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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】受信装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H03M 13/19 20060101AFI20230705BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20230705BHJP
   H03M 13/37 20060101ALI20230705BHJP
   H04B 1/16 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
H03M13/19
H04B7/0413 200
H03M13/37
H04B1/16 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019148863
(22)【出願日】2019-08-14
(65)【公開番号】P2021034754
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】井地口 朋也
(72)【発明者】
【氏名】本田 円香
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-145966(JP,A)
【文献】David L. Milliner 他,Channel state information based LLR clipping in list MIMO detection,2008 IEEE 19th International Symposium on Personal, Indoor and Mobile Radio Communication,IEEE,2008年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 13/19
H04B 7/0413
H03M 13/37
H03M 13/45
H04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信して復号する受信装置であって、
受信信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号を生成するフーリエ変換部と、
前記ベースバンド信号に基づいて伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、
前記伝送路応答を用いて前記ベースバンド信号から送信信号の推定値を生成するMIMO検出部と、
希望波及びSFN波の受信電力比に応じて、送信された各ビットの尤度比のクリップ値を決定するクリップ値決定部と、
前記送信信号の推定値、及び前記ベースバンド信号の雑音分散を用いて、送信された各ビットの尤度比を算出し、該尤度比が前記クリップ値を超える場合には前記クリップ値でクリップする尤度比算出部と、
前記尤度比を用いて、送信されたビットの推定値を復号する誤り訂正復号部と、
を備え
前記クリップ値決定部は、
希望波及びSFN波の水平偏波の受信電力比である水平偏波電力比を求める水平偏波電力比算出部と、
希望波及びSFN波の垂直偏波の受信電力比である垂直偏波電力比を求める垂直偏波電力比算出部と、
前記水平偏波電力比及び前記垂直偏波電力比に応じて、前記クリップ値を決定する判定部と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記水平偏波電力比及び前記垂直偏波電力比が略0dBの場合には、前記クリップ値を最小値とすることを特徴とする、請求項に記載の受信装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記水平偏波電力比又は前記垂直偏波電力比が予め定めた閾値よりも小さい場合には、前記水平偏波電力比及び前記垂直偏波電力比が前記閾値以上である場合よりも、前記クリップ値を小さくすることを特徴とする、請求項又はに記載の受信装置。
【請求項4】
コンピュータを、請求項1からのいずれか一項に記載の受信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SFN環境下で、偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信する受信装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上波による4K8K放送を実現するために、地上デジタルテレビジョン放送の高度化方式の検討が進められており、伝送容量の拡大が求められている(例えば、非特許文献1参照)。伝送容量拡大の有力な技術の1つとして、水平偏波及び垂直偏波を用いることにより伝送容量を2倍とする偏波MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送が知られている。また、高度化方式において、周波数の有効利用の観点から、複数の送信局で同一の周波数を使用するSFN(Single Frequency Network)技術が必須となる。
【0003】
SFNを構成する放送エリアでは、希望局からの電波(希望波)のほか、SFN局からの電波(SFN波)も到来する。そこで、SFN波を低減させるために、複数アンテナを用いてアダプティブアレーアンテナを形成し、各アンテナの重み係数を制御する技術が知られている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】土田、「次世代地上放送に向けた研究開発動向」、映像情報メディア学会誌、2018年、Vol.72、No.6、pp.836-839
【文献】武田、電子情報通信学会「知識の森」 4群(通信工学)-2編(アンテナ・伝搬) 8章アンテナの信号処理、[online]、[2019年7月29日検索]、インターネット<URL:http://ieice-hbkb.org/files/04/04gun_02hen_08.pdf>
【文献】株式会社モバイルテクノ、「アダプティブアレーアンテナ」、[online]、[2019年7月29日検索]、インターネット<URL:https://www.fujitsu.com/jp/group/mtc/technology/course/aaa/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SFNを構成する放送エリアでは、希望局からの信号のほか、希望局以外の放送局(SFN局)からの信号も到来する。放送エリア内のほとんどの受信点では、希望局の信号レベルが十分に高いため、SFN局からの信号による干渉は無視できるほど小さいが、まれに希望局とSFN局の信号レベルがほぼ同等となる受信点が存在する。このようなSFN難視は、現行のISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)方式でもあまねく放送を実現するための課題となっていた。特に、希望局とSFN局の受信電力比DUR(Desire to Undesire Ratio)が0dBとなる受信点では、信号レベルが十分大きいにも関わらず、希望局とSFN局の干渉により、劣化量が非常に大きくなったり、受信不可となったりする状態が生じていた。具体的には、誤り訂正符号の復号がエラーフリーとならなかった。
【0006】
受信アンテナを回転させて、希望局及びSFN局からの水平偏波及び垂直偏波の受信電力を調整し、受信電力比DURがなるべく高くなるように調整することも可能であるが、一般的に受信アンテナを設置した後に向きを変えることは困難である。また、従来のアダプティブアレーアンテナでは複雑な信号処理が必要となる。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、SFN環境において、従来のアダプティブアレーアンテナのような複雑な信号処理を行うことなく、誤り訂正符号の復号をエラーフリーとすることが可能な受信装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る受信装置は、SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信して復号する受信装置であって、受信信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号を生成するフーリエ変換部と、前記ベースバンド信号に基づいて伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、前記伝送路応答を用いて前記ベースバンド信号から送信信号の推定値を生成するMIMO検出部と、希望波及びSFN波の受信電力比に応じて、送信された各ビットの尤度比のクリップ値を決定するクリップ値決定部と、前記送信信号の推定値、及び前記ベースバンド信号の雑音分散を用いて、送信された各ビットの尤度比を算出し、該尤度比が前記クリップ値を超える場合には前記クリップ値でクリップする尤度比算出部と、前記尤度比を用いて、送信されたビットの推定値を復号する誤り訂正復号部と、を備え、前記クリップ値決定部は、希望波及びSFN波の水平偏波の受信電力比である水平偏波電力比を求める水平偏波電力比算出部と、希望波及びSFN波の垂直偏波の受信電力比である垂直偏波電力比を求める垂直偏波電力比算出部と、前記水平偏波電力比及び前記垂直偏波電力比に応じて、前記クリップ値を決定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係る受信装置において、前記判定部は、前記水平偏波電力比及び前記垂直偏波電力比が略0dBの場合には、前記クリップ値を最小値とすることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る受信装置において、前記判定部は、前記水平偏波電力比又は前記垂直偏波電力比が予め定めた閾値よりも小さい場合には、前記水平偏波電力比及び前記垂直偏波電力比が前記閾値以上である場合よりも、前記クリップ値を小さくすることを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記受信装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、受信電力比DURが低いSFN環境において、従来のアダプティブアレーアンテナのような複雑な信号処理を行うことなく、誤り訂正符号の復号をエラーフリーとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る受信装置におけるクリップ値決定部の構成例を示すブロック図である。
図3】遅延プロファイルを模式的に示す図である。
図4】クリップ値ごとのBER特性を示す図である。
図5】クリップ値を変化させた場合のBER特性を示す図である。
図6】クリップ値を変化させた場合のBER特性を示す図である。
図7図4から図6に示したシミュレーションの条件を示す図である。
図8】一実施形態に係る受信装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下に説明する実施形態では、MIMO伝送方式における送信アンテナ数を2、受信アンテナ数を2とするが、アンテナ数はこれに限られるものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。図1に示す例では、受信装置1は、フーリエ変換部11-1,11-2と、伝送路応答算出部12と、MIMO検出部13と、雑音分散算出部14-1,14-2と、クリップ値決定部15と、尤度比算出部16と、誤り訂正復号部17と、を備える。受信装置1は、SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信し、受信信号を復号する。
【0017】
受信アンテナ10は、例えば偏波共用八木アンテナであり、送信局から受信装置1に送信された信号(例えば、OFDM信号)を受信する。第1の受信アンテナ10-1は信号を受信して、受信信号X=[xh1,xv1を受信装置1に出力する。第2の受信アンテナ10-2は信号を受信して、受信信号X=[xh2,xv2を受信装置1に出力する。ここで、xh1,xh2は水平偏波成分を表し、xv1,xv2は垂直偏波成分を表している。
【0018】
フーリエ変換部11は、受信アンテナ10により受信した信号を離散フーリエ変換して、複数の受信アンテナに対応する周波数領域のベースバンド信号を生成する。つまり、フーリエ変換部11-1は、受信アンテナ10-1により受信した信号を離散フーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号yを生成し、伝送路応答算出部12、MIMO検出部13及び雑音分散算出部14-1に出力する。フーリエ変換部11-2は、受信アンテナ10-2により受信した信号を離散フーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号yを生成し、伝送路応答算出部12、MIMO検出部13及び雑音分散算出部14-2に出力する。
【0019】
伝送路応答算出部12は、フーリエ変換部11により生成されたベースバンド信号y,yに含まれる既知のパイロット信号を抽出し、抽出したパイロット信号をもとに伝送路応答Hを算出(推定)する。そして、算出した伝送路応答HをMIMO検出部13及びクリップ値決定部15に出力する。2×2MIMO伝送の伝送路応答Hは、次式(1)で表すことができる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、h11は第1の送信アンテナから第1の受信アンテナ10-1への伝送路の伝送路応答(すなわち、水平偏波の主偏波成分の伝送路応答)を表し、h12は第2の送信アンテナから第1の受信アンテナ10-1への伝送路の伝送路応答を表し、h21は第1の第1の送信アンテナから第2の受信アンテナ10-2への伝送路の伝送路応答を表し、h22は第2の送信アンテナから第2の受信アンテナ10-2への伝送路の伝送路応答(すなわち、垂直偏波の主偏波成分の伝送路応答)を表す。
【0022】
MIMO検出部13は、ZF、MMSE、MLD、QRM-MLDなどの既知の手法により、伝送路応答Hを用いてベースバンド信号y,yから送信信号の推定値x^,x^を生成し、尤度比算出部16に出力する。例えば、ZFによりMIMO検出を行う場合、受信信号ベクトルyは、伝送路応答H、送信信号ベクトルx、雑音ベクトルzを用いて、次式(2)により表される。式(2)の両辺に、次式(3)で表されるウェイト行列Wを乗じると、次式(4)が導かれる。式(4)の右辺第2項を0と近似すると、次式(5)が得られる。上付きのHはエルミート転値を表す。
【0023】
【数2】
【0024】
MMSEによりMIMO検出を行う場合は、式(3)のウェイト行列Wは次式(6)で表される。ここで、Iは受信アンテナ数を2とすると2×2の単位行列である。γはSN比であり、Ntは送信アンテナ数である。
【0025】
【数3】
【0026】
雑音分散算出部14-1は、ベースバンド信号yの雑音分散σ^ を算出し、尤度比算出部16に出力する。また、雑音分散算出部14-2は、ベースバンド信号yの雑音分散σ^ を算出し、尤度比算出部16に出力する。雑音分散は、例えばMER(Modulation Error Ratio)の値から算出することができる。変調多値数が大きいキャリアのMERの値は、低CNR(Carrier to Noise Ratio)領域において信頼性が低下し、MERの値から算出した雑音分散も信頼性が低下する。そのため、例えば、地上デジタル放送の場合、BPSK変調されるAC(Auxiliary Channel)信号又はTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号の雑音分散を求めることが望ましい。
【0027】
クリップ値決定部15は、伝送路(希望波及びSFN波の受信電力比)に応じて、送信局から受信装置1に送信された各ビットの尤度比のクリップ値(上限値)を決定し、尤度比算出部16に出力する。
【0028】
図2は、クリップ値決定部15の構成例を示すブロック図である。クリップ値決定部15は、水平偏波電力比算出部151と、垂直偏波電力比算出部152と、判定部153と、を備える。
【0029】
水平偏波電力比算出部151は、水平偏波の主偏波成分の伝送路応答h11を逆フーリエ変換することにより、遅延プロファイルを得る。図3(a)は、水平偏波の遅延プロファイルを模式的に示す図である。水平偏波電力比算出部151は、図3(a)に示すように水平偏波の希望波及びSFN波のピーク同士のレベル差から、希望波及びSFN波の水平偏波の受信電力比(以下、「水平偏波電力比」という。)DURを求め、判定部153に出力する。
【0030】
垂直偏波電力比算出部152は、垂直偏波の主偏波成分の伝送路応答h22を逆フーリエ変換することにより、遅延プロファイルを得る。図3(b)は、垂直偏波の遅延プロファイルを模式的に示す図である。垂直偏波電力比算出部152は、図3(b)に示すように垂直偏波の希望波及びSFN波のピーク同士のレベル差から、希望波及びSFN波の垂直偏波の受信電力比(以下、「垂直偏波電力比」という。)DURを求め、判定部153に出力する。
【0031】
判定部153は、水平偏波電力比算出部151により求めた水平偏波電力比DUR、及び垂直偏波電力比算出部152により求めた垂直偏波電力比DURに基づいて、クリップ値Lを決定し、尤度比算出部16に出力する。クリップ値Lの具体例については後述する。
【0032】
尤度比算出部16は、MIMO検出部13から入力された送信信号の推定値x^,x^、及び雑音分散算出部14-1,14-2により算出された雑音分散σ^ ,σ^ を用いて、受信装置1に送信された各ビットの尤度比S,Sを算出する。本実施形態では、尤度比として対数尤度比(LLR:Log-Likelihood Ratio)を用いるものとして説明する。対数尤度比Sは、b=0となる尤度関数とb=1となる尤度関数の比の対数で表され、雑音分散が小さいほど対数尤度比の値は大きくなり、信頼度が高くなる。例えば、尤度比算出部16は次式(7)により対数尤度比S,Sを算出する。ここで、d11 ,d01 は理想シンボル点“10”,“00”と送信信号の推定値x^i1との間の2乗ユークリッド距離であり、d12 ,d02 は理想シンボル点“10”,“00”と送信信号の推定値x^i2との間の2乗ユークリッド距離である。
【0033】
【数4】
【0034】
尤度比算出部16は、対数尤度比Sの絶対値がクリップ値Lを超える場合には、クリップ値Lでクリップする。例えば、クリップ値L=10であった場合、対数尤度比Sが-10以下となるときは最小値を-10にクリップし、10以上となるときは最大値を10にクリップする。そして、尤度比算出部16は、クリップした対数尤度比S,Sを誤り訂正復号部17に出力する。
【0035】
誤り訂正復号部17は、尤度比算出部16により算出された対数尤度比S,Sを用いて、誤り訂正符号の復号を行い、受信装置1に送信されたビットの推定値を復号する。例えば、誤り訂正符号がLDPC符号の場合には、誤り訂正復号部17はsum-product復号法などの既知の手法を用いて復号する。
【0036】
尤度比算出部16が対数尤度比Sのクリップ処理を行わない場合、信頼度の低いキャリアにより伝送された対数尤度比Sが、誤っているにも関わらず大きい絶対値になってしまうと、誤り訂正復号部17で誤り訂正しきれない状態が発生してしまうことがある。そこで、例えば、下記の文献には、クリップ値Lを伝送路の状態に関わらず12.2としてクリップすることが記載されている。
文献:和田山、「低密度パリティ検査符号とその復号法」、トリケップス社、p.162
【0037】
図4は、水平偏波電力比DUR及び垂直偏波電力比DURを0dBとした場合の、CNRとBER(Bit Error Rate)の関係をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。横軸はCNRであり、縦軸はBERである。従来はクリップ値Lを固定値としていたが、図4に示すように、受信電力比DURが低い環境においてクリップ値Lを12.2に固定すると、BER<1.0×10-7を満たすCNRを所要CNRとした場合には、エラーフロアが生じておりエラーフリーとならないことが判明した。なお、水平偏波電力比DUR及び垂直偏波電力比DURが0dBというのは、希望波とSFN波の電力が同一の場合なので、最も厳しい条件といえる。
【0038】
図5は、水平偏波電力比DUR及び垂直偏波電力比DURを0dBとし、CNRを27.1dBとした場合の、クリップ値LとBERの関係をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。横軸はクリップ値Lであり、縦軸はBERである。図5から分かるように、クリップ値Lに応じてBERの値は変化し、この条件ではクリップ値Lを5.0又は6.0とした場合にBER特性が良くなり、クリップ値Lをそれ以上小さくすると、逆にBER特性は悪化する。
【0039】
また、図6は、水平偏波電力比DUR又は垂直偏波電力比DURを1dBとし、CNRを26.2dBとした場合の、クリップ値LとBERの関係をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。横軸はクリップ値Lであり、縦軸はBERである。図6から分かるように、クリップ値Lに応じてBERの値は変化し、この条件ではクリップ値Lを9.0付近とした場合にBER特性が良くなり、クリップ値Lをそれ以上小さくすると、逆にBER特性は悪化する。
【0040】
図7は、図4から図6に示したシミュレーションの条件を示す表である。このシミュレーションでは、固定受信を想定し、B階層で受信するものとした。
【0041】
受信電力比DURが大きい場合には、クリップ値L=12.2で固定値としてもエラーフリーは発生しない。しかし、図5及び図6のシミュレーション結果から、受信電力比DURが低くなり得るSFN環境においては、伝送路(希望波及びSFN波の受信電力比)に応じて、クリップ値Lの値を可変とすることで、BER特性を大きく改善できることが分かる。具体的には、判定部153は、水平偏波電力比DUR及び垂直偏波電力比DURが略0dBの場合には、クリップ値Lを最小値とすることが望ましい。また、判定部153は、水平偏波電力比DUR又は垂直偏波電力比DURが予め定めた閾値よりも小さい場合には、水平偏波電力比DUR及び垂直偏波電力比DURが該閾値以上である場合よりも、クリップ値Lを小さくすることが望ましい。また、クリップ値Lは5.0から12.2の間で可変とすることが望ましい。
【0042】
例えば、判定部153は次式(8)に基づいてクリップ値Lを決定する。なお、クリップ値Lや、水平偏波電力比DUR及び垂直偏波電力比DURの条件は、式(8)に限られるものではなく、またクリップ値Lも3段階に限られるものではない。
【0043】
【数5】
【0044】
次に、受信装置1の受信方法を、図8を参照して説明する。図8は、受信装置1の受信方法の一例を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS101において、フーリエ変換部11-1,11-2は、受信アンテナ10-1,10-2により受信した信号を離散フーリエ変換して、周波数領域のベースバンド信号y,yを生成する。
【0046】
ステップS102において、伝送路応答算出部12は、ステップS101により生成されたベースバンド信号y,yに含まれる既知のパイロット信号を抽出し、抽出したパイロット信号をもとに伝送路応答Hを算出する。
【0047】
ステップS103において、MIMO検出部13は、ステップS102により算出された伝送路応答Hを用いて、ステップS101により生成されたベースバンド信号y,yから送信信号の推定値x^,x^を生成する。
【0048】
ステップS104において、雑音分散算出部14-1,14-2は、ステップS101により生成されたベースバンド信号y,yの雑音分散σ^ ,σ^ を算出する。
【0049】
ステップS105において、クリップ値決定部15は、ステップS102により算出された伝送路応答Hに応じて、すなわち、希望波及びSFN波の受信電力比に応じて、対数尤度比のクリップ値Lを決定する。
【0050】
ステップS106において、尤度比算出部16は、ステップS103により生成された送信信号の推定値x^,x^、及びステップS104により算出された雑音分散σ^ ,σ^ を用いて、受信装置1に送信された各ビットの対数尤度比S,Sを算出する。
【0051】
ステップS107において、尤度比算出部16は、ステップS106により算出された対数尤度比S,Sの絶対値が、ステップS105により決定されたクリップ値Lを超えか否かを判定する。判定結果がYesである場合には処理をステップS108に進め、判定結果がNoである場合には処理をステップS109に進める。
【0052】
ステップS108において、尤度比算出部16は、ステップS106により算出された対数尤度比S,Sを、ステップS105により決定されたクリップ値Lでクリップする。
【0053】
ステップS109において、誤り訂正復号部17は、ステップS106により算出された対数尤度比S,S、又はステップS108によりクリップされた対数尤度比S,Sを用いて、受信装置1に送信されたビットの推定値を復号する。なお、処理の順序は図8に示したものに限られるものではない。例えば、ステップS105の処理を、ステップS103の処理と並行して行ってもよいし、ステップS103の処理よりも先に行ってもよい。
【0054】
以上説明したように、受信装置1は、対数尤度比のクリップ値を固定値としないで、希望波及びSFN波の受信電力比に応じて可変とすることにより、受信電力比DURが低いSFN環境において、従来のアダプティブアレーアンテナのような複雑な信号処理を行うことなく、誤り訂正符号の復号をエラーフリーとする(エラーフロアを防止する)ことが可能となる。
【0055】
また、非特許文献2に示すようにアダプティブアレーアンテナを形成して受信電力比DURを増加させる場合、アンテナ数をMとするとM-1個の方向にヌル点を形成することができるが、アンテナ数Mを大きい値とする必要がある。しかし、UHF帯での地上テレビジョン放送に限れば、受信アンテナはマイクロ波やミリ波に比べ大きいものとなり、設置場所等の制約からアンテナ数Mを大きくすることが困難である。また、アンテナ数Mが2の場合には、受信電力比DURを増加させることは困難である。その点、本発明に係る受信装置1によれば、受信アンテナの本数が2本と少ない場合であっても、誤り訂正符号の復号をエラーフリーとすることが可能となる。なお、受信装置1は、等化装置として機能させることもできる。この場合には、等化装置は、誤り訂正復号部17で復号した後、再度変調して、受信装置に送信する。
【0056】
<プログラム>
上記の実施形態として機能させるためにコンピュータを用いることも可能である。そのようなコンピュータは、各装置の機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)によってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。また、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0057】
例えば、上述した受信方法をコンピュータに実行させるためのプログラムは、図8を参照すると、受信信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号y,yを生成するステップS101と、ベースバンド信号y,yに基づいて伝送路応答Hを算出するステップS102と、伝送路応答Hを用いてベースバンド信号y,yから送信信号の推定値を生成するステップS103と、ベースバンド信号y,yの雑音分散σ^ ,σ^ を算出するステップS104と、希望波及びSFN波の受信電力比に応じてクリップ値Lを決定するステップS105と、送信信号の推定値x^,x^、及びベースバンド信号の雑音分散σ^ ,σ^ を用いて、送信された各ビットの対数尤度比S,Sを算出し、対数尤度比S,Sがクリップ値Lを超える場合にはクリップ値LでクリップするステップS106~ステップS108と、対数尤度比S,Sを用いて、受信装置1に送信されたビットの推定値を復号するステップS109と、を含む。
【0058】
また、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介したダウンロードによって提供することもできる。
【0059】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 受信装置
10-1,10-2 受信アンテナ
11-1,11-2 フーリエ変換部
12 伝送路応答算出部
13 MIMIO検出部
14-1,14-2 雑音分散算出部
15 クリップ値決定部
16 尤度比算出部
17 誤り訂正復号部
151 水平偏波電力比算出部
152 垂直偏波電力比算出部
153 判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8