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特許7309329燻煙処理装置、プログラム及び食品製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】燻煙処理装置、プログラム及び食品製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/14 20060101AFI20230710BHJP
   A23G 1/06 20060101ALI20230710BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A23C19/14
A23G1/06
A21D6/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018124617
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020000155
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100140648
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋史
(72)【発明者】
【氏名】小杉 崇
(72)【発明者】
【氏名】小島 公実子
(72)【発明者】
【氏名】松永 典明
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-022944(JP,A)
【文献】登録実用新案第3102532(JP,U)
【文献】特開昭62-289143(JP,A)
【文献】特開昭52-082750(JP,A)
【文献】中国実用新案第206371939(CN,U)
【文献】特開昭62-294034(JP,A)
【文献】特開2003-079313(JP,A)
【文献】特開平10-248486(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23B、A23C、A23G、A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燻煙が導入される燻煙庫と、前記燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、前記燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、前記燻煙庫内の燻煙を排出する排気部と、を備える燻煙処理装置を用いて食品を製造する方法であって、
前記燻煙庫内に燻製処理前の食品を配置する配置工程と、
前記検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで前記循環部で前記燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、
前記循環工程において前記検出部で検出された燻煙濃度が前記所定上限値に到達した時点から所定時間だけ前記強制循環を停止させる停止工程と、
前記停止工程終了後に前記排気部で前記燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程と、を含み、
前記食品は、カビが生育した状態のチーズに燻製処理を施したもの、発酵途中のカカオ豆に燻製処理を施したもの、又は、発酵途中のベーカリー生地に燻製処理を施したものである、食品製造方法。
【請求項2】
前記チーズは、カビによる熟成軟質チーズである、請求項に記載の食品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙処理装置、プログラム及び食品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種食品に燻煙処理(燻製)を施す技術が提案され、実用化されている。燻煙処理を施すことにより、燻煙中の殺菌・防腐成分が食品に付着浸透したり食品の水分含有量が減少したりするため、食品の保存性を向上させることができ、また、スモークによる独特の香ばしい風味を付与することができる、とされている。
【0003】
現在においては、ハード系・セミハード系のナチュラルチーズやプロセスチーズのように比較的水分含有量が低いチーズを燻煙処理する技術が多く提案されている(例えば、特許文献1参照)。一方、チーズの水分含有量を維持しつつ燻煙処理を行うことにより、ソフトなスモークチーズを製造する技術もまた提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-350541号公報
【文献】特公平7-14号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、既に述べたように、燻煙処理には殺菌作用があることから、例えばカマンベールチーズやブリーチーズに代表される白カビチーズに燻煙処理を施した場合には、表面の白カビが生育阻害を受けてしまう。このため、現段階では、白カビチーズが全面に生えていながら燻製特有の香ばしい風味がある燻製白カビチーズは工業的に大量生産されていなかった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、微生物(白カビ等)の生育阻害を抑制することができる燻煙処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る第一の燻煙処理装置は、燻煙が導入される燻煙庫と、燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、循環部を制御する制御部と、を備えるものであって、制御部は、検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、を交互に複数回ずつ繰り返すように循環部を制御するものである。
【0008】
また、本発明に係る第一のプログラムは、燻煙が導入される燻煙庫と、燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、を備える燻煙処理装置を制御するものであって、検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで循環部で燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、を交互に複数回ずつ繰り返してコンピュータに実行させるものである。
【0009】
また、本発明に係る第一の食品製造方法は、燻煙が導入される燻煙庫と、燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、を備える燻煙処理装置を用いて食品を製造する方法であって、燻煙庫内に食品を配置する配置工程と、検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで循環部で前記燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、を含み、循環工程と停止工程とを交互に複数回ずつ繰り返すものである。
【0010】
かかる構成及び方法を採用すると、燻煙庫内の燻煙濃度が所定上限値に到達するまで燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、を交互に複数回ずつ繰り返すことができる。すなわち、燻煙庫内に導入された燻煙を単に一定時間循環させるのではなく、燻煙庫内の燻煙濃度をモニタリングし、燻煙濃度が所定上限値に到達するまで燻煙を強制循環させ、燻煙濃度が所定上限値に到達したら強制循環を所定時間だけ停止させて燻煙濃度を低下させ、その後再び燻煙を強制循環させて燻煙濃度を所定上限値に到達させる、という間欠的な燻煙処理(間欠運転)を行うため、燻煙庫内に配置された食品(例えば熟成途中でカビや乳酸菌が生育した状態のチーズカード、発酵途中のカカオ豆、発酵途中のベーカリー生地等)における微生物の生育阻害を抑制することができる。従って、例えば、白カビが全面に生えていながら燻製特有の香ばしい風味がある燻製白カビチーズを工業的に大量生産することが可能となる。
【0011】
本発明に係る第一の燻煙処理装置において、燻煙庫内の燻煙を排出する排気部を備えることができる。かかる場合において、制御部は、最後の停止工程終了後に燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程を実施するように排気部を制御することができる。また、本発明に係る第一のプログラムにおいて、最後の停止工程終了後に排気部で燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程をコンピュータに実行させることができる。また、本発明に係る第一の食品製造方法において、最後の停止工程終了後に排気部で燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程をさらに含むことができる。
【0012】
かかる構成及び方法を採用すると、間欠的な燻煙処理が完了した後に速やかに燻煙を排出することができる。
【0013】
本発明に係る第一の燻煙処理装置において、制御部は、循環工程、停止工程及び排気工程からなる工程群を所定時間内で実施するように循環部及び排気部を制御することができる。また、本発明に係る第一のプログラムにおいて、循環工程、停止工程及び排気工程からなる工程群を所定時間内でコンピュータに実行させることができる。また、本発明に係る第一の食品製造方法において、循環工程、停止工程及び排気工程からなる工程群を所定時間内で実施することができる。
【0014】
かかる構成及び方法を採用すると、間欠的な燻煙処理と燻煙排出処理とを所定時間内で完了させることができるため、燻製対象となる食品が長時間燻煙に晒されることを防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る第二の燻煙処理装置は、燻煙が導入される燻煙庫と、燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、燻煙庫内の燻煙を排出する排気部と、循環部及び排気部を制御する制御部と、を備えるものであって、制御部は、検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、停止工程終了後に燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程と、を実施するように循環部及び排気部を制御するものである。
【0016】
また、本発明に係る第二のプログラムは、燻煙が導入される燻煙庫と、燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、燻煙庫内の燻煙を排出する排気部と、を備える燻煙処理装置を制御するものであって、検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで循環部で燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、停止工程終了後に排気部で燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程と、をコンピュータに実行させるものである。
【0017】
また、本発明に係る第二の食品製造方法は、燻煙が導入される燻煙庫と、燻煙庫内の燻煙濃度を検出する検出部と、燻煙庫内に導入された燻煙を強制循環させる循環部と、燻煙庫内の燻煙を排出する排気部と、を備える燻煙処理装置を用いて食品を製造する方法であって、燻煙庫内に食品を配置する配置工程と、検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで循環部で燻煙庫内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、停止工程終了後に排気部で燻煙庫内の燻煙を排出する排気工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、微生物(白カビ等)の生育阻害を抑制することができる燻煙処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一(第二)実施形態に係る燻煙処理装置の構成を説明するための説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る燻煙処理装置を用いた食品製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】本発明の第一実施形態に係る燻煙処理装置の燻煙庫内における燻煙濃度の時間履歴を示すタイムチャートである。
図4】本発明の第二実施形態に係る燻煙処理装置を用いた食品製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5】本発明の第二実施形態に係る燻煙処理装置の燻煙庫内における燻煙濃度の時間履歴を示すタイムチャートである。
図6図3のタイムチャートの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0021】
<第一実施形態>
まず、図1を用いて、本発明の第一実施形態に係る燻煙処理装置1の構成について説明する。
【0022】
本実施形態に係る燻煙処理装置1は、図1に示すように、燻煙が導入される燻煙庫10と、燻煙庫10内の燻煙濃度を検出する検出部20と、燻煙庫10内に導入された燻煙を強制循環させる循環部30と、燻煙庫10内の燻煙を排出する排気部40と、循環部30及び排気部40を制御する制御部50と、を備えている。また、燻煙処理装置1は、燻煙を発生させて燻煙庫10内に導入する燻煙発生導入部60を備えている。
【0023】
燻煙庫10は、燻煙が導入される内部空間11を有しており、その内部空間11には、燻製処理の対象となる食品が配置される。内部空間11の形状や容積は、配置される食品の形状や容積に合わせて適宜設定することができる。例えば、食品として熟成途中で白カビが生育した状態のチーズカードを採用する場合には、熟成途中で白カビが生育した状態のチーズカードを載置した棚S(略直方体状)の形状に対応させて、略直方体状を呈する内部空間11を採用することができる。また、円筒状、角筒状、半球状等を呈する内部空間11を採用してもよい。
【0024】
なお、燻製処理の対象となる食品は、熟成途中でカビや乳酸菌が生育した状態のチーズカードに限られるものではなく、例えば、発酵途中のカカオ豆、発酵途中のベーカリー生地等を採用することもできる。熟成途中でカビが生育した状態のチーズの例としては、カビによる表面熟成軟質チーズが挙げられる。カビによる表面熟成軟質チーズの例としては、カマンベール、ブリー、ブルソー等が挙げられる。熟成途中でカビが生育した状態のチーズカードは、公知の製造工程に従って得たものであればよく、チーズカードからホエーが排出されてある程度固まり、熟成途中で白カビが生育した状態のチーズカードを用いればよい。カカオ豆はカカオ(Theobroma cacao L.)の種子である。発酵途中のカカオ豆としては、カカオポッドからカカオパルプとともに取り出したカカオ豆が、自然界の微生物によって発酵している状態のものを用いればよい。ベーカリー生地は、小麦粉、糖類、牛乳や脱脂粉乳等の乳製品、ショートニングやマーガリン等の油脂、卵、水、ベーキングパウダー、イースト等からなり、例えば、パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、クロワッサン、フランスパン、セミハードロール、ビスケット、クッキー、ケーキ、クラッカー、プレッツェル、シュー、ドーナツ、ワッフル、スコーン等の穀物粉をベースとした、焼成する前の生地を用いればよい。
【0025】
燻煙庫10の内部空間11にはファン31が配置されている。また、燻煙庫10の内部空間11には、燻煙発生導入部60の導入管62(後述)を介して燻煙が導入されるようになっている。導入管62を介して燻煙庫10の内部空間11に導入された燻煙は、ファン31によって内部空間11で強制的に循環させられる。
【0026】
検出部20は、燻煙庫10内の燻煙濃度を検出することができるものであればよく、その配置や構成は特に限定されるものではない。例えば、煙中に照射した光の透過率を測定することにより煙の濃度を検出する光透過式検出装置(オパシメータやレーザスモークメータ)を検出部20として採用し、この検出部20を燻煙庫10の内部空間11の適所に配置することができる。なお、燻煙庫10の外部に検出部20を配置することもできる。かかる場合には、燻煙の一部を燻煙庫10から検出部20へと導く機構を採用するようにする。
【0027】
循環部30は、燻煙庫10内に導入された燻煙を強制循環させるものであり、既に述べたファン31等によって構成される。排気部40は、燻煙庫10内の燻煙を排出するものであり、循環部30としても機能するファン31と、燻煙庫10に連通接続された排気管41と、を有している。排気管41には、燻煙循環中に排気管41を経由して燻煙が排出されるのを防ぐ開閉弁、燻煙中の臭い物質を電気で焼き切るアフターバーナ(消煙装置)、燻煙中の粒子を除去する触媒フィルタ、等を設けることができる。
【0028】
制御部50は、各種制御プログラムやデータを格納するメモリ、メモリから各種制御プログラムやデータを読み出して実行するCPU、各種情報を表示するための表示部、各種情報を入力したり各構成部を操作したりするための操作部、等を有するコンピュータで構成することができる。制御部50は、検出部20、ファン31、燻煙発生導入部60等との間で信号の授受が可能であり、検出部20から送られる信号に基づいて、ファン31や燻煙発生導入部60を制御するように構成されている。
【0029】
具体的には、制御部50は、間欠的な燻煙処理を行うとともに燻煙処理完了後に燻煙庫10から燻煙を排出するように、循環部30及び排気部40を制御する。すなわち、制御部50は、検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで燻煙庫10内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、を交互に複数回ずつ繰り返すようにファン31を制御した後、燻煙庫10内の燻煙を排出する排気工程を実施するようにファン31を制御する。なお、一個のファン31で循環と排気の双方を実施する代わりに、循環用のファンと排気用のファンとを別々に設けることもできる。
【0030】
また、本実施形態における制御部50は、循環工程、停止工程及び排気工程からなる工程群を所定時間内で実施するようにファン31を制御する。循環工程で採用される所定上限値や、停止工程で採用される所定時間は、燻製対象となる食品の種類や量、燻煙の温度、燻煙の流速(ファン31の回転数)等に応じて適宜設定することができる。
【0031】
燻煙発生導入部60は、燻煙を発生させる燻煙発生装置61と、燻煙発生装置61で発生させた燻煙を燻煙庫10へと導く導入管62と、導入管62に設けられた開閉弁63と、を有している。燻煙発生装置61の構成は、燻煙を発生させることができるような構成であればいかなる構成を採用してもよい。燻煙発生装置61や開閉弁63の動作は、制御部50によって制御されるようになっている。
【0032】
次に、図2のフローチャート等を用いて、本発明の実施形態に係る燻煙処理装置1を用いた食品製造方法について説明する。
【0033】
最初に、ユーザは、燻煙処理装置1の燻煙庫10内に、燻製対象となる食品を配置する(配置工程:S1)。燻製対象となる食品としては、熟成途中で白カビや乳酸菌が生育した状態のチーズカード等を選択することができる。
【0034】
続いて、ユーザは、燻煙処理装置1の制御部50の操作部を操作することにより、食品に間欠的な燻煙処理を施す。かかる間欠的な燻煙処理について、図3のタイムチャートを用いて具体的に説明する。
【0035】
まず、制御部50は、燻煙発生装置61を作動させて燻煙を発生させるとともに、導入管62に設けられた開閉弁63を開放することにより燻煙庫10内に燻煙を導入し、検出部20で検出される燻煙濃度が所定上限値A(mg/m3)に到達するまで循環部30(ファン31)で燻煙庫10内の燻煙を強制循環させる(第一循環工程:S2)。所定上限値Aは、例えば200~1500(好ましくは400~1000)(mg/m3)の範囲内で設定することができる。第一循環工程S2において、制御部50は、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖することにより、燻煙庫10内に導入した燻煙が排出されないようにする。第一循環工程S2に要する時間t1は、ファン31の回転数等によって調整することができる。
【0036】
次いで、制御部50は、第一循環工程S2において検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値Aに到達した時点から所定時間t2だけ強制循環を停止させる(第一停止工程:S3)。所定時間t2は、例えば3~120(好ましくは10~60)(分)の範囲内で設定することができる。第一停止工程S3において、制御部50は、燻煙発生装置61を停止させるとともに導入管62の開閉弁63を閉鎖し、かつ、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖したままファン31を停止させる。第一停止工程S3により、燻煙庫10内における燻煙濃度は低下する。
【0037】
次いで、制御部50は、所定時間t2経過後に循環部30(ファン31)で強制循環を再開させ、検出部20で検出された燻煙濃度が再び所定上限値Aに到達するまで循環部30(ファン31)で燻煙庫10内の燻煙を強制循環させる(第二循環工程:S4)。第二循環工程S4において、制御部50は、第二循環工程S2と同様に、燻煙発生装置61を作動させて燻煙を発生させるとともに導入管62の開閉弁63を開放し、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖する。第二循環工程S4に要する時間t3は、ファン31の回転数等によって調整することができる。
【0038】
次いで、制御部50は、第二循環工程S4において検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値Aに到達した時点から所定時間t4だけ強制循環を停止させる(第二停止工程:S5)。所定時間t4は、例えば3~120(好ましくは10~60)(分)の範囲内で設定することができる。第二停止工程S5における所定時間t4は、第一停止工程S3における所定時間t2と同一でもよい。第二停止工程S5において、制御部50は、第一停止工程S3と同様に、燻煙発生装置61を停止させるとともに導入管62の開閉弁63を閉鎖し、かつ、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖したままファン31を停止させる。第二停止工程S5により、燻煙庫10内における燻煙濃度は再び低下する。
【0039】
次いで、制御部50は、第二循環工程S4と同様の工程と、第二停止工程S5と同様の工程と、を交互に二回ずつ繰り返す(第三循環工程:S6、第三停止工程:S7、第四循環工程:S8、第四停止工程:S9)。すなわち、本実施形態に係る制御部50は、合計で循環工程と停止工程とを交互に4回ずつ実施するようにファン31を制御する。
【0040】
次いで、制御部50は、最後の停止工程(第四停止工程S9)における所定時間t8経過後に、排気部40(ファン31)で燻煙庫10内の燻煙を排出する(排気工程:S10)。排気工程S10において、制御部50は、燻煙発生装置61を停止させるとともに導入管62に設けられた開閉弁63を閉鎖し、かつ、排気管41に設けられた開閉弁を開放してファン31を作動させる。制御部50は、検出部20で検出された燻煙濃度が所定の基準値を下回った場合に、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖するとともにファン31を停止させて、排気工程S10を終了する。排気工程S10に要する時間t9は、ファン31の回転数等によって調整することができる。
【0041】
制御部50は、間欠的な燻煙処理に関するこれら一連の工程群(循環工程S2・S4・S6・S8、停止工程S3・S5・S7・S9及び排気工程S10からなる工程群)を、所定時間T1内で実施する。所定時間T1は、例えば10~720(好ましくは40~180)(分)の範囲内で設定することができる。
【0042】
続いて、ユーザは、上記工程群を経て間欠的な燻煙処理を施した食品を、燻煙庫10内から取り出し、所定の処理を施して最終製品を得る。燻製処理の対象となる食品が、例えば、熟成途中でカビや乳酸菌が生育した状態のチーズカードであれば、一般的なカビによる表面熟成軟質チーズ(例えば、カマンベールチーズ)の製造方法に従って、更なる熟成を行い、必要に応じて殺菌処理をすればよい。発酵途中のカカオ豆であれば、一般的なチョコレートやココアの製造方法に従って、更なる発酵を行い、乾燥後に豆を砕いてロースト、摩砕してカカオマスとした後、公知の方法を用いてチョコレートまたはココアにすればよい。発酵途中のベーカリー生地であれば、一般的なベーカリー製品の製造方法に従って、更なる発酵を行い、成形、焼成等を行えばよい。
【0043】
以上説明した実施形態に係る燻煙処理装置1においては、燻煙庫10内の燻煙濃度が所定上限値Aに到達するまで燻煙庫10内の燻煙を強制循環させる循環工程と、燻煙濃度が所定上限値Aに到達した時点から所定時間t2(t4、t6、t8)だけ強制循環を停止させる停止工程と、を交互に複数回ずつ繰り返すことができる。すなわち、燻煙庫10内に導入された燻煙を単に一定時間循環させるのではなく、燻煙庫10内の燻煙濃度をモニタリングし、燻煙濃度が所定上限値Aに到達するまで燻煙を強制循環させ、燻煙濃度が所定上限値Aに到達したら強制循環を所定時間t2(t4、t6、t8)だけ停止させて燻煙濃度を低下させ、その後再び燻煙を強制循環させて燻煙濃度を所定上限値Aに到達させる、という間欠的な燻煙処理(間欠運転)を行うため、燻煙庫10内に配置された食品(例えば、熟成途中でカビや乳酸菌が生育した状態のチーズカード、発酵途中のカカオ豆、発酵途中のベーカリー生地等)における微生物の生育阻害を抑制することができる。従って、例えば、白カビが全面に生えていながら燻製特有の香ばしい風味がある燻製白カビチーズを工業的に大量生産することが可能となる。
【0044】
また、以上説明した実施形態に係る燻煙処理装置1においては、最後の停止工程(第四停止工程S9)における所定時間経過後に燻煙庫10内の燻煙を排出する排気工程S10を実施するように制御部50でファン31を制御するため、間欠的な燻煙処理が完了した後に速やかに燻煙を排出することができる。
【0045】
また、以上説明した実施形態に係る燻煙処理装置1においては、循環工程S2・S4・S6・S8、停止工程S3・S5・S7・S9及び排気工程S10からなる工程群を所定時間T1内で実施するように制御部50でファン31を制御することにより、間欠的な燻煙処理と燻煙排出処理とを所定時間内で完了させることができる。このため、燻製対象となる食品が長時間燻煙に晒されることを防止することができる。
【0046】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る燻煙処理装置の構成について説明する。本実施形態に係る燻煙処理装置は、第一実施形態に係る燻煙処理装置1の制御部50の機能(制御プログラム)のみを変更したものであり、その他の構成については第一実施形態と実質的に同一である。このため、異なる構成(制御部)について主に説明し、共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略することとする。なお、以下の説明においては、第一実施形態に係る燻煙処理装置1及びその制御部50と区別するために、本実施形態に係る燻煙処理装置及びその制御部を、各々「1A」及び「50A」と称することとする。
【0047】
本実施形態に係る燻煙処理装置1Aの制御部50Aは、第一実施形態における制御部50と同様に、各種制御プログラムやデータを格納するメモリ、メモリから各種制御プログラムやデータを読み出して実行するCPU、各種情報を表示するための表示部、各種情報を入力したり各構成部を操作したりするための操作部、等を有するコンピュータで構成することができる。制御部50Aは、検出部20、ファン31、燻煙発生導入部60等との間で信号の授受が可能であり、検出部20から送られる信号に基づいて、ファン31や燻煙発生導入部60を制御するように構成されている。
【0048】
具体的には、制御部50Aは、検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達するまで燻煙庫10内の燻煙を強制循環させる循環工程と、循環工程において検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間だけ強制循環を停止させる停止工程と、燻煙庫10内の燻煙を排出する排気工程と、を実施するようにファン31を制御する。
【0049】
また、本実施形態における制御部50Aは、循環工程、停止工程及び排気工程からなる工程群を所定時間内で実施するようにファン31を制御する。循環工程で採用される所定上限値や、停止工程で採用される所定時間は、燻製対象となる食品の種類や量、燻煙の温度、燻煙の流速(ファン31の回転数)等に応じて適宜設定することができる。
【0050】
次に、図4のフローチャート等を用いて、本発明の実施形態に係る燻煙処理装置1Aを用いた食品製造方法について説明する。
【0051】
最初に、ユーザは、燻煙処理装置1Aの燻煙庫10内に、燻製対象となる食品を配置する(配置工程:S11)。燻製対象となる食品としては、第一実施形態と同様に、熟成途中で白カビが生育した状態のチーズカード等を選択することができる。
【0052】
続いて、ユーザは、燻煙処理装置1Aの制御部50Aの操作部を操作することにより、食品に間欠的な燻煙処理を施す。かかる間欠的な燻煙処理について、図5のタイムチャートを用いて具体的に説明する。
【0053】
まず、制御部50Aは、燻煙発生装置61を作動させて燻煙を発生させるとともに、導入管62に設けられた開閉弁63を開放することにより、燻煙庫10内に燻煙を導入し、図5に示すように、検出部20で検出される燻煙濃度が所定上限値Bに到達するまで循環部30(ファン31)で燻煙庫10内の燻煙を強制循環させる(循環工程:S12)。所定上限値Bは、例えば200~1500(mg/m3)の範囲内で設定することができる。循環工程S12において、制御部50Aは、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖することにより、燻煙庫10内に導入した燻煙が排出されないようにする。循環工程S12に要する時間t11は、ファン31の回転数等によって調整することができる。
【0054】
次いで、制御部50Aは、図5に示すように、循環工程S12において検出部20で検出された燻煙濃度が所定上限値に到達した時点から所定時間t12だけ強制循環を停止させる(停止工程:S13)。所定時間t12は、例えば5~250(分)の範囲内で設定することができる。停止工程S13において、制御部50Aは、燻煙発生装置61を停止させるとともに導入管62の開閉弁63を閉鎖し、かつ、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖したままファン31を停止させる。停止工程S13により、燻煙庫10内における燻煙濃度は低下する。
【0055】
次いで、制御部50Aは、図5に示すように、停止工程S13における所定時間t12経過後に、排気部40(ファン31)で燻煙庫10内の燻煙を排出する(排気工程:S14)。排出工程S14において、制御部50Aは、燻煙発生装置61を停止させるとともに導入管62に設けられた開閉弁63を閉鎖し、かつ、排気管41に設けられた開閉弁を開放してファン31を作動させる。制御部50Aは、検出部20で検出された燻煙濃度が所定の基準値を下回った場合に、排気管41に設けられた開閉弁を閉鎖するとともにファン31を停止させて、排気工程S14を終了する。排気工程S14に要する時間t13は、ファン31の回転数等によって調整することができる。
【0056】
制御部50Aは、これら一連の工程群(循環工程S12、停止工程S13及び排気工程S14からなる工程群)を、所定時間T2内で実施する。所定時間T2は、例えば5~300(分)の範囲内で設定することができる。
【0057】
続いて、ユーザは、上記工程群を経て間欠的な燻煙処理を施した食品を燻煙庫10内から取り出し、第一実施形態と同様に所定の処理を施して最終製品を得る。
【0058】
以上説明した実施形態に係る燻煙処理装置1Aにおいては、燻煙庫10内の燻煙濃度が所定上限値Bに到達するまで燻煙庫10内の燻煙を強制循環させ、燻煙濃度が所定上限値Bに到達した時点から所定時間t12だけ強制循環を停止させ、その後、燻煙庫10内の燻煙を排出する、という一連の工程を実施することができる。すなわち、燻煙庫10内に導入された燻煙を単に一定時間循環させるのではなく、燻煙庫10内の燻煙濃度をモニタリングし、燻煙濃度が所定上限値Bに到達したら所定時間t12強制循環を停止させて燻煙濃度を低下させ、その後燻煙を排出する、という特徴的な燻煙処理を行うため、燻煙庫10内に配置された食品(例えば熟成途中でカビや乳酸菌が生育した状態のチーズカード、発酵途中のカカオ豆、発酵途中のベーカリー生地等)における微生物の生育阻害を抑制することができる。従って、例えば、白カビが全面に生えていながら燻製特有の香ばしい風味がある燻製白カビチーズを工業的に大量生産することが可能となる。
【0059】
また、以上説明した実施形態に係る燻煙処理装置1Aにおいては、循環工程S12、停止工程S13及び排気工程S14からなる工程群を所定時間T2内で実施するように制御部50Aでファン31を制御することにより、燻煙処理と燻煙排出処理とを所定時間内で完了させることができる。このため、燻製対象となる食品が長時間燻煙に晒されることを防止することができる。
【0060】
なお、第一実施形態においては、循環工程と停止工程とを4回ずつ交互に実施した例を示したが、これら循環工程及び停止工程の回数はこれに限定されるものではない。例えば、循環工程及び停止工程を2回(又は3回)ずつ交互に実施したり、各工程を5回以上実施したりすることもできる。
【0061】
また、第一実施形態においては、図3に示すように最後の停止工程(第四停止工程S9)を経た後に排気工程S10を実施した例を示したが、この最後の停止工程(第四停止工程S9)を省略し、図6に示すように第四循環工程S8の直後に排気工程S10を実施することもできる。また、第二循環工程S4の直後に排気工程S10を実施したり、第三循環工程S6の直後に排気工程S10を実施したりすることもできる。すなわち、循環工程を複数回実施する場合には、循環工程と停止工程の回数が必ずしも一致していなくてもよく、循環工程の回数が停止工程の回数を上回っていてもよい。
【0062】
また、第一実施形態においては、各循環工程における所定上限値を一定の値(A)とした例を示したが、所定上限値を循環工程毎に異ならせてもよい。例えば、第一循環工程S2における所定上限値をA1とし、第二循環工程S4における所定上限値をA2(A1とは異なる値)とし、第三循環工程S6における所定上限値をA3(A1及びA2とは異なる値)とし、第四循環工程S8における所定上限値をA4(A1、A2及びA3とは異なる値)とすることができる。
【0063】
本発明は、以上の各実施形態に限定されるものではなく、これら実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1・1A…燻煙処理装置
10…燻煙庫
20…検出部
30…循環部
40…排気部
50・50A…制御部
60…燻煙発生導入部
S2・S4・S12…循環工程
S3・S5・S13…停止工程
S10・S14…排気工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6