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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】炭化水素吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20230711BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230711BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20230711BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B01J20/18 D
B01J20/28 Z ZAB
B01D53/92 280
B01D53/92 352
C01B39/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019069186
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163345
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中尾 圭太
(72)【発明者】
【氏名】淺川 哲夫
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107262145(CN,A)
【文献】Studies in Surface Science and Catalysis,Vol. 116,1998年,P. 297-306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B01D 53/92
C01B 39/48
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有するEMT型ゼオライトを含み、該銅の含有量が0.5重量%以上4.0重量%以下である炭化水素吸着剤。
【請求項2】
EMT型ゼオライトのSiO/Alが5以上50以下であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素吸着剤。
【請求項3】
アルカリ金属含有量が1.0重量%以下である請求項1又は請求項2に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項4】
EMT型ゼオライトのBET比表面積が400m/g以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の自動車排ガス中の炭化水素吸着剤。
【請求項5】
-TPR測定において、300℃以上450℃以下の温度にピークトップを有する水素消費ピークを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の炭化水素吸着剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の炭化水素吸着剤を使用することを特徴とする炭化水素含有気体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶などの移動体に使用されている内燃機関から排出される排ガスは炭化水素を多く含み、内燃機関から排出される炭化水素は三元触媒により浄化される。ただし三元触媒が機能するためには200℃以上の温度環境が必要であるため、いわゆるコールドスタート時など、三元触媒が機能しない温度域では炭化水素吸着剤に炭化水素を吸着し、三元触媒が機能し始める温度域で吸着剤から炭化水素を放出し、これを三元触媒で分解・浄化している。
【0003】
自動車排ガスはエンジン運転状況により、排ガス温度が900℃以上に達する。そのため、炭化水素吸着剤には高い耐熱性が求められる。
【0004】
低温時の排ガスからの炭化水素を吸着浄化する方法として、SiO/Alモル比が50~2000であるモルデナイト、BEA型ゼオライト、ZSM-5などのゼオライトにPt、Pd及びRhからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む排ガス浄化用吸着触媒(特許文献1)、Agを担持した分子篩(特許文献2)、Cu及びCuとCo,Ni,Cr,Fe,Mn,Ag,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種以上の金属でイオン交換したZSM-5ゼオライト(特許文献3)が提案されている。
【0005】
これらの吸着剤を用いた炭化水素の吸着除去方法は、いずれもが排ガス中に含まれる炭化水素をエンジン始動時の低温域で吸着剤に一旦吸着させて、且つ排ガス浄化触媒が作動する温度以上で吸着剤から脱離した炭化水素を触媒浄化するものであるが、従来の吸着剤では、何れも熱水雰囲気での耐久性、特に900℃程度の高温での耐久性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平07-213910号公報
【文献】特開平06-126165号公報
【文献】特開平06-210163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温高湿の還元及び/又は酸化雰囲気下への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、銅を含有するEMT型ゼオライトが、炭化水素吸着剤として用いたときに高温高湿の還元及び/又は酸化雰囲気下への暴露後における吸着性能の劣化が小さいこと見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 銅を含有するEMT型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤。
[2] EMT型ゼオライトのSiO/Alが5以上50以下である前記[1]記載の炭化水素吸着剤。
[3] 銅の含有量が0.5重量%以上4.0重量%以下である前記[1]又は[2]記載の炭化水素吸着剤。
[4] EMT型ゼオライトのBET比表面積が400m/g以上である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の炭化水素吸着剤。
[5] H-TPR測定において、300℃以上450℃以下の温度にピークトップを有する水素消費ピークを有する前記[1]乃至[4]のいずれかに記載の炭化水素吸着剤。
[6] 前記[1]乃至[5]のいずれかに記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素含有気体の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高温高湿の還元及び/又は酸化雰囲気下への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の炭化水素吸着剤について実施形態を示して説明する。
【0012】
本実施形態において、炭化水素吸着剤はEMT型ゼオライトを含む。EMT型ゼオライトはEMT構造を有するゼオライトであり、EMT構造を有する結晶性アルミノシリケートであることが好ましい。EMT構造は、国際ゼオライト学会で「EMT」として定義された構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)である。当該構造はCollection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition(2007)に記載の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンによって確認することができる。
【0013】
EMT型ゼオライトの結晶構造には酸素6員環からなる二重酸素6員環(以下、「D6R」ともいう。)を含んでおり、D6Rを構成するアルミニウムと銅とが特に強く相互作用する。これにより、銅を分散性の高い状態でゼオライト中、主として結晶構造中に保持し、EMT型ゼオライトの炭化水素吸着特性が低下しにくくなる。
【0014】
本実施形態において、EMT型ゼオライトのSiO/Alは、耐熱性及び炭素吸着性能の観点から、5以上50以下が好ましく、5以上30以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態において、EMT型ゼオライトのBET比表面積は400m/g以上、更に500m/g以上であることが好ましい。BET比表面積が高いほど吸着できる炭化水素量が多くなる傾向にある。また、BET比表面積は750m/g以下が好ましく、700m/g以下がより好ましい。
【0016】
本実施形態において、EMT型ゼオライトは銅を含有する。銅を含有するEMT型ゼオライトと比べ、銅を含有しないEMT型ゼオライトは炭化水素の保持力が著しく低い。銅を含有しないEMT型ゼオライトに吸着された殆どの炭化水素は、容易にEMT型ゼオライトから再放出される。EMT型ゼオライトが銅を含有することで炭化水素とEMT型ゼオライトの相互作用がより強くなり、吸着した炭化水素がEMT型ゼオライトから再放出されにくくなる。
【0017】
本実施形態において、EMT型ゼオライトに含有される銅は、EMT型ゼオライトに修飾された状態であることが好ましく、さらに、銅の状態は、二価の銅(Cu2+)であることが好ましく、分散性の高い二価の銅(以下、「分散銅」ともいう。)であることがより好ましい。高分散銅としてCu2+イオン又はCuOクラスターの少なくともいずれかが挙げられ、Cu2+イオンであることが好ましい。
【0018】
本実施形態において、EMT型ゼオライトが含有する銅の状態はH-TPR測定における、銅の還元に伴う水素消費ピークにより確認できる。耐久性の低い銅担持ゼオライトの場合、水素消費ピークは300℃未満にピークトップを有する。本実施形態において、水素消費ピークは、300℃以上450℃以下にピークトップを有することが好ましく、350℃以上450℃以下にピークトップを有することがより好ましい。
【0019】
本実施形態におけるH-TPR測定の条件として以下の条件を挙げることができる。
【0020】
測定雰囲気 : 水素5体積%含有ヘリウム雰囲気
流量 : 30mL/分
昇温速度 : 10℃/分
測定温度 : 50~700℃
サンプル量 : 0.3g
EMT型ゼオライトの銅の含有量は0.5重量%以上4.0重量%以下が好ましく、1.0重量%以上3.0重量%以下であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態において、EMT型ゼオライトの銅含有量は、EMT型ゼオライトに含有される金属を酸化物換算した重量に対する、銅の重量割合である。例えば、銅(Cu)及びアルカリ金属(M)を含有するEMT型ゼオライトの銅含有量は以下の式から求めることができる。
【0022】
銅含有量(重量%)=W’Cu/(WAl+WSi+W+WCu)×100
上式において、W’Cuは銅(Cu)の含有量である。WAl、WSi、W及びWCuは、それぞれ、アルミニウム(Al)を酸化物換算(Al)した重量、WSiはケイ素(Si)を酸化物換算(SiO)した重量、Wはアルカリ金属(M)を酸化物換算(MO)した重量、及び、WCuは銅を酸化物換算(CuO)した重量である。
【0023】
本実施形態において、EMT型ゼオライトはアルカリ金属を含有してもよく(すなわち、アルカリ金属含有量が0重量%を超えていてもよく)、アルカリ金属含有量が1.0重量%以下であることが好ましい。これにより、本実施形態の炭化水素吸着剤は、高温高湿の還元及び/又は酸化雰囲気への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す傾向がある。アルカリ金属含有量は0重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、0重量%以上0.3重量%以下であることがより好ましく、0重量%以上0.25重量%以下であることが更に好ましい。
【0024】
本実施形態において、EMT型ゼオライトが含有するアルカリ金属はカリウム(K)又はナトリウム(Na)の少なくともいずれかであることが挙げられ、特にアルカリ金属がナトリウムであることが挙げられる。
【0025】
本実施形態において、アルカリ金属含有量は、EMT型ゼオライトの重量に対するアルカリ金属を酸化物換算した重量の割合である。カリウム及びナトリウムの酸化物換算は、それぞれ、酸化カリウム(KO)及び酸化ナトリウム(NaO)である。
【0026】
本実施形態において、炭化水素吸着剤は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤として、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト及びセピオライトの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0027】
本実施形態において、炭化水素吸着剤は、炭化水素含有気体の処理方法として好適に使用することができる。
【0028】
炭化水素含有気体は炭化水素を含有する気体であり、該炭化水素は脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素の少なくともいずれかであればよく、炭素数6以上15以下の炭化水素であることが好ましく、芳香族炭化水素であることがより好ましく、ベンゼン、トルエン及びキシレンの群から選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0029】
炭化水素含有気体の炭化水素濃度は、メタン換算で0.001体積%以上5体積%以下であることが挙げられ、0.005体積%以上3体積%以下であることが好ましい。また、炭化水素含有気体は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び水の群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0030】
炭化水素吸着剤は炭化水素の吸着方法に使用でき、炭化水素吸着剤が高温に暴露される環境下における炭化水素の吸着方法に使用することが好ましく、内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することがより好ましく、移動体の内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することが更に好ましい。
【0031】
本実施形態において、炭化水素吸着剤と炭化水素含有気体を接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう。)、を有する方法により、炭化水素吸着剤を炭化水素の吸着方法に使用することができる。
【0032】
接触工程において、炭化水素吸着剤の形状は任意であり、粉末又は成形体の少なくともいずれかを挙げることができる。
【0033】
炭化水素吸着剤の形状が粉末である場合、炭化水素吸着剤を含むスラリーを基材に塗布し、これを含む吸着部材として使用することができる。炭化水素吸着剤の形状が成形体である場合、例えば、転動造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形の群から選ばれる少なくとも1種、などの任意の成形方法で任意の形状として使用することができる。成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形状及び花弁状の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0034】
接触工程において、炭化水素吸着剤と炭化水素含有気体とを接触させる条件は任意である。接触条件として以下の条件を例示することができる。
【0035】
空間速度 : 100hr-1以上500000hr-1以下
接触吸着 : -30℃以上200℃以下
本実施形態において、銅を含有するEMT型ゼオライトの製造方法としては特に制限がなく、例えば、銅源を用いてEMT型ゼオライトに銅を含有させる方法が挙げられ、その方法は特に限定されない。
【0036】
該銅を含有させる方法としては、例えば、EMT型ゼオライトと銅源とを接触させる工程、及び該工程後のEMT型ゼオライトを焼成する工程、を有する方法が挙げられる。
【0037】
銅源は銅(Cu)を含む化合物であり、銅の塩であることが好ましく、銅を含む硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、硝酸銅、硫酸銅及び酢酸銅の群から選ばれる少なくともいずれかであることが更に好ましい。
【0038】
EMT型ゼオライトと銅源とを接触させる工程において、EMT型ゼオライトと銅源とを接触させる方法としては公知の方法を適用することができ、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法及び物理混合法の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。EMT型ゼオライトに銅を修飾させるため、該接触方法は、イオン交換法又は含侵担持法の少なくともいずれかであることが好ましく、含侵担持方法であることがより好ましい。
【0039】
EMT型ゼオライトと銅源との接触後、EMT型ゼオライトは任意の方法で洗浄及び乾燥してもよい。洗浄方法として十分量の水による洗浄が挙げられ、乾燥方法として空気中100℃以上150℃以下で5時間以上30時間以下処理することが挙げられる。
【0040】
焼成工程おける焼成条件は任意であるが、以下の条件を挙げることができる。
【0041】
焼成雰囲気 : 酸化雰囲気、好ましくは大気中
焼成温度 : 400℃以上600℃以下
焼成時間 : 30分以上5時間以下
【実施例
【0042】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(BET比表面積)
測定試料を350℃で2時間処理した。その後、通常の窒素吸着装置(装置名:BELSORP-max、MicrotracBEL社製)を使用し、測定温度77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線の相対圧力0.01以上0.1以下の範囲について、BET法を使用してBET比表面積を算出した。
【0044】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定し、得られた各元素の測定値から組成を求めた。
(炭化水素吸着率の測定)
炭化水素吸着剤を加圧成形及び粉砕した後、凝集径20~30メッシュの凝集粒子とした。当該凝集粒子0.1gを常圧固定床流通式反応管に充填し、窒素流通下、500℃で1時間処理した後、50℃まで降温した。その後、炭化水素吸着剤に炭化水素含有気体を流通させると同時に昇温させ、炭化水素吸着率を測定した。
【0045】
炭化水素含有気体の組成及び炭化水素吸着測定の条件を以下に示す。
【0046】
炭化水素含有気体 :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
酸素 1体積%
水 3体積%
窒素 残部
ガス流量 :200mL/分
昇温速度 :10℃/分
測定温度 :50℃以上200℃以下
測定時間 :15分
GC-8A(株式会社 島津製作所)を用いて、水素イオン化検出器(FID)を使用し、炭化水素吸着剤を通過した後のガス中の炭化水素を連続的に定量分析した。常圧固定床流通式反応管の入口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「入口濃度」とする。)と、常圧固定床流通式反応管の出口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「出口濃度」とする。)を測定した。
【0047】
入口濃度の積分値に対する出口濃度(メタン換算濃度)の積分値の割合を炭化水素吸着率として求めた。
(還元水熱耐久処理)
処理ガス :プロピレン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 10体積%
窒素 残部
ガス流量 :300mL/分
空間速度 :6000hr-1
処理温度 :900℃
処理時間 :2時間
(酸化水熱耐久処理)
炭化水素吸着剤を加圧成形及び粉砕した後、凝集径20~30メッシュの凝集粒子とした。以下の条件で酸化水熱耐久処理を行った。
【0048】
処理ガス :水 10体積%
空気 残部
ガス流量 :300mL/分
空間速度 :6000hr-1
処理温度 :900℃
処理時間 :2時間
実施例1
SiO/Alが9であるEMT型ゼオライト10gと、硝酸銅水溶液2.58g(硝酸銅三水和物0.58g含有)とを混合した後、空気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後のEMT型ゼオライトを空気中、550℃で2時間焼成することで銅を含有するEMT型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0049】
得られた銅を含有するEMT型ゼオライトはSiO/Alが9、銅含有量が1.5重量%、BET比表面積が585m/gであった。
【0050】
実施例2
SiO/Alが9であるEMT型ゼオライト10gと、硝酸銅水溶液2.70g(硝酸銅三水和物0.97g含有)とを混合した後、空気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後のEMT型ゼオライトを空気中、550℃で2時間焼成することで銅を含有するEMT型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0051】
得られた銅を含有するEMT型ゼオライトはSiO/Alが9、銅含有量が2.5重量%、BET比表面積が578m/gであった。
【0052】
比較例1
SiO/Alが28であるMFI型ゼオライト10gと、硝酸銅水溶液2.58g(硝酸銅三水和物0.58g含有)とを混合した後、空気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後のMFI型ゼオライトを空気中、550℃で2時間焼成することで銅を含有するMFI型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0053】
得られた銅を含有するMFI型ゼオライトはSiO/Alが28、銅含有量が1.5重量%であった。
【0054】
比較例2
SiO/Alが40であるBEA型ゼオライト10gと、硝酸銅水溶液2.58g(硝酸銅三水和物0.58g含有)とを混合した後、空気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後のBEA型ゼオライトを空気中、550℃で2時間焼成することで銅を含有するBEA型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0055】
得られた銅を含有するBEA型ゼオライトはSiO/Alが40、銅含有量が1.5重量%であった。
【0056】
測定例1
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の炭化水素吸着剤を、それぞれ、還元水熱耐久処理した。還元水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。結果を下表に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、本発明の炭化水素吸着剤は、還元水熱耐久処理において、MFI型ゼオライトやBEA型ゼオライトなど炭化水素吸着剤として従来から使用されているゼオライトに銅を含有させたものよりも高い炭化水素吸着率を示すことが確認できる。
【0059】
測定例2
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の炭化水素吸着剤を、それぞれ、酸化水熱耐久処理した。酸化水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。結果を下表に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2より、本発明の炭化水素吸着剤は、酸化水熱耐久処理において、MFI型ゼオライトやBEA型ゼオライトなど炭化水素吸着剤として従来から使用されているゼオライトに銅を含有させたものよりも高い炭化水素吸着率を示すことが確認できる。
【0062】
測定例3
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の炭化水素吸着剤を、それぞれ、加圧成形及び粉砕した後、凝集径12~20メッシュの凝集粒子とした。当該凝集粒子を、それぞれ、0.3g秤量し、BELCATII(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて、H-TPR測定した。前処理及びH-TPR測定の条件を以下に示し、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の結果を下表に示す。
【0063】
前処理 : 雰囲気 ヘリウム雰囲気
処理温度 300℃
処理時間 0.5時間
-TPR : 雰囲気 水素5体積%含有ヘリウム雰囲気
流量 30mL/分
昇温速度 10℃/分
測定温度 50℃以上700℃以下
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1及び実施例2の炭化水素吸着剤は350℃以上にピークトップを有する水素消費ピークが確認できるのに対し、比較例1及び比較例2の炭化水素吸着剤のピークトップ温度は260℃付近であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の炭化水素吸着剤は、高温高湿の還元及び/又は酸化雰囲気下に暴露される環境における炭化水素の吸着方法に使用することができ、特に自動車排ガス等の内燃機関の排ガス中の炭化水素を吸着する方法に使用することができる。