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特許7308822路上走行試験システム、路上走行試験システム用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】路上走行試験システム、路上走行試験システム用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230707BHJP
   G01M 15/10 20060101ALI20230707BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20230707BHJP
   G08G 1/13 20060101ALI20230707BHJP
   G08G 1/137 20060101ALI20230707BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
G01M15/10
G08G1/00 D
G08G1/13
G08G1/137
G01C21/34
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020521204
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019668
(87)【国際公開番号】W WO2019225497
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018097184
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】木原 信隆
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕之
(72)【発明者】
【氏名】道北 俊行
(72)【発明者】
【氏名】吉村 紗矢香
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6003824(JP,B2)
【文献】特表2015-522748(JP,A)
【文献】特開2016-001171(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016218815(DE,A1)
【文献】特開2006-337182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0029425(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路上走行試験が有効であるか否かを決定する所定の車速分布条件に沿って車両を走行させて当該車両の性能を測定する路上走行試験を行うための走行ルートが適切か否かを判定する路上走行試験システムであって、
前記路上走行試験において前記車両が走行する前記走行ルートの全体にわたる前記車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、
1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づいた推定車速を記憶する車速記憶部と、
前記実績車速又は前記推定車速に基づいて、前記走行ルートを前記車両が走行した場合の、前記走行ルートの全体にわたる予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、
前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、を備えた路上走行試験システム。
【請求項2】
前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たさないと判定された場合に、新たな走行ルートを作成する走行ルート作成部をさらに備えた請求項1記載の路上走行試験システム。
【請求項3】
前記走行ルート作成部が、前記実績車速に基づいて前記車速分布条件を満たすように新たな走行ルートを作成する請求項2記載の路上走行試験システム。
【請求項4】
前記車速分布条件は、前記路上走行試験において法規により定められている互いに異なる複数の車速区分であるUrban、Rural、Motorway毎に許容される車速分布が設定されている請求項1乃至3いずれかに記載の路上走行試験システム。
【請求項5】
前記判定条件が、気温条件、高度条件、又は、気圧条件の少なくとも1つをさらに含み、
前記走行ルートを前記車両が走行した場合の各地点での予測気温、予測高度、又は、予測気圧の少なくとも1つを含む予測環境パラメータを算出する予測環境パラメータ算出部と、をさらに備え、
前記判定部が、前記予測環境パラメータが前記判定条件を満たすか否かを判定するように構成されている請求項1乃至4いずれかに記載の路上走行試験システム。
【請求項6】
法規によって定められた排ガスが満たすべき基準である排ガス基準を記憶する排ガス基準記憶部と、
前記予測車速分布に基づいて、前記走行ルートを前記車両が走行した場合の予測排ガスデータを算出する予測排ガスデータ算出部と、をさらに備え、
前記判定部が、前記予測排ガスデータが前記排ガス基準を満たすか否かを判定するように構成されている請求項1乃至5いずれかに記載の路上走行試験システム。
【請求項7】
1又は複数の車両によって実測された実績排ガスデータを記憶する実績排ガスデータ記憶部をさらに備え、
前記予測排ガスデータ算出部は、前記予測車速分布及び前記実績排ガスデータに基づいて、前記予測排ガスデータを算出するように構成されている請求項6に記載の路上走行試験システム。
【請求項8】
前記車速記憶部が、前記実績車速が実測された日時に関する情報を関連付けて記憶するものであり、
前記予測車速分布算出部が、前記走行ルートを前記車両が走行する日時に対応する前記実績車速に基づいて、前記予測車速分布を算出する請求項1乃至7いずれかに記載の路上走行試験システム。
【請求項9】
前記判定部が、前記車両が路上走行試験中に前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを逐次判定する請求項1乃至8いずれかに記載の路上走行試験システム。
【請求項10】
前記走行ルート作成部が、前記車両が路上走行試験中に新たな走行ルートを作成する請求項2又は3記載の路上走行試験システム。
【請求項11】
1又は複数の車両にそれぞれ搭載される車両側装置と、
前記判定条件記憶部、前記車速記憶部、前記予測車速分布算出部、及び前記判定部を備えたサーバと、を備え、
前記車両側装置が、路上走行試験中の前記車両の位置データ、車速を少なくとも含む走行データを前記サーバに送信する走行データ送信部を備える請求項1乃至10いずれかに記載の路上走行試験システム。
【請求項12】
前記サーバが、前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たさないと判定された場合に、新たな走行ルートを作成する走行ルート作成部を備え、
前記車両側装置が、前記走行ルート作成部から前記新たな走行ルートを取得し、前記新たな走行ルートを前記車両に設けられた表示器に表示する走行ルート表示部を更に備え、
前記サーバが、前記車両側装置から送信される前記走行データを受信し、前記車速記憶部に記憶されている前記実績車速を更新するように構成された請求項11記載の路上走行試験システム。
【請求項13】
前記排ガス基準記憶部が、前記所定の試験条件であるMAW(Moving Average Window)又はSPF(Standardized Power Frequency Distribution)を前記排ガス基準として含み、
前記判定部は、前記予測排ガスデータが前記MAW又はSPFを満たすか否かを判定する、請求項6又は7に記載の路上走行試験システム。
【請求項14】
路上走行試験が有効であるか否かを決定する所定の車速分布条件に沿って車両を走行させて当該車両の性能を測定する路上走行試験を行うための走行ルートが適切か否かを判定する路上走行試験方法であって、
1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づいた推定車速に基づいて、前記走行ルートを前記車両が走行した場合の、前記走行ルートの全体にわたる予測車速分布を算出する予測車速分布算出ステップと、
前記予測車速分布が、前記路上走行試験において前記車両が走行する前記走行ルートの全体にわたる前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定ステップと、を備えた路上走行試験方法。
【請求項15】
路上走行試験が有効であるか否かを決定する所定の車速分布条件に沿って車両を走行させて当該車両の性能を測定する路上走行試験を行うための走行ルートが適切か否かを判定する路上走行試験システム用のプログラムであって、
前記路上走行試験において前記車両が走行する前記走行ルートの全体にわたる前記車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、
1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づいた推定車速を記憶する車速記憶部と、
前記実績車速又は前記推定車速に基づいて、前記走行ルートを前記車両が走行した場合の、前記走行ルートの全体にわたる予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、
前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、としての機能をコンピュータに発揮させる路上走行試験システム用プログラム。
【請求項16】
路上走行試験が有効であるか否かを決定する所定の車速分布条件に沿って車両を走行させて当該車両の性能を測定する路上走行試験を行うための走行ルートが適切か否かを判定する路上走行試験システムを構成するものであり、前記車両に搭載された車両側装置との間でデータを送受信するサーバであって、
前記サーバが、
前記路上走行試験において前記車両が走行する前記走行ルートの全体にわたる前記車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、
1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づく推定車速を記憶する車速記憶部と、
前記実績車速又は前記推定車速に基づいて、前記走行ルートを前記車両が走行した場合の、前記走行ルートの全体にわたる予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、
前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、を備えたサーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路上走行中に車両から排出される排ガスや車両の燃費等について分析する路上走行試験システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両から排出される排ガスに関する車両試験を行う場合、シャーシダイナモ上で例えばWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)に対応した走行モードで走行し、その時に排出される排ガスの各種成分濃度等を測定している。
【0003】
ところで、シャーシダイナモ上で測定された車両の性能と、実際に路上走行しているときに実現されている車両の性能の違いがある場合がある。このような問題を解決するためにRDE(Real Driving Emissions)とよばれる路上走行試験方法によって試験が行われる(特許文献1参照)。
【0004】
RDEでは、路上において所定の試験条件に沿った走行態様で運転しなくてはならない。試験条件には、走行時間やTrip Composition(Urban・Rural・Motorwayの走行距離割合)といった試験条件や、エミッションに係る試験条件であるMAW(Moving/ Averaging Window)法やPower Binning法(SPF(Standardized Power Frequency Distribution法))等がある。これらの試験条件を満たせない場合にはその試験は無効であると判定され、路上走行試験を最初からやり直す必要がある。
【0005】
このため、上述したような試験条件をそれぞれ満たせるように試験実施者は走行ルートを予め設定しようと試みるものの、試験実施時における道路状況や混雑状況等は一定ではなく、実際には適切な走行ルートを設定することは難しい。
【0006】
また、適切な走行ルートが設定できたとしても、実際の車両の性能を十分に反映した測定結果になっていないこともあり得る。このような場合には、走行試験結果と実際にユーザが体感する車両の性能とが乖離しかねず、路上走行試験を導入した目的を達成できない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-1171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、路上走行試験の結果が有効なものとなり、車両の性能を正確に反映した測定結果が得られる走行ルートを設定できる路上走行試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る路上走行試験システムは、路上走行試験が有効であるか否かを決定する車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づいた推定車速を記憶する車速記憶部と、前記実績車速又は前記推定車速に基づいて、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る路上走行試験方法は、1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づいた推定車速に基づいて、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測車速分布を算出する予測車速分布算出ステップと、前記予測車速分布が、路上走行試験が有効であるか否かを決定する車速分布条件を満たすか否かを判定する判定ステップと、を備えたものである。
【0011】
このようなものであれば、前記判定部の判定結果設定されている走行ルートを車両が走行した場合にどのような車速分布が得られるかを前記予測車速分布として得て、車速分布条件を満たす事ができるかどうかを前記判定部に路上走行試験前や路上走行試験中に判断させることが可能となる。
【0012】
したがって、設定されている走行ルートで路上走行試験を行っても試験が無効になる可能性があるという情報を得て、事前に別の走行ルートを設定することができる。このため、従来のように路上走行試験を終えてから速度分布条件を満たしていなかったことがわかり、路上走行試験をやり直さなくてはならない事態が発生するのを防ぐことができる。
【0013】
設定されている走行ルートでは路上走行試験が判定条件を満たせず、無効になる可能性が高い場合には自動的に新たな走行ルートが設定されるようにして、路上走行試験が有効となる可能性を高められるようにするには、前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たさないと判定された場合に、新たな走行ルートを作成する走行ルート作成部をさらに備えたものであればよい。
【0014】
前記走行ルート作成部のより好ましい態様としては、前記走行ルート作成部が、前記実績車速に基づいて前記車速分布条件を満たすように新たな走行ルートを作成するものが挙げられる。
【0015】
少なくともTrip composition に関する試験条件を走行ルートが満たしているかについて精度よく判定できるようにするには、前記車速分布条件は、Urban、Rural、Motorway毎に許容される車速分布が設定されているものであればよい。
【0016】
路上走行試験において満たすべき条件は車速分布だけではなく、その他の気温、硬度、気圧等といった条件を満たす必要があるが、設定されている走行ルートでこれらのような各種条件を満たせるかどうかを事前に判定できるようにして、さらに路上走行試験が有効なものとなる確率を高められるようにするには、前記判定条件が、気温条件、高度条件、又は、気圧条件の少なくとも1つをさらに含み、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測気温、予測高度、又は、予測気圧の少なくとも1つを含む予測環境パラメータを算出する予測環境パラメータ算出部と、をさらに備え、前記判定部が、前記予測環境パラメータが前記判定条件を満たすか否かを判定するように構成されていればよい。
【0017】
例えば設定されている走行ルートでは高度変化が繰り返されて車両に対して過剰に負荷が発生してしまい、本来の性能よりも劣る結果が出てしまうのを防ぐには、法規によって定められた排ガスが満たすべき基準である排ガス基準を記憶する排ガス基準記憶部と、前記予測車速分布に基づいて、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測排ガスデータを算出する予測排ガスデータ算出部と、をさらに備え、前記判定部が、前記予測排ガスデータが前記排ガス基準を満たすか否かを判定するように構成されていればよい。
【0018】
前記予測排ガスデータの推定精度をさらに向上させて、設定されている走行ルートによる路上走行試験の有効性に関する判定がより正確となるようにするには、1又は複数の車両によって実測された実績排ガスデータを記憶する実績排ガスデータ記憶部をさらに備え、前記予測排ガスデータ算出部は、前記予測車速分布及び前記実績排ガスデータに基づいて、前記予測排ガスデータを算出するように構成されていればよい。
【0019】
例えば道路の混雑状況は季節性の要因や通勤や帰宅の時間帯の影響を受けて変化するが、このような混雑状況等を加味して路上走行試験が有効なものとなりやすい走行ルートが設定されやすくするには、前記車速記憶部が、前記実測速度が実測された日時に関する情報を関連付けて記憶するものであり、前記予測車速分布算出部と、前記実測速度のうち設定されている走行ルートを車両が走行する日時に対応するものに基づいて予測車速分布を算出するものであればよい。
【0020】
路上走行試験中においてリアルタイムで現在設定されている走行ルートで路上走行試験が有効となるかどうかを判定できるようにするには、前記判定部が、車両が路上走行試験中に前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを逐次判定するものであればよい。
【0021】
もし無効な路上走行試験になりそうな場合には、例えば路上走行試験中においてリアルタイムで速やかに新たな走行ルートに変更できるようにするには、前記走行ルート作成部が、車両が路上走行試験中に新たな走行ルートを作成するものであればよい。
【0022】
複数の車両から車速等を例えばビッグデータとして集積することを可能とし、そのビッグデータに基づいて路上走行試験が有効なものとなる走行ルートがより精度よく判定できたり、新たに設定される走行ルートについて路上走行試験が有効となる確率をさらに高くできるようにしたりするには、複数の車両にそれぞれ搭載される車両側装置と、前記判定条件記憶部、前記車速記憶部、前記予測車速分布算出部、前記判定部、及び、前記走行ルート作成部と、を備えたサーバと、を備え、前記排ガス分析装置が、路上走行試験中の車両の位置データ、車速を少なくとも含む走行データを前記サーバに送信する走行データ送信部と、前記走行ルート作成部から新たに設定された走行ルート取得し、その走行ルートを車両に設けられた表示器に表示する走行ルート表示部と、前記サーバが、前記排ガス分析装置から送信される走行データを受信し、前記車速記憶部に記憶されている実績車速を更新するデータ更新部と、を備えたものであればよい。
【0023】
前記判定条件の具体例としては、MAW(Moving Average Window)又はSPF(Standardized Power Frequency Distribution)に基づいて設定されているものが挙げられる。
【0024】
例えば既存の路上走行試験システムにプログラムをインストールすることによって本発明に係る路上走行試験システムと同等の機能や効果を実現できるようにするには、路上走行試験が有効であるか否かを決定する車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、1又は複数の車両によって実測された実績車速又は交通情報に基づいた推定車速を記憶する車速記憶部と、前記実績車速又は前記推定車速に基づいて、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、としての機能をコンピュータに発揮させる路上走行試験システム用プログラムを用いればよい。なお、路上走行試験システム用プログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されているものであってもよい。
【0025】
多数の車両から各種データを集積できるにしてビッグデータとして活用できるようにしたり、AIによる走行ルートの有効性の判定等を行いやすくしたりするには、車両に搭載された車両側装置との間でデータを送受信し、路上走行試験システムを構成するサーバであって、前記サーバが、路上走行試験が有効であるか否かを決定する車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、1又は複数の車両によって実測された実績車速を記憶する車速記憶部と、前記実績車速に基づいて、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、を備えたサーバを用いれば良い。
【0026】
本発明に係る路上走行試験システムを構成するのに適した車両用の設備としては、車両に搭載されるとともに、サーバとデータを送受信し、路上走行試験システムを構成する車両側装置であって、前記サーバが、路上走行試験が有効であるか否かを決定する車速分布条件を少なくとも含む判定条件を記憶する判定条件記憶部と、1又は複数の車両によって実測された実績車速を記憶する車速記憶部と、前記実績車速に基づいて、設定されている走行ルートを車両が走行した場合の予測車速分布を算出する予測車速分布算出部と、前記予測車速分布が前記車速分布条件を満たすか否かを判定する判定部と、を備え、前記車両側装置が、路上走行試験中の車両の位置データ、車速を少なくとも含む走行データを前記サーバに送信する走行データ送信部を備えた排ガス分析装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0027】
このように本発明に係る路上走行試験システムであれば、複数の車両から得られた実績車速又は交通情報に基づく車速に基づいて、設定されている走行ルートによって車速条件を満たして路上走行試験が有効になるかどうかを事前に判定することができる。したがって、全く路上走行試験が有効となる見込みがない走行ルートが採用されることを防ぎ、路上走行試験のやり直しが発生し、取得された排ガスデータ等が無駄になってしまうのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係る路上走行試験システムについて示す模式図。
図2】第1実施形態の路上走行試験システムの一部を構成する車載型の排ガス分析装置を示す模式図。
図3】第1実施形態の排ガス分析装置の機能を示す機能ブロック図。
図4】第1実施形態のサーバの機能を示す機能ブロック図。
図5】路上走行試験における各車速区分及び高度条件について示す模式図。
図6】MAWの概要を示す模式図。
図7】第1実施形態の走行ルート作成部によって作成される走行ルートの例。
図8】第1実施形態の路上走行試験システムによるデータ集積時の動作を示すフローチャート。
図9】第1実施形態の路上走行試験システムによる走行ルートの有効性判定に関する動作を示すフローチャート。
図10】SPFの概要を示す模式図。
【符号の説明】
【0029】
200・・・路上走行試験システム
100・・・排ガス分析装置
13 ・・・分析装置本体
14 ・・・カメラ
15 ・・・加速度センサ
16 ・・・GPS
17 ・・・ディスプレイ
18 ・・・情報処理装置
31 ・・・走行データ取得部
32 ・・・走行データ送信部
33 ・・・走行ルート記憶部
34 ・・・データ受信部
35 ・・・走行ルート表示部
101・・・サーバ
41 ・・・車速記憶部
42 ・・・実績排ガスデータ記憶部
43 ・・・環境情報記憶部
44 ・・・走行ルート受付部
45 ・・・予測車速分布算出部
46 ・・・予測排ガスデータ算出部
47 ・・・予測環境パラメータ算出部
51 ・・・判定条件記憶部
52 ・・・排ガス基準記憶部
53 ・・・判定部
54 ・・・走行ルート作成部
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の第1実施形態にかかる路上走行試験システム200について各図を参照しながら説明する。第1実施形態にかかる路上走行試験システム200は、試験実施者であるドライバーが車両Vを公道上において走行させながら、車両Vから排出される排ガス成分や燃費などを測定するために用いられるものである。
【0031】
この路上走行試験システム200は、図1に示すようにネットワークXを介してデータの授受が可能に構成されたサーバ101と、当該サーバ101に対して無線ネットワークを介して接続可能された複数の車両Vとから構成されている。車両Vは、少なくとも各地点で達成した車速をその位置情報と関連付けてサーバ101に対して送信可能に構成されたものである。複数の車両Vは例えばコネクテッドカーや、通信可能なドライブレコーダを備えた車両Vや、車載型の排ガス分析装置100を備えた車両Vを含む。
【0032】
ここで、車両側装置の一種である車載型の排ガス分析装置100について図2及び図3を参照しながら説明する。
【0033】
車載型の排ガス分析装置100は、図2に示すように車両Vのテールパイプ11から排ガスの一部を取り入れるホース12と、ホース12を介して取り込んだ排ガスを分析する分析装置本体13と、例えば車両Vの前方の状況等を撮像し画像データを生成するカメラ14と、車両Vの加速度を検出する加速度センサ15と、車両の位置を検出するGPS16、分析装置本体13や各センサで取得されたデータの処理、サーバ101との間でデータの授受、路上走行試験の走行ルートをディスプレイ17に表示する情報処理装置18と、を備えている。
【0034】
分析装置本体13は、排ガス流量、排ガスに含まれるCO、CO、HO、NO、THC、CH、PN、PM等の量(または濃度)等を測定し、さらにそれらから燃費などを算出する。
【0035】
情報処理装置18は、CPUやメモリ、通信ポート等が内蔵された装置本体、キーボードなどの入力手段(図示しない)及びディスプレイ17を具備する汎用のコンピュータであり、車両Vの室内に搭載される。
【0036】
そして、この情報処理装置18が、メモリに記憶された排ガス分析装置用プログラムに従って動作することにより、図3に示すように少なくとも走行データ取得部31、走行データ送信部32、走行ルート記憶部33、走行ルート受信部34、走行ルート表示部35としての機能を発揮する。
【0037】
走行データ取得部31は、走行データとして分析装置本体13に接続された通信ポートを介して排ガス流量、排ガス成分、燃費などを取得するとともに、車両VのECU21などの通信ラインに接続された通信ポートを介して、車両Vの各部に設けてあるセンサ等から得られるエンジン回転数、車速、加速度、スロットル開度、ブレーキON/OFF、吸排気温度、冷却水温度、エンジントルクなどを取得する。また、走行データ取得部31は、車両V内に設けられたカメラ14から走行時の状況を示す画像データを取得する。
【0038】
なお、この走行データ取得部31は、直接得られない走行データを、その他の走行データの値から算出することもある。例えば、エンジントルクが得られない場合、メモリに記憶させたトルク-回転数マップを参照してエンジン回転数とスロットル開度とからエンジントルクを算出する場合がある。また、別途センサを設けてその他の種々の走行データを取得するようにしてもよい。
【0039】
走行データ送信部32は、走行データ取得部31で取得される走行データを例えば無線ネットワークXを介して前述したサーバ101へと送信する。走行データについては少なくとも車両Vの位置データと車速を含んでいればよく、走行データ取得部31で取得されているデータを全て送信しなくてもよい。例えば、データ容量が小さいものやサーバ101において常に新しいデータに更新する必要があるものについては逐次送信するようにし、カメラ14で撮像された撮像データ等の容量の大きいものについては、事故等が発生したと考えられる加速度の異常が発生した場合やサーバ101側からの要請があった場合等の所定のトリガー条件が発生した場合のみ送信するようにしてもよい。
【0040】
走行ルート記憶部33は、例えば試験実施者が情報処理装置18の入出力機器を用いて入力する路上走行試験のための走行ルートを記憶するものである。なお、後述するようにサーバ101において別の走行ルートが作成されて走行ルート受信部34が受信した場合には、その走行ルートも走行ルート記憶部33に記憶される。
【0041】
走行ルート表示部35は、走行ルート記憶部33に記憶されている走行ルートを地図上に重ねてディスプレイ17に表示するものである。このとき、車両Vの位置情報に基づいて、周辺の地図データや道路の混雑状況等を示すデータを逐次受信し、そのデータに基づいて地図を作成して、その地図の上に走行ルートを表示する。
【0042】
なお、排ガス分析装置100が設けられていない車両Vでは分析装置本体13等以外の対応する構成を有した車両側装置を備えており、各車両Vで得られた走行データは走行データ送信部32を介してサーバ101へと送信される。すなわち、サーバ101は、複数の車両VからネットワークXを介して各車両Vの走行データを取得するように構成されている。そして、複数の車両Vから得られたデータがサーバ101上に蓄積されて、ビッグデータとして集積されるようにしてある。
【0043】
次にサーバ101について図4を参照しながら説明する。
【0044】
サーバ101は、各車両Vで取得される走行データを収集して蓄積する機能と、蓄積された走行データに基づいて路上走行試験を実施するのに適した走行ルートであるかどうかを検証したり、路上走行試験が有効となる走行ルートを各車両Vに対して提供したりする機能を発揮するものである。
【0045】
具体的にこのサーバ101は、メモリに格納されているサーバ用のプログラムが実行されて、各種機器が協業することにより、図4に示すように少なくとも車速記憶部41、実績排ガスデータ記憶部42、環境情報記憶部43、走行ルート受付部44、予測車速分布算出部45、予測排ガスデータ算出部46、予測環境パラメータ算出部47、判定条件記憶部51、排ガス基準記憶部52、判定部53、走行ルート作成部54としての機能を発揮するように構成されている。
【0046】
各部について詳述する。
【0047】
車速記憶部41は、各地点において車両Vによって実測されて、サーバ101に対して送信された実績車速を記憶するものである。ここで、実績車速は路上走行試験中に実測された値にのみ限定してもよいし、路上走行試験を行っていない車両Vにおいて実測された値であってもよい。実績車速は、例えば車両Vに設けられているGPS16で測定される経度、緯度、ジオイド等といった位置情報と、各位置情報の示す地点で達成された車速、その時の日時が紐付けられたデータである。なお、車速記憶部41は車両Vにおいて実測された値だけでなく、交通情報から推定される各地点で達成されるである推定車速を記憶するものであってもよい。
【0048】
実績排ガスデータ記憶部42は、複数の車両Vのうち排ガス分析装置100が設けられたものからサーバ101に対して送信された排ガスの各種成分の濃度等である実績排ガスデータを記憶するものである。ここで、実績排ガスデータは、GPS16で測定される経度、緯度、ジオイド等といった位置情報と、各位置情報の示す地点で実測された各種成分の濃度、その車両Vの車種や、その時の日時が紐付けられたデータである。
【0049】
これらのような実績車速や実績排ガスデータは排ガス分析装置100を備えた各車両Vから得られたデータに基づいて、例えば表1のようなデータ形式でサーバ101内に集積されていく。ここで、排ガス分析装置100が設けられていない車両Vから送信された走行データの場合には、排ガス測定値については記憶されない。あるいは、得られた車両諸元と各地点における車速に基づいて排ガス測定値の代わりに排ガス推定値を算出して記憶するようにしてもよい。
【0050】
【表1】
【0051】
環境情報記憶部43は、例えば公的機関等が提供する気象情報のデータベース等から各地点での気圧、天候、気温等といった環境データを取得し、記憶するものである。環境データも、各地点の高度を含む位置情報と、気圧、天候、気温、日時といった情報が紐付けられたデータである。環境データについては、例えば路上走行試験が行われる地域において走行中の車両Vから得られるデータを集積してもよいし、その他の地域内に設けられている各種センサから得られるデータを集積してもよい。
【0052】
走行ルート受付部44は、例えば試験実施者によって車両走行試験のために車両Vにおいて設定された初期の走行ルートに関するデータを受け付ける。後述する予測車速分布算出部45、予測排ガスデータ算出部46、予測環境パラメータ算出部47では、受け付けられた走行ルートにおいて通過する各地点の位置情報に基づき、対応するデータを各記憶部41、42、43から取得し、予測値を算出する。
【0053】
具体的には予測車速分布算出部45は、サーバ101に記憶されている実績車速又は推定車速に基づいて設定されている走行ルートを車両Vが走行した場合の予測車速分布を算出する。例えば走行ルート上の各地点において実績車速として記憶されている値の平均値が、各地点での予測車速として算出される。第1実施形態では設定されている走行ルート中において後述する路上走行試験の車速区分であるUrban、Rural、Motorwayごとに予測車速に基づいた走行距離を算出する。すなわち、走行ルートにおいて各車速区分に設定されている部分ごとに、各位置での予測車速とその予測継続時間をかけて予測走行距離が算出される。そして、予測車速分布算出部45は、Urban、Rural、Motorwayごとに予測走行距離の比を算出する。
【0054】
予測排ガスデータ算出部46は、予測車速分布算出部45で算出された予測車速分布に基づいて設定されている走行ルートを車両Vが走行した場合に、各位置において排出されると予測される例えば排ガスの各種成分の濃度を予測排ガスデータとして算出する。具体的には車両Vの性能諸元と予測車速から走行ルート上の各地点で排出されるCO等の濃度値が予測排ガスデータとして推定される。また、走行ルート上のある地点に関して実績排ガスデータがサーバ101に記憶されている場合には、この実績排ガスデータに基づいて予測排ガスデータを算出してもよい。設定されている走行ルート上での予測CO濃度に基づいて、後述するMAWと同様の算出基準でWindowごとのCO濃度の予測平均値を算出し、予測Window dataとして算出する。なお、実績排ガスデータが存在しない場合には、サーバ101に記憶されている車両諸元と車速に基づいて算出される推定値を用いて予測排ガスデータを算出してもよい。
【0055】
なお、予測車速、予測排ガスデータの算出方法については、例えば路上走行試験を行う車種と同じ車種において実測されたデータのみを用いるようにしてもよいし、路上走行試験が行われる時間帯で実測されたデータのみを用いるようにしてもよい。また、道路の混雑情報等を外部のデータベース等から取得し、渋滞等による影響を加味した予測車速であっても構わない。
【0056】
予測環境パラメータ算出部47は、サーバ101に記憶されている環境データに基づいて、設定されている走行ルートを車両Vが走行した場合の各地点での高度、予測気温、予測高度、予測気圧を含む予測環境パラメータを算出する。第1実施形態では、予測環境パラメータ算出部47は、走行ルートにおける予測気温範囲と、走行ルートのトリップ全体での最大の高度差、及び、走行ルートのスタート地点とゴール地点との高度差を含む予測高度差と、予測累積登坂高度を算出している。
【0057】
判定条件記憶部51は、路上走行試験が有効であるか否かを決定するTrip Composition に関する車速分布条件と、エミッションに係る試験条件であり、RDEにおける規定や具体的な評価値の換算算出方法であるMAW(Moving Average Window)において満たすべき基準とを含む判定条件を記憶している。以下に詳述するように路上走行試験は複数の条件パラメータを同時に満たす必要があるとともに、条件パラメータは道路の混雑状況や様々な要因によって影響を受ける可能性がある。
【0058】
具体的にTrip Dynamicsに関する判定基準について説明する。図5に示すように車両走行試験において走行ルートはUrban(市街地)、Rural(郊外)、Motorway(高速道路)の3つの区間で路上走行を実施する必要がある。ここで、Urbanは60km/h以下の車速で走行する区間であり、Ruralは60km/以上90km/h以下の車速で走行する区間であり、Motorwayは90km/以上115km/h以下の車速で走行する区間である。
【0059】
車速区分においてそれぞれの走行距離は最低16km以上必要となるとともに、Urban、Rural、Motorwayのそれぞれについて走行距離比は29~44%:33±10%:33±10%の範囲内であることが求められる。
【0060】
これらのことから第1実施形態の判定条件記憶部51は、車速条件としてUrban、Rural、Motorwayのそれぞれについて走行距離比が29~44%:33±10%:33±10%の範囲に対応するよう車速分布条件を記憶している。
【0061】
また、Urban全体では平均車速は15~40km/hを満たすとともに、停止時間はUrbanでの走行時間の6~30%を満たす必要がある。Motorwayでは100km/hを超える速度で5分間以上走行するとともに、走行速度は145km/hを超えないことが求められる。このため、判定条件記憶部51は、UrbanとMotorwayの車速区分についてはさらに車速に関する判定条件として車速制限値と必要継続時間を記憶している。加えて、車両V走行試験のトリップ全体での走行時間は90~120分である必要がある。このため、判定条件記憶部51はトリップ全体については上記の制限旅程時間を記憶している。
【0062】
さらに、RDEでは図5に示すように走行ルートについては高度差がトリップ全体で700m以下であるとともに、スタート地点とゴール地点との高度差は100m以内であることが求められる。さらに、累積登坂高度が走行距離100km辺り1200m以下であることも求められる。このため、判定条件記憶部51は高度制限値としてこれらの値を記憶している。
【0063】
加えて、トリップ全体において外気温度についても3~30℃内の範囲である必要がある。このため、判定条件記憶部51は外気温条件として、設定されている走行ルート中での外気温の温度変化許容範囲を記憶している。なお、上述してきた各判定基準については一例であり、法規の変更や各社の社内規定等によって変更され得る値である。また、法改正や各国ごとに設定される基準に応じて判定条件の値は変更可能である。
【0064】
次に排ガスの評価値を算出するMAWにおいて満たすべき条件について説明する。MAWではUrban、Rural、Motorwayの各車速区分で得られた排ガスのCOの積算値がWLTCを走行した場合に排出されるCOの量の1/2となった時点を1Windowとして、Window中に含まれるデータについて1秒ごとに移動平均値を算出する。このようにして得られた各Windowにおいて算出されたCOの平均値と平均車速の対からなるWindow dataをプロットしたものが図6に示すようになる。ここで、MAWが有効であると判定されるには、Urban、Rural、Motorwayの各車速区分において全Window data数の15%以上がそれぞれ含まれている必要がある。また、各車速区分に含まれるWindow dataのうち50%以上がWLTCデータより算出されるCO特性曲線(中央部太線で図示)の上下25%を示すTolerance 1内に含まれている必要がある。
【0065】
これらのWindow dataのデータ点数に関する判定条件については、車速だけでなく排出される排ガスの評価値も判定基準となるので、排ガス基準記憶部52が排ガス基準として記憶している。なお、排ガス基準はMAWが有効かどうか判定するための条件に限られるものではなく、例えば環境基準として法令等で別途定められている排出基準値であっても構わない。
【0066】
判定部53は、設定されている走行ルートを車両Vが走行した場合に、予測車速分布算出部45、予測環境パラメータ算出部47、及び、予測排ガスデータ算出部46で算出される各種予測値が、判定条件記憶部51、及び、排ガス基準記憶部52に記憶されている判定条件、及び、排ガス基準を満たし、路上走行試験が有効なものになりえるかどうかを判定する。この判定部53による路上走行試験の有効性に関する判定は、車両Vによる路上走行試験が実施される前に行われる。また、路上走行試験地中において渋滞等の状態変化による影響を加味できるように路上走行試験中にも有効性の判定は逐次繰り返される。
【0067】
走行ルート作成部54は、判定部53において設定されている走行ルートでは路上走行試験が有効ではないと判定している場合にサーバ101に記憶されている各実績値に基づいて路上走行試験が有効となるように新たな走行ルートを作成する。
【0068】
すなわち、走行ルート作成部54はサーバ101に記憶されている各種情報を入力データ及び拘束条件として、図7に示すような新たな走行ルートを出力データとして出力する。具体的には車速記憶部41、環境情報記憶部43、実績排ガスデータ記憶部42に記憶されている各実績値、及び、設定されている走行ルートにおけるスタート地点及びゴール地点の位置情報、路上走行試験が行われる予定の日時といった複数の情報が入力データとして使用される。また、判定条件記憶部51、排ガス基準記憶部52に記憶されている複数の判定条件、及び、排ガス基準が拘束条件として使用される。また、拘束条件は現在設定されている走行ルートと重複している部分が大きいほどよいといった条件を設定してもよい。なお、走行ルート作成部54は、ビッグデータとして集積されている入力データに基づいて、複数の拘束条件を満たすように新たな走行ルートを作成するAIとして構成されてもよい。例えば走行ルート作成部54は複数の走行ルートを提案し、試験実施者によって選択される走行ルートの評価値を上げるようにして作成精度が向上するようにしてもよい。
【0069】
このようにして走行ルート作成部54により作成された新たな走行ルートは車両Vに搭載されている車載型の排ガス分析装置100に対して送信され、例えばディスレプ17によって地図上に重ねて表示される。走行ルートについてはディスプレイ17に表示される態様だけでなく、例えば音声案内や矢印等の記号によって試験実施者に通知されるようにしてもよい。また、車両Vのフロントガラス等に走行ルートや走行地点において達成するべき車速等の路上走行試験に関わる情報を表示するようにしてもよい。
【0070】
次に第1実施形態の路上走行試験システム200の動作について図8及び図9のフローチャートを参照しながら説明する。まず、複数の車両Vから得られる走行データを集積し、ビッグデータを形成するための動作について図8を参照しながら説明する。
【0071】
複数の車両Vに各種車両側装置によって、それぞれ車両Vが走行している位置の位置情報、その時の車速、これらを含む走行データは車両側装置からサーバ101に対して送信される(ステップS1)。なお、一部の排ガス分析装置100を備えた車両Vについては、さらに測定されている排ガスデータが逐次測定されて、このようなデータも併せてサーバ101に対して送信される。
【0072】
複数の車両Vで測定された位置情報、その時の車速、日時といった時間データはそれぞれが関連付けられた状態で車速記憶部41に集積される(ステップS2)。
【0073】
また、排ガス分析装置100を備えた車両Vで測定された排ガスデータについてはそれぞれの値が測定された位置の位置情報と関連付けられた状態で実績排ガスデータ記憶部42に集積される(ステップS3)。
【0074】
なお、各車両Vから得られない気象等の環境データについては、ネットワークXを介してその他の公的データベースから位置情報と関連付けられた形で環境情報記憶部43に集積される(ステップS4)。ステップS2~S4については逐次データの更新及び蓄積が繰り返され、ビッグデータが形成される。
【0075】
次に路上走行試験のために設定されている走行ルートが有効であるかどうかの判定動作について図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0076】
サーバ101の走行ルート受付部44が路上走行試験を行う車両Vの排ガス分析装置100を介して予定されている走行ルートを受け付けると、その走行ルートの有効性の判断が開始される(ステップST1)。
【0077】
まず、サーバ101の予測車速分布算出部45が、受け付けられた走行ルート上の各地点における予測車速を実績車速又は推定車速に基づいて算出する。この結果、走行ルート上の各地点における予測車速を示す予測車速分布が得られる(ステップST2)。
【0078】
また、予測排ガスデータ算出部46は、予測車速分布算出部45が算出した各地点での予測車速に基づき、受け付けられた走行ルートでの各地点で予測排ガスデータを算出する(ステップST3)。加えて、予測環境パラメータ算出部47は受け付けられた走行ルートでの予測気温範囲、予測高度差、予測累積登坂高度を算出する(ステップST4)。第1実施形態では予測排ガスデータはMAWにおけるWindow dataとしてデータ処理された形となっている。
【0079】
受け付けられた走行ルートでの各地点における各種予測値が算出されると、判定部53は予測車速分布、予測気温範囲、予測高度差、予測累積登坂高度がRDEにおいて試験が有効であると判定されるのに必要なTrip compositionやその他の各種条件を満たしているかどうかを判定する(ステップST5)。また、判定部53は、設定されている走行ルートによってエミッションに係る試験条件を満たす事ができるかどうかを判定する。すなわち、判定部53は予測された複数のWindow dataが、所定のデータ範囲内において必要とされるデータ点数が存在するかどうかを判定し、MAWが有効なものになりえるかどうかの判定をする(ステップST6)。
【0080】
ステップST5又はST6のいずれかにおいて判定部53が有効ではないと判定した場合には、設定されている走行ルートやサーバ101に集積されている実績値に基づいて、走行ルート作成部54は、Trip composition等の各判定基準、エミッションに係る試験条件や排ガス基準を満たすように新たな走行ルートを作成する(ステップST7)。
【0081】
作成された新たな走行ルートについては、サーバ101から対象の車両Vに対して送信され、試験実施者は新たな走行ルートで路上走行試験を実施する(ステップST8)。
【0082】
なお、ステップST1~ST8については路上走行試験中においても逐次動作が繰り返され、車両Vにおいて使用される走行ルートが路上走行試験中に更新されるようにしてもよい。
【0083】
このように構成された路上走行試験システム200によれば、設定されている走行ルートが車速分布条件、車速制限値、必要継続時間、制限旅程時間、高度制限値、温度変化許容範囲といった判定条件と排ガス基準を満たし、路上走行試験として有効なものとなるかどうかを路上走行試験が完了する前に予め判定することができる。
【0084】
例えば路上走行試験が実施される前にサーバ101に入力された走行ルートでは、路上走行試験が有効なものにならないと判定部53によって判定されれば、走行ルート作成部54により作成される試験が有効となる可能性が高い新たな走行ルートに変更することができる。
【0085】
このため、従来のように路上走行試験が完了してから、得られたデータが判定条件や排ガス基準を満たしているかどうかについてデータ解析して、結局条件を満たせておらず、路上走行試験を最初からやり直すことになるといった事態が発生するのを防ぐことができる。
【0086】
また、第1実施形態の路上走行試験システム200ではサーバ101に対して複数の車両Vから得られた実績値をビッグデータとして集積しているので、各予測値の予測精度や判定部53による路上走行試験の有効性に関する判定精度を高くすることができる。
【0087】
さらに、第1実施形態の路上走行試験システム200では、車両Vが路上走行試験を行っている最中でもサーバ101において逐次設定されている走行ルートを有効性について判定し、設定されている走行ルートでこのまま路上走行試験を継続しつづけても問題ないかどうかが判断される。このため、路上走行試験中において例えば突発的な事故等によって渋滞状況等が変化したとしても、走行ルートを途中で変更し、有効となる可能性を高める事が可能となる。
【0088】
次に第2実施形態の路上走行試験システム200について説明する。
【0089】
第2実施形態の路上走行試験システム200では、各構成要素については第1実施形態の路上走行試験システム200とほぼ同様であるが、MAWではなく、SPF(Power Binningとも呼称される)によって排ガスの評価を行えるように判定部53において使用される判定基準が異なっている。
【0090】
すなわち、SPFでは路上走行時の試験データについて3秒毎に移動平均によって、排出ガス、タイヤ駆動力、車速の平均が算出される。各移動平均データについては図10に示すように車両諸元から設定される9段階のパワークラスに分類される。SPFによる算出結果が有効なものとなる条件として、例えばUrban、Rural、Motorwayの車速区分における特定のパワークラスのデータ点数が例えば最低でも5つ以上のデータ点数が得られていることが挙げられる。
【0091】
このため、第2実施形態の予測車速分布算出部45は、走行ルート上の各位置の予測車速をサーバ101に集積されている実測車速に基づいて算出した後で、Urban、Rural、Motorwayの各車速区分について9つのパワークラスに分類した予測車速分布を算出するように構成されている。
【0092】
また、第2実施形態の判定条件記憶部51は、車速分布条件としてUrban、Rural、Motorwayの各車速区分について9つのパワークラスのデータ点数が5つ以上であることを記憶している。
【0093】
第2実施形態の判定部53では、第1実施形態で説明したようなRDEとして満たすべき車速に関する条件だけでなく、上述したようなSPF用に算出された予測車速分布が各パワークラスで5つ以上のデータ点数があるかどうかという車速分布条件を満たしているかどうか判定している。
【0094】
このように構成された第2実施形態の路上走行試験システム200であれば、RDEとして満たすべき条件だけでなく、排ガス等の評価値を算出する際の規定であるPower Binningにおいて満たすべき条件が設定されている走行ルートにおいて実現可能かどうかについて路上走行試験前に予め判定することができる。
【0095】
また、いずれかの条件を満たさない場合には、走行ルート作成部54において各条件が満たされる可能性が高い走行ルートを別途作成し、路上走行試験が一度の実施で有効なものにしやすくできる。
【0096】
その他の実施形態について説明する。
【0097】
各実施形態では、路上走行試験システムは各車両に設けられた排ガス分析装置と、サーバとの組み合わせで実現されていたが、例えば所定の走行ルートでRDEが有効であるかどうかについてのみ判定する場合には、サーバ又は単一のコンピュータのみで路上走行試験システムが構成されていても構わない。
【0098】
また、各実施形態においては走行ルートの有効性の事前判断や、路上走行試験が有効となる可能性がない場合における走行ルートの再設定の機能はサーバによって実現されていたが、全て車両に設けられる排ガス分析装置等を構成するコンピュータの演算能力によってその機能を実現するようにしてもよい。
【0099】
すなわち、各構成要件が物理的に存在している場所は各実施形態において示した場所に限られない。
【0100】
走行ルート作成部で作成される走行ルートは、試験規約等で定められている試験が有効かどうかを決定する各判定条件を満たすように作成されているが、さらに別の条件を増やしても良い。
【0101】
例えば、路上走行試験において試験の有効性を決定する判定条件は満たすようにしつつ、その中でも車両に対して最も負荷がかかるように走行ルートを作成するように走行ルート作成部を構成してもよい。すなわち、路上走行試験としては有効の部類であっても、車両への負荷が小さく、排出される各排ガス成分が非常に少なくなり、チャンピオンデータが得られる可能性がある。このようなデータが結果として得られても路上走行試験が導入されるきっかけとなった実際の使用時における燃費や環境性能等と試験結果との乖離が大きいといった問題を克服できない恐れがある。このため、走行ルートが作成される条件として予測累積登坂高度が最大となることや、実績排ガスデータに基づいて最も排ガスの排出量が大きくなると見込まれる走行ルートが出力されるようにAIによる学習制御を行ってもよい。
【0102】
また、設定されている走行ルートでの路上走行試験の有効性に関する判断を行う判断部や、各判定条件を満たす走行ルートを作成する走行ルート作成部としての機能を省略し、予測排ガスデータ算出部としての機能だけを有したシステムとして構成してもよい。この場合、設定されている走行ルートにおいてどの程度の排ガスが排出されるかという点について実測を行うことなく、予めコンピュータシミュレーションすることができる。例えばこれらのようなシミュレーションに基づいて、環境対策のための基礎データを作成したり、新規車両設計時等における指標として活用したりすることが考えられる。
【0103】
各実施形態では、設定されている走行ルートによって全ての判定条件を満たすかどうかについて判定部は判定していたが、少なくとも予測車速分布が車速分布条件を満たしているかどうかを判定するように構成してもよい。すなわち、簡易な指標のみで走行ルートの有効性が判定されるようにして演算負荷を減らし、リアルタイムでの走行ルートの更新を行いやすくしてもよい。また、このように判定条件のパラメータを適宜限定することにより、例えばAIにおける過学習等の弊害が発生するのを防ぎ、より適切な走行ルートが得られやすくなる可能性がある。
【0104】
本発明については、リアルタイムで車両走行試験の有効性をリアルタイムで判定するものに限られず、机上でルート設定をするために用いることができる。
【0105】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の組み合わせや変形を行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
このように本発明であれば、複数の車両から得られた実績車速又は交通情報に基づく車速に基づいて、設定されている走行ルートによって車速条件を満たして路上走行試験が有効になるかどうかを事前に判定できる路上走行試験システムを提供できる。また、本発明であれば、全く路上走行試験が有効となる見込みがない走行ルートが採用されることを防ぎ、路上走行試験のやり直しが発生し、取得された排ガスデータ等が無駄になってしまうのを防ぐことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10