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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】防着機構、および、成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20230704BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C16/44 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019119799
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004408
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜蔵
(72)【発明者】
【氏名】青代 信
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126727(JP,A)
【文献】特開2012-126939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ローラーと、
第2ローラーと、
前記第1ローラーから前記第2ローラーに向けて搬送される途中で成膜源と対向する被着面を有し、前記第2ローラーに巻き取られる防着シートと、
前記第2ローラーの鉛直方向に位置し、前記防着シートから剥がれる着膜物を回収する回収部と、を備え
前記防着シートは、成膜粒子を通す開口を有した空隙を前記被着面に備え、
前記第2ローラーは、前記防着シートの前記被着面および前記被着面とは反対側の裏面のうち、前記被着面を内面として前記防着シートを巻き取る方向に回転するように構成されている
防着機構。
【請求項2】
前記防着シートは布であり、
前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間において前記防着シートの張力を所定値に制御する張力制御部をさらに備える
請求項1に記載の防着機構。
【請求項3】
前記第1ローラーの軸線と前記第2ローラーの軸線とは互いに平行であり、前記第1ローラーと前記第2ローラーとは、水平方向に沿う回転軸を備え、前記第2ローラーは、前記第1ローラーの鉛直方向に位置する
請求項1または2に記載の防着機構。
【請求項4】
前記第1ローラーから送り出された前記防着シートの前記被着面が、前記第2ローラーの中心よりも下方にて前記第2ローラーに巻き付けられるように、前記防着シートを前記第2ローラーに向けて案内する案内部材をさらに備える
請求項3に記載の防着機構。
【請求項5】
前記第1ローラーの軸線と前記第2ローラーの軸線とは互いに平行であり、前記第1ローラーと前記第2ローラーとは、前記鉛直方向に沿う回転軸を備え、
前記回収部は、前記第2ローラーの下方、および、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間の下方に位置する
請求項1または2に記載の防着機構。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載された防着機構と、
前記防着シートのなかで、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間に位置する部分と対向する成膜源と、を備える
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防着機構、および、防着機構を備える成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ装置は、基板に対して各種の薄膜を形成するために用いられている。スパッタ装置は、基板以外の部位に対する着膜を抑える目的で、防着板を備えている。スパッタ装置の一例において、防着板は、金属箔、供給ローラー、および、巻取りローラーを備えている。供給ローラーに巻回された金属箔は、巻取りローラーに架け渡されている。巻取りローラーが金属箔を巻き取ることによって、金属箔のなかで、スパッタ粒子の付着によって堆積した着膜物を有する部分が、巻取りローラーに巻き取られる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平7-19361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属箔に堆積した着膜物は、巻取りローラーに巻き取られる際に、金属箔内での擦れや、巻取りローラーと金属箔との間での擦れなどによって、金属箔から剥がれ落ちる場合がある。金属箔から剥がれ落ちた着膜物は、スパッタ装置内においてパーティクルを生じさせる一因となる。こうした課題は、成膜源としてカソードを備えるスパッタ装置に限らず、成膜源として蒸着源を備える蒸着装置などの成膜装置においても共通する。
【0005】
本発明は、着膜物に起因したパーティクルの発生を抑えることを可能とした防着機構、および、成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための防着機構は、第1ローラーと、第2ローラーと、前記第1ローラーから前記第2ローラーに向けて搬送される途中で成膜源と対向する被着面を有し、前記第2ローラーに巻き取られる防着シートと、前記第2ローラーの鉛直方向に位置し、前記被着面から剥がれる着膜物を回収する回収部と、を備える。
【0007】
上記課題を解決するための成膜装置は、上記防着機構と、前記防着シートのなかで、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間に位置する部分と対向する成膜源と、を備える。
【0008】
上記各構成によれば、第1ローラーと第2ローラーとの間において防着シートに堆積した着膜物は、防着シートが第2ローラーに巻き取られるときに、防着シート内での擦れなどを通じて防着シートから剥がれ落ちる。この点で、上述した構成であれば、第2ローラーの鉛直方向に位置する回収部が、防着シートから剥がれ落ちる着膜物を回収することができるため、防着シートから剥がれ落ちる着膜物に起因したパーティクルの発生が抑えられる。
【0009】
上記防着機構において、前記防着シートは、成膜粒子を通す開口を有した空隙を前記被着面に備える布であり、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間において前記防着シートの張力を所定値に制御する張力制御部をさらに備えてもよい。
【0010】
上記構成によれば、防着シートに作用する張力の差異によって、防着シート13が第2ローラー12に巻き取られる際に、防着シート13から剥がれ落ちる着膜物の量が変わることを抑えられることから、第2ローラー12に巻き取られる被着面に堆積し得る着膜物の量や、被着面から落ちる着膜物の量の安定化を図ることができる。
【0011】
上記防着機構において、前記第1ローラーの軸線と前記第2ローラーの軸線とは互いに平行であり、前記第1ローラーと前記第2ローラーとは、水平方向に沿う回転軸を備え、前記第2ローラーは、前記第1ローラーの鉛直方向に位置してもよい。
【0012】
上記構成によれば、防着シートが巻き付けられる第2ローラーが、第1ローラーに対して鉛直方向に位置するため、第2ローラーが第1ローラーよりも上方に位置する場合に比べて、第2ローラーから剥がれ落ちた着膜物が飛散する領域を制限することが可能である。
【0013】
上記防着機構において、前記第1ローラーから送り出された前記防着シートの前記被着面が、前記第2ローラーの中心よりも下方にて前記第2ローラーに巻き付けられるように、前記防着シートを前記第2ローラーに向けて案内する案内部材をさらに備えてもよい。
【0014】
上記構成によれば、防着シートの被着面が第2ローラーの中心よりも下方で第2ローラーに巻き付けられるため、防着シートが第2ローラーに巻き付けられることによって被着面から剥がれ落ちた着膜物を第2ローラーの下方に向けて落としやすい。
【0015】
上記防着機構において、前記第1ローラーの軸線と前記第2ローラーの軸線とは互いに平行であり、前記第1ローラーと前記第2ローラーとは、前記鉛直方向に沿う回転軸を備え、前記回収部は、前記第2ローラーの下方、および、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間の下方に位置してもよい。
【0016】
上記構成によれば、防着シートが第1ローラーから第2ローラーに搬送される間に防着シートから剥がれ落ちた着膜物が回収部によって回収される。そのため、第1ローラーと第2ローラーとが鉛直方向に沿う回転軸を備える場合であっても、防着シートから剥がれ落ちた着膜物に起因したパーティクルの発生を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態における防着機構の構成を防着機構が搭載される成膜装置が備える成膜源とともに示す装置構成図。
図2】第1ローラーおよび第2ローラーの斜視構造を、張力制御部と張力検出部とともに示す図。
図3】防着シートの構造を模式的に示す斜視図。
図4】第2実施形態における防着機構の構成を防着機構が搭載される成膜装置が備える成膜源とともに示す装置構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
図1から図3を参照して、防着機構、および、成膜装置の第1実施形態を説明する。
成膜装置20は、防着機構10と成膜源DSとを備えている。防着機構10は、第1ローラー11、第2ローラー12、防着シート13、および、回収部14を備えている。防着シート13は、第1ローラー11から第2ローラー12に向けて搬送される途中で成膜源DSと対向する被着面13Sを有し、第2ローラー12に巻き取られる。回収部14は、第2ローラー12の鉛直方向に位置し、被着面13Sから剥がれる着膜物DFを回収する。
【0019】
第1ローラー11と第2ローラー12との間において防着シート13に堆積した着膜物DFは、防着シート13が第2ローラー12に巻き取られるときに、防着シート13内での擦れなどを通じて防着シート13から剥がれ落ちる。この点で、防着機構10では、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14が、防着シート13から剥がれ落ちる着膜物DFを回収することができるため、防着シート13から剥がれ落ちる着膜物DFに起因したパーティクルの発生が抑えられる。
【0020】
第1ローラー11は、紙面の奥行き方向に沿って延びる円筒状を有している。すなわち、第1ローラー11の第1軸線11Aは、紙面の奥行き方向に沿って延びている。第1ローラー11の両端部は、軸受などを介して、例えば、防着機構10が搭載された成膜装置の壁部に固定されている。
【0021】
第2ローラー12は、紙面の奥行き方向に沿って延びる円筒状を有している。すなわち、第2ローラー12の第2軸線12Aは、紙面の奥行き方向に沿って延びている。第2ローラー12の両端部は、軸受などを介して、例えば、防着機構10が搭載された成膜装置の壁部に固定されている。
【0022】
第1ローラー11の第1軸線11Aと、第2ローラー12の第2軸線12Aとは互いに平行である。第1ローラー11と第2ローラー12とは、水平方向に沿う回転軸を備えている。本実施形態では、第1ローラー11の回転軸は、第1軸線11Aに一致し、かつ、第2ローラー12の回転軸は、第2軸線12Aに一致している。第2ローラー12は、第1ローラー11の鉛直方向に位置している。
【0023】
防着シート13が巻き付けられる第2ローラー12が、第1ローラー11に対して鉛直方向に位置するため、第2ローラー12が第1ローラー11よりも上方に位置する場合に比べて、第2ローラー12から剥がれ落ちた着膜物DFが飛散する領域を制限することが可能である。
【0024】
また、本実施形態では、第1ローラー11の第1軸線11Aと、第2ローラー12の第2軸線12Aとが防着シート13を挟むように、第1ローラー11と第2ローラー12とが配置されている。第1軸線11Aは、被着面13Sに対して裏面13R寄りに位置している。第2軸線12Aは、裏面13Rに対して被着面13S寄りに位置している。図1が示す防着機構10では、第1ローラー11が、防着シート13に対して紙面における右側に位置し、かつ、第2ローラー12が、防着シート13に対して紙面における左側に位置している。
【0025】
防着シート13は、紙面の奥行き方向に沿って広がり、かつ、紙面の上下方向に沿って延びる帯状を有している。防着シート13は、可撓性を有し、これによって、防着シート13は、第1ローラー11の外周面に追従した形状、および、第2ローラー12の外周面に追従した形状を有することが可能である。
【0026】
防着シート13は、上述した被着面13Sと、被着面13Sとは反対側の裏面13Rとを含んでいる。防着シート13は、防着シート13の長さ方向における各位置において、裏面13Rが、被着面13Sに比べて第1ローラー11寄りに位置するように、第1ローラー11に巻き付けられる。これに対して、防着シート13は、防着シート13の長さ方向における各位置において、被着面13Sが、裏面13Rに比べて第2ローラー12寄りに位置するように、第2ローラー12に巻き取られる。
【0027】
本実施形態では、第1ローラー11が、第1軸線11Aを回転軸として、左回りに回転する。これに対して、第2ローラー12が、第2軸線12Aを回転軸として、右回りに回転する。これによって、防着シート13は、防着シート13の長さ方向における各位置において、被着面13Sが、裏面13Rに比べて第2ローラー12寄りに位置するように、第2ローラー12に巻き取られる。
【0028】
回収部14は、第2ローラー12の第2軸線12Aに沿って延びる形状を有している。第2軸線12Aが延びる方向において、回収部14の長さは、第2ローラー12の長さ以上であることが好ましい。また、回収部14の幅は、第2ローラー12の径方向において、第2ローラー12の直径以上であることが好ましい。本実施形態において、回収部14は、防着シート13が第2ローラー12に巻き取られる際に、防着シート13から剥がれ落ちた着膜物DFを受ける受け皿である。
【0029】
防着機構10がスパッタ装置に搭載された場合には、成膜源DSは、ターゲットを含むカソードである。成膜源DSは、ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を成膜粒子DPとして放出する。防着機構10が蒸着装置に搭載された場合には、成膜源DSは、蒸着源である。成膜源DSは、気化または昇華された蒸着材料を成膜粒子DPとして放出する。なお、成膜源DSは、物理蒸着(PVD)、および、化学蒸着(CVD)のうち、いずれの原理を用いた成膜源であってもよい。
【0030】
防着機構10は、案内部材15をさらに備えている。案内部材15は、第1ローラー11と第2ローラー12との間を搬送されている防着シート13を第2ローラー12に向けて案内する。案内部材15は、第1ローラー11から送り出された防着シート13の被着面13Sが、第2ローラー12の中心よりも下方にて第2ローラー12に巻き付けられるように、防着シート13を第2ローラー12に向けて案内する。
【0031】
防着シート13の被着面13Sが第2ローラー12の中心よりも下方で第2ローラー12に巻き付けられるため、防着シート13が第2ローラー12に巻き付けられることによって被着面13Sから剥がれ落ちた着膜物DFを第2ローラー12の下方に向けて落としやすい。
【0032】
防着機構10は、1つの案内部材15を備えてもよい。この場合には、案内部材15は、第2ローラー12の第2軸線12Aに沿って延びる円筒状を有し、かつ、案内部材15の長さが、第2ローラー12の長さとほぼ等しいことが好ましい。防着機構10は、複数の案内部材15を備えてもよい。この場合には、案内部材15は、第2ローラー12の第2軸線12Aに沿って間隔を開けて配置されることが好ましい。
【0033】
本実施形態において、案内部材15は、第2ローラー12の第2軸線12Aと平行な回転軸に沿って回転することが可能に構成されている。案内部材15の回転方向は、第2ローラー12の回転方向と同一である。案内部材15は、従動ローラーでもよい。この場合には、案内部材15は、防着シート13の被着面13Sに接し、防着シート13の搬送に伴って案内部材15も回転する。また、案内部材15は、駆動ローラーでもよい。この場合には、案内部材15は、案内部材15を回転させるモーターに接続され、モーターの回転によって、案内部材15が回転する。
【0034】
このように、防着機構10において、第1ローラー11の第1回転軸11Rにおける回転方向は、防着シート13により成膜源DSからの成膜粒子DPが遮蔽された状態で、防着シート13が備える新規の面、すなわち、被着面13Sにおいて着膜物DFが付着していない部分が繰り出される方向であることが好ましい。また、第2ローラー12の第2回転軸12Rにおける回転方向は、着膜物DFの付着面、すなわち成膜源DSと対向する被着面13Sを内面として巻き取る方向であることが好ましい。
【0035】
これにより、防着シート13の搬送に起因して、着膜物DFが崩壊されてパーティクル源となることが抑えられる。もし、第1ローラー11の第1回転軸11Rの回転方向が上述の状態でない場合には、図1に示した被着面13Sの反対側の面である裏面13Rに着膜物DFが着膜してしまい、当該着膜物DFは、案内部材15と第2ローラー12とによる開裂方向の応力を受けてしまう。第2ローラー12の第2回転軸12Rにおける回転方向が上述の通りであれば、着膜物DFは圧縮方向の応力を受け、これによって破壊されにくい方向の応力を受けると同時に、着膜物DFが第2ローラー12に巻き込まれることによって、着膜物DFが外部に飛散しにくい。
【0036】
図2は、第1ローラー11、および、第2ローラー12の斜視構造を、第1ローラー11と第2ローラー12とに架け渡された防着シート13とともに示している。
図2が示すように、第1ローラー11は、第1ローラー11の第1軸線11Aに一致する第1回転軸11Rを中心に回転する。第2ローラー12は、第2ローラー12の第2軸線12Aに一致する第2回転軸12Rを中心に回転する。
【0037】
第1ローラー11の第1回転軸11Rには、防着シート13の張力を制御するための第1張力調整部11AUが接続されている。第2ローラー12の第2回転軸12Rには、防着シート13の張力を制御するための第2張力調整部12AUが接続されている。防着機構10は、さらに、張力検出部11Sと、制御部10Cとを備えている。張力検出部11Sは、第1ローラー11の第1軸線11Aにおける張力を検出する。
【0038】
制御部10Cは、第1張力調整部11AU、第2張力調整部12AU、および、張力検出部11Sに電気的に接続されている。制御部10Cは、張力検出部11Sの検出結果に応じた制御信号を生成し、生成した制御信号を第1張力調整部11AUおよび第2張力調整部12AUに出力する。各張力調整部11AU,12AUは、入力した制御信号に応じて動作する。これにより、第1ローラー11と第2ローラー12との間において、防着シート13の張力が所定値に制御される。本実施形態では、第1張力調整部11AU、第2張力調整部12AU、張力検出部11S、および、制御部10Cが、張力制御部を構成している。
【0039】
なお、第1張力調整部11AUは、例えば、第1ローラー11を回転させるモーターであり、第2張力調整部12AUは、例えば、第2ローラー12を回転させるモーターである。張力検出部11Sは、例えばロードセルである。ロードセルは、第1ローラー11に取り付けられてもよいし、第1ローラー11の軸受に取り付けられてもよい。この場合には、制御部10Cは、張力検出部11Sの検出結果に応じた制御信号を生成することによって、第1張力調整部11AUの回転速度、および、第2張力調整部12AUの回転速度を制御する。各張力調整部11AU,12AUは、制御信号に応じた回転速度で回転する。これによって、防着シート13の張力が、所定値に制御される。
【0040】
なお、張力制御部は、第1ローラー11の第1軸線11Aにおける張力を検出する張力検出部に代えて、第2ローラー12の第2軸線12Aにおける張力を検出する張力検出部を備えてもよい。または、張力制御部は、第1軸線11Aの張力を検出する張力検出部と、第2軸線12Aの張力を検出する張力検出部との両方を備えてもよい。
【0041】
図3は、防着シート13の斜視構造を模式的に示している。
図3が示すように、防着シート13は、成膜粒子DPを通す開口13aを有した空隙13gを被着面13Sに備える布である。防着シート13は、被着面13Sに多数の開口13aを有している。各開口13aは、防着シート13の厚さ方向に沿って延びる空隙13gに含まれる。空隙13gは、成膜粒子DPを収容することが可能な空間を区画している。そのため、防着シート13が複数の空隙13gを含まない場合に比べて、防着シート13の被着面13Sにおける表面積が大きくなり、これによって、多くの成膜粒子DPが、防着シート13によって捕捉される。防着シート13は、織布であってもよいし、不織布であってもよい。
【0042】
本実施形態によるように、被着面13Sに多数の空隙13gを有した防着シート13の張力を張力制御部によって制御することによって、防着シート13に作用する張力の差異によって防着シート13に対する着膜量が変わることが抑えられる。そのため、被着面13Sに堆積し得る着膜物の量や、被着面13Sから剥がれ落ちる着膜物の量の安定化を図ることができる。
【0043】
なお、張力を制御することは、第2ローラー12に巻き取られる際に防着シート13の被着面13Sに存在する着膜物DFに対するせん断応力が適正な値に制御されることを意味する。着膜物DFが防着シート13の巻取時に破壊されない応力値の範囲にせん断応力、すなわち張力を制御することによって、被着面13Sから剥がれ落ちる着膜物の量を安定化することができる。この応力値は、着膜状況によって変化するため、予め実験的に求めることが好ましい。
【0044】
以上説明した防着機構10では、第2ローラー12による防着シート13の巻き取りは、例えば、成膜源DSが成膜対象に対して成膜粒子DPを放出していない間に行われる。あるいは、第2ローラー12による防着シート13の巻き取りは、例えば、成膜源DSによる成膜が行われた時間が所定の時間を超えたときに行われる。この場合には、第2ローラー12は、一度の巻き取りによって、第1ローラー11と第2ローラー12との距離とほぼ同じ長さだけ防着シート13を巻き取ることができる。あるいは、第2ローラー12による防着シート13の巻き取りは、成膜源DSによる成膜が行われている間にわたって連続して行われてもよい。
【0045】
以上説明したように、防着機構の第1実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)防着機構10では、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14が、防着シート13から剥がれ落ちる着膜物DFを回収することができるため、防着シート13から剥がれ落ちる着膜物DFに起因したパーティクルの発生が抑えられる。
【0046】
(2)防着シート13が巻き付けられる第2ローラー12が、第1ローラー11に対して鉛直方向に位置するため、第2ローラー12が第1ローラー11よりも上方に位置する場合に比べて、第2ローラー12から剥がれ落ちた着膜物DFが飛散する領域を制限することが可能である。
【0047】
(3)防着シート13の被着面13Sが第2ローラー12の中心よりも下方で第2ローラー12に巻き付けられるため、防着シート13が第2ローラー12に巻き付けられることによって被着面13Sから剥がれ落ちた着膜物DFを第2ローラー12の下方に向けて落としやすい。
【0048】
(4)防着シート13に作用する張力の差異によって、防着シート13が第2ローラー12に巻き取られる際に、防着シート13から剥がれ落ちる着膜物の量が変わることを抑えられる。そのため、第2ローラー12に巻き取られる被着面13Sに堆積し得る着膜物の量や、被着面13Sから剥がれ落ちる着膜物の量の安定化を図ることができる。
【0049】
なお、上述した第1実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[案内部材]
・防着機構10は、案内部材15を備えなくてもよい。この場合であっても、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0050】
[張力制御部]
・防着機構10は、張力制御部を備えなくてもよい。この場合であっても、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0051】
[防着シート]
・防着シート13は布でなくてもよい。防着シート13は、例えば、被着面13Sに開口13aを有した空隙13gを含む樹脂製のシート、および、ガラス製のシートなどの多孔質なシートであってもよい。この場合であっても、上述した(4)に準じた効果を得ることはできる。
【0052】
・防着シート13は、被着面13Sに空隙13gを有しなくてもよい。この場合であっても、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0053】
[第1ローラーおよび第2ローラー]
・第2ローラー12は、第1ローラー11よりも上方に位置してもよい。この場合であっても、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。なお、この場合には、回収部14は、第1ローラー11よりも上方に位置してもよいし、第1ローラー11よりも下方に位置してもよい。
【0054】
・第1ローラー11の第1軸線11Aと、第2ローラー12の第2軸線12Aとは、互いに交差する方向に沿って延びてもよい。この場合であっても、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0055】
・第1ローラー11の第1回転軸11Rと、第2ローラー12の第2回転軸12Rとは、水平方向に交差する方向に沿って延びてもよい。また、第1ローラー11の第1回転軸11Rは、第1ローラー11の第1軸線11Aに一致していなくてもよいし、第2ローラー12の第2回転軸12Rは、第2ローラー12の第2軸線12Aに一致していなくてもよい。いずれの場合であっても、第2ローラー12の鉛直方向に位置する回収部14を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0056】
[第2実施形態]
図4を参照して、防着機構、および、成膜装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態において、第1ローラーの軸線が延びる方向、および、第2ローラーの軸線が延びる方向が、第1実施形態とは異なっている。そのため以下では、第2実施形態において第1実施形態とは異なる構成を詳しく説明する一方で、第2実施形態において第1実施形態と共通する構成には第1実施形態と同一の符号を付すことによって、当該構成の詳しい説明を省略する。
【0057】
図4が示すように、防着機構30は、第1ローラー31、第2ローラー32、防着シート13、および、回収部34を備えている。第1ローラー31の第1軸線31Aと、第2ローラー32の第2軸線32Aとは互いに平行である。第1ローラー31と第2ローラー32とは、鉛直方向に沿う回転軸を備えている。第1ローラー31の第1回転軸31Rは、第1軸線31Aに一致している。第2ローラー32の第2回転軸32Rは、第2軸線32Aに一致している。本実施形態では、第1ローラー31の第1軸線31Aが鉛直方向に沿って延び、これによって、第1回転軸31Rも鉛直方向に沿って延びている。第2ローラー32の第2軸線32Aが鉛方向に沿って延び、これによって、第2回転軸32Rも鉛直方向に沿って延びている。
【0058】
回収部34は、第2ローラー32の下方、および、第1ローラー31と第2ローラー32との間の下方に位置している。本実施形態では、回収部34は、第1ローラー31の下方にも位置している。回収部34は、第1ローラー31から第2ローラー32にわたって延びる皿状を有している。
【0059】
第1ローラー31の第1回転軸31R、および、第2ローラー32の第2回転軸32Rがともに鉛直方向に沿って延びるため、第1ローラー31と第2ローラー32との間を搬送される防着シート13は、鉛直方向と、鉛直方向に交差する方向とによって規定される平面において、鉛直方向と交差する方向に沿って搬送される。本実施形態では、防着シート13は、鉛直方向と水平方向とによって規定される平面において、水平方向に沿って搬送される。そのため、防着シート13に堆積した着膜物DFは、防着シート13が水平方向に沿って搬送されている間に防着シート13から剥がれ落ちる場合がある。
【0060】
この点で、本実施形態によれば、防着シート13が第1ローラー31から第2ローラー32に搬送される間に防着シート13から剥がれ落ちた着膜物DFが回収部34によって回収される。そのため、第1ローラー31と第2ローラー32とが鉛直方向に沿う回転軸31R,32Rを備える場合であっても、防着シート13から剥がれ落ちた着膜物DFに起因したパーティクルの発生を抑えることが可能である。
【0061】
以上説明したように、防着機構の第2実施形態によれば、上述した(1)および(4)の効果に加えて、以下に記載の効果を得ることができる。
(5)第1ローラー31と第2ローラー32とが鉛直方向に沿う回転軸31R,32Rを備える場合であっても、防着シート13から剥がれ落ちた着膜物DFに起因したパーティクルの発生を抑えることが可能である。
【0062】
なお、上述した第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[第1ローラーおよび第2ローラー]
・第1ローラー31の第1回転軸31Rは、第1ローラー31の第1軸線31Aに一致していなくてもよい。また、第2ローラー32の第2回転軸32Rは、第2ローラー32の第2軸線32Aに一致していなくてもよい。これらの場合であっても、各回転軸31R,32Rが鉛直方向に沿って延び、かつ、回収部34が、第2ローラー32の下方、および、第1ローラー31と第2ローラー32との間の下方に位置していれば、上述した(5)に準じた効果を得ることはできる。
【0063】
・第1ローラー31および第2ローラー32は、鉛直方向と、水平方向に交差する方向とに沿って防着シート13を搬送してもよい。この場合であっても、回収部34が、第2ローラー32の下方、および、第1ローラー31と第2ローラー32との間の下方に位置していれば、上述した(5)に準じた効果を得ることはできる。
【0064】
[回収部]
・回収部34は、第2ローラー32の下方、および、第1ローラー31と第2ローラー32との間の下方に位置していれば、第1ローラー31の下方には位置していなくてもよい。この場合であっても、第1ローラー31に巻き付けられた防着シート13には着膜物は堆積しないため、上述した(5)に準じた効果をことはできる。
[張力制御部]
・防着機構30は、第1実施形態の防着機構10が備える張力制御部と同等の張力制御部を備えることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
10,30…防着機構、10C…制御部、11,31…第1ローラー、11A,31A…第1軸線、11AU…第1張力調整部、11R,31R…第1回転軸、11S…張力検出部、12,32…第2ローラー、12A,32A…第2軸線、12AU…第2張力調整部、12R,32R…第2回転軸、13…防着シート、13a…開口、13g…空隙、13R…裏面、13S…被着面、14,34…回収部、15…案内部材、20…成膜装置、DF…着膜物、DP…成膜粒子、DS…成膜源。
図1
図2
図3
図4