(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】半導体製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
(21)【出願番号】P 2021538251
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020046047
(87)【国際公開番号】W WO2022123725
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山口 欣秀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清彦
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/165990(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/157954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室を備えた半導体製造装置を用いた半導体製造方法であって、
遷移金属元素を含有する遷移金属含有膜が表面に形成されたウエハが載置された前記処理室内に錯体化ガスを供給し、前記錯体化ガスの成分である有機化合物を前記遷移金属含有膜に吸着させる第1の工程と、
前記有機化合物が前記遷移金属含有膜に吸着した前記ウエハを加熱し、前記有機化合物と前記遷移金属元素とを反応させて有機金属錯体に変換し、前記有機金属錯体を脱離させる第2の工程とを有し、
前記有機化合物はルイス塩基性を有し、前記遷移金属元素と2座以上の配位結合を形成し得る多座配位子分子であ
り、
前記第1の工程終了後、前記遷移金属含有膜に化学吸着していない有機化合物を前記処理室から排気した後、前記第2の工程を開始する半導体製造方法。
【請求項2】
処理室を備えた半導体製造装置を用いた半導体製造方法であって、
遷移金属元素を含有する遷移金属含有膜が表面に形成されたウエハが載置された前記処理室内に錯体化ガスを供給し、前記錯体化ガスの成分である有機化合物を前記遷移金属含有膜に吸着させる第1の工程と、
前記有機化合物が前記遷移金属含有膜に吸着した前記ウエハを加熱し、前記有機化合物と前記遷移金属元素とを反応させて有機金属錯体に変換し、前記有機金属錯体を脱離させる第2の工程とを有し、
前記有機化合物はルイス塩基性を有し、前記遷移金属元素と2座以上の配位結合を形成し得る多座配位子分子であり、
前記有機化合物は、カルボニル基が結合した芳香族化合物であり、前記カルボニル基が結合した芳香族環上の炭素原子に隣接する前記芳香族環上の炭素原子にルイス塩基性を有する置換基を備える有機化合物である半導体製造方法。
【請求項3】
処理室を備えた半導体製造装置を用いた半導体製造方法であって、
遷移金属元素を含有する遷移金属含有膜が表面に形成されたウエハが載置された前記処理室内に錯体化ガスを供給し、前記錯体化ガスの成分である有機化合物を前記遷移金属含有膜に吸着させる第1の工程と、
前記有機化合物が前記遷移金属含有膜に吸着した前記ウエハを加熱し、前記有機化合物と前記遷移金属元素とを反応させて有機金属錯体に変換し、前記有機金属錯体を脱離させる第2の工程とを有し、
前記有機化合物はルイス塩基性を有し、前記遷移金属元素と2座以上の配位結合を形成し得る多座配位子分子であり、
前記有機化合物は、脂肪族トリアミン、脂肪族テトラアミン、脂肪族ペンタアミンのいずれかである半導体製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記第1の工程を通じて、前記処理室内に前記錯体化ガスを供給し、
前記第1の工程は、前記ウエハを第1の温度に維持して前記錯体化ガスを供給する第1の期間と、前記ウエハを加熱し、前記第1の温度よりも高い第2の温度に維持して前記錯体化ガスを供給する第2の期間とを有し、
前記第1の期間における前記第1の温度は
、前記遷移金属含有膜の表面に
前記有機化合物の物理吸着層が形成されるよう設定され、前記第2の期間における前記第2の温度は、前記有機化合物の前記遷移金属含有膜への吸着状態が物理吸着状態から化学吸着状態に変化するよう設定される半導体製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記第1の工程において、前記処理室内に前記錯体化ガスの供給を開始するとともに、前記ウエハを加熱し、第2の温度に維持して前記錯体化ガスの供給を継続し、
前記第2の温度は、前記遷移金属含有膜の表面に物理吸着層が形成される反応と前記物理吸着層が化学吸着層に転換される転換反応とが並列して生じるよう設定される半導体製造方法。
【請求項6】
請求項2または請求項3において、
前記第1の工程及び前記第2の工程を通じて、前記処理室内に前記錯体化ガスを供給し、
前記第2の工程において、前記ウエハを加熱し、第4の温度に維持し、
前記第4の温度は、前記有機化合物の熱分解が生じる温度及び前記有機金属錯体の熱分解が生じる温度よりも低く、かつ前記有機金属錯体が気化する温度以上の温度に設定される半導体製造方法。
【請求項7】
請求項
1において、
前記第2の工程は、前記ウエハを加熱し、第3の温度に維持する第3の期間と、前記ウエハを加熱し、前記第3の温度よりも高い第4の温度に維持する第4の期間とを有し、
前記第3の期間における前記第3の温度は、前記第1の工程における前記ウエハの温度以上、かつ前記有機金属錯体が気化する温度よりも低い温度に設定され、前記第4の期間における前記第4の温度は、前記有機化合物の熱分解が生じる温度及び前記有機金属錯体の熱分解が生じる温度よりも低く、かつ前記有機金属錯体が気化する温度以上の温度に設定される半導体製造方法。
【請求項8】
請求項
1において、
前記第2の工程において、前記ウエハを加熱し、第4の温度に維持し、
前記第4の温度は、前記有機化合物の熱分解が生じる温度及び前記有機金属錯体の熱分解が生じる温度よりも低く、かつ前記有機金属錯体が気化する温度以上の温度に設定される半導体製造方法。
【請求項9】
請求項
2において、
前記有機化合物は、(化1)で表される分子構造を有し、
【化1】
(化1)において、XはH、CH
3、H
2、(CH
3)
2のいずれか、YはOまたはN、ZはHまたはCH
3、RはH、CH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9のいずれかである半導体製造方法。
【請求項10】
請求項1において、
前記有機化合物は、芳香族環上にルイス塩基性を有する窒素原子を有する芳香族化合物であり、前記窒素原子に隣接する炭素原子にC=C結合またはC=O結合を有する置換基が結合した有機化合物である半導体製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記有機化合物は、(化2)で表される分子構造を有し、
【化2】
(化2)において、XはH、CH
3、H
2、(CH
3)
2のいずれか、YはOまたはN、R1はH、CH
3、炭素鎖のいずれか、R2はOまたは炭素鎖のいずれかである半導体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属元素を含有する膜が形成されたウエハを処理して半導体デバイスを製造する半導体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最先端の半導体デバイスに対する小型化、高速・高性能化、省電力化の要求はますます加速しており、さまざまな新たな材料の採用が進んでいる。例えば、Cu(銅)配線のエレクトロマイグレーションやW(タングステン)配線の高い抵抗率が半導体配線の更なる微細化の障壁になるとして、Co(コバルト)やRu(ルテニウム)などの多種多様な遷移金属が次世代の配線材料の候補となっている。このような遷移金属元素を含む導体膜を次世代半導体微細配線として利用するには、ナノメートルレベルの超高精度な加工(成膜およびエッチング)が不可欠である。
【0003】
遷移金属元素を含む導体膜を含む膜構造を加工して半導体デバイスの回路構造を形成する技術の例として、特開2008-244039号公報(特許文献1)に開示のものがある。特許文献1では、金属シリサイドもしくは金属単体をゲート材料として利用するための横方向のエッチング(トリミング)方法として、ゲート部の表面を酸化させた後に、有機酸を含むガスに暴露しながら加熱する技術が開示されている。さらに、Coを酸化してCoO(酸化コバルト)とした後に340℃に加熱しながら酢酸蒸気に暴露すると、CoOが揮発性を有するCo(CH3COO)2(酢酸コバルト)に変換されて気相中に放出されることが記載されている。
【0004】
一方、特開2017-59824号公報(特許文献2)では、Pt等の貴金属元素を含む材料を、含ハロゲン物質とNO(一酸化窒素)との混合ガスとフッ化ニトロシル(NOF)などから選ばれる前処理ガスを、貴金属元素を含む材料と反応させて表面に固体化合物を形成させた後に、β-ジケトンと反応させてエッチングする技術が開示されている。特許文献2には、前処理ガスの中に含まれるNOFあるいは前処理ガスの成分から反応容器内で生成するNOFx(x=1~3)とPtなど貴金属を含む材料とを50℃以上150℃以下で反応させて生成する固体化合物はPtとNとOとFを含むPt化合物であり、このPt化合物がβ-ジケトンと反応して揮発性の高いβ-ジケトンとPtとの錯体が生成し、この錯体が気化する旨の記載がある。なお、特許文献2に例示されている貴金属は、Au,Pt,Pd,Rh,Ir,Ru,Osであり、いずれも遷移金属に分類される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-244039号公報
【文献】特開2017-59824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、多種多様な遷移金属元素を含む材料のナノメートルレベルの超高精細な加工の技術について検討する過程で、特に最先端の3次元デバイスにみられる、異種材料が数十層にわたって積層された多層膜を高精度に加工する技術の検討、検証を進めてきた。この検討において、異種材料が多重に積層した多層膜を高温に加熱すると、異種材料の膜間で拡散が生じたり、材料が異なる、したがって膨張係数が異なる膜が積層されていることにより多層膜にずれが生じたりといった不具合が発生することが分かった。このため、異種材料が多重に積層した多層膜の加工には、比較的低温で実施可能なエッチング技術が必要であるとの知見を得た。
【0007】
特許文献1、特許文献2に開示の技術は、400℃以下で選択的なエッチングを実現できるため、上記知見からは有望な技術である。しかしながら、これらの従来技術について詳しい検証を行った結果、次の通り、何れも改善すべき課題があることが判った。
【0008】
特許文献1に開示の技術では、遷移金属の酢酸塩は揮発性を有してはいるが、高温下で必ずしも安定ではない。より具体的には、酢酸コバルトは220℃付近から熱分解することが知られている。つまり、340℃加熱下の酸化コバルトを酢酸蒸気に暴露することにより、酸化コバルトが酢酸コバルトに変換された後に揮発除去されるという反応機構によって酸化コバルトのエッチングが進む一方で、エッチング反応の中間生成物である酢酸コバルトが熱分解などの異常反応を起こしてCoとCとを含む残渣を生じてしまう。
【0009】
その結果、酸化コバルト膜の表面の少なくとも一部は酢酸コバルトが分解した残渣の微粒子が付着した状態となる。このような残渣の微粒子が付着した領域の箇所の直下の処理対象膜ではエッチングが阻害されたり処理の進行が停止したりする一方で、残渣の微粒子が付着していない領域の箇所ではエッチングが相対的に進行する。この結果、エッチング処理終了後の処理対象の膜の表面には残渣の粒子の付着量に応じて凹凸が生じる。この凹凸によってウエハ表面の面内の方向について加工後の形状に大きなバラつきが生じるため、半導体デバイスの性能上求められる精細な加工精度が得られず、処理の歩留まりや効率が損なわれてしまう。
【0010】
特許文献2に開示の技術では、発明者らの検討によれば、貴金属元素ではない遷移金属元素、例えば、Zr(ジルコニウム)などに適用した場合には、揮発性の高い錯体は検出限界以下の量しか生成せず、実用的なエッチング速度を得ることは困難であった。ZrはNOFとの反応ではN,Oを含まない固体化合物であるZrF4(フッ化ジルコニウム)を生成する。PtとNOFとの反応で得られるN,Oを含む固体化合物と比べると、ZrF4はβ-ジケトンとの反応性が低い。したがって、揮発性物質を生成する反応が十分に進まない。このため、貴金属以外の遷移金属元素を含有する膜のエッチング処理には応用できず、適用可能な材料に制約がある。
【0011】
本発明の目的は、遷移金属元素を含有する膜を高い加工精度で、かつ高速に処理することにより半導体デバイスを製造する効率や歩留まりを向上させる半導体製造方法または半導体製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施の態様である半導体製造方法は、処理室を備えた半導体製造装置を用いた半導体製造方法であって、遷移金属元素を含有する遷移金属含有膜が表面に形成されたウエハが載置された処理室内に錯体化ガスを供給し、錯体化ガスの成分である有機化合物を遷移金属含有膜に吸着させる第1の工程と、有機化合物が遷移金属含有膜に吸着したウエハを加熱し、有機化合物と遷移金属元素とを反応させて有機金属錯体に変換し、有機金属錯体を脱離させる第2の工程とを有し、有機化合物はルイス塩基性を有し、遷移金属元素と2座以上の配位結合を形成し得る多座配位子分子である。
【発明の効果】
【0014】
遷移金属を含有する膜の表面の荒れを抑制しながらエッチング処理を実現する。
【0015】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】半導体製造装置の全体構成の概略を示す図である。
【
図2】処理対象の膜をエッチングする処理のフローチャートである。
【
図3】エッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【
図4】エッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【
図5】エッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、遷移金属を含有する膜のエッチングが進行している間の反応機構についてさまざまな観点から検証および再検討を行ない、処理対象の膜に対して、その遷移金属元素の価数を制御し、特定の分子構造を有するルイス塩基を含む有機ガスに曝露させたとき、熱安定性が高く、高揮発性の有機金属錯体を生成できるという現象を見出した。本発明は、この現象を活用して高効率なエッチングを実現するものである。
【0018】
ルイス塩基は、その定義により、供与可能な非共有電子対を分子内に有している。ルイス塩基は処理対象の膜の遷移金属元素の陽電荷にこの非共有電子対を供与することによって、電子供与+逆供与型の強固な配位結合を形成して熱的に安定な有機金属錯体(錯体化合物)を形成する。また、生成された有機金属錯体の内部では、処理対象の膜の金属元素の陽電荷が有機ガス中に含まれているルイス塩基から供与される非共有電子対によって電荷的に中和される。このようにして電荷中和されることにより、隣接分子間に作用する静電的引力が消滅して揮発性(昇華性)を高めることができる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を
図1乃至5を用いて説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略するものとする。
【0020】
図1は、半導体製造装置の全体構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0021】
処理室1は円筒形の金属製容器であるベースチャンバ11により構成され、その中には被処理試料であるウエハ2を載置するためのウエハステージ4(以下、ステージ4と記す)が設置されている。プラズマ源にはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)放電方式を用いており、処理室1の上方には、石英チャンバ12とICPコイル34及び高周波電源20を備えたプラズマ源が設置されている。ICPコイル34は、石英チャンバ12の外側に設置されている。
【0022】
ICPコイル34にはプラズマ生成のための高周波電源20が整合器22を介して接続されている。高周波電力の周波数は13.56MHzなどの、数十MHzの周波数帯を用いるものとする。石英チャンバ12の上部には天板6が設置されている。天板6にはシャワープレート5が設置されており、その下部にはガス分散板17が設置されている。処理室1内にウエハ2の処理のために供給されるガス(処理ガス)はガス分散板17の外周から処理室1内に導入される。
【0023】
処理ガスは、集積マスフローコントローラ制御部51内に配置されガス種ごとに設置されたマスフローコントローラ50によって供給する流量が調整される。
図1の例では、少なくともAr、O
2、H
2が処理ガスとして処理室1に供給され、これらガス種のそれぞれに対応してマスフローコントローラ50-1,50-2,50-3が備えられている。なお、供給されるガスはこれらに限られない。また、集積マスフローコントローラ制御部51には、後述の通りウエハ2裏面とウエハ2が載置されるステージ4の誘電体膜上面との間に供給されるHeガスの流量を調節するマスフローコントローラ50-4も配置されている。
【0024】
本実施例では、処理ガスの少なくとも一部として液体原料から生成された錯体化ガスが用いられる。錯体化ガスは、錯体化ガス供給器47により液体原料を気化させたものである。錯体化ガス供給器47内部には液体原料である薬液44を収容するタンク45があり、周囲を覆うヒータ46によって薬液44が加熱され、タンク45上部に原料の蒸気が充満する。薬液44は、ウエハ2上にあらかじめ形成されている遷移金属元素を含有する膜(以下、遷移金属含有膜という)を揮発性の有機金属錯体へと変換するための成分である錯体化ガスの原料液であり、生成した原料蒸気はマスフローコントローラ50-5で流量を制御され、所定の流量、速度で導入されることにより、処理室1内で処理に適した所望の濃度のガスとなる。原料蒸気が処理室1内に導入されない間は、バルブ53,54を閉じ、液体原料を処理室1から遮断する。さらに原料蒸気を流す配管は、配管内で原料蒸気が凝縮しないように配管を加熱することが望ましい。
【0025】
処理室1を減圧するため、処理室1の下部は真空排気配管16によって排気機構15と接続されている。排気機構15は、例えば、ターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプで構成されるものとする。また、処理室1や放電領域3の圧力を調整するため、処理室1内から排出される内部のガスやプラズマの粒子の流量を真空排気配管16の流路断面積(真空排気配管16の軸方向に垂直な面での断面積)を増減させて調節する。このため、流路内を横切る方向に軸が配置され、軸周りに回転する複数枚の板状のフラップや、流路内部をその軸方向を横切って移動する板部材から構成された調圧機構14が排気機構15の上流側に設置されている。
【0026】
ステージ4とICPプラズマ源を構成する石英チャンバ12との間には、ウエハ2を加熱するためのIR(Infrared:赤外線)ランプユニットが設置されている。IRランプユニットは、ステージ4の上面上方でリング状に配置されたIRランプ62、IRランプ62の上方でIRランプ62を覆うように配置され、IR光を反射する反射板63、IR光透過窓74を備えている。IRランプ62は、ベースチャンバ11または円筒形のステージ4の上下方向の中心軸の周りに同心状または螺旋状に配置された多重の円形状のランプが用いられる。IRランプ62から放射される光は、可視光から赤外光領域の光を主とする光を放出するものとし、ここではこのような光をIR光と呼ぶ。
図1に示す構成例では、IRランプ62として3周分のIRランプ62-1,62-2,62-3が設置されているが、2周、4周などとしてもよい。
【0027】
IRランプ62にはIRランプ用電源64が接続されており、高周波電源20で発生するプラズマ生成用の高周波電力のノイズがIRランプ用電源64に流入しないようにするための高周波カットフィルタ25が設置されている。また、IRランプ用電源64は、IRランプ62-1,62-2,62-3に供給する電力を互いに独立に制御できる機能を有し、ウエハ2の加熱量の径方向分布を調節できる。
【0028】
IRランプユニットの中央には、マスフローコントローラ50から石英チャンバ12の内部に供給されたガスを処理室1に流すための、ガスの流路75が形成されている。ガスの流路75には、石英チャンバ12の内部で発生させたプラズマ中で生成されたイオンや電子を遮蔽し、中性のガスや中性のラジカルのみを透過させてウエハ2に照射するための、複数の穴の開いたスリット板(イオン遮蔽板)78が配置されている。
【0029】
ステージ4には、ステージ4を冷却するための冷媒の流路39が内部に形成されており、チラー38によって冷媒が循環供給される。また、ウエハ2を静電吸着によってステージ4に固定するため、板状の電極板である静電吸着用電極30がステージ4に埋め込まれており、それぞれに静電吸着用のDC(Direct Current:直流)電源31が接続されている。
【0030】
また、ウエハ2を効率よく冷却するため、ステージ4に載置されたウエハ2の裏面とステージ4上面との間に、Heガスが供給される。Heガスは開閉バルブ52が配置された供給経路を通して供給され、マスフローコントローラ50-4によって流量、速度が適切に調節される。Heガスは、供給経路と連通して連結されたステージ4内部の通路を通りウエハ2が載せられるステージ4上面に配置された開口からウエハ2裏面とステージ4上面との間の隙間に導入される。これにより、ウエハ2とステージ4および内部の流路39を流れる冷媒との間の熱伝達を促進する。
【0031】
また、静電吸着用電極30を作動させてウエハ2を静電吸着したまま加熱や冷却を行っても、ウエハ2の裏面に傷がつかないようにするため、ステージ4のウエハ載置面はポリイミド等の樹脂でコーティングされている。
【0032】
ステージ4の内部には、ステージ4の温度を測定するための熱電対70が設置されており、この熱電対は熱電対温度計71に接続されている。さらに、ウエハ2の温度を測定するための光ファイバ92-1,92-2が、それぞれウエハ2の中心部付近、ウエハ2の径方向ミドル付近、ウエハ2の外周付近の3箇所に設置されている。光ファイバ92-1は、外部IR光源93からのIR光をウエハ2の裏面にまで導いてウエハ2の裏面に照射する。一方、光ファイバ92-2は、光ファイバ92-1によって照射されたIR光のうちウエハ2で吸収及び反射されたIR光を集めて分光器96へ伝送する。
【0033】
具体的には、外部IR光源93で生成された外部IR光は、光路をオン/オフさせるための光路スイッチ94へ伝送された後、光分配器95で光路を複数(この例では3つ)に分岐され、3系統の光ファイバ92-1を介してウエハ2の裏面側のそれぞれの位置に照射される。また、ウエハ2で吸収及び反射されたIR光は光ファイバ92-2によって分光器96へ伝送され、検出器97でスペクトル強度の波長依存性のデータを得る。得られたスペクトル強度の波長依存性のデータは制御部40の演算部41に送られて、吸収波長が算出され、これを基準にウエハ2の温度を求めることができる。なお、光ファイバ92-2の途中には光マルチプレクサ98が設置されており、ウエハ中心、ウエハミドル、ウエハ外周のどの計測点における光を分光計測するかを切り替えられるようになっている。これにより演算部41では、ウエハ中心、ウエハミドル、ウエハ外周ごとのそれぞれの温度を求めることができる。
【0034】
図1において、60は石英チャンバ12を覆う容器であり、81はステージ4とベースチャンバ11の底面との間で真空封止するためのOリングである。
【0035】
制御部40は、高周波電源20からICPコイル34への高周波電力供給のオン/オフを制御する。また、集積マスフローコントローラ制御部51を制御して、それぞれのマスフローコントローラ50から石英チャンバ12の内部へ供給するガスの種類及び流量を調整する。この状態で制御部40は排気機構15を作動させるとともに調圧機構14を制御して、処理室1の内部が所望の圧力となるように調整する。
【0036】
更に、制御部40は、静電吸着用のDC電源31を作動させてウエハ2をステージ4に静電吸着させ、Heガスをウエハ2とステージ4との間に供給するマスフローコントローラ50-4を作動させた状態で、熱電対温度計71で測定したステージ4の内部の温度、及び/または検出器97で計測したウエハ2の中心部付近、半径方向ミドル部付近、外周付近のスペクトル強度情報に基づいて演算部41で求めたウエハ2の温度分布情報に基づいて、ウエハ2の温度が所定の温度範囲になるようにIRランプ用電源64、チラー38を制御する。
【0037】
次に、
図2乃至
図4を用いて、本実施例の半導体製造装置がウエハ2を処理する流れについて説明する。
図2は、
図1に示す半導体製造装置がウエハ上に形成された処理対象の膜をエッチングする処理のフローチャートである。処理対象の膜は遷移金属含有膜である。エッチング処理に係る半導体製造装置100の各工程で実施される、処理室1内への処理ガスの導入、排気やIRランプ62のIR光の照射によるウエハ2の加熱等の動作は制御部40によって制御される。
【0038】
ベースチャンバ11の側壁には、別の真空容器である真空搬送容器が連結されている。真空搬送容器内部には、複数のアームを備えた搬送ロボットが配置されている。ウエハ2はアーム先端のハンド上に保持されて、真空搬送容器の搬送用の空間内を搬送され、ベースチャンバ11のゲートを通って処理室1内に導入される。ステージ4のウエハ2の載置面を構成する上面には、酸化アルミや酸化イットリウムを含む誘電体製の膜が配置されている。ウエハ2は、ステージ4の誘電体膜上に保持され、誘電体膜内に配置されたタングステン等金属製の膜に供給された直流電力により生起された静電気力による膜上面の把持力によって吸着固定される。
【0039】
ウエハ2の上面には、あらかじめ半導体デバイスの回路の構造を構成するパターン形状に加工された遷移金属含有膜を含む積層膜構造が形成されており、処理対象の膜(遷移金属含有膜)の表面の一部が露出した状態となっている。
【0040】
遷移金属含有膜としては、例えば、酸化ランタン(La2O3)、コバルト、銅、タングステン、チタン、酸化ハフニウムなどが挙げられるが、ここに例示した遷移金属元素を含有する膜に限定されるものではない。処理対象の膜を含む膜構造は、公知のスパッタ法、PVD(物理的気相成長:Physical Vapor Deposition)法、ALD(原子層堆積:Atomic Layer Deposition)法、CVD(化学的気相成長:Chemical Vapor Deposition)法などを用いて所望の回路を構成できる膜厚となるように成膜される。また、回路のパターンに則った形状となるようフォトリソグラフィー技術を使って加工されていることもある。
【0041】
半導体製造装置100は、表面に露出した処理対象の遷移金属含有膜を選択的なエッチングによって除去する。この選択エッチングの際に、以下に説明するようなプラズマを用いないドライエッチング技術を適用する。なお、エッチング処理に先立って、遷移金属含有膜の遷移金属元素の価数を調整するため、酸化あるいは還元処理を行う場合もある。遷移金属元素の価数によっては、錯体化ガスと結合して有機金属錯体を形成しないためである。したがって、本実施例で処理対象とする遷移金属含有膜は酸化膜でもよく、金属膜であってもよい。いずれの膜であってもエッチング処理に際して、酸化または還元処理を行って膜中の遷移金属元素を適切な価数に制御することにより、本実施例のエッチング処理を適用できる。この遷移金属元素の価数を調整する処理は、エッチング処理する膜厚により、後述するエッチング処理の1サイクルごとに実行してもよい。
【0042】
ステージ4にウエハ2が保持された状態で、ウエハ2とステージ4との間の隙間にマスフローコントローラ50-4により流量または速度が調節されたHeガスがステージ4上面の開口から導入され、両者の間の熱伝達が促進されてウエハ2の温度が調節される。ウエハ2の温度(以下、基板温度という)が第1の温度T1またはそれ以下に到達した(本例では冷却された)ことが制御部40により検出されると、処理対象の遷移金属含有膜のエッチング処理が開始される。制御部40は光ファイバ92を用いた分光計測によりウエハ2の温度を測定して基板温度としてもよく、熱電対温度計71が計測したステージ4の温度から基板温度を推定してもよい。
【0043】
ステップS101は、ウエハ2の表面に形成された処理対象の遷移金属含有膜について、エッチングされるべき残り膜厚を判定するステップである。本ステップでは、ウエハ2が搬入されてから初めてエッチング処理を施す場合および既にエッチング処理が施されている場合との両方の場合において、製造される半導体デバイスの設計、仕様の値とを適宜参照して、処理対象の膜の残り膜厚(以下、加工残量という)が制御部40において算出される。制御部40の演算部41は、制御部40の記憶装置に格納されたソフトウエアを読み出し、そのアルゴリズムに沿って、処理室1に搬入される前のウエハ2に実施された処理による累積の加工の量(累積加工量)の値と処理室1に搬入された後に実施された処理による累積の加工の量とを算出し、ウエハ2の設計、仕様の値に基づいて追加の加工が必要か否かを判定する。
【0044】
加工残量が0または0とみなせる程度に十分に小さいとしてあらかじめ定められた許容値δ0より小さいと判定された場合には、処理対象の膜のエッチング処理を終了する。一方、加工残量が0でない(あるいは許容値δ0以上である)と判定された場合には、ステップS102に移行する。ステップS102では、加工残量が所定の閾値と比較されてこれより多いか少ないか(大きいか小さいか)が判定される。閾値より多いと判定された場合にはステップS103Bに移行し、少ないと判定された場合にはステップS103Aに移行する。
【0045】
半導体製造装置100において処理室1に搬送されたウエハ2に対して
図2に示された処理が1回以上施された結果としての累積加工量は、ステップS102~ステップS109からなる一纏まりの処理サイクルの累積回数と、あらかじめ取得された当該処理サイクル1回あたりの加工量(加工レート)とから簡易的に求めることができる。ウエハ2の表面分析や図示しない残り膜厚の検出器からの出力により、あるいはこれらの組み合わせから加工量を算出してもよい。
【0046】
ステップS102で加工残量が所定の閾値より大きいと判定された場合には、ステップS103Bに移行して、ステップS106Bまでの工程(工程B)を実施する。一方、ステップS102で加工残量が所定の閾値以下と判定された場合には、ステップS103Aに移行して、ステップS107Aまでの工程(工程A)を実施する。工程Aまたは工程Bにより、処理対象の膜のエッチング処理が実施され、残り膜厚が低減される。
【0047】
以下、
図2とともに、
図3または
図4を参照して、半導体製造装置100による遷移金属含有膜をエッチングする処理の流れを説明する。
図3及び
図4は、半導体製造装置が実施するウエハ上の処理対象の遷移金属含有膜のエッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートであり、
図3には「加工残量>閾値」の場合(ステップS102)に実施される工程Bのタイムチャート、
図4には「加工残量≦閾値」の場合(ステップS102)に実施される工程Aのタイムチャートを示している。それぞれ、エッチング処理中のウエハ2の加熱および冷却、ガス供給および排気の動作を模式的に示しており、実際に生じる温度、温度勾配や必要な制御時間は被エッチング材(遷移金属含有膜)、錯体化材(有機化合物)の種類、半導体デバイスの構造等に依存して異なるものになる。
【0048】
ステップS102の判定結果が「加工残量>閾値」となった場合には、ステップS103Bに移行して、処理室1内部に錯体化ガスの供給が開始される。錯体化ガスは、遷移金属含有膜を、揮発性を有する有機金属錯体へと変換するための有機物を含むガスであり、タンク45に溜められた薬液44の蒸気が錯体化ガス供給マスフローコントローラ50-5により、流量または速度が処理に適した範囲内の値となるように調節されて供給される。錯体化ガスの供給条件(供給量、供給圧力、供給時間、ガス温度等)や錯体化ガスの種類は、当該遷移金属含有膜の元素組成、形状、膜厚、錯体化ガスの沸点を考慮して決定される。制御部40がその記憶装置内に格納されたソフトウエアに記載のアルゴリズムに沿って供給条件を選択し、供給条件に応じた指令信号を各機構に発信する。
【0049】
ステップS103Bは、処理対象の遷移金属含有膜の表面に錯体化ガスの粒子の物理吸着層を形成させる工程である。この工程は、基板温度を錯体化ガスの沸点と同等かそれよりも低い温度範囲(
図3では第1の温度T
1)に維持して実施される。1回の工程でエッチングする必要最小限の層数の物理吸着層が形成されたときに本ステップを終了する。この層数は、所望の加工精度と加工量とを考慮して選択される。形成される物理吸着層は主に処理対象の膜の表面状態や温度、ガスの圧力で決まるため、供給条件に応じてあらかじめ定められた時間が経過したところでステップS104Bに移行する。
【0050】
ステップS104Bでは、錯体化ガスの供給は継続したままIRランプ62にIRランプ用電源64から電力を供給してIR光を放射させる。IR光によりウエハ2が加熱され、基板温度は速やかに第2の温度T2に昇温する。ウエハ2が第1の温度T1より高い第2の温度T2まで昇温され維持されている期間において、遷移金属含有膜の材料の反応性が活性化され、膜への錯体化ガスの粒子の吸着の状態が物理吸着から化学吸着に変化する。
【0051】
次のステップS105Bでは、錯体化ガスの供給は継続したまま、IRランプ62によりウエハ2をさらに過熱し、基板温度を第2の温度T2より高い第4の温度T4まで昇温する。ウエハ2が昇温され、膜に化学吸着した錯体化ガスの粒子に活性化エネルギーが与えられることにより、有機金属錯体への変換が開始される。ウエハ2が第2の温度T2より高い第4の温度T4まで昇温され維持されている期間においては、(1)遷移金属含有膜表面に生成した有機金属錯体が揮発して、膜表面から脱離し除去される第1の現象、及び(2)継続的に供給されている錯体化ガスが遷移金属含有膜と反応して揮発性の有機金属錯体に変換される第2の現象が並行して進行する。この期間での処理対象の膜表面の特定の小さな領域を微視的に見れば、当該領域の膜表面で(1)→(2)→(1)→(2)という順で膜表面の錯体の揮発(脱離)による除去と新しい錯体の変換および形成とが断続的あるいは段階的に現象が進行している。しかしながら、処理対象の膜を全体として見た場合には、実質的に連続的なエッチングが進行していると捉えることができる。
【0052】
所定の期間、錯体化ガスがウエハ2に供給され、基板温度が第4の温度T4に維持されることにより、実質的に連続的なエッチングが継続され、所望のエッチング量に達した後、ステップS106Bに移行して錯体化ガスの供給を停止する。一方で、処理室1内は排気機構15により真空排気配管16を通じて排気し続けられており、ステップS106Bにおける錯体化ガスの供給の停止、ウエハ2の冷却(S108)を含む複数の工程においても排気が継続して行われることにより、処理室1内のガスや生成物の粒子が処理室1の外部に排出される。
【0053】
これに対して、ステップS102の判定結果が「加工残量≦閾値」となった場合には、ステップS103Aに移行して、処理室1内部に錯体化ガスの供給が開始される。ステップS103Aにおいて必要最小限の層数の物理吸着層が形成された後、ステップS104Aに移行して、IRランプ62からのIR光の照射によりウエハ2を加熱して基板温度を速やかに第2の温度T2に昇温させる。
【0054】
工程Bと同様に、工程Aにおいても錯体化ガスの供給条件や錯体化ガスの種類は、当該遷移金属含有膜の元素組成、形状、膜厚、錯体化ガスの沸点を考慮して決定され、制御部40がその記憶装置内に格納されたソフトウエアに記載のアルゴリズムに沿って供給条件を選択し、供給条件に応じた指令信号を各機構に発信する。ウエハ2が第1の温度T1より高い第2の温度T2まで昇温され維持されている期間において、遷移金属含有膜表面の材料の反応性が活性化され、工程Bの場合と同様に、膜表面への錯体化ガスの粒子の吸着の状態が物理吸着から化学吸着に変化する。
【0055】
錯体化ガスが遷移金属含有膜に化学吸着した状態では、錯体化ガスの分子と遷移金属含有膜に含まれる遷移金属原子とは化学的な結合で強固に固定されている。言い換えると、錯体化ガス分子は、遷移金属含有膜の表面に「ピン止め」されているといえ、その結果として、化学吸着した錯体化ガス分子の拡散速度は遅い。
【0056】
次のステップS105Aでは錯体化ガス供給を停止して、処理室1の内部を排気する。処理室1の内部を排気することにより、遷移金属含有膜に化学吸着している状態の錯体化ガスを残すほかは、未吸着状態や物理吸着状態となっている錯体化ガスは全て処理室1の外に排気・除去される。
【0057】
次に、制御部40からの指令信号によりステップS104Aから継続してウエハ2に照射するIRランプ62からのIR光の照射量が大きくされて、基板温度を第3の温度T3へ昇温させる(ステップS106A)。その後、ウエハ2は第3の温度T3に所定の期間だけ維持される。ウエハ2が第3の温度T3まで昇温され維持されている期間において、遷移金属含有膜表面に化学吸着している状態の錯体化ガスの粒子は、膜表面の材料との反応により揮発性の有機金属錯体へと徐々に変換される。このとき、化学吸着により固定された錯体化ガス以外の錯体化ガスは処理室1内に存在していないので、生成する有機金属錯体層の厚みは、化学吸着層の厚みと同等あるいはそれ以下となる。
【0058】
その後、IRランプ62からのIR光の照射量がさらに増大され、基板温度を第4の温度T4へ昇温させ(ステップS107A)、その後、ウエハ2は第4の温度T4に所定の期間だけ維持する。ウエハ2が第4の温度T4まで昇温され維持されている期間において、膜表面に形成された有機金属錯体が脱離することにより、処理対象の膜表面から除去される。
【0059】
以上説明した、ステップS103A→ステップS104A→ステップS105A→ステップS106A→ステップS107Aの一連のステップで構成される工程Aと、ステップS103B→ステップS104B→ステップS105B→ステップS106Bの一連のステップで構成される工程Bとは、ウエハ2の遷移金属含有膜の表面に化学吸着層を生成するまでは同様であるが、化学吸着層が有機金属錯体へ変換されるその後のステップ以降は異なる動作の流れを有している。
【0060】
工程Aでは、錯体化ガスの供給を停止した状態で基板温度が第4の温度T4まで昇温、維持される期間に、化学吸着層から変換された1層~数層程度の有機金属錯体の脱離が終了し、その直下にある遷移金属含有膜が露出することにより反応は終息する。これに対して、工程Bでは錯体化ガスの供給を継続したまま基板温度が第4の温度T4まで昇温、維持されるため、化学吸着層から変換された1層~数層程度の有機金属錯体の脱離が終了して、その直下にある未反応の遷移金属含有膜が露出しても、露出した膜は第4の温度T4に加温されて活性度が増加しているので、錯体化ガスと遷移金属含有膜とが接触すると物理吸着、化学吸着、錯体変換の過程が一気に進行し、錯体化ガスの接触から直ちに有機金属錯体への変換が生じる。さらに、生成した有機金属錯体が速やかに脱離することで、全体として連続的な処理対象の膜のエッチングが進行する。
【0061】
このため、工程Bの基板温度が第4の温度T4まで昇温、維持された期間におけるエッチング処理では、遷移金属含有膜の高活性な微小の領域、例えば、金属結晶粒界や特定の結晶方位などが優先的に有機金属錯体へ変換されて除去されるという現象を呈し、凹凸が増大して粗面化が進む。これは、錯体化ガスの接触から直ちに有機金属錯体への変換が生じるため、たまたま錯体化ガスの接触した膜の表面が高活性領域であれば直ちに有機金属錯体へ変換されて除去される一方、錯体化ガスの接触した膜の表面が高活性領域でなければ物理吸着を起こすことなく錯体化ガスの成分である有機化合物が膜表面から離れてしまうためである。
【0062】
これに対して、工程Aのエッチング処理では、化学吸着層を形成するのは基板温度を第2の温度T2に昇温し、維持している期間に限られている。このような比較的低温での化学吸着層の形成過程では化学吸着層が自己組織的に面配向成長することによって、処理後の遷移金属含有膜の表面は平坦化が進む。すなわち、物理吸着から化学吸着への変化は、立体構造を有する錯体化ガスの分子が特定の向きで膜表面に配向吸着している場合に速やかに進行する。膜表面の活性度が高くない状態では、物理吸着によって保持された錯体化ガスは、膜表面から離れることなく、特定の向きに変えて安定化する(面配向成長)ことにより、膜表面の微視的な活性度の影響がエッチング処理結果にあらわれることを抑制できる。
【0063】
なお、工程A、工程Bのいずれの場合においても、第4の温度T4は、錯体化ガス分子分解開始温度及び有機金属錯体分子の分解開始温度よりも低く、かつ、有機金属錯体分子の気散(気化蒸散)開始温度と同じまたはよりも高くなるように設定される。なお、有機金属錯体が遷移金属含有膜から脱離する現象は厳密には揮発、昇華などありうるが、ここでは現象の区別は重要ではないので、包括的して気化、あるいは気散と表現することもある。有機金属錯体分子の分解開始温度と気散開始温度との温度差が小さく、半導体製造装置100の仕様、例えば、ステージ4上面の面方向についての温度の均一性に対して不十分な場合には、有機金属錯体分子の気散開始温度を低下させるための既存の方法、例えば、平均自由工程を広げるために処理室1内を減圧する等の方法を適用してもよい。
【0064】
工程Aまたは工程Bが終了すると、ステップS108に移行してウエハ2の冷却を開始する。ステップS109において第1の温度T1に基板温度が到達したことを、光ファイバ92を用いた分光計測、あるいは熱電対温度計71の出力から制御部40が検出するまでウエハ2の冷却を継続する。
【0065】
ステップS108では、ステージ4とウエハ2との間に冷却ガスを供給することが望ましい。冷却ガスとしては、例えばHeやArなどが好適であり、Heガスを供給すると短い時間で冷却できるので加工生産性が高まる。ただし、ステージ4の内部にはチラー38に接続された冷媒の流路39が設けられているので、ステージ4の上に静電吸着していれば、冷却ガスを流さない状態でもウエハ2を冷却できる。
【0066】
制御部40は、ウエハ2の温度が第1の温度T1に到達したことを検出すると、ステップS101に戻って加工残量が0に到達したか否かを判定する。加工残量が0に到達したと判定されればウエハ2の処理対象の膜のエッチング処理が終了され、0より大きいと判定された場合には再度ステップS102に移行して工程Aまたは工程Bの何れかの処理が実施される。
【0067】
ウエハ2の処理を終了する場合は、制御部40からの指令信号に応じて、マスフローコントローラ50-4からHeガスの供給経路を通してステージ4上面の開口からステージ4上面とウエハ2裏面との間の隙間に供給されていたHeガスの供給が停止される。さらに、Heガス供給経路と真空排気配管16との間を連通する捨てガス経路上に配置されたバルブ52を閉塞状態から開放状態として、当該隙間のHeガスを処理室1外に排出することにより隙間内の圧力を処理室1内の圧力と同程度にするとともに、静電気の除去を含むウエハ2の静電吸着の解除を実施する。この後、ベースチャンバ11のゲートが開放されて真空搬送容器から進入した搬送ロボットのアーム先端にウエハ2が受け渡される。次に処理すべきウエハ2がある場合には再度搬送ロボットのアームが未処理のウエハ2を保持して進入し、処理すべきウエハ2がない場合にはゲートが閉塞されて、半導体製造装置100による半導体デバイスを製造する運転が停止する。
【0068】
なお、工程Aまたは工程Bで設定される第2の温度、第4の温度は、工程A,Bの間で同じ値であっても異なっていてもよい。さらに、処理対象の膜をエッチングするために、
図2に示される工程Aまたは工程Bを含むサイクルを1回以上繰り返し実施する場合、第1~第4の温度はサイクルの間で同じであっても異なっていてもよい。これらの温度は、ウエハ2のエッチング処理前に事前に慎重に検討されて、第1~第4の温度のそれぞれについて、適切な温度範囲が設定されている。制御部40はその記憶装置に格納された設定された温度範囲の情報を読み出して、半導体製造装置100に求められる性能や対象のウエハ2の仕様に応じて各サイクルの工程A、工程Bのウエハ2の処理の条件の一つとして各ステップの温度を設定する。
【0069】
次に、半導体製造装置100で実施される半導体製造方法を、具体例を挙げつつ説明する。
【0070】
まず、ウエハ2のエッチング処理(
図2)を開始する前に、ウエハ2をステージ4上に吸着し保持した後、処理室1の内部を減圧してウエハ2を加熱する。ウエハ2が加熱されて基板温度が上昇することにより、ウエハ2の表面に吸着されている気体(水蒸気など)や異物が脱離する。ウエハ2の表面に吸着されているガス成分が十分に脱離したことが確認されると、処理室1内部は減圧された状態のまま、ウエハ2の加熱を停止し、ウエハ2の冷却を開始する。この工程において加熱や冷却は公知の手段を用いればよい。なお、異物除去には、処理室1内に形成したプラズマによる表面の灰化(アッシング)やクリーニングなどの公知の方法を用いてもよい。
【0071】
基板温度が低下して予め定められた第1の温度T
1あるいはそれ以下に到達したことが制御部40で検出されると、
図2に示されたフローチャートにしたがってウエハ2の処理が行なわれる。なお、ウエハ2が処理の開始前、例えば処理室1内に搬入される前に、ウエハ2の処理対象の遷移金属含有膜を処理する際のガスの種類や流量、処理室1内の圧力等の処理の条件、所謂処理のレシピが制御部40において選択される。例えば、ウエハ2の刻印等を利用して各ウエハ2のID番号を取得し、制御部40に接続された図示しないネットワーク等通信用の設備を通して生産管理データベースからデータを参照して当該番号に対応するウエハ2の処理の来歴やエッチング処理の対象の膜の組成や厚さ、当該対象の膜をエッチングする量(目標とする残り膜厚さ、エッチングする深さ)やエッチングの終点の条件等のデータを取得する。
【0072】
例えば、ウエハ2に実施する処理が、初期の厚さが所定の閾値より小さい0.3nmの酸化ランタン膜を除去するエッチング処理である場合には、ランタン(3+)および酸素(2-)のイオン半径はそれぞれ約1.0オングストローム、約1.3オングストロームであることから、ほぼ原子または分子層1層分の酸化ランタンを除去する処理であることが判定され、
図2のステップS102における「加工残量≦閾値」と判定された後に移行する工程Aのフローに従って膜の処理を実施するよう、制御部40から半導体製造装置100を構成する各部にその動作を調節する指令信号が発信される。
【0073】
一方、ウエハ2に実施する処理が、所定の閾値を超える3nmの酸化ランタン膜を除去する処理である場合には、約10層分あるいはそれ以上の酸化ランタン層を除去しなければならない。工程Aのフローにより例えば1層ずつエッチングする場合には、工程Aのフローを10回以上繰り返すことになり、生産性が損なわれてしまうおそれがある。そこで、先ず、複数層(例えば5~6層)を纏めて除去し、その後に残る膜層を1層ずつ除去する処理を行う。具体的には、ステップS102で「加工残量>閾値」と判定してステップS103Bに移行し、工程Bのフローに従って処理対象の膜を処理した後、工程Aのフローを少なくとも1回実施する。
【0074】
工程A及び工程Bの最初のステップであるステップS103A,S103Bは、遷移金属含有膜の表面に錯体化ガスの物理吸着層を形成させる処理であり、錯体化ガスの沸点と同等かそれよりも低い温度にウエハ2を維持して実施される。錯体化ガスの詳細は後述するが、ルイス塩基を含む有機化合物を主たる有効成分として含むガス(有機ガス)である。このような有機化合物として、例えば、沸点約200℃の有機化合物を用いる場合には、180℃程度、あるいは最高温度が約200℃までの温度範囲にて実施する。
【0075】
有機ガスの成分としてサリチルアルデヒド(沸点約200℃)を使用する場合、好ましい第1の温度T1は100℃程度から180℃であり、さらに好ましくは120℃から160℃の範囲である。第1の温度T1が100℃を下回ると、温度を昇降させるための時間が長く掛かるため、生産性が低くなってしまうおそれがある。一方で、第1の温度T1が180℃を上回ると、サリチルアルデヒドの吸着の効率が低下してしまい短時間で吸着を行わせるためにサリチルアルデヒドのガスの流量を大きくしなければならなくなり、運転のコストが増大してしまうおそれがある。
【0076】
遷移金属含有膜の表面に物理吸着層が形成された後、ステップS104A,S104Bにおいてウエハ2は速やかに第2の温度T2に昇温され、遷移金属含有膜の表面の錯体化ガスの吸着状態を物理吸着状態から化学吸着状態に変化させる。この工程における昇温により、膜の表面に吸着した錯体化ガスの粒子の吸着状態に変化を引き起こすための活性化エネルギーが与えられる。
【0077】
第2の温度T2は、遷移金属含有膜の表面の状態と錯体化材の特性(反応性)との両者の影響を考慮して決定される。例えば、処理対象膜としての酸化ランタン膜に対してサリチルアルデヒドを主成分とする錯体化用の有機ガスが供給された場合、第2の温度T2の好適な範囲は120℃から210℃程度となる。第2の温度T2が120℃よりも低いと化学吸着層への変換に要する時間が長くかかり、第2の温度T2が210℃を超えると化学吸着状態で留まらずに有機金属錯体にまで変換されてしまい、膜厚の制御性が低下してしまうおそれが高くなる。
【0078】
エッチング量が大きい場合、例えば、3nmを超える膜厚の酸化ランタン膜をエッチングで除去する場合には、工程Bのフローにしたがって、サリチルアルデヒドなどの錯体化ガスの供給を維持したまま、赤外線加熱をさらに続けて第4の温度T4にまで昇温させる(ステップS105B)。第4の温度T4は、遷移金属含有膜の遷移金属元素と錯体化ガスとが反応して生成する揮発性有機金属錯体や錯体化ガスの熱分解が生じる温度よりも低く、かつ有機金属錯体が気化を開始する温度と同じまたはそれ以上の温度に設定される。ステップS106Bで錯体化ガスの供給が停止されるまでの期間、ウエハ2の温度が第4の温度T4以上の温度に維持され、ウエハ2上面の遷移金属含有膜の表面が実質的に連続してエッチングされる。
【0079】
エッチング量が少ない場合、例えば、0.3nmの膜厚の酸化ランタン膜をエッチングで除去する場合には、工程Aのフローにしたがって、サリチルアルデヒドなどの錯体化ガスの供給を停止して、処理室1の内部を排気して処理に影響を及ぼす粒子を排出した(ステップS105A)後に、ウエハ2を加熱して第3の温度T3まで昇温させる(ステップS106A)。遷移金属含有膜の温度が第3の温度T3にされ所定期間維持されることで膜表面に生成された化学吸着層が有機金属錯体に変換される。
【0080】
第3の温度T3は、第2の温度T2と同等またはこれより高く、かつ有機金属錯体分子の気散開始温度よりも低い範囲内の温度に設定される。半導体製造装置100の温度制御の安定性や基板温度の温度計測精度などを考慮して、上述の適正温度範囲内で設定する。遷移金属含有膜として酸化ランタン膜、錯体化ガスとしてサリチルアルデヒドを主成分とする混合ガスを用いるエッチング処理の場合では、有機金属錯体分子の気散開始温度は約320℃であるから、第3の温度T3の適正温度範囲は120℃から310℃である。
【0081】
IRランプ62からのIR光のウエハ2への照射が継続され、ウエハ2の温度がステップS106Aで設定される第3の温度T3に所定の期間維持された後に、ステップS107AにおいてIR光の照射強度をさらに大きくしてウエハ2の温度を第4の温度T4に昇温させる。ウエハ2の温度が第4の温度T4に維持されることにより、化学吸着層から変換された1から数層程度の有機金属錯体が揮発し除去される。
【0082】
有機金属錯体が除かれてその直下にある遷移金属含有膜あるいは遷移金属含有膜の下に配置されているシリコン化合物などの層が露出した時点で、反応は終息する。なお、遷移金属含有膜として酸化ランタン膜、エッチング用有機ガスとしてサリチルアルデヒドを主成分とする混合ガスを用いた処理の場合、第4の温度T4の好適な範囲は310℃から390℃である。第4の温度T4が310℃よりも低温だと気化する速度が遅くて処理の効率が損なわれてしまい、逆に第4の温度T4が390℃を超えると有機金属錯体の分解するおそれが高くなるからである。
【0083】
図5は、半導体製造装置が実施するウエハ上の処理対象の遷移金属含有膜のエッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートであり、工程Aの代替フローとして位置づけられる。このため、
図5には
図2のフローチャートのステップに相当するタイミングを、対応するステップの符号をCに置き換えた符号により表示している。ただし、
図5のタイムチャートの動作の流れは
図2のフローチャートのフロー通りではなく、工程Aとの比較のため、参考情報として表示している。
【0084】
制御部40はウエハ2の温度が予め規定された第1の温度T1あるいはそれ以下であることを検知した後、処理室1内に処理用のガスとしての有機ガスを供給して、処理対象の遷移金属含有膜の表面に有機ガスの粒子を吸着させて物理吸着層を形成させる処理(ステップS103C)が開始される。本処理では、ステップS103Cの開始の後、直ちにIRランプ62に電力を供給してIR光を放射させ、これによりウエハ2を加熱して基板温度を速やかに第2の温度T2に昇温させる。これにより、処理対象の膜の表面の有機ガスの粒子の吸着状態が物理吸着状態から化学吸着状態に変化する。
【0085】
あらかじめ定められた期間、ウエハ2が第2の温度T2に維持されつつ、処理室1内のウエハ上面への有機ガスの供給が継続される。このため、この期間には、遷移金属含有膜の表面に有機ガスの成分の物理吸着層が形成される反応と当該物理吸着層が化学吸着層に転換される転換反応とが並列して連続的に進行する。
【0086】
上述の通り、遷移金属含有膜の表面に形成された化学吸着層を介して遷移金属含有膜の内部に有機ガス分子が拡散する速度は遅いので、化学吸着層の膜厚は処理時間に対して飽和する。基板温度を第2の温度T2に保ちながら、所定期間有機ガスの供給を続け、化学吸着層の膜厚が飽和した後に有機ガスの供給を停止する(S105C)。
【0087】
半導体製造装置100は、有機ガスを供給開始前から排気機構15、調圧機構14により処理室1の内部圧が減圧状態に保っている。このため、有機ガスの供給を停止すると、膜表面に化学吸着している有機ガスを残すほか、未吸着状態や物理吸着状態となっている有機ガスは全て処理室1の外に排気・除去される。なお、処理室1の内壁等に物理吸着した有機ガスを処理室1の外への排気・除去を促進するため、少量のArガスを処理室1内部に供給し続けることが好ましい。
【0088】
Arガスの供給量や処理室1内の圧力は、被加工膜やエッチング用有機ガスの組成に応じて適宜調整が必要であるが、サリチルアルデヒドを主成分とするエッチング用有機ガスを用いて酸化ランタン膜をエッチングする場合には、Ar供給量200sccm以下、処理室内圧力は0.5から3Torr程度が好ましく、さらに好ましくは、Ar供給量は概略100sccm、処理室内圧力は1.5Torr程度である。処理室内圧力が3Torrを上回るときAr供給量は200sccmを超えて大きくなり、処理室1内でのエッチング用有機ガスの有効濃度が低くなって被加工膜表面への吸着効率が低下し、エッチング速度の低下を招くおそれが高まる。一方、処理室内圧力が0.5Torrを下回ると、処理室1内でのエッチング用有機ガスの滞留時間が短くなるため、エッチング用有機ガスの使用効率が低下しやすくなる。
【0089】
次に、IRランプ62を使った赤外線加熱により、第4の温度T4にまで昇温させ(S107C)、所定の期間、概略その温度で保持する。第4の温度T4への昇温および温度保持の過程で化学吸着層から有機金属錯体への変換と有機金属錯体の揮発除去が進む。
【0090】
有機金属錯体の揮発除去が終了して、その直下にある遷移金属含有膜あるいは遷移金属含有膜の下に配置されているシリコン化合物などの層が露出した時点で1サイクル分のエッチングが終了する。その後、IRランプ62を使った赤外線加熱を停止することにより、ウエハ2からの放熱によって温度が下がり始める。基板温度が第2の温度T2あるいはそれ以下の温度に到達すれば(S108)、1サイクル分の処理が終了となる。
【0091】
この後、ステップS103Cから始まる第2回目以降のサイクル処理を繰り返すことにより、所定膜厚のエッチングを実現できる。
図4に示した工程Aのフローと比較すると、第3の温度T
3にかかる温度階層を減らし、特に時間がかかるステップS108(冷却ステップ)の温度幅を(T
4-T
1)から(T
4-T
2)に狭めたことによって1サイクルあたりの時間を短縮することができる。第3の温度T
3にかかる温度階層を減らしたことにより、工程Aのフローよりもエッチング後の表面に粗さが生じるおそれはあるが、実用上問題のない程度に抑えることは可能である。
【0092】
なお、
図5のタイミングチャートの動作の流れを
図3または
図4のタイミングチャートの流れと組み合わせることも可能である。例えば、工程Aにおいて第3の温度T
3に維持する期間をなくして、錯体化ガスの供給を停止し、余分な錯体化ガスを処理室1から排気した後、直ちに第4の温度T
4に昇温してもよい。また、工程A、工程Bにおいて、
図5のタイミングチャートの動作のように、冷却後(ステップS109)の温度を第2の温度T
2に留めてもよい。
【0093】
続いて、好適なエッチング用有機ガスの成分について説明する。
【0094】
エッチング用有機ガスの主たる有効成分は、遷移金属原子に対して少なくとも2座以上の配位結合を形成し得る有機化合物、いわゆる多座配位子分子であって、ハロゲンを含まず、かつ、以下の分子構造式(1)~(3)のいずれかを有する有機化合物である。エッチング用有機ガスとする有機化合物は、1種類あるいは複数種類の有機化合物の混合物であってもよく、必要に応じて、これらを適切な希釈材に溶解させて薬液44とする。希釈材に溶解させることにより、希釈材が下記に示される分子構造式で表される成分の気化を促進し、さらに気化した希釈材がキャリアガスとして機能することにより、有機ガスのスムーズな供給が可能となる。
【0095】
分子構造式(1)は(化1)に示される分子構造である。ベンゼン環などを有する芳香族化合物であり、芳香族環に少なくとも1つのカルボニル基が結合しており、カルボニル基が結合した芳香族環上の炭素原子に隣接接続している炭素原子上にルイス塩基性を有する置換基(Y-X)であるOH基、OCH3基、NH2基、N(CH3)2基などを有する。芳香族環に結合するカルボニル基としてはZの位置にOHやNH2ではなく、HあるいはCH3が結合した化合物が好適である。
【0096】
【0097】
分子構造式(2)は(化2)に示される分子構造であり、少なくとも1つのルイス塩基性を有するN(窒素原子)を芳香族環内に有しており、N原子に隣接して接続している炭素原子上にC=C結合あるいはC=O結合を有する置換基(C=R2)が結合した化合物である。
【0098】
【0099】
分子構造式(3)は(化3)に例示される脂肪族トリアミン(n=1)、脂肪族テトラアミン(n=2)、脂肪族ペンタアミン(n=3)であって、任意の2個のN原子間にC2炭素鎖を有する化合物である。
【0100】
【0101】
(化1)に示される分子構造は、ベンゼン環に少なくとも1つのカルボニル基が結合しており、カルボニル基の炭素原子から3原子離れた場所に非共有電子対を有する原子(Y)が結合されている。(化1)ではルイス塩基性の非共有電子対を有する原子としてOまたはNを例示した。原子(Y)をS、Pなど他の非共有電子対を有する原子に置換することも可能であるが、その場合にはそれぞれ対応する有機金属錯体の気散開始温度が上昇する点に留意してプロセスの調整が必要となる。
【0102】
(化1)に示される分子構造ではカルボニル基に非共有電子対を有しないHあるいはCH3が結合している。カルボニル基に非共有電子対を有するOあるいはNが結合している場合、例えば、Z=OHの場合にはその沸点が高くなってエッチング用有機ガスとして供給することが困難となる傾向が強まる。なお、(化1)において、X=H、Y=O、Z=H、R=Hの場合がサリチルアルデヒドである。
【0103】
サリチルアルデヒドでは、原子(Y)、すなわちOの非共有電子対とカルボニル基のOの非共有電子対が遷移金属元素に供与される形で2本の配位結合が生成して有機金属錯体となる。配位結合は、電子供与+逆供与型の強固な結合であり、しかもその結合を2か所で形成しているため、得られるサリチルアルデヒド金属錯体は熱的に安定な錯体化合物となる。例えば、従来技術で例示されていた酢酸やギ酸と遷移金属元素との反応で得られる遷移金属の酢酸塩や遷移金属のギ酸塩では結合が1本である。2本の配位結合によって結合することにより、本実施例で例示するエッチング用有機ガスを用いて中間生成する有機金属錯体は、これらのカルボン酸塩類と比べて熱的な安定性が著しく改善されている。
【0104】
さらに、サリチルアルデヒドの場合でいえば、カルボニル基の炭素原子から3原子離れた場所にあるOH基(置換基(Y-X))はブレンステッド酸性を示す置換基であるが、カルボニル基の有する電子吸引的な特性およびカルボニル基O原子のルイス塩基性によって、分子内で部分的に中和された状態となっている。分子構造に極性基を有すると一般的に分子間引力は大きくなるが、分子内で部分的に電荷中和することでその影響を抑制することができる。
【0105】
(化1)に示される分子構造において、その芳香族性を担う部分分子構造であるベンゼン環も中間生成される有機金属錯体の熱安定性を高めている。ベンゼン環をナフタレン環、トロポロン環などの他の芳香族構造に置換することも可能であるが、他の芳香族構造に置換する場合にはそれぞれ対応する有機金属錯体の気散開始温度が上昇する点に留意してプロセスの調整が必要となる。
【0106】
(化2)に示される分子構造は、ピリジン環のN原子の隣接炭素原子に側鎖が結合しており、その側鎖には、C=C(炭素-炭素2重結合)またはC=O(炭素-酸素2重結合)とルイス塩基性を示す非共有電子対を有する原子(Y)とが結合されている。(化2)ではルイス塩基性の非共有電子対を有する原子(Y)としてOまたはNを例示している。
【0107】
側鎖が炭素-炭素2重結合の場合、ピリジン環のN原子の2個隣の炭素原子から延びる炭素鎖(R1)と連結されていてもかまわない。側鎖が炭素-炭素2重結合でピリジン環のN原子の2個隣の炭素原子から延びる炭素と連結されている例として、X=H、Y=O、R1~R2=ベンゼン環であるキノリノールが挙げられる。キノリノールでは、原子(Y)であるOの非共有電子対とピリジン環のNの非共有電子対とが遷移金属元素に供与される形で2本の配位結合を生成してキノリノール金属錯体が形成される。
【0108】
分子構造式(1)の場合と同様に、配位結合は電子供与+逆供与型の強固な結合であり、しかもその結合を2か所で形成しているため、得られる有機金属錯体は熱的に安定な錯体化合物である。また、キノリノールの場合でいえば、ピリジン環のN原子から3原子離れた場所にあるOH基(置換基(Y-X))はブレンステッド酸性を示す置換基であるが、ピリジン環のN原子の有するルイス塩基性によって、分子内で部分的に中和された状態となっており、キノリノール分子間の引力抑制、つまり、キノリノールの揮発性を高めることを通して、エッチング用有機ガス供給器47および制御部40の負荷を下げ、さらには、エッチングガス供給配管の加温を省略できる場合がある。
【0109】
(化2)に示される分子構造において、X=H、Y=O、R1=H、R2=Oの場合がピコリン酸である。ピコリン酸では、原子(Y)であるOの非共有電子対とピリジン環のNの非共有電子対が遷移金属元素に供与される形で2本の配位結合が生成され有機金属錯体を形成する。したがって、得られるピコリン酸金属錯体は熱的に安定な錯体化合物である。また、ピコリン酸もキノリノールの場合と同様に、ピリジン環のN原子から3原子離れた場所にあるOH基はブレンステッド酸性を示す置換基であるが、ピリジン環のN原子の有するルイス塩基性によって、分子内で部分的に中和された状態となっている。
【0110】
(化2)では、ルイス塩基性を示す芳香族環構造としてピリジン環とした例を示しているが、ピリジン環に代えて、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、フラン環、オキサゾール環、インドール環、キノリン環、クマリン環などを用いることも可能である。ただし、これらの代替構造を有する有機材料は、一般にピリジン環構造の材料よりも高価となる場合が多い点に留意する必要がある。
【0111】
(化3)に示される分子構造は脂肪族多官能アミンであり、より詳しくは、エチレンイミン(CH2-CH2-NX-)の3量体、4量体、あるいは5量体とその誘導体である。エチレンイミンはルイス塩基性を示す非共有電子対を有するN原子がC2鎖の両隣に結合した構造であり、(化3)に示される分子構造ではN原子にはHまたはCH3のいずれが結合する。エチレンイミンC2鎖の両隣にあるN原子上の非共有電子対が遷移金属元素に供与される形で配位結合を生成することにより有機金属錯体を形成する。(化3)に示される分子構造は、芳香族環のような耐熱構造を持たないが、少なくとも3本の電子供与+逆供与型の強固な結合により遷移金属元素と結合することにより、熱的に安定な錯体化合物が得られる。
【符号の説明】
【0112】
1…処理室、2…ウエハ、3…放電領域、4…ウエハステージ、5…シャワープレート、6…天板、11…ベースチャンバ、12…石英チャンバ、14…調圧機構、15…排気機構、16…真空排気配管、17…ガス分散板、20…高周波電源、22…整合器、25…高周波カットフィルタ、30…静電吸着用電極、31…DC電源、34…ICPコイル、38…チラー、39…冷媒の流路、40…制御部、41…演算部、44…薬液、45…タンク、46…ヒータ、47…錯体化ガス供給器、50…マスフローコントローラ、51…集積マスフローコントローラ制御部、52,53,54…バルブ、60…容器、62…IRランプ、63…反射板、64…IRランプ用電源、70…熱電対、71…熱電対温度計、74…IR光透過窓、75…ガスの流路、78…スリット板、81…Oリング、92…光ファイバ、93…外部IR光源、94…光路スイッチ、95…光分配器、96…分光器、97…検出器、98…光マルチプレクサ、100…半導体製造装置。