素原子(以下、「H型」ともいう。)以外の乾燥イオン交換膜については、1M硫酸に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端を水素原子に変換した。続いて、浸漬する水の温度を室温(23℃)または100℃に設定して、上記膜厚の変化率を測定した。
【0092】
[シワの発生の有無]
乾燥イオン交換膜を水に浸漬した後のシワの発生状況を目視にて確認した。なお、浸漬する水の温度を100℃に設定し、浸漬時間を24時間とした。評価基準は以下の通りである。
◎:シワが全く確認されない(100℃での面積変化率が20%以下)
○:シワが僅かに確認される(100℃での面積変化率が20%より大きく40%以下)△:多数のシワが確認される(100℃での面積変化率が40%より大きく90%以下)×:さらに、多数のシワが確認され、膜の平坦性も悪い(100℃での面積変化率が90%より大きい)
【0093】
[配向性パラメータ]
<測定装置および測定条件>
装置:製品名LabRAM HR-800(堀場製作所社製)
照射光:波長532nmのレーザー光
【0094】
<配向性パラメータ(B1/A1)の測定方法>
イオン交換膜の厚み方向に平行な軸方向に沿ってイオン交換膜を剃刀で切断して、イオン交換膜の断面を露出させた。
次に、断面に対して、イオン交換膜の厚み方向と直交する方向に偏光を照射して、下記装置を用いたラマン分光分析によって、スペクトルチャートを得た。
得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲のピーク面積a1を算出した。また、得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト680~760cm-1の範囲のピーク面積a2を算出した。得られた値に基づいて、ピーク面積a1に対するピーク面積a2の比であるA1(a2/a1)を算出した。
【0095】
また、断面に対して、イオン交換膜の厚み方向と平行な方向に偏光を照射して、下記装置を用いたラマン分光分析によって、スペクトルチャートを得た。
得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲のピーク面積b1を算出した。また、得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト680~760cm-1の範囲のピーク面積b2を算出した。得られた値に基づいて、ピーク面積b1に対するピーク面積b2の比であるB1(b2/b1)を算出した。
上記のようにして得られた値から、A1に対するB1の比(B1/A1)を算出した。結果を表1に示す。
【0096】
<配向性パラメータ(B2/A2)の測定方法>
イオン交換膜の厚み方向に平行な軸方向に沿ってイオン交換膜をミクロトームで切断して、イオン交換膜の断面を露出させた。
次に、断面に対して、イオン交換膜の厚み方向と直交する方向に偏光を照射して、下記装置を用いたラマン分光分析によって、スペクトルチャートを得た。
得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲のピーク面積a1を算出した。また、得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲のピーク面積a3を算出した。 得られた値に基づいて、ピーク面積a1に対するピーク面積a3の比であるA2(a3/a1)を算出した。結果を表1に示す。
【0097】
また、断面に対して、イオン交換膜の厚み方向と平行な方向に偏光を照射して、下記装置を用いたラマン分光分析によって、スペクトルチャートを得た。
得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲のピーク面積b1を算出した。また、得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲のピーク面積b3を算出した。得られた値に基づいて、ピーク面積b1に対するピーク面積b3の比であるB2(b3/b1)を算出した。
上記のようにして得られた値から、A2に対するB2の比(B2/A2)を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
<配向性パラメータ(H2/H1)の測定方法>
イオン交換膜の厚み方向に平行な軸方向に沿ってイオン交換膜をミクロトームで切断して、イオン交換膜の断面を露出させた。
次に、断面に対して、イオン交換膜の厚み方向と直交する方向に偏光を照射して、下記装置を用いたラマン分光分析によって、スペクトルチャートを得た。
得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲内にある最も高いピークの高さh1を算出した。また、得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲内にある最も高いピークの高さh2を算出した。 得られた値に基づいて、ピークの高さh1に対するピークの高さh2の比であるH1(h2/h1)を算出した。
【0099】
また、断面に対して、イオン交換膜の厚み方向と平行な方向に偏光を照射して、下記装置を用いたラマン分光分析によって、スペクトルチャートを得た。
得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト1025~1095cm-1の範囲内にある最も高いピークの高さh3を算出した。また、得られたスペクトルチャートから、ラマンシフト920~1025cm-1の範囲内にある最も高いピークの高さh4を算出した。得られた値に基づいて、ピークの高さh3に対するピークの高さh4の比であるH2(h4/h3)を算出した。
上記のようにして得られた値から、H1に対するH2の比(H2/H1)を算出した。結果を表1に示す。
【0100】
[含フッ素ポリマー(S’-1)の製造]
CF2=CF2と下記式(X)で表されるモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S’-1)(イオン交換容量:1.25meq/g)を得た。
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2-SO2F (X)
【0101】
[含フッ素ポリマー(S’-2)の製造]
CF2=CF2と上記式(X)で表されるモノマー(X)とを共重合して、含フッ素ポリマー(S’-2)(イオン交換容量:1.00meq/g)を得た。
【0102】
なお、上記[含フッ素ポリマー(S’-1)の製造]および[含フッ素ポリマー(S’-2)の製造]中に記載のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(S’-1)および(S’-2)を後述する手順で加水分解した際に得られる含フッ素ポリマーのイオン交換容量を表す。
【0103】
[フィルムα1の製造]
含フッ素ポリマー(S’-1)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S’-1)からなるフィルムα1(膜厚:90μm)を得た。
【0104】
[フィルムβ2の製造]
含フッ素ポリマー(S’-2)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S’-2)からなるフィルムβ2(膜厚:115μm)を得た。
【0105】
[フィルムγ3の製造]
含フッ素ポリマー(S’-1)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S’-1)からなるフィルムγ3(膜厚:180μm)を得た。
【0106】
[フィルムδ4の製造]
含フッ素ポリマー(S’-1)を溶融押し出し法により成形し、含フッ素ポリマー(S’-1)からなるフィルムδ4(膜厚:45μm)を得た。
【0107】
[織布1の製造]
PTFEからなる50デニールの糸を経糸および緯糸に用い、PTFE糸の密度が80本/インチとなるように平織して織布1(補強材)を得た。織布1の目付量は、38g/m2であった。なお、経糸および緯糸は、スリットヤーンで構成されていた。
【0108】
[織布2の製造]
PFAからなる18.6デニールの糸を経糸および緯糸に用い、PFA糸の密度が100本/インチとなるように平織して織布2(補強材)を得た。織布2の目付量は、16.3g/m2であった。なお、経糸および緯糸は、スリットヤーンで構成されていた。
【0109】
[織布3の製造]
PPSからなる11.7デニールの糸を経糸および緯糸に用い、PPS糸の密度が100本/インチとなるように平織して織布3(補強材)を得た。織布3の目付量は、10.2g/m2であった。なお、経糸および緯糸は、スリットヤーンで構成されていた。
【0110】
[実施例1]
PETフィルム/フィルムα1/織布1/フィルムα1/PETフィルムをこの順で、重ね合わせた。重ね合わせた各部材を温度:200℃、面圧:30MPa/m2の平板プレス機にて10分間加熱圧着した後、両面の転写基材を温度50℃で剥離して、前駆体膜を得た。
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、末端がカリウム原子(以下、「K型」という、)のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型から末端がナトリウム原子(以下、「Na型」ともいう。)のスルホン酸型官能基に変換した。
得られた膜(未乾燥の膜)を、100℃の水中に1時間浸漬して、湿潤イオン交換膜を得た(接触加熱処理)。
湿潤イオン交換膜のたるみが無いように湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(250℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例1の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、得られた乾燥イオン交換膜の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0111】
[実施例2]
乾燥工程において、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(90℃)で乾燥させた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の乾燥イオン交換膜を得た。
【0112】
[実施例3]
接触加熱処理を実施しなかった以外には、実施例1と同様にして、実施例3の乾燥イオン交換膜を得た。
【0113】
[実施例4]
PETフィルム/フィルムα1/織布1/フィルムα1/PETフィルムをこの順で、重ね合わせた。重ね合わせた各部材を温度:200℃、面圧:30MPa/m2の平板プレス機にて10分間加熱圧着した後、両面の転写基材(PETフィルム)を温度50℃で剥離して、前駆体膜を得た。
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、得られた膜を1M硫酸に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型からH型に変換した。このようにして、湿潤イオン交換膜を得た。
得られた湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(105℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例4の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、乾燥イオン交換膜中の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0114】
[実施例5]
PETフィルム/フィルムβ2/織布1/フィルムβ2/PETフィルムをこの順で、重ね合わせた。重ね合わせた各部材を温度:200℃、面圧:30MPa/m2の平板プレス機にて10分間加熱圧着した後、両面の転写基材を温度50℃で剥離して、前駆体膜を得た。
このようにして得られた前駆体膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の乾燥イオン交換膜を得た。
【0115】
[実施例6]
接触加熱処理を実施せず、乾燥工程において湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(90℃)で乾燥させた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の乾燥イオン交換膜を得た。
【0116】
[実施例7]
乾燥工程前に湿潤イオン交換膜に含まれる液状媒体の含有量を表1に示す値にした以外は、実施例3と同様にして、実施例7の乾燥イオン交換膜を得た。
【0117】
[実施例8]
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化が表1の値になるように、金属枠で固定した状態の湿潤イオン交換膜を乾燥中に引き延ばした以外は、実施例3と同様にして、実施例8の乾燥イオン交換膜を得た。
【0118】
[実施例9]
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化が表1の値になるように、湿潤イオン交換膜をたるませた状態で金属製の拘束枠で湿潤イオン交換膜の周囲を固定して乾燥工程を実施した以外は、実施例3と同様にして、実施例9の乾燥イオン交換膜を得た。
【0119】
[実施例10]
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜としてのフィルムγ3を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、得られた膜を1M硫酸に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型からH型に変換した。このようにして、湿潤イオン交換膜を得た。
得られた湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(105℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例10の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、乾燥イオン交換膜中の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0120】
[実施例11]
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜としてのフィルムγ3を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、得られた膜を1M硫酸に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型からH型に変換した。
得られた膜(未乾燥の膜)を、100℃の水中に1時間浸漬して、湿潤イオン交換膜を得た(接触加熱処理)。
得られた湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(105℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例10の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、乾燥イオン交換膜中の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0121】
[実施例12]
乾燥工程において、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(室温23℃)で乾燥させた以外は、実施例11と同様にして、実施例12の乾燥イオン交換膜を得た。
【0122】
[実施例13]
接触加熱処理を実施せず、乾燥工程において湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(室温23℃)で乾燥させた以外は、実施例11と同様にして、実施例13の乾燥イオン交換膜を得た。
【0123】
[実施例14]
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜としてのフィルムγ3を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型からNa型に変換した。
得られた膜(未乾燥の膜)を、100℃の水中に1時間浸漬して、湿潤イオン交換膜を得た(接触加熱処理)。
湿潤イオン交換膜のたるみが無いように湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(250℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例14の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、得られた乾燥イオン交換膜の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0124】
[実施例15]
前駆体膜としてフィルムβ2を用いた以外は、実施例14と同様にして、実施例15の乾燥イオン交換膜を得た。
【0125】
[実施例16]
前駆体膜としてフィルムβ2を用いた以外は、実施例11と同様にして、実施例16の乾燥イオン交換膜を得た。
【0126】
[実施例17]
乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化が表1の値になるように、金属枠で固定した状態の湿潤イオン交換膜を乾燥中に引き延ばした以外には、実施例10と同様にして、実施例17の乾燥イオン交換膜を得た。
【0127】
[実施例18]
PETフィルム/フィルムδ4/織布2/フィルムδ4/PETフィルムをこの順で、重ね合わせた。重ね合わせた各部材を温度:200℃、面圧:30MPa/m2の平板プレス機にて10分間加熱圧着した後、両面の転写基材を温度50℃で剥離して、前駆体膜を得た。
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型からNa型に変換した。 得られた膜(未乾燥の膜)を、100℃の水中に1時間浸漬して、湿潤イオン交換膜を得た(接触加熱処理)。
湿潤イオン交換膜のたるみが無いように湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(250℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例18の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、得られた乾燥イオン交換膜の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0128】
[実施例19]
PETフィルム/フィルムδ4/織布2/フィルムδ4/PETフィルムをこの順で、重ね合わせた。重ね合わせた各部材を温度:200℃、面圧:30MPa/m2の平板プレス機にて10分間加熱圧着した後、両面の転写基材を温度50℃で剥離して、前駆体膜を得た。
ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=30/5.5/64.5(質量比)の溶液に、前駆体膜を95℃で30分間浸漬し、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解して、K型のスルホン酸型官能基に変換した後、水洗した。その後、得られた膜を1M硫酸に浸漬し、スルホン酸型官能基の末端をK型からH型に変換した。
得られた膜(未乾燥の膜)を、100℃の水中に1時間浸漬して、湿潤イオン交換膜を得た(接触加熱処理)。
湿潤イオン交換膜のたるみが無いように湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定したまま、含フッ素ポリマーの軟化点以上の温度(105℃)で湿潤イオン交換膜を乾燥させて(乾燥工程)、実施例19の乾燥イオン交換膜を得た。なお、湿潤イオン交換膜の乾燥は、得られた乾燥イオン交換膜の液状媒体の含有量が10質量%以下になるまで十分に行った。
【0129】
[実施例20]
接触加熱処理を実施しなかった以外には、実施例19と同様にして、実施例20の乾燥イオン交換膜を得た。
【0130】
[実施例21]
織布1の代わりに織布3を用いた以外は、実施例18と同様にして、実施例21の乾燥イオン交換膜を得た。
【0131】
[実施例22]
織布2の代わりに織布3を用いた以外は、実施例19と同様にして、実施例22の乾燥イオン交換膜を得た。
【0132】
[比較例1]
乾燥工程において、得られた湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の乾燥イオン交換膜を得た。
【0133】
[比較例2]
接触加熱処理を実施せず、乾燥工程において、湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しないで、かつ、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(90℃)で乾燥させた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の乾燥イオン交換膜を得た。
【0134】
[比較例3]
乾燥工程において、湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しないで、かつ、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(室温:23~25℃)で乾燥させた以外は、実施例4と同様にして、比較例3の乾燥イオン交換膜を得た。
【0135】
[比較例4]
乾燥工程において、湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しないで、かつ、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(室温23~25℃)で乾燥させた以外は、実施例10と同様にして、比較例4の乾燥イオン交換膜を得た。
【0136】
[比較例5]
接触加熱処理を実施せず、乾燥工程において、湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しないで、かつ、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(90℃)で乾燥させた以外は、実施例14と同様にして、比較例5の乾燥イオン交換膜を得た。
【0137】
[比較例6]
乾燥工程において、湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しないで、かつ、湿潤イオン交換膜を軟化点未満の温度(90℃)で乾燥させた以外は、実施例14と同様にして、比較例6の乾燥イオン交換膜を得た。
【0138】
[比較例7]
乾燥工程において、得られた湿潤イオン交換膜の周囲を金属製の拘束枠で固定しなかった以外は、実施例14と同様にして、比較例7の乾燥イオン交換膜を得た。
【0139】
得られた各乾燥イオン交換膜を用いて、上述した各種物性および評価試験を実施した。結果を表1に示す。
なお、表中、ARはイオン交換容量(meq/g)を意味する。
【0140】
【0141】
表1に示す通り、乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化がそれぞれ-5%以上となる条件で湿潤イオン交換膜の乾燥が行われると、乾燥イオン交換膜を水に浸漬した場合において、面内方向の寸法安定性に優れるのが確認できた(実施例1~22)。
これに対して、乾燥前後の湿潤イオン交換膜のMD方向およびTD方向の寸法変化が-5%未満となる条件で湿潤イオン交換膜の乾燥が行われると、乾燥イオン交換膜を水に浸漬した場合において、面内方向の寸法安定性が劣るのが確認できた(比較例1~7)。
【0142】
表1に示す通り、配向性パラメータ(B1/A1)が1.05以上であると、イオン交換膜を水に浸漬した場合において、面内方向の寸法安定性に優れるのが確認できた(実施例3、8、11~22)。
これに対して、配向性パラメータ(B1/A1)が1.05未満であると、イオン交換膜を水に浸漬した場合において、面内方向の寸法安定性が劣るのが確認できた(比較例4~7)。
【符号の説明】
【0143】
10: 乾燥イオン交換膜、12:断面、12A、12B:方向、T:厚み方向、a1,a2,a3:ピーク面積、PA,PB:偏光、M1:含フッ素ポリマーの主鎖
【0144】
なお、2018年6月15日に出願された日本特許出願2018-114511号および2019年1月31日に出願された日本特許出願2019-016153号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。