IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許7309142光導波路デバイス、光モジュール、レーザ装置、及び光導波路デバイスの作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】光導波路デバイス、光モジュール、レーザ装置、及び光導波路デバイスの作製方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20230710BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20230710BHJP
   G02B 6/30 20060101ALI20230710BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20230710BHJP
   G02F 1/361 20060101ALI20230710BHJP
   H01S 3/113 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
G02B6/12 371
G02B6/13
G02B6/30
G02B6/42
G02F1/361
H01S3/113
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019023396
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020134552
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石榑 崇明
(72)【発明者】
【氏名】望月 康平
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 遥彦
(72)【発明者】
【氏名】セット ジイヨン
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/035823(WO,A1)
【文献】特開2003-057487(JP,A)
【文献】特開2007-094065(JP,A)
【文献】特開2018-097012(JP,A)
【文献】特開2016-027121(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0023643(US,A1)
【文献】吉田翔,受動モード同期デバイスへ向けたカーボンナノチューブドープポリマー光導波路,信学技報,OPE2015-220,日本,一般社団法人電気情報通信学会,2016年,第7頁-第11頁
【文献】UCHIDA, Sho et al.,Carbon Nanotube-doped Polymer Optical Fiber: Fabrication and Application to Passively Mode-Locked Laser,21st Annual Meeting of the IEEE Lasers and Electro-Optics Society, LEOS,IEEE,2008年,WDD4,pp. 665 - 666
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098 - 3/102
H01S 3/105 - 3/131
H01S 3/136 - 3/213
H01S 3/23 - 4/00
C08F 2/00 - 2/60
IEEE Xplore
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のナノカーボン材料と、前記ナノカーボン材料の分散安定剤とを含む第1のモノマーの重合体であるクラッド層と、
前記第1のモノマーと異なる第2のモノマーの重合体である導波路コアと、
を有し、
前記クラッド層は面内方向に広がる所定の厚さの層であり、前記導波路コアは前記クラッド層の内部に延びる断面が円形の円形コアであり、
前記第1のモノマーの重合体の質量に対する前記ナノカーボン材料の濃度は10ppm~100ppm、前記分散安定剤の割合は0.5wt.%~5.0wt.%である
光導波路デバイス。
【請求項2】
第1のモノマーの重合体で形成されているクラッド層と、
所定量のナノカーボン材料と前記ナノカーボン材料の分散安定剤とを含む第2のモノマーの重合体で形成されている導波路コアと、
を有し、
前記クラッド層は面内方向に広がる所定の厚さの層であり、前記導波路コアは前記クラッド層の内部に延びる断面が円形のシングルモードの円形コアであり、
前記第2のモノマーの重合体の質量に対する前記ナノカーボン材料の濃度は0.9ppm~4.5ppmである
光導波路デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光導波路デバイスと、
前記光導波路デバイスの一端側で前記導波路コアと光学的に接続される第1の光ファイバを保持する第1保持基板と、
前記光導波路デバイスの他端側で前記導波路コアと光学的に接続される第2の光ファイバを保持する第2保持基板と、
を有し、前記導波路コアと、前記第1の光ファイバ及び前記第2の光ファイバは接着固定されている光モジュール。
【請求項4】
前記第1保持基板と前記第2保持基板の少なくとも一方は前記第1の光ファイバまたは前記第2の光ファイバを保持するV溝を有することを特徴とする請求項3に記載の光モジュール。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光導波路デバイスと、
励起光を出力する励起光源と、
前記励起光を前記光導波路デバイスに入力する光ファイバと、
前記光導波路デバイスを透過した光の少なくとも一部を外部に取り出す光カプラと、
を有するレーザ装置。
【請求項6】
第1のモノマーに、所定量のナノカーボン材料と、前記ナノカーボン材料の分散安定剤とを添加してナノカーボン添加クラッドモノマーを生成し、
前記ナノカーボン添加クラッドモノマーで面内方向に広がる所定の厚さのクラッド層を形成し、
前記クラッド層にニードルを挿入し、前記第1のモノマーと異なるコアモノマーを前記ニードルの先端から吐出しながら前記ニードルを走査して円形コアの導波路コアを形成し、
前記第1のモノマーの質量に対する前記ナノカーボン材料の濃度を10ppm~100ppm、前記分散安定剤の割合を0.5wt.%~5.0wt.%とする
ナノカーボン添加光導波路デバイスの作製方法。
【請求項7】
所定量のナノカーボン材料と前記ナノカーボン材料の分散安定剤とを含むナノカーボン添加コアモノマーを生成し、
前記ナノカーボン添加コアモノマーと異なるクラッドモノマーで面内方向に広がる所定の厚さのクラッド層を形成し、
前記クラッド層にニードルを挿入し、前記ナノカーボン添加コアモノマーを前記ニードルの先端から吐出しながら前記ニードルを走査してシングルモードの円形コアの導波路コアを形成し、
前記ナノカーボン添加コアモノマーの質量に対する前記ナノカーボン材料の濃度を0.9ppm~4.5ppmとする
ナノカーボン添加光導波路デバイスの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン材料が添加された光導波路デバイス、光モジュール、レーザ装置、及び光導波路デバイスの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モード同期超短パルスレーザは、物質内部の超高速現象の観察、スーパーコンティニウム光の発生など、幅広い分野に適用されている。超短パルスレーザは、次世代の超高速光通信への応用も期待されている。特に昨今、情報通信量の急激な増大にともなって、電気処理回路での消費電力が増大し続けているうえ、光通信では光と電気の間の変換が必要不可欠となるため、光ネットワークでの波長変換、光クロックの生成等に用いられるレーザにも、低消費電力化が求められている。
【0003】
変調器を用いた能動モード同期デバイスは、外部電源を必要としコストが高いので、非線形光学効果を利用した受動モード同期が主流になっている。近年では、非線形性に優れるカーボンナノチューブ(CNT:carbon nanotube)が、受動モード同期フェムト秒レーザにおける可飽和吸収体として期待されている。
【0004】
フォトニクスデバイスへのCNTの応用として、Dシェイプ光ファイバの研磨面に、スプレー法でCNT薄膜を形成する技術が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。また、石英シングルモードファイバに張力をかけて延伸し、くびれたウエスト部またはテーパ部にカーボンナノチューブを含むポリマーをコーティングする方法が提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。さらに、超音波攪拌によりクラッドモノマー中にCNTを分散させたクラッド層にニードルを突き刺して、コアモノマーを吐出しながらニードルを走査して導波路パターンを形成する手法も提案されている(たとえば、非特許文献3参照)。この方法はニードル走査法、またはモスキート法と呼ばれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「カーボンナノチューブを用いた超短パルスファイバレーザー」,レーザ研究,2010年11月,pp.882-888
【文献】「カーボンナノチューブポリマーコンポジットを用いた非線形光学デバイス」、信学技報,OME2011-6 OPE2011-135(2011-11)
【文献】「受動モード同期デバイスへ向けたカーボンナノチューブドープポリマー光導波路」、信学技報,OCS2015-101, OFT2015-60, OPE2015-220(2016-02)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Dシェイプ光ファイバへのCNT塗布は、機械的強度が不十分である。石英ファイバの延伸部分にCNTコートする方法は、延伸部の径、長さ、CNT膜厚等を正確に制御することが難しく、再現性が低い。CNTを分散させたクラッドモノマーにニードルでコア材料を注入して導波路を形成する方法は、機械的強度に優れている。しかし、本願の発明者らは、コアの分散状態によっては再現性が低下することを見出した。
【0007】
図1に示すように、クラッドモノマー中にCNT凝集体が存在すると、コアが蛇行し、チャネルによっては出力が低下する。コアの形成は、ニードル走査のプログラムで制御されるが、ニードル周りの圧力、粘度等の影響を受ける。特に、ニードルの軌跡上にCNT凝集体が存在する場合、図1のように、CNT凝集体を避けるようにニードルが走査されるため、コアが蛇行する。蛇行したチャネルでは過剰損失が生じ、モード同期しにくくなる。
【0008】
本発明は、再現性良くモード同期して安定かつ高効率にパルス光を発生させる技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を実現するため、光導波路デバイスの材料となるモノマーへのナノカーボン材料の分散を改善する。
【0010】
本発明の第1の態様では、光導波路デバイスは、
所定量のナノカーボン材料と、前記ナノカーボン材料の分散安定剤とを含む第1のモノマーで形成されるクラッド層と、
前記第1のモノマーと異なる第2のモノマーで形成される導波路コアと、
を有する。
【0011】
第2の態様では、光導波路デバイスは、
第1のモノマーで形成されるクラッド層と、
所定量のナノカーボン材料と前記ナノカーボン材料の分散安定剤とを含む第2のモノマーで形成される導波路コアと、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
上記の構成を用いることで、再現性良くモード同期して安定かつ高効率にパルス光を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】CNT凝集によるコアの蛇行を示す図である。
図2】第1実施形態の光導波路デバイスの導波路状態を従来構成と比較して示す図である。
図3】第1実施形態のナノカーボン添加導波路を従来構成と比較して示す図である。
図4】第1実施形態のナノカーボン添加導波路を従来構成と比較して示す図である。
図5図4のナノカーボン添加導波路の挿入損失を比較する図である。
図6】クラッドへのナノカーボン材料と分散安定剤の添加量を変えて作製した導波路の断面図である。
図7A】第1実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。
図7B】第1実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。
図7C】第1実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。
図7D】第1実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。
図7E】第1実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。
図8】第1実施形態の光導波路デバイスを用いたレーザ装置の模式図である。
図9図8のレーザ装置で用いられる光導波路デバイスのチャネル断面図である。
図10】第1実施形態のレーザ装置の出力波形である。
図11】第1実施形態のレーザ装置の出力スペクトルである。
図12】第2実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。
図13】CNT添加コアのデバイスとCNT添加クラッドのデバイスの相互作用の相違を説明する図である。
図14】第2実施形態の光導波路デバイスを用いたレーザ装置の模式図である。
図15】第2実施形態の光導波路デバイスのチャネル状態を示す光学顕微画像である。
図16】第2実施形態のレーザ装置の出力波形である。
図17】第3実施形態のレーザ装置の出力スペクトルである。
図18A】入力光強度を変えたときの損失スペクトルである。
図18B】入力光強度を変えたときの損失スペクトルである。
図18C】入力光強度を変えたときの損失スペクトルである。
図19】CNT濃度とパルス幅の関係を示す図である。
図20】非線形光学効果によるパルス圧縮を説明する図である。
図21】レーザ装置のピークパワー特性を示す図である。
図22】CNT濃度の閾値電流の関係を示す図である。
図23】励起光と出力の関係を説明する図である。
図24】励起光と出力の関係を説明する図である。
図25】光導波路デバイスと光ファイバのモジュール化を示す図である。
図26図25のモジュールを用いたレーザ装置の模式図である。
図27図26のレーザ装置の出力波形である。
図28図26のレーザ装置の出力スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態では、ポリマー光導波路を形成する際に、コア材料とクラッド材料の少なくとも一方に、CNT、グラフェン等のナノカーボン材料とともに、適量の分散安定剤を加える。これにより均一な分散を実現して、再現性良く、安定かつ高効率のパルス光の発生を可能にする。
【0015】
光導波路デバイスを構成するクラッドモノマーにナノカーボン材料とともに分散安定剤を加えることで、クラッドでのナノカーボンの凝集を抑制し、導波路コアを安定して形成することができる。コアモノマーにナノカーボン材料と分散安定剤を加えることで、凝集抑制効果に加えて、所望のパルス設計を行うことができる。「光導波路デバイス」とは光導波路が形成されている光学部品であるが、本発明では光導波路デバイスを可飽和吸収体または非線形光学部品として有効に用いることができる。以下で、具体的な実施形態を説明する。
【0016】
<第1実施形態>
第1実施形態では、クラッドモノマーにナノカーボン材料と分散安定剤を添加する。ナノカーボン材料の分散安定剤としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ベンジルベンゾエード(BEN)等を用いることができる。
【0017】
図2は、第1実施形態の光導波路デバイスの導波路状態を従来構成と比較して示す光学顕微画像である。図2(A)は、クラッドモノマーにナノカーボン材料であるCNTのみを添加した導波路、図2(B)はクラッドモノマーにCNTとともに、分散安定剤であるDMFを添加した導波路である。
【0018】
図2(A)では、クラッドモノマーとして、日産化学(株)製の有機・無機ハイブリッド樹脂NP-210(屈折率1.559)を用い、クラッドモノマーの質量に対して50ppmのCNTを添加している。図2(B)では、図2(A)と同量のCNTを添加し、かつ、2.0wt.%のDMFを添加している。
【0019】
図2(A)、図2(B)ともに、コアのモノマー材料は、日産化学(株)製の有機・無機ハイブリッド樹脂NP-005(屈折率1.576)である。コアは、公知のニードル走査法またはモスキート法により、コア径が10μm程度になるように設計された走査速度と吐出圧力で形成されている。
【0020】
図2(A)のDMFを添加していない導波路では、上面図で50μm程度のCNT凝集体が点在しているのに対し、図2(B)のDMFを添加した導波路では、凝集体の存在が抑制され、凝集体のサイズも10μm以下に低減されている。
【0021】
断面図をみると、図2(A)のDMFを添加していない導波路ではコアがぼやけて見える。これはCNT凝集体での光の散乱やコアの蛇行により、コアから出射する光強度が下がってコントラストが減少したためと考えられる。一方、図2(B)でDMFを添加した導波路では、直径10μm程度の円形コアが維持されている。DMFを添加したことによるコア形状への影響はみられず、CNT凝集体の抑制効果が得られている。
【0022】
図3は、添加するCNTの濃度とDMFの分量を変えて作製されたクラッド層の光学顕微画像である。図2と同じクラッドモノマーを用い、この例ではクラッドモノマーの質量に対して40ppmのCNTを添加している。図3(B)では、図3(A)と同量のCNTを添加し、かつ、3.2wt.%のDMFを添加している。
【0023】
図3(A)では、大きさが50μmを超えるCNT凝集体が点在するのに対し、図3(B)では、CNT凝集体の形成自体が抑制され、局所的に凝集が発生しても、10μm以下のサイズに低減されている。
【0024】
図4は、添加するCNTの濃度とDMFの分量を変えて作製されたさらに別の光導波路の光学顕微画像である。図4(A)では、図2及び図3と同じクラッドモノマーを用い、クラッドモノマーの質量に対して25ppmのCNTを添加し、0.7wt.%のDMFを添加している。図4(B)では、DMFの添加なしに、25ppmのCNTを添加している。
【0025】
図4(A)では、10μmの径を有するコアの断面が明確に観察されるのに対し、図4(B)では、コントラストが低下してコアがぼやけて見える。
【0026】
図5は、図4で作製した2つの光導波路の挿入損失を比較する図である。横軸は露光待機時間(秒)、縦軸は挿入損失(dB)である。露光待機時間が長いものほど、ニードル走査による導波路コアの形成の順序が早く、露光待機時間が短いほどコアの形成順序が後である。横軸に沿った各データ点を、隣接するチャネル番号に読み替えてもよい。
【0027】
図4で作製した8チャネルの光導波路コアの一端側から、シングルモードファイバでレーザ光を入射し、コアの他端からの出力光をパワーメータで測定する。各チャネルの導波路長は1.5cmである。
【0028】
DMF添加ありの光導波路では、露光待機時間が経過しても挿入損失はそれほど大きくならず、隣接するチャネル間での損失ばらつきが小さい。これに対し、DMF添加なしの光導波路では、露光待機時間の経過とともに挿入損失が増大するだけではなく、隣接チャネル間での損失ばらつきが大きい。
【0029】
これは、CNT凝集体の影響で、チャネルによってコアの蛇行状態や、光吸収および光散乱の程度が異なるためと考えられる。0.7wt.%のDMFを添加することで、CNTの凝集が効果的に抑制されていることがわかる。
【0030】
図6は、添加するCNTの濃度とDMFの分量を変えて作製されたさらに別の光導波路の光学顕微画像である。図2図4と同じクラッドモノマーを用い、クラッドモノマーの質量に対して10ppmのCNTを添加し、0.7wt.%のDMFを添加している。ニードルの走査条件は、図4と同じである。
【0031】
CNTの添加量を10ppmにしたときも、各チャネルでコア径が10μm程度に維持されている。導波路長1.8cmでこれら3つのチャネルの挿入損失を測定したところ、それぞれ5.44dB、5.94dB、6.66dBであり、導波路長が若干長くなっても、図4と同等の効果が得られている。なお、これらのチャネルを導波路長が1.2cmになるまでカットして挿入損失を測定すると、5dB以下になる。
【0032】
図2図6から、クラッドモノマーに適量のCNTと分散安定剤を添加することでCNTの凝集が抑制され、コアの配置形状が良好に維持されて光学損失が抑制されることがわかる。
【0033】
添加されるナノカーボン材料の量は、たとえば、クラッドモノマーの質量に対して10ppm~100ppmである。ナノカーボン材料の量が多すぎると、分散安定剤を添加してもナノカーボン材料が半固体化して、分散されにくくなる。カーボンナノ材料の量が少なすぎると、所望の可飽和吸収特性または非線形性が得られない。十分な可飽和吸収特性または非線形性が得られ、かつモノマー中に分散され得る量として、クラッドモノマーへの10ppm~100ppmのナノカーボン材料の添加が望ましい。
【0034】
添加される分散安定剤の量は、たとえば、0.5wt.%~5.0wt.%である。分散安定剤はクラッドモノマーにとって不純物であり、添加量が多すぎると過剰損失になり得るので、ナノカーボン材料を分散させるのに必要最低限の量であることが望ましい。また、分散安定剤の添加量が多すぎるとクラッドの粘度が低下し、コアとクラッドの親和性に影響する。分散安定剤の量が少なすぎると、CNTを十分に分散させることができず、凝集抑制効果を期待できない。CNTの凝集を抑制し、かつ過剰損失やコアへの影響を与えない範囲として、0.5wt.%~5.0wt.%の分散安定剤を添加するのが望ましい。
【0035】
ナノカーボン材料と分散安定剤が添加されたクラッド材料で形成される光導波路デバイスは、可飽和吸収体、またはモード同期デバイスとして用いることができる。
【0036】
図7A図7Eは、第1実施形態の光導波路デバイスの作製工程図である。まず、図7Aで、ナノカーボン添加クラッドモノマー20を準備して、クラッド層を形成する。ナノカーボン添加クラッドモノマー20は、所定の屈折率を有するモノマーにナノカーボン材料と分散安定剤を添加した混合物を、2~3時間、超音波攪拌して生成される。
【0037】
生成されたナノカーボン添加クラッドモノマー20を、基板101上に形成された枠102内に流し込み、必要に応じてガラスプレート等を用いて表面を平坦化する。枠102は、たとえば厚さ500μmのシリコーンシートで形成され、1cm×10cmの領域を形成する。枠102内に流し込まれたクラッドモノマーを平坦な場所で約1時間、静置する。
【0038】
図7Bで、シリンジ41にコアモノマー30を充填し、枠102内のクラッド層21にニードル42を挿入する。コアモノマー30は、硬化後の屈折率がクラッド層21よりも高いモノマーで形成される。第1実施形態では、コアモノマー30にナノカーボン材料は添加されていない。
【0039】
図7Cで、ニードル42の先端からコアモノマー30を吐出しながらニードル42を水平方向に走査して導波路コア31を形成する。導波路コア31はチャネル数に応じて複数本形成されてもよい。導波路コア31の径は、ニードル42の内径、走査速度、吐出圧力等によって制御することができる。
【0040】
図7Dで、紫外線露光を行って、コアモノマーとクラッドモノマーを重合硬化させる。
【0041】
図7Eで、基板101上の枠102を取り除き、ブレード等でポリマー導波路を基板101から剥離する。150°の空気浴内で20分間ポストベイクを行い、応力を均一にしつつ完全に硬化させる。これによりナノカーボン添加クラッド25に導波路コア31が形成された光導波路デバイス10が得られる。必要に応じて、光軸方向でクラッドの両端を切り落として、導波路コア31の端面を露出させてもよい。
【0042】
光導波路デバイス10では、ナノカーボン添加クラッド25における凝集が抑制されており、コアの配置形状が良好に維持されている。コア蛇行による過剰損失が抑制され、高い再現性でモード同期することができる。
【0043】
図8は、第1実施形態の光導波路デバイス10を適用したレーザ装置1Aの模式図である。レーザ装置1Aは、リング共振器型受動モード同期ファイバレーザである。受動モード同期デバイスまたは可飽和吸収体として、光導波路デバイス10を用いている。
【0044】
励起光源2として、たとえば980nm帯のレーザ光源を用い、石英系のエルビウムドープ光ファイバ(EDF)7を利得媒質として用いる。光導波路デバイス10は、シングルモードファイバ6とともにリング共振器内に直接挿入される。共振器長は、たとえば20mである。共振器内の偏波を調整して直線偏向を維持するために偏波コントローラ5が挿入されている。
【0045】
励起光源2から出力された光は、カプラ3を通ってEDF7で増幅され、光アイソレータ8b及び8bによってリング内を一方向に周回する。10/90カプラ4を用いて90%の光を共振器内にフィードバックし、残りの10%を、光アイソレータ8cを介して出力として取り出す。
【0046】
共振器内で、増幅された高強度の励起光は、光導波路デバイス10を透過し、強度の低い光成分は吸収される。実施形態の光導波路デバイス10は、後述するように、緩和時間(飽和回復時間)が高速であり、広い出力スペクトルレンジを有する。
【0047】
図9は、レーザ装置1Aで用いた光導波路デバイス10のチャネル断面図である。クラッドモノマーは日産化学(株)製のNP-211、CNTの濃度は25ppm、DMFの添加割合は1.5wt.%である。導波路長は1.4cmである。いずれも10μm径の円形断面を有している。
【0048】
図10は、図9の2つのチャネルの出力波形を示す図である。いずれのチャネルでも、繰り返し周波数が10MHz(周期100ナノ秒)のシングルパルスが観測される。パルスの時間幅を見積もるために、オートコリレータで自己相関関数を計算すると、チャネル#1のパルス幅は1.47ps、チャネル#2のパルス幅は1.34psである。
【0049】
光導波路デバイス10を用いることで、複数のチャネル間でモード同期が得られ、狭パルス幅のパルス発振が得られる。
【0050】
図11は、レーザ装置1Aの出力スペクトルである。いずれのチャネルでも広い出力スペクトルが得られている。チャネル#1のFWHM(Fill Width Half Maximum:半値全幅)は2.0nm、チャネル#2のFWHMは1.9nmである。このような広い波長スペクトルは、モード同期時に特有のスペクトルである。
【0051】
以上から、第1実施形態の光導波路デバイス10は、受動モード同期デバイスとして機能し、狭パルス幅のレーザ装置1Aを実現できる。
【0052】
<第2実施形態>
第1実施形態の光導波路デバイス10は、クラッド中のナノカーボン材料の凝集を抑制し、良好なパルス発振を促進することができる。しかしニードルの走査軌跡によっては、軌跡上に存在する比較的小さな凝集の影響を受ける場合もあり得る。
【0053】
第2実施形態では、パルス発振の再現性をさらに高めるために、コア材料にナノカーボン材料を添加する。第1実施形態と同様に、ナノカーボン材料の凝集を抑制するため、適量の分散安定剤を添加する。
【0054】
図12は第2実施形態の光導波路デバイス60の作製工程図である。図12(A)において、基板101上に形成された枠102内にクラッドモノマーを流し込んで、クラッド層61を形成する。この例では、クラッドモノマーにナノカーボン材料は添加されていない。クラッドモノマーとしては硬化後の屈折率がコアの屈折率よりも低い適切なモノマーを用いることができ、たとえば、日産化学(株)社製のNP-211を用いることができる。
【0055】
一方で、コアモノマーに所定量のナノカーボン材料と分散安定剤を添加して、ナノカーボン添加コアモノマー50を生成する。生成されたナノカーボン添加コアモノマー50をシリンジ41に充填し、枠102内のクラッド層61にニードル42を挿入する。ニードル42の先端からナノカーボン添加コアモノマー50を吐出しながらニードル42を水平方向に走査して、ナノカーボン添加導波路コア51を形成する。ナノカーボン添加導波路コア51はチャネル数に応じて複数本形成されてもよい。ナノカーボン添加導波路コア51の径は、ニードル42の内径、走査速度、吐出圧力等によって制御することができる。
【0056】
図12(B)で、紫外線露光を行って、コアモノマーとクラッドモノマーを重合硬化させた後、基板101上の枠102を取り除いて、ポリマー導波路を基板101から剥離する。150°の空気浴内で20分間ポストベイクを行い、応力を均一にしつつ完全に硬化させる。これによりクラッド65にナノカーボン添加導波路コア51が形成された光導波路デバイス60が得られる。必要に応じて、光軸方向でクラッドの両端を切り落として、端面にナノカーボン添加導波路コア51を露出させてもよい。
【0057】
光導波路デバイス60は、ナノカーボン添加導波路コア51を有することで、高い再現性でモード同期することができる。コアにナノカーボン材料を添加することで、クラッドへのナノカーボン材料の添加よりも紫外線露光が容易になる。コア径は微細なのでナノカーボン材料を添加しても紫外線吸収の影響が少なく、露光強度や露光時間を増大させる必要がない。また、ナノカーボン材料の添加濃度の幅を変えやすく設計の自由度が高い。
【0058】
図13は、第2実施形態のナノカーボン添加コアの光導波路デバイスと、第1実施形態のナノカーボン添加クラッドの光導波路デバイスの相互作用の相違を説明する図である。図13(A)において、ナノカーボン材料、たとえばCNTが添加されたコアでは、伝搬光とCNTが直接相互作用する。CNTが可飽和吸収体として働き、コアを伝搬する高強度の光のみを透過させ、低強度の光を吸収する。これにより、パルス発振が促進される。
【0059】
図13(B)のナノカーボン材料、たとえばCNTが添加クラッドでは、クラッド中に分散されたCNTのうち、特にコア周辺に存在するCNTと、コアからのエバネッセント光が相互作用する。コア周りで可飽和吸収が起きて、パルス発振が促進されるが、図13(A)の方がより直接的な相互作用であり、パルス発振効果が改善される。
【0060】
図14は、第2実施形態の光導波路デバイス60を用いたレーザ装置1Bの模式図である。挿入されるモード同期デバイスがナノカーボン添加コアを有する光導波路デバイス60に替わっただけで、その他の構成と動作は、第1実施形態のレーザ装置1Aと同じである。同じ構成要素には同じ符号が付けられており、重複する説明を省略する。
【0061】
図15は、第2実施形態の光導波路デバイス60のチャネル状態を示す光学顕微画像である。ここでは、コアモノマーの質量に対して1.9ppmのCNTを添加し、4wt.%のDMFを添加している。クラッドに添加物が含まれず、隣接するチャネル間(Ch.#1とCh.#2)でコア形状及びサイズが揃っている。
【0062】
図16は、図15の光導波路デバイスを用いたレーザ装置1Bの出力波形である。チャネル1とチャネル2の双方でモード同期によるパルス波が観察され、複数のチャネルで再現性よくモード同期が得られる。
【0063】
図17は、レーザ装置1Bの出力スペクトルである。チャネル1とチャネル2の双方で波長スペクトルが広がり、FWHMが数nmになっている。これはモード同期時に特有の波長スペクトルである。
【0064】
図18A図18Cは、光導波路デバイス60への入力光の強度を変えて測定した損失スペクトルと入力光スペクトルを示す。図18Aの入力光強度は12.6dBm、図18Bの入力光強度は13.0dBm、図18Cの入力光強度は13.4dBmである。
【0065】
入力光の強度が強いほど損失が小さくなり、可飽和吸収が効率的に起きていることがわかる。図18Cでは、特に損失が小さくなる領域の幅が広くなって可能和吸収が強く働いている。
【0066】
図19は、CNT濃度とパルス幅の関係を示す図である。CNT濃度を、0.95ppm、1.9ppm、3.2ppm、4.3ppmと変えて、複数の導波路長でパルス幅(ps)を測定する。
【0067】
CNT濃度が0.9ppm~4.5ppmの範囲で、狭パルス幅が達成され、特にCNT濃度が2±0.2ppmのときに狭いパルス発振が実現する。
【0068】
パルス幅はコア長の影響も受ける。コア中のCNTと光の相互作用を得るために、コア長はある程度の長さが必要であるが、長すぎると伝搬損失が蓄積するので、2.5cm~7cmが望ましい。
【0069】
可飽和吸収に関与するパラメータとしてCNT濃度とコア長がある。CNT濃度の方がより直接的にパルス幅に影響するが、コア長を調整することによってもパルス幅を最適化することができる。
【0070】
図20は、非線形光学効果によるパルス圧縮を説明する図である。図20(B)に示すように、2次以上の高次の光パルスでは、基本パルス間の非線形干渉により、パルス圧縮とピーク増大が生じる。光ファイバによる分散(またはパルス広がり)と非線形光学効果によるパルス圧縮がバランスすると、図20(A)に示すように、安定な孤立波が波形を保ったままファイバ中を伝搬する。このような高ピークパワーかつ超短パルスのレーザ光は、高速光通信ネットワークでの光増幅や光クロック生成だけではなく、超微細加工にも適している。
【0071】
図21は、レーザ装置1Bのピークパワー特性を示す図である。図21(A)はパルス幅とピークパワーの関係を示し、図21(B)は励起電流とピークパワーの関係を示す。
【0072】
図21(A)では、CNT添加量と導波路長によって決まるパルス幅と、ピークパワーとの関係には、明確な傾向はみられない。図21(B)からは、励起電流が大きいほどピークパワーが大きくなることがわかる。そうすると、図19で説明したように、CNT濃度と導波路長を最適化して狭パルス幅を実現し、一方で励起電流を制御することで所望の出力パワーが得られるように、レーザ光を設計することができる。
【0073】
図22は、CNT濃度とモード同期に必要な閾値電流(励起光源2への注入電流)の関係を示す図である。光導波路デバイス60のコアに添加するCNT濃度を、0.95ppm、1.9ppm、3.2ppm、4.3ppmと変えて、レーザ装置1Bの閾値電流を測定する。すべてのサンプルでクラッド材料はNP-211、コア材料はNP-005、導波路長は4cmである。
【0074】
いずれのサンプルでも100mA未満の低電流でモード同期してパルス発振することができ、レーザ装置1Bの消費電力を低減することができる。特に、CNT濃度が0.95ppmと1.9ppmのサンプルでは、75mA以下の低い閾値電流が実現されている。
【0075】
ここから、コアにナノカーボン材料と分散安定剤を添加することで、光とCNTの直接的な相互作用を生じさせて、低電力でパルス発振を促進できることがわかる。
【0076】
図23図24は、励起光と出力の関係を説明する図である。図23において、励起光源2からEDF7(図14参照)に供給される励起光の強度が閾値電流Ithよりも小さいと、レーザ発振せずに連続波が出力される。励起光の強度が強すぎると、マルチモード発振して、出力が不安定になる。また、コヒーレンスが低下する。
【0077】
発明が目的とするところは、図24に示すように、閾値電流Ithをできるだけ低くし、かつシングルパルス発振できる範囲をできるだけ広くすることである。閾値電流Ithを下げることで、レーザ装置の消費電力を全体的に低減することができる。閾値電流Ithの低減は、上述のようにCNTの濃度と導波路長を最適化することで実現される。
【0078】
閾値電流Ithを引き下げることで、シングルパルス発振モードの領域を拡張することができる。この領域が広くなると、シングルパルス発振モードを維持しつつ、励起電流を制御してピークパワーを増大できる。これにより高効率で安定したパルス発振が実現する。また、コアにナノカーボン材料が添加されているので、ナノカーボン材料と光の直接的な相互作用を生じさせることができる。また、チャネル間でモード同期の再現性が高い。
【0079】
<光導波路デバイスのモジュール化>
図25は、光導波路デバイスと光ファイバのモジュール構成を示す図である。第1実施形態の光導波路デバイス10と、第2実施形態の光導波路デバイス60の双方が、モジュール構成に適している。
【0080】
図25(A)は、光モジュール70の斜視図である。光導波路デバイス10または60(以下、「光導波路デバイス10」と略称する)の導波路コア31またはナノカーボン添加導波路コア51(以下、「導波路コア31」と略称する)の両側に、ファイバ保持基板73とファイバ保持基板74を固定して、光モジュール70を構成する。
【0081】
ファイバ保持基板73は光ファイバ75を保持し、光学接着剤71により、光導波路デバイス10の光軸方向の一方の端面に固定されている。ファイバ保持基板74は光ファイバ76を保持し、光学接着剤72により、光導波路デバイス10の光軸方向の他方の端面に固定されている。光ファイバ75、76は、レーザ装置1Aまたは1Bでリングファイバ共振器を構成するシングルモードファイバである。
【0082】
図25(B)の断面図に示すように、ファイバ保持基板73は、基板731に形成されたV溝732と、V溝732内の光ファイバ75を抑えるカバー733を有する。ファイバ保持基板74も同じ構成を有する。基板731は、加工しやすい適切な基板を用いることができ、一例としてシリコーンの基板を用いる。
【0083】
光ファイバ75の端面と導波路コア31の一方端面を、たとえばアクティブアライメントにより位置合わせし、光ファイバ76の端面と導波路コア31の他方の端面を位置合わせする。導波路コア31とのアライメントのために、光ファイバ75、76として、ベアファイバを用いてもよい。
【0084】
図25(C)は、実際に作製された光モジュール70の画像である。光ファイバ75及び76の光学接着側と反対側の端部はAPC(angled physical contact:斜めPC)研磨されてファイバフェルールまたはコネクタに保持されていてもよい。ファイバ保持基板73及び74を光学接着剤71及び72で光導波路デバイス10に固定してモジュールとすることで、取扱いと組み立てが容易になる。なお、光導波路デバイス60を用いて光モジュール70を形成してもよいことは上述したとおりである。
【0085】
図26は、図25の光モジュール70を用いたレーザ装置1Cの模式図である。レーザ装置1Cでは、光アイソレータ8aと8bの間に光モジュール70が挿入されている。光モジュール70に固定された光ファイバ75が光アイソレータ8aに接続され、光ファイバ76が光アイソレータ8bに接続されている。
【0086】
この構成では、アライメントずれによる接続損失が防止され、ナノカーボン材料添加にによる光導波路デバイス60の可飽和吸収効果を十分に働かせることができる。
【0087】
レーザ装置1Cのその他の構成は、レーザ装置1A及び1Bと同じであり、重複する説明を省略する。
【0088】
図27は、図26のレーザ装置の出力波形を示す図である。アライメントずれが抑制され、安定したパルス発振が得られている。
【0089】
図28は、図26のレーザ装置の出力スペクトルである。モード同期に特有の広い波長スペクトルが得られている。
【0090】
以上述べたように、ポリマー光導波路のクラッドまたはコアに適切な量のナノカーボン材料と分散安定剤を添加することで、再現性良くモード同期を実現し、安定して超短パルスを発生することができる。
【0091】
本発明は上記の特定の実施形態に限定されない。たとえば、ナノカーボン材料としてCNTに替えて、グラフェンを用いてもよい。グラフェンの取得は、グラファイトからグラフェンを分散させるトップダウン法を用いてもよいし、基板上にグラフェンを成長するボトムアップ法を用いてもよい。本発明では、グラフェンをクラッドまたはコアに分散させるため、トップダウン法の中でも、グラファイトをDMF、NMP、BEN等の有機溶媒に添加して超音波攪拌する溶液分散法を用いてもよい。有機溶媒中の超音波攪拌により、グラファイトの層間に働くファンデルワールス力が絶たれて、溶媒中にグラファイトとグラフェンが分散する。遠心分離によりグラファイトとグラフェンを分離して、グラフェンの分散液を取り出してもよい。
【0092】
導波路コアのコア径は10μmに限定されず、ニードルの内径、吐出圧力、走査速度を適切に制御することで、所望のサイズの導波路コアを形成することができる。シングルモードファイバとの光学接続の観点からは導波路コアの径は10μm前後であることが望ましいが、接続端に向かうほどコア径がテーパ状に拡がる形状であってもよい。なお、コア径というときは、モードフィールド径をいうものとする。
【0093】
コアとクラッドの双方にナノカーボン材料を添加してもよい。この場合、コアでのナノカーボン材料と伝搬光との直接的な相互作用と、コア近傍のクラッドでのエバネッセント光とナノカーボン材料との相互作用の双方により、モード同期によるパルス発振がさらに促進され得る。
【符号の説明】
【0094】
1A、1B、1C レーザ装置
2 励起光源
7 EDF(利得媒質)
10、60 光導波路デバイス
20 ナノカーボン添加クラッドモノマー
21 クラッド層
25 ナノカーボン添加クラッド
31 導波路コア
50 ナノカーボン添加コアモノマー
51 ナノカーボン添加導波路コア
65 クラッド
70 光モジュール
73、74 ファイバ保持基板
75、76 光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28