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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】半導体製造方法及び半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230705BHJP
【FI】
H01L21/302 104Z
H01L21/302 101C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022549122
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2021021848
(87)【国際公開番号】W WO2022259399
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 欣秀
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-501373(JP,A)
【文献】特開2016-197680(JP,A)
【文献】特開2005-175466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記膜の加工残量が閾値を超えていた場合に、前記有機化合物を含む有機ガスを供給しつつ前記ウエハの温度を所定温度に上昇させて維持することにより、前記有機金属錯体の膜の形成と、前記有機金属錯体の膜の気化とを並行して行う処理を行い、
前記膜の加工残量が閾値以下である場合に、前記所定温度より低い温度において前記有機化合物を含む有機ガスの供給を停止した状態で前記有機金属錯体の膜を形成し、さらに前記ウエハの温度を上昇させて維持し前記揮発工程を行う半導体製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体製造方法であって、
前記有機ガスを供給する工程の前において所定の温度にされた前記ウエハの前記膜の加工残量を判定する半導体製造方法。
【請求項3】
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記有機ガスが、多座配位子分子であってハロゲンを含まず、且つカルボキシル基を有し、カルボキシル基が結合している炭素原子に隣接して結合している炭素原子上にルイス塩基性を有し、非共有電子対を持つ部分構造であるOH基、またはOCH 基、NH 基、N(CH 基の何れか1つを有する有機化合物を成分として含むガスである半導体製造方法。
【請求項4】
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記有機ガスが、メトキシ酢酸を含むガスである半導体製造方法。
【請求項5】
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記有機ガスが、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物であって、該カルボニル基は非共有電子対を持つ部分構造であるO、SあるいはNHと結合している有機加工物を成分として含むガスである半導体製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の半導体製造方法であって、
前記有機化合物を含む有機ガスの供給を停止した後、前記ウエハの温度を上昇させて維持し、前記揮発工程が行われる半導体製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の半導体製造方法であって、
前記ウエハの温度を少なくとも2段階で上昇させる半導体製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の半導体製造方法であって、
前記膜が異種の金属元素を含む複数の被処理膜から形成されており、前記各被処理膜と反応して有機金属錯体の膜を形成する前記有機化合物を含む有機ガスを使い分けて、選択的にエッチングする半導体製造方法。
【請求項9】
内部に処理室を有する容器と、前記処理室内に配置され典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハがその上に配置されるステージと、ルイス塩基性を有する有機化合物を含む有機ガスを前記処理室内に供給する処理ガス供給装置と、前記ウエハを加熱する加熱装置とを備える半導体製造装置であって、
前記ウエハの温度を上昇させて維持するように前記加熱装置を動作させる制御部を有し、
当該制御部は、前記処理対象の膜の処理に応じて選択された、前記有機化合物を含む有機ガスを供給しつつ前記ウエハの温度を上昇させて所定の温度に維持して、前記有機ガスによる前記処理対象の表面の膜の形成および当該膜の気化を並行して行う処理、および、前記ウエハを前記所定の温度より低い範囲内の温度に維持して前記有機ガスが供給された後に前記有機ガスの供給が停止された状態で前記膜が形成された後に、前記ウエハを加熱して前記膜を気化する処理の何れかの処理において、前記加熱装置の動作を調節する半導体製造装置。
【請求項10】
請求項に記載の半導体製造装置において、
前記制御部は、前記処理ガス供給装置により、前記処理室内に前記有機化合物を含む有機ガスを供給することによって前記有機ガスを前記膜に吸着させて形成された有機金属錯体の膜が、気化して脱離される温度まで前記ウエハの温度が上昇するように、前記加熱装置を調節する半導体製造装置。
【請求項11】
請求項に記載の半導体製造装置であって、
前記制御部は、
前記膜の加工残量が閾値を超えていた場合に、前記有機ガスを供給しつつ前記ウエハの温度を前記所定の温度に上昇させて維持することにより、前記処理対象の膜の表面の有機金属錯体の膜の形成と、前記有機金属錯体の膜の気化とを並行して行う処理を行い、
前記膜の加工残量が閾値以下である場合に、前記有機ガスを供給した後に前記有機化合物を含む有機ガスの供給を停止した状態で前記所定の温度より低い温度で前記有機金属錯体の膜を形成し、さらに前記ウエハの温度を上昇させて前記有機金属錯体の膜を気化して脱離させる温度に維持する半導体製造装置。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体製造装置であって、
前記加工残量は、有機ガスが前記処理室内に供給される前において前記ウエハが所定の温度にされた状態で判定される半導体製造装置。
【請求項13】
請求項に記載の半導体製造装置であって、
前記有機ガスが、多座配位子分子であってハロゲンを含まず、且つカルボキシル基を有し、カルボキシル基が結合している炭素原子に隣接して結合している炭素原子上にルイス塩基性を有し、非共有電子対を持つ部分構造であるOH基、またはOCH基、NH基、N(CHの何れか1つを有する有機化合物を成分として含むガスである半導体製造装置。
【請求項14】
請求項に記載の半導体製造装置であって、
前記有機ガスが、メトキシ酢酸を含むガスである半導体製造装置。
【請求項15】
請求項に記載の半導体製造装置であって、
前記有機ガスが、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物であって、該カルボニル基は非共有電子対を持つ部分構造であるO、SあるいはNHと結合している有機加工物を成分として含むガスである半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造方法及び半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最先端の半導体デバイスに対する小型化、高速・高性能化、省電力化の要求は、ますます加速している。特に半導体デバイスの内部では、さまざまな新たな材料の採用が進んでおり、これらの多種多様の材料(導体膜、絶縁膜)をナノメートルレベルの超高精度に、所謂原子層レベルで加工(成膜およびエッチング)することが求められている。
【0003】
このような原子層レベルのエッチングを実現する技術の一例が、特許文献1に示されるように従来から知られている。この従来技術では、基板上に形成された処理対象の膜としてのAl膜やHfO膜、ZrO膜を原子層レベルの超高精度に加工するために、F(フッ素)等のハロゲンを含有する反応性ガスを被加工膜と反応させてフッ化物に変換した後、さらに配位子交換剤となる有機金属化合物を含むガスを供給して当該フッ化物と反応させて揮発性を有する有機金属錯体化合物に変換して揮発除去している。より具体的には、Al膜の場合には、F含有の反応性ガスと反応させてAlF(フッ化アルミ物)へ変換し、配位子交換剤であるトリアルキルアルミと反応させてAl(CH)Fx-1に変換し、200~300℃の加熱下で揮発除去する、という一連の処理によってAl膜を原子層レベルの高精度なエッチング加工を行なうことが、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-500767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、多種多様な元素を含む材料をナノメートルレベルあるいは原子層レベルの高精細な加工する技術を検討した。特に、多種の材料が多重に積層した膜構造(多層膜の膜構造)に適用可能な原子層レベルのエッチングという観点で、さまざまな技術の検討・検証を進めてきた。このような多種の材料が多重に積層した多層膜の膜構造に対しては、層間拡散の防止という観点からは比較的低温で実施可能なエッチング技術が必要となると考えられる。
【0006】
一方、上記特許文献1は400℃以下で選択的なエッチングを実現できる技術を開示しており、この点で有望な技術とみられる。しかし、発明者らの検討によれば、次の点について考慮が不足しており問題が生じていたことが判明した。
【0007】
すなわち、この従来技術では、フッ素(F)成分を含有した反応性ガスと、配位子交換剤という2種類の異なるガスを用いてAl等の処理対象の膜層と反応させるため、ガス供給系統およびその制御が複雑になり、エッチングを実行するための処理装置(エッチング処理装置)が大型化・高額化してしまうという問題がある。
【0008】
また、この従来技術では、F含有の反応性ガスによる処理と、配位子交換剤による処理の間には、2種類のガスが混合することを防止するためにチャンバ内のガス置換を行なっており、これらのガス同士がチャンバ内で混合して反応することを抑制するための期間が必要となる。2種類のガスが各々供給されて生起される処理の工程では、第1の工程では反応が休止した状態でその工程が停止され、第2の工程の反応が開始するまでの間、第1のガス供給が停止される。そして、第2のガス供給が開始されても直ちに第2の反応が開始されず、さらに第2の工程の開始までに時間を要してしまう。
【0009】
このため、求められるエッチング量を達成するまでの処理に要する時間が長くなり、結果として、処理のスループットが損なわれてしまうという問題もある。
【0010】
また、配位子交換剤としてのガスが供給されて生成された揮発性を有する有機金属錯体化合物は、通常、熱的には十分に安定ではない。このため、処理対象の膜構造の表面から揮発された後にチャンバ外へ排出されるまでの間に、その一部が熱分解してチャンバ内で滞留してしまい、これらは微粒子となって再度基板の表面へ再付着して異物となって、処理の歩留まりが損なわれてしまう虞があった。
【0011】
本発明は、処理の効率や歩留まりを向上させた半導体デバイスを製造できる半導体製造方法および半導体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、代表的な本発明にかかる本発明の半導体製造方法の一つは、
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記膜の加工残量が閾値を超えていた場合に、前記有機化合物を含む有機ガスを供給しつつ前記ウエハの温度を所定温度に上昇させて維持することにより、前記有機金属錯体の膜の形成と、前記有機金属錯体の膜の気化とを並行して行う処理を行い、
前記膜の加工残量が閾値以下である場合に、前記所定温度より低い温度において前記有機化合物を含む有機ガスの供給を停止した状態で前記有機金属錯体の膜を形成し、さらに前記ウエハの温度を上昇させて維持し前記揮発工程を行うことにより達成される。
また、上記目的を達成するために、代表的な本発明にかかる本発明の半導体製造方法の一つは、
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記有機ガスが、多座配位子分子であってハロゲンを含まず、且つカルボキシル基を有し、カルボキシル基が結合している炭素原子に隣接して結合している炭素原子上にルイス塩基性を有し、非共有電子対を持つ部分構造であるOH基、またはOCH 基、NH 基、N(CH 基の何れか1つを有する有機化合物を成分として含むガスであることにより達成される。
また、上記目的を達成するために、代表的な本発明にかかる本発明の半導体製造方法の一つは、
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記有機ガスが、メトキシ酢酸を含むガスであることにより達成される。
また、上記目的を達成するために、代表的な本発明にかかる本発明の半導体製造方法の一つは、
典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハを処理室内に配置する工程と、前記処理室内にルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを供給する工程と、前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程とを備え、
前記ウエハの温度を上昇させて維持する工程において、前記膜と前記有機化合物を含む有機ガスが反応して形成された有機金属錯体の膜を気化して脱離させる揮発工程を含み、
前記有機ガスが、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物であって、該カルボニル基は非共有電子対を持つ部分構造であるO、SあるいはNHと結合している有機加工物を成分として含むガスであることにより達成される。
【0013】
また代表的な本発明にかかる本発明の半導体製造装置の一つは、
内部に処理室を有する容器と、前記処理室内に配置され典型金属元素を含む処理対象の膜が表面に配置されたウエハがその上に配置されるステージと、ルイス塩基性の部分分子構造を有する有機化合物を含む有機ガスを前記処理室内に供給する処理ガス供給装置と、前記ウエハを加熱する加熱装置とを備える半導体製造装置であって、
前記有機化合物を含む有機ガスの供給動作に応じて、前記ウエハの温度を上昇させて維持するように前記加熱装置を動作させる制御部を有し、
当該制御部は、前記処理対象の膜の処理に応じて選択された、前記有機化合物を含む有機ガスを供給しつつ前記ウエハの温度を上昇させて所定の温度に維持して、前記有機ガスによる前記処理対象の表面の膜の形成および当該膜の気化を並行して行う処理、および、前記ウエハを前記所定の温度より低い範囲内の温度に維持して前記有機ガスが供給された後に前記有機ガスの供給が停止された状態で前記膜が形成された後に、前記ウエハを加熱して前記膜を気化する処理の何れかの処理において、前記加熱装置の動作を調節することにより達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理の効率や歩留まりを向上させた半導体デバイスを製造できる半導体製造方法および半導体製造装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態にかかる半導体製造装置の全体の構成概略を模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示す実施形態に係る半導体製造装置がウエハ上に予め配置された被処理膜層を処理する動作の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、図1に示す実施形態に係る半導体製造装置が図2に示す処理を実施する際の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
図4図4は、図1に示す実施形態に係る半導体製造装置が図2に示す処理を実施する際の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
図5図5は、図1に示す実施形態の変形例に係る半導体製造装置が実施するウエハ上の被処理膜のエッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
図6図6は、図1乃至5に示した本発明の実施形態または変形例で処理用のガスとして用いられる有機ガスの分子構造の例を模式的に示す分子構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、多種多様な金属(遷移金属、典型金属)を含有するいろいろな状態の膜(金属膜、酸化膜、窒化膜)のエッチングが進行している間の反応機構についてさまざまな観点から検証および再検討を行ない、ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有するガスに被エッチング膜を暴露させることにより、熱安定性が高く、かつ、高揮発性の金属錯体が1ステップで生成するという現象を見出し、この現象を活用して高効率なエッチングを実現できるという知見を得た。
【0017】
ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有する有機化合物を含む有機ガスは、そのルイス塩基部分に分子外へ供与可能な非共有電子対を有している。ルイス塩基部分は被エッチング膜の金属元素の陽電荷にこの非共有電子対を供与することによって、電子供与+逆供与型の強固な配位結合を形成して熱的に安定な錯体化合物を形成する。本実施形態では、このような結合型となる特定の分子構造を有する有機性物質を採用したことにより、上記従来技術の課題である有機金属錯体の熱的不安定性を解消することができる。
【0018】
また、このようにして生成する熱的に安定な錯体化合物の内部では、被エッチング膜の金属元素の陽電荷が、エッチングガス中に含まれているルイス塩基的な部分分子構造から供与される非共有電子対によって電荷的に中和される。このことにより、隣接分子間に作用する静電的引力が消滅して揮発性(昇華性)が高められる。また、ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有するガスに被エッチング膜を暴露させることによって高揮発性の金属錯体が生成される。この工程により、反応休止時間を挟んで複数の工程を実施する従来技術と比べて、所定の量のエッチングを短時間で行うことが出来、処理の効率が向上する。
【0019】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について、図1から図6を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略するものとする。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる半導体製造装置の全体の構成概略を模式的に示す縦断面図である。
【0021】
処理室1は、円筒形を有した金属製の容器であるベースチャンバ11の内側に構成され、その中には被処理試料であるウエハ2(以下ウエハ2と記す)を戴置するためのウエハステージ4(以下、ステージ4と記す)が設置されている。本実施形態では、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)放電方式のプラズマ源を用いており、具体的には処理室1の上方には、石英チャンバ12とICPコイル34及び高周波電源20を備えたプラズマ源が設置されている。ここで、ICPコイル34は、石英チャンバ12とベースチャンバ11の間に配置されている。
【0022】
なお、本願発明は必ずしもICPプラズマを使用する例に限られず、プラズマ源を省いた最小構成の処理室でも実施可能である。しかし、本願発明が対象とする処理よりも前の工程、あるいは後の工程において、ICPプラズマを用いたプロセス、例えば原子層毎に精密制御しながら材料積層するALD(Atomic Layer Deposition)処理や、プラズマを利用したALE(Plasma Enhanced Atomic Layer Etching)処理などを実施する場合が多いことに鑑みて、図1に示したような、ICPプラズマ源を搭載した装置構成であることが望ましい。
【0023】
ICPコイル34には、プラズマ生成のための高周波電源20が整合器22を介して接続されており、その高周波電力の周波数は13.56MHzなどの、数十MHzの周波数帯を用いるものとする。石英チャンバ12の上部には天板6が設置されている。天板6にはシャワープレート5が設置されており、その下部にはガス分散板17が設置されている。処理室1内にウエハ2の処理のために供給されるガス(処理ガス)は、ガス分散板17の外周から処理室1内に導入される。
【0024】
本実施形態で用いる処理ガスは、マスフローコントローラ制御部51内に配置され、ガス種毎に設置されたマスフローコントローラ(代表して50を付する)によって、各ガス種毎に供給流量が調整制御される。図1では、Ar、O、Hの3種類の処理ガスがそれぞれ対応するマスフローコントローラ50-1、50-2、50-3によって制御供給される構成例を例示している。ただし、ここには記載されていない他の処理ガス、例えば、ハイドロフルオロカーボンCHFやクロロカーボンCHClなどのハロゲン系有機ガス、CHやCHOCHなどの非ハロゲン系有機ガスなどをそれぞれに適用するマスフローコントローラとともに使用することも問題ない。
【0025】
なお、図1のマスフローコントローラ制御部51は、ウエハ2の裏面とウエハ2が載置されるステージ4の誘電体膜上面との間に供給されるHeの冷却ガスの流量調節を行うマスフローコントローラ50-4も併設された構成例である。他の構成例として、Heの流量調節用のマスフローコントローラ制御部を別途に設ける構成でも構わない。
【0026】
本実施形態では、処理ガスの少なくとも一部には、液体原料を有機ガス気化供給器(処理ガス供給装置)47を用いて気化させた有機ガスが用いられる。液体原料としては、常温で液体の場合のみならず、固体を融解液化、あるいは溶媒等に溶解して溶解液化した液化原料でも良い。固体を融解液化してなる液化原料の場合には、霧化器を使って極微細粒子化させれば容易に気化させることができ、高濃度蒸気を利用しやすい。また、溶媒等に溶解して溶解液化してなる液化原料の場合には、気化後の圧力は当該原料の蒸気圧と溶媒の蒸気圧との和であり、逆に言えば、溶解液化によって処理ガス中の有効成分の供給濃度の調整が容易となる。
【0027】
有機ガス気化供給器47の内部には液体原料である薬液44を収納するタンク45があり、タンク45の周囲に設けられたヒータ46によって薬液44が加熱され、タンク45上部に薬液44の蒸気が充満する。薬液44は、ウエハ2上に形成されているAlを含有する膜を、熱的に安定で、かつ、揮発性の有機金属錯体へと変換するための成分であるルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有する有機化合物を含む有機ガスの原料となる液体である。薬液44の蒸気はマスフローコントローラ50-5で所望の流量、速度となるように制御されながら、処理室1内に注入される。
【0028】
薬液44の蒸気が処理室1内に導入されない間、バルブ53およびバルブ54を閉じて処理室1から遮断する。さらに薬液44の蒸気を流す配管は、必要に応じて、その内壁表面で薬液44の蒸気が凝縮・結露しないように配管を加熱あるいは保温し、また必要に応じて、薬液44の蒸気が処理室1内に導入されない間は加温したパージガスを、薬液44の蒸気を流す配管内に流通させておく。さらに、適宜、マスフローコントローラ50-5と処理室1との間の配管の温度および圧力をモニターすることを通じて蒸気が凝縮・結露する予兆を検知し、必要に応じて加温条件を調整すると良い。
【0029】
また、薬液44の蒸気を流す配管内壁表面に、薬液44の蒸気有機ガスの分子が吸着・吸蔵して配管が腐食することを避けるために、マスフローコントローラ50-5から処理室1へ薬液44の蒸気を供給する処理が終了した後には、Arなどの不活性ガスあるいは薬液44を溶解可能な溶媒等の蒸気を、薬液44の蒸気を流す配管内に流通させて残留ガスを追い出すガスパージの機構(図示せず)と、ガスパージ後に該配管内を真空に保つための機構(図示せず)も設けられている。これらの機構(ガスパージ機構および真空機構)により、仮に、該配管内に薬液44の蒸気が凝縮・結露した場合でも、次のウエハの処理に対する悪影響を最小化できる。
【0030】
処理室1の下部は処理室を減圧するため、真空排気配管16によって、排気機構15に接続されている。排気機構15は、例えば、ターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプで構成されるものとする。また、排気流路内において横切る方向に軸を有して配置され軸回りに回転する複数枚の板状のフラップや、排気流路内部をその軸方向を横切って移動する板部材から構成された調圧機構14が、排気機構15の上流側に設置されている。調圧機構14は、排気機構15の動作により処理室1内から排出される内部のガスやプラズマ10の粒子の流量を、真空排気配管16の軸方向に垂直な面での断面積である流路断面積を増減させて調節して、処理室1や放電領域3の圧力を調整することができる。
【0031】
本実施形態のIRランプユニットは加熱装置を構成し、ステージ4の上面上方でリング状に配置されたIRランプ62、IRランプ62の上方でこれを覆って配置されIRランプ62から放射される可視光および赤外線の波長域を含む電磁波を反射する反射板63、ならびに光透過窓74を備えている。本実施形態では、IRランプ62および反射板63の相対的な位置を最適化することによって載置面に載せられたウエハ2表面での照度のバラつきが抑制される。さらに、照度のバラつきを低減するために、光透過窓74の少なくとも1部について、マイクロレンズアレイ光学系(図示せず)が配置されていても良い。
【0032】
本実施形態のIRランプ62は、ベースチャンバ11または円筒形を有したステージ4の上下方向の中心軸の周りに、同心状または螺旋状に配置された多重の円管形状のランプが用いられるが、処理に適したウエハ2の加熱が実現できるならば、他の構成であっても良い。なお、IRランプ62から放射される電磁波は、可視光の領域から赤外光の領域の波長の光を主とする電磁波を放出するものとする。ここではこのような光をIR光と呼ぶ。
【0033】
図1に示した構成では、IRランプ62として径が異なる3周分のIRランプ62-1、62-2、62-3が同軸に設置されている例を示したが、2周あるいは4周以上など設置数は任意である。さらに、IRランプ62の上方にはIR光を下方に向けて反射するための反射板63が設置されている。
【0034】
IRランプ62にはIRランプ用電源64が接続されており、その途中には、高周波電源20で発生するプラズマ生成用の高周波電力のノイズがIRランプ用電源64に流入しないようにするための高周波カットフィルタ(不図示)が設置されている。また、IRランプ62-1、62-2、62-3に供給する電力を、互いに独立に制御できるような機能がIRランプ用電源64には付与されており、それによりウエハ2を加熱するために生成される電磁波の照射の量の径方向分布を調節できるようになっている。
【0035】
IRランプユニットの中央には、マスフローコントローラ50(50-1~50-3および50-5)から供給される処理ガスを石英チャンバ12の下方にある処理室1の側に流すための、ガス流路75が配置されている。このガス流路75には、石英チャンバ12で発生させたプラズマの成分の中でイオンや電子を遮蔽し、中性ガスや中性ラジカルのみを透過させるための、複数の貫通孔が設けられたスリット板(イオン遮蔽板)78が配置されている。
【0036】
石英チャンバ12内部の放電領域3内にプラズマが形成されない場合には、マスフローコントローラ50(50-1~50-3および50-5)から石英チャンバ12内部に供給される処理ガスとして、イオンや電子が含まれない、所謂中性ガスを用いる。この場合には、スリット板78は、ガス流路75から処理室1内部に流入する処理ガスの流れを所定の箇所の貫通孔を通すことで整流する整流板として機能する。
【0037】
また、貫通孔の寸法や配置は、マスフローコントローラ50(50-1~50-3および50-5)から供給される処理ガスが貫通孔を通過する際に、処理ガスを処理に適した温度に予熱できるように適切に配置されている。さらに、スリット板78は、上記予熱機能を発揮できるように、透光性を有した光透過窓74の中央部で、一体に形成された円筒形部分に囲まれたガス流路75内で上下方向の適切な高さ位置に配置されて、円筒形部を通してIRランプユニットからのIR光を照射可能である。
【0038】
ステージ4には、ステージ4を冷却するための冷媒の流路39が内部に形成されており、流路39にはチラー38によって冷媒が循環供給されるようになっている。また、ウエハ2を静電吸着によってステージ4に固定するため、板状の電極板である静電吸着用電極30がステージ4に埋め込まれており、それぞれに静電吸着用のDC(Direct Current:直流)電源31が接続されている。
【0039】
また、ウエハ2を効率よく冷却するため、ステージ4に載置されたウエハ2の裏面とステージ4との間に、開閉するバルブがその上に配置された供給経路を通してマスフローコントローラ50-4によって流量、速度が適切に調節されたHeガスを供給できるようになっている。Heガスは、供給経路と連通して連結されたステージ4内部の通路を通り、ウエハ2が載せられるステージ4上面に配置された開口からウエハ2の裏面とステージ4上面との間の隙間に導入され、ウエハ2とステージ4および内部の流路39を流れる冷媒との間の熱伝達を促進する。
【0040】
また、静電吸着用電極30を作動させてウエハ2を静電吸着したまま加熱や冷却を行った際に、ウエハ2とステージ4を構成する部材との間の熱膨張率の差に起因してウエハ2の裏面が擦れて損傷したり塵埃が生じたりすることを抑制するため、ステージ4上面のウエハ2が載せられる戴置面はポリイミド等の樹脂でコーティングされている。また、ステージ4の少なくともウエハ載置面に施すコーティングは、マスフローコントローラ50-1、50-2、50-3、50-5を経て供給される処理ガスあるいはそのプラズマによって、ステージ4が腐食されたり変質したりすることをも抑制する。
【0041】
また、ステージ4の内部には、ステージ4の温度を測定するための熱電対70が設置されており、この熱電対は熱電対温度計71に接続されている。
【0042】
また、ウエハ2の温度を測定するための光ファイバ92-1、92-2が、ステージ4に載置されたウエハ2の中心部付近、ウエハ2の径方向ミドル付近、ウエハ2の外周付近の3箇所に設置されている。光ファイバ92-1は、外部IR光源93からのIR光をウエハ2の裏面にまで導いてウエハ2の裏面に照射する。一方、光ファイバ92-2は、光ファイバ92-1により照射されたIR光のうちウエハ2を透過・反射したIR光を集めて分光器96へ伝送する。
【0043】
外部IR光源93で生成された外部IR光は、光路をオン/オフさせるための光路スイッチ94へ伝送される。その後、光分配器95で複数(図2の場合は3つに分岐)に分岐した光路に分配された外部IR光は、3系統の光ファイバ92-1を介してウエハ2の裏面側のそれぞれの位置に照射される。
【0044】
ウエハ2で吸収・反射された外部IR光は、光ファイバ92-2によって分光器96へ伝送され、検出器97でスペクトル強度の波長依存性のデータを得る。そして得られたスペクトル強度の波長依存性のデータは制御部40の演算部41に送られて、吸収波長が算出され、これを基準にウエハ2の温度を求めることができる。また、光ファイバ92-2の途中には光マルチプレクサー98が設置されており、分光計測する光について、ウエハ中心、ウエハミドル、ウエハ外周のどの計測点における光を分光計測するかを切り替えられるようになっている。これにより演算部では、ウエハ中心、ウエハミドル、ウエハ外周ごとのそれぞれの温度を求めることができる。
【0045】
図1において、符号60は石英チャンバ12を覆う容器を示し、符号81はステージ4とベースチャンバ11の底面との間を真空封止するためのOリングを示している。
【0046】
制御部40は、高周波電源20からICPコイル34への高周波電力供給のオン/オフを制御し、また、マスフローコントローラ制御部51を制御して、それぞれのマスフローコントローラ50から石英チャンバ12の内部へ供給するガスの種類及び流量を調整する。この状態で制御部40は更に排気機構15を作動させると共に調圧機構14を制御して、処理室1の内部が所望の圧力となるように調整する。
【0047】
更に、制御部40は、静電吸着用のDC電源31を作動させてウエハ2をステージ4に静電吸着させ、Heガスをウエハ2とステージ4との間に供給するマスフローコントローラ50-4を作動させる。かかる状態で、制御部40は、熱電対温度計71で測定したステージ4の内部の温度、及び検出器97で計測したウエハ2の中心部付近、半径方向ミドル部付近、外周付近のスペクトル強度情報に基づいて演算部41で求めたウエハ2の温度分布情報に基づいて、ウエハ2の温度が所定の温度範囲になるようにIRランプ用電源64、チラー38を制御する。
【0048】
次に、図2から図5を用いて、本実施形態の半導体製造装置がウエハ2を処理する流れを説明する。図2は、図1に示す実施形態に係る半導体製造装置がウエハ上に予め配置された処理対象の膜層を処理する動作の流れを示すフローチャートである。特に本例では、処理対象の膜層としてAlなどの典型金属元素(SiやCなど4価元素以外の典型金属元素)を含有する膜をエッチングする処理について説明する。なお、当該処理に係る半導体製造装置100の各工程で実施される処理室1内への処理ガスの導入や、IRランプ62のIR波長域のものを含む電磁場の照射によるウエハ2の加熱等の動作は、制御部40に制御される。
【0049】
以下、ウエハ2上面に配置された処理対象の膜層を処理する各工程について説明する。
【0050】
本実施形態では、図1には図示していないベースチャンバ11の円筒形の側壁に連結された別の真空容器である真空搬送容器内部の空間内に、複数のアームを備えた搬送用ロボットが設置されている。ウエハ2のエッチング処理を開始する前の段階として、搬送用ロボットのアーム先端のハンド上に保持されたウエハ2が、真空搬送容器内の当該搬送用の空間内を通して搬送され、処理室内外を貫通するゲートを通り、処理室1内に導入される。ステージ4上面上方で支持されているウエハ2は、ステージ4に受け渡される。
【0051】
ステージ4に受け渡されたウエハ2は、ステージ4上に吸着保持される。すなわち、ステージ4の上面に配置され、ウエハ2の載置面を構成する酸化アルミや酸化イットリウムを含む誘電体製の膜上に保持されたウエハ2は、誘電体製の膜内に配置されたタングステン等金属製の膜に供給された直流電力により生起された静電気力による膜上面の把持力によって吸着固定される。
【0052】
ウエハ2の表面には所望のパターン形状に加工された4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面があらかじめ成膜されており、その一部が露出した状態となっている。被処理膜は、PVD(物理的気相成長:Physical Vapor Deposition)法、ALD(原子層堆積:Atomic Layer Deposition)法、CVD(化学的気相成長:Chemical Vapor Deposition)法などを用いて所望膜厚となるように成膜されるが、所望パターン形状となるようフォトリソグラフィ技術を使って加工されていることもある。
【0053】
本実施形態の半導体製造装置100では、処理対象の膜層の表面の露出した部分を選択的なエッチングによって除去する。この選択エッチングの際に、以下に説明するようなプラズマを用いないドライエッチング技術を適用することを特徴とする。
【0054】
ステージ4上にウエハ2が吸着され保持された状態で、ウエハ2とステージ4との間の隙間にマスフローコントローラ50-4に流量制御されたHeの冷却ガスがステージ4の開口部から導入されて、両者の間の熱伝達が促進されてウエハ2の温度が調節される。
【0055】
ウエハ2をステージ4上に吸着保持させた後、処理室1の内部を減圧してウエハ2を加熱する。ウエハ2が加熱されて昇温することにより、ウエハ2の表面に吸着されている気体(水蒸気など)や異物が脱離する。ウエハ2の表面に吸着されているガス成分が十分に脱離したことが確認されると、処理室1内部を減圧した状態に維持したまま、ウエハ2の加熱を停止してウエハ2の冷却を開始する。この工程において加熱や冷却は公知の手段を用いることができ、例えばステージ4内部に配置されたヒータからの熱伝導やランプから放射された光の輻射によるもの等公知の手段が用いられる。
【0056】
これら以外の手段、例えば、処理室1内に形成したプラズマによる表面の灰化(アッシング)やクリーニング等を用いてウエハ2に付着した異物を除去しても良い。なお、ウエハ2の表面が十分に清浄で吸着・付着物などがないことが確実である場合など、このウエハ加熱工程は省略してもよいが、処理室1をウォームアップするという観点から、実施することが望ましい。
【0057】
本実施形態のステージ4はステージ4の温度を測定するための熱電対70を内蔵しており、この熱電対70からの信号は熱電対温度計71によって温度情報に変換され、その指し示す温度が、あらかじめ定められた所定の温度に到達したか否か、制御部40によって判定される。本実施形態では、第1の温度(詳細は後述)に到達したことが判定されると、ウエハ2の被処理膜に対するエッチング加工処理が開始される。
【0058】
ウエハ2の温度が低下して予め定められた第1の温度あるいはそれ以下に到達したことが制御部40で判定されると、図2に示されたフローチャートに沿ってウエハ2の処理が行なわれる。なお、ウエハ2が処理の開始前、例えば処理室1内に搬入される前に、ウエハ2の処理対象の膜を処理する際のガスの種類や流量、処理室1内の圧力等の処理の条件、いわゆる処理のレシピが制御部40において検出される。
【0059】
例えば、制御部40は、ウエハ2の刻印等を読み取るなどの方法で各ウエハ2のID番号を取得して、そのID番号を利用して、図示しないネットワーク等通信用の設備を通して生産管理データベースから対応するデータを参照することができる。このデータ参照により、当該ID番号に対応するウエハ2の処理の履歴やエッチング処理の対象となる被処理膜の組成や厚さ、形状、当該対象の被処理膜をエッチングする量(目標とする残り膜厚さ、エッチングする深さ)やエッチングの終点の条件等のデータを取得して、ウエハ2に施す処理の量に応じて、次に行う複数の処理のステップの流れ(フロー)を選択することができる。
【0060】
例えば、ウエハ2に実施する処理が、被処理膜をその開始前の厚さ(初期の厚さ)から所定の残り厚さまでエッチングする処理の量(エッチング深さ)が所定の大きさδ0である閾値、例えば、0.5nmより小さい0.2nmのAl膜を除去するエッチング処理であることが制御部40により判定されたとする。かかる場合、制御部40は、アルミニウム(3+)および酸素(2-)のイオン半径はそれぞれ約0.5オングストローム、約1.3オングストロームであることから、原子または分子層ほぼ1層分のAlを除去する処理を実行すると決定する。さらに制御部40は、図2のステップS102において「加工残量≦閾値」と判定された後に移行する工程Aのフロー(S103A→S104A→S105A→S106A→S107A)に従って、膜の処理を実施するように半導体製造装置100を構成する各部にその動作を調節制御する信号を発信する。
【0061】
一方、制御部40により、ウエハ2に対する処理がAl膜を上記所定の閾値を超えた値、例えば5nm厚だけエッチング除去する処理であると判定された場合には、10層分以上、20層近いAl層を除去しなければならない。かかる場合、上記の1層ずつエッチングする場合には当該処理を10回以上繰り返すことになり、処理の時間がn倍で大きくなって生産性が損なわれてしまう虞がある。
【0062】
そこで、本実施形態では、上記の場合には、ステップS102における複数層(例えば7~8層あるいはそれ以上)を纏めて除去し、その後に残る膜層を1層ずつ除去する処理を行う。本実施形態では、このような場合に図2のステップS102において「加工残量>閾値」と判定された後に移行する工程Bのフロー(S103B→S104B→S105B→S106B)に従って、処理対象の膜を少なくとも1回実施して処理した後、工程Aのフロー(S103A→S104A→S105A→S106A→S107A)を実施し、工程Bのフローと工程Aのフローの合計でAl膜を5nm厚で除去する。
【0063】
図2のフローチャートについて、具体的に説明する。
最初のステップS101は、ウエハ2の上面に予め形成された4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜について、エッチングされるべき残り膜厚さを判定するステップである。本ステップでは、被処理膜に対しウエハ2が搬入されてから初めてエッチング処理を施す場合、および既にエッチング処理が施されている場合との両方の場合において、当該ウエハ2を用いて製造される半導体デバイスの設計、仕様の値を適宜参照して、被処理膜の残り膜厚さ(以下、加工残量)が制御部40において判定される。
【0064】
制御部40の演算部41は、内部に配置された記憶装置に格納されたソフトウエアを読み出し、これに記載されたアルゴリズムに則って、処理室1に搬入される前の当該ウエハ2に実施された処理による累積の加工の量(累積加工量)の値と、処理室1に搬入された後に実施された処理による累積加工量とを算出し、ウエハ2を用いて製造される半導体デバイスの設計、仕様の値に基づいて追加の加工が必要か否か、を判定する。
【0065】
すなわち、制御部40により加工残量が0、または予め定められ加工残量が0とみなせる程度に十分に小さいとみなされる値より小さいと判定された場合には、処理対象の膜に対して本実施形態による処理を終了する。必要に応じて、本実施形態によらない処理、例えば、ICPプラズマを用いるRIEエッチングを行なってもよい。
【0066】
ステップS101で、制御部40により加工残量が0或いは十分に小さい値より大きいと判定された場合には、フローは次のステップS102に移行する。ステップS102では、制御部40により加工残量が所定の閾値δ0と比較され、所定の閾値δ0よりも多いか少ないか(大きいか小さいか)が判定される。閾値δ0より多いと判定された場合にはフローはステップS103Bに移行し、閾値δ0と等しいかまたは少ないと判定された場合にはフローはステップS103Aに移行する。
【0067】
本実施形態に係る半導体製造装置100において処理室1に搬送されたウエハ2に対して図2に流れが示された処理が少なくとも1回施された結果としての累積加工量は、ステップS102~ステップS109からなる1纏まりの処理サイクルの累積回数と、予め取得された当該処理サイクル1回あたりの加工量(加工レート)とから簡易的に求めることができる。あるいは、当該累積加工量はウエハ2の表面分析や膜厚モニタリング装置(図示せず)の出力結果、加工形状や表面粗さ等を検出した結果や、これらの組み合わせを用いて累積加工量を求めることも出来るが、必要に応じて、サイクル加工レートからの簡易的に算出された累積加工量を修正したり補正したりすることが望ましい。
【0068】
ステップS102で制御部40により加工残量が所定の閾値より大きいと判定された場合には、ステップS103Bに移行して、以降ステップ105Bまでの工程(工程B)が実施される。一方、ステップS102で制御部40により加工残量が所定の閾値と等しいかまたは小さいと判定された場合には、ステップS103Aに移行して、以降ステップ107Aまでのフローの工程(工程A)が実施される。これらのステップでは、処理対象の膜のエッチング処理が実施され残り膜厚さが低減される。
【0069】
次に、図2と共に図3または図4を参照して、本実施形態の半導体製造装置100が実施するウエハ2の処理の流れを、工程A及び工程Bの操作の流れと共に説明する。図3及び4は、図1に示す半導体製造装置100が図2に示すウエハ2上の被処理膜のエッチング処理を実施する際の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【0070】
特に、図3,4に示されたものは、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜を半導体製造装置100でエッチングする際のタイムチャートであり、図3はステップ102において「加工残量>閾値」の場合に実施される工程B、図4は「加工残量≦閾値」の場合に実施される工程Aの典型的な例である。これらの図は、本実施形態のエッチング処理中のウエハ2の温度、ガス供給および排気の動作を模式的に示したものであり、実際に生じる温度、温度勾配や必要な制御時間は被エッチング材、錯体化材の種類、半導体デバイスの構造等に依存して異なる場合がある。
【0071】
上述の通り、ステージ4の内部には、ステージ4の温度を測定するための熱電対70やウエハ温度を検知するための光ファイバ92などが複数個所に配置されており、それぞれ対応する熱電対温度計71や検出器97などに接続されている。ただし、ウエハ2やウエハステージ4の温度を適切に計測するための手段であれば、測温手段として代替可能である。これらの測温手段によって得られた信号に基づいて、ステージ4が予め定められた所定の温度、例えば第1の温度に到達したことが制御部40により検出されると、ウエハ2の被処理膜をエッチングする処理の1つのサイクルが終了する。
【0072】
ステップS102の判定結果が「加工残量>閾値」となった場合には、ステップS103Bに移行して、制御部40の制御によりタンク45に溜められた薬液44の蒸気の供給が開始される。薬液44の蒸気は、処理室1内部に載置されたウエハ2に形成される半導体デバイス内の4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜を、揮発性を有する有機金属錯体へと変換するための成分であり、ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有する有機化合物を含むエッチング処理の有機ガスである。タンク45に溜められた薬液44の蒸気から得られた当該有機ガスは、ガス供給のマスフローコントローラ50-5により流量または速度が処理に適した範囲内の値となるように調節されて供給される。
【0073】
なお、この有機ガスは、被処理膜と反応して有機金属錯体へ変化せしめるガスなので、以下、錯体化ガスとも呼称する。本実施形態では、当該錯体化ガスの供給条件(供給量、供給圧力、供給時間、ガス温度等)や錯体化ガスの種類は、当該半導体デバイス内の4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜の元素組成、形状、膜厚や当該被処理膜を含む膜構造の形状や寸法を考慮して予め選択され、制御部40の記憶装置内に格納されたソフトウエアに記載のアルゴリズムに則って選択される。さらに、その供給は制御部40が記憶装置内に格納されたソフトウエアに記載のアルゴリズムに沿って選択して、指令信号としてガス供給のマスフローコントローラ50-5等に発信する。
【0074】
ステップS103Bは、ウエハ2に形成される半導体デバイス内の4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面に錯体化ガス分子の物理吸着層を形成させる工程である。この工程は、ウエハ2の温度を錯体化ガスの沸点と同等かそれよりも低い温度範囲に維持して実施される。
【0075】
また、本実施形態では、所望の精度と量とを考慮して選択されたエッチングする必要最小限の層数の物理吸着層が形成されたと判定された場合には、ステップS103Bの工程は終了するものであり、長時間継続する必要はない。物理吸着層が形成されたと判定された後も継続する場合には、錯体化ガスが消費される。被加工試料の所望の範囲を必要最小限の数層程度の物理吸着層が被覆するまでの時間は、処理対象の膜構造の形状や目標の加工後の形状等にも依存するので、半導体デバイスを製造する量産の工程の開始前に予め実験や試験等の結果に基づいて安全裕度を含んだ値に設定することが望ましい。
【0076】
ステップS103Bにおいて所定の錯体化ガスを供給した後、ステップS104Bに移行して、制御部40の制御により、錯体化ガスの供給が継続されている状態でIRランプ62にIRランプ用電源64から電力を供給して赤外線の波長域を含む電磁波を放射させ、ウエハ2に電磁波を照射する。これにより、ウエハ2が加熱されて速やかに第2の温度に昇温する。このステップでは、ウエハ2を加熱して第1の温度より高い所定の第2の温度まで昇温させてその温度で維持する。これにより、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面が反応活性化され、膜表面に物理吸着している錯体化ガスの分子の吸着の状態が物理吸着状態から化学吸着状態に変化する。
【0077】
さらに、次のステップS105B(揮発工程)において、制御部40の制御により、処理室1内のウエハ2への錯体化ガスの供給を維持したまま、IRランプ62からのIR光を照射してウエハ2を加熱し、ウエハ2の温度を第2の温度より高い第4の温度に昇温させる。このステップでは、
(1)4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面に生成した有機金属錯体が揮発して当該膜表面から脱離除去される第1の過程と、
(2)継続的に供給されている錯体化ガスが4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面と反応して揮発性の有機金属錯体に変換される第2の過程と、が並行して進行する。
【0078】
ここで、錯体化ガスがAl膜表面と反応して揮発性の有機金属錯体に変換される工程を、有機金属錯体の膜を形成する膜形成工程とする。また、有機金属錯体の膜を揮発させる工程を、揮発工程とする。
【0079】
このステップS105Bについて、被処理膜表面の特定の小さな領域を微視的に見れば、当該領域の膜表面で(第1の過程)→(第2の過程)→(第1の過程)→(第2の過程)という順で、膜表面の錯体の揮発(脱離)による除去と、新しい錯体の変換および形成とが、断続的あるいは段階的に進行するが、当該被処理膜の表面を全体として見た場合には、実質的には連続的なエッチングが進むと捉えることができる。
【0080】
ステップS105Bにおいて、所定の時間の間、錯体化ガスのウエハ2への供給と、ウエハ2が前のステップで形成された有機金属錯体が揮発し脱離する第4の温度に維持されて上記実質連続的なエッチングが継続された後、ステップS106Bに移行して錯体化ガスの供給が停止される。上記ステップS101からS105Bの工程が実施されている間は、処理室1に連通された真空排気配管16を通した排気ポンプを含む排気機構15は、連続して駆動されて処理室1内を排気し続けており、処理室1内のガスや生成物の粒子が処理室1外部に排出されるとともに圧力が低減される。
【0081】
ステップS106Bでは制御部40の制御により錯体化ガスの供給が停止されるので、被処理膜由来の揮発性の有機金属錯体を含む処理室1内のガスは全て処理室1外部に排気され、処理室1の内部の圧力は低下する。この際、錯体化ガスを供給するための配管、例えばガス供給のマスフローコントローラ50-5から処理室1までのガス供給用の経路内に滞留している未反応の錯体化ガスも、処理室1を経由して真空排気配管16および排気機構15を通して処理室1外部に排出される。さらに、ステップS106Bで錯体化ガスの供給が停止された後においても、ウエハ2の冷却を含む複数の工程において排気が継続して行われる。
【0082】
一方、ステップS102の判定結果が「加工残量≦閾値」となった場合には、ステップS103Aに移行して、制御部40は、半導体製造装置100の処理室1内に配置されたウエハ2上の4価元素以外の典型金属元素を含有する膜を揮発性の有機金属錯体へと変換するための錯体化ガスの供給を開始する。制御部40においてステップS103Aにおいて必要最小限の層数の物理吸着層が形成されたことが検出された後、ステップS104Bに移行して、IRランプ62からのIR光の照射によりウエハ2を加熱して温度を速やかに第1の温度より高い第2の温度に昇温させる。
【0083】
工程Bの場合と同様に、錯体化ガスを供給する際の条件(供給量、供給圧力、供給時間、温度)や錯体化ガスの種類(組成)は、製造するデバイスの構造のみならず、当該4価を除く典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl含有膜の元素組成、形状、膜厚、デバイス内の膜構成、錯体化ガスの沸点等を考慮して選択され、制御部40からの指令信号に応じて調節、設定される。また、ステップS104Aでは、ステップS104Bの場合と同様に、ウエハ2が第2の温度への昇温された後にその温度に維持されることにより、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面が反応活性化され、その結果として、錯体化ガスの吸着状態が物理吸着状態から化学吸着状態に変化する。
【0084】
ステップS104AあるいはステップS104Bの処理によって錯体化ガスは、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面に化学吸着した状態となるが、この状態では、錯体化ガスの分子と被処理膜に含まれる典型金属原子、例えば被処理膜がAl膜の場合のAl原子との間は化学的な結合で強固に固定されている。言い換えると、錯体化ガス分子は、典型金属含有膜の表面に“ピン止め”されているとも言え、その結果として、錯体化ガス分子が典型金属含有膜の表面から拡散していく拡散速度は遅い。
【0085】
Alを含有する膜の表面に形成された化学吸着層を介して、錯体化ガス分子がAlを含有する膜の内部へと拡散する速度は、特に遅い。膜内部への拡散が遅いことに起因するレベリング(表面均質化)効果により、ステップS103AからS107Aの経路によって被処理膜の表面凹凸が平滑化される。
【0086】
次のステップS105Aでは制御部40の制御により錯体化ガスの供給を停止して、処理室1の内部を排気する。処理室1の内部を排気することにより、被処理膜の表面に化学吸着している状態の錯体化ガスを除き、未吸着状態や物理吸着状態となっている錯体化ガスが処理室1の外に排出されウエハ2の表面から除去される。また、錯体化ガスを供給するための配管、例えばガス供給のマスフローコントローラ50-5から処理室1までのガス供給の経路内に滞留している未反応の錯体化ガスも、処理室1を経由してガスパージ機構(図示せず)や排気機構を通して、処理室1の外部に排出される。
【0087】
次に、制御部40からの指令信号に応じて、ステップS104Aから継続して照射されるIRランプ62からのIR光の照射量が増大されてウエハ2の温度を、第2の温度と等しいかより高い第3の温度へ昇温させる(ステップS106A)。ウエハ2は第3の温度に所定の期間だけ維持される。この工程において、第3の温度への昇温および当該温度が所定期間維持されることによって、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面に化学吸着している状態の錯体化ガスの分子は、膜表面の被処理膜との間の錯体化反応により、揮発性の有機金属錯体へと徐々に変換される。このステップでは、上述の通り、化学吸着固定化されている以外には錯体化ガスは処理室1から排出されており、有機金属錯体層の生成量は実質的に化学吸着層の量によって支配的に影響され、有機金属錯体層の厚みは化学吸着層の厚みと同等あるいはそれ以下となる。
【0088】
本実施形態の次のステップとして、制御部40の制御により、継続して出射され続けているIRランプ62からのIR光強度をさらに増大し、ウエハ2を加熱して、ウエハ2の温度を第3の温度より高い第4の温度へ昇温させた後、ウエハ2の温度を第4の温度で維持する(ステップS107A:揮発工程)。この工程において、前のステップS106Aで形成された有機金属錯体が揮発し脱離する温度が維持され、当該有機金属錯体が処理対象の膜の表面から除去される。
【0089】
ステップS103A→ステップS104A→ステップS105A→ステップS106A→ステップS107Aの一連の複数工程から構成される工程Aと、ステップS103B→ステップS104B→ステップS105B→ステップS106Bの一連の複数工程から構成される工程Bとは、ウエハ2を第2の温度へ昇温させて4価元素以外の典型金属元素を含有する膜の表面に化学吸着層を生成する点は同じである。しかし、当該化学吸着層が有機金属錯体へ変換されるステップ以降は、両者は異なる動作または動作の流れを有している。
【0090】
すなわち、錯体化ガスの供給を停止した状態で有機金属錯体が揮発して除去される第4の温度まで、当該有機金属錯体、またはこれを表面に有する膜の温度が上昇すると、化学吸着層から変換された1層から数層程度の有機金属錯体の揮発除去が終了して、その直下にある典型金属元素を含有する被処理膜が処理室1内に露出した時点で反応は終息する。
【0091】
一方、錯体化ガスの供給を継続したまま有機金属錯体が揮発して除去される第4の温度まで昇温すると、化学吸着層から変換された1層~数層程度の有機金属錯体の揮発除去が終了して、その直下にある未反応の被処理膜が露出すると、その露出した被処理膜は第4の温度に加温されて反応活性度が増加しているので、錯体化ガスとの接触によって直接的に有機金属錯体に変換される。さらに、生成した有機金属錯体は速やかに揮発し除去されることになり、全体として連続的な処理対象の膜のエッチングが進行する。
【0092】
ステップS103B→ステップS104B→ステップS105B→ステップS106Bの一連の複数工程から構成される工程Bは、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜が直接的に有機金属錯体に変換され、さらに揮発し除去されるという反応である。このため、典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜表面に存在する化学的に高活性な微小の領域、例えば、結晶粒界や特定の結晶方位などが優先的に有機金属錯体へ変換されて除去されるという現象が生じる。また、化学吸着層が生成する際には自己組織的な面配向成長過程となるが、工程Bではこの自己組織的な面配向成長過程を経ないまま直接的に有機金属錯体層が生成することになるので、その有機金属錯体層は配向性をほとんど持たない。その結果として、処理後の被処理膜の表面は平坦化されず、むしろ、凹凸が増大して粗面化が進む。
【0093】
一方、ステップS103A→ステップS104A→ステップS105A→ステップS106A→ステップS107Aからなる一連のプロセスから構成される工程Aでは、化学吸着層が形成される際の自己組織的配向の作用、および自己組織的に配向成長した化学吸着層内で錯体化ガス分子の拡散速度が抑制される作用により、処理後の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面は平坦化が進むことになる。
【0094】
なお、工程A、工程Bのいずれの場合においても、本例の第4の温度は、錯体化ガス分子分解開始温度や有機金属錯体分子の分解開始温度よりも低く、かつ、有機金属錯体分子の気散開始温度よりも高くなるように、ウエハ2の処理前に事前に評価を行なったうえで設定される。また、有機金属錯体分子の分解開始温度と気散開始温度との温度差が小さくて、半導体製造装置100の仕様、例えば、ステージ4上面の面方向についての温度の均一性の特性に鑑みて当該温度差が不十分な場合には、有機金属錯体分子の気散開始温度を低下させるための既存の方法、例えば、平均自由工程を広げるために処理室1内を減圧する等の方法を適用しても良い。
【0095】
事前の評価により、有機金属錯体分子の分解開始温度が気散開始温度よりも低温であると判明した場合には、当該被加工膜の材質と当該エッチング用有機ガス分子との組み合わせが不適切なので、後述するエッチング用有機ガスの候補材料の中から別の物質を選定しなおす。なお、この当該被加工膜の材質と当該エッチング用有機ガス分子との組み合わせの不整合を積極的に活用することにより、多層膜構造のなかの特定材質の層だけを選択的にエッチングすることができる(詳細後述)。
【0096】
次に、ステップS108に移行してウエハ2の冷却を開始することになるが、ステップS108の開始前に錯体化ガスを確実に排気する処理を行なう。ステップS108の開始前の時点で既に錯体化ガスの供給は停止し、かつ、錯体化ガスを供給するための配管、具体的にはマスフローコントローラ50-5から処理室1までの配管内に残留・滞留している未反応の錯体化ガスも既に排気が完了しているはずである。しかし、何らかのトラブル・想定外事象等によって錯体化ガスがどこかに残留している場合には、それが異物発生原因となるリスクがあるので、処理室1を経由して真空排気配管16および排気機構15によって排出する操作を念のために再度実施する。
【0097】
また、錯体化ガスが配管内壁に吸着・吸蔵しているリスクをも排除するために、ステップS108に移行する前に、マスフローコントローラ50-5から処理室1までの配管内を不活性ガスで満たしてから排気する、いわゆるパージ操作も行なう。ガス供給のマスフローコントローラ50-1,50-2,50-3,50-4,50-から処理室1までの配管内に残留・滞留しているガスを確実に排気するために、必要に応じて、捨てガス経路(図示せず)を設置する。
【0098】
工程A,Bのいずれのフローの場合にも、次に、ステップS108に移行してウエハ2の冷却が開始され、ステップS109において、ウエハ2の温度が所定の第1の温度に到達したことを検出するまで、ステップS108によるウエハ2の冷却が続けられる。
【0099】
ウエハ冷却を行うステップS108では、ウエハステージ4とウエハ2との間に冷却ガスを供給することが望ましい。冷却ガスとしては、例えばHeやArなどが好適であり、Heガスを供給すると短い時間で冷却できるので加工生産性が高まる。なお、上述の通り、ウエハステージ4の内部にはチラー38に接続された流路(冷却用循環配管)39が設けられているので、ウエハステージ4の上に静電吸着しているだけでHe等の冷却ガスを流さない状態でもウエハ2は徐々に冷却される。
【0100】
ウエハ2の温度が第1の温度に到達したことが制御部40に判定され、第1回目のサイクル処理が終了した後、ステップS101に戻って加工残量が0に到達したか否かが判定される。上記のように、加工残量が0に到達したことが制御部40に判定されると、ウエハ2の被処理膜のエッチング処理が終了され、加工残量が0より大きいと判定された場合には再度ステップS102に移行して工程Aまたは工程Bのいずれかの処理が実施される。
【0101】
具体的には、ステップS102の判定結果により「加工残が大である」とされた場合には、上述の通り、ステップS103B、S104B、S105B、S106B、S108、S109の順に処理を行なう。一方、ステップS102の判定結果が「加工残が小である」とされた場合には、ステップS103A、S104A、S105A、S106A、S107A、S108、S109の順に処理を行なう。
【0102】
図2に示していないが、ウエハ2の処理を終了する場合は、制御部40の制御により、マスフローコントローラ50-4から供給されていた冷却用のガスの供給が停止される。さらに、制御部40の制御により、Heガス供給経路と真空排気配管16との間を接続する捨てガス経路上に配置されたバルブ52が閉から開になってウエハ2の裏面からHeガスを排出する工程と、さらに、ウエハ2の静電吸着の解除の工程が実施される。
【0103】
この後、ベースチャンバ11のウエハ搬入出ゲート(図示せず)を通して、処理済みウエハ2が搬送ロボットに受け渡され、次に処理されるべき未処理ウエハ2が搬入される。当然ながら、次に処理されるべき未処理ウエハ2がない場合にはウエハ搬入出ゲートが閉塞されて、半導体製造装置100による半導体デバイスの動作が停止する。
【0104】
本実施形態では、上記の工程A、工程Bの各々で設定される第2の温度、第3の温度、第4の温度は、工程A、工程Bの間で必ずしも同じ値である必要はない。ウエハ2の処理前に事前に慎重に検討されて適切な当該温度の範囲が設定される。制御部40は、対象ウエハ2の被処理膜の仕様に応じて各サイクルの工程A、工程Bのウエハ2の処理の条件として各ステップの温度を設定する。
【0105】
図2に示される本例の工程Aのフローおよび工程Bのフローの最初の工程であるステップS103AまたはステップS103Bの工程は、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面に錯体化ガスの物理吸着層を形成する処理の工程であり、錯体化ガスの沸点と同等かそれよりも低い第1の温度にウエハ2を維持して実施される。錯体化ガスの詳細は後述するが、ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有する有機化合物を主たる有効成分として含む有機物を含むガス(有機ガス)である。このような有機ガスとして、例えば沸点約200℃の有機ガスを用いる場合には、ステップS103AまたはステップS103Bの処理は、例えば180℃程度、あるいは最高の値が200℃以下の範囲内の温度にウエハ2が維持されて実施される。
【0106】
本実施形態の上記工程において、ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有する有機化合物を主たる有効成分として含む有機物を含むガス(有機ガス)の主成分として好適な、沸点約200℃の有機物の一例であるメトキシ酢酸を使用する場合には、好ましい第1の温度は100℃程度から180℃であり、さらに好ましくは120℃から160℃の範囲である。第1の温度が100℃を下回ると、次の工程であるステップS104AまたはステップS104Bに移行する段階で、ウエハ2の温度をこれらのステップで実現する値まで変化させるための時間を長く要するため、生産性が低くなってしまう虞がある。一方、逆に第1の温度が180℃を上回ると、メトキシ酢酸の吸着効率(付着特性)が低下してしまうため、短時間で所定量の吸着を行なわせるためにメトキシ酢酸のガス流量を大きくしなければならず、ガスの消費量が増大して運転コストが増大してしまう虞がある。
【0107】
図2乃至4に示したように、本実施形態のステップS103AまたはステップS103Bにおいて物理吸着層が形成された後には、ステップS104A、S104BにおいてIRランプ用電源64からIRランプ62に電力が供給され、IRランプ62からの電磁波が照射されてウエハ2が加熱され、ウエハ2の温度は速やかに第2の温度に上昇する。本実施形態ではこれらの工程において、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面の錯体化ガスの吸着状態を物理吸着状態から化学吸着状態に変化させ当該表面化学吸着層が形成される。この工程におけるウエハ2の昇温は、被処理膜の表面に吸着した錯体化ガスの分子に熱による活性化エネルギーを与えて、その吸着状態に変化を引き起こす。
【0108】
このような第2の温度は、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面の状態と、錯体化ガスの特性(反応性)の両者の影響を考慮して決定される。被処理膜としてのAl膜に対して、例えば、メトキシ酢酸を主成分とする錯体化ガスが供給された場合、第2の温度の好適な範囲は120℃から210℃程度となる。メトキシ酢酸を主成分とする錯体化ガスが用いられる場合では、120℃よりも低いと化学吸着層に変換させるに必要な時間が長くなり、ひいてはウエハ2のエッチング処理に要する時間が長くなって処理の効率が損なわれ、210℃を超えると化学吸着状態で留まらずに有機金属錯体にまで変換されてしまい、処理後の処理対象の膜層の残り膜厚さの精度が低下してしまう虞がある。
【0109】
次に、制御部40により取得された情報に含まれる処理の条件としてウエハ2に施される処理の対象の膜をエッチングする量が大きい場合、例えば、Al膜の表面から厚み2nm超をエッチングで除去する場合には、ステップS105Bの処理として、以下の処理が行われる。すなわち、例えば、錯体化ガス(例えばメトキシ酢酸など)の供給を維持した状態で、IRランプ62からの電磁波の照射による加熱をさらに続けると共に、IRランプ62に供給する電力を増大して電磁波の単位時間あたりの放射の量を増大させてウエハ2の温度を第4の温度にまで昇温させる。
【0110】
本実施形態において、当該第4の温度は、4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAlを含有する被処理膜の表面材料と錯体化ガスとが反応して生成する揮発性有機金属錯体の熱分解が生じる温度よりも低く、かつ、昇華あるいは気散が開始する温度と同じ又はそれ以上の温度に設定される。さらに、本例の工程Bでは、ステップS105Bにおいてウエハ2の温度を第4の温度に設定した後、少なくともステップS106Bで錯体化ガスの供給が停止されるまで期間、ウエハ2の温度が第4の温度に維持される。このようなフローにより、工程Bにおいてウエハ2上の4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜を含有する膜の表面が実質的に連続してエッチングされる。
【0111】
一方、制御部40により取得された情報に含まれる処理の条件としてウエハ2に施される処理の対象の膜をエッチングする量が少ない場合、例えば、Al膜を0.2nm厚さ分だけ除去する処理の場合には、ステップ105A以降の処理として、以下の一連の工程が行なわれる。すなわち、メトキシ酢酸などの錯体化ガスの供給を停止して、処理室1の内部を排気(ステップS105A)後に、IRランプ62を用いてウエハ2を加熱して第3の温度まで昇温させる(ステップS106A)。Al膜の温度が第3の温度に所定期間維持されることで、当該Al膜の表面に生成された化学吸着層が有機金属錯体に変換される。
【0112】
本実施形態の第3の温度は、第2の温度と同等またはこれより高くかつ有機金属錯体分子の気散開始温度よりも低い範囲内の温度に設定される。当該第3の温度は、他の温度と同様に、半導体製造装置100や制御部40での温度制御の安定性や、熱電対温度計71あるいはその代替の温度検出器を用いたウエハ2やウエハステージ4の温度検出の精度などを考慮して、上述の適正温度範囲内で設定される。
【0113】
本発明者の検討によると、典型金属元素を含有する被処理膜としてAl膜、錯体化ガスとしてメトキシ酢酸を主成分とする混合ガスを用いるエッチング処理の場合では、有機金属錯体分子の気散開始温度は270℃付近であった。このことを鑑みて、本発明者らは第3の温度として120℃から250℃前後の範囲内の値が適切であると判断し、本実施形態では当該温度範囲内の値が第3の温度として設定される。
【0114】
さらに、ステップS106AとしてIRランプ62からウエハ2へ電磁波の照射が継続され当該第3の温度にウエハ2が所定の期間維持された後に、ステップS107Aの処理としてIRランプ62の出力および放射される電磁波の単位時間あたりの強度が増大され、ウエハ2がさらに加熱される。その結果、ウエハ2の温度がより高い第4の温度に昇温され、これが所定の期間維持される。ウエハ2の温度が第4の温度に維持されることにより、化学吸着層から変換された有機金属錯体が揮発して処理対象の膜層の上面から除去される。
【0115】
本例では、ステップS107A開始時点で有機金属錯体は1乃至数層、より詳細には多くとも5層程度しか生成していないので、第4の温度に到達後には、処理対象膜の上面を構成する有機金属錯体は速やかに揮発され除去される。有機金属錯体の層が除去されると、その直下にあって未反応の状態の典型金属元素を含有する被処理膜、あるいは被処理膜の下に配置されているシリコン化合物などの層が露出した時点で、本実施形態における被処理膜をエッチングする或いは除去する反応としての1つのサイクルは終了する。
【0116】
なお、典型金属元素を含有する被処理膜として例えばAl膜、錯体化ガスとしてメトキシ酢酸を主成分とする混合ガスを用いた処理の場合、第4の温度の好適な値としては270℃乃至400℃の範囲から選択される。270℃よりも低温だと昇華・気散する速度が遅くて処理の効率が損なわれてしまい、逆に400℃を超えると有機金属錯体が昇華・気散する過程で該錯体の一部が熱分解して異物化し、ウエハ2表面や処理室1内部に異物が付着する等の虞が大きくなる。
【0117】
次に、上記実施形態のエッチングを行う処理のフローの別の例を説明する。
【0118】
図5は、本実施形態の変形例に係る半導体製造装置が実施する被処理膜のエッチング処理の時間の推移に対する動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。本変形例については、図1、2を参照して異なる点を主として説明する。
【0119】
本例においても、上記実施形態と同様にウエハ2が処理室1内に導入されてステージ4に受け渡された後、その載置面を構成する誘電体製の膜上に載せられて吸着固定されて保持された状態で、必要に応じて、ウエハ2とステージ4との間の隙間にHeガスが導入されてウエハ2の温度が調節される。温度検知器を内蔵するステージ4の各測温検知器の温度が予め定められた所定の温度、本例では例えば第1の温度あるいはそれより低い温度に到達した(本例では冷却された)ことが制御部40により検出されると、ウエハ2の表面に予め配置された4価元素以外の典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜を加工して半導体デバイスの回路構造を形成するためのエッチング処理が開始される。
【0120】
まず、図2に示した実施形態と同様に、ステップS101,S102が順次行われ、エッチング処理の加工残量の検出の工程と、当該残量と予め定められた閾値との比較の工程とが実施される。
【0121】
次に、ステージ4内の温度検知器からの出力を受けた制御部40によって、ウエハ2の温度が予め規定された第1の温度あるいはそれ以下であることを判定された後、処理室1内に処理用ガスとしての錯体化ガスを供給して、典型金属元素を含有する被処理膜、例えばAl膜の表面に錯体化ガスの分子を吸着させて物理吸着層を形成させる処理(ステップS103Cとする)が開始される。
【0122】
本例では、ステップS103Cを開始した後、速やかにIRランプ62に電力を供給して赤外線を出射し、これによりウエハ2を加熱して速やかに第2の温度に昇温させる。ステップS103Cは、予め定められた期間の間、ウエハ2が第2の温度に維持されつつ処理室1内のウエハ上面への錯体化ガスの供給が継続される。このため、ステップS103Cの期間中に、典型金属元素を含有する被処理膜の表面に錯体化ガス成分の物理吸着層が形成される反応と、当該物理吸着層が化学吸着層に転換される転換反応とが並列して連続的に進行する。
【0123】
その際、上述の通り、被処理膜の表面に形成された化学吸着層を介して被処理膜の内部へと錯体化ガス分子が拡散する速度は遅いので、化学吸着層の膜厚は処理時間に対して飽和する。概略第2の温度に保ちながら、所定の時間、錯体化ガスの供給を続ける処理を行なって化学吸着層の膜厚が飽和した後に、次のステップ(ステップS104Cとする)で錯体化ガスの供給を停止する。
【0124】
図5に例示したプロセスフローでは、錯体化ガスを供給するステップS103Cの実施前の段階、言い換えるとウエハ2の温度があらかじめ規定された第1の温度あるいはそれ以下の時点から排気機構15を駆動させ、調圧機構14、真空排気配管16などを使って処理室1の内部圧が減圧状態に保たれる状態になっている。このため、ステップS104Cで錯体化ガスの供給を停止すると、表面に化学吸着している状態の錯体化ガスを残すほかは、未吸着状態や物理吸着状態となっている錯体化ガスは全て処理室1の外に排気・除去される。なお、処理室1の内壁等に物理吸着したエッチング用有機ガスを処理室1の外への排気・除去を促進するために少量のArガスを処理室1内部に供給し続けることが好ましい。
【0125】
Arガスの供給量や処理室1内の圧力は、被処理膜や錯体化ガスの組成に応じて適宜調整が必要であるが、メトキシ酢酸を主成分とする錯体化ガスを用いてAl膜をエッチングする場合には、Ar供給量は200sccm以下、処理室内圧力は0.5から3.0Torr程度が好ましく、さらに好ましくはAr供給量は概略100sccm、処理室内圧力は1.5Torr程度である。Ar供給量が200sccmを超えて大きくなると、処理室1内での錯体化ガスの有効濃度が低くなって被加工膜表面への吸着効率が低下し、エッチング速度の低下を招くリスクが高まる。また、処理室内圧力が0.5Torrを下回ると、処理室1内での錯体化ガスの滞留時間が短くなって錯体化ガスの使用効率が低下するリスクが高まる。処理室内圧力が3Torrを上回るように調節するには、Ar供給量を200sccmあるいはそれ以上に設定することになり、被加工膜表面への錯体化ガスの吸着効率が低下し、エッチング速度の低下を招く危険性が高まる。
【0126】
次に、IRランプ62を使った赤外線加熱によって第4の温度にまで昇温させ、所定の時間、概略その温度で保持するステップ(ステップS106Cとする)を実施する。第4の温度への昇温および温度保持の過程で化学吸着層から有機金属錯体への変換と該機金属錯体の揮発除去が進む。被処理膜としてAl膜、メトキシ酢酸を主成分とする錯体化ガスを用いた場合、第4の温度の好適な範囲は270~400℃である。270℃よりも低温だと昇華・気散が遅くて実用的なエッチング速度が得られないし、逆に400℃を超えると有機金属錯体が昇華・気散する過程で400℃以下の箇所に該有機金属錯体の一部が熱分解して異物化し、ウエハ2の表面や処理室1内に再付着するリスクが高まる。
【0127】
有機金属錯体の揮発除去が終了して、その直下にあって未反応の状態の典型金属元素を含有する被処理膜、あるいは被処理膜の下に配置されているシリコン化合物などの層が露出した時点で、1サイクル分の処理は終了となる。その後、IRランプ62を使った赤外線加熱を停止すれば、ウエハ2からの放熱によって温度が下がり始める。ウエハ2の温度が第2の温度あるいはそれ以下の温度に到達すれば、1サイクル分の処理が終了となる。
【0128】
この後、ステップS102を経てステップS103Cの処理から始まる第2回目以降のサイクル処理を所望の回数繰り返すことにより、所定膜厚のエッチングを実現できる。図5に例示したプロセスフローは、図4に例示したプロセスフローの簡略版であり、温度階層を減らし、さらに特に時間がかかるステップS108の冷却処理の温度幅を狭めたことによって1サイクルあたりの時間が短縮されている。
【0129】
次に、さらに別の変形例を説明する。
【0130】
この変形例で使用するウエハ2の表面には所望のパターン形状に加工された典型金属元素を含有する第1の被処理膜、例えばAl膜の他に、周期表第5周期より下の遷移金属元素を含有する第2の被処理膜、例えばLa膜があらかじめ成膜されており、その一部が露出した状態となっている。この実施形態では、第1の被処理膜、例えば典型金属元素を含有するAl膜と第2の被処理膜、例えば遷移金属元素を含有するLa膜とをそれぞれ選択的にエッチングするために、第1の被処理膜をエッチングするための第1の錯体化ガスと、第2の被処理膜をエッチングするための第2の錯体化ガスとを使い分ける。
【0131】
より具体的に説明すると、ウエハ2は第1の被処理膜の例として典型金属元素を含有するAl膜(1.0nm厚)と、第2の被処理膜の例として遷移金属元素を含有するLa膜(1.0nm厚)が交互に積み重なって、Al-La-Al-Laという積層部の一部が露出した状態である。このような多重積層構造を有するウエハ2は上記と同様に処理室1内へ導入されて、ウエハステージ4上の所定の場所に把持吸着固定され、各層のエッチング加工量が判定される。加工すべき厚みに応じて、図2を用いて説明した工程Aあるいは工程Bのプロセス選定を行なって、上記と同様にそれぞれ処理を行なう際に、異種積層部を選択的にエッチングする場合には、本変形例では、Al膜(1.0nm厚)のみをエッチングするステップと、La膜(1.0nm厚)のみをエッチングするステップとを順次実施する。
【0132】
以下に、Al膜(1.0nm厚)のみのエッチングを行なった後に、La膜(1.0nm厚)のみのエッチングを実施する処理フローの例を説明する。まず初めに、Al膜のエッチングに好適な第1の錯体化ガスとして、例えばメトキシ酢酸をマスフローコントローラ(図示せず)から供給してAl膜のエッチングを行なう。その際、エッチング除去すべき膜厚にかかわらず、最初に、図2の工程Aにならって最表面層のみのエッチング処理を実施するが、ステップS103Aの段階で、Al膜の最表面層、La膜の最表面層にはメトキシ酢酸との反応によって、それぞれ、メトキシ酢酸とAlとが複合化した有機Al錯体層、メトキシ酢酸とLaとが複合化した有機La錯体層を1層~数層のみ生成している。
【0133】
この時に生成するメトキシ酢酸とAlとが複合化してなる有機Al錯体は熱的に比較的安定であり、上述の通り、270℃付近から昇華除去される。一方、メトキシ酢酸とLaに由来する有機La錯体は250℃以上では熱分解するため、メトキシ酢酸とAlとが複合化してなる有機Al錯体を昇華除去させる条件下では、メトキシ酢酸とLaに由来する有機La錯体は昇華除去されるのではなく、熱分解して、La膜表面のみに選択的に固着した炭素系残渣に変換される。このようにしてLa膜表面のみに炭素系残渣が生成すると、この炭素系残渣がハードマスクとして作用することになって、第2サイクル以後はLa膜はエッチングされない。
【0134】
一方、Al膜の表面には炭素系残渣が生成しないので、第2サイクル以後もAl膜のエッチングは進む。第2サイクルでは、ステップS102にて加工すべき残膜を判定する。残膜量が所定の閾値0.5nmよりも大きいと判断されたら、図2の工程Bにて実質連続的なエッチングを少なくとも1回実施し、その後、第3サイクル以後は所望のAl膜厚がエッチングされるまで、図2の工程フローに則って処理を進める。上述の通り、第2サイクル以後の処理において、La膜表面には選択的に炭素系残渣が固着しているので、La膜はエッチングされない。
【0135】
所望厚のAl膜のエッチングが終了したら、まず初めに、アッシングやプラズマクリーニングなどの残渣除去処理技術を用いてLa膜上に固着している炭素系残渣を除去する。アッシングやプラズマクリーニング処理は、炭素系残渣除去の終点を検知するための手段(図示せず)と併用することが望ましい。本変形例では、例えば、プラズマスペクトルを解析するなどの終点検知法を利用できる。
【0136】
次に、La膜のエッチングに好適な第2の錯体化ガスとして、例えば、特開2018-186149号公報記載のヘキサフルオロアセチルアセトンとジエチレングリコールジメチルエーテルの混合ガスをマスフローコントローラ(図示せず)から供給して、La膜のエッチングを行なう。その際、この第2の錯体化ガスはAl膜の最表面層とは反応せず、揮発性の有機Al錯体層は生成しない。一方、第2の錯体化ガスはLa膜最表面層と反応して、揮発性の有機La錯体層を生成する。従って、ヘキサフルオロアセチルアセトンとジエチレングリコールジメチルエーテルの混合ガスをマスフローコントローラ(図示せず)から供給する以外は、Al単層膜をエッチング除去するフローと同様に、図2の工程Bおよび工程Aを順次適用することによって、La膜をエッチング除去できるのである。
【0137】
このようにして、メトキシ酢酸、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ジエチレングリコールジメチルエーテルという多種類のガスを使い分けることによって、Al-La-Al-Laという積層膜を除去できる。ここで例示した以外の膜材料の組合わせおよび除去すべき膜厚の場合には、適宜、事前に適切な錯体化ガスを選定すれば、多種類の積層膜でもエッチングが可能である。
【0138】
次に、図6を用いて本願発明に好適な錯体化ガスの成分について説明する。図6は、図1乃至5に示した本実施形態または変形例で処理用のガスとして用いられる有機ガスの分子構造の例を模式的に示す図である。
【0139】
錯体化ガスの主たる有効成分は、典型金属原子に対して少なくとも2座以上の配位結合を形成し得る有機化合物、いわゆる多座配位子分子であって、ハロゲンを含まず、かつ、下記分子構造式(1)あるいは分子構造式(2)の構造を有する少なくも1種類あるいは複数種類の成分を混合し、必要に応じて、これらを適切な希釈材に溶解させて得られる液体を錯体化ガスの原料となる薬液44として用いる。希釈材に溶解させた液体を用いることにより、希釈材が下記分子構造式(1)あるいは分子構造式(2)の構造を有する成分の気化を促進し、さらに、気化した希釈材がキャリアガスとして機能することにより、スムーズな供給が可能となる。
【0140】
分子構造式(1):図6(a)に例示される分子構造であり、カルボキシル基を有し、カルボキシル基が結合している炭素原子に隣接して結合している炭素原子上にルイス塩基性を有し、非共有電子対を持つ部分構造であるOH基、OCH基、NH基、N(CH基などを有する。
【0141】
分子構造式(2):図6(b)に例示される分子構造であり、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物であって、該カルボニル基は非共有電子対を持つ部分構造であるO,SあるいはNHと結合している。
【0142】
図6(a)に例示される分子構造ではルイス酸的な特性を有する部分構造であるカルボキシル基と、ルイス塩基性を有する部分構造であるOH基、OCH基、NH基を同一分子内に持ち、分子内で酸・塩基が部分中和した構造を有する特徴がある。このような分子内部分中和構造であることによって比較的低温で揮発しやすくなっており、比較的簡易な構造の有機ガス気化供給器47でも効率的に気化できる。
【0143】
なお、図6(a)のX=CH,Y=O,R=R=R=H,Z=OHの場合がメトキシ酢酸である。メトキシ酢酸では、Y=Oの非共有電子対とそれに対抗する位置にあるカルボキシル基のOHの非共有電子対が金属元素に供与される形で2本の配位結合が生成して有機金属錯体となる。上述の通り、この配位結合は、電子供与+逆供与型の強固な結合であり、しかもその結合を2か所で形成しているため、得られたメトキシ酢酸金属錯体は熱的に安定な錯体化合物である。
【0144】
単なる酢酸や単なるギ酸と典型金属との反応で得られる金属酢酸塩や金属ギ酸塩では、結合は1か所である。上記の例において中間で生成される有機金属錯体は、これらのカルボン酸塩類と比べて熱的な安定性は著しく改善されており、その結果として、気散除去されやすい性質を有している。
【0145】
図6(b)に例示される分子構造は、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物である。該カルボニル基には非共有電子対を持つ部分構造であるO,S,NHが結合されている。図6(a)の構造よりも分子断面積が小さく、図6(a)の化合物と比べてもさらに低温で揮発しやすくなっており、比較的簡易な構造の有機ガス気化供給器47でも効率的に気化できる。
【0146】
この分子構造を持つ物質を典型金属元素を含有する膜材料と接触させると、小員環に起因する歪エネルギーを開放する反応が誘起されて、典型金属元素を環内に取り込まれた有機金属錯体となる。この際に形成される結合は、電子供与+逆供与型の強固な結合であり、結合が2か所で形成されているため、得られた環状の有機金属錯体は熱的に高い安定性を有した錯体化合物であり、その結果として、気散除去され易い性質を有している。
【0147】
本実施形態によれば、生成される熱的に安定な錯体化合物の内部では、被エッチング膜の金属元素の陽電荷がエッチングガス中に含まれているルイス塩基的な部分分子構造から供与される非共有電子対によって電荷的に中和されている。このことにより、隣接分子間に作用する静電的引力が消滅して揮発性(昇華性)が高められ、高い効率でエッチングを行うことができる。
【0148】
また、ルイス塩基的な部分分子構造を分子内に有するガスに被エッチング膜が暴露されることによって高い揮発性を有する金属錯体が生成されるので、従来技術のように反応休止期間を挟んで2種類の異なるガスを各々用いた反応による2つの工程を実施するものと比べて、短時間で処理を進めることができ処理の効率を向上させることができる。
【0149】
さらに、高い揮発性を有した金属錯体の化合物は熱に対して相対的に高い安定性を備えて、揮発した後に再度熱分解されてチャンバ内に滞留して異物を生起することが抑制され、処理の歩留まりが向上する。このように、本発明によれば、金属膜の表面粗面化を抑制し、高い効率のエッチングを実現して、歩留まりを向上させた半導体製造方法または半導体製造装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0150】
1…処理室、2…ウエハ、3…放電領域、4…ステージ、5…シャワープレート、6…天板、10…プラズマ、11…ベースチャンバ、12…石英チャンバ、14…調圧機構、15…排気機構、16…真空排気配管、17…ガス分散板、20…高周波電源、22…整合器、25…高周波カットフィルタ、30…静電吸着用電極、31…DC電源、34…ICPコイル、38…チラー、39…冷媒の流路、40…制御部、41…演算部、44…薬液、45…タンク、46…ヒータ、47…有機ガス気化供給器(処理ガス供給装置)、50…ガス供給のマスフローコントローラ、51…マスフローコントローラ制御部、52,53,54…バルブ、60…容器、62…IRランプ、63…反射板、64…IRランプ用電源、70…熱電対、71…熱電対温度計、74…光透過窓、75…ガスの流路、78…スリット板、81…Oリング、92…光ファイバ、93…外部IR光源、94…光路スイッチ、95…光分配器、96…分光器、97…検出器、98…光マルチプレクサー、100…半導体製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6