(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】座標測定機、及び座標測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 5/008 20060101AFI20230704BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G01B5/008
G01B21/00 E
(21)【出願番号】P 2019105359
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】寺下 羊
(72)【発明者】
【氏名】國廣 成功
(72)【発明者】
【氏名】神谷 浩
(72)【発明者】
【氏名】福田 満
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3042157(JP,U)
【文献】特開2010-66129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00-5/30
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを支持するワーク支持体と、前記ワークに対してプローブを相対的に移動させるプローブ移動体と、前記プローブ移動体を駆動制御して、前記プローブによる前記ワークの検知タイミングでの当該プローブ移動体の位置情報を取得する制御装置と、を備え、前記位置情報に基づいてワーク形状を測定する座標測定機であって、さらに、
前記プローブ移動体の移動方向に沿って配置されたインクリメンタル・パターンと、
前記プローブ移動体の移動方向に沿って配置されたアブソリュート・パターンと、
前記インクリメンタル・パターンを検出して前記プローブ移動体の移動量に比例した数の波形信号を出力するインクリメンタル検出器と、
前記制御装置からのリクエスト信号の受信タイミングで前記アブソリュート・パターンを検出して前記プローブ移動体の絶対位置信号を出力するアブソリュート検出器と、
を備え、前記制御装置は、
前記インクリメンタル検出器からの前記波形信号をカウントするインクリメンタル・カウント手段と、
前記プローブによる前記ワークの検知タイミングでの前記インクリメンタル・カウント手段の計数値を読み取る位置情報取得手段と、
前記インクリメンタル・カウント手段のプリセットのために前記アブソリュート検出器へリクエスト信号を発信して、前記アブソリュート検出器からの前記絶対位置信号を取得するとともに、当該絶対位置信号を前記インクリメンタル・カウント手段にプリセットするプリセット手段と、を含
み、
前記インクリメンタル・カウント手段は、前記プローブ移動体の移動に応じた前記波形信号を順次カウントし、
前記位置情報取得手段は、ワーク表面を走査中の前記プローブからの信号を順次取得して、該プローブからの信号に応じて前記インクリメンタル・カウント手段の計数値を順次読み取るように設けられていることを特徴とする座標測定機。
【請求項2】
請求項1記載の座標測定機において、
前記インクリメンタル・パターンおよび前記アブソリュート・パターンは、一本のスケール上に形成されていることを特徴とする座標測定機。
【請求項3】
請求項1または2記載の座標測定機において、
前記制御装置は、前記プローブ移動体の駆動用モータであるサーボモータをサーボロック制御するサーボロック手段を備え、
前記サーボロック手段は、前記プリセット手段によるプリセット動作中、前記サーボモータをサーボロックして回転を停止させるように構成されていることを特徴とする座標測定機。
【請求項4】
プローブによるワークの検知タイミングでのプローブ移動体の位置情報を取得することによってワーク形状を測定するための座標測定プログラムであって、
コンピュータを、
前記プローブ移動体の移動量に比例した数の波形信号をインクリメンタル検出器から取得して当該波形信号をカウントするインクリメンタル・カウント手段、
前記プローブによる前記ワークの検知タイミングでの前記インクリメンタル・カウント手段の計数値を読み取る位置情報取得手段、
前記インクリメンタル・カウント手段のプリセットのためにアブソリュート検出器へリクエスト信号を発信して、前記プローブ移動体の絶対位置信号を前記アブソリュート検出器から取得するとともに、当該絶対位置信号を前記インクリメンタル・カウント手段にプリセットするプリセット手段、
前記プローブ移動体の移動に応じた前記波形信号を順次カウントしつつ、ワーク表面を走査中の前記プローブからの信号を順次取得して、該プローブからの信号に応じて前記計数値を順次読み取る手段として機能させることを特徴とする座標測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元測定機などの座標測定機において、電源投入から測定準備完了までの時間を短縮する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の品質に関わる重要な検査項目については、それらの製品の全数検査がますます要求されるようになっている。そのため、座標測定機のような製品の品質に関わる重要な測定を担っている装置に対しては、測定精度の向上だけでなく、測定時間の短縮化のニーズが大きい。
【0003】
一般に、座標測定機は、ワークに対してプローブを例えばX,Y,Z軸の3軸方向に移動させるように構成されたプローブ移動体を備える。プローブがワークを検知した際に発せられるプローブ信号に応じて、プローブ移動体の位置情報を各軸方向に設けられたスケールから読み取っている。それらの位置情報を解析することによって、ワークの3次元形状を測定するように構成されている。
【0004】
座標測定機の測定効率の改善、つまり測定時間の短縮化を実現するには、プローブ移動体の高速・高加減速化だけでなく、装置の電源投入から測定準備完了までの時間を短縮することも有効である。
【0005】
座標測定機は、通常、プローブ移動体の位置情報をインクリメンタル型(以下、INC型)のスケールから読み取っている。INC型スケールの特性から、電源投入の際に、原点復帰作業が必要だった。この作業は、プローブ移動体を予め設定した原点まで動かし、プローブ移動体を原点に復帰させるという作業である。
【0006】
例えば、高精度位置決めを必要とする公知の加工装置において、特許文献1の段落0033の記載によると、起動時等の加工ヘッドの原点復帰作業時、その位置制御手段が、アブソリュート型(以下、ABS型)のスケールから得た現在の絶対位置情報に基づいて、加工ヘッドを所定の原点に復帰させる制御を実行している。より具体的には、特許文献1の段落0035の記載から、電源投入後、加工ヘッドのABS型スケールから、加工ヘッドの大まかな絶対位置情報を取得する。その大まかな位置をINC型スケールに「仮プリセット」する。次に、取得した絶対位置を元に、加工ヘッドを原点マークの検出開始点へ移動させる。そして、加工ヘッドを原点マークのある方向へ移動させて、原点マークを検出した瞬間にINC型スケールの値をあらかじめ設定された値に「本プリセット」する。その後は、制御精度の良いINC型スケールからの値に基づき加工ヘッドの位置制御を行っている。
【0007】
上記の特許文献1におけるINC型スケールとABS型スケールの併用の目的は、それまでの機械的リミットスイッチによる位置検出動作を省略することである。加工ヘッドの原点復帰作業(原点マークの検出動作)を省略するものではない。
【0008】
また、特許文献2には、公知のINC型リニアエンコーダの一例が開示されている。この特許文献2では、原点パターン(10)および受光部(52)によってスケールの原点位置を検出するように構成されており、様々な改良が施されている。
【0009】
座標測定機においては、電源投入の際、プローブ移動体の原点復帰作業に要する時間は、プローブ移動体が電源投入時にどの位置にあるかにもよるが、原点マークから最も離れた位置から動作を開始する場合は、中型の装置で1分程度かかり、大型の装置では3分程度もかかってしまう。
【0010】
原点復帰作業が1回/日であっても非効率であるのに、測定準備完了後に不遇なエラーが発生して電源を再投入するようなことになれば、非効率な時間が倍増してしまう。例えば、電源の再投入が5回/日であれば、中型の装置で5分、大型の装置で15分が無駄になる。10回/日にもなれば、中型の装置で10分、大型の装置で30分が無駄になってしまう。
【0011】
また、安全対策上、ワークを搬入/搬出する都度、座標測定機の電源をOFFするように作業手順が定められている場合は、電源再投入が数十回/日になり、測定効率が著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2009-220119号公報
【文献】特開2017-116306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
INC型スケールに代えて、ABS型スケールを用いて、プローブ移動体の絶対位置情報をリアルタイムで読み取れば、INC型スケールでの原点復帰作業の時間が省けるのではないか、という考え方がある。INC型スケールは、原点復帰で取得した原点位置を基準に、そこからの移動量をカウントすることで、プローブ移動体の相対的位置情報を取得するのに対し、ABS型スケールは、原点位置を必要とせず、任意の位置にてスケールを読み取るだけで、その位置での絶対的位置情報を取得することができるからである。しかしながら、座標測定機にABS型スケールを適用するには次のような課題があった。
【0014】
座標測定機には、プローブ移動体を駆動制御して走査プローブをワーク表面に沿って走査させながら、プローブ移動体の移動位置を順次、スケールから読み取ることによって、ワークの表面形状を測定するものがある。この場合、座標測定機の制御装置は、移動中のプローブからのプローブ信号を順次取得し、このプローブ信号をトリガーにしてプローブ移動体の各位置情報を読み取っている。
【0015】
ABS型リニアエンコーダは、通常、スケールの絶対位置情報を読み取るABS検出器と、エンコーダ・インターフェース(以下、エンコーダI/F)とが、シリアル通信線で接続されており、エンコーダI/Fが発信するリクエスト信号に応答して、ABS検出器が絶対位置情報を出力するように構成されている。
【0016】
ABS型リニアエンコーダを座標測定機に適用する場合、プローブ移動体の絶対位置情報は次のようにして取得されることになる。座標測定機の制御装置は、まず、プローブからプローブ信号を受信する。次に、ABS検出器に向けてリクエスト信号を発信する。ABS検出器は、リクエスト信号を受信した時点での絶対位置情報を制御装置に向けて出力する。そうすると、制御装置とABS検出器との間で、リクエスト信号とその応答である絶対位置情報の信号の授受が行われることで、座標測定機の制御装置がプローブ信号を受信するタイミングと、ABS検出器が絶対位置情報を発信するタイミングとの間に、タイムラグが発生するから、プローブ信号の受信時の絶対位置情報(真値)を取得できないということが起きる。この構成では、制御装置が少なくとも1サンプルタイム分遅れた位置情報を取得することになってしまう。
【0017】
1サンプルタイム分遅れた位置情報を取得するということは、測定値に時間的な誤差が加算されることを意味し、「プローブが動きながら位置座標を取得し、長さを測る」という座標測定機の機能上、問題である。
【0018】
本発明の目的は、高精度の測定機能を損なうことなく、電源投入から測定準備完了までの時間を短縮することが可能な座標測定機、及び座標測定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らは、ABS型スケールの長所を使って機械原点の復帰作業を省略すること、および、INC型スケールの長所を使ったリアルタイムでの位置情報の取得に着目した。そして、電源投入時はABS型スケールによるプリセットを実行し、その後のワーク形状測定時はINC型スケールによる高精度位置情報を読み取るように構成した座標測定機の開発を進めて、本発明の完成に至った。具体例として、座標測定機に「ABS-INCスケール」を取り付けて、「電源投入時にABS検出器からの絶対位置信号を利用してインクリメンタル・カウンタ(以降、INCカウンタ)のプリセットを実行する手段」および「ワーク形状測定時にプローブ信号をトリガーにINCカウンタの計数値を読み取る手段」を採用する。その結果、電源投入時のプローブ移動体の機械原点への復帰作業を排除することができ、かつ、走査プローブでのワーク形状測定精度を高く維持できることを見出した。
【0020】
すなわち、本発明に係る座標測定機(10)は、
ワークを支持するワーク支持体(12)と、前記ワークに対してプローブ(30)を相対的に移動させるプローブ移動体(20)と、前記プローブ移動体を駆動制御して、前記プローブによる前記ワークの検知タイミングでの当該プローブ移動体の位置情報を取得する制御装置(50)と、を備え、前記位置情報に基づいてワーク形状を測定する座標測定機(10)であって、さらに、
前記プローブ移動体の移動方向に沿って配置されたインクリメンタル・パターン(42)と、前記プローブ移動体の移動方向に沿って配置されたアブソリュート・パターン(43)と、前記インクリメンタル・パターンを検出して前記プローブ移動体の移動量に比例した数の波形信号を出力するインクリメンタル検出器(45)と、前記制御装置からのリクエスト信号の受信タイミングで前記アブソリュート・パターンを検出して前記プローブ移動体の絶対位置信号を出力するアブソリュート検出器(46)と、を備え、
前記制御装置(50)は、
前記インクリメンタル検出器からの前記波形信号をカウントするインクリメンタル・カウント手段(51)と、
前記プローブによる前記ワークの検知タイミングでの前記インクリメンタル・カウント手段の計数値を読み取る位置情報取得手段(52)と、
前記インクリメンタル・カウント手段のプリセットのために前記アブソリュート検出器へリクエスト信号を発信して、前記アブソリュート検出器からの前記絶対位置信号を取得するとともに、当該絶対位置信号を前記インクリメンタル・カウント手段にプリセットするプリセット手段(54)と、を含み、
前記インクリメンタル・カウント手段は、前記プローブ移動体の移動に応じた前記波形信号を順次カウントし、
前記位置情報取得手段は、ワーク表面を走査中の前記プローブからの信号を順次取得して、該プローブからの信号に応じて前記インクリメンタル・カウント手段の計数値を順次読み取るように設けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、座標測定機の制御装置は次のように動作する。まず、電源投入時には、「プリセット手段」がABS検出器からの絶対位置情報を利用して、INCカウント手段のプリセットを実行する。そのため、プリセット時のプローブ移動体の原点復帰作業が不要になって、電源投入から測定準備完了までの準備時間が大幅に短縮される。次に、ワーク形状測定中は、「INCカウント手段」がプリセット値を基準にプローブ移動体の移動量に応じた数の波形信号をカウントしているので、「位置情報取得手段」は、プローブ信号の受信タイミングで直ちにINCカウント手段の計数値を読み取って、この計数値をプローブ移動体の位置情報として出力することができる。そのため、プローブ信号の受信時点での位置情報(真値)を取得することが可能で、プローブの位置情報の取得の際に時間的な誤差が生じない。
【0022】
ただし、プローブ移動体の移動方向に沿って、ABS型スケールとINC型スケールの2本のスケールを設置することは、大きなコストになる。そこで、本発明に係る座標測定機では、前記インクリメンタル・パターンおよび前記アブソリュート・パターンが、一本のスケール上に形成されていることが好ましい。このように同一スケール内に、ABSとINCの2種類の目盛りが形成されていれば、1本のスケールで済むので、コストアップも最小限に抑えることができる。このような複合型スケールを本発明ではABS-INCスケールと呼ぶ。
【0023】
また、本発明に係る座標測定機において、前記制御装置は、前記プローブ移動体の駆動用モータであるサーボモータをサーボロック制御するサーボロック部を備え、前記サーボロック部は、前記プリセット手段によるプリセット動作中、前記サーボモータをサーボロック(=所定の回転角度を維持)して回転を停止させるように構成されていることが好ましい。この構成ではINCカウント手段をプリセットする際、プローブ移動体がサーボロックによって確実に停止している状態になるので、プリセット動作の信頼性が向上する。
【0024】
本発明に係る座標測定プログラムは、プローブによるワークの検知タイミングでのプローブ移動体の位置情報を取得することによってワーク形状を測定するための座標測定プログラムであって、コンピュータを、
前記プローブ移動体の移動量に比例した数の波形信号をインクリメンタル検出器から取得して当該波形信号をカウントするインクリメンタル・カウント手段、
前記プローブによる前記ワークの検知タイミングでの前記インクリメンタル・カウント手段の計数値を読み取る位置情報取得手段、
前記インクリメンタル・カウント手段のプリセットのためにアブソリュート検出器へリクエスト信号を発信して、前記プローブ移動体の絶対位置信号を前記アブソリュート検出器から取得するとともに、当該絶対位置信号を前記インクリメンタル・カウント手段にプリセットするプリセット手段、
前記プローブ移動体の移動に応じた前記波形信号を順次カウントしつつ、ワーク表面を走査中の前記プローブからの信号を順次取得して、該プローブからの信号に応じて前記計数値を順次読み取る手段として機能させることを特徴とする。
【0025】
このプログラムの構成によれば、上述の効果に加えて、コンピュータを利用したワーク形状測定の自動化、有線または無線のネットワークを介した遠隔操作などが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の構成によれば、ABS型スケールの構成を利用することで、INCカウント手段のプリセットの際に今まで必要とされてきたプローブ移動体の原点復帰作業を廃止することができ、かつ、走査プローブでの測定時には、INC型スケールの構成を利用したワーク形状の高精度測定を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第一実施形態の座標測定機の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第二実施形態の座標測定機の全体構成を示すブロック図である。
【
図3】前記実施形態の座標測定機による座標測定のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の第一実施形態に係る座標測定機の構成例を示したブロック図である。座標測定機10は、ワーク載置用の定盤12と、定盤12上をY方向にスライド可能な門型のプローブ移動体20と、このプローブ移動体20に支持されたプローブ30と、プローブ移動体20のY方向の位置を検出する位置検出装置40と、制御装置50を備える。
【0029】
プローブ移動体20は、門型のYスライダー22、このYスライダー22の水平ビームに沿ってスライド可能なXスライダー24、および、Xスライダー24に昇降自在に支持されたZスピンドル26を有して構成される。図示しないが、これらスライダーやスピンドルの移動は、公知の駆動手段による。本実施形態では例えばサーボモータを駆動手段に採用する。また、スライダーやスピンドルの移動方向の位置を検出するための位置検出手段40が各方向に設置されている。ここでは、代表としてY方向の位置検出手段40について詳細に説明する。
【0030】
定盤12および門型のプローブ移動体20で構成された
図1の座標測定機10は一例に過ぎず、ワーク支持体およびプローブ移動体は、少なくともワーク(W)に対してプローブ30を相対的に移動させるように構成された構造体であればよい。例えば、ワーク支持体としてワークをY方向に移動可能な可動テーブルを採用して、プローブ移動体のY方向を固定するといった構成でもよい。
【0031】
プローブ30は、Zスピンドル26の下端に取り付けられ、センサーを内蔵しており、ワークに接触するか、またはワークを非接触で検知した場合に、ワークを検知したことを示す信号を出力する。この信号をプローブ信号と呼ぶ。
【0032】
位置検出装置40は、長尺状のABS-INCスケール41、及び、検出ヘッド44を有する。ABS-INCスケール41は、Yスライダー22の移動方向に沿って定盤12の側面に固定されている。検出ヘッド44は、検出面がABS-INCスケール41のパターン面を向くようにYスライダー22の駆動側コラムの下方に取付けられ、Yスライダー22と一体で移動する。
【0033】
スケール41の表面には、2本のINCパターン42とABSパターン43を含むパターン面がスケール41の長尺方向に沿って形成されている。検出ヘッド44の検出面には、INC検出器45及びABS検出器46が、それぞれスケール41のINCパターン42及びABSパターン43に対向するように配置されている。このようなスケール41及び検出ヘッド44の位置関係により、プローブ移動体20がY方向に移動すると、INC検出器45はその移動位置に対応する部分のINCパターン42を検出し、ABS検出器46は同様にABSパターン43の一部を検出する。
【0034】
INCパターン42を、例えば一定ピッチで並んだ複数の矩形パターンで構成してもよい。この場合、INC検出器45が、プローブ移動体20の移動に伴って1つの矩形パターンを通過すると、1つの波形信号(例えばパルス信号)を出力する。よって、INC検出器45は、プローブ移動体20の移動量に比例した複数の波形信号を出力し、アナログまたはデジタル信号として制御装置50に伝達する。このようにINC検出器45が出力する波形信号は、連続的に出力可能なもの、カウンタ等の計数手段で計数可能な信号が適する。
【0035】
ABSパターン43を、例えばM系列符号のデータを含んだものなど、スケールと検出ヘッドの相対位置に依存するパターンで構成してもよい。この場合、ABS検出器46が、ABSパターン43の一部を検出すると、ABSパターン43の長手方向に割り当てられた番地情報のようなものを読み取って、検出ヘッド44の移動位置ごとに異なる絶対位置情報を出力し、デジタル信号として制御装置50に伝達する。
【0036】
制御装置50は、
図1に示すINCカウンタ51、位置情報取得手段52、ワーク形状情報生成手段53、プリセット手段54、サーボロック手段55といった各種の機能ブロックで構成される。
【0037】
また、制御装置50は、電源が投入されたことを示す信号の受信、ABS検出器46との間での双方向通信(例えばシリアル通信)、INC検出器45からの波形信号の受信、および、プローブ信号の受信を外部と行えるよう構成されている。
【0038】
<INCカウント手段>
INCカウント手段51の機能は、INC検出器45から一方的に発信されてくる波形信号を順次カウントすることである。
【0039】
<位置情報取得手段>
位置情報取得手段52の機能は、プローブ信号の受信タイミングでのINCカウント手段51の計数値を読み取って、これをプローブ移動体20の現在位置情報として出力することである。ここでは、プローブ信号の受信タイミングで計数値を読み取った後、直ちに出力するように構成されているが、例えば、計数値を一旦記憶部に記憶させて、その後、記憶部の計数値を取得時刻情報などと一緒に出力するように位置情報取得手段52を構成してもよい。
【0040】
<ワーク形状情報生成手段>
ワーク形状情報生成手段53の機能は、位置情報取得手段52からの現在位置情報に基づいて、プローブ30の軌跡、つまり、ワーク形状情報を生成することである。
【0041】
<プリセット手段>
プリセット手段54の機能は、電源投入に起因するプリセット実行指令を受けて、ABS検出器46へリクエスト信号を発信すること、また、ABS検出器46からの絶対位置信号を取得して、この絶対位置信号をINCカウント手段51にプリセットすることである。プリセット手段54は、ABS検出器46とシリアル通信で接続され、リクエスト及びレスポンス形式で動作するように構成されている。
【0042】
<サーボロック手段>
サーボロック手段55の機能は、プローブ移動体20の駆動用のサーボモータをサーボロック制御することである。このサーボロック手段55は、プリセット手段54によるプリセット動作中、サーボモータをサーボロック(サーボモータを所定の回転角度に維持する制御)することによって、モータの回転を停止させるように機能する。このサーボロック手段55を設けることで、INCカウント手段51をプリセットする際、プローブ移動体20がサーボロックによって確実に停止するのでプリセット動作の信頼性が向上する。
【0043】
以上のように構成された制御装置50は、電源投入時におけるプローブ移動体20の停止位置において、何らプローブ移動体20を移動させることなく、次のステップを含むプリセット動作を実行することができる。
【0044】
(1)電源投入に起因するプリセット実行指令(プリセット・トリガー)の信号が、プリセット手段54およびサーボロック手段55に入力される。この信号に応じて、サーボロック手段55は、プローブ移動体20のサーボモータを電気的にサーボロックする指令信号を出す。そして、サーボモータの回転角度が所定角度で維持されていることを確認して、サーボロック状態を示す信号をプリセット手段54に出力する。
【0045】
(2)プリセット手段54が、プリセット実行指令およびサーボロック状態の各信号を受信すると、ABS検出器46に向けてリクエスト信号を発信する。
【0046】
(3)ABS検出器46が、リクエスト信号の受信時にABSパターン42から読み取った絶対位置信号を出力する。
【0047】
(4)プリセット手段54が、受信した絶対位置信号に基づいて、INCカウント手段51の計数値を絶対位置信号の値にプリセットする。
【0048】
(5)プリセット手段54は、プリセット完了の信号をサーボロック手段55に出力する。サーボロック手段54は、サーボモータのサーボロックを解除する指令信号を出す。以上のステップによって、プリセット動作が完了し、測定準備完了になる。
【0049】
また、制御装置50は、次のステップを含むワーク形状測定動作を実行する。
【0050】
(6)INCカウント手段51は、プリセット動作の完了後、プリセットされた計数値を基準にして、INC検出器45からの波形信号をカウントする。例えばYスライダー22の前進時は加算し、後退時は減算する。
【0051】
(7)位置情報取得手段52は、プローブ信号を受信すると、直ちにINCカウント手段51の計数値を読み取る。そして、この計数値をワーク形状情報生成手段53に向けて出力する。
【0052】
(8)ワーク形状情報生成手段53は、位置情報取得手段52からの計数値、つまり、プローブ信号の受信タイミングにおけるプローブ移動体20の現在位置情報を大量に取得し、これらの現在位置情報に基づいて、ワーク形状情報を生成し、そのワーク形状情報を記憶手段へ保存する。必要に応じて表示手段に表示し、外部に出力する。
【0053】
なお、コンピュータを含む機器で制御装置50を構成してもよい。この場合、コンピュータが(1)から(8)までのステップを含む座標測定プログラムを実行することによって、
図1に示す機能ブロックの機能がそれぞれ発揮される。座標測定プログラムを用いれば、コンピュータを利用したワーク形状測定の自動化、有線または無線のネットワークを介した遠隔操作などが容易になる。
【0054】
図2は、本発明の第二実施形態に係る座標測定機の構成例を示したブロック図である。ここでは、第一実施形態の制御装置50が、エンコーダI/F60および主演算装置70に分けて構成されている。第一実施形態の構成に関連する構成には、
図1の符号に100を加えた符号を付す。
【0055】
図2の座標測定機110において、エンコーダI/F(エンコーダ・インターフェース)60を、INC型スケールのエンコーダI/F及びABS型スケールのエンコーダI/Fの組み合わせによって構成することができる。この場合、ABS型スケールがカウンタのプリセットを実行し、INC型スケールがプローブ移動体20の現在位置情報の取得を実行する。
【0056】
図2に示すように、エンコーダI/F60は、カウンタ部61、ラッチ部62、リクエスト部63、プリセット部64など、各種の機能ブロックで構成される。エンコーダI/F60を、コンピュータを含む機器で構成してもよい。この場合、コンピュータが、このエンコーダI/F60用の座標測定プログラムを実行することによって、エンコーダI/F60に含まれる機能ブロックの機能がそれぞれ発揮される。
【0057】
主演算装置(ホストコンピュータ)70は、測定トリガー部71、ワーク形状情報生成部72、プリセット・トリガー部73、サーボロック部74など、各種の機能ブロックで構成され、主演算装置70用の座標測定プログラムを実行することによって、これらの機能ブロックの機能がそれぞれ発揮される。主演算装置70は、座標測定機110の駆動を制御すると共に必要なデータ処理を実行可能に構成されている。
【0058】
本実施形態でのプリセット動作について、
図2および
図3を用いて説明する。
図3は、電源投入から測定準備完了までの手順、及び、ワーク形状測定時の手順からなる座標測定プログラムのタイムチャートである。
【0059】
(1)座標測定装置110の電源が投入されると、電源投入信号が主演算装置70に入力される。主演算装置70のサーボロック部74は、電源投入信号を確認するとプローブ移動体20のサーボモータを電気的にサーボロックする指令信号を出す(S1)。また、サーボロックの確認後、サーボロック状態を示すサーボロック信号をプリセット・トリガー部73に出力する(S2)。
【0060】
(2)プリセット・トリガー部73は、電源投入信号およびサーボロック信号を受信すると、エンコーダI/F60に向けてプリセット・トリガー信号を出力する(S3)。
【0061】
(3)エンコーダI/F60のリクエスト部63は、プリセット・トリガー信号を確認すると、ABS検出器46に向けてリクエスト信号を発信する(S4)。
【0062】
(4)ABS検出器46は、リクエスト信号の受信時にABSパターン42から絶対位置信号を読み取り、この絶対位置信号をエンコーダI/F60に送信(応答)する。
【0063】
(5)エンコーダI/F60のプリセット部64は、受信した絶対位置信号に基づいて、カウント部61の計数値を絶対位置信号の値にプリセットする(S6)。なお、リクエスト部63およびプリセット部64は、本発明のプリセット手段の構成要素である。
【0064】
(6)また、プリセット部64は、プリセット完了信号を主演算装置70のサーボロック部74に出力する(S7)。サーボロック部74は、サーボロックの解除指令信号を出す(S8)。以上のステップによって、プリセット動作が完了し、測定準備完了になる。
【0065】
続いて、ワーク形状測定動作について説明する。
【0066】
(7)エンコーダI/F60のカウント部61は、プリセット動作の完了後、プリセットされた計数値を基準にして、INC検出器45からの波形信号をカウントする(S11)。
【0067】
(8)ワーク形状測定が開始されてプローブ30がワークを検知すると、プローブ信号が主演算装置70に入力される。主演算装置70の測定トリガー部71は、プローブ信号を確認すると、測定トリガー信号をエンコーダI/F60に向けて出力する(S12)。
【0068】
(9)エンコーダI/F60のラッチ部62が測定トリガー信号を確認すると、直ちにカウント部61の計数値を保持し(S13)、保持した計数値を主演算装置70に向けて出力する(S14)。ラッチ部62は、本発明の位置情報取得手段の構成要素である。ステップS12からステップS14までの動作が繰り返される。
【0069】
(10)主演算装置70のワーク形状情報生成部72は、エンコーダI/F60からの計数値、つまり、プローブ信号の受信タイミングにおけるプローブ移動体20の現在位置情報を大量に取得し、これらの現在位置情報に基づいて、ワーク形状情報を生成する(S15)。
【0070】
このように各実施形態の座標測定機10,110によれば、電源投入の際、まず、モータをサーボロックし、ABS型スケールの構成によるプローブ移動体20の絶対位置の座標値を取得する。そして、取得した座標値をINC型スケールの構成にプリセットし、その後のワーク形状測定をプリセットしたINC型スケールの構成によって実行する。
【0071】
これにより、INC型スケールの構成では必要であったプローブ移動体20の機械原点復帰作業が廃止されるとともに、ABS型スケール(シリアル通信)の構成における測定値に時間的な誤差が加算されてしまうという真値のズレの問題についても解消される。つまり、電源投入から測定準備完了までの時間が短くなって、測定時間やダウンタイムの短縮化が実現し、高効率測定が可能になるとともに、ワーク形状測定の精度を悪化させることなく、高精度のワーク形状測定が維持される。
【0072】
なお、特許文献1では測定準備段階において、ABS型スケールによる大まかな位置を確認した後、INC型スケールの原点位置までヘッドを移動させて、その原点位置にて座標値を確定させる必要があった。これに対して、各実施形態の座標測定機10,110では、ABS型スケールにて正確な位置を検出し、その検出後にプローブ移動体20を移動させることなく、その位置にて座標値を確定することができる。
【0073】
また、各実施形態の座標測定機10,110では、ABS-INCスケール41を利用する。同一のスケール41に、ABSとINCの2種類のパターン42,43が形成されているので、1方向の位置検出装置40において、1本のスケール41を設置するだけでよく、コストアップを最小限に抑えることができる。さらに、たとえ一方のパターン(目盛り)が傷ついた場合であっても、他方のパターンが正常であれば、座標測定機10,110の稼動を止めることなくワーク形状測定を継続することができる。
【0074】
以上の説明では、Yスライダー22(Y方向プローブ移動体に相当。)の位置検出を例示したが、同様の構成を、Xスライダー24(X方向プローブ移動体に相当。)やZスピンドル(Z方向プローブ移動体に相当。)の位置検出に適用してもよい。この場合、ワーク形状情報生成手段53やワーク形状情報生成部72は、プローブ30の現在位置情報を各軸のスケールから読み取って、読み取った各軸の位置情報に基づいてワークの三次元形状情報を効率的に高い精度で測定することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 座標測定機, 12 定盤(ワーク支持体), 20 プローブ移動体, 30 プローブ, 41 ABS-INCスケール(スケール), 42 インクリメンタル・パターン(INCパターン), 43 アブソリュート・パターン(ABSパターン), 45 インクリメンタル検出器(INC検出器), 46 アブソリュート検出器(ABS検出器), 50 制御装置, 51 インクリメンタル・カウント手段(INCカウント手段), 52 位置情報取得手段, 53 ワーク形状情報生成手段, 54 プリセット手段, 55 サーボロック手段, 60 エンコーダI/F, 61 カウント部, 62 ラッチ部(位置情報取得手段), 63 リクエスト部(プリセット手段), 64 プリセット部(プリセット手段), 70 主演算装置, 71 測定トリガー部, 72 ワーク形状情報生成部, 73 プリセット・トリガー部, 74 サーボロック部(サーボロック手段), 110 座標測定機。