(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】送液装置および送液方法
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20230704BHJP
F04B 49/08 20060101ALI20230704BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20230704BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
F04B49/06 321Z
F04B49/08 311
G01N30/32 C
G01N30/34 A
(21)【出願番号】P 2022509493
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008759
(87)【国際公開番号】W WO2021192929
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020052082
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】秋枝 大介
(72)【発明者】
【氏名】塚田 修大
(72)【発明者】
【氏名】用田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特許第5879280(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/167174(WO,A1)
【文献】特開2002-48072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0198919(US,A1)
【文献】特開昭61-234284(JP,A)
【文献】特開2006-292392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
F04B 49/08
G01N 30/32
G01N 30/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャが摺動することで溶媒の吸引動作及び吐出動作を行うシリンダを有する送液部と、前記送液部の下流側に設置され、吐出される前記溶媒の圧力を検出する圧力センサと、吸引及び吐出する複数の前記溶媒を切り換える少なくとも1つの切換弁と、前記送液部及び前記切換弁の動作を制御する制御部と、を備える送液装置において、
前記制御部は、前記複数の溶媒の混合比率が変化するように前記プランジャの吸引動作と同期して前記切換弁の動作を制御し、前記プランジャを互いに異なる少なくとも第1加速度及び第2加速度で動作するように制御し、前記プランジャに吸引される前記溶媒の揺動を抑制し、
前記第2加速度はマイナスの加速度であり、前記第1加速度の絶対値は前記第2加速度の絶対値より大であり、溶媒の吸引動作にて、前記プランジャを前記第1加速度で動作させた後に、前記第2加速度で動作させて停止させることを特徴とする送液装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送液装置において、
前記制御部は、前記溶媒の吸引動作にて、前記プランジャを段階的又は連続的に変化させて停止させることを特徴とする送液装置。
【請求項3】
請求項2に記載の送液装置において、
前記シリンダは、複数であることを特徴とする送液装置。
【請求項4】
請求項3に記載の送液装置において、
前記制御部は、前記切換弁を開とするときは、開動作が終了するための十分な待機時間を設け、前記待機時間の後に前記プランジャの吸引動作を開始し、前記吸引動作の終了時に前記切換弁を閉とするときは、前記プランジャの吸引動作が終了し前記プランジャが完全に停止した状態において前記切換弁の閉鎖動作を開始することを特徴とする送液装置。
【請求項6】
請求項4に記載の送液装置において、
前記制御部は、前記プランジャを互いに異なる前記第1加速度、前記第2加速度及び第3加速度で動作するように制御し、前記第2加速度はマイナスの加速度であり、前記第1加速度の絶対値は前記第2加速度の絶対値より大であり、前記第3加速度はマイナスの加速度であり、前記第3加速度の絶対値は前記第2加速度の絶対値より大であり、前記制御部は、前記プランジャを前記第1加速度で動作させた後に、前記第3加速度で動作させ、その後、前記第2加速度で動作させて停止させることを特徴とする送液装置。
【請求項7】
請求項6に記載の送液装置において、
前記溶媒は複数の溶媒であり、前記制御部は、前記複数の溶媒の混合比率に基づいて前記複数の溶媒の各溶媒の吸引体積を決定し、決定された吸引体積に基づいて前記各溶媒を吸引する前記プランジャの前記第1加速度、前記第2加速度及び前記第3加速度を決定することを特徴とする送液装置。
【請求項8】
請求項1に記載の送液装置において、
前記送液装置は、液体クロマトグラフ装置の送液装置であることを特徴とする送液装置。
【請求項9】
プランジャが摺動することで溶媒の吸引動作及び吐出動作を行うシリンダを有する送液部と、前記送液部の下流側に設置され、吐出される前記溶媒の圧力を検出する圧力センサと、吸引及び吐出する複数の前記溶媒を切り換える1つ以上の切換弁と、前記送液部及び前記切換弁の動作を制御する制御部と、を備える送液装置の送液方法において、
前記複数の溶媒の混合比率が変化するように前記プランジャの吸引動作と同期して前記切換弁を動作させ、
前記プランジャを互いに異なる少なくとも第1加速度及び第2加速度で動作させ、
前記プランジャに吸引される前記溶媒の揺動を抑制し、
前記第2加速度はマイナスの加速度であり、前記第1加速度の絶対値は前記第2加速度の絶対値より大であり、溶媒の吸引動作にて、前記プランジャを前記第1加速度で動作させた後に、前記第2加速度で動作させて停止させることを特徴とする送液方法。
【請求項10】
請求項9に記載の送液方法において、
前記溶媒の吸引動作にて、前記プランジャを段階的又は連続的に変化させて停止させることを特徴とする送液方法。
【請求項11】
請求項10に記載の送液方法において、
前記切換弁を開とするときは、開動作が終了するための十分な待機時間を設け、前記待機時間の後に前記プランジャの吸引動作を開始し、前記吸引動作の終了時に前記切換弁を閉とするときは、前記プランジャの吸引動作が終了し前記プランジャが完全に停止した状態において前記切換弁の閉鎖動作を開始することを特徴とする送液方法。
【請求項13】
請求項11に記載の送液方法において、
前記プランジャを互いに異なる前記第1加速度、前記第2加速度及び第3加速度で動作させ、前記第2加速度はマイナスの加速度であり、前記第1加速度の絶対値は前記第2加速度の絶対値より大であり、前記第3加速度はマイナスの加速度であり、前記第3加速度の絶対値は前記第2加速度の絶対値より大であり、前記プランジャを前記第1加速度で動作させた後に、前記第3加速度で動作させ、その後、前記第2加速度で動作させて停止させることを特徴とする送液方法。
【請求項14】
請求項13に記載の送液方法において、
前記溶媒は複数の溶媒であり、前記複数の溶媒の混合比率に基づいて前記複数の溶媒の各溶媒の吸引体積を決定し、決定された吸引体積に基づいて前記各溶媒を吸引する前記プランジャの前記第1加速度、前記第2加速度及び前記第3加速度を決定することを特徴とする送液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送液装置および送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送液装置としては、例えば、液体クロマトグラフ(LC, Liquid Chromatograph)に用いられる。液体クロマトグラフは、測定対象試料を送出させる移動相に液体を用いるクロマトグラフであり、移動相となる溶媒を送出させる送液装置、試料を分析流路に導入する注入装置、分析流路に導入された測定対象試料を構成成分に分離するカラム、分離された各成分を検出するための検出装置で構成される。
【0003】
測定対象試料を分離する分離カラムには固定相として物理的または化学的な特性を有する充填剤が充填されており、分離カラムの固定相と送液装置が送出する移動相との親和性の差を用いて測定対象試料を成分毎に分離し、分離された各成分は紫外・可視吸光光度計、蛍光光度計、質量分析計などの検出器を用いて検出される。
【0004】
液体クロマトグラフの測定データは、試料の分離時間(保持時間)と、検出器の検出信号強度の関係を示すピークで出力され、保持時間はピークトップの時間であり分析条件が同一であれば試料成分毎にほぼ同一の値を示すため、分離成分を同定するための情報として使用される。
【0005】
また、複数の成分を含む場合は成分間の保持時間から分離度が算出され、分離性能の指標とされる場合がある。
【0006】
試料の溶出時間を調整し、分離時間の調整や分離度を改善するために、しばしばグラディエント溶出法という分析手法がとられる場合がある。
【0007】
グラディエント溶出法とは、送液装置から送出される移動相の組成比を時間的に変化させながら分析流路、分離カラムに送出させる方法であり、固定相と移動相である溶媒間の親和性を変化させることで、試料成分の分離性能や分離時間を調整することが可能になる。
【0008】
グラディエント溶出法を実現する方法には、1台の送液装置の上流側で複数種類の移動相を混合させる低圧グラディエント混合方式と、2台の送液装置が異なる移動相を送液し、送液装置の下流側で各移動相を合流・混合させる高圧グラディエント混合方式が存在する。これらのグラディエント混合方式はその特性の差から、低圧グラディエント混合方式は複数種類の移動相から移動相の組成を調整する場合に使用され、高圧グラディエント混合方式は2種類の移動相をできるだけ早い応答性で組成を変えたい場合に使用されることが多い。
【0009】
このうち、低圧グラディエント混合方式では、送液装置の吸引工程と同期して各移動相に接続されたプロポーショニングバルブと呼ばれる切換弁を開閉することで複数種類の移動相から指定した体積を吸引し、送出することで任意の濃度組成を実現しており、切換弁の開閉制御がグラディエント溶出法の性能、移動相の混合比の組成性能を左右することが知られている。
【0010】
特許文献1には、切換弁の開閉動作区間におけるプランジャの動作制御について開示されており、切換弁の開閉動作時間のばらつきの影響を低減させるために、切換弁が開閉動作している区間において移動相を吸引するプランジャの動作速度を低減またはプランジャを停止させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載されているように、低圧グラディエント混合方式による移動相の混合組成のズレを小さくし、正確性を向上させるためには、移動相のシリンダへの供給時間を調整している切換弁の開閉タイミングと移動相が吸引されるタイミングが一致するように切換弁の開閉制御の正確性を高めることが重要であると考えられてきた。
【0013】
一方で、シリンダの吸引動作中に切換弁を開閉する方式は、切換弁の開閉動作によって移動相が前後に動くポンピングの影響や一時的に移動相が流れない時間が少なからず存在するなど、混合比の精度のばらつきに影響を与える事象があることが知られており切換弁の開閉制御だけでは改善できない課題も存在する。
【0014】
また、切換弁の動作正確性を高める方法の1つとして、機械的な開閉時間を改善するために切換弁の駆動性能を改善することも1つの方法と考えることができるが、現実的に機械的なばらつきを完全に無くすことは困難であり、切換弁の性能確認および選別によるコスト上昇というデメリットも発生する。
【0015】
また、マイクロ流体シミュレーションや切換弁の動作タイミングを変えた実験結果から、吸引される移動相毎にプランジャを停止させてから切換弁の開閉動作を実行した場合でも、プランジャの停止によって吸引されている移動相が完全に停止するには一定時間が必要であり、プランジャ停止後もシリンダ内に流れ込む、または発生した揺動により正確な体積を吸引できない可能性があることが確認された。
【0016】
本発明の目的は、液体を高精度に送液可能な送液装置および送液方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成される。
【0018】
送液装置は、プランジャが摺動することで溶媒の吸引動作及び吐出動作を行うシリンダを有する送液部と、前記送液部の下流側に設置され、吐出される溶媒の圧力を検出する圧力センサと、吸引及び吐出する複数の前記溶媒を切り換える少なくとも1つの切換弁と、前記送液部及び前記切換弁の動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記複数の溶媒の混合比率が変化するように前記プランジャの吸引動作と同期して前記切換弁の動作を制御し、前記プランジャを互いに異なる少なくとも第1加速度及び第2加速度で動作するように制御し、前記プランジャに吸引される前記溶媒の揺動を抑制する。
【0019】
プランジャが摺動することで溶媒の吸引動作及び吐出動作を行うシリンダを有する送液部と、前記送液部の下流側に設置され、吐出される溶媒の圧力を検出する圧力センサと、吸引及び吐出する複数の前記溶媒を切り換える1つ以上の切換弁と、前記送液部及び前記切換弁の動作を制御する制御部と、を備える送液装置の送液方法において、前記複数の溶媒の混合比率が変化するように前記プランジャの吸引動作と同期して前記切換弁を動作させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体を高精度に送液可能な送液装置および送液方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1の送液装置が適用される液体クロマトグラフ装置の一例の概略構成図である。
【
図2】
図1に示した送出部の内部構成を示す図である。
【
図3】本発明とは異なる例による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁の開閉タイミングとの概略説明図である。
【
図4】本発明とは異なる例における吸引工程で発生する移動相の脈動を説明する図である。
【
図5】本発明の実施例1による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁の開閉タイミングの概略図である。
【
図6】本発明の実施例2による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁の開閉タイミングの概略図である。
【
図7】本発明の実施例3による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁の開閉タイミングの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る低圧グラディエントシステムを有する液体クロマトグラフ装置用送液装置及び送液方法について説明する。
【0023】
なお、本発明は実施例に限定されるものではなく、例えばプロポーショニングバルブである切換弁の種類や数量、送液装置のシリンダを直列接続または並列接続される送液装置の種類等に関わらず適応されるものであり、その技術思想の範囲において応用することが可能である。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
図1は、本実施例1の送液装置が適用される液体クロマトグラフ装置の一例の概略構成図であり。
図1に示した液体クロマトグラフ装置は、1台の送液装置105が1つまたは複数の移動相(溶媒)を送液することが可能な、低圧グラディエント混合方式の低圧グラディエント送液装置を有する液体クロマトグラフ装置である。
【0025】
液体クロマトグラフ装置は、試料の搬送や分離に使用される複数の移動相10101a、101b、101c、101dを吸引、高圧圧縮して吐出する送出部(送液部)104を有する送液装置105と、試料導入装置106と、試料導入装置106の下流側に流路で接続され、試料導入装置106から導入された測定対象試料を各成分に分離させる分離カラム107と、分離カラム107を収納し恒温状態に制御させるカラム温調装置108と、カラム温調装置108の下流部に接続され分離された試料の各成分を検出するための検出装置109を備える。
【0026】
そして、送液装置105は、複数の各移動相101a~101dに接続され、複数の移動相を切り換える切換弁102a、102b、102c、102dと各移動相の合流点103とを有する。
【0027】
また、送液装置105は、
図1には示していないが、制御ユニット(制御部)218を有する。送液装置105は、低圧グラディエント用送液装置である。
【0028】
図2は、
図1に示した送出部104の内部構成を示す図である。
【0029】
図2に示した送出部104は、低圧グラディエント用送液装置における送出部の一例であり、プランジャ207及び208が摺動して往復運動することで移動相の吸引と送出を担う第1シリンダ205、第2シリンダ206を2個直列に配置したシリーズタイプの装置である。
【0030】
図2において、モータ215、216には回転運動を直動運動に変換する直動機構213、214が接続され、直動機構213、214に固定されたプランジャ207、208がシール材211、212にて閉鎖された第1シリンダ205、第2シリンダ206内にて往復運動を繰り返す。これにより、送出部104は、移動相101a~101dを吸引し、送出する。
【0031】
移動相101a~101dを吸引する第1シリンダ205には移動相101a~101dの流れ方向を制限するためのチェックバルブ209、210が接続され、第2シリンダ206の下流部には送出された移動相の圧力を検出するための圧力センサ217が設置されている。制御ユニット218は、圧力センサ217が検知する送出圧力値と設定された送出流量に応じて、モータ215、216のモータ速度を調整し移動相101a~101dを送出する。
【0032】
複数の移動相101a~101dの混合比を時間経過に応じて変化させる低圧グラディエント混合方式では、第1シリンダ205が移動相101a~101dを吸引する工程において、移動相101a~101dに接続された切換弁102a~102dの開閉状態を切換えることで、設定された任意の混合比率を実現させる。
【0033】
移動相101a~101dの吸引工程が開始されると、プランジャ207はモータ215により動作する直動機構213に従い吸引動作を開始し、第1シリンダ205内の圧力が送出圧力から大気圧まで減圧される。これにより、閉鎖していた吸入側チェックバルブ209が開き、第1シリンダ205への移動相101a~101dの吸引が開始される。
【0034】
制御ユニット218は設定された移動相101a~101dの混合比率に応じて、切換弁102a~102dの開閉タイミングと開閉時間を決定し、決定された結果に応じて切換弁102a~102dの開閉状態を切換える。
【0035】
これにより、任意の混合比率を実現させるように第1シリンダ205へ吸引させる。
【0036】
吸引される移動相101a~101dは合流点103を経由し、第1シリンダ205内に流入する。第1シリンダ205は移動相101a~101dの吸引工程を終了すると、送出圧力まで移動相101a~101dを圧縮する圧縮工程を開始する。
【0037】
そして、第1シリンダ205内の移動相101a~101dの圧力が圧力センサ217で検出される送出圧力まで到達すると、吐出側チェックバルブ210が開放し、第1シリンダ205による移動相101a~101dの送出プロセスが開始される。
【0038】
第2シリンダ206内のプランジャ208は第1シリンダ205の動作を補完するように動作し、第1シリンダ205が移動相101a~101dの吸引工程および送出圧力までの移動相101a~101dの圧縮工程にある時は、第2シリンダ206が送出工程を担う。第1シリンダ205が移動相101a~101dの送出を開始すると、第2シリンダ206は移動相101a~101dの第2シリンダ206内への充填工程および次サイクルの送出工程まで待機工程となる。
【0039】
図3は、本発明とは異なる例による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁の開閉タイミングとの概略説明図である。
【0040】
図3において、切換弁Aが閉状態から開放状態となり、一定時間経過後に閉状態となる。続いて、切換弁Bが閉状態から開放状態となり、一定時間経過後に閉状態となり、切換弁Cが閉状態から開放状態となり、一定時間経過後に閉状態となる。切換弁Dは閉状態を維持している。
【0041】
図3に示した、本発明とは異なる送液装置では、一定速度で移動相の吸引を行うプランジャの吸引工程内で設定された混合比率に応じて切換弁A、B、C、Dの開閉状態を切換える。これにより、設定された混合比率に応じた移動相をシリンダ内に吸引させる。
【0042】
図4は、本発明とは異なる例における吸引工程で発生する移動相の脈動(揺動)を説明する図である。
図4に示す波形は、マイクロ流体シミュレーションから得られた、移動相吸引時のプランジャの動作速度と、その時に溶媒が吸引される流量変化及び切換弁の切換タイミングを示している。
【0043】
図4において、切換弁が閉状態から開状態となり、プランジャが加速されて移動し、一定速度となったときに、移動相が揺動している。そして、プランジャが一定速度から減速されて、停止するときにも移動相が揺動している。プランジャの加速度と減速度とは、絶対値でほぼ同一であることから、移動相には同等の揺動が生じることとなる。
【0044】
移動相に大きな揺動が生じると、グランディエント混合比の精度に影響を与える。
【0045】
図5は、本発明の実施例1による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁102a、102b、102c、102dの開閉タイミングの概略図である。
【0046】
図5において、制御ユニット218は、各移動相101a、101b、101c、101dの吸引工程を開始すると、それと同期して、対象となる切換弁102a、102b、102c、102dを制御して開放し、切換弁102a、102b、102c、102dのうちの対象となるものが完全に開放されるまでに必要な十分な待機時間を経てプランジャ207、208の吸引動作を開始し、各移動相101a、101b、101c、101dの吸引工程終了時は一定値以下の加速度でプランジャ動作速度を減速し吸引動作を停止させる。
【0047】
そして、プランジャ207、208が完全に停止した後に対象切換弁102a、102b、102c、102dを閉鎖する。次に開放する切換弁102a、102b、102c、102dがある場合は、対象の切換弁102a、102b、102c、102dを開放し、同様のプロセスで移動相の吸引を実行させる。
【0048】
なお、
図5に示すA、B、C、Dは、切換弁102a、102b、102c、102dを示す。
【0049】
図5に示したプランジャ207、208の移動制御は、制御ユニット218により行われる。
【0050】
図5において、時点t
0から時点t
1にて、切換弁Aが閉状態から開状態となる。そして、時点t
1から時点t
2までプランジャ207又は208が加速しながら移動し、一定速度となる。この時の加速度を第1加速度とする。
【0051】
続いて、時点t3ら時点t4まで減速しながら移動し、停止する。この時の加速度を第2加速度とする。ただし、この場合、プランジャ207又は208は、減速するので、第2加速度はマイナス加速度となる。よって、第2加速度は減速度と同義となる。
【0052】
第1加速度である時点t
1から時点t
2までの時間は、第2加速度である時点t
3から時点t
4までの時間より短い。つまり、第1加速度の絶対値は、第2加速度の絶対値より大となっており、
図5に示すように、傾斜角度が第1加速度の場合の方が、第2加速度の場合より大となっている。好ましくは、第2加速度の傾斜角度は、第1加速度の傾斜角度の約半分である。
【0053】
プランジャ207、208の減速度を小さくすることで、プランジャ207、208が停止したときに発生する揺動を抑制することができる。これにより、グランディエント混合比の精度への影響を抑制することができる。
【0054】
切換弁Aの動作及びプランジャ207又は208の動作に続いて、切換弁B、Cの動作及びプランジャ207又は208の動作が行われる。切換弁Cは閉状態を維持する。
【0055】
切換弁Cの動作は、切換弁A及びBのように、プランジャ207又は208が一定速度となることなく、第1加速度から第2加速度に変化する。
【0056】
吸引動作に続いて、吐出動作が行われるが、詳細な説明は省略する。
【0057】
本発明の実施例1によれば、移動相毎にプランジャ207、208の吸引と停止動作を繰り返す場合において、移動相の揺動が発生しないように加速度を設定することでより正確な移動相の吸引を実現することができる。
【0058】
また、従来技術のように移動相の切換に応じて吸引動作を停止しない場合でも、最終的な吸引工程の終了時点で、移動相が揺動しないようにプランジャ207、208の加速度を設定することで、吸引プロセス後半に吸引する移動相を正確に吸引することが可能となる。
【0059】
つまり、本発明の実施例1によれば、液体を高精度に送液可能な送液装置および送液方法を実現することができる。
【0060】
また、本発明の実施例1によれば、液体を高精度に送液可能な送液装置を備えた液体クロマトグラフ装置を実現することができる。
【0061】
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。
【0062】
実施例2は、実施例1と同様に、低圧グラディエント混合方式の低圧グラディエント送液装置の例である。
【0063】
また、実施例2においても実施例1と同様に、各移動相の吸引工程が開始されると対象となる切換弁を開放し、切換弁が完全に開放されるまでに必要十分な待機時間を経てプランジャの吸引動作を開始する。
【0064】
そして、各移動相の吸引工程終了時は、プランジャが停止するまでの時間を短くするために、段階的にまたは連続的に加速度を変化させて最終的に一定値以下の加速度でプランジャ動作速度を減速し吸引動作を停止させる。
【0065】
そして、プランジャが完全に停止した後に対象切換弁を閉鎖する。次に開放する切換弁がある場合は、対象の切換弁を開放し、同様のプロセスで移動相の吸引を実行させる。
【0066】
実施例2が適用される液体クロマトグラフ装置及び送液装置の構成は、実施例1と同様であるので、図示及びその詳細な説明は省略する。
【0067】
実施例2と実施例1との相違点は、プランジャ207、208の動作加速度である。
【0068】
図6は、本発明の実施例2による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ速度と切換弁102a、102b、102c、102dの開閉タイミングの概略図である。
【0069】
図6において、プランジャ207又は208の動作は、時点t
0から時点t
3までは、
図5に示した例と同様な動作となる。
【0070】
実施例2においては、プランジャ207又は208は、時点t3から時点t31までは第3の加速度で移動し、時点t31から時点t4までは、実施例1と同様の第2の加速度で移動する。第3加速度は、プランジャ207又は208は減速するので、マイナスの加速度となる。第3加速度の絶対値は、第2加速度の絶対値より大となっている。
【0071】
つまり、プランジャ207又は208を段階的に減速している。
【0072】
切換弁Bの開閉動作におけるプランジャ207又は208の動作は、切換弁Aの開閉動作におけるプランジャ207又は208の動作と同様となる。
【0073】
次に、切換弁Cの開閉動作におけるプランジャ207又は208の動作を説明する。
【0074】
時点t
5から時点t
6までの動作は、
図5の例と同様となっている。時点t
6から時点t
7までは、プランジャ207又は208は第3加速度で移動し、時点t
7から時点t
8までは、第2加速度で移動する。なお、プランジャ207又は208は減速する状態があり、第2加速度及び第3加速度はマイナスの値となる。よって、第2加速度及び第3加速度とは、第2減速度及び第3減速度と定義することも可能である。
【0075】
実施例2によれば、実施例1と同等の効果を得ることができる他、以下のような効果を得ることができる。
【0076】
つまり、実施例2は、プランジャ207又は208の減速度を段階的に変更する場合の例であり、プランジャ207又は208の減速開始時の減速度を大きく設定し、プランジャ207又は208の速度が一定値以下になった時点で、減速度を低減させることで、プランジャ207又は208の停止時の移動相の揺動を抑えつつ、実施例1の場合よりもプランジャ207又は208停止に要する時間を短縮することができ、時間的制約が存在する移動相吸引工程において切換弁の開閉時間を適切に決定することが可能になる。
【0077】
(実施例3)
次に、実施例3について説明する。
【0078】
実施例3は、実施例1及び実施例2と同様に、低圧グラディエント混合方式の低圧グラディエント送液装置の例である。
【0079】
また、実施例3においても実施例1及び実施例2と同様に、各移動相の吸引工程が開始されると対象となる切換弁を開放し、切換弁が完全に開放されるまでに必要十分な待機時間を経てプランジャの吸引動作を開始する。
【0080】
そして、各移動相の吸引工程終了時は、プランジャが停止するまでの時間を短くするために、段階的にまたは連続的に加速度を変化させて最終的に一定値以下の加速度でプランジャ動作速度を減速し吸引動作を停止させる。
【0081】
そして、プランジャが完全に停止した後に対象切換弁を閉鎖する。次に開放する切換弁がある場合は、対象の切換弁を開放し、同様のプロセスで移動相の吸引を実行させる。
【0082】
実施例3が適用される液体クロマトグラフ装置及び送液装置の構成は、実施例1と同様であるので、図示及びその詳細な説明は省略する。
【0083】
実施例3は実施例2と同様にプランジャ207又は208の動作加速度が第1加速度、第2加速度、第3加速度で変化する。
【0084】
実施例3と実施例2との相違点は、プランジャ207、208の動作動加速度の設定時間である。
【0085】
実施例3は、低圧グラディエント混合方式を有する送液装置105の制御ユニット218による制御において、各移動相101a、101b、101c、101dの吸引工程が開始されると、切換弁102a、102b、102c、102dのうちの対象となるものを開放し、その切換弁が完全に開放されるまでに必要十分な待機時間を経てプランジャ207又は208の吸引動作を開始する。
【0086】
そして、プランジャ207又は208の動作速度は各移動相101a、101b、101c、101dの混合比率から算出される各切換弁102a、102b、102c、102dの開閉時間に応じて混合比率が高い(=吸引体積が大きい)場合は、プランジャ207又は208の動作速度を速く設定し、混合比率が低い(=吸引体積が小さい)場合はプランジャ207又は208の動作速度を遅く設定する。
【0087】
そして、各移動相101a、101b、101c、101dの吸引工程終了時はプランジャ207又は208が停止するまでの時間を短くするために、段階的にまたは連続的に加速度を変化させて最終的に一定値以下の加速度でプランジャ207又は208の動作速度を減速し吸引動作を停止させる。プランジャ207又は208が完全に停止した後に切換弁102a、102b、102c、102dのうちの対象のものを閉鎖する。次に開放する切換弁がある場合は、対象の切換弁を開放し、同様のプロセスで移動相の吸引を実行させる。
【0088】
図7は、本発明の実施例3による低圧グラディエント混合方式を有する送液装置のプランジャ動作速度と切換弁102a、102b、102c、102dの開閉タイミングの概略図である。
【0089】
図7において、時点t
1から時点t
2までは
図6の例より長く設定され、時点t
2から時点t
3までは
図6の例より短く設定されている。また、時点t
5から時点t
6までは
図6の例より短く設定され、時点t
6から時点t
61までに、プランジャ207又は208の動作速度が一定の区間が設定されている。
【0090】
図7に示すように、プランジャ207又は208の吸引速度を混合比率に応じて設定し、かつ、プランジャ207又は208の減速時の加速度を段階的に変更する。そして、プランジャ207又は208の減速開始時の加速度(第3加速度)を大きく設定し、プランジャ207又は208の動作速度が一定値以下になり、その後、加速度を低減させ第2加速度とする。
【0091】
つまり、実施例1及び実施例2においては、溶媒101a、101b、101c、101dのいずれの溶媒の吸引動作においても、速度が一定となる速度及び第1加速度から第2加速度又は第3加速度に変化する速度は同一となっているが、実施例3においては、一定となる速度を溶媒の種類により変更し、切換弁Cによる吸引時間を実施例1及び実施例2より長い期間としている。
【0092】
これによって、時間的制約が存在する吸引工程において十分な吸引時間を確保することが難しい混合比率が小さい切換弁においてもプランジャ停止時の加速度変更を考慮した開閉時間を確保することが可能となり、プランジャ停止時の移動相の揺動を抑えることが可能になる。
【0093】
本発明の実施例3によれば、実施例2と同様な効果が得られる他、上述したような効果を得ることができる。
【0094】
なお、上述した実施例2及び3においては、プランジャ207又は208の動作速度を、第1加速度、第2加速度、第3加速度の3つの加速度としたが、第4の加速度を設定することも可能である。
【0095】
また、上述した実施例2及び3においては、プランジャ207又は208の動作速度を、複数の加速度を段階的に変化させているが、加速度を曲線的に変化させ、連続的に変化(変更)させることも可能である。
【0096】
また、上述した例においては、複数の切換弁を備える構成としたが、一つの切換弁の複数の移動相(溶媒)を切り換える構成であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
101a、101b、101c、101d・・・移動相、102a、102b、102c、102d・・・切換弁、103・・・合流点、104・・・送出部、105・・・送液装置、106・・・試料導入装置、107・・・分離カラム、108・・・カラム温調装置、109・・・検出装置、205・・・第1シリンダ、206・・・第2シリンダ、207、208・・・プランジャ、209・・ 吸入側チェックバルブ、210・・・吐出側チェックバルブ、211, 212・・・シール材、213、214・・・直動機構、215、216・・・ モータ、217・・・圧力センサ、218・・・制御ユニット