(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】コイル及びトランス
(51)【国際特許分類】
H01F 27/28 20060101AFI20230704BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20230704BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20230704BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H01F27/28 123
H01F27/28 S
H01F5/06 H
H01F17/04 A
H01F27/32
(21)【出願番号】P 2017244312
(22)【出願日】2017-12-20
【審査請求日】2020-09-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】深井 寛之
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮祐
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】岩田 淳
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-211711(JP,A)
【文献】特開2000-299020(JP,A)
【文献】特開2017-91727(JP,A)
【文献】特開平11-232936(JP,A)
【文献】特開平5-175059(JP,A)
【文献】特開平5-190360(JP,A)
【文献】特開平5-263376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 5/06
H01F 17/04
H01F 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体部を有する電線からなる低抵抗コイルであって、前記の全ての導体部が下記条件(1)及び(2)を満たす、低抵抗コイル。
条件(1)互いに隣接する導体部間の距離が170~540μmの範囲にあること。
条件(2)前記の互いに隣接する導体部間の距離と前記の互いに隣接する導体部の各々の外径が、下記式(A)を満たすこと。
式(A) 互いに隣接する導体部間の距離/導体部の外径=0.21~
0.727
【請求項2】
前記導体部が、1本の導線である、請求項1に記載の低抵抗コイル。
【請求項3】
前記導体部が絶縁皮膜を有し、
前記の互いに隣接する導体部間の距離が、該導体部間を埋める絶縁体の厚さにより保持される、請求項2に記載の低抵抗コイル。
ただし、前記絶縁皮膜は、前記絶縁体のうち、前記複数の導体部の各導体部の外周に存在し、当該各導体部を個別に被覆する膜である。
【請求項4】
前記導体部が、複数の素線を撚り合わせてなる、請求項1に記載の低抵抗コイル。
【請求項5】
前記導体部が絶縁皮膜を有し、
前記の互いに隣接する導体部間の距離が、前記の互いに隣接する導体部間の素線絶縁層の厚さと前記絶縁皮膜の厚さにより保持される、請求項4に記載の低抵抗コイル。
【請求項6】
前記絶縁皮膜が3層以上の層構成を有する、請求項3又は5に記載の低抵抗コイル。
【請求項7】
1次側コイル及び2次側コイルを備えた高周波用高出力トランスであって、前記1次側コイル及び前記2次側コイルのうち低圧大電流側コイルが請求項1~6のいずれか1項に記載の低抵抗コイルである高周波用高出力トランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル及びトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器には、消費電力の低減等を図るため、通常、インバータとトランス(変圧器ともいう。)とを内蔵している。高周波で使用されるトランスは、一般に、表皮効果に起因する抵抗の増大を抑えるために、導体半径が、周波数によって決まる表皮深さよりも小さな電線が芯に巻回されたコイルを備えている。
このようなトランスにおいて、出力を高めるためには、芯に巻回される電線の導体断面積を増やす必要がある。この場合、上述のように表皮効果による抵抗増大を考慮すると大径の導体を有する電線の使用は避けることが重要であり、巻回する電線数を増やすことになる。電線数を増やす方法としては、一般的には、複数の電線を使って並列数を増やす方法、複数の素線をスパイラル状に撚り合わせたリッツ線を電線として使用する方法が挙げられる。
リッツ線を電線として巻回したコイルを備えたトランスとしては、例えば、高周波加熱装置に用いる昇圧トランスが特許文献1に記載されている。具体的には、この昇圧トランスは、絶縁された導体を複数束ねたリッツ線を更に絶縁物で被覆した電線を2次巻線(高圧小電流側コイル)として用いたものである。この昇圧トランスは、2次巻線を上述のように改良したものであり、素線の線径を細くして表皮効果の影響を抑えるとともに、リッツ線を絶縁物で被覆して絶縁性能を確保するものと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランスは、通常、入力側(1次側)コイル及び出力側(2次側)コイルを備えており、各コイルに印加される電流の電圧及び電流値が設定される。トランスでは、通常、相対的に、1次側コイル及び2次側コイルのいずれか一方が低圧大電流側コイルとなり、他方が高圧小電流側コイルとなる。
本発明において、低圧大電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、低圧大電流値の電流が流れるコイルを意味し、高圧小電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、高圧小電流値の電流が流れるコイルを意味する。
【0005】
高周波用トランスの低圧大電流側コイルには、従来、上記表皮効果の影響を考慮して設計された導体と、導体の外周を被覆する薄膜の絶縁層とを有する電線が用いられてきた。このように絶縁層が薄膜に形成されるのは、この電線には低圧の電流を流すためである。また、大電流によるジュール損失を防ぐ目的で占積率を高く設定する必要があり、これには絶縁層を可能な限り薄膜に形成することが有効な手段となっていた。
【0006】
このような高周波用トランスに1000W以上の高出力を要求する場合、特に、低圧大電流側コイルでは抵抗が大きくなり、それに伴ってトランスの損失も大きくなる。そのため、低圧大電流側コイルに用いられる電線数を更に増やす必要がある。これにより、直流抵抗を小さくして損失を低減することができる。しかし、電線数を増すほど、電線間に作用する近接効果による交流抵抗が増大する。このような近接効果による影響は、例えば周波数が30kHz程度以上の交流になると無視できなくなる。そのため、高周波用高出力トランスにおいては、単純に電線数を増やしても、交流抵抗値の低減には制約があり、損失を十分に低減できない。
このように、低圧大電流側コイルに用いる電線として、上記のような表皮効果と占積率とを考慮して絶縁層を薄く形成するという従来の電線では、トランスの損失を更に低減するには限界があり、改善が望まれていた。
【0007】
本発明は、損失を低減することのできる低抵抗のコイル、及び、このコイルを備えた高周波用高出力トランスを提供することを課題とする。
本発明において、トランスについて高周波とは、特に限定されないが、例えば作動周波数が30~150kHzであることをいう。また、トランスについて高出力とは、特に限定されないが、例えば1000W以上の出力をいい、その上限は例えば10kWである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、低圧大電流側コイルに用いられる従来の電線とは逆に、導体の占積率を特定条件を満たす範囲で低下させること、すなわち、互いに隣接する導体部間の距離を特定の範囲に設定し、かつ、導体部の外径に対する前記導体部間の距離の比を特定の範囲に設定した電線が、低圧大電流側コイルに用いた際に、直流抵抗と交流抵抗とをバランスよく低減して従来の低圧大電流側コイルでは達しえない低抵抗を実現し、ひいてはトランスの損失を効果的に低減できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>
複数の導体部を有する電線からなる低抵抗コイルであって、前記の全ての導体部が下記条件(1)及び(2)を満たす、低抵抗コイル。
条件(1)互いに隣接する導体部間の距離が170~540μmの範囲にあること。
条件(2)前記の互いに隣接する導体部間の距離と前記の互いに隣接する導体部の各々の外径が、下記式(A)を満たすこと。
式(A) 互いに隣接する導体部間の距離/導体部の外径=0.21~1.08
<2>
前記導体部が、1本の導線である、<1>に記載の低抵抗コイル。
<3>
前記導体部が絶縁皮膜を有し、
前記の互いに隣接する導体部間の距離が、該導体部間を埋める絶縁体の厚さにより保持される、<2>に記載の低抵抗コイル。
<4>
前記導体部が、複数の素線を撚り合わせてなる、<1>に記載の低抵抗コイル。
<5>
前記導体部が絶縁皮膜を有し、
前記の互いに隣接する導体部間の距離が、前記の互いに隣接する導体部間の素線絶縁層の厚さと前記絶縁皮膜の厚さにより保持される、<4>に記載の低抵抗コイル。
<6>
前記絶縁皮膜が3層以上の層構成を有する、<3>又は<5>に記載の低抵抗コイル。
<7>
1次側コイル及び2次側コイルを備えた高周波用高出力トランスであって、前記1次側コイル及び前記2次側コイルのうち低圧大電流側コイルが<1>~<6>のいずれか1項に記載の低抵抗コイルである高周波用高出力トランス。
【0010】
本発明の説明において、「互いに隣接する導体部」とは、対象となる2つの導体部が、他の導体部が介在せずに並んでいる状態を意味する。例えば
図21を例にとると、導体部である導線11a~導線11fにおいて導線11aと導線11b、及び、導線11aと導線11fはそれぞれ互いに隣接する導体部である。他方、導線11aと導線11cは、導線11bを介在して並んでいるので、互いに隣接する導体部ではない。また、導線11aと導線11dは、導線11bと導線11cを介在して並んでいるので、互いに隣接する導体部ではない。同様に、導線11aと導線11eは、導線11fを介在して並んでいるので、互いに隣接する導体部ではない。
【0011】
本発明の説明において、「絶縁皮膜」とは、導体部を被覆する絶縁体のうち、各導体部の外周に存在し、各導体部を個別に被覆する膜を意味する。
図2、
図17及び
図18を例に挙げて絶縁皮膜について説明する。
図2において、絶縁体14aは、全ての導体部を一体に被覆しているため、本発明においては絶縁皮膜ではない。つまり、
図2において各導体部は、その外周を個別に覆う絶縁皮膜を有しておらず、各導体部の間ないし外周を一体に埋める絶縁体を有する形態である。
図17において、電線10C中、絶縁体14bは、複数の素線13(導線11と素線絶縁層12からなる)を撚り合せてなる各導体部の外周に存在し、個別に各導体部を被覆しているので絶縁皮膜である。
図18において、電線10D中、絶縁体14b~14dは、複数の素線13を撚り合せてなる各導体部の外周に存在し、個別に各導体部を被覆しているので各々が絶縁皮膜である。
【0012】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、低抵抗のコイル、及び、このコイルを低圧大電流側コイルとして有し、損失が低減された高周波用高出力トランスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、従来のトランスに用いる電線(1つの導体部が1本の導線)の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が1本の導線)の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が1本の導線)の別の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、比較例1で作製したコイルを示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施例1-1で作製したコイルを示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1-2で作製したコイルを示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、導線7本を用いて作製した、同じ外径(仕上がり径)の電線を使用したコイルにおける、導体部間距離/導体部の外径とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである(周波数30kHz)。
【
図8】
図8は、導線7本を用いて作製した、同じ外径(仕上がり径)の電線を使用したコイルにおける、導体部間距離/導体部の外径とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである(周波数50kHz)。
【
図9】
図9は、導線7本を用いて作製した、同じ外径(仕上がり径)の電線を使用したコイルにおける、導体部間距離/導体部の外径とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである(周波数150kHz)。
【
図10】
図10は、従来のトランスに用いる電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなる)の一例を示す概略断面図である。
【
図11】
図11は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)の一例を示す概略断面図である。
【
図12】
図12は、比較例2で作製したコイルを示す概略断面図である。
【
図13】
図13は、実施例2で作製したコイルを示す概略断面図である。
【
図14】
図14は、7本の素線を撚り合せてなるリッツ線7本を用いて作製した、同じ外径(仕上がり径)の電線を使用したコイルにおける、導体部間距離/導体部の外径とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである(周波数30kHz)。
【
図15】
図15は、7本の素線を撚り合せてなるリッツ線7本を用いて作製した、同じ外径(仕上がり径)の電線を使用したコイルにおける、導体部間距離/導体部の外径とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである(周波数50kHz)。
【
図16】
図16は、7本の素線を撚り合せてなるリッツ線7本を用いて作製した、同じ外径(仕上がり径)の電線を使用したコイルにおける、導体部間距離/導体部の外径とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである(周波数150kHz)。
【
図17】
図17は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図18】
図18は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図19】
図19は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図20】
図20は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図21】
図21は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が1本の導線)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図22】
図22は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図23】
図23は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図24】
図24は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図25】
図25は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(1つの導体部が複数の素線を撚り合せてなるもの)のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【
図26】
図26は、本発明のトランス(分割巻きトランス)の一例を示す概略断面図である。
【
図27】
図27は、本発明のトランス(サンドイッチ巻きトランス)の一例を示す概略断面図である。
【
図28】
図28は、本発明のトランスに用いる電線の導体部が、素線を撚り合せてなる場合の、導体部の外径を説明するための電線の概略端面図である。
【
図29】
図29は、本発明のトランスに用いる電線の導体部が、素線を撚り合せてなる場合の、導体部間の距離を説明するための電線の概略端面図(
図17の部分拡大図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<低抵抗コイル及び高周波用高出力トランス>>
本発明の高周波用高出力トランス(以下、単に本発明のトランスということがある。)は、1次側コイル及び2次側コイルを備え、前記1次側コイル及び前記2次側コイルのうち低圧大電流側コイルとして本発明の低抵抗コイル(以下、単に本発明のコイルということがある。)を具備する。本発明のコイルを構成する電線は、複数の導体部を有しており、全ての導体部が下記条件(1)及び(2)を満たす。
条件(1)互いに隣接する導体部間の距離が170~540μmの範囲にあること。
条件(2)前記の互いに隣接する導体部間の距離と前記の互いに隣接する導体部の各々の外径が、下記式(A)を満たすこと。
【0016】
式(A):
互いに隣接する導体部間の距離(導体部間距離)/導体部の外径(導体部径)=0.21~1.08
【0017】
本発明のコイルにこの電線を用いることにより、このコイルに生じる抵抗値を小さくすることができ、本発明のコイルを低圧大電流側コイルとして具備する高周波用高出力トランスの損失を従来のトランスよりも更に低減できる。更には、近年の小型軽量化にも資すこともできる。
【0018】
<電線>
本発明のコイルに用いる電線について、説明するが、本発明のコイルはこれに限定されない。
本発明のコイルに用いる電線は、複数の導体部と、この導体部の外周を覆う絶縁体とを有していれば、他の構成は特に限定されない。
なお、本発明のコイルに用いられる電線において、電線Aを撚り合せてなる電線Bにおいて、電線Aを「単体電線」と称することがある。AとBは説明のための符号であり、特定の電線を示すものではない。
【0019】
導体部の具体例として、(i)線心(導線そのもの)、(ii)線心(リッツ線)から最外部の素線絶縁層を除いたもの(「複数の素線を撚り合せてなるもの」と称することもある)、が挙げられる。
「素線」とは、導線の外周に素線絶縁層を有する線、又は、導線の外周に素線絶縁層を有し、さらに素線絶縁層の外周に絶縁皮膜を有する線を意味する。「リッツ線」とは、複数の素線を撚り合せてなる線を意味する。
【0020】
(i)において、導体部径とは、導線の外径である。また、導体部間距離は、互いに隣接する導体部において、導線と導線との最短距離である。
なお、導線の軸線に垂直な断面が真円でない場合、導体部径は、この断面と等面積の真円における直径とする。
条件(2)の導体部間距離は、
図2や
図3のような構成とする場合、絶縁体14aの押出しによる工程で、複数ある導体部11のそれぞれの距離を条件(1)および(2)を満たすようにコントロールする。これに比べて、導体間距離を絶縁皮膜で保持する場合、絶縁皮膜の厚みによりコントロールすることができる。すなわち、製造効率をより向上することができるため、導体間距離が、導体部間の絶縁皮膜により保持されていることが好ましい。
【0021】
(ii)において、導体部とは、リッツ線の軸線に垂直な断面において、半径方向に対して最外列に配置された複数の素線(
図28においては中央に配列された素線以外の6本の素線13)中の各導線に外接する仮想外接円(
図28において破線で示す円)で規定される部分をいう。換言すると、リッツ線の半径方向に対して最外列に配置された素線の、半径方向外側に存在する素線絶縁層を除外した部分それぞれに外接する仮想外接円で規定される部分をいう。
【0022】
(ii)において、導体部の外径は、リッツ線の軸線に垂直な断面において、導体部を規定する上記仮想外接円の直径C(導体部径C)とする(
図28参照)。導体部間距離は、互いに隣接する導体部において、一方の導体部を構成する導線と他方の導体部を構成する導線との最短距離Dである(
図29参照)。ここで、上述の、リッツ線の半径方向に対して最外列に配置された素線とは、リッツ線の半径方向に互いに隣接して配置された素線のうち最外列に位置する素線をいう。
導体部径Cは、導線の外径や素線絶縁層の厚さ等により調整でき、定法により測定又は算出することができる。上記断面における仮想外接円が真円でない場合、導体部径は、仮想外接円と等面積の真円における直径とする。
条件(2)の導体部間距離は、
図20のような構成とする場合、絶縁体14aの押出しによる工程で、複数ある導体部のそれぞれの距離を条件(1)および(2)を満たすようにコントロールする。これに比べて、
図18のような構成とする場合、導体間距離を素線絶縁層の層厚及び絶縁皮膜の厚さによりコントロールすることができる。すなわち、製造効率をより向上することができるため、導体間距離が導体部間の素線絶縁層及び絶縁皮膜により保持されていることが好ましい。
【0023】
本発明に用いる電線の外径(仕上がり径、例えば、
図17~25のF参照)は、導体部が上記条件(1)及び(2)を満たす限り特に限定されない。本発明に用いる電線の断面形状は、特に限定されず、電線の外周や外接周が円形でも矩形(平角形状)でもよいが、円形(丸線)が好ましい。
【0024】
本発明において、電線を形成する絶縁皮膜は、いずれも、単層であっても2層以上の複数層であってもよい。本発明において、層の数は、層を形成する樹脂及び添加剤の種類及び含有量の異同にかかわらず、層を断面観察することによって、決定される。具体的には、ある層の断面を倍率200倍で観察したときに、年輪状の境界を確認できない場合、ある層の総数は1とし、年輪状の境界を確認できる場合、ある層の層数は(境界数+1)とする。
【0025】
以下、本発明のコイルに用いられる電線の好ましい形態について説明する。
まず、1つの導体部が1本の導線である電線について、
図2、
図3、
図20及び
図21の電線を例に挙げて説明する。
【0026】
図2において、電線100Bは、複数の導線11(断面円形)が間隔を空けて撚り合されている。電線100Bにおいて、1本の導線11が導体部であり、7つの導体部を有する。電線100Bはこの導体部同士の間や外周を覆う絶縁体14aを有している。電線100Bにおいて、導体部径Cは、導線11の直径である。また、導体部間距離Dは、互いに隣接する導体部間の最短距離である。Fは電線100Bの外径(仕上がり径)を示す。
【0027】
図3に示される電線100Cは、導線11の直径が異なること以外は、
図2に示す電線100Bと同様の構成である。
【0028】
図20に示される電線100Hは、
図2に示される電線100Bにおいて、1つの導体部が複数の素線(導体11と素線絶縁層12からなる)を撚り合せてなるものであること以外は、
図2に示される電線100Bと同様の構成である。
【0029】
図21に示される電線100Iは、
図2に示す電線100Bの中心にある導線11がないこと以外は、
図2に示す電線100Bと同様の構成である。
【0030】
本発明において、1つの導体部が1本の導線である電線は図面に示された電線に限られるものではない。例えば、導線の本数を適宜変えることができる。導線の数は、後述のリッツ線を形成する素線の数と同じである。
【0031】
導体部が、リッツ線から最外部の素線絶縁層を除いたものである電線について、
図11、
図17~19及び
図21~
図26の絶縁電線を例に挙げて説明する。
【0032】
図11に示される電線10Bは、単体電線100Eを撚り合せ、この撚り線が絶縁体14aで被覆されている。この電線100Eは、導体11及び素線絶縁層12からなる素線13を撚り合せて導体部を形成している(
図28及び上記(ii)を参照)。この導体部は絶縁体14b(絶縁皮膜)で被覆されている。
【0033】
図17に示される電線10Cは、
図11に示される電線10Bにおいて、単体電線100Eが絶縁体14aで被覆されていないこと以外は、電線10Bと同じ同様の構成である。
【0034】
図18に示される電線10Dは、
図17に示される電線において、単体電線100Eに代えて単体電線100Fを撚り合せてなる導体部を有すること以外は、電線10Cと同様の構成である。単体電線100Fは、
図17における単体電線100Eにおいて、絶縁体14bの外周に、絶縁体14cを被覆し、この絶縁体14c上に絶縁体14dが被覆されていること以外は、単体電線100Eと同様の構成である。
【0035】
図19に示される電線10Eは、
図17に示される電線10Cにおいて、単体電線100Eに代えて単体電線100Gを用いたこと以外は、電線10Cと同様の構成である。単体電線100Gは、単体電線100Eのリッツ線16aよりもリッツ線16bを構成する素線の数が多いこと以外は、単体電線100Eと同様の構成である。
【0036】
図22に示される電線10Fは、
図17に示される電線10Cにおいて、中心にある単体電線100Eがないこと以外は、
図17に示される電線10Cと同様の構成である。
【0037】
図23に示される電線10Gは、
図17に示される電線10Cにおいて、中心にある単体電線100Eに代えて絶縁線17を用いたこと以外は、
図17に示される電線10Cと同様の構成である。この絶縁線17は、巻線とするための曲げ性があればよく、具体例として、ナイロン線を複数撚り合せた線が挙げられる。
【0038】
図24に示される電線10Hは、
図17に示される電線10Cにおいて、中心にある単体電線100Eと他の1本の電線100Eがないこと以外は、
図17に示される電線10Cと同様の構成である。
【0039】
図25に示される電線10Iは、
図17に示される電線10Cにおいて、単体電線100Eに代えて単体電線100Jを用いたこと以外は、
図17に示される電線10Cと同様の構成である。単体電線100Jのリッツ線16cは、単体電線100Eにおけるリッツ線16aを円形ダイスに通して素線間の空間が無くなるように円形に圧縮したものである。電線10Iは、電線10Cよりも大きな外径の導線を使用して、電線10Cと同じ仕上がり径とすることがでる。そのため、電線10Iは、電線10Cよりも導体断面積が大きいことにより直流抵抗を低減しつつ、導体間距離がより大きくなるため、近接効果もより低減し、交流抵抗もより低減できる。
【0040】
本発明において、導体部が、リッツ線から最外部の素線絶縁層を除いたものである電線は図面に示す電線に限られるものではない。例えば、単位電線の数を適宜変えることができる。
【0041】
本発明に用いられる電線において、全ての導体部が上記条件(1)及び(2)を満たすことにより、電線の仕上がり径が大きくなることを抑制し、近接効果を低減し、コイルの抵抗値を低減できる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
導体部間距離が大きいこと(条件(1))により近接効果に起因する交流抵抗は低減する。線心の絶縁皮膜を厚くすることにより導体部間距離を大きくすることができる。しかし、線心の絶縁皮膜を厚くすると、電線の仕上がり径が大きくなってしまう。それ故、本発明に用いられる電線においては、導体部径を小さくする。導体部径を小さくすると磁界を受けにくくなるが、直流抵抗値は大きくなる。本発明に用いられる電線は、導体部径を小さくしつつも、この導体部径が導体部間距離と特定の関係を満たす(条件(2))。結果、本発明に用いられる電線は、直流抵抗値の上昇を抑え、交流抵抗値をより低減することができ、コイルの抵抗値を低くし、トランスの損失を低減できると考えられる。
また一般に、導体である銅よりも、絶縁皮膜である樹脂のほうが原材料費が安いので、本発明に用いられる電線により、従来の占積率を向上させる設計よりも、コストを抑えることができる。
【0042】
- 線心 -
本発明に用いられる線心は、本発明に用いられる電線において導体部が上記条件(1)及び(2)を満足するものとできれば、それ以外の構成は特に限定されない。線心の形態としては、線心が導体そのもので構成される形態(
図2、3、21の形態)と、線心がリッツ線(複数の素線をより合わせてなる線)で構成される形態(
図11、17、18、19、20、22、23、24、25の形態)とがある。
【0043】
(導線)
線心を構成する導線としては、従来、コイル用等の巻線で用いられているものを使用することができる。好ましくは、酸素含有量が30ppm以下(より好ましくは20ppm以下)の低酸素銅若しくは素銅からなる銅線が挙げられる。
導線の断面形状は、円形でも矩形(平角形状)でもよいが、円形が好ましい。
導線の外径φ(線径)は、上記条件(1)及び(2)を満足するものであれば特に限定されない。
【0044】
(絶縁体)
線心がリッツ線の場合、リッツ線を構成する各素線は、導線の外周に絶縁層(素線絶縁層)が形成される。この絶縁体は、樹脂成分として好ましくは熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層(エナメル層ともいう。)を有していることが好ましい。
【0045】
素線絶縁層を形成する熱硬化性樹脂としては、電線で通常用いられる熱硬化性樹脂であれば、特に制限されることなく、用いることができる。例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステルイミド(PEsI)、ポリウレタン(PU)、ポリエステル(PEst)、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂又はエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリウレタン又はポリエステルが好ましい。熱硬化性樹脂は、1種又は2種以上含有していてもよい。
【0046】
この素線絶縁層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0047】
素線絶縁層の厚さは、特に限定されないが、電線間の絶縁性を確保し、更には導線の占積率を高める点で、例えば、8~18μmが好ましい。
【0048】
素線絶縁層は、通常の方法により、形成できる。例えば、導線等の外周に、熱硬化性樹脂等の樹脂成分のワニスを塗布して焼付けする方法が好ましい。このワニスは樹脂成分と、溶媒と、必要により、樹脂成分の硬化剤又は各種の添加剤とを含有する。溶媒は、有機溶媒が好ましく、樹脂成分を溶解又は分散できるものが適宜に選択される。
ワニスの塗布方法は、通常の方法を選択することができ、例えば、導線の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有するワニス塗布用ダイスを用いる方法等が挙げられる。ワニスの焼付けは、通常、焼付炉で行われる。このときの条件は、樹脂成分又は溶媒の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、炉内温度400~650℃にて通過時間を10~90秒の条件が挙げられる。
【0049】
本発明に用いられる素線として、例えば、
図11に示される導線11及び素線絶縁層12からなる素線が好ましい。
【0050】
(リッツ線)
リッツ線は、上述のように、複数の素線が撚り合わされてなる撚り線である。
リッツ線を形成する素線は上記のように、導線と素線絶縁層とからなる。
【0051】
リッツ線を形成する素線の数としては、2本以上であれば特に限定されないが、素線の整列性を考えると1本の周囲に6本を配置した7本以上が好ましく、交流抵抗と実用的な加工性を考えると100本以下が好ましい。特に整列性を考えると、より好ましくは7~37本である。
素線を撚り合わせる際の、素線の配置、撚り方向、撚りピッチ等は、用途等に応じて、適宜に設定できる。
【0052】
- 絶縁皮膜 -
上述のように、「絶縁皮膜」とは、導体部を被覆する絶縁体のうち、導体部の外周に存在し、各導体部を個別に被覆する膜を意味する。この絶縁皮膜として、樹脂成分として後述する熱可塑性樹脂を含有する層(熱可塑性樹脂層)が好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さは、上記条件(2)を満たす限り、特に限定されない。この絶縁皮膜は、押出成形(押出被覆)することにより形成された層(押出被覆層)が好ましい。
【0053】
絶縁皮膜は、上述のように2層以上の積層構造とすることができるが、好ましくは3層以上、より好ましくは3~5層の積層構造とすることができる。3層以上の積層構造とすると、電線の十分な沿面距離を確保できるので、本発明のコイルにおいて、通常絶縁性を確保するために用いられる絶縁テープを省略することができる。これにより、トランスの小型化にも効果的である。
絶縁皮膜が積層構造を有する場合、各層の厚さは、各層の合計厚さが上述の半径差及び外径比を満たすものであれば特に限定されない。例えば、内側層、中間層及び外側層を有する場合、各層の厚さは同じでもよく、それぞれが異なっていてもよい。各層の厚さが均一のほうが製造条件を揃えられるので好ましく、その場合各層の厚みは条件(1)の導体間距離の半分のさらに3分の1である28~90μmが好ましい。
【0054】
積層構造の絶縁皮膜を有する電線として、上述した
図18に示される電線100Fが挙げられる。
図18に示される100Fは、絶縁体14b~14dからなる3層積層構造の絶縁皮膜を有している。この絶縁体14b~14dは、いずれも、同一の厚さに設定されている。なお、本発明においては、積層構造の絶縁皮膜において、各構成層の厚さの関係は特に限定されない。
【0055】
絶縁皮膜は、樹脂成分として、好ましくは熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂としては、電線又は巻線で通常用いられる熱可塑性樹脂であれば、特に限定されることなく、用いることができる。例えば、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE、変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチックの他、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、変性PEEKを含む)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、熱可塑性ポリアミドイミド(TPAI)、液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック、更に、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートをベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の上記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイが挙げられる。熱可塑性樹脂は、1種又は2種以上含有していてもよい。
【0056】
絶縁皮膜が積層構造を有する場合、各層に最大含有量で含まれる樹脂成分は、互いに、同じでも異なるものでもよい。
【0057】
絶縁皮膜は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0058】
線心がリッツ線の場合、絶縁皮膜は、リッツ線の外周に、樹脂組成物を押出成形することにより、形成することができる。樹脂組成物は、上述の樹脂成分と、必要により各種の添加剤とを含有する。押出方法は、樹脂成分の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、リッツ線の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有する押出ダイスを用いて、樹脂成分の溶融温度以上の温度で押出す方法が挙げられる。
絶縁皮膜は、押出成形に限定されず、上述の熱可塑性樹脂と溶媒等と必要により各種の添加剤とを含有するワニスを用いて、上記エナメル層と同様にして、形成することもできる。
本発明においては、上述のように、従来の電線とは逆に絶縁皮膜の層厚を厚くするものであるから、生産性の点で、絶縁皮膜は押出成形により形成することが好ましい。
【0059】
(リッツ線の構造)
本発明の電線の線心の構成として好ましいリッツ線について、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、各図において、電線の輪郭形状を輪環状に図示したが、本発明に用いる電線においては、外側輪郭線の形状は輪環状に限らず適宜に決定できる。例えば、電線の輪郭形状として、円形以外にも、楕円形、平目ローレット状(歯車形状もしくは波形状)等が挙げられる。
【0060】
本発明に用いる好ましいリッツ線の一例として、
図11に示されるリッツ線16aが挙げられる。
このリッツ線16aは、素線13(導線11と素線絶縁層12から構成される)を7本撚り合わせてなる。このリッツ線16aは、1本の素線13の周囲に6本の素線13を配置したパターンで7本の素線13を撚り合わせてなる。上記6本の素線13は、いずれも、半径方向に対して最外列に配置された素線であって導体部を確定する素線である。各素線13は、導線11と、導線11の外周面に配置された素線絶縁層12とを有している。
【0061】
本発明に用いる別の好ましいリッツ線の一例として、
図19に示されるリッツ線16bが挙げられる。
図19に示されるリッツ線16bは、19本の素線13を撚り合せたこと以外は上記リッツ線16aと同じである。このリッツ線16bは、リッツ線16aの外部に、
図19に示される断面において六角形となるように合計12本の素線13を配置して撚り合わせた構造を有している。
【0062】
本発明に用いる別の好ましいリッツ線の一例として、
図25に示されるリッツ線16cが挙げられる。このリッツ線16cは、7本の素線13をリッツ線16aと同様にして撚り合せ、円形ダイスに通して素線間の空間が無くなるように円形に圧縮したものである。
【0063】
本発明においては、本発明に用いるリッツ線の構造として、上記リッツ線16a~16cの各構造を適宜に組み合わせた構造とすることもできる。
【0064】
<高圧小電流側コイルに用いる電線>
本発明のトランスにおける高圧小電流側コイルに用いる電線は、特に限定されず、トランスの高圧小電流側コイルに用いられる通常の電線を用いることができる。このような電線として、例えば、特許文献1に記載の、2次巻線に用いるリッツ線が挙げられる。また、上述の本発明に用いる電線を用いることもできる。
【0065】
<コイル>
本発明のコイルは、上述の、本発明に用いる電線をボビンの芯の外周面に巻回したものである。よって、本発明のコイルは、上述の本発明に用いる電線を用いていること以外は、従来のコイルと同じである。
【0066】
【0067】
図5に示されるコイル4Bは、ボビン5の芯6の外周面(ボビン5に形成されたスロット7の内周面)に本発明に用いる電線100Bを巻回した(10ターン)ものである。
【0068】
図6に示されるコイル4Cは、ボビン5の芯6の外周面に本発明に用いる電線100Cを巻回した(10ターン)ものである。
【0069】
図13に示されるコイル4Eは、ボビン5の芯6の外周面に本発明に用いる電線10Bを巻回した(20ターン)ものである。
【0070】
本発明のトランスが有する高圧小電流側コイルは上述した公知の電線又は本発明に用いる上記電線を、本発明に用いられる電線が巻回された芯の外周面とは異なる外周面に巻回したものが挙げられる(
図26参照)。また、本発明のトランスが有する高圧小電流側コイルは上述した公知の電線又は本発明に用いる上記電線を、上記芯に巻回された本発明に用いられる電線の外周面に巻回したものが挙げられる(
図27参照)。
【0071】
本発明において、各電線が巻回される芯(コアともいう。)については、材質(鉄芯、磁性体芯又は空気芯等)やサイズは、用途等に応じて、適宜に選択される。また、電線の巻き方、巻数(2巻以上)及びピッチ等についても、用途等に応じて、適宜に選択される。
【0072】
<本発明のトランス>
本発明のトランスは、低圧大電流側コイルに上述の本発明のコイルを用いていること以外は、従来のトランスと同じである。
トランスとは、交流電力の電圧の高さを、電磁誘導を利用して変換するための装置である。トランスは、一般に、2つのコイル、すなわち、入力側コイル(1次側コイル)及び出力側コイル(2次側コイル)を有している。トランスにおいては、1次側コイルに交流電流を流して交流磁場を発生させ、それを磁気的に結合された2次側コイルが受け取り、再び電流を発生させて、出力する。このときの1次側コイルと2次側コイルとに発生する電圧の比は、各コイルにおける電線の巻き数の比と同じになるので、目的とする電圧の比に応じて、各コイルにおける電線の巻数が決定される。
1次側コイルの電圧が2次側コイルに対して相対的に高く設定されるトランスを降圧トランスという。この降圧トランスでは、1次側コイルに高圧小電流の電流が流れ(高圧小電流側コイル)、2次側コイルに低圧大電流の電流が流れる(低圧大電流側コイル)。一方、1次側コイルの電圧が2次側コイルに対して相対的に低く設定されるトランスを昇圧トランスという。この昇圧トランスでは、1次側コイルに低圧大電流の電流が流れ(低圧大電流側コイル)、2次側コイルに高圧小電流の電流が流れる(高圧小電流側コイル)。
【0073】
本発明のトランスは、降圧トランス及び昇圧トランスのいずれであっても、低圧大電流側コイルとして、本発明に用いる上記電線を巻回したコイルを用いる。
本発明のトランスは、低圧大電流側コイルとして本発明に用いる上記電線を巻回したコイルを有していれば、その構造又はサイズ等は特に限定されない。例えば、1次側コイル及び2次側コイルは、電流の電圧及び電流値が相対的に決定されるものであるから、低圧大電流側コイルに加えて高圧小電流側コイルとしても、本発明に用いる上記電線を巻回したコイルを用いることもできる。
【0074】
本発明のトランスにおいて、各コイルに流れる電流は上述のように、用途や特性に応じて、適宜に決定される。特に限定されるものではないが、その一例を挙げると、例えば、低圧大電流側コイルに流れる電流は、電圧が100V以上500V未満であり、電流値が1A以上30A以下であることが好ましく、また、高圧小電流側コイルに流れる電流は、電圧が500V以上4000V以下であり、電流値が0.3A以上1A未満であることが好ましい。
【0075】
本発明のトランスにおいて、芯及びボビンは、通常のトランスに用いられる形状、寸法ないしは材料を適宜に選択できる。
【0076】
本発明のトランスは、上記構成を有していればよく、例えば、
図26又は
図27に示されるトランスが挙げられる。
【0077】
図26に示されるトランス1Aは、1次側コイル3として
図5に示す低圧大電流側コイル4Bと、2次コイル2として従来の高圧小電流側コイルとを有し、1次側コイル3と2次側コイル2とは、互いに軸を揃えて軸方向に一列に配置されている。低圧大電流側コイル4Bは、ボビン5Bの芯6Bの外周面に電線100Bが巻回されており、高圧小電流側コイル2は、ボビン5Aの芯6Aの外周面に導体11A及び絶縁層12Bからなる線が巻回されている。
【0078】
図27に示されるトランス1Bは、1次側コイル3として
図5に示す低圧大電流側コイル4Bと、2次コイル2として従来の高圧小電流側コイルとを有し、1次側コイル3と2次側コイル2とは、同じ芯に3層絶縁テープを介して巻回されている。低圧大電流側コイル4Bは、ボビン5の芯6の外周面に電線100Bが巻回されている。高圧小電流側コイル2は、低圧大電流側コイル4Bの外周に巻回された3層絶縁テープの外周に導体11A及び絶縁層12Bからなる線が巻回されている。
【0079】
本発明のトランスは、低圧大電流側コイルとして全ての導体部が上記条件(1)及び(2)を満たす電線が巻回されたコイルを有しているから、高周波用高出力トランスであっても、上述のように、損失を効果的に抑えることができる。
【0080】
<用途>
本発明のトランスは、高周波用高出力が求められる用途、更には大電流値の電流が流れる用途に好適に用いられる。例えば、交流の商用電源を変圧して整流し、電気・電子機器に適した電圧の直流に変換する、交流(AC)/直流(DC)コンバータ用としてより好ましく用いられ、具体的には電子レンジ用の電源基板において、マグネトロンに供給するための高電圧を生み出すための各トランスとして好適に用いられる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0082】
<実施例1>
- 実施例1-1 -
本例では、
図2に示す電線100Bを用いて
図5に示すコイル4Bを作製して、評価した。
まず、低圧大電流側コイル4Bに用いる、
図2に示す電線100Bを作製した。
外径0.85mmの導線11(断面円形の銅線)7本を以下のようにして撚り合せた。
1本の導線11を中心にして、他の6本の導線11を、前記中心とした導線11の周囲に60°ごとに配置し、それぞれの導体間距離を186μmに保持した状態で撚り合せた(撚りピッチ77.7mm)。
続いて、得られる電線の外径(仕上がり径)が3.108mmになるように、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を押出成形して、導線11と絶縁体14aとを有する電線100Bを作製した。
作製した電線100Bは、導体部(導線11)径が0.85mmであり、電線10Bの外径(仕上がり径)が3.108mmであった。この電線100Bにおいて、互いに隣接する導体部11間の距離は186μmであり、導体部間距離/導体部径=0.219である。
図5に示すように、芯6の外周面に、上記電線100Bを、5ターンからなる1列を2列(並列数2)、合計10ターン(巻き数)巻回して、低圧大電流側コイル4Bを作製した。
用いた芯6及びボビン5は電線100Bを巻回す外周面(スロット7の内周面)の直径が30.2mm、スロットの幅(軸線長さ)が18mmであった(
図5(概略断面図)に示す芯6及びボビン5の寸法は実施例1-1に記載の上記寸法と正確に一致していない。)。
【0083】
- 実施例1-2 -
本例では、
図3に示す電線100Cを用いて
図6に示すコイル4Cを作製して、評価した。
外径0.5mmの導線11を7本用い、導体間距離を536μmにしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、
図3に示す電線100Cを作製した。
作製した電線100Cは、導体部(導線11)径が0.5mmであり、電線100Cの外径(仕上がり径)が3.108mmであった。この電線100Cにおいて、互いに隣接する導体部11間の距離は536μmであり、導体部間距離/導体部径=1.072である。
この電線100Cを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、
図6に示すコイル4Cを作製した。
【0084】
- 実施例1-A -
本例では、以下のコイルを作製して、評価した。
実施例1-1と同様にして、導体間距離/導体部径=0.727の電線を作製した。実施例1-1と同様にして、この電線を用いてコイルを作製した。
【0085】
<比較例1>
本例では、
図1に示す電線100Aを用いて
図4に示すコイル4Aを作製して、評価した。
外径1.0mmの導線11(断面円形の銅線)の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布して焼き付ける工程にて、厚さ18μmの素線絶縁層12(エナメル層)を有する素線13を作製した。この素線を7本束ねて撚り合わせることにより(撚りピッチ25.9mm)、
図1に示す電線100Aを作製した。
作製した電線100Aは、導体部(導線11)径が1.0mmであり、電線100Aの外径(仕上がり径)が3.108mmであった。この電線100Aにおいて、互いに隣接する導体部11間の距離は36μm(エナメル層の厚さ×2)であり、導体部間距離/導体部径=0.036である。
この電線100Aを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、
図4に示すコイル4Aを作製した。
【0086】
<抵抗の測定>
実施例1-1、1-2、1-A及び比較例1-1で作製したコイルを用いて、周波数を変更してコイルに生じる抵抗値を、プレジションLCRメータ(商品名:E4980A、KEY SIGHT TECHNOLOGIES社(旧Agilent社)製)を用いて、測定した。
具体的には、各低圧大電流側コイルの両端部から40mmほどの範囲は、絶縁体を剥がしてむき出しになった導線をハンダで覆った。そのハンダ部分をプレジションLCRメータの測定治具に挟みこんで、押さえつけることによって、接触抵抗を十分に小さくし、抵抗値を測定した。得られた抵抗値を、ハンダ部分を除いたコイル長さで割って、1mあたりの抵抗値(Ω/m)を算出した。
【0087】
7本の導線を用いて作製した電線を使用するコイルについて、30Hz、50Hz及び150Hzの周波数における抵抗値と、導体部間距離/導体部径との関係を
図7~
図9に示した。
また、各周波数における、実施例1-1、1-2、1-A及び比較例1-1のコイルの抵抗値を表1に示した。
【0088】
【0089】
<表の注>
D/C:導体部間距離/導体部径
【0090】
図7~
図9及び表1から以下のことが分かる。
30kHz以上の高周波数では、近接効果が無視できなくなる。しかし、低圧大電流側コイルに用いる電線の全ての導体部が上記条件(1)及び(2)を満たすと、直流抵抗と交流抵抗のバランスがよくなり、従来のコイル(比較例1)に対して、より抵抗値を小さく抑えたコイルを実現できることがわかる(実施例1-1)。また、
図7からD/C=0.219(実施例1-1)の時に、コイルの抵抗値が最も小さいことが分かる。
周波数が高くなるほど近接効果が大きくなってコイルに生じる抵抗値も増大する。しかし、比較例1のコイルと比較して、実施例の低圧大電流側コイルは、抵抗値の低減効果に優れることが分かる(周波数50kHzにおける実施例1-1及び1-A、周波数150kHzにおける実施例1-1、1―A及び1-2)。また、
図8から、周波数50kHzにおいて、D/C=0.727(実施例1-A)の時に、コイルの抵抗値が最も小さいことが分かる。
図9から、周波数150kHzにおいて、D/C=1.072(実施例1-2)の時に、コイルの抵抗値が最も小さいことが分かる。
インバータ式電子レンジに使われる昇圧トランスの場合、30~150kHzの作動周波数が一般的である。したがって、インバータ式電子レンジに実施例1の上記低圧大電流側コイルを有する昇圧トランスを用いると、低圧大電流側コイルの抵抗を効果的に低減でき、昇圧トランスの損失を低減できることが分かる。
【0091】
<実施例2>
- 実施例2-1 -
本例では、
図11に示す電線10Bを用いて
図13に示すコイル4Eを作製して、評価した。
外径0.15mmの導線11(断面円形の銅線)の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布して焼き付ける工程にて、厚さ8μmの素線絶縁層12(エナメル層)を有する素線13を作製した。この素線を7本束ねて撚りピッチ12.45mmで撚り合わせてリッツ線16aを得た。このリッツ線16aに対して、外径が0.972mmとなるようにPET樹脂を押出成形して、電線100Eを作製した。
続いて、7本の電線100Eを撚りピッチ72.9mmで撚り合せた後、外径(仕上がり径)が2.916mmとなるようにPET樹脂を押出成形して、
図11に示す電線10Bを得た。
作製した電線10Bは、導体部径が482mmである{導体11径0.15mm×3本)+(素線絶縁層120.008mm×4層)=0.482mm}。この電線10Bにおいて、互いに隣接する導体部間の距離は490μmであり、導体間距離/導体部径=1.017である。
電線10Bを用いたこと、及び、合計20ターン(巻き数)としたこと以外は、実施例1-1と同様にして、
図13に示す低圧大電流側コイル4Eを作製した。
【0092】
- 実施例2-A -
本例では、以下のコイルを作製して、評価した。
実施例2-1と同様にして、導体間距離/導体部径=0.224の電線を作製した。実施例2-1と同様にして、この電線を用いてコイルを作製した。
【0093】
- 実施例2-B -
本例では、以下のコイルを作製して、評価した。
実施例2-1と同様にして、導体間距離/導体部径=0.519の電線を作製した。実施例2-1と同様にして、この電線を用いてコイルを作製した。
【0094】
<比較例2>
本例では、
図10に示す電線10Aを用いて
図12に示すコイル4Dを作製して、評価した。
外径0.3mmの導線11(断面円形の銅線)の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布して焼き付ける工程にて、厚さ9μmの素線絶縁層12(エナメル層)を有する素線13を作製した。この素線を7本束ねて撚りピッチ23.85mmで撚り合わせてリッツ線16aを得た。リッツ線16aの周囲を厚み9μmの絶縁テープで覆って固定することにより、電線100Dを得た。
続いて、7本の電線100Dを撚りピッチ72.9mmで撚り合せたることにより、
図10に示す電線10Aを作製した。
作製した電線10Aは、導体部径が0.936mmであり{導体径0.3mm×3本)+(素線絶縁層0.009mm×4層)=0.936mm}、電線10Aの外径(仕上がり径)が2.916mmであった。この電線10Aにおいて、互いに隣接する導体部間の距離は36μmであり、導体部間距離/導体部径=0.038である。
電線10Aを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、
図12に示す低圧大電流側コイル4Dを作製した。
【0095】
<抵抗の測定>
実施例2及び比較例2で作製したコイルを用いて、実施例1と同様にして、周波数を変更してコイルに生じる抵抗を測定した。
【0096】
7本の素線を撚り合せてなるリッツ線7本を用いて作製した電線を使用したコイルについて、30Hz、50Hz及び150Hzの周波数における抵抗値と、導体部間距離/導体部径との関係を
図14~
図16に示した。
また、各周波数における、実施例2及び比較例2のコイルの抵抗値を表2に示した。
【0097】
【0098】
実施例2のコイルは、実施例1のコイルよりも電線の使用数(巻回数)が多くなっているので、電線間の近接効果が強まって大きな交流抵抗が発生する。しかし、
図14~
図16及び表2に示されるように、本発明で規定する電線を巻回した低圧大電流側コイルは、実施例1と同様に、実施例2-Aは、30kHz以上の高周波数において、抵抗値の増大を抑えることができている。また、周波数50kHzにおける実施例2-A及び2-B、並びに、周波数150kHにおける実施例2-1、2-A及び2-Bは、周波数が高くなるほど比較例2のコイルに対する抵抗比が小さくなり、抵抗値の低減効果に優れている。したがって、インバータ式電子レンジに実施例2の上記低圧大電流側コイルを有する昇圧トランスを用いると、低圧大電流側コイルの抵抗を効果的に低減でき、昇圧トランスの損失を低減できることが分かる。
【0099】
実施例1及び2により、本発明で規定する電線を用いたコイルは、低圧大電流側コイルとしてトランスに用いられると、小さな抵抗を示し、トランスの損失を効果的に低減できることが分かる。
【符号の説明】
【0100】
1A、1B トランス
2 一次側コイル(低圧大電流側コイル)
3 二次側コイル(高圧小電流側コイル)
4A~4D コイル
5、5A、5B ボビン
6、6A、6B 芯
7 スロット
11A、11、11a~11f 線心(導線)
12 素線絶縁層(エナメル層)
12B 絶縁層
13 素線
14a~14d 絶縁体
15 絶縁テープ
16a~14c 線心(リッツ線)
17 絶縁線
18B 3層絶縁テープ
10A~10I 電線
100A~100H 電線
C 導体部径
D 導体部間距離
F 外径(仕上がり径)
G 絶縁線17の直径