(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】吸着剤及び吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20230704BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20230704BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230704BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/26 E
C02F1/28 A
C22B3/24 101
(21)【出願番号】P 2022575237
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2022036340
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2021180113
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】茨木 拓
(72)【発明者】
【氏名】古沢 高志
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061607(JP,A)
【文献】特開2006-312804(JP,A)
【文献】国際公開第2008/007650(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/235161(WO,A1)
【文献】ZHANG,Chao-Zhi et al.,An efficient and health-friendly adsorbent N-[4-morpholinecarboximidamidoyl]carboximidamidoylmethyla,Journal of Molecular Liquids,NL,Elsevier B.V.,2019年,Vol. 296, No. 111860,p. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/26
B01J 20/28
B01J 20/30
C02F 1/28
C08L 81/02
C22B 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂及び有機極性溶媒を含む混合物(A)を200℃以上に加熱して、ポリアリーレンスルフィド樹脂を有機極性溶媒に溶解させる工程(1)、
前記混合物(A)を固液分離により液相成分の一部を除去した後、ポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度以下に冷却して、混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)に、水を接触させて洗浄した後、固液分離により液相成分の一部を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂及び水を含む混合物(C)を得る工程(3)を有し、
前記混合物(B)に含まれる有機極性溶媒が、混合物(B)に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して50質量部以上の範囲であること、
前記混合物(C)に含まれる水が、混合物(C)に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して10~150質量部の範囲であること、かつ、
吸着剤に対する外添剤成分として、界面活性剤を含まないものであること、を特徴とする吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)の固液分離がフラッシュ法による固液分離である、請求項1記載の吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記混合物(C)に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂の、流動電位法によりpH7.8~8.2の条件下で測定したゼータ電位が-50mV以上である、請求項1又は2記載の吸着剤の製造方法。
【請求項4】
吸着剤を用いて液体から金属を分離する方法であり、
前記吸着剤が、流動電位法によりpH7.8~8.2の条件下で測定したゼータ電位が-50mV以上のポリアリーレンスルフィド樹脂と水を含み、
前記水の配合量がポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して10~150質量部の範囲であり、
平均粒子径(D
50)が10μm以上であり、かつ、
外添剤成分として、界面活性剤を含まないものである
こと、を特徴とする吸着剤を用いて液体から金属を分離する方法。
【請求項5】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の比表面積が10~300
m
2
/gの範囲である請求項4記載の吸着剤
を用いて液体から金属を分離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む吸着剤及び吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有価資源の有効利用や環境汚染防止の両面から、有価資源である金属原子を含む水溶液から当該金属原子を効率よく分離することが注目されている。金属原子を水に溶解させるためには、強酸条件下であることも多く、広範囲のpHでも使用可能であり、かつ、再利用が容易で、吸着力に優れた吸着剤が望まれている。特に、有価金属の中でも、金、白金、パラジウムに代表されるレアメタルと呼ばれる貴金属は希少価値が高く、特に選択的に回収できる優れた吸着剤が望まれている。また、環境汚染防止の面から、排水中のTOC除去率を向上させる為に、排水中から、プロトン性有機溶媒を効率よく分離することも注目されている。
【0003】
一方、耐熱性、耐薬品性に優れる特性を利用してポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略すことがある)からなる多孔質体を吸着剤として用いる提案がなされている。例えば、特許文献1では、リサイクルしたPAS樹脂の比表面積が大きくなることを利用して、吸着剤として、特にオゾン及びNO2の除去における濾過材として用いることが開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、3次元溶解度パラメーターの水素結合力の成分δhが1~5(cal1/2cm-3/2)となる微多孔質重合体組成物からなる吸着剤として、ポリフェニレンスルフィドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特願平8-512891号公報
【文献】特開平6-327970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PAS樹脂の表面は疎水性が強い為、水を含む液体から分離対象物を吸着分離する様な固液分離の用途には向いていなかった。また、PAS樹脂の吸着性を説明するには、δhのような樹脂の化学構造に固有の性質のみでは不十分であり、吸着剤の表面状態について特定する必要があった。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、分離対象物質を含む液体から分離対象物質と液体とを分離することが可能なPAS樹脂の多孔質体を含む吸着剤、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂及び有機極性溶媒を含む混合物を、PAS樹脂のガラス転移温度以下に冷却しながら洗浄した後に、混合物の含水量を制御することで特定範囲のゼータ電位を有するPAS樹脂粒子を作製することができ、それを配合した吸着剤が、金属及び有機溶媒等の分離対象物質を含む液体から分離対象物質と液体とを分離する特性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示の吸着剤の製造方法は、
少なくともPAS樹脂及び有機極性溶媒を含む混合物(A)を200℃以上に加熱して、PAS樹脂を有機極性溶媒に溶解させる工程(1)、
前記混合物(A)を固液分離により液相成分の一部を除去した後、PAS樹脂のガラス転移温度以下に冷却して、混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)に、水を接触させて洗浄した後、固液分離により液相成分の一部を除去し、少なくともPAS樹脂及び水を含む混合物(C)を得る工程(3)を有し、
前記混合物(B)に含まれる有機極性溶媒が、混合物(B)に含まれるPAS樹脂100質量部に対して50質量部以上の範囲であること、かつ、
前記混合物(C)に含まれる水が、混合物(C)に含まれるPAS樹脂100質量部に対して10~150質量部の範囲であることを特徴とする。
【0010】
また、本開示の吸着剤は、
流動電位法によりpH7.8~8.2の条件下で測定したゼータ電位が-50mV以上のPAS樹脂と水を含み、
前記水の配合量がPAS樹脂100質量部に対して10~150質量部の範囲である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分離対象物質を含む液体から、分離対象物質と液体とを分離することが可能なPAS樹脂の多孔質体を含む吸着剤、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
(吸着剤の製造方法)
本実施形態に係る吸着剤の製造方法は、少なくともPAS樹脂及び有機極性溶媒を含む混合物(A)を200℃以上に加熱して、PAS樹脂を有機極性溶媒に溶解させる工程(1)、
前記混合物(A)を固液分離により液相成分の一部を除去した後、PAS樹脂のガラス転移温度以下に冷却して、混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)に、水を接触させて洗浄した後、固液分離により液相成分の一部を除去し、少なくともPAS樹脂及び水を含む混合物(C)を得る工程(3)を有する。以下、詳述する。
【0014】
工程(1)
工程(1)は、少なくともPAS樹脂及び有機極性溶媒を含む混合物(A)を200℃以上に加熱して、PAS樹脂を溶解させる工程である。
【0015】
工程(1)で用いる、前記混合物(A)は、少なくとも、PAS樹脂、および有機極性溶媒を含む混合物であれば特に限定されるものではない。例えば、後述のPAS樹脂の重合方法で得られる、少なくともPAS樹脂及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物や、精製したPAS樹脂と有機極性溶媒の混合物、リサイクルPAS樹脂と有機極性溶媒の混合物等を用いることができる。
【0016】
工程(1)で用いる混合物(A)には、PAS樹脂及び有機極性溶媒の他に、例えば、環状PASオリゴマーや鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水、充填剤、PAS以外の樹脂等が含まれていても良い。特に、アルカリ金属塩を含む場合、工程(3)の洗浄工程後に得られるPAS粒子表面のデータ電位値が大きくなるため好ましい。
【0017】
本実施形態で用いるPAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記式(1)
【0018】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0019】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0020】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0021】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0022】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0023】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0024】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0025】
前記PAS樹脂の重合方法としては、公知の方法であれば特に限定されないが、例えば(重合方法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(重合方法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(重合方法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等の重合方法が挙げられる。これらの重合方法のなかで、(重合方法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(重合方法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モルの範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。
【0026】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0027】
また、重合工程により得られたPAS樹脂を含む粗反応混合物は、後処理を行ってもよい。その場合、後処理方法についても、特に制限されるものではない。例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下若しくは常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を、水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で、1回若しくは2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過及び乾燥する方法;(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エチル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法;(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で、1回若しくは2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法;(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法;又は;(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回若しくは2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0028】
なお、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0029】
前記混合物(A)に含まれる有機極性溶媒は、少なくとも200度以上でPAS樹脂が溶解するものであれば特に限定はなく、公知のものを使用することができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類;N-ホルミルモルホリン等のモルホリン類;ポリエチレンジアルキルエーテル、1-クロロナフタレン、ジフェニルスルフィド等のその他の溶媒類が挙げられる。
【0030】
前記混合物(A)における有機極性溶媒の配合量は、PAS樹脂100質量部に対して100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましく、1000質量部以下であることが好ましく、600質量部以下であることがより好ましい。かかる範囲で配合することで、PAS樹脂を十分に有機極性溶媒に溶解させ、かつ、工程(2)における洗浄効率を高めることができる。
【0031】
前記混合物(A)を加熱する際の温度は、200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、280℃以下であることが好ましい。かかる範囲で加熱することで、PAS樹脂を十分に有機極性溶媒に溶解させた状態にすることができる。
【0032】
工程(1)において、前記混合物(A)が充填剤等の有機極性溶媒に溶解しない成分を含む場合、混合物(A)を加熱してPAS樹脂を有機極性溶媒に溶解させた後、さらに、濾過等による固液分離を行って固相成分を除去する工程を有しても良い。
【0033】
また、工程(1)において、前記混合物(A)に、さらに、アルカリ金属塩等の水溶性の無機塩を添加する工程を有してもよい。水溶性の無機塩を添加することによって、工程(3)の洗浄工程後に得られるPAS樹脂のゼータ電位値が大きくなる。
【0034】
工程(2)
工程(2)は、前記混合物(A)を固液分離により液相成分の一部を除去した後、PAS樹脂のガラス転移温度以下に冷却して、混合物(B)を得る工程である。
【0035】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、粗反応混合物中の溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒を留去及び回収すると同時にPAS樹脂を含む固形物を粉粒状にして回収する方法である。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の重合反応物を常圧中の窒素又は水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して急速に冷却すること(急冷)により効率よく溶媒回収することができ、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常250℃以上、好ましくは255~280℃の温度範囲かつ0.8MPa以上、好ましくは1.0~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲である。フラッシュ法を用いる場合、急冷することによってPAS樹脂を多孔質粒子として取出すことができるため好ましい。また、フラッシュする際に混合物(A)が通過する配管にフィルター等を設置することで、混合物(A)に含まれている充填剤等の加熱した有機極性溶媒に不溶な成分を除去することもできる。
【0036】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として回収する方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~5℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでポリアリーレンスルフィ樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離する事ができる。また、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離する際に、金属メッシュ等を用いて粒子径が10μm以下のPAS樹脂を篩分して除去してもよい。粒子径の小さい樹脂を除去することにより、吸着剤をカラムに充填して用いる場合に、ろ過圧の上昇を抑制することができる。
【0037】
工程(2)で固液分離によって除去する液相成分の量は、前記混合物(B)に含まれる有機極性溶媒が、前記混合物(B)に含まれるPAS樹脂100質量部に対して好ましくは50質量部以上の範囲、より好ましくは100質量部以上の範囲から、好ましくは300質量部以下の範囲、より好ましくは200質量部以下の範囲となるように調節することが好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂のゼータ電位が大きくなる、すなわち、PAS樹脂の表面状態がより親水性になることから、吸着剤の吸着性能が向上するため好ましい。
【0038】
固液分離して得られた前記混合物(B)は、PAS樹脂のガラス転移温度以下に冷却することが好ましい。冷却は公知の方法によって行うことができる。混合物(B)をガラス転移温度以下に冷却することにより、PAS樹脂を、大きな比表面積を有する多孔質粒子として取り出すことができる。
【0039】
工程(3)
工程(3)は、前記混合物(B)に、水を接触させて洗浄した後、固液分離により液相成分の一部を除去し、少なくともPAS樹脂及び水を含む混合物(C)を得る工程である。工程(3)は粒子の比表面積を維持する観点からPAS樹脂のガラス転移温度以下で行うことが好ましい。
【0040】
前記混合物(B)に接触させる水の温度は特に限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上から、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは50℃以下の範囲である。洗浄した後、濾過等により固液分離して、ケーキ状物とすることが好ましい。一回の洗浄に使用する水の量には特に制限は無いが、好ましくはPAS100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上から、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは5000質量部以下、さらに好ましくは2000質量部以下である。
【0041】
工程(3)における固液分離は、例えば、ろ過装置を用いてろ過する方法、ろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法(スラリー濾過)、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法(ケーキ洗ろ過)等を行うことができる。この際、水が完全に除去されないように調整することが好ましい。例えば、混合物(C)に含まれる水の量が、PAS樹脂100質量部に対し、10質量部以上に調整することが好ましく、50質量部以上に調整することがより好ましく、80質量部以上に調整することがさらに好ましく、150質量部以下に調整することが好ましく、140質量部以下に調整することがより好ましく、130質量部以下に調整することがさらに好ましい。かかる範囲において、吸着剤の溶液に対する親和性が良くなり、吸着性能が向上するため好ましい。
【0042】
また、工程(3)では、PAS樹脂表面のゼータ電位値を大きくする観点から、前記混合物(B)に水を接触させる前に、炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒と接触させて洗浄する工程を有してもよい。
【0043】
炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルコール系溶媒およびケトン系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一つが挙げられる。アルコール系溶媒(アルコール溶媒ともいう)としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の炭素原子数が3以下のアルコール;2-メトキシエチルアルコール等のエーテル結合を含む炭素原子数が3以下のアルコール;ケトン基を含む炭素原子数が3以下のアルコール;エステル基を含む炭素原子数が3以下のアルコールが例示される。また、ケトン系溶媒(ケトン溶媒ともいう)としては、アセトンが例示される。本発明において、炭素原子数3以下の一価アルコールを用いることが、残留する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を効率的に除去可能なことから好ましい。また、炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒に水を加えた水溶液とし、濃度を低くした上で工程(2Ss)を実施してもよい。その際、水溶液中の炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒の濃度は特に限定されないが、水溶液100質量部に対して、好ましくは90質量部以下の範囲である。より好ましくは85質量部以下の範囲から、好ましくは25質量部以上、より好ましくは45質量部以上の範囲である。
【0044】
炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒を加える際の温度は特に限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上から、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下の範囲である。一回の洗浄に使用する該溶剤の量には特に制限は無いが、好ましくはPAS樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上から、好ましくは5000質量部以下、より好ましくは1800質量部以下、さらに好ましくは600質量部以下である。
【0045】
炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒と接触させて洗浄する場合、次の水で洗浄する工程を行う前に、固液分離により、洗浄に用いた炭素原子数1~3の酸素原子含有溶媒を除去しておくことが好ましい。
【0046】
また、工程(3)では、前記混合物(B)を水と接触させる前又は後に、さらに、炭酸水を接触させて洗浄する工程を有していても良い。
【0047】
前記混合物(B)を、炭酸水と接触させる際の条件は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上から、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下までの範囲であり、かつ、圧力(ゲージ圧)が0.1MPaより小さく、好ましくは0.05MPa以下の範囲、さらに好ましくは大気圧下である。
【0048】
前記混合物(B)と接触させる際に用いる炭酸水の量についても特に制限は無いが、PAS樹脂と炭酸水との接触が良好に行われ、精製効率がさらに好適となることから、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上から、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは5000質量部以下、さらに好ましくは2000質量部以下の範囲である。
【0049】
炭酸水を用いて洗浄することにより、通常の精製温度条件(100℃以下)では金属への腐食が殆どなく、現行の装置で対応可能であることに加えて、SUS304程度の耐食性を有する比較的安価な材質であれば腐食に耐えることが出来るため、他の酸類と比較して装置の材質面からくる設備コスト的メリットが挙げられるだけでなく、さらに、耐圧容器である必要性もないことから、設備コスト的メリットだけでなく、メンテナンス性や安全性に優れるため好ましい。
【0050】
また、炭酸水を用いて洗浄することにより、他の酸類がPAS樹脂内に残存した場合(特に塩素イオンや硫酸イオン等はポリマー中に残存しやすい)、成形時の金型腐食や成形品の物性低下の大きな原因になるが、本発明の炭酸水を用いた精製方法の場合では、後の工程である水洗工程でも除去し易く、乾燥工程でもPAS樹脂中より分解飛散するために、他の酸類のような金型腐食や成形品の物性低下は起こり難い。
【0051】
更に、炭酸水を用いて洗浄することにより、炭酸水以外の強酸を用いた場合にはPAS樹脂中に残存する酸を除去するために、強酸を用いた洗浄の後に大量の水と洗浄回数を要して残存する酸を除去する必要があるのに対して、本発明の炭酸水を用いた精製方法の場同じ合には、炭酸水による洗浄の後に使用する水の量も少なく洗浄回数も削減出来るため、工程能力においても非常にメリットがある上に、環境対策の面からも適した方法といえる。
【0052】
炭酸水を用いて洗浄する場合、次の水で洗浄する工程を行う前に、固液分離により、洗浄に用いた炭酸水を除去しておくことが好ましい。
【0053】
なお、工程(3)において、前記混合物(B)が、PAS樹脂以外の樹脂や添加剤等の有機物を含む場合、水で洗浄する前に有機溶媒を用いてPAS樹脂以外の樹脂や添加剤等の有機物を抽出する除去工程をさらに有してもよい。その場合、前記混合物(B)に有機溶媒を添加して、撹拌したのち、ろ過等により固液分離して、液相成分を除去することが好ましい。有機物の抽出に用いる有機溶媒は、除去したい有機物が溶解し、かつ、PAS樹脂が溶解しないものであれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、用いる有機溶媒の量は、抽出したい有機物が十分に溶解する量であれば特に限定されない。
【0054】
上述した本実施形態に係る製造方法を経て得られた吸着剤は以下の特徴を有する。
【0055】
(ゼータ電位)
本実施形態に係る吸着剤に含まれるPAS樹脂は、流動電位法によりpH7.8~8.2の条件下で測定したゼータ電位が-50mV以上であることが好ましく、-30mV以上であることがより好ましい。PAS樹脂のゼータ電位は、吸着剤を100mg程度シリンダーセルに詰めて、SurPASS3(Anton Paar社)を用いて電解液:1mmol/LのKCl水溶液中、測定温度22~26℃で樹脂粒子表面のゼータ電位を3回測定したときの平均値を言うものとする。なお、測定値を安定させるために、PAS樹脂を篩い分けて0.05~1.0mmの粒子径のPAS樹脂を選別して用いることが好ましい。
【0056】
(比表面積)
本実施形態に係る吸着剤に含まれるPAS樹脂の比表面積は、好ましくは1m2/g以上、より好ましくは10m2/g以上、さらに好ましくは50m2/g以上から、好ましくは300m2/g以下、より好ましくは250m2/g以下、さらに好ましくは200m2/g以下、特に好ましくは150m2/g以下までの範囲の多孔質粒子である。なお、PAS樹脂の比表面積は、実施例に記載の方法で測定することができる。なお、前記PAS樹脂の比表面積は、吸着剤を60℃真空下で4時間かけて前処理を実施した後、株式会社島津製作所製「トライスターII3020」を用いて測定したBET比表面積である。
【0057】
(粒子径)
本実施形態に係る吸着剤に含まれるPAS樹脂は粒子であることが好ましい。PAS樹脂の粒子径は、特に限定されないが、吸着特性に優れる観点から、その上限値が2mm程度であることが好ましく、500μm程度であることがより好ましく、300μm程度であることがさらに好ましい。一方、ハンドリング性やカラム等に充填した際の送液性に優れる観点から、その下限値は10μmであることが好ましく、20μm程度であることがより好ましく、30μm程度であることがさらに好ましい。なお、前記PAS樹脂の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定機(Microtrac MT3300EXII)を用いて常法に従って測定した粒度分布に基づき求められる平均粒子径(D50)である。
【0058】
(含水量)
本実施形態に係る吸着剤に含まれる水の量は、PAS樹脂100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、80質量部以上が特に好ましく、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、120質量部以下がさらに好ましい。かかる範囲において、吸着剤の溶液に対する親和性が良くなりになって、吸着性能が向上するため好ましい。なお、含水量は、吸着剤を60℃真空下で4時間乾燥させた時の重量減少率により測定した値をいうものとする。
【0059】
本実施形態に係る吸着剤は、該吸着剤に対する外添剤(PAS樹脂粒子の外部に存在する成分、主に、PAS樹脂粒子と液の界面に存在する成分)成分として、前記PAS樹脂粒子以外の他の成分(ただし、PAS樹脂の重合反応由来の不可避成分及び水を除く)、例えば、界面活性剤(分散剤)、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、離型剤およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤が不存在のものであることが好ましい。なお、該吸着剤を構成する成分として、前記PAS樹脂粒子以外の他の成分が不存在とは、すなわち、該吸着剤中のPAS樹脂粒子の含有率が、前記不可避成分および水分を除き、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上の範囲であることをいう。当該含有率の上限値は特に限定されないが、100質量%以下の範囲であることをいう。
【0060】
さらに、前記PAS樹脂粒子は、該粒子を構成する内添剤(溶融混錬によってPAS樹脂粒子の内部に存在する成分)成分として、該PAS樹脂以外の他の成分(ただし、PAS樹脂の重合反応由来の不可避成分を除く)、例えば、界面活性剤(分散剤)、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、離型剤およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤が不存在であるものが好ましい。前記該粒子を構成する成分として、該PAS樹脂以外の他の成分が不存在であるとは、すなわち、PAS樹脂粒子中に含まれるPAS樹脂の含有率が、前記不可避成分を除き、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上の範囲であることをいう。当該含有率の上限値は特に限定されないが、100質量%以下の範囲であることをいう。
【0061】
前記PAS樹脂の粒子が、上述の外添剤や内添剤を含む場合、吸着能に寄与する粒子表面の硫黄成分の割合が低下することや、溶液に対する粒子の親和性が低下することによって、吸着特性が低下することがある。
【0062】
本実施形態に係る吸着剤は、液体中の金属を吸着・分離することができる。分離対象物質として金属原子または金属原子を含む化合物が挙げられる(ただし、金属原子としてナトリウム原子、リチウム原子を除く)。該金属原子としては、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子、ランタノイド原子およびアクチノイド原子からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これらは金属原子単独で存在していてもよいし、他の原子と結合して化合物や合金として存在していてもよい。これらの中でも遷移金属が好ましく、HSAB則における柔らかい酸に分類される金属原子がさらに好ましい。これは、吸着剤であるPAS樹脂が、HSAB則において柔らかい塩基に分類される硫黄原子を主成分としており、親和性が高いと考えられるためである。なお、金属原子は、後述する酸や塩基と反応することで塩を形成していてもよい。
【0063】
分離対象物質の金属原子または金属原子を含む化合物(金属塩)としては、特に限定されないが、例えば、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等のアルカリ金属原子;カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属原子;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタノイド、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀などの遷移金属原子;アルミニウム、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム等の卑金属原子並びにそれらを含む塩が挙げられる。ランタノイドとしては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどが挙げられる。また、アクチノイドとしてはアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム等が挙げられる。なかでも、HSAB則において、柔らかい酸に分類される金属原子または該金属原子を含む化合物が、PAS樹脂に吸着されやすいため好ましい。例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミニウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、及び鉛、並びにそれらの金属塩が好ましく、金、白金、及びパラジウム、並びにそれらの金属塩が特に好ましい。また、液体中で解離して金属イオンとなることから、分離対象物質の金属原子が化合物(金属塩)を形成していることがより好ましい。
【0064】
また、本実施形態に係る吸着剤は、液体中のプロトン性有機溶媒を吸着・分離することもできる。当該プロトン性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-ブタノール、n-デカノール、またはこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。
【0065】
前記液体は、水が挙げられる。また、該液体は、酢酸、ギ酸、炭酸、シュウ酸、リン酸などの弱酸だけでなく、さらに好ましくは、塩酸、硫酸、硝酸、王水等の強酸を含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態に係る吸着剤を用いた分離方法において、分離対象物質を含む液体のpHはいずれでもよく、例えば、強酸条件下で、本発明の吸着剤を用いて分離対象物質を含む液体から前記分離対象物質を吸着することができる。
【0067】
本実施形態に係る吸着剤を用いた分離方法は、分離対象物質を含む液体と、吸着剤とを接触させて、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記吸着剤に吸着させて、前記液体から除去する工程を有する。当該工程において、分離対象物質を含む液体と、吸着剤との接触は、例えば、前記吸着剤を、分離対象物質を含む液体に添加することにより、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記吸着剤に吸着させて、前記液体から除去することができる。その際、吸着剤の粒子同士の凝集を抑制するため、攪拌、振動、超音波照射等、機械的せん断力を作用させることができる。
【0068】
前記吸着剤の使用割合は、分離対象物質を含む液体に対して特に限定されるものではないが、事前に分離対象物質の濃度を測定等した上で、分離対象物質が金属の場合、分離対象物質に対して、吸着剤は、重量比で好ましくは1倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上から、好ましくは1000倍以下、より好ましくは500倍以下、さらに好ましくは100倍以下までの範囲となる様に使用することが出来る。また、分離対象物質がプロトン性有機溶媒である場合、分離対象物質に対して、吸着剤は、重量比で好ましくは0.001倍、より好ましくは0.005倍、さらに好ましくは0.01倍から、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下、さらに好ましくは1倍以下までの範囲となる様に使用することが出来る。
【0069】
さらに、本実施形態に係る吸着剤を用いた分離方法では、吸着剤と液体との固液分離工程を有していてもよい。固液分離は沈降分離、浮上分離、砂ろ過、遠心分離、精密膜ろ過、限外膜ろ過を例示できる。これにより、固液分離後、分離対象物質を吸着した吸着剤を取り出して、吸着した分離対象物質を取り除く再生処理を容易に行うことができ、これにより吸着剤を再利用することも容易にできる。
【0070】
また、本実施形態に係る吸着剤と、分離対象物質を含む液体との接触は、例えば、前記吸着剤をカラムに充填したり、繊維や膜に担持したりすることで固定化させておき、そこへ対象物質を含む液体を供給することにより、前記液体に含まれる前記分離対象物質を選択的に前記吸着剤に吸着させて、前記液体から除去することもできる。その際、バッチ式で処理する場合には、前記吸着剤を固定化した容器に分離対象物質を含む液体を供給する方法、連続式で処理する場合には、流路内に前記吸着剤を固定化しておき、当該流路内に分離対象物質を含む液体を供給する方法などが挙げられる。固定化は、液体は通過できるが、吸着剤は通過できない大きさ(サイズ)の孔を有する壁で吸着剤を仕切ることで液体と分離できれば公知の方法を用いることができる。吸着剤を固定化させることで、吸着剤と液体との固液分離が容易にできるが、固液分離後の液体中に粒子径の小さな吸着剤が混入する可能性もあるため、これを避ける必要がある場合には、別途、固液分離は沈降分離、浮上分離、砂ろ過、遠心分離、精密膜ろ過または限外膜ろ過といった固液分離工程を行うこともできる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0072】
<評価>
【0073】
(1)ゼータ電位の測定
以下の測定条件下で流動電位法にて、固体専用ゼータ電位計であるSurPASS3(Anton Paar社)を用いて、粒子表面のゼータ電位値をそれぞれ3回測定し、その平均値を算出した。結果を表1及びに示す。
「測定条件」
・セルの種類:シリンダーセル
・サンプル量:約100mg
・サンプル:0.05~1mmの範囲に篩分したPAS樹脂粒子
・電解液:1mmol/LのKCl水溶液
・測定温度:22~26℃
・pH:8.0
【0074】
(2)吸着剤の含水量の評価
吸着剤10.00gをシャーレに分取し、60℃真空下で4時間乾燥させた。乾燥前後の重量から、次式を用いて含水量を算出した。結果を表1に示す。
含水量〔wt%〕=(乾燥前の重量〔g〕-乾燥後の重量〔g〕)/乾燥後の重量〔g〕×100
【0075】
(3)比表面積の測定
吸着剤に含まれるPAS樹脂の比表面積の測定は、株式会社島津製作所製「トライスターII3020」を使用した。吸着剤を60℃真空下で4時間静置して前処理を実施した後に測定セルに入れ、セル内を脱気してからヘリウム置換した。さらに冷却して、窒素置換することによって、粒子の比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(4)金属吸着性の評価
表1及び表2に記載の分離対象物質の金属を含む金属塩を0.3mmol/Lとなるように溶解させた塩酸濃度0.01Nの塩酸水溶液5mL中に、含まれるPPS樹脂が0.025gとなるように各吸着剤を加え、液温30℃、200rpm、3時間で溶液を振動撹拌した。その後、濾別して、水溶液と吸着剤をそれぞれ得た。該水溶液中の分離対象物質の濃度をICP発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製「Optima4300DV」)で定量し、仕込み時の濃度差を吸着量とした。結果を表1及び表2に示す。
【0077】
(5)プロトン性有機溶媒吸着性の評価
メタノールを1.5wt%含有した水溶液10mL中に、含まれるPPS樹脂が0.025gとなるように各吸着剤を加え、液温30℃、200rpm、3時間で溶液を振動撹拌した。その後、濾別して、水溶液と吸着剤をそれぞれ得た。該水溶液中のメタノールの濃度をガスクロマトグラフィ(島津製作所社製「GC-2014」)にて算出し、仕込み時との濃度差を吸着量とした。結果を表1に示す。
【0078】
<合成例1、実施例1~10及び比較例1~7>
【0079】
・合成例1
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を付けた撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)33.222kg(226mol)、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略す)2.280kg(23mol)、47.23質量%水硫化ソーダ27.300kg(230mol)、及び49.21質量%苛性ソーダ18.533kg(228mol)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.3kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンターで分離して随時釜内に戻し、脱水終了後の釜内は無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。更に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479mol)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p-DCBは釜へ戻した。留出水量は179gであった。次に、内温200℃から230℃まで3時間かけて昇温し、1時間撹拌した後、250℃まで昇温し1時間撹拌して重合反応を終了し、粗PPS混合物を得た。
【0080】
・実施例1-工程(1)
合成例1で重合して得られた粗PPS混合物を250℃に加熱攪拌して、PPSをNMPに溶解させた。
【0081】
・実施例1-工程(2)
オートクレープの底弁を開き、減圧状態のまま待機していた撹拌翼付き150リットル受槽にフラッシュさせ、NMPの一部を留去させつつ、受槽を室温まで冷却させる事で、粗PPS粒子を得た。得られた粗PPS粒子中のNMPの含有量は、PPS100質量部に対して135質量部であり、塩化ナトリウムの量は108質量部であった。
【0082】
・実施例1-工程(3)
得られた粗PPS粒子400gとメタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製「試薬特級」)422gをフラスコに入れ、40℃で30分間撹拌混合し、そのスラリーを桐山ロートで減圧濾過し、上から押し固め、さらに上から422gのメタノールを数回に分けて注ぎろ過した。更に、そのろ過して作製したケーキをビーカーに移して薬さじで粉末状に砕き、そこに20℃の水を422g注ぎ、30分間攪拌混合した。得られたスラリーを桐山ロートで減圧ろ過し、上から押し固め、更に上から20℃の水422gを数回に分けて注ぎろ過した。上記ケーキをビーカーに移して、そこに634gの飽和炭酸水を注ぎ、30分攪拌混合した。そのスラリーを桐山ロートで減圧ろ過し、上から押し固め、更に上から飽和炭酸水442gを数回に分けて注ぎろ過し、含水PPS粒子(吸着剤(1))を得た。吸着剤(1)の評価結果を表1に示す。
【0083】
・実施例2
実施例1の工程(2)において、フラッシュによる固液分離を250℃から210℃まで1℃/分に調整して冷却する晶析による固液分離にしたこと以外は、実施例1と同様に実施して吸着剤(2)を得た。吸着剤(2)の評価結果を表1に示す。
【0084】
・実施例3
実施例1の工程(3)において、「更に、そのろ過して作製したケーキをビーカーに移して薬さじで粉末状に砕き、そこに20℃の水を422g注ぎ、30分間攪拌混合した。」を「更に、そのろ過して作製したケーキをオートクレーブに移して薬さじで粉末状に砕き、そこに20℃の水を422g注ぎ、200℃に加熱して30分攪拌混合した」に変更したこと以外は、実施例1と同様に実施して吸着剤(3)を得た。吸着剤(3)の評価結果を表1に示す。
【0085】
・実施例4
実施例1の工程(3)において、メタノールを用いた洗浄及び飽和炭酸水を用いた洗浄を行わない点、及び、水洗浄の回数を5回に増やした点以外は、実施例1と同様に実施して吸着剤(4)を得た。吸着剤(4)の評価結果を表1に示す。
【0086】
・実施例5
2台のオートクレーブが金属配管で連結した連結釜を使用し、配管には10μmの金属メッシュを設置した。オートクレーブ(i)にPPS樹脂/炭酸カルシウム/ガラス繊維が100/85/90の重量比で配合されたPPS樹脂組成物200gと塩化ナトリウム78gとNMP432gを入れ、液温を250℃まで加熱しながら1時間攪拌して、PPS樹脂をNMPに溶解させた。オートクレーブ(ii)も250℃に加熱させ、更に減圧とし、オートクレーブ(i)から(ii)に移行させる事で、PPSをNMPに溶解させた状態で金属メッシュを通過させて固液分離して粗PPS粒子を得た。固液分離後、金属メッシュには炭酸カルシウムとガラス繊維が回収されていた。その後の工程は実施例1工程(3)と同様に実施して吸着剤(5)を得た。吸着剤(5)の評価結果を表1に示す。
【0087】
・実施例6
実施例5において、初めにオートクレーブ(ii)に塩化ナトリウムを77.8g仕込んだ点以外は、実施例5と同様に実施して吸着剤(6)を得た。吸着剤(6)の評価結果を表1に示す。
【0088】
・実施例7~10
実施例1で作製した吸着剤(1)を用いて、実施例1と異なる分離対象物質の吸着率を評価した。結果を表2に示す。
【0089】
・比較例1
実施例1の工程(3)において、得られた含水PPS粒子を150℃で4時間かけて乾燥した点以外は、実施例1と同様に実施して吸着剤(7)を得た。吸着剤(7)の評価結果を表1に示す。
【0090】
・比較例2
合成例1で得られた粗PPS混合物50kgを250℃に加熱攪拌して、PPSをNMPに溶解させ、高圧滴下ポンプで水とNMPのモル比が1/3となる様に水を滴下し、更に250℃で1時間攪拌した。その後、オートクレーブを250℃から200℃まで1℃/分で徐冷し、200℃到達後はさらに80℃まで急冷した。その後、オートクレープの底弁を開き、撹拌翼付き150リットル受槽に移送させ、粗PPSスラリーを得た。得られた粗PPSスラリー400gを目開き500μmの金属メッシュで篩分して、500μm以下の微粉状懸濁物を液相成分と共に除去した。金属メッシュの上に残った粗PPS粒子と800gの水をフラスコに入れ、70℃で30分間撹拌混合し、そのスラリーを減圧濾過した。この操作を7回繰返した後、真空乾燥してから吸着剤(8)として評価に用いた。吸着剤(8)の評価結果を表1に示す。
【0091】
・比較例3
PPS樹脂(DIC株式会社製、「DIC.PPS MA-505」)とベンゾフェノン(関東化学株式会社製)を重量比30/70で混ぜ合わせた後、小型二軸押出機(DSM Xplore社製「Compounder15」)を用いて混練温度270℃、回転数250rpm、滞留時間1分にて混練し、PPS樹脂とベンゾフェノンが相溶した溶融物となったことを確認した。続いて、前記小型二軸押出機に取り付けたヘッドから溶融物を押し出した。押し出した溶融物(押出物)は、3.5cmのエアーギャップを通過させた後、イオン交換水を充分量満たした20℃の水槽へ導き、冷却固化させた。なお、この冷却固化過程では、押出物を270℃から20℃まで1.25秒で冷却し、冷却速度が200℃/秒となるよう調整した。固化した押出物を、30℃のアセトンに浸漬し、超音波洗浄機(AS ONE株式会社 US CLEANER USD-4R)を用いて30分超音波処理して多孔質粒子を得た。アセトンから取り出した多孔質粒子を風乾後、50℃の真空乾燥機を用いて3時間乾燥してから吸着剤(9)として評価に用いた。吸着剤(9)の評価結果を表1に示す。
【0092】
・比較例4~7
比較例1で作製した吸着剤(7)を用いて、比較例1と異なる分離対象物質の吸着率を評価した。結果を表2に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
表1及び表2より、実施例のゼータ電位が-50mV以上のPAS樹脂を含む吸着剤は、分離対象物質である金属または有機溶媒を含む液体から、分離対象物質と液体とを分離する特性に優れることが示された。
【要約】
分離対象物質を含む液体から分離対象物質と液体とを分離することが可能なポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂の多孔質体を含む吸着剤、及びその製造方法を提供すること。さらに詳しくは、少なくともPAS樹脂及び有機極性溶媒を含む混合物(A)を200℃以上に加熱してPAS樹脂を有機極性溶媒に溶解させる工程、前記混合物(A)を固液分離した後、PAS樹脂のガラス転移温度以下に冷却して混合物(B)を得る工程、及び、前記混合物(B)に水を接触させて洗浄した後、少なくともPAS樹脂及び水を含む混合物(C)を得る工程を有し、前記混合物(B)に含まれる有機極性溶媒が混合物(B)に含まれるPAS樹脂100質量部に対して50質量部以上の範囲であること、かつ、前記混合物(C)に含まれる水が混合物(C)に含まれるPAS樹脂100質量部に対して10~150質量部の範囲であることを特徴とする吸着剤の製造方法。
【選択図】なし