(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】真空装置、吸着装置、吸着方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2019120510
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】前平 謙
(72)【発明者】
【氏名】橘高 朋子
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534049(JP,A)
【文献】特開2010-123810(JP,A)
【文献】特開平06-204325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
少なくとも片面が前記真空槽内に位置し、前記片面の側に可撓性を有する処理対象物が配置される吸着装置と、
前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空処理装置と、
前記吸着装置の前記処理対象物が配置される面とは反対側の面の側に配置された熱交換装置と、
が設けられ、
前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空装置であって、
前記吸着装置は、
環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、
前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、
前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数個の主電極部と、
前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、
を有し、
前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に直流の吸着電圧と交流の主信号電圧のいずれか一方又は両方を印加する主電源装置と、
前記主電源装置には、前記主信号電圧が印加された前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に流れる交流電流である主電流を測定する主電流計と、が設けられ、
前記主電流は、前記主電極部毎に測定され
、
測定された前記主電流が小さい順に、各前記主電極部への前記吸着電圧の印加を開始させる真空装置。
【請求項2】
真空槽と、
少なくとも片面が前記真空槽内に位置し、前記片面の側に可撓性を有する処理対象物が配置される吸着装置と、
前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空処理装置と、
前記吸着装置の前記処理対象物が配置される面とは反対側の面の側に配置された熱交換装置と、
が設けられ、
前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空装置であって、
前記吸着装置は、
環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、
前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、
前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数個の主電極部と、
前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、
を有し、
前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に直流の吸着電圧と交流の主信号電圧のいずれか一方又は両方を印加する主電源装置と、
前記主電源装置には、前記主信号電圧が印加された前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に流れる交流電流である主電流を測定する主電流計と、が設けられ、
前記主電流は、前記主電極部毎に測定され、
最小の前記主電流が測定された前記主電極部に前記吸着電圧を印加した後、前記主電流が測定されることが繰り返され
る真空装置。
【請求項3】
前記吸着装置には、前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部が設けられ、
前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に交流の副信号電圧を印加する副電源装置と、
前記副電源装置に設けられ、前記副信号電圧が印加された前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に流れる交流電流である副電流を前記副電極部毎に測定する副電流計と、を有する請求項1
又は請求項2記載の真空装置。
【請求項4】
副電流の基準である副基準値が予め設定されており、
前記副電極部毎に前記副信号電圧が印加されて前記副電流が測定され、
前記副基準値以上の前記副電流が測定されたときには前記吸着電圧の印加を開始させない請求項
3記載の真空装置。
【請求項5】
真空槽と、
少なくとも片面が前記真空槽内に位置し、前記片面の側に可撓性を有する処理対象物が配置される吸着装置と、
前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空処理装置と、
前記吸着装置の前記処理対象物が配置される面とは反対側の面の側に配置された熱交換装置と、
を有し、
前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空装置であって、
前記吸着装置は、
環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、
前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、
前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数個の主電極部と、
前記非接触部に配置され第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部と、
前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、
を有し、
前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に少なくとも直流の吸着電圧を印加する主電源装置と、
前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に交流の副信号電圧を印加する副電源装置と、
前記副電源装置に設けられ前記副信号電圧が印加された前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に流れる交流電流である副電流を測定する副電流計と、
が設けられ、
前記副電極部毎に前記副電流が測定される真空装置。
【請求項6】
副電流の基準である副基準値が予め設定されており、
前記副基準値以上の前記副電流が測定されたときには前記吸着電圧の印加を開始させない請求項
5項記載の真空装置。
【請求項7】
環状形状で表面が
処理対象物と接触する接触部と、
前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、
前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数の主電極部と、
前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部と、
前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、
を有し、
前記吸着正電極と前記吸着負電極との間に直流の吸着電圧が印加されて可撓性を有する処理対象物を吸着する吸着装置であって、
前記第一測定電極と前記第二測定電極との間には交流の副信号電圧が印加されて前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に流れる副電流が測定される吸着装置。
【請求項8】
環状形状で表面が
処理対象物と接触する接触部と、
前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、
前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数の主電極部と、
前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部と、
前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、
を有し、
前記吸着正電極と前記吸着負電極との間に直流の吸着電圧が印加されて可撓性を有する処理対象物を吸着する吸着装置を用いた吸着方法であって、
前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に交流の副信号電圧を印加して、流れる副電流を前記副電極部毎に測定し、
副基準値以上の前記副電流が測定されたときには前記吸着電圧の印加を開始させない吸着方法。
【請求項9】
前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に交流の主信号電圧を印加して流れる交流電流である主電流を前記主電極部毎に測定し、
測定された前記主電流が小さい順に、各前記主電極部への前記吸着電圧の印加を開始させる請求項
8記載の吸着方法。
【請求項10】
前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に交流の主信号電圧を印加して流れる交流電流である主電流を前記主電極部毎に測定し、
最小の前記主電流が測定された前記主電極部に前記吸着電圧を印加した後、少なくとも前記吸着電圧が印加されなかった前記主電極部の前記主電流を測定することを繰り返す請求項
8記載の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処理対象物を吸着する技術にかかり、特に、可撓性を有する処理対象物の周辺部分と接触して吸着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
真空雰囲気中で処理対象物を処理する際には、処理対象物を吸着装置に配置して、吸着装置の内部に設けられた電極に吸着電圧を印加して処理対象物を吸着させる。
【0003】
この状態では処理対象物と吸着装置とは密着しており、吸着装置の温度を制御することで処理対象物の温度を制御することができるようになる。
【0004】
しかし、処理対象物と吸着装置との接触は、処理対象物の接触面へのキズ、ダメージの発生や、特に接触面積が大きい場合にはパーティクルが多量に発生するという問題がある。
【0005】
また、両面処理を必要とする処理対象物のうち、デバイスが形成された面とは反対側の面を真空処理しようとすると、デバイスが形成された面が吸着装置に接触することになり、接触によってデバイスが破壊してしまうという問題がある。
【0006】
そのため、吸着装置の周囲を中央よりも高くして接触部を形成し、処理対象物の縁から5mm程度範囲だけを接触部に接触させて吸着し、処理対象物の中央は吸着装置とは非接触の状態にして真空処理を行うようにされている。
【0007】
しかしながら可撓性を有する処理対象物の場合は、歪みや垂れによって、中央の部分も吸着装置に接触してしまい、不良品が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-219274号公報
【文献】特開2013-4621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、可撓性の処理対象物の周辺部分を確実に吸着する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、少なくとも片面が前記真空槽内に位置し、前記片面の側に可撓性を有する処理対象物が配置される吸着装置と、前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空処理装置と、前記吸着装置の前記処理対象物が配置される面とは反対側の面の側に配置された熱交換装置と、が設けられ、前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空装置であって、前記吸着装置は、環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数個の主電極部と、前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、を有し、前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に直流の吸着電圧と交流の主信号電圧のいずれか一方又は両方を印加する主電源装置と、前記主電源装置には、前記主信号電圧が印加された前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に流れる交流電流である主電流を測定する主電流計と、が設けられ、前記主電流は、前記主電極部毎に測定される真空装置である。
本発明は、測定された前記主電流が小さい順に、各前記主電極部への前記吸着電圧の印加を開始させる真空装置である。
本発明は、最小の前記主電流が測定された前記主電極部に前記吸着電圧を印加した後、前記主電流が測定されることが繰り返される真空装置である。
本発明は、前記吸着装置には、前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部が設けられ、前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に交流の副信号電圧を印加する副電源装置と、前記副電源装置に設けられ、前記副信号電圧が印加された前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に流れる交流電流である副電流を前記副電極部毎に測定する副電流計と、を有する真空装置である。
本発明は、副電流の基準である副基準値が予め設定されており、前記副電極部毎に前記副信号電圧が印加されて前記副電流が測定され、前記副基準値以上の前記副電流が測定されたときには前記吸着電圧の印加を開始させない真空装置である。
本発明は、真空槽と、少なくとも片面が前記真空槽内に位置し、前記片面の側に可撓性を有する処理対象物が配置される吸着装置と、前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空処理装置と、前記吸着装置の前記処理対象物が配置される面とは反対側の面の側に配置された熱交換装置と、を有し、前記吸着装置に配置された前記処理対象物を真空処理する真空装置であって、前記吸着装置は、環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数個の主電極部と、前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部と、前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、を有し、前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に少なくとも直流の吸着電圧を印加する主電源装置と、前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に交流の副信号電圧を印加する副電源装置と、前記副電源装置に設けられ前記副信号電圧が印加された前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に流れる交流電流である副電流を測定する副電流計と、が設けられ、前記副電極部毎に前記副電流が測定される真空装置である。
本発明は、副電流の基準である副基準値が予め設定されており、前記副基準値以上の前記副電流が測定されたときには前記吸着電圧の印加を開始させない真空装置である。
本発明は、環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数の主電極部と、前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部と、前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、を有し、前記吸着正電極と前記吸着負電極との間に直流の吸着電圧が印加されて可撓性を有する処理対象物を吸着する吸着装置であって、前記第一測定電極と前記第二測定電極との間には交流の副信号電圧が印加されて前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に流れる副電流が測定される吸着装置である。
本発明は、環状形状で表面が前記処理対象物と接触する接触部と、前記接触部で囲まれて前記接触部の内側に位置し、表面が前記接触部の表面よりも低い位置に配置された非接触部と、前記接触部に配置された吸着正電極と吸着負電極とから成る複数の主電極部と、前記非接触部に配置された第一測定電極と第二測定電極とから成る一個以上の副電極部と、前記処理対象物と前記非接触部との間に熱媒体ガスを供給する供給口と、を有し、前記吸着正電極と前記吸着負電極との間に直流の吸着電圧が印加されて可撓性を有する処理対象物を吸着する吸着装置を用いた吸着方法であって、前記第一測定電極と前記第二測定電極との間に交流の副信号電圧を印加して、流れる副電流を前記副電極部毎に測定し、副基準値以上の前記副電流が測定されたときには前記吸着電圧の印加を開始させない吸着方法である。
本発明は、前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に交流の主信号電圧を印加して流れる交流電流である主電流を前記主電極部毎に測定し、測定された前記主電流が小さい順に、各前記主電極部への前記吸着電圧の印加を開始させる吸着方法である。
本発明は、前記吸着正電極と前記吸着負電極の間に交流の主信号電圧を印加して流れる交流電流である主電流を前記主電極部毎に測定し、最小の前記主電流が測定された前記主電極部に前記吸着電圧を印加した後、少なくとも前記吸着電圧が印加されなかった前記主電極部の前記主電流を測定することを繰り返す吸着方法である。
【発明の効果】
【0011】
接触部には接触を検出するセンサを設けずに処理対象物と接触部との間の距離を複数箇所で検出することができる。そして、離間している距離が大きい部分から吸着して処理対象物の姿勢を整えることができる。
【0012】
処理対象物が非接触部と接触していた場合は接触を検出でき、吸着電圧を印加しないので、処理対象物の表面が破壊されることは無い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】(a):本発明の一例の吸着装置の平面図 (b):そのI-I線切断断面図
【
図4】(a):副電源装置の一例の回路図 (b):副電源装置の他の例の回路図
【
図5】(a):正常に配置された処理対象物の一例 (b):副電流が異常な処理対象物の一例 (c):副電流が異常な処理対象物の他の例
【
図6】(a):吸着装置に配置された直後の処理対象物の一例 (b):主電流が最小の主電極部に吸着電圧が供給されたときの処理対象物の一例 (c):その後、主電流が最小の主電極部に吸着電圧が供給されたときの処理対象物の一例
【
図7】(a):本発明の第二例の吸着装置の平面図 (b):そのII-II線切断断面図
【
図8】(a):本発明の第三例の吸着装置の平面図 (b):本発明の第四例の吸着装置の平面図
【
図9】(a):本発明の第五例の吸着装置の平面図 (b):そのIII-III線切断断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の一例の真空装置2であり、真空槽11を有している。
【0015】
真空槽11の内部には、熱交換装置24が配置されており、熱交換装置24上には本発明の第一例の吸着装置12が配置されている。真空槽11の内部の吸着装置12と対面する位置には処理装置21が配置されている。
【0016】
ここでは、処理装置21はカソード電極41と、カソード電極41に設けられたスパッタリングターゲット42とを有している。
【0017】
図2(a)は吸着装置12の平面図であり、同図(b)は同図(a)のI-I線截断断面図である。吸着装置12は、吸着装置12の縁30から所定距離Wだけ内側までの部分であり、表面が高くされ、処理対象物が配置される環状の接触部31と、接触部31よりも内側に位置し、処理対象物と接触しないように表面が接触部31の表面よりも低い位置に配置された非接触部32とを有している。非接触部32の表面は接触部31によって取り囲まれている。
【0018】
接触部31と非接触部32とは絶縁性材料が成形されて作成された本体を有しており、接触部31の本体の内部には、複数(ここでは三個)の主電極部51~53が配置されており、非接触部32の本体の内部には一乃至複数個(ここでは四個)の副電極部61、64~66が配置されている。
【0019】
主電極部51~53は、それぞれ吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとを有しており、副電極部61、64~66は、それぞれ第一測定電極61a、64a~66aと第二測定電極61b、64b~66bとを有している。
【0020】
吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとは、それぞれ細長に形成されており、各吸着正電極51a~53aは同一の円に沿ってそれぞれ配置されており、他方、各吸着負電極51b~53bは、吸着正電極51a~53aが配置された円とは異なる大きさの円に沿ってそれぞれ配置されている。
【0021】
ここでは吸着正電極51a~53aが配置された円よりも、吸着負電極51b~53bが配置された円の方が大きな直径にされており、吸着正電極51a~53aの側面と吸着負電極51b~53bの側面とは、一定距離離間して互いに対面するように配置されている。
【0022】
吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとは、接触部31のうち、非接触部32の本体の表面よりも高い部分の内部に配置されており、吸着正電極51a~53aと接触部31の表面との間の本体の絶縁性材料の厚みと、吸着負電極51b~53bと接触部31の本体の表面との間の本体の絶縁性材料の厚みとは薄くなるようにされている。
【0023】
第一測定電極61aと第二測定電極61bとも、非接触部32の本体の内部に配置され、厚みが薄い本体の絶縁性材料で覆われている。
【0024】
各主電極部51~53は、主電源装置55に接続されている。
【0025】
図3は主電源装置55の内部回路を示しており、主電源装置55は、主スイッチ回路57と主電源回路58とを有している。
【0026】
真空装置2は制御装置47を有している。
【0027】
主電源回路58は、正電圧源43Aと負電圧源43Bと主交流電圧源44とを有している。
【0028】
主スイッチ回路57は吸着モードと測定モードとを有しており、吸着モードでは、主スイッチ回路57によって各主電極部51~53のうちの、制御装置47が選択した主電極部51~53の吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとが正電圧源43Aと負電圧源43Bとにそれぞれ接続され、吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に直流の吸着電圧が印加されるようになっている。
【0029】
測定モードでは、主電極部51~53のうち制御装置47によって選択された主電極部51~53の吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとが主交流電圧源44(接地電位を含む)に接続され、吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に交流の主信号電圧が印加される。後述するように、吸着電圧が印加されているときと、印加されていないときとがある。
【0030】
副電極部61、64~66のうち、一個の副電極部61の第一、第二測定電極61a、61bは、第一測定電極61aと第二測定電極61bとの間に非接触部32の中心が位置するように、吸着装置12の中心付近に配置されており、他の副電極部64~66の第一、第二測定電極64a~66a、64b~66bは、間に吸着装置12の中心付近が位置する第一、第二測定電極61a、61bよりも吸着装置12の中心から離間した位置に配置されている。
【0031】
各副電極部61、64~66は、副電源装置75に接続されている。
【0032】
図4(a)は副電源装置75の内部回路を示しており、副電源装置75は、副スイッチ回路76と副電源回路77とを有している。
【0033】
副電源回路77は、副交流電圧源69を有しており、副電極部61、64~66のうち制御装置47が選択した副電極部61、64~66の第一、第二測定電極61a、64a~66a、61b、64b~66bが、副スイッチ回路76によって副交流電圧源69にそれぞれ接続される。
【0034】
副交流電圧源69から交流の副信号電圧が出力されると、副交流電圧源69に接続された第一測定電極61a、64a~66aと第二測定電極61b、64b~66bとの間に副信号電圧が印加される。
【0035】
次に、処理対象物を吸着する手順を説明する。
【0036】
真空槽11には真空排気装置50とガス導入装置49とが接続されており、真空槽11の内部は真空排気装置50によって真空排気され、真空雰囲気が形成されている。
【0037】
処理対象物は真空雰囲気にされた真空槽11の内部に搬入され、吸着装置12に配置される。
【0038】
図5(a)の符号60は、可撓性を有する処理対象物であり、接触部31と接触して吸着装置12に配置されている。
【0039】
処理対象物60は、金属薄膜等の導電層を有しており、処理対象物60の金属薄膜は接触部31の厚みが薄い本体の絶縁性材料を介して吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bと対面しており、吸着正電極51a~53aと処理対象物60との間と、また、吸着負電極51b~53bと処理対象物60との間には、コンデンサが形成されている。
【0040】
従って、処理対象物60が接触部31に接触しているときは、処理対象物60と、吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間のコンデンサの容量は大きくなり、主スイッチ回路57が測定モードになり、吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bの間に主信号電圧が印加されると、大きな交流電流である主電流が流れる。
【0041】
処理対象物60が接触部31と非接触であり、離間しているときはコンデンサの容量は小さくなるから、主電流の値も小さくなる。
【0042】
主交流電圧源44には主電流計46が直列接続されており、主電流の大きさは主電流計46によって測定される。
【0043】
他方、接触部31上の処理対象物60は非接触部32とは非接触であり、処理対象物60の金属薄膜と第一、第二測定電極61a、64a~66a、61b、64b~66bとの間は、接触部31の表面の、非接触部32の表面からの高さと同程度の距離で離間しており、第一測定電極61a、64a~66aと処理対象物60との間と、第二測定電極61b、64b~66bと処理対象物60との間とには、小容量のコンデンサが形成される。
【0044】
第一測定電極61a、64a~66aと第二測定電極61b、64b~66bとの間に副信号電圧が印加されると、小容量のコンデンサを通って小さな交流電流である副電流が流れる。
【0045】
副交流電圧源69には、副電流計68が直列接続されており、副電流の大きさは副電流計68によって測定される。
【0046】
他方、処理対象物60と非接触になるべき非接触部32が処理対象物60と近接し、又は接触している場合にはコンデンサの容量は大きくなり、副電流の値は大きくなる。
【0047】
主電源装置55と副電源装置75とは、制御装置47に接続されており、制御装置47には、主電流の最小限度を示す主基準値と、副電流の最大限度を示す副基準値とが記憶されている。
【0048】
主電流計46によって測定された主電流の値と副電流計68によって測定された副電流の値とは制御装置47に出力され、制御装置47によって主基準値と副基準値とそれぞれ比較される。
【0049】
この処理対象物60は、脱落や湾曲がなく、接触部31と接触され、非接触部32とは非接触にされており、主電流は主基準値よりも大きく、副電流は副基準値よりも小さい正常状態であることが検出される。
【0050】
正常状態では、処理対象物60を処理できるため、制御装置47によって主スイッチ回路57は測定モードから吸着モードに移行され、全主電極部51~53の吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に直流の吸着電圧が印加され、処理対象物60が吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとに吸着される。
【0051】
真空槽11の外部には、熱媒体ガスが配置されたガス源22が配置されている。吸着装置12にはガス源22から熱媒体ガスを導入する供給口56が設けられている。
【0052】
供給口56は、非接触部32と処理対象物60との間の空間に熱媒体ガスを導入する位置に形成されており、処理対象物60が主電極部51~53に吸着され、接触部31と密着しているときには、接触部31で取り囲まれた非接触部32と処理対象物60との間の空間は、処理対象物60によって蓋がされており、その空間に導入された熱媒体ガスは流出しにくくなっている。従って、処理対象物60と非接触部32との間の空間は熱媒体ガスで充満される。
【0053】
熱交換装置24は、吸着装置12を加熱又は冷却する装置であり、熱交換装置24によって吸着装置12が加熱又は冷却されると、充満した熱媒体ガスが加熱又は冷却され、熱媒体ガスによって処理対象物60が加熱又は冷却される。
【0054】
従って、処理対象物60の温度は、熱交換装置24の動作によって制御されており、制御装置47が処理対象物60や吸着装置12の熱を測定しながら熱交換装置24を制御して、処理対象物60の温度が制御される。
【0055】
この処理装置21はスパッタリングを行う装置であり、ガス導入装置49からスパッタリングガスが真空槽11の真空雰囲気中に導入され、真空槽11の外部に配置されたスパッタ電源48によってカソード電極41にスパッタ電圧が印加されると、スパッタリングターゲット42の表面にプラズマが発生し、スパッタリングターゲット42がスパッタリングされる。
【0056】
処理対象物60の温度が制御された状態で、処理対象物60の表面に薄膜が形成される真空処理が行われる。
【0057】
測定モードに於いて、主電流が主基準値以下の場合は処理対象物60が接触部31に正常に接触しておらず、接触部異常状態であることが検出され、また、副電流が副基準値以上の場合には、処理対象物60が非接触部32に接触しており、非接触部異常状態であることが検出されたことになる。
【0058】
図5(b)に示された処理対象物62は、測定モードで測定された主電流は主基準値よりも大きく、接触部31上の状態は正常であるが、副電極部61、64~66のうち、一個の副電極部61の副電流が副基準値以上の値になっており、その副電極部61直上又は近傍で処理対象物62が非接触部32と接触している異常状態が検出され、主スイッチ回路57は吸着モードに移行せず、真空処理は行われずに表示灯などによって異常が表示される。
【0059】
この場合、搬送ロボットや吸着装置12に挿通されたピン等によって処理対象物62を持ち上げ、吸着装置12上に置き直すこともできる。
【0060】
図5(c)に示された処理対象物63は、測定モードで測定された主電流は主基準値以下であり、接触部31と処理対象物63とが離間してる異常が発生していることが検出され、また、一個の副電極部61の副電流が副基準値以上の値になっており、その副電極部61の直上又は近傍で処理対象物63が非接触部32と接触していることが検出される。
【0061】
この場合も主スイッチ回路57は吸着モードに移行せず、処理対象物63には吸着電圧は印加されず真空処理は行われずに表示灯などによって異常が報告される。
【0062】
図5(b)、(c)では、中央の副電極部61の直上又は近傍で処理対象物62、63が非接触部32と接触していたが、処理対象物62、63と非接触部32とは、中央の副電極部61では非接触であっても他の副電極部64~66で接触する場合も異常状態として検出される。
【0063】
次に、
図6(a)に示された処理対象物69では、各副電極部61、64~66で測定した副電流は、それぞれ全部が副基準値よりも小さく、処理対象物69と非接触部32とが離間した正常な状態であるが、複数の主電極部51~53の中で、一又は複数個で主電流が主基準値以下であり、処理対象物69と接触部31とが離間した異常な状態になっていることが検出される。
【0064】
非接触部32上では正常な状態が検出されているのに対し、接触部31上では二箇所の主電極部51、53で異常な状態が検出されており、その場合は、先ず、測定モードから吸着モードに移行し、制御装置47は、測定した主電流の値が最小の主電極部51から最大の主電極部53まで、各主電極部51~53の吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に順番に吸着電圧を印加させる。
【0065】
先ず、最小の主電流が測定された主電極部51に吸着電圧が供給されたときには、処理対象物69のうち、その主電極部51上の部分が、
図6(b)のように、変形して接触部31と密着する。
【0066】
次に、主電流が二番目に小さい主電極部53に吸着電圧が供給され、処理対象物69のうち、その主電極部53上の部分が、
図6(c)のように、変形して接触部31に密着される。そして、最後の主電極部52に吸着電圧が供給され、主電極部51~53の吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に吸着電圧が印加されると、処理対象物69が接触部31に接触して吸着される。
【0067】
次いで、吸着電圧の供給が停止され各主電極部51~53毎に主信号電圧が供給されて主電圧がそれぞれ測定され、正常状態が確認されると、吸着電圧が供給される。
【0068】
このように、先ず、測定された副電流が副基準値よりも小さい場合に、主電流の測定値が小さい順に吸着電圧の印加が開始される。このとき、吸着電圧が維持されながら次に主電流が小さい主電極部51~53に吸着電圧が印加されて処理対象物69の姿勢が整えられるようにしてもよく、吸着電圧は、一個の主電極部51~53に印加されるようにして処理対象物69の姿勢が整えられるようにしてもよい。
【0069】
また、主スイッチ回路57の内部接続状態を変えることで、吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に吸着電圧を印加しながら、主信号電圧を重畳して印加させ、主電流を測定することができる。
【0070】
従って、全部の主電極部51~53に吸着電圧が供給された後、吸着電圧が供給された状態で各主電極部51~53毎に、吸着正電極51a~53aと吸着負電極51b~53bとの間に主信号電圧を重畳して印加し、主電流がそれぞれ測定されるようにしてもよい。
【0071】
また、各主電極部51~52に吸着電圧を供給した後、次の主電極部52~53に吸着電圧を供給する前に、吸着電圧が供給された主電極部51~52に主信号電圧を印加して主電流を測定してもよい。
【0072】
また、真空処理中に各副電極部61、64~66に副信号電圧を印加して副電流を測定し、処理対象物69と非接触部32との間の接触状態を検出してもよく、処理対象物69の熱伸び等によって接触が検出された場合には真空処理を中断させる。
【0073】
以上説明した吸着装置12では、副電極部61、64~66では、中心の副電極部61の周囲に他の副電極部64~66が配置されていたが、
図7(a)の第二例の吸着装置13のように、中心点を第一測定電極61aと第二測定電極61bとで挟み込んだ副電極部61だけを設ける場合も本発明に含まれる。この場合、副電極部61は、
図4(b)の副電源装置78の副電源回路77に接続されており、第一、第二測定電極61a、61bは、副電源回路77に設けられた副交流電圧源69と副電流計68の直列接続回路に直結されており、副電流の大きさは副電流計68によって測定される。
図7(b)は、
図7(a)の吸着装置13のII-II線截断断面図である。
【0074】
次に、
図8(a)は、四個の主電極部51~54を有し、中心とその周囲の合計5個の副電極部61、64~67を有する第三例の吸着装置14であり、
図8(b)は、更に副電極部81~88が、接触部31と5個の副電極部61、64~67の間に配置された第四例の吸着装置15である。
【0075】
いずれの吸着装置14、15も、第一例の吸着装置12と同じ様に、制御装置47によって制御されている。
【0076】
図9(a)は、多角形形状にされた第五例の吸着装置16であり、縁30から所定距離Wだけ内側までの部分が接触部31にされており、この吸着装置16は、形状を除き、
図7(a)と同じ構造になっている。
図9(b)は、同図(a)のIII-III線截断断面図である。
【符号の説明】
【0077】
2……真空装置
11……真空槽
12~16……吸着装置
24……熱交換装置
31……接触部
32……非接触部
46……主電流計
51~54……主電極部
51a~54a……吸着正電極
51b~54b……吸着負電極
55……主電源装置
56……供給口
60、62、63、69……処理対象物
61、64~67、81~88……副電極部
61a、64a~67a、81a~88a……第一測定電極
61b、64b~67b、81b~88b……第二測定電極
68……副電流計
75……副電源装置