(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3842 20190101AFI20230704BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20230704BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230704BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230704BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20230704BHJP
【FI】
G01R31/3842
G01R31/52
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
G01R31/367
(21)【出願番号】P 2019170944
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】岩根 典靖
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522554(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138286(WO,A1)
【文献】特開2019-146302(JP,A)
【文献】特開2011-112453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 31/50
G01R 31/00
H02J 7/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出装置において、
電圧検出部から出力される信号に基づいて前記充電可能電池の電圧を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された電圧値に基づいて、前記充電可能電池の内部の状態を示す所定の数式モデルの係数を調整することで最適化する最適化手段と、
前記最適化手段によって前記係数が調整された前記数式モデルによって算出される値または前記係数の値に基づいて前記充電可能電池の電解液内に存在する極板の極板異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を出力する出力手段と、
を有
し、
前記数式モデルは、前記充電可能電池の時間経過に伴う電圧変化を示す項を含むとともに、前記充電可能電池に対する充放電が停止された後の電圧変化を示すことを特徴とする充電可能電池状態検出装置。
【請求項2】
前記極板異常は、前記充電可能電池の電気的特性が不連続に変化する異常であることを特徴とする請求項1に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項3】
前記極板異常は、前記極板の一部の領域における短絡であることを特徴とする請求項2に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項4】
前記数式モデルは、前記充電可能電池の電流の変化に伴う電圧変化を示す項を含むことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項5】
前記充電可能電池に対する充放電が停止された後の電圧変化を示す前記数式モデルは、
前記充電可能電池の電圧値を算出する、1または複数の項を有する指数減衰関数または反比例関数であることを特徴とする請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項6】
前記判定手段は、異なる2以上の時間において、前記数式モデルによって算出される値と、前記充電可能電池の電圧の実測値とに基づいて前記極板異常の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項7】
前記判定手段は、異なる2以上の時間において、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値のそれぞれが所定の閾値以上となるか、または、前記差分値の和、もしくは、前記差分値の平方和が所定の閾値以上となる場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする請求項
6に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値が所定の範囲外となる度数または度数率が所定の閾値以上となる場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする請求項
6に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値の標準偏差が所定の閾値以上となる場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする請求項
6に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値の分布のピークが複数存在する場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする請求項
6に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項11】
前記判定手段は、前記最適化手段によって最適化された前記数式モデルの少なくとも1つの係数に基づいて前記極板異常と判定することを特徴とする請求項1に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項12】
前記判定手段は、前記最適化手段によって最適化された前記数式モデルの少なくとも1つの係数と、過去において最適化された際における係数と、が所定の閾値以上異なっている場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする請求項
11に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項13】
前記充電可能電池は、車両に搭載され、
前記出力手段は、前記判定手段による判定結果を車両に搭載される上位の制御装置に通知し、
通知を受けた前記制御装置は、判定結果に基づきユーザに対して警告を発し、および/または、アイドリング時にエンジンを停止するアイドリングストップの実行を保留することを特徴とする請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項14】
充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出方法において、
電圧検出部から出力される信号に基づいて前記充電可能電池の電圧を検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出された電圧値に基づいて、前記充電可能電池の内部の状態を示す所定の数式モデルの係数を調整することで最適化する最適化ステップと、
前記最適化ステップにおいて前記係数が調整された前記数式モデルによって算出される値または前記係数の値に基づいて前記充電可能電池の電解液内に存在する極板の極板異常の有無を判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定結果を出力する出力ステップと、
を有
し、
前記数式モデルは、前記充電可能電池の時間経過に伴う電圧変化を示す項を含むとともに、前記充電可能電池に対する充放電が停止された後の電圧変化を示すことを特徴とする充電可能電池状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、充電可能電池の極板に生じた異常を検出する技術としては、特許文献1および特許文献2に開示された技術がある。
【0003】
特許文献1に開示された技術では、あらかじめ設定した電圧や電流、または、異常が生じていない状態での充電挙動を学習して定めた電圧や電流と比較して上昇/低下の繰り返しによる乱れが大きい場合には、極板異常が生じていると判定する。
【0004】
また、特許文献2に開示された技術では、充電終了後の充電可能電池の開放電圧を所定のサンプリング周期で所定期間取得し、取得した開放電圧を累乗近似式で近似し、収束電圧の減少割合が予め決められた基準レベルを超えている場合に、極板に異常(セルショート)が発生していると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-165016号公報
【文献】特開2005-043339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された技術では、電流を制限した充電において検出するため、例えば、車両に搭載されている充電可能電池では、電流を制限した充電を担保することは困難であるため、極板の異常を検出することが困難という問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術では、電流の変動によって充電可能電池の電圧が変化する場合があり、そのような場合には、極板の異常と誤判定をするという問題点がある。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、使用環境によらず、車両に搭載された充電可能電池の電極に生じた異常を正確に検出することが可能な充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出装置において、電圧検出部から出力される信号に基づいて前記充電可能電池の電圧を検出する検出手段と、前記検出手段によって検出された電圧値に基づいて、前記充電可能電池の内部の状態を示す所定の数式モデルの係数を調整することで最適化する最適化手段と、前記最適化手段によって前記係数が調整された前記数式モデルによって算出される値または前記係数の値に基づいて前記充電可能電池の電解液内に存在する極板の極板異常の有無を判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果を出力する出力手段と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、使用環境によらず、車両に搭載された充電可能電池の電極に生じた異常を正確に検出することができる。
【0010】
また、本発明は、前記極板異常は、前記充電可能電池の電気的特性が不連続に変化する異常であることを特徴とする。
このような構成によれば、充電可能電池の極板異常を電気的特性に基づいて検出することができる。
【0011】
また、本発明は、前記極板異常は、前記極板の一部の領域における短絡であることを特徴とする。
このような構成によれば、電圧降下を生じる極板異常を正確に検出することが可能になる。
【0012】
また、本発明は、前記数式モデルは、前記充電可能電池の時間経過に伴う電圧変化を示す項を含むことを特徴とする。
このような構成によれば、時間経過に伴う電圧変化に基づいて極板異常の有無を判定することができる。
【0013】
また、本発明は、前記数式モデルは、前記充電可能電池の電流の変化に伴う電圧変化を示す項を含むことを特徴とする。
このような構成によれば、電流の変化がある場合でも、極板異常の有無を判定することができる。
【0014】
また、本発明は、前記数式モデルは、前記充電可能電池に対する充放電が停止された後の電圧変化を示すことを特徴とする。
このような構成によれば、充放電停止後の電圧が安定するときを利用することで、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0015】
また、本発明は、前記充電可能電池に対する充放電が停止された後の電圧変化を示す前記数式モデルは、前記充電可能電池の電圧値を算出する、1または複数の項を有する指数減衰関数または反比例関数であることを特徴とする。
このような構成によれば、電圧変化を正確に検出することができる。
【0016】
また、本発明は、前記数式モデルは、前記充電可能電池が充放電中の電圧変化を示すことを特徴とする。
このような構成によれば、充放電中であっても、極板異常の有無を判定することが可能になる。
【0017】
また、本発明は、前記充電可能電池が充放電中の電圧変化を示す前記数式モデルは、前記充電可能電池の等価回路モデルであることを特徴とする。
このような構成によれば、等価回路モデルに基づいて、充放電中であっても、極板異常の有無を判定することが可能になる。
【0018】
また、本発明は、前記最適化手段は、前記充電可能電池が充放電を停止した後の電圧変化を示す第1数式モデルと、前記充電可能電池が充放電中の電圧変化を示す第2数式モデルと、を前記充電可能電池の充電状態に応じて選択して前記係数を選択し、前記検出手段は、前記最適化手段によって選択された前記第1数式モデルまたは前記第2数式モデルに基づいて前記極板異常を検出する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、充放電の状態に拘わらず、極板異常の有無を判定することが可能になる。
【0019】
また、本発明は、前記判定手段は、異なる2以上の時間において、前記数式モデルによって算出される値と、前記充電可能電池の電圧の実測値とに基づいて前記極板異常の有無を判定することを特徴とする。
このような構成によれば、異なる時間において算出される値と、実測値とに基づいて極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0020】
また、本発明は、前記判定手段は、異なる2以上の時間において、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値のそれぞれが所定の閾値以上となるか、または、前記差分値の和、もしくは、前記差分値の平方和が所定の閾値以上となる場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、簡易な方法によって、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0021】
また、本発明は、前記判定手段は、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値が所定の範囲外となる度数または度数率が所定の閾値以上となる場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、度数または度数率に基づいて、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0022】
また、本発明は、前記判定手段は、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値の標準偏差が所定の閾値以上となる場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、標準偏差に基づいて、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0023】
また、本発明は、前記判定手段は、前記数式モデルによって算出される値と前記充電可能電池の電圧の実測値との差分値の分布のピークが複数存在する場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、分布のピークに基づいて、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0024】
また、本発明は、前記判定手段は、前記最適化手段によって最適化された前記数式モデルの少なくとも1つの係数に基づいて前記極板異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、係数に基づいて、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0025】
また、本発明は、前記判定手段は、前記最適化手段によって最適化された前記数式モデルの少なくとも1つの係数と、過去において最適化された際における係数と、が所定の閾値以上異なっている場合には、前記極板異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、過去における係数との比較により、極板異常の有無を正確に判定することができる。
【0026】
また、本発明は、前記充電可能電池は、車両に搭載され、前記出力手段は、前記判定手段による判定結果を車両に搭載される上位の制御装置に通知し、通知を受けた前記制御装置は、判定結果に基づきユーザに対して警告を発し、および/または、アイドリング時にエンジンを停止するアイドリングストップの実行を保留することを特徴とする。
このような構成によれば、極板異常の発生をユーザに通知するとともに、エンジンが再始動できなくなることを防止できる。
【0027】
また、本発明は、充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出方法において、電圧検出部から出力される信号に基づいて前記充電可能電池の電圧を検出する検出ステップと、前記検出ステップにおいて検出された電圧値に基づいて、前記充電可能電池の内部の状態を示す所定の数式モデルの係数を調整することで最適化する最適化ステップと、前記最適化ステップにおいて前記係数が調整された前記数式モデルによって算出される値または前記係数の値に基づいて前記充電可能電池の電解液内に存在する極板の極板異常の有無を判定する判定ステップと、前記判定ステップにおける判定結果を出力する出力ステップと、を有することを特徴とする。
このような方法によれば、使用環境によらず、車両に搭載された充電可能電池の電極に生じた異常を正確に検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、使用環境によらず、車両に搭載された充電可能電池の電極に生じた異常を正確に検出することが可能な充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る充電可能電池状態検出装置を有する車両の電源系統の構成例を示す図である。
【
図2】
図1の制御部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【
図3】充電可能電池が正常な場合において、充放電停止後における充電可能電池の電圧および電流の変化を示す図である。
【
図4】充電可能電池に極板異常が生じた場合において、充放電停止後における充電可能電池の電圧および電流の変化を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】数式モデルの係数を最適化する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】極板異常の有無を判定するための処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】電圧測定タイミングと指数減衰関数の項数との関係を示す図である。
【
図9】充電可能電池に電流が流れた場合の誤差と電流の関係を示す図である。
【
図10】極板異常がある場合とない場合における差分値の分布を示す図である。
【
図11】極板異常の有無を判定するための処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】健常な充電可能電池の係数の最適化の過程を示す図である。
【
図13】極板異常が生じた充電可能電池の係数の最適化の過程を示す図である。
【
図14】
図12または
図13において最適化された係数A1~A6のそれぞれの値を示す図である。
【
図15】極板異常の有無を判定するための処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0031】
(A)本発明の実施形態の構成の説明
図1は、本発明の実施形態に係る充電可能電池状態検出装置を有する車両の電源系統を示す図である。この図において、充電可能電池状態検出装置1は、制御部10を主要な構成要素とし、電圧検出部11、電流検出部12、温度検出部13、および、放電回路15が外部に接続され、充電可能電池14の状態を検出する。なお、制御部10、電圧検出部11、電流検出部12、温度検出部13、および、放電回路15を別々の構成とするのではなく、これらの一部または全てをまとめた構成としてもよい。
【0032】
ここで、制御部10は、電圧検出部11、電流検出部12、および、温度検出部13からの出力を参照し、充電可能電池14の状態を検出して検出結果の情報を外部に出力するとともに、オルタネータ16の発電電圧を制御することで充電可能電池14の充電状態を制御する。なお、制御部10がオルタネータ16の発電電圧を制御することで充電可能電池14の充電状態を制御するのではなく、例えば、図示しないECU(Electric Control Unit)(外部の制御部)が制御部10からの情報に基づいて充電状態を制御するようにしてもよい。
【0033】
電圧検出部11は、充電可能電池14の端子電圧を検出し、制御部10に電圧信号として供給する。電流検出部12は、充電可能電池14に流れる電流を検出し、制御部10に電流信号として供給する。温度検出部13は、充電可能電池14の環境温度または内部温度を検出し、制御部10に温度信号として供給する。
【0034】
放電回路15は、例えば、直列接続された半導体スイッチおよび抵抗素子等によって構成され、制御部10の制御に応じて半導体スイッチをオン/オフすることで、充電可能電池14を所望の波形にて放電させることができる。なお、放電回路15については、構成から除外することも可能である。
【0035】
オルタネータ16は、エンジン17によって駆動され、交流電力を発生して整流回路によって直流電力に変換し、充電可能電池14を充電する。オルタネータ16は、制御部10によって制御され、発電電圧を調整することが可能とされている。
【0036】
エンジン17は、例えば、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン等のレシプロエンジンまたはロータリーエンジン等によって構成され、スタータモータ18によって始動され、トランスミッションを介して駆動輪を駆動し、車両に推進力を与えるとともに、オルタネータ16を駆動して電力を発生させる。スタータモータ18は、例えば、直流電動機によって構成され、充電可能電池14から供給される電力によって回転力を発生し、エンジン17を始動する。なお、エンジン17の代わりに、電気モータを使用するようにしてもよい。
【0037】
負荷19は、例えば、電動ステアリングモータ、デフォッガ、シートヒータ、イグニッションコイル、カーオーディオ、および、カーナビゲーション等によって構成され、充電可能電池14から供給される電力によって動作する。なお、
図1の例では、エンジン17のみが駆動力を出力する構成としたが、例えば、エンジン17をアシストする電動モータを具備したハイブリッド車であってもよい。ハイブリッド車の場合、充電可能電池14は、リチウム電池等によって構成される高圧システム(電動モータを駆動するシステム)を起動し、高圧システムがエンジン17を始動する。
【0038】
図2は、
図1に示す制御部10の詳細な構成例を示す図である。この図に示すように、制御部10は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)10a、ROM(Read Only Memory)10b、RAM(Random Access Memory)10c、通信部10d、I/F(Interface)10e、および、バス10fを有している。ここで、CPU10aは、ROM10bに格納されているプログラム10baに基づいて各部を制御する。ROM10bは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10ba等を格納している。RAM10cは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10baを実行する際に生成されるデータや、テーブル等のデータ10caを格納する。通信部10dは、上位の装置であるECU等との間で通信を行い、検出した情報または制御情報を上位装置に通知する。I/F10eは、電圧検出部11、電流検出部12、および、温度検出部13から供給される電圧信号、および、電流信号をデジタル信号に変換して取り込むとともに、放電回路15、オルタネータ16、および、スタータモータ18等に駆動電流を供給してこれらを制御する。バス10fは、CPU10a、ROM10b、RAM10c、通信部10d、および、I/F10eを相互に接続し、これらの間で情報の授受を可能とするための信号線群である。なお、オルタネータ16、および、スタータモータ18等の制御は、ECUが実行するようにしてもよい。
図1の構成には限定されない。
【0039】
なお、
図2の例では、CPU10aを1つ有するようにしているが、複数のCPUによって分散処理を実行するようにしてもよい。また、CPU10aの代わりに、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、または、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって構成するようにしてもよい。あるいは、ソフトウエアプログラムを読み込むことで機能を実行する汎用プロセッサまたはクラウドコンピューティングによりサーバー上のコンピュータで処理が行われるようにしてもよい。また、
図2では、ROM10bおよびRAM10cを有するようにしているが、例えば、これら以外の記憶装置(例えば、磁気記憶装置であるHDD(Hard Disk Drive))を用いるようにしてもよい。
【0040】
(B)本発明の実施形態の動作の説明
つぎに、本発明の実施形態の動作について説明する。なお、以下では、本発明の実施形態の動作について説明した後、このような動作を実現するためのフローチャートの処理について説明する。
【0041】
まず、本発明の実施形態の動作の概略について説明する。充電可能電池14は、例えば、鉛蓄電池の場合には、陽極が二酸化鉛、陰極が鉛を極板としている。このような極板には、電気的特性(例えば、端子電圧または内部インピーダンス等)の不連続な変化を伴う異常(以下、単に「極板異常」と称する)が生じる場合がある。例えば、放電によって生じる硫酸鉛が陽極と陰極の間に架橋している状態で充電がされると、硫酸鉛が還元されて鉛に変化することで極板の一部の領域で短絡が生じる場合がある。また、車両の振動等によって、極板が剥離し、剥離した極板によって陽極と陰極が導通されることで極板の一部の領域で短絡が生じる場合がある。なお、極板の一部の領域で生じる短絡を以下では「部分短絡」と称する。
【0042】
本発明の実施形態では、充電可能電池14の電圧を後述する数式モデルによって表し、数式モデルによって算出される値と、電圧の実測値とが一致するように数式モデルの係数を最適化する。そして、このようにして得られた数式モデルによって算出される電圧値と、実測した電圧値とが乖離する場合には、電気的特性の不連続な変化を伴う極板異常が発生したと判定して、判定結果を上位の制御装置であるECUに通知する。通知されたECUや制御装置は、判定結果に基づきユーザに対して警告を発するようにしてもよい。また、極板異常が生じた場合には、例えば、アイドリングストップの実行を保留することで、エンジン17が再始動できなくなることを防止するようにしてもよい。
【0043】
つぎに、本発明の動作について詳細に説明する。本実施形態では、車両のエンジン17が停止され、充電可能電池14が安定な状態になった場合に、CPU10aは、以下の式(1)に示す2次の指数減衰関数をROM10bから取得する。
【0044】
【0045】
ここで、VFn(n,In)は、2次の指数減衰関数であり、nはサンプリングされたデータの番号を示し、Inはn番目の電流のサンプリング値であり、Δtはデータのサンプリング周期であり、expは指数関数を示す。また、「A1・exp(A3・Δt・n)+A2・exp(A4・Δt・n)+A5」は、時間経過による電圧の変化を示す項であり、「A6・In」は暗電流の影響による電圧変化を示す項である。
【0046】
CPU10aは、ROM10bから取得した式(1)の係数の初期設定をする。より詳細には、CPU10aは、Δtの値(例えば、10秒)を設定する。
【0047】
つぎに、CPU10aは、電圧検出部11および電流検出部12から電圧値および電流値を取得し、それぞれ、Vn,Inとする。
【0048】
つぎに、CPU10aは、式(1)の係数A1~A6の初期値をROM10bから取得し、式(1)に設定する。なお、これらの係数A1~A6は、最小二乗法によって最適解を導出するために用いられ、後述するように計算の過程で値が順次更新されていく。なお、各係数A1~A6の初期値としては、実験によって予め得た所定値を用いればよい。
【0049】
つぎに、CPU10aは、式(1)に対して、nおよび電流の測定値Inを代入し、VFn(n,In)を計算する。これにより、数式モデルによる計算結果であるVFn(n,In)の値を得る。
【0050】
つぎに、CPU10aは、式(1)で求めたVFn(n,In)と、電圧検出部11から取得した測定値としての電圧値Vnを以下の式(2)に適用して、Rnの値を得る。
【0051】
【0052】
つぎに、CPU10aは、最小二乗法を適用するために、各係数A1~A6に対応する偏微分項を以下の式(3)に基づいて計算する。
【0053】
【0054】
つぎに、CPU10aは、式(3)によって得られた各偏微分項を用いて最小二乗法の連立方程式に適用する行列Bを以下の式(4)に基づいて計算する。
【0055】
【0056】
なお、(4)式の行列Bは、6×6の正方行列であり、また、B(x,y)=B(y,x)となる対称行列である。
【0057】
つぎに、CPU10aは、式(2)によって求めたRnと、式(4)によって求めた偏微分項とを用いて、以下の式(5)で表されるdRを計算する。
【0058】
【0059】
つぎに、CPU10aは、式(4)で求めた行列Bと、式(5)で求めたdRとを用いて、以下の式(6)で示す差分ddを算出する。
【0060】
【0061】
以上のようにして、係数A1~A6のそれぞれに対応する6個の差分dd1~dd6を得ることができるので、CPU10aは、これら6個の差分dd1~dd6について、以下の式(7)を満たすか否かを判定する。
【0062】
【0063】
なお、式(7)の右辺のThは、例えば、10-12とすることができる。なお、10-12は一例であって、ゼロに近い値として判断し得る他の値を用いるようにしてもよい。この結果、式(7)を満たさないと判定した場合には、以下の式(8)に基づいて、係数A1~A6を更新し、前述の場合と同様の処理を繰り返す。
【0064】
【0065】
一方、式(7)を満たすと判定した場合には、差分dd1~dd6が十分にゼロに近いので、その時点で最小二乗法の最適解が得られたと判定する。
【0066】
以上の処理により、最適化された係数A1~A6を有する数式モデルを得ることができる。
【0067】
以上のようにして得た数式モデルは、極板が正常な状態では実測した電圧と、数式モデルによって推定した電圧が良く一致する。
図3は、エンジン17を停止した後の充電可能電池14の実測した電圧の変化(丸で示す)と、数式モデルで計算した電圧の変化(菱形で示す)と、電流の変化(三角で示す)との関係を示している。
図3に示すように、充電可能電池14の電極が正常な状態では、実測した電圧を示す丸と、数式モデルによって計算した電圧を示す菱形とはよく一致している。
【0068】
一方、充電可能電池14に極板異常が生じると、極板の異常に起因する電圧変動が発生し、数式モデルによって計算した電圧と、実測した電圧との間に乖離が発生する。
図4は、1000秒付近で電極の異常であるセルショート(部分短絡)が生じた場合の充電可能電池14の実測した電圧の変化(丸で示す)と、数式モデルで計算した電圧の変化(菱形で示す)と、電流の変化(三角で示す)との関係を示している。この
図4では、セルショートが生じた1000秒以降に充電可能電池14の実測電圧と、数式モデルの計算電圧との乖離が生じている。このような乖離を検出することで、充電可能電池14の極板異常を検出することができる。
【0069】
より詳細には、CPU10aは、以上の処理によって係数A1~A6の最適解を求めた式(1)に対して、電流Inの測定値を代入して、モデル電圧VFn(n,In)を求める。つぎに、CPU10aは、VFn(n,In)と、電圧の測定値Vnの差分値の絶対値を求め、差分値の絶対値が所定の閾値Thよりも大きい場合には、極板異常が生じていると判定し、それ以外の場合には極板異常が生じていないと判定する。なお、1回の判定だけでは、誤判定が生じる可能性があるので、複数回の判定で異常と判定された場合に、極板異常が発生したと判定するようにしてもよい。
【0070】
つぎに、
図5~
図7を参照して、本発明の実施形態において実行される処理の詳細について説明する。
【0071】
図5は、本実施形態において実行されるメインの処理を説明するための図である。
図5に示す処理は、所定の時間窓(例えば、1時間の窓)を繰り返し周期として実行され、時間窓内において式(1)に示す数式モデルが最適化される。
図5に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0072】
ステップS1では、CPU10aは、式(1)に示す数式モデルの係数A1~A6を最適化する処理を実行する。なお、ステップS1の処理の詳細は、
図6を参照して後述する。
【0073】
ステップS2では、CPU10aは、ステップS1で係数A1~A6が最適化された式(1)に示す数式モデルを用いて、VFn(n,In)(n=1,2,・・・,Ns)を計算する処理を実行する。この結果、Ns個(例えば、60個)のデータを得ることができる。
【0074】
ステップS3では、CPU10aは、ステップS2で計算した数式モデルを参照して、極板異常が発生したか否かを判定する極板異常判定処理を実行する。なお、ステップS3の処理の詳細は、
図7を参照して後述する。
【0075】
ステップS4では、CPU10aは、ステップS3に示す極板異常判定処理において極板異常が発生していると判定された場合(ステップS4:Y)にはステップS5に進み、それ以外の場合(ステップS4:N)にはステップS7に進む。例えば、極板異常が発生しているとステップS4で判定された場合には、Yと判定してステップS5に進む。
【0076】
ステップS5では、CPU10aは、CPU10aは、極板異常が生じたと判定し、例えば、図示しないECUに対して、極板異常の発生を通知する。
【0077】
ステップS6では、ECUは、極板異常発生時処理を実行する。より詳細には、ECUは、燃料消費を抑えるためにアイドリング時にエンジン17を一時的に停止させるいわゆるアイドリングストップの実行を保留することができる。これにより、アイドリングストップからの復旧時にエンジン17が再始動できなくことを防止することができる。また、ECUは、極板異常が生じたことから、充電可能電池14を速やかに交換するように促すメッセージを図示しない表示部に表示して、ユーザに通知することができる。もちろん、これら以外の処理を実行するようにしてもよい。
【0078】
ステップS7では、CPU10aは、処理を繰り返すか否かを判定し、処理を繰り返すと判定した場合(ステップS7:Y)にはステップS1に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返し、それ以外の場合(ステップS7:N)には処理を終了する。なお、ステップS7における繰り返しは、前述した時間窓に応じて実行される。
【0079】
図6は、
図5のステップS1の処理の詳細を説明するためのフローチャートである。より詳細には、
図6は、式(1)に示す数式モデルの係数A1~A6を最適化するために実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。なお、
図6に示す処理は、エンジン17が停止され、充電可能電池14の電圧が安定した場合(例えば、エンジン17が停止されてから所定の時間(例えば、数時間))が経過した場合に実行される。
図6に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0080】
ステップS10では、CPU10aは、式(1)の係数を初期設定する処理を実行する。より詳細には、CPU10aは、Δtの値(例えば、10秒)を設定する。なお、初期設定する値としては、前述した以外にも、例えば、サンプル取得数Ns、および、充電可能電池14の電圧が安定するまでに要する安定時間Txがある。例えば、ΔTs=10(秒)、Ns=60(個)、Tx=100000(秒)などの初期設定値を用いればよい。この場合、充電可能電池14の特性に応じた適切な固定的な初期設定値を予め定めることも可能であるが、動作状況等に応じて初期設定地を適宜に変更できるようにしてもよい。
【0081】
ステップS11では、CPU10aは、充電可能電池14の電圧Vnおよび電流Inを測定する処理を実行する。より詳細には、CPU10aは、電圧検出部11および電流検出部12の出力信号を順次読み取って、時間軸上で充電可能電池14の複数の電圧値および電流値を取得する。この結果、サンプリング周期ΔTsで測定されるNs個の電圧および電流値が順次取得されることになる。CPU10aは、取得した電圧値および電流値をRAM10cにデータ10caとして順次格納し、必要に応じて読み出す。以下では、ステップS11で取得したn番目(n=1,2,3・・・Ns)の電圧値をV(n)とし、電流値をI(n)と表すものとする。
【0082】
ステップS12では、CPU10aは、式(1)の係数A1~A6を初期化する処理を実行する。より詳細には、CPU10aは、実験によって予め取得してROM10bに格納されている初期値を読み出し、式(1)の係数A1~A6に設定する。
【0083】
ステップS13では、CPU10aは、式(1)に対して、nおよびInを代入することで、VFn(n,In)を算出する。この結果、数式モデルによる計算結果であるVFn(n,In)の値を得る。
【0084】
ステップS14では、CPU10aは、ステップS13において式(1)で求めたVFn(n,In)と、ステップS11において電圧検出部11から取得した電圧値Vnを前述した式(2)に適用して、Rnの値を得る。
【0085】
ステップS15では、CPU10aは、各係数A1~A6に対応する偏微分項を前述した式(3)に基づいて計算する。
【0086】
ステップS16では、CPU10aは、前述した式(4)に基づいて、行列Bを計算する。
【0087】
ステップS17では、CPU10aは、ステップS15において式(2)によって求めたRnと、ステップS16において式(3)によって求めた偏微分項とを用いて、式(5)で表されるdRを計算する。
【0088】
ステップS18では、CPU10aは、ステップS16において式(4)によって求めた行列Bと、ステップS17において式(5)によって求めたdRを、式(6)に適用して差分ddを算出する。
【0089】
ステップS19では、CPU10aは、ステップS18で求めた、係数A1~A6のそれぞれに対応する6個の差分dd1~dd6について、式(7)を満たすか否かを判定し、式(7)を満たすと判定した場合(ステップS19:Y)には最適解が得られたとして
図5の処理に復帰(リターン)し、それ以外の場合(ステップS19:N)にはステップS20に進む。なお、式(7)の右辺のThは、例えば、10
-12とすることができる。もちろん、これ以外の値を用いてもよい。
【0090】
ステップS20では、CPU10aは、前述した式(8)に基づいて、係数A1~A6を更新し、ステップS13に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返す。
【0091】
以上の処理により、式(1)の係数A1~A6を最適化することができる。
【0092】
つぎに、
図7を参照して、
図5のステップS3に示す極板異常判定処理の詳細について説明する。
図7に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0093】
ステップS30では、CPU10aは、以下の式(9)に基づいて、式(1)に示す数式モデルの値VFn(n,In)と、電圧の測定値Vnとの差分の絶対値ΔVnを計算する。この結果、例えば、Ns個(例えば、60個)の差分の絶対値ΔVnを得ることができる。
【0094】
【0095】
ステップS31では、CPU10aは、ステップS30で求めたΔVnのうち、1番目に大きいΔVnをΔVn1とする。
【0096】
ステップS32では、CPU10aは、ステップS30で求めたΔVnのうち、2番目に大きいΔVnをΔVn2とする。
【0097】
ステップS33では、CPU10aは、ΔVn1が所定の閾値Th2よりも大きいか否かを判定し、ΔVn1>閾値Th2を満たす場合にはステップS34に進み、それ以外の場合には元の処理に復帰(リターン)する。なお、閾値Th2は、充電可能電池14が正常である場合には取り得ない値であって、極板異常を生じている場合に取り得る値を、例えば、実測等によって求めることができる。
【0098】
ステップS34では、CPU10aは、ΔVn2が所定の閾値Th2よりも大きいか否かを判定し、ΔVn2>閾値Th2を満たす場合にはステップS35に進み、それ以外の場合には
図5の処理に復帰(リターン)する。なお、ステップS34で使用する閾値は、ステップS33で使用する閾値よりも小さい値の閾値としてもよい。
【0099】
ステップS35では、CPU10aは、極板異常が発生したと判定した後、
図5の処理に復帰(リターン)する。
【0100】
以上の処理によれば、
図6の処理によって係数A1~A6が最適化された数式モデルを使用して、充電可能電池14の極板異常の発生を検出することができる。
【0101】
なお、
図7の処理では、2つの値ΔVn1,ΔVn2に基づいて判定するようにしたが、3つ以上の値に基づいて判定するようにしてもよい。そのような方法によれば、誤判定の発生を低減することができる。
【0102】
(C)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、指数減衰関数として2次の関数を用いるようにしたが、1次以下または3次以上の指数減衰関数を用いるようにしてもよい。例えば、4次の指数減衰関数としては、以下の式(10)を用いることができる。
【0103】
【0104】
また、測定を開始するタイミングに応じて、指数減衰関数の次数を変更するようにしてもよい。具体的には、
図8に示すように、測定開始のタイミングが0~10秒の場合には、第1~4項の全てを含む形の指数減衰関数を適用する。このような初期段階では、指数減衰関数の各項の影響は比較的大きいため、演算精度を十分に確保するには、4項全てを用いて本来の4次の指数減衰関数を適用して演算を行う必要があるためである。
【0105】
これに対し、演算処理の開始時点から10秒経過したタイミングでは、指数減衰関数の第1項が無視できる程度に減衰するので、第1項を除き第2~4項を含む形の指数減衰関数を適用する。また、演算処理の開始時点から60秒経過したタイミングでは、指数減衰関数の第1項に加えて第2項も無視できる程度に減衰するので、第1、2項を除き第3、4項を含む形の指数減衰関数を適用する。さらに、演算処理の開始時点から600秒経過したタイミングでは、指数減衰関数の第1、2項に加えて第3項も無視できる程度に減衰するので、第1~3項を除き第4項のみを含む形の指数減衰関数を適用する。
【0106】
また、以上の実施形態では、指数減衰関数を用いるようにしたが、これ以外にも、例えば、反比例曲線等を用いるようにしてもよい。
【0107】
また、
図7に示すフローチャートでは、1番目に大きいΔVn1と2番目に大きいΔVn2とが所定の閾値Th2をともに上回る場合には、極板異常と判定するようにした。しかしながら、1番目に大きいΔVn1の絶対値と2番目に大きいΔVn2の絶対値を計算し、得られた値を加算し、加算によって得られた値と閾値とを比較するようにしてもよい。また、絶対値ではなく、二乗和として加算してもよい。また、VFn(n,In)とVnの差分値の符号が同じ値を選択して加算し、得られた値と閾値とを比較するようにしたり、重みを付けて加算し、得られた値と閾値とを比較したりするようにしてもよい。要は、数式モデルによって得られる計算値が、正常時と比較して、不連続に変化する場合を検出することで、極板異常を検出することができる。
【0108】
また、
図7に示すフローチャートでは、極板異常による電圧の乱れが電流の影響と明確に区別できるまで時間が経過しなければ極板異常を検出できないが、この場合、異常の検出が十分早い段階で出来なかったり、検出漏れが発生したりするおそれがある。そこで、そのような事態を回避するために、例えば、乖離または誤差に対して第1閾値を設け、この第1閾値を超えるポイントの度数、あるいは、度数率を用いて判定するようにしてもよい。
【0109】
これは、電流の影響による誤差は、
図9に示すように、電流が急変する瞬間に短期的に発生する傾向が強い。
図9の例では、横軸は時間であり、縦軸はVFn(n,In)とVnの差分値としての誤差を示しており、破線で囲んだ500秒および1000秒付近で、電流が急激に変化し、それに応じて誤差も大きくなっている。一方、極板異常による場合は、数式モデルと乖離する状態が一定期間にわたって継続する傾向があるので、電流変化の影響による乖離が極板異常による乖離と同程度であっても、一定以上の閾値を超えるものの度数は多くなる。
【0110】
図10は、所定の期間にわたってVFn(n,In)とVnの差分値をデータとして測定し、測定したデータを電圧に応じて層別して示した図である。なお、
図10において、ハッチングを施した矩形は極板異常有りの場合を示し、ハッチングを施していない矩形は極板異常無しの場合を示している。
図10に示すように、極板異常無しの場合には殆どのデータが第1閾値である-2Vおよび+2Vの範囲内に収まるとともにピークが1つであるが、極板異常有りの場合には大半のデータが第1閾値の範囲内には収まらないとともに、ピークを複数有している。
【0111】
このため、第1閾値の範囲内に収まるデータの度数が所定の閾値以上である場合には、極板異常無しと判定し、それ以外の場合には極板異常有りと判定するようにしてもよい。あるいは、データのピークの数が1つである場合には極板異常無しと判定し、データのピークの数が複数である場合には極板異常有りと判定するようにしてもよい。また、データの個数を示す度数ではなく、全てのデータのうちで、所定の範囲(-2~+2の範囲)外に存在するデータの割合を示す度数率を用いて判定するようにしてもよい。
【0112】
図11は、全てのデータのうちで、所定の範囲(-Th3~+Th3の範囲)内に存在するデータの割合を示す度数率fを用いて異常判定する処理の一例を示すフローチャートである。
図11に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0113】
ステップS50では、CPU10aは、VFn(n,In)とVnの差分値であるΔVn=VFn(n,In)-Vnを計算する。
【0114】
ステップS51では、CPU10aは、ステップS50で計算したΔVnを値毎に層別する。この結果、例えば、
図10に示すように、ΔVnの値毎に層別されたデータを得る。
【0115】
ステップS52では、CPU10aは、ステップS51で層別したΔVnが所定の範囲内、すなわち、-Th3<ΔVn<+Th3の範囲内となる度数fを計算する。例えば、
図10に示すように、-2<ΔVn<+2の範囲内となるΔVnの度数fを計算する。
【0116】
ステップS53では、CPU10aは、ステップS52で計算した度数fが所定の閾値Th4未満か否かを判定し、f<Th4を満たす場合(ステップS53:Y)にはステップS54に進み、それ以外の場合(ステップS53:N)には
図5の処理に復帰(リターン)する。なお、-Th3<ΔVn<+Th3の範囲「内」となる度数f1と、-Th3<ΔVn<+Th3の範囲「外」となる度数f2との比であるf1/f2に基づいて判定するようにしてもよい。
【0117】
ステップS54では、CPU10aは、極板異常が発生したと判定した後、
図5の処理に復帰(リターン)する。例えば、極板異常が発生している場合、
図10に示すように、所定の範囲(
図10では-2~+2の範囲)内に収まるデータ数としての度数fが所定の閾値Th4未満となるので、その場合には極板異常が発生したと判定して、
図5の処理に復帰する。
【0118】
また、検出の遅れや検出漏れを改善する他の実施形態としては、VFn(n,In)とVnの差分値の標準偏差が所定の閾値以上となったか否かによって極板異常を検出する方法がある。より詳細には、VFn(n,In)とVnの差分値をxiとし、xiの平均値をxavとするとき、標準偏差sは以下の式(11)で求めることができる。
【0119】
【0120】
このようにして求めた標準偏差sが所定の閾値以上の場合には極板異常が生じていると判定するようにしてもよい。
【0121】
また、検出の遅れや検出漏れを改善する他の実施形態としては、最適化された数式モデルの係数が健常な充電可能電池14が取り得る値の範囲を超えるか否かによって極板異常を検出する方法がある。例えば、式(1)の数式モデルを例に挙げると、係数A1~A5が時間の経過に応じて変化する電圧を表現する数式モデルの係数であり、A6が電流の影響を表現する数式モデルの係数である。さらに詳細には、A1,A2は時間経過による電圧の変化量に対応し、A3,A4は変化速度に対応し、A5はベースとなる絶対電圧に対応する。また、A6の電流の影響に関する係数は充電可能電池14の内部抵抗に対応する。
【0122】
これらは当然ながら健常な状態(極板異常が生じていない状態)を想定した数式モデルであり、正常な電圧、および、電流の観測値に対して係数の最適化を行った場合、充電可能電池14の状態を反映した正常な範囲内の値となる。それに対して、極板異常を生じたり、極板異常に起因する電圧変動が生じたりしている場合、電圧および電流の観測値に対して係数の最適化を行うと、極板異常に起因する電圧変動の影響を受け、正常な範囲から外れた係数となる。これを利用することにより、充電可能電池14の極板異常の発生を検出することができる。
【0123】
図12は健常な充電可能電池14の係数A1~A6の最適化の過程を示し、また、
図14(A)は最適化された係数A1~A6のそれぞれの値を示している。なお、
図12において丸は充電可能電池14の実測した電圧を示し、菱形は数式モデルの計算値を示す。
【0124】
また、
図13は極板異常が生じた充電可能電池14の係数A1~A6の最適化の過程を示し、また、
図14(B)は最適化された係数A1~A6のそれぞれの値を示している。
図13において丸は充電可能電池14の実測した電圧を示し、菱形は数式モデルの計算値を示す。
図14(A)および
図14(B)の比較から、
図14(B)のハッチングが施されている係数(A1~A3,A5)が大きく異なっている。このため、
図6の最適化処理によって係数A1~A6を最適化した後、正常時において最適化された係数A1~A6の少なくとも1つと比較して、所定の閾値以上係数の値が異なる場合には、極板異常が発生したと判定するようにしてもよい。
【0125】
図15は、係数A1~A6に基づく異常判定処理の一例を示すフローチャートである。
図15に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0126】
ステップS70は、CPU10aは、前回の最適化処理(正常時における最適化処理)によって得られた係数A1~A6を取得する処理を実行する。より詳細には、CPU10aは、前回の最適化処理によって得られ、RAM10cに格納されている係数A1~A6を取得する。
【0127】
ステップS71は、CPU10aは、今回の最適化処理によって得られた係数A1~A6を取得する処理を実行する。より詳細には、CPU10aは、今回の最適化処理によって得られ、RAM10cに格納されている係数A1~A6を取得する。
【0128】
ステップS72では、CPU10aは、前回の最適化処理によって得られた係数A1~A6のそれぞれと、今回の最適化処理によって得られた係数A1~A6のそれぞれとを比較する。
【0129】
ステップS73では、CPU10aは、ステップS72における比較結果により、所定値以上異なる係数が、例えば、複数存在するか否かを判定し、複数存在すると判定した場合(ステップS73:Y)にはステップS74に進み、それ以外の場合(ステップS73:N)には
図5の処理に復帰(リターン)する。なお、複数ではなく、1つ存在する場合であって、所定の閾値以上解離している場合にYと判定するようにしてもよい。
【0130】
ステップS74では、CPU10aは、極板異常が発生したと判定した後、
図5の処理に復帰(リターン)する。例えば、極板異常が発生している場合、
図14に示すように、複数の係数が所定の値以上異なる場合には、極板異常が発生したと判定して、
図5の処理に復帰する。
【0131】
なお、
図15の処理では、正常時の係数A1~A6の実測値と、今回の係数A1~A6の実測値との比較によって異常の有無を判定するようにしたが、正常時の係数A1~A6の実測値ではなく、予め測定してROM10bに格納している典型的な係数A1~A6の値を用いるようにしてもよい。また、係数A1~A6のそれぞれの差分値に対して、所定の重み付けをして加算して得た値が所定の閾値以上になった場合に、極板異常と判定するようにしてもよい。
【0132】
また、以上の実施形態では、
図16(A)に示すように、極板異常の判定は、所定の時間窓(例えば、1時間の窓)を区切りとして実行するようにした。しかしながら、例えば、
図16(B)に示すように、時間窓同士の一部が相互に重畳するように設定し、それぞれの時間窓において極板異常を判定するようにしてもよい。なお、
図16では、視認性を高めるために、隣接する時間窓を実線と破線で示している。また、
図16(C)に示すように、相互に重畳しない時間窓を設定し、例えば、複数(例えば、隣接する2つ)の時間窓において最適化処理によって得られた結果に基づいて、極板異常を判定するようにしてもよい。より詳細には、複数の時間窓のそれぞれにおいて最適化された係数A1~A6を比較することで極板異常を判定するようにしたり、VFn(n,In)とVnの差分値の時間的な変化に基づいて極板異常を判定するようにしたりしてもよい。さらに、
図16(A)に示す例では、複数の時間窓を設けるようにしたが、1つの時間窓を設けるようにしてもよい。
【0133】
以上は、エンジン17の停止後に、充電可能電池14に電流が略流れていない状態を想定した数式モデルを用いる実施形態であるが、電流が流れている状態を表現する数式モデルを用いるようにしてもよい。例えば、特許第4532416号で開示されている数式モデルを用いることができる。この数式モデルは、
図17(A)に示すように、抵抗を表す9種類の素子定数RΩ,Ra1,Ra2,Ra3,Ra4,Ra5,Rb1,Rb2,Rb3と、コンデンサを表す8種類の素子定数Ca1,Ca2,Ca3,Ca4,Ca5,Cb1,Cb2,Cb3を有する、充電可能電池14の等価回路モデルである。このような等価回路モデルを最適化する方法として、
図1に示す放電回路15によって、充電可能電池14を、例えば、パルス放電させ、放電中の電圧および電流に基づいて、例えば、最小二乗法、拡張カルマンフィルタ、または、ニューラルネットワーク等を用いることで、素子定数を最適化する。そして、健常な状態における充電可能電池14の素子定数と比較することで、極板異常を検出することができる。なお、比較方法としては、前述した場合と同様に、放電回路15による放電の際の電圧または電流の値と、等価回路モデルによって得られる電圧または電流の値を比較したり、健常な場合の素子定数と比較したりすることで、極板異常の発生を検出することができる。また、放電回路15によってパルス放電させるのではなく、負荷19またはスタータモータ18等に電流が流れている場合に、電圧と電流を測定し、
図17(A)等に示す等価回路を構成する素子を最適化するようにしてもよい。
【0134】
図17(A)に示す等価回路は一例であって、これ以外の等価回路を用いるようにしてもよい。例えば、
図17(B)に示すように、RΩ,Ra1,Ca1からなる等価回路を用いるようにしてもよい。あるいは、
図17(C)に示すように、RΩ,Ra1だけからなる等価回路を用いるようにしてもよい。あるいは、
図17(A)~
図17(C)に示す等価回路の少なくとも1の素子を用いるようにしてもよい。さらに、等価回路に応じて、数式モデルを変更することが望ましい。
【0135】
また、エンジン17が停止中と動作中のそれぞれで異なる数式モデルを使用し、それぞれの数式モデルに基づいて極板異常を判定するようにしてもよい。例えば、エンジン17が停止中(充電可能電池14が充電されていない場合)は前述した式(1)に基づいて判定し、エンジン17が動作中(充電可能電池14が充電されている場合)は前述した特許第4532416号の数式モデルに基づいて極板異常を判定するようにしてもよい。
【0136】
なお、
図1の例では、制御部10が充放電の制御を行うようにしたが、図示しないECUが制御部10からSOCまたはOCV等のデータを受信し、これらの値に基づいてECUが制御するようにしてもよい。
【0137】
また、以上の実施形態では、温度による影響については説明していないが、温度検出部13によって検出される温度も考慮して、電圧を測定するようにしてもよい。例えば、測定された電圧を標準温度における電圧に補正し、補正の結果得られた電圧に基づいて、電圧を計算するようにしてもよい。
【0138】
また、以上の実施形態では、充電可能電池状態検出装置1が放電回路15および温度検出部13を有する形態を示したが、放電回路15および温度検出部13を備えない構成としてもよい。
【0139】
また、
図5、
図6、
図7、
図11、
図15に示すフローチャートは一例であって、本発明がこれらのフローチャートの処理のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0140】
1 充電可能電池状態検出装置
10 制御部
10a CPU
10b ROM
10c RAM
10d 通信部
10e I/F
11 電圧検出部
12 電流検出部
13 温度検出部
14 充電可能電池
15 放電回路
16 オルタネータ
17 エンジン
18 スタータモータ
19 負荷