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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】シール材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20230710BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230710BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20230710BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230710BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
F16J15/10 G
C08K3/04
C08K5/053
C08K3/22
C08L27/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020538449
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2019032701
(87)【国際公開番号】W WO2020040221
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018157737
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018157715
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598124249
【氏名又は名称】エア・ウォーター・マッハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
(72)【発明者】
【氏名】上野 真寛
(72)【発明者】
【氏名】礒田 泰洋
(72)【発明者】
【氏名】寺島 剛資
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106633544(CN,A)
【文献】特開2016-044732(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
C08K 3/04
C08K 5/053
C08K 3/22
C08L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム架橋物からなるシール材であって、
前記ゴム架橋物は、2元系フッ素ゴムと、炭素材料と、ポリオール架橋剤と、架橋促進剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、
前記炭素材料はカーボンナノチューブを含み、
前記架橋性ゴム組成物中の前記カーボンナノチューブの含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して0.1質量部以上4質量部以下であり、
前記ポリオール架橋剤がポリヒドロキシ芳香族化合物であり、
前記架橋性ゴム組成物中の前記ポリヒドロキシ芳香族化合物の含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であり、
前記架橋促進剤が、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、およびアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記架橋性ゴム組成物中の前記架橋促進剤の含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であり、
金属表面と接触した状態で、250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の前記金属表面に対する固着力が2N以下である、シール材。
【請求項2】
前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caが0.5以上である、請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caが1超8以下である、請求項2に記載のシール材。
【請求項4】
金属表面と密着する環境下で使用される、請求項1~3のいずれかに記載のシール材。
【請求項5】
前記2元系フッ素ゴムがビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、
前記ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体中のフッ素含有量が65質量%以上70質量%以下である、請求項1~4のいずれかに記載のシール材。
【請求項6】
前記炭素材料がカーボンブラックを含み、
前記架橋性ゴム組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上40質量部以下である、請求項1~5のいずれかに記載のシール材。
【請求項7】
前記ゴム架橋物に含まれる前記炭素材料の表面積Sが5(m/g)以上である、請求項1~6のいずれかに記載のシール材。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含む、請求項1~7のいずれかに記載のシール材。
【請求項9】
前記架橋性ゴム組成物が受酸剤を更に含む、請求項1~のいずれかに記載のシール材。
【請求項10】
前記受酸剤が酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムを含む、請求項に記載のシール材。
【請求項11】
前記ゴム架橋物の表面抵抗率が1×10Ω/sq.以下である、請求項1~10のいずれかに記載のシール材。
【請求項12】
250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の圧縮永久歪み率が80%以下である、請求項1~11のいずれかに記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置、半導体搬送装置、液晶製造装置、真空機器等で使用されるOリング等のシール材には、耐プラズマ性、耐熱性、クリーン性、耐薬品性等が求められている。そして、当該シール材としては、フッ素ゴムが多く使用されている。
【0003】
一般に、ゴム材料は、シールすべき金属表面に固着しやすいので、開閉が頻繁に行われる装置においては、装置の正常動作を阻害する等の問題が生じ易い。また、メンテナンス時においては、シール材が剥がせないほど強く金属表面に固着しており、これを無理に剥がそうとすると、ゴム粉がこすれ落ち、装置の不具合を引き起こす等の問題もある。このような、金属表面への固着の問題は、表面エネルギーが低いフッ素ゴムからなるシール材においても同様に生じており、上記に挙げた装置等では高真空、高温に晒されることから金属表面への固着の問題は顕著になっている。
【0004】
そこで近年、金属表面に固着し難い、即ち、金属表面に対する非固着性に優れたシール材の開発が盛んに行なわれている。例えば特許文献1では、表面がフッ素化処理されたフッ素ゴム成形体であって、表面の[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比および[C-H結合/C-F結合]の結合数比がそれぞれ所定値以下であり、かつ、ヘリウムリーク試験開始3分後のリーク量が所定値以下であることを特徴とするフッ素ゴム成形体が、金属表面への非固着性に優れるとともに、適度の柔軟性が付与されて優れたシール性も発揮し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-138107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術のフッ素ゴム成形体からなるシール材には、金属表面に対する非固着性に依然として改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、金属表面に対する非固着性に優れたシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含有する炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、金属表面と接触した状態で所定の条件下で加熱された後の前記金属表面に対する固着力が所定値以下であるゴム架橋物からなるシール材が、金属表面に対する非固着性に優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシール材は、ゴム架橋物からなるシール材であって、前記ゴム架橋物は、2元系フッ素ゴムと、炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、前記炭素材料はカーボンナノチューブを含み、金属表面と接触した状態で、250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の前記金属表面に対する固着力が2N以下であることを特徴とする。このように、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含有する炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、金属表面と接触した状態で所定の条件下で加熱された後の前記金属表面に対する固着力が上記所定値以下であるゴム架橋物からなるシール材であれば、金属表面に対して優れた非固着性を発揮することができる。
なお、本発明において、「金属表面と接触した状態で、250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の前記金属表面に対する固着力」は、本明細書の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0010】
ここで、前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caが0.5以上であることが好ましい。前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caが上記所定の値以上であれば、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。
なお、本発明において、「前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Ca」は、本明細書の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0011】
また、前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caが1超8以下であることが好ましい。前記ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと前記ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caが上記所定の範囲内であれば、シール材の強度を十分に高く確保しつつ、シール材の金属表面に対する非固着性を一層高めることができる。
【0012】
さらに、本発明のシール材は、通常、金属表面と密着する環境下で使用される。
【0013】
また、本発明のシール材は、前記2元系フッ素ゴムがビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、前記ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体中のフッ素含有量が65質量%以上70質量%以下であることが好ましい。前記2元系フッ素ゴムがビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、前記ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体中のフッ素含有量が上記所定の範囲内であれば、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。
【0014】
さらに、本発明のシール材は、前記炭素材料がカーボンブラックを含み、前記架橋性ゴム組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であることが好ましい。前記炭素材料がカーボンブラックを含み、前記架橋性ゴム組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、上記所定の範囲内であれば、得られるシール材のシール性を十分に高く確保しつつ、シール材の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。
【0015】
また、本発明のシール材は、前記ゴム架橋物に含まれる前記炭素材料の表面積Sが5(m/g)以上であることが好ましい。前記表面積Sが上記範囲内であれば、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。
ここで、本発明において、「ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積S」は下記の算出方法により求めることができる。即ち、ゴム架橋物が炭素材料C~C(C~Cはそれぞれ異なる炭素材料;nは1以上の整数)を含む場合において、炭素材料C~CのBET比表面積をそれぞれS~S(m/g)とし、ゴム架橋物全量A(g)中の炭素材料C~Cの含有量をそれぞれR~R(g)としたとき、「ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積S」は下記の式(1)により算出することができる。なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
S=Σ〔S×(R/A)〕(m/g)〔iは1以上n以下の整数〕・・・(1)
ただし、例えば、各炭素材料CのBET比表面積S(m/g)および/またはゴム架橋物中の含有量R(g)が不明である場合は、ゴム架橋物に含まれる炭素材料が1種類(C)のみであるとみなし、下記の方法により求めたS(m/g)およびR(g)を上記式(1)に適用して、Sを算出することもできる。即ち、ゴム架橋物を加熱炉にて窒素雰囲気下600℃まで加熱し、加熱炉を400℃まで冷却した後、空気または酸素雰囲気下に切り替え、任意の温度まで加熱し、熱分解によって生成した炭素質残渣を除去することで得られた炭素材料Cの試料を用いて、BET比表面積S(m/g)を測定することができる。また、ゴム架橋物中の炭素材料Cの含有量R(g)は、JIS K6226-2:2003に準拠して測定することができる。
【0016】
さらに、本発明のシール材は、前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含めば、シール材の金属表面に対する非固着性を一層高めることができる。
【0017】
また、本発明のシール材は、前記架橋性ゴム組成物中の前記カーボンナノチューブの含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して0.1質量部以上4質量部以下であることが好ましい。前記架橋性ゴム組成物中の前記カーボンナノチューブの含有量が、上記所定の範囲内であれば、シール材の耐圧縮永久歪み性を十分に高く確保しつつ、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。
【0018】
さらに、本発明のシール材は、前記ポリオール架橋剤がポリヒドロキシ芳香族化合物であることが好ましい。前記ポリオール架橋剤がポリヒドロキシ芳香族化合物であれば、シール材の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。
【0019】
また、本発明のシール材は、前記架橋性ゴム組成物中の前記ポリヒドロキシ芳香族化合物の含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。前記架橋性ゴム組成物中の前記ポリヒドロキシ芳香族化合物の含有量が、上記所定以下であれば、シール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0020】
さらに、本発明のシール材は、前記架橋性ゴム組成物が架橋促進剤を更に含むことが好ましい。前記架橋性ゴム組成物が架橋促進剤を更に含めば、シール材の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。
【0021】
また、本発明のシール材は、前記架橋促進剤が、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、およびアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記架橋性ゴム組成物中の前記架橋促進剤の含有量が、前記2元系フッ素ゴム100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。前記架橋促進剤が、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、およびアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記架橋性ゴム組成物中の前記架橋促進剤の含有量が上記所定の範囲内であれば、シール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0022】
さらに、本発明のシール材は、前記架橋性ゴム組成物が受酸剤を更に含むことが好ましい。前記架橋性ゴム組成物が受酸剤を更に含めば、シール材の金属表面に対する非固着性および耐圧縮永久歪み性を高めることができる。
【0023】
また、本発明のシール材は、前記受酸剤が酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムを含むことが好ましい。前記受酸剤が酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムを含めば、シール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0024】
さらに、本発明のシール材は、前記ゴム架橋物の表面抵抗率が1×10Ω/sq.以下であることが好ましい。前記ゴム架橋物の表面抵抗率が上記所定以下であれば、シール材は導電性に優れ、異物の付着等の静電気による障害を良好に防止することができる。
なお、本発明において、「ゴム架橋物の表面抵抗率」は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
また、本発明のシール材は、250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の圧縮永久歪み率が80%以下であることが好ましい。250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の圧縮永久歪み率が上記所定以下であれば、シール材は耐圧縮永久歪み性に優れるため、長期に亘って良好なシール性を維持することができる。
なお、本発明において、「250℃で70時間加熱された後の前記ゴム架橋物の圧縮永久歪み率」は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、金属表面に対する非固着性に優れたシール材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
(シール材)
本発明のシール材は、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含有する炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、金属表面と接触した状態で所定の条件下で加熱された後の前記金属表面に対する固着力が所定値以下であるゴム架橋物からなることを特徴とする。このようなシール材は、金属表面に対して優れた非固着性を発揮することができる。
【0029】
ここで、本発明のシール材が金属表面に対して優れた非固着性を発揮することができる理由は、明らかではないが、カーボンナノチューブを含有する炭素材料のラジカル捕捉効果により、2元系フッ素ゴムの熱劣化が抑制されたことで、金属表面と劣化した2元系フッ素ゴムとの間の化学結合形成が抑制されたためと推察される。
【0030】
本発明のシール材の用途は特に限定されないが、通常、本発明のシール材は金属表面と密着する環境下で使用される。具体的に、本発明のシール材は、半導体製造装置、半導体搬送装置、液晶製造装置、真空機器等に用いるシール材として良好に使用することができる。そして、本発明のシール材は、金属表面と密着する環境下で使用されたとしても、金属表面に固着し難いため、長寿命であり、再利用性に優れる。さらに、本発明のシール材は、金属表面に固着し難く、金属表面から容易に剥がせるため、部品交換等の作業時間を短縮することができる。また、本発明のシール材は、金属表面に固着し難く、シール材を金属表面から剥がした際に母材破壊が生じ難いため、シール材由来のゴム架橋物の一部が金属表面に残存して汚染が発生することを良好に防止することができる。したがって、本発明のシール材を取り付けた装置および機器等は、メンテナンス性に優れている。
また、本発明のシール材を、各種装置等における回転運動、往復運動、および繰り返し着脱等をする可動部に使用した場合、シール材が当該可動部の金属表面に固着することによる動作上の問題が発生し難い。したがって、本発明のシール材を用いれば、上述した可動部を安定的に制御することができる。
【0031】
本発明のシール材は、用途に応じた任意の形状を有し得る。そして、本発明のシール材は、具体的には、Oリング、パッキン、およびガスケットなどのシール材である。
【0032】
<ゴム架橋物>
本発明のシール材に用いられるゴム架橋物は、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含有する炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋して得られる。そして、上記ゴム架橋物は、金属表面と接触した状態で所定の条件下で加熱された後の前記金属表面に対する固着力が所定値以下である。
【0033】
<<架橋性ゴム組成物>>
架橋性ゴム組成物は、架橋可能なゴム組成物であり、上述したゴム架橋物を製造する際に用いられる。そして、架橋性ゴム組成物は、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含有する炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む。なお、架橋性ゴム組成物は、上記成分以外に、ゴムの加工分野において通常使用される配合剤を含んでいてもよい。
【0034】
[2元系フッ素ゴム]
2元系フッ素ゴムは、フッ素含有単量体に由来する構造単位を含有し、且つ、2元共重合体からなるゴムである。そして、架橋性組成物が2元系フッ素ゴムを含むことにより、良好な耐熱性および耐圧縮永久歪み性を有するゴム架橋物およびシール材を得ることができる。
ここで、2元系フッ素ゴムの具体例としては、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。中でも、シール材の金属表面に対する非固着性を高める観点から、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いることが好ましい。
【0035】
そして、2元系フッ素ゴムとしてビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いる場合、当該ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体中のフッ素含有量が65質量%以上70質量%以下であることが好ましい。ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体中のフッ素含有量が上記所定の範囲内であれば、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。
【0036】
なお、市販されている2元系フッ素ゴムとしては、ケマーズ社製の「Viton A200」、「VITON A500」、「Viton A700」、「Viton AHV」、「Viton AL300」、「Viton AL600」(ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)などや、ダイキン工業社製の「ダイエル G-701」、「ダイエル G-702」、「ダイエル G-716」、「ダイエル G-751」、「ダイエル G-755」などや、住友3M社製の「ダイニオン FC-2145」、「ダイニオン FC-2230」、「FC-2178」などや、ソルベイ社製の「テクノフロン N215/U」、「テクノフロン N535」、「テクノフロン N935」、「テクノフロン N60HS」、「テクノフロン N90HS」などを好適に用いることができる。
【0037】
[炭素材料]
架橋性ゴム組成物に用いられる炭素材料は、カーボンナノチューブを含み、任意に、カーボンナノチューブ以外のその他の炭素材料を含む。
【0038】
-カーボンナノチューブ-
カーボンナノチューブ(CNT)としては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。カーボンナノチューブの層数が少ないほど、配合量が少量であっても、ゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性等の特性が向上するからである。
【0039】
また、カーボンナノチューブの平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。CNTの平均直径が1nm以上であれば、CNTの分散性を高め、ゴム架橋物およびシール材に金属表面に対する非固着性等の特性を安定的に付与することができる。また、CNTの平均直径が60nm以下であれば、少ない配合量であっても、ゴム架橋物およびシール材に金属表面に対する非固着性等の特性を効率的に付与することができる。
なお、本発明において、「カーボンナノチューブの平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像上で、例えば、100本のCNTについて直径(外径)を測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0040】
また、カーボンナノチューブとしては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満のCNTを用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超のCNTを用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超のCNTを用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを使用すれば、ゴム架橋物およびシール材の性能を更に向上させることができる。
なお、CNTの平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0041】
そして、カーボンナノチューブとしては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0042】
また、カーボンナノチューブは、平均長さが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、800μm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。CNTの平均長さが10μm以上であれば、少ない配合量でゴム架橋物およびシール材中において導電パスを形成でき、また、CNTの分散性を向上させることができる。そして、CNTの平均長さが800μm以下であれば、ゴム架橋物およびシール材の導電性を安定化させることができる。従って、CNTの平均長さを上記範囲内とすれば、ゴム架橋物およびシール材の表面抵抗率を十分に低下させることができる。
なお、本発明において、「カーボンナノチューブ」の平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像上で、例えば、100本のCNTについて長さを測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0043】
また、カーボンナノチューブは、BET比表面積が、200m/g以上であることが好ましく、400m/g以上であることがより好ましく、600m/g以上であることがさらに好ましく、2000m/g以下であることが好ましく、1800m/g以下であることがより好ましく、1600m/g以下であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブのBET比表面積が200m/g以上であれば、カーボンナノチューブの分散性を高め、少ない配合量でゴム架橋物およびシール材の導電性等の特性を十分に高めることができる。また、カーボンナノチューブのBET比表面積が2000m/g以下であれば、ゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性等の特性を安定化させることができる。
【0044】
また、カーボンナノチューブは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定されたカーボンナノチューブの吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、カーボンナノチューブのt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0045】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0046】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有するカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、カーボンナノチューブに多数の開口が形成されていることを示している。
【0047】
なお、カーボンナノチューブのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。カーボンナノチューブのt-プロットの屈曲点がかかる範囲内にあれば、カーボンナノチューブの分散性を高め、少ない配合量でゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性等の特性を高めることができる。具体的には、屈曲点の値が0.2未満であれば、カーボンナノチューブが凝集し易く分散性が低下し、屈曲点の値が1.5超であればカーボンナノチューブ同士が絡み合いやすくなり分散性が低下する虞がある。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0048】
更に、カーボンナノチューブは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。カーボンナノチューブのS2/S1の値がかかる範囲内であれば、カーボンナノチューブの分散性を高め、少ない配合量でゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性等の特性を高めることができる。
ここで、カーボンナノチューブの全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0049】
因みに、カーボンナノチューブの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0050】
更に、本発明に好適に使用し得るカーボンナノチューブは、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみのラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0051】
なお、CNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTは、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物およびキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0052】
そして、架橋性ゴム組成物中に配合するCNTの含有量は、前述した2元系フッ素ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることが更に好ましく、0.5質量部以上であることが一層好ましく、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることが更に好ましく、1.5質量部以下であることが一層好ましく、1質量部以下であることがより一層好ましい。CNTの含有量が上記下限値以上であれば、ゴム架橋物の金属表面に対する非固着性等の特性を高めることができる。また、CNTの含有量が上記上限値以下であれば、CNTの分散性が低下して、ゴム架橋物の金属表面に対する非固着性等の特性にムラが生じるのを抑制することができる。したがって、CNTの含有量が上記所定の範囲内であれば、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。また、架橋性ゴム組成物中のCNTの含有量が上記上限値以下であれば、得られるゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を十分に高く確保することもできる。
【0053】
-その他の炭素材料-
カーボンナノチューブ以外のその他の炭素材料としては、特に限定されることなく、既知の炭素材料を用いることができる。具体的には、その他の炭素材料としては、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料などを用いることができる。
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。また、繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体、および繊維状炭素ナノ構造体以外の繊維状炭素材料などを用いることができる。
【0054】
そして、その他の炭素材料としては、粒子状炭素材料を用いることが好ましく、カーボンブラックを用いることが特に好ましい。その他の炭素材料としてカーボンブラックを使用すれば、ゴム架橋物およびシール材に適度な強度を付与し、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を高めることができるからである。
架橋性ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、前述した2元系フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることが更に好ましく、20質量部以上であることが一層好ましく、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることが更に好ましい。架橋性ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量が上記下限以上であれば、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。また、架橋性ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量が上記上限以下であれば、ゴム架橋物およびシール材の柔軟性を良好に維持し、シール材のシール性を十分に高く確保することができる。
【0055】
ここで、カーボンブラックのBET比表面積は、8m/g以上100m/g以下であることが好ましい。カーボンブラックのBET比表面積が上記下限以上であれば、得られるゴム架橋物およびシール材の機械的強度を十分に高く確保することができる。一方、カーボンブラックのBET比表面積が上記上限以下であれば、得られるゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を十分に高く確保することができる。
【0056】
[ポリオール架橋剤]
ポリオール架橋剤は、上述した2元系フッ素ゴムの分子同士を架橋することにより、得られるゴム架橋物およびシール材に十分な弾性を与え、良好な耐圧縮永久歪み性を付与し得る成分である。
【0057】
そして、ポリオール架橋剤としては、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を高める観点から、ポリヒドロキシ芳香族化合物を好適に用いることができる。ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、レゾルシン、1,3-ジヒドロキシベンゼン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシスチルベン、2,6-ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’-テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’-テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。中でも、ビスフェノールAFを用いることが好ましい。
【0058】
架橋性ゴム組成物中のポリヒドロキシ芳香族化合物の含有量は、前述した2元系フッ素ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。架橋性ゴム組成物中のポリヒドロキシ芳香族化合物の含有量が上記下限以上であれば、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。また、架橋性ゴム組成物中のポリヒドロキシ芳香族化合物の含有量が上記上限以下であれば、過度な架橋によりゴム架橋物およびシール材の弾性がかえって損なわれることを防止し、シール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0059】
[配合剤]
架橋性ゴム組成物に任意に配合される配合剤としては、例えば、架橋促進剤、および受酸剤などの既知の配合剤が挙げられる。
【0060】
-架橋促進剤-
ここで、架橋促進剤としては、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、およびアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。架橋剤として上記所定の成分のうちの少なくとも1種を用いれば、上述したポリオール架橋剤による2元系フッ素ゴムの架橋反応を促進し、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。
【0061】
なお、架橋促進剤として使用し得るアンモニウム塩としては、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムアイオダイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムメチルスルフェート、8-エチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-プロピル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-エイコシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-テトラコシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-フェネチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-(3-フェニルプロピル)-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリドなどが挙げられる。また、ホスホニウム塩としては、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル-2-メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリド、およびベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。さらに、アミン化合物としては、環状アミン、1官能性アミン化合物などが挙げられる。
中でも、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を更に高める観点から、ホスホニウム塩を用いることが好ましく、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドを用いることがより好ましい。
【0062】
そして、架橋性ゴム組成物中の架橋促進剤の含有量は、前述した2元系フッ素ゴム100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。架橋性ゴム組成物中の架橋促進剤の含有量が上記下限以上であれば、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。また、架橋性ゴム組成物中の架橋促進剤の含有量が上記上限以下であれば、過度な架橋によりゴム架橋物およびシール材の弾性がかえって損なわれることを防止し、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0063】
-受酸剤-
受酸剤は、ポリオール架橋剤による2元系ゴムの架橋反応により発生したフッ化水素を吸収し得る成分である。したがって、架橋性ゴム組成物が受酸剤を含めば、フッ化水素によるゴム架橋物の劣化を抑制し得る。これにより、ゴム架橋物およびシール材の弾性が損なわれることを良好に抑制し、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。さらに、ゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性を高めることもできる。
【0064】
受酸剤としては、特に限定されることなく、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、珪酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。中でも、酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムを用いることが好ましく、これらを併用することがより好ましい。受酸剤として、酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムを併用すれば、ゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性および耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0065】
そして、受酸剤として酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムを併用する場合、架橋性ゴム組成物中の酸化マグネシウムの含有量は、前述した2元系フッ素ゴム100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましい。また、架橋性ゴム組成物中の水酸化カルシウムの含有量は、前述した2元系フッ素ゴム100質量部に対して、4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、6質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましい。架橋性ゴム組成物中の酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムの含有量がそれぞれ上記下限以上であれば、ゴム架橋物およびシール材の金属表面に対する非固着性および耐圧縮永久歪み性を一層高めることができる。また、架橋性ゴム組成物中の酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムの含有量がそれぞれ上記上限以下であれば、適正な架橋速度で架橋を行なうことができ、ゴム架橋物およびシール材の耐圧縮永久歪み性を更に高めることができる。
【0066】
[架橋性ゴム組成物の製造方法]
架橋性ゴム組成物は、上述した成分を既知の方法で混合することにより調製することができる。例えば、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含む炭素材料とを混合してなる混合物を調製する混合工程を行なった後に、当該混合物と、ポリオール架橋剤と、任意の配合剤等とを混練する混練工程を行なうことにより、架橋性ゴム組成物を効率良く調製することができる。
【0067】
-混合工程-
混合工程では、2元系フッ素ゴムと、炭素材料としてのカーボンナノチューブとを混合してなる混合物を調製する。
【0068】
2元系フッ素ゴムとカーボンナノチューブとの混合物の調製は、2元系フッ素ゴム中にカーボンナノチューブを分散させることが可能な任意の混合方法を用いて行うことができる。
例えば、有機溶媒などの分散媒に2元系ゴムを溶解または分散させてなるゴム分散液に対し、カーボンナノチューブを添加し、既知の分散処理を行って、分散処理液を得ることができる。あるいは、カーボンナノチューブを、2元系ゴムを溶解または分散することができる有機溶媒または分散媒に添加して分散処理を行い、得られたカーボンナノチューブ分散液に2元系ゴムを添加して、溶解または分散させて分散処理液を得ることもできる。
このようにして得られた分散処理液から、既知の方法により有機溶媒または分散媒を除去することより、2元系ゴムとカーボンナノチューブとの混合物を調製することができる。
【0069】
当該分散処理は、既知の分散処理方法を用いて行うことができる。そのような分散処理方法としては、特に限定されず、例えば、超音波ホモジナイザーや湿式ジェットミルや高速回転せん断分散機などが挙げられる。
【0070】
そして、得られた分散処理液から分散媒を除去して、混合物を取得する。なお、分散媒を除去する方法としては、凝固法、キャスト法、および乾燥法などの既知の方法を用いることができる。
【0071】
-混練工程-
混練工程では、混合物と、ポリオール架橋剤と、任意の配合剤等とを混練することにより、架橋性ゴム組成物を取得する。
具体的には、上述の混合工程で得られた混合物に、ポリオール架橋剤と、任意の配合剤、例えば、架橋促進剤、および受酸剤などを更に含有させて、混練することによって、架橋性ゴム組成物を得ることができる。当該混合物とポリオール架橋剤と任意の配合剤との混練は、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、加圧ニーダー、ブラベンダー(登録商標)、押出機などを用いて行うことができる。
なお、混練の際には、上述した成分に加えて、カーボンナノチューブ以外の炭素材料(例えば、カーボンブラックなど)、および2元系フッ素ゴムを更に添加してもよい。
【0072】
<<ゴム架橋物(シール材)の製造方法>>
ゴム架橋物は、上述した架橋性ゴム組成物を架橋することにより製造することができる。このとき、ゴム架橋物を所望の形状とすることで、シール材を製造することができる。具体的に、シール材は、架橋性ゴム組成物を加熱することにより、架橋反応を行ない、得られるゴム架橋物の形状を固定化することにより製造することができる。この場合において、例えば、架橋性ゴム組成物を所望の形状の金型に投入して加熱することで、プレス成形と架橋とを同時に行なうことができる。また、架橋性ゴム組成物を所望の形状の金型に投入して加熱することで、プレス成形と一次架橋とを同時に行なった後に、得られた一次架橋物をギヤーオーブン等の加熱装置により再度加熱することで二次架橋を行なうこともできる。
なお、架橋反応の温度および時間等の条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。
【0073】
<<ゴム架橋物の物性>>
[金属表面に対する固着力]
本発明のシール材に用いられるゴム架橋物は、金属表面と接触した状態で、250℃で70時間加熱された後の前記金属表面に対する固着力が、2N以下であることが必要であり、1.5N以下であることが好ましく、1N以下であることがより好ましく、0.4N以下であることが更に好ましい。ゴム架橋物の金属表面に対する固着力が上記上限以下であれば、シール材は金属表面に対して優れた非固着性を発揮することができる。
【0074】
[表面抵抗率]
また、本発明のシール材に用いられるゴム架橋物の表面抵抗率は、静電気放電(ESD)領域である1×10~1×10Ω/sq.または、導電性領域である1×10Ω/sq.以下とすることができる。
ゴム架橋物の表面抵抗率が1×10~1×10Ω/sq.である場合には、当該ゴム架橋物に対して帯電体が接触した場合であっても、激しい静電気放電を起こすことなく、その帯電を消散させることができる。また、ゴム架橋物の表面抵抗率が1×10Ω/sq.以下である場合には、当該ゴム架橋物に帯電する静電気等を瞬時に放電できる。
ゴム架橋物の表面抵抗率が上記範囲であることにより、当該ゴム架橋物からなるシール材は、異物の付着等の静電気による障害を良好に防止することができる。
【0075】
[圧縮永久歪み率]
さらに、本発明のシール材に用いられるゴム架橋物は、250℃で70時間加熱された後の圧縮永久歪み率が80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましく、55%以下であることが一層好ましい。上記所定の条件で加熱された後のゴム架橋物の圧縮永久歪み率が上記上限以下であれば、シール材は優れた耐圧縮永久歪み性を有するため、長期に亘って良好なシール性を発揮することができる。
【0076】
<<ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積>>
本発明のシール材に用いられるゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積Sは、5(m/g)以上であることが好ましく、5.5(m/g)以上であることがより好ましく、6(m/g)以上であることが更に好ましく、25(m/g)以下であることが好ましく、15(m/g)以下であることがより好ましい。ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積Sが上記下限以上であれば、シール材の金属表面に対する非固着性を更に高めることができる。一方、ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積Sが上記上限以下であれば、シール材の耐圧縮永久歪み性を十分に高く確保することができる。
なお、ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積Sの値は、ゴム架橋物の製造に用いる架橋性ゴム組成物中の炭素材料の種類および含有量を変更することにより調節することができる。例えば、BET比表面積が大きいカーボンナノチューブ等の繊維状炭素ナノ構造体の含有量を増やした場合、上記Sの値を効率良く高めることができる。一方、BET比表面積が小さい炭素材料、例えば、繊維状炭素ナノ構造体以外の炭素材料(カーボンブラック等)の含有量を高めたとしても、上記Sの値を効率良く高めることは困難である。
【0077】
<<ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Ca>>
ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caは、0.5以上であることが好ましく、1超であることがより好ましく、1.5以上であることが更に好ましく、2以上であることが一層好ましく、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。当該Cs/Caの比が0.5以上であれば、得られるゴム架橋物およびシール材は金属表面に対して更に優れた非固着性を発揮することができる。一方、当該Cs/Caの比が8以下であれば、ゴム架橋物表面に炭素材料が集中し過ぎず、ゴム架橋物内部にも炭素材料が十分量存在するため、得られるゴム架橋物およびシール材は十分な強度を発揮することができる。
【0078】
ここで、ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caの値は、ゴム架橋物の製造に用いる架橋性ゴム組成物中の成分、特に、炭素材料の種類および含有量を変更することにより調節することができる。
【0079】
なお、ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Ca(質量%)は、通常、上述した架橋性ゴム組成物中の炭素材料の含有割合(質量%)と一致する。ただし、例えば、架橋性ゴム組成物中の炭素材料の含有割合(質量%)が不明である場合は、JIS K-6226-2:2003に記載の方法に準拠してゴム架橋物を分析することにより、ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caを測定することができる。
【0080】
ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caを上述した所定の値以上とすることで、ゴム架橋物およびシール材が金属表面に対して更に優れた非固着性を発揮することができる理由は、明らかではないが、以下のように推察される。即ち、ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度が高くなることで、ゴム架橋物表面の2元系ゴムの濃度が低くなり、金属表面とゴム架橋物との物理的相互作用を小さくすることができるため、ゴム架橋物の金属表面に対する固着力を小さくすることができると推察される。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、ゴム架橋物の金属表面に対する固着力、圧縮永久歪み率、表面抵抗率、ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積S、およびゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caは、それぞれ以下の方法を使用して測定または算出した。
【0082】
<ゴム架橋物の金属表面に対する固着力>
架橋性ゴム組成物を、金型を用いて、10MPaに加圧しながら160℃で20分間プレス成形することにより、JIS B2401で定められたP-28(線径3.5mm、内径27.7mm、外径34.7mm)のOリングにプレス成形された一次架橋物を得た。次いで、得られた一次架橋物を、ギヤーオーブンにて、232℃、2時間の条件で加熱して二次架橋を行なった。得られたOリング状のゴム架橋物からなるシール材を半円状に切断し(厚さ方向に切断し)て、試験片を得た。試験片の片方の端部Aから1cm部分にアルミホイルを巻き、半円状の上面にシリコーンオイルを塗布した後、試験片を厚さ1mmのステンレス鋼(SUS304)の金属板で挟み、厚さ方向に25%圧縮して、試験体を得た。この試験体を250℃のギヤーオーブンに入れて、70時間放置した。放置終了後、ギヤーオーブンより試験体を取り出し、室温にて冷却した後、圧縮解放して、上面の金属板(シリコーンオイル側の金属板)を取り除いた。半円状のOリングが貼り付いた状態の金属板を固定した後、試験片の端部Aのアルミホイルを巻いた部分にクリップを付け、メカニカルフォースゲージ(イマダ製、FB-20N)をクリップに引っ掛けた状態で垂直方向に引っ張り、その時に測定された最大荷重(N)を、ゴム架橋物の金属表面に対する固着力とした。上述の方法により測定されたゴム架橋物の金属表面に対する固着力の値が小さいほど、当該ゴム架橋物からなるシール材は金属表面に対して優れた非固着性を発揮し得ることを示す。
【0083】
<圧縮永久歪み率>
架橋性ゴム組成物を、金型を用いて、10MPaに加圧しながら160℃で25分間プレス成形することにより、直径29mm、高さ12.7mmの円柱状の一次架橋物を得た。次いで、得られた一次架橋物を、ギヤーオーブンにて、さらに232℃、2時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、円柱状のゴム架橋物からなるシール材を得た。そして、得られたシール材を構成するゴム架橋物を用いて、JIS K6262に従い、ゴム架橋物を25%圧縮させた状態で、250℃の環境下に70時間置いた後、圧縮永久歪み率を測定した。ゴム架橋物の圧縮永久歪み率の値が小さいほど、当該ゴム架橋物からなるシール材は耐圧縮永久歪み性に優れる。
【0084】
<表面抵抗率>
架橋性ゴム組成物を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、10MPaに加圧しながら160℃で20分間プレス成形してシート状の一次架橋物を得た。次いで、得られたシート状の一次架橋物を、ギヤーオーブンにて、232℃、2時間の条件で加熱して二次架橋することにより、シート状のゴム架橋物からなるシール材を得た。得られたシール材を試験片として、温度23℃、湿度50%RHの条件下において、低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、製品名「ロレスタ-GP MCP-T600」、印加電圧90V、LSPプローブ)を用い、試験片面内の中央部の表面抵抗率を測定することで、ゴム架橋物の表面抵抗率を得た。ゴム架橋物の表面抵抗率の値が小さいほど、当該ゴム架橋物からなるシール材は導電性に優れ、異物の付着等の静電気による障害を良好に防止し得る。
【0085】
<ゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積S>
実施例および比較例で得られたゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積Sを上述した式(1)により算出した。
なお、ゴム架橋物の質量と、当該ゴム架橋物の調製に用いた架橋性ゴム組成物の質量とは一致するものとし、ゴム架橋物全量A(g)中の各炭素材料C~Cの含有量R~R(g)は、当該ゴム架橋物の調製に用いた架橋性ゴム組成物全量A(g)中の各炭素材料C~Cの含有量R’~R’(g)とそれぞれ一致するものとする。
【0086】
<ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Ca>
下記の方法により、ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csと、ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとをそれぞれ求めることにより、両者の比Cs/Caを算出した。
<<ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Cs>>
架橋性ゴム組成物を用い、上述した成形体の表面抵抗率の測定時と同様にして得られたシート状のゴム架橋物からなるシール材を、3mm角に切断し、ゴム架橋物表面が上面となるようカーボン両面テープに固定し、試験片とした。X線光電子分光分析(XPS、KRATOS社製、「AXIS ULTRA DLD」)装置を用いて得られた試験片を分析することにより、ゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Cs(質量%)を算出した。XPSの分析方法および測定条件、並びにCsの算出方法は以下の通りである。
[分析方法]
ワイドスキャン分析およびナロースキャン分析
[測定条件]
X線源:AlKαモノクロメータ
X線条件:150W(加速電圧15kV,電流値10mA)
光電子取り込み角度:試料表面と検出器方向の角度θ90°
[測定条件]
上記の測定条件により、最初にワイドスキャン分析を行い、ゴム架橋物に存在する元素を確認し、その後、検出された全元素のナロースキャン分析を行った。次いで、解析アプリケーション(KRATOS社製、「Vision Processing」)を用いて、炭素1s軌道の炭素材料に由来するピークを284.5eVに補正した後、測定された各元素のピーク面積を積分し、元素別の感度係数で補正後、ゴム架橋物表面の元素比(炭素濃度dC(質量%))を算出した。次いで、282eV以上298eV以下に検出される炭素1s軌道の得られたスペクトルの波形分離を行うことで、全炭素中における炭素材料に由来する炭素濃度dCs(質量%)を算出した。次いで、各元素比から算出された炭素濃度dCと、全炭素中における炭素材料に由来するカーボン濃度dCsとの積を利用した下記の式により、ゴム架橋物表面に存在するカーボンフィラー濃度Cs(質量%)を算出した。
Cs=(dC×dCs)/100
<<ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Ca>>
ゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caは、架橋性ゴム組成物中の炭素材料の含有割合(質量%)と一致する。そこで、下記の式によりCa(質量%)を算出した。
Ca=(架橋性ゴム組成物中の炭素材料の含有量/架橋性ゴム組成物中の全成分量)×100
【0087】
(実施例1-1)
<単層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ>
炭素材料Cとして、スーパーグロース法により製造されたカーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー社製「ZEONANO SG101」)を用いた。当該カーボンナノチューブ(適宜、「SGCNT」と称する)は、主として単層CNTからなり、ラマン分光光度計での測定において、100~300cm-1の低波数領域に、単層CNTに特徴的なラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、BET比表面積計(日本ベル(株)製、BELSORP(登録商標)-max)を用いて測定したSGCNTのBET比表面積は1347m/g(未開口)であった。更に、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した100本のSGCNTの直径および長さを測定し、SGCNTの平均直径(Av)、直径の標準偏差(σ)および平均長さを求めたところ、平均直径(Av)は3.3nmであり、標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)は1.9nmであり、それらの比(3σ/Av)は0.58であり、平均長さは500μmであった。更に、日本ベル(株)製の「BELSORP(登録商標)-mini」を用いてSGCNTのt-プロットを測定したところ、t-プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。そして、S2/S1は0.09であり、屈曲点の位置tは0.6nmであった。
【0088】
<架橋性ゴム組成物の調製>
<<混合物の調製>>
有機溶媒としてのメチルエチルケトン900gに2元系フッ素ゴム(ケマーズ社製、Viton A500、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素含有量:66質量%)100gを加え、24時間撹拌して2元系フッ素ゴムを溶解させた。
次に、得られた2元系フッ素ゴム溶液に対し、炭素材料CとしてのSGCNTを4g加え、撹拌機(PRIMIX製、ラボ・リューション(登録商標))を用いて15分間撹拌した。更に、湿式ジェットミル(吉田機械興業製、L-ES007)を用いて、SGCNTを加えた溶液を90MPaで分散処理した。その後、得られた分散処理液を4000gのイソプロピルアルコールへ滴下し、凝固させて黒色固体を得た。そして、得られた黒色固体を60℃で12時間減圧乾燥し、2元系フッ素ゴムとSGCNTとの混合物(マスターバッチ)を得た。
【0089】
<<混練>>
その後、50℃のオープンロールを用いて、上述の2元系フッ素ゴム100gとSGCNT4gとの混合物(マスターバッチ)のうちの52gと、2元系フッ素ゴム(ケマーズ社製、Viton A500)50gと、受酸剤としての酸化マグネシウム(協和化学工業社製、商品名「キョーワマグ150」)3gおよび水酸化カルシウム(近江化学工業社製、商品名「カルディック2000」)6gと、ポリオール系架橋剤および架橋促進剤の混合剤(ケマーズ社製、商品名「VC-50」、ビスフェノールAF/ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドの質量比約4/1の混合物)2.5gとを混練し、ロール間隔を2mmに調整した後、ゴム混練物をロールに巻き付け、左右切り返しを各3回実施後、シート出しを行うことで架橋性ゴム組成物を得た。
得られた架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物からなるシール材を用いて、ゴム架橋物の金属表面に対する固着力、表面抵抗率、圧縮永久歪み率、およびゴム架橋物に含まれる炭素材料の表面積を測定または算出した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例1-2)
混練の際に、上述の混合物(マスターバッチ)の添加量を52gから26gに変更し、2元系フッ素ゴム(ケマーズ社製、Viton A500)の添加量を50gから75gに変更した以外は実施例1-1と同様にして架橋性ゴム組成物を調製した。そして、実施例1-1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例1-3)
混練の際に、炭素材料Cとしてのカーボンブラック(Cancarb製、サーマックスMT、BET比表面積:9.1m/g)20gを更に加えた以外は実施例1-2と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製した。そして、実施例1-1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例1-4)
混練の際に、上述の混合物(マスターバッチ)の添加量を52gから13gに変更し、2元系フッ素ゴム(ケマーズ社製、Viton A500)の添加量を50gから87.5gに変更し、炭素材料Cとしてのカーボンブラック(Cancarb製、サーマックスMT、BET比表面積:9.1m/g)20gを更に加えた以外は実施例1-1と同様にして架橋性ゴム組成物を調製した。そして、実施例1-1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1-1)
<架橋性ゴム組成物の調製>
<<混練>>
50℃のオープンロールを用いて、2元系フッ素ゴム(ケマーズ社製、Viton A500)100gと、炭素材料Cとしてのカーボンブラック(Cancarb製、サーマックスMT、BET比表面積:9.1m/g)20gと、受酸剤としての酸化マグネシウム(協和化学工業社製、商品名「キョーワマグ150」)3gおよび水酸化カルシウム(近江化学工業社製、商品名「カルディック2000」)6gと、ポリオール系架橋剤および架橋促進剤の混合剤(ケマーズ社製、商品名「VC-50」、ビスフェノールAFとベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドとの質量比約4/1の混合物)2.5gとを混練し、ロール間隔を2mmに調整した後、ゴム混練物をロールに巻き付け、左右切り返しを各3回実施後、シート出しを行うことで架橋性ゴム組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例2-1)
実施例1-1と同様にして架橋性ゴム組成物を調製した。得られた架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物からなるシール材を用いて、ゴム架橋物の金属表面に対する固着力、表面抵抗率、およびゴム架橋物表面の炭素材料の濃度Csとゴム架橋物中の炭素材料の平均濃度Caとの比Cs/Caを測定または算出した。結果を表2に示す。
【0095】
(実施例2-2)
実施例1-2と同様にして架橋性ゴム組成物を調製した。そして、実施例2-1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0096】
(比較例2-1)
混練の際に、カーボンブラック(Cancarb製、サーマックスMT)の添加量を20gから15gに変更した以外は比較例1-1と同様にして架橋性ゴム組成物を調製した。そして、実施例2-1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
(比較例2-2)
混練の際に、カーボンブラック(Cancarb製、サーマックスMT)の添加量を20gから30gに変更した以外は比較例1-1と同様にして架橋性ゴム組成物を調製した。そして、実施例2-1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表1、2より、2元系フッ素ゴムと、カーボンナノチューブを含有する炭素材料と、ポリオール架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、且つ、金属表面と接触した状態で所定の条件下で加熱された後の前記金属表面に対する固着力が所定値以下であるゴム架橋物が得られる実施例1-1~1-4、2-1~2-2では、金属表面に対して優れた非固着性を発揮し得るシール材を提供できることが分かる。
一方、カーボンナノチューブを含有しない炭素材料を使用した比較例1-1、2-1~2-2では、得られるゴム架橋物は、金属表面と接触した状態で所定の条件下で加熱された後の前記金属表面に対する固着力が所定値を超えるため、当該ゴム架橋物からなるシール材は金属表面に対する非固着性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、金属表面に対する非固着性に優れたシール材を提供することができる。