(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】シアノアルデヒド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/30 20060101AFI20230704BHJP
C07C 255/17 20060101ALI20230704BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C07C253/30
C07C255/17
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019086722
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 英治
(72)【発明者】
【氏名】森 陽暉
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
(72)【発明者】
【氏名】板垣 真太朗
(72)【発明者】
【氏名】今田 涼子
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-241060(JP,A)
【文献】特開平06-056704(JP,A)
【文献】特表2000-516919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 31/00 - 61/00
C07B 63/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C07B 61/00
B01J 21/00 - 38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスと、下記一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物とを、
Co、Fe、Niから選ばれるいずれかの元素の酸化物からなる担体に、
Auが担持された不均一触媒の存在下で反応させることを特徴とするシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである。R
1が、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである場合、シス体であってもよいし、トランス体であってもよい。)
【請求項2】
前記式(1)中、R
1、R
2の少なくとも一方が水素原子である請求項1に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記不飽和ニトリル化合物が、アクリロニトリルである請求項1または請求項2に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記不均一触媒が、Co
3O
4からなる担体に、Auが担持されたものである請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記混合ガスが、前記水素ガスと前記一酸化炭素ガスとを、モル比で9:1~1:3の割合で含む請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【請求項6】
反応容器に、溶媒と、前記不飽和ニトリル化合物と、前記不均一触媒とを入れ、前記反応容器内を前記混合ガス雰囲気とする工程と、
前記反応容器内で、前記混合ガスと前記不飽和ニトリル化合物とを反応させる反応工程とを有し、
前記溶媒が、ジオキサン、アセトン、エチレングリコール、ジクロロメタンから選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノアルデヒド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シアノ基(-CN)とアルデヒド基(ホルミル基(-CHO))の両方を有するβ-ホルミルプロピオニトリルなどのシアノアルデヒド化合物は、均一反応触媒を用いて製造されている。
例えば、特許文献1には、アクリロニトリルと一酸化炭素および水素を高温高圧で反応せしめて、β-ホルミルプロピオニトリルを合成するアクリロニトリルのハイドロホルミル化反応が記載されている。さらに、特許文献1には、触媒のコバルトに対し0.05~0.5倍モルの第三アミンを加えて、アクリロニトリルよりβ-ホルミルプロピオニトリルを製造する製造法が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、コバルトカルボニル化合物を触媒として用いて、アクリロニトリルからβ-シアンプロピオンアルデヒドを経由してγ-オキシブチロニトリルを合成する方法が記載されている。
【0004】
また、アルデヒドの製造方法として、第5族~第10族の遷移金属から選ばれる一種以上の金属の酸化物からなる担体に第11族の遷移金属を担持させた不均一系触媒の存在下で、オレフィン系不飽和化合物をヒドロホルミル化反応させてアルデヒドを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭43-21287号公報
【文献】特公昭46-13728号公報
【文献】特開2009-241060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、シアノアルデヒド化合物を生成させる反応には、均一触媒が用いられていた。均一触媒は、反応後に得られた生成物と触媒との分離に手間がかかる。不均一触媒であれば、反応液と触媒とを濾過等の方法で簡単に分離することができる。このため、不均一触媒の存在下で反応させることによりシアノアルデヒド化合物が得られる製造方法が求められている。
しかし、従来、不均一触媒を用いてシアノアルデヒド化合物を製造する方法はなかった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、不均一触媒の存在下で反応させることによりシアノアルデヒド化合物が得られる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した。
その結果、水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスと、特定の不飽和ニトリルとを、不均一触媒の存在下で反応させることにより、シアノアルデヒド化合物が得られることを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0009】
[1] 水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスと、下記一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物とを、周期表第4周期の第4族~第14族の元素の酸化物からなる担体に、周期表第5周期または第6周期の8族~11族の金属または金属酸化物が担持された不均一触媒の存在下で反応させることを特徴とするシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【0010】
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである。R
1が、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである場合、シス体であってもよいし、トランス体であってもよい。)
【0011】
[2] 前記式(1)中、R1、R2の少なくとも一方が水素原子である[1]に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
[3] 前記不飽和ニトリル化合物が、アクリロニトリルである[1]または[2]に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【0012】
[4] 前記担体が、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかの元素の酸化物からなり、
前記担体に担持される金属が、Au、Rh、Pd、Ir、Ruのいずれかの金属またはRh、Pd、Ir、Ruのいずれかの金属酸化物からなる[1]または[2]に記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
[5] 前記不均一触媒が、Co3O4からなる担体に、Auが担持されたものである[1]~[4]のいずれかに記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
[6] 前記混合ガスが、前記水素ガスと前記一酸化炭素ガスとを、モル比で9:1~1:3の割合で含む[1]~[5]のいずれかに記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【0013】
[7] 反応容器に、溶媒と、前記不飽和ニトリル化合物と、前記不均一触媒とを入れ、前記反応容器内を前記混合ガス雰囲気とする工程と、
前記反応容器内で、前記混合ガスと前記不飽和ニトリル化合物とを反応させる反応工程とを有し、
前記溶媒が、ジオキサン、アセトン、エチレングリコール、ジクロロメタンから選ばれるいずれかであることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載のシアノアルデヒド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシアノアルデヒド化合物の製造方法では、水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスと、特定の不飽和ニトリル化合物とを、不均一触媒の存在下で反応させる。このため、本発明のシアノアルデヒド化合物の製造方法では、反応後に得られた目的物と触媒との分離が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のシアノアルデヒド化合物の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
本実施形態のシアノアルデヒド化合物の製造方法では、水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスと、下記一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物とを、不均一触媒の存在下で反応させる。
【0016】
【化2】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである。R
1が、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである場合、シス体であってもよいし、トランス体であってもよい。)
【0017】
本実施形態のシアノアルデヒド化合物の製造方法は、反応容器に、溶媒と、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物と、不均一触媒とを入れ、反応容器内を混合ガス雰囲気とする工程と、反応容器内で、混合ガスと一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物とを反応させる反応工程とを有することが好ましい。
【0018】
(不飽和ニトリル化合物)
本実施形態の製造方法において、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物は、出発物質として用いられる。一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物中のR1、R2はそれぞれ、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである。
R1が、炭素原子数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである場合、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物は、シス体であってもよいし、トランス体であってもよいし、シス体とトランス体との混合物であってもよい。
【0019】
一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物中において、R1、R2としての炭素原子数1~8のアルキル基は、炭素原子数が増えると立体障害が増してくるので、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0020】
一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物としては、具体的には、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、シンナモニトリルなどが挙げられ、本実施形態の製造方法により合成される目的物であるシアノアルデヒド化合物の種類に応じて、適宜決定される。
【0021】
官能基を有するオレフィンは、官能基を有さないオレフィンと比較するとオキソ反応しにくい傾向がある。そのため、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物としては、上記の中でもR1およびR2のうち、少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、特に、R1およびR2が水素原子であるアクリロニトリルが好ましい。一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物が、アクリロニトリルである場合、本実施形態の製造方法によって、有用性の高いシアノアルデヒド化合物であるβ-ホルミルプロピオニトリルが得られる。
【0022】
(シアノアルデヒド化合物)
本実施形態の製造方法により合成される目的物であるシアノアルデヒド化合物は、式(2)または式(3)で示される。
【0023】
【化3】
(式(2)(3)中の、R
1、R
2はそれぞれ式(1)中のR
1、R
2と同じである。)
【0024】
(不均一触媒)
本実施形態の製造方法においては、不均一触媒として、周期表第4周期の第4族~第14族の元素の酸化物からなる担体に、周期表第5周期または第6周期の8族~11族の金属または金属酸化物が担持されたものを用いる。より好ましい担体としては、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znの酸化物が挙げられる。担体に担持されるより好ましい金属としては、Au、Rh、Pd、Ir、Ruが挙げられる。担体に担持されるより好ましい金属酸化物としては、Rh、Pd、Ir、Ruの酸化物が挙げられる。本実施形態の製造方法においては、不均一触媒として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0025】
不均一触媒の担体としては、還元されてオキソ反応の活性を持つものが好ましい。このことから、担体としては、Co、Fe、Niから選ばれるいずれかの元素の酸化物を用いることがさらに好ましい。また、担体に担持される金属としては、金(Au)を用いることがさらに好ましい。金属酸化物としては、酸化パラジウム(PdO)を用いることがさらに好ましい。なお、PdOなどの金属酸化物は、水素、一酸化炭素、有機化合物などの還元剤を用いて還元し、金属状態にしてから、不均一触媒の材料として用いてもよい。不均一触媒の担体としては、例えば、粉末状、粒子状など任意の形状のものを用いることができる。
【0026】
不均一触媒としては、上記の中でも特に、触媒活性が高く、高い収率が得られるため、Co3O4からなる担体に、Auが担持されたものを用いることが、特に好ましい。
不均一触媒として、Co3O4からなる担体に、Auが担持されたものを用いる場合、触媒中のAuの割合は、高い収率が得られるため、担体としての金属酸化物と担持される金属または金属酸化物の全金属原子中の1~20原子%であることが好ましく、5~15原子%であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態の製造方法における不均一触媒の使用量は、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物100質量部に対して0.1~20質量部であることが安定して反応を進行させる上で好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、5~10質量部であることがさらに好ましい。一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物100質量部に対する不均一触媒の使用量が5質量部以上であると、効果的に反応性を向上させることができる。また、不均一触媒の使用量が10質量部以下であると、経済的に好ましい。
【0028】
本実施形態の製造方法において用いる不均一触媒は、混合ガスと一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物とを反応させて得た反応生成物から、例えば、濾過法、遠心分離法、デカンテーション法などにより、容易に分離できる。
【0029】
本実施形態の製造方法において使用する不均一触媒の製造方法は、不均一触媒の種類に応じて適宜決定できる。例えば、本実施形態において使用する不均一触媒は、以下に示す方法により製造できる。
まず、担体に担持される金属または金属酸化物の原料となる金属元素を含む化合物を、純水に溶解し、第1水溶液とする。次に、担体の原料となる元素を含む化合物を、水に溶解し、第2水溶液とする。その後、第1水溶液と第2水溶液と炭酸ナトリウム水溶液とを混合して攪拌し、沈殿物を得る。
【0030】
次に、沈殿物を乾燥させて焼成する。
沈殿物の乾燥は、例えば、大気雰囲気下50~100℃で1~12時間乾燥させる方法により行うことができる。
また、沈殿物の焼成は、例えば、大気雰囲気下200~500℃で0.5~5時間加熱する方法により、行うことができる。
以上の工程により、担体と、担体に担持された金属または金属酸化物とからなる触媒が得られる。
【0031】
(混合ガス)
本実施形態の製造方法においては、水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスを用いる。混合ガスは、水素ガスと一酸化炭素ガスとを含むものであればよく、水素ガスと一酸化炭素ガスの他に、空気などの他のガスを含んでいてもよいが、空気、酸素等の酸化性ガスは含まない方が好ましい。
混合ガス中における水素ガスと一酸化炭素ガスとは、任意の割合とすることができる。混合ガス中における水素ガスと一酸化炭素ガスとの割合は、高い収率が得られるため、モル比で9:1~1:3の割合で用いることが好ましく、2:1~1:3の割合で用いることがより好ましく、1:1~3:1の割合で用いることがさらに好ましい。
【0032】
(溶媒)
本実施形態の製造方法において使用する溶媒としては、混合ガスと一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物との反応に関与しない化学種を用いることができ、例えば、ジオキサン、アセトン、エタノール、ジエチレングリコール、ジメトキシエタン、エチレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの溶媒の中でも特に、高い収率が得られるため、ジオキサンまたはアセトンを用いることが好ましい。
【0033】
(反応条件)
本実施形態の製造方法において、反応容器内で、混合ガスと一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物とを不均一触媒の存在下で反応させる際の反応条件は、混合ガスと一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物との反応が進行する範囲内で、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物の種類などに応じて適宜決定できる。反応条件は、例えば、以下に示す(a)~(c)の条件を1つ以上満たすことが好ましい。
【0034】
(a)反応圧力
反応圧力としては、例えば、反応容器内の圧力を2~6MPaとすることが好ましく、4~6MPaとすることがより好ましい。反応圧力が2~6MPaであると、高い収率が得られる。
(b)反応温度
反応温度としては、60℃未満では反応速度が遅く、140℃超では副反応が起こりやすくなるので、反応容器内の温度を60~140℃とすることが好ましく、80~100℃とすることがより好ましい。反応温度が80~120℃であると、適切な反応速度が得られやすく、高い収率が得られる。
(c)反応時間
反応時間があまりに短いと、一般式(1)で表される不飽和ニトリル化合物の転化率が不十分となる場合がある。反応時間があまりに長いと、生成物が分解する可能性がある。このため、反応時間は、1~40時間とすることが好ましく、10~20時間とすることがより好ましい。反応時間が10~20時間であると、高い収率を確保でき、かつ良好な生産性が得られる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0036】
(触媒1)
塩化金酸(HAuCl4・4H2O、田中貴金属工業社製)411.85mg(1mmol)を純水(1mL)に溶解して第1水溶液を得た。
また、硝酸コバルト(II)(Co(NO3)2・6H2O(東京化成社製))2.619g(9mmol)を純水(99mL)に溶解して第2水溶液を得た。
また、炭酸ナトリウム(Na2CO3、富士フイルム和光純薬社製)2.65g(25mmol)を純水(100mL)に溶解して炭酸ナトリウム水溶液を得た。
【0037】
次に、第1水溶液と第2水溶液とを混合して混合溶液とした。この混合溶液のpHが8以上となるように、pH計(装置名:HM-30P、東亜ディーケーケー社製)にてpHを確認しながら炭酸ナトリウム水溶液を添加し、5時間攪拌した。その後、吸引ろ過により沈殿物を得た。
次いで、得られた沈殿物を遠心瓶に入れ、純水(200mL)を加えて激しく振った。続いて、遠心分離装置(装置名:H-36、コクサン社製)を用いて遠心分離することにより、沈殿物を回収した。これを3回繰り返すことにより、沈殿物を洗浄した。
その後、沈殿物を、乾燥機(装置名:NDO-500W、東京理化器械社製)に入れて大気雰囲気下70℃で一晩乾燥させ、焼成機(装置名:MMF-1、アズワン社製)を用いて大気雰囲気下300℃で4時間加熱して焼成した。
以上の工程により、Co3O4担体にAuが担持された触媒1を得た。
【0038】
次に、以下に示す方法により、触媒1における触媒中のAuの割合を求めた。
触媒1を所定量(5mg)測り取り、濃塩酸(富士フイルム和光純薬社製)と濃硝酸(富士フイルム和光純薬社製)を混合して調製した王水(3mL)に完全に溶かした後、純水で規定量(100mL)まで薄めた。その溶液のAu濃度をマイクロ波プラズマ原子発光分光分析(MP-AES)装置(装置名:4100 MP-AES、アジレント社製)により測定し、最初に測り取った触媒中に含まれるAuの量を算出した。
その結果、触媒1は、Co3O4からなる担体に、10原子%のAuが担持されたものであった。
【0039】
(実施例1)
反応容器(オートクレーブ)に、表1に示す溶媒(2mL)と、表1に示す不飽和ニトリル化合物としてのアクリロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)(0.5mL、7.6mmol)と、表1に示す不均一触媒(20mg)(アクリロニトリル100質量部に対して5質量部)とを入れた。次いで、反応容器内の空気を、水素ガスと一酸化炭素ガスとを表1に示す割合(H2:CO)で含む混合ガスで置換し、反応容器内を混合ガス雰囲気とした。
その後、反応容器内で、表1に示す反応圧力(MPa)、反応温度(℃)、反応時間(時間)で、混合ガスとアクリロニトリルとを反応させた。溶媒はいずれも富士フイルム和光純薬社製のものを使用した。
【0040】
得られた反応液の組成をガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント社製)により分析し、以下に示す方法により、不飽和ニトリル化合物の転化率および目的物であるシアノアルデヒド化合物の収率を算出した。
その結果を表1に示す。なお、反応液からの触媒の分離は、ガラスフィルターを使用した濾過により分離できた。
【0041】
(実施例2~12)
使用した溶媒または混合ガスの割合を、表1に記載の通り変更したこと以外は、実施例1同様に反応させた。得られた反応液の組成を、実施例1同様にして分析し、実施例1同様にして不飽和ニトリル化合物の転化率およびシアノアルデヒド化合物の収率を算出した。その結果を表1に示す。なお、反応液からの触媒の分離は、ガラスフィルターを使用した濾過により分離できた。
【0042】
(比較例1)
触媒1を使用しないこと以外は、実施例1同様に反応させた。得られた反応液の組成を、実施例1同様にして分析し、実施例1同様にして不飽和ニトリル化合物の転化率およびシアノアルデヒド化合物の収率を算出した。その結果を表1に示す。
【0043】
(シアノアルデヒド化合物の収率)
シアノアルデヒド化合物の収率は、ガスクロマトグラフ(GC)を用いて内標準法により決定した。まず、目的生成物であるシアノアルデヒド化合物の標準試料に基づいて検量線を作成した。内標準物質にはトリデカン(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
【0044】
(不飽和ニトリル化合物の転化率)
不飽和ニトリル化合物としてのアクリロニトリルの転化率は、検量線に基づき、以下に示す式を用いて算出した。
転化率(%)=[(仕込み時のアクリロニトリル(モル)-反応液中のアクリロニトリル(モル))/仕込み時のアクリロニトリル(モル)]×100
【0045】
【0046】
表1に示すように、水素ガスと一酸化炭素ガスとを含む混合ガスと、アクリロニトリルとを、触媒1の存在下で反応させることにより、シアノアルデヒド化合物であるβ-ホルミルプロピオニトリルが得られた。
これに対し、不均一触媒を用いずに混合ガスと、アクリロニトリルとを反応させた比較例1では、β-ホルミルプロピオニトリルが得られなかった。
また、溶媒としてジオキサンを用いた実施例2では、β-ホルミルプロピオニトリルの収率が65%、アセトンを用いた実施例3では、β-ホルミルプロピオニトリルの収率が52%と高く、エチレングリコールを用いた実施例11およびジクロロメタンを用いた実施例12においても10%以上の収率が得られた。