(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】COシフトもしくは逆シフト触媒構造体及びその製造方法、COシフトまたは逆シフト反応装置、二酸化炭素と水素の製造方法、並びに一酸化炭素と水の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/035 20060101AFI20230704BHJP
C01B 3/16 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
B01J29/035 M
C01B3/16
(21)【出願番号】P 2019521326
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021086
(87)【国際公開番号】W WO2018221698
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017108630
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中坂 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尋子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】関根 可織
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534902(JP,A)
【文献】国際公開第2010/097108(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0045400(US,A1)
【文献】SASAKI, M. et al.,Templating fabrication of platinum nanoparticles and nanowires using the confined mesoporous channel,Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,1999年05月06日,Vol.141, No.1/3,p.223-240,ISSN 1381-1169, 特に"Abstract"欄, "2.4. Catalytic reactions and CO/H2 chemisorption"欄, Scheme 1参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質と、
を備え、
前記COシフトまたは逆シフト触媒物質は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)
及び銅(Cu
)からなる群から選択される少なくとも1種の金属
、または
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)及び銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物で構成される金属微粒子であり、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、 前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し
、
前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出され、
前記金属微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、
前記COシフトまたは逆シフト触媒物質が、少なくとも前記拡径部に包接されていることを特徴とするCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項2】
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項1に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項3】
前記金属微粒子は、コバルト、ニッケル、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項4】
前記金属微粒子は、コバルト、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であることを特徴とする、請求項3に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項5】
前記金属微粒子の平均粒径が
、前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項6】
前記金属微粒子の金属元素(M)が、前記COシフトまたは逆シフト触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項7】
前記金属微粒子の平均粒径が、0.08nm~30nmであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項8】
前記金属微粒子の平均粒径が、0.4nm~11.0nmであることを特徴とする、請求項7に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項9】
前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、0.05~300であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項10】
前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、0.1~30であることを特徴とする、請求項9に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項11】
前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.4~3.6であることを特徴とする、請求項10に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項12】
前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであり、
前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項13】
前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質を更に備えることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項14】
前記担体に内在する前記少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項13に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項15】
前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体を有する、COシフトまたは逆シフト反応装置。
【請求項17】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)
と構造規定剤とを混合して水熱処理する水熱処理工程と、
前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程と、
を有し、
前記金属含有溶液の金属が
、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)
、鉄(Fe)
及び銅(Cu
)からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
【請求項18】
前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、請求項17に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
【請求項19】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項17または18に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
【請求項20】
前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、請求項17~19のいずれか1項に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
【請求項21】
前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項17に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
【請求項22】
触媒を用いて、一酸化炭素と水から二酸化炭素と水素を生成する二酸化炭素と水素の製造方法であって、前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの金属微粒子と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し
、
前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出され、
前記金属微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、
前記金属微粒子が、少なくとも前記拡径部に包接されているCOシフト触媒構造体を含んでおり、
前記金属微粒子が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)
、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)
、鉄(Fe)
及び銅(Cu
)からなる群から選択される少なくとも1種の金属
、または
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)及び銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物で構成されていることを特徴とする、二酸化炭素と水素の製造方法。
【請求項23】
請求項1~15のいずれか1項に記載のCOシフト触媒構造体を用いて、一酸化炭素と水から二酸化炭素と水素を生成することを特徴とする、二酸化炭素と水素の製造方法。
【請求項24】
一酸化炭素と水を、請求項16に記載のCOシフト反応装置を用いて二酸化炭素と水素に変換することを特徴とする、二酸化炭素と水素の製造方法。
【請求項25】
触媒を用いて、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水を生成する一酸化炭素と水の製造方法であって、前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの金属微粒子と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し
、
前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出され、
前記金属微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、
前記金属微粒子が、少なくとも前記拡径部に包接されている逆シフト触媒構造体を含んでおり、
前記金属微粒子が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)
、鉄(Fe)
及び銅(Cu
)からなる群から選択される少なくとも1種の金属
、または
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)及び銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物で構成されていることを特徴とする、一酸化炭素と水の製造方法。
【請求項26】
請求項1~15のいずれか1項に記載の逆シフト触媒構造体を用いて、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水を生成することを特徴とする、一酸化炭素と水の製造方法。
【請求項27】
二酸化炭素と水素を、請求項16に記載の逆シフト反応装置を用いて一酸化炭素と水に変換することを特徴とする、一酸化炭素と水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質構造の担体とCOシフトもしくは逆シフト触媒とを備えるCOシフトまたは逆シフト触媒構造体及びその製造方法、COシフトまたは逆シフト反応装置、二酸化炭素と水素の製造方法、並びに一酸化炭素と水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を抑制するために、火力発電プラント等において、さらなるCO2排出量の削減が要求されており、例えば、効率的な発電を行うことでCO2排出量をより低減できる石炭ガス化複合発電が行われている。石炭ガス化複合発電とは、石炭を高温高圧のガス化炉で可燃性ガスに変換し、変換された生成ガスを発電用の燃料として使用し、さらに、可燃性ガスへの変換時に放出される廃熱を用いて蒸気タービンにて発電する。
【0003】
また、生成ガス中に存在する化合物は、多くが一酸化炭素(CO)であり、二酸化炭素(CO2)、炭化水素(CnHm)は数パーセントである。従って、生成ガスからCO2を回収するためには、生成ガス中に存在するCOをCO2に変換する必要がある。CO2への変換には、生成ガスに水蒸気(H2O)を添加し、COシフト触媒を用いて、下記の式(1)で示されるCOシフト反応によってCO2に変換し、変換されたCO2をCO2回収設備にて回収する。
CO + H2O → CO2 + H2 ・・・(1)
【0004】
COシフト触媒としては、300℃以下の低温領域でCOシフト反応の活性を有するCu-Zn系触媒や300℃以上の高温領域でCOシフト反応の活性を有するFe-Cr系触媒がある。さらに、高温領域で活性を有するCOシフト触媒では、炭素の析出が懸念されることから、COに対して水蒸気を過剰に添加する必要がある。一方で、水蒸気を過剰に添加することは発電効率の低下につながることから、水蒸気の添加量を、COに対して過剰でありつつも低減することが要求されている。
【0005】
そこで、モリブデン(Mo)又は鉄(Fe)のいずれか一種を主成分とすると共に、ニッケル(Ni)又はルテニウム(Ru)のいずれか一種を副成分とする活性成分と、この活性成分を担持するチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、シリカ(Si)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)のいずれか二種以上からなる複合酸化物を担体とし、550℃以上で高温焼成することで、触媒の平均細孔径を大きくして、炭素の析出が発生する場合においても、耐久性に優れ、長期間安定してCOシフト反応を維持することができるCOシフト触媒が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、生成ガスには、H2Sが含まれる場合があり、触媒種によっては、硫黄分により被毒されるので、前段階で脱硫操作が必要となる。そこで、H2Sの存在下でもCOシフト反応の活性を有する触媒として、少なくともMo及びNiを含み、これらの活性成分を担持する酸化物として、TiO2を担体とする触媒が提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかし、生成ガス中の多くがCOであり、またCOシフト反応は発熱反応であるため、COシフト反応により、COシフト触媒の温度が上昇する。このため、COシフト触媒粒子が長時間高温に曝されると、COシフト触媒粒子や担体成分の凝集(シンタリング)が発生し易い。触媒粒子同士の凝集が生じると、触媒としての有効表面積が減少することで触媒活性が低下し、触媒の寿命が通常よりも短くなる。よって、触媒自体を短期間で交換・再生しなければならず、交換作業が煩雑であると共に、省資源化を図ることができないという問題がある。
【0008】
また、近年、二酸化炭素は地球温暖化の主要原因物質であることから、排出量の削減・有効利用が緊急の課題とされている。さらに、石油精製や石油化学などの技術分野からは炭化水素系ガスが発生するが、より有効な物質に効率的に変換する方法が求められている。
【0009】
このような状況の下で、水素と二酸化炭素を用いて逆シフト反応を行わせ、生成した一酸化炭素と未反応の水素からなる合成ガスを製造する方法が提案されている。また、シフト反応を促進させる触媒のうちの多くのものは、下記の式(2)で示される逆シフト反応用の触媒としての活性も有していると考えられる。
CO2 + H2 → CO + H2O ・・・(2)
【0010】
ところで、この逆シフト反応は、反応により生成する合成ガスの組成(平衡組成)を考えると、600℃以上の高温で反応を行わせることが望ましい。しかしながら、600℃以上という温度は、通常、シフト反応を行わせる温度よりはるかに高温であるため、通常のシフト反応用の触媒を使用することは触媒金属の耐シンタリング性の観点から困難であるのが実情である(特許文献3)。
【0011】
また、近年は、逆シフト反応用触媒としてNi/Al2O3、NiO/ZnOなどのNi系触媒の使用が報告されている(非特許文献1)。しかし、Ni系の触媒はメタネーションが起こり、メタンが生成して一酸化炭素濃度が低下するという問題点がある。そのため、メタンの生成をできる限り抑制可能な逆シフト反応用触媒の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2014/132367号
【文献】特開2014-104428号公報
【文献】国際公開第2011/065194号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Industrial Catalyst News No.107 Aug 1, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、触媒機能の低下を抑制して長寿命化を実現することができるCOシフトもしくは逆シフト触媒構造体及びその製造方法、COシフトまたは逆シフト反応装置、二酸化炭素と水素の製造方法、並びに一酸化炭素と水の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記COシフトまたは逆シフト触媒物質が、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることによって、COシフトまたは逆シフト触媒物質の触媒活性低下を抑制し、長寿命化を実現できるCOシフトまたは逆シフト触媒構造体が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質と、
を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記COシフトまたは逆シフト触媒物質が、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることを特徴とするCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[2]前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、かつ
前記COシフトまたは逆シフト触媒物質が、少なくとも前記拡径部に存在していることを特徴とする、[1]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[3]前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、[2]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[4]前記COシフトまたは逆シフト触媒物質は、金属微粒子であることを特徴とする、[2]または[3]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[5]前記金属微粒子は、コバルト、ニッケル、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であることを特徴とする、[4]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[6]前記金属微粒子は、コバルト、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であることを特徴とする、[5]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[7]前記金属微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、且つ前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、[4]~[6]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[8]前記金属微粒子の金属元素(M)が、前記COシフトまたは逆シフト触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、[4]~[7]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[9]前記金属微粒子の平均粒径が、0.08nm~30nmであることを特徴とする、[4]~[8]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[10]前記金属微粒子の平均粒径が、0.4nm~11.0nmであることを特徴とする、[9]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[11]前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、0.05~300であることを特徴とする、[4]~[10]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[12]前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、0.1~30であることを特徴とする、[11]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[13]前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.4~3.6であることを特徴とする、[12]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[14]前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであり、
前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、[2]~[13]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[15]前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質を更に備えることを特徴とする、[1]~[14]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[16]前記担体に内在する前記少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、[15]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[17]前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、[1]~[16]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体。
[18][1]~[17]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体を有する、COシフトまたは逆シフト反応装置。
[19]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程と、
を有することを特徴とするCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
[20]前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、[19]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
[21]前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、[19]または[20]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
[22]前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、[19]~[21]のいずれかに記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
[23]前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、[19]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
[24]前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、[19]に記載のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法。
[25]触媒を用いて、一酸化炭素と水から二酸化炭素と水素を生成する二酸化炭素と水素の製造方法であって、前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの金属微粒子と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記金属微粒子が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に存在しているCOシフト触媒構造体を含んでいることを特徴とする、二酸化炭素と水素の製造方法。
[26][1]~[17]のいずれかに記載のCOシフト触媒構造体を用いて、一酸化炭素と水から二酸化炭素と水素を生成することを特徴とする、二酸化炭素と水素の製造方法。
[27]一酸化炭素と水を、[18]に記載のCOシフト反応装置を用いて二酸化炭素と水素に変換することを特徴とする、二酸化炭素と水素の製造方法。
[28]触媒を用いて、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水を生成する一酸化炭素と水の製造方法であって、前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの金属微粒子と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記金属微粒子が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に存在している逆シフト触媒構造体を含んでいることを特徴とする、一酸化炭素と水の製造方法。
[29][1]~[17]のいずれかに記載の逆シフト触媒構造体を用いて、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水を生成することを特徴とする、一酸化炭素と水の製造方法。
[30]二酸化炭素と水素を、[18]に記載の逆シフト反応装置を用いて一酸化炭素と水に変換することを特徴とする、一酸化炭素と水の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、触媒機能の低下を抑制して長寿命化を実現することができるCOシフトまたは逆シフト触媒構造体及びその製造方法、COシフトまたは逆シフト反応装置、二酸化炭素と水素の製造方法、並びに一酸化炭素と水の製造方法を提供することができる。また、このようなCOシフト触媒構造体、逆シフト触媒構造体は、高い触媒活性を示し、かつ良好な耐熱性を示すため、特に、逆シフト触媒構造体は逆シフト反応への使用に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図1(b)は部分拡大断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の機能の一例を説明するための部分拡大断面図であり、
図2(a)は篩機能、
図2(b)は触媒能を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[COシフトまたは逆シフト触媒構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係るCOシフトまたは逆シフト触媒構造体の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1におけるCOシフトまたは逆シフト触媒構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0021】
図1(a)に示されるように、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、該担体10に内在する、少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質20とを備える。
【0022】
COシフトまたは逆シフト触媒構造体1において、複数のCOシフトまたは逆シフト触媒物質20、20、・・・は、担体10の多孔質構造の内部に包接されている。COシフトまたは逆シフト触媒物質20は、COシフト触媒能(COシフトまたは逆シフト触媒活性)を有する物質であればよく、好ましくは金属微粒子である。金属微粒子については、詳しくは後述する。
【0023】
担体10は、多孔質構造であり、
図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここでCOシフトまたは逆シフト触媒物質20は、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。
【0024】
このような構成により、担体10内でのCOシフトまたは逆シフト触媒物質20の移動が規制され、COシフトまたは逆シフト触媒物質20、20同士の凝集が有効に防止されている。その結果、COシフトまたは逆シフト触媒物質20としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、COシフトまたは逆シフト触媒物質20のCOシフトまたは逆シフト触媒活性は長期にわたって持続する。すなわち、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1によれば、COシフトまたは逆シフト触媒物質20の凝集によるCOシフトまたは逆シフト触媒活性の低下を抑制でき、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。また、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1の長寿命化により、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1の交換頻度を低減でき、使用済みのCOシフトまたは逆シフト触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0025】
通常、COシフトまたは逆シフト触媒構造体を、例えば、石炭を可燃性ガスに変換したCO含有ガスである流体の中で用いる場合、流体から外力を受ける可能性がある。この場合、COシフトまたは逆シフト触媒物質20が、担体10の外表面に付着状態で保持されているだけであると、流体からの外力の影響で担体10の外表面から離脱しやすいという問題がある。これに対し、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1では、COシフトまたは逆シフト触媒物質20は担体10の少なくとも通路11に存在しているため、流体による外力の影響を受けたとしても、担体10からCOシフトまたは逆シフト触媒物質20が離脱しにくい。すなわち、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1が流体内にある場合、流体は担体10の孔11aから、通路11内に流入するため、通路11内を流れる流体の速さは、流路抵抗(摩擦力)により、担体10の外表面を流れる流体の速さに比べて、遅くなると考えられる。このような流路抵抗の影響により、通路11内に存在するCOシフトまたは逆シフト触媒物質20が流体から受ける圧力は、担体10の外部においてCOシフトまたは逆シフト触媒物質20が流体から受ける圧力に比べて低くなる。そのため、担体10に内在するCOシフトまたは逆シフト触媒物質20が離脱することを効果的に抑制でき、COシフトまたは逆シフト触媒物質20の触媒活性を長期的に安定して維持することが可能となる。なお、上記のような流路抵抗は、担体10の通路11が、曲がりや分岐を複数有し、担体10の内部がより複雑で三次元的な立体構造となっているほど、大きくなると考えられる。
【0026】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有していることが好ましく、このとき、COシフトまたは逆シフト触媒物質20は、少なくとも拡径部12に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部12に包接されていることがより好ましい。また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、担体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、COシフトまたは逆シフト触媒物質20の機能をより発揮させることができる。尚、ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。これにより、COシフトまたは逆シフト触媒物質20の担体10内での移動がさらに規制され、COシフトまたは逆シフト触媒物質20の離脱、COシフトまたは逆シフト触媒物質20、20同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、COシフトまたは逆シフト触媒物質20が担体10に内包されている状態を指す。このときCOシフトまたは逆シフト触媒物質20と担体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、COシフトまたは逆シフト触媒物質20と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、COシフトまたは逆シフト触媒物質20が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0027】
図1(b)ではCOシフトまたは逆シフト触媒物質20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、COシフトまたは逆シフト触媒物質20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に保持されていてもよい。また、COシフトまたは逆シフト触媒物質20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、または固着等によって保持されていてもよい。
【0028】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部または合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部または合流部に設けられるのが好ましい。
【0029】
担体10に形成された通路11の平均内径DFは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、例えば0.1~1.5nmであり、好ましくは0.5~0.8nmである。また、拡径部12の内径DEは、例えば0.5~50nmであり、好ましくは1.1~40nm、より好ましくは1.1~3.3nmである。拡径部12の内径DEは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径、及び包接されるCOシフトまたは逆シフト触媒物質20の平均粒径DCに依存する。拡径部12の内径DEは、COシフトまたは逆シフト触媒物質20を包接し得る大きさである。
【0030】
担体10は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0031】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型またはX型)、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM-22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などの中から選択され、好ましくはMFI型であり、より好ましくはZSM-5である。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0032】
以下、COシフトまたは逆シフト触媒物質20が金属微粒子である場合について詳しく説明する。
【0033】
金属微粒子20は一次粒子である場合と、一次粒子が凝集して形成した二次粒子である場合とがあるが、金属微粒子20の平均粒径DCは、好ましくは通路11の平均内径DFよりも大きく、且つ拡径部12の内径DE以下である(DF<DC≦DE)。このような金属微粒子20は、通路11内では、好適には拡径部12に存在しており、担体10内での金属微粒子20の移動が規制される。よって、例えば、金属微粒子20が流体であるCOと水蒸気(H2O)を含むCO含有混合ガスから外力を受けた場合であっても、担体10内での金属微粒子20の移動が抑制され、担体10の通路11に分散配置された拡径部12、12、・・のそれぞれに存在する金属微粒子20、20、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0034】
また、金属微粒子20の平均粒径DCは、一次粒子および二次粒子のいずれの場合も、好ましくは0.08以上30nm以下であり、より好ましくは0.08nm以上25nm未満であり、さらに好ましくは0.4nm~11.0nmであり、特に好ましくは0.8以上2.7nm以下である。また、通路11の平均内径DFに対する金属微粒子20の平均粒径DCの割合(DC/DF)は、好ましくは0.05~300であり、より好ましくは0.1~30であり、更に好ましくは1.1~30であり、特に好ましくは1.4~3.6である。また、金属微粒子20の金属元素(M)は、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1に対して0.5~2.5質量%で含有されていることが好ましく、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1に対して0.5~1.5質量%で含有されていることがより好ましい。例えば、金属元素(M)がCoである場合、Co元素の含有量(質量%)は、{(Co元素の質量)/(COシフトまたは逆シフト触媒構造体1の全元素の質量)}×100で表される。
【0035】
上記金属微粒子は、少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であればよく、例えば、単一の金属または金属酸化物で構成されていてもよく、あるいは2種以上の金属または金属酸化物の混合物で構成されていてもよい。なお、本明細書において、金属微粒子を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素(M)を含む単体金属と、2種以上の金属元素(M)を含む金属合金とを含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。また、「金属酸化物」は、1種の金属元素(M)を含む酸化物と、2種以上の金属元素(M)を含む複合酸化物とを含む意味であり、1種以上の金属元素(M)を含む酸化物の総称である。
【0036】
このような金属としては、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、セリウム(Ce)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)等が挙げられ、上記のいずれか1種以上を主成分とすることが好ましい。
【0037】
また、このような金属酸化物としては、例えば酸化コバルト(CoOx)、酸化ニッケル(NiOx)、酸化鉄(FeOx)、酸化銅(CuOx)、酸化ジルコニウム(ZrOx)、酸化セリウム(CeOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ニオブ(NbOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化ビスマス(BiOx)、酸化モリブデン(MoOx)、酸化バナジウム(VOx)、酸化クロム(CrOx)等が挙げられ、上記のいずれか1種以上を主成分とすることが好ましい。
【0038】
上記の金属または金属酸化物で構成される金属微粒子の中でも、金属微粒子は、コバルト、ニッケル、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であることが好ましく、コバルト、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物で構成される微粒子であることがより好ましく、銅または酸化銅で構成される微粒子であることが特に好ましい。
【0039】
また、金属微粒子20を構成する金属元素(M)に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10~1000であるのが好ましく、50~200であるのがより好ましい。上記割合が1000より大きいと、COシフトまたは逆シフト触媒活性が低減して、COシフトまたは逆シフト触媒物質としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、金属微粒子20の割合が大きくなりすぎて、担体10の強度が低下する傾向がある。なお、ここでいう金属微粒子20は、担体10の内部に保持され、または担持された微粒子をいい、担体10の外表面に付着した金属微粒子を含まない。
【0040】
[COシフトおよび逆シフト触媒構造体の機能]
COシフトまたは逆シフト触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体10に内在する少なくとも1つのCOシフトまたは逆シフト触媒物質20とを備える。COシフト触媒構造体1は、担体10に内在するCOシフト触媒物質20がCO含有混合ガスと接触することにより、COシフト触媒物質20によるCOシフト触媒能を発揮する。具体的に、COシフト触媒構造体1の外表面10aに接触したCO含有混合ガスは、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じてCOシフト触媒構造体1の外部へ出る。CO含有混合ガスが通路11内を通って移動する経路において、通路11に保持されたCOシフト触媒物質20と接触することによって、COシフト触媒物質20のCOシフト触媒反応が生じる。
【0041】
同様に、逆シフト触媒構造体1は、担体10に内在する逆シフト触媒物質20が、CO2とH2を含むCO2含有混合ガスと接触することにより、逆シフト触媒物質20による逆シフト触媒能を発揮する。具体的に、逆シフト触媒構造体1の外表面10aに接触したCO2含有混合ガスは、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じて逆シフト触媒構造体1の外部へ出る。CO2含有混合ガスが通路11内を通って移動する経路において、通路11に保持された逆シフト触媒物質20と接触することによって、逆シフト触媒物質20の逆シフト触媒反応が生じる。
【0042】
また、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1は、担体10が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。まず、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1の、流体である合成ガスに含まれるH
2、H
2O、CO、CO
2を透過する分子篩能について説明する。
図2(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有するH
2、H
2O、COおよびCO
2の分子は、担体10内に流入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有する他の分子15は、担体10内へ流入することができない。このように、CO含有混合ガス、CO
2含有混合ガスが複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に流入することができない化合物の反応は規制され、担体10内に流入することができる化合物を反応させることができる。
【0043】
また、上記反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。
【0044】
COシフトまたは逆シフト触媒構造体1では、
図2(b)に示すように、通路11の拡径部12にCOシフトまたは逆シフト触媒物質20が包接されている。COシフトまたは逆シフト触媒物質20が金属微粒子であるとき、金属微粒子の平均粒径D
Cが、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、拡径部12の内径D
Eよりも小さい場合には(D
F<D
C<D
E)、金属微粒子と拡径部12との間に小通路13が形成される。そこで、
図2(b)中の矢印に示すように、小通路13に流入したCO含有混合ガスまたはCO
2含有混合ガスが金属微粒子と接触する。各金属微粒子は、拡径部12に包接されているため、担体10内での移動が制限されている。これにより、担体10内における金属微粒子同士の凝集が防止される。その結果、金属微粒子と流体であるCO含有混合ガスまたはCO
2含有混合ガスとの大きな接触面積を安定して維持することができる。
【0045】
そして、通路11に流入したCO含有混合ガスまたはCO2含有混合ガスがCOシフトまたは逆シフト触媒物質20に接触すると、COシフトまたは逆シフト触媒物質20による触媒反応によってCOシフト反応においては、COとH2OがCO2とH2に改質され、逆シフト反応においては、CO2とH2がCOとH2Oに改質される。
【0046】
[COシフトまたは逆シフト反応装置]
また、COシフトまたは逆シフト触媒構造体1を用いて、COシフトまたは逆シフト触媒構造体を有するCOシフトまたは逆シフト反応装置が形成されてもよい。上記実施形態例に係るCOシフトまたは逆シフト触媒構造体1を用いることで、上記と同様の効果を奏するCOシフトまたは逆シフト反応装置を得ることができる。
【0047】
[COシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法]
図3は、
図1のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体1の製造方法を示すフローチャートである。以下、担体に内在するCOシフトまたは逆シフト触媒物質が金属微粒子である場合を例に、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の製造方法の一例を説明する。
【0048】
(ステップS1:準備工程)
図3に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0049】
ここで、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1~50nmの細孔が1次元、2次元または3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。なお、SBA-1の細孔径は10~30nm、SBA-15の細孔径は6~10nm、SBA-16の細孔径は6nm、KIT-6の細孔径は9nm、FSM-16の細孔径は3~5nm、MCM-41の細孔径は1~10nmである。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0050】
前駆体材料(A)は、市販品および合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄および乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂等が挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えばMCM-41を作製する場合にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。
【0051】
水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。
【0052】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0053】
金属含有溶液は、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の金属微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、金属元素(M)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の金属塩が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0054】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する焼成工程の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、前駆体材料(A)に金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0055】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0056】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する焼成工程の前に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することが好ましく、50~200となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/Mに換算して50~200とすることで、金属微粒子の金属元素(M)を、COシフトまたは逆シフト触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有させることができる。
【0057】
前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体に内在する金属微粒子を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体に内在させる金属微粒子の量を調整することができる。
【0058】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、金属含有溶液に含まれる水分や、洗浄溶液の水分が、前駆体材料(A)に多く残った状態で、後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。
【0059】
(ステップS3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0060】
焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことが好ましい。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属微粒子が形成される。
【0061】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、COシフトまたは逆シフト触媒構造体を得る。
【0062】
構造規定剤は、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)等の界面活性剤が好適である。
【0063】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、本水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々の溶液に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸または塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0064】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での金属微粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られたCOシフトまたは逆シフト触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する金属微粒子を備え、さらに担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、金属微粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に存在している。また、本実施形態では、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することなく、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0065】
水熱処理後に得られる沈殿物(COシフトまたは逆シフト触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄、乾燥および焼成することが好ましい。洗浄溶液としては、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で、焼成処理を行うと、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、COシフトまたは逆シフト触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、COシフトまたは逆シフト触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物を焼成処理することなくそのまま用いることもできる。例えば、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失し、焼成処理した場合と同様のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体が得られるので、そのまま使用することが可能となる。
【0066】
以上説明した製造方法は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液に含まれる金属元素(M)が、酸化され難い金属種(例えば、貴金属)である場合の一例である。
【0067】
前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種(例えば、Fe、Co、Cu等)である場合には、上記水熱処理工程後に、水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行うことが好ましい。金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種である場合、含浸処理(ステップS2)の後の工程(ステップS3~S4)における熱処理により、金属成分が酸化されてしまう。そのため、水熱処理工程(ステップS4)で形成される担体には、金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、担体に金属微粒子が内在するCOシフトまたは逆シフト触媒構造体を得るためには、上記水熱処理後に、回収した沈殿物を焼成処理し、さらに水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することが望ましい(ステップS5:還元処理工程)。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属微粒子が形成される。その結果、担体に金属微粒子が内在するCOシフトまたは逆シフト触媒構造体が得られる。なお、このような還元処理は、必要に応じて行えばよく、例えば、COシフトまたは逆シフト触媒構造体の使用する環境が、還元雰囲気である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、金属酸化物微粒子は還元されるため、還元処理した場合と同様のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体が得られるので、担体に酸化物微粒子が内在した状態でそのまま使用することが可能となる。
【0068】
[COシフトまたは逆シフト触媒構造体の変形例]
図4は、
図1のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体1の変形例を示す模式図である。
図1のCOシフトまたは逆シフト触媒構造体1は、担体10と、担体10に内在するCOシフトまたは逆シフト触媒物質20とを備える場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、
図4に示すように、COシフトまたは逆シフト触媒構造体2が、担体10の外表面10aに保持された他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質30を更に備えていてもよい。
【0069】
この他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質30は、一又は複数の触媒能を発揮する物質である。他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質30が有する触媒能は、COシフトまたは逆シフト触媒物質20が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、COシフトまたは逆シフト触媒物質20、30の双方が同一の触媒能を有する物質である場合、他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質30の材料は、COシフトまたは逆シフト触媒物質20の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、COシフトまたは逆シフト触媒構造体2に保持されたCOシフトまたは逆シフト触媒物質の含有量を増大することができ、COシフトまたは逆シフト触媒物質の触媒活性を更に促進することができる。
【0070】
この場合、担体10に内在するCOシフトまたは逆シフト触媒物質20の含有量は、担体10の外表面10aに保持された他のCOシフトまたは逆シフト触媒物質30の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持されたCOシフトまたは逆シフト触媒物質20による触媒能が支配的となり、安定的にCOシフトまたは逆シフト触媒物質の触媒能が発揮される。
【0071】
[二酸化炭素と水素の製造方法]
また、本発明において、触媒を用いて、一酸化炭素と水(水蒸気)から二酸化炭素と水素を生成する二酸化炭素と水素の製造方法が提供される。このような触媒は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、担体10に内在する少なくとも1つの金属微粒子20と、を備え、担体10が、互いに連通する通路11を有し、金属微粒子20が、担体10の少なくとも通路11の拡径部12に存在しているCOシフト触媒構造体1を含んでいる。すなわち、本発明では、上述のCOシフト触媒構造体を用いて、一酸化炭素と水(水蒸気)から二酸化炭素と水素を生成する二酸化炭素と水素の製造方法が提供される。
【0072】
このようなCOシフト反応を利用した二酸化炭素と水素の製造方法を実施する際の原料としては、ガス状の水及び一酸化炭素を主成分とする合成ガスであれば特に制限はないが、水蒸気と原料ガス中の一酸化炭素のモル比は1~100である合成ガスが好ましい。COシフト反応における反応条件は、原料ガス中のガス成分の濃度、触媒成分の含有量などに応じて設定することができる。通常、COシフト反応における反応温度は150~300℃、反応圧力は1~100気圧(絶対圧力)、原料ガス(水蒸気を除く)の空間速度は1000~100000(1/h)の範囲がそれぞれ好ましい。
【0073】
COシフト反応は、COシフト反応の反応プロセスとして公知のプロセス、例えば、固定床、超臨界固定床、スラリー床、流動床等で実施することができる。このように、一酸化炭素と水(水蒸気)から二酸化炭素と水素を生成する際、すなわちCOシフト反応において、本発明に係るCOシフト触媒構造体を使用することにより、上述した二酸化炭素と水素の製造方法においても上記COシフト触媒構造体が示す効果と同様の効果を得ることができる。
【0074】
また、本発明において、一酸化炭素と水を、上述のCOシフト反応装置を用いて二酸化炭素と水素に変換する二酸化炭素と水素の製造方法が提供されていてもよい。このようなCOシフト反応装置は、上記COシフト触媒構造体を利用してCOシフト反応ができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、反応器、反応管、反応カラム等の通常使用される反応装置を使用することができる。COシフト触媒構造体を有するCOシフト反応装置を用いることにより、上記COシフト触媒構造体が示す効果と同様の効果を得ることができる。
【0075】
[一酸化炭素と水の製造方法]
さらに、本発明において、触媒を用いて、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水(水蒸気)を生成する一酸化炭素と水の製造方法も提供される。このような触媒は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、担体10に内在する少なくとも1つの金属微粒子20と、を備え、担体10が、互いに連通する通路11を有し、金属微粒子20が、担体10の少なくとも通路11の拡径部12に存在している逆シフト触媒構造体1を含んでいる。すなわち、本発明では、上述の逆シフト触媒構造体を用いて、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水(水蒸気)を生成する一酸化炭素と水の製造方法が提供される。
【0076】
このような逆シフト反応を利用した一酸化炭素と水の製造方法を実施する際の原料としては、分子状水素及び二酸化炭素を主成分とする合成ガスであれば特に制限はない。また、このような逆シフト反応を利用したCOとH2の製造方法を実施する際、CO2、H2、CO、H2Oの組成は化学平衡によって支配され、得られるガスの組成は反応温度と原料ガスのCO2/H2比によって決まる。合成ガスを得るためには、反応後のガスから未反応のCO2と生成したH2Oを取り除くことで原料ガスのH2の比率が高いほど得られる合成ガスのH2比率を高くすることができる。逆シフト反応は、300℃以上900℃以下の反応温度で有効に行うことができ、400℃以上850℃以下の反応温度が好ましく、500℃以上800℃以下の反応温度がより好ましい。反応温度が300℃未満では、平衡上、炭酸ガスを一酸化炭素に十分に転化できなくなる傾向がある。一方、反応温度が900℃を超えると、配管等の付帯設備の性能を向上させる必要があり、製造コストの観点から好ましくない。
【0077】
逆シフト反応も、逆シフト反応の反応プロセスとして公知のプロセス、例えば、固定床、超臨界固定床、スラリー床、流動床等で実施することができるこのように、二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水(水蒸気)を生成する際、すなわち逆シフト反応においても、本発明に係る逆シフト触媒構造体を使用することにより、上述した一酸化炭素と水の製造方法においても上記逆シフト触媒構造体が示す効果と同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、本発明において、二酸化炭素と水素を、上述の逆シフト反応装置を用いて一酸化炭素と水(水蒸気)に変換する一酸化炭素と水の製造方法が提供されていてもよい。このような逆シフト反応装置は、上記逆シフト触媒構造体を利用して逆シフト反応ができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、反応器、反応管、反応カラム等の通常使用される反応装置を使用することができる。逆シフト触媒構造体を有する逆シフト反応装置を用いることにより、上記逆シフト触媒構造体が示す効果と同様の効果を得ることができる。
【0079】
このように、本発明に係るCOシフトまたは逆シフト触媒構造体は、COシフト反応と逆シフト反応のいずれにも適用可能な触媒であると共に、いずれの反応においても触媒機能の低下を抑制して長寿命化を実現することができる。特に、このようなCOシフトまたは逆シフト触媒構造体は高い触媒活性を示すため、例えば、逆シフト触媒構造体を逆シフト反応に使用することにより、従来使用できなかった高温環境下での逆シフト反応に適用することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態に係るCOシフトまたは逆シフト触媒構造体及びその製造方法、COシフトまたは逆シフト反応装置、二酸化炭素と水素の製造方法、並びに一酸化炭素と水の製造方法について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0081】
(実施例1~384)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80~350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水およびエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1~8に示される種類および孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、前駆体材料(A)の種類に応じて(「前駆体材料(A)の種類:界面活性剤」)以下のものを用いた。
・MCM-41:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)
・SBA-1:Pluronic P123(BASF社製)
【0082】
[前駆体材料(B)および(C)の作製]
次に、表1~8に示される種類の金属微粒子を構成する金属元素(M)に応じて、該金属元素(M)を含有する金属塩を、水に溶解させて、金属含有水溶液を調製した。なお、金属塩は、金属微粒子の種類に応じて(「金属微粒子:金属塩」)以下のものを用いた。
・Co:硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Ni:硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Fe:硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Cu:硝酸銅(II)三水和物(和光純薬工業株式会社製)
【0083】
次に、粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0084】
なお、表1~8に示す添加剤の有無の条件が「有り」の場合は、金属含有水溶液を添加する前の前駆体材料(A)に対して、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行い、その後、上記のように金属含有水溶液を添加した。なお、添加剤の有無の条件で「無し」の場合については、上記のような添加剤による前処理は行っていない。
【0085】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有水溶液の添加量は、該金属含有水溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が、表1~8の値になるように調整した。
【0086】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0087】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、表1~8に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80~350℃、表1~8に示すpHおよび時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成した。その後、焼成物を回収し、水素ガスの流入下で、400℃、350分間、還元処理して、表1~8に示す担体と触媒物質としての金属微粒子とを有する触媒構造体を得た(実施例1~384)。
【0088】
(比較例1)
比較例1では、MFI型シリカライトに平均粒径50nm以下の酸化コバルト粉末(II,III)(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を混合し、実施例と同様にして水素還元処理を行って、担体としてのシリカライトの外表面に、触媒物質としてコバルト微粒子を付着させた触媒構造体を得た。MFI型シリカライトは、金属を添加する工程以外は、実施例52~実施例57と同様の方法で合成した。
【0089】
(比較例2)
比較例2では、コバルト微粒子を付着させる工程を省略したこと以外は、比較例1と同様の方法にてMFI型シリカライトを合成した。
【0090】
[評価]
担体と触媒物質とを備える上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0091】
[A]断面観察
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。その結果、上記実施例の触媒構造体では、シリカライトまたはゼオライトからなる担体の内部に触媒物質が内在し、保持されていることが確認された。一方、比較例1のシリカライトでは、触媒物質が担体の外表面に付着しているのみで、担体の内部には存在していなかった。
【0092】
また、上記実施例のうち金属が鉄、コバルト、ニッケルからなる微粒子(Fe、Co、Ni)である触媒構造体については、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)、EDX(X-Max、堀場製作所社製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、担体内部からFe、Co、Ni元素がそれぞれ検出された。上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、担体内部に鉄微粒子、コバルト微粒子、ニッケル微粒子がそれぞれ存在していることが確認された。
【0093】
[B]担体の通路の平均内径および触媒物質の平均粒径
上記評価[A]で行った断面観察により撮影したTEM画像にて、担体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径および短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出し(N=500)、さらに内径の平均値を求めて、担体の通路の平均内径DFとした。また、触媒物質についても同様に、上記TEM画像から、触媒物質を、任意に500個選択し、それぞれの粒径を測定して(N=500)、その平均値を求めて、触媒物質の平均粒径DCとした。結果を表1~8に示す。
【0094】
また、触媒物質の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring-8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、粒径を算出した。粒径は、金属が鉄微粒子である触媒構造体について測定した。また、比較対象として、市販品である鉄微粒子(Wako製)をSEMにて観察、測定した。
【0095】
この結果、市販品では粒径約50nm~400nmの範囲で様々なサイズの鉄微粒子がランダムに存在しているのに対し、TEM画像から求めた平均粒径が1.2nm~2.0nmの各実施例の触媒構造体では、SAXSの測定結果においても粒径が10nm以下の散乱ピークが検出された。SAXSの測定結果とSEM/EDXによる断面の測定結果から、担体内部に、粒径10nm以下の触媒物質が、粒径が揃いかつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0096】
[C]金属含有溶液の添加量と担体内部に包接された金属量との関係
原子数比Si/M=50、100、200、1000(M=Co、Ni、Fe、Cu)の添加量で、金属微粒子を担体内部に包接させた触媒構造体を作製し、その後、上記添加量で作製された触媒構造体の担体内部に包接された金属量(質量%)を測定した。尚、本測定において原子数比Si/M=100、200、1000の触媒構造体は、それぞれ実施例1~384のうちの原子数比Si/M=100、200、1000の触媒構造体と同様の方法で金属含有溶液の添加量を調整して作製し、原子数比Si/M=50の触媒構造体は、金属含有溶液の添加量を異ならせたこと以外は、原子数比Si/M=100、200、1000の触媒構造体と同様の方法で作製した。
【0097】
金属量の定量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)単体か、或いはICPとXRF(蛍光X線分析)を組み合わせて行った。XRF(エネルギー分散型蛍光X線分析装置「SEA1200VX」、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製)は、真空雰囲気、加速電圧15kV(Crフィルター使用)或いは加速電圧50kV(Pbフィルター使用)の条件で行った。XRFは、金属の存在量を蛍光強度で算出する方法であり、XRF単体では定量値(質量%換算)を算出できない。そこで、Si/M=100で金属を添加した触媒構造体の金属量は、ICP分析により定量し、Si/M=50および100未満で金属を添加した触媒構造体の金属量は、XRF測定結果とICP測定結果を元に算出した。
【0098】
この結果、少なくとも原子数比Si/Mが50~1000の範囲内で、金属含有溶液の添加量の増加に伴って、触媒構造体に包接された金属量が増大していることが確認された。
【0099】
[D]性能評価
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、触媒物質がもつ触媒能を評価した。結果を表1~8に示す。
【0100】
(1)触媒活性
触媒活性は、以下の条件で評価した。
【0101】
実施例1~384及び比較例1~4の触媒構造体の含有金属量を揃えて内径14mmの管型反応管に触媒構造体を3.3cc充填して、COを含むガス(H2/CO/CO2=30/50/20mol%、H2S=700ppm、S/CO=1.0)を0.9MPa、温度250℃、SV=6、000h-1の条件でCOシフト反応を行った。また、比較例2として、担体のみを用いた実験を実施した。COを含むガスのCOガス流量は、流通式マイクロリアクタ装置を用いて測定し、触媒活性を評価した。触媒活性の比較は、触媒層入口COガス流速(mol/時間)と触媒層出口COガス流速(mol/時間)のCOガス流量変化からCO転化率を算出した。CO転化率は下記式(I)による。
【0102】
CO転化率(%)=(1-(触媒層出口COガス流速(mol/時間))/(触媒層入口COガス流速(mol/時間)))×100・・・(I)
【0103】
上記のように算出したCO転化率が、70%以上の場合は触媒活性が特に良好と判定して「◎」、60%以上70%未満の場合は触媒活性が良好と判定して「○」、50%以上60%未満の場合は触媒活性が合格レベルと判定して「△」、50%未満の場合は触媒活性が劣ると判定して「×」とした。これらの測定、評価結果を表1~表8に示す。
【0104】
(2)耐久性(寿命)
耐久性は、以下の条件で評価した。
【0105】
実施例1~384の触媒構造体を用いて、(1)と同様に1回目のCOシフト反応を行い、CO転化率(%)を算出した。その後、COを含むガス(H2/CO/CO2=30/50/20mol%、H2S=700ppm、S/CO=1.0)を、0.9MPa、温度450℃、SV=2000h-1の条件で、10時間反応させ、2回目のCOシフト反応を(1)と同様に行い、CO転化率(%)を算出した。1回目のCOシフト反応のCO転化率(%)に対する、2回目のCOシフト反応のCO転化率(%)の割合([2回目のCOシフト反応のCO転化率(%)/1回目のCOシフト反応のCO転化率(%)]×100)が90%以上の場合を耐久性が特に良好と判定して「◎」、80%以上90%未満の場合を耐久性が良好と判定して「○」、70%以上80%未満の場合を耐久性が合格レベルと判定して「△」、70%未満の場合を耐久性が劣ると判定して「×」とした。これらの測定、評価結果を表1~表8に示す。
【0106】
比較例1についても、上記評価(1)および(2)と同様の性能評価を行った。尚、比較例2は、担体そのものであり、触媒物質を有していない。そのため、上記性能評価では、触媒構造体に替えて、比較例2の担体のみを充填した。結果を表8に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
表1~8から明らかなように、断面観察により担体の内部に触媒物質が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1~384)は、単に触媒物質が担体の外表面に付着しているだけの触媒構造体(比較例1)および触媒物質を何ら有していない担体そのもの(比較例2)と比較して、COシフト反応において優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性にも優れていることが分かった。
【0116】
また、上記評価[C]で測定された触媒構造体の担体内部に包接された金属量(質量%)と、上記評価(1)の触媒活性との関係を評価した。評価方法は、上記[D]「性能評価」における「(1)触媒活性」で行った評価方法と同じとした。その結果、各実施例において、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量が、原子数比Si/Mに換算して50~200(触媒構造体に対する金属微粒子の金属元素(M)の含有量が0.5~2.5質量%)であると、COシフト反応において触媒活性が向上する傾向にあることが分かった。
【0117】
逆シフト反応における触媒活性は、以下の条件で評価した。
【0118】
表1~8に示す各実施例のうち、代表として、触媒活性および耐熱性の評価がいずれも「◎」である触媒構造体を、常圧流通式反応装置に70mg充填し、反応ガス(CO2:H2=1:2)をSV=2000h-1で供給し、100~800℃で加熱しながら逆シフト反応を行った。常圧流通式反応装置はシングルマイクロリアクター(フロンティアラボ社、「Rx-3050SR」)を使用した。
【0119】
反応終了後に、回収した生成ガスを、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により成分分析した。なお、生成ガスの分析装置には、TRACE 1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用いた。
【0120】
さらに、上記成分分析の結果に基づき、逆シフト反応により得られた生成物を確認した。本評価では、表9に示される各実施例で得られた触媒構造体用いて、上記操作を実施し、以下の評価基準により判定した。
【0121】
400℃未満で一酸化炭素と水(水蒸気)の生成が確認できた場合(つまり、反応開始温度が400℃未満の場合)を、逆シフト反応における触媒活性が優れていると判定して「〇」、600℃未満で一酸化炭素と水(水蒸気)の生成が確認できた場合(つまり、反応開始温度が400℃以上、600℃未満の場合)を、触媒活性が良好であると判断して「△」、600℃以上で一酸化炭素と水(水蒸気)の生成が確認できた場合(つまり、反応開始温度が600℃以上の場合)又は逆シフト反応が起こらなかった場合を、触媒活性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0122】
また、逆シフト反応により得られた生成物において、上記成分分析の結果に基づき、副生成物としてメタン(CH4)の生成の有無を確認した。メタンの生成が確認されなかった場合を「〇」、メタンの生成が確認された場合を「×」と評価した。これらの評価結果を表9に示す。
【0123】
【0124】
表9から明らかなように、表9に示される各実施例の触媒構造体は、逆シフト反応における触媒活性が良好であり、特に、実施例294、295、296、319、320、342、343、344、367、368の触媒構造体は、逆シフト反応における触媒活性が優れていた。このことから、表9に示される各実施例の触媒構造体は、逆シフト反応を、従来よりも低温で行うことができ、優れた触媒性能示すことが分かった。さらに、実施例198、199、200、223、224、246、247、248、271、272、294、295、296、319、320、342、343、344、367、368の触媒構造体は、副生成物であるメタンの発生も確認されず、より効率的に逆シフト反応を行うことができた。
【0125】
一方、担体の外表面にのみ触媒物質を付着させた比較例1の触媒構造体は、触媒物質を何ら有していない比較例21の担体そのものと比較して、COシフト反応における触媒活性は改善されるものの、実施例1~384の触媒構造体に比べて、触媒としての耐久性は劣っていた。
【0126】
上記結果より、本発明に係るCOシフト触媒構造体および逆シフト触媒構造体は、COシフト反応および逆シフト反応おいて優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性に優れると推察することができる。
【0127】
[他の実施態様]
COシフトまたは逆シフト触媒構造体を使用する方法であって、
前記触COシフトまたは逆シフト媒構造体が、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの金属微粒子と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記金属微粒子が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に存在していることを特徴とする、COシフトまたは逆シフト触媒構造体を使用する方法。
【符号の説明】
【0128】
1 COシフト触媒構造体、逆シフト触媒構造体
2 COシフト触媒構造体、逆シフト触媒構造体
10 担体
10a 外表面
11 通路
11a 孔
12 拡径部
20 COシフト触媒物質、逆シフト触媒物質
30 COシフト触媒物質、逆シフト触媒物質
DC 平均粒径
DF 平均内径
DE 内径