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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】接着剤、積層体、電池用包装材及び電池
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/02 20060101AFI20230711BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20230711BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20230711BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230711BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20230711BHJP
   C09J 201/06 20060101ALI20230711BHJP
   H01M 50/10 20210101ALI20230711BHJP
   H01M 50/183 20210101ALI20230711BHJP
【FI】
C09J163/02
C09J163/00
B32B15/092
B65D65/40 D
H01G11/78
C09J201/06
H01M50/10
H01M50/183
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019096772
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2019218534
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018114555
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中村英美
(72)【発明者】
【氏名】神山 達哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰
(72)【発明者】
【氏名】水口 良
(72)【発明者】
【氏名】中村 信哉
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-315595(JP,A)
【文献】特開2015-059200(JP,A)
【文献】特開2004-156024(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126520(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221801(WO,A1)
【文献】特開2016-183223(JP,A)
【文献】特開2006-335860(JP,A)
【文献】特開2009-167372(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 201/06
C09J 163/02
C09J 163/00
B32B 15/092
B65D 65/40
H01M 50/10
H01M 50/183
H01G 11/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン由来の構造を有する酸基含有オレフィン樹脂(A)、エポキシ化合物を含む硬化剤(B)を含み、前記硬化剤(B)が下記一般式1で表されるエポキシ化合物(B1)を含むものである接着剤。
【化1】
(一般式1中、R 及びR はそれぞれ水素原子又はメチル基を、R ~R はそれぞれ水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。Xはエチレンオキシエチル基、ジ(エチレンオキシ)エチル基、トリ(エチレンオキシ)エチル基、プロピレンオキシプロピル基、ジ(プロピレンオキシ)プロピル基、トリ(プロピレンオキシ)プロピル基、又は炭素原子数2~15のアルキレン基を表す。また、nは自然数でありその平均は1.2~5である。)
【請求項2】
前記酸基含有オレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が40,000以上150,000以下である請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記酸基含有オレフィン樹脂(A)の融点が50℃以上120℃以下である請求項1または2のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項4】
前記エポキシ化合物(B1)は、前記酸基含有オレフィン樹脂(A)が含有するカルボキシル基と、前記硬化剤(B)が含有するエポキシ基との当量比(エポキシ基/カルボキシル基)が0.01以上10以下となる範囲で用いられる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項5】
前記硬化剤(B)が下記一般式2で表されるエポキシ化合物(B2)を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の接着剤。
【化2】
(一般式2中、R及びRはそれぞれ水素原子又はメチル基を、R~Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)
【請求項6】
第1の基材と、第2の基材と、前記第1の基材と前記第2の基材とを貼り合せる接着層とを含み、前記接着層が請求項1乃至5のいずれか一項に記載の接着剤の硬化塗膜であることを特徴とする積層体。
【請求項7】
ポリオレフィンフィルムと、
樹脂フィルムと、
前記ポリオレフィンフィルムと前記樹脂フィルムとの間に配置された金属箔と、
前記ポリオレフィンフィルムと前記金属箔との間に配置された接着層と、を含み、
前記接着層が請求項1乃至5のいずれか一項に記載の接着剤の硬化塗膜であることを特徴とする電池用包装材。
【請求項8】
請求項7に記載の電池用包装材を成型してなる電池用容器。
【請求項9】
請求項8に記載の電池用容器を使用してなる電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤、詳しくは樹脂基材と金属基材とを接着するのに好適な接着剤、当該接着剤を用いて得られる積層体、二次電池用外装材及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される二次電池は、正極、負極およびその間に、電解液等を封入した構成をとっている。また、正極と負極の電気を外部に取り出すためのリード線を封入するための封入袋として、オレフィン樹脂からなるヒートシール層と、アルミニウム箔等の金属箔や金属蒸着層からなる金属基材と、プラスチックとを接着剤を用いて貼り合せた積層体を用いることが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-132716号公報
【文献】国際公開第2014/123183号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着剤を介してオレフィン樹脂からなるヒートシール層と金属基材とを貼り合せる際には、一般的に、加温しながら接着剤の硬化を促進する、いわゆるエージング工程が設けられる。エージング工程におけるエージング温度、エージング時間は適宜選択すればよいが、一例としてオレフィン樹脂の熱収縮影響が小さい80℃以下で行うことが好ましい。一方で、エージング温度が低いほど、またエージング時間が短いほど接着剤の特性が発揮され難くなる傾向がある。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、低温でエージングした場合であってもオレフィン樹脂のような非極性の基材と金属基材との接着性に優れた接着剤を提供することを目的とする。さらに、このような接着剤を用いて得られる積層体、当該積層体を用いて得られる二次電池外装材および電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸基含有樹脂(A)、硬化剤(B)を含み、硬化剤(B)が必須成分として芳香核に他の基との結合部位を有する芳香族炭化水素基(a1)と、エーテル結合を含む炭化水素基(a2)または炭素原子数2~15の直鎖状アルキレン基(a3)とが、アセタール結合(a4)を介して結合した構造を有し、かつ、グリシジルオキシ基が芳香族炭化水素基(a1)に結合した構造を有するエポキシ化合物(B1)を含む接着剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着剤は、低温でエージングした場合であってもオレフィン樹脂のような非極性の基材と金属基材との接着性に優れる。また、本発明の積層体は接着性、耐電解液性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<接着剤>
本発明の接着剤は、酸基含有樹脂(A)と、硬化剤(B)とを含み、硬化剤(B)は必須成分として芳香核に他の基との結合部位を有する芳香族炭化水素基(a1)と、エーテル結合を含む炭化水素基(a2)または炭素原子数2~15の直鎖状アルキレン基(a3)とが、アセタール結合(a4)を介して結合した構造を有し、かつ、グリシジルオキシ基が芳香族炭化水素基(a1)に結合した構造を有するエポキシ化合物(B1)を含む。以下、本発明の接着剤の各成分について詳細に説明する。
【0009】
本発明の接着剤に用いられる酸基含有樹脂(A)が備える酸基としては、カルボキシル基、無水カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。酸基含有樹脂(A)はこれらのうち1種のみを備えるものであってもよいし、2種以上を備えるものであってもよい。
【0010】
酸基含有樹脂の酸価は、金属との密着性が向上するため1mgKOH/g以上であることが好ましく、5mgKOH/g以上であることがより好ましく、200mgKOH/g以下であることが好ましく、165mgKOH/g以下であることがより好ましい。200mgKOH/g以下であれば柔軟性に優れ、1mgKOH/g以上であれば耐熱性が良好である。
【0011】
尚、本願発明において、酸価とは固形分酸価であり、試料1g中に存在する酸分を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数である。秤量した試料をトルエン/メタノール=70/30(体積比)の溶媒に溶かし、1%フェノールフタレインアルコール溶液を数滴滴下しておき、そこに0.1mol/Lの水酸化カリウムアルコール溶液を滴下して変色点を確認し、以下の計算式を用いて算出する。
【0012】
酸価(mgKOH/g)=(V×F×5.61)/S
V:0.1mol/Lの水酸化カリウムアルコール溶液の滴下量(mL)
F:0.1mol/Lの水酸化カリウムアルコール溶液の力価
S:試料の採取量(g)
5.61:0.1mol/Lの水酸化カリウムアルコール溶液1mL中の水酸化カリウム相当量(mg)
【0013】
なお、測定に用いる試料が樹脂溶液の場合には、さらに下記の計算式を用いて固形分酸価を算出する。
【0014】
酸価(mgKOH/g)=樹脂溶液の酸価(mgKOH/g)/NV(%)×100
NV:試料の不揮発分(%)
【0015】
酸基含有樹脂(A)の樹脂骨格は、特に限定はないが、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂等を好ましく用いることができる。
【0016】
酸基含有アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する単量体及び酸基を有する重合性単量体を必須成分とし、必要に応じて他の重合性不飽和単量体と重合して得られる共重合体が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有する単量体は酸基を有する重合性単量体を兼ねていてもよく、この場合は酸基含有アクリル樹脂が(メタ)アクリロイル基及び酸基を有する重合性単量体の単独重合体であってもよい。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル基」とはアクリロイル基とメタクリロイル基の一方または両方をいい、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸とメタクリル酸の一方または両方をいい、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートとメタクリレートの一方または両方をいう。
【0017】
酸基を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸;β-カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸及びこれらのラクトン変性物等、(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有する化合物;
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル、リン酸メチレン(メタ)アクリレート、リン酸トリメチレン(メタ)アクリレート、リン酸プロピレン(メタ)アクリレート、リン酸テトラメチレン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基及びリン酸基を有する化合物;
2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2-スルホプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はこれらの塩等の(メタ)アクリロイル基及びスルホン酸基を有する化合物;
クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
(メタ)アクリロイル基を有する単量体としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート等の、炭素原子数が1~22のアルキル基を有する(メタ)アクリルレート;
【0019】
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリレート;
【0020】
ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の、芳香環を有する(メタ)アクリレート;
【0021】
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール等の、ヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート;
【0022】
2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルオキシエチル(メタ)アクリレート等の、フルオロアルキル基の炭素の炭素原子数が1から18であるフルオロアルキル(メタ)アクリレート;
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシリル基含有(メタ)アクリレート;
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;
等が挙げられる。
【0023】
その他の重合性不飽和単量体としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、フマル酸メチルエチル、フマル酸メチルブチル、イタコン酸メチルエチル等の、不飽和ジカルボン酸エステル類;
【0024】
スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン誘導体;
ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、ジメチルブタジエン等のジエン系化合物;
塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニルやハロゲン化ビニリデン;
メチルビニルケトン、ブチルビニルケトン等の不飽和ケトン類;
酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;
【0025】
メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデン等のシアン化ビニル類;
アクリルアミドやそのアルキド置換アミド類;
N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類;
【0026】
フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロスチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素含有α-オレフィン類;トリフルオロメチルトリフルオロビニルエーテル、ペンタフルオロエチルトリフルオロビニルエーテル、ヘプタフルオロプロピルトリフルオロビニルエーテル等の、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が1から18であるパーフルオロアルキル・パーフルオロビニルエーテル類;等のフッ素含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。これらの他の重合性不飽和単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
酸基含有アクリル樹脂は公知慣用の方法を用いて重合(共重合)して得られ、その重合(共重合)形態は特に制限されない。ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等、いずれであってもよい。触媒(重合開始剤)の存在下で付加重合により製造することができる。塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を使用できる。
【0028】
酸基含有ウレタン樹脂としては、下記式(3)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物とを含む組成物の反応生成物が挙げられる。
【0029】
【化1】
(式(3)中、Xは芳香環または脂環構造を表し、n1およびn2はそれぞれ独立して0以上3以下の整数を表す。)
【0030】
【化2】
(式(4)中、Rは水素原子または炭素原子数1以上3以下の炭化水素基またはカルボニル基を表し、m1~m3はそれぞれ独立して0以上3以下の整数を表す。)
【0031】
上記式(3)で表される化合物が有する芳香環構造としては、炭素原子数が6以上18以下の芳香環であることが好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環等が挙げられる。また、上記式(3)で表される化合物が有する芳香環は、少なくとも1つのフッ素原子により置換されていてもよく、パーフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0032】
上記式(3)で表される化合物が有する脂環構造としては、炭素原子数が3以上20以下のものが好ましく、単環、多環、縮合環のいずれであってもよい。脂環と芳香環が組み合わさった環構造であってもよい。
単環構造としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン等のシクロアルカン;シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルケン;等が挙げられる。多環構造としては、キュバン、バスケタン、ハウサン等が挙げられる。縮合環構造としては、ビシクロウンデカンやデカヒドロナフタレン、ノルボルネンやノルボルナジエン等が挙げられる。
【0033】
上記式(3)で表される化合物の好ましい具体例としては、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0034】
上記式(4)で表される化合物としては、m3が0であることが好ましい。また、上記式(4)で表される化合物としては、Rが炭素原子数1以上3以下の炭化水素基であることが好ましい。
上記式(4)で表される化合物の好ましい具体例としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が挙げられる。
【0035】
酸基含有オレフィン樹脂としては、酸基含有モノマーの単独重合体または共重合体、酸基含有モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体、ポリオレフィンの酸基含有モノマー変性体等が挙げられる。
【0036】
酸基含有モノマーの単独重合体または共重合体の調整に用いられる酸基含有モノマーとしては、エチレン性不飽和カルボン酸またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物が好ましい。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、4-メチルシクロヘキセ-4-エン-1,2-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、1,2,3,4,5,8,9,10-オクタヒドロナフタレン-2,3-ジカルボン酸無水物、2-オクタ-1,3-ジケトスピロ[4.4]ノン-7-エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、マレオピマル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル―ノルボルネン-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、ノルボルン-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0037】
酸基含有モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体の調整に用いられる酸基含有モノマーとしては、上述した酸基含有モノマーの単独重合体または共重合体の調整に用いられる酸基含有モノマーと同様のものを用いることができる。単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無水マレイン酸を用いることが好ましい。
【0038】
酸基含有モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体の調整に用いられるオレフィン系モノマーとしては、炭素原子数が2~8のオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらのなかでも特に接着強度が良好なものとなることから炭素原子数3~8のオレフィンが好ましく、プロピレン、及び1-ブテンがより好ましく、とりわけプロピレンと1-ブテンとを併用することが溶剤に対する耐性に優れ、接着強度に優れる点から好ましい。
【0039】
酸基含有モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体の調整には、上述した酸基含有モノマー、オレフィン系モノマーに加え、その他のエチレン性不飽和基を持つ化合物、例えばスチレン、ブタジエン、イソプレン等を併用してもよい。
【0040】
ポリオレフィンの酸基含有モノマー変性体の調整に用いられる酸基含有モノマーとしては、上述した酸基含有モノマーの単独重合体または共重合体の調整に用いられる酸基含有モノマーと同様のものを用いることができる。単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無水マレイン酸を用いることが好ましい。
【0041】
ポリオレフィンの酸基含有モノマー変性体の調整に用いられるポリオレフィンとしては、炭素原子数2~8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素原子数2~8のオレフィンと他のモノマーとの共重合体等が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン樹脂などのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリビニルシクロヘキサン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・へキセン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのα―オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などが挙げられる。これらの中で特に接着強度が良好なものとなる点から炭素原子数3~8のオレフィンの単独重合体、炭素原子数3~8のオレフィンの2種以上の共重合体が好ましく、プロピレンの単独重合体、又はプロピレン・1-ブテン共重合体がより好ましく、とりわけプロピレン・1-ブテン共重合体が溶剤に対する耐性に優れ、接着強度に優れる点から好ましい。
【0042】
酸基含有モノマーによりポリオレフィンを変性する方法としては、グラフト変性や共重合化が挙げられる。グラフト変性によりポリオレフィンに酸基含有モノマーを反応させるには、具体的には、ポリオレフィンを溶融し、そこに酸基含有モノマー(グラフトモノマー)を添加してグラフト反応させる方法、ポリオレフィンを溶媒に溶解して溶液とし、そこにグラフトモノマーを添加してグラフト反応させる方法、有機溶剤に溶解したポリオレフィンと、グラフトモノマーとを混合し、ポリオレフィンの軟化温度または融点以上の温度で加熱し溶融状態にてラジカル重合と水素引き抜き反応を同時に行う方法等が挙げられる。
【0043】
いずれの場合にもグラフトモノマーを効率よくグラフト共重合させるためには、ラジカル開始剤の存在下にグラフト反応を実施することが好ましい。グラフト反応は、通常60~350℃の条件で行われる。ラジカル開始剤の使用割合は変性前のポリオレフィン100重量部に対して、通常0.001~1重量部の範囲である。
【0044】
接着性を良好なものとするため酸基含有オレフィン樹脂の重量平均分子量は40,000以上であることが好ましい。また、適度な流動性を確保するため酸基含有オレフィン樹脂の重量平均分子量は150,000以下であることが好ましい。
【0045】
尚、本願発明において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0046】
測定装置 ;東ソー株式会社製 HLC-8320GPC
カラム ;東ソー株式会社製 TSKgel 4000HXL、TSKgel 3000HXL、TSKgel 2000HXL、TSKgel 1000HXL
検出器 ;RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製 マルチステーションGPC-8020modelII
測定条件 ;カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 0.35ml/分
標準 ;単分散ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.2質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0047】
酸基含有オレフィン樹脂は結晶性であることが好ましい。酸基含有オレフィン樹脂の融点は50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、65℃以上であることがより好ましい。また、酸基含有オレフィン樹脂の融点は120℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがより好ましい。
【0048】
酸基含有オレフィン樹脂の融点はDSC(示差走査熱量分析)により測定する。具体的には降温到達温度から昇温到達温度まで10℃/minで昇温後、10℃/minで降温到達温度まで冷却して熱履歴を除去した後、再度10℃/minで昇温到達点まで昇温する。2度目に昇温した際のピーク温度を融点とする。また、降温到達温度は結晶化温度よりも50℃以上低い温度に、昇温到達温度は融点温度よりも30℃位以上高い温度に設定する。降温到達温度、昇温到達温度は試測定して決定する。
【0049】
このような酸基含有オレフィン樹脂の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリレート-無水マレイン酸三元共重合体等が挙げられる。酸基含有オレフィン樹脂の市販品としては、三菱化学(株)製「モディック」シリーズ、三井化学(株)製「アドマー」シリーズ、「ユニストール」シリーズ、東洋紡(株)製「トーヨータック」シリーズ、三洋化成(株)製「ユーメックス」シリーズ、日本ポリエチレン(株)製「レクスパールEAA」シリーズ、「レクスパールET」シリーズ、ダウ・ケミカル(株)製「プリマコール」シリーズ、三井・デュポンポリケミカル製「ニュクレル」シリーズ、アルケマ製「ボンダイン」シリーズ等が挙げられる。
【0050】
酸基含有樹脂としては、上述した以外のものを用いることもでき、例えば、旭化成株式会社製のタフテックMシリーズ、クレイトンポリマージャパン株式会社製のクレイトンFGシリーズ等が挙げられる。
【0051】
硬化剤(B)は、芳香核に他の基との結合部位を有する芳香族炭化水素基(a1)と、エーテル結合を含む炭化水素基(a2)または炭素原子数2~15の直鎖状アルキレン基(a3)とが、アセタール結合(a4)を介して結合した構造を有し、かつ、グリシジルオキシ基が芳香族炭化水素基(a1)に結合した構造を有するエポキシ化合物(B1)を含む。
【0052】
エポキシ化合物(B1)における芳香核に結合部位を有する芳香族炭化水素基(a1)は、芳香族炭化水素化合物において、芳香核に他の構造単位との結合部位を有する炭化水素基である。かかる芳香族炭化水素基(a1)は、具体的には、
(i)ベンゼン環を一つのみ有する構造からなる炭化水素基
(ii)ベンゼン環が単結合を介して結合した構造からなる炭化水素基
(iii)ベンゼン環が脂肪族炭素原子を介して結合した構造からなる炭化水素基
(iv)ベンゼン環が脂肪族環状炭化水素基を介して結合した構造からなる炭化水素基
(v)複数のベンゼン環が縮合多環化した構造からなる炭化水素基
(vi)ベンゼン環がアラルキル基を介して結合した構造からなる炭化水素基、
が挙げられる。
【0053】
(i)の芳香族炭化水素基は、o-、m-、p-にそれぞれ結合部位を有するフェニレン基が挙げられる。
(ii)の芳香族炭化水素基は、4,4’-ビフェニレン基、2,2’6,6’-テトラメチル-4,4’-ビフェニル基が挙げられる。
(iii)の芳香族炭化水素基は、メチレンジフェニレン基、2,2-プロパン-ジフェニル基、その他下記構造式(iii-1)~(iii-3)で表されるものが挙げられる。
【0054】
【化3】
【0055】
(iv)の芳香族炭化水素基は、下記構造式(iv-1)~(iv-3)で表されるものが挙げられる。なお、下記構造式(iv-1)および(iv-3)において脂肪族環状炭化水素基の結合部位は、環を形成するエチレン又はプロピレンの任意の2級炭素原子である。
【0056】
【化4】
【0057】
(v)の芳香族炭化水素基は、1,6-ナフタレン基、2,7-ナフタレン基等のナフタレン基、1,4-ナフタレン基、1,5-ナフタレン基、2,3-ナフタレン基、その他下記構造(v-1)、(v-2)で表されるものが挙げられる。
【0058】
【化5】
【0059】
(vi)の芳香族炭化水素基は、下記構造(vi-1)、(vi-2)で表されるものが挙げられる。
【0060】
【化6】
【0061】
これらの構造のなかでも、(iii)の芳香族炭化水素基が好ましく、特にメチレンジフェニレン基及び2,2-プロパン-ジフェニル基が好ましい。
【0062】
エーテル結合を含む炭化水素基(a2)としては、例えば、エチレンオキサイドの重付加反応により形成される、エチレンオキシエチル基、ジ(エチレンオキシ)エチル基、トリ(エチレンオキシ)エチル基等のポリ(エチレンオキシ)エチル基;
プロピレンオキサイドの重付加反応により形成される、プロピレンオキシプロピル基、ジ(プロピレンオキシ)プロピル基、トリ(プロピレンオキシ)プロピル基等のポリ(プロピレンオキシ)プロピル基;
エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを共重付加反応させて得られるエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基とが共存するもの(エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体);などのアルキレンオキシアルキレン基が挙げられる。
【0063】
エーテル結合を含む炭化水素基(a2)は、アルキレン単位の単位数が多い程エポキシ樹脂の柔軟性は向上するものの、架橋密度の低下を招く傾向を示す。よって、それらの性能バランスの点からエーテル結合を含む炭化水素基(a2)中のアルキレン基の数は2~4であることが好ましい。
【0064】
炭素原子数2~15の直鎖状アルキレン基(a3)は、実質的に直鎖状の炭素原子鎖からなる。柔軟性に影響を与えない程度に部分的に分岐構造を採っていてもよいが、柔軟性の点からは分岐を有しない直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0065】
芳香核に他の基との結合部位を有する芳香族炭化水素基(a1)と、エーテル結合を含む炭化水素基(a2)又は炭素原子数2~15の直鎖状アルキレン基(a3)とを結節する、アセタール結合(a4)は、下記式(5)で表されるものである。
【0066】
【化7】
【0067】
上記式(5)において、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、又はt-ブチル基から選択される。これらの構造のなかでも、当該2官能性エポキシ樹脂自体の製造が容易であることからRがメチル基のもの、即ち、メチルアセタール結合が最も好ましい。
【0068】
このようなエポキシ化合物(B1)を用いることで、低温でエージングした場合であってもオレフィン樹脂のような非極性の基材と金属基材との接着性に優れた接着剤とすることができる。この理由については定かではないが、以下のように推測される。即ち、エポキシ化合物(B1)はエーテル結合を含む炭化水素基(a2)または炭素原子数2~15の直鎖状アルキレン基(a3)に由来する構造を有するために、低温においても運動性に優れ、酸基含有樹脂(A)が有する酸基との架橋反応が進行しやすく、低温でエージングした場合であっても優れた接着性を示すと考えられる。
【0069】
このようなエポキシ化合物(B1)の具体的な化学構造は、前記芳香核に他の基との結合部位を有する芳香族炭化水素基(a1)、エーテル結合を含む炭化水素基(a2)または炭素原子数が2以上15以下のアルキレン基(a3)、及びアセタール結合(a4)の任意に組み合わせた化学構造のものが挙げられる。それらの例としては、例えば下記構造式のものが挙げられる。
【0070】
【化8】
【0071】
【化9】
【0072】
【化10】
【0073】
上記各構造式Ea-1~Ea-17においてnは自然数であってその平均値は1.2~5である。また、上記各構造式で表される化合物はそれぞれ芳香核にメチル基、ハロゲン原子等を置換基として有する樹脂も挙げられる。尚、前記構造式Ea-16において脂肪族環状炭化水素基の結合位置は、環を形成するエチレン又はプロピレンの任意の2級炭素原子である。
【0074】
これらのエポキシ化合物(B1)のなかでも特に硬化塗膜の柔軟性と靱性とのバランスに優れ、接着剤としたときに接着強度や成型性に優れ、尚かつ、耐水性も優れたものとなる点から下記一般式1で表されるものが好ましい。下記一般式1で表されるエポキシ化合物(B1)の具体例としては前掲の構造式Ea-1~Ea-14で表される化合物が挙げられる。
【0075】
【化11】
(上記一般式1中、R及びRはそれぞれ水素原子又はメチル基を、R~Rはそれぞれ水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。Xはエチレンオキシエチル基、ジ(エチレンオキシ)エチル基、トリ(エチレンオキシ)エチル基、プロピレンオキシプロピル基、ジ(プロピレンオキシ)プロピル基、トリ(プロピレンオキシ)プロピル基、又は炭素原子数2~15のアルキレン基を表す。また、nは自然数でありその平均は1.2~5である。)
【0076】
エポキシ化合物(B1)は、2官能性フェノール化合物(a1’)と、エーテル結合を含む炭化水素化合物のジアルコール(a2’)または炭素原子数が2以上15以下の実質的に直鎖状の炭化水素のジアルコール(a3’)とを、カルボニル化合物と反応させてアセタール化し、次いで得られた2官能性フェノールをグリシジルエーテル化して得られる。
あるいは、エポキシ化合物(B1)は、2官能性フェノール化合物(a1’)と、エーテル結合を含む炭化水素化合物のジビニルエーテル(a2'')または炭素原子数が2以上15以下の実質的に直鎖状の炭化水素のジビニルエーテル(a3'')とを反応させ、次いで得られた2官能性フェノール樹脂にエピハロヒドリンを反応させて得られる。
【0077】
硬化剤(B)は、エポキシ化合物(B1)に加えて、下記一般式2で表されるエポキシ化合物(B2)を含んでいてもよい。
【0078】
【化12】
(上記一般式2中、R及びRはそれぞれ水素原子又はメチル基を、R~Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)
【0079】
エポキシ化合物(B1)に加えてエポキシ化合物(B2)を併用することも好ましい。これにより、硬化剤(接着剤)の粘度が低くなり、各種用途への適用する際の作業性が良好なる。また、接着強度が良好なものとなる。エポキシ化合物(B2)の具体例としては、上記構造式Ea-1やEa-2においてn=0のものが挙げられる。
【0080】
エポキシ化合物(B1)とエポキシ化合物(B2)とを併用する場合、エポキシ化合物(B1)とエポキシ化合物(B2)との総量に対するエポキシ化合物(B2)の割合が10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0081】
エポキシ化合物(B1)とエポキシ化合物(B2)との混合物は、そのエポキシ当量が250g/当量以上1000g/当量以下であり、25℃における粘度が2000mPa・s以上150000mPa・s以下であることが好ましい。
【0082】
硬化剤(B)は、エポキシ化合物(B1)に加えて、エポキシ化合物(B1)、エポキシ化合物(B2)以外のエポキシ化合物(B3)を含んでいてもよい。あるいは、エポキシ化合物(B1)、エポキシ化合物(B2)に加えて、エポキシ化合物(B1)、エポキシ化合物(B2)以外のエポキシ化合物(B3)を含んでいてもよい。エポキシ化合物(B3)としては、例えば、
エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、スピログリコールもしくは水添ビスフェノールA等の脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;
フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂のグリシジルエールであるノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂;
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールADなどの芳香族系ポリヒドロキシ化合物のエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシド付加体であるポリオールのポリグリシジルエーテル;
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールもしくはポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等の環状脂肪族型ポリエポキシ樹脂;
プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくはトリメリット酸等のポリカルボン酸のポリグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、ドデカジエン、シクロオクタジエン、α-ピネンもしくはビニルシクロヘキセン等の炭化水素系ジエンのビスエポキシ樹脂;
ポリブタジエンもしくはポリイソプレン等のジエンポリマーのエポキシ樹脂;
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、ジグリシジルアニリン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;
トリアジン、ヒダントイン等の複素環を含有するエポキシ樹脂が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0083】
エポキシ化合物(B3)は、1分子中に2つ以上のエポキシ基と1つ以上の水酸基を備え、重量平均分子量が3000以下であることが好ましい。
【0084】
エポキシ化合物(B1)とエポキシ化合物(B3)とを併用する場合、エポキシ化合物(B1)とエポキシ化合物(B3)との総量に対するエポキシ化合物(B3)の割合はエポキシ基換算で10モル%以下であることが好ましい。硬化物の柔軟性が必要な場合には5モル%以下であることが好ましい。
エポキシ化合物(B1)とエポキシ化合物(B2)とエポキシ化合物(B3)とを併用する場合、エポキシ化合物(B1)、(B2)、(B3)の総量に対するエポキシ化合物(B3)の割合がエポキシ基換算で10モル%以下であることが好ましい。硬化物の柔軟性が必要な場合には5モル%以下であることが好ましい。
【0085】
エポキシ化合物(B1)~(B3)は、酸基含有樹脂(A)が含有するカルボキシル基と、エポキシ化合物(B1)~(B3)が含有するエポキシ基との当量比(エポキシ基/カルボキシル基)が0.01以上10以下となる範囲で用いられることが好ましい。これにより、耐熱性、接着性に優れた接着剤とすることができる。酸基含有樹脂(A)が含有するカルボキシル基と、エポキシ化合物(B1)~(B3)が含有するエポキシ基との当量比(エポキシ基/カルボキシル基)は、0.1以上であることがより好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0086】
硬化剤(B)として、本発明の効果を損ねない範囲でエポキシ樹脂以外の化合物を併用してもよい。エポキシ樹脂と併用可能な他の硬化剤としては、多官能イソシアネート化合物、アジリジン基含有化合物、カルボジイミド、オキサゾリン、アミノ樹脂などが挙げられる。
【0087】
多官能イソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン、若しくは水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートおよびこれらから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビウレット型、ウレトジオン体、アロファネート体、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、若しくはこれらの複合体等が挙げられる。
【0088】
上述したような多官能イソシアネート化合物の一部のイソシアネート基を、イソシアネート基と反応性を有する化合物と反応させて得られる化合物を硬化剤として使用してもよい。イソシアネート基と反応性を有する化合物としては、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン、ベンジルアミン、アニリン等のアミノ基を含有する化合物類:メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、フェノール等の水酸基を含有する化合物類:アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物類:酢酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸等のカルボン酸を含有する化合物等が挙げられる。
【0089】
アジリジン基含有化合物としては、例えば、N,N´-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、N,N´-ジフェニルメタン-4,4´-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート)、N,N´-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリエチレンメラミン、トリメチロールプロパン-トリ-β(2-メチルアジリジン)プロピオネート、ビスイソフタロイル-1-2-メチルアジリジン、トリ-1-アジリジニルフォスフィンオキサイド、トリス-1-2-メチルアジリジンフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0090】
カルボジイミドとしては、N,N’-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’―ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N-トルイル-N’-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,2-tert.-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トルイル-N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミド等が挙げられる。
【0091】
オキサゾリンとしては、2-オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2,5-ジメチル-2-オキサゾリン、2,4-ジフェニル-2-オキサゾリンなどのモノオキサゾリン化合物、2,2’-(1,3-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,2-エチレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,4ブチレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,4-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)などが挙げられる。
【0092】
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。
【0093】
本発明の接着剤は、酸基含有樹脂(A)、硬化剤(B)に加え、必要に応じて粘着付与剤、可塑剤、熱可塑性エラストマー、反応性エラストマー、リン酸化合物、シランカップリング剤、酸無水物、接着促進剤等の各種添加剤を用いることができる。これらの添加剤の含有量は、本発明の接着剤の機能を損なわない範囲内で適宜調整すればよい。
【0094】
ここで使用し得る粘着付与剤としては、例えば、ロジン系又はロジンエステル系粘着付与剤、テルペン系又はテルペンフェノール系粘着付与剤、飽和炭化水素樹脂、クマロン系粘着付与剤、クマロンインデン系粘着付与剤、スチレン樹脂系粘着付与剤、キシレン樹脂系粘着付与剤、フェノール樹脂系粘着付与剤、石油樹脂系粘着付与剤などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0095】
可塑剤としては、ポリイソプレン、ポリブテン、プロセルオイル等が挙げられ、熱可塑性エラストマーとしてはスチレン・ブタジエン共重合物(SBS)、スチレン・ブタジエン共重合の水素添加物(SEBS)、SBBS、スチレン・イソプレン共重合の水素添加物(SEPS)、スチレンブロック共重合体(TPS)、オレフィン系エラストマー(TPO)等が、反応性エラストマーはこれらのエラストマーを酸変性したものが挙げられる。
【0096】
リン酸化合物としては、例えば次亜リン酸、亜リン酸、オルトリン酸、次リン酸等のリン酸類、例えばメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸、ウルトラリン酸等の縮合リン酸類、例えばオルトリン酸モノメチル、オルトリン酸モノエチル、オルトリン酸モノプロピル、オルトリン酸モノブチル、オルトリン酸モノ-2-エチルヘキシル、オルトリン酸モノフェニル、亜リン酸モノメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸モノプロピル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸モノ-2-エチルヘキシル、亜リン酸モノフェニル、オルトリン酸ジ-2-エチルヘキシル、オルトリン酸ジフェニル亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジ-2-エチルヘキシル、亜リン酸ジフェニル等のモノ、ジエステル化物、縮合リン酸とアルコール類とからのモノ、ジエステル化物、例えば前記のリン酸類に、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のエポキシ化合物を付加させたもの、例えば脂肪族又は芳香族のジグリシジルエーテルに前記のリン酸類を付加させて得られるエポキシリン酸エステル類等が挙げられる。
【0097】
シランカップリング剤としては例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン;ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン;ヘキサメチルジシラザン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。
【0098】
酸無水物としては、環状脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、不飽和カルボン酸無水物等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。より具体的には、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、ヘット酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物、1-メチル-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。
【0099】
また、酸無水物として上述した化合物をグリコールで変性したものを用いてもよい。変性に用いることができるグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポチテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルグリコール類等が挙げられる。更には、これらのうちの2種類以上のグリコール及び/又はポリエーテルグリコールの共重合ポリエーテルグリコールを用いることもできる。
【0100】
酸無水物の配合量は、酸基含有樹脂(A)100質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましく、0.8質量部以上であることがより好ましい。また、酸無水物の配合量は、酸基含有樹脂樹脂(A)100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましい。これにより、接着剤と金属との密着性が向上し、初期接着強度とヒートシール後の接着強度に優れた接着剤とすることができる。
【0101】
接着促進剤としては、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N’-メチル-N-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-ノネン、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン等の3級アミン類及びこれら3級アミン類をフェノール、オクチル酸、4級化テトラフェニルボレート塩等でアミン塩にした化合物、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等のカチオン触媒、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-ブチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物などが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0102】
本発明の接着剤は、上記各成分に加え、さらに有機溶剤を配合することにより流動性を確保し、適正な塗工性を発現させることができる。このような有機溶剤としては、接着剤塗工時の乾燥工程における過熱により揮発させて除去できるものであれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族系有機溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族系有機溶剤;トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;エタノール、メタノール、n-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール系溶剤;ジイソプロピルエーテル、ブチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ブチルカルビトール等のエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングルコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶剤等が挙げられ、これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0103】
有機溶剤を用いる場合、酸基含有樹脂(A)と硬化剤(B)とを混合した後に有機溶剤を配合してもよいし、酸基含有樹脂(A)と硬化剤(B)の少なくとも一方を有機溶剤に溶解させておいたものを用いて接着剤を調整してもよい。
【0104】
有機溶剤の配合量は、接着剤全量100質量部のうち、有機溶剤成分が50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましい。また、90質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることがより好ましい。
【0105】
上述した各成分を混合することにより本発明の接着剤を調整することができる。この際、各成分は同時に混合して接着剤としてもよいが、硬化剤(B)以外の成分を予め混合してプレミクスチャーを調整しておき、接着剤の使用時に硬化剤(B)を混合する2液型の接着剤とすることが接着剤の安定性、作業性に優れることから好ましい。
【0106】
本発明の接着剤は、低温でエージングした場合であってもオレフィン樹脂のような非極性の基材と金属基材との接着性に優れる。また本発明の接着剤は低温エージングを行った場合であってもオレフィン樹脂のような非極性の基材と金属基材との接着性に優れるため、ドライラミネート法による積層体の製造方法に適しているが、例えば押出しラミネート法による積層体の製造にプライマーとして用いることもできる。
【0107】
<積層体>
本発明の積層体は、第1の基材と、第2の基材と、第1の基材と第2の基材との間に配置され、第1の基材と第2の基材とを貼り合せる接着層とを含む。接着層は、上述した接着剤の硬化塗膜である。第1の基材、第2の基材に加えてさらに他の基材を含んでいてもよい。第1の基材と他の基材、第2の基材と他の基材とを貼り合せる接着層は、本発明の接着剤の硬化塗膜であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0108】
第1の基材、第2の基材、他の基材としては、例えば、紙、オレフィン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、カーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂やポリエステル系樹脂から得られた合成樹脂フィルム、銅箔、アルミニウム箔の様な金属箔等を用いることが出来る。
【0109】
本発明の接着剤は、オレフィン樹脂のような非極性の基材と、金属基材との接着性に優れるため、第1の基材と第2の基材のうち一方が非極性の基材であり、他方が金属基材であることが好ましいが、これに限定されない。
【0110】
本発明の積層体は、例えば、第1の基材と第2の基材の一方に本発明の接着剤を塗布し、次いで他方を積層し、接着剤を硬化させる、いわゆるドライラミネーション法(乾式積層法)にて得られる。接着剤を塗布した後、第1の基材と第2の基材とを積層するまでの間に乾燥工程を設けることが好ましい。
接着剤の塗工方式としては、グラビアコーター方式、マイクログラビアコーター方式、リバースコーター方式、バーコーター方式、ロールコーター方式、ダイコーター方式等を用いることが出来る。接着剤の塗布量は、乾燥後の塗布重量が0.5~20.0g/mとなるよう調整することが好ましい。0.5g/mを下回ると連続均一塗布性が低下し易くなり、20.0g/mを上回ると塗布後における溶剤離脱性も低下し、作業性の低下や残留溶剤の問題が生じ易くなる。
【0111】
第1の基材と第2の基材とを積層する際のラミネートロールの温度は25~120℃、圧力は3~300kg/cmであることが好ましい。
第1の基材と第2の基材とを貼り合せた後、エージング工程を設けることが好ましい。エージング条件は、25~100℃、12~240時間であることが好ましい。
【0112】
酸基含有樹脂の硬化剤として、例えばイソシアネート化合物を用いる場合に比べ、エポキシ化合物を用いる場合には低温でのエージングでは接着剤の特性が発揮され難い傾向にあるが、本発明の接着剤を用いる場合には、エージング温度が50℃以下であっても初期接着強度、耐電解液性に優れた積層体を得ることができる。エージング温度が50℃以上であっても接着強度、耐電解液性に優れることについてはいうまでもない。また、本発明の接着強度、耐電解液性をより確実なものとするために、エージング温度は40℃以上であることがより好ましい。
【0113】
あるいは本発明の積層体は、第1の基材と第2の基材の一方に本発明の接着剤をアンカーコート剤として塗布し、次いで、他方を押出しラミネート法により積層して得られる。例えば第1の基材がポリオレフィンフィルムであり、第2の基材が金属箔である場合、第2の基材にアンカーコート剤として本発明の接着剤を塗布した後、第1の基材を押出しラミネート法により積層する。接着剤を塗布後、押出しラミネート法による第1の基材を積層するまでの間に乾燥工程を設けることが好ましい。接着剤の塗工方式としては特に限定されるものではないが、グラビアロール方式が挙げられる。接着剤の未積層面に、他方の基材を押出しラミネートにより積層する際に、ゴムロールと冷却ロールとで挟圧することにより、積層体が得られる。
【0114】
<電池用包装材>
本発明の電池用包装材は、一例として、第1の基材と、第2の基材と、第3の基材と、第1の基材と第2の基材を貼り合せる第1の接着層と、第2の基材と第3の基材とを貼り合せる第2の接着層とを含む。第1の基材はポリオレフィンフィルムであり、第2の基材は金属箔である。第3の基材はナイロン、ポリエステル等の樹脂フィルムである。第1の接着層は本発明の接着剤の硬化塗膜である。第2の接着層は本発明の接着剤の硬化塗膜であってもよいし、そうでなくてもよい。第3の基材の第2の接着層が設けられるのとは反対側に、さらに接着層を介して、または介さずに他の基材を配置してもよいし、コーティング層を設けてもよい。他の基材やコーティング層を設けなくてもよい。
【0115】
ポリオレフィンフィルムとしては、従来から公知のオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体などを用いることができる。無延伸フィルムであることが好ましい。ポリオレフィンフィルムの膜厚は、特に限定されないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましい。また、100μm以下であることが好ましく、95μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることがさらに好ましい。
第1の基材は、後述する電池を製造する際に、本発明の電池用包装材同士をヒートシールして貼り合せる際のシーラント層として機能する。
【0116】
金属箔としては、アルミニウム、銅、ニッケル等が挙げられる。これらの金属箔は、サンドブラスト処理、研磨処理、脱脂処理、エッチング処理、防錆剤浸漬又はスプレーによる表面処理、3価クロム化成処理、リン酸塩化成処理、硫化物化成処理、陽極酸化被膜形成、フッ素樹脂コーティング等の表面処理を施したものであってもよい。これらのなかでも3価クロム化成処理を施したものが密着性保持性能(耐環境劣化性)、防食性に優れる点から好ましい。また、この金属フィルムの厚みは腐食防止の観点から10~100μmの範囲であることが好ましい。
【0117】
第3の基材として用いることができる樹脂フィルムとしては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、及びこれらの混合物や共重合物等の樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられ、より好ましくは2軸延伸ポリエステル樹脂、2軸延伸ポリアミド樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。また、ポリアミド樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0118】
コーティング層は、例えばポリ塩化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などにより形成することができる。2液硬化型樹脂により形成することが好ましい。コーティング層を形成する2液硬化型樹脂としては、例えば、2液硬化型ウレタン樹脂、2液硬化型ポリエステル樹脂、2液硬化型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、コーティング層には、マット化剤を配合してもよい。
【0119】
マット化剤としては、例えば、粒径が0.5nm~5μm程度の微粒子が挙げられる。マット化剤の材質については、特に制限されないが、例えば、金属、金属酸化物、無機物、有機物等が挙げられる。また、マット化剤の形状についても、特に制限されないが、例えば、球状、繊維状、板状、不定形、バルーン状等が挙げられる。マット化剤として、具体的には、タルク,シリカ,グラファイト、カオリン、モンモリロイド、モンモリロナイト、合成マイカ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛,酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ネオジウム,酸化アンチモン、酸化チタン、酸化セリウム、硫酸カルシウム,硫酸バリウム、炭酸カルシウム,ケイ酸カルシウム、炭酸リチウム、安息香酸カルシウム,シュウ酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム、カーボンブラック、カーボンナノチューブ類、高融点ナイロン、架橋アクリル、架橋スチレン、架橋ポリエチレン、ベンゾグアナミン、金、アルミニウム、銅、ニッケル等が挙げられる。これらのマット化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのマット化剤の中でも、分散安定性やコスト等の観点から、好ましくはりシリカ、硫酸バリウム、酸化チタンが挙げられる。また、マット化剤には、表面に絶縁処理、高分散性処理等の各種表面処理を施しておいてもよい。
【0120】
このような積層体を、電池とした際に第1の基材であるポリオレフィンフィルムが第3の基材よりも内側になるようにして成型し、本発明の二次電池外装材となる。成型方法としては、特に制限はなく、一例として以下のような方法が挙げられる。
【0121】
・加熱圧空成型法:電池用包装材を高温、高圧のエアーが供給される孔を有する下型と、ポケット形状の凹部を有する上型に挟み、加熱軟化させながらエアーを供給して凹部を形成する方法。
・プレヒーター平板式圧空成型法:電池用包装材を加熱軟化させた後、高圧のエアーが供給される孔を有する下型と、ポケット形状の凹部を有する上型に挟み、エアーを供給して凹部を形成する方法。
・ドラム式真空成型法:電池用包装材を加熱ドラムで部分的に加熱軟化後、ポケット形状の凹部を有するドラムの該凹部を真空引きして凹部を成型する方法。
・ピン成型法:底材シートを加熱軟化後ポケット形状の凹凸金型で圧着する方法。
・プレヒータープラグアシスト圧空成型法:電池用包装材を加熱軟化させた後、高圧のエアーが供給される孔を有する下型と、ポケット形状の凹部を有する上型に挟み、エアーを供給して凹部を形成する方法であって、成型の際に、凸形状のプラグを上昇及び降下をさせて成型を補助する方法。
【0122】
成型後の底材の肉厚が均一であることから、加熱真空成型法であるプレヒータープラグアシスト圧空成型法が好ましい。
このようにして得られた本発明の電池用包装材は、正極、負極、電解質等の電池素子を密封して収容する電池用容器として好適に使用することができる。
【0123】
<電池>
本発明の電池は、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を、本発明の電池用包装材で、前記正極及び負極の各々に接続された金属端子が外側に突出させた状態で、電池素子の周縁にフランジ部(シーラント層同士が接触する領域)が形成できるようにして被覆し、前記フランジ部のシーラント層同士をヒートシールして密封させることによって得られる。
【0124】
本発明の電池用包装材を用いて得られる電池としては、一次電池、二次電池のいずれであってもよいが、好ましくは二次電池である。二次電池としては特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシター等が挙げられる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用包装材の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。
【実施例
【0125】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。配合組成その他の数値は特記しない限り質量基準である。
【0126】
<酸基含有樹脂ワニスの調整>
(調整例1)ワニス1の調整
プロピレン/1-ブテン共重合体300gとトルエン1Lを窒素雰囲気下で145℃に昇温し、プロピレン/1-ブテン共重合体をトルエンに溶解させた。さらに撹拌しながら無水マレイン酸38g、ジ-tert-ブチルパーオキシド16gを4時間かけて系に供給し、続けて145℃で2時間撹拌した。冷却後、多量のアセトンを投入して、無水マレイン酸変性プロピレン/1-ブテン共重合体(1)を沈殿させ、ろ過し、アセトンで洗浄した後、真空乾燥して白色の固体を得た。得られた固体を20部、メチルシクロヘキサン72部、酢酸エチル7部、イソプロピルアルコール(IPA)1部をよく撹拌し、不揮発分が20.0%の溶液であるワニス1を得た。
【0127】
(調整例2)ワニス2の調整
GMP7550E(酸変性オレフィン樹脂、ロッテケミカル社製)16部、アウローレン350S(酸変性オレフィン樹脂、日本製紙製)4部、メチルシクロヘキサン72部、酢酸エチル5部、イソプロピルアルコール(IPA)3部をよく撹拌し、不揮発分が20.5%の溶液であるワニス2を調整した。
【0128】
(調整例3)ワニス3の調整
Poly(ethylene-co-acrylic acid) acrylic acid 20 wt.%(ポリエチレン/アクリル酸共重合体、Aldrich社製)を20部、トルエン72部、イソプロピルアルコール(IPA)8部をよく撹拌し、不揮発分が19.9%のワニス3を得た。
【0129】
(調整例4)ワニス4の調整
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、トルエン120gを入れ、窒素気流下で約1時間かけて系内温度を100℃まで昇温した後、1時間保温した。次いで予めスチレン117g、アクリル酸12.6g、ラウリルメタクリレート50.4g、パーブチルO(t-ブチルパーオキシエチルヘキサノエイト、日産化学株式会社製)3.6gからなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下で混合液を約4時間かけて滴下した後、100℃で6時間撹拌した。冷却後、トルエン90gを加えて不揮発分が46.8%の酸基含有アクリル酸エステル樹脂溶液であるワニス4を得た。
【0130】
(調整例5)ワニス5の調整
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、トルエン50mLを入れ、30分間アルゴンガスをバブリングして系内を置換した。アルゴン導入口を液面から上げ、フローに変更後、浴温135℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。系内が一定温度に到達した後、メタクリル酸シクロヘキシル38.20g、メタクリル酸イソボルニル8.65g、アクリル酸3.20g、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル118mgの5mLトルエン溶液の4種を混合した溶液を1時間かけて滴下した。アルゴンフロー下、浴温を保ったまま4時間撹拌後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル118mgの5mLトルエン溶液をさらに滴下し、再び浴温を保ったまま4時間撹拌した。室温に冷却後、得られた僅かに白色に濁った均一な溶液を、約1.2Lのメタノールに投入し、沈殿させた。この沈殿物をメタノールにて3回洗浄し、次いで40℃にて一晩減圧乾燥して白色の固体48gを得た。得られた白色固体をトルエンに溶解させ、不揮発分が30.0%の酸基含有アクリル酸エステル樹脂溶液であるワニス5を得た。
【0131】
(調整例6)ワニス6の調整
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、2,2-ジメチロールプロパン酸(DMPA)90部、メチルエチルケトン54部、テトラヒドロフラン81部を仕込み、窒素気流下にて撹拌した。次いで、タケネート500(キシリレンジイソシアネート、三井化学社製)56部を仕込み、60℃に昇温した。1時間撹拌した後、40℃まで温度を下げてから、さらにタケネート56部を加え、再度60℃まで昇温した。赤外分光法でイソシアネート基の消失が確認されるまで反応を継続した。次いで、希釈溶媒としてメタノール148部を加え、カルボキシル基を含有するウレタン樹脂の50%溶液であるワニス6を得た。
【0132】
(調整例7)ワニス7の調整
ハイワックスNL100(オレフィン樹脂、三井化学社製)20部、トルエン80部をよく撹拌し、不揮発分が20.1%の溶液であるワニス7を得た。
【0133】
ワニス1-7の固形分酸価を測定し、表1にまとめた。なお、酸基含有オレフィン樹脂の酸価は上述した、FT-IRを用いる方法により測定した。酸基含有アクリル樹脂、酸基含有ウレタン樹脂の酸価は上述した、水酸化カリウムアルコール溶液の滴下量から算出する方法により測定した。
【0134】
【表1】
【0135】
<エポキシ化合物の合成>
(合成例1)
(変性多価フェノール類(ph-1a)の合成)
温度計、撹拌機を取り付けたフラスコにビスフェノールA228g(1.00モル)とトリエチレングリコールジビニルエーテル(ISP社製:商品名Rapi-Cure DVE-3)172g(0.85モル)を仕込み、120℃まで1時間要して昇温した後、さらに120℃で6時間反応させて透明半固形の変性多価フェノール類(ph-1a)400gを得た。
得られた変性多価フェノール類(ph-1a)は、NMRスペクトル(13C)と、マススペクトルでn=1、n=2の理論構造に相当するM=658,M=1088のピークが得られたことから下記構造式Pa-1で表される構造をもつであることが確認された。変性多価フェノール類(ph-1a)の水酸基当量は364g/eq.、粘度は40mPa・s(150℃,ICI粘度計)、水酸基当量より算出される下記構造式Pa-1中のnの平均値は、n≧1の成分で3.21、及びn≧0の成分で1.16であった。
【0136】
【化13】
【0137】
(エポキシ樹脂(ep-1a)の合成)
温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコに得られた変性多価フェノール類(ph-1a)400g(水酸基当量364g/eq.)、エピクロルヒドリン925g(10モル)、n-ブタノール185gを仕込み溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら65℃に昇温した後に共沸する圧力までに減圧し、49%水酸化ナトリウム水溶液122g(1.5モル)を5時間かけて滴下した。滴下終了後0.5時間撹拌を続けた。この間、共沸で留出してきた留出分をディーンスタークトラップで分離して水層を除去し、有機層を反応系内に戻しながら反応させた。その後、未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留して留去させた。得られた粗エポキシ樹脂にメチルイソブチルケトン1000gとn-ブタノール100gを加え溶解させ、更にこの溶液に10%水酸化ナトリウム水溶液20gを添加して80℃で2時間反応させた後に洗浄液のPHが中性となるまで水300gで水洗を3回繰り返した。次いで共沸によって系内を脱水し精密濾過を経た後に溶媒を減圧下で留去して透明液体のエポキシ樹脂(ep-1a)457gを得た。エポキシ樹脂(ep-1a)は、NMRスペクトル(13C)と、マススペクトルでn=1、n=2の理論構造に相当するM+=770,M+=1200のピークが得られたことから前記構造式Ea-1で表される構造のエポキシ樹脂を含有することが確認された。
【0138】
得られたエポキシ樹脂(ep-1a)は、前記構造式Ea-1においてn=0の化合物と、n=1以上の化合物との混合物であり、GPCで確認したところ該混合物中n=0の化合物を20質量%の割合で含有するものであった。また、このエポキシ樹脂(ep-1a)のエポキシ当量は462g/eq.、粘度は12000mPa・s(25℃,キャノンフェンスケ法)、エポキシ当量から算出される前記構造式Ea-1中のnの平均値は、n≧1の成分で2.97、及びn≧0の成分で1.35であった。
【0139】
(合成例2)
(変性多価フェノール類(ph-2a)の合成)
トリエチレングリコールジビニルエーテル(DVE-3)の量を101gに変更した以外は合成例1の変性多価フェノール類(ph-2a)の合成と同様にして変性多価フェノール類(ph-2a)を得た。この変性多価フェノール類(ph-2a)の水酸基当量は262g/eq.、粘度は60mPa・s(150℃,ICI粘度計)、水酸基当量より算出される前記構造式Pa-1中のnの平均値は、n≧1の成分で2.21、及びn≧0の成分で0.69であった。
【0140】
(エポキシ樹脂(ep-2a)の合成)
原料の変性多価フェノール類を(ph-1a)から(ph-2a)の329gに変更する以外は、合成例1のエポキシ樹脂(ep-1a)の合成と同様にしてエポキシ樹脂(ep-2a)395gを得た。得られたエポキシ樹脂(ep-2a)は、前記構造式Ea-1においてn=0の化合物と、n=1以上の化合物との混合物であり、GPCで確認したところ該混合物中n=0の化合物を30質量%の割合で含有するものであった。このエポキシ樹脂(ep-2a)のエポキシ当量は350g/eq.、粘度は90000mPa・s(25℃,E型粘度計)、エポキシ当量から算出される前記構造式Ea-1中のnの平均値は、n≧1の成分で2.18、及びn≧0の成分で0.84であった。
【0141】
<接着剤の調整>
(実施例1)
ワニス1を100部、エポキシ化合物(ep-1a)を0.5部、キュアゾール2E4MZ(イミダゾール系硬化剤、四国化成工業社製、不揮発分100%)を0.03部、トリフェニルホスフィンを0.01部、酢酸エチル3部、イソプロピルアルコール2部をよく撹拌し、不揮発分20%の実施例1の接着剤を調整した。
【0142】
アルミニウム箔(1N30、東洋アルミニウム社製、膜厚30μm)に実施例1の接着剤をバーコーターで4g/m(dry)塗布し、80℃-1分乾燥させた後、無延伸ポリプロピレンフィルム(ET-20、オカモト株式会社製、膜厚40μm)と100℃で貼り合せた。その後50℃-5日エージングして実施例1の積層体を得た。
【0143】
(実施例2-10)
接着剤の配合を、表2、3に記載のようにした以外は実施例1と同様にして接着剤を調整し、積層体を得た。
(比較例1-5)
接着剤の配合を、表4に記載のようにした以外は実施例1と同様にして接着剤を調整し、積層体を得た。
なお、比較例で用いたエポキシ化合物(HP-4700)は、DIC株式会社製のナフタレン型エポキシ化合物である。
【0144】
<評価>
以下のようにして評価を行い、結果を表2-4にまとめた。
(初期接着強度の測定)
(株)エー・アンド・ディー製テンシロン使用し、エージング後の積層体の接着強度を剥離幅15mm、剥離形態T型の条件で評価した。
【0145】
(耐電解液性)
電解液として、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(wt%)混合液に、LiPFが1mol%、ビニレンカーボネートが1wt%となるようそれぞれを添加した溶液を用意した。
エージング後の積層体を電解液35gに85℃-7日間浸漬させ、浸漬前後の接着強度の保持率から以下のように評価した。
〇:60%以上
△:40%以上60%未満
×:40%未満
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
表2-4から明らかなように、低温でエージングを行った場合、本発明の接着剤は比較例の接着剤よりも初期接着強度、耐電解液性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の接着剤は低温でエージングを行った場合であってもオレフィン樹脂のような非極性の基材と金属基材との接着性に優れ、本発明の接着剤を用いて得られる積層体は、例えば電池用包装材に好適に用いることができる。本発明の接着剤の用途としては電池用包装材やそのための積層体に限定されず、家電外板、家具用素材、建築内装用部材など非極性の基材と金属基材との接着性が必要とされる分野に広く利用可能である。