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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】車両用アンテナシステム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/32 20060101AFI20230707BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALI20230707BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
H01Q1/32 Z
H01Q1/22 A
H01Q21/24
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020553878
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042136
(87)【国際公開番号】W WO2020090718
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018206013
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】猪又 稔
(72)【発明者】
【氏名】今井 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】東海林 英明
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彰一
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-036780(JP,A)
【文献】特開2013-085058(JP,A)
【文献】特開2000-236205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
H01Q 1/22
H01Q 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後両側と左右両側のうち少なくとも一方の両側にある誘電体設けられる複数のアンテナセットを備え、
前記複数のアンテナセットに含まれる第1のアンテナセットは、第1のアンテナと第2のアンテナを有し、
前記複数のアンテナセットに含まれる第2のアンテナセットは、第3のアンテナと第4のアンテナを有し、
前記複数のアンテナセットに含まれる第3のアンテナセットは、第5のアンテナと第6のアンテナを有し、
前記複数のアンテナセットに含まれる第4のアンテナセットは、第7のアンテナと第8のアンテナを有し、
前記第1のアンテナと前記第3のアンテナと前記第5のアンテナと前記第7のアンテナはそれぞれ、垂直偏波を送受する場合に比べて水平偏波を送受する場合の方が、アンテナ利得が高い水平偏波アンテナであり、
前記第2のアンテナと前記第4のアンテナと前記第6のアンテナと前記第8のアンテナはそれぞれ、水平偏波を送受する場合に比べて垂直偏波を送受する場合の方が、アンテナ利得が高い垂直偏波アンテナである、車両用アンテナシステム。
【請求項2】
前記第1のアンテナは第1の基板に備えられ、前記第2のアンテナは第2の基板に備えられ、前記第1の基板の基板面と前記第2の基板の基板面とは法線方向が異なり、
前記第3のアンテナは第3の基板に備えられ、前記第4のアンテナは第4の基板に備えられ、前記第3の基板の基板面と前記第4の基板の基板面とは法線方向が異なり、
前記第5のアンテナは第5の基板に備えられ、前記第6のアンテナは第6の基板に備えられ、前記第5の基板の基板面と前記第6の基板の基板面とは法線方向が異なり、
前記第7のアンテナは第7の基板に備えられ、前記第8のアンテナは第8の基板に備えられ、前記第7の基板の基板面と前記第8の基板の基板面とは法線方向が異なる、請求項1に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項3】
前記第1の基板の基板面と前記第2の基板の基板面とがなす角度は、90°以上180°未満であり、
前記第3の基板の基板面と前記第4の基板の基板面とがなす角度は、90°以上180°未満であり、
前記第5の基板の基板面と前記第6の基板の基板面とがなす角度は、90°以上180°未満であり、
前記第7の基板の基板面と前記第8の基板の基板面とがなす角度は、90°以上180°未満である、請求項2に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項4】
前記第1の基板、前記第2の基板、前記第3の基板、前記第4の基板、前記第5の基板、前記第6の基板、前記第7の基板および前記第8の基板は、各々の基板面の法線方向が全て異なるように配置される、請求項2又は3に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項5】
前記第1の基板、前記第2の基板、前記第3の基板、前記第4の基板、前記第5の基板、前記第6の基板、前記第7の基板及び前記第8の基板は、各々の基板面の法線方向の仰角が0°以上60°以下となるように配置される、請求項2から4のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項6】
前記第1のアンテナセットは、前記車両の前側にある誘電体設けられ、前記第1の基板及び前記第2の基板は、前記車両の前方領域に面するように、水平方向に並んで配置され、
前記第3のアンテナセットは、前記車両の後側にある誘電体設けられ、前記第5の基板及び前記第6の基板は、前記車両の後方領域に面するように、水平方向に並んで配置される、請求項2から5のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項7】
前記第2のアンテナセットは、前記車両の右側にある誘電体設けられ、前記第3の基板及び前記第4の基板は、前記車両の右方領域に面するように、水平面に垂直な方向に並んで配置され、
前記第4のアンテナセットは、前記車両の左側にある誘電体設けられ、前記第7の基板及び前記第8の基板は、前記車両の左方領域に面するように、水平面に垂直な方向に並んで配置される、請求項2から6のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項8】
前記車両を上方から見たとき、前記第3の基板及び前記第4の基板は、相互に交差するように配置され、前記第7の基板及び前記第8の基板は、相互に交差するように配置される、請求項7に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項9】
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナは、各々の主ビームの方向が異なるように配置され、
前記第3のアンテナと前記第4のアンテナは、各々の主ビームの方向が異なるように配置され、
前記第5のアンテナと前記第6のアンテナは、各々の主ビームの方向が異なるように配置され、
前記第7のアンテナと前記第8のアンテナは、各々の主ビームの方向が異なるように配置される、請求項1に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項10】
前記第1のアンテナの主ビームの方向と前記第2のアンテナの主ビームの方向とがなす角度は、90°以上180°未満であり、
前記第3のアンテナの主ビームの方向と前記第4のアンテナの主ビームの方向とがなす角度は、90°以上180°未満であり、
前記第5のアンテナの主ビームの方向と前記第6のアンテナの主ビームの方向とがなす角度は、90°以上180°未満であり、
前記第7のアンテナの主ビームの方向と前記第8のアンテナの主ビームの方向とがなす角度は、90°以上180°未満である、請求項9に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項11】
前記第1のアンテナ、前記第2のアンテナ、前記第3のアンテナ、前記第4のアンテナ、前記第5のアンテナ、前記第6のアンテナ、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、各々の主ビームの方向が全て異なるように配置される、請求項9又は10に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項12】
前記第1のアンテナ、前記第2のアンテナ、前記第3のアンテナ、前記第4のアンテナ、前記第5のアンテナ、前記第6のアンテナ、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、各々の主ビームの方向の仰角が0°以上60°以下となるように配置される、請求項9から11のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項13】
前記第1のアンテナセットは、前記車両の前側にある誘電体設けられ、前記第1のアンテナ及び前記第2のアンテナは、各々の主ビームの方向が前記車両の前方領域に向くように、水平方向に並んで配置され、
前記第3のアンテナセットは、前記車両の後側にある誘電体設けられ、前記第5のアンテナ及び前記第6のアンテナは、各々の主ビームの方向が前記車両の後方領域に向くように、水平方向に並んで配置される、請求項9から12のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項14】
前記第2のアンテナセットは、前記車両の右側にある誘電体設けられ、前記第3のアンテナ及び前記第4のアンテナは、各々の主ビームの方向が前記車両の右方領域に向くように、水平面に垂直な方向に並んで配置され、
前記第4のアンテナセットは、前記車両の左側にある誘電体設けられ、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、各々の主ビームの方向が前記車両の左方領域に向くように、水平面に垂直な方向に並んで配置される、請求項9から13のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項15】
前記車両を上方から見たとき、前記第3のアンテナ及び前記第4のアンテナは、相互に交差するように配置され、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、相互に交差するように配置される、請求項14に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項16】
前記水平偏波アンテナの主ビームの方向と前記垂直偏波アンテナの主ビームの方向とが前記車両を上方から見たときに時計回りで交互に存在するように、前記第1のアンテナ、前記第2のアンテナ、前記第3のアンテナ、前記第4のアンテナ、前記第5のアンテナ、前記第6のアンテナ、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、配置される、請求項1から15のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項17】
前記第1のアンテナ、前記第2のアンテナ、前記第3のアンテナ、前記第4のアンテナ、前記第5のアンテナ、前記第6のアンテナ、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、各々の主ビームのアンテナ利得が4dBi以上11dBi以下である、請求項1から16のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項18】
前記第1のアンテナ、前記第2のアンテナ、前記第3のアンテナ、前記第4のアンテナ、前記第5のアンテナ、前記第6のアンテナ、前記第7のアンテナ及び前記第8のアンテナは、各々の主ビームを中心とする半値角が40°以上90°以下となるように配置される、請求項17に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項19】
前記第1のアンテナは第1の基板に備えられ、前記第2のアンテナは第2の基板に備えられ、前記第1の基板の基板面と前記第2の基板の基板面とは法線方向が同一であり、
前記第3のアンテナは第3の基板に備えられ、前記第4のアンテナは第4の基板に備えられ、前記第3の基板の基板面と前記第4の基板の基板面とは法線方向が同一であり、
前記第5のアンテナは第5の基板に備えられ、前記第6のアンテナは第6の基板に備えられ、前記第5の基板の基板面と前記第6の基板の基板面とは法線方向が同一であり、
前記第7のアンテナは第7の基板に備えられ、前記第8のアンテナは第8の基板に備えられ、前記第7の基板の基板面と前記第8の基板の基板面とは法線方向が同一である、請求項1に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項20】
前記第1のアンテナセットは、前記車両の前側にある誘電体設けられ、
前記第2のアンテナセットは、前記車両の右側にある誘電体設けられ、
前記第3のアンテナセットは、前記車両の後側にある誘電体設けられ、
前記第4のアンテナセットは、前記車両の左側にある誘電体設けられる、請求項1から19のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項21】
前記第1のアンテナセットは、前記車両の前方に対して方位角+45°方向にある誘電体設けられ、
前記第2のアンテナセットは、前記車両の後方に対して方位角+45°方向にある誘電体設けられ、
前記第3のアンテナセットは、前記車両の後方に対して方位角-45°方向にある誘電体設けられ、
前記第4のアンテナセットは、前記車両の前方に対して方位角-45°方向にある誘電体設けられる、請求項19に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項22】
送受する電波の波長をλとすると、
前記第1のアンテナと前記第3のアンテナと前記第5のアンテナと前記第7のアンテナとの相互間距離は、10λ以上であり、
前記第2のアンテナと前記第4のアンテナと前記第6のアンテナと前記第8のアンテナとの相互間距離は、10λ以上である、請求項1から21のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項23】
前記誘電体は、ガラス又は樹脂である、請求項1から22のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項24】
前記車両の前側にある誘電体及び前記車両の後側にある誘電体は、ガラスである、請求項6,13,20のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【請求項25】
前記第1のアンテナセット、前記第2のアンテナセット、前記第3のアンテナセット及び前記第4のアンテナセットは、3GHz以上100GHz以下の周波数の電波を送受する、請求項1から24のいずれか一項に記載の車両用アンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用アンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、4G LTE(800MHz帯)から5G(sub6)への移行など、マイクロ波やミリ波の周波数帯を使用する高速・大容量の無線通信システムを利用するサービスが拡がる動きがある。具体的には、3GHz帯域から5~6GHz帯域まで、そのようなサービスの使用帯域が広がる傾向にある。更には、sub6よりも高い周波数帯(例えば、28GHz帯、40GHz帯、60GHz帯、80GHz帯)を用いた無線通信システムの普及に向けた試みが行われている。このような無線通信として、車車間通信や路車間通信などのV2X(Vehicle to Everything)が知られており、このような無線通信機能を備える車両をコネクテッドカーと称されることがある。
【0003】
このような無線通信において、LTEに使用される車載用アンテナ装置として、リアスポイラに配置されるアンテナ装置などがある(例えば、特許文献1参照)。また、V2Xに使用される車載用アンテナ装置として、ルーフに配置されるシャークフィン型のアンテナ装置などがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/125876号
【文献】国際公開2017/213243号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アンテナ利得の向上を図るとアンテナのビーム幅が狭くなる傾向があるので、車両上の一箇所に配置された従来の単一のアンテナでは、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立させることが難しい。また、従来の単一のアンテナ装置では、高いアンテナ利得を実現する水平偏波と垂直偏波の両方に対応することが難しい。
【0006】
そこで、本開示は、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性が小さな車両用アンテナシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
車両の前後両側と左右両側のうち少なくとも一方の両側にある誘電体又はその近傍に設けられる複数のアンテナセットを備え、
前記複数のアンテナセットに含まれる第1のアンテナセットは、第1のアンテナと第2のアンテナを有し、
前記複数のアンテナセットに含まれる第2のアンテナセットは、第3のアンテナと第4のアンテナを有し、
前記複数のアンテナセットに含まれる第3のアンテナセットは、第5のアンテナと第6のアンテナを有し、
前記複数のアンテナセットに含まれる第4のアンテナセットは、第7のアンテナと第8のアンテナを有し、
前記第1のアンテナと前記第3のアンテナと前記第5のアンテナと前記第7のアンテナはそれぞれ、垂直偏波を送受する場合に比べて水平偏波を送受する場合の方が、アンテナ利得が高い水平偏波アンテナであり、
前記第2のアンテナと前記第4のアンテナと前記第6のアンテナと前記第8のアンテナはそれぞれ、水平偏波を送受する場合に比べて垂直偏波を送受する場合の方が、アンテナ利得が高い垂直偏波アンテナである、車両用アンテナシステムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性が小さな車両用アンテナシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を上方視で示す図である。
図2】車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を側方視で示す図である。
図3】各アンテナの、車両の上方から見たときの指向性の一例を示す図である。
図4】各アンテナの鉛直面における指向性の一例を示す図である。
図5】横方向に配置される2つのアンテナを有するアンテナセットの一例を示す図である。
図6】縦方向に配置される2つのアンテナを有するアンテナセットの一例を示す図である。
図7】複数の垂直偏波アンテナの指向性の一例を示す図である。
図8】複数の水平偏波アンテナの指向性の一例を示す図である。
図9図7の指向性と図8の指向性を合わせて示す図である。
図10】本開示に係る別の実施形態の車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を上方視で示す図である。
図11】本開示に係る別の実施形態の車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を上方視で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示に係る実施形態の説明を行う。なお、各形態において、平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を表す。
【0011】
また、本開示に係る車両用アンテナシステムは、マイクロ波やミリ波等の高周波帯(例えば、3~30GHzのSHF(Super High Frequency)帯や、30~300GHzのEHF(Extremely High Frequency)帯)の電波を送受する。また、本開示に係る車両用アンテナシステムは、例えば、V2X通信システム、第5世代移動通信システム(いわゆる、5G)、車載レーダーシステムなどに適用可能であるが、適用可能なシステムはこれらに限られない。
【0012】
図1は、本開示に係る実施形態の車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を上方視で示す図である。図2は、本開示に係る実施形態の車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を側方視で示す図である。図1,2に示すアンテナシステム101は、車両100の前後両側と左右両側のうち少なくとも一方の両側にある誘電体又はその近傍に設けられる複数のアンテナセットを備える車両用アンテナシステムの一例である。
【0013】
なお、各図面において、X軸方向は、車両100の車幅方向に対応し、Y軸方向は、車両100の前後方向に対応し、Z軸方向は、車両100の上下方向に対応する。また、XY平面は、水平面に対応し、Z軸方向は、水平面に垂直な方向(鉛直方向)に対応する。
【0014】
図1,2には、車両100の前後両側と左右両側のそれぞれにある窓ガラスの近傍に設けられる複数のアンテナセットが例示されている。第1のアンテナセット1は、車両100の前側にある誘電体であるフロントガラス110の近傍に設けられており、より具体的には、フロントガラス110の中央上部の車室内側の近傍に設置されている。第2のアンテナセット2は、車両100の右側にある誘電体である右側の固定窓ガラス120の近傍に設けられており、より具体的には、右側の固定窓ガラス120の前側端部の車室内側の近傍に設置されている。第3のアンテナセット3は、車両100の後側にある誘電体であるリアガラス130の近傍に設けられており、より具体的には、リアガラス130の中央上部の車室内側の近傍に設置されている。第4のアンテナセット4は、車両100の左側にある誘電体である左側の固定窓ガラス140の近傍に設けられており、より具体的には、左側の固定窓ガラス140の前側端部の車室内側の近傍に設置されている。
【0015】
各アンテナセットは、例えば、3GHz以上100GHz以下の範囲に含まれる所定の周波数の電波を送受可能に形成されている。
【0016】
第1のアンテナセット1は、第1のアンテナ11と第2のアンテナ12を有し、第2のアンテナセット2は、第3のアンテナ13と第4のアンテナ14を有する。第3のアンテナセット3は、第5のアンテナ15と第6のアンテナ16を有し、第4のアンテナセット4は、第7のアンテナ17と第8のアンテナ18を有する。第1のアンテナ11と第3のアンテナ13と第5のアンテナ15と第7のアンテナ17はそれぞれ、垂直偏波を送受する場合に比べて水平偏波を送受する場合の方が、アンテナ利得が高い水平偏波アンテナである。第2のアンテナ12と第4のアンテナ14と第6のアンテナ16と第8のアンテナ18はそれぞれ、水平偏波を送受する場合に比べて垂直偏波を送受する場合の方が、アンテナ利得が高い垂直偏波アンテナである。
【0017】
水平偏波アンテナは、所定の周波数において、水平偏波のアンテナ利得をG[dBi]とし、垂直偏波のアンテナ利得をG[dBi]としたとき、G-Gが10[dB]以上あればよく、15[dB]以上あればより好ましい。また、水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナの、交差偏波識別度が、10[dB]以上あればよく、15[dB]以上あればより好ましい。
【0018】
垂直偏波アンテナは、所定の周波数において、垂直偏波のアンテナ利得をG[dBi]とし、水平偏波のアンテナ利得をG[dBi]としたとき、G-Gが10[dB]以上あればよく、15[dB]以上あればより好ましい。また、垂直偏波アンテナと水平偏波アンテナの、交差偏波識別度が、10[dB]以上あればよく、15[dB]以上あればより好ましい。
【0019】
アンテナシステム101は、4つのアンテナセット1,2,3,4が車両100の前後左右に分散配置されている。そのため、アンテナセット1,2,3,4のうち、一又は複数のアンテナセットのアンテナ利得の向上を図ることによりそれらのアンテナセットのビーム幅が狭まっても、残りのアンテナセットのビーム幅がその狭まりによるアンテナ利得低減をカバーできる。したがって、アンテナシステム101は、単一のアンテナが車両上の一箇所に設置されている場合に比べて、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立できる。ここでいうビーム幅は、例えば、主ビームを中心とする半値角として考えることができる。
【0020】
また、アンテナセット1,2,3,4は、それぞれ、水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナの両方を有している。したがって、アンテナシステム101は、水平偏波と垂直偏波の両方に対応でき、偏波依存性を小さくできる。
【0021】
このように、本実施形態によれば、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性を小さくする効果が得られる車両用アンテナシステムの提供が可能となる。このような効果により、例えば、直接波が存在しないNLOS(Non Line Of Sight)環境でも、通信の安定性を確保でき、マルチパスの電波の受信感度を向上できる。
【0022】
図1に示すように、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性を小さくする点で、第1のアンテナ11と第2のアンテナ12は、各々の主ビームの方向が異なるように配置されることが好ましい。また、例えば、第1のアンテナ11は第1の基板51に備えられ、第2のアンテナ12は第2の基板52に備えられている場合、第1の基板51と第2の基板52とは、互いのアンテナ面に対する法線方向が異なるように配置されることが好ましい。なお、「アンテナ面」とは、後述するパッチアンテナのような「平面アンテナ」の場合、その平面(より具体的には、基板面)に相当する。
【0023】
なお、主ビーム(メインローブとも称する)の方向とは、車両上の任意の基準点(例えば、アンテナセットが設置される箇所)に対して、アンテナ利得が最も高く測定される方向(最大利得方向)を表す。
【0024】
同様に、図1に示すように、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性を小さくする点で、第3のアンテナ13と第4のアンテナ14は、各々の主ビームの方向が異なるように配置されることが好ましい。例えば、第3のアンテナ13は第3の基板53に備えられ、第4のアンテナ14は第4の基板54に備えられている場合、第3の基板53と第4の基板54とは、互いのアンテナ面に対する法線方向が異なるように配置されることが好ましい。
【0025】
同様に、図1に示すように、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性を小さくする点で、第5のアンテナ15と第6のアンテナ16は、各々の主ビームの方向が異なるように配置されることが好ましい。例えば、第5のアンテナ15は第5の基板55に備えられ、第6のアンテナ16は第6の基板56に備えられている場合、第5の基板55と第6の基板56とは、互いのアンテナ面に対する法線方向が異なるように配置されることが好ましい。
【0026】
同様に、図1に示すように、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性を小さくする点で、第7のアンテナ17と第8のアンテナ18は、各々の主ビームの方向が異なるように配置されることが好ましい。例えば、第7のアンテナ17は第7の基板57に備えられ、第8のアンテナ18は第8の基板58に備えられている場合、第7の基板57と第8の基板58とは、互いのアンテナ面に対する法線方向が異なるように配置されることが好ましい。
【0027】
各アンテナ11~18又は各基板51~58がこのように配置されることにより、車両100を中心とする水平面におけるアンテナシステム101の指向性を無指向性に近づけることができる。また、全方位の各方向から到来する水平偏波と垂直偏波とのいずれの受信感度も向上させる(つまり、無偏波性を向上させる)ことができる。
【0028】
また、アンテナ11~18は、各々の主ビームの方向が全て異なるように配置されることがより好ましい。例えば、車両100を上方から見たとき、基板51~58は、各々のアンテナ面に対する法線方向が全て異なるように配置されることがより好ましい。
【0029】
図3は、アンテナ11~18の、車両100を上方から見たときの、各々の主ビームの方向が全て異なっていることを示す。11h,12v,13h,14v,15h,16v,17h,18vは、それぞれ、車両100を上方から見たときの、アンテナ11~18によって形成される主ビームを中心とする半値角を表す。言い換えると、図3において、車両100を上方から見たときの、アンテナ11~18によって形成される主ビームの方向は、それぞれの半値角の中心に相当する。
【0030】
このように、車両100を上方から見たとき、アンテナ11~18の各々の主ビームの方向が全て異なるように設定することにより、車両100を中心とするアンテナシステム101の指向性を更に無指向性に近づけることができる。また、全方位の各方向から到来する水平偏波と垂直偏波とのいずれの受信感度も更に向上させることができる。なお、各々のアンテナにおいて、基板51~58の各々の法線方向が全て異なるように設定すればよい。
【0031】
また、図3は、水平偏波用のアンテナ11,13,15,17の主ビームの方向と垂直偏波用のアンテナ12,14,16,18の主ビームの方向とが、車両100を上方から見たときに時計回りで交互に存在することを示している。水平偏波と垂直偏波の各々の主ビームの方向がこのように時計回りで交互に存在するように、アンテナ11~18が配置されることによって、車両100を中心とする水平面におけるアンテナシステム101の指向性を更に無指向性に近づけることができる。また、全方位の各方向から到来する水平偏波と垂直偏波とのいずれの受信感度も更に向上させることができる。
【0032】
また、第1のアンテナ11の主ビームの方向と第2のアンテナ12の主ビームの方向とがなす角度をθ12と称する。角度θ12は、好ましくは90°以上180°未満、より好ましくは100°以上170°以下、更に好ましくは110°以上160°以下である。例えば、アンテナにおいて、基板面とアンテナ面とが平行に配置されている場合、第1の基板51と第2の基板52とがなす角度をγ12と称する。後述する角度γ34、角度γ56、および、角度γ78も同様に各々のアンテナにおいて、基板面とアンテナ面とが平行に配置されている場合であるとする。角度γ12は、好ましくは90°以上180°未満、より好ましくは100°以上170°以下、更に好ましくは110°以上160°以下である。角度θ12又は角度γ12をこのような角度範囲に設定することにより、アンテナシステム101の指向性を無指向性に近づけることができ、水平偏波と垂直偏波との両方の受信感度を向上させることができる。
【0033】
第3のアンテナ13の主ビームの方向と第4のアンテナ14の主ビームの方向とがなす角度θ34も、同様の理由で、角度θ12と同様の角度範囲が好ましい。第5のアンテナ15の主ビームの方向と第6のアンテナ16の主ビームの方向とがなす角度θ56も、同様である。第7のアンテナ17の主ビームの方向と第8のアンテナ18の主ビームの方向とがなす角度θ78も、同様である。
【0034】
また、第3の基板53と第4の基板54とがなす角度γ34も、同様の理由で、角度γ12と同様の角度範囲が好ましい。さらに、第5の基板55と第6の基板56とがなす角度γ56、第7の基板57と第8の基板58とがなす角度γ78も、同様である。
【0035】
また、アンテナ11~18は、各々の主ビームの方向の仰角αが、0°以上60°以下となるように配置するとよく、10°以上60°以下となるように配置すると好ましい。例えば、各々のアンテナにおける、基板51~58は、各々の法線方向の仰角βが、0°以上60°以下となるように配置するとよく、10°以上60°以下となるように配置すると好ましい。つまり、この場合、仰角αは仰角βに等しくなる。
【0036】
図4は、仰角α又は仰角βを示す図である。仰角α又は仰角βは、水平面90とのなす角度を表し、図中の破線は主ビームの方向を示す。
【0037】
このように、例えば、仰角α又は仰角βが10°以上60°以下の角度範囲に設定することにより、車両100の上方から到来する垂直偏波と水平偏波の両方の受信感度を向上させることができる。
【0038】
また、第1のアンテナセット1は、車両100の前側にある誘電体の一例であるフロントガラス110又はその近傍に設けられている。この場合、第1のアンテナ11及び第2のアンテナ12の配置(並ぶ方向)はとくに限定されないが、車両100を上方から見たときの、各々の主ビームの方向が図3のように車両100の前方領域に向くように、水平方向(図1の場合、X軸方向)に並んで配置されることが好ましい。第1のアンテナ11及び第2のアンテナ12が、水平方向に並んで配置されることにより、水平面に垂直な方向に並んで配置される場合に比べて、フロントガラス110越しの視界の遮りを抑制できる場合が多い。例えば図1に示すように、フロントガラス110越しの視界の遮りを抑制するため、第1の基板51及び第2の基板52は、車両100の前方領域に面するように、水平方向に並んで配置されることが好ましい。なお、第1のアンテナセットをフロントガラス110に設ける場合、例えば、フロントガラス110の周辺の(不図示の)遮蔽膜の少なくとも一部又は全部に重なるようしたり、フロントガラス110とリアビューミラーとの間に設けたりすると、フロントガラス110越しの視界の遮りを抑制しやすい。なお、隠蔽膜は、具体的に、黒色セラミックス膜等のセラミックスが挙げられる。
【0039】
また、第3のアンテナセット3は、車両100の後側にある誘電体の一例であるリアガラス130又はその近傍に設けられている。この場合、第5のアンテナ15及び第6のアンテナ16の配置(並ぶ方向)はとくに限定されないが、車両100を上方から見たときの、各々の主ビームの方向が図3のように車両100の後方領域に向くように、水平方向(図1の場合、X軸方向)に並んで配置されることが好ましい。第5のアンテナ15及び第6のアンテナ16が、水平方向に並んで配置されることにより、水平面に垂直な方向に並んで配置される場合に比べて、リアガラス130越しの視界の遮りを抑制できる場合が多い。例えば図1に示すように、リアガラス130越しの視界の遮りを抑制するため、第5の基板55及び第6の基板56は、車両100の後方領域に面するように、水平方向に並んで配置されることが好ましい。なお、第3のアンテナセットをリアガラス130に設ける場合、例えば、リアガラス130の周辺の遮蔽膜の少なくとも一部又は全部に重なるようにすると、リアガラス130越しの視界の遮りを抑制しやすい。
【0040】
また、第2のアンテナセット2は、車両100の右側にある誘電体の一例である右側の固定窓ガラス120又はその近傍に設けられている。この場合、第3のアンテナ13及び第4のアンテナ14の配置(並ぶ方向)はとくに限定されないが、車両100を上方から見たときの、各々の主ビームの方向が図3のように車両100の右方領域に向くように、水平面に垂直な方向(鉛直方向。図1,2の場合、Z軸方向)に並んで配置されることが好ましい。第3のアンテナ13及び第4のアンテナ14が、鉛直方向に並んで配置されることにより、水平方向に並んで配置される場合に比べて、右側の固定窓ガラス120越しの視界の遮りを抑制できる場合が多い。なぜなら、右側の固定窓ガラス120は、水平方向の長さがフロントガラス110等の他の窓ガラスよりも短いからである。例えば図1に示すように、右側の固定窓ガラス120越しの視界の遮りを抑制するため、第3の基板53及び第4の基板54は、車両100の右方領域に面するように、鉛直方向に並んで配置されることが好ましい。なお、第2のアンテナセット2を右側の固定窓ガラス120に設ける場合、例えば、右側の固定窓ガラス120の周辺の遮蔽膜の少なくとも一部又は全部に重なるようにすると、固定窓ガラス120越しの視界の遮りを抑制しやすい。また、右側の固定窓ガラス120周辺に誘電体として樹脂枠がある場合、所定のアンテナ利得が得られる程度に樹脂枠の一部又は全部に第2のアンテナセット2を重ねてもよい。こうすることで、右側の固定窓ガラス120越しの視界の遮りを抑制しやすい。
【0041】
また、第4のアンテナセット4は、車両100の左側にある誘電体の一例である左側の固定窓ガラス140又はその近傍に設けられている。この場合、第7のアンテナ17及び第8のアンテナ18の配置(並ぶ方向)はとくに限定されないが、車両100を上方から見たときの、各々の主ビームの方向が図3のように車両100の左方領域に向くように、水平面に垂直な方向(鉛直方向。図1の場合、Z軸方向)に並んで配置されることが好ましい。第7のアンテナ17及び第8のアンテナ18が、鉛直方向に並んで配置されることにより、水平方向に並んで配置される場合に比べて、左側の固定窓ガラス140越しの視界の遮りを抑制できる場合が多い。なぜなら、左側の固定窓ガラス140は、水平方向の長さがフロントガラス110等の他の窓ガラスよりも短いからである。例えば図1に示すように、左側の固定窓ガラス140越しの視界の遮りを抑制するため、第7の基板57及び第8の基板58は、車両100の左方領域に面するように、鉛直方向に並んで配置されることが好ましい。なお、第4のアンテナセット4を左側の固定窓ガラス140に設ける場合、例えば、左側の固定窓ガラス140の周辺の遮蔽膜の少なくとも一部又は全部に重なるようにすると、固定窓ガラス140越しの視界の遮りを抑制しやすい。また、左側の固定窓ガラス140周辺に誘電体として樹脂枠がある場合、所定のアンテナ利得が得られる程度に樹脂枠の一部又は全部に第4のアンテナセット4を重ねてもよい。こうすることで、左側の固定窓ガラス140越しの視界の遮りを抑制しやすい。
【0042】
また、車両100を上方から見たとき、鉛直方向に並んで配置される第3のアンテナ13及び第4のアンテナ14は、相互に交差するように配置され、鉛直方向に並んで配置される第7のアンテナ17及び第8のアンテナ18は、相互に交差するように配置されることが好ましい。このように、相互に交差するように配置されることで、第2のアンテナセット2及び第4のアンテナセット4のそれぞれの水平方向の外形寸法を小さくできる。例えば図1に示すように、第2のアンテナセット2の水平方向の外形寸法を小さくするため、車両100を上方から見たとき、鉛直方向に並んで配置される第3の基板53及び第4の基板54は、相互に交差するように配置されることが好ましい。同様に、第4のアンテナセット4の水平方向の外形寸法を小さくするため、車両100を上方から見たとき、鉛直方向に並んで配置される第7の基板57及び第8の基板58は、相互に交差するように配置されることが好ましい。
【0043】
また、アンテナ11~18は、各々の主ビームのアンテナ利得が、好ましくは4dBi以上11dBi以下であり、より好ましくは5dBi以上10dBi以下であり、更に好ましくは6dBi以上9dBi以下である。主ビームのアンテナ利得を4dBi以上11dBi以下に設定すると、主ビームの半値角が40°以上90°以下程度になる。そのため、アンテナ利得をそのような範囲に調整した水平偏波用のアンテナ11,13,15,17を4箇所に分散配置することによって、水平偏波において、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立できる。同様に、アンテナ利得をそのような範囲に調整した垂直偏波用のアンテナ12,14,16,18を4箇所に分散配置することによって、垂直偏波において、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立できる。
【0044】
また、送受する電波の波長をλとすると、水平偏波用のアンテナ11,13,15,17の相互間距離は、好ましくは10λ以上であり、より好ましくは15λ以上であり、更に好ましくは20λ以上である。同様に、垂直偏波用のアンテナ12,14,16,18の相互間距離は、好ましくは10λ以上であり、より好ましくは15λ以上であり、更に好ましくは20λ以上である。相互間距離の上限値は、各アンテナが搭載される車両の大きさによって適宜変化する。同じ偏波用の各アンテナ間の相互間距離が10λ以上であると、各アンテナ間の相関係数は、10λ未満である場合に比べて著しく低下するので、各アンテナをMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナとして利用することに適している。例えば、周波数が28GHzの電波の場合、10λは、約100mmである。
【0045】
図5は、水平方向に並んで配置される水平偏波アンテナ30と垂直偏波アンテナ40を有するアンテナセットの一例を示す図である。図5に示すアンテナセットは、例えば、上述の第1のアンテナセット1及び第3のアンテナセット3の一例である。第1のアンテナセット1の場合、水平偏波アンテナ30は、第1のアンテナ11に対応し、垂直偏波アンテナ40は、第2のアンテナ12に対応する。第3のアンテナセット3の場合、水平偏波アンテナ30は、第5のアンテナ15に対応し、垂直偏波アンテナ40は、第6のアンテナ16に対応する。
【0046】
水平偏波アンテナ30は、アンテナ導体31,32が形成された誘電体基板36を有する平面アンテナである。誘電体基板36は、第1の基板面と、第1の基板面とは反対側の第2の基板面とを有する。水平偏波アンテナ30がマイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ)である場合、第1の基板面に形成されたアンテナ導体31,32及びストリップ導体33に、誘電体基板36を介して対向するように、(不図示の)グランド導体が第2の基板面に形成されている。ストリップ導体33は、その先端部がパッチ状のアンテナ導体31,31に並列に接続される給電ラインである。同軸ケーブル34の内部導体34aは、ストリップ導体33に導電的に接続され、同軸ケーブル34の外部導体は、第2の基板面に形成されるグランド導体に導電的に接続される。同軸ケーブル34の不図示の反対側は、車載の通信装置に接続される。
【0047】
垂直偏波アンテナ40は、アンテナ導体41,42が形成された誘電体基板46を有する平面アンテナである。誘電体基板46は、第1の基板面と、第1の基板面とは反対側の第2の基板面とを有する。垂直偏波アンテナ40がマイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ)である場合、第1の基板面に形成されたアンテナ導体41,42及びストリップ導体43に、誘電体基板46を介して対向するように、(不図示の)グランド導体が第2の基板面に形成されている。ストリップ導体43は、その先端部がパッチ状のアンテナ導体41,41に直列に接続される給電ラインである。同軸ケーブル44の内部導体44aは、ストリップ導体43に導電的に接続され、同軸ケーブル44の外部導体は、第2の基板面に形成されるグランド導体に導電的に接続される。同軸ケーブル44の不図示の反対側は、車載の通信装置に接続される。
【0048】
図5に示すアンテナセットは、誘電体基板36,46が回転軸21を中心に回転する蝶つがい機構を有してもよい。誘電体基板36,46が回転軸21を中心に回転することにより、所望のアンテナ利得と指向性が得られるように、誘電体基板36の法線方向35と誘電体基板46の法線方向45とがなす角度を調整できる。なお、図5のアンテナセットは、誘電体基板36の基板面、アンテナ導体31、32のアンテナ面、さらに、誘電体基板46の基板面、アンテナ導体41、42のアンテナ面が、Z軸方向に平行するように示している。しかし、上述のとおり、図5のアンテナセットは、Z軸方向に対して所定の角度の傾きをなすことで、主ビームが、所定の範囲の仰角α又は仰角βとなるように車両100に設置してもよい。
【0049】
図6は、垂直方向に並んで配置される水平偏波アンテナ30と垂直偏波アンテナ40を有するアンテナセットの一例を示す図である。図6に示すアンテナセットは、例えば、上述の第2のアンテナセット2及び第4のアンテナセット4の一例である。第2のアンテナセット2の場合、水平偏波アンテナ30は、第3のアンテナ13に対応し、垂直偏波アンテナ40は、第4のアンテナ14に対応する。第4のアンテナセット4の場合、水平偏波アンテナ30は、第7のアンテナ17に対応し、垂直偏波アンテナ40は、第8のアンテナ18に対応する。図6に示す水平偏波アンテナ30及び垂直偏波アンテナ40のそれぞれの構成は、上述の説明と同じである。
【0050】
図6に示すアンテナセットは、誘電体基板36,46が回転軸22を中心に回転する機構を有してもよい。誘電体基板36,46が回転軸22を中心に回転することにより、所望のアンテナ利得と指向性が得られるように、誘電体基板36の法線方向35と誘電体基板46の法線方向45とがなす角度を調整できる。なお、図6のアンテナセットも、誘電体基板36の基板面、アンテナ導体31、32のアンテナ面、さらに、誘電体基板46の基板面、アンテナ導体41、42のアンテナ面が、Z軸方向に平行するように示している。しかし、上述のとおり、図6のアンテナセットも、Z軸方向に対して所定の角度の傾きをなすことで、主ビームが、所定の範囲の仰角α又は仰角βとなるように車両100に設置してもよい。
【0051】
なお、垂直偏波アンテナ又は水平偏波アンテナは、マイクロストリップアンテナに限られず、他の形態のアンテナでもよい。例えば、コプレーナ線路により給電される平面アンテナでもよい。
【0052】
図7は、複数の垂直偏波アンテナであるアンテナ12,14,16,18の指向性の一例を示す図である。図7に示す“WS V ANT”、“RQL V ANT”、“BL V ANT”、“RQR V ANT”は、それぞれ、アンテナ12,14,16,18のアンテナ利得の測定結果の一例を示す。
【0053】
図8は、複数の水平偏波アンテナであるアンテナ11,13,15,17の指向性の一例を示す図である。図8に示す“WS H ANT”、“RQL H ANT”、“BL H ANT”、“RQR H ANT”は、それぞれ、アンテナ11,13,15,17のアンテナ利得の測定結果の一例を示す。
【0054】
図9は、図7の指向性と図8の指向性を合わせて示す図である。図9に示すように、アンテナシステム101の指向性を無指向性に近づけることができる。このように、アンテナ利得の向上と指向性の広角化を両立でき、且つ、偏波依存性が小さなアンテナシステム101を実現できる。
【0055】
なお、アンテナ利得の測定は、ターンテーブルの中心に、各アンテナが図1,2のように取り付けられた車両の中心をセットして行った。そして、ターンテーブルの外側に固定された送信アンテナから送信される垂直偏波と水平偏波それぞれにおいて、アンテナとの仰角を固定した状態で、アンテナとの水平面内の方位角を変えて、垂直偏波と水平偏波に対するアンテナ利得を測定した。
【0056】
このとき、2つの誘電体基板がなす、角度γ12(角度θ12に相当)、角度γ34(角度θ34に相当)、角度γ56(角度θ56に相当)、角度γ78(角度θ78に相当)は、それぞれ、135°に設定した。さらに、各々のアンテナセットの各誘電体基板は、Z軸方向に対して10°の傾きをなし、仰角α及び仰角βが10°になるように設置した。なお、上記の固定した送信アンテナは、仰角αが10°の延長線上に来るように配置した。
【0057】
方位角θrを0°~360°まで5°毎変化させる場合において、28GHzで測定された垂直偏波と水平偏波それぞれにおけるアンテナ利得を、図7~9にプロットした。即ち、図7~9は方位角θrを0°~360°の範囲におけるアンテナ利得を示すが、各々の方位角θrにおけるアンテナ利得は、いずれも仰角αが10°におけるアンテナ利得であって、それらを平面的に示した図である。
【0058】
以上、車両用アンテナシステムを実施形態により説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0059】
例えば、図1,2に示す車両100の種類は、2ドアタイプであるが、本発明は、セダン、ハッチバック、バン、バス、トラックなどの他の車種にも適用可能である。
【0060】
また、例えば、4つのアンテナセットは、車両の前後両側のそれぞれにある誘電体又はその近傍に設けられるものでもよい。より具体的には、4つのアンテナセットのうち、1つ又は複数のアンテナセットは、車両の前側のフロントガラス110の近傍に設けられ、残りの1つ又は複数のアンテナセットは、車両の後側のリアガラス130の近傍に設けられてもよい。
【0061】
例えば、車両の前側のフロントガラス110の近傍に設けられる2つのアンテナセットのうち、一方は、フロントガラス110の左上部の車室内側の近傍に設置され、他方は、フロントガラス110の右上部の車室内側の近傍に設置されてもよい。そして、車両の後側のリアガラス130の近傍に設けられる2つのアンテナセットのうち、一方は、リアガラス130の右上部の車室内側の近傍に設置され、他方は、リアガラス130の左上部の車室内側の近傍に設置されてもよい。
【0062】
あるいは、例えば、1つのアンテナセットが、フロントガラス110の中央上部の車室内側の近傍に設置され、残りの3つのアンテナセットが、それぞれ、リアガラス130の右上部、中央上部、左上部の車室内側の近傍に設置されてもよい。
【0063】
また、例えば、4つのアンテナセットは、車両の左右両側のそれぞれにある誘電体又はその近傍に設けられるものでもよい。より具体的には、4つのアンテナセットのうち、1つ又は複数のアンテナセットは、車両の右側の窓ガラスの近傍に設けられ、残りの1つ又は複数のアンテナセットは、車両の左側の窓ガラスの近傍に設けられてもよい。
【0064】
例えばバスなどの前後方向に比較的長い車両において、2つのアンテナセットが、右前部と右後部のそれぞれに設けられ、残りの2つのアンテナセットが、左前部と左後部のそれぞれに設けられてもよい。
【0065】
また、例えば、2つのアンテナセットが、それぞれ、フロントガラス110の左上部と右上部の車室内側の近傍に設置され、残りの2つのアンテナセットが、それぞれ、右側の固定窓ガラス120と左側の固定窓ガラス140に車室内側の近傍に設置されてもよい。
【0066】
なお、車両の右側にある誘電体は、右側の固定窓ガラス120に限られず、右ドアに設けられる右ドアガラス150や右ドアガラス150よりも前方にある右側の固定窓ガラスなど、車両の右側にある窓ガラスでもよい。同様に、車両の左側にある誘電体は、左側の固定窓ガラス140に限られず、左ドアに設けられる左ドアガラス160や左ドアガラス160よりも前方にある左側の固定窓ガラスなど、車両の左側にある窓ガラスでもよい。
【0067】
また、アンテナセットの個数は、4つに限られず、5つ以上でもよい。また、一つのアンテナセットが有するアンテナの個数は、2つに限られず、3つ以上でもよい。
【0068】
また、アンテナセットは、窓ガラス等の誘電体の近傍に設けられる場合に限られず、誘電体に貼り付け又は内蔵等により直接設けられてもよい。また、誘電体は、窓ガラスに限られず、ピラーに貼り合わされたガラス、さらには樹脂等の他の誘電体でもよく、例えば、車室内のインストルメントパネルや内張りなどの樹脂部材でもよい。
【0069】
例えば、車両用のアンテナシステム101とは異なるアンテナシステムとして、図10に示すようなアンテナシステム201も挙げられる。図10は、本開示に係る別の実施形態の車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を上方視で示す図である。図10は、車両100の前後両側と左右両側のそれぞれにある窓ガラスの近傍に設けられる複数のアンテナセットが例示されている。なお、アンテナシステム201の説明において、アンテナシステム101と同じ構成については、アンテナシステム101における説明を援用する。
【0070】
車両用のアンテナシステム201は、車両用のアンテナシステム101と同様、第1のアンテナセット1~第4のアンテナセット4を有するが、各々のアンテナセットを構成する2種(即ち、水平偏波用と垂直偏波用)のアンテナの主ビームの方向が同じ方向となるように配置される。つまり、第1のアンテナセット1を構成する、第1のアンテナ11と第2のアンテナ12は、同一平面または互いに平行する平面の基板に備えられる。同様に、第2のアンテナセット2を構成する、第3のアンテナ13と第4のアンテナ14は、同一平面または互いに平行する平面の基板に備えられ、第3のアンテナセット3を構成する、第5のアンテナ15と第6のアンテナ16は、同一平面または互いに平行する平面の基板に備えられ、さらに、第4のアンテナセット4を構成する、第7のアンテナ17と第8のアンテナ18は、同一平面または互いに平行する平面の基板に備えられる。
【0071】
図10に示すアンテナシステム201の例では、車両100を上方から見たとき、車両100の前方向、右方向、後方向および左方向の、4ヶ所について各々、水平偏波の主ビームと垂直偏波の2種の主ビームが同じ方向となる。このようなアンテナシステム201は、垂直偏波と水平偏波の両偏波を良好に送受するシステムには適している。なお、アンテナシステム201は、各々のアンテナセットの配置にもよるが、指向性を広角化させるために、各々の主ビームを中心とする半値角は、60°以上120°以下が好ましい。主ビームを中心とする半値角は、それを広げると受信感度が低下する傾向があるので、所定の仕様に合わせて設定するとよい。
【0072】
また、車両用のアンテナシステム201とは異なるアンテナシステムとして、図11に示すようなアンテナシステム301も挙げられる。図11は、本開示に係る別の実施形態の車両用アンテナシステムを搭載する車両の一例を上方視で示す図である。図11は、車両100の前方に対して方位角が±45°の角度をなす側と、車両100の後方に対して方位角が±45°の角度をなす側のそれぞれにある窓ガラスの近傍に設けられる複数のアンテナセットを例示した。なお、アンテナシステム301の説明において、アンテナシステム201と同じ構成については、アンテナシステム201における説明を援用する。
【0073】
車両用のアンテナシステム301も、車両用アンテナシステム201と同様、第1のアンテナセット1~第4のアンテナセット4を有し、各々のアンテナセットを構成する2種(即ち、水平偏波用と垂直偏波用)のアンテナの主ビームの方向が同じ方向となるように配置される。この場合も、各々のアンテナセットの配置にもよるが、指向性を広角化させるために、各々の主ビームを中心とする半値角は、60°以上120°以下が好ましい。
【0074】
例えば、第1のアンテナセット1は、車両100の前方に対して方位角+45°方向にある誘電体又はその近傍に設けられる。図11では、第1のアンテナセット1は、フロントガラス110の右側に設けられているが、右ドアガラス150の前部又はその近傍、もしくは右ドアガラス150よりも前方にある右側の固定窓ガラス又はその近傍に設けられてもよい。
【0075】
例えば、第2のアンテナセット2は、車両100の後方に対して方位角+45°方向にある誘電体又はその近傍に設けられる。図11では、第2のアンテナセット2は、リアガラス130の右側に設けられているが、右ドアガラス150の後部又はその近傍、もしくは右ドアガラス150よりも後方にある右側の固定窓ガラス120又はその近傍に設けられてもよい。
【0076】
例えば、第3のアンテナセット3は、車両100の後方に対して方位角-45°方向にある誘電体又はその近傍に設けられる。図11では、第3のアンテナセット3は、リアガラス130の左側に設けられているが、左ドアガラス160の後部又はその近傍、もしくは左ドアガラス160よりも後方にある左側の固定窓ガラス140又はその近傍に設けられてもよい。
【0077】
例えば、第4のアンテナセット4は、車両100の前方に対して方位角-45°方向にある誘電体又はその近傍に設けられる。図11では、第4のアンテナセット4は、フロントガラス110の左側に設けられているが、左ドアガラス160の前部又はその近傍、もしくは左ドアガラス160よりも前方にある左側の固定窓ガラス又はその近傍に設けられてもよい。
【0078】
なお、車両用のアンテナシステム201、301のように、各々のアンテナセットが、水平偏波用アンテナの主ビームの方向と垂直偏波用アンテナの主ビームの方向が同一である場合、車両の形状や所望の受信感度に応じて、4個よりも個数を増やして配置してもよい。
【0079】
本国際出願は、2018年10月31日に出願した日本国特許出願第2018-206013号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018-206013号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0080】
1 第1のアンテナセット
2 第2のアンテナセット
3 第3のアンテナセット
4 第4のアンテナセット
11 第1のアンテナ
12 第2のアンテナ
13 第3のアンテナ
14 第4のアンテナ
15 第5のアンテナ
16 第6のアンテナ
17 第7のアンテナ
18 第8のアンテナ
21,22 回転軸
30 水平偏波アンテナ
31,32 アンテナ導体
33 ストリップ導体
34 同軸ケーブル
35 法線方向
36 誘電体基板
40 垂直偏波アンテナ
41,42 アンテナ導体
43 ストリップ導体
44 同軸ケーブル
45 法線方向
46 誘電体基板
51 第1の基板
52 第2の基板
53 第3の基板
54 第4の基板
55 第5の基板
56 第6の基板
57 第7の基板
58 第8の基板
90 水平面
100 車両
101,201,301 車両用アンテナシステム
110 フロントガラス
120 右側の固定窓ガラス
130 リアガラス
140 左側の固定窓ガラス
150 右ドアガラス
160 左ドアガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11