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特許7307694吸着体、熱交換器、および、吸着式ヒートポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】吸着体、熱交換器、および、吸着式ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
   F25B 17/08 20060101AFI20230705BHJP
【FI】
F25B17/08 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020053363
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152438
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】秋田 智行
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】小宅 教文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】深澤 義宏
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】五十嵐 公輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-148363(JP,A)
【文献】特許第5900391(JP,B2)
【文献】特開2015-124923(JP,A)
【文献】特開昭52-075659(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104976816(CN,A)
【文献】特開昭51-084789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 17/08
F25B 35/00-35/04
F25B 37/00
F28F 23/00
F28D 20/00
F24F 6/00
F01N 3/08
B01D 53/02
B01D 53/26
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器に用いられ、気体を吸着する吸着体であって、
複数の吸着層を備え、
複数の前記吸着層のそれぞれは、熱伝導助剤を含む、複数の吸着材を有しており、
気体の拡散抵抗が前記吸着材よりも低い複数の流路が形成されており、
前記複数の流路は、第1の方向に並ぶ複数の第1流路と、前記第1の方向と交差する第2の方向に並ぶ複数の第2流路とを含んでおり、
複数の前記吸着層のうちの第1吸着層は、前記複数の第1流路と、前記複数の第1流路の間に位置する複数の吸着材とを含み、
複数の前記吸着層のうちの第2吸着層は、前記第1吸着層に積層され、前記複数の第2流路と、前記複数の第2流路の間に位置する複数の吸着材とを含む、
吸着体。
【請求項2】
請求項に記載の吸着体であって、
複数の前記吸着層のうちの第3吸着層は、前記第2吸着層に積層され、前記第1の方向に並ぶ複数の第3流路と、前記複数の第3流路の間に位置する複数の吸着材とを含む、
吸着体。
【請求項3】
請求項または請求項に記載の吸着体であって、
前記第1流路と前記第2流路とを連通する連通流路が形成されている、
吸着体。
【請求項4】
請求項から請求項のいずれか一項に記載の吸着体であって、
前記第1吸着層および前記第2吸着層において、
前記吸着材は、線状に形成されており、
複数の前記吸着材は、前記流路となる隙間をあけて並んで配置されている、
吸着体。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の吸着体であって、
前記第1流路および前記第2流路の幅は、50μm以上2mm以下であり、
隣り合う前記第1流路の間隔、および、隣り合う前記第2流路の間隔は、100μm以上5mm以下である、
吸着体。
【請求項6】
熱交換器であって、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の吸着体と、
伝熱壁であって、前記吸着体が一方の側に配置され、他方の側を熱媒体が流れる前記伝熱壁と、を備える、
熱交換器。
【請求項7】
請求項に記載の熱交換器であって、
前記伝熱壁は、筒状に形成されており、内部を前記熱媒体が流れ、
前記吸着体は、前記伝熱壁の外側面に、周方向に沿って配置されている、
熱交換器。
【請求項8】
請求項または請求項に記載の熱交換器を備える吸着式ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着体、熱交換器、および、吸着式ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体を吸着または脱離する吸着材を含む吸着体が知られている。例えば、特許文献1には、板状に形成されている複数の吸着体の間に配置されている流路に、吸着体に吸着される気体を流通させる技術が開示されている。また、特許文献2には、板状の吸着体に形成されている複数の孔に気体を流通させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6045413号公報
【文献】特許5900391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術によっても、吸着体において、気体の吸着量を増加させる技術については、なお、改善の余地があった。例えば、特許文献1に記載の技術では、流路は、板状に形成されている吸着体の主面に沿って配置されているため、吸着体の厚みを厚くすると、吸着材の内部において流路から離れるにしたがって気体が拡散しにくくなる。気体が拡散しにくくなると吸着材の利用率が低下するため、気体の吸着量を増加させることが難しい。また、特許文献2に記載の技術では、複数の孔は、板状の吸着体において厚み方向に形成されているため、隣り合う孔の間隔を広げると、吸着体の内部において孔から離れるにしたがって気体が拡散しにくくなる。気体が拡散しにくくなると吸着材の利用率が低下するため、気体の吸着量を増加させることが難しい。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、吸着体において、気体の吸着量を増加させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、気体を吸着する吸着体が提供される。この吸着体は、気体の拡散抵抗が前記吸着体よりも低い複数の流路が形成されており、前記複数の流路は、第1の方向に並ぶ複数の第1流路と、前記第1の方向と交差する第2の方向に並ぶ複数の第2流路とを含んでいる。
【0008】
この構成によれば、吸着体には、互いに交差する方向に並ぶ複数の第1流路と複数の第2流路とが形成されている。これにより、吸着体の内部において、第1流路では気体を拡散しきれない場所に、第2流路を用いて気体を拡散させることができる。また、吸着体では、第2流路は、第1の方向に交差する第2の方向に並んでいるため、吸着体の内部における表面積が増加する。これにより、吸着体が気体に接触しやすくなるため、吸着体が気体を吸着しやすくなる。したがって、吸着体における気体の吸着量を増加させることができる。
【0009】
(2)上記形態の吸着体は、さらに、前記複数の第1流路と、前記複数の第1流路の間に位置する複数の吸着材とを含む第1吸着層と、前記第1吸着層に積層され、前記複数の第2流路と、前記複数の第2流路の間に位置する複数の吸着材とを含む第2吸着層と、を有してもよい。この構成によれば、吸着体は、第1流路を含む第1吸着層と、第2流路を含む第2吸着層とが積層されている。これにより、例えば、押出成形で成形された吸着体では、一方向に沿った流路のみが形成される一方、上述した構成の吸着体では、複雑な形状の流路を形成することができる。したがって、一方向に沿った流路のみが形成される場合では気体が拡散しにくい吸着体の内部まで気体を拡散させることができる。したがって、気体の吸着量を増加させることができる吸着体を比較的容易に作ることができる。
【0010】
(3)上記形態の吸着体は、さらに、前記第2吸着層に積層され、前記第1の方向に並ぶ複数の第3流路と、前記複数の第3流路の間に位置する複数の吸着材とを含む第3吸着層を有してもよい。この構成によれば、吸着体は、複数の第1流路が並ぶ方向と同じ方向に並ぶ複数の第3流路を含む第3吸着層を有している。第3吸着層は、第1吸着層とともに第2吸着層に積層されるため、吸着体では、第1の方向に並ぶ第1流路、第2の方向に並ぶ第2流路、第1の方向に並ぶ第3流路の順に配置される。これにより、一方向に沿った流路のみが形成される場合では気体が拡散しにくい吸着体の内部まで気体を拡散させることができるため、気体の吸着量をさらに増加させることができる。
【0011】
(4)上記形態の吸着体において、前記第1流路と前記第2流路とを連通する連通流路が形成されていてもよい。この構成によれば、吸着体において第1流路または第2流路を流れる気体は、連通流路を介して、第2流路または第1流路を流れることができる。これにより、第1流路と第2流路との間で気体の流量にばらつきが少なくなるため、吸着体の内部にまんべんなく気体を拡散させることができる。したがって、気体が吸着体に接触しやすくなるため、吸着体が気体を吸着しやすくなり、吸着体における気体の吸着量を増加させることができる。
【0012】
(5)上記形態の吸着体において、前記第1吸着層および前記第2吸着層において、前記吸着材は、線状に形成されており、複数の前記吸着材は、前記流路となる隙間をあけて並んで配置されていてもよい。この構成によれば、第1吸着層および第2吸着層において、線状に形成されている複数の吸着材が、隙間をあけて並んで配置されており、隣り合う吸着材の間を気体の拡散抵抗が吸着体よりも低い流路とすることができる。このように、第1吸着層と第2吸着層とのそれぞれについて、隙間をあけて並べた複数の線状の吸着材によって流路を形成することができるため、このような吸着層を積層することで、互いに交差する方向に並ぶ複数の第1流路と複数の第2流路とが形成されている吸着体を容易に作ることができる。
【0013】
(6)上記形態の吸着体において、前記第1流路および前記第2流路の幅は、50μm以上2mm以下であり、隣り合う前記第1流路の間隔、および、隣り合う前記第2流路の間隔は、100μm以上5mm以下であってもよい。この構成によれば、流路の幅を50μm以上2mm以下とし、隣り合う流路の間隔は、100μm以上5mm以下とすることで、気体を吸着体の内部まで確実に拡散させることができる。これにより、吸着体における気体の吸着量を増加させることができる。
【0014】
(7)本発明の別の形態によれば、熱交換器が提供される。この熱交換器は、上述の吸着体と、伝熱壁であって、前記吸着体が一方の側に配置され、他方の側を熱媒体が流れる前記伝熱壁と、を備える。この構成によれば、熱交換器は、交差する第1流路と第2流路とが形成されている吸着体を備えている。熱交換器では、吸着体における気体の吸着によって発生する熱を伝熱壁の他方の側を流れる熱媒体に伝えることで、吸着体による気体の吸着反応の速度が低下することを抑制する。また、気体を吸着している吸着体に対し、熱媒体の熱を伝えることで気体を脱離させる。これにより、吸着体での気体の吸着および気体の脱離を熱媒体との熱のやりとりによって行うことができる。
【0015】
(8)上記形態の熱交換器において、前記伝熱壁は、筒状に形成されており、内部を前記熱媒体が流れ、前記吸着体は、前記伝熱壁の外側面に、周方向に沿って配置されていてもよい。この構成によれば、吸着体は、筒状に形成されている伝熱壁の外側面に、周方向に沿って配置されている。これにより、吸着体は、伝熱壁の内部を流れる熱媒体との熱のやり取りを効率的に行うことができる。また、伝熱壁の外側面に線状の吸着材を配置することで、伝熱壁の外側面に配置される筒状の吸着体を形成することができる。これにより、比較的容易に吸着体を形成することができる。
【0016】
(9)本発明のさらに別の形態によれば、吸着式ヒートポンプが提供される。この吸着式ヒートポンプは、上述した熱交換器を備える。この構成によれば、吸着式ヒートポンプは、交差する第1流路と第2流路とが形成されている吸着体を備えている。この吸着体は、第1の流路では気体を拡散しきれない場所に、第2の流路を用いて気体を拡散させることができるため、気体の吸着量を増加させることができる。したがって、吸着式ヒートポンプの出力を向上することができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、吸着体を備えるシステム、吸着体の製造方法、熱交換器の製造方法、吸着体の製造方法または熱交換器の製造方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の吸着体を備える吸着式ヒートポンプの模式図である。
図2】第1実施形態の吸着体の斜視図である。
図3】第1実施形態の吸着体の側面図および上面図である。
図4】吸着体の製造方法を説明する第1の図である。
図5】吸着体の製造方法を説明する第2の図である。
図6】吸着体の製造方法を説明する第3の図である。
図7】シミュレーションモデルの模式図である。
図8】算出された吸着材の利用率の分布を示す図である。
図9】吸着材の壁の厚みと高さに対する出力の計算結果を示すコンター図である。
図10】吸着材の利用率についての比較例との比較結果を示すコンター図である。
図11】第2実施形態の吸着体の製造方法を説明する図である。
図12】第3実施形態の吸着体の模式図である。
図13】第4実施形態の吸着体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の吸着体1を備える吸着式ヒートポンプ10の模式図である。吸着式ヒートポンプ10は、2つの反応器6、7と、2つの蒸発凝縮器8、9と、これらを接続する接続配管と、接続配管に配置される複数のバルブと、図示しない制御部と、を備える。吸着式ヒートポンプ10は、2組の反応器と蒸発凝縮器の組み合わせを利用して、温熱から冷熱を発生させる。
【0020】
反応器6は、反応容器6aと、反応容器6aの内部に収容されている吸着体1と、反応容器6aの内部において熱媒体を流通させる熱交換器5と、を備える。反応器7は、反応容器7aと、反応容器7aの内部に収容されている吸着体1と、反応容器7aの内部において熱媒体を流通させる熱交換器5と、を備える。吸着体1は、蒸発凝縮器8、9において発生する作動流体の蒸気、例えば、水蒸気を吸着する。また、水蒸気を吸着している吸着体1は、熱交換器5を流れる熱媒体、例えば、温水の熱を用いて水蒸気を脱離する。
【0021】
蒸発凝縮器8は、水が流れる水配管8aと、吸着体1に吸着される水を貯留する貯留容器8bと、を有する。蒸発凝縮器8では、接続する反応器6、7のモードに応じて、貯留容器8b内の水が蒸発するときの気化熱によって水配管8aを流れる水が冷却されたり、貯留容器8b内の水の蒸気が凝縮されて水に戻されたりする。
【0022】
蒸発凝縮器9は、水が流れる水配管9aと、吸着体1に吸着される水を貯留する貯留容器9bと、を有する。蒸発凝縮器9では、接続する反応器6、7のモードに応じて、貯留容器9b内の水が蒸発するときの気化熱によって水配管9aを流れる水が冷却されたり、貯留容器9b内の水の蒸気が凝縮されて水に戻されたりする。
【0023】
次に、本実施形態の吸着式ヒートポンプ10の作用について説明する。ここでは、図1に示す状態の吸着式ヒートポンプ10に基づいて説明する。図1に示す状態では、制御部からの指令によって、反応器6と蒸発凝縮器8との間のバルブと、反応器7と蒸発凝縮器9との間のバルブとが開けられており、反応器6と蒸発凝縮器9との間のバルブと、反応器7と蒸発凝縮器8との間のバルブとが閉められている。
【0024】
接続配管を介して接続されている反応器6と蒸発凝縮器8とでは、吸着工程として、図示しないポンプによって内部が減圧される。これにより、蒸発凝縮器8内に水蒸気が生成される。生成された作動流体の蒸気は、接続配管を通って(白抜き矢印F11)、反応器6の内部に入り、吸着体1に吸着される。このとき、蒸発凝縮器8の水配管8aを流れる水は、水の気化熱によって冷却される。これにより、水配管8aから冷水が排出されることで、冷熱が吸着式ヒートポンプ10の外部に供給される。
【0025】
接続配管を介して接続されている反応器7と蒸発凝縮器9とでは、脱離工程として、反応器7の熱交換器5に温水が供給される。水を吸着している反応器7の吸着体1では、供給される温水の熱によって水が吸着体1から脱離する。脱離した水は水蒸気として蒸発凝縮器9の内部に入り(白抜き矢印F12)、水配管9aを流れる水によって凝縮され、水になる。この水は、次の吸着工程において利用される。
【0026】
本実施形態の吸着式ヒートポンプ10では、反応器6および反応器7の一方が水蒸気を吸着し、反応器6および反応器7の他方が水蒸気を脱離することで、温水の供給による冷熱の生成を連続的に行う。
【0027】
図2は、本実施形態の吸着体1の斜視図である。図3は、本実施形態の吸着体1の側面図および上面図である。吸着体1は、複数の吸着層を備えている。本実施形態では、吸着体1は、図2に示すように、平面状の吸着層11、12、13、14、15を備えている。なお、説明の便宜上、図2図6では、吸着層11、12、13、14、15の主面に沿う方向をx軸方向とし、吸着層11、12、13、14、15の主面に沿う方向であってx軸に垂直な方向をy軸とする。また、x軸とy軸とに直交する方向をz軸方向とする。また、図2および図3では、吸着体1の構造をわかりやすくするため、吸着層11、12、13、14、15における各部材のサイズや隙間の大きさなどを、実際の比率から変更している。
【0028】
吸着層11は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材11aを有している。複数の線状吸着材11aのそれぞれは、x軸方向に延設されている。線状吸着材11aの長手方向に垂直な断面は、矩形状であり、本実施形態では、線状吸着材11aの長手方向に垂直な断面における幅(y軸方向の長さ)および高さ(z軸方向の長さ)は、100μm以上5mm以下となっている。複数の線状吸着材11aは、吸着体1をx軸方向から見た側面図である図3(a)に示すように、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材11aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体1に吸着される水蒸気が流れる流路11bとなる。吸着層11は、特許請求の範囲の「第1吸着層」に相当し、流路11bは、特許請求の範囲の「第1流路」に相当する。
【0029】
吸着層12は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材12aを有している。複数の線状吸着材12aのそれぞれは、y軸方向に延設されている。線状吸着材12aの長手方向に垂直な断面は、矩形状であり、本実施形態では、線状吸着材12aの長手方向に垂直な断面における幅(x軸方向の長さ)および高さ(z軸方向の長さ)は、100μm以上5mm以下となっている。複数の線状吸着材12aは、吸着体1をy軸方向から見た側面図である図3(b)に示すように、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材12aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体1に吸着される水蒸気が流れる流路12bとなる。吸着層12は、特許請求の範囲の「第2吸着層」に相当し、流路12bは、特許請求の範囲の「第2流路」に相当する。
【0030】
吸着層13は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材13aを有している。複数の線状吸着材13aのそれぞれは、x軸方向に延設されている。線状吸着材13aの長手方向に垂直な断面は、矩形状であり、本実施形態では、線状吸着材13aの長手方向に垂直な断面における幅(y軸方向の長さ)および高さ(z軸方向の長さ)は、100μm以上5mm以下となっている。複数の線状吸着材13aは、図3(a)に示すように、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材13aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体1に吸着される水蒸気が流れる流路13bとなる。吸着層13は、特許請求の範囲の「第3吸着層」に相当し、流路13bは、特許請求の範囲の「第3流路」に相当する。
【0031】
吸着層14は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材14aを有している。複数の線状吸着材14aのそれぞれは、y軸方向に延設されている。線状吸着材14aの長手方向に垂直な断面は、矩形状であり、本実施形態では、線状吸着材14aの長手方向に垂直な断面における幅(x軸方向の長さ)および高さ(z軸方向の長さ)は、100μm以上5mm以下となっている。複数の線状吸着材14aは、図3(b)に示すように、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材14aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体1に吸着される水蒸気が流れる流路14bとなる。吸着層14は、特許請求の範囲の「第2吸着層」に相当し、流路14bは、特許請求の範囲の「第2流路」に相当する。
【0032】
吸着層15は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材15aを有している。複数の線状吸着材15aのそれぞれは、x軸方向に延設されている。線状吸着材15aの長手方向に垂直な断面は、矩形状であり、本実施形態では、線状吸着材15aの長手方向に垂直な断面における幅(y軸方向の長さ)および高さ(z軸方向の長さ)は、100μm以上5mm以下となっている。複数の線状吸着材15aは、図3(a)に示すように、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材15aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体1に吸着される水蒸気が流れる流路15bとなる。吸着層15は、特許請求の範囲の「第1吸着層」に相当し、流路15bは、特許請求の範囲の「第1流路」に相当する。
【0033】
吸着体1では、図2および図3に示すように、吸着層11、12、13、14、15は、z軸方向に、この順で積層されている。本実施形態では、流路11bと、流路13bと、流路15bとは、略平行となるように配置されている(図3(a)参照)。流路12bと、流路14bとは、略平行となるように配置されており、かつ、流路11bと、流路13bと、流路15bとに略直角に交差するように配置されている(図3(b)参照)。これにより、吸着体1は、網目状に形成される。
【0034】
本実施形態では、図2(a)および図2(b)に示すように、流路11bと流路12bとは、流路11bと流路12bとの間の連通流路16aによって連通されている。また、流路12bと流路13bとは、流路12bと流路13bとの間の連通流路16bによって連通されている。また、流路13bと流路14bとは、流路13bと流路14bとの間の連通流路16cによって連通されている。また、流路14bと流路15bとは、流路14bと流路15bとの間の連通流路16dによって連通されている。これらによって、吸着体1には、吸着体1をz軸方向に貫通する連通流路16が形成されている。なお、図2(a)および図2(b)では、連通流路16a、16b、16c、16dの位置をわかりやすくするため、太線で示している。
【0035】
図4は、吸着体1の製造方法を説明する第1の図である。図5は、吸着体1の製造方法を説明する第2の図である。図6は、吸着体1の製造方法を説明する第3の図である。次に、吸着体1の製造方法について説明する。
【0036】
吸着体1の製造方法では、最初に、平板状のステージ18の表面に、例えば、3Dプリンタのノズル19を用いて、シリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料を押し出し、線状吸着材11aを形成する。このとき、ノズル19は、図4に示すように、ステージ18の表面に沿ってx軸方向に移動させる(図4の白抜き矢印F13)。ノズル19を移動させて1本の線状吸着材11aを成形したのち、ノズル19をy軸方向に移動させる。このとき、ノズル19のy軸方向への移動距離が、吸着層11の流路11bの幅となる。ノズル19をy軸方向に移動させたのち、先に成形された線状吸着材11aの隣に別の線状吸着材11aを成形する。これを繰り返し、ステージ18の表面に、複数の線状吸着材11aを所定の隙間をあけつつ成形する。これにより、吸着層11が成形される(図4参照)。このとき、ステージ18を、熱交換器5の伝熱壁5aとすることで、熱交換器5に直接吸着体1を形成することができる。
【0037】
次に、先ほど成形された吸着層11のz軸方向のプラス側に、線状吸着材11aの成形と同じように、ノズル19を用いて、シリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料を押し出し、線状吸着材12aを形成する。このとき、ノズル19は、図5に示すように、ステージ18の表面に沿ってy軸方向に移動させる(図5の白抜き矢印F14)。ノズル19を移動させて1本の線状吸着材12aを成形したのち、ノズル19をx軸方向に移動させる。このとき、ノズル19のx軸方向への移動距離が、吸着層12の流路12bの幅となる。ノズル19をx軸方向に移動させたのち、先に成形された線状吸着材12aの隣に別の線状吸着材12aを成形する。これを繰り返し、吸着層11のz軸方向のプラス側に、複数の線状吸着材12aを所定の隙間をあけつつ成形する。これにより、吸着層12が成形される(図5参照)。
【0038】
本実施形態の吸着体1の製造方法では、次に、成形した吸着層12のz軸方向のプラス側に、ノズル19をステージ18の表面に沿ってx軸方向に移動させつつ、シリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料をノズル19から押し出す。これにより、複数の線状吸着材13aを含む吸着層13を成形する。さらに、成形した吸着層13のz軸方向のプラス側に、シリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料をノズル19から押し出す。これにより、複数の線状吸着材14aを含む吸着層14を成形する。また、成形した吸着層14のz軸方向のプラス側に、シリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料をノズル19から押し出す。これにより、複数の線状吸着材15aを含む吸着層15を成形する。吸着体1は、このようにして成形される。
【0039】
次に、本実施形態の吸着体1の効果についてシミュレーション計算を用いて評価した結果を説明する。ここでは、作動流体の拡散抵抗が比較的低い流路が一方向にのみ沿って形成されている吸着体90を比較例として、同じシミュレーション計算を行い、本実施形態の吸着体1における吸着材の利用率と、比較例の吸着体90における吸着材の利用率とを比較した。
【0040】
図7は、シミュレーションモデルの模式図である。図7(a)には、本実施形態の吸着体1を模したモデルの模式図を示し、図7(b)には、比較例の吸着体90を模したモデルの模式図を示す。なお、図7は、それぞれのモデルにおける上面図を示している。
【0041】
図7(a)に示すモデルM1は、x軸方向に延設されている線状吸着材M11aとy軸方向に延設されている線状吸着材M12aとが交互に3段ずつz軸方向に積層されているモデルである。モデルM1では、隣り合う線状吸着材M11aの間の流路M11bが形成されており、隣り合う線所部材M12の間の流路M12bが形成されている。モデルM1では、図7(a)に示す、線状吸着材M11aと線状吸着材M12aとが重なった部分のy軸方向に沿ったA-1断面と、隣り合う線状吸着材M12aの間を通るy軸方向に沿ったA-2断面との2つの断面における吸着材の利用率を計算した。モデルM1での吸着材の利用率の計算において、線状吸着材M11a、12aのそれぞれの幅を、吸着材の壁の厚みD1とする(図7(a)参照)。
【0042】
図7(b)に示すモデルM90は、ブロック状の吸着材91においてz軸方向に複数の流路92が形成されている比較例の吸着体90を模したモデルである。モデルM90では、図7(b)に示す、吸着材91のy軸方向に沿ったB-1断面と、2つの流路92を通るy軸方向に沿ったB-2断面との2つの断面における吸着材の利用率を計算した。モデルM90での吸着材の利用率の計算において、2つの流路92に挟まれた吸着材91の幅を、吸着材の壁の厚みD90とする(図7(b)参照)。
【0043】
図8は、シミュレーション計算によって算出された吸着材の利用率の分布を示す図である。今回のシミュレーションでは、一方の端部に熱交換器5が配置されている吸着体における吸着材の利用率を計算した。図8では、吸着材の利用率を濃淡で示しており、吸着材の利用率が高いところは、薄く示されている。なお、今回のシミュレーションでは、モデルM1とモデルM90のいずれにおいても、流路の幅を300μmとし、隣り合う流路の間隔、すなわち、吸着材の壁の厚みD1、D90を600μmに設定して計算を行った。
【0044】
図8(a)には、本実施形態の吸着体1を模したモデルM1での吸着材の利用率の分布を示し、図8(b)には、比較例の吸着体90を模したモデルM90での吸着材の利用率の分布を示す。図8(a)のモデルM1と図8(b)のモデルM90とを比較すると、モデルM90に比べモデルM1の方が、色が薄い領域が広いことから、モデルM1の方が吸着材の利用率が高いことが明らかとなった。
【0045】
図9は、吸着材の壁の厚みと高さに対する出力の計算結果を示すコンター図である。図9は、本実施形態の吸着体1を模したモデルM1と、比較例の吸着体90を模したモデルM90のそれぞれについて、出力の計算結果を示した図である。図9では、隣り合う流路の間における吸着材の壁の厚みと、吸着材の高さとを変数としたときの吸着体の出力の変化を示している。ここで、吸着材の高さは、モデルM1では、図8(a)に示す高さH1であり、モデルM90では、図8(b)に示す高さH90である。図9に示す出力は、粒径70μmのシリカに熱伝導助剤が20%添加された吸着材であって、流路の内径が300μmの吸着体を想定して算出されている。図9は、吸着材の壁の厚みをx軸とし、吸着体の高さをy軸としたときの、吸着材の単位重量当たりの出力[W/kg]を示している。図9(a)は、本実施形態の吸着体1を模したモデルM1における出力を示すコンター図である。図9(b)は、比較例の吸着体90を模したモデルM90における出力を示すコンター図である。
【0046】
比較例の吸着体90を模したモデルM90では、吸着材の壁の厚みを厚くすると、流路92から離れた位置の吸着材まで水が拡散にしにくくなる。このため、モデルM90では、上述した吸着式ヒートポンプ10(図1参照)での吸着工程と脱離工程とを繰り返していくと吸着材の利用率が低下する。吸着材の利用率が低下すると、図9(b)に示すように、出力も低下することが分かる(例えば、図9(b)の「吸着材の壁の厚み」が900μm以上の領域など)。
【0047】
一方、本実施形態の吸着体1を模したモデルM1では、吸着材の壁の厚みを厚くしても吸着材の利用率が低下する度合いは、比較例のモデルM90に比べて小さい(図9(a)参照)。このため、吸着材の壁の厚みを厚くしても、出力の低下は比較的緩やかである(例えば、図9(a)の「吸着材の壁の厚み」が1200μm以上の領域など)。
【0048】
図10は、吸着材の利用率についての比較例との比較結果を示すコンター図である。図10には、吸着材の壁の厚みをx軸とし、吸着材の高さをy軸としたときの、図9で示したモデルM90の出力に対するモデルM1の出力比を示したコンター図である。すなわち、図10には、吸着材の壁の厚みが同じであって、吸着材の高さが同じであるときの比較例の吸着体90に対する本実施形態の吸着体1の出力比が示されているといえる。図10には、モデルM90に対するモデルM1の出力比が1以上となる領域A1に、斜線を付してある。
【0049】
図10に示すように、吸着材の壁の厚みが比較的薄く、かつ、吸着材の高さが比較的高い場合を除いて、本実施形態のモデルM1の出力は、比較例のモデルM90より大きくなることが明らかとなった。これは、本実施形態のモデルM1では、比較例のモデルM90では水の吸着に利用できていなかった部分を流路M11b、M12bとすることで、吸着体の表面積が大きくなり、吸着材の利用率が高い場所が増えたためである。特に、この傾向は、吸着材の壁の厚みが厚いときに顕著となる。
【0050】
以上、第1実施形態の吸着体1には、互いに交差する方向に並ぶ複数の流路11b、15bと複数の流路12b、14bとが形成されている。これにより、吸着体1の内部において、流路11b、15bでは水蒸気を拡散しきれない場所に、流路12b、14bを用いて水蒸気を拡散させることができる。また、吸着体1では、流路12b、14bは、y軸方向に交差するx軸方向に並んでいるため、吸着体1の内部における表面積が増加する。これにより、吸着体1が水蒸気に接触しやすくなるため、吸着体1が水蒸気を吸着しやすくなる。したがって、吸着体1における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0051】
また、本実施形態の吸着体1は、流路11b、15bを含む吸着層11、15と、流路12b、14bを含む吸着層12、14とが積層されている。これにより、例えば、押出成形で成形された吸着体では、一方向に沿った流路のみが形成される一方、本実施形態の吸着体1では、複雑な形状の流路を形成することができる。したがって、一方向に沿った流路のみが形成される場合では水蒸気が拡散しにくい吸着体1の内部まで水蒸気を拡散させることができる。したがって、水蒸気の吸着量を増加させることができる吸着体1を比較的容易に作ることができる。
【0052】
また、本実施形態の吸着体1は、複数の流路11b、15bが並ぶ方向と同じ方向に並ぶ複数の流路13bを含む吸着層13を有している。吸着層13は、吸着層11とともに吸着層12に積層されるため、y軸方向に並ぶ流路11b、x軸方向に並ぶ流路12b、y軸方向に並ぶ流路13bの順に配置される。これにより、一方向に沿った流路のみが形成される場合では水蒸気が拡散しにくい吸着体1の内部まで水蒸気を拡散させることができるため、水蒸気の吸着量をさらに増加させることができる。
【0053】
また、本実施形態の吸着体1によれば、吸着体1において流路11bまたは流路12bを流れる水蒸気は、連通流路16aを介して、流路12bまたは流路11bを流れることができる。これにより、流路11bと流路12bとの間で気体の流量にばらつきが少なくなるため、吸着体1の内部にまんべんなく水蒸気を拡散させることができる。したがって、水蒸気が吸着体1に接触しやすくなるため、吸着体1が水蒸気を吸着しやすくなり、吸着体1における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0054】
また、本実施形態の吸着体1によれば、吸着層11において、線状に形成されている複数の線状吸着材11aが、隙間をあけて並んで配置されており、隣り合う線状吸着材11aの間を水蒸気の拡散抵抗が吸着体1よりも低い流路11bとすることができる。この構成は、吸着層12、13、14,15についても同様である。このように、1つの吸着層について、隙間をあけて並べた複数の線状吸着材によって流路を形成することができる。これにより、このような吸着層11、12、13、14、15を積層することで、互いに交差する方向に並ぶ複数の流路11b、13b、15bと複数の流路12b、14bとが形成されている吸着体1を容易に作ることができる。
【0055】
また、本実施形態の吸着体1によれば、流路11b、12b、13b、14b、15bのそれぞれの幅を50μm以上2mm以下とし、隣り合う流路の間隔は、100μm以上5mm以下とすることで、水蒸気を吸着体1の内部まで確実に拡散させることができる。これにより、吸着体1における気体の吸着量を増加させることができる。
【0056】
また、本実施形態の熱交換器5によれば、熱交換器5は、交差する流路11b、13b、15bと流路12b、14bとが形成されている吸着体1を備えている。熱交換器5では、吸着体1における水蒸気の吸着によって発生する熱を熱交換器5の伝熱壁5aを流れる熱媒体としての水に伝えることで、吸着体1による水蒸気の吸着反応の速度が低下することを抑制する。また、水蒸気を吸着している吸着体1に対し、熱媒体としての水の熱を伝えることで水蒸気を脱離させる。これにより、吸着体1での水蒸気の吸着および気体の脱離を熱媒体としての水との熱のやりとりによって行うことができる。
【0057】
また、本実施形態の吸着式ヒートポンプ10によれば、交差する流路11b、13b、15bと流路12b、14bとが形成されている吸着体1を備えている。この吸着体1は、流路11b、13b、15bでは気体を拡散しきれない場所に、流路11b、13b、15bに交差している流路12b、14bを用いて水蒸気を拡散させることができるため、水蒸気の吸着量を増加させることができる。したがって、吸着式ヒートポンプの出力を向上することができる。
【0058】
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態の吸着体2の製造方法を説明する図である。第2実施形態の吸着体2は、第1実施形態の吸着体1(図2)と比較すると、形状が異なる。
【0059】
本実施形態の吸着体2は、2つの吸着層21、22を備えている。吸着体2は、図11(b)に示すように、円筒状に形成されている。本実施形態の吸着体2は、熱交換器5が備える伝熱壁5aに配置されている。伝熱壁5aは、図10に示すように、円筒状に形成されており、伝熱壁5aの内部は、吸着体2と熱交換する熱媒体としての水が流れるように形成されている。
【0060】
吸着層21は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材21aを有している。吸着層21は、熱交換器5の伝熱壁5aの外側面において、周方向に沿って配置されている。線状吸着材21aの一部は、伝熱壁5aの外側面において、全体の形状が螺旋状に形成されている。線状吸着材21aの断面は、幅および高さが100μm以上5mm以下の矩形状となっている。複数の線状吸着材21aは、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材21aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体2に吸着される水蒸気が流れる流路21bとなる。吸着層21は、特許請求の範囲の「第1吸着層」に相当し、流路21bは、特許請求の範囲の「第1流路」に相当する。
【0061】
吸着層22は、シリカゲルを含んで線状に形成されている、複数の線状吸着材22aを有している。吸着層21は、吸着層21の外側において、熱交換器5の伝熱壁5aの周方向に沿って配置されている。線状吸着材22aの一部は、吸着層21の外側において、全体の形状が螺旋状に形成されている。線状吸着材22aの断面は、幅および高さが100μm以上5mm以下の矩形状となっている。複数の線状吸着材22aは、一定の間隔をあけて並んで配置されている。本実施形態では、隣り合う線状吸着材22aの間の隙間の距離は、50μm以上2mm以下となっており、この隙間が吸着体2に吸着される水蒸気が流れる流路22bとなる。吸着層22は、特許請求の範囲の「第2吸着層」に相当し、流路22bは、特許請求の範囲の「第2流路」に相当する。
【0062】
吸着体2では、図10(b)に示すように、吸着層21と吸着層22とが熱交換器5の伝熱壁5aの外側において積層されている。このとき、吸着層21の流路21bと、吸着層22の流路22bとは交差するように積層されるため、吸着体2は、図10(b)に示すように、網目状に形成される。
【0063】
次に、吸着体2の製造方法について説明する。最初に、図10(a)に示すように、熱交換器5を、熱交換器5の中心軸C5を回転中心として回転させながら(図10(a)の白抜き矢印F21、F22)、ノズル19を伝熱壁5aの一方の端部5bから他方の端部5cに向けて移動させる(図10(a)の白抜き矢印F23)。移動するノズル19から押し出されるシリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料が伝熱壁5aの外壁面に接着することで、図10(a)に示すような中心軸C5に対して斜めに配置される線状吸着材21aが形成される。1本の線状吸着材21aを成形したのち、隙間をあけて別の線状吸着材21aを同じ方法で成形する。このとき、隙間が吸着層21の流路21bとなる。これにより、吸着層21が形成される。
【0064】
次に、図10(b)に示すように、熱交換器5を、熱交換器5の中心軸C5を回転中心として回転させながら(図10(b)の白抜き矢印F24、F25)、ノズル19を伝熱壁5aの他方の端部5cから一方の端部5bに向けて移動させる(図10(b)の白抜き矢印F26)。移動するノズル19から押し出されるシリカゲルと熱伝導助剤とが混合された材料が吸着層21の外側面に接着することで、図10(c)に示すような中心軸C5に対して斜めに配置される線状吸着材22aが形成される。1本の線状吸着材22aを成形したのち、隙間をあけて別の線状吸着材22aを同じ方法で成形する。このとき、隙間が吸着層22の流路22bとなる。これにより、吸着層22が形成される。本実施形態の吸着体2は、このようにして成形される。
【0065】
以上、第2実施形態の吸着体2には、互いに交差する方向に並ぶ複数の流路21bと複数の流路22bとが形成されている。これにより、水蒸気をより広範囲に拡散させることができるとともに、吸着体2の内部における表面積が増加するため、吸着体2が水蒸気を吸着しやすくなる。したがって、吸着体2における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0066】
また、本実施形態の吸着体2は、筒状に形成されている伝熱壁5aの外側面に、周方向に沿って配置されている。これにより、吸着体2は、伝熱壁5aの内部を流れる水との熱のやり取りを効率的に行うことができる。
【0067】
また、本実施形態の吸着体2によれば、吸着体2を製造するとき、伝熱壁5aの外側面に隙間をあけて複数の線状吸着材21aまたは複数の線状吸着材22aを配置することで、伝熱壁5aの外側面に配置される筒状の吸着体2を形成することができる。これにより、比較的容易に吸着体2を形成することができる。
【0068】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態の吸着体3の模式図である。第3実施形態の吸着体3は、第1実施形態の吸着体1(図2)と比較すると、形状が異なる。
【0069】
本実施形態の吸着体3は、吸着材31と、2種類の流路32、33と、を備えている。図12(a)は、吸着体3の斜視図であり、図12(b)は、吸着体3の上面図である。なお、説明の便宜上、図12では、流路32の開口が形成されている方向をz軸方向とし、流路33の開口が形成されている方向をy軸方向とし、z軸とy軸とに直交する方向をx軸方向とする。また、図12では、吸着体3の構造をわかりやすくするため、流路の大きさなどを実際の比率から変更している。
【0070】
吸着材31は、シリカゲルと熱伝導補助材とから形成されている部材であって、略直方体状に形成されている。吸着材31には、2種類の流路32、33が形成されている。
【0071】
流路32は、吸着材31をz軸方向に貫通する貫通孔であって、本実施形態では、9個形成されている。流路32は、x軸方向およびy軸方向のそれぞれに、等間隔で並べて配置されている。本実施形態では、流路32は、x軸方向の幅およびy軸方向の幅が、50μm以上2mm以下となるように形成されている。また、隣り合う流路32の間隔は、100μm以上5mm以下となっている。すなわち、隣り合う流路32の間の吸着材31の壁の厚みは、100μm以上5mm以下となっている。
【0072】
流路33は、吸着材31をy軸方向に貫通する貫通孔であって、本実施形態では、8個形成されている。流路33は、x軸方向およびz軸方向のそれぞれに、等間隔で並べて配置されている。本実施形態では、流路33は、x軸方向の幅およびz軸方向の幅が、50μm以上2mm以下となるように形成されている。また、隣り合う流路33の間隔は、100μm以上5mm以下となっている。すなわち、隣り合う流路33の間の吸着材31の壁の厚みは、100μm以上5mm以下となっている。
【0073】
次に、吸着体3の製造方法の一例を説明する。最初に、例えば、押出成形によって、z軸方向に貫通孔が形成されている吸着材を成形する。この場合、z軸方向に沿って形成された貫通孔が流路32となる。この押出成形で成形された吸着材に対して、ドリルを用いて、y軸方向に貫通孔を形成する。このドリルで形成された貫通孔が流路33となる。なお、ここでは、ドリルを用いて貫通孔を形成するとしたが、別の方法で貫通孔を形成してもよい。
【0074】
以上、第3実施形態の吸着体3には、互いに交差する方向に並ぶ複数の流路32と複数の流路33とが形成されている。これにより、水蒸気をより広範囲に拡散させることができるとともに、吸着体3の内部における表面積が増加するため、吸着体3が水蒸気を吸着しやすくなる。したがって、吸着体3における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0075】
<第4実施形態>
図13は、第4実施形態の吸着体4の模式図である。第4実施形態の吸着体4は、第1実施形態の吸着体1(図2)と比較すると、形状が異なる。
【0076】
本実施形態の吸着体4は、吸着材41と、2種類の流路42、43と、連通流路44をと、備えている。図13(a)は、吸着体4の斜視図であり、図13(b)は、吸着体4の上面図である。なお、説明の便宜上、図13では、流路42の開口が形成されている方向をx軸方向とし、流路43の開口が形成されている方向をy軸方向とし、x軸とy軸とに直交する方向をz軸方向とする。また、図13では、吸着体4の構造をわかりやすくするため、流路の大きさなどを実際の比率から変更している。
【0077】
吸着材41は、シリカゲルと伝導補助材とから形成されている部材であって、略直方体状に形成されている。吸着材41には、2種類の流路42、43と、連通流路44とが形成されている。
【0078】
流路42は、吸着材41をx軸方向に貫通する貫通孔であって、本実施形態では、6個形成されている。流路42は、y軸方向およびz軸方向のそれぞれに、等間隔で並べて配置されている。本実施形態では、流路42は、y軸方向の幅およびz軸方向の幅が、50μm以上2mm以下となるように形成されている。また、隣り合う流路42の間隔は、100μm以上5mm以下となっている。すなわち、隣り合う流路42の間の吸着材41の壁の厚みは、100μm以上5mm以下となっている。
【0079】
流路43は、吸着材41をy軸方向に貫通する貫通孔であって、本実施形態では、6個形成されている。流路43は、x軸方向およびz軸方向のそれぞれに、等間隔で並べて配置されている。本実施形態では、流路43は、x軸方向の幅およびz軸方向の幅が、50μm以上2mm以下となるように形成されている。また、隣り合う流路43の間隔は、100μm以上5mm以下となっている。すなわち、隣り合う流路43の間の吸着材41の壁の厚みは、100μm以上5mm以下となっている。
【0080】
連通流路44は、流路42と流路43とを連通する。本実施形態では、連通流路44は、図13(b)に示すように、流路42と流路43とが交差する位置に形成されている。これにより、吸着体4は、z軸方向に貫通する貫通孔を9個有している。
【0081】
次に、吸着体4の製造方法の一例を説明する。最初に、例えば、押出成形によって、x軸方向に貫通孔が形成されている吸着材を成形する。この場合、x軸方向に沿って形成された貫通孔が流路42となる。この押出成形で成形された吸着材に対して、ドリルを用いて、y軸方向に貫通孔を形成する。このドリルで形成された貫通孔が流路43となる。さらに、x軸方向とy軸方向とに貫通孔が形成されている吸着材に対して、ドリルを用いて、z軸方向に貫通孔を形成する。このとき、ドリルは、x軸方向に形成されている貫通孔とy軸方向に形成されている貫通孔との両方を通るように、貫通孔を形成する。これにより、連通流路44が形成される。なお、ここでは、ドリルを用いて貫通孔を形成するとしたが、別の方法で貫通孔を形成してもよい。
【0082】
以上、第4実施形態の吸着体4には、互いに交差する方向に並ぶ複数の流路42と複数の流路43とが形成されている。これにより、水蒸気をより広範囲に拡散させることができるとともに、吸着体4の内部における表面積が増加するため、吸着体4が水蒸気を吸着しやすくなる。したがって、吸着体4における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0083】
また、本実施形態の吸着体4によれば、吸着体4において流路42または流路43を流れる水蒸気は、連通流路44を介して、流路43または流路42を流れることができる。これにより、吸着体4の内部にまんべんなく水蒸気を拡散させることができる。したがって、水蒸気が吸着体4に接触しやすくなるため、吸着体4が水蒸気を吸着しやすくなり、吸着体4における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0084】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0085】
[変形例1]
第1実施形態では、流路12bと、流路14bとは、流路11bと、流路13bと、流路15bとに略直角に交差するように配置されているとした。しかしながら、「第1流路」と「第2流路」とは、直交していなくてもよい。2種類の流路が異なる方向に並ぶことで、交差していればよい。これにより、一方の流路で水蒸気を流通させることができない吸着体の内部に他方の流路で流通させることができるため、吸着材の利用率が向上し、吸着体における水蒸気の吸着量を増加させることができる。
【0086】
[変形例2]
第1実施形態では、5層の吸着層11、12、13、14、15が積層されるとした。第2実施形態では、2層の吸着層21、22が積層されるとした。しかしながら、積層される吸着層の数はこれに限定されない。
【0087】
[変形例3]
第1実施形態では、「第3吸着層」としての吸着層13は、吸着層11、15と同様に、x軸方向に延設されるとした。しかしながら、吸着層13の流路13bが延設される方向はこれに限定されない。例えば、x軸またはy軸に対して45度の角度に沿って延設されてもよい。
【0088】
[変形例4]
上述の実施形態では、流路の幅は、50μm以上2mm以下であり、隣り合う流路の間隔は、100μm以上5mm以下であるとした。しかしながら、流路の幅および隣り合う流路の間隔は、これに限定されない。吸着材の種類や吸着質(実施形態では水)の種類に対応させて変更されてもよい。
【0089】
[変形例5]
上述の実施形態では、吸着材は、シリカゲルを含むとした。しかしながら、吸着材が含む材料は、これに限定されない。水を吸着可能な活性炭やゼオライトなどであってもよい。また、吸着材に吸着される気体は、水蒸気に限定されない。アンモニア、メタノール、エタノールなどであってもよい。
【0090】
[変形例6]
第1実施形態では、線状吸着材は、断面形状が矩形状であるとした。しかしながら、線状吸着材の断面形状は矩形状に限定されない。円形状であってもよい。
【0091】
[変形例7]
第1実施形態および第2実施形態では、複数の吸着層のそれぞれが有する線状吸着部材のそれぞれは、同じ材料から形成されるとした。しかしながら、複数の吸着層のそれぞれが有する線状吸着部材は、異なる材料から形成されていてもよい。例えば、異なる種類の吸着材を用いた材料が異なる吸着層を積層してもよい。
【0092】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0093】
1,2,3,4…吸着体
5…熱交換器
5a…伝熱壁
10…吸着式ヒートポンプ
11,12,13,14,15,21,22…吸着層
11a,12a,13a,14a,15a,21a,22a…線状吸着材
11b,12b,13b,14b,15b,21b,22b,32,33,42,43…流路
31,42…吸着材
16,16a,16b,16c,16d,44…連通流路
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